説明

複合繊維体の成形方法

【課題】厚み方向で高密度層と低密度層の密度の変化勾配が緩やかで、吸音性内装材として有効な複合繊維体の成形方法の提供を図る。
【解決手段】1次成形型2により加熱,加圧する工程で、成形素材1Aの下面側のみが下型2Bの温度管理下で所要厚みの高密度層1aとして圧縮成形される。1次成形型2を型開きして成形素材1Aの上面側の低密度層1bを復元させ、これに熱風を送り込んで所要温度に加熱した状態で成形素材1Aを2次成形型3によりコールドプレスすることにより、低密度層1bが所要の厚みと密度に圧縮成形され、高密度層1aと低密度層1bの密度の変化勾配が緩やかで吸音性内装材として有効な複合繊維体1が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維,化学繊維や熱可塑性繊維からなる主繊維と、バインダーとしてこれよりも低融点の熱可塑性繊維とが不織状に交絡,混合した複合繊維体の成形方法、より詳しくは、厚み方向で高密度層と低密度層とに密度変化した複合繊維体の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前記厚み方向で高密度層と低密度層とに密度変化した複合繊維体は、例えば、自動車のダッシュインシュレータやルーフトリム等の吸音性内装材として用いられる。
【0003】
前記吸音性内装材に代表されるダッシュインシュレータは、一側面を低密度層とし他側面を高密度層とした2層構造体として構成され、前記低密度層をダッシュパネルの車室内側の側面に密接させて重合配置し、高密度層が車室内に露出した状態でクリップ等の止着部材により取付けられる。
【0004】
このダッシュインシュレータは、一般的には予め所定形状に熱プレス成形された高密度繊維体を適宜の接着剤を介して低密度繊維体に積層し、これを加熱成形型により所定形状,所定厚みに熱プレス成形した積層構造体として構成される。
【0005】
前記ダッシュインシュレータは、ダッシュパネル面に密着した低密度層でエンジンルーム側の騒音を吸収し、車室内に露出した高密度層の保形機能により所要の取付剛性が確保されるが、この高密度層でもエンジンルーム側からの騒音の遮断および車室側の騒音を吸収して音の反射を抑制し、総合的に車室内の静粛性を高められる吸音効果が求められている。
【0006】
ところが、ダッシュインシュレータが前述のように低密度繊維体と高密度繊維体との積層構造体であると、これら繊維体の密度変化が急激なため、車室内に露出した高密度繊維体による車室内騒音の反射量が大きくなって、ダッシュインシュレータの吸音性能を阻害することが指摘されている。
【0007】
一方、近年では例えば特許文献1に示されているように、主繊維と熱可塑性結合材からなるバインダーとを混合した成形材料を、該バインダーの軟化溶融温度に加熱してプレスし、その際に該成形材料の片面を高温下でプレスし、他方の面を低温下でプレスすることにより、両面の密度が異なる板状に成形する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−322137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1の技術によれば、厚み方向で高密度層と低密度層とに密度変化し、その密度の変化勾配が緩やかな板状の繊維体が成形可能である。しかし、熱プレスの一対の金型温度を高温と低温とに設定して成形材料を熱プレス成形するために、吸音に要求される低密度層と高密度層とを層状に形成する場合に、これら金型の温度管理および金型による成形材料の加圧時間管理が難しく、前記ダッシュインシュレータのように吸音性能,音の透過損失に優れた吸音性内装材として有効な、厚み方向で高密度層と低密度層とに密度変化し、かつ、その密度の変化勾配が緩やかな繊維成形体を簡単に得ることはできない。
【0010】
