説明

複合多孔質樹脂基材及びその製造方法

【課題】電極及び/または回路が形成された多孔質樹脂基材に、該多孔質樹脂基材の弾性や導通などの性能を損なうことなく、剛性のあるフレーム板を取り付けた構造の複合多孔質樹脂基材を提供すること。
【解決手段】電極もしくは回路または電極及び回路が形成された機能部を有する多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さと異なる高さの段差部が形成され、かつ、該段差部の面上にフレーム板が配置されている複合多孔質樹脂基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及び/または回路が形成された多孔質樹脂基材とフレーム板とを複合化した複合多孔質樹脂基材に関する。本発明の複合多孔質樹脂基材は、例えば、2つの回路装置間の電気的接続を行うために用いられる異方性導電膜、あるいは半導体集積回路装置(例えば、半導体チップ)やプリント回路基板などの回路装置の電気的検査を行うために用いられる異方性導電膜など、各種コネクタまたはインターポーザの用途に好適に用いることができる。本発明において、「電極及び/または回路」とは、電極もしくは回路または電極及び回路を意味するものとする。
【背景技術】
【0002】
特開2004−265844号公報(特許文献1)には、電気絶縁性の多孔質樹脂膜を基膜とし、該基膜の複数箇所に、第一表面から第二表面にかけて厚み方向に貫通する複数の貫通孔を設け、次いで、各貫通孔内壁面の樹脂部に導電性金属を付着させて導通部を形成する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法によれば、多孔質樹脂膜の厚み方向に複数の導通部が形成された異方性導電膜を得ることができる。すなわち、各導通部は、電気絶縁性の多孔質樹脂膜のマトリックス中にそれぞれ独立して設けられており、膜厚方向に導通可能であるが、各導通部間は導通または短絡することがない。
【0004】
該導通部は、貫通孔内壁面の多孔質構造を構成する樹脂部に、無電解めっきなどにより導電性金属を付着させたものであり、その形状から「筒状電極」と呼ぶことができる。導電性金属の付着量を調節することにより、筒状電極の膜厚方向における導電性を制御することができる。通常は、多孔質樹脂基材に膜厚方向の荷重を加えることにより、筒状電極を含む多孔質樹脂基材全体を圧縮させることにより導通させている。
【0005】
この異方性導電膜は、膜厚方向に弾力性があり、低圧縮荷重で膜厚方向の導通が可能である。また、該異方性導電膜は、各導通部の大きさやピッチなどをファイン化することができる。該異方性導電膜は、例えば、半導体集積回路装置などの検査用異方性導電膜として、低圧縮荷重で膜厚方向の電気的導通が得られ、しかも繰り返し荷重負荷を加えても、弾性により膜厚が復帰し、検査に繰り返し使用することが可能である。
【0006】
半導体集積回路装置(例えば、半導体チップ)やプリント回路基板などの回路装置の電気的検査を行うには、回路装置の各電極と検査装置(チェッカーまたはテスター)の各電極とをそれぞれ対応させて正確に接続する必要がある。ところが、検査装置の各電極がリジッドな基板上に配置されているため、回路装置の各電極と検査装置の各電極とをそれぞれ対応させて正確に接続することが困難であったり、それぞれの電極が電極同士の接触による損傷を受け易くなったりするという問題があった。
【0007】
そこで、回路装置の電極領域と検査装置の電極領域との間に弾性のある異方性導電膜を介在させて、各電極間を異方性導電膜を介して電気的に接続させる方法が採用されている。異方性導電膜は、厚み方向にのみ導通可能な複数の導通部を設けたものである。該導通部は、導電部または電極とも呼ばれている。回路装置の電極ピッチがファイン化するにつれて、異方性導電膜の導通部をファインピッチ化したり、異方性導電膜を介在させるとともに、ピッチ変換ボードを回路装置側に付加的に配置したりして対応している。
【0008】
前述の導通部を形成した多孔質樹脂基材を、回路装置の電気的検査を行うための異方性導電膜として使用するには、回路装置の各電極と検査装置の各電極に対して正確に電気的接続がなされるように、該多孔質樹脂基材の位置関係を設定しかつ固定する必要がある。該多孔質樹脂基材を固定する方法としては、ピン留めが簡易である。そのために、該多孔質樹脂基材の周辺部に複数のピン穴を設け、該ピン穴を通して、ピンにより多孔質樹脂基材を検査装置の所定箇所に固定している。
【0009】
前記多孔質樹脂基材は、半導体集積回路装置(例えば、半導体チップ)とプリント回路基板等の回路基板との間に配置すると、応力緩和機能と導通機能とを有する一種のコネクタまたはインターポーザとしての役割を果たすことができる。この場合にも、ピン留めにより多孔質樹脂基材を所定の位置に固定することが好ましい。
【0010】
ところが、多孔質樹脂基材は、柔軟性に富む多孔質樹脂膜を基膜としているため、ピン留めしただけでは、使用中に多孔質樹脂基材が変形したり、ピン穴周辺から破損したりして、最初に固定した位置を保持することができなくなることがある。このような問題を解決するには、多孔質樹脂基材の周辺部に剛性のあるフレーム板を取り付ける方法が考えられる。フレーム板は、開口を有する金属板などであり、その開口部に多孔質樹脂基材の導通部を配置する。フレーム板が存在する箇所にピン留め用の穴を開けて、その穴にピンを通して多孔質樹脂基材を回路装置に固定すれば、多孔質樹脂基材の変形や破損を防ぐことができる。
【0011】
しかし、剛性のあるフレーム板を多孔質樹脂基材の片面または両面に取り付けると、多孔質樹脂基材の厚み方向の圧縮を阻害し、低圧縮荷重で導通部を導通させることが困難になる。また、剛性のあるフレーム板によって、多孔質樹脂基材全体の弾性が損なわれる。さらに、フレーム板の存在によって、多孔質樹脂基材の電極及び/または回路と、回路装置や検査装置の電極または回路との接触が阻害される。
【0012】
従来、ゴム状弾性体を基膜とする異方導電性シート(異方性導電膜)の技術分野において、フレーム板を配置することにより、該異方導電性シートを電気回路部品に対して特定の位置関係を持って保持固定する方法が提案されている。
【0013】
