説明

複合粒子、複合粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法、及びリチウムイオン二次電池

【課題】金属とリチウムとの合金化・脱合金化反応を利用したリチウムイオン二次電池用負極材に好適な、高容量で、充放電サイクル性に優れる複合粒子、その製造方法、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、前記金属粒子Aよりも導電性が高く、且つ前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を用いて得られる複合粒子であり、前記金属粒子Bの重量平均粒子径(D50)は0.2μm以上1.2μm以下であり、粉体電気抵抗が圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上1×E8Ω・cm以下の複合粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の負極材として好適な複合粒子、複合粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用の小型電気・電子機器の普及に伴い、小型で高容量が得られるリチウムイオン二次電池の需要が拡大し、その開発が活発に行われている。
【0003】
現行のリチウムイオン二次電池の負極材としては、主に黒鉛が使用されている。従来のリチウムイオン二次電池の高容量化は、負極に使用する黒鉛の高結晶化による放電容量の向上、負極中の活物質(黒鉛)密度の増加によってなされてきた。黒鉛の理論容量は372mAh/gであるが、現在使用されている負極材はこの理論容量に近い放電容量が得られるようになっており、また、負極中の活物質密度も電解液の浸透等を考慮するとほぼ限界にきており、黒鉛を使用した負極での電池容量の向上は困難となってきている。
【0004】
黒鉛に替わる負極材として、金属リチウムを負極材として使用することが検討されている。金属リチウムを負極材に使用すると非常に高い放電容量を得ることができるが、充放電の繰り返しにより負極材表面に金属リチウムがデンドライト状に成長し、セパレータを貫通して正極と短絡してしまうため、電池として使用できなくなる。よって、金属リチウムを負極材として使用することについては、充放電サイクル及び安定した性能の点で課題があり、これらに対する対策が活発に検討されているが、十分な解決策は未だ見出されていない。
【0005】
一方で、リチウムと金属との電気化学的に起こる合金化反応を利用して充放電を行う負極材が検討されている。このような金属としては、シリコン、スズ、アルミニウム、亜鉛、及び鉛等が挙げられる。これらの金属はリチウムと合金化・脱合金化(充電・放電)する際、非常に大きな体積変化が起こるため、充放電サイクルと共に金属の崩壊が生じ、崩壊してできた金属粒子間の電気的接触が維持できなくなり、充放電容量が大きく低下するという課題を有する。
【0006】
このような課題に対し、リチウムと合金化・脱合金化する金属の微粒子化や、導電性を有する他の物質との複合化が提案されている。具体的には、微粒子化した金属シリコン粒子を、炭素を介して黒鉛粒子と複合化する方法(例えば、特許文献1参照)、SiOを熱処理してSi超微粒子を析出させ(2SiO→Si+SiO)、これを微粒子化し、炭素と黒鉛とを複合化する方法(例えば、特許文献2参照)、Si−M(Mは、Ni、Ti等を表す)の融液を超急冷法によって固化して、或いはメカノケミカル手法で作製された非平衡Si−M(Mは、Ni、Ti等を表す)を熱処理して、Si微粒子−シリサイドからなる複合粒子とする方法(例えば、特許文献3参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3369589号公報
【特許文献2】特許第3987853号公報
【特許文献3】特開2004−103340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記いずれの手法も、金属粒子を単独で使用した場合と比較して充放電サイクル時の容量低下は改善されるものの、いくつかの課題を有している。
すなわち、特許文献1で提案されている複合粒子では、充放電サイクル時の容量低下の抑制(充放電サイクル性)は実用化という観点では充分ではない。また、特許文献2で提案されている複合粒子は、充放電サイクル性の向上は顕著であるが、初回を含む初期充電時にSiOの電気化学的還元(SiO+4Li+4e→Si+2LiO)が起こるため充放電効率が低い。また、特許文献3で提案されている複合粒子は、発明者らの検討では、超急冷法では充放電サイクル性が実用化の観点で充分なものではない。また、メカノケミカル手法を用いた場合、充放電サイクル性の向上は顕著であるが、メカノケミカル手法という製法が量産性という点で課題が有り、また得られた複合粒子は非常に活性であるため酸化しやすく、安定した性能を提示することが難しいと考えられる。
【0009】
本発明は、これらの課題を解決するものであり、リチウムイオン二次電池用負極材に好適な、高容量で、充放電サイクル性に優れる複合粒子、複合粒子の製造方法、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法、及びリチウムイオン二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の性質を有する金属を複合化し、特定の粉体物性を有する複合粒子とすることで、高容量で、充放電サイクル性に優れることを見いだした。
【0011】
すなわち、具体的には、本発明は下記(1)〜(16)に記載の事項を特徴とするものである。
【0012】
(1) リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、前記金属粒子Aよりも導電性が高く、且つ前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を用いて得られ、
前記金属粒子Bの重量平均粒子径(D50)が、0.2μm以上1.2μm以下であり、
粉体電気抵抗が圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上、1×E8Ω・cm以下である複合粒子。
【0013】
(2) −196℃、相対圧0.001〜0.99における窒素吸着量が、10ml(STP)/g以上120ml(STP)/g以下であり、BET法によって測定された比表面積が5m/g以上50m/g以下である前記(1)に記載の複合粒子。
【0014】
(3) 前記金属粒子Aが、シリコン及びスズから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は前記(2)に記載の複合粒子。
【0015】
