説明

装置状態検知構造

【課題】 対象装置に電源が供給されていない場合にも、移設又は地震の発生を検知できるとともに、その検知結果を保存しておくことができる構造を提供する。
【解決手段】 対象装置が持ち上げられると、床面当接部43,ワイヤ47,48、梃子部材45,46を介して重り50に外力が作用し、重り50が永久磁石51から落下することにより、スイッチ回路部55を作動させる。重り50は地震等の振動によっても永久磁石51から落下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種検査装置、計測装置、照明装置、加工装置、製造装置、自動販売機等の設置面上に設置される装置の状態を検知する装置状態検知構造に関する。
【背景技術】
【0002】
各種検査装置、計測装置、照明装置、加工装置、製造装置等の装置(以下、対象装置という)には、厳密に調整がなされた上で所定の精度が保証されるものがある。このような装置においては、地震が発生した場合に、そのまま通常通りの運転が継続できるとすると、当該所定の精度を保証することができなくなる場合がある。また、盗難等により移設された場合には対象装置自体の運転をできなくすることが望ましい。従って、対象装置の状態(移設されたか否か、地震を経験したか否か等)を検知し、適宜の処置を講じる必要がある。
【0003】
地震発生を検知するための従来技術としては、例えば、地震による加速度変化を検知する加速度計を設けて、所定値以上の揺れが観測された場合に、電源をオフする等の対応を行えるようにしたものがある。また、移設の有無の検知についても、このような加速度計を設け、移設の場合の特有の加速度変化と比較することにより、検知可能と考えられる。
【0004】
しかしながら、このような加速度計を設けて検知する技術では、構成が複雑であるとともに、電気的な処理が必須であるため、対象装置に電源が供給されていない状態においては、検知することができない。例えば、電源が停止された状態で地震を経験してもその事実を検知することはできないし、同じく電源が切断された状態で対象装置の搬出入が行われた場合には(盗難時には電源が切断された状態であることが多いと考えられる)、移設後に電源を供給すれば、何事も無かったかのように運転を再開できてしまう。また、移設又は地震を検知したことを、電気的又はソフトウエア的に記憶保持しておく必要もある。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、対象装置に電源が供給されていない場合にも、移設又は地震の発生を検知できるとともに、その検知結果を保存しておくことができる構造を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、この項に示す説明では、本発明を、実施形態を表す図面に示す部材符号に対応付けて説明するが、本発明の各構成要件は、これら部材符号を付した図面に示す部材に限定されるものではない。
【0007】
本発明によると、所定の設置面(12)上に対象装置(11)の底面が当接している設置状態下における該対象装置の状態を検知する装置状態検知構造であって、前記対象装置が前記設置面上に設置された当初の設置状態である初期設置状態を維持している場合には第1状態を維持し、前記底面が前記設置面から所定量以上離間した非設置状態に至った場合には該第1状態から第2状態に状態変化し且つその第2状態を維持する第1手段(29,42〜53)を有する装置状態検知構造が提供される。
【0008】
この装置状態検知構造が適用された対象装置が持ち上げられて、設置面から所定量以上離間されると、第1手段が第1状態から第2状態に状態変化し、これにより当該対象装置が持ち上げられたことが検知される。この状態変化は、対象装置が運転中(通電中)であるか、停止中(非通電中)であるかにかかわらず生じる。対象装置に地震等により振動が加えられた場合に、第1手段が第1状態から第2状態に状態変化するように構成することができ、このようにすることにより、地震が発生した場合に、当該対象装置について必要な処置をとることができるようになる。また、第1手段は第1状態から第2状態に状態変化した場合には、その第2状態を維持するので、対象装置が停止中(非通電中)に状態変化が生じた場合であっても、その後に対象装置が運転中(通電中)になった時にその状態を参照することができ、これに応じて適宜な処置をとることができるようになる。
【0009】
本発明において、前記所定量を調節するための第2手段(45,46,51,53)を有することが望ましい。これにより、第1手段が第1状態から第2状態に状態変化するための持ち上げ量を自在に(任意に)調整することができるようになる。
【0010】
