説明

複合構造材

【課題】衝撃エネルギの吸収特性と軽量化とを高次元に両立し得る車体フレームを構成することのできる複合構造材を提供する。
【解決手段】軽金属材料からなる中空閉断面をなすビーム部材(サイドシル6)の側壁13・14の対向内面同士間に、曲げ荷重の加わる向きにその軸線を延在させた補強用円筒体12を設け、円筒体の圧縮応力によってビーム部材の曲げ応力が急激に低下することを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造材に関し、特に、自動車の車体フレームに適した複合構造材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、燃料消費量の低減や操縦応答性の向上の観点から、より一層の軽量化が望まれており、アルミニウム合金などによる引き抜き(押し出し)材でフレームを構成することが既に実用に供されている。しかしアルミニウム合金は、スチールに比して剛性が低く、スチール製のフレームと同等の剛性を得ようとすると断面積を大きくせざるを得ないため、さほど軽量化を推進することはできない。そこでこのような不都合に対処し得る構造材として、軽合金材で形成された中空閉断面の構造材に炭素繊維強化樹脂材の板を接着した複合材が提案されている(特許文献1を参照されたい)。
【特許文献1】再表99/010168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、自動車のフレーム用構造材に要求される要件として、高剛性であることのみならず、衝突時の衝撃を高効率に吸収し得ることが挙げられるが、文献1に記載のようなハイブリッド材では、塑性変形後の急激な応力低下を抑制することはできず、衝突時の衝撃エネルギの吸収性の面について、満足できる特性を得ることはできなかった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の課題を解決すべく案出されたものであり、その主な目的は、衝撃エネルギの吸収特性と軽量化とを高次元に両立し得る車体フレームを構成することのできる複合構造材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために本発明の請求項1は、軽金属材料からなる中空閉断面をなすビーム部材(サイドシル6)の側壁13・14の対向内面同士間に、曲げ荷重の加わる向きにその軸線を延在させた補強用円筒体12を設けたことを特徴とするものとした。特に、前記補強用円筒体を、繊維強化樹脂材で形成するもの(請求項2)としたり、またこの補強用円筒体を、複数個並列させると共に、互いに隣り合うもの同士の一部を、長手方向及び曲げ荷重の加わる方向に直交する向きから見て重なり合わせるもの(請求項3)としたりすると良い。
【0006】
更に、請求項4においては、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の複合構造材を、曲げ荷重が加わる面の反対側の面に、補強用平板15を接着したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0007】
このような本発明の請求項1の構成によれば、円筒体の軸方向についての圧壊時に作用する座屈応力により、安定したエネルギ吸収特性が得られる。特に請求項2の構成によれば、繊維が剥がれながら圧壊するので、応力の低下が緩慢になり、安定した高エネルギ吸収特性が得られる。また請求項3の構成によれば、互いに隣り合うもの同士の接触面の脆弱化を抑制することができ、請求項4の構成によれば、さらなる強度増大に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明が適用される自動車用フレームの概略構成図である。このフレームは、例えばアルミニウム合金の引き抜き(押し出し)材で形成された種々の構造材を互いに溶接結合することで組み立てられており、ダッシュボードロワクロスメンバ1にその後端を結合して前方へ延出された左右一対のフロントサイドフレーム2と、両フロントサイドフレーム2の前端に結合されたバンパステー3と、リアクロスメンバ4にその前端を結合されて後方へ延出された左右一対のリアサイドフレーム5と、ダッシュボードロワクロスメンバ1とリアクロスメンバ4との左右両側端間を連結するように前後方向に延設された左右一対のサイドシル6と、居室の床下で左右のサイドシル6同士間を連結するように設けられたミドルクロスメンバ7とを備えている。
【0010】
車体前後方向に延設されたサイドシル6は、図2に示すように、角筒の中空閉断面内における上下方向の中間部に隔壁11が設けられて断面形状が日の字形をなしており、クロスメンバが接続された部位同士の中間部に、アラミド繊維や炭素繊維などで強化した繊維強化樹脂材(以下FRP材)で形成された複数個の円筒体12が挿入されている。
【0011】
これらの円筒体12は、サイドシル6の左右の側壁13・14の対向内面同士間に、サイドシル6の長手方向に直交する向き、換言すると、側方衝突時に曲げ荷重が入力する方向にその軸線を延在させて並列に隣接配置されている。
【0012】
これに加えて、車体外側方からの曲げ荷重がサイドシル6に加わった際に引っ張り応力が作用する面、即ち車室側の壁14の外側面に、FRP材からなる平板15が、例えば両面テープ16などを用いて接着されている。
【0013】
ここで互いに隣り合う円筒体12同士の当接面に荷重中心が合致すると、円筒体12による補強効率が低下するので、互いに隣り合う円筒体12同士の一部が、サイドシル6の長手方向及び曲げ荷重の作用方向に直交する方向から見て重なり合うように(図3中のA寸法参照)、円筒体12同士の中心を上下にずらして配置すると良い(図3中のB寸法参照)。また、上下二段とする場合も、円筒体12同士の中心を上段と下段とでサイドシル6の長手方向についてずらすと良い(図3、4中のC寸法参照)。複数の円筒体12をこのように配置することにより、サイドシル6の長手方向についての座屈応力の局所的な低下を最少限に抑えることができる。