(4) 前記金属粒子Bが、MSi(MはTi、Zr、Fe、Ni、Mo、W、及びNbから選ばれる少なくとも1種)で表わされるシリサイドである前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の複合粒子。
【0016】
(5) 前記金属粒子Aの重量平均粒子径(D50)が、0.01μm〜2μmである前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の複合粒子。
【0017】
(6) 複合粒子中の酸素含有率が、10質量%以下である前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の複合粒子。
【0018】
(7) 重量平均粒子径(D50)が2μm〜30μmである前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の複合粒子。
【0019】
(8) 集電体と、前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の複合粒子と、を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【0020】
(9) 炭素質物質及びバインダを更に含む前記(8)に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【0021】
(10) 前記バインダの主骨格がポリアクリロニトリルである前記(9)に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【0022】
(11) 正極電極と、負極電極と、電解質とを有し、
前記負極電極として、前記(8)〜(10)のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池。
【0023】
(12) リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、重量平均粒子径(D50)が0.2μm以上1.2μm以下であり、且つ前記金属粒子Aよりも導電性が高く、前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を混合し、前記金属粒子A及び前記金属粒子Bを含有する混合物を得る工程、及び
前記混合物を熱処理し、前記金属粒子Aと前記金属粒子Bとを焼結する工程を含む前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【0024】
(13) 前記金属粒子A及び前記金属粒子Bを含有する混合物を得る工程が、
前記金属粒子A、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子Aのスラリーを得る工程、
前記金属粒子B、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子Bのスラリーを得る工程、及び
前記金属粒子Aのスラリーと前記金属粒子Bのスラリーとを混合し、金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーを得る工程、
を含む前記(12)に記載の複合粒子の製造方法。
【0025】
(14) 前記金属粒子Aのスラリー及び前記金属粒子Bを含むスラリーを噴霧乾燥する工程を含む前記(13)に記載の複合粒子の製造方法。
【0026】
(15) 前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の複合粒子、炭素質物質、及びバインダを含む混合物を得る工程、及び
前記混合物を熱処理する工程、
を含む前記(9)に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【0027】
(16) 前記バインダの主骨格がポリアクリロニトリルであり、
前記熱処理が、100℃〜160℃の範囲内で行われる前記(15)に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の負極材として用いたときに、高容量で、優れた充放電サイクル性を示す複合粒子、複合粒子の製造方法、複合粒子を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法、及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の複合粒子の断面のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0031】
<複合粒子>
本発明の複合粒子は、リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、前記金属粒子Aよりも導電性が高く、且つ前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を用いて得られ、前記金属粒子Bの重量平均粒子径(D)50が0.2μm以上1.2μm以下であり、粉体電気抵抗が圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上、1×E8Ω・cm以下である。このような複合粒子は、リチウムイオン二次電池の負極材として用いたときに、高容量で、優れた充放電サイクル性を示す。
【0032】
本発明の複合粒子の粉体電気抵抗は、圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上1×E8Ω・cm以下であり、1×E1Ω・cm以上1×E7Ω・cm以下であることが好ましい。粉体電気抵抗が1×E1Ω・cm未満であると、複合粒子の空隙の減少、リチウムを吸蔵・放出する金属粒子の粗大粒子化により、充放電サイクル性の大幅な低下が生じる。また、粉体電気抵抗が1×E8Ω・cmを超えると、充放電時の電子の移動が阻害されるため、金属粒子におけるリチウムの吸蔵・放出が起こり難くなり、入出力特性、充放電サイクル性が低下する。
【0033】
本発明において、複合粒子の粉体電気抵抗は、粉体抵抗測定装置(例えば、三菱化学アナリテック株式会社製、MSP−PD51型、4探針プローブ)を用いて、2.5gの複合粒子を粉体電気抵抗測定用容器に入れ、温度25℃、湿度50%で圧力50MPaにおいて測定した値とする。
【0034】
複合粒子の粉体電気抵抗は、例えば、後述する複合粒子の製造工程において、焼成温度、酸素含有率を調節することによって、上記範囲内に調整することができる。焼成温度を高くすると、得られる複合体の粉体電気抵抗が低くなる傾向にある。酸素含有率を高くすると、得られる複合体の粉体電気抵抗が高くなる傾向にある。
【0035】
