製鉄用容器の耐火物ライニング構造
【課題】 製鉄用容器のワーク耐火物層の損傷を軽減し、ワーク耐火物層の耐用回数を格段に向上させることのできる、製鉄用容器の耐火物ライニング構造を提供する。
【解決手段】 本発明の耐火物ライニング構造は、溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮4、永久耐火物層5、ワーク耐火物層6をこの順に有し、前記ワーク耐火物層は、耐火物の圧縮強度σC(MPa)、熱膨張係数α(1/K)、静的弾性率E(MPa)及びポアソン比ν(−)と、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)とが、下記の(1)式の関係を満足する材質の耐火物からなる。
0.7≧(1/σC)×[α×E×ΔT/(1−ν)] …(1)
【解決手段】 本発明の耐火物ライニング構造は、溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮4、永久耐火物層5、ワーク耐火物層6をこの順に有し、前記ワーク耐火物層は、耐火物の圧縮強度σC(MPa)、熱膨張係数α(1/K)、静的弾性率E(MPa)及びポアソン比ν(−)と、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)とが、下記の(1)式の関係を満足する材質の耐火物からなる。
0.7≧(1/σC)×[α×E×ΔT/(1−ν)] …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスにおいて、溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスにおいては、一般的に、高炉で溶製されて高炉から出湯される溶銑は、トピードカーや溶銑鍋に代表される容器で受銑され、次工程の製鋼工程へと搬送される。製鋼工程では、転炉或いは電気炉での精錬によって溶銑から溶製された溶鋼は、取鍋などの容器に出湯され、二次精錬工程や連続鋳造工程などの次工程へと搬送される。これらの溶銑または溶鋼を保持する製鉄用容器は、一般的には、稼働面(溶湯との接触面)側から順に、ワーク耐火物層、永久耐火物層、鉄皮の3層から形成されるライニング構造である。
【0003】
ワーク耐火物層及び永久耐火物層は、成形煉瓦(定形耐火物)または不定形耐火物で構成され、成形煉瓦で構成されるときには、それぞれワーク煉瓦層、永久煉瓦層とも呼ばれている。また、ワーク耐火物層を構成する耐火物は、ワーク耐火物またはワーク煉瓦、永久耐火物層を構成する耐火物は、永久耐火物または永久煉瓦と呼ばれている。尚、本発明においては、溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送するまたは精錬する容器を、転炉を含めて、まとめて製鉄用容器と称する。
【0004】
製鉄用容器のうちで、トピードカー及び溶銑鍋は、高炉で溶銑を受銑し、この溶銑を保持・搬送した後、収容した溶銑を装入鍋などに払い出し、その後、再び高炉に戻る工程を繰り返して実施する。また、転炉は、溶銑を装入し、この溶銑に脱炭吹錬を施して溶鋼を溶製し、溶製した溶鋼を取鍋へ出湯するという工程を繰り返して実施する。また、取鍋は、転炉から出湯される溶鋼を受鋼し、必要に応じて二次精錬設備を経由した後、収容する溶鋼を連続鋳造機のタンディッシュに注入し、溶鋼の注入完了後、転炉に戻るという工程を繰り返して実施する。
【0005】
このように、製鉄プロセス、特に製鋼プロセスにおいては、高温の溶銑或いは溶鋼の受け入れと払い出しとを繰り返して実施するので、製鉄用容器に内張りされた耐火物に付与される熱負荷が周期的に変化する。その結果、耐火物には熱応力が発生し、しかも、それが周期的に変動することにより、耐火物に割れや剥離が生じ(これを「熱スポーリング」と称する)、製鉄用容器の耐用回数を低下させる。この問題を解決するために、使用する耐火物の材質やライニング構造を変更するという手段が従来から行われている。
【0006】
例えば特許文献1には、直胴部及び絞り部を有する炉のライニング構造において、絞り部の傾斜に対して逆側の傾きを持った状態でワーク煉瓦を施工する逆傾斜ライニング構造が提案されており、ワーク煉瓦の損傷改善に寄与できるとしている。また、特許文献2には、転炉耐火物の逆傾斜ライニング構造を、直胴部及び下部コーナー部まで拡張させることが提案されており、更なるワーク煉瓦の機械的損傷の低減が達成され、転炉の長寿命化及び安定操業が可能になるとしている。
【0007】
しかしながら、上記の逆傾斜ライニング構造では、応力値の緩和は達成されるものの、逆傾斜部の煉瓦において滑りが発生し、稼動中の煉瓦の脱落を招きかねない。更に、その煉瓦の滑り及び炉の軸方向に発生する応力の作用により、ワーク煉瓦が所謂曲げ変形を起こす可能性も考えられる。これらから、上記の逆傾斜ライニング構造は優れた施工方法であるとは言い難い。
【0008】
一方、耐火物の材質による改善事例としては、例えば特許文献3には、ワーク耐火物の材質を製鉄用容器側壁の上部と下部とで区分し、下部の耐火物に上部の耐火物より残存膨張性の大きい材質の耐火物を配置することが提案されており、ワーク耐火物層における亀裂の発生及び進展を防止することができるとしている。また、特許文献4には、溶銑鍋の耐火物として、Al2O3−SiC−C系材質の煉瓦のAl2O3原料に代えて、シリマナイト(Al2O3・SiO2)を使用する技術が提案されており、ワーク煉瓦における目地開き、剥離損耗、セリ割れが防止されるとしている。更に、特許文献5には、転炉の溶鋼接触部と非接触部とで、ワーク煉瓦として炭素含有量の異なるMgO−C煉瓦を張り分けた施工方法が提案されており、転炉の長寿命化に寄与するとしている。
【0009】
しかしながら、特許文献3、5の技術では、各種材質の熱膨張及び弾性率に起因した発生熱応力の値が異なり、しかも製鋼プロセスの各工程における熱サイクルが或る周期で変動することから、異種材質の境界部近傍で発生する熱応力の差が大きくなり、その結果、亀裂が発生し、耐火物の損傷が大きくなるという問題点を有している。また、特許文献4では、Al2O3の代替としてAl2O3よりも高温での耐火性に劣るシリマナイトを使用しており、長期間の耐用性は期待できない。
【0010】
ところで、炭素の特性に由来して、高温における強度が高いこと及び耐熱スポーリング姓に優れることから、従来、製鉄用定形耐火物は、MgO−C煉瓦、Al2O3−C煉瓦などの炭素を含有する材質が多い。しかし、炭素は、それ自体の熱伝導率が高いので、炭素含有煉瓦の熱伝導率も高くなり、耐火物を通じた放熱ロスが多くなることが課題である。但し、耐火物を通じた放熱ロスを少なくしようとして炭素含有量を低下させると、耐熱スポーリング姓が悪化する。
【0011】
このような特性を有する炭素含有耐火物の耐用性を更に高めることを目的とする技術が提案されている。例えば、特許文献6には、溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管を炭素含有耐火物で外囲して形成されるガス吹込みノズルにおいて、ガス導入用金属管の外表面にアルミニウムを含有する合金層を設けることを提案しており、特許文献7には、ガラス繊維やセラミックス繊維を、MgO−C煉瓦、Al2O3−C煉瓦、Al2O3−SiC−C煉瓦などの耐火物表面に接着または巻きつけて、耐火物の耐用性を向上させる技術が提案されており、また、特許文献8には、高耐用のMgO−C煉瓦の製造方法として、マグネシア質原料と鱗状黒鉛とからなる耐火原料配合物に、有機バインダーを加えて混練し、当該混練物を冷却し、−73℃〜−173℃の温度範囲内で成型し、成型後に室温まで昇温した後、熱処理してMgO−C煉瓦を製造する方法が提案されている。
【0012】
しかし、特許文献6〜8に開示される技術は、外的に金属や繊維などの物質を併用するまたは低温状態を保持する必要があり、製造コストが増大し、耐火物価格が増加する可能性がある。更に、これらの技術では煉瓦の成分までは規定しておらず、本来、成分配合の検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−200824号公報
【特許文献2】特開2009−108363号公報
【特許文献3】特開平5−329620号公報
【特許文献4】特開平5−139822号公報
【特許文献5】特開2005−214548号公報
【特許文献6】特開2011−26643号公報
【特許文献7】特開2010−236734号公報
