説明

複合粉末及びその製造方法

【課題】高強度、高靭性、高硬度を有し、サーメット製切削工具等に用いられた場合に優れた工具特性を発揮するサーメット製造用の複合粉末及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Ti系粉末と、Co及び/又はNiを含有する水溶性塩の溶液とを混合・乾燥して原料混合物を調整し、これを不活性ガス雰囲気中で熱処理して水溶性塩の熱分解処理を行い、その後還元処理を行うことにより、Ti系粉末の表面に、5〜30重量%のCo及び/又はNiの微細粒子粉末が付着する形で複合化しており、さらに、比表面積(BET値)が2.0m/g以上であり、酸素含有量が4.0重量%以下であるサーメット製造用複合粉末を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、すぐれた強度、靭性、硬さを有し、例えば、これをサーメット製切削工具等の原料粉末に用いた場合に、優れた工具特性を発揮するサーメット製造用複合粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に、サーメット製品の製造用原料粉末として用いられるチタン系粉末(例えば、炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなる粉末。以下、Ti系粉末で示す。)及びその製造法としては、例えば、窒化チタン粉末と炭化チタン粉末との混合粉末を熱処理して固溶化した炭窒化チタン粉末を得ることが知られている。
【0003】
また、特許文献1に開示されているように、例えば、3価のチタンイオンと錯化剤を含む水溶液に、Ti系粉末を加え攪拌し、該液をアルカリ性にした後に、コバルトイオン等の鉄族イオンを加えて攪拌することにより、Ti系粉末表面にコバルト等の鉄族金属をコーティングした複合粉末も知られている。
【特許文献1】特開2004−83935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、窒化チタン粉末と炭化チタン粉末との混合粉末を熱処理して固溶化する上記従来技術においては、炭素、窒素等の拡散を十分行わせるためには長時間を要するため、効率的な反応が行われるとはいえず、また、所望均一組成のTi系粉末を得ることは非常に困難であるため均質な特性を備えたサーメット製品を得ることは困難であった。
また、Ti系粉末表面にコバルト等の鉄族金属をコーティングする上記従来技術においても、コーティング量の調整が難しく、そのため、硬さ−強度−靭性バランスのとれたサーメット製品を得ることが困難であった。
そこで、本発明は、サーメット製切削工具等のすぐれた特性を備えたサーメット製品を製造するのに好適なTi系の複合粉末を提供することを目的とし、またこのようなTi系の複合粉末を簡易な方法で製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、サーメット製品の原料粉末として用いた場合にすぐれた強度、靭性、硬さを示す新たなTi系粉末について鋭意研究を行い、この要請に適う新たな組織構造を有するTi系複合粉末とその製造方法を見出した。
即ち、Ti系粉末と、Co及び/又はNiを含有する水溶性塩の溶液とを混合・乾燥して原料混合物を調整し、これを不活性ガス雰囲気中で熱処理し、水溶性塩の熱分解処理を行った後還元処理を行うことにより、個々のTi系粉末の表面には、Co及び/又はNiの微細粒子粉末が付着する形態で複合化している新たな組織構造の複合粉末を得ることができること、そして、この複合粉末を用いて、例えば、サーメット製切削工具を製造すると、該サーメット製切削工具は、高硬度、高靭性を備え、長期の使用にわたって、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮すること。
【0006】
この発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 平均粒径0.5〜2.5μmの炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末と、平均粒径100nm以下のコバルト及びニッケルの何れか1種または2種からなる微細粒子粉末が複合化された複合粉末において、
(a)上記コバルト及びニッケルの何れか1種または2種からなる微細粒子粉末は、上記チタン系粉末の表面に付着する形で複合化しており、
(b)上記コバルト及びニッケルの何れか1種または2種からなる微細粒子粉末の全粉末に対する含有割合は5〜30重量%であり、
(c)上記複合粉末の比表面積(BET値)は、2.0m/g以上であり、
(d)上記複合粉末中の酸素含有量は、4.0重量%以下である、
ことを特徴とするサーメット製造用複合粉末。
