説明

複列玉軸受およびピニオン軸支持装置

【課題】 複列玉軸受を取り外しやすくするための引っ掛かり部を設けた上でのピッチ円径の最適設計を可能とした複列玉軸受およびピニオン軸支持装置を提供する。
【解決手段】 外輪12の小径側端部に、小径側玉14に接触しないように、小径側軌道面12aの軸方向外側端よりも径方向内方に突出した内方突出部21が形成されている。これにより、小径側のピッチ円径を規定する小径側軌道面12aの軸方向外側端の径と外輪12を取り外す際の引っ掛かり部となる内方突出部21の径とについて、それぞれ別個に設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複列玉軸受およびピニオン軸支持装置に関し、さらに詳しくは、自動車のディファレンシャルギヤ装置などにおいて、ピニオン軸を支持するのに好適なタンデム型と称されている複列玉軸受およびこのような複列玉軸受を使用したピニオン軸支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のピニオン軸支持装置として、タンデム型の複列玉軸受を使用し、複列玉軸受の外輪がハウジングに嵌め合わせられて、外輪の小径側端面がハウジングに設けられた外輪受け部で受け止められるとともに、複列玉軸受の内輪がピニオン軸に嵌め合わせられて、内輪の大径側端面がピニオン軸に設けられた内輪受け部で受け止められて、ピニオン軸を支持するものが知られている(特許文献1)。
【0003】
このようなピニオン軸支持装置用の複列玉軸受では、外輪をハウジングから取り外しやすくするための引っ掛かり部および内輪をピニオン軸から取り外しやすくするための引っ掛かり部が必要とされることがある。引っ掛かり部を溝とした場合には、溝に異物が入りやすくなるため、軸受が損傷しやすくなるという問題が生じる。そこで、従来、外輪については、小径側のピッチ円径を小さくすることで、外輪の小径側肩部の内径をハウジングの外輪受け部の内径よりも小さくして、この小径側肩部の内径部を引っ掛かり部とし、また、内輪については、大径側のピッチ円を大きくすることで、内輪の大径側肩部の外径をピニオン軸の内輪受け部の外径よりも大きくして、この大径側肩部の外径部を引っ掛かり部としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−183745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のピニオン軸支持装置用の複列玉軸受では、ピッチ円径(PCD)については、限られた配置スペースにおいて、各列に最大のサイズの玉を配置できるように、小径側で大きく、大径側で小さくすることが好ましい。これに対し、従来のものは、小径側のピッチ円径を小さくして外輪の小径側肩部の内径を小さくするか、または、大径側のピッチ円径を大きくして内輪の大径側肩部の外径を大きくすることで、引っ掛かり部を得る構成とされており、そのため、複列玉軸受の設計に制約を受けて、最適設計ができないという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、複列玉軸受を取り外しやすくするための引っ掛かり部を設けた上でのピッチ円径の最適設計を可能とした複列玉軸受およびピニオン軸支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、互いに径が相違する複列の軌道面を有する外輪と、前記外輪の前記複列の軌道面と対応する複列の軌道面を有する内輪と、前記外輪および前記内輪の前記複列の軌道面間に異なるピッチ円径をもって配置される複数の小径側玉および複数の大径側玉とを備えている複列玉軸受において、前記外輪の小径側端部に、前記小径側玉に接触しないように、前記複列の軌道面の小径側軌道面の軸方向外側端よりも径方向内方に突出した内方突出部が形成されていることを特徴とする複列玉軸受である。
【0008】
通常、外輪は、ハウジングに圧入で固定され、内輪は、回転軸(例えばピニオン軸)に圧入で固定される。したがって、外輪を取り外しやすくするためには、外輪に引っ掛かり部が必要であり、外輪の小径側端部に設けられた内方突出部は、ハウジングから外輪を取り外す際の引っ掛かり部とされる。
【0009】
請求項1に係る発明の複列玉軸受によると、内方突出部と小径側玉とが接触しないようになっていることで、小径側のピッチ円径を規定する小径側軌道面の軸方向外側端の径と外輪を取り外す際の引っ掛かり部となる内方突出部の径とについて、それぞれ別個に設定することができる。したがって、引っ掛かり部を設けるために、小径側のピッチ円径を小さくする必要がなく、引っ掛かり部を設けた上での小径側のピッチ円径の最適設計が可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記外輪の小径側端面が研削面とされ、前記内方突出部の軸方向外側の面は、前記外輪の前記小径側端面よりも軸方向内方にあって旋削面とされていることを特徴とする請求項1の複列玉軸受である。
