説明

補修方法

【課題】TBCの熱耐久性を維持させながら部分的に補修する方法を提供する。
【解決手段】母材1上にアンダーコート層2と、トップコート層3とが順に形成された部材のトップコート層3の損傷部4を、加圧により水を噴射させてトップコート層3の損傷部4を除去する工程と、加圧により水を噴射させて前記トップコート層3が除去されたアンダーコート層2を除去する工程と、アンダーコート層2が除去された母材1上に、アンダーリコート層6を形成する工程と、形成されたアンダーリコート層6の上に、トップリコート層7を形成する工程と、によって補修する補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンなどの遮熱コーティングされた部品や、成膜された部品の部分補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンなどの発電装置は、高温環境で使用される。そのため、ガスタービンを構成する静翼や動翼、あるいは燃焼器の壁材などは、耐熱部材で構成される。更に、この耐熱部材の基材上に金属結合層(アンダーコート層)を介して溶射等の成膜方法によって酸化物セラミックスからなるセラミックス層(トップコート層)を積層した遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)を形成して、耐熱部材を高温から保護することが行われている。
【0003】
TBCのトップコート層が部分的に剥離した場合、TBCの補修が行われる。一般的な補修方法としては、部材全面にわたりトップコート層及びアンダーコート層を剥離させ、部材を表面処理した後、新しいアンダーコート層及びトップコート層を順に形成させる。この方法では、部材全面での補修が必要になることから、工期が長期間となる上、補修コストが高いという問題がある。そのため、TBCを部分的に補修する方法が求められている。
【0004】
特許文献1には、トップコート層及びアンダーコート層を有するNi基合金部品の部分補修方法が開示されている。特許文献1では、トップコート層の損傷部分及び該損傷部分に対応するアンダーコート層をグラインダー研磨して選択的に除去して開口部を形成し、この開口部の周辺にマスキング材を配置して、新たにアンダーコート層及びトップコート層を形成することで、Ni基合金部品を部分的に補修している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−371346号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TBCの補修において、一般に、トップコート層はプラスト法で物理的に剥離させ、アンダーコート層は酸洗剥離法で化学的に剥離させていた。しかしながら、上記方法では、TBCを部分的に剥離させることが難しい。TBCを部分的に補修するためにアンダーコート層をブラスト法によって剥離させることも考えられる(図8参照)。剥離条件は、例えば、ノズル17内径:6mm、圧力:0.42MPa、ブラスト材:Al、ノズルワーク間距離d(スタンドオフ):150mmとされる。
【0007】
ブラスト法で膜を剥離(除去)させる場合、剥離させない部分をマスキング材15で予め覆っておく必要がある。しかしながら、TBCが形成されているガスタービン部品、例えば、静翼、動翼あるいは燃焼器などは、複雑な3次元形状を有する。このため、曲面部などに精度良くマスキング材15を配置することは、極めて難しい。また、ノズル17内径が大きく、大きなスタンドオフdで施工するため、ブラスト材の照射範囲16が広くなり、所望の領域を精度良く剥離させることが難しい。また、ブラスト法でも小さなノズル径、スタンドオフの小型装置もあるが、一般に、小型装置ほどブラスト力が小さいため、剥離力が小さくなる課題がある。
静翼や動翼などに形成されるTBCのアンダーコート層2は、母材1への密着力が高くなるよう低圧プラズマ溶射法(LPPS)あるいは高速フレーム溶射法(HVOF)で形成されている。ブラスト法は膜の局所を剥離するパワーが強くないため、高い密着力で形成されたアンダーコート層2を剥離(除去)することは非常に難しい。すなわち、一部のアンダーコート層2を剥離できたとしても、母材1表面にアンダーコート層2が残留してしまう可能性が高い。