(2) 前記(1)に記載のサーメット製造用複合粉末の製造方法において、
炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末と、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩の溶液とを混合し、その後乾燥することによって、前記炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末が、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩を担持してなる原料混合物を調整し、
上記原料混合物を不活性ガス雰囲気中にて200〜500℃の温度で熱処理することによって、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩の熱分解処理を行い、炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末と熱分解反応生成物の混合物を形成し、
次いで、チタン系粉末と熱分解反応生成物からなる上記混合物を水素雰囲気中にて200〜900℃の温度で還元処理する、
ことを特徴とする前記(1)に記載のサーメット製造用複合粉末の製造方法。」
に特徴を有するものである。
【0007】
以下に、本発明について説明する。
【0008】
図1には、本発明の複合粉末の製造フローの一例を示す。
まず、図1にしたがって、本発明の製造方法の概略について説明する。
(イ)この例においては、Ti系粉末として炭窒化チタン粉末(以下、TiCN粉末で示す)を用い、また、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩の溶液として、硝酸Co水溶液及び/又は硝酸Ni水溶液を用い、
(ロ)Ti系粉末と硝酸Co水溶液及び/又は硝酸Ni水溶液とを、例えば、ボールミル中で5時間混合し、150℃で乾燥した後解砕し、TiCN粉末表面に硝酸Co及び/又は硝酸Niを担持する原料混合物を調整し、
(ハ)次いで、上記原料混合物を、例えば、窒素雰囲気中にて、300℃×1時間熱処理して、TiCN粉末表面の硝酸Co及び/又は硝酸Niを熱分解させ、TiCN粉末表面に熱分解反応生成物(例えば、酸化Co及び/又は酸化Ni)が生成したTiCN粉末と熱分解反応生成物の混合物を形成し、
(ニ)次いで、上記混合物を、水素雰囲気中にて、例えば、300℃×1時間熱処理して、TiCN粉末表面の熱分解反応生成物を還元することにより、
TiCN粉末表面に、Co及び/又はNiの微細粒子粉末が付着する形で複合化した新たな組織構造を有するTi系複合粉末を得ることができる。
【0009】
図2には、本発明の製造方法によって得られた上記Ti系複合粉末の走査電子顕微鏡写真を示すが、この図からもわかるとおり、TiCN粉末の表面には、Co及びNiの微細粒子粉末が付着する形で複合化した新たな組織構造が形成されていることが観察される。
【0010】
次に、まず、本発明の複合粉末について、より具体的かつ詳細に説明する。
本発明のサーメット製造用複合粉末は、平均粒径0.5〜2.5μmの炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるTi系粉末の表面に、平均粒径100nm以下のCo及び/又はNiの微細粒子粉末が付着する形で複合化した組織構造を有する複合粉末であるが、まず、上記Ti系粉末の平均粒径が0.5μm未満では原料Ti系粉末の酸素値が高くなり、その結果、複合粉末の酸素含有量が4.0%を超えてしまい、焼結後の焼結密度の低下、ひいては合金特性に悪影響を及ぼすためであり、一方、平均粒径が2.5μmを超えると、焼結後の組織が粗大になり、強度や靭性の低下を招くことから、Ti系粉末の平均粒径を0.5〜2.5μmと定めた。
また、Ti系粉末の表面に付着・複合化するCo及び/又はNiの微細粒子粉末の平均粒径が100nmを超えると、Ti系粉末表面への分散性が低下し、焼結後のサーメットの強度、靭性の低下を招くことから、Co及び/又はNiの微細粒子粉末の平均粒径は100nm以下と定めた。
【0011】
さらに、本発明では、Co及び/又はNiからなる微細粒子粉末の付着割合(重量%で、(Co粉末+Ni粉末)/全粉末×100)が5重量%未満であると、結合成分であるCo、Niの量が少なすぎるためサーメットの焼結性が低下し、一方、30重量%を超えると、結合成分であるCo、Niの量が多くなりすぎサーメット焼結体の硬度、強度が低下するので、微細粒子粉末の全粉末に占める含有割合は5〜30重量%と定めた。
【0012】
さらに、本発明では、Ti系粉末の表面にCo及び/又はNiの微細粒子粉末が付着・複合化した複合粉末の比表面積(BET値)を2.0m/g以上と定めたが、これは、Ti系粉末の表面へのCo及び/又はNiの微細粒子粉末の分散性を高め、もって、焼結後のサーメットの強度、靭性の向上を図るという理由によるものである。
