説明

複合体超硬合金回転切削工具及び回転切削工具ブランク材

複合体回転切削工具及び複合体回転切削工具ブランク材などの複合体物品、及びかかる物品の製造方法を開示する。複合体物品は伸長部を含む。伸長部は、第1の超硬合金から構成される第1の領域、及び第1の領域に自生結合している、第2の超硬合金から構成される第2の領域を含む。第1の超硬合金及び第2の超硬合金の少なくとも1つは、超硬合金分散相及び超硬合金連続相を含むハイブリッド超硬合金である。超硬合金分散相及び超硬合金連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、概して、異なる組成及び/又は微細構造の複数の領域を含む複合体構造を有する回転切削工具及び回転切削工具ブランク材、並びに関連する方法に関する。より詳しくは、本発明は、少なくとも1つの領域が立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む複合体構造を有するマルチグレードの超硬合金回転切削工具及び回転切削工具用の工具ブランク材、並びに回転切削工具及び回転切削工具ブランク材の製造方法に関する。本発明は、例えば穿孔、リーマ加工、皿取り、座ぐり、及びエンドミル加工に適した工具のような回転切削工具への一般的な適用が見出される。
【背景技術】
【0002】
[0002]超硬合金回転切削工具(即ち、回転するように駆動される切削工具)は、例えば穿孔、リーマ加工、皿取り、座ぐり、及びエンドミル加工、並びにネジ立てのような機械加工操作において通常的に用いられている。かかる工具は、通常は非ハイブリッド固体モノリス構造で製造される。かかる工具の製造プロセスは、冶金粉末(粒子状セラミック及び金属バインダーを含む)を固化して成形体を形成することを含む。次に、成形体を焼結してモノリス構造を有する円筒形の工具ブランク材を形成する。ここで用いる「モノリス構造」という用語は、工具が、例えば工具内の全ての作動範囲において実質的に同じ特徴を有する超硬合金のような固体材料から構成されることを意味する。焼結の後、工具ブランク材を適当に機械加工して、回転切削工具の特定の形状の刃先及び他の特徴的構造を形成する。回転切削工具としては、例えばドリル、エンドミル、リーマ、及びタップが挙げられる。
【0003】
[0003]超硬合金から構成される回転切削工具は、金属、木材、及びプラスチックのような構造材の切断及び成形などの多くの工業用途に適している。超硬合金製の工具は、これらの材料の特徴である引張強さ、耐摩耗性、及び靱性の組み合わせのために、工業的に重要である。当該技術において公知なように、超硬合金は少なくとも2つの相:少なくとも1種類の硬質セラミック成分及び金属バインダーのより軟質のマトリクス:を含む。硬質セラミック成分は、例えば周期律表の第IVB〜VIB族内の元素の炭化物であってよい。一般的な例は炭化タングステンである。バインダーは、金属又は金属合金、通常はコバルト、ニッケル、鉄、或いはこれらの金属の合金であってよい。バインダーは、セラミック成分の領域を三次元で相互接続しているマトリクス内に「接合」する。超硬合金は、少なくとも1種類の粉末セラミック成分及び少なくとも1種類の粉末金属バインダーの冶金粉末ブレンドを固化することによって製造することができる。
【0004】
[0004]超硬合金の物理的及び化学的特性は、部分的には、材料を製造するのに用いる冶金粉末の個々の成分によって定まる。超硬合金の特性は、例えばセラミック成分の化学組成、セラミック成分の粒径、バインダーの化学組成、及びバインダーとセラミック成分との比によって決定する。冶金粉末ブレンド中の成分及び成分の割合を変化させることによって、具体的な用途に合致する独特の特性を有するドリル及びエンドミルのような超硬合金回転切削工具を製造することができる。
【0005】
[0005]回転切削工具のモノリス構造によって、それらの性能及び適用範囲が固有に限定される。例として、図1(a)及び1(b)は、それぞれ、木材、金属、及びプラスチックのような構造材中に孔を形成及び仕上げ処理するために用いられる典型的なデザインを有するツイストドリル20の側面図及び端面図を示す。ツイストドリル20は、被加工材中への最初の切削を行うチゼルエッジ21を含む。ドリル20の切削先端24がチゼルエッジ21に続いており、これによって孔を穿孔しながら材料の大部分を取り除く。切削先端24の外周縁26によって孔が仕上げ処理される。切削プロセス中においては、切削速度はドリルの中心部からドリルの外周縁部へ大きく変化する。この現象を、代表的なツイストドリルの切削先端について内径部(D1)、外径部(D3)、及び中間直径部(D2)における切削速度をグラフで比較している図2(a)及び2(b)に示す。図2(a)においては、外径(D3)は1.00インチであり、直径D1及びD2はそれぞれ0.25及び0.50インチである。図2(b)は、ツイストドリルを200rpmで運転した場合の3つの異なる直径における切削速度を示す。図2(a)及び(b)に示されるように、回転切削工具の刃先上の種々の点において測定される切削速度は、工具の回転軸からの距離と共に増加する。
【0006】
[0006]切削速度におけるこれらの変動のために、モノリス構造を有するドリル及び他の回転切削工具は、工具の切削面の中心から外側端への範囲の異なる点において均一な摩耗を受けず、工具の刃先の欠損及び/又は亀裂を起こす可能性がある。また、焼入れ材料を穿孔する際には、チゼルエッジは通常は表層部を貫通するために用いられ、一方、ドリル本体の残りの部分によって焼入れ材料のより軟質のコア部から材料を除去する。したがって、焼入れ材料を穿孔するのに用いられるモノリス構造の従来の非ハイブリッドドリルのチゼルエッジは、刃先の残りの部分よりも非常に速い速度で摩耗し、このためにかかるドリルに関する比較的短い耐用年数がもたらされる。いずれの場合においても、従来の非ハイブリッド超硬合金ドリルのモノリス構造のために、刃先の頻繁な再研磨が必要であり、このためにドリルの耐用年数に対して大きな制限がかけられる。また、頻繁な再研磨及び工具の交換によって、用いる工作機械についての過度の停止時間ももたらされる。
【0007】
[0007]モノリス構造を有する他のタイプの回転切削工具は同様の欠陥を示す。例えば、複数の操作を同時に行うために特別にデザインされたドリルビットがしばしば用いられる。かかるドリルの例としては、段付きドリル及び複溝ドリルが挙げられる。段付きドリルは、ドリルの直径上に1以上の段を削り出すことによって製造される。かかるドリルは複数の直径の複数の孔を穿孔するために用いる。複溝ドリルは、穿孔、皿取り、及び/又は座ぐりのような複数の操作を行うために用いることができる。標準的なツイストドリルと同様に、従来の非ハイブリッドモノリス超硬合金構造の段付きドリル及び複溝ドリルの耐用年数は、ドリルの異なる刃先直径において起こる切削速度の非常に大きな差のために激しく制限される可能性がある。
【0008】
[0008]モノリス構造の回転切削工具の制限はエンドミルにおいても例示される。一般に、エンドミルは、カッターの端部が支持されておらず、エンドミルの長さ/直径比が通常は大きい(通常は2:1より大きい)ので、非効率的な金属除去技術であると考えられている。これによって、エンドミルの過度の屈曲が引き起こされ、用いることができる切削深さ及び供給速度に対して大きな制限がかけられる。
【0009】
[0009]モノリス構造の回転切削工具に関連する問題点に対処するために、異なる位置において異なる特性を有する回転切削工具を製造する試みが行われている。例えば、脱炭表面を有する超硬合金ドリルが、米国特許5,609,447及び5,628,837において記載されている。これらの特許に開示されている方法においては、モノリス超硬合金構造の炭化物ドリルを、保護雰囲気中において600℃〜1100℃に加熱する。硬化ドリルを製造するこの方法は大きな制限を有する。第1に、ドリルの硬化表面層は非常に薄く、非常に速やかに摩滅して下側のより軟質の超硬合金を曝露させる可能性がある。第2に、ドリルを再調整すると硬化表面層が完全に失われる。第3に、更なる処理工程である脱炭工程によって最終的なドリルのコストが大きく増加する。
【0010】
[0010]モノリス構造の超硬合金回転切削工具に関連する制限は、米国特許6,511,265(「265特許」)(その全部を参照として本明細書中に包含する)に記載されているように「複合体」構造を用いることによって軽減されている。265特許においては、少なくとも第1の領域及び第2の領域を含む複合体回転切削工具が開示されている。265特許の工具は超硬合金から製造することができ、この場合には複合体回転切削工具の第1の領域は第1の超硬合金を含み、これが第2の超硬合金を含む工具の第2の領域に自生結合している。第1の超硬合金及び第2の超硬合金は、少なくとも1つの特徴に関して異なっている。この特徴は、例えば、弾性率、硬度、耐摩耗性、破壊靱性、引張強さ、耐腐食性、熱膨張率、又は熱伝導率であってよい。工具内の超硬合金の複数の領域は、共軸的に配置するか、またはそれらの特定の特性を生かすように複数の領域が有利に配置されるような他の形態で配列させることができる。
【0011】
[0011]265特許に記載されている発明はモノリス構造の超硬合金回転切削工具の幾つかの制限に対処しているが、265特許の例は主として炭化タングステンを含んでいる。穿孔、エンドミル加工、及び同様の用途のために用いられる回転切削工具においては通常は比較的高い剪断応力に遭遇するので、炭化タングステンを用いるもののような非常に高レベルの強度を有する超硬合金グレードを用いることが有利である。しかしながら、これらのグレードは、鋼被加工材中の鉄と回転切削工具中の炭化タングステンとの間に起こりうる反応のために、鋼合金を機械加工するためには好適ではない可能性がある。鋼材を機械加工するために用いる工具には、モノリス構造の従来のグレードの超硬合金中に0.5%以上の立方晶炭化物を含ませる可能性がある。しかしながら、かかる工具中に立方晶炭化物を添加すると、一般に工具の強度の低下が引き起こされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許5,609,447
【特許文献2】米国特許5,628,837
【特許文献3】米国特許6,511,265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
[0012]而して、工具の異なる領域において高い強度及び硬度のような異なる特性を有し、被加工材と化学的に反応しないドリル及び他の回転切削工具に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[0013]本発明による幾つかの非限定的態様は、複合体回転切削工具及び回転切削工具ブランク材から選択することができる複合体物品に関する。複合体物品には伸長部を含ませることができる。伸長部には、第1の超硬合金を含む第1の領域、及び第1の領域に自生結合している、第2の超硬合金を含む第2の領域を含ませることができる。第1の超硬合金及び第2の超硬合金の少なくとも1つはハイブリッド超硬合金である。ハイブリッド超硬合金は超硬合金分散相及び超硬合金連続相を含む。超硬合金分散相及び超硬合金連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む。
【0015】
[0014]ここで開示する幾つかの他の非限定的態様は、伸長部を含む、ドリル、ドリルブランク材、エンドミル、エンドミルブランク材、タップ、及びタップブランク材の1つである複合体物品に関する。伸長部には、第1の超硬合金を含む第1の領域、及び第1の領域に自生結合している、第2の超硬合金を含む第2の領域を含ませることができる。第1の超硬合金及び第2の超硬合金の少なくとも1つは、超硬合金不連続相及び超硬合金連続相を含み、超硬合金分散相及び超硬合金連続相の少なくとも1つが、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金である。幾つかの態様においては、第1の超硬合金の耐化学的摩耗性は第2の超硬合金の耐化学的摩耗性と異なる。
