説明

複合繊維シートの製造方法および複合繊維シート

【課題】繊維構造体と、布帛とを接着してなる複合繊維シートの製造方法であって、生産性に優れ、軽量かつ優れた接着強力を有する複合繊維シートの製造方法、および該製造方法により得られた複合繊維シートの提供。
【解決手段】非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体A(b)と、布帛B(a)とを用意した後、前記繊維構造体Aの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱すると同時に前記布帛Bの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱し、次いで、これら加熱された表面同士を熱接着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とが混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体と、布帛とを接着してなる複合繊維シートの製造方法であって、生産性に優れ、軽量かつ優れた接着強力を有する複合繊維シートを得ることが可能な製造方法、および該製造方法により得られた複合繊維シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2種の繊維シートを貼り合わせて複合繊維シートを得る際、接着剤を用いて貼り合わせることが一般的である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、接着剤を用いて繊維シートを貼り合わせると、加工速度が遅くなるため生産性が悪く、また、接着剤を使用するため、得られる複合繊維シートの重量が増加してしまうという問題があった。さらには、コストアップにもなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−270341号公報
【特許文献2】特開平8−230084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とが混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体と、布帛とを接着してなる複合繊維シートの製造方法であって、生産性に優れ、軽量かつ優れた接着強力を有する複合繊維シートを得ることが可能な製造方法、および該製造方法により得られた複合繊維シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とが混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体と、布帛とを貼り合わせる際、両者の表面を加熱した状態で貼り合わせると、生産性よく、軽量かつ優れた接着強力を有する複合繊維シートが得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
かくして、本発明によれば「非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体Aと、布帛Bとを用意した後、前記繊維構造体Aの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱すると同時に前記布帛Bの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱し、次いで、これら加熱された表面同士を熱接着させることを特徴とする複合繊維シートの製造方法。」が提供される。
その際、前記の加熱を、火炎を用いて行うことが好ましい。また、加熱された表面同士を熱接着させた後、加圧することが好ましい。また、前記非弾性捲縮短繊維がポリエステル系繊維であることが好ましい。また、前記布帛Bがポリエステル系繊維を含むことが好ましい。また、前記繊維構造体Aの平均密度が0.01〜0.10g/cmの範囲内であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の製造方法により製造された複合繊維シートが提供される。その際、繊維構造体Aと布帛Bとの接着強力が1.0N/25mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とが混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体と、布帛とを接着してなる複合繊維シートの製造方法であって、生産性に優れ、軽量かつ優れた接着強力を有する複合繊維シートを得ることが可能な製造方法、および該製造方法により得られた複合繊維シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明で使用する繊維構造体を得るための熱処理機の一例を示す側面図である。
【図2】実施例1で用いた設備を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係る複合繊維シートの縦断面図である。
【図4】B/Aの測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体Aを用意する。