【0013】
次に、本発明の複合粉末の製造方法について、より具体的かつ詳細に説明する。
(イ)まず、炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるTi系粉末と、Co及び/又はNiを含有する水溶性塩の溶液、例えば、硝酸Co(Co(NO)水溶液及び/又は硝酸Ni(Ni(NO)水溶液、とを混合し、その後乾燥することによって、前記Co及び/又はNiを含有する水溶性塩(例えば、硝酸Co,硝酸Ni)が前記Ti系粉末の表面に担持されてなる原料混合物を形成し、この原料混合乾燥物の塊を粒径が1.5mm以下となるように解砕する。
【0014】
Co及び/又はNiを含有する水溶性塩の溶液としては、硝酸Co(Co(NO)水溶液及び/又は硝酸Ni(Ni(NO)水溶液が好適であるが、これに限らず、乾燥後のTi系粉末の表面に、Co,Niの塩が担持されるようなCo及び/又はNiを含有する水溶性塩の溶液であれば、いかなるものでも使用することができる。
また、上記の混合は、Ti系粉末の表面を、上記水溶性塩の溶液で十分に濡らすために、例えば、ボールミル等による5時間程度攪拌することにより行なわれ、さらに、その後の乾燥は、粉末に付着している余分な水分を除去するとともに、Ti系粉末表面に上記水溶性塩(例えば、硝酸コバルト及び/又は硝酸ニッケル)を均一に担持するため、150℃前後の温度で行なわれる。
【0015】
(ロ)次に、上記原料混合物を、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、200〜500℃の温度範囲で熱処理することによって、過度の酸化を避けつつ、Ti系粉末の表面に担持されるCo及び/又はNiの水溶性塩の熱分解処理を行い、Ti系粉末と熱分解反応生成物の混合物を形成する。
【0016】
上記熱分解処理によって、原料混合物中のTi系粉末表面に担持されていたCo及び/又はNiの水溶性塩(例えば、硝酸コバルト及び/又は硝酸ニッケル)の熱分解が生じると同時に、Ti系粉末表面の一部には、例えば、酸化コバルト及び/又は酸化ニッケルのような酸化物が形成されるが、Ti系粉末の酸化物の形成を極力避けるために、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で熱処理を行い、かつ、熱処理温度も200〜500℃という比較的低温の温度範囲で熱処理を行うことにより、Ti系粉末の過度の酸化を避けつつ、Ti系粉末と熱分解反応生成物の混合物を形成する。
【0017】
(ハ)次に、Ti系粉末と熱分解反応生成物からなる上記混合物を、水素雰囲気中で、200〜900℃の温度範囲で熱処理することによって、前記熱分解処理で一部に形成された酸化コバルト及び/又は酸化ニッケルのような酸化物の還元を行い、Ti系粉末表面にCo及び/又はNiからなる微細粒子粉末が付着・複合化する複合粉末を形成する。
【0018】
上記(イ)〜(ハ)からなる製造方法によって、
平均粒径0.5〜2.5μmのTi系粉末と、平均粒径100nm以下のCo及び/又はNiからなる微細粒子粉末が複合化され、
(a)前記Co及び/又はNiからなる微細粒子粉末は、前記Ti系粉末の表面に付着する形で複合化しており、
(b)前記Co及び/又はNiからなる微細粒子粉末の全粉末に対する含有割合は5〜30重量%であり、
(c)前記複合粉末の比表面積(BET値)は、2.0m/g以上であり、
(d)前記複合粉末中の酸素含有量は、4.0重量%以下である、
という本発明のサーメット製造用複合粉末を得ることができる。
【0019】
そして、この複合粉末を原料粉末として、サーメット製品、例えば、サーメット製切削工具を焼結により製造したところ、この切削工具は、高硬度、高靭性、高強度を備え、長期の使用にわたってすぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮するものであった。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、本発明のサーメット製造用複合粉末は、Ti系粉末と、その表面に付着・複合化するCo及び/又はNiからなる微細粒子粉末との新たな組織構造を有し、そのため、この複合粉末を用いて製造されたサーメット製品は、高硬度、高靭性及び高強度を備え、例えば、この複合粉末を用いて製造されたサーメット製切削工具においては、長期の使用にわたって、すぐれた耐欠損性及び耐摩耗性を発揮し、工具性能の向上ばかりか、工具の長寿命化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
Ti系粉末として、炭素と窒素の含有割合が原子比で1:1である炭窒化チタン(TiC0.50.5)粉末を以下の方法で製造した。