本発明において、前記第1手段が前記第2状態にある場合には、前記対象装置の非常用回路(33)を作動させ、前記対象装置の可動部を機械的に停止させ、若しくは前記対象装置の制御部がその制御に使用する制御用ソフトのライセンス情報(LF)を該ライセンス情報が無効となるように書き換え、又はこれらの2つ又は全てを組み合わせて実施するようにできる。これにより、当該対象装置の運転を継続することができなくなる。従って、地震の場合には当該対象装置についてメンテナンス、その他の調整作業が実施されることになる。この場合には当該作業が完了した後に、所定の操作を行うことにより、第2状態から第1状態に復帰させるように構成すると良い。また、盗難の場合には当該対象装置をもはや運転することをできなくすると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、対象装置に電源が供給されていない場合にも、移設又は地震の発生を検知することができるとともに、メモリ等の電気的手段を用いることなくその検知結果を保存しておくことができ、この検知結果を参照することにより、対象装置について移設や地震が発生した場合に必要な処置(例えば、対象装置の運転を制限する等)を講じることができるようになるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の装置状態検知構造を適用することができる対象装置の概略構成を示す図である。対象装置としては、例えば、各種検査装置、計測装置、照明装置、加工装置、製造装置(例えば半導体製造装置)等を例示することができる。なお、対象装置は、ここではその運転には精密調整が必要とされる比較的に大型の計測装置を想定して説明するが、本発明はこれに限定されず、各種自動販売機等の箱形筐体に収容された装置、その他の設置面上に設置される装置にも適用することができる。
【0013】
図1において、11は対象装置であり、対象装置11は設置面(工場の床面等)12上に設置される。対象装置11の底部にはベース構造体13が設けられ、対象装置11は、このベース構造体13の裏面が設置面12に当接された状態で設置される。ベース構造体13上には複数(例えば4本)の支柱14が設けられ、上部構造体15が支柱14によって支持されている。上部構造体15には、レーザ装置やランプ等の光源からの光を所定の形状に整形するとともに、その照度分布を均一化して照明光として射出する照明光学系16が支持されている。照明光学系16の照明光を射出する側には、該照明光による照明を選択的に遮断するための照明系シャッター17が進退可能に設けられている。この照明系シャッター17の動作は制御ユニット31(図2参照)によって制御される。
【0014】
ベース構造体13上には、試料18を保持して水平面(XY面)に沿って2次元移動するステージ20が複数(例えば4個)の支持部材(防振機能を兼ね備えるもの)19を介して支持されている。ステージ20上には、試料18を吸着保持するホルダ22と、このホルダ22を微小傾斜させるレベリングテーブル21とが設けられている。そして、ステージ20の水平面内(XY平面内)での移動座標位置とヨーイングによる微小回転量とは、干渉計システム23によって計測される。この干渉計システム23は、不図示のレーザ光源からのレーザビーム(検出光)をステージ20上のレベリングテーブル21に固定された移動鏡24に照射し、その反射光に基づいてステージ20の座標位置と微小回転量(ヨーイング量)とを計測する。干渉計システム23から射出される検出光を選択的に遮断するための干渉計シャッター25が進退可能に設けられている。この干渉計シャッター25の動作は制御ユニット31(図2参照)によって制御される。
【0015】
また、この対象装置11は、試料18のホルダ22に対する搬出入を行うロードアーム及びアンロードアームを有する搬送装置26を備えている。ステージ20には、該ステージ20の移動を機械的にロックするロック機構27が設けられているとともに、搬送装置26には、ロードアーム又はアンロードアームの動作を機械的にロックするロック機構28が設けられている。これらのロック機構27,28の動作は制御ユニット31(図2参照)により制御される。
【0016】
なお、図示は省略するが、ここでの対象装置は計測装置であるので、計測センサ等を有する計測系も設けられている。対象装置が加工装置又は製造装置である場合には当該加工又は製造処理を行う処理系が設けられる。
【0017】
対象装置11のベース構造体13の下面には、複数のセンサユニット29が設けられている。このセンサユニット29は、この対象装置11が設置面12から持ち上げられたか否か及び/又は地震が発生したか否かを検知するための検知装置である。これらのセンサユニット29は、所定の検知部が設置面12上に当接されるように設けられている。センサユニット29の数は、当該対象装置11について単一でもよいが、検知の確実性を向上する観点からは複数であることが好ましい。この実施形態では、ベース構造体13の4隅近傍にそれぞれ、即ち4個設けられているものとして説明する。
【0018】
