説明

複合棒およびその製造方法ならびに該複合棒よりなるアーク溶接用コンタクトチップおよび抵抗溶接用電極

本発明による複合棒は、アーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極の材料として好適に用いられるものであって、少なくとも外皮部を除いた内側部分に分散強化銅合金部を有する芯材を、銅または銅合金よりなる外管材に挿入して、これらを引抜き加工することにより形成されており、棒全体の径に対する分散強化銅合金部の径の比が0.1〜0.49となされている。この複合棒によれば、分散強化銅合金部の占める割合が、アーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極に加工された場合に要求される性能を維持しうる範囲において最小限となされているので、従来のアルミナ分散銅棒と比べて大幅にコストを下げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、導電性、耐熱性、耐摩耗性および耐溶着性に優れ、特にアーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極といった導電用の材料として好適に用いられる複合棒に関する。
【背景技術】
MIG溶接、MAG溶接等のアーク溶接に用いられるコンタクトチップの材料には、導電性および耐熱性が要求され、これらに適合するものとしてクロム銅、ジルコニウム銅、ジルコニウムクロム銅等の銅合金が一般に用いられてきた。
また、スポット溶接等の抵抗溶接に用いられる電極の材料も、導電性および耐熱性が必要とされることから、コンタクトチップの場合と同様に、クロム銅、ジルコニウム銅、ジルコニウムクロム銅等が用いられてきた。
しかしながら、生産性の向上や被溶接材の多様化に伴い、コンタクトチップや電極の使用条件がより過酷なものとなり、上記銅合金よりなる従来のものでは、耐摩耗性や耐溶着性等の点において、満足する結果を得られない状況になってきた。
そこで、近年、コンタクトチップや電極の材料として、アルミナ分散強化銅が用いられるようになった。アルミナ分散強化銅は、銅マトリックス中にアルミナの微細な粒子を分散させたものであって、通常、内部酸化法によって形成される。コンタクトチップや電極の場合、まず、アルミナ分散強化銅棒を形成し、これに所要の加工を施すことによって製造されるのが一般的である。アルミナ分散強化銅をつくる場合、銅マトリックス中における酸素の拡散速度が遅いため、マトリックスである銅を棒状に成形してから内部酸化処理を行うと、棒全体を内部酸化させるのに非常に長い時間がかかってしまうことになる。
そこで、例えば特開平1−263203号公報に開示されているように、表面積の大きいアルミニウム含有銅粉末を内部酸化させてアルミナ分散銅粉末を作製し、これを無酸素銅よりなる容器に封入して、熱間押出加工することにより、アルミナ分散銅合金棒を製造することが通常行われている。
しかしながら、上記のアルミナ分散銅合金棒の場合、生産性が低く、製造コストが高くなってしまうという問題があった。
本発明の目的は、アーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極等の材料として好適に用いられる棒を、より低コストで提供できるようにすることにある。
【発明の開示】
従来のアルミナ分散銅棒の場合、その外皮部に無酸素銅部が形成され、残りの内側部分にアルミナ分散銅合金部が形成される。特開平1−263203号公報には、棒全体の径に対するアルミナ分散銅合金部の径の比を0.5〜0.94とすることが記載されている。
ところが、コンタクトチップや電極において、耐摩耗性や耐溶着性等に優れたアルミナ分散銅合金によって構成される必要があるのは、通常、さらに内側の中心部分のみである。
また、従来のアルミナ分散銅棒は、その製法上、アルミナ分散銅合金部の占める割合をあまり小さくすることができず、棒全体の径に対するアルミナ分散銅合金部の径の比が0.94程度かそれよりもやや大きいものとなされているのが実情である。
そこで、本発明者は、分散強化銅合金部が占める割合を必要最小限としうる複合棒の研究開発に注力し、本発明に至ったものである。
即ち、本発明による複合棒は、少なくとも外皮部を除いた内側部分に分散強化銅合金部を有する芯材を、銅または銅合金よりなる外管材に挿入して、これらを引抜き加工することにより形成されており、棒全体の径に対する分散強化銅合金部の径の比が0.1〜0.49となされているものである。