また、ブラスト法ではブラスト材を噴射するため、ブラスト後にエアブロー等の表面洗浄処理が必要となる。但し、洗浄処理を行ったとしても、ブラスト材が残存しやすいため、新しく形成されるアンダーコート層2にブラスト材が取り込まれ、母材1とアンダーコート層2との密着性が低下するなど、膜性能に影響を与える懸念がある。
【0008】
特許文献1に記載の補修方法では、新しいTBCの膜と既存のTBCの膜との継部において、新しいアンダーコート層が、既存のトップコート層の上に重なって形成される可能性もある。そのような部分では、新しいアンダーコート層の接着力が弱いため、耐久性が低下してしまうという問題が生じる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、TBCの耐久性を維持させながら部分的に補修する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、母材上にアンダーコート層と、トップコート層とが順に形成された部材の前記トップコート層の損傷部分を、加圧により水を噴射させて前記トップコート層の前記損傷部分を除去する工程と、加圧により水を噴射させて前記トップコート層が除去された前記アンダーコート層を除去する工程と、前記アンダーコート層が除去された前記母材上に、アンダーリコート層を形成する工程と、形成された前記アンダーリコート層の上に、トップリコート層を形成する工程とによって補修する補修方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、加圧により水を噴射させるため、小さい径のノズルを使用することができ、狭い範囲でトップコート層及びアンダーコート層に高圧水をあてることが可能となる。それによって、各層毎に所望の範囲を精度良く剥離することができ、剥離の必要がない部分をマスキング材で覆う必要もない。また、水のみを用いてトップコート層及びアンダーコート層を剥離することができるため、新たに形成したアンダーコート層に不純物が取り込まれる可能性も低くなる。通常、新たにアンダーコート層を形成する場合、密着性を高めるため、ブラスト法などによって母材の表面を粗面化処理するが、本発明によれば、アンダーコート層を剥離すると同時に母材表面をある程度粗面化することができる。そのため、補修の工程を短縮することが可能となる。
【0012】
上記発明において、前記水が、アブレイシブ材を含んでも良い。これによって、ブラスト法では剥離が困難であるようなアンダーコート層も容易に剥離することが可能となる。アブレイジブ材は、ブラスト材に比べて使用量が少なく、粒度も細かいことから、新たに形成したアンダーコート層の膜性能への影響は少ない。アブレイシブ材を用いることで、噴射水圧が多少低い条件であっても、アンダーコート層を剥離することができる。また、アブレイシブ材を用いることで、母材表面の粗面化率を高めることもできる。
【0013】
上記発明において、前記除去されたアンダーコート層の外周に前記アンダーコート層が残存するよう前記アンダーコート層を除去することが好ましい。加圧により水を小径ノズルから噴射する(ウォータージェット)剥離手法は、プログラミングの精度を上げることで、トップコート層とアンダーコート層を各層毎に剥離することが可能となる。従って、アンダーコート層の剥離面積をトップコート層の剥離面積よりも小さくして、各層の剥離部分の境界をずらすことも可能となる。これによって、アンダーリコート層を、既存のトップコート層の上に重ならせずに形成させることができる。すなわち、TBCの耐久性を維持させながら部分的に補修することができる。
【0014】
上記発明において、形成された前記アンダーリコート層の表面を、交流TIGを用いてクリーニング処理する工程を更に備えることが好ましい。
