複合微粒子の製造方法および複合微粒子の製造装置、並びに複合微粒子
本発明では、微粒子複合化工程において、原料微粒子に複合用原料を混合した上で、マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させて複合化する。このとき用いられるマイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているものを用いる。これにより、反応条件をより正確に制御し、被覆量分布の均一を図ることが可能であり、被覆層形成制御も容易で、連続的に複合微粒子を製造することが可能な、マイクロ流路を有する反応器を用いた製造技術を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合微粒子の製造方法および複合微粒子の製造装置、並びに複合微粒子に関するものであり、特に、2相以上からなりナノメートルオーダーの複合微粒子を制御された状態で製造することができる製造方法と、マイクロ流路を用いて当該製造方法を行う製造装置と、これら製造技術により好適に製造することが可能な新規な複合微粒子とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーの微粒子(ナノ粒子)は、安定な単色蛍光粒子、磁性粒子等への単独利用の他にも、波長可変発光ダイオード、単一粒子トランジスタ、超高密度磁性記録媒体等のビルディングブロックとして注目を集めている。
【0003】
最近は、特に、技術の進歩とともに上記微粒子の応用も広がっており、その需要は増大してきている。これまで、上記微粒子の材質としては、金や白金、ニッケル等の金属;白金鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、セレン化カドミウム、硫化亜鉛等の化合物;等が報告されており、これら様々な材質からなる微粒子の合成方法(製造方法)も、均一沈殿法、水熱合成法、ホットソープ法等多岐にわたる。
【0004】
一方、本発明者等は、上記微粒子を合成する際の析出条件(反応条件)を良好に制御することが可能で、粒径(粒子径)の制御された微粒子を連続的に製造する技術を開発している(特許文献1参照)。この技術では、上記反応条件として、特に温度、濃度、滞在時間等の条件を正確に制御することが可能なマイクロ流路を有する反応器を用いている。
【0005】
さらに最近では、上記微粒子を複合化して複合微粒子を得る技術の開発も試みられている(例えば、非特許文献1参照)。微粒子を複合化することにより、当該微粒子が従来から有する特性を向上させること、および新しい機能を付与させることが可能となる。
【0006】
例えば、CdSeやInP等からなる微粒子に、それよりもバンドギャップが広いZnSの被覆を施して、ZnS被覆微粒子を得ることができる。このZnS被覆微粒子は、欠陥の多い微粒子表面にホールや電子が到達すること効果的に防ぎ、蛍光効率を効果的に向上させることができる。さらに、金(Au)微粒子にシリカの被覆を施して、シリカ被覆金微粒子を得ることができるが、この複合微粒子では、例えば、ゾルゲル法によりガラス中へ分散させることが非常に簡単になる。そのため、非線形光学材料の調製に大変有効となる。
【0007】
特に、ナノメートルオーダーの複合微粒子、特に上記のような被覆型複合微粒子を製造する場合には、生成した微粒子の粒径を制御するために、反応条件を制御することが必要となる。具体的には、原料および共存する界面活性剤等の有機分子の種類を適切に選択したり、反応温度および反応時間を変化させて、粒子の前駆体の分解速度を制御したりする例等が挙げられる。
【特許文献1】 特開2003−225900(平成15(2003)年8月12日公開)
【非特許文献1】 M.Azad Malik et al.,Chem.Mater.2002,14,2004−2010
しかしながら、反応条件を制御することにより複合微粒子の粒径を制御する技術では、粒径の良好な制御が困難となったり、得られる微粒子の品質が維持できない場合が生じたりする問題が生じる。
【0008】
具体的には、まず、被覆型複合微粒子を製造する場合、従来の製造装置を用いて反応条件を制御しようとしても、特に、反応温度および反応時間の精密な制御が困難となる。換言すれば、被覆量を精密に制御するためには、上記各反応条件の精密な制御が必要となるが、従来の製造装置では、これら反応条件を精密に制御することが困難となる。
【0009】
そこで、複合微粒子の製造において本来は短い反応時間で済む場合であっても、意図的に反応時間を長くする手法をとることが考えられる。これにより、上記反応条件をより制御しやすくすることが可能となる。
【0010】
しかしながら、そのために反応系を最適な状態から変更する必要がある場合もあるのみならず、反応時間を長くしすぎると、オストワルト熟成などのために、得られる複合微粒子の粒度分布が広がることがある。この粒度分布の広がりは、例えば、ZnS被覆CdSe微粒子の場合には、その粒径に依存する量子効果の程度の分布が広がることを示し、その蛍光スペクトルの広がりをもたらす可能性がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
それゆえ、反応条件、特に反応温度の維持時間、原料微粒子および複合用原料の濃度、原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内の滞留時間のより正確な制御が可能で、被覆量の制御された複合微粒子を連続的に製造する技術、さらには、特に半導体ナノ粒子を核とする複合蛍光ナノ粒子の場合には、被覆時間を短く抑え、特に被覆量分布を均一にすることで、被覆の際にもたらされる蛍光スペクトルの広がりをより簡単に抑える技術が求められていた。
【0012】
さらに、半導体ナノ粒子を核とする複合蛍光ナノ粒子以外の場合においても、たとえばシリカ被覆金粒子などの場合にその被覆層の厚みにより、その凝集体の表面プラズモン共鳴による吸収バンドが変化するなど、被覆層の厚さによってその特性が変化するということはしばしば見られる。したがって、複合微粒子の特性を制御する意味でも、均一に被覆を行うことが求められている。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、反応条件をより正確に制御し、被覆量分布の均一を図ることが可能であり、連続的に複合微粒子を製造することができる製造方法および製造装置、並びに、これら製造技術で製造することが可能な新規な複合微粒子の一例を提供することにある。
【発明の開示】
【0014】
本発明者等は、微粒子の製造方法について鋭意研究を続けた結果、マイクロ流路を用いると、温度制御、濃度制御、滞在時間制御をより正確に行うことができ、被覆量の制御された複合微粒子の連続製造が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明にかかる複合微粒子の製造方法は、複数の成分からなる複合微粒子の製造方法であって、1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子に複合用原料を混合した上で、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有するマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させて複合化する微粒子複合化工程を含み、上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、さらに、上記マイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いることを特徴としている。
【0016】
上記製造方法においては、上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることが好ましい。また、上記微粒子複合化工程では、原料微粒子および複合用原料の少なくとも一方を、溶媒に溶解または分散してなる溶液または分散液として用いることが好ましい。
【0017】
上記製造方法においては、さらに、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成する核微粒子合成工程を含み、上記核微粒子の粒径が1〜1000nmの範囲内となっていることが好ましく、1〜30nmの範囲内となっていることがより好ましい。このとき、上記核微粒子合成工程では、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記核微粒子を合成するとともに、上記微粒子複合化工程では、得られた核微粒子を原料微粒子として上記マイクロ流路内に連続的に供給することが好ましい。
【0018】
上記製造方法においては、上記反応条件として、反応温度およびその維持時間、原料微粒子および複合用原料の濃度、原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかを制御するようになっていればよい。
【0019】
上記製造方法においては、上記微粒子複合化工程では、複合用原料の混合を反応温度未満の温度で行うとともに、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させる段階では、0.001秒〜1時間の範囲内、より好ましくは0.01秒〜1分間の範囲内で反応温度まで加熱してもよいし、上記複合用原料の混合は、反応温度で行うとともに、上記複合用原料の溶液を加熱後、さらに0.00001秒〜1秒の範囲内で急速に混合を行い、反応中の濃度の不均一性を押さえてもよい。
【0020】
上記製造方法においては、上記複合用原料として、さらに、第n+1種目以上の成分を用いるとともに、各成分を逐次的に供給するように上記微粒子複合化工程を複数回繰り返すことが好ましい。あるいは、上記微粒子複合化工程では、複合用原料として、2種以上の成分を同時に供給してもよい。また、複数のマイクロ流路を並列させ、上記微粒子複合化工程を同時に行ってもよい。
【0021】
上記製造方法により複合微粒子が被覆型となっている。また得られる複合微粒子においては、原料微粒子および被覆層をCdSe,CdTe,CdS,PbS,PbTe,PbSe,ZnS,ZnSe,ZnTE,MgS,MgSe,MgTe等のII−VI型およびInP,InAs,InN,AlN,AlP,AlAs,GaP,GaAs,GaN等のIII−V型化合物半導体、AlGaInP,AlGaAs,InGaAsP,ZnMgCdSe等の化合物半導体、あるいはCuGaS2,CuInS2等の化合物半導体、Si,Ge等の半導体とすることも可能である。このとき、得られる複合微粒子は、蛍光スペクトル測定時に当該複合微粒子から発せられる蛍光の半値幅の増大が15%以下に抑えられ、その蛍光強度が向上されたものとなっていることが好ましい。
【0022】
上記製造方法においては、反応時の加熱時間を30分以内とすることが好ましく、15分以内とすることがより好ましく、2分以内とすることがさらに好ましい。また、複合用原料として、アルキルジセレノカルバメートまたはアルキルジチオカルバメートが用いられることが好ましい。
【0023】
本発明にかかる複合微粒子の製造装置は、複数の成分からなる複合微粒子を連続的に製造する製造装置であって、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつ、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を備える反応器と、1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子を溶媒に分散してなる微粒子分散溶液を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する原料微粒子供給手段と、上記原料微粒子に反応させて複合化するための複合用原料を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する複合用原料供給手段とを備えており、上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、上記マイクロ流路内に連続的に供給された上記原料微粒子および複合用原料との反応条件を制御することにより、複合微粒子を連続的に製造することを特徴としている。
【0024】
上記製造装置においては、上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることが好ましい。上記マイクロ流路としてキャピラリーチューブを用いることができ、このとき、上記キャピラリーチューブの管壁の厚さを10μm〜3mmの範囲内とすることができる。
【0025】
また、上記製造装置においては、上記原料微粒子供給手段は、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成して供給するようになっており、原料微粒子合成用のマイクロ流路を備える反応器と、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給する粒子形成用前駆体供給手段とを備えているとともに、粒子形成用前駆体の反応条件を制御することにより、粒径が1〜1000nmの範囲内となっている核微粒子を合成することが好ましい。
【0026】
さらに、上記製造装置においては、少なくとも、上記複合用原料供給手段の動作を制御する制御手段を備えていることが好ましく、上記複合用原料供給手段を複数備えており、それぞれの複合用原料供給手段から、異なる種類の成分を供給可能となっている場合には、上記制御手段は、上記各成分を逐次的に供給するように、それぞれの複合用原料供給手段の動作を制御することが好ましい。
【0027】
本発明にかかる複合微粒子は、上記複合微粒子の製造方法、上記複合微粒子の製造装置により製造され、核微粒子に1層以上の被覆層を形成してなる複合微粒子であればよい。特に、本発明にかかる代表的な複合微粒子としては、最大粒子径が1000nm以下であり、かつ、異なる半導体材料からなる層を複数積層した構造を有しており、さらに、上記複数の積層構造には、蛍光を発する半導体材料(バンドギャップの小さい半導体材料)からなる層を、その材料半導体材料よりもバンドギャップの大きい半導体材料(バンドギャップの大きい半導体材料)からなる層で挟持したサンドイッチ構造が含まれている複合微粒子を挙げることができる。
【0028】
上記複合微粒子としては、上記バンドギャップの大きい半導体材料およびバンドギャップの小さい半導体材料として、異なる種類のII−VI化合物半導体を用いることが好ましく、より具体的には、バンドギャップの大きい半導体材料として、ZnSを用いるとともに、バンドギャップの小さい半導体材料としてCdSeを用いる例を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0029】
上記複合微粒子においては、最大粒子径が20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。また、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層の厚みが2nm以下であることが好ましい。
【0030】
上記複合微粒子の製造方法としては、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつレイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いるとともに、バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子に、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料を混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、核微粒子にバンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程と、上記バンドギャップの小さい半導体材料からなる層が形成された被覆微粒子と、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料とを混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層に、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を積層する工程とを含む方法を挙げることができる。
【0031】
なお、上記製造方法においては、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程において、当該層の厚みを変化させるように反応条件を制御することが好ましい。
【0032】
本発明にかかる複合微粒子の製造方法および製造装置によれば、微粒子複合化工程にて用いるマイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いる。これにより、反応時間を意図的に長くすることなく複合化反応に伴う反応条件を良好に制御することができる。それ結果、核微粒子に被覆層を形成した被覆型のナノ複合微粒子を大量に製造することが可能となるという効果を奏する。また、反応条件の中でも、反応温度および滞留時間を制御することで、得られる複合微粒子の粒径を連続的に制御することが可能となるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明にかかる複合微粒子は、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層で、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を挟持したサンドイッチ構造が含まれている。そのため、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層の厚みを小さく制御して結晶性を向上させることが可能となる。その結果、これまで得られなかった高い量子収率を持つ青色の蛍光を発する複合微粒子を得ることが可能となるという効果を奏する。
【0034】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる複合微粒子の製造装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す製造装置のより具体的な一例であり、実施例で用いた製造装置を示す模式図である。
【図3】図1に示す製造装置の他の例を示すブロック図である。
【図4】図1に示す製造装置のさらに他の例を示すブロック図である。
【図5】本発明にかかる新規な複合微粒子の構造を模式的に示す部分断面図である。
【図6(a)】実施例8で得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子の透過電子顕微鏡(TEM)による観察結果を示す図であり
【図6(b)】図6(a)の部分拡大図である。
【図7】実施例7で得られたCdSe被覆ZnS微粒子(CdSe/ZnS構造を有するナノ粒子)と、実施例8で得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子との蛍光スペクトルを示す図である。
【図8】実施例9において、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子のCdSe層の厚みを変化させた場合の蛍光スペクトルの変化を示す図である。
【図9(a)】実施例10において、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子のCdSe層の厚みを変化させた場合の蛍光スペクトルの変化を示す図であり
【図9(b)】実施例10において、CdSe微粒子の直径を変化させた場合の蛍光スペクトルの変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
本実施の形態では、本発明で製造される複合微粒子およびその具体例(新規な複合微粒子)、本発明にかかる複合微粒子の製造方法、製造装置、並びに、具体的な実施例の順で、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明で製造される複合微粒子
本発明で製造される複合微粒子とは、複数の成分からなり、ナノメートルオーダーの粒径を有している微粒子(ナノ粒子)であれば特に限定されるものではないが、代表的なものとして、被覆型の複合微粒子を挙げることができる。ここでいう被覆型の複合微粒子とは、核となる微粒子(核微粒子)の表面に被覆層が1層以上積層されてなる構成を有しているものを指すものとする。
【0038】
本発明で製造される複合微粒子が被覆型である場合、被覆層は2層以上積層されていてもよいが、このとき積層される被覆層の順序やそれぞれの層の厚み等についても特に限定されるものではない。被覆層の積層順序や各層の厚みは複合微粒子の用途や発揮させる機能等に応じて適切な順序を設定すればよい。
【0039】
上記被覆型の微粒子における核微粒子の材質も、被覆層の成分も特に限定されるものではない。具体的には、例えば、チタニア(アナターゼ型等)、酸化亜鉛等の酸化物;セレン化カドミウム、硫化カドミウム、硫化亜鉛等のカルコゲナイト化合物;金、銀、白金、パラジウム、コバルト、ニッケル等の金属;シリコン、ゲルマニウム等の半金属(半導体);ポリスチレン等の高分子化合物;等を挙げることができる。例えば、後述する各実施例では、核微粒子の材質として、セレン化カドミウム、白金、金、ポリスチレンを用いており、被覆層の材質として、硫化亜鉛、マゲマイト、銀、チタニアを用いている。
【0040】
