説明

複合した混合物中のタンパク質またはタンパク質機能の迅速定量分析

【課題】従来の技術に固有の制限を克服するproteome分析において使用され得る方法および試薬を提供する。
【解決手段】自動化LC/MS/MSシステムであって、以下: (a)キャピラリーHPLCと流体接続するオートサンプラー (b)該キャピラリーHPLCと流体接続するエレクトロスプレーイオン化三連四重極MS/MS装置;および (c)該オートサンプラー、キャピラリーHPLCおよびMS/MS装置と電気接続する装置制御およびデータ分析システムを備える、システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の混合物においてタンパク質またはタンパク質の機能の
迅速かつ定量的分析のための、分析試薬およびこれらの試薬を使用する質量分析
に基づく方法を提供する。
【0002】
本発明は、米国科学財団科学技術センター分子生物工学(補助金5T32HG
およびBIR9214821)ならびに国立衛生研究所(NIH補助金RR11
823、T32HG00035、HD−02274およびGM60184)から
の資金援助によってなされた。合衆国政府は、本発明において特定の権利を有す
る。
【0003】
(関連出願の相互参照)
本出願は、1998年8月25日に出願された米国仮特許出願第60/097
,788号および1998年9月3日に出願された同第60/099,113号
から、米国特許法119(e)項に基づく優先権を有し、これら両方は、その全
体おいて参照として援用される。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
ゲノム技術は、原則として、完全なゲノム配列を決定し、細胞中で発現された
各遺伝子についてmRNAレベルを定量的に測定することが可能な点まで進んで
いる。いくらかの種について、今や完全なゲノム配列が決定され、酵母Sacc
haromyces cervisiaeの一本の鎖について、各発現された遺
伝子についてのmRNAレベルが、種々の増殖条件下で正確に定量化された(V
elculescuら,1997)。比較cDNA配列分析および関連する技術
は、mRNAレベルにおける遺伝子発現における誘導される変化を、調査される
細胞または組織によって発現される多数の遺伝子(ある場合では、すべての遺伝
子)の発現レベルを同時にモニターすることによって決定するために使用されて
いる(Shalonら、1996)。さらに、生物学的技術およびコンピュータ
ー技術が、特定の機能を遺伝子配列と関連させるために使用されている。生物学
的システムの構造、制御および機構において、これらの技術によって得られたデ
ータの解釈は、かなりの挑戦として認識されている。特に、ゲノム分析のみによ
って生物学的プロセスの機構を説明するのは非常に困難である。
【0005】
タンパク質は、ほとんどすべての生物学的プロセスの制御および実行に対して
必須である。合成の速度およびタンパク質の半減期ならびに従ってそれらの発現
レベルはまた転写後に制御される。さらに、タンパク質の活性は、しばしば転写
後の修飾(特にタンパク質リン酸化)によって修飾され、DNAおよびタンパク
質を含む他の分子とそのタンパク質の関係に依存する。従って、タンパク質の発
現のレベルも、タンパク質の活性の状態も両方とも、遺伝子配列からも対応する
mRNA転写の発現レベルさえからも直接的には明らかではない。生物学的シス
テムの完全な記述が、そのシステムを構成するタンパク質の同定、定量および活
性の状態を示す測定を含むことは必須である。細胞または組織中で発現されたタ
ンパク質の大規模な(最終的には全体的な)分析がproteome分析と呼ば
れている(Penningtonら、1997)。
【0006】
現在において、タンパク質分析技術は、ゲノム技術の自動化のスループットお
よびレベルに達していない。proteome分析の最も一般的な実施は、最も
一般的に二次元ゲル電気泳動(2DE)による複合したタンパク質のサンプルの
分離、および引き続く分離されたタンパク質種の配列同定に基づく(Ducre
tら、1998;Garrelsら、1997;Linkら、1997;She
vchenkoら、1996;Gygiら、1999;Boucherieら、
1996)。このアプローチは、強力な質量分析技術の発展、ならびタンパク質
およびペプチド質量スペクトルデータと配列データベースとを関連付け、従って
素早く決定的にタンパク質を同定するコンピューターアルゴリズムの発展によっ
て大変革された(Engら、1994;MannおよびWilm、1994;Y
atesら、1995)。この技術は、銀染色を含む従来のタンパク質染色法に
よって検出可能な必須の任意のタンパク質の同定を現在可能にする感度のレベル
に達している(FigeysおよびAebersold、1998;Figey
ら、1996;Figeyら、1997;Shevchenkoら、1996)
。しかし、サンプルがプロセスされる引き続く方法は、サンプルのスループット
を制限し、最も敏感な方法は、自動化が困難であり、低量のタンパク質(例えば
調節タンパク質)は、前濃縮なしでは検出を逃れ、従って、技術の動的な範囲を
事実上制限する。2DE/(MS)N法において、タンパク質は、2DEゲルの
染色点の濃度測定によって定量化される。
【0007】
マイクロキャピラリー液体クロマトグラフィー(μLC)およびデータベース
検索と組み合わせた自動化データ依存電気スプレイイオン化(ESI)タンデム
型分子質量分析(MS)のための方法および機器の発展は、ゲル分離されたタ
ンパク質の同定の感度およびスピードを有意に増加した。proteome分析
に対する2DE/MSアプローチの代替として、複合したタンパク質混合物の
消化によって生成されるペプチド混合物のタンデム型分子質量分析による直接分
析が、提案された(Dongr‘eら、1997)。μLC−Ms/MSはまた
、ゲル電気泳動分離なしで混合物から直接個々のタンパク質の大規模同定に首尾
よく使用された。(Linkら、1999;Opitekら1997)。これら
のアプローチがタンパク質同定を劇的に加速しながら、分析されたタンパク質の
量は、容易には決定され得ず、これらの方法は、2DE/MS/MSアプローチ
によっても遭遇する動的な範囲の問題を実質的に軽減することは示されていない
。従って、複合したサンプルの低量のタンパク質はまた、前の濃縮なしでμLC
/MS/MS法によって分析するのは困難である。
【0008】
従って、現在の技術は、タンパク質混合物の成分を同定するのに適しているが
、混合物中のタンパク質の量も、活性の状態も両方とも測定可能ではないことは
明らかである。現在のアプローチの進展的な改良でさえ、慣用的な定量的および
機能のproteome分析を実現するのに十分な性能を進歩させそうでない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の技術に固有の制限を克服するproteome分析において
使用され得る方法および試薬を提供する。記載される基本的なアプローチは、複
合されたサンプル(例えば、細胞、組織およびその機能)におけるタンパク質発
現の定量的分析、複合したサンプルの特異的タンパク質の検出および定量、およ
び複合したサンプルの特異的酵素活性の定量的測定のために使用され得る。
【0010】
このことについて、正常または疾患状態と関連するタンパク質またはタンパク
質の機能の存在、不在、欠乏または過剰を検出する臨床的および診断的アッセイ
について、複数の分析技術が現在得られる。これらの技術は非常に敏感である一
方で、これらは、産物の化学的種形成を必ずしも提供せず、結果として、単一の
サンプルにおいて同時にいくつかのタンパク質または酵素をアッセイすることに
おいて困難であり得る。現在の方法は、通常のセットの臨床的症状に導く種々の
酵素の異常発現またはそれらの機能不全を区別し得ない。本明細書において、本
方法および試薬は、複数のタンパク質およびタンパク質の反応を同時に(複数)
モニターするための臨床的および診断的アッセイに使用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(本発明の要旨)
本発明は、タンパク質の混合物においてタンパク質またはタンパク質の機能の
迅速かつ定量的分析のための、分析試薬およびこれらの試薬を使用する質量分析
に基づく方法を提供する。この分析方法は、定量的に使用され得、特に細胞およ
び組織の全体的なタンパク質発現プロフィールの定量的な分析(すなわち、pr
oteomeの定量的分析)のために使用され得る。この方法はまた、細胞、組
織または生物学的流体の発現レベルが、サンプルが由来する細胞、組織または生
物についての、刺激(例えば、薬剤の投与、または潜在的に毒性の物質との接触
)によって、環境の変化(例えば、栄養レベル、温度、時間の経過)によって、
あるいは状態または細胞状態の変化(例えば、疾患状態、悪性腫瘍、位置特異的
変異、遺伝子ノックアウト)によって影響されるタンパク質をスクリーニングし
同定するために使用され得る。このようなスクリーニングで同定されたタンパク
質は、変化した状態に対するマーカーとして機能し得る。例えば、正常な細胞お
よび悪性腫瘍細胞のタンパク質発現プロフィールの比較は、存在または不在が、
悪性腫瘍の特徴であり診断であるタンパク質の同定に至り得る。
【0012】
例示的な実施態様において、本明細書においてこの方法は、特定のタンパク質
の酵素活性の発現または状態の変化をスクリーニングするために使用され得る。
これらの変化は、薬学的アゴニストまたはアンタゴニストあるいは潜在的に有害
または毒性の物質を含む、種々の化学物質によって誘導され得る。このような変
化の知識は、酵素に基づく疾患を診断するため、および細胞の複合調節ネットワ
ークを調査するために有用であり得る。
【0013】
本明細書においてこの方法は、生物学的流体(例えば、血液)、または細胞ま
たは組織の所定のタンパク質またはタンパク質機能の存在、不在、欠乏、または
過剰を検出するための、種々の臨床的および診断的分析を実行するために使用さ
れ得る。この方法は、タンパク質の複合した混合物(すなわち、5個以上の別個
のタンパク質またはタンパク質機能を含むもの)の分析に特に有用である。
【0014】
本発明の方法は、親和性標識タンパク質反応性試薬を使用し、これは、複合し
た混合物からペプチドフラグメントまたは所定のタンパク質との反応産物(例え
ば、酵素反応の産物)の選択的単離を可能にする。単離されたペプチドフラグメ
ントまたは反応産物は、それらの混合物においてタンパク質の存在またはタンパ
ク質機能(例えば、酵素活性)の存在それぞれの特徴を有する。単離されたペプ
チドまたは反応産物は、質量分析(MS)技術によって特徴付けられる。特に、
単離されたペプチドの配列は、タンデム型MS(MS)技術を使用し、配列デ
ータベース検索技術の適用によって決定され得、配列決定されたペプチドが由来
するタンパク質が同定され得る。この試薬はまた、種々のサンプルにおいてタン
パク質の相対的な量の質量分析による定量的な決定を容易に促進する、単離され
たペプチドまたは反応産物の差次的な同位体標識を提供する。また、内部標準と
して差次的に同位体的に標識化された試薬の使用は、サンプル中に存在する1つ
以上のタンパク質または反応産物の絶対的な量の定量的な決定を容易にする。
【0015】
一般的に、本発明の親和性標識化タンパク質反応性試薬は、3つの部分を有す
る:リンカー基(L)によってタンパク質反応性基(PRG)に共有結合された
親和性標識(A):
A−L−PRG
リンカーは、例えば、リンカーの1つ以上の原子をその安定な同位体に置換する
ことによって、差次的に同位体的に標識化され得る。例えば、水素は、重水素で
置換され得、C12はC13で置換され得る。
【0016】
親和性標識Aは、捕捉試薬(CR)に共有結合的または非共有結合的に選択的
に結合する分子ハンドルとして機能する。CRへの結合は、Aでタグ化されたか
または標識化されたペプチド、基質または反応産物の単離を容易にする。特定の
実施態様において、Aは、ストレプアビジン(strepavidin)または
アビジンである。親和性タグ化された物質(そのうちのいくらかが同位体的に標
識化される)の親和性単離の後に、Aおよび捕捉試薬の間の相互作用が、単離さ
れた物質のMS分析を可能にするために分裂または切断される。親和性標識は、
捕捉試薬から、置換リガンド(Aを含まないかAの誘導体であり得る)の添加に
よって、あるいは溶媒の条件(例えば溶媒の種類もしくはpH)または温度条件
を変化させることによって置換されえるか、あるいはリンカーが、単離された物
質をMS分析のために放出するために、化学的、酵素的、熱的または光化学的に
切断され得る。
【0017】
PRG基の2つのタイプは、本明細書中で以下で提供される:(a)タンパク
質官能基と選択的に反応し、特定の部位にてタンパク質をタグ化する共有結合ま
たは非共有結合を形成する基、および(b)例えば酵素に対する基質である、タ
ンパク質の作用によって形質転換されるもの。特定の実施態様において、PRG
は、特定のタンパク質の基に対して特異的反応性(例えば、スルフヒドリル基に
対する特異性)を有する基であり、複合した混合物においてタンパク質を選択的
にタグ化するために一般的に有用である。スルフヒドリルに特異的な試薬は、シ
ステインを含むタンパク質をタグ化する。他の特定の実施態様では、PRGは、
目的の酵素の作用によって選択的に切断(A−Lを残す)または修飾(A−L−
PRG‘を与える)する酵素基質である。
【0018】
例示的な試薬は、以下の式を有する:
【0019】
【化1】