【0011】
外輪の小径側端面は、ハウジングの外輪受け部で受けられる面であるので、研削面とされることが好ましい。内方突出部の軸方向外側の面を外輪の小径側端面と面一にして研削面としてもよいが、この場合には、研削が行われる面積が増加することで製作時間が増加することになる。請求項2に係る発明によると、内方突出部の軸方向外側の面が旋削面(研削・研磨仕上げを行わない面)とされることで、製作時間の増加が抑えられる。
【0012】
請求項3に係る発明は、複列玉軸受の外輪がハウジングに嵌め合わせられて、前記外輪の小径側端面がハウジングに設けられた外輪受け部で受け止められるとともに、前記複列玉軸受の内輪がピニオン軸に嵌め合わせられて、前記内輪の大径側端面が前記ピニオン軸に設けられた内輪受け部で受け止められているピニオン軸支持装置において、前記複列玉軸受が請求項1または2の複列玉軸受とされ、前記内方突出部が前記ハウジングの前記外輪受け部の内径よりも径方向内方に突出させられて、前記ハウジングから前記外輪を取り外す際の引っ掛かり部とされていることを特徴とするピニオン軸支持装置である。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記内輪の大径側端部に、前記複列の軌道面の大径側軌道面の軸方向外側端よりも径方向外方に突出した外方突出部が形成されており、該外方突出部は、前記大径側玉に接触しないように、前記内輪受け部の外径よりも径方向外方に突出させられて、前記ピニオン軸から前記内輪を取り外す際の引っ掛かり部とされていることを特徴とする請求項3のピニオン軸支持装置である。
【0014】
請求項4に係る発明のピニオン軸支持装置によると、外方突出部と大径側玉とが接触しないようになっていることで、大径側のピッチ円径を規定する大径側軌道面の軸方向外側端の径と内輪を取り外す際の引っ掛かり部となる外方突出部の径とについて、それぞれ別個に設定することができる。したがって、引っ掛かり部を設けるために、大径側のピッチ円径を大きくする必要がなく、引っ掛かり部を設けた上での大径側のピッチ円径の最適設計が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の複列玉軸受装置によると、外輪の小径側端部に、小径側玉に接触しないように、小径側軌道面の軸方向外側端よりも径方向内方に突出した内方突出部が形成されているので、小径側のピッチ円径を規定する小径側軌道面の軸方向外側端の径と外輪を取り外す際の引っ掛かり部となる内方突出部の径とについて、それぞれ別個に設定することができ、引っ掛かり部を設けた上での小径側のピッチ円径の最適設計が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明による複列玉軸受およびピニオン軸支持装置の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の要部の拡大断面図である。
【図3】図3は、この発明による複列玉軸受およびピニオン軸支持装置の第2実施形態の要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1および図2は、この発明による複列玉軸受およびこれを備えたピニオン軸支持装置の第1実施形態を示している。
【0019】
複列玉軸受(11)は、タンデム型と称されているもので、互いに径が相違する複列の軌道面(12a)(12b)を有する外輪(12)と、外輪(12)の各軌道面(12a)(12b)と対応する複列の軌道面(13a)(13b)を有する内輪(13)と、両輪(12)(13)の各列の軌道面(12a)(13a)(12b)(13b)間に異なるピッチ円径をもって配置される複数の小径側玉(14)および複数の大径側玉(15)と、複数の小径側玉(14)を保持する小径側保持器(16)および複数の大径側玉(15)を保持する大径側保持器(17)とを備えている。
【0020】
外輪(12)の左側の軌道面(12a)の内径は、外輪(12)の右側の軌道面(12b)の内径よりも小さくなっており、外輪(12)の右端部側がカウンタボアとされ、外輪(12)の左端部(小径側端部)には、小径側玉(14)を受ける小径側肩部(18)が設けられている。
【0021】
