説明

複合型乳化剤及びそれを用いて調製された乳剤並びにその調製方法

本発明は、複合型乳化剤を提供する。当該複合型乳化剤が、リン脂質、PEG類乳化剤及びポロキサマー類物質からなる群から選ばれる2種類又は2種類以上の乳化剤を含み、さらに、凍結融解保護剤が含まれる。また、当該複合型乳化剤により調製された乳剤及び当該乳剤の調製方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物製剤分野に関し、具体的には、複合型乳化剤及びそれを用いて調製された乳剤並びに乳剤の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的には、乳剤の組成は、「油相」、「水相」、及び「乳化剤」が含まれ、通常(クラシック又は従来)の乳剤が一つの不安定系であるので、外部条件の影響に受けやすく、例えば、凍結、振動、高温滅菌等の操作によって粒度を変化させ、さらに、乳濁液破壊、析出により、製品品質を明らかに変化させ、治療効果を影響し、意外な不良反応を産生させ、さらに廃棄させ、極大な損失を引き起こす。現在、乳剤を調製する油相は、多く長鎖脂肪酸エステルを利用し、例えば、大豆油である。長鎖脂肪酸エステル類物質は以下の問題が存在し、例えば、豆油の炭素鎖が長く、粘度が大きく、脂溶性薬物に対して溶解量が低く、大量の不飽和二重結合を含有し、酸化しやすく、さらに厳重なことが、凍結融解を受けることができなく、高温滅菌する時に粒度を明らかに増大させ、中鎖トリグリセリド(MCT)又は長鎖トリグリセリドとMCTの混合物を利用しても、以上の問題も存在する。これらの問題を産生する主な原因は、現在の乳剤処方では、単一の乳化剤又は2種類の乳化剤のみ利用し、このような(選抜されていない)2種類の乳化剤が併用される場合、高温滅菌に耐えられることだけでなく、凍結融解に耐えられる性質を考えせずに、高温滅菌して乳濁液破壊しなく、滅菌の後に粒度が極大に増加させないことのみを指標とする。1678年に、人類は乳剤に対する検討が始まり、1961年にIntralipidの市販の成功以来、乳剤が広く重視され、極大な成功も取得され、人類の生命健康のために重要な貢献をした。しかし、残念したことは、乳剤の生産技術と設備に対して時代発展の先進成果が入ったが、利用された処方がまた何十年前、即ち、1961年に利用されたクラシック処方であり、主に大豆油10%(あるいは20%又は30%)、注射用レシチン1.2%、グリセリン2.2%、pH値が約8であり、変化があっても、その変化も大きくない。上記処方の組成において、常に適量のオレイン酸を添加し、同時にpH値を9程度に調整し、滅菌後のpH値を約8に調整し、目的としては、高負電荷を獲得し、乳剤を安定させる。これらの乳剤の処方、プロセスは以下の問題が存在している。その一は、調製された乳剤が凍結融解を受けることができないこと;その二は、加入されるオレイン酸が一定の溶血性を有すること;その三は、平均粒度が比較的大きく、ろ過除菌することができず、スピン滅菌が必要とし、プロセスの複雑性とコストを増加させること;その四は、pH値が高く、高いpH値で不安定な薬物(プロポフォール、アルプロスタジル)に適用されないこと;その五は、調製された乳剤が冷蔵庫内で低温保存させる必要があること。社会の発展にしたがい、乳剤のような古くてクラシック的な剤型に対して新たに要求をし、上記の問題を解決することが目前に迫っています。
【0003】
乳剤の凍結融解問題を解決するために、主に乳化剤と油相の組成を合理的に選択する手段を利用する。トゥイーン80又はポリオキシエチレンヒマシ油を利用して乳剤を調製することは、乳剤に対して一定の保護作用を有するが、作用が満足できるものではなく、且つ乳剤の粒度が比較的大きく、ろ過除菌できず、さらに強力でヒスタミンを放出させる作用により、患者のアレルギーを引き起こすことができ、さらにアレルギーにより死亡させる報告が文献に記載された。
【0004】
以下、脂溶性薬物コエンザイムQ10を例として、関わる背景を紹介する。
【0005】
コエンザイムQ10は、コエンザイムQ類の重要な一つとして、ミトコンドリアの内膜に広く存在し、人体細胞における重要な作用を有するコエンザイムである。内因性コエンザイムQ10は人間の体内での総含有量が0.5-1.5gであり、心臓、肝臓及び膵臓でのレベルが高い。人間の体内自身では一部の必要なコエンザイムQ10が合成され、その他が食事から摂取される。加齢に従い、体内で合成されるコエンザイムQ10が次第に低下する。
【0006】
コエンザイムQ10は抗酸化作用、ラジカル消去作用、生物膜を安定させる作用、免疫機能の増強作用等を有し、臨床上において、心血管類疾患、急慢性肝炎と亜急性肝壊死等の肝臓疾患、癌症、中枢神経系変性紊乱等の疾患の治療及び/又は予防することに用いられている。また、コエンザイムQ10を用いてある薬物の副作用、例えば、スタチン類薬物又は細胞阻害剤の副作用、例えば、アドリアマイシンの心臓毒性を予防又は降低させることもできる。
【0007】
近年来、コエンザイムQ10の原料薬の抽出及び調製の面では多くの検討が行われている。日本はコエンザイムQ10の開発が最も早く、世界中にもっとも大きい生産国になり、統計により、全世界では製品の90%が日本由来である。現在、我が国のある企業は生物抽出法、半化学合成法及び微生物発酵抽出法等の先進技術をだんだんと把握し、国内の原料要求に対して保障が提供された。コエンザイムQ10の製剤は、現在の主な市販品に錠剤、カプセル、ソフトカプセル、注射剤等があるが、疾患治療の要求に満足し難い。コエンザイムQ10は、親脂性物質であり、水中の溶解度が非常に低い(ほとんど水に溶けない)。経口投与用錠剤、カプセル剤等は、生物利用度が低く、個体差が大きい等の欠点が存在する。注射剤の物理安定性が悪く、貯蔵過程において薬物を析出させやすく、加熱して改めて溶解させる必要がある。コエンザイムQ10の溶解度を増加させるために、よくトゥイーン-80を溶解補助剤として添加しているが、当該物質が溶血作用を有し、且つ酸化しやすく、その酸化産物がアレルギーを引き起こすことができる。
【0008】
コエンザイムQ10を乳剤に作製すると、溶解度を増加させ、生物利用度と標的指向性を向上させ、毒性・副作用を低下させることができる。
【0009】
中国特許ZL02808179.Xには、主に経口投与用のコエンザイムQ10を含有するマイクロエマルジョン前濃縮物とマイクロエマルジョンが開示されており;中国特許出願CN200480017624.9には、精油を利用してコエンザイムQ10の送達と吸収を向上させる化学組成物及び方法が開示されており;CN200610046134.2にはコエンザイムQ10注射乳剤及びその調製方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献CN200610046134.2の実施例2と実施例3の処方により乳剤を調製し、それぞれ2時間と1時間放置され、薬物が析出される。その他の処方について、試験によりよい効果が得られなかった。常法により乳剤に調製されても、凍結融解破壊作用を拮抗することができない。
【0011】
本発明者は、かつて単一の乳化剤レシチン(濃度2%)又はSolutol HS15(濃度2%)(ポリエチレングリコール−12−ヒドロキシステアレート)を乳化剤として、常法によりコエンザイムQ10乳剤を調製し、得られた乳剤に対し抗熱と凍結融解安定性を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
表1により、単独にリン脂質又はHS15を利用する乳剤は、遠心安定性が良好であり、遠心前後の平均粒径と粒度分布がほとんど変化しなく、単独にリン脂質を利用する乳剤は、滅菌安定性が良好であるが、凍結融解後の粒径の増大が比較的大きく、単独にHS15を利用する乳剤は、凍結融解に耐えるが滅菌に耐えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、乳剤の抗熱と凍結融解抵抗性の問題を解决するために、本発明の第一の目的は、複合型乳化剤を提供する。
【0015】
本発明の第二の目的は、このような複合型乳化剤で調製された乳剤を提供する。
【0016】
本発明の第三の目的は、このような複合型乳化剤で乳剤を調製する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明内容
本発明により提供される複合型乳化剤が以下の物質からなる群から選ばれる2種類又は2種類以上を含み:乳剤における含有量で、10%w/v以下のリン脂質、30%w/v以下のPEG類乳化剤;10%w/vのポロキサマー類物質。
【0018】
より良い凍結融解抵抗効果が得られるために、本発明の複合型乳化剤において、さらに、含有量50%w/v以下の凍結融解保護剤を含有する。
【0019】
本発明の複合型乳化剤において使用されるリン脂質が、卵黄リン脂質と大豆リン脂質、その他の天然又は半合成又は全合成のリン脂質からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;使用されるポロキサマー類物質がポロキサマー188(Poloxamer188)とプルロニックF68(Pluronic F68)からなる群から選ばれ;使用されるPEG類乳化剤が、ポリエチレングリコール12-ヒドロキシステアレート(polyethylene glycol 660 hydroxystearate、Solutol、HS15)、トコフェロールポリエチレングリコールサクシネート(TPGS)およびDSPE-PEG(DPPE-PEG、DMPE-PEGを含む)からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり、PEGの分子量が100〜10000であり;使用される凍結融解保護剤がアルコール類と糖類物質からなる群から選ばれる。