なお、本発明において複合粒子とは、金属Aとして用いた金属粒子A及び金属Bとして用いた金属粒子Bとが互いに連結した複合体をいう。本発明の複合粒子は、例えば、後述する、金属粒子A及び金属粒子Bを含む混合物を加熱処理し焼結することにより作製することができるが、このような場合、それぞれの金属粒子は互いに連結されており、且つ複合粒子内に多くの空隙を有する。
【0036】
前記金属粒子Bの重量平均粒子径は、0.2μm以上1.2μm以下であり、好ましくは0.2μm以上0.9μm以下である。
金属粒子Bの重量平均粒子径(D50)が0.2μm以上では、金属粒子Bの表面とリチウムとの反応が抑制され、不可逆容量を低減して効率が向上する。また、金属粒子Bの重量平均粒子径(D50)が1.2μm以下の場合には、焼結が進行しやすく放電容量維持率の低下が抑えられる。
【0037】
金属粒子Aの重量平均粒子径は、0.01μm〜2μmであることが好ましく、0.02μm〜1μmであることがより好ましい。金属粒子Aの重量平均粒子径が0.01μm以上の場合には、粒子の酸化が抑制されて、初回充放電効率の高い負極材料が得られやすい。一方、金属粒子Aの重量平均粒子径が1μm以下の場合には、焼結が進行しやすく放電容量維持率の低下が抑えられる。
【0038】
なお、金属粒子の重量平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を適応したレーザー回折式粒度分布装置(例えば、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300)を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。
【0039】
図1に本発明の複合粒子の一例を示すが、本発明の複合粒子において、構成する金属粒子が互いに連結している状態、及び空隙の存在は、複合粒子の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することができる。
【0040】
本発明の複合粒子内の空隙は、−196℃における窒素吸着等温線を測定することによって確認することができる。具体的に複合粒子の空隙は、−196℃における、相対圧0.001〜0.99の範囲で得られた窒素吸着量で示され、その好ましい範囲はSTP基準(標準状態:Standard Temperature and Pressure)で10ml/g以上120ml/g以下であり、より好ましくは40ml/g以上120ml/g以下である。上記窒素吸着量が上記範囲内であれば、良好な充放電サイクル性が得られる傾向にある。
【0041】
複合粒子の窒素吸着量は、窒素吸脱着測定装置(例えば、島津製作所製、ASAP−2010)により測定される。
【0042】
また、本発明の複合粒子の比表面積は、窒素吸着量の値から算出することができる。比表面積は5m/g以上50m/g以下であることが好ましく、10m/g以上50m/g以下であることがより好ましく、15m/g以上40m/g以下であることがさらに好ましい。複合粒子の比表面積が小さいものほど、リチウムイオン二次電池の負極材料として用いたときに初回充放電効率が高くなる傾向にある。
上記比表面積は、−196℃での窒素吸着量よりBET法にて算出することができる。
【0043】
複合粒子の窒素吸着量および比表面積は、例えば、後述する複合粒子の製造工程において、金属粒子A及び金属粒子Bの粒子径、金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーの噴霧条件、焼成温度、スラリーの固形分濃度を調節することによって上記範囲内に調整することができる。
【0044】
本発明の複合粒子は、良好な、初回を含む初期充放電時の充放電効率を得る観点から、複合粒子中の酸素含有率が10質量%以下であることが好ましい。酸素含有率が10質量%以下であると、良好な充放電効率が得られる傾向にある。なお、複合粒子中の酸素含有率は公知の手法により算出することができる。
【0045】
複合粒子中の酸素含有率は、例えば、後述する複合粒子の製造工程において、噴霧乾燥や焼成をヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気下で行うことによって、上記範囲内に調整することができる。
【0046】
本発明の複合粒子の形状としては特に制限はないが、例えば、不定形状、球状等が挙げられる。中でも、球状の複合粒子が、後述する、粒子径の制御が比較的容易に可能で、金属粒子の酸化を防止しやすい噴霧乾燥によって得られやすいため、好ましい。
【0047】
本発明の複合粒子における金属粒子Aは、リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子である。このような金属粒子Aとしては、例えば、シリコン、スズ、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム等が挙げられ、シリコン又はスズであることが好ましく、中でも、リチウム吸蔵量、微粒子とした時の酸化安定性、コスト等の観点からシリコンであることがより好ましい。シリコンとしては、特に制限はなく、工業用として市販されている比較的低純度のシリコン、電子部品用材料として使用されている高純度のシリコンのいずれも使用することができる。
【0048】
本発明の複合粒子における金属粒子Bは、上記金属粒子Aよりも導電性が高く、且つ上記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子である。このような金属粒子Aと金属粒子Bとを併用しこれらを複合化することによって、リチウムイオン二次電池用負極材料に好適な、高容量で、充放電サイクル性に優れる材料となる。
【0049】
なお、金属粒子Bが金属粒子Aよりも導電性が高いことは、一般的な電気抵抗値の測定により確認することができる。また、金属粒子Bが金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低いことは、金属粒子Bを用いたリチウムイオン二次電池用負極、及び金属粒子Aを用いたリチウムイオン二次電池用負極を作製し、それぞれの負極を用いたリチウムイオン二次電池の容量及び充放電サイクル性を測定することによりにより確認することができる。
【0050】
このような金属粒子Bの材料としては、MSi(MはTi、Zr、Fe、Ni、Mo、W、及びNbから選ばれる少なくとも1種)で表わされるシリサイドが挙げられる。具体的には例えば、チタンシリサイド(TiSi)、ジルコニウムシリサイド(ZrSi)、ニッケルシリサイド(NiSi)、鉄シリサイド(FeSi)等のシリサイドが挙げられ、TiSi又はZrSiであることが好ましく、中でも、TiSiであることが好ましい。
【0051】
