説明

複合スイッチ

【課題】スイッチ部同士の干渉をなくして誤作動を防止すること。
【解決手段】ダイヤルノブ15の回転操作により回転方向と回転角度に応じて接点が接続されて独立した信号を出力するダイヤル式スイッチ部SW2と、ダイヤルノブ15のスライド操作によりスライド方向に応じて接点が接続されて独立した信号を出力するスライド式スイッチ部SW3とを備え、ダイヤルノブ15をスライド操作するとダイヤル式スイッチ部SW2の接点が離れ、ダイヤルノブ15をスライド操作した状態で回転操作してもダイヤル式スイッチ部SW2による信号が出力されないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される各種装置の操作に好適なスイッチであって、操作形式が異なる複数のスイッチ部を一体化した複合スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の運転席周辺には、例えばカーエアコン装置のみならずカーナビゲーション装置やカーオーディオ装置等のように、搭載される装置の種類が増えてきている。それに伴って、装置を操作するスイッチの数も必然的に多くなる。これらのスイッチは運転者の手が届くインスツルメントパネル上に設置するのが一般的であるが、その設置スペースは限られているため、スイッチをパネル上に効率よくレイアウトする必要がある。また、パネル上に多くのスイッチが設置されると、運転者がこれらの装置を運転中に誤りなく操作することが困難になる。
【0003】
そこで、その解決策の一つとして、下記の特許文献1に開示されているような多方向スライドスイッチの利用が挙げられる。このスイッチは平面上を前後左右斜めの8方向にスライド操作することができ、そのスライド方向に応じて独立した信号を出力できるようになっている。したがって、このスイッチを利用すればパネル上に設置されるスイッチの数を減らすことができ、スペースの有効活用が可能になる。また、一つのスイッチに更に多くの機能を持たせるためには、このようなスライド式のスイッチに対して操作形式の異なる複数のスイッチ部を一体化することも考えられる。
【0004】
しかしながら、複数のスイッチ部を一つのスイッチに集約すると、今度はスイッチ部同士の干渉が問題になる。すなわち、ある操作形式のスイッチ部を操作している最中に、誤って他の操作形式のスイッチ部を操作してしまうことがあり、この場合、装置の誤作動に繋がり危険である。
【0005】
また、車両内に設置されるスイッチは夜間運転時における視認性を高めるために、車両のヘッドライトを点灯するとそれに伴ってスイッチを照らす照明が設けられていることが多い。ところが、この照明は通常スイッチを設置するインスツルメントパネル上に固定されているため、スイッチをスライド操作したときに内部の部品によって照明が遮られてしまい、照明の輝度が低下し、スイッチの視認性が悪くなるという問題もある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−59374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、操作形式が異なる複数のスイッチ部を一体化した複合スイッチにおいて、スイッチ部同士の干渉をなくして誤作動を防止するとともに、スイッチの視認性を高めることによって操作性に優れた複合スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、操作形式が異なる複数のスイッチ部を一体化した複合スイッチであって、上記複数のスイッチ部には、ダイヤルノブを回転操作したときに回転方向と回転角度に応じて接点が接続されて独立した信号を出力するダイヤル式スイッチ部と、上記ダイヤルノブをスライド操作したときにスライド方向に応じて接点が接続されて独立した信号を出力するスライド式スイッチ部とが含まれており、上記ダイヤルノブをスライド操作すると上記ダイヤル式スイッチ部の接点が離れ、上記ダイヤルノブをスライド操作した状態で回転操作しても上記ダイヤル式スイッチ部による信号が出力されないように構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の複合スイッチは、上記ダイヤルノブを回転可能に支持し、かつ、上記ダイヤルノブと一体となってベース上をスライド動作するスライダーを備え、上記ダイヤル式スイッチ部の接点が、上記ダイヤルノブに固定された上ダイヤル接点パターンと、上記ベースに固定された下ダイヤル接点パターンと、上記スライダーに装着されて上記上ダイヤル接点パターン及び上記下ダイヤル接点パターンに接触又は離間するダイヤル接点ブラシとからなるとともに、上記スライド式スイッチ部の接点が、上記ベースに固定されたスライド接点パターンと、上記スライダーに装着されて上記スライド接点パターンに接触又は離間するスライド接点ブラシとからなり、上記ダイヤルノブを回転操作すると、その回転方向と回転角度に応じて上記ダイヤル接点ブラシが上記上ダイヤル接点パターンと上記下ダイヤル接点パターンに接触し、上記ダイヤルノブをスライド操作すると、そのスライド方向に応じて上記スライド接点ブラシが上記スライド接点パターンに接触し、かつ、上記ダイヤル接点ブラシが上記下ダイヤル接点パターンから離間することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記構成からなる複合スイッチにおいて、上記スライド式スイッチ部は、上記ダイヤルノブのスライド動作に連動する照明部を備えていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記構成からなる複合スイッチにおいて、上記複数のスイッチ部にはさらに、上記ダイヤルノブの軸心に配置されたボタンを押圧操作すると、押圧時に接点が接続されて独立した信号を出力するプッシュ式スイッチ部が含まれていてもよい。
【0012】
また、本発明は、上記構成からなる複合スイッチにおいて、上記プッシュ式スイッチ部が、上記ボタンをその軸心方向に昇降自在に支持する支持部材と、上記支持部材を上方に付勢する付勢部材とを備え、上記ボタン、上記支持部材、上記付勢部材のすべての軸心を貫通する中空部が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合スイッチによれば、スライド式スイッチ部を操作したときに間違って同時にダイヤルノブを回転操作してしまっても、ダイヤル式スイッチ部が電気的に機能しなくなることによって両スイッチ部の干渉が防止される。したがって、確実なスイッチ動作が保証され、装置の誤作動を起こさない安全性の高いスイッチを提供できるという効果がある。
【0014】