【0020】
一つの好ましい実施態様は、リン脂質と一種のPEG類乳化剤と一種の凍結融解保護剤からなる複合型乳化剤である。
【0021】
本発明の複合型乳化剤が、3種類又は3種類以上の乳化剤を含有することができ、その中の1種類がポロキサマーであるが、凍結融解保護剤を添加しない。
【0022】
本発明者により、3種類又は3種類以上の複合乳化剤であり、且つその中の1種類がポロキサマー類物質である場合、単に中鎖トリグリセリド(MCT)を油相としても、又は長鎖トリグリセリド(LCT)を油相としても、又はMCTとLCTを混合して油相としても、又は漢方薬油脂性物質を油相としても、又は各種の油で溶解した脂溶性化合物を油相としても、凍結融解抵抗剤の添加を必要せず、調製された乳剤がいずれも凍結融解抵抗の目的に達成することができることが発見された。好ましい実施態様の一つは、リン脂質とPEG類乳化剤(HS15、TPGS、DSPE-PEG2000を含む)中の1種類又は2種類と一種のポロキサマー類乳化剤とからなる複合乳化剤である。当該複合乳化剤に対して、特別に凍結融解保護剤を考えせず、その適用面がさらに広く、異なる油相組成に適用され、C6〜C28を含む油類及びこれらの油類で溶解された脂溶性化合物を含み、当該複合乳化剤も治療用油に用いられ、、又は治療用油で溶解された脂溶性化合物に用いられ、複方製剤とする。
【0023】
本発明の第二点は、本発明の複合型乳化剤で調製された乳剤を提供し、前記乳剤が油相、複合型乳化剤および水が含まれ、その中に、前記複合型乳化剤が乳剤における含有量で、10%w/v以下のリン脂質、30%w/v以下のPEG類乳化剤、10%w/v以下のポロキサマー類物質からなる群から選ばれる2種類又は2種類以上の物質を含んでいる。
【0024】
本発明の乳剤の油相がC6〜C28油類物質と、治療活性のある油脂性物質及び/又は前記C6〜C28油類物質に溶解又は分散される脂溶性化合物又は薬物とを含み、前記脂溶性化合物又は薬物と前記C6〜C28油類物質との割合が1:0〜1:10000w/wであり、前記C6〜C28油類物質の用量が乳剤における含有量で0.1〜20%w/vである。
【0025】
上記C6〜C28油類物質が構造改造と加水分解されたヤシ油、オリーブ油、大豆油、紅花油、トリグリセリド、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、オレイン酸エチル、リノール酸グリセリド、リノール酸エチル、オレイン酸グリセリド、オレイン酸コレステリル、リノール酸コレステリル、ヤシ油C8/C10モノグリセリド又はジグリセリド、ヤシ油C8/C10プロピレングリコールジエステル、ヤシ油C8/C10トリグリセリドからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上である。
【0026】
上記C6〜C28油類物質中のトリグリセリドは、中鎖トリグリセリド(MCT)及び/又は長鎖トリグリセリド(LCT)である。長鎖脂肪酸エステル類物質(例えば、大豆油)に対して、中鎖トリグリセリド(MCT)は炭素鎖が短く、粘度が小さく、脂溶性薬物に対して溶解量が高く、二重結合が含有せず酸化され難く、体内での代謝が簡単であるなどの利点を有する。中鎖トリグリセリド(MCT)と長鎖トリグリセリド(LCT)を併用すれば、適当な油相粘度が得られ、さらに複合乳化剤で乳化(リン脂質とPEG鎖含有乳化剤、例えば、HS15、TPGS、DSPE-PEG(PEGの分子量が100〜10000である)中の1種類又は2種類以上とで組合わせてなる複合乳化剤)を行い、同時に凍結融解保護剤を添加し、本発明の目的に達する。
【0027】
治療活性のある油脂性物質及び/又は前記C6〜C28油類物質に溶解又は分散される脂溶性化合物又は薬物が、コエンザイムQ10、ククルビタシン、ククルビタシンB、ジヒドロククルビタシンB、イソククルビタシンB、ククルビタシンD、ククルビタシンE、ククルビタシンI、ククルビタシンQ、アルプロスタジル、プロポフォール、ビタミンK1、デキサメタゾンパルミタート、タンシノンIIA、ブチルフタライド、リグスチリド、イリスキノン、エンテカビル、アネトールトリチオン、マロチラート、ホモハリントニン、デメチルカンタリド酸、クルクミン、シクランデラート、β-エレメン、バチルアルコール、スタチン類降脂薬例えば「ロバスタチン」と「シンバスタチン」等、ニガキモドキ油、シーバックソーン油、魚油(深海魚油、DHA等の高度不飽和脂肪酸及びそのエステルを多く含む)、ハト麦油、ガジュツ油、ニンニク油、アリシン、センキュウ油、当帰油、トウガラシオレオレジン、生姜油、セロリシード油、ドクダミ油、月見草油、シソ種子油、五福心脳康(曾用名:五福心脳清、又は心脳清/心脳康、主な成分:精製紅花油、ビタミンB6、トコフェロール、冰片等)、ニコチン酸トコフェロール、ゴシポール、オリドニン、フェノフィブラート、イトラコナゾール、カンデサルタン、ヒドロキシカンプトテシン、カンプトテシン誘導体、パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体、フィナステリド、エトポシド、ジンセノサイド、20(S)-プロトパナキサジオール、ジンセノサイドRe、ジンセノサイドRbl、ジンセノサイドRg2、20(R)-ジンセノサイドRg3及び20(S)-ジンセノサイドRg3からなる群から選ばれる。
【0028】
また、本発明の乳剤において、さらに、乳化助剤、安定剤、凍結融解保護剤およびpH調整剤からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上の薬物添加物を含む。
【0029】
本発明の乳剤に使用され得る乳化補剤が、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸およびコール酸からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;使用される凍結融解保護剤が、プロピレングリコール、グリセリンおよびポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上を含むアルコール類と、グルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース、キシリトール、マルトースおよびラクトースからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上を含む糖類物質とからなる群から選ばれ;使用される安定剤が、窒素ガス、EDTA及びその塩類、無水亜硫酸ナトリウム、無水亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ビタミンC及びその誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、α-トコフエロール、α-酢酸トコフエロールおよびハイドロキノンからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;使用される等張調整剤が、グリセリン、1,2-プロピレングリコール、グルコース、マルトース、マンニトールおよびキシリトールからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;使用されるpH調整剤が塩酸、水酸化ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、クエン酸およびクエン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上である。
【0030】
また、本発明は、上記複合型乳化剤を用いて乳剤を調製する方法であって、
(1)窒素ガス雰囲気において、油類物質及び油溶性成分を20〜90℃に加熱し、その後、乳化剤を添加し、20〜90℃で溶解まで攪拌し、続いて、攪拌しながら薬物活性成分を添加する油相の調製工程と;
(2)水溶性物質(等張調整剤、凍結融解抵抗剤等)を水/又は水相中の乳化剤に添加し、20〜90℃で5分攪拌して、完全に混合溶解させる水相の調製工程と;
(3)窒素ガス雰囲気、20〜60℃で、水相を油相に添加し、5〜30分攪拌して、一次乳剤を形成する工程と;
(4)ホモジナイザーにより均質化処理を行い、ステップ1で、均質圧を4000〜8000psiに調整し、ステップ2で、均質圧を10000〜30000psiに調整することにより、乳剤が調製される工程とを含む調製方法を提供する。
【0031】
必要に応じて、一次乳剤に対して均質化処理する前に、pH3〜9に調整することができる。
【0032】
上記方法で調製された乳剤をミクロポアフィルター透過、サブパッケージ、滅菌処理をして、注射用乳剤を得ることができる。滅菌処理が湿熱滅菌又はろ過除菌又はマイクロ波滅菌を利用することができる。
【0033】
本発明により得られた乳剤の平均体積粒径が150nm未満であり、さらに好適なのは、乳剤の平均体積粒径が100nm未満である。このような乳剤が簡便に注射、経口又は外用により投与される。
【発明の効果】
【0034】
従来技術と比べ、本発明が以下のような利点を有する:
1、調製された乳剤が熱、凍結融解の破壊作用を抵抗することができること;2、平均体積粒度が150nm未満、さらに100nm未満の乳剤を生産しやすく、設備に対する要求が高くないこと;3、ろ過除菌の目的を実現することができ、高温を利用せずに無菌製剤を得ることができること;4、乳剤がpH、処方中のその他の添加剤の影響に受ける可能性が低く、低pH値で乳剤を調製する目的を実現することができ、乳剤の応用範囲を拡大すること;5、薬物の化学安定性を向上させることができること;6、表面には複合乳化層が存在するため、薬物の刺激性を大幅に低下させることができること。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明実施例16におけるラットがアドリアマイシン(ADM)処理される前の心電図である。