【0016】
[0015]本発明による幾つかの更なる非限定的態様は、ハイブリッド超硬合金ブレンドを製造することを含む、複合体回転切削工具及び複合体回転切削工具ブランク材から選択される物品の製造方法に関する。ハイブリッド超硬合金ブレンドには、第1の超硬合金グレードの焼結粒子及び第2の超硬合金グレードの非焼結粒子を含ませることができる。一態様においては、第1の超硬合金グレード及び第2の超硬合金グレードの少なくとも1つには、特定の超硬合金グレードの全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含ませることができる。ハイブリッド超硬合金ブレンドは成形型の空洞部の第1の領域中に配置することができ、異なる冶金粉末を空洞部の第2の領域中に配置することができる。一態様においては、ハイブリッド超硬合金ブレンドの少なくとも一部を冶金粉末と接触させることができる。本方法の幾つかの態様には、ハイブリッド超硬合金ブレンド及び冶金粉末を固化して成形体を形成し、成形体を加圧焼結することを含ませることができる。
【0017】
[0016]ここに記載する合金、物品、及び方法の特徴及び有利性は、添付の図面を参照することによってよりよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】[0017]図1(a)は、木材、金属、及びプラスチックのような構造材中に孔を形成及び仕上げ処理するために用いる典型的なデザインを有するツイストドリルの側面図を示す。[0018]図1(b)は、図1(a)に示すツイストドリルの端面図を示す。
【図2】[0019]図2(a)は、従来の非ハイブリッドツイストドリルの刃先に沿った3つの直径D1、D2、及びD3を示す図である。[0020]図2(b)は、直径D1、D2、及びD3における従来の非ハイブリッドツイストドリルの切削速度を示すグラフである。
【図3】[0021]図3(a)〜(d)は、本発明にしたがって構成される複合体回転切削工具を製造するために有用な新規なブランク材の断面図であり、図3(a)及び3(b)は第1の態様を示し、図3(b)は図3(a)において斜視図で示されるブランク材の断面端面図である。
【図4】[0022]図4は、炭化タングステン及びコバルトをベースとし、立方晶炭化物を含まない従来技術の非ハイブリッド超硬合金グレードの顕微鏡写真である。
【図5】[0023]図5は、炭化タングステン及びコバルトをベースとし、立方晶炭化物を含む従来技術の非ハイブリッド超硬合金グレードの顕微鏡写真である。
【図6】[0024]図6は、ハイブリッド超硬合金の分散相の接触率を求めるために用いる手順を図示する。
【図7】[0025]図7は、分散相が立方晶炭化物を含み、連続相が立方晶炭化物を比較的含まないハイブリッド超硬合金の顕微鏡写真である。
【図8】[0026]図8は、分散相が立方晶炭化物を比較的含まず、連続相が立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を示す顕微鏡写真である。
【図9】[0027]図9は、従来の非ハイブリッド超硬合金を含む第1の領域、及び分散相として立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む第2の領域を含む一態様の複合体超硬合金回転切削工具の断面の顕微鏡写真である。
【図10】[0028]図10は、連続相として立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む第1の領域、及び従来の非ハイブリッド超硬合金グレードを含む第2の領域を含む一態様の複合体超硬合金回転切削工具の断面の顕微鏡写真である。
【図11】[0029]図11は、連続相として立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む第1の領域、及び分散相として立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む第2の領域を含む一態様の複合体超硬合金回転切削工具の断面の顕微鏡写真である。
【図12】[0030]図12は、炭化タングステン、立方晶炭化物、及びコバルトをベースとする従来の非ハイブリッド超硬合金グレードを含む第1の領域、及び分散相中に立方晶炭化物を含み、連続相中に立方晶炭化物内容物を実質的に含まないハイブリッド超硬合金を含む第2の領域を含む一態様の超硬合金回転切削工具の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[0031]読み手は、本発明による幾つかの非限定的な態様の以下の詳細な記載を考察することによって、上記の詳細及び他の詳細を認識するであろう。
【0020】
[0032]複数の非限定的態様の本記載においては、実施例以外においてか又は他に示さない限りにおいて、量又は特性を表す全ての数値は、全ての場合において用語「約」で修飾されているものと理解すべきである。したがって、反対に示されていない限りにおいては、以下の記載において示される全ての数値パラメーターは、本発明による工具、工具ブランク材、及び方法において得ようとする所望の特性によって変化する可能性がある近似値である。最後に、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限することは意図しないが、それぞれの数値パラメーターは、少なくとも、報告されている有効桁数の数を考慮し且つ通常の丸め法を適用することによって解釈すべきである。
【0021】
[0033]参照として本明細書中に包含される全ての特許、公報、又は他の開示資料は、全体か又は部分的に、包含する資料が既存の定義、記述事項、又は本明細書中に示されている他の開示資料と対立しない程度にのみ本明細書中に包含される。このように、且つ必要な範囲で、本明細書中に示す開示事項は、参照として本明細書中に包含される全ての対立する資料に優先する。参照として本明細書中に包含されるが、既存の定義、記述事項、又は本明細書中に示されている他の開示資料と対立する全ての資料又はその一部は、包含する資料と既存の開示資料との間に対立が生じない程度にのみ包含される。
【0022】
[0034]本発明は、従来の非ハイブリッド回転切削工具のモノリス構造ではなく複合体構造を有する回転切削工具及び切削工具ブランク材を提供する。ここで用いる回転切削工具とは、回転するように駆動され、被加工材と接触して被加工材から材料を除去する少なくとも1つの刃先を有する切削工具である。ここで用いる「複合体」構造を有する回転切削工具とは、化学組成及び/又は微細構造において異なり、少なくとも1つの特徴又は材料特性に関して異なる少なくとも2つの領域を有する回転切削工具を指す。特徴又は材料特性は、例えば、耐化学的摩耗性、耐腐食性、硬度、引張強さ、耐機械的摩耗性、破壊靱性、弾性率、熱膨張率、及び熱伝導率から選択することができる。本発明にしたがって構成することができる複数の態様の複合体回転切削工具としては、ドリル及びエンドミル、並びに、材料の穿孔、リーマ加工、皿取り、座ぐり、エンドミル加工、及びネジ立てにおいて用いることができる他の回転切削工具が挙げられる。
【0023】
[0035]幾つかの態様によれば、本発明は、螺旋配向の刃先のような少なくとも1つの刃先を有し、一緒に自生結合しており、少なくとも1つの特徴又は材料特性に関して異なる少なくとも2つの超硬合金の領域を含む複合体回転切削工具を提供する。ここで用いる「自生結合」とは、充填剤金属又は他の融剤を加えることなく超硬合金又は他の材料の複数の領域の間に生じる結合を指す。
【0024】
[0036]ここで開示する複数の態様の複合体回転切削工具及び複合体回転切削工具ブランク材においては、工具又はブランク材の少なくとも1つの領域はハイブリッド超硬合金を含む。ハイブリッド超硬合金は、超硬合金連続相及び超硬合金分散相を含む。幾つかの態様においては、ハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相及び超硬合金分散相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む。
【0025】
[0037]周期律表の第IVB〜VIB族に属する遷移金属は、比較的強い炭化物形成性物質である。幾つかの遷移金属は立方晶構造を有することを特徴とする炭化物を形成し、他の遷移金属は六方晶構造を有することを特徴とする炭化物を形成する。立方晶炭化物は六方晶炭化物よりもより強固である。立方晶炭化物を形成する第IVB〜VIB族遷移金属は、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Hf、及びTaである。タングステン及びモリブデンの炭化物は六方晶構造を有し、タングステンは最も弱い炭化物形成性物質である。立方晶炭化物は相互に互いの中に可溶性であり、広い組成範囲にわたって互いと固溶体を形成する。更に、立方晶炭化物はWC及びMoCに関して大きい可溶性を有する。他方において、WCは一般に全ての立方晶炭化物に関して可溶性を有しない。
【0026】
[0038]硬質分散相としてWC、及び金属バインダー相としてCoをベースとする超硬合金は、強度、耐摩耗性、及び破壊靱性の最適の組合せを与える。WC/Co超硬合金工具による鋼合金の機械加工中においては、鋼材の機械加工から得られる鋼片がWC/Co超硬合金と接触した状態で保持される。WCは昇温温度において鉄と接触させると比較的不安定であり、鋼材の機械加工中にWC/Co回転工具のクレータ損傷及び脆弱化が起こる可能性がある。
【0027】
[0039]WC/Coモノリス構造の回転工具の超硬合金に立方晶炭化物を添加すると、回転工具中のWCと鋼材中のFeとの相互作用が減少し、それによって鋼合金を機械加工するために用いる際の工具の寿命が延びる。しかしながら、これらの工具に立方晶炭化物を添加すると同様に工具の強度が低下し、工具が幾つかの機械加工用途に適さなくなる可能性がある。
【0028】
[0040]本発明による幾つかの態様の複合体回転工具又は回転工具ブランク材においては、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を与えることによって、工具の強度を大きく減少させずに耐化学的摩耗性を向上させる。ここで用いる「化学的摩耗」とは互換的に腐食摩耗と呼ばれ、大きな化学的又は電気化学的反応が材料と被加工材及び/又は環境との間に起こって材料の摩耗を引き起こす摩耗を指す。例えば、化学的摩耗は、鋼合金を機械加工するために工具を用いる際に拡散及び炭化タングステンと鉄機械加工片との化学反応によって回転切削工具について観察することができる。
【0029】
[0041]一態様においては、回転切削工具の2つの自生結合超硬合金領域の1つには、従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金を含ませることができる。従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金には、1以上のタイプの遷移金属炭化物粒子、及びバインダー金属若しくは金属合金を含ませることができる。非限定的な例においては、従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金には、コバルトバインダー中に埋封している炭化タングステンの硬質粒子を含ませることができる。従来の非ハイブリッドグレードの炭化タングステン−コバルト(即ちWC−Co)超硬合金の例を図4に示す。図4に示す超硬合金は、ATI Firth Sterling, Madison, Alabamaから入手できるFirthグレード248超硬合金粉末ブレンドを成形及び焼結することによって製造した。Firthグレード248超硬合金粉末ブレンドは、約11重量%のコバルト粉末及び89重量%の炭化タングステン粒子(又は粉末)を含む。Firthグレード248粉末ブレンドを成形及び焼結することによって製造される超硬合金は、連続コバルトバインダー相中に埋封している炭化タングステン粒子の不連続相を含む。他の従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金を図5に示す。図5に示す超硬合金は、FirthグレードT-04超硬合金粉末ブレンド(これもATI Firth Sterling, Madison, Alabamaから入手できる)から製造した。FirthグレードT-04超硬合金粉末ブレンドは、12重量%のコバルト粉末;合計で6重量%の炭化チタン、炭化タンタル、及び炭化ニオブ粒子;並びに82重量%の炭化タングステン粒子;を含む。FirthグレードT-04粉末ブレンドを成形及び焼結することによって製造される超硬合金は、連続コバルトバインダー相中に埋封されている、炭化タングステン粒子、並びに炭化チタン、炭化タンタル、及び炭化ニオブの固溶体を含む不連続相を含む。