例えば、特開平11−40224号公報(特許文献2)には、ゴム状弾性体を基材とする異方導電性シートの周辺部に、フレーム板として金属板を配置した異方導電性シート(異方導電性エラストマーシート)が提案されている。この異方導電性シートを作製するには、先ず、成形用金型内に、開口を有するフレーム板を配置するとともに、磁性を示す導電性粒子を含有する高分子物質形成材料を供給して成形材料層を形成する。該成形材料層の周縁部は、フレーム板の開口縁部の上下を含む領域にまで供給される。金型における上型及び下型には、それぞれ複数の強磁性体層と被磁性体層が交互に形成されている。電磁石を用いて磁場を作用させると、上型と下型の対向する強磁性体層の間に、磁性を示す導電性粒子が集まり、厚み方向に並ぶように配向する。この状態で、高分子物質形成材料を硬化処理すると、厚み方向に配向した導電性粒子からなる複数の導電部が形成された弾性高分子物質シート(異方導電性シート)が得られる。
【0014】
特許文献2に開示されている方法を採用すると、弾性高分子物質シートの周縁部に、フレーム板の開口縁部が埋設した構造の異方導電性シートを得ることができる。この方法によれば、弾性高分子物質シートの膜厚よりも薄いフレーム板を取り付けることができるため、フレーム板が弾性高分子物質シートの弾性や導電部の導通を阻害することがない。
【0015】
しかし、特許文献2に記載の方法では、電磁石を用いて磁場を発生させる工程で、フレーム板の上方及び下方にあった導電性粒子も、フレーム板近傍の導電部形成部分に集まるため、該導電部形成部分に導電性粒子が過剰に集まり、該導電部形成部分により形成された導電部は、隣接する他の導電部との絶縁性を得ることができなくなる。
【0016】
特開2002−324600号公報(特許文献3)には、特許文献2に記載された方法の上記問題を解決するために、磁性体により構成されたフレーム板を使用し、フレーム板の上方及び下方に存在する導電性粒子をフレーム板の開口縁部に固定して、フレーム板近傍の導電部形成部分に集まるのを防ぐ方法が提案されている。
【0017】
しかし、特許文献2及び3に開示されている異方導電性エラストマーシートにおけるフレーム板の取り付け技術は、多孔質樹脂膜を基膜とする異方性導電膜に適用することができない。特許文献2及び3に開示されている高分子物質形成材料は、未硬化の状態では流動性を示すが、硬化処理を施すと弾性のある膜(弾性高分子物質シート)となる。このような弾性高分子物質シートにフレーム板を取り付けるには、高分子物質形成材料に流動性がある状態でフレームと一体成形する必要がある。硬化処理後に、フレーム板の開口縁部を該弾性高分子物質シートの周縁部に埋設して一体化しようとすると、応力によって弾性高分子シートが変形する。つまり、フレーム板の開口縁部を弾性高分子物質シートの周縁部に押し込むと、押された部分の弾性高分子物質が他の部分に逃げて、該シートが変形する。また、特許文献3に開示されている方法では、フレーム板の形成材料に制限がある。
【0018】
多孔質樹脂膜を基膜とする異方性導電膜は、通常、多孔質樹脂膜を形成してから電極及び/または回路が形成される。多孔質樹脂膜は、一般に、樹脂材料の延伸処理によって多孔質化されているため、多孔質樹脂膜の形成時に、フレーム板の開口縁部が多孔質樹脂膜の周縁部に埋設した構造の複合体を作製することは困難である。他方、既に形成した多孔質樹脂膜の周縁部にフレーム板の開口縁部を埋設させようとすると、多孔質樹脂膜が変形したり、破損したりする。
【0019】
【特許文献1】特開2004−265844号公報
【特許文献2】特開平11−40224号公報
【特許文献3】特開2002−324600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、電極及び/または回路が形成された多孔質樹脂基材に、該多孔質樹脂基材の弾性や導通などの性能を損なうことなく、剛性のあるフレーム板を取り付けた構造の複合多孔質樹脂基材を提供することにある。
【0021】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、電極及び/または回路が形成された機能部を有する多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さと異なる高さを有する段差部を形成し、該段差部の面上にフレーム板を配置する方法に想到した。好ましくは、該機能部の高さより低い高さを有する段差部を形成し、該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する。
【0022】
多孔質樹脂基材に段差部を形成するには、例えば、熱プレスする方法を採用することができる。多孔質樹脂基材は、エラストマーシートを基膜とする異方導電性エラストマーシートとは異なり、熱プレスにより容易に段差を形成することができる。異方導電性エラストマーシートは、その周辺部を熱プレスすると、該周辺部に存在するエラストマーが中央部に異動するため、機能部の厚みが変動したり、変形が生じやすくなる。これに対して、多孔質樹脂基材は、熱プレスした箇所の多孔質構造が密になるものの、熱プレスによる段差の形成によって、電極及び/または回路が形成された機能部の厚みを変化させたり、形状を変形させたりすることがない。また、熱プレス条件を制御することによって、所望の段差と形状を有する段差部を設けることができる。
【0023】
多孔質樹脂基材の上記段差部上にフレーム板を配置するが、フレーム板の厚みを段差の高さより小さくすることが好ましい。フレーム板の厚みを段差の高さより小さくすることにより、機能部の上面がフレーム板の上面より上方に位置することになるため、機能部における弾性や導通が損なわれることがない。電極及び/または回路を形成した機能部が上方に突き出しているため、該機能部の電極及び/または回路と、回路装置や検査装置の電極または回路との接触が阻害されることがない。
【0024】
本発明では、多孔質樹脂基材の基膜となる多孔質樹脂膜に比べて剛性が高い金属材料や樹脂材料を用いて形成した任意のフレーム板を用いることができる。フレーム板を配置した後、フレーム板が存在する所望の箇所にピン留め用の穴を、フレーム板と多孔質樹脂基材とを貫通して設け、該穴を通して回路装置や検査装置の電極領域にピン留めすれば、多孔質樹脂基材を所定の位置関係で固定し保持することができる。
【0025】
