説明

複合磁性粘土材とそれを用いた磁性コアおよび磁性素子

【課題】非晶質金属磁性粉末を用いて、熱処理等の余計な工程を介さず、低加圧あるいは非加圧成形下で高密度で高い透磁率と低コア損失が得られる複合磁性粘土材とそれを用いた磁性コアおよび磁性素子を提供する。
【解決手段】2種以上の平均粒子径の異なる非晶質金属磁性粉末と絶縁結着材の複合材で構成され、且つ、粘土状になっているこの複合磁性粘土材11を用いて低加圧或いは非加圧成形下で、予め所定の温度に加温させた型内に充填し、単位平方センチメートルあたり1kgf〜1×103kgf以内の範囲で形成してなることを特徴とする磁性コア。さらに、磁性素子10、15は、この複合磁性粘土材11を用いて低加圧或いは非加圧成形下で、少なくとも一つの空芯コイル2、または、空芯コイルを予め成形した磁性コア4に挿着し埋設してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低加圧または非加圧成形に適した複合磁性粘土材とそれを用いた磁性コアおよびインダクタ等の磁性素子。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、サーバ用MPUの処理速度の高速化に伴って供給電源の大電流化が進んでいる。そのような中、DC/DCコンバータに使用されるパワーインダクタにおいても小型化、大電流化に伴って、特許文献1、2および図1に示すように、空芯コイル2を磁性材料を含有した外装樹脂1に埋設し、端子3を外部に引き出し一体成形したインダクタ等の製品化が進んでいる。これに使用される磁性材料は、金属磁性粉末と樹脂等の絶縁結着材からなっており、金属磁性粉末と樹脂を混合、混練し顆粒粉末にすることにより金型内で圧粉成形することでダストコアを構成しているのが一般的である。
【0003】
この様なコイルは、飽和磁束密度の高い金属磁性粉末を圧粉して磁芯としているため、小型化に有利で、フェライトに比べて重畳特性も優れ、大電流化のニーズに沿ったインダクタと言える。
しかしながら、フェライト磁芯に比べ高い透磁率が得られ難いという欠点がある。その透磁率を向上させるためには、金属磁性粉の体積占有率を高めれば良く、その為に成形体密度を高めなければならないが、顆粒粉末による粉体摩擦により単位平方センチメートルあたり数トンから数十トンの成形圧力をかけなければならない。
【0004】
このように高い透磁率を得ようとするには成形圧力をかければ良いのだが、問題もある。この成形圧力により、成形体の金属磁性粉内に機械的応力で歪が発生する。この歪は、コア損失となり、外部から磁界を加えたときに熱として放出されてしまう。パワーインダクタとしてDC/DCコンバータに搭載されれば回路効率に直接影響を受ける。
【0005】
特に非晶質金属磁性粉は、この機械的応力を歪として敏感に反応する。また、その非晶質構造から材質自体が非常に硬いことが要因で、コアとして粉末を固めようとすると、そのコア形状を維持させるために成形圧力を単位平方センチメートルあたり数十トンかける必要があり、非晶質構造に期待される従来の優れた特性が損なわれる。
また、このような成形圧力が高い場合、空芯コイルが埋設されたインダクタ構造では、巻回され隣接する線材が線間や粉体接触により線材の絶縁皮膜が破れ、ショート問題が起きる可能性が大きい。
【0006】
歪の影響を除去する方法としては、焼鈍などの熱処理を行えば良いが、短時間でその熱処理を施す場合、熱処理温度が400℃前後またはそれ以上の温度が必要である。しかしながら、その熱処理温度では、粉体間を結合する絶縁結着材の樹脂や上述の線材皮膜が劣化し、緩和のための焼鈍処理が結果的に悪影響を及ぼす。
さらにこの様な熱処理工程は、製造コストに負担をかけてしまう。
【0007】
【特許文献1】特開2004−197218号公報
【特許文献2】特許第3160685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように非晶質金属磁性粉末は優れた磁気特性を有するものの、圧粉コアとして構成しようとした場合、その高い成形圧力により本来の特性を失ってしまう。また、焼鈍などの熱処理により緩和させることも可能であるが、製造コストなど他の負担が大きくなってきてしまう。