【図2】図2は、本発明実施例16におけるラットがADM処理された後の心電図である。
【図3】図3は、本発明実施例16におけるラットがコエンザイムQ10乳剤を投与された後の心電図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、実施例に基づき、さらに具体的に本発明の内容を説明する。以下の実施例は、本発明の内容を説明するためのものであり、本発明の内容を制限するものではなく、いかなる形式的な変化及び/又は改変が本発明の保護範囲に属することが理解されるべきである。
【実施例】
【0037】
それぞれの実施例において、コエンザイムQ10の含有量の測定が、HPLCクロマトグラフィー分析を採用する。当該HPLCクロマトグラフィー分析は、オクタデシルシラン結合シリカゲルクロマトグラフィーカラムを利用し、メタノール-エタノール(50/50、v/v)を移動相として、検出波長275nmであり;乳剤の粒度測定にはPSS.NICOMPTM 380を粒径測定の装置とする。
【0038】
実施例1 HS15とSPC(大豆レシチン)を複合乳化剤とする際に、異なる割合の大豆油/中鎖油を油相として乳剤の凍結融解前後の粒径に及ぼす影響
処方組成:コエンザイムQ10 0.25g、大豆リン脂質(SPC)1.2g、HS15 0.9g、注射用油10g、グリセリン2.2g、その他が注射用水であり、合計100mLである。注射用油が大豆油/中鎖油であり、割合が100:0〜0:100(w/w)である。
【0039】
調製:1)調製容器において、注射用油、リン脂質、HS15を50℃まで加熱し、溶解まで激しく攪拌し、薬物を添加し、攪拌して溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した);2)調製容器において、グリセリンを注射用水に添加し、50℃で5分攪拌して、完全に溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した);3)工程2)の産物を攪拌の条件下で工程1)の産物に添加し、50℃で攪拌した後、一次乳剤が得られた;4)得られた一次乳剤(液体)がマイクロフルイダイザーにより、ステップ1で、均質圧を4000psiまで調整し、ステップ2で、さらに16000psiまで調整し、溶液を繰り返し均質化させ、均一な乳剤が得られた。膜フィルター透過、サブパッケージ、窒素ガス充填、封着、滅菌処理を行い、コエンザイムQ10注射用乳剤が得られた。調製された乳剤を凍結融解試験した。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2により、HS15、SPCを複合乳化剤とする場合、大豆油/中鎖油の割合が25:75〜10:90(w/w)範囲内であることが、調製された乳剤の凍結融解の粒径の増大が比較的小さいので、好ましい組み合わせ割合であることが知られた。
【0042】
実施例2 TPGSとSPCを複合乳化剤とする際に、異なる割合の大豆油/中鎖油を油相として乳剤の凍結融解前後の粒径に及ぼす影響
処方組成:コエンザイムQ10 0.25g、大豆リン脂質1.2g、TPGS 1g、注射用油10g、グリセリン2.2g、その他が注射用水であり、合計100mLである。注射用油が大豆油/中鎖油であり、割合が100:0〜0:100(w/w)である。
【0043】
調製:1)調製容器において、注射用油、リン脂質、TPGSを50℃まで加熱し、溶解まで激しく攪拌し、薬物を添加し、攪拌して溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した)。2)調製容器において、グリセリンを注射用水中に添加し、50℃で5分攪拌して、完全に溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した)。3)2)の産物を攪拌の条件下で1)の産物に添加し、50℃で攪拌した後一次乳剤が得られた。4)得られた一次乳剤(液体)がマイクロフルイダイザーにより、ステップ1で、均質圧を4000psiまで調整し、ステップ2で、さらに16000psiまで調整し、溶液を繰り返し均質化させ、均一な乳剤が得られた。膜フィルター透過、サブパッケージ、窒素ガス充填、封着、滅菌処理を行い、コエンザイムQ10注射用乳剤が得られた。その凍結融解試験の結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3により、TPGS、SPCを複合乳化剤とすると、大豆油/中鎖油の割合が100:0〜0:100(w/w)範囲における場合に、凍結融解抵抗能力はHS15より良く;50:50〜0:100(w/w)範囲内における場合に、調製された乳剤の凍結融解の粒径の増大がもっとも小さいことが知られた。
【0046】
大豆油/中鎖油の割合が0:100(w/w)である場合、処方中のTPGSを5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%(w/v)に変更し、その他の成分を変更しないと、乳剤の平均粒径がそれぞれ51nm、46nm、39nm、36nm、33nm、18nmであり、凍結融解後の粒径の増大百分率が20%未満で、良好な凍結融解に耐える性能を有し、さらに、TPGSの用量増加が乳剤の凍結融解抵抗能力の改善に有利であることが証明された。
【0047】
大豆油/中鎖油の割合が0:100(w/w)である場合、処方中の大豆リン脂質を2%又は5%又は10%(w/v)に変更し、その他の成分が変更しなく、乳剤の平均粒径がそれぞれ59nm、51nm、36nmであり、凍結融解後の粒径の増大百分率が20%未満で、良好な凍結融解に耐える性能を有し、さらに、大豆リン脂質の用量増加が乳剤の凍結融解抵抗能力の改善に有利であることが証明された。
【0048】
実施例3 異なるリン脂質が乳剤の凍結融解前後の粒径に及ぼす影響
処方組成:コエンザイムQ10 1.0g、リン脂質1.2g、HS15 3.0g、注射用油10g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、プロピレングリコール5.0g、EDTA-2Na 0.05g、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0049】
調製:1)調製容器において、注射用油、リン脂質、HS15を50℃まで加熱し、溶解まで激しく攪拌し、薬物を添加し、攪拌して溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した);2)調製容器において、プロピレングリコール、EDTA-2Naを注射用水に添加し、50℃で5分攪拌して、完全に溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した);3)2)の産物を攪拌の条件下で1)の産物に添加し、50℃で攪拌した後、一次乳剤が得られた;4)得られた液体をマイクロフルイダイザーにより、ステップ1で、均質圧を5000psiに調整し、ステップ2で、さらに14000psiに調整し、繰り返し均質化させた後、均一な乳剤が得られた。膜フィルター透過、サブパッケージ、窒素ガス充填、封着、滅菌処理を行い、コエンザイムQ10注射用乳剤が得られた。その凍結融解試験の結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4により、リン脂質の種類は乳剤の凍結融解前後の粒径に及ぼす影響が大きくないことが知られた。
【0052】
実施例4 異なる凍結融解保護剤が乳剤の凍結融解前後の粒径に及ぼす影響
処方組成:コエンザイムQ10 1.0g、大豆リン脂質1.2g、HS15 3.0g、注射用油10g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、EDTA-2Na 0.05g、凍結融解保護剤適量、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0053】
調製:1)調製容器において、注射用油、リン脂質、HS15を50℃まで加熱し、溶解まで激しく攪拌し、薬物を添加し、攪拌して溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した);2)調製容器において、凍結融解保護剤、EDTA-2Naを注射用水に添加し、50℃で5分攪拌して、完全に溶解させた(必要の時、活性炭を添加し、常法により処理を行い、発熱物質を除去した);3)2)の産物を攪拌の条件下で1)の産物に添加し、50℃で攪拌した後、一次乳剤が得られた;4)得られた一次乳剤(液体)がマイクロフルイダイザーにより、ステップ1で、均質圧を5000psiに調整し、ステップ2で、14000psiに調整し、繰り返し均質化させた後、均一な乳剤が得られた。
【0054】
乳剤にことなる種類の凍結融解保護剤を適量添加し、攪拌して均一に溶解させ、さらに膜フィルター透過、サブパッケージ、窒素ガス充填、封着、滅菌処理を行い、コエンザイムQ10注射用乳剤が得られた。その凍結融解試験の結果を表5に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
表5により、アルコール類保護剤において、プロピレングリコールが好ましく、糖類保護剤において、マルトース単独、マンニトール6%グルコース1.5%併用、マンニトール6%グルコース3%併用、マンニトール6%マルトース1.5%併用、マンニトール2%グルコース4%マルトース8%併用では、粒度の増大率が200%未満、特に、マンニトール2%グルコース4%マルトース8%併用では、粒度の増大率が50%未満である。