内輪(13)の左側の軌道面(13a)の外径は、内輪(13)の右側の軌道面(13b)の外径よりも小さくなっており、内輪(13)の左端部側がカウンタボアとされ、内輪(13)の右端部(大径側端部)には、大径側玉(15)を受ける大径側肩部(19)が設けられている。
【0022】
外輪(12)の小径側肩部(18)は、小径側軌道面(12a)の軸方向外側端に連なり小径側軌道面(12a)の軸方向外側端の径に等しい内径を有する第1内径部(18a)と、第1内径部(18a)の軸方向外側にあって第1内径部(18a)の内径よりも小さい内径を有する第2内径部(18b)とを有している。
【0023】
小径側玉(14)のピッチ円径は、大径側玉(15)のピッチ円径よりも小さく、小径側玉(14)および大径側玉(15)の接触角は、同じ向き(同じ角度に限定されるものではない)とされている。また、各保持器(16)(17)は、全体として左方から右方に行くにしたがって径が大きくなるテーパ状に形成されている。
【0024】
外輪(12)は、その左端部側(小径側端部)からハウジング(2)に圧入されて固定されており、内輪(13)は、その右端部側(大径側端部)からピニオン軸(3)に圧入されて固定されている。外輪(12)の小径側端面(12c)は、ハウジング(2)に設けられた外輪受け部(2a)で受け止められており、内輪(13)の大径側端面(13c)は、ピニオン軸(3)に設けられた内輪受け部(3a)で受け止められている。これにより、複列玉軸受(11)を使用してピニオン軸(3)を支持するピニオン軸支持装置(1)が構成されている。
【0025】
このピニオン軸支持装置(1)は、デファレンシャルギア装置のピニオン軸(3)を支持する用途などで使用される。この用途では、ハウジング(2)から外輪(12)を取り外すことが必要となることがあり、また、ピニオン軸(3)から内輪(13)を取り外すことが必要となることもある。
【0026】
上記の複列玉軸受(11)において、ハウジング(2)から外輪(12)を取り外しやすくするために、外輪(12)の小径側肩部(18)の第2内径部(18b)の内径がハウジング(2)の外輪受け部(2a)の内径よりも小さくなされており、これにより、外輪(12)の小径側肩部(18)には、外輪受け部(2a)の内径よりも径方向内方に突出し、外輪(12)を取り外す際の引っ掛かり部となる環状の内方突出部(21)が形成されている。第2内径部(18b)の軸方向内側に第1内径部(18a)があることから、内方突出部(21)は、小径側玉(14)と接触しないようになされている。第1内径部(18a)の内径は、外輪受け部(2a)の内径に略等しいものとされている。
【0027】
上記の複列玉軸受(11)によると、第1内径部(18a)については、目標とする小径側玉(14)のピッチ円径を得るために適切な値に設定することができ、第2内径部(18b)については、第1内径部(18a)の内径に影響されることなく、外輪受け部(2a)の内径に応じた値とすることができる。こうして、内方突出部(21)が小径側玉(14)と接触しないようになされていることで、小径側のピッチ円径(小径側玉(14)の玉径)を規定する小径側軌道面(12a)の軸方向外側端の径と外輪(12)を取り外す際の引っ掛かり部となる内方突出部(21)の径とについて、それぞれ別個に設定することができ、引っ掛かり部を設けた上での小径側のピッチ円径の最適設計が可能となる。
【0028】
内方突出部(21)の軸方向外側の面(21a)は、外輪(12)の小径側端面(12c)よりも軸方向内方に位置させられ(凹まされ)ている。そして、外輪(12)が旋削により形成(切削工具による荒加工)された後、外輪(12)の小径側端面(12c)が研削面(砥石による仕上げ加工)とされ、内方突出部(21)の軸方向外側の面(21a)は、旋削面のままとされている。したがって、研削加工に要する時間については、従来のもの(内方突出部(21)無しのもの)と同じにすることができ、製作時間(製作コスト)の増加が抑えられる。
【0029】
図3は、この発明による複列玉軸受およびこれを備えたピニオン軸支持装置の第2実施形態を示している。この実施形態は、ピニオン軸(3)から内輪(13)を取り外すことが必要な場合に適したものであり、内輪(13)の大径側端部には、内輪(13)を取り外す際の引っ掛かり部となる環状の外方突出部(22)が形成されていることが好ましい。
【0030】
このようにするには、内輪(13)の大径側肩部(19)は、大径側軌道面(13b)の軸方向外側端に連なり大径側軌道面(13b)の軸方向外側端の径に等しい外径を有する第1外径部(19a)と、第1外径部(19a)の軸方向外側にあって第1外径部(19a)の外径よりも大きい外径を有する第2外径部(19b)とを有しているものとされ、そして、第2外径部(19b)の外径がピニオン軸(3)に設けられた内輪受け部(3a)の外径よりも大きくなされることで、内輪受け部(3a)の外径よりも径方向外方に突出し、内輪(13)を取り外す際の引っ掛かり部となる外方突出部(22)が形成される。
