説明

装飾積層板

【課題】耐擦傷性が格段に向上し、しかも、介在させる面状装飾体に対する制限が少なく意匠性の向上が容易な装飾積層板を提供する。
【解決手段】上側透光板2Aの下側主面及び下側透光板2Bの上側主面の間に、これらを接合する接合層が介在している。接合層は、上側接合層3A及び下側接合層3Bからなる。接合層中に面状装飾体4が保持されている。上側透光板2A及び下側透光板2Bは、両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板である。この透光性アクリル樹脂板の両主面は、鉛筆硬度が4H以上で、回転式スチールウール試験の限界荷重が500g以上であり、ハードコート無しの透光性アクリル樹脂板の主面に比べて、アセトン、メタノール及び二塩化メチレンのそれぞれに対する耐薬品性が高い。接合層は、エチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性を有する装飾積層板に関するものであり、とくに2つの透光板の間に面状装飾体を挟み込むことにより、耐擦傷性が高く且つ意匠性の向上が容易な装飾積層板に関する。
【0002】
本発明の装飾積層板は、たとえば、ドア、窓及び間仕切り板などの各種建築用部材の構成材として好適に利用することができる。
【背景技術】
【0003】
従来、各種建築用部材において、採光や透視性の目的から透光板が使用されている。透光板としては、ガラス板及び合成樹脂板が用いられる。ガラス板は、化学的安定性が高く、表面の耐擦傷性が大きく、経年劣化が少ないという利点を有する反面、重量が大きく、衝撃に弱く、破損した場合にはその破片による負傷の可能性があるなどの問題を有する。これに対して、合成樹脂板は、ガラス板と比較して、軽量で、衝撃に強く、破損した場合の負傷の可能性が低いという利点を有する反面、化学的安定性が低く、表面の耐擦傷性が低く、経年劣化が多いなどの問題を有する。
【0004】
ところで、近年、透光板の意匠性を高めるために種々の工夫がなされている。その1つとして、複数の透光板を積層し、それらの間に面状装飾体を配置することが提案されている。たとえば、特許文献1には、2つの透光板の間に面状装飾体を挟持してなる採光扉に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−24442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、透光板としてアクリル樹脂板を用い、面状装飾体として和紙などの紙を用い、2つの透光板の接着のための接着剤として溶剤系のアクリル樹脂からなるものを用いることが記載されている。
【0007】
このような特許文献1の採光扉では、上述のように、透光板としてガラス板を用いる場合に比べて、化学的安定性が低く、表面の耐擦傷性が低く、経年劣化が多いという問題がある。
【0008】
以上のような事情に鑑みて、本発明は、上記特許文献1の発明のものに比べて、耐擦傷性が格段に向上し、しかも、介在させる面状装飾体に対する制限が少なく意匠性の向上が容易な装飾積層板を提供することを目的とするものである。また、本発明は、このような装飾積層板の製造に好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記目的を達成するものとして、
2枚の透光板のそれぞれの一主面の間にこれらを接合する接合層が介在しており、該接合層中に面状装飾体が保持されてなる装飾積層板であって、
前記透光板のそれぞれは、両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板であり、
前記接合層は、エチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤からなることを特徴とする装飾積層板、
が提供される。
【0010】
本発明の一態様においては、前記ハードコートされた透光性アクリル樹脂板の両主面は、鉛筆硬度が4H以上で、回転式スチールウール試験の限界荷重が500g以上である。本発明の一態様においては、前記ハードコートされた透光性アクリル樹脂板の両主面は、ハードコート無しの透光性アクリル樹脂板の主面に比べて、アセトン、メタノール及び二塩化メチレンのそれぞれに対する耐薬品性が高い。
【0011】
また、本発明によれば、上記目的を達成するものとして、
上記の装飾積層板を製造する方法であって、