また、本発明の複合スイッチにおいて、スライド式スイッチ部がダイヤルノブのスライド動作に連動する照明部を備えた構成を採用すれば、スライド操作時にスイッチ内部の部品によって照明が遮られることがない。このため、照明の輝度が低下することなく、スイッチの視認性が高まって操作性が向上するという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の複合スイッチの外観図であり、図2は同スイッチの断面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の複合スイッチSWは、車両に搭載されたカーナビゲーション装置を操作するスイッチとして適用したものである。このスイッチは、以下に説明するプッシュ式スイッチ部SW1、ダイヤル式スイッチ部SW2、スライド式スイッチ部SW3という3つの異なる操作形式のスイッチ部を一体化して多くのスイッチ機能を集約することにより、インスツルメントパネル周辺の限られた設置スペースを有効活用できるようになっている。
【0018】
図2に示すように、この複合スイッチSWは、車両側のパネル1に上下2段のベース11,12を積層し、その上にトップケース13をかぶせて構成されたハウジングを備えている。そして、ハウジング内の中央にプッシュ式スイッチ部SW1が配置され、その周囲にダイヤル式スイッチ部SW2とスライド式スイッチ部SW3が配置されている。
【0019】
また、ハウジング内には運転者が車両のヘッドライトを点灯操作したときにそれに連動して点灯する照明が内蔵されている。これにより夜間運転時にはプッシュ式スイッチ部SW1とスライド式スイッチ部SW3が光ることで、視認性が良く操作性に優れたスイッチになっている。
【0020】
プッシュ式スイッチ部SW1は、押圧操作によってON/OFF状態を切り換えるスイッチである。本実施形態のカーナビゲーション装置において、このスイッチ部はディスプレイ上で選択した項目を決定するスイッチとして機能する。すなわち、ボタン14を指で下(A)方向へ押し込むとON状態になり、指を離すとボタン14は元の位置に戻ってOFF状態に切り換わる。
【0021】
ダイヤル式スイッチ部SW2は、回転操作によって正逆いずれかの回転方向とその回転角度を検知して信号を出力するスイッチである。本実施形態のカーナビゲーション装置において、このスイッチ部はディスプレイに表示されたメニューの中のカーソルを移動させたり、音声ガイダンスの音量を調節したりするスイッチとして機能する。すなわち、ダイヤルノブ15を指でつかんで図中時計回りの正(B)方向に回転させると所定角度ごとに独立した信号が出力される。また、ダイヤルノブ15を図中反時計回りの逆(C)方向に回転させると所定角度ごとに反対方向の信号が出力される。
【0022】
スライド式スイッチ部SW3は、スライド操作によって目的方向への指令を検知して信号を出力するスイッチである。本実施形態のカーナビゲーション装置において、このスイッチ部はディスプレイに表示された地図を目的方向へスクロールするスイッチとして機能する。すなわち、ダイヤルノブ15を指でつかんで前後左右及び斜め(D、E、F、G、H、J、K、L)の全8方向の各々へスライド移動させると、その移動方向に対応した信号が出力され、指を離すとダイヤルノブ15は元の位置に戻ってOFFの状態に切り換わる。
【0023】
以上が概略であるが、本発明の複合スイッチSWの特徴は、スライド式スイッチ部SW3を目的方向へ操作したときにダイヤルノブ15を回転操作してもダイヤル式スイッチ部SW2による電気的な信号が出力されないようにした点と、スイッチ部の照明の輝度を高めて視認性を向上させた点にある。そこで、以下ではこの2点の特徴について、各スイッチ部の機構とともに詳細に説明する。
【0024】
(1)プッシュ式スイッチ部
図3はプッシュ式スイッチ部の断面図、図4は同スイッチ部の分解図、図5は同スイッチ部の動作説明図、図6は同スイッチ部の回路図である。図面においてプッシュ式スイッチ部の機構を理解し易くするために、同スイッチ部に関係しない部品は図示を省略してある。
【0025】
まずは、プッシュ式スイッチ部の構造を説明する。
【0026】
図3及び図4に示すように、プッシュ式スイッチ部SW1は、ボタン14、フィンガーレスト23、アクチュエータ24、クリックばね片25、接点ばね片32、大径コイルスプリング26、プッシュ接点パターン31を備えて構成されている。
【0027】
ボタン14は押圧操作される部品であり、ボタン本体21とプレート22からなる。ボタン本体21は円環状の操作部211と円筒状の軸部212を有しており、操作部211には透明樹脂で構成された円盤状のプレート22が固定され、軸部212の外壁面には爪213が形成されている。これに対し、上段ベース12の中央には円筒状の取付用ボス121が立設されており、このボスの側面にスリット122が形成されている。そして、スリット122に爪213が嵌まってボタン本体21が上段ベース12に抜け止めされるとともに、ボタン本体の軸部212がアクチュエータ24の上面に当接する。
【0028】
フィンガーレスト23は指を置いて楽な操作姿勢を保つためのもので、円形の開口部を有する円錐台状の載置部231と円筒状の軸部232からなる。軸部232の内壁面には段差233が形成されており、この段差233に取付用ボス121を嵌め込むことで、フィンガーレスト23が上段ベース12に固定される。また、フィンガーレスト23の開口部には取付用ボス121の内部を挿通したボタン14が外部に臨むようになっている。なお、プレート22の上面はフィンガーレスト23の上面よりも低い位置に設定されているので、フィンガーレスト23に指を置いたときに不用意にボタン14を押してしまうことを防止できる。
【0029】
アクチュエータ24は円筒状の胴部241と2本の腕部242からなり、胴部241の外壁面には腕部242に対応して一対の爪243が形成されている。一方の腕部の爪243aには略U字形のクリックばね片25が係着され、他方の腕部の爪243bには略U字形の接点ばね片32が係着されている。また、クリックばね片25と対向する下段ベース11の内壁面には山形突起111が形成されている。
【0030】
大径コイルスプリング26はステンレス鋼線をコイル状に巻回したもので、アクチュエータの胴部241内に挿入される。大径コイルスプリング26を挿入したアクチュエータ24は下段ベース11と上段ベース12の間の空間部に収容される。これによりアクチュエータ24が大径コイルスプリング26の弾力によって上段ベース12の底面に常時押し付けられた状態になる。
【0031】
車両側のパネル1の中心には照明用のLED2が配設されており、LED2は車両のヘッドライトを点灯するとそれに伴って発光する。それに対し、下段ベース11の中心にはLED2に合わせて開口部112が設けられている。また、LED2よりも上方に配置された大径コイルスプリング26、アクチュエータ24及びボタン14は、いずれも軸心を貫通する中空部が形成されており、しかもボタン14を構成するプレート22は透明樹脂で構成されている。
【0032】
このため、LED2の光はスイッチ内部の部品によって遮られることがなく、中空部を抜けて外部まで到達する。したがって、ヘッドライトを点灯するとLED2の光がプレート22に直接照射されるので、夜間運転中であってもボタン14の視認性に優れたものとなる。
【0033】
次に、プッシュ式スイッチ部の接点構造を説明する。