まず、酸化チタンとカーボンブラックを混合した後、窒素雰囲気中で1800℃で熱処理することで、炭素と窒素の含有割合が原子比で1:1であり、平均粒径が1.31μmの炭窒化チタン粉末(TiC0.50.5粉末)を得た。
【0023】
次に、上記TiC0.50.5粉末を、2.5mol/LCo及び2.5mol/LNiを含有する(Co(NO+Ni(NO)水溶液と混合し、ホールミル中で5時間混合した後、150℃で5時間乾燥し、これを解砕し、平均粒径1.5mm以下の原料混合物を形成した。
次いで、この原料混合物を、窒素ガス雰囲気中で300℃×1時間加熱して、熱分解処理を行い、TiC0.50.5粉末と熱分解反応生成物(酸化Co,酸化Ni等)の混合物を形成した。
その後、上記TiC0.50.5粉末と熱分解反応生成物の混合物を、水素ガス雰囲気中で300℃×1時間加熱して、還元処理を行うことにより、本発明の複合粉末(以下、本発明粉末1という)を製造した。
【0024】
また、上記本発明粉末1の製造において、TiC0.50.5粉末と混合する(Co(NO+Ni(NO)水溶液のCo濃度を1.35mol/Lに変更し、さらに、Ni濃度を1.35mol/Lに変更し、それ以外は、上記本発明粉末1の製造工程と全く同じ工程で、本発明の複合粉末(以下、本発明粉末2という)を製造した。
【0025】
上記本発明粉末1の製造において、TiC0.50.5粉末と混合する(Co(NO+Ni(NO)水溶液のCo濃度を0.56mol/Lに変更し、さらに、Ni濃度を0.56mol/Lに変更し、それ以外は、上記本発明粉末1の製造工程と全く同じ工程で、本発明の複合粉末(以下、本発明粉末3という)を製造した。
【0026】
上記本発明粉末1の製造において、TiC0.50.5粉末と混合する(Co(NO+Ni(NO)水溶液を、0.56mol/LのCoを含有するCo(NO水溶液に変更し、それ以外は、上記本発明粉末1の製造工程と全く同じ工程で、本発明の複合粉末(以下、本発明粉末4という)を製造した。
【0027】
上記本発明粉末1〜4について、それぞれの複合粉末中のCo含有割合、Ni含有割合を原子吸光光度法で測定し、それぞれの粉末の平均粒径をフィシャー法(ASTMB330)で測定し、複合粉末の比表面積(BET値)をBET法で、また、酸素含有量を赤外吸収法で測定した。
これらの測定値を表1に示す。
【0028】
さらに、本発明粉末1と本発明粉末2について、それぞれの複合粉末の組織を走査型電子顕微鏡で観察した。
図2に、本発明粉末1のSEM写真を示すが、粒径1.3μmのTiC0.50.5粉末(中央部分)の表面に、粒径10〜200nmのCo、Niの微細粒子粉末が付着した粒子形態を有することがわかる。また、本発明粉末2についても、図2と同様な粒子形態組織構造を有することを確認している。
【0029】
比較のため、TiC0.50.5粉末の表面に、Co、Niの微細粒子粉末をその表面に付着・複合化していない上記通常のTiC0.50.5粉末(以下、比較例粉末という)について、上記本発明粉末1、本発明粉末2と同様に、粉末の比表面積(BET値)、平均粒径、酸素含有量を測定した。これらの測定値を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、原料粉末として、1.00〜2.00μmの平均粒径を有する上記本発明粉末1〜4以外に、TiC粉末、TiN粉末、TaC粉末、NbC粉末、WC粉末、MoC粉末、Co粉末およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した。その後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結した。その後、切れ刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408−SHのチップ形状をもった炭窒化チタン基サーメットからなる切削工具(以下、本発明工具という)1〜6を製造した。
【0032】
比較のため、上記本発明粉末1〜4を用いる代わりに上記比較例粉末を使用して、本発明工具1〜6とそれぞれTiC0.50.5、Ni、Co含有量が同量となるように配合を行い、同じ条件で同じチップ形状をもった炭窒化チタン基サーメットからなる切削工具(以下、比較例工具という)1〜6を製造した。
【0033】
また、上記本発明工具1〜6と上記比較例工具1〜6について、焼結体としての表面硬度、内部硬度を、ロックウェル硬さ試験機を用いたロックウェル硬さ試験方法(JIS Z2245)、靭性値をビッカース硬さ試験機を用いた圧子挿入法(JIS R1607)によりそれぞれ測定した。その測定値を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