交流TIGは、金属の母材を負極に、電極を正極として電流を流すと、母材から熱電子が放出され、母材表面の酸化被膜を選択的に除去することができるというクリーニング効果を有する。アンダーリコート層を施工した後、アンダーコート層とアンダーリコート層とをまとめてクリーニング処理すれば、境界部を含めた、コーティング層表面の酸化物等の密着性を阻害する異物が無くなり、表面を活性化するため、トップリコート層の密着性が改善できる。新たに形成されたアンダーリコート層の表面を交流TIGを用いてクリーニング処理すると、アンダーリコート層とトップリコート層との密着性を向上させることができるようになる。そのため、部分補修後のTBCの耐久性をより高いレベルで維持させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、TBCのトップコート層及びアンダーコート層の所望の範囲を精度良く剥離することができる。それによって、耐久性を維持させたままTBCを部分的に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る補修方法の説明図である。
【図2】実施例1に係るアンダーコート層を剥離した後の補修対象部材の断面写真である。
【図3】実施例1の水平亀裂発生歪を示すグラフである。
【図4】実施例2に係る補修方法における各工程の試験片の模式図である。
【図5】実施例2の熱サイクル耐久性の評価に用いたレーザー式熱サイクル試験装置の模式断面図である。
【図6】図6(a)は、図5に示すレーザ熱サイクル試験装置による熱サイクル試験時の試料の温度履歴を示すグラフであり、図6(b)は、図6(a)の各曲線に対応する試料上の測定点を示す説明図である。
【図7】実施例2の補修した継ぎ目部分の熱サイクル寿命比を示すグラフである。
【図8】ブラスト法におけるTBCの補修方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る補修方法の一実施形態について図1を参照して説明する。
(1)図1(a)
本実施形態では、補修対象部材として耐熱合金からなる母材1上に、TBCとして金属からなるアンダーコート層2と、酸化物セラミックスからなるトップコート層3が積層されてなる部材を用い、該部材のトップコート層3の損傷部4を補修する。
母材(耐熱合金)1としては、例えば、IN738LCなどのNi基耐熱合金を用いる。
アンダーコート層2は、例えば、MCrAIY合金(Mは、Ni、Co、Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組み合わせを示す)などとされ、低圧プラズマ溶射法により、部品の使用温度等の使用環境他により決定されるが、一般的に、0.05mm以上0.2mm以下の厚さで形成されている。
トップコート層3は、例えば、8質量%イットリア部分安定化ジルコニアなどとされ、大気プラズマ溶射法により、部品の使用温度等の使用環境他により決定されるが、一般的に、0.1mm以上1mm以下の厚さで形成されている。
【0018】
本実施形態に係る補修方法は、トップコート層除去工程と、アンダーコート層除去工程と、アンダーリコート層形成工程と、トップリコート層形成工程を備えている。
(2)図1(b)
トップコート層除去工程では、ウォータージェット剥離手法を用いて、損傷部4の周辺のトップコート層3を剥離させる。ウォータージェット剥離には、水のみを用い、ノズル(水噴出口)5の内径、ノズルワーク間距離d、噴射水圧、ノズルの送り速度などを剥離させたいトップコート層3の材質や膜厚などに応じて適宜設定する。剥離させる領域は、部材における損傷部4の位置や損傷部4の状態などによって適宜決定される。
【0019】
(3)図1(c)
アンダーコート層除去工程では、トップコート層除去工程でトップコート層3が除去されて露出したアンダーコート層2を、ウォータージェット剥離手法を用いて剥離させる。図1(c)に示すように、アンダーコート層2は、アンダーコート層2のトップコート層3が除去された部分の外周縁を残して除去するのが好ましい。そうすることで、新たに形成されるアンダーリコート層6が、既存のトップコート層3の上に積層されないようにすることができる。ウォータージェット剥離には、任意のアブレッシブ材(ガーネットなど)を所定の濃度となるように加えた水を用いるか、アブレッシブ無しの場合は、トップコート剥離よりも高圧の水流を用いて、ノズル(水噴出口)5の内径、ノズルワーク間距離d、噴射水圧、ノズルの送り速度などを、剥離させたいアンダーコート層2の材質や膜厚などに応じて適宜設定する。剥離させる領域は、部材における損傷部4の位置や損傷部4の状態などによって適宜決定される。