【0057】
実施例5
処方組成:コエンザイムQ10 0.1g、大豆リン脂質0.6g、HS151.8g、注射用油5g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、グルコース1.5g、マンニトール6g、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0058】
(1)調製容器において、注射用油、大豆リン脂質、HS15を50℃まで加熱し、溶解まで激しく攪拌し、コエンザイムQ10を添加し、攪拌して溶解させた;
(2)調製容器において、グルコース、マンニトールを注射用水に添加し、50℃で5分攪拌して、完全に溶解させた;
(3)(2)の産物を攪拌の条件下で(1)の産物に添加し、50℃で攪拌した後、一次乳剤が得られた;
(4)(3)に得られた一次乳剤(液体)がマイクロフルイダイザーにより、ステップ1で、均質圧を5000psiに調整し、ステップ2で、14000psiに調整し、繰り返し均質化させ、均一な乳剤が得られ、膜フィルター透過、サブパッケージ、窒素ガス充填、封着、滅菌処理を行い、コエンザイムQ10注射用乳剤が得られた。測定により、乳剤の平均粒径が46.8nmであり、凍結融解後の乳剤の平均粒径が49.5nmである。(即ち、油相の割合を低下することによって、小粒径乳剤が得られ、凍結融解抵抗能力が大幅に増加させた。)
【0059】
HS15をTPGSに変更し、上記と同じように乳剤が得られ、その平均粒径が36nmであり、凍結融解後の平均粒径が37nmである。
【0060】
実施例6
処方組成:コエンザイムQ10 0.25g、大豆リン脂質0.3g、HS151.8g、注射用油5g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、グルコース1.5g、マンニトール6g、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0061】
工程(2)中の温度が30℃である以外、操作が実施例5と同じである。得られた乳剤の平均粒径が51.0nmである。凍結融解後の乳剤の平均粒径が53.3nmである。
【0062】
HS15をTPGSに変更し、上記と同じように乳剤が得られ、その平均粒径が43nmであり、凍結融解後の平均粒径が49nmである。
【0063】
実施例7
処方組成:コエンザイムQ10 0.25g、大豆リン脂質0.3g、HS151.8g、注射用油5g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、グリセリン2.4%、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0064】
工程(2)中においてグリセリンを注射水に添加したこと以外、その他の操作が実施例5と同じである。得られた乳剤の平均粒径が63.1nmであり、凍結融解後の平均粒径が62.8nmである。
【0065】
HS15をTPGSに変更し、上記と同じように乳剤が得られ、その平均粒径が38nmで、凍結融解後の平均粒径が40nmである。
【0066】
実施例8
処方組成:コエンザイムQ10 0.5g、大豆リン脂質1.2g、HS15 3.0g、注射用油10g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、プロピレングリコール5.0g、EDTA-2Na 0.05g、その他注射用水であり、合計100mLである。
【0067】
工程(2)においてプロピレングリコール、EDTA-2Naを注射水に添加したこと以外、その他の操作が実施例5と同じである。得られた乳剤の平均粒径が58.9nmであり、凍結融解後の平均粒径が61.5nmである。
【0068】
HS15をTPGSに変更し、上記と同じように乳剤が得られ、その平均粒径が53nmであり、凍結融解後の平均粒径が57nmである。
【0069】
実施例9
処方組成:コエンザイムQ10 1.0g、大豆リン脂質1.2g、HS15 3.0g、注射用油10g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、プロピレングリコール5.0g、EDTA-2Na 0.05g、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0070】
工程(2)においてプロピレングリコール、EDTA-2Naを注射水に添加したこと以外、その他の操作が実施例5と同じである。得られた乳剤の平均粒径が66.9nmであり、凍結融解後の平均粒径が64.2nmである。
【0071】
HS15をTPGSに変更し、上記と同じように乳剤が得られ、その平均粒径が72nmであり、凍結融解後の平均粒径が76nmである。
【0072】
実施例10
処方組成:コエンザイムQ10 1.0g、レシチン1.0g、HS15 2.0g、ポロキサマー188 1.0g、注射用油10g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、プロピレングリコール5.0g、EDTA-2Na 0.05g、その他が注射用水であり、合計100mLである。
【0073】
(1)調製容器において、注射用油、レシチン、HS15を50℃まで加熱し、溶解まで激しく攪拌し、コエンザイムQ10を添加し、攪拌して溶解させた。
(2)調製容器において、ポロキサマー188、プロピレングリコール、EDTA-2Naを注射用水に添加し、50℃で5分攪拌して、完全に溶解させた。
(3)(2)の産物を攪拌の条件下で(1)の産物に添加し、50℃で攪拌した後、一次乳剤が得られた。
(4)得られた液体がマイクロフルイダイザーにより、ステップ1で、均質圧を5000psiに調整し、ステップ2で、14000psiに調整し、繰り返し均質化させ、均一な乳剤が得られた。膜フィルター透過(ろ過除菌)、サブパッケージ、充窒素ガス、封着、滅菌処理(湿熱滅菌又はろ過除菌)が行われ、コエンザイムQ10注射用乳剤が得られた。測定により、乳剤の平均粒径が62.6nmであり、凍結融解後の乳剤の平均粒径が63.3nmである。
【0074】
処方中の注射用油を15gに変更し、その他が上記と同じようにして、得られた乳剤の平均粒径が68nmであり、凍結融解後の平均粒径が71nmである。
【0075】
処方中の注射用油を20gに変更し、その他が上記と同じようにして、得られた乳剤の平均粒径が73nmであり、凍結融解後の平均粒径が78nmである。
【0076】
実施例11
工程(4)中のステップ2での均質圧を10000psiに調整したこと以外、処方組成とその他の操作が実施例10と同じ、均一な乳剤が得られた。測定により、乳剤の平均粒径が91.6nmであり、凍結融解後の乳剤の平均粒径が93.9nmである。
【0077】
実施例12
工程(4)において均質圧を5000psiに調整したこと以外、処方組成とその他操作が実施例11と同じ、均一な乳剤が得られた。測定により、乳剤の平均粒径が128.2nmであり、凍結融解後の平均粒径が132.9nmである。
【0078】
実施例13 コエンザイムQ10乳剤の凍結融解試験
SFDA『化学薬物安定性の研究技術指導原則》を参照して、コエンザイムQ10乳剤に対して凍結融解試験を行い、即ち、-10〜-20℃の条件下で2日凍結させ、その後、40℃の加速条件下で2日調べ、3回繰り返した。結果を表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
表6により、大量の基礎研究試験を行った後、相対的に合理的な処方プロセスで、2種類の乳化剤からなる複合乳化剤でも、3種類の乳化剤からなる複合乳化剤でも、調製されたコエンザイムQ10乳剤の凍結融解安定性が良好である。
【0081】
実施例14 コエンザイムQ10乳剤の希釈試験
臨床において静脉注射用乳剤に用いられる希釈剤が、主に生理食塩水と5%グルコース注射液があり、本実施例において、この二つものを対象として、コエンザイムQ10乳剤の希釈後の物理安定性を調べた。
【0082】
方法:実施例10のコエンザイムQ10乳剤2部を精密に測り、それぞれ2 mL であり、10 mLメスフラスコに入れて、それぞれ生理食塩水と5%グルコース注射液を添加して標線に合わせて、均一に混合して、キャップ付きすりガラス試験管に転移された。さらに、2部コエンザイムQ10乳剤を精密に測り、それぞれ1 mLであり、10 mLメスフラスコに入れて、その他の操作が上記と同じである。4部のサンプルを30℃の定温水浴に置いて、0、2、4、6、8、10と12hrでサンプリングした。粒度の平均値及び分布状況を測定し、サンプルと希釈剤とを混合した後の放置期間内の粒度変化を決定し、結果を表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
粒度測定の結果により、本品がそれぞれグルコース注射液と生理食塩水を混合し、12時間放置している内に、平均粒径がほとんど変化しないので、配合安定性が良好である。
【0085】
実施例15 異なる製剤の光照射試験
濃度が0.1 mg/mL、0.5 mg/mL、mg/mLであるコエンザイムQ10のエタノール溶液、並びに濃度が0.1 mg/mL、0.5 mg/mL、1 mg/mL、10 mg/mLであるコエンザイムQ10のナノ乳剤を自ら調製し、いくつのバイアルにサブパッケージして封着した。その後、バイアルを人工気候室(Artificial Climate Box)に置いて、温度が25℃に設定され、2000Lux、3000Lux、4000Lux、5000Lux 、6000 lux 下で強制光分解実験を行った。結果を表8〜12に示す。
【0086】
【表8】