【0034】
図4に示すように、このスイッチ部の接点は、プッシュ接点パターン31と接点ばね片32を備えて構成されている。
【0035】
プッシュ接点パターン31は下段ベース11に固定される。下段ベース11の中心には縦壁部113が設けられており、その内壁面にプッシュ接点パターン31の一対の接点311が埋設されている。この一対の接点311は図1に示した第6接点と第7接点に相当する。
【0036】
接点ばね片32はアクチュエータ24に装着される。アクチュエータの一方の腕部242には接点ばね片32が装着されており、この接点ばね片32の先端が二股に分岐して2つの接点部321を有している。この2つの接点部321がプッシュ接点パターン31の第6接点と第7接点に対して接触又は離間するようになっている。
【0037】
以上がプッシュ式スイッチ部の構造であるが、以下にその動作を説明する。
【0038】
図3に示した無負荷状態において、アクチュエータ24とその上に載置されたボタン14は大径コイルスプリング26の弾力によって上方に付勢されている。この状態からボタン14を下方へ押し込み操作するとプッシュ式スイッチ部SW1は図5のようになる。すなわち、押し込み操作によってボタン本体の軸部212がアクチュエータの腕部242を下方へと押圧し、押圧力を受けたアクチュエータ24が大径コイルスプリング26の弾力に逆らって下降する。
【0039】
ここで、アクチュエータ24に装着されたクリックばね片25は、下段ベースの山形突起111を乗り越えるときに内側へとたわみ変形し、乗り越えた後は自身の弾力によって弾性復帰する。このときクリックばね片25が受ける抵抗力によって、ボタン14を押し込み操作する際のクリック感が得られるようになっている。
【0040】
また、アクチュエータ24に装着された接点ばね片32は、下段ベース11の内壁面に摺接しながら下降動作する。そして、最終的には接点ばね片32の2つの接点部321が同時にプッシュ接点パターン31の第6接点と第7接点に接触する。したがって、プッシュ接点パターン31において第6接点と第7接点が接点ばね片32を介して接続されるので、図6に示す両接点が導通し、スイッチがON状態になる。
【0041】
一方、ボタン14を押していた指を離すとプッシュ式スイッチ部SW1は図3に示す元の状態に戻る。すなわち、大径コイルスプリング26は押圧力から解放され、自身の弾力によって弾性復帰する。この際にアクチュエータ24を上方へと押圧するので、押圧力を受けたアクチュエータ24が上段ベース12の底面に当接するまで上昇する。その結果、接点ばね片32は下段ベース11の内壁面に摺接しながら上昇し、プッシュ接点パターン31から離れる。したがって、プッシュ接点パターン31において第6接点と第7接点の接続が断たれるので、図6に示す両接点が非導通となり、スイッチがOFF状態に切り換わる。
【0042】
なお、プッシュ式スイッチ部SW1の動作時において、大径コイルスプリング26、アクチュエータ24及びボタン14はいずれもスイッチの軸心方向に昇降動作するように構成したので、動作中であってもLED2の光路は妨げられることはなく、照明の輝度は低下しない。
【0043】
(2)ダイヤル式スイッチ部
図7はダイヤル式スイッチ部の断面図、図8は同スイッチ部の分解図、図9〜図12は部品の説明図、図13は同スイッチ部の動作説明図、図14は同スイッチ部の回路図である。図面においてダイヤル式スイッチ部の機構を理解し易くするために、同スイッチ部に関係しない部品は図示を省略してある。
【0044】
まずは、ダイヤル式スイッチ部の構造を説明する。
【0045】
図7及び図8に示すように、ダイヤル式スイッチ部SW2は、ダイヤルノブ15、スライダー44、カバー45、トーションスプリング46、ローター47を備えて構成されている。
【0046】
ダイヤルノブ15は回転動作する部品であり、ダイヤル41、ノブ42、グリップ43からなる。
【0047】
ダイヤル41は円筒状の軸部411とその下端に延設されたフランジ部412とを有している。軸部411の外壁面にはその全周にわたってクリック数に対応した数の歯車413,413,…が形成されている(図9参照)。
【0048】
ノブ42はダイヤル41に嵌合する円筒状の軸部421とその上端に延設されたフランジ部422とを有している。ノブ42の軸部内壁面はダイヤル41の軸部外壁面に密着して固定される。また、ノブ42のフランジ部側面にはグリップ43を装着するための孔423が形成されている。
【0049】
グリップ43はダイヤルノブ15をつかみ易くするためのもので、ノブのフランジ部422を覆う円環部431を有している。円環部431の内側には爪432が形成されている。そして、ノブ42の上からグリップ43をかぶせ、孔423に爪432を係止することでノブ42にグリップ43が装着される。このように、ダイヤル41、ノブ42、グリップ43の3つの部品が一体化されてダイヤルノブ15を構成している。
【0050】
スライダー44はこのスイッチ部においてはダイヤルノブ15を回転可能に支持するための部品であり、円筒状の胴部441と4本の脚部442からなる。胴部441の外周には円環状の凹部443が設けられており、その側面にはカバー45を装着するための爪444が形成されている。そして、スライダーの凹部443の内部にダイヤル41が挿入される。これによりダイヤルノブ15がスライダーの凹部443内においてその胴部441の周りを回転動作する。
【0051】
カバー45はスライダーの凹部443に蓋をするもので、円環状の天板451を有している。天板451にはスライダー44の側面を覆う取付片452が設けられており、そこにはスライダーの爪444に対応する孔453が形成されている。そして、スライダー44の上からカバー45をかぶせ、孔453に爪444を係止することにより、スライダー44にカバー45が装着される。
【0052】
カバー45にはトーションスプリング46とローター47が装着される。トーションスプリング46はステンレス鋼線をコイル状に巻回し、その両端を鋏のように広げた形状になっている。図10に示すようにカバー45を裏面側から見ると、カバーの天板451にはピン454と一対のフック455が設けられており、まずピン454をトーションスプリング46のコイルに差し込み、次にフック455の内側にトーションスプリング46の鋏部分をすぼませた状態で掛止する。また、トーションスプリング46の一端は上方に向けて折り曲げられており、その先端をローター47の軸孔に差し込んで固定する。その結果、図11に示すようにダイヤル41を上面側から見ると、ローター47はダイヤルの歯車413に噛み合うようにトーションスプリング46の弾力によって常時押し付けられた状態になる。
【0053】
次に、ダイヤル式スイッチ部の接点構造を説明する。
【0054】
図12に示すように、このスイッチ部の接点は、上下2段に分かれたダイヤル接点パターン51,52、第1ダイヤル接点ブラシ53、第2ダイヤル接点ブラシ54を備えて構成されている。
【0055】