また、前記のシリサイド以外にも、銅(Cu)、ニッケル(Ni)等の金属を用いることも可能である。酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)等の金属酸化物を使用することも可能である。CuO、NiO等の金属酸化物を使用する場合は、リチウムによる還元反応が起こりやすく、電池の充放電効率が低下する場合があるため、例えば、造粒プロセス後に水素ガス等の還元雰囲気下で加熱処理することが好ましい。加熱処理により還元と焼結を同時に行うことが可能となり、高容量で、良好な充放電サイクル性を得られやすい。
【0052】
複合粒子の重量平均粒子径(D50)は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、2〜30μmであることがより好ましい。複合粒子の重量平均粒子径が2μm以上の場合には、複合粒子の酸化を抑制することができ、30μm以下の場合には、優れた急速充放電特性が得られる。
【0053】
なお、複合粒子の重量平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法を適応したレーザー回折式粒度分布装置(例えば、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300)を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。
【0054】
<複合粒子の製造方法>
本発明の複合粒子の製造方法に特に制限はないが、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0055】
本発明の複合粒子の製造方法の一例としては、リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、前記金属粒子Aよりも導電性が高く、且つ前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を混合し、前記金属粒子A及び前記金属粒子Bを含有する混合物を得る工程、及び前記混合物を熱処理し、前記金属粒子Aと前記金属粒子Bとを焼結する工程を含む製造方法が挙げられる。
このような方法により、それぞれの金属粒子が互いに連結した複合粒子となり、また内部に多くの空隙を有する複合粒子、例えば、前述の窒素吸着率や比表面積の範囲を満たす複合粒子を得ることができる。
【0056】
上記の金属粒子A及び金属粒子Bを含有する混合物を得る工程としては、例えば、金属粒子A、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子Aのスラリーを作製し、同様に、金属粒子B、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子Bのスラリーを作製し、次いで、金属粒子Aのスラリーと金属粒子Bのスラリーとを混合し、金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーとして混合物を得ることが挙げられる。このように金属粒子Aのスラリーと金属粒子Bのスラリーとを別個に準備した後にこれらを混合する方法では、金属粒子Aのスラリーと金属粒子Bのスラリーとをそれぞれ別個に粉砕工程に供することができるため、所望の大きさの金属粒子A及び金属粒子Bを調製することができる。
なお、必要に応じて、金属粒子A、金属粒子B、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーを作製し混合物としても構わない。
【0057】
上記の有機溶剤としては、混合する際にそれぞれの金属粒子と反応しないものであれば特に制限はなく、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族系有機溶剤、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアルデヒドなどが挙げられる。
【0058】
上記の分散剤は、金属粒子の凝集を抑制するものであり、上記の有機溶剤に溶解可能で、加熱・焼結の際に分解・消失するものであれば特に制限はないが、例えば、界面活性剤等を用いることができる。前記界面活性剤の市販品としては、例えば、ホモゲノール L−1820(花王(株)製)等が挙げられ、後述する噴霧乾燥において金属粒子間を接着するバインダ成分としても機能する観点から好ましい。
【0059】
上記の金属粒子、有機溶剤及び分散剤を混合する方法としては、特に制限はないが、湿式粉砕が可能であることが好ましい。湿式粉砕の方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等で混合・粉砕することが挙げられる。ボールミル又はビーズミルを使用して、混合・粉砕することが好ましい。
【0060】
上記の粉砕によって得られた金属粒子Aの重量平均粒子径は、0.01μm〜2.0μmであることが好ましい。また、粉砕によって得られた金属粒子Bの重量平均粒子径は、0.2μm〜1.2μmとする。金属粒子Aの重量平均粒子径が0.01μm以上の場合には、酸化され難くなり、初回充放電効率の高い負極材料が得られる。金属粒子Bの平均粒子径が0.1μmの場合にも、酸化されにくくなり、初回充放電効率の高い負極材料が得られる。一方、金属粒子Aの重量平均粒子径が2.0μm以下の場合や、金属粒子Bの重量平均粒子径が1.2μm以下の場合には、焼結し易くなり、充放電サイクル性に優れる負極材料が得られる。
【0061】
なお、金属粒子の重量平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を適応したレーザー回折式粒度分布装置(例えば、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300)を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。
【0062】
上記の金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリー中における、金属粒子A及び金属粒子Bの割合は、質量比で、金属粒子A:金属粒子B=10:90〜50:50であることが好ましく、15:85〜35:65であることがより好ましく、20:80〜30:70であることが好ましい。金属粒子A及び金属粒子Bの割合が上記範囲内にあると、高容量で、優れた充放電サイクル性を示す複合粒子が得られやすい。
【0063】
得られた金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーには、必要に応じて、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛粒子、低結晶性炭素粒子、黒鉛化カーボン繊維、カーボンナノチューブなどの炭素質物質を添加しても構わない。
【0064】
