説明

複合材料及びその製造方法、並びにそれを用いた固体高分子型燃料電池用電極及び固体高分子型燃料電池

【課題】固体高分子型燃料電池の触媒層の担体として理想的な構造を有する繊維状炭素材料を含み、固体高分子型燃料電池の電極に好適に用いることが可能な複合材料を提供する。
【解決手段】導電性基板と、該導電性基板上に配設された繊維状炭素材料とからなり、前記繊維状炭素材料が、芳香環を有する化合物を電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成して生成させた3次元連続状炭素繊維であって、前記繊維状炭素材料は、表面から15体積%の部分の存在率が前記導電性基板との界面から40体積%の部分の存在率に対して80〜200%であることを特徴とする複合材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法、並びに該複合材料を用いた固体高分子型燃料電池用電極及び固体高分子型燃料電池に関し、特に構造傾斜を有する複合材料と、該複合材料を電極に用いた固体高分子型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、発電効率が高く、環境への負荷が小さい電池として、燃料電池が注目を集めており、広く研究開発が行われている。燃料電池の中でも、出力密度が高く作動温度が低い固体高分子型燃料電池は、小型化や低コスト化が他のタイプの燃料電池よりも容易なことから、電気自動車用電源、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムとして広く普及することが期待されている。
【0003】
一般に固体高分子型燃料電池においては、固体高分子電解質膜を挟んで一対の電極を配置すると共に、一方の電極の表面に水素等の燃料ガスを接触させ、もう一方の電極の表面に酸素を含有する酸素含有ガスを接触させ、この時起こる電気化学反応を利用して、電極間から電気エネルギーを取り出している(非特許文献1及び2参照)。また、上記電極の高分子電解質膜に接する側には触媒層が配設されており、高分子電解質膜と触媒層とガスとの三相界面で電気化学反応が起こる。そのため、固体高分子型燃料電池の発電効率を向上させるためには、上記電気化学反応の反応場を大きくする必要がある。
【0004】
上記電気化学反応の反応場を大きくすることが可能な触媒層を形成するために、一般に、白金等の貴金属触媒をカーボンブラック等の粒状カーボン上に担持した触媒粉を含有するペースト又はスラリーを、カーボンペーパー等の導電性の多孔質支持体上に塗布する方法が採られている。しかしながら、この方法で形成された触媒層を備える固体高分子型燃料電池は、発電効率が低かった。
【0005】
これに対して、本発明者らは、カーボンペーパー等の導電性の多孔質支持体上に電解重合等の方法で3次元連続状の炭素繊維を生成させ、該炭素繊維上に電気メッキにより貴金属を担持して作製した電極を固体高分子型燃料電池に使用することで、固体高分子型燃料電池の発電効率が向上することを見出している(特許文献1参照)。
【0006】
【非特許文献1】日本化学会編,「化学総説No.49,新型電池の材料化学」,学会出版センター,2001年,p.180−182
【非特許文献2】「固体高分子型燃料電池<2001年版>」,技術情報協会,2001年,p.14−15
【特許文献1】国際公開第2004/063438号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、上記特許文献1に記載の方法で得られる繊維状炭素材料は、3次元連続状であり、粒状カーボンよりも、固体高分子型燃料電池の触媒層の担体として優れているものの、該触媒層の担体として理想的な構造は、依然として明らかではなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、固体高分子型燃料電池の触媒層の担体として理想的な構造を有する繊維状炭素材料を含み、固体高分子型燃料電池の電極に好適に用いることが可能な複合材料及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる複合材料を用いた固体高分子型燃料電池用電極及び固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、上記3次元連続状炭素繊維は、電解重合の際の電位や電流密度に依存して表面構造が変化し、特定の条件で電解重合を行うことで、深さ方向に構造傾斜を有する基板/繊維状炭素材料の複合材料が得られ、また、繊維状炭素材料中の表面に近い部分と基板に近い部分における繊維状炭素材料の存在率の比が特定の範囲にある複合材料を固体高分子型燃料電池の電極に用いた場合、固体高分子型燃料電池が優れた発電性能を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の複合材料は、導電性基板と、該導電性基板上に配設された繊維状炭素材料とからなり、
前記繊維状炭素材料が、芳香環を有する化合物を電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成して生成させた3次元連続状炭素繊維であって、
前記繊維状炭素材料は、表面から15体積%の部分の存在率が前記導電性基板との界面から40体積%の部分の存在率に対して80〜200%であることを特徴とする。