電極及び/または回路が形成された機能部は、フレーム板を配置した後に形成してもよい。すなわち、多孔質樹脂膜の周辺部に段差部を形成し、該段差部にフレーム板を配置した後、該フレーム板の開口部内に位置する多孔質樹脂膜の箇所(中央部)に電極及び/または回路を形成してもよい。また、多孔質樹脂膜の周辺部に段差部を形成し、フレーム板の開口部内に位置する多孔質樹脂膜の箇所(中央部)に電極及び/または回路を形成した後、該段差部にフレーム板を配置してもよい。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、電極及び/または回路が形成された機能部を有する多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さと異なる高さの段差部が形成され、かつ、該段差部の面上にフレーム板が配置されている複合多孔質樹脂基材が提供される。
【0027】
また、本発明によれば、下記工程1及び2:
(1)電極もしくは回路または電極及び回路が形成された機能部を有する多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さより低い高さの段差部を形成する工程1;及び
(2)該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する工程2;
を含む複合多孔質樹脂基材の製造方法が提供される。
【0028】
さらに、本発明によれば、下記工程I乃至III:
(I)多孔質樹脂膜の中央部を取り巻く周辺部に、該中央部の高さより低い高さの段差部を形成する工程I:
(II)該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する工程II;及び
(III)多孔質樹脂膜の前記中央部に、電極もしくは回路または電極及び回路を形成する工程III;
を含む複合多孔質樹脂基材の製造方法が提供される。
【0029】
さらにまた、本発明によれば、下記工程i乃至iii:
(i)多孔質樹脂膜の中央部を取り巻く周辺部に、該中央部の高さより低い高さの段差部を形成する工程i;
(ii)多孔質樹脂膜の前記中央部に、電極及び/または回路を形成する工程ii;及び
(iii)該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する工程iii;
を含む複合多孔質樹脂基材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、電極及び/または回路が形成された多孔質樹脂基材に、該多孔質樹脂基材の弾性や導通などの性能を損なうことなく、剛性のあるフレーム板を取り付けた構造の複合多孔質樹脂基材が提供される。フレーム板を配置することによって、多孔質樹脂基材の位置ずれや破損を防ぐことができる。
【0031】
本発明の複合多孔質樹脂膜は、多孔質樹脂基材の周辺部に設けた段差部に、膜厚が小さなフレーム板を配置したものであって、電極及び/または回路が形成された機能部における弾性や導通を損なうことがない。電極及び/または回路を形成した機能部を突出させると、該機能部の電極及び/または回路と、回路装置や検査装置の電極または回路との接触が阻害されることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
1.多孔質樹脂膜(基膜):
半導体集積回路装置などのバーンイン試験用異方性導電膜は、基膜の耐熱性に優れていることが好ましい。異方性導電膜は、横方向(膜厚方向とは垂直方向)に電気絶縁性であることが必要である。したがって、多孔質樹脂基材の基膜を形成する合成樹脂は、電気絶縁性であることが必要である。
【0033】
基膜として使用する多孔質樹脂膜を形成する合成樹脂材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリふっ化ビニリデン(PVDF)、ポリふっ化ビニリデン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)などのフッ素樹脂;ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、変性ポリフェニレンエーテル(mPPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)などのエンジニアリングプラスチック;などが挙げられる。
【0034】
これらの合成樹脂材料の中でも、耐熱性、加工性、機械的特性、誘電特性などの観点から、フッ素樹脂が好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
【0035】
合成樹脂からなる多孔質樹脂膜を作製する方法としては、造孔法、相分離法、溶媒抽出法、延伸法、レーザ照射法などが挙げられる。これらの中でも、平均孔径や気孔率の制御が容易である点で、延伸法が好ましい。合成樹脂を用いて多孔質樹脂膜を形成することにより、膜厚方向に弾性を持たせることができるとともに、誘電率を更に下げることができる。
【0036】
異方性導電膜の基膜として使用する多孔質樹脂膜は、気孔率が20〜80%程度であることが好ましい。多孔質樹脂膜は、平均孔径が10μm以下あるいはバブルポイントが2kPa以上であることが好ましく、導通部のファインピッチ化の観点からは、平均孔径が5μm以下、さらには1μm以下であることが好ましい。平均孔径の下限値は、0.05μm程度である。多孔質樹脂膜のバブルポイントは、好ましくは5kPa以上、より好ましくは10kPa以上である。バブルポイントの上限値は、300kPa程度であるが、これに限定されない。
【0037】
多孔質樹脂膜の膜厚は、使用目的や使用箇所に応じて適宜選択することができるが、通常、20〜3000μm、好ましくは25〜2000μm、より好ましくは30〜1000μmである。したがって、多孔質樹脂膜の厚みは、フィルム(250μm未満)及びシート(250μm以上)の領域を含んでいる。多孔質樹脂膜の膜厚が薄すぎると、剛性のあるフレーム板を配置できるだけの段差を有する段差部を形成することが困難になる。
【0038】
多孔質樹脂膜の中でも、延伸法により得られた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(延伸多孔質PTFE膜)は、耐熱性、加工性、機械的特性、誘電特性などに優れ、しかも均一な孔径分布を有する多孔質樹脂膜が得られ易いため、異方性導電膜の基膜として最も優れた材料である。また、延伸多孔質PTFE膜は、多数のフィブリルとノードからなる微細組織を有しており、該フィブリルにめっき粒子などの導電性金属を付着させることができる。