本発明では、後述するように、原料となる成分をリアクター(反応器)で反応させることにより複合微粒子を製造する。したがって、リアクターに供給される原料は上記材質そのものではなく、反応によって上記材質となるものであればよい。なお、本発明では、リアクターに供給される原料としては、被覆層を形成するための複合用原料が挙げられ、さらには、核微粒子を合成するための粒子形成用前駆体も挙げることができる。
【0041】
具体的には、例えば、上記複合用原料として、アルキルジセレノカルバメート塩またはアルキルジチオカルバメート塩、キサントゲン酸等のセレンや硫黄を含む単分子化合物を原料として用いることができる。これらの化合物には、ZnS被覆を行うための[(CH3)2NCSS]2Zn、[(C2H5)2NCSS]2Zn、C2H5ZnS2CN(C2H5)2、Cd[S2CNCH3(C6H5)]2、ZnSe被覆を行うためのZn[Se2CNCH3(C6H5)]2等を含み、これらの分子は加熱により分解して被覆層を形成することができる。
【0042】
本発明において、マイクロ流路内で行われる反応は特に限定されるものではなく、原料微粒子および複合用原料を、好ましくは溶液または分散液として供給し、加熱または混合により原料微粒子の表面に被覆層が被覆される反応であればよい。中でも、反応速度の大きな方法を用いた反応や、反応温度や複合用原料の濃度により被覆層の析出速度が大きく影響される反応が好ましい。
【0043】
反応速度の大きな方法としては、具体的には、例えば、ホットソープ法、均一沈殿法、アルコキシド加水分解法等を挙げることができる。また、温度・濃度による被覆層の析出速度が大きく影響される反応としては、具体的には、例えば、可溶性金属化合物溶液に還元剤を作用させて各種金属の被覆層を析出させる反応、水酸化カルシウム水溶液に炭酸を作用させて炭酸カルシウムの被覆層を析出させる反応、塩化カルシウム水溶液に硫酸水溶液を作用させて硫酸カルシウムの被覆層を析出させる反応、塩化カドミウム水溶液に硫化水素水溶液を作用させて硫化カドミウムの被覆層を析出させる反応、テトラアルコキシドケイ素を加熱分解して酸化ケイ素の被覆層を析出させる反応、水溶性カドミウム化合物水溶液に水溶性セレン化合物水溶液を作用させてセレン化カドミウムの被覆層を析出させる反応等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0044】
ここで、本発明により得られる複合微粒子においては、上記核微粒子および被覆層材料が半導体となっている場合には、蛍光材料として用いることができる。このとき、得られる複合微粒子は、蛍光スペクトル測定時に当該複合微粒子から発せられる蛍光の半値幅の増大が15%以下に抑えられ、その蛍光強度が向上されたものとなっている。
【0045】
この場合、得られる複合微粒子においては、原料微粒子はII−VI型化合物半導体となっていることが好ましく、被覆層はIII−V型化合物半導体となっていることが好ましい。II−VI型化合物半導体としては、CdSe,CdTe,CdS,PbS,PbTe,PbSe,ZnS,ZnSe,ZnTe,MgS,MgSe,MgTe等を挙げることができる。また、III−V型化合物半導体としては、InP,InAs,InN,AlN,AlP,AlAs,GaP,GaAs,GaN等、AlGaInP,AlGaAs,InGaAsP,ZnMgCdSe等の化合物半導体、あるいはCuGaS2,CuInS2等の化合物半導体、Si,Ge等の半導体、およびそれらにドーピングをほどこした半導体とすることも可能である。
【0046】
本発明では、後述する反応条件の制御のために反応時間を長くする必要がないため、オストワルト熟成等による複合微粒子の粒度分布の広がりを回避することができる。その結果、例えば、ZnS被覆CdSe微粒子の場合には、その粒径に依存する量子効果の程度の分布が広がることを回避することができ、蛍光スペクトルの広がりを抑制して蛍光強度を向上することができる。
【0047】
本発明により得られる複合微粒子の粒径は特に限定されるものではなく、原料および合成条件により適宜選択することができる。しかしながら、特に本発明では、粒径(最長径)が1μmを超えると、重力により複合微粒子がマイクロ流路内に沈降して当該マイクロ流路を閉塞しやすくなる。それゆえ、その粒径は1μm以下、すなわちナノメートルオーダーであればよい。なお、ここでいう最長径とは、複合微粒子の最長部における平均の大きさを指す。
【0048】
なお、本発明で得られる複合微粒子は、必ずしも被覆型に限定されるものではなく、他の構成であってもよいことはいうまでもない。複合微粒子のタイプは、反応の種類や原料の種類、供給方法等を適宜選択することにより設定することが可能である。したがって、上記複合用原料としては、被覆用の成分でなくてもよく、核微粒子等の原料微粒子に反応させて複合化するための原料であればよい。
(2)本発明にかかる複合微粒子の具体例
本発明にかかる複合微粒子のより具体的な例としては、後述する実施例に示すように、ZnS被覆CdSe微粒子(実施例1〜3参照)、マゲマイト被覆白金微粒子(実施例4参照)、銀被覆金微粒子(実施例5参照)、TiO2被覆ポリスチレン粒子(実施例6参照)、CdSe被覆ZnS微粒子(実施例7参照)、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子(実施例8〜10参照)等を挙げることができる。
【0049】
これらの中でも、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子は、CdSeを発光部として青色の蛍光を発する微粒子とすることができる新規かつ有用なナノ粒子である。
【0050】
これまでは、ナノレベルのCdSe微粒子(CdSeナノ粒子)の合成を行うことが可能であっても、その径が2nm以下になるとCdSeナノ粒子の結晶性が低下する。そのため、高い量子収率を持つ青色の蛍光(蛍光波長<〜480nm)を発するCdSeナノ粒子を得ることは困難であった。また、CdSeなの粒子は、その製造時間が非常に短いために粒子径を適切に制御することも困難であった。
【0051】
本発明者は、この点を鑑み鋭意検討した結果、CdSeよりもバンドギャップの大きいZnSからなる層でCdSeからなる層をサンドイッチする構造(ZnS/CdSe/ZnS構造)を採用することで、実際に発光するCdSeを挟み込んだ構造の複合微粒子を得ることに成功した(実施例8〜10参照)。
【0052】
つまり、本発明にかかる複合微粒子としては、異なる半導体材料からなる層を複数積層した構造を有するナノ粒子であって、当該複数の積層構造には、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層(説明の便宜上、ギャップ大材料層と称する)で、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層(説明の便宜上、ギャップ小材料層と称する)を挟持したサンドイッチ構造が含まれているものを挙げることができる。
【0053】
従来の製造方法であれば、粒径を適切に制御することが困難である上に、複合微粒子の製造も容易ではなかったが、本発明では、反応条件をより正確に制御し、被覆量分布の均一を図ることが可能であるため、サンドイッチ構造を容易に形成できるとともに、各層の厚みも容易に制御することができる。それゆえ、実施例8に示す新規な複合微粒子を得ることができるだけでなく、実施例9または10に示すように、反応条件を制御することによって、複合微粒子が有する蛍光等の機能も制御することができる。
【0054】
このような複合微粒子に含まれるサンドイッチ構造は特に限定されるものではないが、上記バンドギャップの大きい半導体材料およびバンドギャップの小さい半導体材料として、異なる種類のII−VI化合物半導体を用いることができる。より具体的には、バンドギャップの大きい半導体材料として上記ZnSが好適に用いられ、バンドギャップの小さい半導体材料として上記CdSeが好適に用いられるが、特に限定されるものではない。
【0055】
上記サンドイッチ構造の具体的な構成は特に限定されるものではなく、図5に示すように、ギャップ大材料層51およびギャップ大材料層52と、その間に挟持されるギャップ小材料層53とを有する構成であればよい。後述する実施例8〜10では、核微粒子としてバンドギャップの大きい半導体材料からなる微粒子(ZnS微粒子)を用い、これにギャップ小材料層(CdSe層)を積層し、さらにその上にギャップ代材料層(ZnS層)を積層した構成、すなわち核微粒子から見て2層を積層した構成となっているが、これに限定されるものではなく、他の材料からなる核微粒子にギャップ大材料層を積層し、その上にギャップ小材料層を積層し、さらにその上にギャップ大材料層を積層した構成、すなわち核微粒子から見て3層を積層した構成となっていてもよいし、さらに他の層を有する構成であってもよい。
【0056】
上記サンドイッチ構造を有する複合微粒子における最大粒子径は1000nm以下、すなわち1μm以下のナノオーダーであれば特に限定されるものではないが、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0057】
最大粒子径を20nm以下とすれば、ギャップ小材料層(例えば、CdSe層)の厚みを2nm以下、より好ましくは1nm程度とすることが可能になる。そのため、バンドギャップの小さい半導体材料の結晶性を向上させ、高い量子収率を持つ青色の蛍光(蛍光波長<〜480nm)を得やすくすることができる。
【0058】
上記サンドイッチ構造の複合微粒子は、後述する製造方法または製造装置により好適に製造することができる。具体的には、上記複合微粒子の製造方法では、ギャップ大材料層により、ギャップ小材料層が挟持されるように製造すればよいが、実施例8〜10等に示すように、バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子にギャップ小材料層を形成し、さらにギャップ大材料層を形成する手法が好ましい。
【0059】
すなわち、ギャップ小材料層を形成する工程では、バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子に、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料を混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御する。ギャップ大材料層を形成する工程では、上記バンドギャップの小さい半導体材料からなる層が形成された被覆微粒子と、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料とを混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御する。
【0060】
ここで、ギャップ小材料層を形成する工程において、当該層の厚み(図5のT)を変化させるように反応条件を制御すれば、得られる複合微粒子において、蛍光波長を制御することが可能となる。反応条件の制御については後述する。
(3)複合微粒子の製造方法
本発明にかかる複合微粒子の製造方法は、上記複合微粒子を製造する方法であって、少なくとも微粒子複合化工程を含み、さらに好ましくは、原料微粒子合成工程を含んでいる。
【0061】
<微粒子複合化工程>
上記微粒子複合化工程は、原料微粒子と複合用原料とを混合させた後に反応させて複合化する工程であれば特に限定されるものではないが、後述するように、反応に用いるマイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いる。
【0062】
上記原料微粒子とは、1〜1000nmの範囲内の粒径を有し、その表面に被覆層が形成される微粒子を指し、具体的には、上記(1)で説明した核微粒子を挙げることができ、さらには、複合微粒子を挙げることができる。
【0063】
換言すれば、すなわち、微粒子複合化工程においては、製造しようとする複合微粒子がn成分(ただし、nは2以上の整数)からなっている場合には、原料微粒子として、n−1種の成分からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用いるようになっていればよい。n=2の場合には、原料微粒子の成分は1種のみであるので、上記核微粒子に相当し、n>3の場合には、原料微粒子の成分は2種以上となるので、複合微粒子に相当する。
【0064】
それゆえ、微粒子複合化工程では、核微粒子に1層の被覆層を形成するようになっていてもよいし、1層以上の被覆層が形成された複合微粒子を上記原料微粒子として用い、これに対してさらに被覆層を形成するようになっていてもよい。
【0065】
この原料微粒子および複合用原料の少なくとも一方は、溶媒に溶解または分散してなる溶液または分散液として用いられることが好ましい。これにより、それぞれの原料をマイクロ流路に対して連続的に供給することができるとともに、核原料の混合も効率的かつ円滑に行うことができる。ここで用いられる溶媒は特に限定されるものではなく、複合化反応に好適な公知の溶媒を適宜選択すればよい。具体的には、例えば、水または水溶液;ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の非極性有機溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性有機溶媒を挙げることができるが特に限定されるものではない。これら溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明では、微粒子複合化工程は1回のみ行ってもよいが、複数回行ってもよい。すなわち、微粒子複合化工程においては、n−1種の成分からなる原料微粒子に対して、第n種目の成分を複合用原料として用いて複合微粒子を合成した後に、さらにこの複合微粒子を原料微粒子として、複合用原料として、第n+1種目以上の成分を用いてもよい。このとき、第n+1種目以上の各成分は、逐次的に供給するように上記微粒子複合化工程を複数回繰り返せばよい。これによって、3層以上の多層構造を有する複合微粒子を連続的に製造することができる。
【0067】
さらに本発明では、微粒子複合化工程において、複合用原料として、2種以上の成分を同時に供給してもよい。この場合、複数種の成分を同時に添加して被覆層を形成することができるので、複合微粒子の種類によっては、その特性をより好ましいものに制御することが可能となる。
【0068】
原料微粒子と複合用原料との混合の手法は特に限定されるものではなく、複合化の前段で混合を完了していればよい。したがって、原料微粒子分散液と複合用原料の溶液とを混合した混合溶液を調製して用いてもよいし、後述する製造装置のように、原料微粒子を供給する手段および複合用原料を供給する手段とを混合手段を介して接続し、連続的に混合しながら複合化を行ってもよい。
【0069】
<マイクロ流路>
上記微粒子複合化工程にて用いられるマイクロ流路は、リアクターの主要構成要素であり、リアクターそのものであると見なすこともできる。このマイクロ流路は、流体の流れが層流を保つものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、その直径が1〜5000μm、さらに好ましくは50〜1000μmの範囲内となっている。
【0070】
マイクロ流路の直径を小さくすると、表面積に対するマイクロ流路の容量が小さく、また、チャネル自身の代表長さも小さくなる。そのため、複合微粒子を合成する際の反応条件を正確に制御することができる。例えば、小さい熱容量に由来する反応温度の制御の正確さ、短い拡散距離に依存する原料濃度の制御の正確さを非常に優れたものとすることができる。
【0071】
このように、マイクロ流路の直径を1〜5000μmの範囲内とすることにより、上記反応条件の制御を優れたものとできることから、反応時間を短くしても複合微粒子を合成することが可能となる。そのため、マイクロ流路を用いて複合微粒子を製造する際に、その生産性を向上させることができる。
【0072】
ただし、マイクロ流路の直径を1μm未満とすると、合成時のマイクロ流路内での圧力損失が大きくなる。そのため、複合微粒子の生産性が低下し、また合成に関する操作も困難となる。一方、複合化反応を加熱により行う場合には、マイクロ流路の直径を5000μm超とすると、マイクロ流路の容量(体積)に対するマイクロ流路の表面積が小さくなる。それゆえ、反応温度の正確な制御が困難となる。それゆえ、マイクロ流路の直径は1〜5000μmの範囲内であることが好ましい。
【0073】
また、上記マイクロ流路においては、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されている。マイクロ流路のレイノルズ数を1未満とすると、実質的な生産条件としては生産量が少なすぎる。それゆえレイノルズ数の下限は1以上が好ましい。これに対して、レイノルズ数を4000超とすると、乱流によるバックミキシングが生じやすくなり、反応時間がばらつくので、第n種目の複合用原料の添加量分布にばらつきが生じやすくなる。それゆえ、レイノルズ数の上限は4000以下とすることが好ましく、2100以下とすることがより好ましい。
【0074】
マイクロ流路の具体的な構成は、上記直径およびレイノルズ数以外特に限定されるものではない。例えば、マイクロ流路の長さとしては、1cm〜100mの範囲内、さらに好ましくは4cm〜30mの範囲内であれば、反応条件がより制御しやすくなるが特に限定されるものではない。
【0075】
上記マイクロ流路としては、マイクロキャピラリーを用いることができる。この場合は、当該マイクロキャピラリーの壁、すなわちキャピラリーチューブの管壁の厚さは薄い方が好ましい。具体的には、例えば、10μm〜3mmの範囲内のものを望ましく用いることができるが特に限定されるものではない。上記管壁が上記の範囲内であれば、温度制御をより精密とすることができる。
【0076】
また、マイクロ流路となる具体的な部材の構成や材質も特に限定されるものではない。例えば、キャピラリーチューブをマイクロ流路として用いる場合、このキャピラリーチューブの材質としては、特に限定されるものではなく、各種ガラス;各種金属(合金を含む);ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂等の樹脂類;等を挙げることができる。
【0077】
あるいは、耐熱性基板上に耐熱性層を設け、この耐熱性層に溝を形成することにより、この溝をマイクロ流路として用いることができる。このときの耐熱性基板の材質としては、金属(合金を含む)を挙げることができ、耐熱性層としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物;フッ素樹脂、ポリイミド等の耐熱性樹脂;等を挙げることができる。
【0078】
<反応条件の制御>
本発明にかかる複合微粒子の製造方法においては、上記微粒子複合化工程にて、反応条件を良好に制御することができる。このときの具体的な反応条件としては、(i)反応温度およびその維持時間、(ii)原料微粒子および複合用原料(まとめて原料と称する)の濃度、(iii)原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかが挙げられる。これら反応条件の制御に関して具体的に説明する。
【0079】
最初に、(i)反応温度およびその維持時間について説明する。反応温度そのものについては、原料の種類および用いる反応の種類によって適宜設定することができる。また、反応温度の維持時間については、複合用原料を混合する温度により二つの状況が存在する。第1の状況は、複合用原料の混合を反応温度未満の温度で行う場合である。このとき、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させる段階では、0.001秒〜1時間の範囲内で反応温度まで加熱すればよい。また、加熱の間に温度制御を行うことも可能である。第2の状況は、複合用原料の混合は、反応温度で行う場合である。上記第2の状況では、複合用原料の溶液を加熱した後、さらに0.00001秒〜1分の範囲内で混合すればよい。なお、この第2の状況については、後述するように(ii)原料の濃度という反応条件にも分類することができる。
【0080】
上記何れの状況であっても、反応温度の維持時間を幅広い時間とすることができるので、得られる複合微粒子において、被覆層の厚みを良好に制御することができる。
【0081】
ここで、オストワルト熟成による複合微粒子の粒度分布の広がりを回避するため、および生産性の向上のためには、反応時間は短いことが好ましいので、反応時の加熱時間(反応温度の維持時間)を30分以内とすることが好ましく、15分以内とすることがより好ましく、2分以内とすることがさらに好ましい。
【0082】
次に、(ii)原料の濃度について説明する。濃度についても原料、用いる反応の種類、リアクターの形状、及び温度によって適宜設定することができる。濃度が高すぎると溶液の粘度が上昇し、リアクター内での大きな圧力損失につながる。一方、濃度が低いと生成物の収量が低下したり、反応速度が低下して反応時間が長くかかったりすることがあるために、望ましくない。このため原料の濃度は、0.0001vol%〜30vol%の範囲内とすることが望ましく、0.01vol%〜5vol%の範囲内とすることがより望ましい。
【0083】
また、混合の際に原料の濃度の不均一性を抑制することは、被覆の均一性をもたらす上で非常に重要なことである。この場合、混合速度は析出速度と比較して十分に早ければ問題はないが、0.00001秒〜1分の範囲内で混合を行うことが好ましい。0.00001秒以下の混合速度では現段階の技術では混合が難しく、1分以上の混合時間ですむものについては、バッチ式のものと大きな違いが得られないからである。
【0084】