【特許文献8】特開2010−132516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、従来、転炉、トピードカー、溶銑鍋などの製鉄用容器において、そのワーク耐火物層の耐用回数向上のための手段が多数提案されているが、未だ十分な耐用回数の向上は得られておらず、製造コストの上昇を余儀なくされている。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、熱応力による製鉄用容器のワーク耐火物層の損傷を軽減し、ワーク耐火物層の耐用回数を格段に向上させることのできる、製鉄用容器の耐火物ライニング構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、研究・検討を行った。その結果、転炉、トピードカー、溶銑鍋などの大型の製鉄用容器のワーク耐火物層の熱応力による損傷を軽減するためには、ワーク耐火物層として施工される耐火物自体の強度特性と、使用状況下において周期的に発生する熱応力とを考慮し、負荷される熱応力の最大値に対して十分な強度を有する耐火物を選定することが有効であるとの知見を得た。
【0017】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、前記ワーク耐火物層は、耐火物の圧縮強度σC(MPa)、熱膨張係数α(1/K)、静的弾性率E(MPa)及びポアソン比ν(−)と、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)とが、下記の(1)式の関係を満足する材質の耐火物からなることを特徴とする、製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【0018】
【数1】
【0019】
(2)前記ワーク耐火物層は、Al2O3、SiC、MgOのうちの1種または2種以上と、6〜12質量%の含有量の炭素と、を含有する成形煉瓦によって構成されることを特徴とする、上記(1)に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
(3)前記製鉄用容器が溶銑鍋であり、且つ、前記静的弾性率Eを200MPa以上とすることを特徴とする、上記(1)または上記(2)に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐火物が施工される様々な製鉄用容器において、負荷される熱応力に対して十分な圧縮強度を有する耐火物をワーク耐火物として使用するので、ワーク耐火物層の熱応力による機械的な損傷(亀裂発生による損傷)が低減され、製鉄用容器の長寿命化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】MgO−C煉瓦において、応力が一定の圧縮応力を繰り返し負荷させたときのMgO−C煉瓦の破壊までの載荷回数の調査結果を示す図である。
【図2】MgO−C煉瓦において、変位量を一定として繰り返し圧縮荷重を負荷させたときのMgO−C煉瓦の破壊までの載荷回数の調査結果を示す図である。
【図3】熱応力計算の対象とした溶銑鍋の概略図である。
【図4】図3に示す溶銑鍋の耐火物ライニング構造の概略図である。
【図5】ワーク煉瓦層に発生する熱応力を算出する際の溶銑鍋の熱サイクルを示す図である。
【図6】計算により求めた、溶銑保持時におけるワーク煉瓦層の熱応力の分布を示す図である。
【図7】計算により求めた、空鍋時におけるワーク煉瓦層の熱応力の分布を示す図である。
【図8】計算により求めた熱応力の最大値とワーク煉瓦の圧縮強度σCとの比較を、耐火物A及び耐火物Bで対比して示す図である。
【図9】耐火物A及び耐火物Bのそれぞれにおいて、圧縮強度σCに対する負荷応力の割合と破壊までの載荷回数との関係の調査結果を示す図である。
【図10】熱応力σthと圧縮強度σCとの比σth/σCと、繰り返し熱応力負荷時の破壊回数との関係の調査結果を示す図であるた。
【図11】Al2O3−SiC−C煉瓦における静的弾性率と温度との関係を示す図である。
【図12】スポーリング指数と静的弾性率との関係を示す図である。
【図13】種々のMgO−C煉瓦及びAl2O3−SiC−C煉瓦において静的弾性率と圧縮強度σCとの関係の調査結果を示す図である。
【図14】耐火物中の炭素含有量と耐火物の熱伝導率との関係を示す図である。
【図15】耐火物中の炭素含有量と耐火物の圧縮強度との関係を示す図である。
【図16】本発明を適用した取鍋の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。前述したように、転炉、トピードカー、溶銑鍋などの大型の製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、その耐用回数を向上させるには、耐火物の強度特性、並びに、使用状況下において耐火物に周期的に発生する熱応力の分布及び大きさを考慮し、熱応力の分布及び大きさに応じて、的確な材質の耐火物を選定することが必要である。
【0023】
ここで、製鉄プロセスにおける操業サイクルを挙げると、例えば、転炉では、先ず鉄スクラップを装入し、次いで溶銑を装入し、その後、炉体を直立させ、この状態で、上吹きランスまたは底吹き羽口から酸素ガスを溶銑に供給して溶銑を酸化精錬し、精錬後、溶製した溶湯を取鍋(溶鋼鍋ともいう)に出湯し、出湯排滓後、次回の精錬まで待機し、再度、鉄スクラップを装入して次回の精錬を実施するという工程を繰り返して実施する。このときの炉内温度の変化を概説すると、溶銑の装入後から精錬中にかけて炉内温度は上昇し、出湯後から鉄スクラップ装入時にかけて炉内温度は低下する。
【0024】
転炉に限らず、トピードカー、溶銑鍋、取鍋も同様なサイクルで熱負荷を受ける。このような繰り返しの熱負荷を受け続けると、施工された耐火物(特にワーク耐火物)に発生する熱応力も、それに応じて変動する。この熱応力によって耐火物内に亀裂が発生し、ワーク耐火物の溶損助長や疲労破壊が発生する。尚、製鉄用容器に施工された煉瓦は、通常、圧縮応力によって破壊する。仮に、引張り応力がはたらくような条件になっても煉瓦間には目地が存在するので、個々の煉瓦には破壊に至るような引張り応力は負荷されない。
【0025】
そこで本発明者らは、製鉄用容器に施工される耐火物に長期間に渡って周期的な力を負荷させ、そのときの耐火物の破壊について調査を行った。図1に、転炉で一般的に使用されているMgO−C煉瓦(C:20質量%)において、応力が一定の圧縮応力を繰り返して負荷させたときのMgO−C煉瓦の破壊までの載荷回数を示す。図1の縦軸は、MgO−C煉瓦の圧縮強度σCに対する、試験で繰り返し負荷した圧縮応力値の割合(百分率(%))である。図1に示すように、負荷した圧縮応力値が小さくなるほど、MgO−C煉瓦が破壊するまでの載荷回数は増大することが分った。負荷する圧縮応力値がMgO−C煉瓦の圧縮強度σCと同じ場合には、1回の負荷でMgO−C煉瓦は破壊される。尚、本発明においては、耐火物の圧縮強度をσC(単位:MPa)で表示する。
【0026】
また、実際の製鉄用容器における耐火物は、熱吸収や熱放出によって弾性率や膨張量が変化する。特に、耐火物の熱膨張挙動は、高温域と低温域とで大きく変化する。従って、耐火物築炉後には整合性を有して配列されたワーク煉瓦も熱の授受によって、膨張・収縮を繰り返し、耐火物間に隙間が生じてくる。そこで、初期歪み量(熱の授受の初期に耐火物が膨張することによる熱歪み量)を模擬した変位量で繰り返し圧縮荷重を負荷し、そのときの煉瓦の挙動を調査した。
【0027】
具体的には、変位量を一定としてMgO−C煉瓦(C:20質量%)に繰り返して圧縮荷重を負荷し、そのときのMgO−C煉瓦が破壊するまでの載荷回数を調査した。その結果を図2に示す。ここで、図2の縦軸は、破壊時の変位量(圧縮歪みから算出)を基準とし、破壊時の変位量に対する、試験で負荷した繰り返し圧縮荷重の変位量の割合(百分率(%))である。図2に示すように、図1と同様に、負荷変位量が低下すると破壊までの載荷回数が増大することが分った。破壊時の変位量と同一の変位量を負荷すれば1回の負荷でMgO−C煉瓦は破壊される。
【0028】
このように、脆性材料である耐火物においても、図1及び図2のような疲労特性が確認された。また、図1及び図2からも明らかなように、機械的に付与される繰り返し応力に対して耐火物の破壊までの載荷回数を向上させるためには、耐火物材料の圧縮強度σCに対して負荷応力の割合を低下すること、及び/または、耐火物破壊時の変位量に対して負荷変位量を低下させることが有効であることが確認された。
【0029】
実際の製鉄用容器の耐火物では、前述の熱サイクルに起因して耐火物内部に熱応力が発生し、それが周期的に変動する。ここで、製鉄用容器に施工された耐火物内に発生する熱応力は、耐火物の熱膨張率と静的弾性率との積として、下記の(2)式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