【0009】
本発明の目的は、非晶質金属磁性粉末を用いて、熱処理等の余計な工程を介さず、低加圧あるいは非加圧成形下で高密度で高い透磁率と低コア損失が得られる複合磁性粘土材とそれを用いた磁性コアおよび磁性素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の複合磁性粘土材は、2種以上の平均粒子径の異なる非晶質金属磁性粉末と絶縁結着材の複合材で構成され、且つ、粘土状になっているこの複合磁性粘土材を用いて低加圧或いは非加圧成形下で、予め所定の温度に加温させた型内に充填し、単位平方センチメートルあたり1kgf〜1×103kgf以内の範囲で形成してなることを特徴とする磁性コア。
さらに、磁性素子は、この複合磁性粘土材を用いて低加圧或いは非加圧成形下で、少なくとも一つの空芯コイル、または、空芯コイルを予め成形した磁性コアに挿着し埋設してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合磁性粘土材及びそれを用いた磁性コアおよび磁性素子は、非晶質金属磁性粉末と樹脂バインダを混練し粘土状にしているため、従来の顆粒粉末のように粉体摩擦が生じない。そのため、低加圧或いは非加圧成形下で高密度な磁性体コアとして構成させることが可能であり、焼鈍処理工程などの工程を介さず高い透磁率と低コア損失が得られる。また、コイルを埋設した磁性素子においては、高インダクタンスで低コア損失のため無駄な熱エネルギーの変換が無く高回路効率を実現できる。また、低加圧或いは非加圧成形下で構成されるため、内部の輪線コイルにダメージを与えることがなくなるので、信頼性の向上がはかれる。
【実施例】
【0012】
本発明の複合磁性粘土材の実施例について述べる。
ここで、粘土材とは、「絶縁結着材と磁性粉末が混ざり合った複合材において、それ同士が互いに連続性をもち固体状で可塑性があるもの」と定義する。
【0013】
まず、平均粒径23μmの鉄系非晶質金属粉末と絶縁結着材として有機樹脂を重量比でおおよそ96対4の割合で混合、混練させて粘土状の複合磁性粘土材を得る。
この複合磁性粘土材をトロイダルリング状の型に充填しコアを得る。
特性比較として、同重量比で作製した顆粒状の所謂圧粉成形でトロイダルリング状のコアを得る。ちなみに複合磁性粘土材と顆粒状に仕上げる際、それに適した有機樹脂を用いた。
【0014】
上記で得られたコアをB-Hアナライザーにて300kHz-20mTの条件下で測定した。
図2は、単位平方センチメートルあたりの成形圧力に対する透磁率μの関係を示す。図3は、単位平方センチメートルあたりの成形圧力に対するコアロスの関係を示す。
【0015】
図2に示すように、圧粉成形コアは、成形圧力が0.1×103kgf/cm2でμが8.65、5×103kgf/cm2では13.25、10×103kgf /cm2で、14.72となっている。一般に一体成形型のパワーインダクタとして巻き線抵抗などを考慮すれば、最低限必要な透磁率は20〜25程度必要である。
非晶質金属で構成した圧粉成形では、成形圧力が10×103kgf / cm2以上の高い成形圧力が必要であることがわかる。ただ、図3に見られるように、成形圧力が1×103kgf / cm2成形以上を境に、急激にコアロスが増大しており、成形圧力が10×103kgf /cm2以上の圧力では必要な透磁率が得られてもコアロスに悪影響することがわかる。
【0016】
一方、粘土材成型コアは、図2に示すように、成形圧力が0.1×103kgf/cm2ですでにμが15以上と高い透磁率が得られ、5×103kgf /cm2ではμが19.27と圧粉成形コア品に比べ圧倒的に高い数値を示す。
また、コアロスに関しても、圧粉成形コア品に比べ低損失であることが図3から読み取れる。ただ、この場合においても、成形圧力が1×103kgf/cm2を境に急激にコアロスが増大しており、この成形圧以下で構成することが望ましい。
【0017】
以上のように顆粒粉末を圧粉成形する場合、高い透磁率を得ようとすると成形圧力が10×103kgf/cm2以上の成形圧力が必要であるが、コアロスには悪影響を及ぼす。一方、粘土材成型にした場合、低加圧状態でも高い透磁率と低コアロスが実現出きることが実験的に判明した。