換言すれば、上記混合時間の制御は、上記(i)反応温度およびその維持時間の第2の状況であるということもできる。すなわち、上記第2の状況は、反応温度まで加熱した後に混合すると、その混合時間が問題になってくるため、単純に反応温度および維持時間だけの問題ではなく、上記のように原料の濃度の制御に大きく関与する。したがって、第2の状況は、反応条件としては上記(i)の条件に分類できるとともに(ii)の条件としても分類することができる。
【0085】
次に、(iii)原料のマイクロ流路内の滞留時間について説明する。マイクロ流路は細長い構造であるために、流速分布による滞留時間分布が生じる。ここで、原料微粒子の相と複合用原料の相という二つの相からなる界面で粒子を合成させる場合には、速度分布による滞留時間を抑えることが可能である。上記二つの相の割合はその流速を変化させることにより自由に変えることができる。二相界面を用いる方法を用いるか否かについては、目的とする粒子の粒度分布および生産性により適宜選択することができる。
【0086】
また、流路中に気体等を適宜混入させ、反応溶液をセグメント化させることにより流速分布による滞留時間分布を抑えることができる。混入させる物質の種類は反応系により適宜選択することができ、特に限定されるものではない。例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス;空気、酸素等の酸化性ガス;水素、アンモニア等の還元性ガス;等を挙げることができる。
【0087】
さらに混入させる物質としては、反応溶液と均一に混合しない液体も用いることができる。例えば、反応溶液が水溶性の場合は、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の非極性溶媒を、反応溶液が油溶性の場合には、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を用いることができる。
【0088】
<核微粒子合成工程>
本発明にかかる複合微粒子の製造方法においては、上記微粒子複合化工程の前段で、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成する核微粒子合成工程を行ってもよい。すなわち、本発明では、すでに製造された核微粒子を原料微粒子として用いてもよいし、一連の製造過程において核微粒子そのものを製造する工程を含んでいてもよい。
【0089】
核微粒子合成工程は、第1種目の成分を用いて核微粒子を合成するようになっていればよく、特に限定されるものではないが、上記微粒子複合化工程と同様に、マイクロ流路を用いた手法で好適に製造することができる。
【0090】
すなわち、まず、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、原料微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給する。そして、微粒子複合化工程と同様に反応条件を制御することにより、上記核微粒子を合成する。得られた核微粒子は、原料微粒子として微粒子複合用のマイクロ流路内に連続的に供給されることになる。この核微粒子合成工程に用いられるより具体的な技術としては、例えば、背景技術にて述べたように、本発明者らにより提案されている特許文献1に開示されている技術を好適に用いることができる。
【0091】
ここで、上記粒子形成用前駆体としては特に限定されるものではなく、前記(1)にて述べたように、核微粒子として用いる材質そのものではなく、反応によって上記材質となるものを用いればよい。したがって、核微粒子を合成する反応も特に限定されるものではなく、特許文献1に開示されている反応や前記(1)にて述べた反応等を利用すればよい。また、形成される核微粒子の粒径も特に限定されるものではないが、1〜100nmの範囲内となっていることが好ましい。これによって、得られる複合微粒子の粒径を上述した好ましい範囲内とすることができる。
(4)複合微粒子の製造装置
本発明にかかる複合微粒子の製造装置は、上記複合微粒子を製造する装置であって、より好ましくは、上記複合微粒子の製造方法を行う装置である。本発明にかかる製造装置の代表的な一例としては、図1に示すように、核微粒子供給部(原料微粒子供給手段)11、第2相原料溶液供給部(複合用原料供給手段)12、複合化用リアクター(反応器)13を少なくとも備えている構成を挙げることができる。この製造装置においては、さらに、制御部(制御手段)14および回収容器(複合微粒子回収手段)15を備えていることが好ましい。なお、核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12、複合化用リアクター13および回収容器15は配管16により接続され、原料や微粒子を輸送できるようになっている。
【0092】
<核微粒子供給部>
上記核微粒子供給部11は、本実施の形態では、上記核微粒子を溶媒に分散してなる核微粒子分散液を、複合化用リアクター13が備えるマイクロ流路31に連続的に供給するようになっている。核微粒子供給部11のより具体的な構成は特に限定されるものではないが、一般的なポンプを用いることができ、中でも、例えば、シリンジポンプや無脈動ポンプ等、脈動の少ないポンプを用いることが望ましい。
【0093】
上記核微粒子供給部11は、原料微粒子を供給できる構成となっていればよいので、すでに合成(製造)された核微粒子をマイクロ流路31に供給する構成であればよいが、この構成に限定されるものではなく、図2に示すように、核微粒子を合成して供給する構成となっていてもよい。
【0094】
この例では、核微粒子供給部11はシリンジポンプ21および核微粒子合成用リアクター22から構成されている。核微粒子合成用リアクター22は核微粒子合成用のマイクロ流路31を備えている。したがって、上記シリンジポンプ21は、核微粒子の原料(第1種目の成分)としての粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用リアクター22に連続的に供給する粒子形成用前駆体供給手段として機能することになる。核微粒子合成用リアクター22は、後述する複合化用リアクター13と同様にマイクロ流路34を備える構成となっている。その他構成も複合化用リアクター13と同様であるため、具体的な説明は省略する。
【0095】
図1および図2に示す例では、原料微粒子供給手段として核微粒子供給部11を用いているが、本発明はもちろんこれに限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、複合微粒子を原料微粒子として供給する複合微粒子供給部41を用いてもよい。この複合微粒子供給部41は、核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12および複合化用リアクター13aからなっており、第3相原料溶液供給部42および複合化用リアクター13bと配管16により接続されているが、もちろんこの構成に限定されるものではなく、すでに合成(製造)された複合微粒子を供給するだけの構成(例えば、図2に示すシリンジポンプ21のみの構成)であってもよい。
【0096】
本発明にかかる製造装置では、1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子を溶媒に分散してなる微粒子分散溶液を、マイクロ流路31に対して連続的に供給できる原料微粒子供給手段が設けられていればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0097】
<第2相原料溶液供給部>
上記第2相原料溶液供給部12は、第1種目の成分からなる核微粒子の表面に第2種目の成分からなる被覆層を形成するため、溶液状の複合用原料をマイクロ流路31に対して連続的に供給するようになっている。第2相原料溶液供給部12のより具体的な構成は特に限定されるものではなく、核微粒子供給部11と同様、一般的なポンプを用いることができ、中でも、例えば、図2に示すようなシリンジポンプ23や、無脈動ポンプ等、脈動の少ないポンプを用いることが望ましい。
【0098】
本発明にかかる製造装置においては、複合用原料を供給する手段は、第2相原料溶液供給部12以外にも複数設けられていてもよい。例えば、図3に示すように、核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12および複合化用リアクター13aからなる複合微粒子供給部41が設けられている場合には、第3相原料溶液供給部42を設ければよい。このように、複数成分(例えばn成分、ただしn>2)からなる複合微粒子を製造する場合には、n−1個の複合用原料供給手段を設ければよい。
【0099】
上記第2相原料溶液供給部12や第3相原料溶液供給部42等は、制御部14によりその動作が制御されてもよいし、制御部14による制御はなくてもよい(制御部14そのものが設けられていなくてもよい)。この動作制御に関しては、制御部14の詳細とともに説明する。
【0100】
マイクロ流路31における反応時間および原料濃度の均一性を保つために、特に反応温度に加熱後に原料溶液を混合する場合は、原料微粒子および複合用原料の添加はできる限り急速かつ均一に行う必要がある。それゆえ、例えば、図2に示すように、核微粒子供給部11および第2相原料溶液供給部12の間の配管16に混合器17を設けてもよい。この混合器17のより具体的な構成としては特に限定されるものではないが、混合体積の小さいマイクロミキサー、ミキシングチューブ、超音波を利用する混合機等を用いることができる。
【0101】
なお、前記(3)の<微粒子複合化工程>で述べたように、本発明では、原料微粒子分散液と複合用原料の溶液とを予め混合した混合溶液を用いてもよいので、例えば、一つのシリンジポンプに上記混合溶液を充填して用いてもよい。すなわち、原料微粒子供給手段および複合用原料供給手段は、一つの供給手段として併用されてもよい。
【0102】
同様に、前記(3)の<微粒子複合化工程>で述べたように、複合用原料として2種以上の成分が供給されてもよい。この場合、第2相原料溶液供給部12から2種類以上の成分を供給してもよいし、第2相原料溶液供給部12を複数もうけて、それぞれから単独の成分を供給し、例えば混合器17等の混合手段で混合してマイクロ流路31に供給してもよい。
【0103】
<リアクター>
上記複合化用リアクター13は、1μm〜1mmの範囲内の直径を有し、かつ、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路31を備えていればよい。このとき、上記マイクロ流路31の直径は、前記(1)で説明したように1〜5000μmの範囲内となっていることが好ましい。その他、マイクロ流路31(またはマイクロ流路34)の具体的な構成については、前記(1)にて説明したので省略する。
【0104】
上記複合化用リアクター13のより具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、特許文献1に開示されている構成等を挙げることができるが、特に本実施の形態では、図1に示すように、加熱部(加熱手段)32および冷却部(冷却手段)33の少なくとも一方を備える構成となっている。これら加熱部32および冷却部33は、第2相原料溶液供給部12と同様に制御部14により動作が制御されることが好ましい。
【0105】
マイクロ流路31内では複合化反応が行われるが、より高品質の複合微粒子を得るためには、反応時間や反応温度の均一性を維持する必要がある。それゆえ、複合化用リアクター13においては、反応混合物(複合用原料および原料微粒子の混合物)の加熱をできるだけ急速かつ均一に行う必要がある。それゆえ、加熱部32を設けることが好ましく、その動作を制御部14により動作制御することが好ましい。
【0106】
加熱部32の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、オイルバス、ヒーティングブロック、電気炉、赤外線加熱装置、レーザー光線、キセノンランプ等、一般的な加熱装置を好適に用いることができる。
【0107】
また、加熱部32による加熱後の冷却は自然放冷であってもよい(冷却部33を設けなくてもよい)が、何らかの冷却部33を設け、好ましくは制御部14により動作制御することで、反応時間および反応温度をより均一に制御することが可能となる。冷却部33の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、空冷、水冷、油冷装置等、一般的な冷却装置を好適に用いることができる。
【0108】
さらに、上記加熱部32および冷却部33としては、マイクロ流路31内を部分的に加熱および冷却できる構成のものを用いてもよい。具体的には、例えば、小型の発熱素子、ペルチェ素子等を流路の周りに配置したり、外部から電磁波を照射したりする構成を挙げることができる。
【0109】
なお、前記核微粒子合成用リアクター22は、原料微粒子合成用のマイクロ流路34を備えている構成であり、例えば、特許文献1に開示されている構成等を挙げることができるが、基本的な構成は、上記複合化用リアクター13と同様である。
【0110】
上記複合化用リアクター13としては、最終的に得ようとする複合微粒子の成分種に応じて、複合用原料供給手段(第n相原料溶液供給部)と同様に、複数設けることができる。例えば、図3に示す例では、前述したように、核微粒子(第1種目の成分)、第2相原料溶液(第2種目の成分)、第3相原料溶液(第3種目の成分)を供給するようになっているので、被覆層を形成する段階ごとに、複合化用リアクター13a・13bを設ければよい。
【0111】
さらに、複合微粒子を大量に製造したい場合には、図4に示すように、複数のマイクロ流路31を並列させた複合化用リアクター43を用いることもできる。これによって、微粒子複合化工程を同時並行して行うことができるので、複合微粒子の単位時間当たりの生産量を増加することが可能になり、複合微粒子を大量に製造することが可能となる。この際、核微粒子供給部11および第n相原料溶液供給部は、何れも一つである必要はなく、必要に応じてその数を適宜定めることができる。また、核微粒子供給部11および複合用原料供給手段をそれぞれ備える複合化用リアクター13を束ねて用いることも可能である。
【0112】
<制御部>
本発明にかかる製造装置には、少なくとも、第2相原料溶液供給部(複合用原料供給手段)の動作を制御する制御部14が設けられていることが好ましい。この制御部14は、図1に示すように、加熱部32や冷却部33等の温度制御手段の動作を制御するようになっていることがより好ましい。制御部14の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、本発明にかかる製造装置が一つの筐体にまとめられている場合等では、公知のマイクロプロセッサを用いることができる。また、様々な装置を組み合わせた製造システムとなっている場合には、パーソナルコンピュータに適切なプログラムをインストールすることで制御部14として用いることができる。また、後述する回収容器(回収手段)において、生じた生成物(複合微粒子)の特性を測定し、それを制御部14にフィードバックする構成を採用してもよい。
【0113】
上記(3)の<反応条件の制御>で説明したように、本発明では、微粒子複合化工程にて、反応条件を良好に制御することができ、このときの具体的な反応条件としては、(i)反応温度およびその維持時間、(ii)原料微粒子および複合用原料の濃度、(iii)原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかを挙げることができる。
【0114】
このうち、(i)反応温度およびその維持時間の制御については、加熱部32や冷却部33の動作を制御することにより実現することが可能となる。また、(ii)原料微粒子および複合用原料の濃度、並びに(iii)マイクロ流路内における滞留時間の制御については、第2相原料溶液供給部(複合用原料供給手段)の動作を制御することにより実現することができる。このときの制御の具体的な手法は特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて、適切なタイミングや適切な動作レベルで上記各手段の動作を制御するようになっていればよい。
【0115】
また、例えば、図3に示すような複合用原料供給手段を複数備えている場合では、それぞれの複合用原料供給手段(第2相原料溶液供給部12および第3相原料供給部42)から、各成分を供給するときに、図3には図示しない制御部14によって、上記各成分を逐次的に供給するように、それぞれの複合用原料供給手段の動作を制御するようになっていればよい。
【0116】
<回収容器・配管>
本発明にかかる製造装置は、得られる複合微粒子を回収する回収容器(回収手段)15が設けられていることが好ましい。この回収容器15としては具体的に特に限定されるものではなく、製造された複合微粒子を適切に回収できる手段であればよい。例えば、本実施の形態では、反応溶液に侵されない材質の容器(雰囲気調整が行える容器が望ましい)を捕集器として用いることができる。
【0117】
上記核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12、複合化用リアクター13、回収容器15は、何れも配管16により接続され、原料や微粒子を輸送できるようになっている。配管16の具体的な構成は特に限定されるものではなく、複合微粒子の輸送を妨げないような構造を有するものであればよい。例えば、本実施の形態では、マイクロ流路31として用いられるキャピラリーチューブそのものを配管16として用いることができる。
(5)実施例
以下に、本発明の一実施例を詳細に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1:ZnS被覆CdSe微粒子の合成例1〕
5mlのオクタデセンに、165μlのオクチルアミン、26.6mgの酢酸カドミウムを添加した溶液(粒子形成用前駆体溶液1)と、25mlのトリオクチルホスフィン(TOP)に494μlのセレンを溶解させた溶液(粒子形成用前駆体溶液2)とを1:1で混合し、シリンジポンプに充填して275℃に加熱したキャピラリー(原料合成用リアクターのマイクロ流路)中を通過させた。これにより、核微粒子としてのCdSe微粒子溶液(微粒子の平均粒径が3nm)を得た。
【0118】
また、[(CH3)2NCSS]2ZnをTOPに溶解させた溶液(複合用原料溶液または第2相原料溶液)をシリンジポンプに充填し、上記CdSe微粒子溶液(原料微粒子分散液)に対して1:1(50vol%:50vol%)となるように混合器で混合し、その混合溶液を、予め180℃に加熱した内径0.2mmのキャピラリー(複合化用リアクターのマイクロ流路)に通過させた。得られたZnS被覆CdSe微粒子(複合微粒子)を回収容器に回収した。
【0119】
流速を変化させることにより加熱時間を変化させて複数種類の複合微粒子のサンプルを得た。得られた複合微粒子において、加熱時間に対するUVピーク位置、半値幅、量子収率の結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
ZnS被覆CdSe微粒子においては、ZnS被覆後の加熱時間を秒単位で変化させることにより、蛍光ピークはその強度を増し、半値幅を保ったままその位置を長波長側にシフトすることが分かっている。このシフト量は、ZnS被覆層の厚さに依存する(文献I:Xiaogana Peng et al.,J.Am.Chem.Soc.,1997,119,7019−7029参照)。一方で、蛍光スペクトルの半値幅は35nmと一定である。被覆量分布が生じると蛍光スペクトルの半値幅が広がると予想されるため、この結果は、被覆量分布に広がりがないことを示す。
【0121】
本実施例で得られたZnS被覆CdSe微粒子においては、表1に示すように、最も高い蛍光を示したサンプルの量子収率は約70%で、その際の蛍光スペクトルの半値幅は35nmであった。被覆量分布によるピーク位置シフトのばらつきを防ぐために、シビアな反応条件制御が必要な粒径であるにもかかわらず、本発明にかかる製造方法および製造装置を用いると、高性能の複合粒子が連続的に得られることが分かる。
〔実施例2:ZnS被覆CdSe微粒子の合成例2〕
図2に示す構成を有する複合微粒子の製造装置を用いてZnS被覆CdSe微粒子の製造を行った。
【0122】
それぞれ20gのステアリン酸、トリオクチルホスフィンオキサイドおよびトリオクチルホスフィンと、266mgの酢酸カドミウムと、494mgのセレンとを溶解させたCdSe微粒子原料溶液(粒子形成用前駆体溶液)を調製し、図2に示すシリンジポンプ21に充填した。一方で、ジメチルカドミウム0.4mmolとビストリメチルシリルスルフィド0.51mmolとを、TOP3gと混合したZnS被覆原料溶液(複合用原料溶液または第2相原料溶液)をシリンジポンプ23に充填した。
【0123】
上記シリンジポンプ21からCdSe微粒子原料溶液をキャピラリー(原料合成用リアクター22のマイクロ流路34)に押し出し、300℃に設定した原料合成用リアクター22にて微粒子を合成させた後に、混合器17を用いて上記シリンジポンプ23から0.1ml/minの条件で押し出された被覆原料溶液と混合し、再度240℃に設定した複合化用リアクター13にてZnSの被覆を行った。
【0124】
これにより、量子収率70%、最大蛍光波長550nm(粒径3.5nm)、蛍光半値幅38nmのZnS被覆CdSe微粒子を合成することができた。
〔実施例3:ZnS被覆CdSe微粒子の合成例3〕
原料溶液を加熱後にマイクロ混合機を用いて急速に混合する方法でZnS被覆CdSe微粒子の製造を行った。
【0125】