【0014】
アルミニウム合金の中空材だけで構成した従来のサイドシルによると、側方からの曲げ荷重が集中すると、断面を維持できなくなって局所的に変形が増大する(図5参照)。すると図6に破線で示すように、応力が急激に低下して変形が進行するため、車室内への進入速度が高くなって乗員へのダメージが大きくなる心配がある。それが本発明によれば、側方から車室内に向けての荷重が加わった際に、円筒体12の圧縮応力により、図6に実線で示すように、曲げ応力が急激に低下することを抑制することができる。
【0015】
円筒体12の軸方向端面には、適宜な角度の面取り17が施してある。これにより、圧壊初期荷重を低減して降伏点の過度な上昇を抑制し、且つ断面形状を円形とすることで応力分布が不均一となることを抑制し得ると共に、層状に重なった繊維が徐々に剥がれるようにすることで応力が急激に低下することを抑制することができ、衝撃エネルギーの吸収量を増大することができる。
【0016】
またサイドシルの車室側の面に接着した平板15により、車体外側方からの曲げ荷重に対する引っ張り応力で変形の進行を制御することができる。
【0017】
円筒体12をサイドシル6内に固定するに当たっては、図7に示すように、複数の円筒体12同士を接着して適宜な長さの円筒体群Gを予め製作しておくと共に、サイドシル6におけるこの円筒体群Gのうちの例えば両端に位置するものが来るべきところに孔18を予め開けておく。なお、この孔18の直径は、円筒体12の外径寸法よりも小さく、内径寸法より僅かに大きいものとする。
【0018】
他方、補強用平板15のサイドシル6との対向面に、円筒体12の内径に嵌合し得る寸法の短管19を固着したものを製作しておく。
【0019】
そして円筒体群Gをサイドシル6内に挿入し、孔18と対応する円筒体12との相互位置合わせを行い、短管19に接着剤を塗布した上で孔18を経て円筒体12に嵌着し、かつ平板15をサイドシル6の車室側の側壁14の外面に接着する。これにより、複数の円筒体12および平板15がサイドシル6と一体化する。
【0020】
サイドシル6に対する円筒体12の固定手段としては、図8に示すように、自己潤滑性及び弾性に富む合成樹脂材で形成され、片持ちの板ばね片20がその上下面に斜め方向に突設された円筒体ホルダ21にて複数の円筒体12を保持し、円筒体ホルダ21ごとサイドシル6内に挿入する手法も考えられる。
【0021】
ここで円筒体ホルダ21の板ばね片20の遊端同士間の寸法Dは、サイドシル6を構成する角パイプの上下間寸法Eよりも大きくされており、円筒体ホルダ21をサイドシル6内に挿入すると、板ばね片20が撓んでサイドシル6の上下の壁に圧接力を作用させ、これによって円筒体ホルダ21を介して円筒体12がサイドシル6内に位置決めされるようになっている。
【0022】
図9に示すように、サイドシル6の上下壁の少なくともいずれか一方に、断面形状が鋸歯状をなす噛み合い爪22を列設したラック部材23を固着しておき、この噛み合い爪22に片持ち板ばね片20の遊端を引っ掛けて抜け止めすることもできる。この場合は、板ばね片20の傾きの方向と噛み合い爪22の傾斜面の方向との設定により、一方向へのみの進行が許容され、逆方向への退行が禁止される。
【0023】
なお、本発明の適用は、上述したサイドシルに限定されるものではなく、曲げ荷重に対する変形特性を所望に応じて調整したい部位に、広汎に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明が適用される車体フレームの概略斜視図である。
【図2】本発明による補強が施されたサイドシルの縦断面図である。
【図3】本発明による補強が施されたサイドシルの図2中のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】別の実施形態を示す図3と同様の断面図である。
【図5】従来のサイドシルの曲げ変形の態様を示す上面図である。
【図6】従来のものと本発明のものとを比較する応力−変位特性線図である。
【図7】本発明の一実施形態を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施形態を示す側面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0025】
6 サイドシル
12 補強用円筒体
13・14 側壁
15 補強用平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属材料からなる中空閉断面をなすビーム部材の側壁の対向内面同士間に、曲げ荷重の加わる向きにその軸線を延在させた補強用円筒体を設けたことを特徴とする複合構造材。
【請求項2】
前記補強用円筒体は、繊維強化樹脂材で形成されることを特徴とする請求項1に記載の複合構造材。
【請求項3】
前記補強用円筒体を、複数個並列させると共に、互いに隣り合うもの同士の一部を、長手方向及び曲げ荷重の加わる方向に直交する向きから見て重なり合わせたことを特徴とする請求項1若しくは2に記載の複合構造材。
【請求項4】
曲げ荷重が加わる面の反対側の面に、補強用平板を接着したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の複合構造材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−237944(P2007−237944A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63579(P2006−63579)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】