【0087】
【表9】

【0088】
【表10】

【0089】
【表11】

【0090】
【表12】

【0091】
表8〜12により、コエンザイムQ10の光分解が濃度依存性を有し、初濃度の増加に従い、光分解速率が減少した。コエンザイムQ10を乳剤に調製した後、溶液剤と比べ、濃度の増加に従い、薬物の光安定性が比較的大きく向上していた。当該結果が報告されたことはなかった。乳剤におけるコエンザイムQ10の適切な濃度は、1mg/mL以上であった。
【0092】
実施例16 コエンザイムQ10乳剤のアドリアマイシン(ADM)心臓毒性に対する保護作用
コエンザイムQ10がアドリアマイシン(ADM)の心臓毒性を低下させることができる。本研究では、アドリアマイシンにより誘導されたラット心筋傷害モデルを確立し、コエンザイムQ10のナノ乳剤がアドリアマイシンにより引き起こされたラット心筋傷害に対する保護効果を調べた。
【0093】
Wistarラット40匹、体重250±15g、雌雄が半分ずつである。ランダムで5群:陽性対照群、ADM群、ADM+コエンザイムQ10-低剤量群、ADM+コエンザイムQ10-中剤量群、ADM+コエンザイムQ10-高剤量群に分け、群ごとに8匹である。対照群:生理食塩水10mL/kg/dを9日連続に腹腔内注射した;ADM群:腹腔内注射ADM 3 mg/kg、2日ごとに投与し、合計5回(9日)である;ADM+コエンザイムQ10-低剤量群、中剤量群、高剤量群:それぞれコエンザイムQ10-1.5、3.0、6.0 mg/kg/dを9日連続に尾静脉より注射し、ADMが2日ごとに投与され、合計5回(9日)であり、コエンザイムQ10を静脉注射した10分後、ADM 3 mg/kgを腹腔内注射した。10日目にラットを死亡させ心臓を採り、組織病理学検査及びマロンジアルデヒド、SODの含有量測定を行った。その中、組織病理学検査:左心室の心筋組織を採り、10%ホルマリンで固定し、通常通り切片、HE染色をし、文献を参照して、Rona等の標準に従って、傷害を4級に分ける。結果を表13、14に示す。
【0094】
【表13】

【0095】
表13により、コエンザイムQ10乳剤を尾静脉より注射した後、アドリアマイシンにより誘導された心臓傷害を低減させることができることが見られた。
【0096】
【表14】

【0097】
表14により、アドリアマイシンを腹腔内注射した後、ラット心筋組織中のMDAの含有量が対照群と比べ有意に向上し(P<0.05)、SODの含有量が対照群と比べ有意に低下した(P<0.05)。異なる剤量のコエンザイムQ10乳剤を尾静脉より注射した後、ラット心筋組織中のMDA含有量が対照群よりやや増加したが、有意の差が見られなかった。各剤量群がアドリアマイシン群と比べ、有意の差が見られた(P<0.05)。ラット心筋組織中のSOD含有量が対照群よりやや低下したが、有意の差が見られなかった。中、高剤量群がアドリアマイシン群と比べ、有意の差が見られた(P<0.05)。コエンザイムQ10乳剤がアドリアマイシンの心臓毒性を効果的に低下させ、心臓傷害されたラットのSOD活性を保護することにより、内因性活性酸素ラジカル消去系の機能を増加させ、MDAの生成を低減させることができる。
【0098】
ラット心電図の変化状況は図1−3に示す。正常状態下の心電図の図1と対照して、ADM投与群の心電図の図2にP波が消失し、T波が平低であり、ST-T段が明らかに低下し、QRS波群が低下しており、コエンザイムQ10治療群のラット心電図の図3にP波、T波、ST-T段、QRS波群が明らかに修復された。
【0099】
心筋組織切片(HE染色)の結果により、ADM処理されない対照群では心筋組織が変化なく、ADMの腹腔内注射群では心筋傷害がひどく、心内膜側の心筋細胞が巣状壊死し、横紋が消失し、細胞核が消失し、心室壁の各層には心筋繊維の排列が乱れ、大面積の巣状壊死に呈することを示し、コエンザイムQ10のナノ乳剤を尾静脉より注射した後、ADMにより誘導された心臓傷害を軽減させることができる。
【0100】
実施例17 コエンザイムQ10乳剤の初歩の標的指向性評価
投与及びサンプリング:絶食12hのマウスをランダムで四群に分け、それぞれコエンザイムQ10の溶液剤と異なる粒度のコエンザイムQ10のナノ乳剤を尾静脉より注射し、群ごと時点ごとに3匹のマウスで、投与剤量が4.0mg・kg−1であり、投与した後、異なる時点の10分、30分、1時間、2時間、6時間、12時間に眼窩から採血してヘパリン含有抗凝固管に入れ、血漿を遠心分離し、且つ、迅速に心臓、肝臓、脳を採り、氷生理食塩水で洗浄して、ろ紙で乾かして、-20℃で凍結保存した。
【0101】
HPLCにより組織中のコエンザイムQ10の含有量を定量測定した。
【0102】
高速液体クロマトグラフ(大連elite);UV2000II UV可変波長検出器(大連elite);HW2000クロマトグラフィーデータ処理ワークステーション(大連elite)。
【0103】
カラム:Hypersil BDS C18(200 mm×4.6mm、5μm、大連elite);移動相:メタノール-無水エタノール(20:80, v/v);カラム温度:30℃;流速:1.0 mL/分;検出波長:275nm;サンプルインジェクト量:20μL。
【0104】
3p87薬物動態学的プログラムによりデータ処理をし、各組織におけるAUCが得られた。結果が表15に示す。
【0105】
【表15】

【0106】
表15により:乳剤の粒度が150nm未満であると、乳剤の粒度には大きな差が見られても(実施例10、11、12それぞれが62.6nm、91.6nm、128.2nmである)、心臓、肝臓と脳の相対摂取率(re)がいずれも1より大きく、乳剤がこれらの組織における標的指向性を有することが示唆され、その標的指向性の効果が心臓>>肝臓>脳であり、且つ顕著な区別がなく、これが将来の産業化大生産、並びに製品の貯蔵変化の制御のために根拠を提供した。当該結果が報告されたことがない。
【0107】
実施例18 3種類の複合乳化剤の併用による乳剤の調製
ククルビタシン(市販のククルビタシン原料、乳剤における含有量が総ククルビタシンで0.1mg/mlである)をモデル薬として処方選抜を行い、油相が10%MCT(w/v)である。調製プロセスが実施例10を参考し、2種類の乳化剤の併用との比較結果を表16に示し、測定された粒度がいずれもガウス体積径である。
【0108】
【表16】

