説明

複合シート

【課題】特に吸収性物品の表面シートとして用いた場合に、クッション性が高く、また液の透過性が高い凹凸の複合シートを提供すること。
【解決手段】上層繊維シート2の立体賦形によって、実質的に平坦な下層繊維シート3上に、上層繊維シート2からなる多数の凸部5を有する共に、凸部5間に凹部6を有する複合シート1。凹部5及び凸部6は、複合シート1の一方向に交互に配置されていると共に該方向と直交する方向にも交互に配置されている。凸部5は、前記の一方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第1壁部51及び前記の一方向と直交する方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第2壁部52を有する。各第1壁部51の坪量と、各第2壁部52の坪量とが異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸形状を有する複合シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は先に、吸収性物品の肌当接面に用いられる表面シートを提案した(特許文献1参照)。この表面シートは、着用者の肌側に向けられ且つ実質的に伸縮しないシート状物からなる上層と、吸収体側に配され且つ実質的に伸縮しないシート状物からなる下層とを有するものである。上層と下層とは部分的に接合されており、その接合によって多数の接合部が表面シートに形成されている。上層は、接合部以外の部分において着用者の肌側に向けて突出して、多数の凸部を形成している。この表面シートは、漏れ防止性、特に軟便や経血などの高粘性液の漏れ防止性に優れたものであり、また吸収した液の隠蔽性の高いものである。
【0003】
しかし、吸収性物品に対する性能向上の要求はとどまるところを知らず、従来よりも一層性能の向上した吸収性物品が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−174234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術よりも更に性能が向上した複合シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上層繊維シートと下層繊維シートとの接合体からなり、上層繊維シートの立体賦形によって、実質的に平坦な下層繊維シート上に、上層繊維シートからなる多数の凸部を有すると共に、凸部間に凹部を有する複合シートであって、
前記凹部及び前記凸部は、複合シートの一方向に交互に配置されていると共に該方向と直交する方向にも交互に配置されており、
前記凸部は、前記の一方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第1壁部及び前記の一方向と直交する方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第2壁部を有し、更に各第1壁部の上辺及び各第2壁部の上辺と連なる天面部を有し、
各第1壁部の坪量と、各第2壁部の坪量とが異なっている複合シートを提供するものである。
【0007】
また本発明は、周面が凹凸形状となっており且つ一方向へ回転する第1のロールと、第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有し且つ第1のロールと反対方向へほぼ同速で回転する第2のロールとを用い、
これらのロールの周速よりも高速で上層繊維シートを供給し、該上層繊維シートを両ロール間に噛み込ませ、
噛み込ませた上層繊維シートを、吸引によって第1のロールの周面に沿わせた状態下に、両ロールの噛み合わせによって上層繊維シートを凹凸賦形し、
吸引によって第1のロールにおける周面に上層繊維シートを凹凸賦形された状態のまま保持しつつ下層繊維シートを重ね合わせ、該下層繊維シートを、第1のロールにおける凸部上に位置する上層繊維シートと接合する複合シートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合シートは、これを例えば吸収性物品の表面シートとして用いると、クッション性が高く、また液の透過性が高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には本発明の複合シートの一実施形態の要部拡大図が示されている。図1に示す複合シート1は、上層繊維シート2と下層繊維シート3との接合体から構成されている。複合シート1は、上層繊維シート2の立体賦形によって、実質的に平坦な下層繊維シート3上に、上層繊維シート2で形成された多数の凸部5を有すると共に、凸部5間に凹部6を有している。上層2と下層3とは多数の接合部6aにおいて部分的に接合されている。上層2は、着用者の肌側に向けて突出しており、それよって前記の凸部5を形成している。凸部5の内部は中空状、即ち空洞になっている。隣り合う凸部5の間は凹部6になっている。