【0009】
ここで、前記非弾性捲縮短繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステルやこれらの共重合体からなる短繊維ないしそれら短繊維の混綿体、または上記ポリマー成分のうちの2種類以上からなる複合短繊維等を挙げることができる。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。さらに、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、その他のポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、モダクリル等の合成繊維やレーヨン、および絹、綿、麻、羊毛等の天然繊維が挙げられる。
これらの短繊維のうち繊維形成性等の観点から、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)からなる短繊維が特に好ましい。
【0010】
この場合の、捲縮付与方法としては、熱収縮率の異なるポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維を用いてスパイラル状捲縮を付与、異方冷却によりスパイラル状捲縮を付与、捲縮数が3〜40個/2.54cm(好ましくは7〜15個/2.54cm)となるように通常の押し込みクリンパー方式による機械捲縮を付与など、種々の方法を用いればよいが、嵩高性、製造コスト等の面から機械捲縮を付与するのが最適である。
ここで、前記捲縮短繊維において、単繊維径が10〜100μmの範囲内であることが好ましい。前記単繊維径が10μmよりも小さいと充分な剛性が得られず取扱いが難しくなるおそれがある。逆に、前記単繊維径100μmよりも大きいと外観の均一性が不十分となるおそれがある。ポリエチレンテレフタレートの場合、単繊維繊度としては1.3〜90dtexの範囲内であることが好ましい。
【0011】
前記捲縮短繊維の単繊維横断面形状は、通常の丸断面でもよいし、三角、四角、扁平などの異型断面であってもよい。なお、単繊維横断面形状が異型の場合、前記単繊維径は丸断面に換算した値を使用するものとする。さらに、丸中空断面の場合は外径寸法を測定するものとする。
また、前記捲縮短繊維の繊維長としては30〜100mmの範囲内であることが好ましい。前記繊維長が30mmよりも小さいと充分な剛性が得られないおそれがある。逆に、前記繊維長が100mmよりも大きいと工程安定性が損われるおそれがある。
【0012】
次に、熱接着性複合短繊維の熱融着成分は、上記の捲縮短繊維を構成するポリマー成分より、40℃以上(好ましくは70℃以上)低い融点を有することが必要である。この温度差が40℃未満では接着が不十分となる上、腰のない取り扱いにくい繊維構造体となり、本発明の目的が達せられないおそれがある。
【0013】
ここで、熱融着成分として配されるポリマーとしては、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、非弾性ポリエステル系ポリマー及びその共重合物、ポリオレフィン系ポリマー及びその共重合物、ポリビニルアルコール系ポリマー等を挙げることができる。
【0014】
このうち、ポリウレタン系エラストマーとしては、分子量が500〜6,000程度の低融点ポリオール、例えばジヒドロキシポリエーテル、ジヒドロキシポリエステル、ジヒドロキシポリカーボネート、ジヒドロキシポリエステルアミド等と、分子量500以下の有機ジイソシアネート、例えばp,p’−ジフェニールメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート水素化ジフェニールメタンイソシアネート、キシリレンイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ヘキサメチレンジイソシアネート等と、分子量500以下の鎖伸長剤、例えばグリコールアミノアルコールあるいはトリオールとの反応により得られるポリマーである。
これらのポリマーのうちで、特に好ましいのはポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、またはポリ−ε−カプロラクタムあるいはポリブチレンアジペートを用いたポリウレタンである。この場合の有機ジイソシアネートとしてはp,p’−ビスヒドロキシエトキシベンゼンおよび1,4−ブタンジオールを挙げることができる。
【0015】
また、ポリエステル系エラストマーとしては、熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールをソフトセグメントとして共重合してなるポリエーテルエステル共重合体、より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコールトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオールあるいは1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール等の脂環式ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約400〜5,000程度のポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−ポリプロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等のポリ(アルキレンオキサイド)クリコールのうち少なくとも1種から構成される三元共重合体を挙げることができる。