【0109】
処方6中のTPGSを除去すれば、調製された乳剤が凍結融解試験に拮抗できない。また、処方6中のTPGSをDSPE- PEG2000に変更し、その他が変更しない場合、結果としては、滅菌前後の粒度がそれぞれ55.3nmと60.6nmであり、凍結融解試験後の粒度が62.3nmであり、DSPE-PEG2000も凍結融解に良好な拮抗作用を有することが証明される。
【0110】
表6の処方2を基として、それぞれ日本産NANOMIZER/美国産MICROFLUIDIZER(高圧微射流ナノ分散機)、中国産機器であるナノマイクロ乳化シリーズ設備 DSSシリーズ/ドイツ産EKATONANOMIX/イタリア産実験型高圧ホモジナイザー-Niro Soavi NS1001L型高圧ホモジナイザー等の異なる設備により調製された乳剤の熱と凍結融解破壊に抵抗する状況を調べた結果、顕著な差が見られないので、本発明が異なる設備、異なる分散原理(従来のクラシック処方を利用して、即ち、レシチンを乳化剤とすれば、設備が乳剤の粒度、分布に影響し、調製された乳剤が熱と凍結融解破壊に抵抗する目的を達することができない)に応用することができることが示唆された。
【0111】
また、pH3〜9を調べた結果としては、pHが乳剤粒度に対して顕著な影響がなく、これは、従来のクラシック乳剤の処方が有していない特徴であり、本発明が特にpHに敏感な薬物の乳剤の調製に適用することが示唆された。油相を異なる割合の混合油に変更し、例えば、LCT/MCT 10:90;20:80;30:70;40:60;50:50;60:40;70:30;80:20;90:10;100:0に変更しても調製された乳剤も熱と凍結融解破壊試験に拮抗することができる。油相濃度用量を調べる場合、油相の濃度が20%を超えると、調製された乳剤が熱と凍結融解の破壊作用に拮抗できなくなることが見られるので、油相の濃度が20%以下であることが適宜である。
【0112】
処方6中のF68(ポロキサマー)用量を5%又は10%(w/v)に変更させ、その他の成分が変更しないと、乳剤の平均粒径がそれぞれ63nm、38nmであり、凍結融解後の粒径が明らかに変化しなかった。
【0113】
実施例19
実施例18中のSPCをEPCに変更し、その他が変化せず、試験により、結果が同じであり、顕著な変化が見られなかったことが示された。
【0114】
実施例20
実施例18中のククルビタシンをククルビタシンB(又はジヒドロククルビタシンB、イソククルビタシンB、ククルビタシンD、ククルビタシンE、ククルビタシンI、ククルビタシンQ)(HPLC面積正規化された純度が90%超える)に変更し、その他が変化せず、試験により、結果が同じであり、顕著な変化が見られなかったことが示された。
【0115】
実施例21
実施例18の方法を利用し、ククルビタシンをコエンザイムQ10(乳剤においてコエンザイムQ10の濃度が1%であり、即ち、製剤中のコエンザイムQ10の濃度が10 mg/mlである)に変更して、簡単な調整を行った。結果が表17に示す。
【0116】
【表17】

【0117】
HS15用量が0であり、SPCとF68がそれぞれ1%である複合乳化剤の処方により調製された乳剤も凍結融解破壊試験に耐えない。SPCを除去して、HS15とF68又はTPGSとF68のみにより構成されば、調製された乳剤が熱と凍結融解に対する耐力も強くない。
【0118】
実施例22
コエンザイムQ10の濃度を0.1%、0.5%に変更し、SPCをEPCに変更して、その他が実施例9と同じであり、また、実施例19の研究方法を利用し、得られた結果が同じであり、顕著な変化が見られなかった。
【0119】
実施例23 ビタミンK1乳剤(10mg/ml)
実施例21中のコエンザイムQ10をビタミンK1 に変更し、濃度が1%(製剤濃度10mg/ml)であり、その他が変更しないと、調製された乳剤の粒度が100nm未満であり、熱と凍結融解破壊作用に耐えることができる。
【0120】
実施例24 ビタミンK1乳剤(1mg/ml、5mg/ml)
実施例23中のビタミンK1を0.1%(製剤濃度1mg/ml)、0.5%(製剤濃度5mg/ml)に変更し、SPCをEPCに変更して、結果が同じである。
【0121】
実施例25 プロポフォール乳剤
実施例18の表16中の処方2、4の乳化剤の組成、油相が10%である複合油(LCT/MCT, 15/85,実施例9の油相)を利用し、本発明のプロポフォール(濃度1%)乳剤を調製し、粒度がそれぞれ76nmと68nmである。同時に、市販品の処方(プロポフォール1%、LCT1%、SPC 1.2%、グリセリン2.2%)によりプロポフォール乳剤を調製し、得られた乳剤の粒度が187nmである。
【0122】
このような3種類の製剤をそれぞれ40℃で10日間調べ、結果としては、本発明処方の製剤の外観が依然に乳白色であり、市販の処方により調製し、及び市販品の乳剤が薄黄色に変色された。凍結融解破壊試験の結果により、市販のプロポフォール乳剤(アストラゼネカ、AstraZeneca)が凍結融解破壊作用に拮抗できないに対して、本発明の乳剤の凍結融解後の外観と粒度がほとんど変化しなく、本発明の製剤の安定性が市販品より遥かに優れたことが示唆された。
【0123】
実施例26 ニガキモドキ油乳剤
実施例18の表16中の処方2、4の乳化剤組成、油相として10%ニガキモドキ油を利用し、本発明のニガキモドキ油乳剤を調製し、その粒度がそれぞれ81nmと73nmである。同時に市販のニガキモドキ油乳剤(瀋陽薬大薬業有限責任公司)を測定し、粒度が266nmである。上記3種類の製剤に対し凍結融解破壊試験を行い、結果としては、本発明の乳剤の粒度がそれぞれ83nmと71nmであり、市販のニガキモドキ油乳剤は、乳剤の系が酷く破壊されたため検出されなかった。本発明の製剤が市販品より遥かに優れたことが示唆された。
【0124】
実施例27 アルプロスタジル乳剤
実施例18の表16中の処方2、4の乳化剤組成、油相が10%の複合油(LCT/MCT, 15/85,実施例9の油相)を利用し、本発明のアルプロスタジル(プロスタグランジンE1)乳剤を調製し、ろ過除菌して、その粒度がそれぞれ66nmと62nmである。同時に市販のアルプロスタジル乳剤(商品名:凱時、北京泰徳)の粒度を測定して約233nmである。上記3種類の製剤に対し凍結融解破壊試験を行い、結果としては、本発明の乳剤の粒度がそれぞれ69nmと63nmであり、市販のアルプロスタジル乳剤は、乳剤の系が酷く破壊されたため検出されなかった。本発明の製剤が市販品より遥かに優れたことが示唆された。本製剤の刺激性も大幅に低下された。
【0125】
実施例28 五福心脳康乳剤
五福心脳康ソフトカプセルは、神威薬業により生産され、旧名:五福心脳清、又は心脳清/心脳康、主な成分が精製紅花油、ビタミンB6、トコフェロール、冰片等である。
【0126】
実施例18の表16中の処方2、4の乳化剤組成を利用し、それぞれ精製紅花油10%、5%又は1%を含有する五福心脳康乳剤を調製し、結果としては、その粒度がそれぞれ約91nm、73nm又は56nmである。上記3種類の製剤に対し凍結融解破壊試験を行い、結果としては、、五福心脳康乳剤の粒度が顕著な変化が見られなかった。
【0127】
実施例29 ブチルフタライド乳剤
実施例18の表16中の処方2の乳化剤組成、油相が10%の複合油(LCT/MCT, 15/85,w/w)を利用し、ブチルフタライド濃度を1%にして、本発明のブチルフタライド乳剤を調製し、その粒度が約70nmである。凍結融解破壊後の乳剤の粒度が73nmであり、顕著な変化が見られなかった。
【0128】
実施例30 エレメン乳剤
エレメンは、ガジュツ油中の主な成分β-、γ-とδ-エレメンの組成物であり、現有の乳剤は、エレメン、大豆リン脂質およびコレステロールにより作成され、承認番号がWS-258(X-218)-93(1)であり、その規格が20ml:0.1g、即ち、0.5%である。現有の製剤配合にはある程度の問題を有し、臨床応用中に比較的酷い刺激性を産生するので、特許番号がZL02155072.7である特許にはその乳剤が調製され、その製剤がエレメン0.05〜0.25%、注射用大豆油10〜30%、注射用卵黄レシチン1.0〜1.5%又は注射用大豆リン脂質0.8〜1.5%、注射用グリセリン2.0〜2.5%が含まれ、注射用水を100mlになるまで添加した。当該特許の処方により乳剤が調製され、凍結融解試験の結果により、当該特許の乳剤が凍結融解試験に耐えられないことが示唆された。
【0129】
本実施例には実施例18の表16中の処方2の乳化剤組成を利用し、油相組成を表18に示す。
【0130】
【表18】