【0039】
本発明で使用する延伸多孔質PTFE膜は、例えば、特公昭42−13560号公報に記載の方法により製造することができる。先ず、PTFEの未焼結粉末に液体潤滑剤を混合し、ラム押し出しによって、チューブ状または板状に押し出す。厚みの薄いシートが所望な場合には、圧延ロールによって板状体の圧延を行う。押出圧延工程の後、必要に応じて、押出品または圧延品から液体潤滑剤を除去する。こうして得られた押出品または圧延品を少なくとも一軸方向に延伸すると、未焼結の延伸多孔質PTFEが膜状で得られる。未焼結の延伸多孔質PTFE膜は、収縮が起こらないように固定しながら、PTFEの融点である327℃以上の温度に加熱して、延伸した構造を焼結・固定すると、強度の高い延伸多孔質PTFE膜が得られる。延伸多孔質PTFE膜がチューブ状である場合には、チューブを切り開くことにより、平らな膜にすることができる。
【0040】
延伸多孔質PTFE膜は、それぞれPTFEにより形成された非常に細いフィブリルと該フィブリルによって互いに連結されたノードとからなる微細組織を有している。延伸多孔質PTFE膜は、この微細組織が多孔質構造を形成している。
【0041】
2.電極及び/または回路を形成した多孔質樹脂基材:
電極を形成した多孔質樹脂基材を異方性導電膜として使用する場合は、合成樹脂から形成された電気絶縁性の多孔質樹脂膜からなる基膜の複数箇所に、第一表面から第二表面にかけて厚み方向に貫通する貫通孔を形成し、次いで、各貫通孔内壁面における多孔質構造の樹脂部(例えば、フィブリル)に導電性金属を付着させて、膜厚方向に導電性を付与することが可能な複数の導通部(筒状電極)をそれぞれ独立して形成することが好ましい。導電性金属の付着は、一般に、無電解めっきまたは無電解めっきと電気めっきとの組み合わせにより、各貫通孔内壁面の多孔質構造の樹脂部にめっき粒子を付着させる方法により行うことができる。
【0042】
多孔質樹脂膜の厚み方向に複数の貫通孔を設ける方法、及び該貫通孔の内壁面に導電性金属の付着による導通部(筒状電極)を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、以下に述べる方法を例示することができる。
【0043】
例えば、下記の工程a乃至e:
(a)多孔質樹脂膜の両面に、マスク層として樹脂層を積層して、3層構成の積層体を形成する工程a;
(b)積層体に、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔を形成する工程b;
(c)貫通孔の内壁面を含む積層体の表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒を付着させる工程c;
(d)多孔質樹脂膜からマスク層を剥離する工程d;及び
(e)前記触媒を利用して、貫通孔の内壁面の樹脂部に導電性金属を付着させる工程e;
を含む多孔質樹脂基材の製造方法を挙げることができる。
【0044】
マスク層の材料としては、樹脂材料が好ましく用いられる。多孔質樹脂膜として多孔質フッ素樹脂膜を用いる場合には、マスク層として、同種の多孔質フッ素樹脂膜を用いることが好ましいが、フッ素樹脂無孔質膜や、フッ素樹脂以外の樹脂材料からなる無孔質樹脂膜または多孔質樹脂膜を使用することもできる。各層間の融着性と剥離性とのバランスの観点から、マスク層の材料としては、多孔質樹脂膜と同質の多孔質樹脂膜を用いることが好ましい。
【0045】
多孔質樹脂膜の両面にマスク層を配置して、一般に、融着により3層を一体化させる。多孔質樹脂膜として延伸多孔質PTFE膜を用いる場合は、マスク層としても同質の延伸多孔質PTFE膜を用いることが好ましい。これら3層は、加熱圧着することにより、各層間が融着した積層体とすることができる。この積層体は、後の工程で容易に剥離することができる。
【0046】
この積層体に、その厚み方向に複数の貫通孔を形成する。貫通孔を形成する方法としては、i)機械的に穿孔する方法、ii)光アブレーション法によりエッチングする方法、iii)先端部に少なくとも1本の振動子を備えた超音波ヘッドを用い、該振動子の先端を押し付けて超音波エネルギーを加えて穿孔する方法などが挙げられる。
【0047】
機械的に穿孔するには、例えば、プレス加工、パンチング法、ドリル法などの機械加工法を採用することができる。機械加工法によれば、例えば、50μm以上、多くの場合75μm以上、さらには100μm以上の比較的大きな直径を有する貫通孔を安価に形成することができる。機械加工により、これより小さな直径の貫通孔を形成することもできる。
【0048】
光アブレーション法により貫通孔を形成する場合は、所定のパターン状にそれぞれ独立した複数の光透過部(開口部)を有する光遮蔽シート(マスク)を介して、積層体の表面に光を照射することにより、パターン状の貫通孔を形成する方法を採用することが好ましい。光遮蔽シートの複数の開口部より光が透過して、積層体の被照射箇所は、エッチングされて貫通孔が形成される。この方法によれば、例えば、10〜200μm、多くの場合15〜150μm、さらには20〜100μmの比較的小さな直径を有する貫通孔を形成することができる。光アブレーション法の照射光としては、シンクロトロン放射光、レーザー光などが挙げられる。
【0049】
超音波法では、先端部に少なくとも1本の振動子を有する超音波ヘッドを用いて、積層体に超音波エネルギーを加えることにより、パターン状の貫通孔を形成する。振動子の先端が接触した近傍のみに超音波エネルギーが加えられ、超音波による振動エネルギーによって局所的に温度が上昇し、容易に樹脂が切断され除去されて、貫通孔が形成される。
【0050】
貫通孔の形成に際し、多孔質フッ素樹脂シートの多孔質構造内に、ポリメチルメタクリレートなどの可溶性ポリマーまたはパラフィンを溶液または溶融状態で含浸させ、固化させてから穿孔する方法を採用することもできる。この方法によれば、貫通孔内壁の多孔質構造を保持し易いので好ましい。穿孔後、可溶性ポリマーまたはパラフィンは、溶解もしくは溶融させて除去することができる。
【0051】