上記の芯材および外管材よりなる複合棒において、棒全体の径に対する分散強化銅合金部の径の比が0.1未満であると、アーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極に加工された際に所期の性能を発揮できない恐れがある。また、上記比が0.49よりも大きくなると、アーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極に加工された際の性能は変わらないにもかかわらず、分散強化銅合金部の占める割合が多くなって、コストの増大を招いてしまう。上記比は、より好ましくは、0.15〜0.4となされる。
したがって、本発明の複合棒によれば、分散強化銅合金部の占める割合が、アーク溶接用コンタクトチップや抵抗溶接用電極に加工された場合に要求される性能を維持しうる範囲において最小限のものとなされているので、従来のアルミナ分散銅合金棒と比べて大幅にコストを下げることができる。
本発明による複合棒において、分散強化銅合金部は、銅マトリックス中に、例えば、アルミナ、ジルコニア、トリア、イットリア、ベリリアおよびボロニアのうち少なくともいずれか1つの酸化物を分散させたものである。これらの酸化物は、マトリックスである銅よりも硬く、かつ酸化物生成エネルギーが低い酸化物である。なお、酸化物以外に、ホウ化物や炭化物を、銅マトリックス中に分散させることによっても、同様の性質を有する分散強化銅合金を得ることが可能である。
上記の場合において、分散強化銅合金部中の酸化物の量が0.15〜1質量%であるのが好ましい。酸化物の量が0.15質量%未満であると、強度が不足する。また、酸化物の量が1質量%よりも大きくなると、切削や鍛造等の加工が困難になる。
本発明による複合棒において、芯材は、通常、内部酸化法によって得られた分散強化銅合金粉末を銅または銅合金よりなる容器に封入してこれらを熱間押出加工することにより形成されており、分散強化銅合金部が、芯材のうち銅または銅合金よりなる外皮部を除いた内側部分に形成されている。容器を構成する銅または銅合金としては、例えば、無酸素銅、燐脱酸銅、クロム銅、ジルコニウム銅、ジルコニウムクロム銅等が用いられ、これが芯材の外皮部となされる。
本発明による複合棒において、外管材は、通常、純銅(無酸素銅、燐脱酸銅等)、クロム銅、ジルコニウム銅およびジルコニウムクロム銅のうちいずれか1つの溶製材よりなる。
また、本発明には、上記複合棒の製造方法が含まれる。この製造方法は、内部酸化法によって得られた分散強化銅合金粉末を銅または銅合金よりなる容器に封入してこれらを熱間押出加工することにより形成された芯材を、銅または銅合金の溶製材よりなる外管材に挿入して、これらを引抜き加工するものである。
上記の製造方法によれば、分散強化銅合金部の占める割合を必要最小限とした複合棒を容易に得ることができる。
本発明による複合棒の製造方法において、引抜き加工された芯材と外管材との界面を金属結合するために焼鈍を行うのが好ましい。
上記の場合、焼鈍を、真空または弱い還元雰囲気中、400〜700℃で、0.25〜24時間行うのが好ましい。また、焼鈍は、引抜き加工度が20%以上となった時点で開始するのが好ましい。
本発明による複合棒の製造方法において、容器と外管材の材質を同じにする場合がある。
上記の場合、引抜き加工された芯材と外管材の界面の結合強度が高くなり、また、焼鈍後に分散強化銅合金部以外の部分の性質が均一になるので、鍛造等の加工に有利である。
本発明には、上記複合棒から形成されているアーク溶接用コンタクトチップが含まれる。
コンタクトチップは、通常、材料となる棒を所要の外観形状に切削加工し、かつ中心部に細孔をあけることによって形成される。この細孔の中に溶接ワイヤが通されて、通電されるため、細孔の周囲に摩耗やスパッタによる変質が生じることがある。本発明によるコンタクトチップの場合、細孔の周囲のみが、上記のような変質を生じ難い分散強化銅合金部から形成される。したがって、本発明のコンタクトチップによれば、アルミナ分散銅合金棒から形成されている従来のコンタクトチップとほぼ同等の導電性、耐熱性および耐摩耗性を備えているにもかかわらず、大幅にコストを下げることができる。
さらに、本発明には、上記複合棒から形成されている抵抗溶接用電極が含まれる。
電極は、通常、材料となる棒に所要の鍛造および/または切削を施すことによって形成される。特に、自動車の組立ライン等で用いられる電極は、電流強度と加圧力を向上させるために、先端部が細くなされており、この先端部が溶接時に最も損耗し易い。本発明によるコンタクトチップの場合、先端部のみが、上記のような損耗が生じ難い分散強化銅合金部から形成される。したがって、本発明の抵抗溶接用電極によれば、溶接性とコストを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明による複合棒の材料として用いられれる芯材および外管材の横断面図である。