【0016】
特に、接着性や温度特性、強度の面からすれば、ポリブチレン系テレフタレートをハード成分とし、ポリオキシブチレングリコールをソフトセグメントとするブロック共重合ポリエーテルエステルが好ましい。この場合、ハードセグメントを構成するポリエステル部分は、主たる酸成分がテレフタル酸、主たるジオール成分がブチレングリコール成分であるポリブチレンテレフタレートである。むろん、この酸成分の一部(通常、30モル%以下)は他のジカルボン酸成分やオキシカルボン酸成分で置換されていても良く、同様にグリコール成分の一部(通常、30モル%以下)はブチレングリコール成分以外のジオキシ成分で置換されていても良い。また、ソフトセグメントを構成するポリエーテル部分は、ブチレングリコール以外のジオキシ成分で置換されたポリエーテルであってよい。
【0017】
共重合ポリエステル系ポリマーとしては、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類および/またはヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸類と、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、パラキシレングリコールなどの脂肪族や脂環式ジオール類とを所定数含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類を添加した共重合エステル等を挙げることができ、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとにおいてイソフタル酸および1,6−ヘキサンジオールを添加共重合させたポリエステル等が使用できる。
【0018】
また、ポリオレフィン系ポリマーとしては、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、さらにはそれらを変性した物等を挙げることができる。
【0019】
上記の熱融着成分の中でも、クッション性、耐久性の点よりエラストマー系ポリマーが特に好ましい。なお、上述のポリマー中には、各種安定剤、紫外線吸収剤、増粘分岐剤、艶消し剤、着色材その他各種の改良剤等も必要に応じて配合されていても良い。
【0020】
熱接着性複合短繊維において、熱融着成分の相手側成分としては、前記のような非弾性のポリエステルが好ましく例示される。その際、熱融着成分が、少なくとも1/2の表面積を占めるものが好ましい。重量割合は、熱融着成分と相手側成分が、複合比率で10/90〜70/30の範囲にあるのが適当である。熱接着性複合短繊維の形態としては、特に限定されないが、熱融着成分と相手側成分とが、サイドバイサイド、芯鞘型であるのが好ましく、より好ましくは芯鞘型である。この芯鞘型の熱接着性複合短繊維では、熱融着成分が鞘部となり、相手側成分が芯部となるが、この芯部は同心円状、または偏心状にあってもよい。
【0021】
かかる熱接着性複合短繊維において、単繊維径としては10〜70μmの範囲内であることが好ましい。単糸繊度としては、2〜40dtexの範囲内であることが好ましい。かかる熱接着性複合短繊維は、繊維長が3〜100mmに裁断されていることが好ましい。
【0022】
本発明においては、前記捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを混綿させ、加熱処理することにより、熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点、および熱接着性複合短繊維と捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体が形成される。
【0023】
この際、捲縮短繊維と熱接着複合短繊維との重量比率は90/10〜10/90である必要がある。なお、好ましくは重量比率が60/40〜20/80である。熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より少ない場合は、固着点が極端に少なくなり、繊維構造体の腰がなく、成型性が不良となる。一方、熱接着複合短繊維の比率がこの範囲より多い場合は、接着点が多くなり過ぎ、熱処理工程での取扱い性、成型性などが低下する。
【0024】
このような繊維構造体を製造する方法には特に限定はなく、従来公知の方法を任意に採用すれば良いが、例えば非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とを混綿し、ローラーカードにより均一なウエブとして紡出した後、ウエブをクロスレイ等を使用し厚み方向に平行に折畳んだ後、必要に応じニードルパンチを施した後加熱処理をする方法や、図1にみられるようなStruto社のStruto設備を使用しローラーカード後のウエブをアコーディオン状に折りたたんだ後、加熱処理し繊維間を接着処理することで作製できる。さらに、短カット長の繊維については、Dow−Web社のエアレイド設備を使用し、ウエブを作成した後、熱処理を施して作成できる。