貫通孔の形状は、円形、楕円形、星型、八角形、六角形、四角形、三角形など任意である。貫通孔の直径は、小径の貫通孔が適した用途分野では、通常5〜100μm、さらには5〜30μmにまで小さくすることができる。他方、比較的大径の貫通孔が適した分野では、貫通孔の直径を通常50〜3000μm、多くの場合75〜2000μm、さらには100〜1500μmにまで大きくすることができる。貫通孔は、例えば、半導体集積回路装置やプリント回路基板などの回路装置の電極の分布に合わせて、所定のパターン状に複数個形成することが好ましい。
【0052】
貫通孔の内壁面を含む積層体の表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒(「めっき触媒」ともいう)を付着させるには、積層体を、例えばパラジウム−スズコロイド触媒付与液に十分に撹拌しながら浸漬すればよい。貫通孔の内壁面に付着して残留する触媒を利用して、該内壁面に選択的に導電性金属を付着させる。導電性金属を付着させる方法としては、無電解めっき法、スパッタ法、導電性金属ペースト塗布法などが挙げられるが、これらの中でも、無電解めっき法が好ましい。
【0053】
無電解めっきを行う前に貫通孔の内壁面に残留した触媒(例えば、パラジウム−スズ)を活性化する。具体的には、めっき触媒活性化用として市販されている有機酸塩等に浸漬することで、スズを溶解し、触媒を活性化する。貫通孔の内壁面に触媒を付与した多孔質樹脂膜を無電解めっき液に浸漬することにより、触媒が付着した貫通孔の内壁面のみに導電性金属(めっき粒子)を析出させることができる。この方法によって、筒状電極が形成される。導電性金属としては、銅、ニッケル、銀、金、ニッケル合金などが挙げられるが、高導電性が必要な場合には、銅を使用することが好ましい。
【0054】
延伸多孔質PTFE膜を使用する場合、めっき粒子は、初め延伸多孔質PTFE膜の貫通孔の内壁面に露出した樹脂部(主としてフィブリル)に絡むように析出するので、めっき時間をコントロールすることにより、導電性金属の付着状態をコントロールすることができる。適度なめっき量とすることにより、多孔質構造を維持した状態で導電性金属層が形成され、弾力性と同時に膜厚方向への導電性も与えることが可能となる。
【0055】
微細多孔質構造の樹脂部の太さ(例えば、延伸多孔質PTFE膜のフィブリルの太さ)は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。導電性金属の粒子径は、0.001〜5μm程度であることが好ましい。導電性金属の付着量は、多孔質構造と弾力性を維持するために、0.01〜4.0g/ml程度とすることが好ましい。
【0056】
上記で作製された導通部(筒状電極)は、酸化防止及び電気的接触性を高めるため、酸化防止剤を使用するか、貴金属または貴金属の合金で被覆しておくことが好ましい。貴金属としては、電気抵抗の小さい点で、パラジウム、ロジウム、金が好ましい。被覆層の厚さは、好ましくは0.005〜0.5μm、より好ましくは0.01〜0.1μmである。例えば、導通部を金で被覆する場合、8nm程度のニッケルで導電性金属層を被覆した後、置換金めっきを行う方法が効果的である。
【0057】
多孔質樹脂膜として延伸多孔質PTFE膜を使用すると、貫通孔の内壁面で、フィブリルに導電性金属粒子が付着した構造の筒状電極が形成される。この多孔質フッ素樹脂基材に厚み方向の応力が加わると、フィブリル間の距離が縮むことにより、応力が緩和され、筒状電極の構造も破壊されることなく維持される。したがって、延伸多孔質PTFE基材に繰り返し圧縮力が加えられても、筒状電極の劣化が起こり難い。
【0058】
筒状電極は、通常、多孔質フッ素樹脂膜の厚み方向に設けられた貫通孔の内壁面のみに導電性金属が付着した構造を有するものであるが、無電解めっき量を調節するか、無電解めっきに加えて電気めっきを行うことにより、該筒状電極の2つの開口端部の一方または両方を閉塞させて、導電性金属からなる蓋体を形成させてもよい。めっき量を増やすと、開口端部の縁からめっき粒子が成長し、配向端部を閉塞させる。また、貫通孔の内壁面に付着させる導電性金属の量を増やすことなく、開口端部を閉塞させる方法として、導電性金属粒子を含有する高粘度のペーストを開口端部に塗布する方法がある。このような方法により、筒状電極の開口端部を導電性材料により閉塞して蓋体を形成すると、多孔質フッ素樹脂基材の筒状電極と、回路電極及び/または半導体チップの電極との接触面積を増やすことができる。
【0059】
本発明で使用する多孔質樹脂基材には、上記の如き筒状電極以外に、各種構造の電極や回路を形成することができる。例えば、多孔質樹脂膜の表面に銅箔を貼り合わせた基板を作製し、銅箔層に、フォトリソグラフィ技術を用いて、電極及び/または回路を形成する方法が挙げられる。また、多孔質樹脂膜に電極または回路の形状と同じパターンでめっき触媒を付与し、該めっき触媒を利用して、無電解めっきまたは無電解めっきと電解めっきとの組み合わせにより電極または回路を形成する方法がある。
【0060】
多孔質樹脂基材は、電極及び/または回路を有する機能部が設けられたものであるが、フレーム板を取り付けるために、該機能部の周辺部に電極及び/または回路が形成されていない箇所を有している。
【0061】
3.フレーム板
本発明では、多孔質樹脂基材の基膜を構成する多孔質樹脂膜よりも高い剛性を有する材料から形成されたフレーム板を使用することが好ましい。フレーム板を形成する材料としては、金属材料、セラミックス材料、樹脂材料などが代表的なものである。
【0062】
フレーム板を構成する金属材料としては、例えば、銅、ニッケル、クロム、コバルト、鉄、マグネシウム、マンガン、モリブデン、インジウム、鉛、パラジウム、チタン、タングステン、アルミニウム、金、白金、銀などの金属;ステンレス鋼など、これらの金属を2種以上含有する合金;が挙げられる。
【0063】
フレーム板を構成する樹脂材料としては、ポリエステル、ポリアミド、フッ素樹脂、各種エンジニアリングプラスチック、エラストマーなどが挙げられるが、これらの中でも、融点またはガラス転移温度が150℃以上の耐熱性樹脂材料が好ましい。融点及びガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)によって測定される値である。
【0064】