但し、(2)式において、σthは、耐火物内に発生する熱応力(MPa)、αは、耐火物の熱膨張係数(1/K)、Eは、耐火物の静的弾性率(MPa)、νは、耐火物のポアソン比、ΔTは、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)である。
【0032】
本発明者らは、この(2)式を用いて、製鉄用容器に施工された耐火物に負荷される熱応力σthの計算を行った。熱応力計算の対象として、図3に示す溶銑鍋を選定した。この溶銑鍋1は、台車2に積載され、高炉から出銑する溶銑3を受銑し、受銑した溶銑を製鋼工程へと搬送するための製鉄用容器である。この溶銑鍋1の耐火物ライニング構造を図4に示す。図4は、片側半分のみの断面を示している。
【0033】
溶銑鍋1は、その外側から、鉄皮4、永久煉瓦層5、ワーク煉瓦層6を、この順に有しており、ワーク煉瓦層6は、溶銑3と直接接触する部位6A(「溶銑接触部6A」という)と溶銑3と直接接触しない部位6B(「フリーボード部6B」という)とで煉瓦材質を変更している。この構成の溶銑鍋1において、図5に示す熱サイクルを付与したときのワーク煉瓦層6に発生する熱応力を算出した。尚、図5において、実線は、ワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の稼働面(溶銑との接触面)の温度、破線はワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の背面(永久煉瓦層5との接触面)の温度、一点鎖線は永久煉瓦層5の中央部の温度、二点鎖線は鉄皮4の外表面の温度である。
【0034】
計算に用いた煉瓦及び鉄皮の物性値を表1に示す。計算は、溶銑接触部6Aに施工するワーク煉瓦として、圧縮強度σCの異なる2種類のAl2O3−SiC−C煉瓦(「耐火物A」及び「耐火物B」と記す)を配置した場合について行った。耐火物Aの圧縮強度σCは15MPa、耐火物Bの圧縮強度σCは22MPaである。
【0035】
【表1】
【0036】
熱応力の計算結果として、応力が最も大きくなる溶銑保持時(充鍋時)におけるワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の熱応力の分布を図6に示し、また、応力が最も小さくなる空鍋時におけるワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の熱応力の分布を図7に示す。図6及び図7に示すように、耐火物Bに比較して耐火物Aの方がやや熱応力が小さいが、最大の応力は耐火物Aと耐火物Bとで差が無いことが確認された。
【0037】
図6に示す熱応力の最大値とワーク煉瓦の圧縮強度σCとの比較を、耐火物A及び耐火物Bで対比して図8に示す。ワーク煉瓦に発生する熱応力の最大値は、耐火物Aと耐火物Bとで同等であったが、最大応力の圧縮強度σCに対する比は耐火物Bの方が低位であることが分る。
【0038】
ここで、耐火物A及び耐火物Bのそれぞれにおいて、圧縮強度σCに対する負荷応力の割合と破壊までの載荷回数との関係を調査した。調査結果を図9に示す。図9に示すように、耐火物Aは、耐火物Bに比較して「圧縮強度σCに対する負荷応力の割合が高くても、破壊までの載荷回数が長くなる」という優れた特性(図9の傾斜が小さいという特性)を有しているが、耐火物Aを溶銑鍋のワーク煉瓦として用いた場合には、発生熱応力が耐火物Aの圧縮強度σCに対して90%と高位であることから、耐火物Aは熱応力によって早期に破壊する可能性が高い。これに対して、耐火物Bを溶銑鍋のワーク煉瓦として用いた場合には、発生熱応力が耐火物Bの圧縮強度σCに対して70%と低位であることから、耐火物Bは熱応力では破壊されにくく、溶銑鍋の長寿命化が期待できる。
【0039】
更に、本発明者らは、溶銑鍋以外の他の製鉄用容器についても包括的に検討を重ね、(2)式で示される熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCと、繰り返し熱応力破壊の回数との関係を調査し、図10に示す結果を得た。ここで、本発明においては、発生する熱応力σthを算出するにあたり、温度差ΔTとして、耐火物が受ける最高温度(溶銑、溶鋼の温度)と室温との差を用いている。溶銑や溶鋼が非充填時においても耐火物は溶銑や溶鋼の充填時に受けた顕熱が蓄熱されるため、実際には、耐火物内の温度は室温よりも高位となる。しかし、溶銑や溶鋼が非充填時における耐火物の温度は設備の稼働状況や、溶銑または溶鋼の条件によって随時変化することから正確な温度を把握することは難しい。そこで、本発明では、最も熱応力σthが高くなる条件としたときに圧縮強度σCとの比較をするべく、温度差ΔTとして室温との差を適用した。
【0040】
図10に示すように、繰り返しの熱応力による破壊を改善するには、耐火物に発生する熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCを0.7以下にすることが必要であることが分った。これは、繰り返しの熱応力σthの圧縮強度σCに対する割合が70%の付近に、耐火物の疲労限界が存在し、この値以下の応力値では繰り返す熱負荷による破壊は殆ど起きないことを示唆している。従って、ワーク耐火物層6を施工するにあたり、下記の(1)式を満足する材質の耐火物を選定することが、極めて効果的であることが分った。
【0041】
【数3】
【0042】
即ち、本発明は、製鉄容器に施工されるワーク耐火物に発生する熱応力σthを求め、耐火物の圧縮強度σCが求めた熱応力σthの10/7倍(≒1.43倍)以上となる材質の耐火物をワーク煉瓦として選定し施工することを必須とする。
【0043】
更に、本発明者らは、Al2O3−SiC−C煉瓦における静的弾性率の温度依存性について調査した。その結果を図11に示す。温度の上昇に伴って静的弾性率は低下した。ここで、高温での静的弾性率が小さい耐火物では発生熱応力値も低位となるため、一見熱応力破壊に対しては有利に見える。しかしながら、通常、耐火物では高温での歪み量が大きく増加するわけではなく、しかも高温では圧縮強度σCも低下するため、発生する熱応力σthと圧縮強度σCとの比σth/σCは低位にはならない。
【0044】
その閾値に関する検討結果として、図12に示すようなスポーリング指数と静的弾性率との関係を得た。ここで、スポーリング指数とは、前述の耐火物Aを用いた10回の熱サイクル付与試験前後における動的弾性率の変化割合を1として、各種耐火物での10回の熱サイクル付与試験前後における動的弾性率の変化割合を指数化した値である。スポーリング指数は静的弾性率が200MPa以下の耐火物では急激に減少し、材料強度が低下することが分った。また、耐火物設備において熱サイクルを付与したときのスポーリングが与える損傷への影響も大きいことから、溶銑鍋のワーク耐火物層として施工する耐火物における静的弾性率は少なくとも200MPa以上有することが好ましい。
【0045】
更に、溶銑鍋に発生する熱応力σthの最大値(=15MPa)に対して、常に(1)式の関係を満足するためには、ワーク耐火物層として施工される耐火物は、21.5MPa以上の圧縮強度σCを有することが好ましい。この観点から、原料配合及び製造方法を種々に変更したMgO−C煉瓦及びAl2O3−SiC−C煉瓦において静的弾性率と圧縮強度σCとの関係を調査した。調査結果を図13に示すように、静的弾性率が350MPa以上、望ましくは500MPa以上であるMgO−C煉瓦またはAl2O3−SiC−C煉瓦を溶銑鍋のワーク煉瓦として用いることが、溶銑鍋の耐用性の向上により一層寄与することが分った。静的弾性率の上限については特に規定する必要はないが、耐火物の静的弾性率は温度に対して減衰曲線状に低下するため、常温における耐火物の静的弾性率が上限に相当する。
【0046】
このように、本発明によれば、耐火物が施工される様々な製鉄用容器において、負荷される熱応力に対して十分な圧縮強度を有する耐火物をワーク耐火物として使用するので、ワーク耐火物層の熱応力による機械的な損傷が低減され、製鉄用容器の長寿命化が実現される。
【0047】
更に、本発明者らは、耐火物中の炭素含有量が耐火物特性に及ぼす影響について調査した。図14に、Al2O3を主成分とする耐火物中の炭素含有量と耐火物の熱伝導率との関係を示す。図14に示すように、耐火物中の炭素含有量が12質量%を超えると熱伝導率が大きく上昇する。熱伝導率の上昇は、溶銑や溶鋼を製鉄用容器に収容したときに耐火物を通じて外部へ放出する熱量が増大することから、適切とはいえない。従って、放出熱量低減の観点から、耐火物中の炭素含有量は12質量%以下とすることが好ましい。
【0048】