ここで:
Aは親和性標識である;
PRGは、タンパク質反応性基である;
、X、XおよびXは、リンカー基において、互いに独立し、X
他のXから独立して、O、S、NH、NR、NRR’、CO、COO、CO
S、S−S、SO、SO、CO−NR’、CS−NR’、Si−O、アリール
またはジアリール基から選択され得るか、あるいはX〜Xは、存在しなくて
もよいが、好ましくは少なくとも1つのX〜Xは、存在する;
およびBは、互いに独立して、AまたはPRG基のリンカーへの結合を
促進し得るかそれらの基のリンカーからの所望でない切断を防ぎ得る任意の部分
であり、そして例えばCOO、CO、CO−NR’、CS−NR’から選択され
得、そして単独または他の基(例えば(CH−CO−NR’、(CH
−CS−NR’、または(CH)と組み合わせて、1つ以上のCH
を含み得る;
n、m、pおよびqは、0〜約100までの値を有し得るすべての数であり、
好ましくは、n、m、pまたはqの1つは、0ではなく、そしてxはまた0〜約
100までの範囲であり得る整数であり、ここでn+xm+p+qは、好ましく
は約100未満であり、より好ましくは約20未満である;
Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、またはアリール基で
ある;そして
R’は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、またはアリ
ール基である。
【0020】
リンカーのCH基の1つ以上は、小さな(C1〜C6)アルキル、アルケニ
ル、またはアルコキシ基、アリール基で必要に応じて置換され得、例えば酸性基
または塩基性基または永久的な正の電荷または負の電荷を保持する基のようなイ
オン化を促進する官能基で置換され得る。リンカーのCH基を接続する1つ以
上の単結合は、2重結合または3重結合で置換され得る。好ましいRおよびR’
アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアルコキシ基は、1〜6個の炭素原子
を有する小さなものである。
【0021】
リンカーの原子の1つ以上は、安定な同位体で置換され得、1つ以上の実質的
に化学的に同一であるが同位体的に区別可能な試薬を生成する。例えば、リンカ
ーの1つ以上の水素は、重水素で置換され得、同位体的に重い試薬を生成する。
【0022】
例示的な実施態様では、リンカーは、切断されて親和性タグを除き得る基を含
む。切断可能なリンカー基が使用される場合、親和性タグ化されたペプチド、基
質または反応産物がCRと一緒に親和性標識化を使用して単離された後に、これ
は典型的に切断される。この場合において、リンカーにおいて標識化する任意の
同位体は、好ましくは、タンパク質、ペプチド、基質または反応産物に結合した
ままである。
【0023】
リンカー基は、とりわけ以下を含む:エーテル、ポリエーテル、エーテルジア
ミン、ポリエーテルジアミン、ジアミン、アミド、ポリアミン、ポリチオエーテ
ル、ジスルフィド、シリルエーテル、アルキルまたはアルケニル鎖(直鎖または
分枝鎖および環でありえる部分)、アリール、ジアリールまたはアルキル−アリ
ール基。リンカーのアリール基は、1つ以上のヘテロ原子(例えば、N、Oまた
はS原子)を含み得る。
【0024】
1つの局面において、本発明は、親和性標識化された試薬を使用する複合した
混合物の1つ以上のタンパク質の同定および定量のための質量分析方法を提供し
、ここで、PRGは、ペプチドにおいて典型的に見出される特定の基(例えば、
スルフヒドリル、アミノ、カルボキシ、ホモセリンラクトン基)と選択的に反応
する基である。種々のPRG基を有し、1つ以上の親和性標識化試薬が、タンパ
ク質を含む混合物に導入され、この試薬がこれらと親和性標識とタグ化するため
の特定のタンパク質と反応する。ジスルフィド結合を少なくするためにタンパク
質混合物を前処理するかまたはそれ以外で親和性標識化を容易にすることが必要
であり得る。親和性標識化された試薬との反応の後に、複合した混合物のタンパ
ク質は、例えば酵素的に、多数のペプチドに切断される。この消化工程は、タン
パク質が比較的小さい場合、必要でなくても良い。親和性標識でタグ化されたペ
プチドは、それらのCRに対する選択的結合によって、親和性単離法(例えば、
アフィニティークロマトグラフィー)によって単離される。単離されたペプチド
は、Aの置換またはリンカーの切断によってCRから放され、放された物質は、
液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によって分析される。次いで
、1つ以上のタグ化されたペプチドの配列は、MS技術によって決定される。
タンパク質から誘導される少なくとも1つのペプチド配列は、そのタンパク質に
特徴的であり、混合物中におけるその存在を示す。従って、ペプチドの配列は、
典型的には、混合物中の1つ以上のタンパク質を同定するのに十分な情報を提供
する。
【0025】
タンパク質混合物を含む1つ以上の異なるサンプル(例えば、生物学的流体、
細胞または組織溶解物など)のタンパク質の定量的な相対量は、化学的に同一で
親和性タグ化され、差次的に同位体的に標識化された試薬を使用して決定され得
、異なるサンプル中のタンパク質を、親和性タグ化し、差次的に同位体的に標識
化する。この方法において、比較されるサンプルは、親和性標識で特定のタンパ
ク質をそこでタグ化するために、同位体的に異なった標識化試薬で処理される。
次いで、処理されたサンプルは、好ましくは等量で組み合わせられ、組み合わせ
られたサンプル中のタンパク質は、必要であれば、酵素的に消化され、ペプチド
を生成する。ペプチドのうちのいくらかは、親和性タグ化され、さらに異なるサ
ンプル由来のタグ化されたペプチドは、差次的に同位体的に標識化される。上記
のように、親和性標識化されたペプチドは、単離され、捕捉試薬から放され、(
LC/MS)によって分析される。タンパク質由来のペプチドの特徴は、サンプ
ル中のタンパク質の同定を可能にするMS技術を使用して配列決定される。各
サンプル中の所定のタンパク質の相対的量は、そのタンパク質由来の差次的に同
位体的に標識化されたペプチドから生じるイオンの相対的存在比を比較すること
によって決定される。この方法は。異なるサンプル中の既知のタンパク質の相対
的量を評価するために使用され得る。さらに、この方法がサンプルに存在し得る
タンパク質の種類についての任意の先行知識を必要としないので、この方法は、
試験されるサンプル中において異なるレベルで存在するタンパク質を同定するた
めに使用され得る。さらに詳細には、この方法は、細胞、組織または生物学的流
体において異なる発現を示すタンパク質をスクリーニングし、同定するために適
用され得る。複合した混合物中の特定のタンパク質の絶対量を決定することもま
た可能である。この場合、既知の量の内部標準(定量化される混合物中のそれぞ
れのタンパク質について1つ)が、分析されるサンプルに添加される。内部標準
は、内部標準がペプチドまたは親和性タグ部分のいずれかにおいて差次的に同位
体的に標識化され、定量化される親和性タグ化されたペプチドと異なることを除
いて、定量化される親和性タグ化されたペプチドと同一の化学構造である親和性
タグ化されたペプチドである。内部標準は、他の方法で分析されるサンプルで提
供され得る。例えば、特定のタンパク質またはセットのタンパク質は、同位体標
識化された親和性タグ試薬で化学的にタグ化され得る。この物質の既知の量が、
分析されるサンプルに添加され得る。あるいは、特定のタンパク質またはセット
のタンパク質は、重原子同位体で標識化され、次いで、親和性標識化試薬で誘導
され得る。
【0026】
また、単一の分析で複数のサンプル中の特定のタンパク質のレベルを定量する
こと(多重化)が可能である。この場合、異なるサンプルから異なる親和性タグ
化ペプチドに存在するタンパク質を誘導するために使用される親和性タグ化試薬
は、質量分析によって選択的に定量化され得る。
【0027】
本発明のこの局面において、この方法は、生物学的流体、細胞または組織中の
特定のタンパク質の定量的測定を提供し、異なる細胞および組織中の全体的なタ
ンパク質発現プロファイルを決定するために適用され得る。同じ一般的戦略が、
タンパク質との反応性について異なる特異性を有する親和性試薬を使用すること
によって、タンパク質の修飾の状態の、proteomeワイドな、定性的なそ
して定量的な分析を達成するために拡張され得る。本発明の方法および試薬は、
複合した混合物中の低存在比タンパク質を同定するために使用され得、膜、細胞
表面タンパク質のような特定の群またはクラスのタンパク質、あるいは小器官、
亜細胞(sub−cellular)画分、または免疫沈降のような生化学的画
分内に含まれるタンパク質を選択的に分析するために使用され得る。さらに、こ
れらの方法は、異なる細胞状態において発現されたタンパク質の差を分析するた
めに適用され得る。例えば、本明細書中でこの方法および試薬は、癌のような疾
患状態を示す1つ以上のタンパク質の存在または不在の検出のための診断的アッ
セイにおいて使用され得る。
【0028】
第2の局面において、本発明は、サンプルにおいてタンパク質の機能(例えば
,酵素活性)の存在または不在の検出のためのMS方法を提供する。この方法は
また、サンプルにおけるタンパク質の機能の欠乏または過剰(通常のレベルを超
える)を検出するために使用され得る。分析され得るサンプルには、組織および
細胞を含む、種々の生物学的流体および物質が挙げられる。この場合、親和性標
識化試薬のPRGは、目的の酵素に対する基質である。親和性標識化基質は、目
的のそれぞれの酵素に提供され、目的の酵素がサンプルに存在する場合、それら
が反応して親和性標識化生成物を生成するサンプルに導入される。親和性標識で
タグ化された未反応の基質または生成物は、CRに対する選択的結合を介して、
親和性単離方法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)によって単離さ
れる。単離されたタグ化基質および生成物は、質量分析法によって分析される。
親和標識化生成物には、基質がリンカーから完全に切断されるもの、または基質
が目的のタンパク質との反応によって修飾されるものが挙げられる。親和性標識
化生成物の検出は、タンパク質機能がサンプルに存在することを示す。親和性標
識化生成物の検出がほとんど無いかまたは無いことは、サンプルにおけるタンパ
ク質の機能が、それぞれ欠乏または不在であることを示す。
【0029】
サンプル中に存在する、例えば酵素的活性に関して測定される、選ばれたタン
パク質の量は、試薬基質の酵素反応の期待される生成物の同位体的に標識化され
たアナログである内部標準の既知量を導入することによって測定され得る。内部
標準は、期待される酵素反応生成物に対して実質的に化学的に同一であるが、同
位体的に区別可能である。与えられたサンプルにおけるタンパク質機能(例えば
、酵素活性)のレベルは、他のサンプルまたはコントロール(ネガティブコント
ロールまたはポジティブコントロールのいずれか)での活性レベルと比較され得
る。従って、この手順は、サンプルにおけるタンパク質機能の存在、不在、欠乏
または過剰を検出し得る。この方法は、既知時間に渡って形成される生成物の量
を測定し得るので、酵素反応の速度を定量化することができる。この反応は、種
々のタンパク質の機能に対して選択的な複数の親和性標識化基質の同時使用によ
って、そして定量化が望ましいならば、単一のサンプル中の複数のタンパク質の
機能に対して分析するために、期待される生成物に対する対応する内部標準を含
むことによって、多重化され得る。
【0030】
1つの局面において、本発明は、タンパク質の混合物を含む1つまたはそれ以
上のサンプル中の1つまたはそれ以上のタンパク質またはタンパク質機能を同定
するための方法であって、該方法は以下:
(a)各サンプルに対して、親和性タグ化し、実質的に化学的に同一かつ差次
的に同位体的に標識したタンパク質反応試薬を提供する工程であって、ここで該
試薬は以下の式を有し:
A−L−PRG
ここで、Aは、捕捉試薬に選択的に結合する親和性標識であり、Lは1つまたは
それ以上の原子が、1つまたはそれ以上の安定同位体で差次的に標識され得るリ
ンカー基であり、そしてPRGは特定のタンパク質官能基と選択的に反応するか
、または酵素に対する基質であるタンパク質反応基である、工程;
(b)各サンプルを1つの該タンパク質反応試薬と反応させ、サンプル中に親
和性タグ化タンパク質または親和性タグ化酵素生成物を提供する工程であって、
それによって異なるサンプル中の親和性タグ化タンパク質および酵素生成物が、
安定同位体で差次的に標識される、工程;
(c)選択的にAと結合する該捕捉試薬を使用して該サンプルの親和性タグ化
成分を捕捉する工程;
(d)該親和性タグ化成分と該捕捉試薬との間の相互作用を中断することによ
って、該捕捉試薬から捕捉された親和性タグ化成分を放出する工程;および
(e)質量分析計によって該放出した親和性タグ化成分を検出しそして同定す
る工程、
を包含する、方法を提供する。
【0031】
1つの実施形態において、サンプル中の前記親和性タグ化タンパク質が、該親
和性タグ化タンパク質を親和性タグ化ペプチドに転化するために、該親和性タグ
化タンパク質の捕捉前または後に、酵素学的にまたは化学的に処理される。
【0032】
別の実施形態において、1つまたはそれ以上の前記親和性タグ化タンパク質の
タンパク質部分が、タンデム型質量分析計によって配列決定され、前記ペプチド
が由来する該親和性タグ化タンパク質を同定する。
【0033】
1つの実施形態において、1つまたはそれ以上の前記親和性タグ化タンパク質
のタンパク質部分が、タンデム型質量分析計によって配列決定され、該タンパク
質を同定する。
【0034】
1つの実施形態において、サンプル中の1つまたはそれ以上の前記タンパク質
の量がまた、質量分析計によって決定され、定量されるべき該タンパク質のそれ
ぞれに対して既知の量の1つまたはそれ以上の内部標準をサンプル中に導入する
工程をさらに包含する。
【0035】
1つの実施形態において、PRGが酵素基質であり、そしてサンプル中の1つ
またはそれ以上の酵素の酵素学的速度が、親和性タグ化酵素生成物の定量によっ
て決定され、該速度が定量される酵素の該親和性タグ化酵素生成物のそれぞれに
対して、既知の量の1つまたはそれ以上の内部標準をサンプル中に導入する工程
をさらに包含する。
【0036】
1つの実施形態において、前記放出される親和性タグ化成分が、質量分析計に
よって該成分を検出されそして同定する前に、クロマトグラフィーによって分離
される。
【0037】
1つの実施形態において、1つのサンプル中の複数のタンパク質またはタンパ
ク質機能が検出されそして同定される。
【0038】
1つの実施形態において、サンプル中の1つまたはそれ以上のタンパク質が、
親和性タグと反応し得る官能基を露出させるために化学的にまたは酵素学的に処
理される工程をさらに包含する。
【0039】
1つの実施形態において、前記PRGが1つまたはそれ以上の酵素に対する酵
素基質であり、この欠乏が疾患状態に連結される。
【0040】
1つの実施形態において、親和性タグ化し、実質的に化学的に同一でかつ差次
的に同位体的に標識した酵素基質が、サンプル中で検出されそして同定されるべ
き各酵素に対して提供される。
【0041】
1つの実施形態において、PRGが、特定のタンパク質官能基と選択的に反応
するタンパク質反応基であり、そして複数のタンパク質が単一のサンプル中で検
出されそして同定される。
【0042】
1つの実施形態において、タンパク質との反応について異なる特異性を有し、
2つまたはそれ以上の親和性タグ化し、実質的に化学的に同一であり、そして差
次的に同位体的に標識したタンパク質反応試薬が提供され、そして分析されるべ
き各サンプルと反応される。
【0043】
別の実施形態において、サンプル中の前記タンパク質の全てが検出されそして
同定される。
【0044】
1つの実施形態において、2つまたはそれ以上の異なるサンプル中の1つまた
はそれ以上のタンパク質の相対量が決定され、前記差次的に標識したサンプルを
合わせる工程、該合わせたサンプルから親和性タグ化成分を捕捉する工程、およ
び前記親和性タグ化し差次的に標識したタンパク質、または該タンパク質に由来
する、該親和性タグ化し差次的に標識したペプチドの相対存在度を測定する工程
をさらに包含する。
【0045】
1つの実施形態において、1つまたはそれ以上の異なるサンプル中の膜タンパ
ク質の前記相対量を測定する。
【0046】
別の実施形態において、異なるサンプルが、異なるオルガネラまたは異なる細
胞成分画分に由来タンパク質を含む。
【0047】
別の実施形態において、異なるサンプルが、異なる環境状態もしくは栄養状態
、異なる化学的刺激もしくは物理的刺激、または異なる時間に応答して発現され
るタンパク質を表す。
【0048】
別の局面において、本発明は、タンパク質を含む2つまたはそれ以上のサンプ
ル中のタンパク質の相対的発現レベルを測定するための方法であって、該方法は
以下:
(a)各サンプルに対して、親和性タグ化し、実質的に化学的に同一かつ差次
的に同位体的に標識したタンパク質反応試薬を提供する工程であって、ここで該
試薬は以下の式を有し:
A−L−PRG
ここで、Aは、捕捉試薬に選択的に結合する親和性標識であり、Lは安定同位体
で差次的に標識され得るリンカー基であり、そしてPRGは特定のタンパク質官
能基と選択的に反応するタンパク質反応基である、工程;
(b)各サンプルを1つのタンパク質反応試薬と反応させ、サンプル中に親和
性タグ化タンパク質を提供する工程であって、それによって異なるサンプル中の
親和性タグ化タンパク質が、安定同位体で差次的に標識される、工程;
(c)該差次的に標識したサンプルを合わせ、そしてその中で該タンパク質を
切断しそしてペプチドを生成させるために該合わせたサンプルを処理する工程;
(d)選択的にAと結合する該捕捉試薬を使用して該合わせたサンプルの親和
性タグ化した差次的に標識したペプチドを捕捉する工程;
(e)該親和性タグ化ペプチドと該捕捉試薬との間の相互作用を中断すること
によって、該捕捉試薬から該捕捉した親和性タグ化した差次的に標識したペプチ
ドを放出する工程;および
(f)質量分析計によって該放出した親和性タグ化した差次的に標識したペプ
チドを検出しそして同定する工程;
(g)該親和性タグ化した差次的に標識したペプチドが由来する該タンパク質
の相対発現レベルを決定するために、親和性タグ化した差次的に標識したペプチ
ドから発生した同位体的に異なるイオンピークの相対存在度を測定する工程、
を包含する、方法を提供する。
【0049】
別の局面において、本発明は、以下の一般式:
A−L−PRG
を有するタンパク質の質量分析計分析のための試薬であり、ここで、Aは、捕捉
試薬に選択的に結合する親和性標識であり、Lは、安定同位体で差次的に標識さ
れ得るリンカー基であり、そしてPRGは特定のタンパク質官能基と選択的に反
応するタンパク質反応基である、試薬を提供する。
【0050】
1つの実施形態において、PRGが、スルフヒドリル反応基またはアミン反応
基である。
【0051】
1つの実施形態において、PRGが、酵素基質である。
【0052】
1つの実施形態において、前記A−L−PRGが、分析されるべきサンプル液
体に可溶である。
【0053】
1つの実施形態において、前記リンカーが切断可能なリンカーである。
【0054】
1つの実施形態において、この試薬は、以下の一般式:
【0055】
【化2】


を有し:
Aは、親和性標識であり;
PRGは、タンパク質反応基であり;そして
【0056】
【化3】


は、リンカー基であり、ここで:
X1、X2、X3およびX4は、互いに独立して、そしてX2が他のX2と独
立して、O、S、NH、NR、NRR’+、CO、COO、COS、S−S、S
O、SO2、CO−NR’、CS−NR’、Si−O、アリールまたはジアリー
ル基から選択され得るか、あるいはX1−X4が存在しなくてもよく;
B1およびB2は、互いに独立して、COO、CO、CO−NR’、CS−N
R’、(CH2)q−CONR’、(CH2)q−CS−NR’、または(CH
2)qから選択される任意の基であり;
n、m、p、qおよびxは、0〜約100の値を取り得る整数であり、ここで
、n+xm+p+qが約100未満であり;
Rは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシル、または必要に応じ
て1つまたはそれ以上のアルキル、アルケニル、アルキニル、もしくはアルコキ
シ基で置換されるアリール基であり;そして、
R’は、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシル、または必
要に応じて1つまたはそれ以上のアルキル、アルケニル、アルキニル、もしくは
アルコキシ基で置換されるアリール基であり、
ここで、該リンカー中の1つまたはそれ以上のCH2基は、アルキル、アルケ
ニル、アルコキシ基、必要に応じて1つまたはそれ以上のアルキル、アルケニル
、アルキニル、もしくはアルコキシ基で置換されるアリール基、酸性基、塩基性
基または持続性の正もしくは負の電荷を有する基で必要に応じて置換され得;こ
こで該リンカー中の非隣接CH2基を連結する1つまたはそれ以上の単結合は、
二重または三重結合で置き換えられ得、ここで該リンカー中の1つ以上の原子が
安定同位体で置換され得る。
【0057】
1つの実施形態において、前記親和性標識がビオチンまたは改変ビオチンであ
る。
【0058】
1つの実施形態において、前記親和性標識が、1,2−ジオール、グルタチオ
ン、マルトース、ニトリロ三酢酸基、またはオリゴヒスチジンからなる群から選
択される。
【0059】
1つの実施形態において、前記親和性標識がハプテンである。
【0060】
1つの実施形態において、PRGがスルフヒドリル反応基である。
【0061】
1つの実施形態において、PRGがヨードアセチルアミド基、エポキシド、α
−ハロアシル基、ニトリル、スルホン化アルキル、アリールチオールまたはマレ
イミドである。
【0062】
1つの実施形態において、PRGがアミン反応基、ホモセリンラクトンと反応
する基またはカルボン酸基と反応する基である。
【0063】
1つの実施形態において、PRGが、アミン反応性ペンタフルオロフェニルエ
ステル基、アミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、スルホニル
ハライド、イソシナネート、イソチオシアネート、活性エステル、テトラフルオ
ロフェニルエステル、酸ハライド、および酸無水物;ホモセリンラクトン反応性
第1アミン基、ならびにカルボン酸反応性アミン、アルコールまたは2,3,5
,6−テトラフルオロフェニルトリフルオロアセテートからなる群から選択され
る。
【0064】
1つの実施形態において、PRGが酵素に対する基質である。
【0065】
1つの実施形態において、PRGが、酵素の欠乏が出生時欠損と関連する該酵
素に対する基質である。
【0066】
1つの実施形態において、PRGが、酵素の欠乏がリソソーム蓄積病と関連す
る該酵素に対する基質である。
【0067】
1つの実施形態において、PRGが、β−ガラクトシダーゼ、アセチル−α−
D−グルコサミニダーゼ、へパランスルファミダーゼ、アセチル−CoA−α−
D−グルコサミニドN−アセチルトランスフェラーゼまたはN−アセチルグルコ
サミン−6−スルファターゼに対する基質である。
【0068】
1つの実施形態において、B1またはB2の少なくとも1つがCO−NR’ま
たはCS−NRである。
【0069】
1つの実施形態において、X1およびX4がNH、NR、およびNRR’+か
ら選択され、X3がOであり、そして全てのX2基がOである。
【0070】
1つの実施形態において、前記リンカーがジスルフィド基を含む。
【0071】
1つの実施形態において、前記リンカーの任意の原子が重同位体で置換され得
る。
【0072】
別の局面において、本発明は、上記試薬を含む、質量分析計分析によるタンパ
ク質の分析のための試薬キットを提供する。
【0073】
1つの実施形態において、このキットは、上記の1つまたはそれ以上の試薬を
含む。
【0074】
1つの実施形態において、このキットは、親和性タグ化タンパク質の消化にお
ける使用のための1つまたはそれ以上のタンパク質分解酵素をさらに含む。
【0075】
1つの実施形態において、このキットは、1セットの、実質的に化学的に同一
かつ差次的に標識した親和性タグ化試薬を含む。
【0076】
1つの実施形態において、前記試薬が親和性タグ化酵素基質試薬である。
【0077】
1つの実施形態において、このキットは、1セットの、実質的に化学的に同一
かつ差次的に標識した親和性タグ化酵素基質を含む。
【0078】
1つの実施形態において、このキットは、1セットの、実質的に化学的に同一
かつ差次的に標識した親和性タグ化酵素生成物をさらに含む。
(発明の効果)
本発明は、従来の技術に固有の制限を克服するproteome分析において
使用され得る方法および試薬を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0079】
(発明の詳細な説明)
本発明の方法は、親和性タグ化されたタンパク質反応性試薬を使用し、ここで
、この親和性タグは、タンパク質反応性基にリンカーによって共有結合される。
このリンカーは、実質的に化学的に同一であるが、質量によって区別可能な試薬
の対またはセットを作製するために同位体的に標識され得る。例えば、一対の試
薬(このうちの1つは、同位体的に重く、そしてこのうちの他方は、同位体的に
軽い)は、2つのサンプル(これらのうちの一方は、1種以上の公知のタンパク
質を既知の量で含有する参照サンプルであり得る)の比較のために使用され得る
。例えば、リンカー中の水素、窒素、酸素またはイオウ原子のうちの任意の1つ
以上は、それらの同位体的に安定なアイソトープ:H、13C、15N、17
O、18Oまたは34Sと置換され得る。
【0080】
適切な親和性タグは、共有的または非共有的のいずれか、および高い親和性で
選択的に捕捉試薬(CR)に結合する。CR−A相互作用または結合は、非特異
的結合成分を除去するために、種々の溶液による大規模および多数回、洗浄した
後、インタクトなままであるべきである。親和性タグは、CRを除いては、最小
限に結合するか、または好ましくはアッセイ系中の成分に全く結合せず、そして
反応容器の表面に著しく結合はしない。親和性タグの他の成分または表面との任
意の非特異的相互作用は、CR−Aをインタクトにしておく多数回洗浄によって
破壊されるべきである。さらに、例えば置換リガンドの添加によってまたは温度
または溶媒条件の変化によって、AおよびCRの相互作用を破壊し、ペプチド、
基質または反応生成物を放出することは可能でなければならない。好ましくは、
CRもAもいずれもこのアッセイ系における他の成分と化学的に反応せず、そし
て両方の基は、アッセイまたは実験の期間にわたって化学的に安定であるべきで
ある。親和性タグは好ましくは、(MS)分析の間、ペプチド様フラグメント
化を起こさない。親和性標識は、好ましくは、分析されるべきサンプル液中に可
溶性であり、そしてCRは、アガロースのような不溶性樹脂に結合される場合で
あっても、サンプル溶液中に可溶性のままであるべきである。用語、可溶性CR
とは、CRが十分に水和されるかまたは溶媒和され、その結果、これがAに結合
するために適切に機能することを意味する。CRまたはCR含有結合体は、Aを
捕獲するために添加される場合を除いては、分析されるべきサンプル中に存在す
るべきではない。
【0081】
AおよびCRの対の例としては以下が挙げられる:
d−ビオチンまたは構造的に改変されたビオチンベースの試薬(d−イミノビ
オチンを含み、これは、アビジン/ストレプトアビジンのタンパク質に結合され
、例えば、ストレプトアビジン(strepavidine)−アガロース、オ
リゴマー−アビジン−アガロース、またはモノマー−アビジン−アガロースの形
態で使用され得る);
任意の1,2−ジオール(例えば、1,2−ジヒドロキシエタン(HO−CH
−CH−OH))および他の1,2−ジヒドロキシアルカン(環式アルカン
のもの(例えば、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン)を含み、これは、アル
キルまたはアリールのボロン酸またはボロン酸エステル(例えば、フェニル−B
(OH)またはヘキシル−B(Oエチル))に結合し、これは、アルキルま
たはアリール基を介して固体支持体物質(例えば、アガロース)に結合され得る
);
マルトース結合タンパク質に結合するマルトース(および任意の他の糖/糖結
合タンパク質対またはより一般的には任意のリガンド/リガンド結合タンパク質
対(上記で議論される特性を有する));
任意の抗体のためのハプテン(例えば、ジニトロフェニル基)(ここで、ハプ
テンは、ハプテンを認識する抗ハプテン抗体に結合し、例えば、ジニトロフェニ
ル基は、抗ジニトロフェニル−IgGに結合する);
遷移金属に結合するリガンド(例えば、オリゴマーヒスチジンは、Ni(II
)に結合し、遷移金属CRは、樹脂結合キレート化遷移金属の形態(例えば、ニ
トリロ三酢酸−キレート化Ni(II)またはイミノ二酢酸−キレート化Ni(
II))で使用され得る);
グルタチオン−S−トランスフェラーゼに結合するグルタチオン。
【0082】
一般に、上記で議論される適合性基準に合う親和性富化のために任意のA−C
R対が通常使用される。ビオチンおよびビオチンベースの親和性タグが好ましい
。特に関心があるのは、構造的に改変されたビオチン(例えば、d−イミノビオ
チン)であり、これは、10〜20%の有機溶媒を含有する希釈酸のようなES
I−MS分析に適合の溶媒条件下でアビジンまたはストレプトアビジン(str
epavidin)カラムから溶出する。d−イミノビオチンタグ化化合物がp
H4未満の溶媒中で溶出することは予測される。d−イミノビオチンタグ化タン
パク質反応性試薬は、対応するビオチンタグ化試薬に関して本明細書中に記載さ
れる方法によって合成され得る。
【0083】
置換リガンドであるDLは、CRからAを置換するために必要に応じて使用さ
れる。適切なDLは、典型的には、添加されなければサンプル中に存在しない。
DLは、分析されるべきサンプル中で化学的および酵素的に安定であり、そして
サンプル中の化合物(CR以外)と反応しないか、またはサンプル中の化合物(
CR以外)に結合するべきではないか、あるいは反応容器壁に非特異的に結合す
るべきではない。DLは、好ましくは、MS分析の間、ペプチド様フラグメント
化を起こさず、そしてサンプル中のその存在は、タグ化ペプチド、基質または反
応生成物結合体のイオン化を著しく阻止するべきではない。
【0084】
DLそれ自体は、好ましくは、質量分析の間、最小限にイオン化され、そして
DLクラスターから構成されるイオンの形成は、好ましくは、最小限である。D
Lの選択は、使用されるAおよびCRに依存する。一般に、DLは、その添加の
せいぜい1週間以内(しかし、より好ましくは、数分以内または1時間まで)で
、合理的タイムスケールにおいて、CRからAを置換するために、選択される。
CRに関するDLの親和性は、CRに関してAを含有するタグ化化合物の親和性
よりも匹敵するかまたは強いはずである。さらに、DLは、CRからのAを含有
するタグ化化合物の溶出の間に使用される溶媒中に可溶性であるべきである。D
Lは、好ましくは、AあるいはAの誘導体または構造的改変体を含まない。DL
の例としては、d−ビオチンまたはd−ビオチン誘導体、特に、MS中のクラス
ター形成を抑制するかまたはイオン化を抑制する基を含有するd−ビオチン誘導
体が挙げられる。
【0085】
リンカー基(L)は、分析されるべきサンプル液体中に可溶性であるべきであ
り、そしてそれは、化学反応に対して安定性(例えば、サンプルの成分ならびに
AおよびCR基と、実質的に化学的に不活性)であるべきである。リンカーは、
Aに結合する場合、リガンドの置換によってか、あるいは温度または溶媒におけ
る変化によって、AのCRとの特異的相互作用を干渉しないか、またはCRから
のAの置換を干渉するべきではない。リンカーは、反応容器表面またはCRに対
して、その系中の他の成分に、最小限に、または好ましくは少しも、結合するべ
きではない。リンカーの任意の非特異的相互作用は、多回洗浄の後、破壊される
べきであり、これは、A−CR複合体をインタクトのままにする。リンカーは、
好ましくは、(MS)分析の間、ペプチド様フラグメント化を起こさない。リ
ンカー基中の原子の少なくともいくつかは、安定な重原子同位体と容易に置換可
能であるべきである。リンカーは、好ましくは、親和性タグ化試薬、ペプチド、
基質または反応生成物のイオン化を容易にする、基あるいは部分を含む。
【0086】
イオン化を促進するために、このリンカーは、酸性または塩基性基(例えば、
COOH、SOH、1級、2級または3級アミノ基、窒素−複素環、エーテル
、あるいはこれらの基の組み合わせ)を含み得る。リンカーはまた、永久的電荷
(例えば、ホスホニウム基、4級アンモニウム基、スルホニウム基、キレート化
金属イオン、テトラアルキル(tetralky)またはテトラアリール(te
traryl)ボレートあるいは安定なカルボアニオン)を有する基を含み得る