さらに、この本発明切削工具1〜6と比較例工具1〜6とを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、以下の条件A、Bにて合金鋼の乾式切削加工試験を行った。
【0036】
[切削条件A]
被削材: JIS・SNCM439の丸棒
切削速度: 200 m/min
切り込み: 1.0 mm
送り: 0.20 mm/rev
切削時間: 10 分
[切削条件B]
被削材: JIS・SCM440の丸棒
切削速度: 200 m/min
切り込み: 1.0 mm
送り: 0.20 mm/rev
切削時間: 10 分
【0037】
上記切削条件A、Bにて10分切削後の逃げ面摩耗幅を測定し、その値を表3に示す。切削途中で欠損に至った場合は、欠損に至るまでの切削時間を示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3に示す切削条件Aの結果より、本発明工具は比較例工具に比して摩耗幅が10〜20%程度小さく、耐摩耗性が非常に優れていることがわかる。
また、切削条件Bの結果より、欠損することなく正常に摩耗しており、耐欠損性においても非常に優れることがわかる。
【0040】
以上のとおり、本発明サーメット製造用複合粉末は、優れた高硬度、高靭性、高強度を有し、これを用いてサーメット製品、例えば、サーメット製切削工具を製造した場合には、該サーメット製切削工具は、優れた耐欠損性、耐摩耗性を備え、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する。
また、本発明のサーメット製造用複合粉末の製造方法は、簡易かつ緩条件下ですぐれた特性を備える複合粉末を製造し得るものである。
したがって、本発明の工業的な価値は非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の複合粉末の製造フローの一例を示す。
【図2】走査型電子顕微鏡により観察された本発明粉末1のSEM写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径0.5〜2.5μmの炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末と、平均粒径100nm以下のコバルト及びニッケルの何れか1種または2種からなる微細粒子粉末が複合化された複合粉末において、
(a)上記コバルト及びニッケルの何れか1種または2種からなる微細粒子粉末は、上記チタン系粉末の表面に付着する形で複合化しており、
(b)上記コバルト及びニッケルの何れか1種または2種からなる微細粒子粉末の全粉末に対する含有割合は5〜30重量%であり、
(c)上記複合粉末の比表面積(BET値)は、2.0m/g以上であり、
(d)上記複合粉末中の酸素含有量は、4.0重量%以下である、
ことを特徴とするサーメット製造用複合粉末。
【請求項2】
請求項1に記載のサーメット製造用複合粉末の製造方法において、
炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末と、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩の溶液とを混合し、その後乾燥することによって、前記炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末が、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩を担持してなる原料混合物を調整し、
上記原料混合物を不活性ガス雰囲気中にて200〜500℃の温度で熱処理することによって、コバルト及びニッケルの何れか1種または2種を含有する水溶性塩の熱分解処理を行い、炭化チタン、窒化チタン及び炭窒化チタンの何れか1種または2種以上からなるチタン系粉末と熱分解反応生成物の混合物を形成し、
次いで、チタン系粉末と熱分解反応生成物からなる上記混合物を水素雰囲気中にて200〜900℃の温度で還元処理する、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーメット製造用複合粉末の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−121192(P2010−121192A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297888(P2008−297888)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(391002683)日本新金属株式会社 (14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】