【0010】
凹部5及び凸部6は、図1に示すX方向に沿って交互に配置されている。これと共に凹部5及び凸部6は、X方向と直交する方向であるY方向に沿っても交互に配置されている。複合シート1を上層繊維シート2の側から平面視すると、凸部5及び凹部6は、千鳥格子状に配置されている(後述する図2参照)。凸部5及び凹部6がこのように配置されていることで、複合シート1を例えば吸収性物品の表面シートとして用いると、該シート具備する吸収性物品においては液漏れが極めて効果的に防止される。詳細には、複合シート1を例えば使い捨ておむつ、特に高粘度の排泄物である軟便を排泄する低月齢児用のおむつの表面シートとして用いた場合には次の効果が奏される。軟便は高粘度であることから、一般に表面シートを速やかに透過しづらく表面シート上に滞留して横流れを起こしやすい。これに対して、本実施形態の複合シートを用いれば、軟便は、凸部5によって取り囲まれて形成された閉じた凹部6内に捕捉されるので横流れが起こりづらくなる。また捕捉されることに起因して下方向(つまり吸収体方向)への移動が促進される。その結果、軟便の漏れが防止される。また、凸部5はその内部が空洞であることから、吸収体に吸収された軟便の色が、表面シート側から見て減殺されるという隠蔽効果もある。これらの効果は、軟便と同様に高粘度の排泄物である経血を吸収するための生理用ナプキンの表面シートとして、本実施形態の複合シート1を用いた場合にも同様に奏される。
【0011】
凸部5は、図1に示すX方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第1壁部51を有している。また凸部5は、X方向と直交する方向であるY方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第2壁部52を有している。更に凸部5は、各第1壁部51の上辺及び各第2壁部52の上辺と連なる天面部53を有している。凸部5は全体として稜線が丸みを帯びた扁平な直方体又は截頭四角錐体となっている。更に凸部5は、天面部53と対向する面である底面部54を有している。第1壁部51、第2壁部52及び天面部53は上層繊維シート2から構成されている。一方、底面部54は下層繊維シート3から構成されている。
【0012】
図2には、図1に示す複合シート1の平面図が示されている。図2に示すように、凸部5と凹部6とが交互に配置されてなる列(図2中、X方向の列)と直交する方向(即ち、Y方向)に関して、凹部6には、接合部6a、非接合部6b及び接合部6aがこの順で形成されている。X方向に関して、非接合部6bは一直線上に位置している。図2に示すように、1つの凸部5は、6つの接合部6aによって取り囲まれている。
【0013】
本実施形態の複合シート1においては、図1及び図2に示すX方向が、複合シート製造時の機械方向(MD)に一致している。そしてY方向が、複合シート製造時の幅方向(CD)に一致している。
【0014】
図3(a)及び(b)には、図1及び図2に示す凸部5の断面が模式的に示されている。図3(a)は、凸部5をX方向(MD)と平行に切断した状態を示しており、天面部53、底面部54一対の第2壁部52が示されている。図3(b)は、凸部5をY方向(CD)と平行に切断した状態を示しており、天面部53、底面部54一対の第1壁部51が示されている。図3(a)と図3(b)との対比から明らかなように、凸部5は、各第1壁部51の坪量と、各第2壁部52の坪量とが異なっている。詳細には、各第1壁部51の坪量が、各第2壁部52の坪量よりも低くなっている。第1壁部51と第2壁部52の坪量が異なることによって、本実施形態の複合シート1は次の利点を有するものとなる。複合シート1を例えば吸収性物品の表面シートとして用いると、坪量の低い第1壁部51から優先的に液が透過しやすいことに起因して、排泄された液の透過性が、従来の表面シート(例えば前述の特許文献1に記載のもの)よりも高くなる。また、複合シート1を例えば吸収性物品の表面シートとして用いると、坪量の高い第2壁部52によるクッション性が高くなり、複合シート1の風合いが良好になる。このように複合シート1は、通液性を確保しつつ、クッション性等の風合いが良好なものである。