【0087】
リンカーのAまたはPRGへの共有結合は、典型的に、アッセイの間、化学的
または酵素的反応によって意図的でなく切断されるべきではない。ある場合にお
いて、例えば、アフィニティーカラムからの放出を容易にするために、リンカー
を、親和性タグAからまたはPRGから切断することは、望ましくあり得る。従
って、リンカーは、例えば化学的、熱的または光化学的反応によって、切断可能
であり得る。リンカー中の光切断可能な基は、1−(2−ニトロフェニル)−エ
チル基を含み得る。熱的に不安定なリンカーは、例えば、核酸の2つの相補体ス
トランドから形成される二重ストランド化二重鎖、ペプチド核酸の相補的ストラ
ンドを有する核酸のストランド、または加熱すると解離する2つの相補的ペプチ
ド核酸(nucelic)ストランドであり得る。切断可能リンカーはまた、ジ
スルフィド結合、酸または塩基不安定性基(とりわけ、ジアリールメチルまたは
トリメチルアリールメチル基を含む)、シリルエーテル、カルバメート、オキシ
エステル、チオエステル(thiester)、チオノエステル、ならびにα−
フッ素化アミドおよびエステルを含むものを含む。酵素的に切断可能なリンカー
は、例えば、プロテアーゼ感受性アミドまたはエステル、β−ラクタマーゼ感受
性β−ラクタムアナログおよびリンカー(これはヌクレアーゼ切断可能またはグ
リコシダーゼ切断可能である)を含み得る。
【0088】
タンパク質反応性基(PRG)は、特定のタンパク質官能性基と選択的に反応
するか、または目的の酵素の基質である基であり得る。任意の選択的に反応性の
タンパク質反応性基は、サンプル中のタンパク質の少なくとも一部に存在する目
的の官能性基と反応するべきである。PRGと、タンパク質上の官能性基との反
応は、分析されるべきサンプル中の化合物の実質的な分解へとは導かない条件下
で、起こるべきである。本発明の親和性タグ化試薬における使用のために適切な
、選択的反応性のPRGの例は、システインを含むタグタンパク質に対してスル
フヒドリル基と反応するもの、アミノ基、カルボキシレート基、エステル基、ホ
スフェート反応性基、ならびにアルデヒドおよび/またはケトン反応性基と反応
するもの、あるいはCHBrとのフラグメント化の後にホモセリンラクトンと反
応するものを含む。
【0089】
チオール反応性基としては、エポキシド、α−ハロアシル基、ニトリル、スル
ホン化アルキルまたはアリールチオールおよびマレイミドが挙げられる。アミノ
反応性基は、タンパク質中のアミノ基をタグ化し、そしてハロゲン化スルホニル
、イソシアネート、イソチオシアネート、活性エステル(テトラフルオロフェニ
ルエステル、およびN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルを含む)、酸ハラ
イド、ならびに酸無水物が挙げられる。さらに、アミノ反応性基としては、Na
BHまたはNaCNBHの存在または非存在でのアルデヒドまたはケトンが
挙げられる。
【0090】
カルボン酸反応性基としては、カップリング剤(例えば、ジシクロヘキシルカ
ルボジイミドまたは2,3,5,6−テトラフルオロフェニルトリフルオロアセ
テート)の存在下での、およびカップリング触媒(例えば、4−ジメチルアミノ
ピリジン)の存在または非存在下での、アミンまたはアルコール;ならびにCu
(II)フェナントロリンを含む遷移金属−ジアミン複合体が挙げられる。
【0091】
エステル反応性基としてはアミンが挙げられ、これは、例えば、ホモセリンラ
クトンと反応する。
【0092】
ホスフェート反応性基としてはキレート化金属が挙げられ、ここで、この金属
は、例えばニトリロ三酢酸またはイミノ二酢酸にキレート化される、例えばFe
(III)またはGa(III)である。
【0093】
アルデヒドまたはケトン反応性基としてはアミンおよびNaBHまたはNa
CHBH、あるいはまず炭水化物を過ヨウ素酸塩で処理した後、アルデヒドま
たはケトンを生成するこれらの試薬が挙げられる。
【0094】
PRG基はまた、目的の選択された酵素に対する基質であり得る。目的の酵素
は、例えば、疾患状態または奇形児に関連する酵素、あるいは医療目的で慣用的
にアッセイされる酵素であり得る。本発明の方法を用いて使用するための目的の
酵素基質は、酸ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ、アラニンアミノトラ
ンスフェラーゼ、アミラーゼ、アンギオテンシン転換酵素、アスパルテートアミ
ノトランスフェラーゼ、クレアチンキナーゼ、γ−グルタミルトランスフェラー
ゼ、リパーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、およびグルコース−6−ホスフェ
ートデヒドロゲナーゼ(これらは、他の方法によって、現在、慣用的にアッセイ
される)が挙げられる。
【0095】
A、L、PRGのための上記に議論された必要性は、A−L−PRGのセグメ
ントおよびこの試薬を用いて生成される反応生成物の対応物にまで広がる。
【0096】
内部標準(適切に同位体的に標識される)は、サンプル中のタンパク質の絶対
的な定量的量を測定するために、本発明の方法において使用され得る。内部標準
は、酵素反応の親和性タグ化生成物を定量することを意図するアッセイにおいて
特に使用される。この適用において、内部標準は、親和性タグ化酵素基質上の酵
素の作用によって生成されるタグ化酵素生成物に化学的に同一であるが、H、
13C、15N、17O、18Oまたは34S(これらはMS技術によって独立
して検出されることが可能である)を含み得る同位体標識を有する。サンプル中
の1つまたはいくつかのタンパク質を定量化するための本明細書中の方法におけ
る使用のための内部標準は、タグ化タンパク質の消化から生成される親和性タグ
化ペプチドを生成するための、親和性標識化タンパク質反応性試薬と公知のタン
パク質との反応によって調製される。親和性タグ化ペプチド内部標準は、実質的
に、親和性タグ化タンパク質の消化から生成される対応する親和性タグ化ペプチ
ドに実質的に化学的に同一である(これらがMS技術によるそれらの独立的検出
を可能にするように差次的に同位体的に標識化されることを除いては)。
【0097】
本発明の方法はまた、2つ以上のタンパク質サンプル中の1つ以上のタンパク
質(各サンプル中のタンパク質は、実質的に化学的に同一であるが、差次的に同
位体的に標識化される、親和性タグ化試薬と、反応される)の相対量を決定する
ために適用され得る。このサンプルは、組み合わされ、そして一体としてプロセ
スされる。そのペプチドが由来するタンパク質の相対量を反映する各タグ化ペプ
チドの相対量は、質量分析によるそれぞれの同位体ピークの測定によって決定さ
れる。
【0098】
本発明の方法は、多数の異なるサンプルの分析または比較に適用され得る。本
発明の方法によって分析され得るサンプルとしては、細胞ホモジネート;細胞フ
ラクション;生物流体(尿、血液および脳脊髄液を含む);組織ホモジネート;
涙;糞;唾液;洗浄液(例えば、肺または腹膜の洗浄液);生物学的分子の混合
物(タンパク質、脂質、炭水化物および核酸を含む)(細胞または組織ホモジネ
ートの部分または完全フラクション化によって生成される)が挙げられる。
【0099】
本発明の方法は、MSおよび(MS)法を使用する。種々のMSおよび(M
S)法が利用可能であり、そしてこれらの方法において使用され得るが、マト
リックスアシストレーザ脱離イオン化MS(MALDI/MS)およびエレクト
ロスプレーイオン化MS(ESI/MS)法が好ましい。
【実施例】
【0100】
(定量タンパク質(proteome)分析)
本方法は、サンプルタンパク質混合物および参照タンパク質混合物中の定量的
タンパク質プロフィール測定のためのビオチン標識化スルフヒドリル−反応性試
薬を使用するスキーム1に概略的に例示される。本方法は、以下の工程を包含す
る:
還元。サンプルおよび参照混合物中のタンパク質のジスルフィド結合は、遊離
SH基に還元される。好ましい還元剤は、トリ−n−ブチルホスフィンであり、
これは標準条件下で使用される。あるいは、還元剤としては、メルカプトエチル
アミンおよびジチオスレイトールが挙げられる。必要ならば、この反応は、タン
パク質溶解性を維持するための高濃度の界面活性剤およびウレアを含む可溶化剤
の存在下で行われ得る。比較されるべき参照およびサンプルタンパク質混合物は
、同じ反応条件を適用して、別個にプロセスされる;
SH基の親和性タグを用いる誘導体化。遊離SH基は、ビオチン化試薬である
ビオチニル−ヨードアセチルアミジル−4,7,10トリオキサトリデカンジア
ミンを用いて誘導体化され、この合成は、以下に記載される。この試薬は、安定
な同位体によるリンカー原子の置換によって、異なる同位体的に標識化された形
態で調製され、そして各サンプルは、この試薬の異なる同位体的に標識化された
形態で標識化される。SH基の誘導体化は、好ましくは、僅かに塩基性の条件(
pH8.5)下、室温で90分間行われる。2つのサンプルの定量的比較分析の
ために、各々1つのサンプル(参照サンプルおよびサンプルと呼ばれる)は、そ
れぞれ、この試薬の同位体的に軽い形態および同位体的に重い形態を用いて、ス
キーム1に例示されるように誘導体化される。いくつかのサンプルの比較分析の
ために、1つのサンプルは、他のサンプルが関連するものに対する参照として設
計される。典型的に、参照サンプルは、同位体的に重い試薬を用いて標識化され
、そして実験サンプルは、この試薬の同位体的に軽い形態を用いて標識化される
が、試薬のこの選択は、任意である。これらの反応はまた、高濃度の可溶化剤の
存在と適合性である;
標識化サンプルの組み合わせ。親和性タグ化反応の完了後、同位体的に異なる
試薬(例えば、重い試薬および軽い試薬)を用いて標識化されたサンプルの定義
されたアリコートは、組み合わせられ、そしてすべての引き続く工程は、プール
されたサンプルで行われる。この手順の初期段階にて異なって標識化されたサン
プルの組み合わせは、引き続く反応および操作に起因する可変性を排除する。好
ましくは、各サンプルの等しい量が組み合わせられる;
過剰な親和性タグ化試薬の除去。過剰な試薬は、例えば、タンパク質SH基が
完全に誘導体化された後、過剰のSH−含有ビーズをこの反応混合物に添加する
ことによって吸着される。ビーズは、加えられる試薬に対して約5倍モル過剰の
SH基を達成するために、この溶液に添加され、そして室温で30分間インキュ
ベートされる。反応後、このビーズは、遠心分離によって除去される;
タンパク質消化。サンプル混合物中のタンパク質は、典型的にトリプシンを用
いて消化される。代替のプロテアーゼはまた、事実、化学的フラグメント化手順
のような、この手順に適合性である。先行工程が高濃度の変性可溶化剤の存在下
で行われた場合、このサンプル混合物は、変性濃度が使用されるプロテアーゼの
活性と適合性となるまで、希釈される。この工程は、小さなタンパク質の分析に
おいては省略され得る;
捕捉試薬との相互作用による親和性タグ化ペプチドの親和性単離。ビオチン化
ペプチドは、アビジン−アガロース上で単離される。消化後、ペプチドサンプル
のpHは、6.5に下げられ、そしてビオチン化ペプチドはモノマーアビジン(
Pierce)でコーティングされたビーズ上に固定される。このビーズは、大
規模洗浄される。最後の洗浄溶媒は、残りのSDSを除去するために、10%メ
タノールを含む。ビオチン化ペプチドは、アビジン−アガロースから、例えば0
.3%ギ酸(pH2)を用いて溶出される;
データ依存性フラグメント化によるμLC−MSまたはCE−MSによる
、単離され、誘導体化されたペプチドの分析。当該分野で周知であり、そして例
えばDucretら、1998;FigeysおよびAebersold、19
98;Figeysら、1996;またはHaynesら、1998に記載され
る方法および機器制御プロトコルが使用される。
【0101】
この最後の工程において、タンパク質(そこからタグ化ペプチドが由来する)
の定量および引き続く同定の両方は、自動化多段階MSによって決定され得る。
これは、二重モードの質量分析の操作によって達成され、ここで、これは、キャ
ピラリーカラムから溶出する相対量ペプチドの測定と、選択されたペプチドの配
列情報の記録との間の連続スキャンにおいて交替する。ペプチドは、MSモード
において、それぞれ試薬の同位体的に軽いまたは重い形態によってタグ化された
、(それゆえ、親和性タグ化試薬内のコードされた質量差によって質量に差があ
る)同一配列のペプチドイオンの対に関して相対シグナル強度を測定することに
よって定量化される。ペプチド配列情報は、MSモードでの質量分析操作にお
ける衝突誘導分離(CID)に関する特定の質量対荷電(m/z)比のペプチド
イオンを選択することによって自動的に生成される。(Link,A.J.ら(
1997)、Gygi,S.P.ら(1999)、およびGygi,S.P.ら
(1999))。次いで、得られたCIDスペクトルは、配列データベースと自
動的に相関させ、配列決定されたペプチドが由来するタンパク質を同定する。親
和性タグ化され、そして差次的に標識化されたペプチドサンプルのMSおよびM
分析によって作製された結果を組み合わせることによって、従って、単一の
自動化操作でのタンパク質混合物の成分の相対量および配列同一性が決定される