アブレッシブを使用するか否かは、アブレッシブを使用すると、比較的低圧の水流でも
大きな加工能力が得られるため、ポンプの能力を低く抑えられ、装置の価格を低く抑えられる、剥離直後の表面粗度が水のみよりも大きくなり、そのままリコートする場合には有利になる等の利点があるが、反面、アブレッシブのコストや、内部等へのダメージや、アブレッシブ材の十分な洗浄が必要等の欠点もあるので、装置能力や、部品側の要求等を鑑みて選択されるべきである。
【0020】
(4)図1(d)
アンダーリコート層形成工程では、既存のアンダーコート層2と同様の組成及び厚さの膜となるようアンダーリコート層6を低圧プラズマ溶射法によって形成させる。なお、アンダーリコート層形成工程では、低圧プラズマ溶射法を用いたが、高速フレーム溶射法やコールドスプレー法を用いても良い。
【0021】
(5)図1(e)
トップリコート形成工程では、既存のトップコート層3と同様の組成及び厚さの膜となるようトップリコート層7を大気プラズマ溶射法によって形成させる。
【0022】
トップリコート層形成工程の前に、形成されたアンダーリコート層6の表面を交流TIGによってクリーニング処理する工程を備えても良い。クリーニング処理を施す場合、交流TIGの電流は、母材の溶融を避けるために、10A以下とすることが好ましい。
【0023】
以下、実施例により本実施形態の補修方法を詳細に説明する。
(実施例1)
補修対象部材の母材1は、IN738LC(Cr−16.0質量%Co−8.5質量%Mo−1.7質量%W−2.6質量%Ta−1.7質量%Nb−0.9質量%Al−3.4質量%Ti−3.4質量%Zr−0.05質量%B−0.01質量%Ni−残部)とした。また、母材1は、表面がブラスト法によって粗面化処理されており、大きさは、直径約30mm、板厚約5mmとした。母材1上に、CoNiCrAlY(Co−32質量%Ni−21質量%Cr−8質量%Al−0.5質量%Y)からなるアンダーコート層2がLPPSによって形成され、アンダーコート層2上に8質量%イットリア部分安定化ジルコニアからなるトップコート層3が大気プラズマ溶射法によって形成されている部材を使用した。トップコート層3及びアンダーコート層2の膜厚は、それぞれ0.5mm及び0.1mmとした。
【0024】
補修対象部材のトップコート層3をウォータージェット剥離手法によって剥離させた。剥離条件は、ノズル内径:0.254mm、噴射水圧:345MPa、ノズル送り速度:762mm/min、ノズルワーク間距離d(スタンドオフ):15mm、水のみをトップコート層3に向けて噴射させた。
【0025】
次に、アンダーコート層2をウォータージェット剥離手法によって剥離させた。剥離条件は、噴射水圧:345MPa、ノズル送り速度:2032mm/min、ノズルワーク間距離(スタンドオフ):15mmとし、120グリットのガーネットが約57g/minとなるよう加えられた水をアンダーコート層2に向けて噴射させた。
【0026】
次に、アンダーコート層2を剥離させた母材1に、低圧プラズマ溶射法によりアンダーリコート層6を形成させた。アンダーリコート層6は、既存のアンダーコート層2と同様の組成(CoNiCrAlY)であり、膜厚は0.1mmとした。
【0027】
(比較例1)
実施例1で用いた補修対象部材のトップコート層3が形成されていないものを比較例1とした。
【0028】
図2に、実施例1のアンダーコート層2を剥離した後の補修対象部材の断面写真を示す。アンダーコート層2は、母材1の表面1aに残存することなく剥離されていた。また、トップコート層3も同様に残存することなく剥離されていた。
【0029】
実施例1のアンダーコート層2を剥離した後の板厚をマイクロメーターで計測した。ウォータージェット剥離手法によってアンダーコート層2が剥離された部分の母材1の板厚及び元の母材の板厚の差は、0.1mm以下であった。これによって、ウォータージェット剥離手法によって、母材1を減肉することなくアンダーコート層2を剥離できることが確認された。
【0030】