なお、図1において、符号1はウエブ、符号2はコンベア、符号3はヒーター、符号4は繊維構造体である。
【0025】
かくして得られる繊維構造体Aの平均密度は0.01〜0.10g/cmの範囲にあることが好ましい。前記密度が0.01g/cm3未満では、複合繊維シートが柔らかくなり過ぎて取り扱いが難しくなるおそれがある。一方、0.10g/cm3を超えると、板状となりソフト性が損なわれるおそれがある。なお、密度は、プレス加工等により調整することも可能である。さらに必要に応じ、この繊維構造体を、厚み方向に対してほぼ垂直にスライサー設備等により裁断して使用することも可能である。
繊維構造体Aの密度は、目付と厚みにより容易に調整することができる。
【0026】
本発明において、布帛Bは、前記熱接着性複合短繊維の熱接着性成分より、高い融点を有する繊維で構成されることが好ましい。特に、前記のようなポリエステル系繊維から構成されると、リサイクル性の点でより好ましい。かかる布帛Bは、織編物が好ましいが、不織布等であってもよい。なお、接着面をバフィング等の加工を施しても良い。なお、布帛Bは、通常の染色加工や起毛加工が施されていてもよい。さらには、撥水加工、防炎加工、難燃加工、マイナスイオン発生加工など公知の機能加工が付加されていてもさしつかえない。
【0027】
次に、図2に示す設備などを使用し、繊維構造体Aと布帛Bとを準備し、繊維構造体Aと布帛Bとを貼り合わせる。その際、前記繊維構造体Aの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱すると同時に前記布帛Bの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱し、次いで、これら加熱された表面同士を熱接着させる。繊維構造体Aと布帛Bとを1枚ずつ貼り合わせてもよいし、一方の両側に他方でサンドイッチ状にはさんでもよい。
図2において、符号aは布帛B、符号bは繊維構造体A、符号cは一対のガスバーナー、符号dは一対の貼り合せロールである。
【0028】
ここで、加熱方法は特に限定されないが、ガスバーナー等によるフレーム(火炎)をあてることにより加熱することが好ましい。また、加熱後、直ぐに貼り合せ巻き取ることが好ましい。
【0029】
また、繊維構造体Aのみの接着面を加熱した場合、表面は繊維接着成分が溶けて、布帛Bに部分的に接着するが、その強度は非常に弱く直ぐにはがれてしまう。一方、布帛Bのみフレームをあてた場合は、接着しないおそれがある。好ましい条件としては、繊維構造体A側は、熱接着性複合短繊維において、熱融着成分の融点の10℃以上であり、相手側成分の10℃以下の温度になるように設定する。また、布帛Bにおいては、ガラス転移点を有する合成繊維等はその温度よりも10℃以上、融点の10℃以下の温度になるように設定する。また、フレーム処理を実施した後、10秒以内、好ましくは3秒以内に繊維構造体Aと布帛Bとを貼り合せることが好ましい。この時間を越える場合は、接着面が冷えて接着が出来なくなるおそれがある。
なお、火炎温度は、約800〜1,800℃で、貼り合せ速度は0.5〜40m/分である。
【0030】
なお、フレーム(火炎)の代わりに遠赤外線による加熱等でも可能であり、両方のシート物の温度を上げることがポイントである。
【0031】
貼合せは、冷却ロールで圧着が好ましいが、まず加熱ロールで圧着し、さらに冷却ロールで圧着してもよい、その時にロールのクリアランスや加圧は、目標の厚みにより変更できる。その後、巻き取る。
この際の加圧条件としては、ロール間の線圧が、通常、10〜120kg/cm、好ましくは20〜80kg/cm程度である。
【0032】
本発明の製造方法によれば、生産性よく優れた接着強力を有する複合繊維シートが得られる。また、接着剤を使用しないので軽量性に優れた複合繊維シートが得られる。
ここで、本発明の製造方法により得られる複合繊維シートの断面構成図を図3に示す。
本発明の複合繊維シートにおける繊維構造体A(図3の符号f)と布帛B(図3の符号e)との接着強力としては1.0N/25mm以上であることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜5.0N/25mmである。
接着強力が1.0N/25mm未満では、座席等の表面材として使用時、布帛の剥離が生じる。接着強力を1.0N/25mm以上にするには、該熱接着性複合短繊維の配合量、布帛裏面のハ゛フ加工、火炎への距離、ロールのプレス条件等を調整することで可能である。
【0033】
かくして得られた複合繊維シートは、シート状のままの使用や、エンボス加工、さらに金型を使用し成形品に利用できる。例えば、バストパッド、肩パッド、ヒップパッド等のパッドのようなもの、事務椅子や電車、飛行機等の座席、さらには、クッション性の要求されるパーテーションやサポーター等、内部に繊維構造体を有し表面が布で覆われているものにも利用可能である。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)融点