【0015】
第1壁部51と第2壁部52の坪量は、第1壁部51と第2壁部52を切り取り、切り取り面積と重量を測定し算出する。測定には、第1壁部及び第2壁部を複数(好ましくは10個以上)切り取ってそれぞれ坪量を算出し、その平均値で第1壁部51と第2壁部52の坪量が異なるか否か比較する。また、第1壁部51と第2壁部52の坪量が異なるか否かは、これらの部位を顕微鏡観察により、繊維本数の測定をすることなどによっても判断することができる。
【0016】
第1壁部51は、その坪量が極端に低い場合には、その一部に開孔が形成される場合がある。そのような開孔は、本実施形態の複合シート1において凸部5の液透過性を制御する上で有利なものとなる。第1壁部51に開孔が形成される場合、該開孔は、相対向する第1壁部51の双方に形成されてもよく、或いは一方にのみ形成されてもよい。
【0017】
本実施形態の複合シート1を例えば吸収性物品の表面シートとして用いる場合には、凸部5はその高さH(図1参照)が、0.3〜10mm、特に0.7〜5mmであることが好ましい。また、X方向(MD)に沿う凸部5の底部寸法Aは1.5〜30mm、特に2〜5mmであることが好ましい。Y方向(CD)に沿う底部寸法Bは1.5〜30mm、特に2〜10mmであることが好ましい。また、凸部5の底面積は2.25〜900mm2、特に4〜50mm2であることが好ましい。
【0018】
X方向(MD)での凹部6の長さC(図2参照)は、0.1〜20mm、特に0.5〜5mmであることが、高粘度の排泄物の横流れを起こりづらくさせ得る点、及び肌触りが良好でクッション感が高い点から好ましい。
【0019】
上層繊維シート2及び下層繊維シート3は同一の又は異なる繊維シートからなる。この繊維シートは実質的に非伸縮性である。このような繊維シートを用いることによって、所望とする寸法の凹凸形状を形成するにあたり、後述する第1及び第2の凹凸ロールの凹凸形状にほぼ即した複合シート1を安定的に且つ再現性良く製造できる。実質的に非伸縮性である繊維シートとは、例えば特にMD方向の伸長限界が105%以下であり、それを超える伸長では材料破壊を起こすか又は永久歪みが発生するものをいう。
【0020】
繊維シートとしては、実質的に非伸縮性であるものであれば、特に制限なく使用することができる。例えばカード法により製造された不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布及びニードルパンチ不織布等の種々の不織布が挙げられる。不織布の構成繊維の繊度は1〜20dtex、特に1.5〜4dtexであることが、複合シート1の強度確保、肌触りの向上等の点から好ましい。
【0021】
上層繊維シート2の坪量は、10〜100g/m2、特に10〜30g/m2であることが好ましい。一方、下層繊維シート3の坪量は、5〜50g/m2、特に10〜30g/m2であることが好ましい。上層繊維シート2及び下層繊維シート3を含めた複合シート1の全体の坪量は、15〜150g/m2、特に20〜60g/m2であることが好ましい。
【0022】
複合シート1を吸収性物品の表面シートとして用いる場合、図1に示すX方向(MD)が吸収性物品の長手方向と一致し、且つY方向(CD)が吸収性物品の幅方向と一致するように、吸収性物品に組み込まれることが好ましい。即ち、凸部5における第1壁部51が吸収性物品の長手方向に沿って位置し、且つ第2壁部52が吸収性物品の幅方向に沿って位置することが好ましい。このように複合シート1を配することで、複合シート1のクッション感を着用者に知覚させることができる。この理由は、特に股間部における吸収性物品の幅方向への圧縮変形に対し、その変形方向に直交する第2壁部52の坪量が高いので、凸形状の潰れ変形防止に有利だからである。
【0023】
次に、本実施形態の複合シート1の好ましい製造方法を図4ないし図6を参照しながら説明する。図4に示すように、先ず、上層繊維シート2を原反(図示せず)から繰り出す。これとは別に、下層繊維シート3を原反(図示せず)から繰り出す。繰り出された上層繊維シート2を、周面が凹凸形状となっている第1のロール11と第1のロール11の凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2のロール12との噛み合わせ部に噛み込ませて上層繊維シート2を凹凸賦形する。第1のロール11は、図4に示すように一方向へ回転している。第2のロール12は、第1のロール11と反対方向へほぼ同速で回転している。