実施例2と同じ要領でCdSe微粒子溶液を調整し、それに、ジメチルカドミウム0.4mmolを溶解して、シリンジポンプに充填した。一方、ビストリメチルシリルスルフィド0.51mmolを、TOP3gと混合した被覆原料溶液(複合用原料溶液または第2相原料溶液)をシリンジポンプ23に充填した。両溶液を240℃に加熱したマイクロ流路を通過させることで、240℃まで過熱した後、マイクロ混合器(混合時間を調べたところ、0.05秒で完全混合がなされている)を用いて混合し、その後さらにマイクロ流路を通過させながら7秒間加熱を保持した後、室温に設定されたマイクロ流路を通過させることにより室温まで冷却した。
【0126】
これにより、量子収率65%、最大蛍光波長545nm(粒径3.4nm)、蛍光半値幅37nmのZnS被覆CdSe微粒子を合成することができた。
〔実施例4:マゲマイト被覆白金微粒子の合成例〕
2gの1,2−ヘキサデカノール、0.4mLのオレイン酸および0.4mLのオレイルアミンを15mLのオクチルエーテルに溶解した溶液を290℃まで加熱し、1gの白金アセチルアセトネートを10mLのオクチルエーテルに溶解した溶液を過熱してマイクロミキサーを用いて添加し、白金コロイド(核微粒子)の溶液を得た。
【0127】
この溶液を室温まで冷却し、0.1gの鉄ペンタカルボニルを添加した後に、よく混合してシリンジポンプに充填し、あらかじめ300℃に加熱した内径0.2mmのキャピラリー(複合化用リアクターのマイクロ流路)に通過させた。マゲマイト被覆白金微粒子(複合微粒子)を回収容器に回収した。
【0128】
流速を変化させることにより加熱時間を変化させて複数種類の複合微粒子のサンプルを得た。得られた各サンプルの平均粒径と加熱時間との関係を表2に示す。この結果から明らかなように、本発明を用いれば、粒径すなわち被覆厚さの制御が可能となる。
【0129】
【表2】
〔実施例5:銀被覆金微粒子の合成例〕
塩化金酸を水に溶解し、クエン酸を添加して100℃で沸騰させて金の微粒子(核微粒子)を得た。この金粒子の平均粒径は15nmで変動係数が5%であった。金粒子を脱酸素し、クエン酸のメタノール溶液に添加して金粒子分散液(原料微粒子分散液)を調製した。一方で、シアン酸銀カリウムのメタノール溶液(複合用原料溶液・第2相原料溶液)を調製して、それらを2つの方向から流通させ、オンライン制御により、これら溶液を混合した直後にオイルバス部に流通させた。この装置では、混合液は、予め加熱されたオイル中を流通することにより急激に加熱され、オイルから出ると外気により冷却される。加熱時間は15分とした。その結果、平均粒径が20nm、変動係数5%の銀被覆金微粒子が得られた。
〔実施例6:TiO2被覆ポリスチレン粒子の合成例〕
被覆反応は、エタノール中にて室温で行った。0.4gのポリビニルピロリドンと5mMのNaCl1mlとを40mlのエタノールに溶解した溶液Aを調製し、この溶液Aに100mg/mlのポリスチレンラテックスを懸濁させたエタノールを3.1ml添加した。一方で、0.45mlのテトライソプロポキシチタンを6mlのエタノール中に溶解した溶液Bを調製した。
【0130】
溶液Aを0.4ml/minの流速で、溶液Bを0.06ml/minの流速でそれぞれシリンジポンプにより押し出し、マイクロ混合機で混合した。反応は即座に進行し、15nmの均一な厚さの被覆層を有する複合微粒子を合成することができた。
〔実施例7:CdSe被覆ZnS微粒子の合成例〕
図1に示す構成を有する複合微粒子の製造装置を用いてCdSe被覆ZnS複合微粒子の製造を行った。
【0131】
まず、ジメチルカドミウム2.8mmolとビストリメチルシリルスルフィド11.2mmolとを、TOP12gと混合したZnS微粒子原料溶液(粒子形成用前駆体溶液)を調製し、実施例2と同様にしてZnS核微粒子を製造した。
【0132】
次に、それぞれ6.0gのステアリン酸、トリオクチルホスフィンオキサイドおよびトリオクチルホスフィンと、26.6mgの酢酸カドミウムと、49.4mgのセレンとを溶解させたCdSe被覆原料溶液(第2相原料溶液)を調製し、シリンジポンプからなる第2相原料溶液供給部12に充填した。
【0133】
上記核微粒子供給部11からZnS微粒子を押し出すとともに、上記第2相原料溶液供給部12からCdSe被覆原料溶液を押し出して混合し、270℃に設定したリアクター13にて30秒間加熱することによりCdSeの被覆を行った。
【0134】
これにより、量子収率10%、最大蛍光波長488nm(粒径4.0nm)、蛍光半値幅50nmのCdSe被覆ZnS微粒子を合成することができた。
〔実施例8:ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の合成例〕
図3に示す構成を有する複合微粒子の製造装置を用いてZnS−CdSe−ZnS型微粒子の製造を行った(ただし、リアクター13bの後段に図示しない回収容器が設けられている)。
【0135】
上記実施例7と同様にしてCdSe被覆ZnS微粒子を製造し、さらに、リアクター13aからCdSe被覆ZnS微粒子を押し出すとともに、ZnS微粒子原料溶液と同じ組成のZnS被覆原料溶液(第3相原料溶液)を押し出して混合し、240℃に設定したリアクター13bにて150秒加熱することによりZnSの被覆を行った。
【0136】
これにより、量子収率50%、最大蛍光波長486nm(粒径6.2nm)、蛍光半値幅50nmのZnS/CdSe/ZnS型微粒子を合成することができた。
【0137】
また、透過電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、図6(a)・(b)に示すように、得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子は、その粒子径が6nm程度となっていた。
【0138】
さらに、図7に示すように、実施例7で得られたCdSe被覆ZnS微粒子と、本実施例で得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子とを比較すると、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の方がより強い蛍光強度で発光していることが分かった。
【0139】
このように、ZnSでCdSeをサンドイッチする構造(ZnS/CdSe/ZnS構造)を採用すれば、CdSeを発光部として利用する微粒子(CdSe系微粒子)として、CdSe層の厚みを1nm程度に抑えたまま発光する複合微粒子を得ることが可能であった。
〔実施例9:ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の合成例2〕
実施例8において、CdSe層を形成する際に、270℃の加熱温度はそのままで、加熱時間を30、45、60秒に変化させることでCdSe層の厚みを変化させ、複数種類のZnS/CdSe/ZnS型微粒子のサンプルを得た。なお、ZnS層の被覆は、何れの場合も実施例8と同じく240℃、150秒の加熱条件とした。
【0140】
得られた複合微粒子において、加熱時間に対する蛍光波長と蛍光強度との関係を図8の蛍光スペクトルに示す。図8の結果から明らかなように、CdSe層の厚さが厚い方がより長波長側の蛍光を発している。これにより、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子では、厚いCdSe層を有する方がよりバンドギャップのエネルギーが小さいことが分かる。
【0141】
このように、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子においては、CdSe層の厚みを制御することにより蛍光波長の制御が可能となる。
【0142】
なお、上記ZnS/CdSe/ZnS型微粒子では、おそらく、CdSe層の電子および正孔(ホール)は少しZnS層にしみ出していると考えられる。そのため、バンドギャップの大きい物質(この場合ZnS)のバンドギャップを制御することによっても、電子のしみ出しによる量子サイズ効果の緩和の程度が変化し、蛍光波長が変化することになると考えられる。
〔実施例10:ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の合成例3〕
実施例8において、CdSe層を形成する際に、実施例9と同様に処理時間を変更させて、2層目の処理時間が蛍光波長にどのように影響するかを確認した。具体的には、ZnS微粒子を核としてCdSe層を形成する際と、核無しでCdSe微粒子を形成する際とのそれぞれにおいて、加熱温度を180℃とし、加熱時間を30、38、50、60秒に変化させた。その結果を図9(a)・(b)の蛍光スペクトルで示す。
【0143】
図9(b)に示すように、核無しでCdSe微粒子を形成した場合、加熱時間が長くなると層の厚み(この場合CdSe微粒子の粒子径)が大きくなり、長波長側に強い蛍光を発している。この点は、実施例9と同様である。
【0144】
これに対して、図9(a)に示すように、ZnS微粒子を核としてCdSe層を形成した場合、加熱時間が長くなると層の厚みが大きくなり、長波長側に強い蛍光を発している点は同じであるが、蛍光のピークはより低波長側にシフトしており、高い量子収率を持つ青色の蛍光(蛍光波長<〜480nm)を発していることが分かる。
【0145】
従来では、粒子径が2nm以下になるとCdSe微粒子の結晶性が低下する。そのため、青色の蛍光を発するCdSe微粒子を得ることは困難であったが、本発明によれば、ZnS/CdSe/ZnS構造を有することによりCdSeの結晶性が上昇するため、青色の蛍光を発する新規なCdSe系微粒子を製造できることが分かった。
【0146】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0147】
以上のように、本発明によれば、高品質の複合微粒子を効率的に製造することができる。それゆえ、本発明は、ナノ粒子を製造または利用する各種ナノテクノロジーに関わる産業、例えば、ナノ粒子を製造する素材・化学産業や、ナノ粒子を利用した波長可変発光ダイオード、単一粒子トランジスタ、超高密度磁性記録媒体等を製造する電子部品・電子機器産業等に好適に利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合微粒子の製造方法および複合微粒子の製造装置、並びに複合微粒子に関するものであり、特に、2相以上からなりナノメートルオーダーの複合微粒子を制御された状態で製造することができる製造方法と、マイクロ流路を用いて当該製造方法を行う製造装置と、これら製造技術により好適に製造することが可能な新規な複合微粒子とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーの微粒子(ナノ粒子)は、安定な単色蛍光粒子、磁性粒子等への単独利用の他にも、波長可変発光ダイオード、単一粒子トランジスタ、超高密度磁性記録媒体等のビルディングブロックとして注目を集めている。
【0003】
最近は、特に、技術の進歩とともに上記微粒子の応用も広がっており、その需要は増大してきている。これまで、上記微粒子の材質としては、金や白金、ニッケル等の金属;白金鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、セレン化カドミウム、硫化亜鉛等の化合物;等が報告されており、これら様々な材質からなる微粒子の合成方法(製造方法)も、均一沈殿法、水熱合成法、ホットソープ法等多岐にわたる。
【0004】
一方、本発明者等は、上記微粒子を合成する際の析出条件(反応条件)を良好に制御することが可能で、粒径(粒子径)の制御された微粒子を連続的に製造する技術を開発している(特許文献1参照)。この技術では、上記反応条件として、特に温度、濃度、滞在時間等の条件を正確に制御することが可能なマイクロ流路を有する反応器を用いている。
【0005】
さらに最近では、上記微粒子を複合化して複合微粒子を得る技術の開発も試みられている(例えば、非特許文献1参照)。微粒子を複合化することにより、当該微粒子が従来から有する特性を向上させること、および新しい機能を付与させることが可能となる。
【0006】
例えば、CdSeやInP等からなる微粒子に、それよりもバンドギャップが広いZnSの被覆を施して、ZnS被覆微粒子を得ることができる。このZnS被覆微粒子は、欠陥の多い微粒子表面にホールや電子が到達すること効果的に防ぎ、蛍光効率を効果的に向上させることができる。さらに、金(Au)微粒子にシリカの被覆を施して、シリカ被覆金微粒子を得ることができるが、この複合微粒子では、例えば、ゾルゲル法によりガラス中へ分散させることが非常に簡単になる。そのため、非線形光学材料の調製に大変有効となる。
【0007】
特に、ナノメートルオーダーの複合微粒子、特に上記のような被覆型複合微粒子を製造する場合には、生成した微粒子の粒径を制御するために、反応条件を制御することが必要となる。具体的には、原料および共存する界面活性剤等の有機分子の種類を適切に選択したり、反応温度および反応時間を変化させて、粒子の前駆体の分解速度を制御したりする例等が挙げられる。
【特許文献1】 特開2003−225900(平成15(2003)年8月12日公開)
【非特許文献1】 M.Azad Malik et al.,Chem.Mater.2002,14,2004−2010
しかしながら、反応条件を制御することにより複合微粒子の粒径を制御する技術では、粒径の良好な制御が困難となったり、得られる微粒子の品質が維持できない場合が生じたりする問題が生じる。
【0008】
具体的には、まず、被覆型複合微粒子を製造する場合、従来の製造装置を用いて反応条件を制御しようとしても、特に、反応温度および反応時間の精密な制御が困難となる。換言すれば、被覆量を精密に制御するためには、上記各反応条件の精密な制御が必要となるが、従来の製造装置では、これら反応条件を精密に制御することが困難となる。
【0009】
そこで、複合微粒子の製造において本来は短い反応時間で済む場合であっても、意図的に反応時間を長くする手法をとることが考えられる。これにより、上記反応条件をより制御しやすくすることが可能となる。
【0010】
しかしながら、そのために反応系を最適な状態から変更する必要がある場合もあるのみならず、反応時間を長くしすぎると、オストワルト熟成などのために、得られる複合微粒子の粒度分布が広がることがある。この粒度分布の広がりは、例えば、ZnS被覆CdSe微粒子の場合には、その粒径に依存する量子効果の程度の分布が広がることを示し、その蛍光スペクトルの広がりをもたらす可能性がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
それゆえ、反応条件、特に反応温度の維持時間、原料微粒子および複合用原料の濃度、原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内の滞留時間のより正確な制御が可能で、被覆量の制御された複合微粒子を連続的に製造する技術、さらには、特に半導体ナノ粒子を核とする複合蛍光ナノ粒子の場合には、被覆時間を短く抑え、特に被覆量分布を均一にすることで、被覆の際にもたらされる蛍光スペクトルの広がりをより簡単に抑える技術が求められていた。
【0012】
さらに、半導体ナノ粒子を核とする複合蛍光ナノ粒子以外の場合においても、たとえばシリカ被覆金粒子などの場合にその被覆層の厚みにより、その凝集体の表面プラズモン共鳴による吸収バンドが変化するなど、被覆層の厚さによってその特性が変化するということはしばしば見られる。したがって、複合微粒子の特性を制御する意味でも、均一に被覆を行うことが求められている。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、反応条件をより正確に制御し、被覆量分布の均一を図ることが可能であり、連続的に複合微粒子を製造することができる製造方法および製造装置、並びに、これら製造技術で製造することが可能な新規な複合微粒子の一例を提供することにある。
【発明の開示】
【0014】
本発明者等は、微粒子の製造方法について鋭意研究を続けた結果、マイクロ流路を用いると、温度制御、濃度制御、滞在時間制御をより正確に行うことができ、被覆量の制御された複合微粒子の連続製造が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明にかかる複合微粒子の製造方法は、複数の成分からなる複合微粒子の製造方法であって、1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子に複合用原料を混合した上で、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有するマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させて複合化する微粒子複合化工程を含み、上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、さらに、上記マイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いることを特徴としている。
【0016】
上記製造方法においては、上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることが好ましい。また、上記微粒子複合化工程では、原料微粒子および複合用原料の少なくとも一方を、溶媒に溶解または分散してなる溶液または分散液として用いることが好ましい。
【0017】
上記製造方法においては、さらに、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成する核微粒子合成工程を含み、上記核微粒子の粒径が1〜1000nmの範囲内となっていることが好ましく、1〜30nmの範囲内となっていることがより好ましい。このとき、上記核微粒子合成工程では、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記核微粒子を合成するとともに、上記微粒子複合化工程では、得られた核微粒子を原料微粒子として上記マイクロ流路内に連続的に供給することが好ましい。
【0018】
上記製造方法においては、上記反応条件として、反応温度およびその維持時間、原料微粒子および複合用原料の濃度、原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかを制御するようになっていればよい。
【0019】
上記製造方法においては、上記微粒子複合化工程では、複合用原料の混合を反応温度未満の温度で行うとともに、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させる段階では、0.001秒〜1時間の範囲内、より好ましくは0.01秒〜1分間の範囲内で反応温度まで加熱してもよいし、上記複合用原料の混合は、反応温度で行うとともに、上記複合用原料の溶液を加熱後、さらに0.00001秒〜1秒の範囲内で急速に混合を行い、反応中の濃度の不均一性を押さえてもよい。
【0020】
上記製造方法においては、上記複合用原料として、さらに、第n+1種目以上の成分を用いるとともに、各成分を逐次的に供給するように上記微粒子複合化工程を複数回繰り返すことが好ましい。あるいは、上記微粒子複合化工程では、複合用原料として、2種以上の成分を同時に供給してもよい。また、複数のマイクロ流路を並列させ、上記微粒子複合化工程を同時に行ってもよい。
【0021】
上記製造方法により複合微粒子が被覆型となっている。また得られる複合微粒子においては、原料微粒子および被覆層をCdSe,CdTe,CdS,PbS,PbTe,PbSe,ZnS,ZnSe,ZnTE,MgS,MgSe,MgTe等のII−VI型およびInP,InAs,InN,AlN,AlP,AlAs,GaP,GaAs,GaN等のIII−V型化合物半導体、AlGaInP,AlGaAs,InGaAsP,ZnMgCdSe等の化合物半導体、あるいはCuGaS2,CuInS2等の化合物半導体、Si,Ge等の半導体とすることも可能である。このとき、得られる複合微粒子は、蛍光スペクトル測定時に当該複合微粒子から発せられる蛍光の半値幅の増大が15%以下に抑えられ、その蛍光強度が向上されたものとなっていることが好ましい。
【0022】
上記製造方法においては、反応時の加熱時間を30分以内とすることが好ましく、15分以内とすることがより好ましく、2分以内とすることがさらに好ましい。また、複合用原料として、アルキルジセレノカルバメートまたはアルキルジチオカルバメートが用いられることが好ましい。
【0023】
本発明にかかる複合微粒子の製造装置は、複数の成分からなる複合微粒子を連続的に製造する製造装置であって、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつ、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を備える反応器と、1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子を溶媒に分散してなる微粒子分散溶液を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する原料微粒子供給手段と、上記原料微粒子に反応させて複合化するための複合用原料を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する複合用原料供給手段とを備えており、上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、上記マイクロ流路内に連続的に供給された上記原料微粒子および複合用原料との反応条件を制御することにより、複合微粒子を連続的に製造することを特徴としている。
【0024】