【0018】
次に本発明の一実施例である磁性コアについて述べる。
平均粒径23μmと平均粒径4.6μmの鉄系非晶質金属磁性粉を重量比100対0、75対25、50対50の割合で混合した混合粉末を得る。
次に各々の混合粉末を絶縁結着材として有機樹脂と共に混合粉末に対して有機樹脂を重量比で4.8wt.%の割合で混合、混練させ粘土状の各々の複合磁性粘土材を得る。ここで有機樹脂と述べたが、粘土状の状態になるものであるならばこれに限定されることはない。
各々の複合磁性粘土材を予め所定の温度に加温させトロイダルリング状の金型に充填し、単位平方センチメートルあたり1kgf〜1×103kgf以内の範囲で形成し磁性コアを得る。
【0019】
上記で得られた磁性コアを、B-Hアナライザーにて300kHz-20mTの条件下にて測定した。 表1に、その結果を示す。
【表1】

【0020】
表1に示すように、微粉非晶質粉末の混合割合が100対0に対して、2種類の異なる平均粒径の混合により充填率が向上し、重量比75対25の配合割合では、1kgf/cm2の低加圧で相対密度が99.74%と、ほぼ理論密度に近い値になっている。また、透磁率も従来の圧粉成形に近い値であり、コアロスも低加圧により低い値を実現している。また、調査の結果、2種類以上の磁性粉末は粒子径が大きいA粒子の直径に対して粒子径が小さいB粒子の直径が1/4以下の粒子径で構成したものがより好ましいことが判明した。
【0021】
次に、上記、平均粒径23μmと平均粒径4.6μmの非晶質金属磁性粉を重量比75対25の割合で混合し、有機樹脂と共に混合粉末に対して有機樹脂を重量比で4wt.%にして混合、混練させ複合磁性粘土材を得る。
この複合磁性粘土材にα-テルピネオール等の高沸点の有機溶剤を粘土材に対して重量比で5wt.%混ぜてペースト状(にするの試料を)の複合磁性材を得る。
この複合磁性材をトロイダルリング状の型に充填し、室温で1時間放置後、50℃で16時間、85℃で5時間、さらに150℃で1時間30分の条件下で加熱硬化させて磁性コアを得る。
【0022】
上記磁性コアをB-Hアナライザーにて300kHz-20mTの条件下にて測定した結果を、表2に示す。
【表2】

【0023】
表2に見られるように、自然沈降により相対密度90%以上、透磁率が20.39、コアロスが380.02kW/m3と非加圧成形においても、優れた磁気特性を示す。
このように充填率を高めるため、粉体間の空隙を埋めるように平均粒径の異なる微粉末を混ぜ合わせ、粒度を調整することは一般的ではあるが、本発明の特徴は、更に非晶質金属で構成された複合磁性粘土材であること、低加圧、非加圧下であることを因子として加えられている点に本発明の意義がある。
【0024】
次に、本発明の具体的実施例1である磁性素子について述べる。
平均粒径が23μmの鉄系非晶質合金磁性粉に対して平均粒径が5μmの鉄系非晶質合金磁性粉を重量比で75対25の割合で混ぜ合わせて混合粉末を得る。
次に、この混合粉末を混合粉末に対して絶縁結着材として有機樹脂を重量比で4.8wt.%の割合で混合、混練させ粘土状の複合磁性粘土材を得る。
【0025】
図4は、上記、磁性素子を成形する工法例1を示す説明図である。
図4に示すように、金型5は、ダイス6、下パンチ7a、上パンチ7bから構成されている。ダイス6に下パンチ7aをセットし、金型5を予め所定の温度(実施例では130℃以上)に加温する。空芯コイル2を金型5内に挿着し、上記で得た複合磁性粘土材11を充填する。上パンチ7bをセットし、単位平方センチあたり1kgf〜1×103kgf以内の範囲で数秒加圧後、その状態で金型5を150℃まで加熱し、10分間加熱硬化させる。硬化終了した後、金型5から磁性素子を取り出し、外部端子となる端子3を所定の形状に折り曲げる。
図5は、上記工法例1により形成された磁性素子の断面図であり、図5(a)は空芯コイル2のみの磁性素子10の実施例であり、図5(b)は空芯コイル2を予め成形した磁性コア4に挿着した磁性素子15の実施例の断面図を示す。
【0026】