また、図15に、Al2O3を60〜75質量%含有する耐火物中の炭素含有量と耐火物の圧縮強度との関係を示す。耐火物の圧縮強度は、耐火物中の炭素含有量が6質量%よりも少なくなると低下することが分った。これは、炭素含有量が6質量%未満では炭素を含有することによる靱性向上の効果が薄れることによると推定される。
【0049】
図14に示すように、耐火物中の炭素含有量が12質量%以下であれば熱伝導率は低下せずにほぼ一定であり、また、図15に示すように、耐火物中の炭素含有量が6質量%以上であれば圧縮強度は確保されることから、炭素含有耐火物中の炭素含有量は6〜12質量%の範囲が好ましいことが確認できた。
【0050】
本発明は、ワーク煉瓦として、特に、Al2O3(アルミナ)、SiC(炭化珪素)、MgO(マグネシア)のうちの1種または2種以上から構成される定型耐火物を使用する場合に、好適に適用することができる。また、これらの化合物に炭素を含有させた場合に、更に好適に適用することができる。炭素を含有する定型耐火物の具体例としては、上記のAl2O3−SiC−C煉瓦、MgO−C煉瓦のほかに、Al2O3−C煉瓦やAl2O3−MgO−C煉瓦などにも適用することができる。炭素含有耐火物の場合には、前述したように、炭素含有量を6〜12質量%とすることが好ましい。
【0051】
尚、本発明の対象設備としては、上記に示した溶銑鍋の他に、転炉、トピードカー、取鍋等々、周期的な熱負荷を受ける製鉄用容器であれば何れにも適用することができる。
【実施例1】
【0052】
図3と同様形状の収納量300トンの溶銑鍋に、炭素含有量、圧縮強度σC及び静的弾性率Eの異なる3種類のAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として施工した(本発明例1、2及び比較例1)。本発明例1では、炭素含有量が7.5質量%、圧縮強度σCが3.85MPa、1500℃における静的弾性率Eが180MPaのAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、本発明例2では、炭素含有量が10.0質量%、圧縮強度σCが18.5MPa、1500℃における静的弾性率Eが800MPaのAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、比較例1では、炭素含有量が15.0質量%、圧縮強度σCが14.1MPa、1500℃における静的弾性率Eが850MPaのAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として使用した。施工した3種類のAl2O3−SiC−C煉瓦は、熱膨張係数α(=7.0×10-6)及びポアソン比ν(=0.3)は同一である。
【0053】
この溶銑鍋は、高炉にて約300トンの溶銑を受け、この溶銑を転炉まで搬送して転炉用装入鍋に払い出し、その後、高炉に戻り、再び溶銑を受銑するというサイクルを繰り返す製鉄用容器である。溶銑鍋においては、溶銑の予備処理(脱燐処理、脱硫処理)は実施せず、このサイクルで溶銑鍋のワーク煉瓦が受ける最大の温度はおよそ1500℃であり、空鍋時の最低温度は550℃であった。
【0054】
これらの条件から、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔTを1500Kとして、それぞれのAl2O3−SiC−C煉瓦の特性に基づいて(2)式によって発生する熱応力σthを求め、求めた熱応力σthと各煉瓦の圧縮強度σCとから、熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCを求めた。比σth/σCは、本発明例1では0.70、本発明例2では0.65、比較例1では0.90であった。本発明例1、2及び比較例1の施工条件を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
本発明例及び比較例ともに、ワーク煉瓦が熱疲労により損耗・脱落するまでの使用回数(チャージ数)を調査するとともに、そのときのワーク煉瓦における亀裂発生状況、そのときまでのワーク煉瓦の1チャージあたりの損耗速度(mm/ch)及びワーク煉瓦の使用後の動的弾性率を調査した。調査結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
発生する熱応力σthと圧縮強度σCとの比σth/σCが0.7以下である本発明例1、2では、比較例1よりもワーク煉瓦が破壊脱落するまでの使用回数(鍋寿命)が飛躍的に向上した。更に、ワーク煉瓦の静的弾性率が200MPa以上である本発明例2では、ワーク煉瓦がぼろぼろにならず、しっかりと残存しており、使用後の耐火物の動的弾性率(動的弾性率が低下するほど耐火物内に亀裂が増加することを意味する)の低下率は低位であった。以上のことから本発明の優位性が確認された。
【実施例2】
【0059】
図16に示すヒートサイズ300トンの取鍋7のスラグライン部(上端から下方に取鍋の全高の1/3程度の範囲)に、ワーク煉瓦として、圧縮強度σC及び静的弾性率Eの異なる3種類のMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として施工した(本発明例3、4及び比較例2)。本発明例3では、炭素含有量が8.0質量%、圧縮強度σCが25.1MPa、1650℃における静的弾性率Eが700MPaのMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、本発明例4では、炭素含有量が11.0質量%、圧縮強度σCが14.5MPa、1650℃における静的弾性率Eが400MPaのMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、比較例2では、炭素含有量が15.0質量%、圧縮強度σCが3.0MPa、1650℃における静的弾性率Eが180MPaのMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として使用した。3種類のMgO−C煉瓦は、熱膨張係数α(=10.0×10-6)及びポアソン比ν(=0.3)は同一である。永久煉瓦としては、本発明例及び比較例ともに、ハイアルミナ煉瓦を施工した。尚、図16は取鍋の概略図であり、図16(A)は側面概略図、図16(B)は図16(A)のA部詳細図である。
【0060】
この取鍋は、転炉から約300トンの溶鋼を受鋼し、二次精錬工程を経て連続鋳造工程で収容していた溶鋼を排出した後、スライディングノズルの取り替えなどの取鍋整備を受け、その後、転炉炉下に戻り、再び溶鋼を受鋼するというサイクルを繰り返す製鉄用容器である。このサイクルで取鍋のワーク煉瓦が受ける最大の温度はおよそ1650℃であり、空鍋時の最低温度は750℃であった。
【0061】
これらの条件から、ワーク煉瓦の使用温度と室温との温度差ΔTを1650Kとして、それぞれのMgO−C煉瓦の特性に基づいて(2)式によって発生する熱応力σthを求め、求めた熱応力σthと各煉瓦の圧縮強度σCとから、熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCを求めた。比σth/σCは、本発明例3では0.65、本発明例4では0.65、比較例2では0.90であった。本発明例3、4及び比較例2の施工条件を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
本発明例及び比較例ともに、ワーク煉瓦が熱疲労により損耗・脱落するまでの使用回数(チャージ数)を調査した。調査結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
発生する熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCが0.7以下である本発明例3、4では、比σth/σCが0.9である比較例2よりも、ワーク煉瓦が破壊脱落するまでの使用回数(鍋寿命)が飛躍的に向上した。このように、MgO−C煉瓦においても本発明の優位性が確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 溶銑鍋
2 台車
3 溶銑
4 鉄皮
5 永久煉瓦層
6 ワーク煉瓦層
6A 溶銑接触部
6B フリーボード部
7 取鍋
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスにおいて、溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスにおいては、一般的に、高炉で溶製されて高炉から出湯される溶銑は、トピードカーや溶銑鍋に代表される容器で受銑され、次工程の製鋼工程へと搬送される。製鋼工程では、転炉或いは電気炉での精錬によって溶銑から溶製された溶鋼は、取鍋などの容器に出湯され、二次精錬工程や連続鋳造工程などの次工程へと搬送される。これらの溶銑または溶鋼を保持する製鉄用容器は、一般的には、稼働面(溶湯との接触面)側から順に、ワーク耐火物層、永久耐火物層、鉄皮の3層から形成されるライニング構造である。