上記製造装置においては、上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることが好ましい。上記マイクロ流路としてキャピラリーチューブを用いることができ、このとき、上記キャピラリーチューブの管壁の厚さを10μm〜3mmの範囲内とすることができる。
【0025】
また、上記製造装置においては、上記原料微粒子供給手段は、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成して供給するようになっており、原料微粒子合成用のマイクロ流路を備える反応器と、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給する粒子形成用前駆体供給手段とを備えているとともに、粒子形成用前駆体の反応条件を制御することにより、粒径が1〜1000nmの範囲内となっている核微粒子を合成することが好ましい。
【0026】
さらに、上記製造装置においては、少なくとも、上記複合用原料供給手段の動作を制御する制御手段を備えていることが好ましく、上記複合用原料供給手段を複数備えており、それぞれの複合用原料供給手段から、異なる種類の成分を供給可能となっている場合には、上記制御手段は、上記各成分を逐次的に供給するように、それぞれの複合用原料供給手段の動作を制御することが好ましい。
【0027】
本発明にかかる複合微粒子は、上記複合微粒子の製造方法、上記複合微粒子の製造装置により製造され、核微粒子に1層以上の被覆層を形成してなる複合微粒子であればよい。特に、本発明にかかる代表的な複合微粒子としては、最大粒子径が1000nm以下であり、かつ、異なる半導体材料からなる層を複数積層した構造を有しており、さらに、上記複数の積層構造には、蛍光を発する半導体材料(バンドギャップの小さい半導体材料)からなる層を、その材料半導体材料よりもバンドギャップの大きい半導体材料(バンドギャップの大きい半導体材料)からなる層で挟持したサンドイッチ構造が含まれている複合微粒子を挙げることができる。
【0028】
上記複合微粒子としては、上記バンドギャップの大きい半導体材料およびバンドギャップの小さい半導体材料として、異なる種類のII−VI化合物半導体を用いることが好ましく、より具体的には、バンドギャップの大きい半導体材料として、ZnSを用いるとともに、バンドギャップの小さい半導体材料としてCdSeを用いる例を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0029】
上記複合微粒子においては、最大粒子径が20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。また、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層の厚みが2nm以下であることが好ましい。
【0030】
上記複合微粒子の製造方法としては、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつレイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いるとともに、バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子に、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料を混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、核微粒子にバンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程と、上記バンドギャップの小さい半導体材料からなる層が形成された被覆微粒子と、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料とを混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層に、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を積層する工程とを含む方法を挙げることができる。
【0031】
なお、上記製造方法においては、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程において、当該層の厚みを変化させるように反応条件を制御することが好ましい。
【0032】
本発明にかかる複合微粒子の製造方法および製造装置によれば、微粒子複合化工程にて用いるマイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いる。これにより、反応時間を意図的に長くすることなく複合化反応に伴う反応条件を良好に制御することができる。それ結果、核微粒子に被覆層を形成した被覆型のナノ複合微粒子を大量に製造することが可能となるという効果を奏する。また、反応条件の中でも、反応温度および滞留時間を制御することで、得られる複合微粒子の粒径を連続的に制御することが可能となるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明にかかる複合微粒子は、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層で、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を挟持したサンドイッチ構造が含まれている。そのため、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層の厚みを小さく制御して結晶性を向上させることが可能となる。その結果、これまで得られなかった高い量子収率を持つ青色の蛍光を発する複合微粒子を得ることが可能となるという効果を奏する。
【0034】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明にかかる複合微粒子の製造装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す製造装置のより具体的な一例であり、実施例で用いた製造装置を示す模式図である。
【図3】図1に示す製造装置の他の例を示すブロック図である。
【図4】図1に示す製造装置のさらに他の例を示すブロック図である。
【図5】本発明にかかる新規な複合微粒子の構造を模式的に示す部分断面図である。
【図6(a)】実施例8で得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子の透過電子顕微鏡(TEM)による観察結果を示す図であり
【図6(b)】図6(a)の部分拡大図である。
【図7】実施例7で得られたCdSe被覆ZnS微粒子(CdSe/ZnS構造を有するナノ粒子)と、実施例8で得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子との蛍光スペクトルを示す図である。
【図8】実施例9において、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子のCdSe層の厚みを変化させた場合の蛍光スペクトルの変化を示す図である。
【図9(a)】実施例10において、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子のCdSe層の厚みを変化させた場合の蛍光スペクトルの変化を示す図であり
【図9(b)】実施例10において、CdSe微粒子の直径を変化させた場合の蛍光スペクトルの変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
本実施の形態では、本発明で製造される複合微粒子およびその具体例(新規な複合微粒子)、本発明にかかる複合微粒子の製造方法、製造装置、並びに、具体的な実施例の順で、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明で製造される複合微粒子
本発明で製造される複合微粒子とは、複数の成分からなり、ナノメートルオーダーの粒径を有している微粒子(ナノ粒子)であれば特に限定されるものではないが、代表的なものとして、被覆型の複合微粒子を挙げることができる。ここでいう被覆型の複合微粒子とは、核となる微粒子(核微粒子)の表面に被覆層が1層以上積層されてなる構成を有しているものを指すものとする。
【0038】
本発明で製造される複合微粒子が被覆型である場合、被覆層は2層以上積層されていてもよいが、このとき積層される被覆層の順序やそれぞれの層の厚み等についても特に限定されるものではない。被覆層の積層順序や各層の厚みは複合微粒子の用途や発揮させる機能等に応じて適切な順序を設定すればよい。
【0039】
上記被覆型の微粒子における核微粒子の材質も、被覆層の成分も特に限定されるものではない。具体的には、例えば、チタニア(アナターゼ型等)、酸化亜鉛等の酸化物;セレン化カドミウム、硫化カドミウム、硫化亜鉛等のカルコゲナイト化合物;金、銀、白金、パラジウム、コバルト、ニッケル等の金属;シリコン、ゲルマニウム等の半金属(半導体);ポリスチレン等の高分子化合物;等を挙げることができる。例えば、後述する各実施例では、核微粒子の材質として、セレン化カドミウム、白金、金、ポリスチレンを用いており、被覆層の材質として、硫化亜鉛、マゲマイト、銀、チタニアを用いている。
【0040】
本発明では、後述するように、原料となる成分をリアクター(反応器)で反応させることにより複合微粒子を製造する。したがって、リアクターに供給される原料は上記材質そのものではなく、反応によって上記材質となるものであればよい。なお、本発明では、リアクターに供給される原料としては、被覆層を形成するための複合用原料が挙げられ、さらには、核微粒子を合成するための粒子形成用前駆体も挙げることができる。
【0041】
具体的には、例えば、上記複合用原料として、アルキルジセレノカルバメート塩またはアルキルジチオカルバメート塩、キサントゲン酸等のセレンや硫黄を含む単分子化合物を原料として用いることができる。これらの化合物には、ZnS被覆を行うための[(CH3)2NCSS]2Zn、[(C2H5)2NCSS]2Zn、C2H5ZnS2CN(C2H5)2、Cd[S2CNCH3(C6H5)]2、ZnSe被覆を行うためのZn[Se2CNCH3(C6H5)]2等を含み、これらの分子は加熱により分解して被覆層を形成することができる。
【0042】
本発明において、マイクロ流路内で行われる反応は特に限定されるものではなく、原料微粒子および複合用原料を、好ましくは溶液または分散液として供給し、加熱または混合により原料微粒子の表面に被覆層が被覆される反応であればよい。中でも、反応速度の大きな方法を用いた反応や、反応温度や複合用原料の濃度により被覆層の析出速度が大きく影響される反応が好ましい。
【0043】
反応速度の大きな方法としては、具体的には、例えば、ホットソープ法、均一沈殿法、アルコキシド加水分解法等を挙げることができる。また、温度・濃度による被覆層の析出速度が大きく影響される反応としては、具体的には、例えば、可溶性金属化合物溶液に還元剤を作用させて各種金属の被覆層を析出させる反応、水酸化カルシウム水溶液に炭酸を作用させて炭酸カルシウムの被覆層を析出させる反応、塩化カルシウム水溶液に硫酸水溶液を作用させて硫酸カルシウムの被覆層を析出させる反応、塩化カドミウム水溶液に硫化水素水溶液を作用させて硫化カドミウムの被覆層を析出させる反応、テトラアルコキシドケイ素を加熱分解して酸化ケイ素の被覆層を析出させる反応、水溶性カドミウム化合物水溶液に水溶性セレン化合物水溶液を作用させてセレン化カドミウムの被覆層を析出させる反応等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0044】
ここで、本発明により得られる複合微粒子においては、上記核微粒子および被覆層材料が半導体となっている場合には、蛍光材料として用いることができる。このとき、得られる複合微粒子は、蛍光スペクトル測定時に当該複合微粒子から発せられる蛍光の半値幅の増大が15%以下に抑えられ、その蛍光強度が向上されたものとなっている。
【0045】
この場合、得られる複合微粒子においては、原料微粒子はII−VI型化合物半導体となっていることが好ましく、被覆層はIII−V型化合物半導体となっていることが好ましい。II−VI型化合物半導体としては、CdSe,CdTe,CdS,PbS,PbTe,PbSe,ZnS,ZnSe,ZnTe,MgS,MgSe,MgTe等を挙げることができる。また、III−V型化合物半導体としては、InP,InAs,InN,AlN,AlP,AlAs,GaP,GaAs,GaN等、AlGaInP,AlGaAs,InGaAsP,ZnMgCdSe等の化合物半導体、あるいはCuGaS2,CuInS2等の化合物半導体、Si,Ge等の半導体、およびそれらにドーピングをほどこした半導体とすることも可能である。
【0046】
本発明では、後述する反応条件の制御のために反応時間を長くする必要がないため、オストワルト熟成等による複合微粒子の粒度分布の広がりを回避することができる。その結果、例えば、ZnS被覆CdSe微粒子の場合には、その粒径に依存する量子効果の程度の分布が広がることを回避することができ、蛍光スペクトルの広がりを抑制して蛍光強度を向上することができる。
【0047】
本発明により得られる複合微粒子の粒径は特に限定されるものではなく、原料および合成条件により適宜選択することができる。しかしながら、特に本発明では、粒径(最長径)が1μmを超えると、重力により複合微粒子がマイクロ流路内に沈降して当該マイクロ流路を閉塞しやすくなる。それゆえ、その粒径は1μm以下、すなわちナノメートルオーダーであればよい。なお、ここでいう最長径とは、複合微粒子の最長部における平均の大きさを指す。
【0048】
なお、本発明で得られる複合微粒子は、必ずしも被覆型に限定されるものではなく、他の構成であってもよいことはいうまでもない。複合微粒子のタイプは、反応の種類や原料の種類、供給方法等を適宜選択することにより設定することが可能である。したがって、上記複合用原料としては、被覆用の成分でなくてもよく、核微粒子等の原料微粒子に反応させて複合化するための原料であればよい。
(2)本発明にかかる複合微粒子の具体例
本発明にかかる複合微粒子のより具体的な例としては、後述する実施例に示すように、ZnS被覆CdSe微粒子(実施例1〜3参照)、マゲマイト被覆白金微粒子(実施例4参照)、銀被覆金微粒子(実施例5参照)、TiO2被覆ポリスチレン粒子(実施例6参照)、CdSe被覆ZnS微粒子(実施例7参照)、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子(実施例8〜10参照)等を挙げることができる。
【0049】
これらの中でも、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子は、CdSeを発光部として青色の蛍光を発する微粒子とすることができる新規かつ有用なナノ粒子である。
【0050】
これまでは、ナノレベルのCdSe微粒子(CdSeナノ粒子)の合成を行うことが可能であっても、その径が2nm以下になるとCdSeナノ粒子の結晶性が低下する。そのため、高い量子収率を持つ青色の蛍光(蛍光波長<〜480nm)を発するCdSeナノ粒子を得ることは困難であった。また、CdSeなの粒子は、その製造時間が非常に短いために粒子径を適切に制御することも困難であった。
【0051】
本発明者は、この点を鑑み鋭意検討した結果、CdSeよりもバンドギャップの大きいZnSからなる層でCdSeからなる層をサンドイッチする構造(ZnS/CdSe/ZnS構造)を採用することで、実際に発光するCdSeを挟み込んだ構造の複合微粒子を得ることに成功した(実施例8〜10参照)。
【0052】
つまり、本発明にかかる複合微粒子としては、異なる半導体材料からなる層を複数積層した構造を有するナノ粒子であって、当該複数の積層構造には、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層(説明の便宜上、ギャップ大材料層と称する)で、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層(説明の便宜上、ギャップ小材料層と称する)を挟持したサンドイッチ構造が含まれているものを挙げることができる。
【0053】
従来の製造方法であれば、粒径を適切に制御することが困難である上に、複合微粒子の製造も容易ではなかったが、本発明では、反応条件をより正確に制御し、被覆量分布の均一を図ることが可能であるため、サンドイッチ構造を容易に形成できるとともに、各層の厚みも容易に制御することができる。それゆえ、実施例8に示す新規な複合微粒子を得ることができるだけでなく、実施例9または10に示すように、反応条件を制御することによって、複合微粒子が有する蛍光等の機能も制御することができる。
【0054】
このような複合微粒子に含まれるサンドイッチ構造は特に限定されるものではないが、上記バンドギャップの大きい半導体材料およびバンドギャップの小さい半導体材料として、異なる種類のII−VI化合物半導体を用いることができる。より具体的には、バンドギャップの大きい半導体材料として上記ZnSが好適に用いられ、バンドギャップの小さい半導体材料として上記CdSeが好適に用いられるが、特に限定されるものではない。
【0055】
上記サンドイッチ構造の具体的な構成は特に限定されるものではなく、図5に示すように、ギャップ大材料層51およびギャップ大材料層52と、その間に挟持されるギャップ小材料層53とを有する構成であればよい。後述する実施例8〜10では、核微粒子としてバンドギャップの大きい半導体材料からなる微粒子(ZnS微粒子)を用い、これにギャップ小材料層(CdSe層)を積層し、さらにその上にギャップ代材料層(ZnS層)を積層した構成、すなわち核微粒子から見て2層を積層した構成となっているが、これに限定されるものではなく、他の材料からなる核微粒子にギャップ大材料層を積層し、その上にギャップ小材料層を積層し、さらにその上にギャップ大材料層を積層した構成、すなわち核微粒子から見て3層を積層した構成となっていてもよいし、さらに他の層を有する構成であってもよい。
【0056】
上記サンドイッチ構造を有する複合微粒子における最大粒子径は1000nm以下、すなわち1μm以下のナノオーダーであれば特に限定されるものではないが、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0057】
最大粒子径を20nm以下とすれば、ギャップ小材料層(例えば、CdSe層)の厚みを2nm以下、より好ましくは1nm程度とすることが可能になる。そのため、バンドギャップの小さい半導体材料の結晶性を向上させ、高い量子収率を持つ青色の蛍光(蛍光波長<〜480nm)を得やすくすることができる。
【0058】
上記サンドイッチ構造の複合微粒子は、後述する製造方法または製造装置により好適に製造することができる。具体的には、上記複合微粒子の製造方法では、ギャップ大材料層により、ギャップ小材料層が挟持されるように製造すればよいが、実施例8〜10等に示すように、バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子にギャップ小材料層を形成し、さらにギャップ大材料層を形成する手法が好ましい。
【0059】
すなわち、ギャップ小材料層を形成する工程では、バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子に、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料を混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御する。ギャップ大材料層を形成する工程では、上記バンドギャップの小さい半導体材料からなる層が形成された被覆微粒子と、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料とを混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御する。
【0060】
ここで、ギャップ小材料層を形成する工程において、当該層の厚み(図5のT)を変化させるように反応条件を制御すれば、得られる複合微粒子において、蛍光波長を制御することが可能となる。反応条件の制御については後述する。
(3)複合微粒子の製造方法
本発明にかかる複合微粒子の製造方法は、上記複合微粒子を製造する方法であって、少なくとも微粒子複合化工程を含み、さらに好ましくは、原料微粒子合成工程を含んでいる。
【0061】
<微粒子複合化工程>
上記微粒子複合化工程は、原料微粒子と複合用原料とを混合させた後に反応させて複合化する工程であれば特に限定されるものではないが、後述するように、反応に用いるマイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いる。
【0062】
上記原料微粒子とは、1〜1000nmの範囲内の粒径を有し、その表面に被覆層が形成される微粒子を指し、具体的には、上記(1)で説明した核微粒子を挙げることができ、さらには、複合微粒子を挙げることができる。
【0063】
換言すれば、すなわち、微粒子複合化工程においては、製造しようとする複合微粒子がn成分(ただし、nは2以上の整数)からなっている場合には、原料微粒子として、n−1種の成分からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用いるようになっていればよい。n=2の場合には、原料微粒子の成分は1種のみであるので、上記核微粒子に相当し、n>3の場合には、原料微粒子の成分は2種以上となるので、複合微粒子に相当する。
【0064】