図2は対象装置11の制御系の主要部を示すブロック図である。ベース構造体13に設けられた各センサユニット29は、通電チェック部32を介して制御ユニット31に接続される。センサユニット29の検知状態(第1状態又は第2状態)は、通電チェック部32によりチェックされ、該チェック結果が制御ユニット31に供給され、制御ユニット31は、センサユニット29の状態に応じて、対象装置11が備えている非常用回路ユニット33、ライセンスファイル書換ユニット34、照明系シャッター17、干渉計シャッター25、ステージロック機構27、搬送系ロック機構28の作動を制御する。
【0019】
このセンサユニット29の構成は、図3及び図4に示されている。図3はセンサユニット29が非作動状態(持ち上げ又は地震が発生していない時の状態)である第1状態にあるときを、図4は作動状態(持ち上げ発生時の状態)である第2状態にあるときの構成を示している。センサユニット29は、その主要部がセンサ筐体41内に収容されている。センサ筐体41内の下部には、持ち上げ検知部42が設けられており、持ち上げ検知部42は進退可能(突出及び埋没可能)に設けられた床面当接部43を備えている。この床面当接部43は、図4に示されているように、持ち上げ検知部42の下部に設けられた開口部42aに進退自在に遊嵌されており、当該床面当接部43に外力が作用しない状態ではバネ44により突出状態となるように付勢されている。
【0020】
持ち上げ検知部42の天井部外側には支点46で支持された梃子部材45が設けられている。梃子部材45の一端(力点)には接続ワイヤ47の一端が取り付けられ、接続ワイヤ47の他端は床面当接部43に接続されている。梃子部材45の他端(作用点)には接続ワイヤ48の一端が接続されており、接続ワイヤ48は持ち上げ検知部42の天井部内側に回転自在に懸架された滑車49を介してその他端が重り50に接続されている。この梃子部材45の支点46はX方向にスライド可能に構成されており、支点46の位置をスライドさせることにより、その位置に応じて力点の移動量に対する作用点の移動量を調整できるようになっている。
【0021】
センサ筐体41の天井部内側には、不図示のフレーム等を介して永久磁石51が取り付けられており、永久磁石51の下部近傍に、重り50が配置されている。重り50は、永久磁石51に磁力吸着可能な金属からなり、第1スイッチアーム52の先端に遊動可能な状態で取り付けられている。重り50の上部(永久磁石51に磁力吸着される部分)には、樹脂等の非磁性体からなる中敷き板53が着脱可能に取り付けられている。第1スイッチアーム52はその基端部側で回動自在に支持されており、同じく基端部側が回動自在に支持された第2スイッチアーム54の先端部が第1スイッチアーム52の中間部分に下側から当接可能となっている。
【0022】
センサユニット29内には、スイッチ回路部55が設けられており、スイッチ回路部55は上下方向に進退可能に設けられた突起部56及び接点切換部57を備えて構成される。突起部56は外力が作用しない場合には上側に突出するように不図示のバネにより付勢されており、第2スイッチアーム54が図3又は図4において反時計方向に回転するように力が作用した場合にその力によって埋没され(図4の状態)、接点切換部57を切断状態(OFF状態)とし、第2スイッチアーム54への当該力が開放された場合には突出して(図3の状態)該第2スイッチアーム54を時計方向に回転させるとともに、接点切換部57を導通状態(ON状態)とする。接点切換部57は外部との接続のための一対の端子部58を有しており、外部に設けられる通電チェック部32が該端子部58を介して電気的に接続される。通電チェック部32は対象装置11から供給される電力によって接点切換部57が導通状態にあるか、切断状態にあるかを所定のタイミングでチェックし、制御ユニット31に通知する。なお、ここでは通電チェック部32による通電チェックは、対象装置11の制御ユニット31からの指示に応じて行う。但し、通電チェック部32が一定の周期で通電チェックを実施し、状態が変化した場合に制御ユニット31に通知するようにしても良い。
【0023】
しかして、このセンサユニット29が対象装置11のベース構造体13に取り付けられて、対象装置11が設置面12上に設置された状態(初期設置状態/図3の状態)においては、床面当接部43が当該設置面12に当接されて、バネ44の付勢力に抗して埋没した状態となり、この状態で、重り50を永久磁石51に磁力吸着させた状態とする。この状態では、第1スイッチアーム52の下面にその先端部が当接している第2スイッチアーム54はスイッチ回路部55の突起部56により上方に付勢され、該突起部56が突出した状態で、その先端部が第1スイッチアーム52の下面に当接された状態となっている。従って、突起部56に連動する接点切換部57は導通状態(ON状態)となっている。
【0024】