【0024】
図5及び図6には、第1のロール11の要部拡大図が示されている。本実施形態のロール11は、平歯車からなる歯車11c及びスペーサー11dを複数枚組み合わせ、これらを回転軸15に同心状に取り付けてロール状に集積したものである。歯車11c及びスペーサー11dは何れも同じ幅を有している。歯車11c及びスペーサー11dはその中心が開口しており、その開口部に回転軸15が挿入される。歯車11c及びスペーサー11d並びに回転軸15にはそれぞれ切り欠き部(図示せず)が形成されており、該切り欠き部にキー(図示せず)が挿入される。これによって歯車11c及びスペーサー11dの空回りが防止される。
【0025】
スペーサー11dは、図6に示すように、中心から放射状に延びる多数の突起であるビーム11eを有する形状となっている。スペーサー11dにおける各ビーム11eは、その長さが何れも同じになっている。各ビーム11eの先端を結ぶことで仮想的に形成される円の直径を便宜的に歯先円直径と定義すると、該歯先円直径は、歯車11cの歯先円直径よりも小さくなっている。また歯車11cの歯数はスペーサー11dにおけるビーム11e数の整数倍となっている。具体的には、本実施形態に用いられるスペーサー11dのビーム11e数が7であるのに対して、歯車11cの歯数はその整数倍である21になっている。
【0026】
第1のロール11においては、1枚のスペーサー11dに対してその両側にそれぞれ1枚ずつの歯車11cが配されて、これらの3枚を一組とした歯車群16が複数組配されている。各歯車群16においては、歯車11c及びスペーサー11dは、歯車11c及びスペーサー11dの歯がロールの回転軸方向に並列するように配されている。これによって各歯車群16においては、ロール11の回転方向に沿って凸部17と凹部18とが交互に形成される。凸部17は、歯車群16(つまり2枚の歯車11cと1枚のスペーサー11d)のそれぞれの歯がロール11の回転軸方向に並列して形成されたものであるか(図5中、符号17aで示す)、或いは2枚の歯車11cの歯がロールの回転軸方向に並列して形成されたものである(図5中、符号17bで示す)。一方、凹部18は、2枚の歯車11cの歯間で形成されたものである。凸部17の幅は、複合シート1の凹部6におけるY方向の寸法を決定する。
【0027】
歯車群16は二組以上用いられる。各歯車群16は、隣り合う歯車群16,16における凹凸部のピッチが互いにずれるように配される。本実施形態においては、隣り合う歯車群16,16は凹凸部が半ピッチずれている。
【0028】
各歯車群16においては、2枚の歯車11c間に、ロール11の回転方向に沿って、一定の間隔をおいて空隙部19が複数形成されている。各空隙部19は、2枚の歯車11cと、これらの間に位置するスペーサー11dとで形成されている。更に詳細には、各空隙部19は、2枚の歯車11cの相対向する側面と、スペーサー11dにおける隣り合う2つのビーム11eによって画定される。従って空隙部19は、スペーサー11dにおけるビーム11eの数と同数形成されることになる。空隙部19は、先に述べた凹部18において外部に向かって開口している。
【0029】
歯車11cには、回転軸15が挿入される中心の開口部を取り囲むように複数の開口部20が形成されている。各開口部20は同径であり、歯車の中心からそれぞれ等距離の位置に形成されている。隣り合う開口部20,20と歯車の中心とがなす角度は何れも等しくなっている。各歯車11cにおける開口部20の個数は、スペーサー11dにおけるビーム11eの数と同数になっている。そして、各歯車群16を組み付ける場合には、各開口部20が、スペーサー11dにおける隣り合うビーム11e間にそれぞれ位置するように、歯車11c及びスペーサー11dを配置する。つまり、開口部20を、隣り合う2つのビーム11eとスペーサー11dの中心部11fとで画成される略V字形の領域内に位置させる。なお、図5では、前記の略V字形の領域内に開口部20の全域が包含されているが、これに代えて、略V字形の領域内に開口部20の一部のみが包含されてもよい。この部位は、歯車11cに設けられた各開口部20をそれぞれ独立に区画する区画部となる。そして、上述の略V字形の部位が凹部18に通じている。このように各歯車群16を組み付け、更にそれぞれの歯車群16を凹凸部のピッチがずれるように配した状態においては、それぞれの歯車11cの開口20が、ロール11の回転軸方向に連なって、該回転軸方向に延びる複数の吸引路21がロール11の内部に形成される。そして各吸引路21は、先に述べた空隙部19と連通する。空隙部19は、吸引路21の一部を構成している。