【0003】
ワーク耐火物層及び永久耐火物層は、成形煉瓦(定形耐火物)または不定形耐火物で構成され、成形煉瓦で構成されるときには、それぞれワーク煉瓦層、永久煉瓦層とも呼ばれている。また、ワーク耐火物層を構成する耐火物は、ワーク耐火物またはワーク煉瓦、永久耐火物層を構成する耐火物は、永久耐火物または永久煉瓦と呼ばれている。尚、本発明においては、溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送するまたは精錬する容器を、転炉を含めて、まとめて製鉄用容器と称する。
【0004】
製鉄用容器のうちで、トピードカー及び溶銑鍋は、高炉で溶銑を受銑し、この溶銑を保持・搬送した後、収容した溶銑を装入鍋などに払い出し、その後、再び高炉に戻る工程を繰り返して実施する。また、転炉は、溶銑を装入し、この溶銑に脱炭吹錬を施して溶鋼を溶製し、溶製した溶鋼を取鍋へ出湯するという工程を繰り返して実施する。また、取鍋は、転炉から出湯される溶鋼を受鋼し、必要に応じて二次精錬設備を経由した後、収容する溶鋼を連続鋳造機のタンディッシュに注入し、溶鋼の注入完了後、転炉に戻るという工程を繰り返して実施する。
【0005】
このように、製鉄プロセス、特に製鋼プロセスにおいては、高温の溶銑或いは溶鋼の受け入れと払い出しとを繰り返して実施するので、製鉄用容器に内張りされた耐火物に付与される熱負荷が周期的に変化する。その結果、耐火物には熱応力が発生し、しかも、それが周期的に変動することにより、耐火物に割れや剥離が生じ(これを「熱スポーリング」と称する)、製鉄用容器の耐用回数を低下させる。この問題を解決するために、使用する耐火物の材質やライニング構造を変更するという手段が従来から行われている。
【0006】
例えば特許文献1には、直胴部及び絞り部を有する炉のライニング構造において、絞り部の傾斜に対して逆側の傾きを持った状態でワーク煉瓦を施工する逆傾斜ライニング構造が提案されており、ワーク煉瓦の損傷改善に寄与できるとしている。また、特許文献2には、転炉耐火物の逆傾斜ライニング構造を、直胴部及び下部コーナー部まで拡張させることが提案されており、更なるワーク煉瓦の機械的損傷の低減が達成され、転炉の長寿命化及び安定操業が可能になるとしている。
【0007】
しかしながら、上記の逆傾斜ライニング構造では、応力値の緩和は達成されるものの、逆傾斜部の煉瓦において滑りが発生し、稼動中の煉瓦の脱落を招きかねない。更に、その煉瓦の滑り及び炉の軸方向に発生する応力の作用により、ワーク煉瓦が所謂曲げ変形を起こす可能性も考えられる。これらから、上記の逆傾斜ライニング構造は優れた施工方法であるとは言い難い。
【0008】
一方、耐火物の材質による改善事例としては、例えば特許文献3には、ワーク耐火物の材質を製鉄用容器側壁の上部と下部とで区分し、下部の耐火物に上部の耐火物より残存膨張性の大きい材質の耐火物を配置することが提案されており、ワーク耐火物層における亀裂の発生及び進展を防止することができるとしている。また、特許文献4には、溶銑鍋の耐火物として、Al2O3−SiC−C系材質の煉瓦のAl2O3原料に代えて、シリマナイト(Al2O3・SiO2)を使用する技術が提案されており、ワーク煉瓦における目地開き、剥離損耗、セリ割れが防止されるとしている。更に、特許文献5には、転炉の溶鋼接触部と非接触部とで、ワーク煉瓦として炭素含有量の異なるMgO−C煉瓦を張り分けた施工方法が提案されており、転炉の長寿命化に寄与するとしている。
【0009】
しかしながら、特許文献3、5の技術では、各種材質の熱膨張及び弾性率に起因した発生熱応力の値が異なり、しかも製鋼プロセスの各工程における熱サイクルが或る周期で変動することから、異種材質の境界部近傍で発生する熱応力の差が大きくなり、その結果、亀裂が発生し、耐火物の損傷が大きくなるという問題点を有している。また、特許文献4では、Al2O3の代替としてAl2O3よりも高温での耐火性に劣るシリマナイトを使用しており、長期間の耐用性は期待できない。
【0010】
ところで、炭素の特性に由来して、高温における強度が高いこと及び耐熱スポーリング姓に優れることから、従来、製鉄用定形耐火物は、MgO−C煉瓦、Al2O3−C煉瓦などの炭素を含有する材質が多い。しかし、炭素は、それ自体の熱伝導率が高いので、炭素含有煉瓦の熱伝導率も高くなり、耐火物を通じた放熱ロスが多くなることが課題である。但し、耐火物を通じた放熱ロスを少なくしようとして炭素含有量を低下させると、耐熱スポーリング姓が悪化する。
【0011】
このような特性を有する炭素含有耐火物の耐用性を更に高めることを目的とする技術が提案されている。例えば、特許文献6には、溶融金属にガスを吹込むためのガス導入用金属管を炭素含有耐火物で外囲して形成されるガス吹込みノズルにおいて、ガス導入用金属管の外表面にアルミニウムを含有する合金層を設けることを提案しており、特許文献7には、ガラス繊維やセラミックス繊維を、MgO−C煉瓦、Al2O3−C煉瓦、Al2O3−SiC−C煉瓦などの耐火物表面に接着または巻きつけて、耐火物の耐用性を向上させる技術が提案されており、また、特許文献8には、高耐用のMgO−C煉瓦の製造方法として、マグネシア質原料と鱗状黒鉛とからなる耐火原料配合物に、有機バインダーを加えて混練し、当該混練物を冷却し、−73℃〜−173℃の温度範囲内で成型し、成型後に室温まで昇温した後、熱処理してMgO−C煉瓦を製造する方法が提案されている。
【0012】
しかし、特許文献6〜8に開示される技術は、外的に金属や繊維などの物質を併用するまたは低温状態を保持する必要があり、製造コストが増大し、耐火物価格が増加する可能性がある。更に、これらの技術では煉瓦の成分までは規定しておらず、本来、成分配合の検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−200824号公報
【特許文献2】特開2009−108363号公報
【特許文献3】特開平5−329620号公報
【特許文献4】特開平5−139822号公報
【特許文献5】特開2005−214548号公報
【特許文献6】特開2011−26643号公報
【特許文献7】特開2010−236734号公報
【特許文献8】特開2010−132516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、従来、転炉、トピードカー、溶銑鍋などの製鉄用容器において、そのワーク耐火物層の耐用回数向上のための手段が多数提案されているが、未だ十分な耐用回数の向上は得られておらず、製造コストの上昇を余儀なくされている。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、熱応力による製鉄用容器のワーク耐火物層の損傷を軽減し、ワーク耐火物層の耐用回数を格段に向上させることのできる、製鉄用容器の耐火物ライニング構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、研究・検討を行った。その結果、転炉、トピードカー、溶銑鍋などの大型の製鉄用容器のワーク耐火物層の熱応力による損傷を軽減するためには、ワーク耐火物層として施工される耐火物自体の強度特性と、使用状況下において周期的に発生する熱応力とを考慮し、負荷される熱応力の最大値に対して十分な強度を有する耐火物を選定することが有効であるとの知見を得た。
【0017】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、前記ワーク耐火物層は、耐火物の圧縮強度σC(MPa)、熱膨張係数α(1/K)、静的弾性率E(MPa)及びポアソン比ν(−)と、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)とが、下記の(1)式の関係を満足する材質の耐火物からなることを特徴とする、製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【0018】
【数1】
【0019】
(2)前記ワーク耐火物層は、Al2O3、SiC、MgOのうちの1種または2種以上と、6〜12質量%の含有量の炭素と、を含有する成形煉瓦によって構成されることを特徴とする、上記(1)に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