そこで、本発明は簡単な方法により、厚み方向で高密度層と低密度層とに密度変化し、かつ、その密度の変化勾配が緩やかで、吸音性内装材として用いて有効な複合繊維体を得ることができる複合繊維体の成形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の複合繊維体の成形方法にあっては、主繊維と、これよりも低融点の熱可塑性繊維からなるバインダーとが混合した繊維集合体を成形素材として、前記成形素材を1次成形型によりその一側面を圧縮成形加工に必要な所要温度に加熱した状態で圧縮して、該成形素材の一側面に所要厚みの高密度層を成形する工程と、前記1次成形型を型開きして、前記成形素材の高密度化されていない低密度層を復元させる工程と、前記成形素材の復元された低密度層を、流体熱媒により前記圧縮成形加工に必要な所要温度に加熱する工程と、前記低密度層が加熱された成形素材を、2次成形型により所定形状に加圧成形して、前記低密度層を所要の厚みに圧縮成形する工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
この発明の特徴によれば、前記1次成形型により加熱,圧縮する工程で成形素材の片面のみを所要厚みの高密度層として形成するため、要求される密度の高密度層を形成するための金型の温度管理および加工時間管理を容易に行うことができる。
【0013】
そして、成形素材の片面に高密度層が形成されると、1次成形型を型開きして一旦低密度層を復元し、これに熱風等の流体熱媒を送り込んで所要温度に加熱するため、この低密度層の加熱温度管理および加熱時間管理を容易に行えると共に、低密度層の全体に熱風を行き渡らせて加熱時間を短縮することができる。
【0014】
このようにして、成形素材の低密度層がくまなく熱風により所定温度に加熱された段階で、2次成形型により該成形素材を所定形状に加圧成形するので、要求される密度の低密度層を短時間で、かつ、容易に圧縮加工することができると共に、該低密度層の密度の安定化を図ることが可能となり、高密度層と低密度層との密度の変化勾配が緩やかな複合繊維体が得られる。
【0015】
また、本発明の複合繊維体の成形方法にあっては、主繊維と、これよりも低融点の熱可塑性繊維からなるバインダーとが混合した繊維集合体を成形素材として、前記成形素材を1次成形型によりその一側面を圧縮成形加工に必要な所要温度に加熱した状態で圧縮して、該成形素材の一側面に所要厚みの高密度層を形成する工程と、前記1次成形型の非加熱側の金型内を通して、前記成形素材の高密度化されていない低密度層に全体的に冷却風を導入して該低密度層を低温保持する工程と、前記低密度層が低温保持された成形素材を2次成形型により加圧して前記高密度層を低密度層と共に所定形状に加圧成形する工程と、前記2次成形型を型開きして、成形素材の低密度層を高密度層の加工形状に沿って復元させる工程と、を含むことを特徴としている。
【0016】
この発明の特徴によれば、前記1次成形型により加熱,圧縮する工程で成形素材の片面のみを所要厚みの高密度層として形成するため、要求される密度の高密度層を形成するための金型の温度管理および加圧時間管理を容易に行うことができる。
【0017】
そして、成形素材の片面に高密度層の形成後もしくは高密度層の形成過程で、1次成形型の非加熱側の金型内を通して前記成形素材の高密度化されていない低密度層に全体的に冷却風を導入して該低密度層を低温保持するため、前記高密度層の低密度層側への高密度化の進行が抑制され、要求される所要厚みの高密度層を容易に形成することが可能となる。
【0018】
このようにして、成形素材の片面側の高密度層の高密度化の進行が抑制され、かつ、低密度層が低温保持された状態で該成形素材を2次成形型により所定形状に加圧成形した後、該2次成形型を型開きして前記成形素材の低密度層を高密度層の加工形状に沿って復元させるので、要求される所要厚みと所要密度の低密度層を容易に成形することができると共に、該低密度層の密度の安定化を図ることが可能となり、高密度層と低密度層との密度の変化勾配が緩やかな複合繊維体が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、始めに成形素材の片面側のみを高密度化して所要厚み,所要密度の高密度層を形成するので、高密度層を形成するための成形金型の温度管理および加圧時間管理が容易となる。