図2は、本発明による複合棒の横断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
平均粒径50μmのCu−0.3mass%Al合金粉末を水アトマイズ法により作製した。このCu−Al合金粉末に、平均粒径5μmの亜酸化銅粉末を、アルミニウムが酸化する化学量論量に相当するように混合した。そして、得られた混合粉末を、アルゴンガス雰囲気中、850℃で8時間加熱保持し、さらに、水素ガス中、500℃で3時間加熱保持した。こうして、銅マトリックス中にアルミナが分散したアルミナ分散強化銅粉末を作製した。
次に、アルミナ分散強化銅粉末を、無酸素銅よりなる外径250mm×内径235mmの蓋付き円筒容器に封入して、800℃で直径30mmに水中押出加工し、さらにこれを引抜き加工して、直径6.5mmの棒状芯材を得た。図1(a)に示すように、芯材(1)は、その外皮部に無酸素胴部(2)を有し、残りの内側部分がアルミナ分散強化銅合金部(3)となされている。アルミナ分散強化銅合金部(3)におけるアルミナの含有量は、約0.5mass%であった。
これとは別に、ジルコニウムクロム銅合金を溶解・鋳造し、得られた鋳塊を熱間押出、圧延、引抜き加工することにより、外径25mm×内径7mmの外管材(4)を作製した(図1(b)参照)。
そして、外管材(4)に芯材(1)を挿入して、これらを直径12mmに引抜き加工した後、弱い還元ガス雰囲気(H+COが4%含まれる不活性ガス)中、500℃で1時間焼鈍した。こうして、図2に示すような複合棒(5)を得た。
上記の複合棒(5)において、アルミナ分散強化銅合金部(20)は、その直径(B)が3mmであって、棒(5)全体の外径(A)(12mm)に対して25%の割合を占めている。アルミナ分散強化銅合金部(20)の周囲には、厚さ0.2mmの無酸素銅部(30)を介して、ジルコニウムクロム銅部(40)が形成されている。
(比較例1)
実施例1の工程中で作製したアルミナ分散強化銅粉末と同じものを、無酸素銅よりなる外径250mm×内径235mmの蓋付き円筒容器に封入して、800℃で直径30mmに水中押出加工し、さらにこれを引抜き加工して、直径12mmのアルミナ分散強化銅棒を得た。
上記のアルミナ分散強化銅棒にあっては、アルミナ分散強化銅合金部の直径が11.3mmであり、これは、棒全体の外径(12mm)に対して94%の割合を占めている。
実施例1の複合棒(5)および比較例1のアルミナ分散強化銅棒の製造コストを算出してこれらを比較したところ、実施例1では比較例1の約2分の1のコストしかかかっていなかった。
また、実施例1の複合棒(5)および比較例1のアルミナ分散強化銅棒について、導電率および硬さを測定した。
実施例1の複合棒(5)の導電率は、アルミナ分散強化銅合金部において80%IACSであった。また、複合棒(5)の硬さは、アルミナ分散強化銅合金部(20)において165HVであり、ジルコニウムクロム銅部(40)において170HVであった。
一方、比較例1のアルミナ分散強化銅棒の導電率は、アルミナ分散強化銅合金部において80%IACSであった。また、上記棒の硬さは、アルミナ分散強化銅合金部において165HVであり、外皮部の無酸素銅部において90HVであった。
以上から明らかなように、本発明による複合棒(5)(実施例1)は、従来のアルミナ分散強化銅棒(比較例1)とほぼ同等の優れた導電率および耐摩耗性を有するにもかかわらず、約2分の1のコストで製造することができる。
【実施例2】
実施例1で作製した複合棒(5)に所要の切削加工を施し、さらに中心部にドリルで直径1.2mmの孔をあけて、MIG溶接用コンタクトチップを作製した。
(比較例2)
比較例1で作製したアルミナ分散強化銅棒に、実施例2と同様の切削加工および孔あけ加工を施し、MIG溶接用コンタクトチップを作製した。
(比較例3)
ジルコニウムクロム銅の溶製材よりなる直径12mmの棒に、実施例2と同様の切削加工および孔あけ加工を施し、MIG溶接用コンタクトチップを作製した。
実施例2ならびに比較例2および3のコンタクトチップを使用して軟鋼板のMIG溶接を行った場合の溶接寿命(連続して溶接できる時間)を測定した。評価は、軟鋼板(板厚5mm)のドラムを回転させ、トーチをドラムの長さ方向に少しずつ移動させながらビードを置いていき、余盛が連続して形成されなくなるまでの時間によって行った。
実施例2のコンタクトチップを使用した場合の溶接寿命は、比較例2のコンタクトチップを使用した場合のそれとほぼ同等であり、比較例3のコンタクトチップを使用した場合の溶接寿命の約4倍であった。
【実施例3】