上ダイヤル接点パターン51はダイヤルノブ15に固定される(図9参照)。ダイヤル41のフランジ部底面には環状溝414が形成されており、この溝に上ダイヤル接点パターン51が埋設されている。上ダイヤル接点パターン51は径の異なる3つの同心円上にそれぞれ接点を配置したものである。最も内側には全周にわたって接点を形成した第2コモン接点511が設けられている。その外側には第8接点512と第5接点513が設けられている。第8接点512と第5接点513は円周方向に接点と絶縁部が交互に配置され、互いに所定角度ずつ位相をずらしてある。
【0056】
下ダイヤル接点パターン52は上段ベース12に固定される。図12に示すように、上段ベース12を上面から見ると、その円周方向に8個の円形開口部が形成されており、これら円形開口部のうち前方の隣り合う3個の開口部から下ダイヤル接点パターン52の接点が露出している。下ダイヤル接点パターン52の接点は第2コモン接点521と、第8接点522と、第5接点523である。これらの接点は全て同じ円周上にあるが、第2コモン接点521が図中左斜め45度傾いて配置されているのに対し、第8接点522と第5接点523は第2コモン接点521と直交するように図中右斜め45度傾いて配置されている。なお、接点の両側の領域は絶縁部である。
【0057】
第1ダイヤル接点ブラシ53と第2ダイヤル接点ブラシ54はスライダー44に装着される。図12に示すようにスライダー44を裏面側から見ると、第1ダイヤル接点ブラシ53と第2ダイヤル接点ブラシ54が取り付けられている。スライダー44には隣り合う2本の脚部の周囲にピンが突設されており、それぞれのブラシの取付孔にそのピンを差し込んで溶着してある。これにより第1ダイヤル接点ブラシ53と第2ダイヤル接点ブラシ54がスライダー44に固定される。
【0058】
第1ダイヤル接点ブラシ53は2個の板ばねからなり、これらの板ばねは上方に向けて反り形成された上方接点部531と下方に向けて反り形成された下方接点部532を有している。第1ダイヤル接点ブラシの上方接点部531は径の異なる内外2つの同心円上に配置されており、内円側の上方接点部と外円側の上方接点部は共にスライダー44に開口した窓445から凹部443内に突出している。
【0059】
第2ダイヤル接点ブラシ54は1個の板ばねからなる。この板ばねも上方に向けて反り形成された上方接点部541と下方に向けて反り形成された下方接点部542を有している。第2ダイヤル接点ブラシの上方接点部541もまたスライダー44に開口した窓445から凹部443内に突出している。
【0060】
そして、ダイヤル41に固定された上ダイヤル接点パターン51と上段ベース12に固定された下ダイヤル接点パターン52に対し、スライダー44に装着された第1ダイヤル接点ブラシ53と第2ダイヤル接点ブラシ54が接触又は離間するようになっている。
【0061】
第1ダイヤル接点ブラシ53については、内円側の上方接点部が上ダイヤル接点パターンの第8接点512に、内円側の下方接点部が下ダイヤル接点パターンの第8接点522に、外円側の上方接点部が上ダイヤル接点パターンの第5接点513に、外円側の下方接点部が下ダイヤル接点パターンの第5接点523に接触する位置にそれぞれ対向配置されている。
【0062】
第2ダイヤル接点ブラシ54については、上方接点部541が上ダイヤル接点パターンの第2コモン接点511に、下方接点部542が下ダイヤル接点パターンの第2コモン接点521に接触する位置に対向配置されている。
【0063】
以上がダイヤル式スイッチ部の構造であるが、以下にその動作を説明する。
【0064】
図7に示した無負荷状態において、ローター47はトーションスプリング46の弾力によってダイヤル41の歯車に付勢されている。この状態からダイヤルノブ15をつかんで正(B)方向に回転させると、ローター47が歯車413の歯を乗り越えるときにトーションスプリング46の弾力に逆らって外側へと押し出され、乗り越えた後にトーションスプリング46の弾力によって歯と歯の間へと押し戻される。このとき歯車413がローター47から受ける抵抗力によって、ダイヤルノブ15を回転操作したとき所定角度ずつクリック感が得られるようになっている。
【0065】
図13に示すように、この回転操作時において、スライダー44は下段ベース11上で動かないのに対し、ダイヤル41がスライダーの胴部441の周りを回転動作する。これに伴ってブラシとパターンとの関係は次のようになる。
【0066】
<第1ダイヤル接点ブラシと上ダイヤル接点パターンとの関係>
スライダー44が動かないので第1ダイヤル接点ブラシ53も動かず、第1ダイヤル接点ブラシの内円側の上方接点部531aと外円側の上方接点部531bの位置は変わらない。これに対し、ダイヤル41が回転するので上ダイヤル接点パターン51も回転し、上ダイヤル接点パターンの第8接点512が内円側の上方接点部531aに、第5接点513が外円側の上方接点部531bに対してそれぞれ接触と離間を交互に繰り返す。
【0067】
<第2ダイヤル接点ブラシと上ダイヤル接点パターンとの関係>
スライダー44が動かないので第2ダイヤル接点ブラシ54も動かず、第2ダイヤル接点ブラシの上方接点部541の位置は変わらない。これに対し、ダイヤル41が回転するので上ダイヤル接点パターン51も回転し、上ダイヤル接点パターンの第2コモン接点511が上方接点部541に対して接触した状態のまま移動する。
【0068】
<第1ダイヤル接点ブラシと下ダイヤル接点パターンとの関係>
スライダー44が動かないので第1ダイヤル接点ブラシ53も動かず、第1ダイヤル接点ブラシの下方接点部532の位置は変わらない。これに対し、上段ベース12が動かないので下ダイヤル接点パターン52も動かず、下ダイヤル接点パターンの第8接点522と第5接点523がそれぞれ下方接点部532に対して接触したままである。
【0069】
<第2ダイヤル接点ブラシと下ダイヤル接点パターンとの関係>
スライダー44が動かないので第2ダイヤル接点ブラシ54も動かず、第2ダイヤル接点ブラシの下方接点部542の位置は変わらない。これに対し、上段ベース12が動かないので下ダイヤル接点パターン52も動かず、下ダイヤル接点パターンの第2コモン接点521が下方接点部542に対して接触したままである。
【0070】
この動作による回路出力を説明すると、図14に示すように、先に第8接点と第2コモン接点との間で所定間隔おきにON/OFF状態が交互に切り換わる。そして、第5接点と第2コモン接点との間ではそれよりも1/4パルス遅れてON/OFF状態が交互に切り換わる。したがって、所定角度ごとのクリック安定点でそれぞれ独立した信号が出力される。
【0071】
一方、ダイヤルノブ15を逆(C)方向に回転させると、今度は先に第5接点と第2コモン接点の間とでON/OFF状態が交互に切り換わる。そして、第8接点と第2コモン接点との間ではそれよりも1/4パルス遅れてON/OFF状態が交互に切り換わる。したがって、正方向のときとは異なる独立した信号が出力される。
【0072】
(3)スライド式スイッチ部