【0102】
ビオチン化スルフヒドリル試薬を使用する、合成ペプチドサンプルの定量分析
への、タンパク質中のペプチドの相対量への、本方法のこの適用の結果は、それ
ぞれ、図1、表1および図2に示されるような誘導体化ペプチドのタンデム質量
スペクトル分析を要約する。
【0103】
本方法はまた、他の親和性タグおよび他のタンパク質反応性基(アミノ反応性
基、カルボキシル反応性基、またはホモセリンラクトンと反応する基を含む)を
使用して行われ得る。
【0104】
定量的タンパク質分析のための本明細書中で使用されるアプローチは、2つの
原理に基づく。第1に、タンパク質からの連続するアミノ酸の短い配列(5〜2
5の残基)は、このタンパク質を独自に同定するために十分な情報を含む。MS
によるタンパク質同定は、高性能コンピュータ検索アルゴリズムを使用して、
CID質量スペクトルに含まれる配列情報を、配列データベースと相関させるこ
とによって達成される(Eng,J.ら(1994);Mann,M.ら(19
94);Qin,J.ら(1997);Clauser,K.R.ら(1995
))。第2に、それぞれ軽いおよび重い親和性タグ化試薬でタグ化された同一ペ
プチドの対(または2つより多くのサンプル、同一タグ化ペプチドのセット(各
セットのメンバーは差次的に同位体的に標識化される)において)は、化学的に
同一であり、そしてそれゆえ、正確な定量のための相互の内部標準として働く。
MS測定は、例えば異なる細胞状態を示す異なるサンプルに由来するペプチド間
で容易に区別する。なぜならば、ペプチドに結合される同位体的に別個の試薬間
に差異があるからである。ピークのこれらの対またはセットの異なる重量の成分
の強度間の比は、もともとの細胞プール中のペプチド(そしてそれゆえ、タンパ
ク質)の相対存在比の正確な測定を提供する。なぜならば、所定のペプチドに対
するMS強度応答性は、この試薬の同位体組成に無関係であるからである(De
Leenheer,A.P.ら(1992))。同位体的に標識化された内部
標準の使用は、定量質量分析法における標準実行であり、そして例えば体液中の
薬物および代謝物の正確な定量において利点を大きくすることが開発されてきた
(De Leenheer,A.P.ら(1992)。
【0105】
本方法の別の例示において、既知であるが異なる濃度の同じ6個のタンパク質
からなる2つの混合物が調製され、そして分析された。このタンパク質混合物は
標識化され、組み合わせられ、そしてスキーム1に概略的に例示されるように処
理された。単離され、タグ化されたペプチドは、定量され、そしてESIイオン
トラップ質量分析計で単一組み合わせのμLC−MSおよびμLC−MS実験
で配列決定された。すべての6個のタンパク質は、明白に同定され、そして正確
に計量された(表2)。多数のタグ化ペプチドは、各タンパク質に関して遭遇(
encounter)した。6個のタンパク質に関する観察された量と予測され
た量との間の差は、2%と12%との間の範囲であった。
【0106】
本プロセスは、図3A〜Cに単一のペプチド対(single peptid
e pair)について、さらに例示される。MSモードで操作した質量分析計
の単回スキャンを図3Aに示す。親和性タグ化された試薬にコードされた質量差
によって特徴付けられた4対のペプチドイオンは、このスキャンにおいて検出さ
れ、そして、それらそれぞれのm/z値と共に示される。示したスキャンは、1
.3秒で得られた。1時間のクロマトグラフィー溶出勾配の過程にわたって、1
200回を超えるこのようなスキャンを自動的に記録した。図3Bは、それぞれ
993.8および977.7のm/z比を有する、イオン対の周囲の質量スペク
トルの拡大図を示す。4つのユニットの同時溶出および検出された質量差によっ
て、同一配列を有する、2電荷の親和性タグ化されたペプチドの対としてイオン
が潜在的に同定される(8の質量差および2つの1電荷状態)。図3Cは、これ
ら2種について再構成されたイオンクロマトグラムを示す。それぞれのピークの
輪郭を積分することによって相対量を決定した。比(軽い/重い)を0.54と
して決定した(表1)。再構成されたイオンクロマトグラムにおけるピークは、
鋸歯状のように見える。なぜなら、毎秒のスキャンにおいて、質量分析計をMS
とMSモードとの間で切り替え、選択されたペプチドイオンの配列情報(CI
D質量スペクトル)を収集した。これらのCIDスペクトルを使用して、タグ化
されたペプチドの起源となったタンパク質を同定した。図4Aは、m/z=99
8を有するペプチドイオンから記録されたCIDスペクトルをを示す(図3Aに
おける矢印に注目)。このCIDスペクトルとともにデータベース検索によって
、タンパク質をグリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(これは、タ
ンパク質の混合物の1メンバーであった)(図4B)と同定した。
【0107】
本方法のいくつかの有益な特徴を示す。第1に、少なくとも2つのペプチドを
、混合物中の各タンパク質から検出した。従って、定量およびタンパク質同定は
ともに重複し得る。第2に、同定したペプチドは全て、少なくとも1つのタグ化
されたシステイニル残基を含んだ。ペプチドにおいて、比較的稀有であるシステ
イン残基が存在することによって、データベース検索に関するさらに強力な拘束
が追加される(Sechi,S.ら、1998)。第3に、システイン含有ペプ
チドのタグ化および選択的富化(selentice enrichment)
は、6つのタンパク質の同時消化によって生成されるペプチド混合物が有する複
雑性を有意に減少させる。このタンパク質の混合物に関して、この複雑性は、2
93の強力なトリプシンのペプチドから44のトリプシンのペプチド(少なくと
も1つのシステイン残基を含む)まで減少された。第4に、アビジンアフィニテ
ィーカラムから溶出されたペプチドサンプルは、μLC−MSによる分析に直
接適合可能である。
【0108】
(種々の細胞状態におけるタンパク質発現の定量分析)
タンパク質の反応性親和性試薬戦略を、2つの非グルコース抑制状態での酵母
(S.cerevisiae)における定常状態のタンパク質発現の差異を研究
するために適用した(表3)。細胞を、炭素源として2%ガラクトースまたは2
%エタノールのいずれかを使用して、対数酵母増殖期から収集した。各細胞状態
由来の、100μgの溶解性酵母タンパク質を、異性体が異なる親和性タグ化さ
れた試薬を用いて、独立して標識した。これらの標識されたサンプルを合せ、そ
して図1に記載される戦略に当てた。サンプルの1/50(各細胞の状態由来の
タンパク質、約20μg当量)を分析した。
【0109】
グルコース抑制によって、他の炭素源で増殖するに十分な代謝機能によって多
数のタンパク質が最低限発現される(Ronn,H(1995;Hodge,P
.E.ら(1999)))。グルコースが存在しない、ガラクトースまたはエタ
ノールでの増殖によって、グルコース抑制遺伝子が発現する。表3は、分析中に
遭遇した、34の酵母遺伝子の選択を示すが、この表は、同定されたすべて公知
のグルコース抑制遺伝子を含む(Mann,M.ら(1994))。これらの遺
伝子の各々は、グルコースでの酵母増殖において最小限発現した。ガラクトース
での増殖(GAL1、GAL10)ならびにエタノールにでの増殖(ADH2、
ACH1)の両方に特異的な遺伝子を検出および定量した。
【0110】
本方法の定量的性質は、相対タンパク質レベルにおける小さな変化を正確に測
定する能力において明らかである。測定精度の証拠は、複数のペプチドが定量さ
れた、タンパク質の比を研究することによって発見された優良な一致によって見
受けられ得る。例えば、PCK1から発見された5つのペプチドは、平均比(m
ean ratio)±95%、1.57±0.15の信頼区間を有し、そして
パーセント誤差は、10%未満であった。さらに、観測された変化は、文献(R
onne,H.1995;Hodges,P.E.ら(1999))から予測さ
れる変化に一致する。最終的に、観測された変化は、二次元ゲル電気泳動の後に
試験したこれらの同一タンパク質に関する染色強度(データは示さない)におけ
る変化と一致する。
【0111】
酵母におけるイソチームのアルコールデヒドロゲナーゼファミリーは、六炭糖
(ADH1)およびエタノール(ADH2)のいずれも増殖を促進する。遺伝子
ADH2は、ともにグルコース抑制され、そしてガラクトース抑制され、TCA
サイクル(図5A)に入るアセトアルデヒドへとそれを転換することによって酵
母細胞がエタノールで完全に増殖することを可能とする酵素をコードする。糖存
在下、ADH1は、アセトアルデヒドをエタノールへと変換する、その逆反応を
実施する。これらのイソチームの調節は、酵母における炭素利用にとって重要で
ある(Ronne,H(1995))。イソチームのファミリーにわたる遺伝子
発現における差異を正確に測定する能力は、cDNA配列(array)技術を
使用して、クロスハイブリダイゼーションが原因で時折困難となる(DeRis
i,J.L.ら(1997))。図1に例示されるように適用された本発明の方
法は、たとえADH1およびADH2が93%のアミノ酸(88%のヌクレオチ
ド)配列の類似性を共有しても、各イソチームに関する遺伝子発現の測定に成功
した。この原因は、各酵素由来の親和性タグ化されたペプチドが単一のアミノ酸
残基(バリンとスレオニン)(これは、2分より多くだけ保持時間がシフトし、
そしてADH2ペプチドに関して2ダルトンだけ質量がシフトした(図5B))
によって区別されるからであった。ガラクトースがエタノールに匹敵する炭素源
である場合、ADH1を約2倍の高レベルで発現させた。ADH2発現のエタノ
ール誘発によって、グルコース誘発と比較して200倍より多くの増加が生じた