対象装置11が設置面12上から持ち上げられて、床面当接部43への設置面12からの圧力が開放されると(図4の状態)、バネ44の付勢力によって床面当接部43は突出状態となり、接続ワイヤ47、梃子部材45、接続ワイヤ48(滑車49)を介して、重り50が下方に引っ張られ、永久磁石51から離脱されて、重力により落下する。これに伴い、第1スイッチアーム52が反時計方向に回転し、第1スイッチアーム52の下面にその先端部が当接している第2スイッチアーム54も反時計方向に回転する。これにより、スイッチ回路部55の突起部56が押し下げられ、これに連動する接点切換部57は切断状態(OFF状態)となる。通電チェック部32は、接点切換部57が導通状態にあるか、切断状態にあるかを電気的にチェックすることにより、センサユニット29が作動状態(第1状態)にあるか、非作動状態(第2状態)にあるかを判断することができる。
【0025】
また、このセンサユニット29は、対象装置11の持ち上げだけを検知するものではない。対象装置11が持ち上げられていない状態においても、地震などにより対象装置11に振動が加えられた場合には、重り50にも当該振動に伴う外力が作用し、永久磁石51の磁力、重り50の重さ、中敷き板53の厚さに従った永久磁石51と重り50との吸着保持力よりも、当該外力が大きい場合には、重り50が永久磁石51から離脱し、同様に落下して、接点切換部57が切断状態となる。即ち、このセンサユニット29は、対象装置11の持ち上げ発生の有無及び地震等による振動の発生の有無の双方を検知することができる。
【0026】
対象装置11の持ち上げに伴うセンサユニット29の作動の閾値は、梃子部材45の支点46の位置を調整することにより任意に調整可能である。また、地震等による振動に伴うセンサユニット29の作動の閾値は、中敷き板53の厚さを調整(即ち、互いに厚さの異なる中敷き板を複数準備しておき、適宜に交換)したり、あるいは永久磁石51として、互いに異なる形状、大きさ、磁力をもつ複数の磁石の中から適宜選択使用したりすることにより、あるいは金属50として互いに異なる大きさ、形状、質量をもつ複数の金属の中から適宜選択使用したりすることにより、任意に調整可能である。なお、例えば、中敷き板53を薄く若しくは除去して、永久磁石51と重り50の吸着保持力をバネ44の付勢力との関係で大きく設定することにより、このセンサユニット29を対象装置11の持ち上げだけを検知する持ち上げ検知装置とすることも可能である。
【0027】
初期設置状態(移設も地震もない状態)においては、制御ユニット31は、通電チェック部32を介して常時又は定期的にセンサユニット29の接点切換部57の状態をチェックし、そのチェック結果が切断状態である場合には、対象装置11の事後の運転の継続を阻止するため、予め定められた所定の停止処理を実施する。この停止処理としては、対象装置11が備える非常用回路ユニット33を制御して対象装置11に対する電源の供給を停止させる、照明系シャッター17を作動させて照明光の照射を遮断する、干渉計シャッター25を作動させて検出光の照射を遮断する、ステージロック機構27を作動させてステージ20の移動を強制的に停止させる、搬送系ロック機構28を作動させて搬送系による試料18の搬出入を強制的に停止させる等の処理の1つ又は複数(全部を含む)を実施する。なお、非常用回路ユニット33は、このためだけに専用に設ける必要はなく、例えば、対象装置11に緊急停止用のボタンが設けられている場合には、この電気回路を利用して、内部的にこのボタンをオン状態にして対象装置11の動作を停止させるようにしても良い。
【0028】
また、上記の処理と組み合わせて、あるいは単独で、ライセンスファイル書換ユニット34を制御してライセンスファイルの有効期限を書き換えることにより、対象装置11をソフトウエア的に強制停止状態とする処理を行うようにしても良い。
【0029】
ここで、ライセンスファイル及びこのライセンスファイルを用いた処理について、説明する。ライセンスファイルとは、対象装置11の製造メーカと対象装置11の使用者(対象装置11の購入者(譲受人))との間で予め締結された対象装置11の動作を制御する制御プログラムの使用許諾契約の内容の少なくとも一部を含むライセンス情報であって、対象装置11が契約に反することなく使用されているかを確認する確認材料となる情報の内容を格納するファイルである。このライセンス情報の具体例としては、対象装置11の使用開始日、使用期限若しくは使用時間、及び停止時間、並びに制御ユニット31に設けられたネットワーク接続カードの物理アドレス並びに制御ユニット31に割り当てられたIPアドレス及びゲートウェイアドレス等が含まれる。
【0030】