それゆえ、微粒子複合化工程では、核微粒子に1層の被覆層を形成するようになっていてもよいし、1層以上の被覆層が形成された複合微粒子を上記原料微粒子として用い、これに対してさらに被覆層を形成するようになっていてもよい。
【0065】
この原料微粒子および複合用原料の少なくとも一方は、溶媒に溶解または分散してなる溶液または分散液として用いられることが好ましい。これにより、それぞれの原料をマイクロ流路に対して連続的に供給することができるとともに、核原料の混合も効率的かつ円滑に行うことができる。ここで用いられる溶媒は特に限定されるものではなく、複合化反応に好適な公知の溶媒を適宜選択すればよい。具体的には、例えば、水または水溶液;ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の非極性有機溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性有機溶媒を挙げることができるが特に限定されるものではない。これら溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明では、微粒子複合化工程は1回のみ行ってもよいが、複数回行ってもよい。すなわち、微粒子複合化工程においては、n−1種の成分からなる原料微粒子に対して、第n種目の成分を複合用原料として用いて複合微粒子を合成した後に、さらにこの複合微粒子を原料微粒子として、複合用原料として、第n+1種目以上の成分を用いてもよい。このとき、第n+1種目以上の各成分は、逐次的に供給するように上記微粒子複合化工程を複数回繰り返せばよい。これによって、3層以上の多層構造を有する複合微粒子を連続的に製造することができる。
【0067】
さらに本発明では、微粒子複合化工程において、複合用原料として、2種以上の成分を同時に供給してもよい。この場合、複数種の成分を同時に添加して被覆層を形成することができるので、複合微粒子の種類によっては、その特性をより好ましいものに制御することが可能となる。
【0068】
原料微粒子と複合用原料との混合の手法は特に限定されるものではなく、複合化の前段で混合を完了していればよい。したがって、原料微粒子分散液と複合用原料の溶液とを混合した混合溶液を調製して用いてもよいし、後述する製造装置のように、原料微粒子を供給する手段および複合用原料を供給する手段とを混合手段を介して接続し、連続的に混合しながら複合化を行ってもよい。
【0069】
<マイクロ流路>
上記微粒子複合化工程にて用いられるマイクロ流路は、リアクターの主要構成要素であり、リアクターそのものであると見なすこともできる。このマイクロ流路は、流体の流れが層流を保つものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、その直径が1〜5000μm、さらに好ましくは50〜1000μmの範囲内となっている。
【0070】
マイクロ流路の直径を小さくすると、表面積に対するマイクロ流路の容量が小さく、また、チャネル自身の代表長さも小さくなる。そのため、複合微粒子を合成する際の反応条件を正確に制御することができる。例えば、小さい熱容量に由来する反応温度の制御の正確さ、短い拡散距離に依存する原料濃度の制御の正確さを非常に優れたものとすることができる。
【0071】
このように、マイクロ流路の直径を1〜5000μmの範囲内とすることにより、上記反応条件の制御を優れたものとできることから、反応時間を短くしても複合微粒子を合成することが可能となる。そのため、マイクロ流路を用いて複合微粒子を製造する際に、その生産性を向上させることができる。
【0072】
ただし、マイクロ流路の直径を1μm未満とすると、合成時のマイクロ流路内での圧力損失が大きくなる。そのため、複合微粒子の生産性が低下し、また合成に関する操作も困難となる。一方、複合化反応を加熱により行う場合には、マイクロ流路の直径を5000μm超とすると、マイクロ流路の容量(体積)に対するマイクロ流路の表面積が小さくなる。それゆえ、反応温度の正確な制御が困難となる。それゆえ、マイクロ流路の直径は1〜5000μmの範囲内であることが好ましい。
【0073】
また、上記マイクロ流路においては、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されている。マイクロ流路のレイノルズ数を1未満とすると、実質的な生産条件としては生産量が少なすぎる。それゆえレイノルズ数の下限は1以上が好ましい。これに対して、レイノルズ数を4000超とすると、乱流によるバックミキシングが生じやすくなり、反応時間がばらつくので、第n種目の複合用原料の添加量分布にばらつきが生じやすくなる。それゆえ、レイノルズ数の上限は4000以下とすることが好ましく、2100以下とすることがより好ましい。
【0074】
マイクロ流路の具体的な構成は、上記直径およびレイノルズ数以外特に限定されるものではない。例えば、マイクロ流路の長さとしては、1cm〜100mの範囲内、さらに好ましくは4cm〜30mの範囲内であれば、反応条件がより制御しやすくなるが特に限定されるものではない。
【0075】
上記マイクロ流路としては、マイクロキャピラリーを用いることができる。この場合は、当該マイクロキャピラリーの壁、すなわちキャピラリーチューブの管壁の厚さは薄い方が好ましい。具体的には、例えば、10μm〜3mmの範囲内のものを望ましく用いることができるが特に限定されるものではない。上記管壁が上記の範囲内であれば、温度制御をより精密とすることができる。
【0076】
また、マイクロ流路となる具体的な部材の構成や材質も特に限定されるものではない。例えば、キャピラリーチューブをマイクロ流路として用いる場合、このキャピラリーチューブの材質としては、特に限定されるものではなく、各種ガラス;各種金属(合金を含む);ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂等の樹脂類;等を挙げることができる。
【0077】
あるいは、耐熱性基板上に耐熱性層を設け、この耐熱性層に溝を形成することにより、この溝をマイクロ流路として用いることができる。このときの耐熱性基板の材質としては、金属(合金を含む)を挙げることができ、耐熱性層としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物;フッ素樹脂、ポリイミド等の耐熱性樹脂;等を挙げることができる。
【0078】
<反応条件の制御>
本発明にかかる複合微粒子の製造方法においては、上記微粒子複合化工程にて、反応条件を良好に制御することができる。このときの具体的な反応条件としては、(i)反応温度およびその維持時間、(ii)原料微粒子および複合用原料(まとめて原料と称する)の濃度、(iii)原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかが挙げられる。これら反応条件の制御に関して具体的に説明する。
【0079】
最初に、(i)反応温度およびその維持時間について説明する。反応温度そのものについては、原料の種類および用いる反応の種類によって適宜設定することができる。また、反応温度の維持時間については、複合用原料を混合する温度により二つの状況が存在する。第1の状況は、複合用原料の混合を反応温度未満の温度で行う場合である。このとき、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させる段階では、0.001秒〜1時間の範囲内で反応温度まで加熱すればよい。また、加熱の間に温度制御を行うことも可能である。第2の状況は、複合用原料の混合は、反応温度で行う場合である。上記第2の状況では、複合用原料の溶液を加熱した後、さらに0.00001秒〜1分の範囲内で混合すればよい。なお、この第2の状況については、後述するように(ii)原料の濃度という反応条件にも分類することができる。
【0080】
上記何れの状況であっても、反応温度の維持時間を幅広い時間とすることができるので、得られる複合微粒子において、被覆層の厚みを良好に制御することができる。
【0081】
ここで、オストワルト熟成による複合微粒子の粒度分布の広がりを回避するため、および生産性の向上のためには、反応時間は短いことが好ましいので、反応時の加熱時間(反応温度の維持時間)を30分以内とすることが好ましく、15分以内とすることがより好ましく、2分以内とすることがさらに好ましい。
【0082】
次に、(ii)原料の濃度について説明する。濃度についても原料、用いる反応の種類、リアクターの形状、及び温度によって適宜設定することができる。濃度が高すぎると溶液の粘度が上昇し、リアクター内での大きな圧力損失につながる。一方、濃度が低いと生成物の収量が低下したり、反応速度が低下して反応時間が長くかかったりすることがあるために、望ましくない。このため原料の濃度は、0.0001vol%〜30vol%の範囲内とすることが望ましく、0.01vol%〜5vol%の範囲内とすることがより望ましい。
【0083】
また、混合の際に原料の濃度の不均一性を抑制することは、被覆の均一性をもたらす上で非常に重要なことである。この場合、混合速度は析出速度と比較して十分に早ければ問題はないが、0.00001秒〜1分の範囲内で混合を行うことが好ましい。0.00001秒以下の混合速度では現段階の技術では混合が難しく、1分以上の混合時間ですむものについては、バッチ式のものと大きな違いが得られないからである。
【0084】
換言すれば、上記混合時間の制御は、上記(i)反応温度およびその維持時間の第2の状況であるということもできる。すなわち、上記第2の状況は、反応温度まで加熱した後に混合すると、その混合時間が問題になってくるため、単純に反応温度および維持時間だけの問題ではなく、上記のように原料の濃度の制御に大きく関与する。したがって、第2の状況は、反応条件としては上記(i)の条件に分類できるとともに(ii)の条件としても分類することができる。
【0085】
次に、(iii)原料のマイクロ流路内の滞留時間について説明する。マイクロ流路は細長い構造であるために、流速分布による滞留時間分布が生じる。ここで、原料微粒子の相と複合用原料の相という二つの相からなる界面で粒子を合成させる場合には、速度分布による滞留時間を抑えることが可能である。上記二つの相の割合はその流速を変化させることにより自由に変えることができる。二相界面を用いる方法を用いるか否かについては、目的とする粒子の粒度分布および生産性により適宜選択することができる。
【0086】
また、流路中に気体等を適宜混入させ、反応溶液をセグメント化させることにより流速分布による滞留時間分布を抑えることができる。混入させる物質の種類は反応系により適宜選択することができ、特に限定されるものではない。例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス;空気、酸素等の酸化性ガス;水素、アンモニア等の還元性ガス;等を挙げることができる。
【0087】
さらに混入させる物質としては、反応溶液と均一に混合しない液体も用いることができる。例えば、反応溶液が水溶性の場合は、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等の非極性溶媒を、反応溶液が油溶性の場合には、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を用いることができる。
【0088】
<核微粒子合成工程>
本発明にかかる複合微粒子の製造方法においては、上記微粒子複合化工程の前段で、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成する核微粒子合成工程を行ってもよい。すなわち、本発明では、すでに製造された核微粒子を原料微粒子として用いてもよいし、一連の製造過程において核微粒子そのものを製造する工程を含んでいてもよい。
【0089】
核微粒子合成工程は、第1種目の成分を用いて核微粒子を合成するようになっていればよく、特に限定されるものではないが、上記微粒子複合化工程と同様に、マイクロ流路を用いた手法で好適に製造することができる。
【0090】
すなわち、まず、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、原料微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給する。そして、微粒子複合化工程と同様に反応条件を制御することにより、上記核微粒子を合成する。得られた核微粒子は、原料微粒子として微粒子複合用のマイクロ流路内に連続的に供給されることになる。この核微粒子合成工程に用いられるより具体的な技術としては、例えば、背景技術にて述べたように、本発明者らにより提案されている特許文献1に開示されている技術を好適に用いることができる。
【0091】
ここで、上記粒子形成用前駆体としては特に限定されるものではなく、前記(1)にて述べたように、核微粒子として用いる材質そのものではなく、反応によって上記材質となるものを用いればよい。したがって、核微粒子を合成する反応も特に限定されるものではなく、特許文献1に開示されている反応や前記(1)にて述べた反応等を利用すればよい。また、形成される核微粒子の粒径も特に限定されるものではないが、1〜100nmの範囲内となっていることが好ましい。これによって、得られる複合微粒子の粒径を上述した好ましい範囲内とすることができる。
(4)複合微粒子の製造装置
本発明にかかる複合微粒子の製造装置は、上記複合微粒子を製造する装置であって、より好ましくは、上記複合微粒子の製造方法を行う装置である。本発明にかかる製造装置の代表的な一例としては、図1に示すように、核微粒子供給部(原料微粒子供給手段)11、第2相原料溶液供給部(複合用原料供給手段)12、複合化用リアクター(反応器)13を少なくとも備えている構成を挙げることができる。この製造装置においては、さらに、制御部(制御手段)14および回収容器(複合微粒子回収手段)15を備えていることが好ましい。なお、核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12、複合化用リアクター13および回収容器15は配管16により接続され、原料や微粒子を輸送できるようになっている。
【0092】
<核微粒子供給部>
上記核微粒子供給部11は、本実施の形態では、上記核微粒子を溶媒に分散してなる核微粒子分散液を、複合化用リアクター13が備えるマイクロ流路31に連続的に供給するようになっている。核微粒子供給部11のより具体的な構成は特に限定されるものではないが、一般的なポンプを用いることができ、中でも、例えば、シリンジポンプや無脈動ポンプ等、脈動の少ないポンプを用いることが望ましい。
【0093】
上記核微粒子供給部11は、原料微粒子を供給できる構成となっていればよいので、すでに合成(製造)された核微粒子をマイクロ流路31に供給する構成であればよいが、この構成に限定されるものではなく、図2に示すように、核微粒子を合成して供給する構成となっていてもよい。
【0094】
この例では、核微粒子供給部11はシリンジポンプ21および核微粒子合成用リアクター22から構成されている。核微粒子合成用リアクター22は核微粒子合成用のマイクロ流路31を備えている。したがって、上記シリンジポンプ21は、核微粒子の原料(第1種目の成分)としての粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用リアクター22に連続的に供給する粒子形成用前駆体供給手段として機能することになる。核微粒子合成用リアクター22は、後述する複合化用リアクター13と同様にマイクロ流路34を備える構成となっている。その他構成も複合化用リアクター13と同様であるため、具体的な説明は省略する。
【0095】
図1および図2に示す例では、原料微粒子供給手段として核微粒子供給部11を用いているが、本発明はもちろんこれに限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、複合微粒子を原料微粒子として供給する複合微粒子供給部41を用いてもよい。この複合微粒子供給部41は、核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12および複合化用リアクター13aからなっており、第3相原料溶液供給部42および複合化用リアクター13bと配管16により接続されているが、もちろんこの構成に限定されるものではなく、すでに合成(製造)された複合微粒子を供給するだけの構成(例えば、図2に示すシリンジポンプ21のみの構成)であってもよい。
【0096】
本発明にかかる製造装置では、1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子を溶媒に分散してなる微粒子分散溶液を、マイクロ流路31に対して連続的に供給できる原料微粒子供給手段が設けられていればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0097】
<第2相原料溶液供給部>
上記第2相原料溶液供給部12は、第1種目の成分からなる核微粒子の表面に第2種目の成分からなる被覆層を形成するため、溶液状の複合用原料をマイクロ流路31に対して連続的に供給するようになっている。第2相原料溶液供給部12のより具体的な構成は特に限定されるものではなく、核微粒子供給部11と同様、一般的なポンプを用いることができ、中でも、例えば、図2に示すようなシリンジポンプ23や、無脈動ポンプ等、脈動の少ないポンプを用いることが望ましい。
【0098】
本発明にかかる製造装置においては、複合用原料を供給する手段は、第2相原料溶液供給部12以外にも複数設けられていてもよい。例えば、図3に示すように、核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12および複合化用リアクター13aからなる複合微粒子供給部41が設けられている場合には、第3相原料溶液供給部42を設ければよい。このように、複数成分(例えばn成分、ただしn>2)からなる複合微粒子を製造する場合には、n−1個の複合用原料供給手段を設ければよい。
【0099】
上記第2相原料溶液供給部12や第3相原料溶液供給部42等は、制御部14によりその動作が制御されてもよいし、制御部14による制御はなくてもよい(制御部14そのものが設けられていなくてもよい)。この動作制御に関しては、制御部14の詳細とともに説明する。
【0100】
マイクロ流路31における反応時間および原料濃度の均一性を保つために、特に反応温度に加熱後に原料溶液を混合する場合は、原料微粒子および複合用原料の添加はできる限り急速かつ均一に行う必要がある。それゆえ、例えば、図2に示すように、核微粒子供給部11および第2相原料溶液供給部12の間の配管16に混合器17を設けてもよい。この混合器17のより具体的な構成としては特に限定されるものではないが、混合体積の小さいマイクロミキサー、ミキシングチューブ、超音波を利用する混合機等を用いることができる。
【0101】
なお、前記(3)の<微粒子複合化工程>で述べたように、本発明では、原料微粒子分散液と複合用原料の溶液とを予め混合した混合溶液を用いてもよいので、例えば、一つのシリンジポンプに上記混合溶液を充填して用いてもよい。すなわち、原料微粒子供給手段および複合用原料供給手段は、一つの供給手段として併用されてもよい。
【0102】
同様に、前記(3)の<微粒子複合化工程>で述べたように、複合用原料として2種以上の成分が供給されてもよい。この場合、第2相原料溶液供給部12から2種類以上の成分を供給してもよいし、第2相原料溶液供給部12を複数もうけて、それぞれから単独の成分を供給し、例えば混合器17等の混合手段で混合してマイクロ流路31に供給してもよい。
【0103】
<リアクター>
上記複合化用リアクター13は、1μm〜1mmの範囲内の直径を有し、かつ、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路31を備えていればよい。このとき、上記マイクロ流路31の直径は、前記(1)で説明したように1〜5000μmの範囲内となっていることが好ましい。その他、マイクロ流路31(またはマイクロ流路34)の具体的な構成については、前記(1)にて説明したので省略する。
【0104】
上記複合化用リアクター13のより具体的な構成は特に限定されるものではなく、例えば、特許文献1に開示されている構成等を挙げることができるが、特に本実施の形態では、図1に示すように、加熱部(加熱手段)32および冷却部(冷却手段)33の少なくとも一方を備える構成となっている。これら加熱部32および冷却部33は、第2相原料溶液供給部12と同様に制御部14により動作が制御されることが好ましい。
【0105】
マイクロ流路31内では複合化反応が行われるが、より高品質の複合微粒子を得るためには、反応時間や反応温度の均一性を維持する必要がある。それゆえ、複合化用リアクター13においては、反応混合物(複合用原料および原料微粒子の混合物)の加熱をできるだけ急速かつ均一に行う必要がある。それゆえ、加熱部32を設けることが好ましく、その動作を制御部14により動作制御することが好ましい。
【0106】
加熱部32の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、オイルバス、ヒーティングブロック、電気炉、赤外線加熱装置、レーザー光線、キセノンランプ等、一般的な加熱装置を好適に用いることができる。
【0107】
また、加熱部32による加熱後の冷却は自然放冷であってもよい(冷却部33を設けなくてもよい)が、何らかの冷却部33を設け、好ましくは制御部14により動作制御することで、反応時間および反応温度をより均一に制御することが可能となる。冷却部33の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、空冷、水冷、油冷装置等、一般的な冷却装置を好適に用いることができる。