【0030】
以上の説明から明らかなように、スペーサー11dは、ロール11内に個々独立した区画室を形成するために用いられる。この区画室は、上述した凹部18に通じている。また、上述した吸引路21にも通じている。吸引路21の少なくとも一端は、ブロワや真空ポンプなどの吸引源(図示せず)に通じている。したがって、吸引源を作動させて吸引操作を行うと、凹部18aから吸引路21を通じ、ロール11の周面からロール11の内部に向けて空気が吸引される。
【0031】
またスペーサー11dは、区画室の形成の他に、歯車11cをその側面から支持して第1のロール11自体に強度を付与する目的でも用いられる。特に、目的とする複合シート1に形成される凸部5のサイズを小さくしたい場合には、歯車11cの厚みを小さくする必要があるところ、このことは歯車11cの強度低下を招く。このような場合に、スペーサー11dのビーム11eが梁となり、歯車11cの歪み防止としての有用性が顕著となる。
【0032】
本実施形態のロール11は特に小ピッチで小凸部を多数形成する場合に有効である。本実施形態のロール11では、低モジュールな平歯車を用いても、スペーサー11dの厚みを大きくしたり、またビーム11eの数を少なくしたりすることにより空隙部19を大きくできる。その結果、吸引孔の面積を充分に確保することができる。更に、歯車やスペーサーの組み合わせや幅を変更するだけの簡単な操作で、凸部のピッチや大きさを自由に変更できるという利点もある。
【0033】
第2のロール12の構造に関しては、第1のロール11と噛み合い形状である限り特に制限はない。第2のロール12は、第1のロール11と同様に、複数の歯車を集積させて構成されることが、ロール12の構造に自由度を与えられる点から好ましい。複数の歯車を集積させて第2のロール12を構成する場合には、例えば第1のロール11において用いられている歯車11cと同様の歯車を用い、これを円盤スペーサーと組み合わせた構造を採用することができる。また円板スペーサーを用いずに前記の歯車のみで第2のロール12を構成することもできる。
【0034】
第1のロール11で用いられている歯車11cと同様の歯車と、円板スペーサーとを組み合わせて第2のロール12を形成する場合には、歯車と円盤スペーサーを交互に集積する。このとき、歯車の軸方向の位置は、第1のロール11と第2のロール12とを噛み合わせた状態で、第2のロール12における前記の歯車の凸部が、第1のロール11の凹部18の中央域に位置するように調整する。円盤スペーサーの直径は、歯車の歯底円直径以下の寸法となっていることが好ましい。また、第2のロール12で用いられる歯車の厚みを、第1のロール11で用いられる歯車11cの厚みよりも大きくすることで、第2のロール12に形成される凸部の寸法を大きくすることができる。
【0035】
第2のロール12として彫刻ロールを用いることもできる。尤も、彫刻ロールを用いるよりも、上述したように、歯車と円板ロールとを集積してなるロールを用いることが好ましい。この理由は次のとおりである。第1のロール11が複数の歯車11cとスペーサー11dで構成されていることに起因して、それぞれの歯車11c及びスペーサー11dを加工する時の厚みの誤差がロール11に集積されるので、第1のロール11に噛み合わせる第2のロール12を彫刻加工するには、ロール全体の加工調整が必要となってしまう。それに比べて集積方法では、円盤スペーサーの厚みを修正するのみで、第1のロール11の誤差に対応可能なので、噛み合い位置の調整が容易で、かつ最小部品加工で対応できるという利点がある。
【0036】
再び図4に戻ると、第1及び第2のロール11,12の周速よりも高速で上層繊維シート2を供給する。この操作によって上層繊維シート2に凹凸賦形するときのMD方向の変形を防止することができる。上層繊維シート2の凹凸賦形の程度にもよるが、上層繊維シート2の供給速度は、ロール11,12の周速の1.01〜2.0倍、特に1.05〜1.4倍とすることが好ましい。この供給量は、凹凸の高さに応じて決定される。