図15はスライド式スイッチ部の断面図、図16は同スイッチ部の分解図、図17及び図18は部品の説明図、図19は同スイッチ部の動作説明図、図20は同スイッチ部の回路図、図21は同スイッチ部とダイヤル式スイッチ部との関係図である。図面においてスライド式スイッチ部の機構を理解し易くするために、同スイッチ部に関係しない部品は図示を省略してある。
【0073】
まずは、スライド式スイッチ部の構造を説明する。
【0074】
図15及び図16に示すように、スライド式スイッチ部SW3は、ダイヤル式スイッチ部SW2を構成するダイヤルノブ15、スライダー44に加え、クリックピン61、小径コイルスプリング62、ガータースプリング63、ガイド64、ディレクション65、LED基板66を備えて構成されている。
【0075】
スライダー44はこのスイッチ部においてはダイヤルノブ15と一体となって目的方向へとスライド動作するものである。スライダー44にはクリックピン61と小径コイルスプリング62が装着されている。
【0076】
クリックピン61は円筒状の軸部611の先端に半球状のピン612を形成したものであり、軸部611が小径コイルスプリング62のコイルに差し込まれている。また、クリックピン61と小径コイルスプリング62は、スライダー44の4本の脚部のうち1本の脚部にのみ装着されている。クリックピン61と対向する下段ベース11上には半球状の凹部114が形成されており、この凹部114内にクリックピン先端のピン612が嵌まっている。これによりトップケース13と下段ベース11に挟まれたスライダー44が、小径コイルスプリング62の弾力によって下段ベースの凹部114に常時押し付けられた状態になる。
【0077】
ガータースプリング63はスライダー44を定位置に押さえ付けておくための部品であり、ステンレス鋼線をコイル状に巻回してばねを形成し、そのばね全体を閉ループ状に繋ぎ合わせて構成されている。このガータースプリング63は、図17に示すように、下段ベース11上の四隅に立設された押さえ板115に引っ掛けて固定してある。また、スライダーの4本の脚部442はガータースプリング63の内側に当接している。
【0078】
ガイド64はスライダー44を目的方向へと案内する部品である。ガイド64は、図18に示すように2本の平行な下レール641と、これに直交する2本の平行な上レール642とからなり、下レール641の上に上レール642を格子状に重ね合わせて接合した構造である。上レール642はスライダー44の底面に形成された平行な横溝446に嵌合する一方、下レール641は上段ベース12の上面に形成された平行な縦溝123に嵌合する。ここでは、構造説明のために上段ベース12の向きを90度回転させて示してある。なお、これとは逆にスライダー44に縦溝を形成し、上段ベース12に横溝を形成してもよい。
【0079】
ディレクション65はダイヤルノブ15の操作方向を表示するためのもので、円環状の表示部651と円筒状の軸部652からなる。表示部651にはダイヤルノブ15のスライド方向を指示する8個のインジケータ653が形成されており、これらのインジケータ653の部分のみ透明樹脂をむき出しにし、それ以外の部分を濃色で塗装してある。軸部652の内壁面には段差654が形成されており、この段差654にスライダーの胴部441を嵌め込むことにより、ディレクション65がスライダー44に固定される。
【0080】
LED基板66はプッシュ式スイッチ部SW1の照明とは別に設けたスライド式スイッチ部SW3専用の照明である。基板661には8個のインジケータ653の形成箇所に対応して基板661の両面にLED662が配設されており、これらのLED662は全て車両のヘッドライトを点灯するとそれに伴って発光する。また、LED662に電力を供給するリード線663は基板661の開口部から垂れ下がり、LED接点ブラシ74に接続されている。なお、LED基板66はディレクション65の裏面側に固定される。
【0081】
次に、スライド式スイッチ部の接点構造を説明する。
【0082】
図18に示すように、このスイッチ部の接点は、スライド接点パターン71、LED接点パターン72、スライド接点ブラシ73、LED接点ブラシ74を備えて構成されている。
【0083】
スライド接点パターン71は上段ベース12に固定される。図18に示すように、上段ベース12を上面から見ると、その円周方向に8個の円形開口部が形成されており、これら円形開口部のうち後方の隣り合う3個の開口部からスライド接点パターン71の接点が露出している。スライド接点パターン71の接点は第1コモン接点711、第1接点712、第2接点713、第3接点714、第4接点715である。
【0084】
第1コモン接点711では、円形開口部内の中心が絶縁部であり、その周囲が接点になっている。第1接点712と第2接点713では、円形開口部内の中心から左右の領域へと絶縁部が設けられ、後方に第1接点712、前方に第2接点713が配置される。第3接点714と第4接点715では、円形開口部内の中心から前後の領域へと絶縁部が設けられ、右側に第3接点714、左側に第4接点715が配置されている。
【0085】
LED接点パターン72も上段ベース12に固定される。すなわち、上段ベース12の円形開口部のうち、左側の2個の開口部からLED接点パターン72の接点が露出している。LED接点パターン72の接点はLEDプラス接点721とLEDマイナス接点722である。なお、LEDプラス接点721とLEDマイナス接点722では、円形開口部内の全域が接点になっている。
【0086】
スライド接点ブラシ73とLED接点ブラシ74はスライダー44に装着される。図18に示すようにスライダー44を裏面側から見ると、スライド接点ブラシ73とLED接点ブラシ74が取り付けられている。スライダー44には、残る2本の脚部442の周囲にピンが突設されており、それぞれのブラシの取付孔にそのピンを差し込んで溶着してある。これによりスライド接点ブラシ73とLED接点ブラシ74がスライダー44に固定される。
【0087】
スライド接点ブラシ73は3個の板ばねを一体化してなり、これらの板ばねは全て下方に向けて反り形成された接点部731を有している。スライド接点ブラシの接点部731は全て同じ円周上に配置されている。
【0088】
LED接点ブラシ74は2個の板ばねからなる。これらの板ばねも下方に向けて反り形成された接点部741を有している。LED接点ブラシの接点部741はスライド接点ブラシの接点部731と同じ円周上に配置されている。
【0089】
そして、スライド接点パターン71に対してスライド接点ブラシ73が対向し、LED接点パターン72に対してLED接点ブラシ74が対向するように配置されている。スライド接点ブラシ73については、3個の接点部731がスライド接点パターン71の第1コモン接点711、第1及び第2接点712,713、第3及び第4接点714,715のそれぞれに対応する位置に配置されている。また、LED接点ブラシ74については、2個の接点部741がLED接点パターン72のLEDプラス接点721とLEDマイナス接点722のそれぞれに対応する位置に配置されている。