【0108】
さらに、上記加熱部32および冷却部33としては、マイクロ流路31内を部分的に加熱および冷却できる構成のものを用いてもよい。具体的には、例えば、小型の発熱素子、ペルチェ素子等を流路の周りに配置したり、外部から電磁波を照射したりする構成を挙げることができる。
【0109】
なお、前記核微粒子合成用リアクター22は、原料微粒子合成用のマイクロ流路34を備えている構成であり、例えば、特許文献1に開示されている構成等を挙げることができるが、基本的な構成は、上記複合化用リアクター13と同様である。
【0110】
上記複合化用リアクター13としては、最終的に得ようとする複合微粒子の成分種に応じて、複合用原料供給手段(第n相原料溶液供給部)と同様に、複数設けることができる。例えば、図3に示す例では、前述したように、核微粒子(第1種目の成分)、第2相原料溶液(第2種目の成分)、第3相原料溶液(第3種目の成分)を供給するようになっているので、被覆層を形成する段階ごとに、複合化用リアクター13a・13bを設ければよい。
【0111】
さらに、複合微粒子を大量に製造したい場合には、図4に示すように、複数のマイクロ流路31を並列させた複合化用リアクター43を用いることもできる。これによって、微粒子複合化工程を同時並行して行うことができるので、複合微粒子の単位時間当たりの生産量を増加することが可能になり、複合微粒子を大量に製造することが可能となる。この際、核微粒子供給部11および第n相原料溶液供給部は、何れも一つである必要はなく、必要に応じてその数を適宜定めることができる。また、核微粒子供給部11および複合用原料供給手段をそれぞれ備える複合化用リアクター13を束ねて用いることも可能である。
【0112】
<制御部>
本発明にかかる製造装置には、少なくとも、第2相原料溶液供給部(複合用原料供給手段)の動作を制御する制御部14が設けられていることが好ましい。この制御部14は、図1に示すように、加熱部32や冷却部33等の温度制御手段の動作を制御するようになっていることがより好ましい。制御部14の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、本発明にかかる製造装置が一つの筐体にまとめられている場合等では、公知のマイクロプロセッサを用いることができる。また、様々な装置を組み合わせた製造システムとなっている場合には、パーソナルコンピュータに適切なプログラムをインストールすることで制御部14として用いることができる。また、後述する回収容器(回収手段)において、生じた生成物(複合微粒子)の特性を測定し、それを制御部14にフィードバックする構成を採用してもよい。
【0113】
上記(3)の<反応条件の制御>で説明したように、本発明では、微粒子複合化工程にて、反応条件を良好に制御することができ、このときの具体的な反応条件としては、(i)反応温度およびその維持時間、(ii)原料微粒子および複合用原料の濃度、(iii)原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかを挙げることができる。
【0114】
このうち、(i)反応温度およびその維持時間の制御については、加熱部32や冷却部33の動作を制御することにより実現することが可能となる。また、(ii)原料微粒子および複合用原料の濃度、並びに(iii)マイクロ流路内における滞留時間の制御については、第2相原料溶液供給部(複合用原料供給手段)の動作を制御することにより実現することができる。このときの制御の具体的な手法は特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて、適切なタイミングや適切な動作レベルで上記各手段の動作を制御するようになっていればよい。
【0115】
また、例えば、図3に示すような複合用原料供給手段を複数備えている場合では、それぞれの複合用原料供給手段(第2相原料溶液供給部12および第3相原料供給部42)から、各成分を供給するときに、図3には図示しない制御部14によって、上記各成分を逐次的に供給するように、それぞれの複合用原料供給手段の動作を制御するようになっていればよい。
【0116】
<回収容器・配管>
本発明にかかる製造装置は、得られる複合微粒子を回収する回収容器(回収手段)15が設けられていることが好ましい。この回収容器15としては具体的に特に限定されるものではなく、製造された複合微粒子を適切に回収できる手段であればよい。例えば、本実施の形態では、反応溶液に侵されない材質の容器(雰囲気調整が行える容器が望ましい)を捕集器として用いることができる。
【0117】
上記核微粒子供給部11、第2相原料溶液供給部12、複合化用リアクター13、回収容器15は、何れも配管16により接続され、原料や微粒子を輸送できるようになっている。配管16の具体的な構成は特に限定されるものではなく、複合微粒子の輸送を妨げないような構造を有するものであればよい。例えば、本実施の形態では、マイクロ流路31として用いられるキャピラリーチューブそのものを配管16として用いることができる。
(5)実施例
以下に、本発明の一実施例を詳細に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1:ZnS被覆CdSe微粒子の合成例1〕
5mlのオクタデセンに、165μlのオクチルアミン、26.6mgの酢酸カドミウムを添加した溶液(粒子形成用前駆体溶液1)と、25mlのトリオクチルホスフィン(TOP)に494μlのセレンを溶解させた溶液(粒子形成用前駆体溶液2)とを1:1で混合し、シリンジポンプに充填して275℃に加熱したキャピラリー(原料合成用リアクターのマイクロ流路)中を通過させた。これにより、核微粒子としてのCdSe微粒子溶液(微粒子の平均粒径が3nm)を得た。
【0118】
また、[(CH3)2NCSS]2ZnをTOPに溶解させた溶液(複合用原料溶液または第2相原料溶液)をシリンジポンプに充填し、上記CdSe微粒子溶液(原料微粒子分散液)に対して1:1(50vol%:50vol%)となるように混合器で混合し、その混合溶液を、予め180℃に加熱した内径0.2mmのキャピラリー(複合化用リアクターのマイクロ流路)に通過させた。得られたZnS被覆CdSe微粒子(複合微粒子)を回収容器に回収した。
【0119】
流速を変化させることにより加熱時間を変化させて複数種類の複合微粒子のサンプルを得た。得られた複合微粒子において、加熱時間に対するUVピーク位置、半値幅、量子収率の結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
ZnS被覆CdSe微粒子においては、ZnS被覆後の加熱時間を秒単位で変化させることにより、蛍光ピークはその強度を増し、半値幅を保ったままその位置を長波長側にシフトすることが分かっている。このシフト量は、ZnS被覆層の厚さに依存する(文献I:Xiaogana Peng et al.,J.Am.Chem.Soc.,1997,119,7019−7029参照)。一方で、蛍光スペクトルの半値幅は35nmと一定である。被覆量分布が生じると蛍光スペクトルの半値幅が広がると予想されるため、この結果は、被覆量分布に広がりがないことを示す。
【0121】
本実施例で得られたZnS被覆CdSe微粒子においては、表1に示すように、最も高い蛍光を示したサンプルの量子収率は約70%で、その際の蛍光スペクトルの半値幅は35nmであった。被覆量分布によるピーク位置シフトのばらつきを防ぐために、シビアな反応条件制御が必要な粒径であるにもかかわらず、本発明にかかる製造方法および製造装置を用いると、高性能の複合粒子が連続的に得られることが分かる。
〔実施例2:ZnS被覆CdSe微粒子の合成例2〕
図2に示す構成を有する複合微粒子の製造装置を用いてZnS被覆CdSe微粒子の製造を行った。
【0122】
それぞれ20gのステアリン酸、トリオクチルホスフィンオキサイドおよびトリオクチルホスフィンと、266mgの酢酸カドミウムと、494mgのセレンとを溶解させたCdSe微粒子原料溶液(粒子形成用前駆体溶液)を調製し、図2に示すシリンジポンプ21に充填した。一方で、ジメチルカドミウム0.4mmolとビストリメチルシリルスルフィド0.51mmolとを、TOP3gと混合したZnS被覆原料溶液(複合用原料溶液または第2相原料溶液)をシリンジポンプ23に充填した。
【0123】
上記シリンジポンプ21からCdSe微粒子原料溶液をキャピラリー(原料合成用リアクター22のマイクロ流路34)に押し出し、300℃に設定した原料合成用リアクター22にて微粒子を合成させた後に、混合器17を用いて上記シリンジポンプ23から0.1ml/minの条件で押し出された被覆原料溶液と混合し、再度240℃に設定した複合化用リアクター13にてZnSの被覆を行った。
【0124】
これにより、量子収率70%、最大蛍光波長550nm(粒径3.5nm)、蛍光半値幅38nmのZnS被覆CdSe微粒子を合成することができた。
〔実施例3:ZnS被覆CdSe微粒子の合成例3〕
原料溶液を加熱後にマイクロ混合機を用いて急速に混合する方法でZnS被覆CdSe微粒子の製造を行った。
【0125】
実施例2と同じ要領でCdSe微粒子溶液を調整し、それに、ジメチルカドミウム0.4mmolを溶解して、シリンジポンプに充填した。一方、ビストリメチルシリルスルフィド0.51mmolを、TOP3gと混合した被覆原料溶液(複合用原料溶液または第2相原料溶液)をシリンジポンプ23に充填した。両溶液を240℃に加熱したマイクロ流路を通過させることで、240℃まで過熱した後、マイクロ混合器(混合時間を調べたところ、0.05秒で完全混合がなされている)を用いて混合し、その後さらにマイクロ流路を通過させながら7秒間加熱を保持した後、室温に設定されたマイクロ流路を通過させることにより室温まで冷却した。
【0126】
これにより、量子収率65%、最大蛍光波長545nm(粒径3.4nm)、蛍光半値幅37nmのZnS被覆CdSe微粒子を合成することができた。
〔実施例4:マゲマイト被覆白金微粒子の合成例〕
2gの1,2−ヘキサデカノール、0.4mLのオレイン酸および0.4mLのオレイルアミンを15mLのオクチルエーテルに溶解した溶液を290℃まで加熱し、1gの白金アセチルアセトネートを10mLのオクチルエーテルに溶解した溶液を過熱してマイクロミキサーを用いて添加し、白金コロイド(核微粒子)の溶液を得た。
【0127】
この溶液を室温まで冷却し、0.1gの鉄ペンタカルボニルを添加した後に、よく混合してシリンジポンプに充填し、あらかじめ300℃に加熱した内径0.2mmのキャピラリー(複合化用リアクターのマイクロ流路)に通過させた。マゲマイト被覆白金微粒子(複合微粒子)を回収容器に回収した。
【0128】
流速を変化させることにより加熱時間を変化させて複数種類の複合微粒子のサンプルを得た。得られた各サンプルの平均粒径と加熱時間との関係を表2に示す。この結果から明らかなように、本発明を用いれば、粒径すなわち被覆厚さの制御が可能となる。
【0129】
【表2】
〔実施例5:銀被覆金微粒子の合成例〕
塩化金酸を水に溶解し、クエン酸を添加して100℃で沸騰させて金の微粒子(核微粒子)を得た。この金粒子の平均粒径は15nmで変動係数が5%であった。金粒子を脱酸素し、クエン酸のメタノール溶液に添加して金粒子分散液(原料微粒子分散液)を調製した。一方で、シアン酸銀カリウムのメタノール溶液(複合用原料溶液・第2相原料溶液)を調製して、それらを2つの方向から流通させ、オンライン制御により、これら溶液を混合した直後にオイルバス部に流通させた。この装置では、混合液は、予め加熱されたオイル中を流通することにより急激に加熱され、オイルから出ると外気により冷却される。加熱時間は15分とした。その結果、平均粒径が20nm、変動係数5%の銀被覆金微粒子が得られた。
〔実施例6:TiO2被覆ポリスチレン粒子の合成例〕
被覆反応は、エタノール中にて室温で行った。0.4gのポリビニルピロリドンと5mMのNaCl1mlとを40mlのエタノールに溶解した溶液Aを調製し、この溶液Aに100mg/mlのポリスチレンラテックスを懸濁させたエタノールを3.1ml添加した。一方で、0.45mlのテトライソプロポキシチタンを6mlのエタノール中に溶解した溶液Bを調製した。
【0130】
溶液Aを0.4ml/minの流速で、溶液Bを0.06ml/minの流速でそれぞれシリンジポンプにより押し出し、マイクロ混合機で混合した。反応は即座に進行し、15nmの均一な厚さの被覆層を有する複合微粒子を合成することができた。
〔実施例7:CdSe被覆ZnS微粒子の合成例〕
図1に示す構成を有する複合微粒子の製造装置を用いてCdSe被覆ZnS複合微粒子の製造を行った。
【0131】
まず、ジメチルカドミウム2.8mmolとビストリメチルシリルスルフィド11.2mmolとを、TOP12gと混合したZnS微粒子原料溶液(粒子形成用前駆体溶液)を調製し、実施例2と同様にしてZnS核微粒子を製造した。
【0132】
次に、それぞれ6.0gのステアリン酸、トリオクチルホスフィンオキサイドおよびトリオクチルホスフィンと、26.6mgの酢酸カドミウムと、49.4mgのセレンとを溶解させたCdSe被覆原料溶液(第2相原料溶液)を調製し、シリンジポンプからなる第2相原料溶液供給部12に充填した。
【0133】
上記核微粒子供給部11からZnS微粒子を押し出すとともに、上記第2相原料溶液供給部12からCdSe被覆原料溶液を押し出して混合し、270℃に設定したリアクター13にて30秒間加熱することによりCdSeの被覆を行った。
【0134】
これにより、量子収率10%、最大蛍光波長488nm(粒径4.0nm)、蛍光半値幅50nmのCdSe被覆ZnS微粒子を合成することができた。
〔実施例8:ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の合成例〕
図3に示す構成を有する複合微粒子の製造装置を用いてZnS−CdSe−ZnS型微粒子の製造を行った(ただし、リアクター13bの後段に図示しない回収容器が設けられている)。
【0135】
上記実施例7と同様にしてCdSe被覆ZnS微粒子を製造し、さらに、リアクター13aからCdSe被覆ZnS微粒子を押し出すとともに、ZnS微粒子原料溶液と同じ組成のZnS被覆原料溶液(第3相原料溶液)を押し出して混合し、240℃に設定したリアクター13bにて150秒加熱することによりZnSの被覆を行った。
【0136】
これにより、量子収率50%、最大蛍光波長486nm(粒径6.2nm)、蛍光半値幅50nmのZnS/CdSe/ZnS型微粒子を合成することができた。
【0137】
また、透過電子顕微鏡(TEM)で観察した結果、図6(a)・(b)に示すように、得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子は、その粒子径が6nm程度となっていた。
【0138】
さらに、図7に示すように、実施例7で得られたCdSe被覆ZnS微粒子と、本実施例で得られたZnS/CdSe/ZnS型微粒子とを比較すると、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の方がより強い蛍光強度で発光していることが分かった。
【0139】
このように、ZnSでCdSeをサンドイッチする構造(ZnS/CdSe/ZnS構造)を採用すれば、CdSeを発光部として利用する微粒子(CdSe系微粒子)として、CdSe層の厚みを1nm程度に抑えたまま発光する複合微粒子を得ることが可能であった。
〔実施例9:ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の合成例2〕
実施例8において、CdSe層を形成する際に、270℃の加熱温度はそのままで、加熱時間を30、45、60秒に変化させることでCdSe層の厚みを変化させ、複数種類のZnS/CdSe/ZnS型微粒子のサンプルを得た。なお、ZnS層の被覆は、何れの場合も実施例8と同じく240℃、150秒の加熱条件とした。
【0140】
得られた複合微粒子において、加熱時間に対する蛍光波長と蛍光強度との関係を図8の蛍光スペクトルに示す。図8の結果から明らかなように、CdSe層の厚さが厚い方がより長波長側の蛍光を発している。これにより、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子では、厚いCdSe層を有する方がよりバンドギャップのエネルギーが小さいことが分かる。
【0141】
このように、ZnS/CdSe/ZnS型微粒子においては、CdSe層の厚みを制御することにより蛍光波長の制御が可能となる。
【0142】
なお、上記ZnS/CdSe/ZnS型微粒子では、おそらく、CdSe層の電子および正孔(ホール)は少しZnS層にしみ出していると考えられる。そのため、バンドギャップの大きい物質(この場合ZnS)のバンドギャップを制御することによっても、電子のしみ出しによる量子サイズ効果の緩和の程度が変化し、蛍光波長が変化することになると考えられる。
〔実施例10:ZnS/CdSe/ZnS型微粒子の合成例3〕
実施例8において、CdSe層を形成する際に、実施例9と同様に処理時間を変更させて、2層目の処理時間が蛍光波長にどのように影響するかを確認した。具体的には、ZnS微粒子を核としてCdSe層を形成する際と、核無しでCdSe微粒子を形成する際とのそれぞれにおいて、加熱温度を180℃とし、加熱時間を30、38、50、60秒に変化させた。その結果を図9(a)・(b)の蛍光スペクトルで示す。
【0143】
図9(b)に示すように、核無しでCdSe微粒子を形成した場合、加熱時間が長くなると層の厚み(この場合CdSe微粒子の粒子径)が大きくなり、長波長側に強い蛍光を発している。この点は、実施例9と同様である。
【0144】
これに対して、図9(a)に示すように、ZnS微粒子を核としてCdSe層を形成した場合、加熱時間が長くなると層の厚みが大きくなり、長波長側に強い蛍光を発している点は同じであるが、蛍光のピークはより低波長側にシフトしており、高い量子収率を持つ青色の蛍光(蛍光波長<〜480nm)を発していることが分かる。
【0145】
従来では、粒子径が2nm以下になるとCdSe微粒子の結晶性が低下する。そのため、青色の蛍光を発するCdSe微粒子を得ることは困難であったが、本発明によれば、ZnS/CdSe/ZnS構造を有することによりCdSeの結晶性が上昇するため、青色の蛍光を発する新規なCdSe系微粒子を製造できることが分かった。
【0146】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0147】
以上のように、本発明によれば、高品質の複合微粒子を効率的に製造することができる。それゆえ、本発明は、ナノ粒子を製造または利用する各種ナノテクノロジーに関わる産業、例えば、ナノ粒子を製造する素材・化学産業や、ナノ粒子を利用した波長可変発光ダイオード、単一粒子トランジスタ、超高密度磁性記録媒体等を製造する電子部品・電子機器産業等に好適に利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分からなる複合微粒子の製造方法であって、
1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子に複合用原料を混合した上で、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有するマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させて複合化する微粒子複合化工程を含み、
上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、
さらに、上記マイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いることを特徴とする複合微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることを特徴とする請求の範囲1に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記微粒子複合化工程では、原料微粒子および複合用原料の少なくとも一方を、溶媒に溶解または分散してなる溶液または分散液として用いることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項4】
さらに、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成する核微粒子合成工程を含み、
上記核微粒子の粒径が1〜1000nmの範囲内となっていることを特徴とする請求の範囲1、2または3に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項5】
上記核微粒子合成工程では、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記核微粒子を合成するとともに、
上記微粒子複合化工程では、得られた核微粒子を原料微粒子として上記マイクロ流路内に連続的に供給することを特徴とする請求の範囲4に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項6】
上記反応条件として、反応温度およびその維持時間、原料微粒子および複合用原料の濃度、原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかを制御することを特徴とする請求の範囲1ないし5の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項7】