【0020】
この高密度層の形成に続いて、成形素材の高密度化されていない低密度層を、成形型を型開きして一旦復元させた状態で該低密度層内にその圧縮成形加工に適した温度の熱風等の流体熱媒を送り込み,あるいは、前記高密度層の形成時に前記低密度層に冷却風を送り込んで該低密度層を低温保持して、前記成形素材を2次的に所定形状に加圧成形するので、要求される密度および厚みの高密度層と低密度層からなり、かつ、その密度の変化勾配が緩やかな2層構造の複合繊維体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態を示す工程図。
【図2】本発明の第2実施形態を示す工程図。
【図3】本発明の第3実施形態を示す工程図。
【図4】本発明の方法によって得られた複合繊維体の厚み方向の密度の変化勾配を、従来の積層構造体のものと比較して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0023】
図1は本発明の方法の第1実施形態を示し、高密度層と低密度層との2層構造からなる複合繊維体1の成形素材1Aの片面に高密度層1aを形成する1次成形型2と、この片面に高密度層1aが形成された成形素材1Aを所定の形状に加圧成形する2次成形型3とが用いられている。
【0024】
本発明における複合繊維体とは、天然繊維,化学繊維や適宜の熱可塑性繊維からなる主繊維と、これよりも低融点の適宜の熱可塑性繊維とが不織状に交絡,混合した成形繊維体を意味し、その成形素材とは、前記主繊維と、これよりも低融点の前記熱可塑性繊維をバインダーとして用いて、これら主繊維とバインダーとを任意の配合割合で混合した繊維集合体を意味している。
【0025】
この第1実施形態では、前記1次成形型2として、上型2Aおよび下型2Bとも平板状に形成した金型が用いられ、下型2Bには加熱温度調整が可能なホットプレートが用いられる。
【0026】
図1に示す工程(a)において、前記1次成形型2の上型2Aと下型2Bとにより、前記成形素材1Aが平板状に圧縮成形加工される。この工程(a)では前記下型2Bが成形素材1Aの下面側の圧縮成形加工に必要な所要温度、即ち、成形素材1Aに用いられる前記バインダー(熱可塑性繊維)の表面が軟化,溶融する温度以上に加熱調整されている。この下型2Bに当接した成形素材1Aの下面側が、該下型2Bによる加熱下で所定時間加圧されることにより、成形素材1Aの下面側に所要厚みの高密度層1aが圧縮成形される。
【0027】
前記成形素材1Aの高密度層1aの密度および成形厚みは、前記下型2Bの加熱温度と、該下型2Bと上型2Aとによる成形素材1Aの加圧力と加圧時間の設定によって任意に調整される。
【0028】
図1に示す工程(b)では、前記1次成形型2の上型2Aと下型2Bとが型開きされ、この1次成形型2の型開きにより、前記成形素材1Aの高密度化されていない上面側の低密度層1bが自体の弾性によりほぼ元の自由厚み状態にまで復元する。そして、前記低密度層1bが復元された状態で、前記上型2Aに上下方向に貫通して形成された複数の通路2aを通して、該低密度層1bにその圧縮成形加工に必要な前記所要温度に加熱された流体熱媒、例えば熱風が供給される。この熱風の供給は、前述のように上型2Aを上下方向に貫通した複数の通路2aを介して低密度層1bの面直方向に行われ、これにより、熱風が低密度層1bの隅々にまで行き渡って、該低密度層1bが短時間のうちに所要の圧縮成形加工温度にまで加熱される。
【0029】
このとき、前記下型2Bによる前記高密度層1aの加熱状態を継続しておいてもよいが、前記低密度層1bへの熱風導入によって高密度層1aをその加圧成形可能温度に維持させることが可能であるため、該下型2Bの加熱電源をオフにして消費電力を低減することもできる。
【0030】