【0030】
[0042]上記したように、本発明の一態様は、従来の非ハイブリッド超硬合金を含む第2の領域に自生結合している、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む第1の領域を含む複合体に関する。他の態様においては、2つの自生結合超硬合金領域のそれぞれはハイブリッド超硬合金を含み、2つのハイブリッド超硬合金のそれぞれは、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む。相の全重量の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む相を含むそれぞれのハイブリッド超硬合金によって、例えば炭化タングステン及びコバルトのみをベースとする超硬合金に対して向上した耐化学的摩耗性を示すことができる。例えば、鋼被加工材と接触する際に起こる可能性がある化学的摩耗による超硬合金工具のクレータ損傷の発生は、工具に、立方晶炭化物含有相の全重量を基準として少なくとも0.5%の立方晶炭化物を含む連続及び/又は不連続相を含むハイブリッド超硬合金を含む被加工材と接触する領域を含ませると大きく減少する。したがって、ハイブリッド超硬合金中に立方晶炭化物を含ませることによって、ハイブリッド超硬合金を含む領域を含む工具の耐化学的摩耗性を向上させることができる。また、工具のハイブリッド超硬合金領域の強度は、立方晶炭化物の存在によって、例えば従来の非ハイブリッドグレードのWC−Co超硬合金から製造される工具と比べて大きくは減少しない。
【0031】
[0043]本発明の幾つかの態様の特徴は、図3(a)及び(b)に示される回転切削工具ブランク材30を考察することによってより良好に理解することができる。図3(a)は、回転切削工具ブランク材30をブランク材の中心軸を含む面に沿って切断した断面図である。図3(b)は、回転切削工具ブランク材30を工具の中心軸に対して交差方向に切断した断面図である。回転切削工具ブランク材30は、2つの共軸配置の自生結合している超硬合金領域を有する概して円筒形の焼結成形体である。しかしながら、本発明の幾つかの態様の以下の議論は、より複雑な形状及び/又は2より多い領域を有する複合体回転切削工具及び回転切削工具ブランク材の製造にも適用することができることは当業者には明らかであろう。而して、以下の議論は本発明を限定することを意図するものではなく、単に本発明の幾つかの非限定的な態様を示すものである。
【0032】
[0044]回転切削工具ブランク材30には第1の領域31を含ませることができ、これは第1の超硬合金を含むコア領域であってよい。1つの非限定的態様においては、コア領域には、可能な最も高い強度を与える従来の非ハイブリッドグレードのWC−Co超硬合金を含ませることができる。第1の領域31の第1の超硬合金は、第2の炭化物を含む外側領域であってよい第2の領域32に結合している。外側領域には、連続相及び分散相の少なくとも1つが(立方晶炭化物を含む特定の相の重量を基準として)少なくとも0.5%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含ませて、立方晶炭化物を含まない同じ超硬合金と比較して強度及び耐機械的摩耗性を大きく損なうことなく向上した耐化学的摩耗性を与えることができる。図3(a)及び3(b)に示すように、第1の領域31及び第2の領域32は共軸配置することができる。第1及び第2の領域31及び32は自生結合させることができる。
【0033】
[0045]上記で示すように、ここで開示する複数の態様はハイブリッド超硬合金を含む1以上の領域を含む。従来の非ハイブリッド超硬合金は、通常は連続バインダー相の全体に分散していてその中に埋封されている遷移金属炭化物粒子を含む複合体材料であるのに対して、ハイブリッド超硬合金には、第2の従来の非ハイブリッド超硬合金グレードの連続相全体に分散していてその中に埋封されている少なくとも1種類の従来の非ハイブリッド超硬合金グレードの領域(又はここで互換的に用いるように「相」)を含ませて、それによって第1の超硬合金不連続相及び第2の超硬合金連続相を含む複合体を形成することができる。ハイブリッド超硬合金は、例えば米国特許7,384,443(「433特許」)(その全部を参照として本明細書中に包含する)に開示されている。それぞれのハイブリッド超硬合金の不連続超硬合金相及び連続超硬合金相は、通常は、独立して、1種類以上の遷移金属、例えばチタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、及びタングステンの炭化物の粒子を含む。ハイブリッド超硬合金の2つの相はまた、それぞれ、ハイブリッド超硬合金の特定の相中の全ての炭化物粒子を結合又は接合する連続金属バインダー相(又はより簡単には連続金属バインダー)も含む。ハイブリッド超硬合金のそれぞれの超硬合金の連続金属バインダー相には、コバルト、コバルト合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、又は鉄合金を含ませることができる。場合によっては、例えばタングステン、クロム、モリブデン、炭素、ホウ素、ケイ素、銅、マンガン、ルテニウム、アルミニウム、及び銀のような合金化元素を、ハイブリッド超硬合金のバインダー相又は両方の超硬合金中に比較的低い濃度で存在させて異なる特性を増加させることができる。ここでハイブリッド超硬合金に関する場合には、「分散相」及び「不連続相」の用語は互換的に用いられる。
【0034】
[0046]上記で議論したように、ここで開示する複合体物品の領域中に含ませることができるハイブリッド超硬合金の一形態は、ハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相及び超硬合金不連続相の少なくとも1つが少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物(ここで、重量%は立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準とするものである)を含むものである。
【0035】
[0047]本発明による幾つかの態様の複合体工具及びブランク材においては、複合体中で用いる幾つかのハイブリッド超硬合金の超硬合金分散(不連続)相は低い接触率を有する。複合体構造における分散相の接触の度合いは、接触率Cによって経験的に特徴付けることができる。Cは、Underwood, Quantitative Microscopy, 279-290 (1968)(参照として本明細書中に包含する)に記載されている定量金相技術を用いて求めることができる。Cを測定するために用いる技術は、443特許(その全部を参照として本明細書中に包含する)に完全に開示されている。当業者に公知なように、この技術は、材料の微細構造の顕微鏡写真上に引いた既知の長さのランダムに配向された線が特定の構造的特徴を形成する交点の数を求めることから構成される。線と分散相/分散相の交差部によって形成される交点の合計数を計数し(NLαα)、同様に分散相/連続相の界面との交点の数を計数する(NLαβ)。図6に、NLαα及びNLαβの値を求める手順を図示する。図6において、52は、連続β相56中のα相の分散相54を含む複合体を概略的に示す。接触率Cは、式:C=2NLαα/(NLαβ+2NLαα)によって算出される。
【0036】
[0048]接触率は、他の不連続(分散)相領域と接触している不連続(分散)相領域の表面積の平均割合の指標である。この率は、分散領域の分布が完全分散(C=0)から完全凝集構造(C=1)に変化するにつれて0から1に変化する。接触率は、分散相領域の体積割合又は寸法とは関係なく分散相の接触の度合いを示す。しかしながら、通常は分散相の体積割合がより高いと、分散相の接触率も同様により高くなる。
【0037】
[0049]硬質超硬合金分散相を有するハイブリッド超硬合金の場合には、分散相の接触率がより低いと、接触する硬質相領域を通してクラックが伝搬する可能性がより低くなる。このクラッキングプロセスは反復的なものである可能性があり、累積効果によって複合体超硬合金回転工具全体の靱性の減少がもたらされる。本発明による一態様の複合体超硬合金回転切削工具又は回転切削工具ブランク材においては、工具又はブランク材の1つの領域中に含まれるハイブリッド超硬合金に、上記に記載の技術によって測定して0.48以下の接触率を有する超硬合金分散相を含ませることができる。
【0038】
[0050]本発明による幾つかの態様の複合体超硬合金回転切削工具又は回転切削工具ブランク材においては、複合体の1つの領域中に含まれるハイブリッド超硬合金に、約2〜約40体積%の超硬合金グレードの分散相を含ませることができる。他の態様においては、超硬合金分散相はハイブリッド超硬合金の2〜50体積%であってよい。他の態様においては、超硬合金分散相はハイブリッド超硬合金の2〜30体積%であってよい。更なる態様においては、ハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相がハイブリッド超硬合金の6〜25体積%を構成することが望ましい可能性がある。
【0039】
[0051]一態様においては、ハイブリッド超硬合金の分散超硬合金相及び連続超硬合金相を含む第1の領域31内の超硬合金及び第2の領域32内の超硬合金には、周期律表の第IVB〜VIB族に属する1種類以上の元素の炭化物から構成されるセラミック成分を含ませることができる。
【0040】
[0052]セラミック成分は、好ましくは、それぞれの領域中の超硬合金の全重量の約60〜約98重量%を構成する。セラミック成分の粒子は、好ましくはそれぞれの領域中の全超硬合金の約2〜約40重量%を構成する金属バインダー材料のマトリクス内に埋封する。バインダーは、好ましくはCo、Co合金、Ni、Ni合金、Fe、及びFe合金の1以上である。またバインダーには、場合によっては、例えばW、Cr、Ti、Ta、V、Mo、Nb、Zr、Hf、及びCのような元素を、バインダー中のこれらの元素の溶解度限界以下の濃度で含ませることもできる。更に、バインダーには、5重量%以下のCu、Mn、Ag、Al、及びRuのような元素を含ませることができる。一態様の複合体回転切削工具又は回転切削工具ブランク材においては、第1の超硬合金のバインダー及び第2の超硬合金のバインダーに、独立して、タングステン、クロム、モリブデン、炭素、ホウ素、ケイ素、銅、マンガン、ルテニウム、アルミニウム、及び銀からなる群から選択される少なくとも1種類の合金化剤を更に含ませることができる。当業者であれば、任意又は全ての超硬合金の成分を、元素形態で、化合物として、及び/又は母合金として導入することができることを認識するであろう。本発明の複数の態様において用いる超硬合金の特性は、セラミック成分の化学組成、セラミック成分の粒径、バインダーの化学組成、及びセラミック成分含量に対するバインダー含量の重量比の1つ又は任意の組合せを変化させることによって、特定の用途に合わせて調整することができる。
【0041】