【0131】
実施例9のプロセスにより乳剤が調製され、結果として、処方1、2、3により調製された乳剤の粒度がそれぞれ約63nm、58nmと67nmであり、凍結融解破壊試験後の乳剤の粒度が依然に70nm未満であり、顕著な変化が見られなかった。マウスライジング刺激性試験の結果により、本発明の製剤の刺激性が市販製剤より遥かに低いことが示唆された(注:マウスライジング刺激性試験の方法は、試験動物:昆明マウス、群ごとに10匹、雌雄が半分ずつであり、製剤がいずれも5%グルコースにより薬物含有量2mg/mlに希釈されたものであり;剤量及び投与経路:0.5ml/匹、腹腔内注射;0.5時間内にマウスライジングの回数を観察することである。市販注射剤のマウスの平均ライジングの回数が10.2で、本発明の製剤が2.6である)。
【0132】
実施例31 デキサメタゾンパルミタート乳剤
デキサメタゾンパルミタートの現有製剤が乳剤で、その商品名がリメタゾンであり、アンプルごとに1mlで、有効成分のデキサメタゾンパルミタート4.0mgを含有する。発明者により、当該乳剤が同様に凍結融解破壊試験に耐えられないことが発見された。
【0133】
実施例18の表16中の処方2の乳化剤組成、油相が10%の複合油(LCT/MCT, 15/85,w/w)を利用し、本発明のデキサメタゾンパルミタート乳剤(1mlには有効成分4.0mg含有)が調製され、その粒度が100nm未満で、約57nmであり、凍結融解破壊試験後の乳剤の粒度が61nmであり、顕著な変化が見られなかった。
【0134】
実施例32 脂溶性ビタミン乳剤
脂溶性ビタミンは、人間の体に必要な栄養素であり、臨床の重篤な病人が命を維持するために補充することがよく必要されるが、脂溶性ビタミンが水に溶けなく、経口投与の生物利用度が比較的低いので、静脉注射により適用される。現在、2種類の市販品、即ち脂溶性ビタミン注射液IとII(部頒標準二部、第五冊、p85〜90)があり、その処方組成が以下のとおりである。
【0135】
処方I :ビタミンA 69mg(23万ユニット);ビタミンD2 1.0mg(4万ユニット);トコフェロール0.64g(7万ユニット);ビタミンK1 20mg;注射用大豆油100g;注射用レシチン12g;グリセリン22.0g;注射用水 適量;全量 1000ml。
処方II:ビタミンA 99mg(33万ユニット);ビタミンD2 0.5mg(2万ユニット);トコフェロール0.91g(1000ユニット);ビタミンK115mg;注射用大豆油 100g;注射用レシチン 12g;グリセリン22.0g;注射用水 適量;全量 1000ml。
【0136】
上記処方の乳剤が華瑞製薬有限公司により生産される。それに対し凍結融解試験を行い、当該乳剤が凍結融解破壊作用に拮抗することができないことが発見された。
【0137】
上記の処方中の乳化剤「注射用レシチン」を「SPC 1g、HS15 2g、ポロキサマーF68 1g」からなる乳化剤(VEをさらに追加せず)に変更して、結果としては、調製された乳剤の平均体積粒度が100nm未満で、それぞれ約66nm、62nmであり、凍結融解破壊試験後の乳剤の粒度がそれぞれ約70nmと68nmであり、顕著な変化が見られなかった。処方中の「注射用大豆油」を「LCT/MCT、15/85、w/w」からなる混合油に変更し、乳化剤が実施例18の表16中の処方2の乳化剤(VEをさらに追加せず)であり、結果としては、調製された乳剤の平均体積粒度が100nm未満で、それぞれ約58nm、60nmであり、凍結融解破壊試験後の乳剤の粒度がそれぞれ約63nmと66nmであり、顕著な変化が見られなかった。
【0138】
実施例33 イリスキノン乳剤
イリスキノンがpallason A(イリスキノン)とpallason B(ジヒドロイリスキノン)を含み、その構造が以下のとおりである。
【化1】

それがコエンザイムQ10の構造(以下の式)と相似である。
【化2】

【0139】
「実施例9」を参考して、熱と凍結融解破壊に拮抗できるイリスキノン乳剤(最終製剤中のイリスキノンの濃度が10mg/mlである)を調製し、結果としては、調製された乳剤の体積平均粒度が約66nmであり、滅菌と凍結融解後の体積平均粒度がそれぞれ約68nmと69nmである。処方中のHS15をTPGSに変更して、その体積平均粒度が約53nmであり、滅菌と凍結融解後の体積平均粒度がそれぞれ約51nmと56nmである。
【0140】
処方中において0.2%のDSPE-PEG2000を添加し、即ち、処方組成:イリスキノン 1.0g、レシチン1.0g、HS15 2.0g、ポロキサマー188 1.0g、DSPE-PEG2000 0.2 g、注射用油10g(大豆油/中鎖油、15/85、w/w)、グリセリン2.4g、EDTA-2Na 0.05g、その他が注射用水であり、合計100mLである。調製された乳剤体積の平均粒度が約56nmであり、滅菌と凍結融解後の体積平均粒度がそれぞれ約52nmと56nmである。2種類の処方により調製された乳剤がいずれも良好な熱と凍結融解破壊の拮抗作用を有する。同じ理由で、この処方プロセスを利用して、各自のモノマー化合物の乳剤を調製できる。
【0141】
実施例34
実施例18の方法を利用して、魚油(深海魚油、DHA等の高度不飽和脂肪酸及びそのエステルを多く含有する)、ハト麦油、ガジュツ油、サイコ油、シーバックソーン油、ニンニク油、アリシン、センキュウ油、当帰油、トウガラシオレオレジン、生姜油、セロリシード油、ドクダミ油、月見草油、シソ種子油、バチルアルコール、タンシノンIIA、リグスチリド、エンテカビル、アネトールトリチオン(アネトールトリチオン)、マロチラート、ホモハリントニン、デメチルカンタリド酸、クルクミン、シクランデラート、β-エレメン、カルシトリオール、スタチン類降脂薬(例えば、ロバスタチン、シンバスタチン等)、ニコチン酸トコフェロール、ゴシポール、オリドニン、フェノフィブラート、イトラコナゾール、カンデサルタン、ヒドロキシカンプトテシン、カンプトテシン誘導体、(パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体)、フィナステリド、エトポシド、ジンセノサイド、20(S)-プロトパナキサジオール、ジンセノサイドRe、ジンセノサイドRbl、ジンセノサイドRg2、20(R)-ジンセノサイドRg3および20(S)-ジンセノサイドRg3乳剤を調製し、それらの平均体積粒度がいずれも150nm未満であり、凍結融解試験後の乳剤の粒度については顕著な変化が見られなかった。
【0142】
実情により、前記脂溶性化合物又は薬物と前記C6〜C28油類物質との割合が1:0〜1:10000w/wである。油類薬物を利用する場合、追加の油を必要せず、即ち、薬物と前記C6〜C28油類物質との割合が1:0w/wである。カルシトリオールを利用すれば、カルシトリオールの製剤における濃度が1μg/mLであるので、C6〜C28油類物質の製剤における用量が1%(w/v)である場合、薬物と油類物質との割合が1:10000w/wであり;0.1%w/v油類物質を利用する場合、薬物と油類物質との割合が1:1000w/wである。
【0143】
以上の全部の実施例中のリン脂質をその他の天然又は半合成又は全合成のリン脂質、例えば、「カルジオリピン」、「ホスファチジルイノシトール」、「ホスファチジルグリセロール」、「スフィンゴミエリン(SM)」、「ホスファチジルセリン(PS)」、「水素添加レシチン」、「DMPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)」、「DOPC(ジオレオイルホスファチジルコリン)」 、「DLPC(ジラウロイルホスファチジルコリン)」、「ホスファチジルエタノールアミン(PE)」に変更した場合、得られた結果が同じである。
【0144】
実施例35
以上の各処方において、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、コール酸、デオキシコール酸、トコフエロール、リポ酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、窒素ガス、クエン酸等の補助乳化剤、並びに抗酸化剤、pH調整剤等の添加剤を添加して、乳剤の耐熱、耐凍結融解性能に影響せず、乳剤の粒度サイズにも影響しない。油相がC6〜C28油類物質であり、構造改変と加水分解後のヤシ油、オリーブ油、大豆油、紅花油、トリグリセリド、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、オレイン酸エチル、リノール酸グリセリド、リノール酸エチル、オレイン酸グリセリド、オレイン酸コレステリル、リノール酸コレステリル、ヤシ油C8/C10モノグリセリド又はジグリセリド、ヤシ油C8/C10プロピレングリコールジエステル、ヤシ油C8/C10グリセリントリエステルからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり、いずれも耐熱、耐凍結融解性能を有する乳剤を得ることができる。
【0145】
実施例36 安定性試験
(一)影響因子試験
『中国薬局方』2005年版二部付録の薬物安定性指導原則を参照して設計して、高温と光照射因子を調べた。コエンザイムQ10のナノ乳剤を、それぞれ40℃と光照射(4500±500lux)条件下で10日置いて、5、10日目にサンプリングし、コエンザイムQ10の含有量と乳剤の粒径分布を測定した。結果を表19に示す。
【0146】
【表19】