【0011】
本発明の複合材料においては、前記繊維状炭素材料は、表面から15体積%の部分の存在率が前記導電性基板との界面から40体積%の部分の存在率に対して100〜200%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の複合材料の製造方法は、導電性基板上で芳香環を有する化合物を0.65〜1.2Vの電圧及び/又は5〜50mA/cm2の電流密度で電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、上記の複合材料と、該複合材料上に担持された金属触媒とを含むことを特徴とし、本発明の固体高分子型燃料電池は、かかる電極を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、導電性基板と繊維状炭素材料とからなり、繊維状炭素材料における表面から15体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率が導電性基板との界面から40体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率に対する割合が80〜200%であって、固体高分子型燃料電池の電極に好適に用いることが可能な複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<複合材料及びその製造方法>
以下に、本発明の複合材料を詳細に説明する。本発明の複合材料は、導電性基板と、該導電性基板上に配設された繊維状炭素材料とからなり、該繊維状炭素材料が、芳香環を有する化合物を電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成して生成させた3次元連続状炭素繊維であって、前記繊維状炭素材料は、表面から15体積%の部分の存在率が前記導電性基板との界面から40体積%の部分の存在率に対して80〜200%であることを特徴とする。複合材料の繊維状炭素材料部分が深さ方向に構造傾斜を有し、繊維状炭素材料表面から15体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率[(見かけ体積−空隙の体積)/見かけ体積×100(%)]が、導電性基板との界面から40体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率に対して80〜200%であれば、保水性とガスの拡散性(透過性)のバランスが、固体高分子型燃料電池の電極の触媒層の担体として最適であるため、該複合材料を固体高分子型燃料電池の電極に用いることで、固体高分子型燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0016】
なお、繊維状炭素材料表面から15体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率が導電性基板との界面から40体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率に対して80%未満では、燃料電池に用いた場合、固体高分子電解質膜に隣接する表面側部分における繊維状炭素材料の存在率が低すぎ、保水性が低下すると共に、金属触媒の担体としての表面積が不十分で、燃料電池の発電性能が低下し、一方、200%を超えると、固体高分子電解質膜に隣接する表面側部分における繊維状炭素材料の存在率が高すぎ、ガスの拡散性が低下し、燃料電池の発電性能が低下する。なお、保水性と表面積の観点から、繊維状炭素材料表面から15体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率は、導電性基板との界面から40体積%の部分の繊維状炭素材料の存在率に対して100%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の複合材料に用いる導電性基板としては、多孔質なものが好ましく、多孔質な導電性基板としては、カーボンペーパー、多孔質カーボン布等が挙げられ、これらの中でも、カーボンペーパーが好ましい。
【0018】
一方、本発明の複合材料の繊維状炭素材料部分は、導電性基板上で芳香環を有する化合物を電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成することで作製する。ここで、電解重合は、0.65〜1.2Vの電圧及び/又は5〜50mA/cm2の電流密度で実施することが好ましい。電圧及び/又は電流密度がこの範囲であれば、保水性とガスの拡散性のバランスが良好な複合材料を容易に得ることができる。
【0019】
上記繊維状炭素材料の原料として用いる芳香環を有する化合物としては、ベンゼン環を有する化合物、芳香族複素環を有する化合物を挙げることができる。ここで、ベンゼン環を有する化合物としては、アニリン及びアニリン誘導体が好まく、芳香族複素環を有する化合物としては、ピロール、チオフェン及びこれらの誘導体が好ましい。これら芳香環を有する化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上の混合物として用いてもよい。
【0020】