前記面状装飾体の両面側にそれぞれ少なくとも1枚のエチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤シートを配置し、更にその両面側に前記2枚の透光板を配置し、
前記感熱型接着剤シートを加熱しながら圧着することにより、前記透光板同士を前記面状装飾体を介在させて前記感熱型接着剤により接合することを特徴とする装飾積層板の製造方法、
が提供される。
【0012】
本発明の一態様においては、前記圧着は真空圧着により行われる。本発明の一態様においては、前記面状装飾体の両面側にそれぞれ2枚の前記エチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤シートを配置する。
【発明の効果】
【0013】
以上のような本発明によれば、広範な面状装飾体の使用が可能となることで意匠性の向上が容易で、耐擦傷性及び耐薬品性が向上することで長期にわたり高品質が維持される装飾積層板が提供される。また、本発明によれば、以上のような装飾積層板を製造するに好適な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による装飾積層板の一実施形態を示す一部切欠き模式的斜視図である。
【図2】図1の装飾積層板の模式的分解断面図である。
【図3】本発明による装飾積層板の製造方法の一実施形態を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は本発明による装飾積層板の一実施形態を示す一部切欠き模式的斜視図であり、図2はその模式的分解断面図である。
【0017】
本実施形態においては、装飾積層板1は、2枚の透光板(すなわち上側透光板2A及び下側透光板2B)のそれぞれの一主面(すなわち上側透光板2Aの下側主面及び下側透光板2Bの上側主面)の間に、これらを接合する接合層(すなわち上側接合層部分3A1,3A2からなる上側接合層3Aと、下側接合層部分3B1,3B2からなる下側接合層3Bとからなる層3)が介在しており、該接合層3中に面状装飾体4が保持されている。尚、図では、便宜上、接合層3を4つの接合層部分からなるものとしているが、これら4つの接合層部分は互いに境界なく一体化されたものであってもよい。尚、図では、便宜上、面状装飾体4により接合層3の上側接合層部分3A1,3A2と下側接合層部分3B1,3B2とを分断するように記載しているが、後述のように面状装飾体4が多孔性のものまたはパターン状のものなどの場合には、上側接合層部分3A1,3A2と下側接合層部分3B1,3B2とは面状装飾体4の孔部分またはパターン外部分を通って部分的に繋がっている。
【0018】
上側透光板2A及び下側透光板2Bのそれぞれは、両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板である。このように両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板を使用することの意義は、次の通りである。
【0019】
すなわち、装飾積層板1の外面となる上側透光板2Aの上側主面及び下側透光板2Bの下側主面をハードコート面とすることで、製品の加工時や運搬時さらには使用時において引っ掻き傷が付いたり、付着塵埃の除去の際に拭き傷が付いたり、他の物体との衝突により摩耗傷が付いたりするのを、防止することができる。一方、装飾積層板1の内側に位置する上側透光板2Aの下側主面及び下側透光板2Bの上側主面をハードコート面とすることで、使用可能な面状装飾体4の範囲を広範なものとすることができる。その理由の1つは、後述のような製造工程において上側透光板2Aと下側透光板2Bとを圧着する際に或いはその後の実際の使用時などにおいて、上側透光板2A及び下側透光板2Bの主面に面状装飾体4が突き当てられたり擦過したりすることがあるが、該主面をハードコート面としておくことで、硬質の面状装飾体4を使用する場合であっても該主面に傷が付きにくくなり、その分、使用可能な面状装飾体4の硬度範囲が広がる。このような機能を良好に発揮するためには、ハードコートされた透光性アクリル樹脂板の両主面は、たとえば、JIS−D0202の鉛筆硬度(荷重200g)が4H以上、好ましくは5H以上、更に好ましくは6Hであるのが望ましく、回転式スチールウール試験の限界荷重が500g以上、好ましくは700g以上、更に好ましくは1kg以上であることが望ましい。