【0037】
ロール11,12の周速よりも高速で上層繊維シート2を供給しながら、吸引によって第1のロール11の周面に上層繊維シート2を沿わせる。この操作によって、上層繊維シート2に凹凸賦形するときのCD方向の縮みを防止することができる。上層繊維シート2の吸引の程度は、上層繊維シート2が第1のロール11の表面に沿う程度であればよく、ロール11の凹部内にまで上層繊維シート2が入り込むことまでは要しない。上層繊維シート2を吸引するには、第1のロール11に設けられた吸引路21(図5参照)を通じて吸引手段によってロール11の外周から内部に向けて空気を吸引すればよい。
【0038】
上層繊維シート2を第1のロール11に沿わせる角度としては、第1のロール11の中心に対して2〜10度、特に5〜10度であることが好ましい。角度を極端に大きくすると、ロール周速より高速で供給する上層繊維シートが、第1のロール11と第2のロール12間に噛み込まれる前に、第1のロール11の周面上で弛み、しわを発生させることになる。
【0039】
第1のロール11による吸引状態を維持しながら、上層繊維シート2を両ロール11,12間に噛み込ませて上層繊維シート2を凹凸賦形する。吸引状態は、第1のロール11と第2のロール12との噛み合い部から上層繊維シート2と下層繊維シート3との合流部までの間で維持される。その結果、第1のロール11と第2のロール12との噛み合いによって凹凸賦形された上層繊維シート2は、第1のロール11に形成された空隙部19による吸引力によって該ロール11の周面に密着し、その凹凸賦形された状態が保持される。吸引を行わない場合には、上層繊維シート2が第1のロール11の周面から浮き上がってしまい、結果として所望の凹凸形状を有するシートを得ることができない。
【0040】
凹凸賦形によって、図1に示す凸部5及び凹部6が形成される。この場合、上述のとおり、上層繊維シート2は、その供給速度がロール11,12の周速よりも高速なので、シート2のMD方向に関してシート2の伸長をほとんど伴うことなく凹凸賦形が行われる。凹凸賦形に起因してシート2の見掛けの長さが短くなる分が、シート2の高速供給によって補填されるからである。したがって、凹凸賦形によって生じる凸部5における壁部のうち、上層繊維シート2の搬送方向と直交する方向に沿って位置する壁部である第2壁部52の坪量は、凹凸賦形前の上層繊維シート2の坪量と大きく相違しない。これに対して上層繊維シート2の搬送方向に沿って位置する壁部である第1壁部51の坪量は、凹凸賦形前の上層繊維シート2の坪量よりも大きく低下する。この理由は、凹凸賦形に起因してシート2の見掛けの幅は短くなり幅縮みが生ずる筈のところ、上述のとおり、上層繊維シート2は、両ロール11,12間に噛み込まれるまで、吸引によって第1のロール11の周面に沿った状態になっているので、前記の幅縮みが規制される。その結果、幅縮みに代えてシート2がその幅方向へ塑性的に変形される。この変形によって、第1壁部51の坪量は、凹凸賦形前の上層繊維シート2の坪量よりも大きく低下する。以上のメカニズムによって、各第1壁部の坪量が、各第2壁部の坪量よりも低くなる。
【0041】
次いで、上層繊維シート2を第1のロール11の周面に引き続き密着させた状態下に、図4に示すように、別に繰り出されている下層繊維シート3を重ね合わせる。そして上層繊維シート2と下層繊維シート3とを重ね合わせたものを、第1のロール11とアンビルロール13との間で挟圧する。これによって、第1のロール11における凸部上、つまり各歯車の歯の上に位置する上層繊維シート2が下層繊維シート3と熱融着によって接合される。挟圧においては、アンビルロール13のみを所定温度に加熱しておく。必要に応じ第1のロール11とアンビルロール13の両方を加熱してもよい。一般には、アンビルロール13の加熱のみで十分である。第1のロール11も加熱すると、場合によっては凹凸賦形された上層繊維シート2が熱によるダメージを受けたり、風合いが低下したりすることがある。なお、上層繊維シート2と下層繊維シート3とを熱融着によって接合することに代えて、接着剤による接着や超音波接合によってこれらの層を接合してもよい。
【0042】