金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーは、分散処理を施すことが好ましい。分散処理の方法としては、金属粒子同士が均一に混合可能、また、必要に応じて添加した炭素質物質が均一に混合できれば特に制限はないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、超音波分散機等により分散することができる。
【0065】
上記金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーは、噴霧乾燥により有機溶剤等を除去し、また、金属粒子を造粒することが好ましい。噴霧乾燥の方法としては、例えば、スプレードライヤー等が挙げられ、具体的には、クローズドスプレードライヤーCL−8i(大川原化工機(株)製)等が挙げられる。このような方法は、金属粒子A、金属粒子B、必要に応じて添加した炭素質物質等が均一に分散した混合物を得ることが可能となり、所望の大きさの複合粒子を造粒しやすい観点で好ましい。
【0066】
スプレードライヤーの入口温度は70℃〜250℃とすることが好ましく、100℃〜150℃がより好ましい。出口温度は60℃〜200℃とすることが好ましく、70℃〜150℃が好ましい。また、噴霧圧力は0.05MPa〜0.5MPaとすることが好ましく、0.05MPa〜0.2MPaがより好ましい。スラリーの供給速度は2kg/h〜10kg/hとすることが好ましく、3〜6kg/hがより好ましい。
【0067】
上記噴霧乾燥においては、金属粒子の酸化を防ぐために、乾燥室内の雰囲気を、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気とすることが好ましい。コストの観点では、窒素雰囲気とすることが好ましい。
【0068】
噴霧乾燥によって得られる混合物の粒子径は、最終的に得られる複合粒子の粒子径を考慮して、2μm〜30μmであることが好ましい。
なお、混合物の重量平均粒子径は、レーザー回折・散乱法を適応したレーザー回折式粒度分布装置(例えば、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300)を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。
【0069】
上記金属粒子A及び金属粒子Bを含有する混合物は、熱処理により、金属粒子Aと金属粒子Bとを焼結することが好ましい。混合物の熱処理は、加熱中に金属粒子が酸化することを防ぐために、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気などで行うことが好ましく、得られる複合粒子の品質やガスの価格の観点からアルゴンを用いることが好ましい。
【0070】
熱処理の温度は、金属粒子の種類、組み合わせ、粒子径等によって適宜選択することが可能であるが、一般的には、600℃〜1000℃の範囲内であることが好ましい。熱処理温度が、600℃以上であれば、金属粒子間の焼結が進みやすく、電気抵抗が過度に増大するのを防ぐことができる。また、熱処理温度が1000℃以下であれば、金属粒子間の過剰な焼結を防ぐことができ、良好な充放電サイクル性が得られやすい。
初回を含む初期充放電時の充放電効率および充放電サイクル性の両立を図る観点からは、熱処理温度は600℃〜1000℃であることがより好ましく、700℃〜800℃であることが更に好ましい。
【0071】
熱処理における昇温速度は、一般的には、50℃/h〜200℃/hの範囲内とすることが好ましい。
熱処理の時間は、金属粒子の種類、組み合わせ、粒子径等によって適宜選択することが可能であるが、一般的には、1時間〜5時間の範囲内であることが好ましい。
【0072】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本発明の複合粒子は、リチウムイオン二次電池の負極材として使用することが可能である。リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、集電体上に、本発明の複合粒子を含む層を形成して得ることができ、複合粒子を含む層は、炭素質物質やバインダ等を含んでいることが好ましい。
【0073】
上記集電体としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅等の箔、メッシュなど、公知のものを使用することができる。
【0074】
炭素質物質としては、導電助剤として導電性を示すものであればよく、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛粒子、黒鉛化カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いることも可能である。
【0075】
バインダとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリルで構成されるポリマー、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン等のイオン導電率の大きな高分子化合物などが使用できる。また、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド等の密着セの高いバインダを用いることがより好ましく、特に、主骨格がポリアクリロニトリルであるバインダを用いることが、後述する熱処理のおける熱処理温度を低くすることができ、得られる電極の柔軟性が優れることからさらに好ましい。
【0076】
ポリアクリロニトリルを主骨格とするバインダとしては、ポリアクリロニトリル骨格に、接着性を付与するアクリル酸、柔軟性を付与する直鎖エーテルを付加した製品(日立化成工業株式会社製、LSR−7)等が挙げられる。
【0077】
リチウムイオン二次電池用負極の作製方法に特に制限はないが、例えば、本発明の複合粒子、炭素質物質、バインダ等を、バインダを溶解可能な溶媒と共に混合してスラリーとし、集電体表面に塗布し、乾燥して溶媒を除去し、プレス、次いで熱処理して負極とすることができる。
【0078】
本発明の複合粒子、炭素質物質、及びバインダの配合比率は、質量比で、複合粒子:炭素質物質:バインダ=60〜85%:5〜30%:10〜35%であることが好ましい。
【0079】
上記バインダを溶解可能な溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶剤が挙げられる。
【0080】
上記プレスする方法に特に制限はないが、例えば、公知のロールプレスを採用することができる。
【0081】
上記負極を作製する際の熱処理は、公知の方法を採用することができるが、例えば、ポリアクリロニトリルを主骨格としたバインダを使用する場合は、100〜160℃で熱処理をすることが好ましく、ポリイミド、ポリアミドイミド等のバインダを使用する場合は、200〜450℃で熱処理することが好ましい。この熱処理により溶媒の除去、バインダの高強度化が進み、複合粒子間及び複合粒子と集電体間の密着性を向上することができる。これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気などで行うことが好ましい。