制御ユニット31はタイマーを備えており、その計時結果とライセンスファイルに格納されている内容とを用いて対象装置11の不正使用がなされているか否かを確認する。その確認方法としては、「使用期限チェック」、「使用時間チェック」、及び「停止時間チェック」等がある。ここで、「使用期限チェック」とは、契約により定められた使用開始日(対象装置11を制御する制御プログラムの使用開始日)から契約により定められた使用許諾期間が経過したか否かを確認することで対象装置11の使用状況を確認する処理である。また、「使用時間チェック」とは、契約により定められた使用開始日からの対象装置11の稼働時間が、契約により定められた累積使用時間を経過したか否かを確認することで対象装置11の使用状況を確認する処理である。以上の処理は、対象装置11が契約通りに使用されているか否かを確認するものである。また、「停止時間チェック」とは、対象装置11が動作を停止している時間が、所定の閾値を超えているか否かを確認することで、対象装置11の長時間停止によるメンテナンスの必要性または移設が行われたか否かを確認するものである。対象装置11で生じた通常メンテナンス作業や動作不良を回復する作業は通常2〜3日程度以内で完了するが、対象装置11の移設作業は通常7〜10日程度要する。このため、対象装置11の移設が行われたか否かを判断するための閾値としては例えば4〜5日程度に設定される。
【0031】
前述したライセンスファイルに格納されている内容とタイマーの計時結果とを用いて、「使用期限チェック」、「使用時間チェック」、及び「停止時間チェック」を定期的に行うことで、対象装置11が正常に運転されているか、契約通りに運転されているか、不正使用されていないか等を確認することができる。
【0032】
図5は、対象装置の使用状況確認方法及び不正使用防止方法を説明するための図である。尚、図5中のNMは制御ユニット31内に設けられたネットワーク設定情報を格納するネットワーク設定情報ファイルを表している。ここで、ネットワーク設定情報とは、制御ユニット31に割り当てられたIPアドレス及びゲートウェイアドレスを含む情報である。また、制御部101及び記憶部102は、制御ユニット31に設けられている。
【0033】
まず、対象装置11の製造メーカと対象装置11の使用者(対象装置11の購入者(譲受人))との間で対象装置11の動作を制御する制御プログラムの使用許諾契約を締約し、対象装置11の製造メーカ側でライセンス情報Lを決定する。また、ライセンス情報の漏洩及び改竄を防止するため、ライセンス情報に対するパスワードPWを設定する。このパスワードPWは対象装置11の製造メーカで管理される。
【0034】
上記のライセンス情報Lを決定するとともにパスワードPWを設定すると、次に対象装置11の製造メーカ側に設けられた暗号化装置100を用いてライセンス情報LをパスワードPWによって暗号化したライセンスファイルLFを作成する。尚、ここで用いる暗号化方法は、DES,RC4等の暗号化と復号化の鍵が同じ共通鍵方式及びRSA等の暗号化と復号化の鍵が異なる公開鍵方式の何れであっても良い。また、MD5、SHA−1等のハッシュ関数(復号不能な関数)を用いて、ライセンス情報Lを暗号化せずに、改竄がないことの確認を行うことでもよい。ここで、暗号化の処理時間の速い共通鍵方式、処理時間は遅いが暗号化強度の高い公開鍵方式、及び改竄防止チェックに優れたハッシュ関数方式のいずれか、または複数をデータごとに使い分けてもよい。
【0035】
作成されたライセンスファイルLFは、対象装置11の制御ユニット31に設けられた記憶部102に記憶される。尚、図5においては、便宜的にライセンスファイルLFが制御ユニット31に設けられた制御部101に直接入力されるように図示している。また、ライセンスファイルLFとともに、ライセンス情報Lを暗号化する際に用いたパスワードPWも記憶部102に記憶する。
【0036】
以上の作業を終えて対象装置11を起動すると、記憶部102に記憶されたライセンスファイルLF及びパスワードPWが読み出され、制御部101に設けられた復号プログラムP1によりライセンスファイルLFが復号される。また、制御ユニット31に設けられたネットワーク接続カード32aから読み出されたイーサネット(登録商標)物理アドレス、あるいは対象装置11内のユニットごとに割り当てられたユニークなIDが、装置情報DIとして記憶部102に記憶される。更に、ネットワーク設定情報ファイルNMから制御ユニット31に割り当てられたIPアドレス及びゲートウェイアドレスが読み出されて、これらがネットワーク情報NIとして記憶部102に記憶される。更に、タイマーT1から現在時刻CTが読み出されて記憶部102に記憶される。
【0037】
次に、制御部101に設けられた整合性確認プログラムP2は、復号プログラムP1により復号されたライセンスファイルLFの内容と、記憶部102に記憶された装置情報DI、ネットワーク情報NI、及び現在時刻CTとの整合性を確認する。具体的には、装置情報DIに含まれるイーサネット(登録商標)物理アドレス及びユニットID並びにネットワーク情報NIに含まれるIPアドレス、ゲートウェイアドレス、及び制御コンピュータの接続先ネットワークアドレスの各々がライセンスファイルLFに格納されたものと一致するか否かを確認する。これによって、例えば移設によって対象装置11の装置構成及びネットワーク環境が変化したか否かを確認することができる。