[0053]幾つかの態様においては、ここで開示する複合体物品の1つの領域中に含まれるハイブリッド超硬合金の分散相及び連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として、又は言い換えると立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む。幾つかの他の態様においては、ここで開示する複合体物品の1つの領域中に含まれるハイブリッド超硬合金の分散相及び連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の重量を基準として少なくとも1.0重量%の立方晶炭化物を含む。一態様においては、ハイブリッド超硬合金の分散相及び連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む相の全重量を基準として5%以上の立方晶炭化物を含む。更に他の態様においては、ハイブリッド超硬合金の分散相及び連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として0.5〜30重量%、1〜25重量%、5〜25重量%、又は約6重量%の立方晶炭化物を含む。
【0042】
[0054]ここで用いる「立方晶炭化物」とは、立方最密結晶構造を有する遷移金属炭化物を指す。かかる結晶構造はまた、面心立方格子として、及びcF8のピアソン記号及びB1−Struktubericht記号を有する岩塩結晶構造としてさまざまに呼ばれる。一態様においては、本発明による複合体物品の1つの領域中のハイブリッド超硬合金の立方晶炭化物の内容物としては、元素周期律表の第IV及びV族から選択される1種類以上の遷移金属の炭化物を挙げることができる。他の態様においては、立方晶炭化物の内容物として、TiC、TaC、NbC、VC、HfC、及びZrCの1以上を挙げることができる。更に他の態様においては、立方晶炭化物の内容物として、TiC、TaC、及びNbCの1以上を挙げることができる。更に他の態様においては、立方晶炭化物の内容物としてTiCを挙げることができる。更に他の態様においては、立方晶炭化物内容物には種々の立方晶炭化物の固溶体を含ませることができる。
【0043】
[0055]上記に示すように、本発明の複数の態様においては、複合体超硬合金回転切削工具又は回転切削工具ブランク材に少なくとも第1の領域及び第2の領域を含ませることができる。複合体回転切削工具又はブランク材の第1の領域は、第2の超硬合金を含む第2の領域に自生結合している第1の超硬合金を含む。複数の態様においては、第1の超硬合金及び第2の超硬合金の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む。他の態様においては、第1の領域は立方晶炭化物を実質的に含まないようにすることができ、第2の領域は立方晶炭化物を含む相の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む。更に他の態様においては、複合体回転切削工具又はブランク材の1より多い領域に、少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物(それぞれの立方晶炭化物含量は立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の重量を基準とする)を含むハイブリッド超硬合金を含ませることができる。
【0044】
[0056]上記で議論したように、ハイブリッド超硬合金は、第1のグレードの超硬合金の分散相、及び第2のグレードの超硬合金の連続相を含む。立方晶炭化物を含む相の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む領域を含む本発明における一態様の複合体超硬合金回転切削工具又は回転切削工具ブランク材においては、ハイブリッド超硬合金の立方晶炭化物の実質的に全部をハイブリッド超硬合金の連続相中に配置することができる。他の態様においては、ハイブリッド超硬合金の立方晶炭化物の実質的に全部をハイブリッド超硬合金の不連続(分散)相中に配置することができる。更に他の態様においては、ハイブリッド超硬合金の分散相及び連続相の両方とも、それぞれの個々の相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む。立方晶炭化物を含む相の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む本発明の複合体超硬合金回転切削工具又はブランク材の領域に関しては、ハイブリッド超硬合金の組成及び/又は特性を、所望の機械的特性を有する複合体超硬合金回転切削工具又はブランク材を与えるのに所望なように調整することができる。
[0057]超硬合金中に立方晶炭化物を存在させると超硬合金の硬度が多少低下することが当該技術において公知である。また、上記に示すように、WC及びCoをベースとする最も強固な超硬合金グレードは、鋼材を機械加工するためには好適でない可能性がある。これは、鋼材が通常は機械加工中に長い連続片を形成し、この片が工具の超硬合金に接触するためである。鋼材中の鉄は強い炭化物形成性の元素であり、機械加工片と炭化物とが接触するとWCが工具から鋼片の表面中に拡散して、鉄と化学的に相互作用する。超硬合金切削工具からのWCのマイグレーションによって工具が脆弱化し、工具の切削面上のクレータの形成が引き起こされる。超硬合金工具に立方晶炭化物を添加すると炭化物のマイグレーション及びクレータ損傷効果が軽減するが、工具の硬度の多少の低下が引き起こされる。しかしながら、ここで教示するように、工具中に立方晶炭化物が存在することによる強度の低下は、工具中にハイブリッド超硬合金を含ませ、超硬合金の全部又は一部をハイブリッド超硬合金微細構造中に配置することによって最小にすることができる。ハイブリッド超硬合金微細構造の相中に少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含ませることによって、分散相として炭化タングステン硬質粒子のみを含む超硬合金をベースとする回転切削工具と比較して、工具の強度を大きく低下させることなく回転切削工具の耐化学的摩耗性を向上させることができる。
【0045】
[0058]工具のハイブリッド超硬合金中に立方晶炭化物を配置することによって、工具の強度の低下が最小になり、鋼材を機械加工するために用いる際の工具のクレータ損傷が減少する。ここで示す複数の態様の複合体回転切削工具は限られた数の超硬合金を含む領域を有するが、本回転切削工具には、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む領域を含む任意の数の超硬合金の領域を含ませることができ、それぞれの領域は所望の特性を有して構成することができる。
【0046】
[0059]再び図3(a)及び(b)を参照すると、回転切削工具ブランク材30の第1又はコア領域31は、界面33において第2又は外側領域32に自生結合させることができる。界面33は、図3(a)及び(b)においては円筒形で示されているが、本発明の複合体回転切削工具及びブランク材中の超硬合金領域の界面の形状は円筒形構造に限定されないことが理解されるであろう。界面33における領域31と32の間の自生結合は、例えばコア領域31から外側領域32へ(又は逆も同様)三次元で伸長するバインダーのマトリクスによって形成することができる。2つの領域におけるセラミック成分に対するバインダーの比は、同一であっても異なっていてもよく、複数の領域間で変化させて領域の相対的な特性に影響を与えることができ、ハイブリッド超硬合金の連続相と分散相との間で変化させることができる。ほんの一例として、複合体工具ブランク材30の隣接する領域におけるセラミック成分(分散相)に対するバインダーの比は1〜10重量%相違させることができる。本発明の複合体回転切削工具及び工具ブランク材の異なる領域中の超硬合金の特性は、特定の用途に合わせて調整することができる。
【0047】
[0060]当業者であれば、本発明の本記載を考察した後は、本発明の改良された回転切削工具及び工具ブランク材を、異なる超硬合金の幾つかの領域又は層を有するように構成して、1以上の特性の大きさを工具の中心領域からその周縁部まで段階的に変化させることができることを理解するであろう。而して、例えばツイストドリルを、それぞれの領域が隣接するより中心に配置されている領域よりも逐次的により大きな硬度及び/又は耐化学的摩耗性を有する超硬合金の複数の共軸配置されている領域を有するように与えることができる。一態様においては、複合体回転切削工具又は工具ブランク材の少なくとも第1又は外側領域に、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含ませることができ、一方、内部領域に、連続コバルトバインダー中に分散されている例えば炭化タングステン粒子(しかしながらこれに限定されない)をベースとする従来の非ハイブリッド超硬合金を含ませることができる。或いは、ここで開示する回転切削工具及び工具ブランク材の非限定的態様は、工具又はブランク材の異なる領域が特定の特性に関して異なる他の複合体構造を有するように設計することができる。別の構造の非限定的例を図3(c)及び3(d)に示す。段付きドリル及び複溝ドリルなど(しかしながらこれらに限定されない)の特別なタイプのドリルは、ここに開示する非限定的なツイストドリル構造によって例示される本発明による複合体構造の利益を享受することが認められる。
【0048】
[0061]図3(c)は、焼入れ材料を穿孔するために用いるドリルをそれから製造することができる円筒形のブランク材として特に有用な本発明の一態様を示す。焼入れ材料を穿孔するためには、ドリルの先端は通常は表層部を貫通するために用いられ、一方、ドリルの本体によって材料をより軟質のコアから除去する。この非限定的態様においては、第1の領域34及び第2の領域35をブランク材の第1及び第2の端部に配置する。第1の端部はドリルの刃先端になり、第2の端部は工作機械のチャック内に固定されるように構成される端部になる。鋼材を機械加工するために、一態様においては、第1の領域34に立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含ませることができる。立方晶炭化物を存在させることによって、鋼被加工材を穿孔するために用いる際のドリルの耐化学的摩耗性が向上する。第1の領域34中に含まれるハイブリッド超硬合金の分散相及び/又は連続相中に、少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を存在させることができる。
【0049】
[0062]再び図3(c)を参照すると、本発明による一態様の複合体回転切削工具又はブランク材においては、立方晶炭化物の少なくとも0.5重量%は、第1の領域34中に含まれるハイブリッド超硬合金の分散相中に含まれる。第1の領域34中に含まれるハイブリッド超硬合金の連続相は、例えばコバルト合金バインダー中に分散している0.3〜1.5μmの平均粒径を有する炭化タングステン粒子のような硬質で耐機械的摩耗性の超硬合金を含む。この態様においては、コバルト合金バインダーは、第1の領域34中のハイブリッド超硬合金の連続相の約6〜15重量%を構成する。ブランク材の第2の領域35には、例えばコバルト合金バインダー中の炭化タングステン粒子(1.0〜10μmの平均粒径)から構成される従来の非ハイブリッド超硬合金を含ませることができ、ここでバインダーは第2の領域35中の従来の非ハイブリッド超硬合金の約2〜6重量%を構成する。第1の領域34は第2の領域35に自生結合している。第2の領域35は、第1の領域34と比較して向上した弾性率を有するようにして、図3(c)に示されるブランク材から製造されるドリルに圧力を加えた際に屈曲を阻止するようにすることができる。
【0050】