【0082】
上記リチウムイオン二次電池用負極の負極層の嵩密度は1.3g/cm〜1.7g/cmであることが好ましい。嵩密度が1.3g/cm以上である場合は、密着性を維持しやすく、良好な放電サイクル性が得られやすい。なお、前記嵩密度は負極層の重量及び厚さより算出することできる。
【0083】
上記負極層中の残留溶媒量は0.5質量%以下であることが好ましい。残留溶媒量が0.5質量%以下であれば、良好な密着性が得られやすい傾向がある。負極層中の残留溶媒量は、負極層を剥離、熱重量分析装置(TGA)を用い、窒素流通下、40℃〜300℃での重量減少量を測定することにより算出することができる。
【0084】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を用いてなり、例えば、本発明のリチウムイオン二次電池用負極と正極とをセパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより得ることができる。また、この他にも、通常当該分野において使用されるガスケット、封口板、ケースなどをさらに備えていてもよい。
【0085】
上記正極に用いる正極材としては、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な金属Li、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1−y、LiMn、LiFePO、LiNiMn2−y等のリチウム含有複合酸化物、TiS、MoS等の硫化物、V、MoO等の酸化物、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラファニレン等の導電性有機高分子化合物などを使用することができる。
【0086】
これらの正極材をポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオルエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド等のバインダ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等、黒鉛粒子、黒鉛化カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電助剤、溶媒と混合してスラリーとし、アルミ、アルミ合金、ニッケル、チタン等の集電体上に塗布し、乾燥、プレスして正極とすることができる。
【0087】
電解液中の溶媒としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の環状エステル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル等の鎖状エステルなどが挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いることも可能である。また、これらに炭酸ビニレン、γ―ブチルラクトン、1、2−ジメトキシエタン、テトタヒドロフラン、酢酸メチル、アセトニトリル、スルホラン等を混合してもよく、更にフッ素化炭酸エチレン等の一部の水素をフッ素で置換した化合物を添加しても良い。
【0088】
電解液中の電解質塩としては、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF、KiSF等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いることも可能である。また、電解液には公知のゲル化剤を添加し、ゲル状態で使用しても構わない。さらに、電解液の替わりに、公知のリチウムイオン伝導性の固体電解質を使用することもできる。
【0089】
セパレータとしては、例えば、ポリテトラフルオルエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂製の多孔質膜、セラミック製の多孔質膜等が挙げられ、これらは単独又は複数を積層、組み合わせて用いることも可能である。なお、作製する二次電池の正極と負極が使用中も直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用しなくともよく、例えば、上記の固体電解質を使用する場合は、セパレータを使用しなくても可能な場合がある。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、当該実施例の記載により限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0091】
[実施例1]
(複合粒子の作製)
チタンシリサイド(TiSi−O(日本新金属株式会社製))100質量部に対し、トルエンを220質量部、分散剤(ホモゲノールL−1820、花王(株)製)を30質量部の割合で混合し、湿式法のビーズミル(スターミルLMZ、アシザワ・ファインテック(株)製)を用いて、チタンシリサイドの重量平均粒子径(D50)が0.2μmになるまで粉砕を行い、チタンシリサイドスラリーを得た。
【0092】
チタンシリサイドスラリー中のチタンシリサイド粒子の重量平均粒子径は、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300を用いて、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径を測定した。
【0093】
また、シリコン(Si)(純度99.9%、300mesh以下、東洋金属粉株式会社製)100質量部に対し、トルエンを220質量部、分散剤(ホモゲノールL−1820、花王(株)製)を30質量部の割合で混合し、湿式法のビーズミル(スターミルLMZ、アシザワ・ファインテック(株)製)を用いて湿式粉砕を行い、シリコンスラリーを得た。
【0094】
シリコンスラリー中のシリコン粒子の重量平均粒子径(D50)は、0.2μmであった。シリコンスラリー中のシリコン粒子の重量平均粒子径は、上記チタンシリサイドスラリー中のチタンシリサイド粒子の場合と同様の方法で測定した。
【0095】
得られたシリコンスラリーとチタンシリサイドスラリーを25:75(質量比)で混合した後、トルエンを添加して粘度が100mPa・sになるように調製し、通液式の超音波分散機(GSD600HAT、ギンセン製)で分散混合し、シリコン及びチタンシリサイドを含むスラリーを得た。
【0096】