上記電解重合においては、電解溶液中に原料の芳香環を有する化合物と共に、酸を混在させることが好ましい。この場合、酸の負イオンがドーパントとして合成されるフィブリル状ポリマー中に取り込まれ、導電性に優れたフィブリル状ポリマーが得られ、このフィブリル状ポリマーを用いることにより繊維状炭素材料の導電性を向上させることができる。なお、電解重合の際に混在させる酸としては、種々のものを使用することができ、H2SO4、HBF4、HCl、HClO4等を例示することができる。また、該酸の濃度は、0.1〜3mol/Lの範囲が好ましく、0.5〜2.5mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0021】
上記電解重合では、例えば、芳香環を有する化合物及びH2SO4、HBF4等の酸を含む電解溶液中に、上記導電性基板からなる作用極及び対極を浸漬し、上述の範囲の電圧を印加したり、上述の範囲の電流密度の電流を通電すればよく、これにより作用極上にフィブリル状ポリマーが生成する。ここで、対極としては、ステンレススチール、白金、カーボン等の良導電性物質からなる板や多孔質支持体等を用いることができる。また、芳香環を有する化合物の電解溶液中の濃度は、0.05〜3mol/Lの範囲が好ましく、0.25〜1.5mol/Lの範囲が更に好ましい。更に、電解溶液には、上記成分に加え、pHを調製するために可溶性塩等を適宜添加してもよい。
【0022】
上記電解重合で生成するフィブリル状ポリマーは、一般に三次元連続構造を有し、直径が10nm〜60nmであることが好ましく、10nm〜30nmであることが更に好ましく、長さが0.5μm〜100mmであることが好ましく、1μm〜10mmであることが更に好ましい。
【0023】
次に、上記電解重合で生成したフィブリル状ポリマーを焼成し炭化することで、3次元連続状の繊維状炭素材料(炭素繊維)を生成させる。なお、焼成の前に、フィブリル状ポリマーを水や有機溶剤等の溶媒で洗浄し、乾燥させることが好ましい。ここで、乾燥方法としては、特に制限されるものではないが、風乾、真空乾燥の他、流動床乾燥装置、気流乾燥機、スプレードライヤー等を使用した方法を例示することができる。
【0024】
上記焼成工程における焼成条件としては、特に限定されるものではなく、最適導電率となるように適宜設定すればよいが、特に高導電率を必要とする場合は、温度500〜3000℃、好ましくは600〜2800℃で、0.5〜6時間焼成することが好ましい。なお、焼成工程は、非酸化性雰囲気中で行うことが好ましく、該非酸化性雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等を挙げることができ、場合によっては水素雰囲気とすることもできる。
【0025】
上記のようにして得られる繊維状炭素材料は、直径が10nm〜60nmであることが好ましく、10nm〜30nmであることが更に好ましく、長さが0.5μm〜100mmであることが好ましく、1μm〜10mmであることが更に好ましく、表面抵抗が106〜10-2Ωの範囲であることが好ましく、104〜10-2Ωの範囲であることが更に好ましい。また、該繊維状炭素材料は、残炭率が95〜30%であることが好ましく、90〜40%であることが更に好ましい。該繊維状炭素材料は、カーボン全体が3次元に連続した構造を有するため、粒状カーボンよりも導電性が高い。
【0026】
<固体高分子型燃料電池用電極>
本発明の固体高分子型燃料電池用電極は、上述した複合材料と、該複合材料上に担持された金属触媒とを備え、アノード(燃料極)としても、カソード(空気極、酸素極)としても使用できる。ここで、該固体高分子型燃料電池用電極は、導電性基板がガス拡散層として機能し、繊維状炭素材料及び金属触媒が触媒層として機能する。
【0027】
上記複合材料(より具体的には、複合材料の繊維状炭素材料部分)に担持される金属触媒は、貴金属を含むことが好ましく、Ptを含むことが更に好ましい。なお、本発明においては、Ptを単独で用いてもよいし、Ru等の他の金属との合金として用いてもよい。金属触媒としてPtを選択し、本発明の電極を固体高分子型燃料電池に用いることで、100℃以下の低温でも水素を高効率で酸化することができる。また、PtとRu等の合金を用いることで、COによるPtの被毒を防止して、触媒の活性低下を防止することができる。なお、担持される金属触媒は、微粒子状、繊維状、ワイヤー状、薄膜状等のいずれでもよいが、微粒子状であることが好ましく、粒径が0.5〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることが更に好ましい。該金属触媒の担持率は、複合材料の繊維状炭素材料部分1gに対して0.05〜5gの範囲が好ましい。ここで、上記金属触媒の繊維状炭素材料部分上への担持法としては、特に限定されるものではなく、例えば、電気メッキ法(電解還元法)、無電解メッキ法、含浸法、スパッタ法等が挙げられる。
【0028】