実施例1と同じ要領で作製した直径16mm(アルミナ分散強化合金部の直径7mm)の複合棒(5)を所要の形状に鍛造、切削して、抵抗スポット溶接用電極を作製した。電極の形状はCR(ドーム)形とし、先端の平坦部の直径を5mmとした。
(比較例4)
比較例1と同じ要領で作製した直径16mm(アルミナ分散強化合金部の直径15mm)のアルミナ分散強化銅棒に、実施例3と同様の加工を施し、抵抗スポット溶接用電極を作製した。
(比較例5)
ジルコニウムクロム銅の溶製材よりなる直径16mmの棒に、実施例3と同様の切削加工を施し、抵抗スポット溶接用電極を作製した。
実施例3ならびに比較例4および5の電極を使用して、亜鉛メッキ鋼板のスポット溶接を行った場合の電極寿命(打点数)を測定した。評価は、ナゲット(溶融部)径が4√t(t=板厚)を初めて下回った打点数にて行った。
実施例3の電極を使用した場合の電極寿命は、比較例4の電極を使用した場合のそれとほぼ同等であり、比較例5の電極を使用した場合の電極寿命の約2.5倍であった。
【実施例4】
容器の材質を外管材と同じジルコニウムクロム銅合金とした点を除いて、実施例1と同じ要領で複合棒を作製した。そして、この複合棒に実施例3と同様の鍛造、切削加工を施して、抵抗スポット溶接用電極を作製した。
実施例4における複合棒の加工性を実施例3と比較すると、実施例4の方が複合棒の加工、特に鍛造を容易に行うことができた。
【産業上の利用可能性】
以上の通り、本発明は、必要最小限の分散強化銅合金部を有する複合棒を提供するものであり、特に、アーク溶接用コンタクトチップ、抵抗溶接用電極等の導電用材料として、従来のアルミナ分散銅棒と同等の高性能を持つにもかかわらず、低コストで供給できる点において有用である。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも外皮部を除いた内側部分に分散強化銅合金部を有する芯材を、銅または銅合金よりなる外管材に挿入して、これらを引抜き加工することにより形成されており、棒全体の径に対する分散強化銅合金部の径の比が0.1〜0.49となされている、複合棒。
【請求項2】
棒全体の径に対する分散強化銅合金部の径の比が0.15〜0.4となされている、請求項1記載の複合棒。
【請求項3】
分散強化銅合金部が、銅マトリックス中に、アルミナ、ジルコニア、トリア、イットリア、ベリリアおよびボロニアのうち少なくともいずれか1つの酸化物を分散させたものである、請求項1または2記載の複合棒。
【請求項4】
分散強化銅合金部中の酸化物の量が0.15〜1質量%である、請求項3記載の複合棒。
【請求項5】
芯材が、内部酸化法によって得られた分散強化銅合金粉末を銅または銅合金よりなる容器に封入してこれらを熱間押出加工することにより形成されており、分散強化銅合金部が、芯材のうち銅または銅合金よりなる外皮部を除いた内側部分に形成されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の複合棒。
【請求項6】
外管材が、純銅、クロム銅、ジルコニウム銅およびジルコニウムクロム銅のうちいずれか1つの溶製材よりなる、請求項1〜5のいずれか1つに記載の複合棒。
【請求項7】
請求項1記載の複合棒を製造する方法であって、内部酸化法によって得られた分散強化銅合金粉末を銅または銅合金よりなる容器に封入してこれらを熱間押出加工することにより形成された芯材を、銅または銅合金の溶製材よりなる外管材に挿入して、これらを引抜き加工する、複合棒の製造方法。
【請求項8】
引抜き加工された芯材と外管材との界面を金属結合するために焼鈍を行う、請求項7記載の複合棒の製造方法。
【請求項9】
焼鈍を、真空または弱い還元雰囲気中、400〜700℃で、0.25〜24時間行う、請求項8記載の複合棒の製造方法。
【請求項10】
焼鈍を、引抜き加工度が20%以上となった時点で開始する、請求項8または9記載の複合棒の製造方法。
【請求項11】
容器と外管材の材質を同じにする、請求項8〜10のいずれか1つに記載の複合棒の製造方法。
【請求項12】
請求項1記載の複合棒から形成されている、アーク溶接用コンタクトチップ。
【請求項13】
請求項1記載の複合棒から形成されている、抵抗溶接用電極。

【国際公開番号】WO2004/096468
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571302(P2004−571302)
【国際出願番号】PCT/JP2003/005496
【国際出願日】平成15年4月30日(2003.4.30)
【出願人】(591194399)関西パイプ工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】