【0112】
上記の結果は、本発明の方法によって、一回の自動操作で、タンパク質混合物
の定量分析およびその中のタンパク質成分の同定が提供されることを示す。
【0113】
スルフヒドリル反応剤を使用して適用される本方法は、ペプチド混合物が有す
る複雑性を有意に減少させる。なぜなら、親和性タグ化されたシステイン含有ペ
プチドが選択的に単離されるからである。例えば、全酵母タンパク(prote
ome)(6113タンパク質)の理論的なトリプシン消化によって、344,
855ペプチドが産生されるが、これらのパンパク質のうち30,619だけが
システイニル残基を含む。従って、この混合物が有する複雑性が減少されると同
時に、タンパク質定量および同定がさらに達成される。スルフヒドリル試薬とタ
ンパク質との化学反応は、尿素、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)、
塩、ならびに反応性チオール基を含まない他の薬品の存在下で実施され得る。従
って、タンパク質は、それらが酵素的に消化されるまで、溶液中に強力な安定化
剤と共に維持され得る。μLC−MSシステムの感度はサンプルの質に依存す
る。特に、通常使用されるタンパク質安定化剤は、MSとの適合性に乏しいか、
またはMSと不適合性である。タグ化されたペプチドの親和性精製によって、M
Sに不適合性の混入物が完全に除去される。低アバンダンスのタンパク質の従来
の方法による定量および同定は、大量(ミリグラム)の出発タンパク質溶解産物
を必要とし、そしてこれらの低アバンダンスのタンパク質に関して富化のいくつ
かの型を包含する。
【0114】
上記アッセイは、約100μgのタンパク質を使用し、そして分別技術を使用
せずに開始する。このために、タンパク質の約1/50を単一のμLC−MS
機器で分析した。このシステムは、1ペプチドあたり10〜20fmolの検出
限界を有する(Gygi、S.P.ら(1999))。この原因のために、μL
C−MSのみを使用する記載のアッセイにおいて、多数のタンパク質が検出さ
れる。しかし、本発明の方法は、生化学的、免疫学的または細胞生物学的分別方
法のいずれとも適合可能であり、これらの方法によって、混合物の複雑性が減少
され、そして低アバンダンスのタンパク質が富化され、同時に、定量が維持され
る。この方法は、複数のシステインが検出される場合、定量および同定の両方が
冗長され得る。親和性タグ化されたペプチドの発現レベルにおける差異を同定す
るこの方法の能力に関連したダイナミックレンジが存在し、これは、ペプチド対
(またはセット)に対応するピークの強度、および混合物の全体的な複雑性の両
方に依存する。さらに、このダイナミックレンジは、使用する質量分析計のそれ
ぞれのタイプによって異なる。本明細書中に記載されるアッセイにおいてイオン
トラップが使用された。なぜなら、イオントラップの能力は、たとえイオントラ
ップがさらに制限されたダイナミック定量レンジを提供しても、データ依存様式
で有効量の配列情報(数千のタンパク質が潜在的に同定され得る)を収集するか
らである。イオントラップのダイナミックレンジ(シグナル対ノイズ比に基づく
)は、ペプチド対のシグナル強度および混合物の複雑性に依存して変化したが、
100倍までの較差が一般的に検出され得、そしてさらに大きな較差が、よりア
バンダンスの高いペプチドに関して決定され得る。さらに、100〜200倍よ
り多くのタンパク質発現レベルの変化によってさらに、最初の2つの細胞状態の
間における表現型の差異に対する主な強力な要因としてこれらのタンパク質を同
定する。この方法は、他の官能基に対する反応性を含むとして拡張され得る。低
いパーセンテージのタンパク質(S.cerevisiaeに対して8%)は、
システイニル残基を全く含まず、従って、スルフヒドロリル基特異性(すなわち
、チオール特異性)を有する試薬を用いた分析では見逃される。スルフヒドリル
基以外の官能基に対する特異性を有する親和性タグ化された試薬によって、また
、システインなしのタンパク質が分析に対して感受性となる。
【0115】
本発明の方法は、低アバンダンスのタンパク質、ならびに特定の物理化学的特
性(低溶解度、ラージサイズまたはスモールサイズおよび、極端なp/値を含む
)を有するタンパク質のクラスの分析に適用され得る。
【0116】
この化学および方法のプロトタイプ的な適用は、複合タンパク質サンプルおよ
び最終的には上記の好ましい用法に従う細胞および組織の全溶解産物の定量的な
プロフィールの確立である。これらの試薬に加えて、本発明の方法は、タンパク
質発現プロフィールの決定をはるかに越える適用を有する。このような適用には
以下が挙げる:
アミノ反応性またはスルフヒドリル反応性の異なる同位体で標識された親和性
タグ化された試薬の、免疫沈降した(immuno precipitated
)複合体におけるタンパク質の定量分析のための適用。この技術の好ましい改変
において、種々の状態(例えば、活性化の種々の状態、種々の疾患状態、分化の
種々の状態)を抑制する細胞由来のタンパク質複合体は、特異的な試薬、好まし
くは抗体を使用して沈降される。沈降した複合体(precipitated
complex)におけるタンパク質は、次いで、誘導体化され、そして上記の
ように分析される。
【0117】
誘発されたタンパク質リン酸化の部位を決定するための、アミノ反応性の、差
次的に同位体で標識された親和性タグ化された試薬の適用。この方法の好ましい
改変において、精製したタンパク質(例えば、種々の刺激条件下での細胞由来の
免疫沈降したタンパク質)はフラグメント化され、そして上記のように誘導体化
される。ホスホペプチドは、ESI−MS機器のイオン源におけるフラグメンテ
ーションによって、生じたペプチド混合物において同定され、そしてそれらの相
対アバンダンスは、実験サンプルのイオンシグナル強度を、含まれる同位体で標
識した基準の強度と比較することによって決定される。
【0118】
アミノ反応性の差次的に同位体で標識された親和性タグ化された試薬を使用し
て、N−末端イオンセリンをMSスペクトルで同定する。この適用の好ましい
改変において、分析されるペプチドを、アミノ基に対して特異的である、軽い同
位体の試薬(isotopically light reagent)および
重い同位体の試薬(isotopically heavy reagent)
の50:50混合物で誘導体化する。従って、CIDによるペプチドのフラグメ
ンテーションによって、2つのN−末端イオンセリンが生成され、これらは、使
用した試薬の種類の質量差によって、質量が正確に異なる。この適用によって、
誘導体化したペプチドのアミノ酸配列決定の際の困難が劇的に減少する。
【0119】
(細胞および組織における表面タンパク質の定量分析)
細胞外部膜およびその結合したタンパク質(細胞表面タンパク質)は、外部シ
グナルを感知し、環境のキューに応答する際に沈降する。細胞表面タンパク質の
アバンダンスの変化は、特定の細胞の状態またはその変化する環境に応答する細
胞の能力を反映し得る。従って、細胞表面のタンパク質成分の包括的な定量的特
徴付けは、マーカータンパク質、または特定の細胞状態に特徴的なマーカータン
パク質の型(constellation)を同定し得るか、あるいは外部刺激
に対する細胞応答に関する分子基底(molecular basis)を説明
し得る。実際、多数の細胞表面レセプター(例えば、Her2/neu、erb
B、IGFIレセプター、およびEGFレセプター)発現における変化は発癌が
意図されており、そして乳癌に対する現代の免疫学的な治療アプローチは、特異
的にHer2/neuレセプターを認識する抗体(Herceptin、Gen
entech、Palo Alto、CA)の注入(infusion)に基づ
く。
【0120】
細胞表面タンパク質はまた、実験的にアクセス可能である。細胞分類、および
細胞識別またはパニングなどの方法による特定細胞の分取単離のための診断アッ
セイは、細胞表面タンパク質に基づく。従って、正常な細胞と疾患(例えば、癌
)細胞との間の細胞表面タンパク質の種々の分析によって、重要な診断標的また
は治療標的が同定され得る。癌の診断および治療のための細胞表面タンパク質の
重要性が認識されてはいるが、膜タンパク質の分析は困難であった。それらの一
般的に低い溶解性に起因して、これらは、標準的な2Dゲル電気泳動パターンに
おいて表される傾向にあり、そして、D2電気泳動条件を膜タンパク質の分離に
適応させる試みは、制限した成功を満たす。本発明の方法は、従来技術における
原理的な制限を克服し得る。
【0121】
膜タンパク質の分析は挑戦である。なぜなら、それらは、高感度分析機器(例
えば、質量分析計)に適合性である条件下において、溶液中に維持することが一
般的に困難であるからである。本発明の方法を膜タンパク質の分析に適用するこ
とは、膜タンパク質標識および抽出のためのヒトT細胞リンパ腫細胞系統Jur
kat、ならびに十分に特徴付けられたヒト前立腺上皮細胞系統P69SV40
Tおよび2つのP69SV40T亜系統(これらは、10の因子によるIGF−
1レセプター発現が異なるを使用して例証され、膜タンパク質の定量的な種々の
分析を例証する。
【0122】
Jurkat細胞は、適切なモデルシステムである。なぜなら、これらの細胞
は容易に数多く増殖するからであり、そして種々の刺激および実験条件に応答す
る細胞表面タンパク質の調節が、Tリンパ球において十分に特徴付けされている
からである。市販のビオチン化試薬、またはより一般的な親和性タグ化試薬が用
いられ、リシン残基および遊離N−末端を誘導体化する。水溶性ビオチン化試薬
(例えば、スルホ−NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)ビオチン)、およ
び細胞表面タンパク質を標識するために広く使用されているアナログ(スルホス
クシンイミジル−6−(ビオチンアミド)−ヘキサノエート(Pierce、R
ockford、IL))が使用され得る。NHSエステルと一級アミンとの反
応は、中性のpH値およびそれを超すpHが最適であり、そしてDMSOまたは
DMFなどの有機溶媒の存在に適合性である。Jurkat細胞由来の細胞表面
タンパク質のビオチン化は、pH7.2のPBS緩衝液中で実施される。細胞(
1×10)をPBS緩衝液で洗浄して、培養培地から、汚染血清および他のタ
ンパク質を除去する。細胞を25×10細胞/mlに再懸濁し、そして0.5
mg/mlのスルホ−NHS−ビオチン(Pierce、Rockford、I
L)と30分間室温で反応させる。標識化した細胞を、冷PBSで2度洗浄し、
未反応のビオチン化試薬を除去する。ビオチン化した細胞を、1%のTrito
n X−114を含有するリシン緩衝液中、5×10細胞/mlで可溶化する
。Triton X−114は、30℃で、界面活性相および水相への相分配特
性を有する。相分配に続いて、界面活性相を300×gでの遠心分離によって水
相から除去する。相分配は、細胞膜を富化するために使用して以前に成功してい
る。また、この技術は、Jurkat細胞溶解産物からの膜タンパク質を富化す
るために見出された。Triton相を、50mMの炭酸水素アンモニウム緩衝
液(pH8.5)を使用して1:5(v/v)に希釈し、そして高純度に改変し
たブタトリプシンを12.5ng/mlの濃度で添加し、タンパク質を37℃で
一晩かけて消化する。トリプシンをセリンプロテアーゼインヒビターのカクテル
の添加によって中和し、そしてトリプシンペプチドを、アビジン親和性クロマト
グラフィー技術によって単離する。溶出したぺプチドを例えばμLC法によって
分離し、そして、例えば、Sequestプログラムを使用して、ペプチド配列
データベースを検索することによって同定する。
【0123】
SV40T抗原を使用して不朽化したヒトプロテアーゼ上皮細胞株P69SV
40Tは十分に特徴付けられている。この細胞株は不死であるが、腫瘍形成性で
はなく、そして1型インスリン様増殖因子レセプター(IGF−1R)を、2×
10レセプター/細胞で発現する。M12と呼ばれる亜系統を、雄性の胸腺欠
陥ヌードマウスにおいて、逐次継代によってP69SV40Tから誘導した。こ
の細株は非常に腫瘍形成性であり、かつ転位性であり、そして1細胞あたり1.
1×10IGF−1Rを発現する。細胞株P69SV40TおよびM12での
GIF−1Rのアバンダンスにおける相対的な差異は、膜タンパク質への適用に
適した本発明の方法を使用して定量的に決定され得る。これらの細胞株に関する
IGF−1Rの数は既に決定されているので、この十分に特徴付けられたシステ
ムは、本発明の定量的方法の効率を確証するための基準を提供し得る。
【0124】
P69SV40T細胞(1×10)は、重い同位体のビオチンタグ化された
アミノ反応性試薬を使用してビオチン化され、そしてM12細胞(1×10
は、対応する、軽い同位体のアミン反応性ビオチンタグ化されたアミノ反応性試
薬を用いてビオチン化される。IGF−1Rを次いで、ヒトIGF−1Rに対す
る抗原を使用して両方の細胞株の合わせた溶解産物から免疫沈降され、そして免
疫沈降したパンパク質の全ての塊をトリプシンで消化する。トリプシンを次いで
、例えば、インヒビターの添加によって中和し、そしてタグ化されたパプチドを
ビオチンアビジンアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。上記に
記載されるように、ペプチド定量および同定のためそれぞれLC−MSおよびL
C−MSによって、溶出したペプチドを分析する。この実験における定量は、
MSにおける選択的イオンモニタリングを使用するオプションによって容易とな
る。このモードにおいて、IGF−1Rから誘導されると予測される、タグ化さ
れたペプチドイオンの質量のみがモニタリングされるべきである。
【0125】
記載した技術は、親の前立腺細胞株(P69SV40T)とM12細胞との間
の細胞表面タンパク質の相対アバンダンスにおける差異を比較するために適用さ
れ得、これらの細胞表面タンパク質(これらの発現レベルは2つの細胞株におい
て異なり、そして種々の細胞状態が有する特徴であり得る)を検出かつ同定する
。本明細書中に記載される方法を使用して、任意の2つ以上の細胞株における細
胞表面タンパク質の一般的な相対的な定量が分析され得、種々の細胞状態のこれ
らの細胞表面タンパク質特性を検出し、そして同定する。結果は、(適切であれ
ば)1Dまたは2Dゲルなどの手順、または定量ウエスタンブロットを使用し、
独立して確認され得、定量結果を確認する。
【0126】
細胞表面タンパク質の定量の実験的変動性は、現在入手可能なcDNA配列技
術によって達成される定量の精度よりもオンサイドで(onsiderably
)良好であることが期待される。相対的なタンパク質の量および同一性に加えて
、この方法はまた、インタクトな生細胞がビオチン化試薬を除外するという推論
に基づき、膜内のタンパク質の配向を明らかにするために使用され得る。
【0127】
細胞表面タンパク質から誘導体化されたタグ化されたペプチドに対する選択性
を高めるための代替の方法が適用され得る。例えば、タグ化された細胞表面タン
パク質は、インタクトな細胞上で直接チロシン化され得、タグ化されたペプチド
を生成し、これは、議論したように、精製され、そして分析される。さらに、伝
統的な細胞膜調製は、細胞表面タンパク質を富化する最初の工程として使用され
得る。これらの方法は、タンパク質分解の前に膜タンパク質を単離するために、
ダンス型ホモジナイザーおよび一連の密度勾配遠心分離を用いた、穏やかな細胞
溶解を包含し得る。この方法は、細胞表面タンパク質が高度に富化された調製物
を提供し得る。親和性タグ化されたタンパク質はまた、タンパク質分解の前、な
らびにタンパク質分解の後に、親和性クロマトグラフィーによって単離され得る
。このクロマトグラフィーは、タンパク質の溶解度を維持するために界面活性剤
(例えば、TX−100、NP−40またはTween−20)の存在下で実施
され得る。アフィニティークロマトグラフィー工程(インタクトなタンパク質の
ための工程、およびタグ化されたペプチドフラグメントのための工程)の逐次適
用によって、高度の選択性が提供される。これらの代替の方法は、低アバンダン
スの膜タンパク質の検出に関して容易に測定可能(scalable)であり、
そしてタグ化された、タグ化されたペプチドの相対量は、選択的な富化工程によ
って維持される。
【0128】
本発明の方法の細胞表面タンパク質への適用において、一旦、タグ化されたタ
ンパク質がフラグメント化されると、これらのタグ化されたぺプチドは、より可
溶性のサンプルから生成したペプチドとは相違なく挙動する。
【0129】
(特定のタンパク質群に選択的である、親和性タグ化されたタンパク質反応性
試薬の合成)
本発明の方法の使用において適切である、例示的な親和性タグ化された薬剤の
合成経路をスキーム2〜3に示す(ここで、周知の合成技術は、重水素化されて
いない試薬および重水素化された試薬の合成に使用される)。
【0130】
ビオチニル−ヨードアセチルアミジル−4,7,10トリオキサトリデカンジ
アミン4(スキーム3)は、それぞれ、ビオチン基、適切な同位体で同位体標識
され得る化学的に不活性なスぺーサー、およびヨードアセトアミジル基からなる
。このビオチン基は、試薬を使用して誘導体化したペプチドの親和性富化(af
finity enrichment)に使用され、エチレングリコールリンカ
ーは、質量スペクトル分析のために差次的に同位体で標識され、そしてヨードア
セトアミジル基は、スルフヒドリル含有ペプチドに対する試薬の特性を提供する
。この試薬は、全ての水素の形態(軽い同位体の形態)、リンカーにおいて1〜
20個、好ましくは4〜8個の重水素原子を有する形態(重い同位体の形態)に
合成され得る。
【0131】
(細胞可溶化物における複数の酵素の速度の分析)
生化学アッセイによる酵素機能のモニタリングは、多数の分析技術(生成物の
分光光度検出、蛍光検出および放射検出を含む)を用いる不可欠な診断ツールで
ある。しかし、現在の方法は、単一のサンプル中のいくつかの酵素を同時にアッ
セイするのに使用しにくい。生物学的流体中の代謝産物のコレクションを定量化
するための質量分光法は、出生時欠損の分析のための有力なアプローチとして現
れた(Morrisら、1994)が、この分析技術は、個々の酵素的段階の速
度の直接分析のために開発されていない。細胞ホモジネートおよび他の生物学的
サンプル中の酵素活性のモニタリングおよび定量化のための、本明細書中に記載
される分析方法により、複合反応の同時(複合)モニタリングが可能になり、そ
してこれは容易に自動化され得る。
【0132】
酵素アッセイに適用されるような本発明の方法の特徴は、酵素産物および化学
的に同一の内部標準(これらは、安定同位体(重水素)標識により識別される)
を同時に検出するための、エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−M
S)(Coleら、1997)の使用である。第2の特徴は、親和性精製と組み
合わせた場合に、粗生体学的流体からの酵素産物の容易な捕捉を提供する、酵素
基質を含む親和性標識試薬の使用である。この親和性標識試薬は、リンカーを介
して親和性標識に共有結合した、目的の酵素の標的基質を含むように設計される
。基質結合における目的の酵素の作用により、その分子量を変化させる開裂また
は他の改変が起こる(スキーム4)。質量変化は、ESI−MSにより検出され
る。好ましくは、使用されるリンカーおよび親和性標識は、ESIによるイオン
化を容易にし、生物学的流体中の他の酵素の作用を阻害し、そして容易な精製の
ために複合体マトリクスからの高い選択性の捕捉を可能にする。
【0133】
このアプローチの例は、それぞれ、リソソームβ−ガラクトシダーゼおよびN
−アセチル−α−D−グルコシミニダーゼを同時アッセイするための、親和性標
識酵素基質試薬1および2の設計および合成(スキーム5)である。前者の酵素
の不足により、リソソーム蓄積症の1つである、GM−ガングリオシドーシス
が生じ、この状態は約50,000分の1の頻度で母集団において生じ、そして
発症した子供の早死をもたらす。N−アセチル−R−D−グルコサミニダーゼの
不足により、稀なリソソーム蓄積症であるB型サンフィリポ症候群が生じる。こ
の例は、Gerberら、(1999)、J.Amer.Chem.Soc.1
21:1102〜1103(これはその全体が本明細書中で参考として援用され
る)に記載されている。
【0134】
結合体1および2は、親和性標識としてのビオチンからなり、ビオチンはサル
コシンに結合される。ビオチンは、アガロースビーズに固定されたストレプトア
ビジンへの非共有結合によって、基質結合体を、高い特異性で捕捉し得る(Ba
yerら、1990)。サルコシンは、ビオチンへのN−メチル化アミド結合を
提供し、酵素ビオチナーゼ(これはしばしば、細胞流体中に存在し、アッセイ中
に結合体分子の開裂を引き起こし得る)を阻害する(Wilburら、1997
)。さらに、ビオチニル−サルコシン結合体は、ビオチンの付加によってストレ
プトアビジンから脱離し得ることが見出された。N−ビオチニルサルコシンブロ
ックは、ポリエーテルジアミンに結合され、このポリエーテルジアミンの長さは
、産物と内部標準の質量/電荷重複を避けるように変えられ得る。このリンカー
はまた、複数の重水素原子(すなわち、スキーム5、5における8個の重水素お
よび6における4個の重水素)の導入を容易にし、内部標準の合成を可能にし得
る。d8−リンカーを、触媒のNaODを含むベンゼン中で、DOCH2CH2
OCH2CH2ODをCD2dCDCNと反応させることによって作製し(As
hikaga,K.;Ito,S.;Yamamoto,M;Nishijim
a,Y.Bull.Chem.Soc.Jpn.1988,61,2443〜2
450)、そして得られたジニトリルを、Ra−Niでジアミンに還元した。d
4−リンカーを、エチレングリコール、CH3CN中のCD2dCDCNおよび
触媒のNaOHを使用して、同様に作製した。
【0135】
さらに、リンカーは親水性であり、基質結合体の良好な水溶性を保証し、そし
てこれは、ESIによって効果的にプロトン化される塩基性基を有し、従って、
質量分析法による高感度の検出を保証する。標的炭水化物基質は、β−アラニン
単位によってポリエーテルリンカーに結合される(スキーム5)。酵素産物結合
体3および4をまたスキーム5に示す。結合体1および2を、スキーム5に示さ
れるように調製した。全ての試薬を、逆相HPLCにより均質性になるまで精製
し、そして高磁場1H NMRおよびESI−MSによって同定した。基質は、
後者のp−アクリロイルアミドフェニルグリコシドへのマイケル付加によってジ
アミンスペーサーに結合され(Romanowskaetら、1994)、その
中間体は、N−ビオチニルサルコシンのテトラフルオロフェニルエステルと結合
された(Wilburら、1997)。
【0136】
β−ガラクトシダーゼおよびN−アセチル−R−D−グルコサミニダーゼのE
SI−MSアッセイは結合グリコシドの酵素的開裂に基づき、モノサッカリド、
ならびに結合体3および4(質量差は、それぞれ、162Daおよび203Da
である)を放出する。代表的な手順において、0.2mMの1および0.3mM
の2を、β−ガラクトシダーゼ欠乏症の別個の患者由来の超音波処理培養した線
維芽細胞、および羅患していないヒト由来の培養した線維芽細胞と共にインキュ
ベートした。インキュベーション後、標識化された内部標準5および6を添加し
、そしてビオチン化成分をストレプトアビジン−アガロースビーズ上に捕捉した
。細胞ホモジネートからの定量的なストレプトアビジン捕捉効率をモデル試薬で
観察した。複数回の洗浄により精製して非特異的に結合した成分を除去した後、
チオビニル化産物を遊離ビオチンにより放出し、そして溶離液をESI−MSに
より分析した。ビオチン化産物の約85%放出が、過剰のビオチンで90分間イ
ンキュベートした後に観察された。時間0に存在する全ての成分でアッセイをク
エンチすることにより、ブランクを得た。
【0137】
代表的な手順において、水(15μL)中の細胞タンパク質(75μg)を、
2(0.3mM)および1(0.2mM、細胞タンパク質の添加した5時間後に
添加した)を含む15μLの緩衝液(0.1M クエン酸Na、pH4.25)
に添加した。37℃で5.5時間インキュベートした後、この反応を、0.2M
のグリシンカルボン酸緩衝液(200μL、pH10.3)を添加してクエンチ
し、そして5および6(それぞれ1nmol)を添加した。遠心分離して細胞片
を除去した後、上清を、小さな濾過装置(micro BioSpin,Bio
−Rad)中のストレプトアビジン−アルガロース床(7nmolのビオチン結
合能力、Pierce)に充填した。5分後、遠心分離により濾過を行い、そし
てゲル床を0.1%のTritonX−100(約1分のインキュベーション、
次いでスピン)で洗浄し、次いで精製水(Milli−Q,Millipore
)で6回洗浄した。56nmolの遊離ビオチン(1〜10時間のインキュベー
ション、次いでスピン)を含む50%メタノール(25μL)で、溶離した。濾
液を50%メタノール/水で4倍に希釈し、そして1μLをESI−MSによっ
て分析した。
【0138】
ブランクのESI−MSスペクトル(図XA)は、非常に単純であり、これは
試薬1および2(m/z843および840)からの(M+H)イオンのピー
ク、内部標準5および6(m/z689および641)のピーク、および微量の
産物3および4(m/z681および637)のピークを示す。ビオチンのクラ
スターによるイオンもまたスペクトル中に現れるが、分析を妨げなかった。ブラ
ンク中の非重水素化産物の存在は、サンプルの後処理中の非酵素的基質試薬の加
水分解、または気相中の基質イオンの衝突誘導解離が原因であり得る。m/z8
43における(結合体1+H)イオンのMS/MSスペクトルは、m/z68
1における(結合体3+H)(スペクトルは示されず)の顕著なフラグメント
を与える。健康な個体由来の細胞ホモジネートと共にインキュベートしたサンプ
ルのESI−MSスペクトルは、m/z681において、β−ガラクトシダーゼ
産物、そしてm/z637においてN−アセチル−α−D−グルコサミニダーゼ
産物をはっきりと示す(図XB)。健康な患者由来の細胞を使用する3回の酵素
反応は、51±3nmol/h(mg細胞タンパク質)のβ−ガラクトシダーゼ
比活性、および1.4±0.3nmol/h/mgのN−アセチル−α−D−グ
ルコサミニダーゼ比活性を生じた。時間経過の研究は、初期の反応速度が測定さ
れたことを保証した。6人の健康な個体由来の細胞を用いて得られた値は、β−
ガラクトシダーゼの場合、36±4〜68±3nmol/h/mgの範囲であり
、N−アセチル−α−D−グルコサミニダーゼの場合、0.9±0.05〜2.
3±0.4nmol/h/mgの範囲であった。反対に、β−ガラクトシダーゼ
欠乏症の2人の患者由来の細胞を使用した場合、ブランクレベル(0.9±0.
9および0.8±0.6nmol/h/mg)より上の酵素産物は、ほんのわず
かしか観察されず、一方、N−アセチル−α−D−グルコサミニダーゼ活性は、
はっきりと検出される(図XC)。これらのスペクトルは、0.75μgの細胞
タンパク質(約1000個の線維芽細胞に相当する)を用いて得られた。従って
、ESI−MS法は、医用用途に非常に高い感度を有する。
【0139】
ESI−MSを、Finnigan LCQイオントラップ機器で行った。デ
ータを、1.5μL/分での直接注入によって、m/z625〜875の全スキ
ャンモードで収集した。比活性を、産物対内部標準のイオンピーク面積の比から
得た(30回のスキャンを平均化した)。
【0140】
基質試薬およびESI−MSを使用して酵素をアッセイするための記載された
アプローチは広く適用され得る。複合技術は、単一の反応における数十個以上の
酵素を同時にアッセイするために広がり得、希な障害の診断の確認を助ける複数
のアッセイの必要性を排除する。この方法は、特異的な生化学的経路を通る化学
的流動の速度を評価する場合に、いくつかの酵素を同時に測定するために、また
は生化学的なシグナル伝達経路をモニタリングするために、使用され得る。特に
ビオチン−ストレプトアビジンが用いられる場合、親和性標識した反応産物およ
び基質を複合体混合物から単離するための親和性標識捕捉試薬方法は、技術的に
単純であり、そして容易に自動化され得る。用いられるESI−MS検出が高感
度であるため、これはアッセイにつき、サブマイクログラム量の基質試薬を必要
とするのみであり、少ないグラムスケールでの数百個の基質試薬の合成が実用的
および経済的になる。ほとんどの酵素活性部位は溶媒に曝されているため、酵素
活性を維持したまま、親和性標識リンカーをほとんどの酵素基質に結合すること
が可能である。スキーム6は、この方法における使用に適切ないくつかのさらな
る酵素基質の構造を提供し、標識結合部位に許容な位置を矢印で示している。さ
らなる酵素基質に許容な標的部位は、酵素−基質または酵素−基質アナログ構造
のX線結晶構造を調べることによって決定され得る。標準的なコンピューターグ
ラフィックプログラムおよび有効なX線データを使用し、そして伸長した鎖のブ
チル基(親和性標識リンカーのためのモデルとして)を潜在的な標識結合部位に
結合することによって、モデル標識とのファンデルワールスオーバーラップ中に
酵素原子が存在しないことを示す適切な結合部位が予測され得る。
【0141】
上記の方法と類似した方法が、他のサンフィリポ症候群(A、CおよびD)と
関連する酵素の分析に適用され得る。SFAはヘパランスルファミダーゼと関係
し、SFCはアセチル−CoA−α−グルコサミニド(glucosamini
de)N−アセチルトランスフェラーゼと関係しそしてSFDはN−アセチルグ
ルコサミン6−スルファターゼと関係する。これらの酵素およびこれらの障害の
診断の分析に有用な代表的な親和性標識酵素基質試薬は、以下で提供される。こ
れらの方法はまた、酸スフィンゴミエリナーゼについてアッセイすることによっ
て、A型およびB型ニーマン−ピック病の診断に適用され得、そしてガラクトセ
レブロシドβ−ガラクトシダーゼについてアッセイすることによって、クラッベ
病の診断に適用され得る。これらの酵素は、現在、スキーム7に記載されるよう
に、蛍光団誘導体化試薬を使用してアッセイされる。本明細書中の方法でこれら
の試薬をアッセイするための酵素基質試薬は、蛍光団を本明細書中のA−L基で
置換することによって容易に調製され得る。親和性標識酵素基質を調製するため
のこのアプローチは、一般に、任意の公知の蛍光団誘導体化酵素基質または基質
アナログに適用可能である。
【0142】
表4は、特定の出生児欠損または疾患状態に関与する代表的な酵素を示す。こ
れらの酵素は、本明細書中に記載される方法によってアッセイされ得る。
【0143】
(炭水化物−欠乏性糖蛋白質症候群(CDGS)についての酵素的経路のアッ
セイ)
本発明の方法および試薬は、CDGS疾患の診断に適切な複数の酵素の速度を
定量化するために用いられ得る。
【0144】
Ia型およびIb型CDGSは、酵素、ホスホマンノイソメラーゼ(PMIb
)(Ib型)およびホスホマンノムターゼ(PMM2)(Ia型)(これらは、
グルコースからマンノース−1−ホスフェートへの変換のための多段階経路(ス
キーム8)(Freeze、1998)の一部である)の不足または欠如によっ
て生じる。この経路に関与する単糖類基質は、フルクトース−6−ホスフェート
、マンノース−6−ホスフェート、およびマンノース−1−ホスフェートである
。これらの単糖類は、基質結合体に変換することがいくぶん困難であり得る。な
ぜなら、糖上のどの原子が、酵素活性を損なうことなくリンカーと結合するかべ
きが推測的に明らかではないからである。しかし、PMIbおよびPMM2は、
間接的にアッセイされ得る。哺乳動物細胞のミクロソームは、ドリコール−P−
マンノースシンターゼを含み、このドリコール−P−マンノースシンターゼは、
ドリコールホスフェートとGDP−マンノースとの反応を触媒してドリコール−
P−マンノースおよびGDPを形成する(スキーム8,Chapmanら、19
80)。このシンターゼは、本発明の方法を使用し、特にビオチン−リンカー基
質を使用してアッセイされ得る。微生物PMM、およびGTPとマンノース−1
−PからGDP−マンノースを作製する酵素である、GDP−マンノースピロホ
スホリラーゼは、細菌および酵母から容易に精製され(Glaser、1966
、Preiss、1966)、そしてこれらの酵素は、外因的に酵素アッセイに
供給され得る。PMIb活性が不十分である場合、マンノース−6−Pはほとん
どまたは全く作られず、その場合、この反応順序は、フルクトース−6−Pの添
加によって開始される。マンノース−6−Pがない場合、マンノース−1−Pお
よびGDP−マンノースは作られず、その結果、結合したドリコール−P−マン
ノースはESI−MSで検出されない。外因性GTPは、必要ならば、GDP−
マンノースピロホスホリラーゼ工程に供給され、そしてATPは省かれ、その結
果、マンノース−6−Pはマンノースからは作られ得ない。PMM2をアッセイ
するために、反応順序はマンノース−6−Pで開始され、そしてPMM2の欠乏
の結果として、結合したドリコール−P−マンノースは作られない。
【0145】
キャリアドリコールは、約60〜105炭素イソプレノイドである。ドリコー
ル鎖に結合した炭水化物で作用する多くの酵素は、ドリコール鎖の有意な短縮に
対して耐性である;10および15炭素ドリコールでさえ耐性である、という証
拠が集められている(RushおよびWachter、1995)。このような
酵素は、ドリコール結合体の水溶性炭水化物部分で作用し、従ってドリコールア
ンカーを結合する必要性はほとんどまたは全くないようである。このことに基づ
いて、ドリコール−P−マンノースシンターゼの直接アッセイ、ならびにPMI
bおよびPMM2の関節アッセイのための親和性標識基質は、親和性標識リンカ
ーをショートドリコール(例えば、10−炭素ドリコールアナログのシトロネロ
ール)の非極性末端に結合することによって調製される。
【0146】
サルコシニルリンカーを含有するビオチン化ドリコール10−基質結合体(B
−S−Dol10−P)の合成は、スキーム9に示される。保護されたシトロネ
ロール(R=t−BuSiMe)は、末端アリルメチル基で位置選択的に酸化
され(McMurryおよびKocovsky、1984)、そしてアリルアル
コールはビオチンサルコシン活性エステル(R=CH)と結合される。シトロ
ネロールの1−ヒドロキシ基は、POClで連続的に脱保護およびリン酸化さ
れる(RushおよびWachter、1995)。パラレル合成において、d
−サルコシン(CDNHCDDOOH)は、内部標準として使用するため
同位体標識(重)試薬を調製するために使用される。d−サルコシンは、市販
の物質(BrCDCOODおよびCDNH)から、標準的な合成技術を使
用して容易に調製される。
【0147】
重水素化内部標準である、B−d−S−Dol10−P−マンノースは、雌
鳥の卵管ミクロソームを、GDP−マンノースおよび合成B−d−S−Dol
10−P基質結合体と共にインキュベートすることによって酵素的に合成される
(RushおよびWeachler、1995)。B−S−結合体のさらなる利
点は、アガロース−ストレプトアビジンビーズ上での特異的な捕捉、続いて遊離
ビオチンでの溶離によって、ミクロソームのマンノシル化産物の親和性精製が容
易になり得ることである。
【0148】
親和性標識ショートドリコールアナログを使用するこの方法は、一般に、炭水
化物に固定されたドリコールで作用する他の酵素をアッセイするのに適用可能で
ある。このようなアプローチは、まだ同定されていない他のタイプのCDGS中
に存在する酵素欠乏症の後に続く同定に有用である。
【0149】
II型CDGSは欠陥のあるGlcNAcトランスフェラーゼII(GlcN
Ac−T II)から生じ、このGlcNAcトランスフェラーゼIIは、ジシ
アロ−2アンテナ(biantennary)鎖の構築プロセス中、GlcNA
cを、中間体の分枝オリゴ糖中のUDP−GlcNAcからマンノース残基の2
位(コア領域(Core Region)に移動させる(スキーム10)(Sc
hachter、1986、Brockhausenら、1989)。GlcN
AcトランスフェラーゼIIは、コア領域中のマンノース残基の高い位置特異的
なグリコシル化を媒介する6種の公知の酵素のうちの1つである。コア領域は、
還元末端でチトビオシルアスパラギンに固定され、ここでアスパラギン残基は、
グリコシル化タンパク質のペプチド鎖の一部である。基質中の後者の構造単位は
、酵素活性を損失することなく、疎水性鎖によって置換され得る(Kaurら、
1991)。従って、II型CDGSのための基質結合体は、親和性標識リンカ
ー基をチトビオシルアスパラギンの還元末端(reducing end)に結
合され、ここで、アスパラギン残基は、グリコシル化タンパク質のペプチド鎖の
一部である。基質における後者の構造ユニットは、酵素活性を損失することなく
、疎水性基によって置換され得る(Kaurら、1991)。従って、II型C
DGSの基質結合体は、親和性標識リンカー基をキトビオシルアスパラギンの還
元末端に結合することによって構築される。しかし、この基質の後者の構造単位
は、酵素活性を損失することなく、疎水性鎖によって置換され得る(Kaurら
、1991)。例えば、市販のα−D−マンノ−ピラノシルフェニルイソチオシ
アネートは、ビオチン−標識リンカーに結合され得、そして5,6−ヒドロキシ
ルは、スキーム11に例示されるように選択的に保護される(Paulsenお
よびMeinjohanns、1992)。エクアトリアルな3−OHとペル−
O−アセチルマンノシル−1−トリクロロアセトアミダート(amidate)
の結合(Paulsenら、1993)は、二糖類結合体を与える(スキーム1
2)。少量の結合がアキシアルな2−OH基で起こる場合、その生成物はHPL
Cで分離され得る。脱保護の後、1級6−OHは、1/2当量のペル−O−アセ
チルマンノシル−1−トリクロロアセトアミドと結合し、コア領域結合体が生成
する。O−アセチル基の脱保護により、GlcNAcトランスフェラーゼIのた
めの基質結合体が生成し、このGlcNAcトランスフェラーゼIは、Trit
onX−100 ウサギ肝臓抽出物を使用する酵素的グリコシル移動によって、
GlcNAc−T II基質に変換され得、この反応は、調製用スケールで行わ
れた(Kaurら、1981)。
【0150】
内部標識に必要な重水素標識した誘導体の合成は、標識PEG−ジアミンビル
ディングブロックを使用することによって、並行して行われる(Gerberら
、1999)。ビオチン化三糖類は、UDP−GlcNAcおよびトランスフェ
ラーゼIIと共にインキュベートし(KaurおよびHindsgaul、19
91、Tanら、1996)、そして酵素産物の親和性精製用のB−Sハンドル
を利用することによって、四糖類(GlcNAc−T IIの産物)に変換され
る。
【0151】
(V型CDGS)
グリコシル化タンパク質のAsn残基に転移される脂質結合オリゴ糖(LLO
)は、2個のGlcNAc、9個のマンノースおよび3個のグルコースからなる
。最近、V型CDGS患者由来のミクロソームは、LLO生合成の間、1つ以上
のグルコース残基を転移させる酵素が非常に欠乏しているということが示された
(Kornerら、1998)。LLOの炭水化物単位をAsn残基に結合する
トランスフェラーゼは、グルコース欠乏LLOを識別するため、V型CDGS患
者は、糖タンパク質(例えば、トランスフェリン)に結合した少数の炭水化物単
位を有する(Kornerら、1998)。しかし、存在する少数の炭水化物単
位は全長であり、これは残りのグリコシル転移は、V型CDGS患者において起
こることを示す(Kornerら、1998)。従って、ESI−MSによるA
snグリコシル化の速度の定量化は、V型CDGS症候群の実行可能なアッセイ
を構成する。
【0152】
Asn−Xaa−Ser/Thr配列を含む、3−7アミノ酸残基を有する合
成ペプチドは、グリコシル化に良好な基質であることが示された(Roninら
、1981)。オリゴ糖トランスフェラーゼのESI−MSアッセイのための戦
略は、Asn−Xaa−Ser/Thf配列を含む適切なペプチドのB−S結合
体に依存する(スキーム13)。ヘプタペプチド、NH−Tyr−Gln−S
er−Asn−Ser−Thr−Met−NHは、以前の研究において高い活
性を示した(Roninら、1981)。ペプチドは、社内の自動合成装置を使
用する標準的なペプチド合成によって容易に入手可能である。ヘプタペプチドお
よびその糖結合体は、ESIによってイオン化され、安定な一価のイオンを与え
得る。BS−テトラフルオロフェニルエステルとNH−Tyr−Gln−Se
r−Asn−Ser−Thr−Met−NHとの結合により、このトランスフ
ェラーゼの基質が直接得られる。いくつかの産物は、オリゴ糖アンテナの酵素的
グリコシル化および続く改変から予想される。この産物は、甲状腺のラフ(ro
ugh)ミクロソームを、BS−Tyr−Gln−Ser−Asn−Ser−T
hr−Met−NHおよびDol−P−Gluと共にインキュベートし(Ro
ninら、1981a)、続いてビオチン化産物を親和性精製することによって
、酵素的に調製され得る。グリコシル化の程度の違いによる産物の分布は、ES
I−MSによってモニタリングされ得、主成分はHPLCによって精製され得る
。B−N(CD)CDCO−結合体を使用する類似の手順が、重水素化内部
標準を調製するために使用される。
【0153】
Ia、Ib、IIおよびV型CDGS症候群についてアッセイされた酵素のセ
ットのための、イオン化された基質結合体、ならびに産物および内部標準の分子
量は、表5に集められ、これは(M+H)種の中で電荷の重なり(isoba
ric overlap)は起こらないことを示す。Ia、b型産物の(M+N
a)イオンと脱マンノシル化B−(N−C)−2,2−D−Gly−
Dol10−P内部標準の(M+H)イオンとの間の接近した間隔は、Na
イオンの付加によりNa付加体として気相イオンを生成することにより、ESI
−MS条件を調節することによって、容易に回避され得る。
【0154】
単一の生物学的サンプル(例えば、細胞溶解産物)において、3つの標的酵素
の全てが同時に分析され得る。PMM2およびPMIbは同時にアッセイされ得
ない。なぜなら、これらは異なる外因性基質の添加を必要とするからである。そ
れにもかかわらず、同一のESI−MS技術を使用する2つのアッセイが、一連
の種々の方法に依存する代わりに、様々なCDGS型を診断するために使用され
得る。
【0155】
(臨床酵素学的アッセイ)
線維芽細胞ペレットを氷上で解凍する。十分な0.9%NaClを添加して、
溶解産物中の最終タンパク質濃度が約5mg/mL(典型的には、100mcL
)を得、そしてこの細胞ペレットを、氷水中で5回、適度な電力で、それぞれ2
秒間超音波処理する。全タンパク質を、BCA試薬(BCA Protein
Assayキット、Pierce)を使用して分光光学的に決定した。
【0156】
全酵素反応容量は、20〜30mcLである。基質ストック溶液は、3mM(
SFB)および2mM(GM1)の濃度に維持する。これらの濃度は、1H−N
MRシグナルの積分比対内部標準(DMFのホルムアミドプロトン)により測定
した。基質の最終濃度は、それぞれ、0.3mMおよび0.2mMである。20
〜30mcL−((基質の追加分(2〜3mcL)+(50〜70mcgの全タ
ンパク質に等しくなるのに十分な細胞サンプル容量))に等しい容量の反応緩衝
液(例えば、200mMのクエン酸ナトリウム、pH4.5)を、0.5mLエ
ッペンドルフチューブに添加し、続いて基質を添加する。サンプルを氷で冷却し
、そして患者の細胞サンプルを添加する。この反応を、37℃でインキュベート
することによって開始する。
【0157】
SFBについて:この反応系を、4.5〜6時間進行させ、この後、GM1基
質を添加し得るか、またはこの反応は、100mcLの200mMグリシンカル
ボン酸緩衝液(pH10.5)でクエンチし得る。
【0158】
GM1について:この反応を0.5時間進行させる。SFBの場合と同様にク
エンチする。
【0159】
クエンチした後、これらのサンプルを氷上に置く。内部標準を添加する(それ
ぞれ1nmol、すなわち50mcLの0.02mM溶液)。これらのサンプル
を、約15,000rpm、2分間、室温で、ペレット細胞片に対して微量遠心
する。ストレプトアビジン−アガロースビーズ(Immunopure imm
obilized streptavidin、Pierce)を、ミクロバイ
オスピンクロマトグラフィーカラム(Bio−Rad)に入れる。十分なビーズ
を添加して5nmolの全ビオチン結合能力のビーズ(典型的な結合能力は、P
ierceにより決定した場合、100pmol/mcL)を得る。サンプルの
上清をバイオスピンチューブに移し、そして室温で10分間結合させる。このサ
ンプルを約3,000rpmでスピンして、過剰の上清を除去し、次いで、0.
01%Triton X−100で1回、精製水で少なくとも5回洗浄し、中程
度にチューブをスピンして溶液を除去する。それぞれ洗浄するために、十分な洗
浄溶液を添加して、バイオスピンチューブを満たす。
【0160】
次いで、精製ビーズを30mcLの精製水で処理し、続いて、10mcLの4
mMビオチン溶液で処理する。これらのチューブの底をキャップして、漏れを防
ぎ、そして2〜8℃で2〜12時間インキュベートさせる。これらのサンプルを
、約3,000rpmでスピンして、サンプルをきれいなエッペンドルフチュー
ブに溶離する。
【0161】
次いで、サンプルを、60mcLの50%メタノール/水で希釈し、そしてイ
オントラップ質量分光計に注入する。ESI−MSスペクトルを調整して、まず
ブランクサンプル(反応をクエンチした後に添加される細胞溶解物)を分析する
ことによって、サンプルの非特異的な切断を減らす。注入したサンプルを、産物
および内部標準の(M+H+)イオンについて、1amu幅のウインドーのイ
オンクロマトグラムの積分によって分析する。
【0162】
結果を、形成された生成物nmol/インキュベーションの時間/反応混合物
中の全タンパク質ミリグラムで報告する。
【0163】
(GM1およびSFBについての、患者サンプルの臨床的分析)
患者皮膚線維芽細胞を、凍結ペレットとして得、そして使用まで−20℃で保
存した。GM1罹患した2つのサンプルおよび6つの正常なコントロールを分析
した。
【0164】
50mcLの0.9%NaClを、各患者細胞ペレットへ添加した。これらの
ペレットを、氷水中、各中程度の超音波パワーで2秒間×5回超音波処理によっ
て溶解させ、超音波処理の間において氷水中でマイクロチップを冷凍した。
【0165】
サンプルを、以下のようにBCA(Pierce)アッセイによって定量した