図7には、図4とは異なる装置を用いた複合シート1の製造方法が示されている。図7に示す装置が図4に示す装置と異なる点は、ロール11,12による上層繊維シート2の噛み込み前におけるシート2の吸引保持である。図4においては、上層繊維シート2は第1のロール11の周面に沿って保持されていたが、図7に示す装置においては、吸引によって第2のロールの周面に上層繊維シート2を沿わせている。そして、ロール11,12によって上層繊維シート2を噛み込ませるときには、第2のロール12による吸引から第1のロール11による吸引に切り替えて、シート2の凹凸賦形を行う。図7に示す装置を用いても、図4に示す装置と同様に首尾良く複合シート1を製造することができる。
【0043】
このようにして製造された複合シート1は、上述のとおり吸収性物品の表面シートとして好適に使用される。吸収性物品は一般に液透過性の表面シート、液不透過性の裏面シート及び両シート間に介在配置された液保持性の吸収体を有して構成されている。また得られたシートは、吸収性物品の表面シート以外の用途、例えば吸収性物品の裏面シート、表面シートと吸収体の間に配置される中間シート、ファスニングテープを備えた使い捨ておむつにおける該ファスニングテープの基材シートや該ファスニングテープが係合するランディングテープ用シート、ウイングを備えた生理用ナプキンにおける該ウイングの基材シート、メカニカルファスナのループ部材用パネル材、清掃用シート、清拭シート等としても用いることができる。
【0044】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、凸部5及び凹部6が千鳥格子状に配置され、凹部6の前後及び左右が凸部5で取り囲まれて閉じた凹部となっていたが、この凹部は閉じておらず、その一部が他の凹部とつながっていてもよい。
【0045】
また、前記実施形態においては、複合シート1における凸部5及び凹部6の列(図1におけるX方向の列)は、隣り合う列と半ピッチずつずれて、千鳥格子状に配置されていたが、半ピッチ以外のずれで配置されていてもよい。
【0046】
また、凸部5は全体として半球体の形状でもよい。この場合、第1壁部51は複合シート1の一方向に沿って形成されている湾曲した曲面となる。
【0047】
また、前記実施形態においては、第1壁部51が吸収性物品の長手方向に沿って位置し、第2壁部52が吸収性物品の幅方向に沿って位置していたが、第1壁部51及び第2壁部52の沿う方向はこれに限られない。例えば幅の広い複合シート1を形成して、所定長さに切断した後に90度方向を変えることによって、第2壁部52を吸収性物品の長手方向に沿って位置させ、かつ第1壁部51を吸収性物品の幅方向に沿って位置させることができる。
【0048】
また、前記実施形態においては、歯車11cとスペーサー11dは同じ幅で構成されていたが、両者は異なる幅であってもよい。さらに、一の歯車群における幅を、他の歯車群における幅と異ならせてもよい。
【0049】
また、前記実施形態においては、歯車11cの歯数はスペーサー11dにおけるビーム11eの数の整数倍で構成されていたが、必ずしも整数倍でなくてもよい。
【0050】
また、前記実施形態においては、スペーサー11dにおけるビーム11eの歯先円直径が、歯車11cの歯先円直径よりも小さかったが、これに代えて両者を同じにしてもよい。この場合に得られる複合シート1においては、ビーム11eの先端も接合に寄与するので、複合シート1の凹部6において、前記の実施形態では非接合部6bであった部位が接合部になる。
【0051】
また、歯車11cに形成されている複数の開口部20は、第1のロール11の周面で凹凸賦形された上層繊維シート2の凹凸が保持可能であれば同径でなくてもよい。また歯車11cの中心からそれぞれ等距離の位置に形成されてなくてもよい。さらに、隣り合う開口部20,20と歯車の中心とがなす角度についても等しくなくてもよい。
【0052】
また、前記実施形態においては、複合シート1における凸部5の内部は中空であったが、これに代えて凸部5の内部を繊維で満たしてもよい。
【0053】
さらに、前記実施形態においては、第1及び第2のロール11,12に噛み込ませる前の上層繊維シート2を、第1又は第2のロール11,12の周面に沿わせたが、この沿わせる操作を行わずに、上層繊維シート2を両ロール間に噛み込ませてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の複合シートの一実施形態を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1に示す複合シートをその上層繊維シート側からみた平面図である。