【0031】
ここで、大径側のピッチ円径(大径側玉(15)の玉径)を規定する大径側軌道面(13b)の軸方向外側端の径と内輪(13)を取り外す際の引っ掛かり部となる外方突出部(22)の径とについては、それぞれ別個に設定することができる。したがって、引っ掛かり部を設けるために、大径側のピッチ円径を大きくする必要がなく、引っ掛かり部を設けた上での大径側のピッチ円径の最適設計が可能となる。
【0032】
ハウジング(2)から外輪(12)を取り外すことが必要でない場合には、内輪(13)の外方突出部(22)だけが設けられ、ハウジング(2)から外輪(12)を取り外すことが必要でかつピニオン軸(3)から内輪(13)を取り外すことも必要な場合には、外輪(12)に内方突出部(21)が設けられるとともに、内輪(13)に外方突出部(22)が設けられる。
【0033】
内輪(13)の大径側端面(13c)が研削面とされ、外方突出部(22)の軸方向外側の面(22a)は、内輪(13)の大径側端面(13c)よりも軸方向内方にあって旋削面とされていることが好ましい。このようにすることで、内輪(13)に外方突出部(22)を設ける場合についても、研削加工に要する時間については、従来のもの(外方突出部(22)無しのもの)と同じにすることができ、製作時間(製作コスト)の増加が抑えられる。
【0034】
なお、環状の内方突出部(21)および外方突出部(22)の高さは、ハウジング(2)の外輪受け部(2a)の内径またはピニオン軸(3)の内輪受け部(3a)の外径を基準面にして、1mm程度あれば、取外し時の引っ掛かり部として十分であり、例えば1〜2.5mm程度とすればよい。
【0035】
上記のピニオン軸支持装置(1)は、ディファレンシャルギヤ装置、トランスアクスル装置、トランスファ装置等の車両用ピニオン軸を支持するのに好適である。
【符号の説明】
【0036】
(1) ピニオン軸支持装置
(2) ハウジング
(2a) 外輪受け部
(3) ピニオン軸
(3a) 内輪受け部
(11) 複列玉軸受
(12) 外輪
(12c) 小径側端面
(13) 内輪
(14) 小径側玉
(15) 大径側玉
(16) 小径側保持器
(17) 大径側保持器
(21) 内方突出部
(21a) 軸方向外側の面
(22) 外方突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに径が相違する複列の軌道面を有する外輪と、前記外輪の前記複列の軌道面と対応する複列の軌道面を有する内輪と、前記外輪および前記内輪の前記複列の軌道面間に異なるピッチ円径をもって配置される複数の小径側玉および複数の大径側玉とを備えている複列玉軸受において、
前記外輪の小径側端部に、前記小径側玉に接触しないように、前記複列の軌道面の小径側軌道面の軸方向外側端よりも径方向内方に突出した内方突出部が形成されていることを特徴とする複列玉軸受。
【請求項2】
前記外輪の小径側端面が研削面とされ、前記内方突出部の軸方向外側の面は、前記外輪の前記小径側端面よりも軸方向内方にあって旋削面とされていることを特徴とする請求項1の複列玉軸受。
【請求項3】
複列玉軸受の外輪がハウジングに嵌め合わせられて、前記外輪の小径側端面がハウジングに設けられた外輪受け部で受け止められるとともに、前記複列玉軸受の内輪がピニオン軸に嵌め合わせられて、前記内輪の大径側端面が前記ピニオン軸に設けられた内輪受け部で受け止められているピニオン軸支持装置において、前記複列玉軸受が請求項1または2の複列玉軸受とされ、前記内方突出部が前記ハウジングの前記外輪受け部の内径よりも径方向内方に突出させられて、前記ハウジングから前記外輪を取り外す際の引っ掛かり部とされていることを特徴とするピニオン軸支持装置。
【請求項4】
前記内輪の大径側端部に、前記複列の軌道面の大径側軌道面の軸方向外側端よりも径方向外方に突出した外方突出部が形成されており、該外方突出部は、前記大径側玉に接触しないように、前記内輪受け部の外径よりも径方向外方に突出させられて、前記ピニオン軸から前記内輪を取り外す際の引っ掛かり部とされていることを特徴とする請求項3のピニオン軸支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−225446(P2012−225446A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94681(P2011−94681)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】