フレーム板を構成する耐熱性樹脂材料としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリエステル、ポリメチルペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、熱硬化型ポリイミド、熱可塑性ポリイミド、環状オレフィン樹脂などを挙げることができる。
【0065】
これらの樹脂材料は、耐熱性と強度を向上させるために、ガラス繊維などの繊維状充填剤、粒状もしくは粉末状の無機充填剤などを配合することができる。また、樹脂材料をフレーム板の形状に成形する方法としては、特に限定されず、射出成形、圧縮成形、押出成形など任意である。フレーム板は、樹脂材料を延伸加工したものであってもよい。フレーム板は、樹脂材料を成形後、架橋もしくは硬化したものでもよい。
【0066】
フレーム板の厚みは、通常5〜1500μm、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは20〜700μmである。フレーム板の厚みが薄すぎると、材質によっては十分な剛性と強度を得ることが困難になる。フレーム板の厚みが厚すぎると、複合多孔質樹脂基材の取り扱い性が困難になる。
【0067】
フレーム板は、通常、開口部を有する枠型の形状を有するものであるが、多孔質樹脂基材の形状や機能部の形状に合わせて、その形状及び開口部の形状を任意に設計することができる。フレーム板の枠の大きさは、補強効果を達成できる限り、多孔質樹脂基材の形状に合わせて任意に設計することができる。ただし、ピン留め用の穴を開けることができるだけの太さを持つ部分を有することが必要である。
【0068】
4.複合多孔質樹脂基材:
本発明の複合多孔質樹脂基材の一例について、図1に略図を示す。複合多孔質樹脂基材1は、多孔質樹脂膜2に導通部(筒状電極)4が形成された機能部3を有するものであり、該機能部を取り巻く周辺部(多孔質樹脂膜のみの部分)に、該機能部の高さより低い高さの段差部5が形成されている。該段差部5の面上には、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板6が配置されている。
【0069】
ピン留め用の穴7が、フレーム板6と多孔質樹脂基材の段差部5を貫通して形成されている。ピン留め用の穴7は、機械的穿孔法、光アブレーション法、超音波エネルギーによる穿孔法など、任意の方法により形成することができる。予めピン留め用の穴を形成したフレーム板を用いてもよいが、この場合には、フレーム板のピン留め用穴を利用して、その下層にある多孔質樹脂基材の段差部を穿孔する。
【0070】
図2に、複合多孔質樹脂基材の製造方法の一例を表す工程図を示す。多孔質樹脂基材21は、多孔質樹脂膜202の中央部に導通部(筒状電極)204が形成された機能部203を有している。加熱プレスにより、該多孔質樹脂基材21の該機能部203を取り巻く周辺部に、該機能部203の高さより低い高さの段差部205を形成する。次いで、該段差部205の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板206を配置して、複合多孔質樹脂基材を作製する。
【0071】
図3に、複合多孔質樹脂基材の断面図を示す。多孔質樹脂基材の機能部3の高さをaとし、段差部5の高さをbとすると、a>bであり、c(a−b=c)が段差の高さを表す。フレーム板6の厚みをdとすると、c>dであり、e(c−d=e)がフレーム板6の上面と機能部3の上面との高さの差を示す。
【0072】
段差部の高さbは、多孔質樹脂基材の厚みaの通常20〜90%、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜70%である。段差部の高さbが高すぎると、フレーム板の厚みdを十分に厚くすることができない。段差部の高さbが低すぎると、多孔質樹脂基材全体の弾性が損なわれたり、加熱プレス時に変形が生じるおそれがある。
【0073】
機能部3の上面とフレーム板6の上面との高さの差eは、多孔質樹脂基材の厚みにもよるが、通常2〜500μm以上、好ましくは3〜400μm、より好ましくは5〜300μmである。この差eが短すぎると、機能部の弾性が損なわれたり、回路装置の電極などとの接続が困難になったりする。この差eが長すぎると、機能部に過重な圧縮力が加えられることがある。機能部3が適度に突出していることにより、低荷重で回路装置などとの導通を達成することができる。
【0074】
段差部を形成する方法は、特に限定されないが、熱プレス法が好ましい。熱プレス法は、例えば、図4に示すように、2つの金型401及び402を使用し、下金型401内に多孔質樹脂基材403を載置する。上金型402を熱プレスして下金型401に嵌合させる。上金型402の形状を調節することにより、段差部の形状と段差の高さを制御することができる。熱プレス後、脱型すれば、段差を有する多孔質樹脂基材404が得られる。
【0075】
熱プレス時の加熱温度は、多孔質樹脂基材を構成する樹脂材料の熱分解温度未満の温度であり、樹脂材料の種類によって適宜設定することができる。基膜が延伸PTFE膜などの延伸多孔質フッ素樹脂膜の場合には、通常、200〜320℃、好ましくは250〜310℃である。圧力は、上下金型が噛み合う圧力とする。加圧時間は、段差部の形状が固定される条件で、樹脂材料の種類に応じて適宜設定することができる。基膜が延伸PTFE膜などの延伸多孔質フッ素樹脂膜の場合には、通常、100〜1000秒、好ましくは200〜800秒で充分であるが、これに限定されない。
【0076】
段差部を形成するには、加熱プレス法以外の他の方法を採用してもよい。他の方法としては、例えば、切削加工などの機械加工を挙げることができるが、一般に、薄い多孔質樹脂基材を正確な膜厚で切削することは困難であり、効率的ではない。また、光アブレーション法により、段差部を形成することもできるが、広い領域を効率よくエッチングすることは困難である。
【0077】
フレーム板は、段差部に載置するだけでもよいが、接着剤または粘着剤を用いて、段差部に接着もしくは粘着させることができる。フレーム板を段差部に接着もしくは粘着させると、ピン穴の形成やピン留めの際の位置決めが容易となる。粘着剤を使用すると、フレーム板を再利用することが容易となる。
【0078】
接着剤または粘着剤としては、フレーム板を構成する金属材料やセラミックス材料、樹脂材料などと、多孔質樹脂基材を構成する樹脂材料との間を接着もしくは粘着して固定できるものを選択することが望ましい。
【0079】