【0090】
以上がスライド式スイッチ部の構造であるが、以下にその動作を説明する。
【0091】
図15に示した無負荷状態において、スライダー44は小径コイルスプリング62の弾力によって下段ベースの凹部114に付勢されている。また、図17に示すようにスライダーの脚部442がガータースプリング63の弾力によって四方から内側へと押さえ付けられ、スライダー44が下段ベース11上の中央位置にとどまっている。これがスライド式スイッチ部SW3の定位置である。
【0092】
この定位置にあるダイヤルノブ15をつかんで前(D)方向に操作した場合、ダイヤルノブ15を収容したスライダー44も同時に動こうとする。このときスライダー44にはダイヤルノブ15と同じ前方向の力が作用するが、この力はガイド64の上レールに対して直交する方向の力である。このため、スライダーの横溝446がストッパーとして機能し、ガイドの上レール642が前後方向への動きを封じられる。それに対し、ガイドの下レール641は前後方向への動きが自由であるので、上段ベースの縦溝123に案内されて前方向へとスライドする。つまり、ダイヤルノブ15、スライダー44、ガイド64が一体となって上段ベース12上を前方向に水平移動することになる。なお、ダイヤルノブ15を後(E)方向に操作した場合も同様なのでここでは説明を省略する。これが前後方向のスライド動作の原理である。
【0093】
一方、定位置にあるダイヤルノブ15を左(F)方向に操作した場合、スライダー44には左方向の力が作用するが、この力はガイドの下レール641に対して直交する方向の力である。このため、今度は上段ベースの縦溝123がストッパーとして機能し、ガイドの下レール641が左右方向への動きを封じられる。それに対し、スライダーの横溝446は左右方向への動きが自由であるので、ガイドの上レール642に案内されて左方向へとスライドする。つまりガイド64がその場に停止し、ダイヤルノブ15とスライダー44が一体となってガイド64上を左方向に水平移動することになる。なお、ダイヤルノブ15を右(G)方向に操作した場合も同様なのでここでは説明を省略する。これが左右方向のスライド動作の原理である。
【0094】
さらに、スライド式スイッチ部SW3は、上述した前後方向のスライド動作と左右方向のスライド動作の組み合わせにより斜め方向のスライド動作も可能である。例えば、定位置にあるダイヤルノブ15を左斜め前(H)方向に操作した場合、スライダー44に作用する力はガイドの下レール641に対して直交する左方向の力成分と上レール642に対して直交する前方向の力成分とに分散される。このため、前者の力成分によりスライダーの横溝446がガイドの上レール642に案内されて左方向へスライドし、これと同時に後者の力成分によりガイドの下レール641が上段ベースの縦溝123に案内されて前方向へスライドする。つまり、ダイヤルノブ15、スライダー44、ガイド64が一体となって上段ベース12上を左斜め前方向に水平移動することになる。なお、ダイヤルノブ15をその他の斜め(J、K、L)方向に操作した場合も同様なのでここでは説明を省略する。以上により、前後左右斜めの8方向のうちいずれか一つの方向へスライドさせることができる。
【0095】
また、ダイヤルノブ15を定位置から目的方向、例えば図19のように右(G)方向に操作すると、スライダー44に装着されたクリックピン61が小径コイルスプリング62の弾力に逆らって上昇し、下段ベースの凹部114から抜け出す。このとき図19のようにスライダー44が右方向に移動するので、4本の脚部のうち、右側の脚部がガータースプリング63を押圧し、弾力に逆らってこれを外側へと押し拡げる。
【0096】
一方、ダイヤルノブ15を操作していた指を離すと、スライド式スイッチ部SW3は図15に示す定位置に戻る。すなわち、ガータースプリング63がスライダー44の押圧力から解放され、自身の弾力によって弾性復帰する。この際にスライダー44を内側へと押圧するので、押圧力を受けたスライダー44が左方向へ移動する。また、スライダー44の脚部が下段ベースの凹部114の上に来たとき、小径コイルスプリング62の弾力によってクリックピンの軸部611が押し下げられ、ピン612が凹部114内に納まる。このようにクリックピン61が凹部114に出入りするときに下段ベース11から受ける抵抗力によって、ダイヤルノブ15をスライド操作する際のクリック感が得られるようになっている。
【0097】
スライド操作時には、上述したようにダイヤルノブ15とスライダー44が下段ベース11上を水平移動するが、このときブラシとパターンとの関係は次のようになる。
【0098】
<スライド接点ブラシとスライド接点パターンとの関係>
定位置においては、スライダー44が動かないのでスライド接点ブラシ73も動かず、3個の接点部731,…はいずれもスライド接点パターン71の中心の絶縁部に接触している。
【0099】
ここで、ダイヤルノブ15を右斜め前(J)方向に操作すると、スライダー44と同時にスライド接点ブラシ73も同じ方向に動くので、3個の接点部731,…はスライド接点パターン71の中心から右斜め前方向へ移動する。このとき、図20のように接点部731,…は第1コモン接点711、第2接点713、第3接点714の3つの接点に接触する。
【0100】
これに対し、ダイヤルノブ15を右斜め後ろ(L)方向に操作すると、スライダー44と同時にスライド接点ブラシ73も同じ方向に動くので、3個の接点部731,…はスライド接点パターン71の中心から右斜め後ろ方向へ移動する。このとき、図20のように接点部731,…は第1コモン接点711、第1接点712、第3接点714の3つの接点に接触する。
【0101】
この動作による回路出力は図21のようになる。ダイヤルノブ15を右斜め前方向に操作した場合、スライド接点ブラシ73の3個の接点部731は第1コモン接点711、第2接点713、第3接点714に接触する。これにより、スライド接点パターン71において第2接点713と第3接点714がスライド接点ブラシ73を介して接続される。したがって、両接点が導通してON状態になり、右斜め前方向に対応した電気的信号が出力される。
【0102】
また、ダイヤルノブ15を右斜め後ろ方向に操作した場合、スライド接点ブラシ73の3個の接点部731は第1コモン接点711、第1接点712、第3接点714に接触する。これにより、スライド接点パターン71において第1接点712と第3接点714がスライド接点ブラシ73を介して接続される。したがって、両接点が導通してON状態になり、右斜め後ろ方向に対応した電気的信号が出力される。
【0103】
それ以外の方向についても簡単に説明すると、前(D)方向のときには第2接点713が、後(E)方向のときには第1接点712が、左(F)方向のときには第4接点715が、右(G)方向のときには第3接点714が、左斜め前(H)方向のときには第2接点713と第4接点715が、左斜め後ろ(K)方向のときには第1接点712と第4接点715がそれぞれON状態になり、独立した電気的信号が出力される。
【0104】