【0147】
以上のデータにより、本製品が40℃条件下で保存されると、その含有量と平均粒径が明らかな変化がない;光照射条件下において、5日目の含有量がすでに明らかに低下したことが知られたから、10日の光照射試験を行わず、平均粒径が明らかな変化がない。これが、光照射条件下で、乳剤が不安定になる傾向が示され、本製品が厳格に避光保存されることが提示された。
(二)加速試験及び長期間安定性試験
1.加速試験
【0148】
薬局方における薬物安定性指導原則に基づいて、加速試験を25±2℃下で行い、時間が6個月である。
【0149】
コエンザイムQ10乳剤をバイアルにサブパッケージし、窒素ガス充填し、封着して、25±2℃下で避光し6個月置いて、1、2、3、6月目にサンプリングし、乳剤の外観、粒度、含有量の変化を調べた。結果を表20に示す。
【0150】
【表20】

2. 長期間安定性試験
【0151】
薬局方における薬物安定性試験指導原則に基づいて、長期間試験を6 ± 2℃下で行った。
【0152】
コエンザイムQ10乳剤をバイアルにサブパッケージし、窒素ガス充填し、封着して、6 ± 2℃条件下で、6個月避光放置し、3、6月目にサンプリングして、乳剤の外観、粒度、含有量の変化を調べた。結果を表21に示す。
【0153】
【表21】

【0154】
結果により、本発明のコエンザイムQ10乳剤は、25±2℃の加速試験条件下と6 ± 2℃の長期間安定条件下で6個月避光放置し、製剤の外観、粒度と含有量には明らかな変化が無かったことが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳剤における含有量で、10%w/v以下のリン脂質、30%w/v以下のPEG類乳化剤、10%w/v以下のポロキサマー類物質からなる群から選ばれる2種類又は2種類以上の乳化剤が含まれている複合型乳化剤。
【請求項2】
前記リン脂質が卵黄リン脂質、大豆リン脂質、その他の天然又は半合成又は全合成のリン脂質からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;前記PEG類乳化剤がHS15、TPGS及びDSPE-PEGからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり、PEGの分子量が100〜10000であり、前記DSPE-PEGがDPPE-PEGとDMPE-PEGを含み;前記ポロキサマー類物質がポロキサマー188とプルロニックF68からなる群から選ばれる請求項1に記載の複合型乳化剤。
【請求項3】
前記その他の天然又は半合成又は全合成のリン脂質がカルジオリピン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、水素添加レシチン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンからなる群から選ばれる請求項2に記載の複合型乳化剤。
【請求項4】
一種のリン脂質、一種のPEG類乳化剤が含まれ、且つ、乳剤における含有量で、含有量50%w/v以下の凍結融解保護剤が添加される請求項1に記載の複合型乳化剤。
【請求項5】
前記凍結融解保護剤がアルコール類及び糖類物質からなる群から選ばれ、前記アルコール類物質がプロピレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり、前記糖類物質がグルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース、マルトース及びラクトースからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上である請求項4に記載の複合型乳化剤。
【請求項6】
3種類又は3種類以上の乳化剤が含まれ、その中の1種類がポロキサマーであるが、凍結融解保護剤を添加しない請求項1に記載の複合型乳化剤。
【請求項7】
リン脂質、PEG類乳化剤中の1種類又は2種類、及び一種のポロキサマー類乳化剤が含まれている請求項6に記載の複合型乳化剤。
【請求項8】
請求項1に記載の複合型乳化剤を用いて調製された乳剤であって、油相、複合型乳化剤及び水相が含まれており、前記複合型乳化剤が、乳剤における含有量で、10%w/v以下のリン脂質、30%w/v以下のPEG類乳化剤、10%w/v以下のポロキサマー類物質からなる群から選ばれる2種類又は2種類以上の物質が含まれている乳剤。
【請求項9】
前記油相がC6〜C28油類物質と、治療活性のある油脂性物質及び/又は前記C6〜C28油類物質に溶解又は分散される脂溶性化合物又は薬物とが含まれ、前記脂溶性化合物又は薬物と前記C6〜C28油類物質の割合が1:0〜1:10000w/w、前記C6〜C28油類物質の用量が、乳剤における含有量で0.1〜20%w/vである請求項8に記載の乳剤。
【請求項10】
前記C6〜C28油類物質が構造改変と加水分解されたヤシ油、オリーブ油、大豆油、紅花油、トリグリセリド、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、オレイン酸エチル、リノール酸グリセリド、リノール酸エチル、オレイン酸グリセリド、オレイン酸コレステリル、リノール酸コレステリル、ヤシ油C8/C10モノグリセリド又はジグリセリド、ヤシ油C8/C10プロピレングリコールジエステル、ヤシ油C8/C10トリグリセリドからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;前記治療活性のある油脂性物質及び/又は前記C6〜C28油類物質に溶解又は分散される脂溶性化合物又は薬物がコエンザイムQ10、ククルビタシン、ククルビタシンB、ジヒドロククルビタシンB、イソククルビタシンB、ククルビタシンD、ククルビタシンE、ククルビタシンI、ククルビタシンQ、アルプロスタジル、プロポフォール、ビタミンK1、デキサメタゾンパルミタート、タンシノンIIA、ブチルフタライド、リグスチリド、イリスキノン、エンテカビル、アネトールトリチオン、マロチラート、ホモハリントニン、デメチルカンタリド酸、クルクミン、シクランデラート、β-エレメン、バチルアルコール、スタチン類降脂薬、ニガキモドキ油、シーバックソーン油、魚油、ハト麦油、ガジュツ油、ニンニク油、アリシン、センキュウ油、当帰油、トウガラシオレオレジン、生姜油、セロリシード油、ドクダミ油、月見草油、シソ種子油、五福心脳康、ニコチン酸トコフェロール、ゴシポール、オリドニン、フェノフィブラート、イトラコナゾール、カンデサルタン、ヒドロキシカンプトテシン、カンプトテシン誘導体、パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体、フィナステリド、エトポシド、ジンセノサイド、20(S)-プロトパナキサジオール、ジンセノサイドRe、ジンセノサイドRbl、ジンセノサイドRg2、20(R)-ジンセノサイドRg3及び20(S)-ジンセノサイドRg3からなる群から選ばれる請求項8に記載の乳剤。
【請求項11】
さらに、乳化助剤、安定剤、凍結融解保護剤及びpH調整剤からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上の薬物添加物が含まれ、前記乳化助剤がオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸及びコール酸からなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;前記凍結融解保護剤がアルコール類と糖類物質からなる群から選ばれ、当該アルコール類がプロピレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上を含み、当該糖類物質がグルコース、マンニトール、スクロース、トレハロース、キシリトール、マルトース及びラクトースからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上を含み;前記安定剤が窒素ガス、EDTA及びその塩類、無水亜硫酸ナトリウム、無水亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ビタミンC及びその誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、α-トコフエロール、α-酢酸トコフエロール及びハイドロキノンからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;前記等張調整剤がグリセリン、1,2-プロピレングリコール、グルコース、マルトース、マンニトール及びキシリトールからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上であり;前記pH調整剤が塩酸、水酸化ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、クエン酸及びクエン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種類又は1種類以上である請求項8に記載の乳剤。
【請求項12】
前記水相は、水溶性物質を含有又は含有しない水及び/又はグリセリン水溶液である請求項8に記載の乳剤。
【請求項13】
請求項8に記載の乳剤の調製方法であって、
(1)窒素ガス雰囲気において、油類物質及び油溶性成分を20〜90℃に加熱し、その後、乳化剤を添加し、20〜90℃で溶解まで攪拌し、続いて、攪拌しながら薬物活性成分を添加する油相の調製工程と;
(2)水溶性物質を水及び/又は水相中の乳化剤に添加し、20〜90℃で5分攪拌して完全に混合溶解させる水相の調製工程と;
(3)窒素ガス雰囲気、20〜60℃で、水相を油相に添加し、5〜30分攪拌して、一次乳剤を形成する工程と;
(4)ホモジナイザーにより均質化処理を行い、ステップ1で、均質圧を4000〜8000psiに調整し、ステップ2で、均質圧を10000〜30000psiに調整することにより、乳剤が調製される工程とを含む調製方法。
【請求項14】
均質化処理前にpH3〜9に調整する請求項12に記載の調製方法。
【請求項15】
さらに、ミクロポアフィルター透過、サブパッケージと滅菌処理を含む請求項12に記載の調製方法。
【請求項16】
前記滅菌処理の方法が無菌操作処理、湿熱滅菌、高圧蒸気滅菌、マイクロ波滅菌処理からなる群から選ばれる請求項14に記載の調製方法。

【公表番号】特表2010−534555(P2010−534555A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517259(P2010−517259)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/CN2008/071747
【国際公開番号】WO2009/012718
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510022428)シェンヤン ファーマシューティカル ユニバーシティ (1)
【出願人】(510022439)ウェンジョウ ハイジン ファーマシューティカル テクノロジー シーオー., エルティディ (1)
【Fターム(参考)】