試薬AおよびBを、上述のように50:1の比で混合した。タンパク質標準曲
線を、ウシ血清アルブミンを、標準として、2、1、0.5、0.2、および0
.05mg/mLの濃度で使用して調製した。患者超音波処理物の一部を、水中
1:15で希釈し、そして各希釈した親サンプルの5mcLおよび標準曲線ポイ
ントを、2連で、200mcLの水を含む個々のガラス培養チューブへ添加した
。次いで、これらのサンプルを、1mLの混合BCA試薬で希釈し、ボルテック
スして混合し、そして37℃で60分間インキュベートした。これらのサンプル
を、室温まで冷却し、そして200mcLの水のみを含有するブランクに対して
分析した。これらのサンプルを、ポリスチレンキュベット中、562nmでの吸
光度をモニターすることによって分析した。平均患者吸光度値を、ブランク補正
し(blank corrected)、そして線形回帰によって標準と比較し
た。
【0166】
患者タンパク質濃度は、以下であると測定された:
1.(罹患)12.2mg/mL、2.(正常)10.8mg/mL、3.(正
常)11.9mg/mL、4.(正常)12.1mg/mL、5.(正常)10
.3mg/mL、6.(正常)7.79mg/mL、7.(正常)15.7mg
/mL、8.(罹患)11.4mg/mL。
【0167】
インキュベーションを、総計30mcLの総容量で実施した。ブランクEpp
endorf管へ添加した反応緩衝液(200mM クエン酸ナトリウム、pH
4.25)の量は、基質容量(3mcLの各基質ストック溶液、GM1について
2mMおよびSFBについて3mM、6mcLの総量)+75mcgの総タンパ
ク質に等しくなるために要求される細胞溶解物の容量の、30mcLからの、差
であった。例えば、患者1.のインキュベーション混合物は、最初に3mcLの
SFB基質溶液、6.14mcLの患者細胞溶解物、および17.86mcLの
反応緩衝液を含んだ。GM1基質を、後で、このインキュベーションに添加した
(以下を参照のこと)。
【0168】
各患者サンプルを、3連で分析した。反応混合物を、調製の間、氷上に維持し
、そしてこの反応を37℃の水浴へ移すことによって開始した。5.5時間イン
キューベーションし、3mcLのGM1基質を、各反応物に添加し、そしてさら
に0.5時間後、これらの反応物を、氷上に配置し、そして200mcLの20
0mMグリシン−カーボネート緩衝液(pH10.25)でクエンチした。
【0169】
精製手順および分析手順は、Clinical Enzymology As
say(Typical)に記載の通りである。
【0170】
得られた酵素活性は、平均標準偏差nmol生成物/時間インキュベーション
/mg全タンパク質である:
【0171】
【化4】