<LED接点ブラシとLED接点パターンとの関係>
定位置においては、スライダー44が動かないのでLED接点ブラシ74も動かず、2個の接点部741はいずれもLED接点パターン72の中心の接点721,722に接触している。
【0105】
ここで、ダイヤルノブ15を右斜め前(J)方向に操作すると、スライダー44と同時にLED接点ブラシ74も同じ方向に動くので、2個の接点部741はLED接点パターン72の中心から右斜め前方向へ移動する。このとき、図20のように接点部741はLEDプラス接点721とLEDマイナス接点722のいずれにおいても接点に接触した状態のまま移動する。
【0106】
これに対し、ダイヤルノブ15を右斜め後ろ(L)方向に操作すると、スライダー44と同時にLED接点ブラシ74も同じ方向に動くので、2個の接点部741はLED接点パターン72の中心から右斜め後ろ方向へ移動する。このとき、図20のように接点部741はLEDプラス接点721とLEDマイナス接点722のいずれにおいても接点に接触した状態のまま移動する。
【0107】
このように、LED接点ブラシ74とLED接点パターン72との関係を見ると、ダイヤルノブ15が定位置にある場合、又は目的方向に操作した場合のいずれにおいても、LED接点ブラシ74の2個の接点部741がLEDプラス接点721とLEDマイナス接点722の両方に接触した状態を維持する。つまり、LEDプラス接点721とLEDマイナス接点722がLED接点ブラシ74を介して常に接続されたON状態になる。このため、LED接点ブラシ74に接続されたリード線663を介してLED662に電力が供給されるので、ダイヤルノブ15の動作の有無にかかわらずLED662が発光するようになっている。
【0108】
また、ダイヤルノブ15を操作するとディレクション65も同じ方向に移動するが、LED基板66はディレクション65に固定されているのでダイヤルノブ15の動きに連動する。このため、LED662の光はスイッチ内部の部品によって遮られることがなく、常にディレクション65を裏側から均等に照らすようになっている。したがって、ヘッドライトを点灯するとLED662の光がディレクションのインジケータ653に直接照射され、その輝度が低下することもない。よって、夜間運転中であってもダイヤルノブ15の操作方向が見易く表示されるので、スイッチの操作性に優れるという効果がある。
【0109】
最後に、スライド式スイッチ部とダイヤル式スイッチ部との関係を説明する。
【0110】
本実施形態の複合スイッチSWは、ダイヤルノブ15をスライド操作したときに誤って同時にダイヤルノブ15を回転操作してしまっても、ダイヤル式スイッチ部SW2の接点が離れて信号が出力されないように構成されている。
【0111】
図20に示すように、ダイヤル式スイッチ部SW2の接点は、ダイヤルノブ15に固定された上ダイヤル接点パターン51と、上段ベース12に固定された下ダイヤル接点パターン52と、スライダー44に装着された第1ダイヤル接点ブラシ53及び第2ダイヤル接点ブラシ54である。また、スライド式スイッチ部SW3の接点は、上段ベース12に固定されたスライド接点パターン71と、スライダー44に装着されたスライド接点ブラシ73である。
【0112】
ここで、ダイヤルノブ15を回転操作すると、上ダイヤル接点パターン51が回転するので、その接点は第1ダイヤル接点ブラシの上方接点部531に対して接触と離間を繰り返す一方、第2ダイヤル接点ブラシ54の上方接点部541に対して接触した状態を維持する。このとき第1ダイヤル接点ブラシ53の下方接点部は下ダイヤル接点パターンの第5接点523と第8接点522に接触し、第2ダイヤル接点ブラシ54の下方接点部は下ダイヤル接点パターンの第2コモン接点521に接触している。これにより、第2コモン接点521が導通した状態で第5接点523と第8接点522が切り換わり、ダイヤル式スイッチ部SW2による信号が出力される。
【0113】
これに対し、図20に示すように、ダイヤルノブ15を例えば右斜め前方向にスライド操作すると、スライド接点ブラシ73が右斜め前方向に移動し、その接点部731は第1コモン接点711、第2接点713、第3接点714に接触する。これにより、第1コモン接点711が導通した状態で第2接点713と第3接点714がスライド接点ブラシ73を介して接続され、スライド式スイッチ部SW3による信号が出力される。
【0114】
このとき、第1ダイヤル接点ブラシ53と第2ダイヤル接点ブラシ54も右斜め前方向に移動する。ところが、下ダイヤル接点パターン52との位置関係を見ると、第1ダイヤル接点ブラシの下方接点部532は第5接点523と第8接点522に接触したままであるが、第2ダイヤル接点ブラシの下方接点部542が第2コモン接点521から外れて絶縁部に接触する。このため、第2コモン接点521の導通が断たれるので、ダイヤル式スイッチ部SW2の信号が出力されなくなる。
【0115】
また、図20に示すように、ダイヤルノブ15を例えば右斜め後ろ方向にスライド操作すると、スライド接点ブラシ73が右斜め後ろ方向に移動し、その接点部731は第1コモン接点711、第1接点712、第3接点714に接触する。これにより、第1コモン接点711が導通した状態で第1接点712と第3接点714がスライド接点ブラシ73を介して接続され、スライド式スイッチ部SW3による信号が出力される。
【0116】
このとき、第1ダイヤル接点ブラシ53と第2ダイヤル接点ブラシ54も右斜め後ろ方向に移動する。ところが、下ダイヤル接点パターン52との位置関係を見ると、第2ダイヤル接点ブラシの下方接点部541は第2コモン接点521に接触したままであるが、今度は第1ダイヤル接点ブラシの下方接点部531が第8接点522と第5接点523の両方から外れて絶縁部に接触する。このため、第2コモン接点521が導通していても第8接点522と第5接点523のどちらにも接続されないので、ダイヤル式スイッチ部SW2による信号が出力されなくなる。
【0117】
このように、本実施形態の複合スイッチSWは、スライド式スイッチ部SW3を操作したときに同時にダイヤルノブ15を回転操作した場合、ダイヤル式スイッチ部SW2が電気的に機能しなくなり、両スイッチ部の干渉が防止されて安全である。したがって、運転者が例えばダイヤルノブ15をスライド操作してディスプレイに表示された地図をスクロールしている最中に、誤ってダイヤルノブ15を回転させてしまっても、これによって画面が切り換わってしまう、あるいは音量が変わってしまうといった誤作動がなくなり、確実なスイッチ動作が保証されるという効果がある。
【0118】
以上詳細に説明した実施形態においては、複合スイッチSWをカーナビゲーション装置の操作用スイッチに適用しているが、本発明の用途はこれに限られるものではない。この複合スイッチSWは車両に搭載されるその他の装置、例えばカーオーディオ装置やカーエアコン装置等を操作するスイッチに適用しても同様な効果が得られる。
【0119】