[0063]図3(d)に示す態様は、図3(a)及び3(c)の態様の特徴を組み合わせるものである。刃先36は、2つの領域:コア領域37及び外側領域38:を含み、それぞれの領域は異なるグレードの超硬合金を含む。コア及び外側領域37及び38は共軸的に配置され、第3の領域39に自生結合している。領域38は、図3(c)に示すブランク材の領域34と同様の組成にすることができ、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5重量の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含ませて、このブランク材から製造される工具を鋼材を機械加工するのに用いる際のクレータ損傷を減少させる。しかしながら、立方晶炭化物の内容物をハイブリッド超硬合金中に配置しているので、立方晶炭化物の存在は工具ブランク材から製造される回転切削工具の強度又は耐機械的摩耗性を大きくは減少させない。領域37には、高い強度を与え、例えばコバルト合金バインダー中の炭化タングステン粒子(例えば0.3〜1.5μmの平均粒径)を含み、バインダーがコア領域37中の超硬合金の約6〜15重量%を構成する従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金を含ませることができる。領域39は、工具ブランク材から製造される穿孔工具に圧力を加えた際に屈曲を阻止するように、図3(c)の領域35と同様の組成を有するようにすることができる。
【0051】
[0064]一態様においては、本発明による複合体物品に、少なくとも1種類の従来の非ハイブリッド超硬合金を含む領域、並びに、超硬合金分散相及び超硬合金連続相を含む少なくとも1種類のハイブリッド超硬合金を含む領域を含ませることができる。複合体物品のハイブリッド超硬合金の1つの相が相の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む限りにおいては、それぞれの非ハイブリッド超硬合金、並びに複合体物品のハイブリッド超硬合金のそれぞれの超硬合金分散相及び連続相に、独立して、炭化チタン、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種類の遷移金属炭化物;並びに、コバルト、コバルト合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、及び鉄合金からなる群から選択される少なくとも1種類の材料を含むバインダー;を含ませることができる。一態様の複合体物品においては、少なくとも1種類の遷移金属炭化物は炭化タングステンを含む。他の態様においては、炭化タングステンは0.3〜10μmの平均粒径を有する。更に他の態様においては、複合体物品の1以上の種々のバインダー相は、タングステン、クロム、モリブデン、炭素、ホウ素、ケイ素、銅、マンガン、ルテニウム、アルミニウム、及び銀からなる群から選択される少なくとも1種類の合金化剤を含む。本発明による更に他の態様の複合体物品においては、従来の非ハイブリッド超硬合金グレード、ハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相、及びハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相は、それぞれ個々に、2〜40重量%のバインダー及び60〜98重量%の金属炭化物を含む。
【0052】
[0065]ここで開示する一態様の複合体物品においては、第1の領域及び第2の領域の少なくとも一方は立方晶炭化物を実質的に含まず、一方、第1の領域及び第2の領域の他方は、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む。他の態様においては、ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部は、ハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相中に含まれる。更に他の態様においては、ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部は、ハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相中に含まれる。更に他の態様においては、立方晶炭化物は、ハイブリッド超硬合金の連続相及び分散相の両方の中に、いずれもハイブリッド超硬合金のそれぞれの個々の相の重量を基準として少なくとも0.5%の濃度で含ませることができる。
【0053】
[0066]本発明の複合体超硬合金回転切削工具及び工具ブランク材の有利性は、工具及びブランク材の複数の領域の特性を調整して異なる用途に適合させることができる柔軟性である。他の有利性は、少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を複合体物品中に存在させることによって得られる減少した化学的摩耗及び/又はクレータ損傷である。減少した化学的摩耗及び/又はクレータ損傷は、鋼材を機械加工するために本発明による工具を用いる際に達成される。また、立方晶炭化物の全部又は実質的に全部をハイブリッド超硬合金中に配置することは、工具の強度又は耐機械的摩耗性を大きくは低下させない。本発明の特定の複合体ブランク材の個々の超硬合金領域の厚さ、形状、及び/又は物理的特性は、ブランク材から製造される回転切削工具の具体的な用途に適合させるように選択することができる。而して、例えば使用中に大きな屈曲を受ける回転切削工具の1以上の超硬合金領域の弾性率を増加させることができ;切削表面を有し、他の刃先領域よりも大きい切削速度を受ける1以上の超硬合金領域の硬度及び/又は耐機械的摩耗性を増加させることができ;及び/又は、使用中に化学的摩耗を受ける超硬合金の領域の耐化学的摩耗性を向上させることができる。
【0054】
[0067]ここで、図1に示すツイストドリルの非限定な例を参照すると、回転切削工具又は回転切削工具ブランク材20には伸長部22を含ませることができる。1つの非限定的態様においては、伸長部22によって刃先25を画定することができる。更なる非限定的な態様においては、伸長部22上の刃先25は、伸長部の表面28の周囲に螺旋状に配向させることができる。
【0055】
[0068]本発明による1つの非限定的な態様の複合体超硬合金回転切削工具又は回転切削工具ブランク材は伸長部を含み、そこでは第1の領域及び第2の領域の一方がコア領域であり、第1の領域及び第2の領域の他方が外側領域であり、第1及び第2の領域は共軸状に配置されている。一態様においては、外側領域に、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含ませることができる。他の態様においては、第1の領域によって第2の領域の少なくとも一部を覆うことができ、第1の領域には、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量に対して少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含ませることができる。
【0056】
[0069]複合体超硬合金回転切削工具を鋼材を機械加工するために用いる幾つかの態様においては、回転切削工具の外側領域に、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金微細構造を含ませることができる。外側領域が少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金微細構造を含む1つの非限定的な態様においては、内側領域は、立方晶炭化物を実質的に含まない従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金であってよい。一態様においては、立方晶炭化物を含むか、或いは立方晶炭化物を実質的に含まない従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金は、コバルトバインダー中に分散している炭化タングステン硬質粒子を含むグレードであってよい。しかしながら、任意の他の従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金の使用は本発明の特許請求の範囲内であり、本発明による回転切削工具又は回転切削工具ブランク材のそれぞれの領域において具体的な特性を達成するように当業者によって選択することができる。しかしながら、任意のかかる態様においては、工具又はブランク材の少なくとも1つの領域は、ハイブリッド超硬合金の連続相及び/又は分散相中に、立方晶炭化物を含む特定の相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む。
【0057】
[0070]上記したように、本発明において具現化される複合体超硬合金回転切削工具及び回転切削工具ブランク材は伸長部を含む。かかる工具及びブランク材としては、ドリル、ドリルブランク材、エンドミル、エンドミルブランク材、タップ、及びタップブランク材が挙げられるが、これらに限定されない、幾つかの態様においては、ドリル、ドリルブランク材、エンドミル、エンドミルブランク材、タップ、及びタップブランク材の1つには、第1の領域中に第1の超硬合金及び第2の領域中に第2の超硬合金を含ませることができる。第1の超硬合金及び第2の超硬合金の少なくとも1つはハイブリッド超硬合金である。ハイブリッド超硬合金は超硬合金不連続相及び超硬合金連続相を含み、ハイブリッド超硬合金の超硬合金不連続相及び超硬合金連続相の少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む相の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含み、第1の超硬合金の耐化学的摩耗性は第2の超硬合金と異なる。
【0058】
[0071]耐化学的摩耗性の特性に関し、化学的摩耗は、しばしば、「雰囲気との化学的又は電気化学的反応が大きい雰囲気中での摩耗」として定義される腐食摩耗と呼ばれる。ASM Materials Engineering Dictionary, J. R. Davis編, ASM International, 第5刷(2006年1月), p.98を参照。炭化タングステン及びコバルトをベースとする従来の非ハイブリッド超硬合金回転切削工具を用いる鋼材の機械加工中においては、工具に接触する鋼材機械加工片中にWCが拡散する傾向を有し、炭化物は鋼材中の鉄と反応する(鉄は炭化物形成性物質である)ので、工具の化学的摩耗が起こる。ここで開示する複合体超硬合金工具及びブランク材の第1及び第2の領域の少なくとも1つの中に含まれるハイブリッド超硬合金のハイブリッド微細構造中に立方晶炭化物を含ませることによって、工具の化学的摩耗が減少し、鋼材を機械加工するために用いる際の工具のクレータ損傷が減少又は排除される。しかしながら、立方晶炭化物の内容物はハイブリッド超硬合金微細構造中に存在しているので、工具の強度は大きくは低下しない。
【0059】
[0072]いかなる特定の科学理論にも縛られることは望まないが、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5%の立方晶炭化物を添加すると、鉄に対する炭化タングステンの安定性を変化させることによってクレータ損傷が減少又は排除されると考えられる。チタン及びタンタルはタングステンよりも強い炭化物形成性物質である。鋼合金中の鉄も炭化物形成性物質である。炭化タングステンのみを含む超硬合金グレードによる回転工具を鋼材を穿孔又は機械加工するために用いると、鉄は炭化タングステンと相互作用して鉄炭化物を形成し、これによって工具のクレータ損傷が引き起こされる。立方晶炭化物は、炭化タングステンと合金化することによって鉄に対する炭化タングステンの安定性を変化させると考えられる。鉄は、本発明の幾つかの態様の低いレベルにおいても立方晶炭化物と合金化した炭化タングステンと反応する傾向がより低く、その結果、ここに開示する複合体回転工具のクレータ損傷が減少又は排除される。
【0060】