実施例1において、アンダーコート層2が剥離されて露出した母材1の表面粗さをJIS0601に従い、触針式の粗さ計測器で計測した。母材1の中心線平均粗さ(Ra)は、7μmであった。TBCの補修において、通常、アンダーリコート層6と母材1との密着性を向上させるため、アンダーリコート層6を形成させる前に、ブラスト法によって母材1表面を粗面化処理する。上記結果によれば、ウォータージェット剥離手法によってアンダーコート層2を剥離すると同時に、母材1表面が粗面化されるため、母材1表面の粗面化処理工程を省略することが可能となる。
【0031】
実施例1及び比較例1を用いて、3点曲げ試験を実施し、試験片に水平亀裂が発生する限界歪を測定した。3点曲げ試験は室温で行い、曲げ歪みレベルの異なる箇所の断面ミクロ組織から水平方向の割れの有無を確認し、水平亀裂発生限界歪を求めた。
図3に、上記結果を示す。同図において、横軸は試験片名、縦軸は水平亀裂限界歪である。実施例1の水平亀裂限界歪(平均)は4.6%であり、比較例1と同程度となった。母材1の破断歪レベルが室温では約5%程度以下であることを考慮すると、母材1が塑性域に入って十分に変形してからの亀裂発生であることがわかる。以上より、実施例1に係る補修方法によれば、母材1とアンダーリコート層6との密着性が良好となることがわかった。
【0032】
(実施例2)
補修対象部材は、実施例1と同様の構成の部材を用いた。大きさは、直径約30mm×板厚5mmとした。
図4に、実施例2に係る補修方法における各工程の試験片の模式図を示す。後述するレーザ熱サイクル試験では、レーザは、試験片中央に照射されるため、部分コーティングの最弱部と考えられる、膜の継部を中央へ配するように、以下の試験片を作成した。図4に示すように、補修対象部材のトップコート層3の一部をウォータージェット剥離手法によって剥離させた。剥離条件は、ノズル内径:0.43mm、噴射水圧:385MPa、ノズル送り速度:60mm/min、ノズルワーク間距離(スタンドオフ):15mmとし、水のみをトップコート層3に向けて噴射させた。
【0033】
次に、上記でトップコート層3を剥離させた部分に対応するアンダーコート層2をウォータージェット剥離手法によって剥離させた。この際、トップコート層3の剥離部分の面積よりアンダーコート層2の剥離部分の面積が小さくなり、且つ、トップコート層3の剥離部分とアンダーコート層2の剥離部分の境界がずれるよう、アンダーコート層2を剥離させた。剥離条件は、ノズル内径:0.43mm、噴射水圧:385MPa、ノズル送り速度:42mm/min、ノズルワーク間距離(スタンドオフ):15mmとし、120グリットのガーネットを約57g/minを加えた水をアンダーコート層3に向けて噴射させた。
【0034】
次に、アンダーコート層2を剥離させた部分に、低圧プラズマ溶射法によりアンダーリコート層6を形成させた。アンダーリコート層6は、既存のアンダーコート層2と同様の組成(CoNiCrAlY)であり、膜厚は0.1mmとした。
【0035】
次に、アンダーリコート層6の上にトップリコート層7を大気プラズマ溶射法により形成させた。トップリコート層7は、既存のトップコート層3と同様の組成(8質量%部分イットリア安定化ジルコニア)であり、膜厚は0.5mmとした。
【0036】
(比較例2)
補修前の補修対象部材を比較例2とした。
【0037】
実施例2及び比較例2を用いて、熱サイクル耐久性試験を実施した。図5に、熱サイクル耐久性の評価に用いたレーザ式熱サイクル試験装置の模式断面図を示す。レーザ式熱サイクル試験装置は、本体部13上に配設された試料ホルダ12に、トップコート層及びアンダーコート層からなる遮熱コーティング膜11が外側となるように試料111(実施例2及び比較例2)を配置し、この試料111に対して炭酸ガスレーザ装置10からレーザ光Lを照射することで試料111を、遮熱コーティング膜11側から加熱するようになっている。また、レーザ装置10による加熱と同時に本体部13を貫通して本体部13の内部の試料111裏面側と対向する位置に配設された冷却ガスノズル14の先端から吐出されるガス流Fにより試料111をその裏面側から冷却するようになっている。このレーザ式熱サイクル試験装置によれば、容易に試料111内部に温度勾配を形成することができ、ガスタービン部材などの高温部品に適用された場合の使用環境に即した評価を行うことができる。