Du Pont社製 熱示差分析計990型を使用し、昇温20℃/分で測定し、融解ピークをもとめた。融解温度が明確に観測されない場合には、微量融点測定装置(柳本製作所製)を用い、ポリマーが軟化して流動を始めた温度(軟化点)を融点とする。なお、n数5でその平均値を求めた。
(2)ミクロクリンプ、捲縮数
JIS L1015 7.12に記載の方法により測定した。なお、n数5でその平均値を求めた。
【0035】
(3)B/A
繊維構造体を厚さ方向に切断し、その断面において、厚さ方向に対して平行に配列されている繊維(図4において0°≦θ≦45°)の総本数を(B)とし、繊維構造体の厚さ方向に対して垂直に配列されている繊維(図4において45°<θ≦90°)の総本数を(A)としてB/Aを算出した。なお、本数の測定は、任意の10ヶ所について各々30本の繊維を透過型光学顕微鏡で観察し、その数を数えた。
なお、図4において、符号Fは熱接着性複合短繊維または非弾性捲縮短繊維、符号Dは繊維構造体の厚さ方向、符号Dは熱接着性複合短繊維または非弾性捲縮短繊維の配列方向を示す。
(4)接着強力
縦・横共に5枚ずつ、幅25mmでサンプルを採取し、短辺より30mm布帛と繊維構造体を剥して引張試験機にて引っ張り、その破断荷重を測定した。なお、引張速度は200mm/分とした。
【0036】
(5)繊維構造体Aの厚さ
JIS K6400により、繊維構造体Aの厚さを測定した。
(6)繊維構造体Aの密度
JIS K6400により、繊維構造体Aの平均密度(g/cm)を測定した。
(7)布帛Bの厚さ
JIS L 1096により、布帛Bの厚さを測定した。
JIS L 1096により、布帛Bの目付けを測定した。
【0037】
[実施例1]
融点154℃の熱可塑性ポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分に用い、融点230℃のポリエチレンテレフタレートを芯成分に用いた単糸繊度6.6デシテックス、繊維長51mmの芯/鞘型熱融着性複合繊維(芯/鞘比=60/40:重量比)と、異方冷却により立体捲縮を有する単糸繊度6.6デシテックス、繊維長51mmの中空ポリエチレンテレフタレート繊維とを70:30の重量比率で混綿し、ローラーカード、クロスレイ、ローラーカードの順に通し、次に、図1に示すStruto社製のStruto設備を使用し、ウエブをヒダ折りし大部分の繊維が厚み方向に配向させた後、200℃の熱処理炉にて繊維間を熱接着処理することで繊維構造体Aを作製した。
得られた繊維構造体Aは、厚さ10mm、密度15kg/m3(0.015g/cm)、であった。一方、布帛Bとして、自動車シートカバー用モケット(目付300g/m2 厚み1.5mm)を準備した。次に、図2の設備を使用し、フレームラミネートを行い、トータル厚み6mmの複合繊維シートを作成した。結果を表1に示す。
なお、各ガスバーナーからの火炎温度は、約1,400℃で、貼り合せ速度は20m/分であるので、繊維構造体や布帛への加熱時間は、約0.03秒となった。
【0038】
[実施例2]
実施例1と同様の繊維配合をローラーカード、クロスレイにより、繊維が厚み方向に平行なものをプレスロールで嵩を落し、上下ネットコンベヤーを有する、200℃の熱処理炉にて繊維間を熱接着処理することで作成した。得られた繊維構造体Aは、厚さ8mm、密度18kg/m3(0.018g/cm)、であった。一方、布帛Bとして、自動車シートカバー用モケット(目付300g/m2 厚み1.5mm)を準備した。図2の設備を使用し、実施例1と同様にしてフレームラミネートを行い、トータル厚み6mmの複合繊維シートを作製した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例3]
熱接着複合繊維は実施例1と同様なものを使用し、非弾性捲縮短繊維として、高粘度側ポリエステルとして固有粘度(オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定した。以下同じ)が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(融点256℃)、低粘度側ポリエステルとして固有粘度が0.45のポリエチレンテレフタレート(融点256℃)を用いて(固有粘度差0.10dl/g)、重量比50/50となるように、常法によりサイドバイサイド型複合繊維糸を紡糸した。このサイドバイサイド型複合繊維糸を約2倍に延伸し表面処理剤(油剤)を付与したのち、通常のクリンパー装置を用いて機械捲縮を10個/25mm付与し、さらに51mmに切断し、マトリックスとして単糸繊度が5.0dtexの潜在捲縮性能を有する非弾性捲縮短繊維を得た。
前記熱接着性複合繊維50%(重量)と、前記非弾性捲縮短繊維50%(重量)とをカードにより混綿し実施例1と同様な繊維構造体Aを作成した。この繊維構造体Aは、目付150g/m、厚み7.5mm、密度0.02g/cm
であった。さらに、布帛Bとしてポリエステル製仮撚捲縮加工糸使いのトリコット編地(目付け190g/m、厚み0.9mm)を使い、図2の設備を使用し、フレームラミネートを行い、トータル厚み6mmの複合繊維シートを作製した。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例4]