[0073]更に、ここで開示する回転工具の超硬合金のハイブリッド微細構造中に立方晶炭化物を存在させると、複合体回転工具の強度の低下が最小になる。1つの非限定的な態様においては、ハイブリッド超硬合金の分散相中に立方晶炭化物を存在させると、工具の強度の低下が、非ハイブリッド超硬合金グレード中に立方晶炭化物を含む従来技術の回転工具と比較して最小になる。しかしながら、ここで開示する幾つかの態様のハイブリッド超硬合金微細構造中に立方晶炭化物を含む複合体回転工具の強度の低下は、立方晶炭化物をハイブリッド超硬合金の分散相、連続相、又は両方の相中に存在させると最小になり、ハイブリッド微細構造中の立方晶炭化物の位置は、複合体回転工具の位置における所望の特性によって定まることが理解される。ここで開示する幾つかの態様の複合体回転工具における局所的な特性を達成するための設計パラメーターは、当業者に公知であるか、或いは本発明の本記載を検討した後は過度の実験を行うことなく当業者によって決定することができる。
【0061】
[0074]本発明による幾つかの態様の複合体回転切削工具及び工具ブランク材は、当該技術において公知の任意の好適な方法によって製造することができるが、好ましくは以下に更に記載するようなドライバッグ等方圧法を用いて製造する。ドライバッグプロセスは、多くの異なる構造(その非限定的な例は図3(a)〜(d)に与えた)を有する複合体回転切削工具及び工具ブランク材の製造を可能にするので特に好適である。図3(c)及び(d)に示す構造は、成形、押出し、及びウエットバッグ等方圧プレスのような他の粉末固化技術を用いて製造するのは、不可能ではないにしても非常に困難である。
【0062】
[0075]複合体回転切削工具を製造するための本発明による一態様の方法においては、ハイブリッド超硬合金ブレンドを製造する。ハイブリッド超硬合金ブレンドを製造する方法には、焼結成形体のハイブリッド超硬合金部分における分散グレードとして機能する第1の超硬合金グレードの部分的か又は完全に焼結した粒子の少なくとも一方を、焼結成形体のハイブリッド超硬合金部分における連続相として機能する第2の超硬合金グレードの素地粒子及び非焼結粒子の少なくとも一方と混合することを含ませることができる。ハイブリッド超硬合金を形成するのに用いる第1の超硬合金グレード及び第2の超硬合金グレードの少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む超硬合金グレードの成分の全重量を基準として少なくとも0.5重量%の上記に開示する立方晶炭化物を含む。
【0063】
[0076]他の態様においては、ハイブリッド超硬合金の第1の超硬合金グレード及び第2の超硬合金グレードの少なくとも1つは、立方晶炭化物を含む炭化物グレードの成分の全重量を基準として少なくとも1.0重量%の立方晶炭化物を含む。ハイブリッド超硬合金ブレンドは、成形型の空洞部の第1の領域中に配置する。冶金粉末を空洞部の第2の領域中に配置し、ハイブリッド超硬合金ブレンドの少なくとも一部を冶金粉末と接触させることができる。冶金粉末は、コバルト又はコバルト合金粉末など(しかしながらこれらに限定されない)の金属バインダー粒子又は粉末とブレンドした炭化タングステン粒子など(しかしながらこれに限定されない)の硬質粒子を含む超硬合金粉末ブレンドであってよい。ハイブリッド超硬合金ブレンド及び冶金粉末を固化して成形体を形成することができ、この成形体は通常の手段を用いて焼結することができる。1つの非限定的な態様においては、加圧焼結を用いて成形体を焼結する。
【0064】
[0077]ハイブリッド超硬合金の分散相として用いる粒子を部分的か又は完全に焼結することによって(「素地」粒子と比べて)粒子が強化される。分散相の強化された粒子は、ブレンドを成形体に固化する間に増加した崩壊に対する抵抗性を有する。分散相の粒子は、分散相の所望の強度によって約400℃〜約1300℃の範囲の温度において部分的か又は完全に焼結することができる。粒子は、水素焼結及び真空焼結など(しかしながらこれらに限定されない)の種々の手段によって焼結することができる。粒子を焼結することによって、潤滑剤の除去、酸化物の減少、緻密化、及び微細構造の発達をもたらすことができる。ブレンドの前に分散相の粒子を部分的か又は完全に焼結することによって、ブレンドの固化中の分散相の崩壊が減少する。ハイブリッド超硬合金を製造するこの方法の幾つかの態様によって、より低い分散相接触率を有するハイブリッド超硬合金を形成することができる。少なくとも1種類の超硬合金の粒子をブレンドの前に部分的か又は完全に焼結すると、ブレンド後の固化中に焼結粒子が崩壊せず、得られるハイブリッド超硬合金の接触率が比較的低くなる。一般的に言えば、分散相超硬合金粒子の寸法がより大きく、連続超硬合金相粒子の寸法がより小さいと、硬質グレードの任意の体積割合における接触率がより低くなる。
【0065】
[0078]1つの非限定的な態様においては、複合体超硬合金回転切削工具又は工具ブランク材を形成する方法は、(立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の全重量を基準として)少なくとも0.5%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金ブレンドを成形型の第1の領域中に配置することを含む。成形型は、例えばドライバッグラバー成形型であってよい。従来の超硬合金を形成するために用いられる冶金粉末を成形型の空洞部の第2の領域中に配置することができる。回転切削工具において所望の異なる超硬合金の領域の数によって、成形型を更なる領域に区切ることができ、その中に特定の冶金粉末、及び/又は立方晶炭化物を含む相の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金ブレンドを配置することができる。他の特徴を得るために、回転切削工具又は回転切削工具ブランク材の1つの領域が立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の相の少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む限りにおいて、立方晶炭化物を含まないハイブリッド超硬合金を成形型内に含ませて、工具又は工具ブランク材中に導入することができる。成形型は、成形型の空洞部中に物理的な仕切りを配置して2以上の領域を画定することによって複数の領域に分離することができる。1種類又は複数のハイブリッド超硬合金ブレンドは少なくとも0.5%の立方晶炭化物を含む相を含み、成形型の種々の領域中に含ませる1種類以上の冶金粉末は、上記に記載したような回転切削工具の対応する領域の所望の特性を達成するように選択される。第1の領域及び第2の領域中の材料の一部を互いに接触させ、成形型を等方圧縮して冶金粉末を緻密化し、固化粉末の成形体を形成する。次に、成形体を焼結して成形体を更に緻密化し、粉末を固化し、第1、第2、及び存在する場合には他の領域の間の自生結合を形成させる。焼結成形体によってブランク材が与えられ、これを機械加工して特定の回転切削工具の刃先及び/又はその形状の他の物理的な特徴を含ませることができる。かかる特徴は当業者に公知であり、ここでは具体的に記載しない。
【0066】
[0079]1つの非限定的な態様においては、成形体を加圧焼結する工程の後は、成形体は、超硬合金分散相及び超硬合金連続相を含むハイブリッド超硬合金を含む。一態様においては、ハイブリッド超硬合金中の超硬合金分散相の接触率は0.48以下である。
【0067】
[0080]1つの非限定的な態様においては、成形体を加圧焼結する工程の後は、ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部は、ハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相中に存在する。他の態様においては、成形体を加圧焼結する工程の後は、ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部は、ハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相中に存在する。更に他の態様においては、成形体を加圧焼結する工程の後は、超硬合金分散相はハイブリッド超硬合金の2〜50体積%を構成する。
【0068】
[0081]1つの非限定的な態様においては、第1の超硬合金グレードの焼結粒子は部分的に焼結した粒子及び完全に焼結した粒子の少なくとも一方であってよく、ハイブリッド超硬合金ブレンドの形成は、2乃至40体積%未満の第1の超硬合金グレードの焼結粒子、及び60より多く98体積%までの第2の超硬合金グレードの非焼結超硬合金粒子(ここで、重量%は超硬合金ブレンドの全重量を基準とするものである)を含む材料をブレンドすることを含む。他の態様においては、ブレンドの焼結は、金属炭化物及びバインダーを焼結して第1の超硬合金グレードの焼結粒子を形成することを含む。一態様においては、ブレンドの焼結には、金属炭化物及びバインダーを400℃〜1300℃において焼結することを含ませることができる。
【0069】
[0082]ハイブリッド超硬合金ブレンドを製造する1つの非限定的な態様は、2〜30体積%の第1の超硬合金グレードの焼結粒子、及び70〜98体積%の第2の超硬合金グレードの非焼結粒子(ここで、重量%は超硬合金ブレンドの全重量を基準とするものである)を含む材料をブレンドすることを含む。
【0070】
[0083]ここで開示する方法の1つの非限定的な態様においては、第1の超硬合金グレード、第2の超硬合金グレード、及び冶金粉末は、それぞれ独立して、炭化チタン、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化タングステンからなる群から選択される金属炭化物;及び、コバルト、コバルト合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、及び鉄合金からなる群から選択されるバインダー;を含む。幾つかの態様は、タングステン、クロム、モリブデン、炭素、ホウ素、ケイ素、銅、マンガン、ルテニウム、アルミニウム、及び銀からなる群から選択される少なくとも1種類の合金化剤をバインダー中に含ませることを更に含む。
【0071】
[0084]ここで開示する幾つかの態様による複合体回転切削工具を製造するための非限定的な方法には、焼結成形体(即ちブランク材)から材料を除去して少なくとも1つの刃先を与えることを更に含ませることができる。成形体から材料を除去する方法の1つの非限定的な態様には、成形体を機械加工して少なくとも1つの螺旋状に配向している刃先を画定する少なくとも1つの螺旋状に配向している溝を形成することを含ませることができる。一態様においては、螺旋状の溝は、当業者に公知のダイアモンドベースの砥石車を用いて研磨することによって形成することができる。現時点又は将来において当業者に公知の回転工具上に溝を形成する他の手段は、ここで開示する複合体回転工具の態様の範囲内である。
【0072】
[0085]ここで開示する複合体物品を形成する方法の1つの非限定的な態様においては、成形型はドライバッグラバー成形型を含んでいてよく、超硬合金ブレンド及び冶金粉末を更に固化して成形体を形成する工程は、ドライバッグラバー成形型を等方圧縮して成形体を形成することを含む。非限定的な方法の態様には、ドライバッグラバー成形型の空洞部を少なくとも第1の領域及び第2の領域に物理的に区切ることを含ませることができる。一態様においては、空洞部を物理的に区切る工程は、スリーブを空洞部中に挿入して空洞部を第1の領域と第2の領域との間に分割することを含む。幾つかの態様においては、スリーブは、プラスチック、金属、又は紙で構成する。他の非限定的な態様においては、超硬合金ブレンド及び冶金粉末を成形型の空洞部中に配置した後に空洞部からスリーブを除去することによって、超硬合金ブレンドの少なくとも一部を冶金粉末と接触させる。他の態様においては、超硬合金ブレンドの少なくとも一部と冶金粉末とを接触させる工程は、超硬合金ブレンド及び冶金粉末の一方を、超硬合金ブレンド及び冶金粉末の他方と界面に沿って接触するように空洞部中に配置することを含む。
【0073】