【図3】図1に示す複合シートの凸部の断面構造を示す模式図である。
【図4】図1に示すシートを製造する方法を示す模式図である。
【図5】図4における第1のロールの要部拡大図である。
【図6】図5に示すロールの一部の分解斜視図である。
【図7】図1に示すシートを製造する別の方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 複合シート
2 上層繊維シート
3 下層繊維シート
5 凸部
6 凹部
6a 接合部
51 第1壁部
52 第2壁部
53 天面部
54 底面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層繊維シートと下層繊維シートとの接合体からなり、上層繊維シートの立体賦形によって、実質的に平坦な下層繊維シート上に、上層繊維シートからなる多数の凸部を有すると共に、凸部間に凹部を有する複合シートであって、
前記凹部及び前記凸部は、複合シートの一方向に交互に配置されていると共に該方向と直交する方向にも交互に配置されており、
前記凸部は、前記の一方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第1壁部及び前記の一方向と直交する方向に沿って位置し且つ相対向する一対の第2壁部を有し、更に各第1壁部の上辺及び各第2壁部の上辺と連なる天面部を有し、
各第1壁部の坪量と、各第2壁部の坪量とが異なっている複合シート。
【請求項2】
第1壁部が複合シートのMD方向に沿って位置し、且つ第2壁部が複合シートのCD方向に沿って位置しており、
各第1壁部の坪量が、各第2壁部の坪量よりも低くなっている請求項1記載の複合シート。
【請求項3】
第1壁部に開孔が形成されている請求項2記載の複合シート。
【請求項4】
吸収性物品の肌当接面に用いられ、
上層繊維シートが着用者の肌側に向けられ、下層繊維シートが吸収体側に配される請求項1ないし3の何れかに記載の複合シート。
【請求項5】
上層繊維シートが着用者の肌側に向けられ、下層繊維シートが吸収体側に配されるように、肌当接面に請求項1記載の複合シートが配されてなる吸収性物品。
【請求項6】
第1壁部が物品の長手方向に沿って位置し、且つ第2壁部が物品の幅方向に沿って位置しており、
各第1壁部の坪量が、各第2壁部の坪量よりも低くなっている請求項5記載の吸収性物品。
【請求項7】
請求項1記載の複合シートの製造方法であって、
周面が凹凸形状となっており且つ一方向へ回転する第1のロールと、第1のロールの凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有し且つ第1のロールと反対方向へほぼ同速で回転する第2のロールとを用い、
これらのロールの周速よりも高速で上層繊維シートを供給し、該上層繊維シートを両ロール間に噛み込ませ、
噛み込ませた上層繊維シートを、吸引によって第1のロールの周面に沿わせた状態下に、両ロールの噛み合わせによって上層繊維シートを凹凸賦形し、
吸引によって第1のロールにおける周面に上層繊維シートを凹凸賦形された状態のまま保持しつつ下層繊維シートを重ね合わせ、該下層繊維シートを、第1のロールにおける凸部上に位置する上層繊維シートと接合する複合シートの製造方法。
【請求項8】
上層繊維シートの供給速度を、第1及び第2のロールの周速の1.01〜2.0倍とする請求項7記載の複合シートの製造方法。
【請求項9】
上層繊維シートを両ロール間に噛み込ませるのに先立ち、吸引によって第1のロール又は第2のロールの周面に上層繊維シートを沿わせ、
第1のロールの周面に上層繊維シートを沿わせた場合には第1のロールの吸引状態を維持しながら、第2のロールの周面に上層繊維シートを沿わせた場合には第2のロールによる吸引から第1のロールによる吸引に切り替えて、上層繊維シートを両ロール間に噛み込ませる請求項7又は8記載の複合シートの製造方法。
【請求項10】
第1のロール又は第2のロールの周面に上層繊維シートを沿わせる角度を、2〜10度とする請求項9記載の複合シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−126107(P2009−126107A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305014(P2007−305014)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】