接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアセタール系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリメチルメタクリレート系、ポリスチレン系、ポリアミド系、ポリイソブチレン系、熱溶融性フッ素樹脂系、変性ポリフェニレンエーテル樹脂系などの熱可塑性樹脂系接着剤;尿素樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系などの熱硬化性樹脂系接着剤;クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、SBR系、SBS系、SIS系、ブチルゴム系、ポリサルファイド系、シリコーンゴム系などのエラストマー系接着剤;などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0080】
これらの接着剤は、溶液、エマルジョン、無溶剤などの各種形態で接着面に塗布することができる。また、接着剤は、フィルムやシートの形態(ドライフィルム)として、接着面に適用することができる。ホットメルト型接着剤は、加熱溶融させて接着面に塗布することができる。接着面は、段差部の上面またはフレーム板の下面などである。
【0081】
粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。ゴム系粘着剤としては、天然ゴム系、スチレン−ブタジエン系、ポリイソブチレン系、イソプレン系などの溶剤型粘着剤;スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレンブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル熱可塑性エラストマーなどのホットメルト型粘着剤;などが挙げられる。アクリル系粘着剤には、溶液型とエマルジョン型とがある。これらの粘着剤も、接着剤と同様、粘着面に塗布する方法などにより適用することができる。両面粘着テープを粘着面に載置して、段差部とフレーム板とを粘着により固定してもよい。
【0082】
本発明の複合多孔質樹脂基材は、予め電極及び/または回路を形成した多孔質樹脂基材を用いて作製することができる。高温での熱プレスにより、電極及び/または回路が損傷を受けるおそれがある場合には、多孔質樹脂膜(基膜)に段差部を設けて、該段差部にフレーム板を配置した後、フレーム板の開口部に相当する多孔質樹脂膜の部分(中央部)に、電極及び/または回路を形成することにより、複合多孔質樹脂基材を作製することができる。多孔質樹脂膜(基膜)に段差部を設けて、フレーム板の開口部に相当する多孔質樹脂膜の部分(中央部)に、電極及び/または回路を形成した後、フレーム板を配置することにより、複合多孔質樹脂基材を作製してもよい。
【0083】
電極及び/または回路の形成方法は、前述したとおりである。電極及び/または回路を形成する際に、多孔質樹脂膜の両面に、マスク層として多孔質樹脂層を積層して、3層構成の積層体を形成する前記工程aを採用する場合、該積層体を熱プレスして、多孔質樹脂膜に予め段差を設け、その後、電極及び/または回路を形成する工程を配置することが、高温での熱プレスによる電極及び/または回路の導通不良の発生を避ける上で好ましい。
【実施例】
【0084】
以下に実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
気孔率(ASTM−D−792)60%、平均孔径0.1μm、バブルポイント(イソプロピルアルコールを使用し、ASTM−F−316−76に従って測定)が150kPa、厚み600μmの延伸多孔質PTFE膜からなる基膜の両面に、気孔率60%、平均孔径0.1μm、厚み30μmの延伸多孔質PTFEシートを重ね合わせて、厚さ3mmのステンレス板2枚の間に挟み、荷重を負荷するとともに、350℃で30分間加熱処理した。加熱後、ステンレス板の上から水にて急冷し、3層に融着された多孔質PTFE膜の積層体を得た。
【0086】
上記のようにして得られた積層体を40mm角に切り取った。この試料を、図4に示す金型を用いて、熱プレス(加熱温度300℃、プレス時間600秒)して、基膜の周辺部に段差が300μmで幅が10mmの段差部が形成されるようにした。
【0087】
該積層体の突出部(機能部に相当する箇所)に、回転速度が100,000/分、送り速度が0.01mm/rev.の条件でドリルを作動させて、ピッチ1mmで、複数個所に直径250μmφの貫通孔を穿孔した。貫通孔を形成した積層体をエタノールに1分間浸漬して親水化した後、100ml/Lに希釈したメルテックス(株)製メルプレートPC−321に、60℃の温度で4分間浸漬し脱脂処理を行った。さらに、積層体を10%硫酸に1分間浸漬した後、プレディップとして、0.8%塩酸にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を180g/Lの割合で溶解した液に2分間浸漬した。
【0088】
さらに、積層体を、メルテックス(株)製エンプレートアクチベータ444を3%、エンプレートアクチベータアディティブを1%、塩酸を3%溶解した水溶液にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を150g/Lの割合で溶解した液に5分間浸漬して、触媒粒子を積層体の表面及び貫通孔の壁面に付着させた。次に、積層体をメルテックス(株)製エンプレートPA−360の5%溶液に5分間浸漬し、パラジウム触媒核の活性化を行った。その後、第1層と第3層のマスク層を剥離して、貫通孔の内壁面のみに触媒パラジウム粒子が付着した多孔質PTFE膜を得た。
【0089】
メルテックス(株)製メルプレートCu−3000A、メルプレートCu−3000B、メルプレートCu−3000C、メルプレートCu−3000Dをそれぞれ5%、メルプレートCu−3000スタビライザーを0.1%で建浴した無電解銅めっき液に、十分エアー撹拌を行いながら、上記多孔質PTFE膜を20分間浸漬して、250μmφの貫通孔の壁面のみを銅粒子にて導電化した。
【0090】