【0038】
また、整合性確認プログラムP2は記憶部102に記憶された現在時刻CTと、復号されたライセンスファイルLFに格納された対象装置11の使用開始日(ライセンス付与日)、使用期限又は使用時間、及び停止時間とを用いて「使用期限チェック」、「使用時間チェック」、及び「停止時間チェック」を行い、対象装置11が契約通りに使用されているか否かを確認する。具体的には「使用期限チェック」では現在時刻CTが使用期限内であるか否かを確認し、「使用時間チェック」では現在時刻CTの経過時間を加算して求められる使用累積時間PTが対象装置11の契約で定められた使用時間以内であるか否かを確認する。
【0039】
また、「停止時間チェック」では装置の運転終了時に現在時刻CTを前回時刻PTとしてメモリM1に書き込み、次に起動した時にメモリM1に書き込まれている前回時刻PTを読み出し、前回時刻PTから現在時刻CTまでの経過時間が上記の停止時間内であるか否かの確認を行う。尚、「使用期限チェック」、「使用時間チェック」、及び「停止時間チェック」の実行の有無の設定は、記憶部102に記憶されているライセンスファイルLFに暗号化されて格納されており、メモリM1に書き込まれた内容はパスワードにより保護されている。
【0040】
以上の確認の結果、対象装置11が契約通りに使用されていない場合には、整合性確認プログラムP2から対象装置11の各部の動作を制御する制御プログラムP3へその旨を示す情報が出力され、この情報に基づいて制御プログラムP3は対象装置11の動作を停止させる。制御プログラムP3が整合性確認プログラムP2からの情報に基づいて対象装置11の動作を停止させると、単に対象装置11を再起動させるだけでは対象装置11の動作を再開させることはできなくなり、所定の処置(例えば、新たなライセンス取得)が行われるまで対象装置11の動作が停止したままになる。
【0041】
新たなライセンスの取得が行われると、新たなライセンスファイルLFが作成され、このライセンスファイルLFとライセンスファイルLFの作成時に用いたパスワードPWとを制御ユニット31の記憶部102に記憶させた上で、対象装置11を再起動させることにより、対象装置11の動作が再開される。ここで、パスワードPWの変更は行わず、これまでと同じものを使用してもよい。尚、上記の確認によって対象装置11が契約通りに使用されている場合には、対象装置11の動作停止は行われず、通常通りの動作が継続される。
【0042】
対象装置11が上述したようなライセンスファイルによるチェックを実施している場合には、図2におけるライセンスファイル書換ユニット34は、制御ユニット31の記憶部102内に記憶保持されている当該ライセンスファイルの例えば使用期限に残余の期限が残っている場合であっても、それを零あるいは現在日時よりも前の日時に(つまり異常状態を示すデータに)書き換える。このようにすることで、センサユニット29により持ち上げ又は地震の発生が検知された場合に、当該対象装置11に備わっている機能を流用して、当該対象装置11の使用を制限することができる。
【0043】
本実施形態のセンサユニット29によると、対象装置11が設置面から持ち上げられ、又は地震が発生した場合に、永久磁石51から重り50が離脱し、一旦この離脱が生じると、容易に復元することができない、即ち永久磁石51に重り50を磁力吸着させた状態に戻すことができないように(この離脱状態を維持し続けるように)なっている。従って、このセンサユニット29が一旦作動状態となり、対象装置11が強制的に停止状態にされた後は、対象装置11の使用者側において、対象装置11を利用することはできなくなる。通常運転できるようにするために復帰させるには、対象装置11のメーカー側によるメンテナンスを経た上で、運転を再開する必要があるので、地震等が発生した場合であっても対象装置11を常に健全な状態で運転することができるようになる。また、特に、対象装置11が盗難にあった場合には、対象装置11の運転が強制停止されているので、不正使用者が当該対象装置11を利用することはもはやできず、転売等も事実上困難となるので、そのような被害(盗難など)の発生を未然に防ぐ効果が期待できる。
【0044】
このセンサユニット29の利用目的が主として盗難対策である場合には、センサユニット29の上述した復元を全く行えないように(あるいは極めて困難となるように)すると良い。この場合には、もし復元する場合は、センサユニット29を新たなものに交換することになる。但し、このセンサユニット29の利用目的が主として長期間の装置停止や地震による精度保証等にある場合には、その復元は容易であることが好ましい。従って、例えば、専用の工具を用いて外部から操作することによって、第2スイッチアーム52を時計方向に回転させることにより復元できるように構成して、この専用の工具を製造メーカー側が管理するようにすれば、精度保証と容易な復元を両立することが可能である。