以下の合成方法は、スキーム14〜23を言及する。GM1−ガングリオシドー
シス(β−D−ガングリオシド欠乏)についての合成。
【0172】
(1.2,3,5,6−テトラフルオロフェニルトリフルオロアセテート(1
))
25g(0.15mol)の2,3,5,6−テトラフルオロフェノール、3
5mL(0.2mol)の無水トリフルオロ酢酸および0.5mLの三フッ化ホ
ウ素エーテラートを、アルゴン下で、18時間還流した。無水トリフルオロ酢酸
およびトリフルオロ酢酸を、室温での蒸留によって除去した。この無水トリフル
オロ酢酸の画分を、この混合物に戻し、そしてこの反応系を24時間還流した。
これを、2回繰り返した。室温での最後の蒸留の後、所望の生成物1を、減圧下
(62℃/45mmg)で蒸留し、無色液体(30g、82%)が生成した。1
H−NMR.(Gamper,H.B.、Nucl.Acids Res.,第
21巻 第145〜第150頁を参照)。
【0173】
(2.ビオチン−2,3,5,6−テトラフルオロフェニルエステル(2))
20mLの無水DMF中の2.5g(10.3mmol)量のd−ビオチンを
、アルゴン雰囲気下で、攪拌しながら60℃まで加温して、溶解した。1.7m
L(12.5mmol)のトリエチルアミン、続いて3.4g(12.5mmo
l)の1を添加した。この混合物を、2時間攪拌し、この後、溶媒をロータリー
エバポレーションによって除去した。得られた半固体を、15mLのエーテルで
2回粉末化し、白色固体を生成した(2.6g、65%)。1H−NMR.(W
ilbur,D.S.,Bioconj.Chem.,第8巻、第572〜第5
84頁を参照)。
【0174】
(3.N−メチルグリシルビオチンアミド−メチルエステル(3))
30mLの無水DMF中の2.5g(6.4mmol)量のビオチンテトラフ
ルオロフェニルエステルを、アルゴン雰囲気下で、10mLの無水DMFおよび
1.25mL(9.0mmol)のトリエチルアミン中に溶解した1.1g(7
.7mmol)のN−メチルグリシンメチルエステルヒドロクロリドの混合物へ
添加した。この反応混合物を、室温で2時間攪拌し、次いで、溶媒をロターリー
エバポレーションによって除去した。残渣をクロロホルム(2×100mL)で
抽出し、水(2×20mL)で洗浄し、そして無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
溶媒を、真空下で除去し、N−メチルグリシンビオチンアミドのメチルエステル
をオイルとして得た(2.1g、98%)。1H−NMR.(Wibur,D.
S.、Bioconj.Chem.,第8巻、第572〜第584頁を参照)。
【0175】
(4.N−メチルグリシルビオチンアミド酸(4))
N−メチルグリシルビオチンアミドメチルエステルを、1時間攪拌しながら室
温で、31mLのMeOHおよび10mLの1N NaOHの混合液中で加水分
解した。この混合物を、50mL 50% MeOH/水で希釈し、そして陽イ
オン交換樹脂水素型(hydrogen form)(AG MP−50,Bi
oRad)で中和した。この溶液を濾過し、この樹脂を50% MeOH/水で
洗浄し(3×50mL)、そして溶媒をロターリーエバポレーションによって除
去して、N−メチルグリシルビオチンアミド酸をオフホワイト固体として得た(
1.6g、90%)。1H−NMR.(Wilbur,D.S.,Biocon
j.Chem.,第8巻、第572〜第584頁を参照)。
【0176】
(5.p−アクリルアミドフェニル− −D−ガラクトピラノシド(5))
40mg(0.15mmol)のp−アミノフェニル −D−ガラクトピラノ
シドを、攪拌しながら、25mLのメタノールおよび200mcLのトリエチル
アミンに添加した。この溶液を、氷浴中で冷凍した。53.3mg(0.6mm
ol)のアクリロイルクロリドを、5mLの乾燥塩化メチレンへ溶解し、そして
この攪拌溶液へ5分間にわたって滴下した。この反応系を、室温に戻し、続いて
2時間攪拌した。次いで、この溶液を、中性pHが湿性pH紙(moist p
H paper)で得られるまで、連続の陰イオン交換樹脂および陽イオン交換
樹脂(それぞれ、AG MP−1およびAG MP−50、BioRad)で処
理した。溶媒をロターリーエバポレーションによって除去し、固体を得た(43
mg、90%)。1H−NMR.(Romanowska,A.、Method
s Enzymol.、第242巻、第90〜第101頁を参照)。
【0177】
(6.4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミンおよび5の
マイケル付加生成物(6))
20mg(0.07mmol)の5を、5mLの0.2M炭酸ナトリウム中の
80mg(0.35mmol)の4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデ
カンジアミンの攪拌溶液(pH10.5、37℃で)へ添加した。この反応を、
3日間進行させ、この後、この溶液を希トリフルオロ酢酸で中和し、そして逆相
HPLC(Vydac C−18 分取スケール(prep−scale)カラ
ム、6mL/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%T
FA))によって精製し、7.3mgの生成物を得た。(Romanowska
,A.、Methods Enzymol.、第242巻、第90〜第101頁
を参照)。
【0178】
(7.4および6のGM1基質結合体(7))
2.5mg(7.4mcmol)量の4を、1.5mLの無水DMFに、アル
ゴン雰囲気下で、攪拌しながら溶解した。5mcLのトリエチルアミン、続いて
2.3mg(8.8mcmol)の1を添加した。活性エステルの形成を、シリ
カTLC(5:1 CHCl/CHOH,Rf0.5,UV)によって、ス
ポットしたTLCプレートを空気流で簡単に乾燥することによってモニターした
。25分後、この混合物を、1mLの無水DMF中の3.2mg(5.9mcm
ol)の6へ添加した。2時間後、溶媒を真空遠心分離によって除去し、そして
最終生成物を逆相HPLC(Vydac C−18 分取スケールカラム、6m
L/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA))
によって精製した。収量4.6mg。(Analogous chemistr
y、Wilbur,D.S.,Bioconj.Chem.,第8巻、第572
〜第584頁を参照)。
【0179】
(8.1,2,10,11−オクタジューテロ(octadeutero)−
3,6,9−トリオキサ−1,11−ウンデカンジニトリル(8))
1g(9.4mmol)のジエチレングリコールを、窒素雰囲気下、10mL
の丸底フラスコ中で、2mLのDOに溶解した。DOをロターリーエバポレ
ーションによって除去し、そしてこのプロセスを4回繰り返した。d−2ジエチ
レングリコールを、25mLの乾燥ベンゼンと共に添加し、続いて1.6g(2
8.2mmol)のd−3アクリロニトリルを、攪拌しながら、アルゴン雰囲気
下で添加した。12時間後、この溶媒を減圧下で除去し、そして得られた半個体
を、クロロホルム(2×25mL)で抽出した。溶媒をロターリーエバポレーシ
ョンによって除去し、生成物を得た(1.85g、89%)。(Ashikag
a,K.、Bull.Chem.Soc.Jpn.、第61巻、第2443〜第
2450頁を参照)。
【0180】
(9.2,3,11,12−オクタジューテロ−4,7,10−トリオキサ−
1,13−トリデカンジアミン(9))
ラネーニッケル(Aldrich)を、無水メタノールで、反転およびデカン
テーションによって、5回洗浄した。50mgのこの洗浄した触媒を、20mL
の無水メタノール中に静置し、続いてテフロン(登録商標)ラインゴム隔壁(T
eflon−lined rubber septum)を取り付けた50mL
のスクリューキャップバイアル中で1g(4.6mmol)の8中に静置した。
このバイアルのヘッドスペースを、数分間、この隔壁を貫通する18ゲージ針を
介して、Hでフラッシュした。このキャップを密接にネジで締め、そしてこの
全体のアセンブリを、40psi Hまで充填し、4時間、熱水浴(80℃)
中に配置し、その後、この固体触媒を、濾過によって除去し、そしてメタノール
をエバポレートした。この最終生成物を逆相HPLC(Vydac C−18
分取スケールカラム、6mL/分、移動相:HO(0.08%TFA)/AC
N(0.08%TFA)))によって精製した。収量180mg。(Ashik
aga,K.、Bull.Chem.Soc.Jpn.、第61巻、第2443
〜第2450頁を参照)。
【0181】
(10.6の重水素化アナログ(10))
25mg(0.09mmol)の5を、5mLの0.2M炭酸ナトリウム中の
90mg(0.04mmol)の9の攪拌溶液(pH10.5 37℃で)へ添
加した。この反応を、3日間進行させ、この後、この溶液を希トリフルオロ酢酸
で中和し、そして逆相HPLC(Vydac C−18 分取スケールカラム、
6mL/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA
))によって精製した。収量6mg。
【0182】
(11.7の重水素化アナログ(11))
3mg(8.4mcmol)量の4を、アルゴン雰囲気下で、攪拌しながら、
0.7mLの無水DMFに溶解した。5mcLのトリエチルアミン、続いて2.
4mg(8.9mmcmol)の1を添加した。活性エステルの形成を、シリカ
TLC(5:1 CHCl/CHOH,Rf0.5,UV)によって、スポ
ットしたTLCプレートを空気流で簡単に乾燥することによってモニターした。
25分後、この混合物を、1mLの無水DMF中の6mg(11mcmol)の
10に添加した。2時間後、この溶媒を、真空遠心分離によって除去し、そして
最終生成物を、逆相HPLC(Vydac C−18 分取スケールカラム、6
mL/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA)
)によって精製した。収量1.8mg。
【0183】
(12.GM1内部標準結合体(12))
1.8mgの11を、攪拌しながら、2mLの100mM Tris/10m
M MgCl、pH2.3緩衝液へ添加した。15ユニット組換え −D−ガ
ラクトシダーゼ(Sigma)を添加し、そして12時間後、この混合物を、逆
相HPLC(Vydac C−18 分取スケールカラム、6mL/分、移動相
:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA))によって精製し
た。収量1.5mg。
【0184】
(ポリエーテルジアミンリンカー合成(第2生成))
合成は、以前に記載された化学(Kataky,R.ら、J CHEM SO
C PERK T 2(2) 321−327 FEB 1990)に基づき、
少しの改変および追加の2工程を伴う。例として、確立された手順からの逸脱、
ならびに追加の工程についての正確な細部を、出発物質のジエチレングリコール
について以下に概要を述べる。
【0185】
(1,11−ジシアノ−3,6,9−トリオキサウンデカン(13))
2%(w/v)水酸化ナトリウム(5mL)およびジエチレングリコール(5
.3g、50mmol)の攪拌溶液へ、アクリロニトリル(7.95g、150
mmol)を添加した。この混合物を室温で一晩攪拌し、そして50mLのジク
ロロメタンを添加した。この有機層を、ブラインで2回洗浄し、そして乾燥した
(MgSO)。この溶媒を、ロターリーエバポレーションによって除去した。
油状残渣を、200プルーフのエタノールで処理し、そして溶媒をロータリーエ
バポレーションによって除去した。これを2回繰り返して、過剰な未反応のアク
リロニトリルを除去した。生成物をさらなる精製なしに使用した。
【0186】
(ジエチル4,7,10−トリオキサトリデカン−1,13−ジオエート(1
4))
2g(9.4mmol)の13を、5mLのエタノールに溶解した。1gの濃
硫酸を、5分間にわたって徐々に添加した。この反応系を一晩加熱還流した。こ
の反応物を、40mLの塩化メチレンで抽出し、10mLの水で1回、そして1
0mLの希ブライン溶液で洗浄した。この有機層を乾燥し(MgSO)、そし
て溶媒を除去して、オイルを得た。この最終生成物を、シリカクロマトグラフィ
ー(塩化メチレン/酢酸エチル)によって精製した。
【0187】
(1,13−ジヒドロキシ−4,7,10−トリオキサトリデカン(15))
テトラヒドロフランを溶媒として使用して、記載のように正確に調製した(1
.7g、5.5mmolの14、50mLの希[CaH2]THF、0.66g
,16.5mmolの水素化アルミニウムリチウム)。一旦添加が完了すると、
過剰のLAHをエタノールでクエンチし、そしてこれらの塩を、白色沈殿が形成
されるまで飽和硫酸ナトリウム溶液を滴下することによって、沈殿させた。溶媒
を除去し、この沈殿物を、30mLのTHFで6回洗浄し、そして合わせた有機
抽出物を、エバポレートして、オイルを得た。最終生成物を、シリカクロマトグ
ラフィー(最初に、塩化メチレンで、次いで酢酸エチルで、最後にアセトンで)
よって精製した。
【0188】
(1,13−ジクロロ−4,7、10−トリオキサトリデカン(P2を使用す
るアナログ)(16))
1.1.g(4.9mmol)の15を、30mLの乾燥ベンゼン中の1.1
5g(14.6mmol)の希ピリジンへ、攪拌しながら添加し、続いて1.8
g(14.6mmol)の塩化チオニルを添加した。この混合物を、6時間加熱
還流した。氷浴中で冷却した後、5mLの3M HCLを、激しく攪拌しながら
添加した。有機層を分離し、希ブライン溶液で3回洗浄し、そして乾燥し(Na
SO)、黄色がかったオイルを得た。洗浄および溶媒の除去後、このジクロリ
ドをさらなる精製なしで使用した。
【0189】
(追加の工程)
(1,13−ジシアノ−4,7,10−トリオキサドデカン(17))
4mLのジメチルスルホキシド中の0.78g(15.5mmol)のシアン
化ナトリウムの攪拌溶液へ、80℃で、1g(3.9mmol)の16を添加し
た。2時間後、この反応物に、10mLの飽和塩化ナトリウム溶液、5mLの水
、および50mLの酢酸エチルを添加した。前述のように、この有機層をブライ
ン溶液で3回洗浄し、その後、この有機層を乾燥し(NaSO)、そして溶
媒を除去した。最終生成物を、シリカクロマトグラフィー(塩化メチレン/酢酸
エチル)によって精製した。ESI−MS:予測値、240.1;実測値、24
1.1(M+H
【0190】
(1,15−ジアミノ−5,8,11−トリオキサペンタデカン(18))
0.42g(10.4mmol)の新鮮なLAHを含有する50mLの乾燥T
HFの攪拌溶液を、アルゴン下で、15分間、穏やかに加熱還流した。15mL
の乾燥THF中の0.5g(2mmol)の17を、20分間にわたって滴下し
、穏やかな還流を維持した。未反応のLAHを、エタノールでクエンチし、そし
てこの混合物を、効率的に攪拌しながら、白色沈殿物が形成するまで、飽和硫酸
ナトリウムの滴下で処理した。この混合物を濾過し、そしてこの沈殿物を30m
LのTHFで6回洗浄した。有機抽出物を合わせ、そして溶媒をロターリーエバ
ポレーションによって除去し、オイルを得た。ESI−MS:予測値、248.
1;実測値、249.1(M+H
【0191】
(重水素化)
重水素を、重水素化アルミニウムリチウム(98%D)を使用する14および
17の還元によって、このジアミンリンカーに組み込み、d−8重水素化ジアミ
ンを達成した。この合成の他の局面は、この手順について変更されなかった。こ
れらのジオールを、後述のようにSFD結合体の構築において使用した。
【0192】
(サンフィリポ症候群B型(N− −D−グルコサミニダーゼ欠乏)について
の重要な基質合成)
(13.p−アミノフェニル− −D−N−アセチルグルコサミン(19))
20mg(0.07mmol)のp−ニトロフェニル− −D−N−アセチル
グルコサミン(Sigma)を、5mLの隔壁ラインバイアル(septa−l
ined vial)中、3mLのメタノール中の5mgの洗浄した活性炭担持
パラジウム触媒へ、攪拌しながら添加した。この隔壁を、16ゲージ針によって
貫通し、そしてこのバイアルのヘッドスペースを、Hガスでフラッシュした。
ガスを、溶液を通してゆっくりと2時間バブルさせ、この後、触媒を、ケイ
藻土(セライト)で濾過することによって除去した。溶媒をロターリーエバポレ
ーションによって除去し、半固体を得た(18mg、90%)。
【0193】
(14.p−アクリルアミドフェニル− −D−N−アセチルグルコサミン(
20))
10mg(0.03mmol)の19を、15mLのメタノールおよび100
mcLのトリエチルアミンへ、攪拌しながら添加した。この溶液を、氷浴中で冷
蔵した。15mg(0.17mmol)のアクリロイルクロリドを、2mLの乾
燥塩化メチレンに溶解し、そして5分間にわたってこの攪拌溶液に滴下した。こ
の反応系を、室温まで戻し、続いて2時間攪拌した。次いで、溶液を、中性pH
が湿性pH紙で得られるまで、連続の陰イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂
(それぞれ、AG MP−1およびAG MP−50、BioRad)で処理し
た。溶媒をロターリーエバポレーションで除去し、固体(11mg、95%)を
得た。1H−NMR.収量11mg。
【0194】
(15.3,6−ジオキサ−1,9−ノナンジニトリル(21))
2g(0.032mmol)のエチレングリコールを、30mLの乾燥ベンゼ
ン中の0.5gの乾燥水酸化カリウムへ、続いて5g(0.096mmol)の
アクリロニトリルを添加し、室温で一晩攪拌した。この反応物を濾過し、そして
溶媒をロターリーエバポレーションによって除去して、オイルを得た。最終産物
を、シリカクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール)によって精製し、
無色オイルを得た(3.2g、60%)。
【0195】
(16.4,7−ジオキサ−1,10−デカンジアミン(22))
ラネーニッケル(Aldrich)を、反転およびデカンテーションによって
、無水メタノールで5回洗浄した。50mgのこの洗浄した触媒を、20mLの
無水メタノールに静置し、続いてテフロン(登録商標)ラインゴム隔壁を取り付
けた50mLのスクリューキャップバイアル中で1g(6mmol)の21に静
置した。このバイアルのヘッドスペースを、この隔壁を貫通する16ゲージ針を
介して、Hでフラッシュした。このキャップを密接にネジで締め、そしてこの
全体のアセンブリを、40psi Hまで充填し、熱水浴(80℃)中に4時
間配置し、その後、この固体触媒を、濾過によって除去し、そしてメタノールを
エバポレートした。この最終生成物を逆相HPLC(Vydac C−18 分
取スケールカラム、6mL/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN
(0.08%TFA))によって精製した。
【0196】
(17.20および22のマイケル付加生成物(23))
5mg(0.015mmol)の20を、5mLの0.2M炭酸ナトリウム中
の13mg(0.06mmol)の22の攪拌溶液(pH10.5、37℃で)
へ添加した。この反応を、3日間進行させ、この後、この溶液を希トリフルオロ
酢酸で中和し、そして逆相HPLC(Vydac C−18 分取スケールカラ
ム、6mL/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%T
FA))によって精製した。収量6mg。
【0197】
(18.4および23のSFB基質結合体(24))
4mg(0.013mmol)量の4を、攪拌しながら、アルゴン雰囲気下で
1.5mLの無水DMFに溶解した。10mcLの乾燥トリエチルアミン、続い
て4mg(0.015mmol)の1を添加した。活性エステルの形成を、シリ
カTLC(5:1 CHCl/CHOH,Rf0.5,UV)によって、ス
ポットしたTLCプレートを空気流で簡単に乾燥することによってモニターした
。25分後、この混合物を、1mLの無水DMF中の6mg(0.012mmo
l)の23へ添加した。2時間後、溶媒を真空遠心分離によって除去し、そして
最終生成物を逆相HPLC(Vydac C−18 分取スケールカラム、6m
L/分、移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA))
によって精製した。収量4.2mg。
【0198】
(19.1,9−テトラジューテロ−3,6−ジオキサ−1,9−ノナンジニ
トリル(25))
0.5g(8mmol)のエチレングリコールを、0.1gの乾燥水酸化カリ
ウム(20mLのアセトニトリル中)に添加し、次いで1.4g(24mmol
)d−3アクリロニトリルを室温で一晩攪拌しながら添加した。この反応物を濾
過し、そして溶媒をロタリーエバポレートにより除去し、オイル状物を得た。最
終生成物をシリカクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール)により精製
し、無色のオイル状物0.9g(65%)を得た。
【0199】
(20.1,9−テトラジューテロ−3,6−ジオキサ−1,9−ノナンジア
ミン(26))
Reneyニッケル(Aldrich)を、インバージョンおよびデカンテー
ションにより無水メタノールで5回洗浄した。20mgの洗浄した触媒を無水メ
タノール(30mL)中に配置し、続いて、0.5g(3mmol)の25(T
eflonラインラバーセプタムを備えた50mLスクリューキャップバイアル
中)を配置した。このバイアルの頭隙を、セプタムを貫通する18−ゲイジ針を
介してHガスで排除した。このキャップをしっかりとねじで取り付け、そして
全アセンブリを、40psi Hでチャージし、そして温水浴(80℃)に4
時間配置し、その後、この固体触媒を濾過によって取り除き、そしてメタノール
をエバポレートした。この最終生成物を、逆相HPLC(Vydac C−18
分取−スケールカラム、6mL/分 移動相:HO(0.08%TFA)/A
CN(0.08%TFA))により精製した。
【0200】
(21.23の重水素化したアナログ(27))
20mg(0.07mmol)のp−アクリルアミドフェニル −D−ガラク
トシドを、攪拌した26(90mg、0.4mmol)(0.5mLの0.2M
炭酸ナトリウム中)の溶液に、pH10.5、37℃で添加した。この反応を3
日進行させ、この後、溶液を希釈トリフルオロ酢酸で中和し、逆相HPLC(V
ydac C−18分取スケールカラム、6mL/分、移動相:HO(0.0
8%TFA)/ACN(0.08%TFA))により精製した。収量2mg。
【0201】
(22.24の重水素化したアナログ(28))
2mg(6.3mcmol)量の4を、攪拌しながら無水DMF(1.5mL
)中に、アルゴン雰囲気下で溶解した。5mcLのトリエチルアミンを添加し、
続いて2.1mg(7.6mcmol)の1を添加した。活性エステルの形成は
、シリカTLC(5:1CHCl/CHOH、Rf0.5、UV)(空気流
でスポットしたTLCプレートを簡単に乾燥する)によりモニターした。35分
後、この混合物を4mg(7mcmol)の27(1mLの無水DMF中)に添
加した。2時間後、溶媒を真空遠心分離により除去し、そして最終生成物を、逆
相HPLC(Vydac C−18分取−スケールカラム、6mL/分 移動相
:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA))により精製した
。収量1.2mg。
【0202】
(23.SFB内部標準結合体(29))
1.2mgの28を2mLの100mM Tris/10mM MgCl2、
pH7.3緩衝液に攪拌しながら添加した。15単位の組換え型 −D−ガラク
トシダーゼ(Sigma)を添加し、そして12時間後に、混合物を逆相HPL
C(Vydac C−18分取−スケールカラム、6mL/分 移動相:H
(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA))により精製した。収量0
.7mg。
【0203】
(D型サンフィリポ症候群(スルファターゼ欠乏症)のための臨床的基質の合
成)
(24.p−アクリルアミドフェニル− −D−N−アセチルグルコサミン−
6−スルフェート(30)) 100mg(0.28mmol)の20を、10
mLの乾燥DMFに、アルゴン雰囲気下で室温で攪拌させながら添加した。89
mg(0.56mmol)の硫黄トリオキシドピリジン錯体を、2mLの乾燥D
MF中に溶解し、そして0.7×、1.1×、1.3×および1.9×当量(+
700mcL、+400mcL、+200mcL、および+600mcL)で反
応物に添加した。反応の進行を、硫酸化剤の各量の添加1時間後に15mcLの
溶液を除去することにより、5.29ppmから5.24ppmへのアノマー(
C1)プロトン化学シフトのH−NMRシフトによってモニターした。除去し
た混合物を真空遠心分離により乾燥し、d−6DMSOに再溶解し、そして分析
した。C1アノマープロトンの2形態(出発物質およびC−6スルフェート)以
上が出現すると、この反応物を−20℃で取り出し、そして保存した。この生成
物を真空遠心分離により溶媒を除去し、逆相HPLC(Vydac C−18分
取−スケールカラム、6mL/分 移動相:HO(0.08%TFA)/AC
N(0.08%TFA))により精製した。収率72%。
【0204】
(25.18および30のマイケル付加生成物(31))
25mg(0.058mmol)の30を、攪拌した83mg(0.35mm
ol)の18(5mLの0.2M炭酸ナトリウム中)の溶液に、pH10.5、
37℃で添加した。この反応を3日間進行させ、この後、この溶液を希釈トリフ
ルオロ酢酸で中和し、逆相HPLC(Vydac C−18分取−スケールカラ
ム、6mL/分 移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%T
FA))により精製した。収量10mg。
【0205】
(26.4および31のSFD基質結合体(32))
5.7mg(0.018mmol)量の4を、1.0mLの無水DMF中にア
ルゴン雰囲気下で攪拌しながら溶解した。20mcLの乾燥トリエチルアミンを
添加し、続いて5.5mg(0.020mmol)の1を添加した。活性エステ
ルの形成を、シリカTLC(5:1CHCl/CHOH、Rf0.5、UV
)(空気流でスポットしたTLCプレートを簡単に乾燥する)によりモニターし
た。25分後、この混合物を10mg(0.015mmol)の31(1mLの
無水DMF中)に添加した。2時間後、溶媒を真空遠心分離により除去し、そし
て最終生成物を、逆相HPLC(Vydac C−18分取−スケールカラム、
6mL/分 移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA
))により精製した。収量5.4mg。
【0206】
(27.1,2,14,15−オクタジューテロ−1,15−ジアミノ−5,
8,11−トリオキサペンタデカン(33))
ポリエーテルジアミンリンカーの合成、第2生成において参照される。
【0207】
(28.31の重水素化アナログ(34))
25mg(0.07mmol)の20を、攪拌した100mg(0.4mmo
l)の11(5mLの0.2M炭酸ナトリウム中)の溶液に、pH10.5、3
7℃で添加した。反応を3日間進行させ、この後、この溶液を希釈トリフルオロ
酢酸で中和し、逆相HPLC(Vydac C−18分取−スケールカラム、6
mL/分 移動相:HO(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA)
)により精製した。収量7mg。
【0208】
(29.SFD内部標準結合体(35))
4mg(12.6mcmol)量の4を、攪拌しながら無水DMF(1mL)
中に、アルゴン雰囲気下で溶解した。20mcLのトリエチルアミンを添加し、
続いて4mg(14mcmol)の1を添加した。活性エステルの形成は、シリ
カTLC(5:1CHCl/CHOH、Rf0.5、UV)(空気流でスポ
ットしたTLCプレートを簡単に乾燥する)によりモニターした。20分後、こ
の混合物を7mg(11mcmol)の34(1mLの無水DMF中)に添加し
た。4時間後、溶媒を真空遠心分離により除去し、そして最終生成物を、逆相H
PLC(Vydac C−18分取−スケールカラム、6mL/分 移動相:H
O(0.08%TFA)/ACN(0.08%TFA))により精製した。収
量2.7mg。
【0209】
(N−(d−ビオチニル−サルコシニル)−12−アミノドデカン酸(36)