次いで、防錆及び回路基板電極との接触性向上のために、金めっきを行った。金めっきは、以下の方法により、ニッケルからの置換金めっき法を採用した。貫通孔の内壁面に銅粒子を付着させた多孔質PTFE膜を、プレディップとしてアトテック製アクチベータオーロテックSITアディティブ(80m1/L)に3分間浸漬した後、触媒付与としてアトテック製オーロテックSITアクチベータコンク(125m1/L)、アトテック製アクチベータオーロテックSITアディティブ(80ml/L)の建浴液に1分間浸漬し、さらにアトテック製オーロテックSITポストディップ(25ml/L)に1分間浸漬して、触媒を銅粒子上に付着させた。
【0091】
次に、次亜燐酸ナトリウム(20g/L)、クエン酸三ナトリウム(40g/L)、ホウ酸アンモニウム(13g/L)、硫酸ニッケル(22g/L)で建浴した無電解ニッケルめっき液に基膜を5分間浸漬し、銅粒子をニッケルコートした。その後、メルテックス製置換金めっき液[メルプレートAU−6630A(200ml/L)、メルプレートAU−6630B(100mI/L)、メルプレートAU−6630C(20ml/L)、亜硫酸金ナトリウム水溶液(金として1.0g/L)]中に基膜を5分間浸漬し、導電性粒子の金コートを行った。
【0092】
ステンレス鋼製のフレーム板(縦横の長さ=40mm、開口部の大きさ=縦25mm×横25mm、厚み=100μm)の片面にアクリル系粘着剤を塗布し、延伸多孔質PTFE基材の段差部に貼り付けた。その後、ドリルにより、フレーム板の四隅に直径1000μmの穴を、下層を貫通して設けた。
【0093】
このようにして得られた複合延伸多孔質PTFE基材は、機能部に荷重を加えると導通し、荷重を除去すると元の形状に弾性回復することが確認された。この複合延伸多孔質PTFE基材を検査装置の電極領域に、該検査装置の各電極と各導通部(筒状電極)とが接続するように位置関係を調整して、ピン留めにより固定した。半導体チップの電気的検査を100回繰り返したが、延伸多孔質PTFE基材の変形がなく、ピン留め部からの破損も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の複合多孔質樹脂基材は、例えば、2つの回路装置間の電気的接続を行うために用いられる異方性導電膜、あるいは半導体集積回路装置やプリント回路基板などの回路装置の電気的検査を行うために用いられる異方性導電膜などとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の複合多孔質樹脂基材の一例を示す略図である。
【図2】本発明の複合多孔質樹脂基材の製造工程の一例を示すフロー図である。
【図3】本発明の複合多孔質樹脂基材における機能部の高さと段差部の高さとフレーム板の厚みとの関係を示す説明図である。
【図4】熱プレスによる段差部の形成法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0096】
1 複合多孔質樹脂基材
2 多孔質樹脂膜
3 機能部
4 電極(導通部)
5 段差部
6 フレーム板
7 ピン留め用穴
21 多孔質樹脂基材
202 多孔質樹脂膜
203 機能部
204 電極
205 段差部
206 フレーム板
401 下金型
402 上金型
403 多孔質樹脂基材
404 段差部を設けた多孔質樹脂基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極及び/または回路が形成された機能部を有する多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さと異なる高さの段差部が形成され、かつ、該段差部の面上にフレーム板が配置されている複合多孔質樹脂基材。
【請求項2】
該段差部の高さが、該機能部の高さより低い高さである請求項1記載の複合多孔質樹脂基材。
【請求項3】
多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さより低い高さの段差部が形成され、かつ、該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板が配置されている請求項1または2記載の複合多孔質樹脂基材。
【請求項4】
該多孔質樹脂基材が、多孔質フッ素樹脂膜に電極及び/または回路が形成された機能部を設けた多孔質フッ素樹脂基材である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合多孔質樹脂基材。
【請求項5】
該多孔質フッ素樹脂基材が、多孔質フッ素樹脂膜の厚み方向に複数の貫通孔が設けられ、該貫通孔の内壁面に導電性金属の付着による筒状電極が形成された異方性導電膜である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合多孔質樹脂基材。
【請求項6】
下記工程1及び2:
(1)電極及び/または回路が形成された機能部を有する多孔質樹脂基材の該機能部を取り巻く周辺部に、該機能部の高さより低い高さの段差部を形成する工程1;及び
(2)該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する工程2;
を含む複合多孔質樹脂基材の製造方法。
【請求項7】
下記工程I乃至III:
(I)多孔質樹脂膜の中央部を取り巻く周辺部に、該中央部の高さより低い高さの段差部を形成する工程I;
(II)該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する工程II;及び
(III)多孔質樹脂膜の前記中央部に、電極及び/または回路を形成する工程III;
を含む複合多孔質樹脂基材の製造方法。
【請求項8】
下記工程i乃至iii:
(i)多孔質樹脂膜の中央部を取り巻く周辺部に、該中央部の高さより低い高さの段差部を形成する工程i;
(ii)多孔質樹脂膜の前記中央部に、電極及び/または回路を形成する工程ii;及び
(iii)該段差部の面上に、段差の高さより小さい厚みを有するフレーム板を配置する工程iii;
を含む複合多孔質樹脂基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−26922(P2007−26922A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208286(P2005−208286)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】