(3)前記製鉄用容器が溶銑鍋であり、且つ、前記静的弾性率Eを200MPa以上とすることを特徴とする、上記(1)または上記(2)に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐火物が施工される様々な製鉄用容器において、負荷される熱応力に対して十分な圧縮強度を有する耐火物をワーク耐火物として使用するので、ワーク耐火物層の熱応力による機械的な損傷(亀裂発生による損傷)が低減され、製鉄用容器の長寿命化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】MgO−C煉瓦において、応力が一定の圧縮応力を繰り返し負荷させたときのMgO−C煉瓦の破壊までの載荷回数の調査結果を示す図である。
【図2】MgO−C煉瓦において、変位量を一定として繰り返し圧縮荷重を負荷させたときのMgO−C煉瓦の破壊までの載荷回数の調査結果を示す図である。
【図3】熱応力計算の対象とした溶銑鍋の概略図である。
【図4】図3に示す溶銑鍋の耐火物ライニング構造の概略図である。
【図5】ワーク煉瓦層に発生する熱応力を算出する際の溶銑鍋の熱サイクルを示す図である。
【図6】計算により求めた、溶銑保持時におけるワーク煉瓦層の熱応力の分布を示す図である。
【図7】計算により求めた、空鍋時におけるワーク煉瓦層の熱応力の分布を示す図である。
【図8】計算により求めた熱応力の最大値とワーク煉瓦の圧縮強度σCとの比較を、耐火物A及び耐火物Bで対比して示す図である。
【図9】耐火物A及び耐火物Bのそれぞれにおいて、圧縮強度σCに対する負荷応力の割合と破壊までの載荷回数との関係の調査結果を示す図である。
【図10】熱応力σthと圧縮強度σCとの比σth/σCと、繰り返し熱応力負荷時の破壊回数との関係の調査結果を示す図であるた。
【図11】Al2O3−SiC−C煉瓦における静的弾性率と温度との関係を示す図である。
【図12】スポーリング指数と静的弾性率との関係を示す図である。
【図13】種々のMgO−C煉瓦及びAl2O3−SiC−C煉瓦において静的弾性率と圧縮強度σCとの関係の調査結果を示す図である。
【図14】耐火物中の炭素含有量と耐火物の熱伝導率との関係を示す図である。
【図15】耐火物中の炭素含有量と耐火物の圧縮強度との関係を示す図である。
【図16】本発明を適用した取鍋の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。前述したように、転炉、トピードカー、溶銑鍋などの大型の製鉄用容器の耐火物ライニング構造は、その耐用回数を向上させるには、耐火物の強度特性、並びに、使用状況下において耐火物に周期的に発生する熱応力の分布及び大きさを考慮し、熱応力の分布及び大きさに応じて、的確な材質の耐火物を選定することが必要である。
【0023】
ここで、製鉄プロセスにおける操業サイクルを挙げると、例えば、転炉では、先ず鉄スクラップを装入し、次いで溶銑を装入し、その後、炉体を直立させ、この状態で、上吹きランスまたは底吹き羽口から酸素ガスを溶銑に供給して溶銑を酸化精錬し、精錬後、溶製した溶湯を取鍋(溶鋼鍋ともいう)に出湯し、出湯排滓後、次回の精錬まで待機し、再度、鉄スクラップを装入して次回の精錬を実施するという工程を繰り返して実施する。このときの炉内温度の変化を概説すると、溶銑の装入後から精錬中にかけて炉内温度は上昇し、出湯後から鉄スクラップ装入時にかけて炉内温度は低下する。
【0024】
転炉に限らず、トピードカー、溶銑鍋、取鍋も同様なサイクルで熱負荷を受ける。このような繰り返しの熱負荷を受け続けると、施工された耐火物(特にワーク耐火物)に発生する熱応力も、それに応じて変動する。この熱応力によって耐火物内に亀裂が発生し、ワーク耐火物の溶損助長や疲労破壊が発生する。尚、製鉄用容器に施工された煉瓦は、通常、圧縮応力によって破壊する。仮に、引張り応力がはたらくような条件になっても煉瓦間には目地が存在するので、個々の煉瓦には破壊に至るような引張り応力は負荷されない。
【0025】
そこで本発明者らは、製鉄用容器に施工される耐火物に長期間に渡って周期的な力を負荷させ、そのときの耐火物の破壊について調査を行った。図1に、転炉で一般的に使用されているMgO−C煉瓦(C:20質量%)において、応力が一定の圧縮応力を繰り返して負荷させたときのMgO−C煉瓦の破壊までの載荷回数を示す。図1の縦軸は、MgO−C煉瓦の圧縮強度σCに対する、試験で繰り返し負荷した圧縮応力値の割合(百分率(%))である。図1に示すように、負荷した圧縮応力値が小さくなるほど、MgO−C煉瓦が破壊するまでの載荷回数は増大することが分った。負荷する圧縮応力値がMgO−C煉瓦の圧縮強度σCと同じ場合には、1回の負荷でMgO−C煉瓦は破壊される。尚、本発明においては、耐火物の圧縮強度をσC(単位:MPa)で表示する。
【0026】
また、実際の製鉄用容器における耐火物は、熱吸収や熱放出によって弾性率や膨張量が変化する。特に、耐火物の熱膨張挙動は、高温域と低温域とで大きく変化する。従って、耐火物築炉後には整合性を有して配列されたワーク煉瓦も熱の授受によって、膨張・収縮を繰り返し、耐火物間に隙間が生じてくる。そこで、初期歪み量(熱の授受の初期に耐火物が膨張することによる熱歪み量)を模擬した変位量で繰り返し圧縮荷重を負荷し、そのときの煉瓦の挙動を調査した。
【0027】
具体的には、変位量を一定としてMgO−C煉瓦(C:20質量%)に繰り返して圧縮荷重を負荷し、そのときのMgO−C煉瓦が破壊するまでの載荷回数を調査した。その結果を図2に示す。ここで、図2の縦軸は、破壊時の変位量(圧縮歪みから算出)を基準とし、破壊時の変位量に対する、試験で負荷した繰り返し圧縮荷重の変位量の割合(百分率(%))である。図2に示すように、図1と同様に、負荷変位量が低下すると破壊までの載荷回数が増大することが分った。破壊時の変位量と同一の変位量を負荷すれば1回の負荷でMgO−C煉瓦は破壊される。
【0028】
このように、脆性材料である耐火物においても、図1及び図2のような疲労特性が確認された。また、図1及び図2からも明らかなように、機械的に付与される繰り返し応力に対して耐火物の破壊までの載荷回数を向上させるためには、耐火物材料の圧縮強度σCに対して負荷応力の割合を低下すること、及び/または、耐火物破壊時の変位量に対して負荷変位量を低下させることが有効であることが確認された。
【0029】
実際の製鉄用容器の耐火物では、前述の熱サイクルに起因して耐火物内部に熱応力が発生し、それが周期的に変動する。ここで、製鉄用容器に施工された耐火物内に発生する熱応力は、耐火物の熱膨張率と静的弾性率との積として、下記の(2)式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
但し、(2)式において、σthは、耐火物内に発生する熱応力(MPa)、αは、耐火物の熱膨張係数(1/K)、Eは、耐火物の静的弾性率(MPa)、νは、耐火物のポアソン比、ΔTは、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)である。
【0032】
本発明者らは、この(2)式を用いて、製鉄用容器に施工された耐火物に負荷される熱応力σthの計算を行った。熱応力計算の対象として、図3に示す溶銑鍋を選定した。この溶銑鍋1は、台車2に積載され、高炉から出銑する溶銑3を受銑し、受銑した溶銑を製鋼工程へと搬送するための製鉄用容器である。この溶銑鍋1の耐火物ライニング構造を図4に示す。図4は、片側半分のみの断面を示している。
【0033】
溶銑鍋1は、その外側から、鉄皮4、永久煉瓦層5、ワーク煉瓦層6を、この順に有しており、ワーク煉瓦層6は、溶銑3と直接接触する部位6A(「溶銑接触部6A」という)と溶銑3と直接接触しない部位6B(「フリーボード部6B」という)とで煉瓦材質を変更している。この構成の溶銑鍋1において、図5に示す熱サイクルを付与したときのワーク煉瓦層6に発生する熱応力を算出した。尚、図5において、実線は、ワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の稼働面(溶銑との接触面)の温度、破線はワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の背面(永久煉瓦層5との接触面)の温度、一点鎖線は永久煉瓦層5の中央部の温度、二点鎖線は鉄皮4の外表面の温度である。
【0034】
計算に用いた煉瓦及び鉄皮の物性値を表1に示す。計算は、溶銑接触部6Aに施工するワーク煉瓦として、圧縮強度σCの異なる2種類のAl2O3−SiC−C煉瓦(「耐火物A」及び「耐火物B」と記す)を配置した場合について行った。耐火物Aの圧縮強度σCは15MPa、耐火物Bの圧縮強度σCは22MPaである。
【0035】
【表1】
【0036】