【0045】
上述したセンサユニット29は、その作動は全て機械的になされるとともに、一旦作動した後はその作動状態を継続保持できるようにしている。従って、対象装置11が運転状態にある(通電されている)ときは勿論のこと、対象装置11が運転状態にない(通電されていない)状態においても、装置の持ち上げ又は地震発生の検知及び検知結果を保存することができ、しかもその構成が簡略であり、安価に実現することが可能である。
【0046】
ここで、本実施形態においては、対象装置11について4個のセンサユニット29を設けている。これらのセンサユニット29は全て同じ状態、即ち、梃子部材45の支点46の位置及び中敷き板53の厚さを同じに設定しても勿論良いが、これらを異ならせて、あるセンサユニット29は地震に敏感に設定するとともに、他のセンサユニット29は地震に反応しない(即ち持ち上げにのみ反応する)ように設定し、いずれのセンサユニット29が作動したかを確認することにより、当該対象装置11について、持ち上げが発生したのか、地震が発生したのかを区別することができ、便宜である。持ち上げか、地震かで、上述した停止処理の種類又は組み合わせを変更するようにしても良い。また、上述したライセンスファイルを用いた不正使用等の確認と本センサユニット29の検知結果とを組み合わせて、適宜な停止処理を行うようにしても良い。
【0047】
図6及び図7は、図3及び図4に示したセンサユニット29の一部の構成を変更した変形例を示す図である。図3及び図4に示したものと異なる部分のみについて説明する。なお、図3及び図4に示した構成と同一の部分には同一の番号を付している。この変形例では、図3及び図4における永久磁石51及び重り50(中敷き板53)に代えて、重り61(バネ62)、台63を設けている。即ち、第1スイッチアーム52の先端部近傍の下側には、球形の重り61を載置可能な凹部63a(図7参照)を有する台63がフレーム等を介して設けられており、重り61はバネ62を介して第1スイッチアーム52の先端部近傍に吊り下げられるかたちで取り付けられている。重り61の側部には接続ワイヤ48が接続されている。
【0048】
通常設置状態においては、重り61は台63の凹部63a上に載置されており、第1スイッチアーム52に力を全くあるいは少ししか及ぼさない。従って、第1スイッチアーム52は、スイッチ回路部55の突起部56の上方への付勢力によって第2スイッチアーム54を介して時計方向に回転されて所定の位置(第1スイッチアーム52が略水平となる位置)に設定されている。
【0049】
対象装置11が設置面12上から持ち上げられて、床面当接部43への設置面12からの圧力が開放されると、バネ44の付勢力によって床面当接部43は突出状態となり、接続ワイヤ47、梃子部材45、接続ワイヤ48(滑車49)を介して、重り61が斜め下側に引っ張られ、台63上から落下する。これに伴い、重り61の自重によりバネ62を介して、第1スイッチアーム52が反時計方向に回転し、第2スイッチアーム54を介して、スイッチ回路部55の突起部56が押し下げられ、これに連動する接点切換部57は切断状態(OFF状態)となる。
【0050】
また、地震等が発生して振動が加えられた場合には、この振動に伴う外力が重り61に作用し、重り61が台63から落下して、同様に、接点切換部57は切断状態となる。即ち、この構成においても、対象装置11の持ち上げ発生の有無及び地震等による振動の発生の有無の双方を検知することができる。
【0051】
地震等による振動に伴うセンサユニット29の作動の閾値は、重り61の大きさとの関係で、台63の凹部63aの大きさを適宜に変更することにより調整可能である。即ち、互いに大きさの異なる凹部63aを有する台63を複数準備しておき、適宜に交換することに調整可能である。または、重り61と台63の一方を永久磁石、他方を磁力吸着可能な金属とし、互いに異なる磁力、大きさ、形状を持つ複数の磁石の中から適宜に交換することによっても調整可能である。また、台63の上に中敷き板部材をおき、この厚みを調整してもよい。この構成における復元は、例えば、図6及び図7に示されているようなワイヤ64の一端側を重り61に取り付け、該ワイヤ64の他端側を引っ張ることで、台63の凹部63a上に重り61を戻すことができるようになっている。この復元作業も、専用の工具を用いた場合にのみ行えるようにすることが好ましい。
【0052】