また、具体的実施例2として、平均粒径が23μmの鉄系非晶質合金磁性粉に対して平均粒径が5μmの鉄系非晶質合金磁性粉を重量比で75対25の割合で混ぜ合わせて混合粉末を得る。
次に、この混合粉末を混合粉末に対して絶縁結着材として有機樹脂を重量比で4wt.%の割合で混合、混練させ複合磁性粘土材を得る。
この複合磁性粘土材にα-テルピネオール等の高沸点の有機溶剤を複合磁性粘土材に対して重量比で5wt.%混ぜペースト状の複合磁性材を得る。
【0027】
図6は、上記、磁性素子を成形する工法例2を示す説明図である。
図6に示すように、耐熱性樹脂ケース20内に空芯コイル2を挿着し、上記で得た複合磁性材21を流し込む。その後、室温で1時間放置後、50℃で16時間、85℃で5時間、さらに150℃で1時間30分の条件下で加熱硬化させる。また、図5(b)で示したように、空芯コアを位置決めする底板を予め磁性コアで作成し、その磁性コアに空芯コアをセットした状態で磁性素子を作成してもよい。
【0028】
図7は、具体的実施例1および2で作製した磁性素子と、圧粉成形で作製した磁性素子を実際にDC/DCコンバーターに搭載し動作させた時の回路効率を比較した。図において、横軸は出力電流(Output Current)、縦軸は回路効率(Efficiency)を示す。
図7で明らかなように、具体的実勢例1および2は、圧粉成形品に比べ高回路効率となっており無駄な熱エネルギー変換が無いことから、本発明で得た磁性素子は高回路効率を実現できる。また、低加圧或いは非加圧で成形するため、内部の空芯コイルにダメージを与えることがなく良好な磁性素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】コイルを埋設してなる一体成形型インダクタの例を示す斜視図。
【図2】複合磁性粘土材の効果を示すための粉末成形品の成形圧力と透磁率の関係図。
【図3】複合磁性粘土材の効果を示すための粉末成形品の成形圧力とコアロスの関係図。
【図4】本発明の複合磁性粘土材を用いた磁性素子の工法例1を示す説明図。
【図5】本発明の複合磁性粘土材を用いた磁性素子の一例を示す断面図(a),(b)。
【図6】本発明の複合磁性粘土材を用いた他の磁性素子の工法例2を示す説明図。
【図7】本発明の複合磁性粘土材を用いた磁性素子と圧粉成形で作成した磁性素子との回路効率比較を示す特性図。
【符号の説明】
【0030】
1、11、21 外装樹脂(磁性材料)
2 空芯コイル
3 端子
4 磁性コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の平均粒子径の異なる非晶質金属磁性粉末と絶縁結着材が混ざり合った複合材であって、それ同士が互いに連続性をもち、固体上で可塑性があり、粘土状であることを特徴とする複合磁性粘土材。
【請求項2】
請求項1に記載の複合磁性粘土材を予め所定の温度に加温させた型内に充填し、単位平方センチメートルあたり1kgf〜1×103kgf以内の範囲で形成してなることを特徴とする磁性コア。
【請求項3】
請求項1に記載の複合磁性粘土材に高沸点有機溶剤を混ぜ合わせたペースト状の複合磁性材を型に充填し、加熱硬化させてなることを特徴とする磁性コア。
【請求項4】
請求項1に記載の複合磁性粘土材を少なくとも一つの空芯コイルと共に予め所定の温度に加温させた型内に充填し、単位平方センチメートルあたり1kgf〜1×103kgf以内の範囲で形成してなることを特徴とする磁性素子。
【請求項5】
請求項1に記載の複合磁性粘土材に高沸点有機溶剤を重量比で4〜10wt.%混ぜてペースト状にした複合磁性材を少なくとも一つの空芯コイルと共に所定の型に充填し、加熱硬化させてなることを特徴とする磁性素子。
【請求項6】
請求項4或いは5に記載の空芯コイルを予め成形した磁性コアに挿着し埋設してなることを特徴とする磁性素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−34102(P2010−34102A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191599(P2008−191599)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】