熱応力の計算結果として、応力が最も大きくなる溶銑保持時(充鍋時)におけるワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の熱応力の分布を図6に示し、また、応力が最も小さくなる空鍋時におけるワーク煉瓦層6(=溶銑接触部6A)の熱応力の分布を図7に示す。図6及び図7に示すように、耐火物Bに比較して耐火物Aの方がやや熱応力が小さいが、最大の応力は耐火物Aと耐火物Bとで差が無いことが確認された。
【0037】
図6に示す熱応力の最大値とワーク煉瓦の圧縮強度σCとの比較を、耐火物A及び耐火物Bで対比して図8に示す。ワーク煉瓦に発生する熱応力の最大値は、耐火物Aと耐火物Bとで同等であったが、最大応力の圧縮強度σCに対する比は耐火物Bの方が低位であることが分る。
【0038】
ここで、耐火物A及び耐火物Bのそれぞれにおいて、圧縮強度σCに対する負荷応力の割合と破壊までの載荷回数との関係を調査した。調査結果を図9に示す。図9に示すように、耐火物Aは、耐火物Bに比較して「圧縮強度σCに対する負荷応力の割合が高くても、破壊までの載荷回数が長くなる」という優れた特性(図9の傾斜が小さいという特性)を有しているが、耐火物Aを溶銑鍋のワーク煉瓦として用いた場合には、発生熱応力が耐火物Aの圧縮強度σCに対して90%と高位であることから、耐火物Aは熱応力によって早期に破壊する可能性が高い。これに対して、耐火物Bを溶銑鍋のワーク煉瓦として用いた場合には、発生熱応力が耐火物Bの圧縮強度σCに対して70%と低位であることから、耐火物Bは熱応力では破壊されにくく、溶銑鍋の長寿命化が期待できる。
【0039】
更に、本発明者らは、溶銑鍋以外の他の製鉄用容器についても包括的に検討を重ね、(2)式で示される熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCと、繰り返し熱応力破壊の回数との関係を調査し、図10に示す結果を得た。ここで、本発明においては、発生する熱応力σthを算出するにあたり、温度差ΔTとして、耐火物が受ける最高温度(溶銑、溶鋼の温度)と室温との差を用いている。溶銑や溶鋼が非充填時においても耐火物は溶銑や溶鋼の充填時に受けた顕熱が蓄熱されるため、実際には、耐火物内の温度は室温よりも高位となる。しかし、溶銑や溶鋼が非充填時における耐火物の温度は設備の稼働状況や、溶銑または溶鋼の条件によって随時変化することから正確な温度を把握することは難しい。そこで、本発明では、最も熱応力σthが高くなる条件としたときに圧縮強度σCとの比較をするべく、温度差ΔTとして室温との差を適用した。
【0040】
図10に示すように、繰り返しの熱応力による破壊を改善するには、耐火物に発生する熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCを0.7以下にすることが必要であることが分った。これは、繰り返しの熱応力σthの圧縮強度σCに対する割合が70%の付近に、耐火物の疲労限界が存在し、この値以下の応力値では繰り返す熱負荷による破壊は殆ど起きないことを示唆している。従って、ワーク耐火物層6を施工するにあたり、下記の(1)式を満足する材質の耐火物を選定することが、極めて効果的であることが分った。
【0041】
【数3】
【0042】
即ち、本発明は、製鉄容器に施工されるワーク耐火物に発生する熱応力σthを求め、耐火物の圧縮強度σCが求めた熱応力σthの10/7倍(≒1.43倍)以上となる材質の耐火物をワーク煉瓦として選定し施工することを必須とする。
【0043】
更に、本発明者らは、Al2O3−SiC−C煉瓦における静的弾性率の温度依存性について調査した。その結果を図11に示す。温度の上昇に伴って静的弾性率は低下した。ここで、高温での静的弾性率が小さい耐火物では発生熱応力値も低位となるため、一見熱応力破壊に対しては有利に見える。しかしながら、通常、耐火物では高温での歪み量が大きく増加するわけではなく、しかも高温では圧縮強度σCも低下するため、発生する熱応力σthと圧縮強度σCとの比σth/σCは低位にはならない。
【0044】
その閾値に関する検討結果として、図12に示すようなスポーリング指数と静的弾性率との関係を得た。ここで、スポーリング指数とは、前述の耐火物Aを用いた10回の熱サイクル付与試験前後における動的弾性率の変化割合を1として、各種耐火物での10回の熱サイクル付与試験前後における動的弾性率の変化割合を指数化した値である。スポーリング指数は静的弾性率が200MPa以下の耐火物では急激に減少し、材料強度が低下することが分った。また、耐火物設備において熱サイクルを付与したときのスポーリングが与える損傷への影響も大きいことから、溶銑鍋のワーク耐火物層として施工する耐火物における静的弾性率は少なくとも200MPa以上有することが好ましい。
【0045】
更に、溶銑鍋に発生する熱応力σthの最大値(=15MPa)に対して、常に(1)式の関係を満足するためには、ワーク耐火物層として施工される耐火物は、21.5MPa以上の圧縮強度σCを有することが好ましい。この観点から、原料配合及び製造方法を種々に変更したMgO−C煉瓦及びAl2O3−SiC−C煉瓦において静的弾性率と圧縮強度σCとの関係を調査した。調査結果を図13に示すように、静的弾性率が350MPa以上、望ましくは500MPa以上であるMgO−C煉瓦またはAl2O3−SiC−C煉瓦を溶銑鍋のワーク煉瓦として用いることが、溶銑鍋の耐用性の向上により一層寄与することが分った。静的弾性率の上限については特に規定する必要はないが、耐火物の静的弾性率は温度に対して減衰曲線状に低下するため、常温における耐火物の静的弾性率が上限に相当する。
【0046】
このように、本発明によれば、耐火物が施工される様々な製鉄用容器において、負荷される熱応力に対して十分な圧縮強度を有する耐火物をワーク耐火物として使用するので、ワーク耐火物層の熱応力による機械的な損傷が低減され、製鉄用容器の長寿命化が実現される。
【0047】
更に、本発明者らは、耐火物中の炭素含有量が耐火物特性に及ぼす影響について調査した。図14に、Al2O3を主成分とする耐火物中の炭素含有量と耐火物の熱伝導率との関係を示す。図14に示すように、耐火物中の炭素含有量が12質量%を超えると熱伝導率が大きく上昇する。熱伝導率の上昇は、溶銑や溶鋼を製鉄用容器に収容したときに耐火物を通じて外部へ放出する熱量が増大することから、適切とはいえない。従って、放出熱量低減の観点から、耐火物中の炭素含有量は12質量%以下とすることが好ましい。
【0048】
また、図15に、Al2O3を60〜75質量%含有する耐火物中の炭素含有量と耐火物の圧縮強度との関係を示す。耐火物の圧縮強度は、耐火物中の炭素含有量が6質量%よりも少なくなると低下することが分った。これは、炭素含有量が6質量%未満では炭素を含有することによる靱性向上の効果が薄れることによると推定される。
【0049】
図14に示すように、耐火物中の炭素含有量が12質量%以下であれば熱伝導率は低下せずにほぼ一定であり、また、図15に示すように、耐火物中の炭素含有量が6質量%以上であれば圧縮強度は確保されることから、炭素含有耐火物中の炭素含有量は6〜12質量%の範囲が好ましいことが確認できた。
【0050】
本発明は、ワーク煉瓦として、特に、Al2O3(アルミナ)、SiC(炭化珪素)、MgO(マグネシア)のうちの1種または2種以上から構成される定型耐火物を使用する場合に、好適に適用することができる。また、これらの化合物に炭素を含有させた場合に、更に好適に適用することができる。炭素を含有する定型耐火物の具体例としては、上記のAl2O3−SiC−C煉瓦、MgO−C煉瓦のほかに、Al2O3−C煉瓦やAl2O3−MgO−C煉瓦などにも適用することができる。炭素含有耐火物の場合には、前述したように、炭素含有量を6〜12質量%とすることが好ましい。
【0051】
尚、本発明の対象設備としては、上記に示した溶銑鍋の他に、転炉、トピードカー、取鍋等々、周期的な熱負荷を受ける製鉄用容器であれば何れにも適用することができる。
【実施例1】
【0052】
図3と同様形状の収納量300トンの溶銑鍋に、炭素含有量、圧縮強度σC及び静的弾性率Eの異なる3種類のAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として施工した(本発明例1、2及び比較例1)。本発明例1では、炭素含有量が7.5質量%、圧縮強度σCが3.85MPa、1500℃における静的弾性率Eが180MPaのAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、本発明例2では、炭素含有量が10.0質量%、圧縮強度σCが18.5MPa、1500℃における静的弾性率Eが800MPaのAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、比較例1では、炭素含有量が15.0質量%、圧縮強度σCが14.1MPa、1500℃における静的弾性率Eが850MPaのAl2O3−SiC−C煉瓦をワーク煉瓦として使用した。施工した3種類のAl2O3−SiC−C煉瓦は、熱膨張係数α(=7.0×10-6)及びポアソン比ν(=0.3)は同一である。