尚、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る装置状態検知構造を適用した対象装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る装置状態検知構造を適用した対象装置の制御系の主要部の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る非作動状態(第1状態)におけるセンサユニットの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る作動状態(第2状態)におけるセンサユニットの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施形態におけるライセンスファイル及びこれを用いた処理を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る非作動状態(第1状態)における一部の構成を変更したセンサユニットの要部構成を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る作動状態(第2状態)における一部の構成を変更したセンサユニットの要部構成を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
11…対象装置
29…センサユニット
31…制御ユニット
32…通電チェック部
43…床面当接部
44…バネ
47…ワイヤ
45…梃子部材
46…支点
48…ワイヤ
50…重り
51…永久磁石
53…中敷き板
55…スイッチ回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の設置面上に対象装置の底面が当接している設置状態下における該対象装置の状態を検知する装置状態検知構造であって、
前記対象装置が前記設置面上に設置された当初の設置状態である初期設置状態を維持している場合には第1状態を維持し、前記底面が前記設置面から所定量以上離間した非設置状態に至った場合には該第1状態から第2状態に状態変化し且つその第2状態を維持する第1手段を有することを特徴とする装置状態検知構造。
【請求項2】
前記所定量を調節するための第2手段を有することを特徴とする請求項1に記載の装置状態検知構造。
【請求項3】
前記第1手段は、
前記対象装置が前記初期設置状態を維持している場合には前記対象装置内に埋没し、前記非設置状態に至った場合には突出する第1部材と、
所定の大きさの外力が作用しない状態では互いに接触している結合状態を維持し、少なくとも一方に該外力が作用した場合には互いに離間している分離状態となり、該分離状態となった後は所定の操作が加えられるまで該分離状態を維持する第2部材及び第3部材と、
前記第2部材及び前記第3部材の少なくとも一方と、前記第1部材とに連結しており、前記第1部材の突出に連動して、前記第2部材及び前記第3部材の一方に前記外力を作用せしめる第4部材と、
前記第2部材及び前記第3部材が前記分離状態となったことに連動して回路内の一部の接続状態を切り換え、且つ該分離状態の維持に連動して該接続状態が切り換えられた後の回路状態を維持するリレー回路と、を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の装置状態検知構造。
【請求項4】
前記第2部材は永久磁石であり、前記第3部材は磁力吸着可能な金属からなり、
前記金属は所定の厚みを持つ中敷き板部材を介して前記永久磁石に吸着可能であり、
前記永久磁石の磁力、前記中敷き板部材の厚み、前記永久磁石の大きさ、該永久磁石の形状、前記金属の大きさ、該金属の形状、及び該金属の質量のうちの少なくとも一つを調整することにより、前記外力によって前記第1手段が前記第1状態から前記第2状態に切り換わる感度を調整可能であることを特徴とする請求項3に記載の装置状態検知構造。
【請求項5】
前記第1手段が前記第2状態にある場合には、前記対象装置の非常用回路を作動させるようにしたことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の装置状態検知構造。
【請求項6】
前記第1手段が前記第2状態にある場合には、前記対象装置の可動部を機械的に停止せしめるようにしたことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の装置状態検知構造。
【請求項7】
前記第1手段が前記第2状態にある場合には、前記対象装置の制御部がその制御に使用する動作制御用ソフトのライセンス情報を、該ライセンス情報が無効となるように書き換えるようにしたことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の装置状態検知構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−275806(P2006−275806A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96124(P2005−96124)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】