また、スライド式スイッチ部SW3は前後左右斜めの8方向にスライド動作するスイッチであるが、そのスライド方向は8方向に限定されず、スライド接点パターン71とスライド接点ブラシ73の接点数を適宜変更すれば、任意の数のスライド方向を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の複合スイッチの外観図。
【図2】図1の複合スイッチの断面図。
【図3】プッシュ式スイッチ部の断面図。
【図4】プッシュ式スイッチ部の分解図。
【図5】プッシュ式スイッチ部の動作説明図。
【図6】プッシュ式スイッチ部の回路図。
【図7】ダイヤル式スイッチ部の断面図。
【図8】ダイヤル式スイッチ部の分解図。
【図9】ダイヤルの上面図、底面図、側面図。
【図10】カバーの底面図。
【図11】ダイヤル、トーションスプリング、ローターの関係図。
【図12】スライダーの底面図、上段ベースの上面図。
【図13】ダイヤル式スイッチ部の動作説明図。
【図14】ダイヤル式スイッチ部の回路図。
【図15】スライド式スイッチ部の断面図。
【図16】スライド式スイッチ部の分解図。
【図17】下段ベースの上面図。
【図18】スライダーの底面図、上段ベースの上面図。
【図19】スライド式スイッチ部の動作説明図。
【図20】スライド式スイッチ部とダイヤル式スイッチ部との関係図。
【図21】スライド式スイッチ部の回路図。
【符号の説明】
【0121】
1 パネル
2 LED
SW 複合スイッチ
SW1 プッシュ式スイッチ部
SW2 ダイヤル式スイッチ部
SW3 スライド式スイッチ部
11 下段ベース
111 山形突起
112 開口部
113 縦壁部
114 凹部
115 押さえ板
12 上段ベース
121 取付用ボス
122 スリット
123 縦溝
13 トップケース
14 ボタン
15 ダイヤルノブ
21 ボタン本体
211 操作部
212 軸部
213 爪
22 プレート
23 フィンガーレスト
231 載置部
232 軸部
233 段差
24 アクチュエータ
241 胴部
242 腕部
243 爪
25 クリックばね片
26 大径コイルスプリング
31 プッシュ接点パターン
311 接点
32 接点ばね片
321 接点部
41 ダイヤル
411 軸部
412 フランジ部
413 歯車
414 環状溝
42 ノブ
421 軸部
422 フランジ部
423 孔
43 グリップ
431 円環部
432 爪
44 スライダー
441 胴部
442 脚部
443 凹部
444 爪
445 窓
446 横溝
45 カバー
451 天板
452 取付片
453 孔
454 ピン
455 フック
46 トーションスプリング
47 ローター
51 上ダイヤル接点パターン
511 第2コモン接点
512 第8接点
513 第5接点
52 下ダイヤル接点パターン
521 第2コモン接点
522 第8接点
523 第5接点
53 第1ダイヤル接点ブラシ
531 上方接点部
532 下方接点部
54 第2ダイヤル接点ブラシ
541 上方接点部
542 下方接点部
61 クリックピン
611 軸部
612 ピン
62 小径コイルスプリング
63 ガータースプリング
64 ガイド
641 下レール
642 上レール
65 ディレクション
651 表示部
652 軸部
653 インジケータ
654 段差
66 LED基板
661 基板
662 LED
663 リード線
71 スライド接点パターン
711 第1コモン接点
712 第1接点
713 第2接点
714 第3接点
715 第4接点
72 LED接点パターン
721 LEDプラス接点
722 LEDマイナス接点
73 スライド接点ブラシ
731 接点部
74 LED接点ブラシ
741 接点部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作形式が異なる複数のスイッチ部を一体化した複合スイッチであって、
上記複数のスイッチ部には、ダイヤルノブを回転操作したときに回転方向と回転角度に応じて接点が接続されて独立した信号を出力するダイヤル式スイッチ部と、
上記ダイヤルノブをスライド操作したときにスライド方向に応じて接点が接続されて独立した信号を出力するスライド式スイッチ部とが含まれており、
上記ダイヤルノブをスライド操作すると上記ダイヤル式スイッチ部の接点が離れ、上記ダイヤルノブをスライド操作した状態で回転操作しても上記ダイヤル式スイッチ部による信号が出力されないように構成されている
ことを特徴とする複合スイッチ。
【請求項2】
上記ダイヤルノブを回転可能に支持し、かつ、上記ダイヤルノブと一体となってベース上をスライド動作するスライダーを備え、
上記ダイヤル式スイッチ部の接点が、上記ダイヤルノブに固定された上ダイヤル接点パターンと、上記ベースに固定された下ダイヤル接点パターンと、上記スライダーに装着されて上記上ダイヤル接点パターン及び上記下ダイヤル接点パターンに接触又は離間するダイヤル接点ブラシとからなるとともに、
上記スライド式スイッチ部の接点が、上記ベースに固定されたスライド接点パターンと、上記スライダーに装着されて上記スライド接点パターンに接触又は離間するスライド接点ブラシとからなり、
上記ダイヤルノブを回転操作すると、その回転方向と回転角度に応じて上記ダイヤル接点ブラシが上記上ダイヤル接点パターンと上記下ダイヤル接点パターンに接触し、
上記ダイヤルノブをスライド操作すると、そのスライド方向に応じて上記スライド接点ブラシが上記スライド接点パターンに接触し、かつ、上記ダイヤル接点ブラシが上記下ダイヤル接点パターンから離間する
ことを特徴とする請求項1に記載の複合スイッチ。
【請求項3】
上記スライド式スイッチ部が、上記ダイヤルノブのスライド動作に連動する照明部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合スイッチ。
【請求項4】
上記複数のスイッチ部にはさらに、上記ダイヤルノブの軸心に配置されたボタンを押圧操作すると、押圧時に接点が接続されて独立した信号を出力するプッシュ式スイッチ部が含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合スイッチ。
【請求項5】
上記プッシュ式スイッチ部が、上記ボタンをその軸心方向に昇降自在に支持する支持部材と、上記支持部材を上方に付勢する付勢部材とを備え、上記ボタン、上記支持部材、上記付勢部材のすべての軸心を貫通する中空部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の複合スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−16298(P2008−16298A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186003(P2006−186003)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000114145)ミック電子工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】