化合物4(32.2mg、0.102mmol)を、減圧下(Pで)で
一晩乾燥した。乾燥DMF(2mL)を添加し、そして混合物を窒素下で溶解に
影響を与えるために加温しながら攪拌した。トリエチルアミン(34mcL)を
添加し、続いて1(20.4mcL、0.115mmol)を2つの10.2m
cL部分にわけて、5分の間隔で添加した。この混合物を、1時間室温で、窒素
下で攪拌した。12−アミノドデカン酸(24.1mg、0.112mmol、
Sigma)を、1度に添加し、そしてこの混合物を、2時間室温で、窒素下で
攪拌した。CHCl(80mL)を添加し、そして有機溶液を、1MのHCl
の2つの10mL部分で洗浄した。CHClを、ロタリーエバポレーターによ
り取り除いた。この化合物をメタノールに溶解し、そして残渣のDMFを真空遠
心分離によって除去し、そしてHPLC(Vydac 218TP、分取カラム
)によって精製した。溶媒プログラムは:0〜10分(0.06%のTFAを有
する水);10〜55分(0.06%のTFAを有する0〜100%メタノール
)であり、流速が、6mL/分である。収量31.7mg。H−NMR、ES
I−MS、計算値513.4、実測値531.4(M+H)+。
【0210】
(36のN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(37))
化合物36(9.8mg、19mcmol)を窒素下で100mcLの乾燥D
MF中に溶解した。N−ヒドロキシスクシンイミド(2.2mg、19mcmo
l)を添加し、続いてジシクロヘキシルカルボジイミド(3.9mg、19mc
mol)を添加した。この混合物を、暗闇で60時間室温で攪拌した。溶媒を、
真空遠心分離により除去し、そして残渣をCHCl/CHOH(15/1)
〜CHCl/CHOH(12/1)の勾配を用いるシリカゲルのフラッシュ
クロマトグラフィーに供した。収量9.8mg。H−NMR。ESI−MS、
計算値610.8、実測置609.7(M+H)+。
【0211】
(N−(N−(d−ビオチニル−サルコシニル)−12−アミノドデカノイル
)−プシコシン(pyschosine)(38))
化合物37(6.2mg、10mcmol)およびプシコシン((pysch
osine)(4.7mg、10mcmol、Sigma)を窒素下で200m
cLの乾燥DMF中に溶解した。ジイソプロピルエチルアミン(5mcL)を添
加し、そして、この混合物を、暗闇で2日間窒素下で攪拌した。化合物を直接H
PLCカラム(Vydac218TPセミ−分取)に注入し、そしてこのカラム
を2mL/分で0〜20分(0.06%TFAを有する水)、次いで20〜80
分(0.06%TFAを有する0〜100%のメタノール)で展開した。収量3
.8mg。H−NMR。ESI−MS、計算値957.3、実測置956.8
(M+H)+。
【0212】
(N−(N−(d−ビオチニル−サルコシニル)−12−アミノドデカノイル
)−スフィンゴシルホスホリルコリン(39))
スフィンゴシルホスホリルコリン(4.0mg、Sigma)を1mLの乾燥
DMFと共に混合し、そして溶媒を真空遠心分離によって除去した。これをさら
に2回繰り返した。最終の乾燥した残渣の重量は、2.5mg(5.4mcmo
l)であった。この残渣に、3.3mgの37(5.4mcL)、150mcL
の乾燥DMF、および2.5mcLのジイソプロピルエチルアミンを添加した。
この混合物を、暗闇で3日間窒素下で攪拌した。化合物を直接HPLCカラム(
Vydac218TPセミ−分取)に注入し、そしてこのカラムを2mL/分で
0〜20分(0.06%TFAを有する水)、次いで20〜80分(0.06%
を有する0〜100%のメタノール)で展開した。収量3.8mg。H−NM
R。ESI−MS、計算値960.3、実測置958.7(M+H)+。
【0213】
(1,13−ジアミノ−4,7,10−トリオキサトリデカンとのd−ビオチ
ンの結合体(40))
化合物2を、基本的に3の合成のために記載したように、1,13−ジアミノ
−4,7,10−トリオキサトリデカン(Fluka)と反応させた。この生成
物を、1.5mL/分で30分かけて0.06%のTFAを有する0〜100%
のメタノールを使用するHPLC(Vydac218TP、セミ−分取)により
精製した。
【0214】
(ヨードアセチル化した40(41))
化合物40を、室温で4時間窒素下で攪拌しながら、5当量のヨード無水酢酸
(Aldrich)(乾燥DMF中)で処理した。この生成物を、40について
のようにHPLCで精製した。この構造は、ESI−MSによって同定した。
【0215】
(オクタジューテロ化した41(42))
この表題化合物を、40についてのように、13−ジアミノ−4,7,10−
トリオキサトリデカンの代わりに9を使用して調製した。
【0216】
(オクタジューテロ化した42(43))
表題化合物を、41についてのように、42から調製した。この構造をESI
−MSによって同定した。
【0217】
(例示的MS技術および計測)
アミノ酸配列によるタンパク質の同定のための自動化LC−MS/MSシステ
ムが、開発されている。略図を図7に示す。オートサンプル、ESI三重極−四
重極MS/MS装置にオンライン接続されたキャピラリーHPLCシステムおよ
びデータシステムからなる、このシステムを以下の方法で操作する:タンパク質
(典型的に1Dまたは2Dゲル電気泳動により分離される)を、特定のプロテア
ーゼ(通常、トリプシン)を用いて切断し、得られた切断フラグメントをオート
サンプラーに配置する。37分おきに、オートサンプラーは、1サンプルをHP
LCシステムに注入し、そしてペプチドはキャピラリー逆相クロマトグラフィー
によって分離される。クロマトグラフィーカラムから分離されたペプチドが溶出
すると、これらのペプチドはESIプロセスによりイオン化され、MSに入り、
電荷比(m/z)に対する質量が測定される。ペプチドの強度が予め測定した強
度閾値(intensity threshold)を超える任意のペプチドイ
オンが、自動的にこの装置によって選択され、不活性ガスを含む衝突セル内で衝
突される。これらの衝突により、主にペプチド骨格の結合でのペプチドフラグメ
ント化(衝突誘発される解離(CID))が生じる。このCIDフラグメントの
質量が測定され、そしてデータシステムに記録される。ペプチドのCIDスペク
トルは、連続MS/MSスペクトルを有する配列データベースを調査することに
よって、タンパク質を同定する十分な情報を含む。このことは、Sequent
プログラムで達成される。このプログラムにより、CIDに対してMSで選択さ
れたペプチドと同じ質量を有する配列データベースで各ペプチドを同定し、同重
核の(isobaric)ペプチドの各々に対するMS/MSスペクトルを予想
する。実験的に測定されたCIDスペクトルを、コンピュータにより得られる理
論的CIDスペクトルと対応させることで、観測したペプチドが由来するタンパ
ク質を同定する。このシステムにより、十分に自動化した様式で、1サンプル当
たり40分未満のペースで、タンパク質サンプルを分析することが可能である。
各ペプチドは、独立したタンパク質の同定を意味し、そして通常多種のペプチド
が1種のタンパク質から導かれるので、この方法によるタンパク質の同定は、余
分であり、ゲル中で共遊走する(co−migrating)タンパク質に対し
て寛容である。このシステムは、ペプチド鎖の修飾された残基の検出および特徴
づけのために十分に適している。LC−MS/MS技術および得られたCIDス
ペクトルの自動化分析は、本発明の方法のために使用され得る。
【0218】
(固相抽出キャピラリー電気泳動タンデム質量スペクトル(SPE−CE−M
S/MS)によるサブ−フェムトモル感度でのタンパク質の同定)
この方法によるタンパク質の同定は、ペプチドの分離およびイオン化が著しく
高感度で実施されることを除いて、上記と同じ原理に基づく。図8は、キーとな
るデザイン要素の略図を示す。このシステムのデザインおよび操作の方法は公表
される。タンパク質消化物から誘導されるペプチドは、SPEにより濃縮され、
CEにより分離され、そしてESI−MS/MSにより分析される。得られる連
続CIDスペクトルを使用して、Sequestソフトウエアシステムで配列デ
ータベースを調査した。SPE抽出デバイスは、融合したシリカ分離キャピラリ
ーに直接パックされた寸法0.18×1mmの小さな逆相クロマトグラフィーカ
ラムである。サンプル溶液中に含まれるペプチドは、SPEデバイスにおいて吸
着され、濃縮され、見積もられた100〜300nlの有機溶媒で溶出され、そ
して5〜30nlの見積り体積まで電気泳動スタッキングおよび/または等速電
気泳動によりさらに濃縮される。次いで、これらのペプチドは、CEにより20
μmまたは50μmのi.d.キャピラリーにより分離され、ペプチドがキャピ
ラリーを離れるとき直接ESIによりイオン化される(このミクロスプレイイオ
ン化源のデザインについては参照文献13を参照のこと)。このシステムを用い
て、ペプチドの質量を、660アットモル(attomole)(20個の残基
ペプチドに対して約500fg)の感度で、33amol/μlの濃度限度で測
定され得、そしてこのタンパク質は、300amol/μl未満の濃度限度で1
0fmol(50kDaのタンパク質につき0.5ng)未満の自動的に選択し
たペプチドのCIDスペクトルにより同定され得る。この技術は、実験により得
られるペプチドの非常に高感度の分析のために使用される。自動化CID実験に
利用可能な分析時間が、CE電圧のデータ依存性調節により十分に延ばされ得る
ことも実証されている。いくつかのペプチドイオンが同時にMSで検出される場
合、このCE電圧は、自動的にドロップされる。このことで、キャピラリーの電
気浸透流が減少し、これによりペプチドイオンをCID用に選択するための利用
可能な時間の延長する結果となる。このピークパーキング(peak park
ing)技術の正味の効果は、技術の動的範囲の延長である。なぜなら、この利
用可能な増加した時間が、低イオン電流を有するイオンのCIDに使用されるか
らである。いったん、全てのペプチドイオンが分析されると、CE電圧が元々の
値まで増加することによって、電気泳動が自動的に再加速される。
【0219】
表1. α−ラクトアルブミン存在率の相対的な、余剰の定量(システインが
重い同位体のビオチン化剤により修飾された既知量の同じタンパク質との混合後

【0220】
【表1】


a 4ペプチドでは、重イオンと軽イオンとの2amuのみの差に起因して、
同位体パターンが高度にオーバーラップしたため、同位体比を分析しなかった。
【0221】
表2. 単一の分析におけるタンパク質混合物の成分の、配列同定および定量
【0222】
【表2】


* 遺伝子名は、Swiss Prot命名法に従う(www.expasy.
ch)。
† 各ペプチドについて、図3に示すように、比を計算した。
= 予測した比を、各混合物に存在する既知量のタンパク質から計算した。
# ICAT標識化システイニル残基。
【0223】
表3. 炭素源としてガラクトースまたはエタノール上で増殖するイーストか
らの、タンパク質プロフィール。
【0224】
【表3】


* 遺伝子名は、Yeast Proteome Database(YPD)
に従う(19)。
# システイニル残基はICAT標識化される。
† タンパク質発現比を、図3に記載のように計算した。
= イースト増殖のための炭素源は、2%エタノール(Eth)または2%ガラ
クトース(GAL)であった。
§ 遺伝子は、ガラクトースまたはグルコースにより抑圧されることが公知であ
る(19)。
¶ 他の8つのリボソームタンパク質を、類似の遺伝子発現レベルで検出した。
【0225】
【表4】






















表5.プロトン化およびナトリウム化(sodiated)基質結合体、生成物
、およびCDGS酵素に対する内部標準の、分子量
【0226】
【表5】


GlcNAc−GlcNAc−マンノース−(マンノース−GluNAc)
残基を含むClcNAc−T II生成物および内部標準について算出した。
【0227】
【化5】

【0228】
【化6】

【0229】
【化7】

【0230】
【化8】

【0231】
【化9】

【0232】
【化10】

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【化11】

【0234】
【化12】

【0235】
【化13】

【0236】
【化14】

【0237】
【化15】

【0238】
【化16】

【0239】
【化17】

【0240】
【化18】

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【化19】

【0242】
【化20】

【0243】
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【0244】
【化22】

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【化23】

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【化24】

【0247】
【化25】

【0248】
【化26】

【0249】
【表6】










タンパク質の混合物中のタンパク質またはタンパク質機能の迅速な定量的分析
のための、分析試薬およびこれらの試薬を使用する質量分析計に基づく方法。本
方法は、3つの部分:リンカー基(L)を介してタンパク質反応基(PRG)に
共有結合した親和性標識(A)を有する親和性標識タンパク質反応試薬を使用す
る。このリンカーは例えば、そのリンカー中の1つまたはそれ以上の原子をそれ
らの安定な同位体と置換することによって差次的に同位体的に標識され得る。こ
れらの試薬は、複合混合物からのペプチドフラグメントまたは所定のタンパク質
との反応の生成物(例えば、酵素反応の生成物)の選択的単離を可能にする。単
離されたペプチドフラグメントまたは反応生成物は、それらの混合物中のタンパ
ク質の存在またはタンパク質機能の存在を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0250】
【図1A】図1Aは、同位体的に軽い(1457.9u)および重い(1461.8)ビオチン化試薬で改変したペプチドの[M+2H]2+イオンの4amu同位体分布を示すイオン捕捉質量分析計からのズームスキャンを示す。
【図1B】図1Bは、同位体的に重い試薬で標識した既知の量のペプチドの存在下で測定した5つの異なる濃度のd0標識ペプチドのズームスキャンからの同位体比の分析から得た曲線を示す。
【図2】図2は、α−ラクトアルブミンからのシステイン修飾ペプチドのタンデム型質量スペクトルを示す。
【図3A】図3Aは、単一のペプチド対について、MSモードで操作した質量分析計の単回スキャンを示す。
【図3B】図3Bは、単一のペプチド対について、それぞれ993.8および977.7のm/z比を有する、イオン対の周囲の質量スペクトルの拡大図を示す。
【図3C】図3Cは、993.8および977.7のm/z比を有する、イオン対について再構成されたイオンクロマトグラムを示す。
【図4A】図4Aは、m/z=998を有するペプチドイオンから記録されたCIDスペクトルを示す
【図4B】図4Bは、図4AのCIDスペクトルとともに行ったデータベース検索の結果を示す。これによって、タンパク質をグリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(これは、タンパク質の混合物の1メンバーであった)と同定した。
【図5A】図5Aは、酵母におけるイソチームのアルコールデヒドロゲナーゼファミリーが、六炭糖(ADH1)およびエタノール(ADH2)のいずれも増殖を促進し、遺伝子ADH2が、ともにグルコース抑制され、そしてガラクトース抑制され、TCAサイクルに入るアセトアルデヒドへとそれを転換することによって酵母細胞がエタノールで完全に増殖することを可能とする酵素をコードし、糖存在下、ADH1が、アセトアルデヒドをエタノールへと変換する、その逆反応を実施することを示す。
【図5B】図5Bは、ADH1ペプチドの質量分析結果を示す。
【図5C】図5Cは、ADH2ペプチドの質量分析結果を示す。
【図6A】図6Aは、ブランクのESI−MSスペクトルであり、これは試薬1および2(m/z843および840)からの(M+H)イオンのピーク、内部標準5および6(m/z689および641)のピーク、および微量の産物3および4(m/z681および637)のピークを示す。
【図6B】図6Bは、健康な個体由来の細胞ホモジネートと共にインキュベートしたサンプルのESI−MSスペクトルを示し、m/z681において、β−ガラクトシダーゼ産物、そしてm/z637においてN−アセチル−α−D−グルコサミニダーゼ産物をはっきりと示す。
【図6C】図6Cは、β−ガラクトシダーゼ欠乏症の2人の患者由来の細胞を使用した場合のESI−MSスペクトルを示し、ブランクレベル(0.9±0.9および0.8±0.6nmol/h/mg)より上の酵素産物は、ほんのわずかしか観察されず、一方、N−アセチル−α−D−グルコサミニダーゼ活性は、はっきりと検出されることがわかる。
【図7】図7は、自動化LC−MS/MSシステムの概略図である。
【図8】図8は、SPE−CE−MS/MSシステムの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動化LC/MS/MSシステムであって、以下:
(a)キャピラリーHPLCと流体接続するオートサンプラー;
(b)該キャピラリーHPLCと流体接続するエレクトロスプレーイオン化三
連四重極MS/MS装置;および
(c)該オートサンプラー、キャピラリーHPLCおよびMS/MS装置と電
気接続する装置制御およびデータ分析システム
を備える、システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−184290(P2006−184290A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43216(P2006−43216)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【分割の表示】特願2002−208687(P2002−208687)の分割
【原出願日】平成11年8月25日(1999.8.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】