実施例1で使用した熱融着複合短繊維、非弾性捲縮短繊維と実施例2で使用した潜在捲縮繊維を使用し、重量比で50:25:25の比率で混綿し、以下実施例1と同様にして複合繊維シートを作製した、評価結果を1に示す。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、繊維構造体のみにフレーム処理をして布帛に貼り合せたが、接着できなかった。
【0042】
[比較例2]
実施例1において、接着層としてスパンファブ(目付25g/m、ポリエステル系低融点スパンボンド接着不織布)を使用して上下ヒーター付きベルトタイプのラミネーターを使用して繊維構造体と布帛を貼り合せ温度150℃で貼り合せた。結果を表1に示す。接着強力は高かったが、ラインスピードを10m/分とした場合、接着不良となった。
【0043】
【表1】

【0044】
注)繊維構造体、布帛温度は、赤外線温度計を使用して測定した、それぞれに温度である。
剥離強力(接着強力)は、基材の長手方向の剥離を縦方向、その垂直方向を横方向とする。
基材破壊とは、繊維構造体側の破壊を指す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、非弾性捲縮短繊維と熱接着性複合短繊維とが混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体と、布帛とを接着してなる複合繊維シートの製造方法であって、生産性に優れ、軽量かつ優れた接着強力を有する複合繊維シートを得ることが可能な製造方法、および該製造方法により得られた複合繊維シートが得られ、その工業的価値は極めて大である。
したがって、本発明により得られる複合繊維シートは、シート状のままの使用や、さらに金型を使用し成形品に利用でき、例えば、バストパッド、肩パッド、ヒップパッド等のパッドのようなもの、事務椅子や電車、飛行機等の座席、さらには、クッション性の要求されるパーテーションやサポーター等、内部に繊維構造体を有し表面が布で覆われているものにも利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 ウエブ
2 コンベア
3 ヒーター
4 繊維構造体
a 布帛B
b 繊維構造体A
c ガスバーナー
d 貼り合せロール
e 布帛B
f 繊維構造体A
F 熱接着性複合短繊維または非弾性捲縮短繊維
繊維構造体の厚さ方向
熱接着性複合短繊維または非弾性捲縮短繊維の配列方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性捲縮短繊維と、該非弾性捲縮短繊維を構成するポリマーよりも40℃以上低い融点を有するポリマーが熱融着成分としてその表面に配された熱接着性複合短繊維とが重量比率で90/10〜10/90となるように混綿され、該熱接着性複合短繊維同士が交差した状態で熱融着された固着点および/または該熱接着性複合短繊維と前記非弾性捲縮短繊維とが交差した状態で熱融着された固着点とが散在してなる繊維構造体Aと、布帛Bとを用意した後、
前記繊維構造体Aの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱すると同時に前記布帛Bの表裏少なくともどちらか一方表面を加熱し、
次いで、これら加熱された表面同士を熱接着させることを特徴とする複合繊維シートの製造方法。
【請求項2】
前記の加熱を、火炎を用いて行う、請求項1に記載の複合繊維シートの製造方法。
【請求項3】
加熱された表面同士を熱接着させた後、加圧する、請求項1または請求項2に記載の複合繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記非弾性捲縮短繊維がポリエステル系繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載の複合繊維シートの製造方法。
【請求項5】
前記布帛Bがポリエステル系繊維を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の複合繊維シートの製造方法。
【請求項6】
前記繊維構造体Aの平均密度が0.01〜0.10g/cmの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の複合繊維シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された複合繊維シートの製造方法により製造された、複合繊維シート。
【請求項8】
繊維構造体Aと布帛Bとの接着強力が1.0N/25mm以上である、請求項7に記載の複合繊維シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−241495(P2011−241495A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113221(P2010−113221)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(510135773)株式会社東園ROLL (1)
【Fターム(参考)】