ここで、回転式スチールウール試験の限界荷重は、#000スチールウールの円形パッド(面積4.91cm)を定荷重で押し付けながら40rpmで100回転させ、試料に明瞭に傷の付き始める最低荷重を示す。上記理由の他の1つは、上記のように上側透光板2A及び下側透光板2Bの主面に面状装飾体4が接触することがあるが、該主面をハードコート面としておくことで、化学的活性度の高い物質からなる面状装飾体4を使用する場合であっても該主面が化学的損傷を受けにくくなり、経時劣化が少なくなり、その分、使用可能な面状装飾体4の材質範囲が広がる。このような機能を良好に発揮するためには、ハードコートされた透光性アクリル樹脂板の両主面は、たとえば、ハードコート無しの透光性アクリル樹脂板の主面に比べて、溶剤アセトン、メタノール及び二塩化メチレンのそれぞれに対する耐薬品性が高いことが好ましい。ここで、耐薬品性は、試料の上に溶剤をしみ込ませたネルを置き、溶剤が蒸発して逃げることのないように周りをシールし、常温で24時間接触させた後の試料の表面状態の変化により判定することができる。
【0020】
以上のような両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板については、特公昭47−13147号公報、特公昭47−13546号公報及び特公昭60−25253号公報に記載がある。とくに、本発明に好適な両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板として、三菱レイヨン株式会社製「アクリライトMR−200W」{商品名}が例示される。
【0021】
透光板2A,2Bの厚みは、たとえば、0.5mm〜15mmである。透光板2A,2Bの大きさは、たとえば、300〜3,000mm×300〜3,000mmである。
【0022】
本発明においては、上側透光板2A及び下側透光板2Bの両主面はハードコートされているので、ハードコートされていないものに比べて、接着性は一般的には低い。そこで、本発明では、上側接合層部分3A1,3A2及び下側接合層部分3B1,3B2として、エチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤からなるものを使用する。この接着剤は、加熱圧着による接合力に優れている。このような接着剤としては、たとえば、合わせガラス中間膜形成用の接着剤として市販されている東ソー株式会社製「メルセンG」{商品名}が例示される。
【0023】
上側接合層部分3A1,3A2及び下側接合層部分3B1,3B2の厚みは、たとえば、0.1mm〜0.5mmである。尚、これらの層部分の全体からなる接合層3の厚みは、たとえば0.3mm〜1.5mmである。
【0024】
面状装飾体4としては、和紙、パターン状のプラスチックフィルム、金属メッシュ、乾燥草木、ワイヤメッシュなどを用いることができる。本発明では、上側透光板2A及び下側透光板2Bとして両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板を用いているので、ハードコート無しの透光性アクリル樹脂板を用いる場合に比べて、面状装飾体4として、硬度の高いものや化学的活性の高いものを使用することが可能である。
【0025】
次に、以上のような装飾積層板の製造方法の一実施形態につき、図面を参照して説明する。
【0026】
図3は、本発明による装飾積層板の製造方法の一実施形態を説明するための模式的断面図である。
【0027】
先ず、図示されているように、面状装飾体4の両面側(すなわち上面側及び下面側)にそれぞれ2枚の感熱型接着剤シート3A1’,3A2’;3B1’,3B2’を重ねて配置し、更にその両面側(すなわち感熱型接着剤シート3A1’の上面側及び感熱型接着剤シート3B1’の下面側)にそれぞれ1枚の透光板2A;2Bを、重ねて配置する。
【0028】
以上の構成体を真空圧着装置内に収容する。真空圧着装置は、多数の小通気孔の形成された平板状基材10と、該基材10の上側に配置され、基材10の端縁と端縁が接合された非通気性の柔軟な押圧シート12とを備える。また、真空圧着装置は、図示されていない加熱手段及び吸気手段を備える。吸気手段としては、基材10の下側に接続された真空ポンプ装置を使用することができる。
【0029】