得られたシリコン及びチタンシリサイドを含むスラリーを、クローズドスプレードライヤー CL−8i、大川原化工機(株)製により噴霧乾燥し、重量平均粒子径(D50)5μmの粒子を作製した。なお、噴霧乾燥は、入口温度110℃、出口温度80℃、処理速度4.5kg/h、噴霧圧力0.1MPaの条件で行った。
【0097】
得られた粒子を熱処理し、シリコンとチタンシリサイドを焼結させて複合粒子を得た。この熱処理では、昇温速度100℃/hで800℃まで昇温させた後、60分間800℃を保持した。複合粒子の重量平均粒子径(D50)は、7μmであった。複合粒子の重量平均粒子径(D50)は、日機装株式会社のマイクロトラックシリーズMT3300を用いて、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径を測定した。
【0098】
(複合粒子の測定)
−粉体電気抵抗の測定−
前記作製したリチウム二次電池用負極材の2.5gを粉体抵抗測定用容器に入れ、三菱化学アナリテック株式会社製(MSP−PD51型、4探針プローブ)を用いて、温度25℃、湿度50%の雰囲気下で、圧力50MPaにおける粉体電気抵抗測定を行った。使用した粉体電気抵抗測定器の測定許容範囲は、10−3〜10Ωである。
【0099】
−窒素吸着量の測定−
窒素吸脱着測定装置(ASAP−2010、島津製作所製)を用いて、−196℃における相対圧0.001〜0.99の範囲で、窒素吸着量の測定を行った。
【0100】
−BET比表面積の測定−
窒素吸脱着測定装置(ASAP−2010、島津製作所製)により得られた−196℃での上記窒素吸着量から、BET法にて算出した。
【0101】
−酸素含有率の測定−
窒素・酸素・水素分析装置TCH−600型(LECOジャパン合同会社製)を用いて、不活性ガス融解赤外吸収法によって算出した。
【0102】
(リチウムイオン二次電池用負極の作製)
上記作製の複合粒子、導電助剤としてアセチレンブラック(HS100、電気化学工業(株)製)、主骨格がポリアクリロニトリルであるバインダ(日立化成工業製、LSR−7)を添加し混合、アプリケータを用いて銅箔に塗布した。塗布後、90℃定置運転乾燥機にて2時間予備乾燥を行い、プレスを行った後、打ち抜き、120℃定運転乾燥機に4時間入れ硬化を行い、リチウムイオン二次電池用負極とした。
【0103】
(評価セルの作製)
評価セルは、CR2016型コインセルに、上記負極と正極としての金属リチウムとを30μmの厚さのポリプロピレン製セパレータを介して対向させ、電解液を注入することにより作製した。電解液としては、エチレンカーボネイト(EC)及びエチルメチルカーボネイト(EMC)を体積比30対70で含む混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解させたものに対して、ビニレンカーボネート(VC)を質量比で1.5質量%、フルオロエチレンカーボネイト(FEC)を体積比で20容量%添加したものを用いた。
なお、上記評価セルは、露天温度−70℃以下のグローブボックス内で組み立てた。
【0104】
(評価)
−初回の放電容量−
25℃雰囲気下、0.43mA(0.28mA/cm)の定電流で0Vまで充電後、0Vの定電圧で電流値が0.043mAになるまで充電し、充電容量を測定した。次いで、0.43mAの定電流で1.5Vの電圧まで放電を行い、放電容量を測定した。この放電容量は、用いた複合粒子と導電助剤(アセチレンブラック)の合計量(質量)当たりに換算した。
なお、充電とは上記リチウムイオン二次電池用負極にリチウムが挿入することで、放電とは上記リチウムイオン二次電池用負極に挿入したリチウムが脱離することである。
初回の放電容量は、500mAh/g以上であれば高容量であると判断した。
【0105】
−初回の充放電効率−
上記の初回の放電容量において測定された、充電容量及び放電容量を用いて、下記式により初回の充放電効率を求めた。
初回充放電効率(%)
=初回放電容量(mAh/g)×100/初回充電容量(mAh/g)
なお、初回の充放電効率は、75%以上であれば高い充放電効率であると判断した。
【0106】
−放電容量維持率−
前記充放電条件で充電・放電を50回繰り返した後の放電容量を測定し、下記式により放電容量維持率を求めた。
放電容量維持率(%)
=50サイクル時の放電容量(mAh/g)×100/初回放電容量(mAh/g)
【0107】
[実施例2]
TiSi‐Oの重量平均粒子径を0.4μmとした以外は、実施例1と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0108】
[実施例3]
TiSi‐Oの重量平均粒子径を0.9μmとした以外は、実施例1と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0109】
[実施例4]
TiSi‐Oの重量平均粒子径を1.2μmとした以外は、実施例1と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0110】
[比較例1]
TiSi‐Oの重量平均粒子径を0.1μm未満とした以外は、実施例1と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0111】
[比較例2]
TiSi‐Oの重量平均粒子径を1.5μmとした以外は、実施例1と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0112】
実施例1〜4および比較例1〜2の結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

【0114】
上記表1に示されるように、本発明で規定する金属粒子A及び金属粒子Bを含有し、金属粒子Bの重量平均粒子径が0.2〜1.2μmであり、粉体電気抵抗が圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上、1×E8Ω・cm以下である複合粒子をリチウムイオン二次電池用負極に用いた実施例1〜4のリチウムイオン二次電池は、初期放電容量が高く、初期充放電効率が高く、充放電サイクル性に優れていた。
これに対して、金属粒子Bの重量平均粒子径が0.2未満である比較例1では、50サイクル後に放電容量が維持されていたものの、そもそも初期放電容量及び初回充放電効率が低いものであった。
また、金属粒子Bの重量平均粒子径が1.5μmの比較例2では、初期放電容量及び初回充放電効率に優れていたが、50サイクル後に放電容量が低下していた。
【0115】
[実施例5]
焼結時の熱処理温度を600℃とした以外は、実施例2と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0116】
[実施例6]
焼結時の熱処理温度を1000℃とした以外は、実施例2と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0117】