上記微粒子複合化工程では、複合用原料の混合を反応温度未満の温度で行うとともに、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させる段階では、0.001秒〜1時間の範囲内で反応温度まで加熱することを特徴とする請求の範囲1ないし5の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項8】
上記微粒子複合化工程では、上記複合用原料の混合は、反応温度で行うとともに、上記複合用原料の溶液を加熱後、さらに0.00001秒〜1分の範囲内で、反応温度で混合することを特徴とする請求の範囲1ないし5の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項9】
上記複合用原料として、さらに、第n+1種目以上の成分を用いるとともに、各成分を逐次的に供給するように上記微粒子複合化工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求の範囲1ないし8の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項10】
上記微粒子複合化工程では、複合用原料として、2種以上の成分を同時に供給することを特徴とする請求の範囲1ないし9の何れか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
複数のマイクロ流路を並列させ、上記微粒子複合化工程を同時に行うことを特徴とする請求の範囲1ないし10の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項12】
得られる複合微粒子が被覆型であることを特徴とする請求の範囲1ないし11の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項13】
原料微粒子および被覆層をII−VIおよびIII−V型化合物半導体とすることを特徴とする請求の範囲1ないし12の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項14】
得られる複合微粒子が、蛍光スペクトル測定時に当該複合微粒子から発せられる蛍光の半値幅の増大が15%以下に抑えられ、その蛍光強度が向上されたものであることを特徴とする請求の範囲13に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項15】
反応時の加熱時間を30分以内とすることを特徴とする請求の範囲1ないし14の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項16】
複合用原料として、アルキルジセレノカルバメートまたはアルキルジチオカルバメートが用いられることを特徴とする請求の範囲1ないし15の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項17】
複数の成分からなる複合微粒子を連続的に製造する製造装置であって、
1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつ、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を備える反応器と、
1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子を溶媒に分散してなる微粒子分散溶液を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する原料微粒子供給手段と、
上記原料微粒子に反応させて複合化するための複合用原料を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する複合用原料供給手段とを備えており、
上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、
上記マイクロ流路内に連続的に供給された上記原料微粒子および複合用原料との反応条件を制御することにより、複合微粒子を連続的に製造することを特徴とする複合微粒子の製造装置。
【請求項18】
上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることを特徴とする請求の範囲17に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項19】
上記マイクロ流路としてキャピラリーチューブを用いることを特徴とする請求の範囲18に記載の複合粒子の製造装置。
【請求項20】
上記キャピラリーチューブの管壁の厚さを10μm〜3mmの範囲内とすることを特徴とする請求の範囲19に記載の複合粒子の製造装置。
【請求項21】
上記原料微粒子供給手段は、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成して供給するようになっており、
原料微粒子合成用のマイクロ流路を備える反応器と、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給する粒子形成用前駆体供給手段とを備えているとともに、
粒子形成用前駆体の反応条件を制御することにより、粒径が1〜1000nmの範囲内となっている核微粒子を合成することを特徴とする請求の範囲17ないし20の何れか1項に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項22】
少なくとも、上記複合用原料供給手段の動作を制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求の範囲17ないし21の何れか1項に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項23】
上記複合用原料供給手段を複数備えており、それぞれの複合用原料供給手段から、異なる種類の成分を供給可能となっているとともに、
上記制御手段は、上記各成分を逐次的に供給するように、それぞれの複合用原料供給手段の動作を制御することを特徴とする請求の範囲22に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項24】
請求の範囲1ないし16の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法、または、請求の範囲17ないし23の何れか1項に記載の複合微粒子の製造装置により製造され、核微粒子に1層以上の被覆層を形成してなる複合微粒子。
【請求項25】
最大粒子径が1000nm以下であり、かつ、異なる半導体材料からなる層を複数積層した構造を有しており、
さらに、上記複数の積層構造には、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層で、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を挟持したサンドイッチ構造が含まれていることを特徴とする複合微粒子。
【請求項26】
上記バンドギャップの大きい半導体材料およびバンドギャップの小さい半導体材料として、異なる種類のII−VI化合物半導体を用いることを特徴とする請求の範囲24に記載の複合微粒子。
【請求項27】
バンドギャップの大きい半導体材料として、ZnSを用いるとともに、バンドギャップの小さい半導体材料としてCdSeを用いることを特徴とする請求の範囲26に記載の複合微粒子。
【請求項28】
最大粒子径が20nm以下であることを特徴とする請求の範囲25、26または27に記載の複合微粒子。
【請求項29】
バンドギャップの小さい半導体材料からなる層の厚みが2nm以下であることを特徴とする請求の範囲25ないし28の何れか1項に記載の複合微粒子。
【請求項30】
請求の範囲25ないし29の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法であって、
1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつレイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いるとともに、
バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子に、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料を混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、核微粒子にバンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程と、
上記バンドギャップの小さい半導体材料からなる層が形成された被覆微粒子と、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料とを混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層に、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を積層する工程とを含むことを特徴とする複合微粒子の製造方法。
【請求項31】
バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程において、当該層の厚みを変化させるように反応条件を制御することを特徴とする請求の範囲30に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項1】
複数の成分からなる複合微粒子の製造方法であって、
1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子に複合用原料を混合した上で、1μm〜5000μmの範囲内の直径を有するマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させて複合化する微粒子複合化工程を含み、
上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、
さらに、上記マイクロ流路として、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いることを特徴とする複合微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることを特徴とする請求の範囲1に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記微粒子複合化工程では、原料微粒子および複合用原料の少なくとも一方を、溶媒に溶解または分散してなる溶液または分散液として用いることを特徴とする請求の範囲1または2に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項4】
さらに、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成する核微粒子合成工程を含み、
上記核微粒子の粒径が1〜1000nmの範囲内となっていることを特徴とする請求の範囲1、2または3に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項5】
上記核微粒子合成工程では、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、上記核微粒子を合成するとともに、
上記微粒子複合化工程では、得られた核微粒子を原料微粒子として上記マイクロ流路内に連続的に供給することを特徴とする請求の範囲4に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項6】
上記反応条件として、反応温度およびその維持時間、原料微粒子および複合用原料の濃度、原料微粒子および複合用原料のマイクロ流路内における滞留時間の少なくとも何れかを制御することを特徴とする請求の範囲1ないし5の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項7】
上記微粒子複合化工程では、複合用原料の混合を反応温度未満の温度で行うとともに、上記原料微粒子と複合用原料とを反応させる段階では、0.001秒〜1時間の範囲内で反応温度まで加熱することを特徴とする請求の範囲1ないし5の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項8】
上記微粒子複合化工程では、上記複合用原料の混合は、反応温度で行うとともに、上記複合用原料の溶液を加熱後、さらに0.00001秒〜1分の範囲内で、反応温度で混合することを特徴とする請求の範囲1ないし5の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項9】
上記複合用原料として、さらに、第n+1種目以上の成分を用いるとともに、各成分を逐次的に供給するように上記微粒子複合化工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求の範囲1ないし8の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項10】
上記微粒子複合化工程では、複合用原料として、2種以上の成分を同時に供給することを特徴とする請求の範囲1ないし9の何れか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
複数のマイクロ流路を並列させ、上記微粒子複合化工程を同時に行うことを特徴とする請求の範囲1ないし10の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項12】
得られる複合微粒子が被覆型であることを特徴とする請求の範囲1ないし11の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項13】
原料微粒子および被覆層をII−VIおよびIII−V型化合物半導体とすることを特徴とする請求の範囲1ないし12の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項14】
得られる複合微粒子が、蛍光スペクトル測定時に当該複合微粒子から発せられる蛍光の半値幅の増大が15%以下に抑えられ、その蛍光強度が向上されたものであることを特徴とする請求の範囲13に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項15】
反応時の加熱時間を30分以内とすることを特徴とする請求の範囲1ないし14の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項16】
複合用原料として、アルキルジセレノカルバメートまたはアルキルジチオカルバメートが用いられることを特徴とする請求の範囲1ないし15の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法。
【請求項17】
複数の成分からなる複合微粒子を連続的に製造する製造装置であって、
1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつ、レイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を備える反応器と、
1〜1000nmの範囲内の粒径を有する原料微粒子を溶媒に分散してなる微粒子分散溶液を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する原料微粒子供給手段と、
上記原料微粒子に反応させて複合化するための複合用原料を、上記マイクロ流路に対して連続的に供給する複合用原料供給手段とを備えており、
上記原料微粒子として、n−1種の成分(ただし、nは2以上の整数)からなる微粒子を用いるとともに、上記複合用原料として、少なくとも第n種目の成分を用い、
上記マイクロ流路内に連続的に供給された上記原料微粒子および複合用原料との反応条件を制御することにより、複合微粒子を連続的に製造することを特徴とする複合微粒子の製造装置。
【請求項18】
上記マイクロ流路の直径が50〜1000μmの範囲内となっていることを特徴とする請求の範囲17に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項19】
上記マイクロ流路としてキャピラリーチューブを用いることを特徴とする請求の範囲18に記載の複合粒子の製造装置。
【請求項20】
上記キャピラリーチューブの管壁の厚さを10μm〜3mmの範囲内とすることを特徴とする請求の範囲19に記載の複合粒子の製造装置。
【請求項21】
上記原料微粒子供給手段は、第1種目の成分のみからなる核微粒子を合成して供給するようになっており、
原料微粒子合成用のマイクロ流路を備える反応器と、第1種目の成分を含む粒子形成用前駆体含有溶液を、核微粒子合成用のマイクロ流路内に連続的に供給する粒子形成用前駆体供給手段とを備えているとともに、
粒子形成用前駆体の反応条件を制御することにより、粒径が1〜1000nmの範囲内となっている核微粒子を合成することを特徴とする請求の範囲17ないし20の何れか1項に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項22】
少なくとも、上記複合用原料供給手段の動作を制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求の範囲17ないし21の何れか1項に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項23】
上記複合用原料供給手段を複数備えており、それぞれの複合用原料供給手段から、異なる種類の成分を供給可能となっているとともに、
上記制御手段は、上記各成分を逐次的に供給するように、それぞれの複合用原料供給手段の動作を制御することを特徴とする請求の範囲22に記載の複合微粒子の製造装置。
【請求項24】
請求の範囲1ないし16の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法、または、請求の範囲17ないし23の何れか1項に記載の複合微粒子の製造装置により製造され、核微粒子に1層以上の被覆層を形成してなる複合微粒子。
【請求項25】
最大粒子径が1000nm以下であり、かつ、異なる半導体材料からなる層を複数積層した構造を有しており、
さらに、上記複数の積層構造には、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層で、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を挟持したサンドイッチ構造が含まれていることを特徴とする複合微粒子。
【請求項26】
上記バンドギャップの大きい半導体材料およびバンドギャップの小さい半導体材料として、異なる種類のII−VI化合物半導体を用いることを特徴とする請求の範囲24に記載の複合微粒子。
【請求項27】
バンドギャップの大きい半導体材料として、ZnSを用いるとともに、バンドギャップの小さい半導体材料としてCdSeを用いることを特徴とする請求の範囲26に記載の複合微粒子。
【請求項28】
最大粒子径が20nm以下であることを特徴とする請求の範囲25、26または27に記載の複合微粒子。
【請求項29】
バンドギャップの小さい半導体材料からなる層の厚みが2nm以下であることを特徴とする請求の範囲25ないし28の何れか1項に記載の複合微粒子。
【請求項30】
請求の範囲25ないし29の何れか1項に記載の複合微粒子の製造方法であって、
1μm〜5000μmの範囲内の直径を有し、かつレイノルズ数が1〜4000の範囲内に設定されているマイクロ流路を用いるとともに、
バンドギャップの大きい半導体材料からなる核微粒子に、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料を混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、核微粒子にバンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程と、
上記バンドギャップの小さい半導体材料からなる層が形成された被覆微粒子と、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を形成するための複合用原料とを混合した上で、上記マイクロ流路内に連続的に供給しながら反応条件を制御することにより、バンドギャップの小さい半導体材料からなる層に、バンドギャップの大きい半導体材料からなる層を積層する工程とを含むことを特徴とする複合微粒子の製造方法。
【請求項31】
バンドギャップの小さい半導体材料からなる層を形成する工程において、当該層の厚みを変化させるように反応条件を制御することを特徴とする請求の範囲30に記載の複合微粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7】
【図8】
【図9(a)】
【図9(b)】
【国際公開番号】WO2005/023704
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513614(P2005−513614)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011782
【国際出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/011782
【国際出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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