【0053】
この溶銑鍋は、高炉にて約300トンの溶銑を受け、この溶銑を転炉まで搬送して転炉用装入鍋に払い出し、その後、高炉に戻り、再び溶銑を受銑するというサイクルを繰り返す製鉄用容器である。溶銑鍋においては、溶銑の予備処理(脱燐処理、脱硫処理)は実施せず、このサイクルで溶銑鍋のワーク煉瓦が受ける最大の温度はおよそ1500℃であり、空鍋時の最低温度は550℃であった。
【0054】
これらの条件から、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔTを1500Kとして、それぞれのAl2O3−SiC−C煉瓦の特性に基づいて(2)式によって発生する熱応力σthを求め、求めた熱応力σthと各煉瓦の圧縮強度σCとから、熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCを求めた。比σth/σCは、本発明例1では0.70、本発明例2では0.65、比較例1では0.90であった。本発明例1、2及び比較例1の施工条件を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
本発明例及び比較例ともに、ワーク煉瓦が熱疲労により損耗・脱落するまでの使用回数(チャージ数)を調査するとともに、そのときのワーク煉瓦における亀裂発生状況、そのときまでのワーク煉瓦の1チャージあたりの損耗速度(mm/ch)及びワーク煉瓦の使用後の動的弾性率を調査した。調査結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
発生する熱応力σthと圧縮強度σCとの比σth/σCが0.7以下である本発明例1、2では、比較例1よりもワーク煉瓦が破壊脱落するまでの使用回数(鍋寿命)が飛躍的に向上した。更に、ワーク煉瓦の静的弾性率が200MPa以上である本発明例2では、ワーク煉瓦がぼろぼろにならず、しっかりと残存しており、使用後の耐火物の動的弾性率(動的弾性率が低下するほど耐火物内に亀裂が増加することを意味する)の低下率は低位であった。以上のことから本発明の優位性が確認された。
【実施例2】
【0059】
図16に示すヒートサイズ300トンの取鍋7のスラグライン部(上端から下方に取鍋の全高の1/3程度の範囲)に、ワーク煉瓦として、圧縮強度σC及び静的弾性率Eの異なる3種類のMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として施工した(本発明例3、4及び比較例2)。本発明例3では、炭素含有量が8.0質量%、圧縮強度σCが25.1MPa、1650℃における静的弾性率Eが700MPaのMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、本発明例4では、炭素含有量が11.0質量%、圧縮強度σCが14.5MPa、1650℃における静的弾性率Eが400MPaのMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として使用し、比較例2では、炭素含有量が15.0質量%、圧縮強度σCが3.0MPa、1650℃における静的弾性率Eが180MPaのMgO−C煉瓦をワーク煉瓦として使用した。3種類のMgO−C煉瓦は、熱膨張係数α(=10.0×10-6)及びポアソン比ν(=0.3)は同一である。永久煉瓦としては、本発明例及び比較例ともに、ハイアルミナ煉瓦を施工した。尚、図16は取鍋の概略図であり、図16(A)は側面概略図、図16(B)は図16(A)のA部詳細図である。
【0060】
この取鍋は、転炉から約300トンの溶鋼を受鋼し、二次精錬工程を経て連続鋳造工程で収容していた溶鋼を排出した後、スライディングノズルの取り替えなどの取鍋整備を受け、その後、転炉炉下に戻り、再び溶鋼を受鋼するというサイクルを繰り返す製鉄用容器である。このサイクルで取鍋のワーク煉瓦が受ける最大の温度はおよそ1650℃であり、空鍋時の最低温度は750℃であった。
【0061】
これらの条件から、ワーク煉瓦の使用温度と室温との温度差ΔTを1650Kとして、それぞれのMgO−C煉瓦の特性に基づいて(2)式によって発生する熱応力σthを求め、求めた熱応力σthと各煉瓦の圧縮強度σCとから、熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCを求めた。比σth/σCは、本発明例3では0.65、本発明例4では0.65、比較例2では0.90であった。本発明例3、4及び比較例2の施工条件を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
本発明例及び比較例ともに、ワーク煉瓦が熱疲労により損耗・脱落するまでの使用回数(チャージ数)を調査した。調査結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
発生する熱応力σthと耐火物の圧縮強度σCとの比σth/σCが0.7以下である本発明例3、4では、比σth/σCが0.9である比較例2よりも、ワーク煉瓦が破壊脱落するまでの使用回数(鍋寿命)が飛躍的に向上した。このように、MgO−C煉瓦においても本発明の優位性が確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 溶銑鍋
2 台車
3 溶銑
4 鉄皮
5 永久煉瓦層
6 ワーク煉瓦層
6A 溶銑接触部
6B フリーボード部
7 取鍋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、前記ワーク耐火物層は、耐火物の圧縮強度σC(MPa)、熱膨張係数α(1/K)、静的弾性率E(MPa)及びポアソン比ν(−)と、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)とが、下記の(1)式の関係を満足する材質の耐火物からなることを特徴とする、製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【数1】
【請求項2】
前記ワーク耐火物層は、Al2O3、SiC、MgOのうちの1種または2種以上と、6〜12質量%の含有量の炭素と、を含有する成形煉瓦によって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項3】
前記製鉄用容器が溶銑鍋であり、且つ、前記静的弾性率Eを200MPa以上とすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項1】
溶銑または溶鋼を保持し、保持した溶銑または溶鋼を搬送する或いは保持した溶銑または溶鋼に精錬処理を実施するための製鉄用容器の耐火物ライニング構造であって、製鉄用容器の外側から、鉄皮、永久耐火物層、ワーク耐火物層をこの順に有し、前記ワーク耐火物層は、耐火物の圧縮強度σC(MPa)、熱膨張係数α(1/K)、静的弾性率E(MPa)及びポアソン比ν(−)と、ワーク耐火物層の使用温度と室温との温度差ΔT(K)とが、下記の(1)式の関係を満足する材質の耐火物からなることを特徴とする、製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【数1】
【請求項2】
前記ワーク耐火物層は、Al2O3、SiC、MgOのうちの1種または2種以上と、6〜12質量%の含有量の炭素と、を含有する成形煉瓦によって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【請求項3】
前記製鉄用容器が溶銑鍋であり、且つ、前記静的弾性率Eを200MPa以上とすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の製鉄用容器の耐火物ライニング構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−122131(P2012−122131A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205409(P2011−205409)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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