図3に示されるように、加熱手段により加熱しながら吸気手段により真空圧着装置内の吸気を行い、大気圧により押圧シート12を基材10の方へと押圧する。加熱温度は、感熱型接着剤シート3A1’,3A2’;3B1’,3B2’の感熱型接着剤が軟化して接着性を示す温度であり、好ましくは90℃〜120℃、たとえば100℃である。吸気の圧力は、透光板2Aが透光板2Bの方へと押圧されて、感熱型接着剤シート3A1’,3A2’;3B1’,3B2’の感熱型接着剤による適切な圧着がなされるような圧力であり、好ましくは0.1kgf/cm〜3kgf/cmである。
【0030】
以上の加熱接着により、感熱型接着剤シート3A1’,3A2’;3B1’,3B2’は、上側接合層部分3A1,3A2からなる上側接合層3Aと下側接合層部分3B1,3B2からなる下側接合層3Bとからなる接合層3となる。尚、上記のように、実際には上側接合層部分3A1,3A2及び下側接合層部分3B1,3B2は一体化して、それらの境界が必ずしも明確には表れないものであってもよい。
【0031】
かくして、透光板2A;2B同士が面状装飾体4を介在させて感熱型接着剤により接合され、装飾積層板1が得られる。
【0032】
以上の実施形態では、面状装飾体4の両面側にそれぞれ2枚の感熱型接着剤シート3A1’,3A2’;3B1’,3B2’を配置しているが、感熱型接着剤シートの数は面状装飾体4の両面側にそれぞれ1枚または3枚以上であってもよい。
【0033】
上側の透光板2Aと下側の透光板2Bとは、必ずしも同等である必要はなく、厚さ及び材質等が互いに異なっていてもよい。また、上側感熱型接着剤シートの数及び厚みと下側感熱型接着剤シートの数及び厚みとは、必ずしも同等である必要はなく、互いに異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 装飾積層板
2A 上側透光板
2B 下側透光板
3 接合層
3A 上側接合層
3A1,3A2 上側接合層部分
3A1’,3A2’ 感熱型接着剤シート
3B 下側接合層
3B1,3B2 下側接合層部分
3B1’,3B2’ 感熱型接着剤シート
4 面状装飾体
10 真空圧着装置の基材
12 真空圧着装置の押圧シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の透光板のそれぞれの一主面の間にこれらを接合する接合層が介在しており、該接合層中に面状装飾体が保持されてなる装飾積層板であって、
前記透光板のそれぞれは、両主面がハードコートされた透光性アクリル樹脂板であり、
前記接合層は、エチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤からなることを特徴とする装飾積層板。
【請求項2】
前記ハードコートされた透光性アクリル樹脂板の両主面は、鉛筆硬度が4H以上で、回転式スチールウール試験の限界荷重が500g以上であることを特徴とする、請求項1に記載の装飾積層板。
【請求項3】
前記ハードコートされた透光性アクリル樹脂板の両主面は、ハードコート無しの透光性アクリル樹脂板の主面に比べて、アセトン、メタノール及び二塩化メチレンのそれぞれに対する耐薬品性が高いことを特徴とする、請求項1または2に記載の装飾積層板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装飾積層板を製造する方法であって、
前記面状装飾体の両面側にそれぞれ少なくとも1枚のエチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤シートを配置し、更にその両面側に前記2枚の透光板を配置し、
前記感熱型接着剤シートを加熱しながら圧着することにより、前記透光板同士を前記面状装飾体を介在させて前記感熱型接着剤により接合することを特徴とする装飾積層板の製造方法。
【請求項5】
前記圧着は真空圧着により行われることを特徴とする、請求項4に記載の装飾積層板の製造方法。
【請求項6】
前記面状装飾体の両面側にそれぞれ2枚の前記エチレン酢酸ビニル共重合体系の感熱型接着剤シートを配置することを特徴とする、請求項4または5に記載の装飾積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−63942(P2011−63942A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213144(P2009−213144)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(390025313)株式会社菱晃 (12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】