[0086]複合体回転切削工具及び複合体回転切削工具ブランク材から選択される物品の製造方法の幾つかの態様においては、第1の超硬合金グレード、第2の超硬合金グレード、及び冶金粉末に、それぞれ独立して、2〜40重量%のバインダー及び60〜98重量%の遷移金属炭化物を含ませることができる。他の態様においては、第1の超硬合金グレード、第2の超硬合金グレード、及び冶金粉末の少なくとも1つは、0.3〜10μmの平均粒径を有する炭化タングステン粒子を含む。これらの態様においては、第1の超硬合金グレード及び第2の超硬合金グレードの少なくとも1つは、かかるグレードの全重量の少なくとも0.5%の立方晶炭化物を含む。
【0074】
[0087]1つの非限定的な態様には、成形型を5,000〜50,000psiの圧力で等方圧縮することによって超硬合金ブレンド及び冶金粉末を固化して成形体を形成することを含ませることができる。1つの非限定的な態様においては、成形体を加圧焼結する工程は、成形体を1350℃〜1500℃において300〜2000psiの圧力下で加熱することを含む。
【実施例】
【0075】
[0088]本発明による複合体回転切削工具及び回転切削工具ブランク材を提供する方法の非限定的な例を以下に示す。
【0076】
実施例1:
[0089]図7は、本発明による立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む回転工具ブランク材の領域60の顕微鏡写真である。図7に示す領域は、分散相62として20体積%のFirthグレードT-04超硬合金を含むハイブリッド超硬合金グレードを含む。FirthグレードT-04超硬合金は、6重量%のTiC、TaC、及びNbCの立方晶炭化物の固溶体;82重量%のWC;及び12重量%のCo;を含む。図7に示す回転切削工具ブランク材のハイブリッド超硬合金領域の連続相64は、80体積%のFirthグレード248超硬合金を含む。Firthグレード248超硬合金は、89重量%のWC及び11重量%のCoを含む。分散相62の測定された接触率は0.26であり、したがって0.48未満である。全ての超硬合金粉末は、ATI Firth Sterling, Madison, Alabamaから入手した。
【0077】
実施例2:
[0090]FirthグレードT-04超硬合金粒子(又は粉末)を真空中800℃の温度において予備焼結することによって、実施例1の図7に示す回転工具ブランク材のハイブリッド超硬合金領域60を製造した。予備焼結したFirthグレードT-04超硬合金粒子は、図7に示すハイブリッド超硬合金領域の分散相62を含む。予備焼結した粒子をFirthグレード248の素地粒子とブレンドしてハイブリッド超硬合金ブレンドを形成した。ハイブリッド超硬合金ブレンドを成形型内の空洞部内に配置し、機械プレスによって137.9MPa(20,000psi)の圧力で成形した。同じ結果を得るために等方圧プレスを用いることができると理解される。ハイブリッド超硬合金成形体を、焼結熱間等方圧プレス(焼結HIP)炉内において1400℃で加圧焼結した。
【0078】
実施例3:
[0091]本発明による立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金を含む工具ブランク材の領域70を図8の顕微鏡写真において示す。図8に示すハイブリッド超硬合金は、分散相72として20体積%のATI Firth Sterlingグレード248超硬合金、及び連続相74として80体積%のATI Firth SterlingグレードT-04超硬合金(6重量%の立方晶炭化物を有する)を含む。分散相の接触率は0.40である。実施例2と同様のプロセス及び条件を用いて、工具ブランク材のハイブリッド超硬合金領域を製造した。
【0079】
実施例4:
[0092]ハイブリッド超硬合金ブレンド及び従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金冶金粉末を、回転切削工具ブランク材を製造するための成形型の空洞部の別々の領域内に配置し、界面に沿って接触させた。実施例2に開示するものと同様の通常の非ハイブリッド成形及び焼結プロセスを行って、立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金の第1の領域を含み、第1の領域が、いかなる実質的な濃度の立方晶炭化物も含まない従来の非ハイブリッド超硬合金から構成される第2の領域に金属結合している複合体超硬合金回転切削工具ブランク材を与えた。複合体超硬合金の微細構造80を図9に示す。Firthグレード248超硬合金は顕微鏡写真の左側に示されており、82として表されている。ハイブリッド超硬合金は顕微鏡写真の右側に示されており、84として表されている。ハイブリッド超硬合金は、連続相86として80体積%のFirthグレード248超硬合金、及び分散相88として6%の立方晶炭化物を含む20体積%のFirthグレードT-04超硬合金を含んでいた。図9において、従来の非ハイブリッドグレードの微細構造82とハイブリッドグレードの微細構造84との間の界面領域89が明らかである。
【0080】
実施例5:
[0093]ハイブリッド超硬合金ブレンド及び従来の非ハイブリッド超硬合金冶金粉末を、回転切削工具ブランク材を製造するのに適した成形型の空洞部の別々の領域内に配置し、界面に沿って接触させた。実施例2に開示するものと同様の通常の非ハイブリッド成形及び焼結プロセスを行って、立方晶炭化物を含み、従来の非ハイブリッド超硬合金の第2の領域に金属結合しているハイブリッド超硬合金の第1の領域を含む複合体超硬合金を与えた。複合体超硬合金の微細構造90を図10に示す。Firthグレード248の従来の非ハイブリッドグレードの超硬合金の微細構造92が、顕微鏡写真の右側に見られる。ハイブリッドグレード微細構造94が顕微鏡写真の左側に見られ、これは、分散相96として20体積%のFirthグレード248超硬合金、及び連続相98として80体積%のFirthグレードT-04超硬合金を含む。試料を製造するのに用いたFirthグレードT-04超硬合金粉末は、合計で6重量%のTiC、TaC、及びNbCの立方晶炭化物を含む。従来の非ハイブリッドグレードの微細構造92とハイブリッドグレードの微細構造94との間の界面領域99が明らかである。
【0081】
実施例6:
[0094]第1のハイブリッド超硬合金ブレンド及び第2のハイブリッド超硬合金ブレンドを、複合体回転切削工具ブランク材を製造するための成形型の空洞部の別々の領域内に配置し、界面に沿って接触させた。実施例2に開示するものと同様の通常の非ハイブリッド成形及び焼結プロセスを行って、ハイブリッド超硬合金の第2の領域に自生結合しているハイブリッド超硬合金の第1の領域を含む複合体超硬合金回転切削工具ブランク材を与えた。複合体超硬合金回転切削工具ブランク材の第1及び第2のハイブリッド超硬合金領域の微細構造100を図11に示す。微細構造100の右側は第1のハイブリッド超硬合金微細構造101であり、微細構造100の左側は第2のハイブリッド超硬合金微細構造104である。第1のハイブリッド超硬合金は、連続相102として80体積%のFirthグレード248超硬合金、及び分散相103として立方晶炭化物を含む20体積%のFirthグレードT-04超硬合金を含む。第2のハイブリッド超硬合金は、分散相105として20体積%のFirthグレード248超硬合金、及び連続相106として立方晶炭化物を含む80体積%のFirthグレードT-04超硬合金を含む。図11において、第1のハイブリッドグレードの超硬合金微細構造101と第2のハイブリッド超硬合金グレードの微細構造104との間の界面領域107が明らかである。
【0082】
実施例7:
[0095]冶金粉末及びハイブリッド超硬合金ブレンドを、複合体回転切削工具ブランク材を製造するための成形型の空洞部の別々の領域内に配置し、界面に沿って接触させた。実施例2に開示するものと同様の通常の非ハイブリッド成形及び焼結プロセスを行って、ハイブリッド超硬合金を含む第2の領域に自生結合している従来の非ハイブリッド超硬合金グレードを含む第1の領域を含む複合体超硬合金回転切削工具ブランク材を与えた。複合体超硬合金回転切削工具ブランク材の従来の非ハイブリッド超硬合金グレードとハイブリッド超硬合金との界面の微細構造110を図12に示す。微細構造110の左側は従来の非ハイブリッド超硬合金の微細構造102であり、微細構造110の右側はハイブリッド超硬合金の微細構造114である。従来の非ハイブリッド超硬合金は、6重量%の立方晶炭化物を含むグレードT-04超硬合金である。ハイブリッド超硬合金は、分散相116として20体積%のグレードT-04超硬合金、及び連続相118として80体積%のグレード248超硬合金を含む。従来の非ハイブリッドグレードの微細構造112とハイブリッドグレードの微細構造114との間の界面領域119が明らかである。
【0083】
[0096]本記載は本発明の明確な理解に適切な本発明の複数の形態を示すものであることが理解されるであろう。当業者に明らかであり、したがって本発明のより良好な理解を促進しない幾つかの形態は、本記載を簡単にするために示さなかった。ここではやむを得ずに本発明の限られた数の態様のみを記載したが、当業者であれば上記の記載を考察することによって、本発明の多くの修正及び変更を用いることができることを認識するであろう。本発明の全てのかかる変更及び修正は、上記の記載及び特許請求の範囲にカバーされると意図される。
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超硬合金を含む第1の領域;及び
第1の領域に自生結合している、第2の超硬合金を含む第2の領域;
を含む伸長部を含み;
第1の超硬合金及び第2の超硬合金の少なくとも1つが、
超硬合金分散相;及び
超硬合金連続相;
を含んだハイブリッド超硬合金を含み、
超硬合金分散相及び超硬合金連続相の少なくとも1つが、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含む、複合体回転切削工具及び複合体回転切削工具ブランク材から選択される物品。
【請求項2】
超硬合金分散相及び超硬合金連続相の少なくとも1つが、立方晶炭化物を含む相の重量を基準として少なくとも1.0重量%の立方晶炭化物を含む、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項3】
立方晶炭化物が、炭化チタン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、及び炭化タンタルの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項4】
第1の領域及び第2の領域の少なくとも1つが立方晶炭化物を実質的に含まない、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項5】
ハイブリッド超硬合金中の超硬合金分散相の接触率が0.48以下である、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項6】
ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部がハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相中に含まれる、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項7】
ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部がハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相中に含まれる、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項8】
超硬合金分散相がハイブリッド超硬合金の2〜50体積%を構成する、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項9】
第1の超硬合金及び第2の超硬合金の1つが非ハイブリッド超硬合金である、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項10】