[実施例7]
焼結時の熱処理温度を600℃とした以外は、実施例1と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0118】
[実施例8]
焼結時の熱処理温度を900℃とした以外は、実施例3と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0119】
[実施例9]
チタンシリサイド(TiSi−O(日本新金属株式会社製))をジルコニウムシリサイド(ZrSi−O、日本新金属株式会社製))に代えた以外は、実施例2と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0120】
[比較例3]
焼結時の熱処理温度を200℃とした以外は、実施例2と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0121】
[比較例4]
焼結時の熱処理温度を1300℃とした以外は、実施例2と同様にして複合粒子及びリチウムイオン二次電池用負極を作製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0122】
実施例5〜9および比較例3〜4の結果を表2に示す。なお、表中の粉体電気抵抗における「Over Range」とは、1×E8Ω・cmを超えていることを示す。
【0123】
【表2】

【0124】
上記表2に示されるように、複合粒子の粉体電気抵抗を変えても、圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上1×E8Ω・cm以下の範囲内であり、且つ金属粒子Bの重量平均粒子径が0.2μm〜1.2μmであれば、初期放電容量が高く、初期充放電効率が高く、充放電サイクル性に優れていた。また、金属粒子Bとしてジルコニウムシリサイドを用いても、本発明の規定の範囲を満たしていれば、初期放電容量が高く、初期充放電効率が高く、充放電サイクル性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、前記金属粒子Aよりも導電性が高く、且つ前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を用いて得られ、
前記金属粒子Bの重量平均粒子径(D50)が、0.2μm以上1.2μm以下であり、
粉体電気抵抗が圧力50MPaにおいて1×E1Ω・cm以上、1×E8Ω・cm以下である複合粒子。
【請求項2】
−196℃、相対圧0.001〜0.99における窒素吸着量が、10ml(STP)/g以上120ml(STP)/g以下であり、BET法によって測定された比表面積が5m/g以上50m/g以下である請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記金属粒子Aが、シリコン及びスズから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記金属粒子Bが、MSi(MはTi、Zr、Fe、Ni、Mo、W、及びNbから選ばれる少なくとも1種)で表わされるシリサイドである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記金属粒子Aの重量平均粒子径(D50)が、0.01μm〜2μmである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項6】
複合粒子中の酸素含有率が、10質量%以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項7】
重量平均粒子径(D50)が2μm〜30μmである請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項8】
集電体と、
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の複合粒子と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
炭素質物質及びバインダを更に含む請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
前記バインダの主骨格がポリアクリロニトリルである請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
正極電極と、負極電極と、電解質とを有し、
前記負極電極として、請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
リチウムを電気化学的に吸蔵・放出できる金属粒子Aと、重量平均粒子径(D50)が0.2μm以上1.2μm以下であり、且つ前記金属粒子Aよりも導電性が高く、前記金属粒子Aよりもリチウムの吸蔵・放出能力が低い金属粒子Bと、を混合し、前記金属粒子A及び前記金属粒子Bを含有する混合物を得る工程、及び
前記混合物を熱処理し、前記金属粒子Aと前記金属粒子Bとを焼結する工程、
を含む請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項13】
前記金属粒子A及び前記金属粒子Bを含有する混合物を得る工程が、
前記金属粒子A、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子Aのスラリーを得る工程、
前記金属粒子B、有機溶剤及び分散剤を混合し、金属粒子Bのスラリーを得る工程、及び
前記金属粒子Aのスラリーと前記金属粒子Bのスラリーとを混合し、金属粒子A及び金属粒子Bを含むスラリーを得る工程、
を含む請求項12に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項14】
前記金属粒子Aのスラリー及び前記金属粒子Bを含むスラリーを噴霧乾燥する工程を含む請求項13に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の複合粒子、炭素質物質、及びバインダを含む混合物を得る工程、及び
前記混合物を熱処理する工程、
を含む請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項16】
前記バインダの主骨格がポリアクリロニトリルであり、
前記熱処理が、100℃〜160℃の範囲内で行われる請求項15に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−59635(P2012−59635A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203661(P2010−203661)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】