上記金属触媒が担持された繊維状炭素材料部分には、更に高分子電解質を含浸させてもよく、該高分子電解質としては、イオン伝導性のポリマーを使用することができ、該イオン伝導性のポリマーとしては、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸等のイオン交換基を有するポリマーを挙げることができ、該ポリマーはフッ素を含んでも、含まなくてもよい。該イオン伝導性のポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー等が挙げられる。該高分子電解質の含浸量は、繊維状炭素材料100質量部に対して高分子電解質10〜500質量部の範囲が好ましい。なお、繊維状炭素材料層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1〜100μmの範囲が好ましい。また、金属触媒の担持量は、前記担持率と繊維状炭素材料層の厚さにより定まり、好ましくは0.001〜0.8mg/cm2の範囲である。
【0029】
<固体高分子型燃料電池>
次に、図1を参照しながら、本発明の固体高分子型燃料電池を説明する。図示例の固体高分子型燃料電池は、膜電極接合体(MEA)1とその両側に位置するセパレータ2とを備える。膜電極接合体(MEA)1は、固体高分子電解質膜3とその両側に位置するアノード4A及びカソード4Bとからなる。アノード4Aでは、2H2→4H++4e-で表される反応が起こり、発生したH+は固体高分子電解質膜3を経てカソード4Bに至り、また、発生したe-は外部に取り出されて電流となる。一方、カソード4Bでは、O2+4H++4e-→2H2Oで表される反応が起こり、水が発生する。ここで、本発明の固体高分子型燃料電池には、上述の電極が使用されているため、保水性とガスの透過性のバランスが良好で、優れた発電性能を発揮する。
【0030】
上記アノード4A及びカソード4Bは、触媒層5及びガス拡散層6からなり、触媒層5が固体高分子電解質膜3に接触するように配置されている。ここで、触媒層5は、上記複合材料の繊維状炭素材料部分に金属触媒を担持してなる。また、ガス拡散層6は、上記複合材料の導電性基板部分である。更に、固体高分子電解質膜3としては、イオン伝導性のポリマーを使用することができ、該イオン伝導性のポリマーとしては、上記金属触媒が担持された繊維状炭素材料部分に含浸させることが可能な高分子電解質として例示したものを用いることができる。また、セパレータ2としては、表面に燃料、酸素又は空気、及び生成した水等の流路(図示せず)が形成された通常のセパレータを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
アニリンモノマー 0.5mol/LとH2SO4 1.0mol/Lとを含む酸性水溶液中に、カーボンペーパー[東レ製]からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて25mA/cm2の定電流を通電し、電気量が合計6C/cm2になるまで電解重合を行い、ポリアニリンをカーボンペーパー(作用極)上に電析させた。得られたポリアニリンをイオン交換水で洗浄し、24時間真空乾燥した後、カーボンペーパーごとAr雰囲気中8℃/分の昇温速度で950℃まで加熱し、その後950℃で1時間保持して焼成処理した。得られた焼成物のSEM写真を図2に示す。図2から、生成した繊維状炭素材料は、表面部分の繊維径が100nm前後であることが分かる。また、得られた焼成物に樹脂を含浸し、切断して、厚さ方向の断面を露出させ、SEMで観察した。断面のSEM写真における繊維状炭素材料部分を黒色とし、空隙部分を白色とした図を、図3に示す。また、図3における表面部分、中間部分、基板側部分の空隙と繊維状炭素材料の比率を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
なお、上記の酸性水溶液に対して、電位を0.6〜1.2Vの範囲で走査した時の電流密度の変位をプロットしたグラフを図4に示す。図4から、25mA/cm2の電流密度は、0.9Vの電位に対応し、0.9Vで電解重合した際にも同様の複合材料が得られることが分かる。
【0035】
(比較例1)
アニリンモノマー 0.5mol/LとH2SO4 1.0mol/Lとを含む酸性水溶液中に、カーボンペーパー[東レ製]からなる作用極を設置し、対極として白金板を使用し、室温にて0.65Vの定電圧を印加し、電気量が合計6C/cm2になるまで電解重合を行い、ポリアニリンをカーボンペーパー(作用極)上に電析させた。得られたポリアニリンをイオン交換水で洗浄し、24時間真空乾燥した後、カーボンペーパーごとAr雰囲気中8℃/分の昇温速度で950℃まで加熱し、その後950℃で1時間保持して焼成処理した。得られた焼成物のSEM写真を図5に示す。図5から、生成した繊維状炭素材料は、表面部分の繊維径が約200〜400nmであることが分かる。また、得られた焼成物に樹脂を含浸し、切断して、厚さ方向の断面を露出させ、SEMで観察した。SEM写真における繊維状炭素材料部分を黒色とし、空隙部分を白色とした図を、図6に示す。また、図6における表面部分、中間部分、基板側部分の空隙と繊維状炭素材料の比率を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表1から、実施例1で得られた複合材料の繊維状炭素材料部分は、表面部分の繊維状炭素材料の存在率が、基板側部分の繊維状炭素材料の存在率に対して147.9%であることが分かる。また、表2から、比較例1で得られた複合材料の繊維状炭素材料部分は、表面部分の繊維状炭素材料の存在率が、基板側部分の繊維状炭素材料の存在率に対して60.6%であることが分かる。更に、表1及び表2から、実施例1の複合材料の繊維状炭素材料部分は、表面部分の存在率が高く基板側部分の存在率が低いのに対し、比較例1の複合材料の繊維状炭素材料部分は、表面部分の存在率が低く基板側部分の存在率が高いことが分かる。