非ハイブリッド超硬合金、ハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相、及びハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相が、それぞれ独立して、
炭化チタン、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種類の遷移金属炭化物;及び
コバルト、コバルト合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、及び鉄合金からなる群から選択される少なくとも1種類の材料を含むバインダー;
を含む、請求項9に記載の複合体物品。
【請求項11】
少なくとも1種類の遷移金属炭化物が炭化タングステンを含む、請求項10に記載の複合体物品。
【請求項12】
炭化タングステンが0.3〜10μmの平均粒径を有する、請求項11に記載の複合体物品。
【請求項13】
バインダーが、タングステン、クロム、モリブデン、炭素、ホウ素、ケイ素、銅、マンガン、ルテニウム、アルミニウム、及び銀からなる群から選択される少なくとも1種類の合金化剤を含む、請求項10に記載の複合体物品。
【請求項14】
非ハイブリッド超硬合金、ハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相、及びハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相が、それぞれ独立して、2〜40重量%のバインダー及び60〜98重量%の金属炭化物を含む、請求項10に記載の複合体物品。
【請求項15】
物品が回転切削工具であり、伸長部の表面が刃先を画定する、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項16】
刃先が伸長部の表面の周囲に螺旋状に配向している、請求項15に記載の複合体物品。
【請求項17】
第1の領域及び第2の領域が同軸的に配置されている、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項18】
第1の領域及び第2の領域の一方がコア領域であり、第1の領域及び第2の領域の他方が外側領域である、請求項17に記載の複合体物品。
【請求項19】
外側領域がハイブリッド超硬合金を含む、請求項18に記載の複合体物品。
【請求項20】
第1の領域が第2の領域の少なくとも一部を覆っている、請求項17に記載の複合体物品。
【請求項21】
複合体物品が、ドリル、ドリルブランク材、エンドミル、エンドミルブランク材、タップ、及びタップブランク材の1つである、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項22】
第1の超硬合金の耐化学的摩耗性が第2の超硬合金の耐化学的摩耗性と異なる、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項23】
第1の超硬合金の硬度及び耐摩耗性の少なくとも1つが第2の超硬合金と異なる、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項24】
第1の超硬合金の弾性率が第2の超硬合金の弾性率と異なる、請求項1に記載の複合体物品。
【請求項25】
複合体物品が、ドリル、ドリルブランク材、エンドミル、エンドミルブランク材、タップ、及びタップブランク材の1つであり;そして
第1の超硬合金の耐化学的摩耗性が第2の超硬合金の耐化学的摩耗性と異なる;
請求項1に記載の複合体物品。
【請求項26】
第1の超硬合金グレードの焼結粒子、及び第2の超硬合金グレードの非焼結粒子を含み、第1の超硬合金グレード及び第2の超硬合金グレードの少なくとも1つが少なくとも0.5重量%の立方晶炭化物を含むハイブリッド超硬合金ブレンドを準備し;
ハイブリッド超硬合金ブレンドを成形型の空洞部の第1の領域中に配置し;
冶金粉末を空洞部の第2の領域中に配置し;
ハイブリッド超硬合金ブレンドの少なくとも一部を冶金粉末と接触させ;
ハイブリッド超硬合金ブレンド及び冶金粉末を固化して成形体を形成し;そして
成形体を加圧焼結する;
ことを含む、複合体回転切削工具及び複合体回転切削工具ブランク材から選択される物品の製造方法。
【請求項27】
第1の超硬合金グレード及び第2の超硬合金グレードの少なくとも1つが少なくとも1.0重量%の立方晶炭化物を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
成形体を加圧焼結する工程の後に、成形体が、
超硬合金分散相;及び
超硬合金連続相を含み;
ハイブリッド超硬合金中の超硬合金分散相の接触比が0.48以下であるハイブリッド超硬合金を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部がハイブリッド超硬合金の超硬合金分散相中に存在する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ハイブリッド超硬合金中の立方晶炭化物の実質的に全部がハイブリッド超硬合金の超硬合金連続相中に存在する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
超硬合金分散相がハイブリッド超硬合金の2〜50体積%を構成する、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
第1の超硬合金グレードの焼結粒子が、部分的に焼結した粒子及び完全に焼結した粒子の少なくとも1つである、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
ハイブリッド超硬合金ブレンドの製造が、2乃至40体積%未満の第1の超硬合金グレードの焼結粒子、及び60体積%より多く98体積%までの第2の超硬合金グレードの非焼結超硬合金粒子を含む材料をブレンドすることを含み、重量%はハイブリッド超硬合金ブレンドの全重量を基準とするものである、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
金属炭化物及びバインダーを含むブレンドを焼結して第1の超硬合金グレードの焼結粒子を形成することを更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
金属炭化物及びバインダーを含むブレンドを焼結することが、400℃〜1300℃で焼結することを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
超硬合金ブレンドの製造が、2〜30体積%の第1の超硬合金グレードの焼結粒子、及び70〜98体積%の第2の超硬合金グレードの非焼結粒子を含む材料をブレンドすることを含み、重量%は超硬合金ブレンドの全重量を基準とするものである、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
第1の超硬合金グレード、第2の超硬合金グレード、及び冶金粉末が、それぞれ独立して、
炭化チタン、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化タングステンからなる群から選択される金属炭化物;及び
コバルト、コバルト合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、及び鉄合金からなる群から選択されるバインダー;
を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
バインダーが、タングステン、クロム、モリブデン、炭素、ホウ素、ケイ素、銅、マンガン、ルテニウム、アルミニウム、及び銀からなる群から選択される合金化剤を更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
物品が複合体回転切削工具であり、方法が成形体から材料を除去して少なくとも1つの刃先を与えることを更に含む、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
成形体からの材料の除去が、成形体を機械加工して、少なくとも1つの螺旋配向している刃先を画定する少なくとも1つの螺旋配向している溝を形成することを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
成形型がドライバッグラバー成形型であり、超硬合金ブレンド及び冶金粉末を固化して成形体を形成することが、ドライバッグラバー成形型を等方圧縮して成形体を形成することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項42】
ドライバッグラバー成形型の空洞部を少なくとも第1の領域及び第2の領域に物理的に区切る;
ことを更に含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
空洞部を物理的に区切ることが、空洞部中にスリーブを挿入して空洞部を第1の領域と第2の領域との間に分割することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
スリーブが、プラスチック、金属、及び紙からなる群から選択される材料から構成される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
超硬合金ブレンドの少なくとも一部を冶金粉末と接触させることが、超硬合金ブレンド及び冶金粉末を成形型の空洞部中に配置した後に空洞部からスリーブを除去することを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
第1の超硬合金グレード、第2の超硬合金グレード、及び冶金粉末が、それぞれ独立して、2〜40重量%のバインダー、及び60〜98重量%の超硬合金を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項47】
第1の超硬合金グレード、第2の超硬合金グレード、及び冶金粉末の少なくとも1つが、0.3〜10μmの平均粒径を有する炭化タングステン粒子を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項48】
成形体を加圧焼結することが、成形体を1350℃〜1500℃において300〜2000psiの圧力下で加熱することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項49】
超硬合金ブレンドの少なくとも一部を冶金粉末と接触させることが、超硬合金ブレンド及び冶金粉末の一方を、超硬合金ブレンド及び冶金粉末の他方と界面に沿って接触するように空洞部中に配置することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項50】
超硬合金ブレンド及び冶金粉末を固化して成形体を形成することが、成形型を5,000〜50,000psiの圧力下で等方圧縮することを含む、請求項26に記載の方法。

【図2】
image rotate

【図3(a)】
image rotate

【図3(b)】
image rotate

【図3(c)】
image rotate

【図3(d)】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2012−526664(P2012−526664A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510820(P2012−510820)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/032002
【国際公開番号】WO2010/132185
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(500566936)ティーディーワイ・インダストリーズ・インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】