【0038】
図6(a)は、図5に示す装置により熱サイクル耐久性試験に供された試料111の温度変化を模式的に示すグラフである。図6(a)に示す曲線A〜Cは、それぞれ図6(b)に示す試料111における温度測定点A〜Cに対応している。図6に示すように、図5に示す装置を用いて、試料111の遮熱コーティング膜11表面(A)、遮熱コーティング膜11と母材1との界面(B)、母材1の裏面側(C)の順に温度が低くなるように加熱することができる。
例えば、遮熱コーティング膜11の表面を1200℃以上の高温とし、遮熱コーティング膜11と母材1との界面の温度を800〜1000℃とすることで、実機ガスタービンと同様の温度条件とすることができる。なお、本試験装置による加熱温度と温度勾配は、レーザ装置10の出力とガス流Fとを調整することで、容易に所望の温度条件とすることができる。
【0039】
実施例2では、図5に示すレーザ式熱サイクル試験装置10を用い、最高表面温度(遮熱コーティング膜11表面の最高温度)を1500℃とし、最高界面温度(遮熱コーティング膜11と母材1との界面の最高温度)を900℃とする繰り返しの加熱を行った。この熱サイクル耐久性試験において遮熱コーティング膜11に剥離が生じた時点でのサイクル数を熱サイクル耐久性の評価値とした。
図7に、上記結果を示す。同図において横軸は試験片名、縦軸は比較例2の熱サイクル耐久性の結果を100%としたときの熱サイクル寿命比である。実施例2の既存のトップコート層3とトップリコート層7との継部における熱サイクル寿命は、比較例2の熱サイクル寿命の半分程度であった。トップコート層3及びアンダーコート層2をブラスト法にて剥離させて補修した部材の継部には、早期から割れが目視できる場合が多いことを考慮すると、実施例2の耐久性は向上していると判断できる。上記結果によって、補修によって生じる既存のトップコート層3とトップリコート層7との継部を運転条件の厳しくない部分に持ってくる等の対策をすることで実用可能となることがわかった。また、トップリコート層7をYbSZとした場合で、実施例2のトップリコート層7を縦割れ組織とすると比較例2の10倍以上の熱サイクル寿命比が得られることが分かり、その場合は、部分コーティング部でも通常部以上の耐久性を維持できることがわかった。
【符号の説明】
【0040】
1 母材
2 アンダーコート層
3 トップコート層
4 損傷部
5 ノズル(ウォータージェット剥離手法)
6 アンダーリコート層
7 トップリコート層
10 熱サイクル試験装置
11 遮熱コーティング膜
12 試料ホルダ
13 本体部
14 冷却ガスノズル
15 マスキング材
16 ブラスト材の照射範囲
17 ノズル(ブラスト法)
111 試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材上にアンダーコート層と、トップコート層とが順に形成された部材の前記トップコート層の損傷部分を、
加圧により水を噴射させて前記トップコート層の前記損傷部分を除去する工程と、
加圧により水を噴射させて前記トップコート層が除去された前記アンダーコート層を除去する工程と、
前記アンダーコート層が除去された前記母材上に、アンダーリコート層を形成する工程と、
形成された前記アンダーリコート層の上に、トップリコート層を形成する工程と、によって補修する補修方法。
【請求項2】
前記水が、アブレイシブ材を含む請求項1に記載の補修方法。
【請求項3】
前記除去されたアンダーコート層の外周に前記アンダーコート層が残存するよう前記アンダーコート層を除去する請求項1または請求項2に記載の補修方法。
【請求項4】
形成された前記アンダーリコート層の表面を、交流TIGを用いてクリーニング処理する工程を更に備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117011(P2011−117011A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272758(P2009−272758)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】