【0038】
<電池性能の評価>
上記のようにして得られた複合材料を作用極とし、白金メッシュを対極として、0.02mol/Lの塩化白金酸水溶液から、白金を繊維状炭素材料上に析出させた。重量変化から白金の担持量を求めたところ、白金量は0.2mg/cm2であった。
【0039】
上記のようにして作製した白金担持複合材料2枚を5×5cmのサイズにカットし、5wt%のナフィオン溶液を塗布し、100℃で30分乾燥した。重量変化からナフィオン量を求めたところ、0.8mg/cm2であった。次に、ナフィオンが塗布された複合材料(即ち、電極)2枚で、厚さ50μmのナフィオン膜を挟み込み、150℃のプレスで5分間加圧、接着して、膜電極接合体(MEA)を作製した。
【0040】
得られた膜電極接合体をエレクトロケミカル社製の試験セル(EFC25−01SP)に組み込んで燃料電池を組み立て、電池性能を評価した。なお、セル温度は80℃とし、燃料ガスとしては水素を用い、水素流量0.3L/分、水素の加湿温度80℃とし、一方、酸化剤ガスとしては酸素又は空気を用い、酸素流量(又は空気流量)0.3L/分、酸素(又は空気)の加湿温度75℃とした。電池の電流密度−電圧曲線を図7に示す。なお、図7中、”実施例1(酸素)”は、実施例1で作製した複合材料を用いて作製した電池に対して酸化剤ガスとして酸素を用いた場合の電流密度−電圧曲線であり、”実施例1(空気)”は、実施例1で作製した複合材料を用いて作製した電池に対して酸化剤ガスとして空気を用いた場合の電流密度−電圧曲線であり、”比較例1(酸素)”は、比較例1で作製した複合材料を用いて作製した電池に対して酸化剤ガスとして酸素を用いた場合の電流密度−電圧曲線であり、”比較例1(空気)”は、比較例1で作製した複合材料を用いて作製した電池に対して酸化剤ガスとして空気を用いた場合の電流密度−電圧曲線である。
【0041】
図7から明らかなように、実施例1の複合材料を用いて作製した燃料電池は、比較例1の複合材料を用いて作製した燃料電池よりも、発電性能が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の固体高分子型燃料電池の一例の断面図である。
【図2】実施例1で作製した複合材料のSEM写真である。
【図3】実施例1で作製した複合材料の断面のSEM写真における繊維状炭素材料部分を黒色とし、空隙部分を白色とした図である。
【図4】実施例1で用いた酸性水溶液に対して、電位を0.6〜1.2Vの範囲で走査した時の電流密度の変位をプロットしたグラフである。
【図5】比較例1で作製した複合材料のSEM写真である。
【図6】比較例1で作製した複合材料の断面のSEM写真における繊維状炭素材料部分を黒色とし、空隙部分を白色とした図である。
【図7】実施例1又は比較例1の複合材料を用いて作製した固体高分子型燃料電池の電流密度−電圧曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 膜電極接合体(MEA)
2 セパレータ
3 固体高分子電解質膜
4A アノード
4B カソード
5 触媒層(金属触媒担持繊維状炭素材料)
6 ガス拡散層(導電性基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板と、該導電性基板上に配設された繊維状炭素材料とからなる複合材料において、
前記繊維状炭素材料が、芳香環を有する化合物を電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成して生成させた3次元連続状炭素繊維であって、
前記繊維状炭素材料は、表面から15体積%の部分の存在率が前記導電性基板との界面から40体積%の部分の存在率に対して80〜200%であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記繊維状炭素材料は、表面から15体積%の部分の存在率が前記導電性基板との界面から40体積%の部分の存在率に対して100〜200%であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
導電性基板上で芳香環を有する化合物を0.65〜1.2Vの電圧及び/又は5〜50mA/cm2の電流密度で電解重合してフィブリル状ポリマーを生成させ、該フィブリル状ポリマーを焼成することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の複合材料と、該複合材料上に担持された金属触媒とを含む固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極を具えた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−149485(P2008−149485A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337207(P2006−337207)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】