このようにして、前記低密度層1bが熱風加熱された成形素材1Aは、図1に示す工程(c),(d)で、2次成形型3によりコールドプレスして所定形状に加圧成形される。
【0031】
この2次成形型3は、上型であるコア型3Aと下型であるキャビティ型3Bとで構成されている。
【0032】
前記工程(b)により低密度層1bが所要の圧縮成形加工温度に熱風加熱された成形素材1Aは前記工程(c)に移行され、コア型3Aとキャビティ型3Bとにより所要時間コールドプレスされ、例えば工程(c)にて示すように成形素材1Aの中央部分と両側部とで低密度層1bの厚み寸法が異なる所要の凹凸形状に加圧成形される。
【0033】
この工程(c)により所要形状に加圧成形されて、成形素材1Aの高密度層1aと低密度層1bとが冷却固化すると、工程(d)においてコア型3Aとキャビティ型3Bとが型開きされて、下面側に高密度層1aと上面側に低密度層1bとを有する2層構造の所定形状の複合繊維体1が型抜きして得られる。
【0034】
前記工程(b)において、成形素材1Aの復元された低密度層1bを熱風で加熱した例を示しているが、流体熱媒として熱風の他に、水蒸気または熱水を用いることも可能である。
【0035】
以上の第1実施形態の方法によれば、前記1次成形型2により加熱,圧縮する工程で成形素材1Aの下面側(片面)のみを所要厚みの高密度層1aとして形成するため、下型2Bの加熱温度を適切に設定して、上,下型2A,2Bによる成形素材1Aの加圧力と加圧時間を適切に設定すればよいので、前記従来技術のような上,下型の加熱温度バランスと、この加熱温度と加圧時間とのバランスを考慮する必要がなく、要求される密度および厚みの高密度層1aを形成するための金型の温度管理および加圧時間管理を容易にすることができる。
【0036】
そして、成形素材1Aの下面側に高密度層1bが形成されると、1次成形型2を型開きして一旦上面側の低密度層1bを復元し、これに熱風等の流体熱媒を送り込んで所要温度に加熱するため、この低密度層1bの加熱温度管理および加熱時間管理を容易に行える。
【0037】
しかも、前述のように低密度層1bを一旦復元した状態でこれに流体熱媒を送り込むため、低密度層1bの全体に流体熱媒を行き渡らせて加熱時間を短縮することができると共に、加熱温度の保温性も良好にすることができる。
【0038】
このようにして、成形素材1Aの低密度層1bがくまなく(隅々まで)熱風(流体熱媒)により所定温度に加熱された段階で、2次成形型3により該成形素材1Aを所定形状にコールドプレスして加圧成形するので、要求される密度および厚みの低密度層1bを短時間で、かつ、容易に圧縮加工することができると共に、該低密度層1bの密度を安定化することができる。
【0039】
この結果、例えば自動車用ダッシュインシュレータに代表される吸音性内装材として好適な、高密度層1aと低密度層1bの各密度,厚みが安定して、かつ、これらの密度の変化勾配が緩やかな複合繊維体1を容易に得ることができる。即ち、図4はこのようにして得られたダッシュインシュレータとしての複合繊維体1の厚み方向の密度の変化勾配を示している。同図において破線bに示すように、高密度繊維体と低密度繊維体とを熱プレス成形して積層構造体として得られた従来のダッシュインシュレータでは、その厚み方向の密度が前記積層の境界部分で急激に変化しているのに対して、本発明の方法によって得られたダッシュインシュレータにあっては、同図の実線aに示すように、高密度層と低密度層の密度の変化勾配が緩やかになっていることが判る。
【0040】
因みに、前記成形素材1Aの高密度層1aと低密度層1bとを、熱プレスにより単工程で成形しようとすると、前述のように金型の温度管理,加圧時間管理が難しくなる上、成形素材1Aの内部まで適正温度に加熱することが困難となり、成形性が悪化したり、成形時間が多大となるばかりでなく、各層の密度が不安定となる可能性がある。
【0041】
図2は本発明の方法の第2実施形態を示し、この第2実施形態では1次成形型21は、上型であるコア型21Aと下型であるキャビティ型21Bとで構成されていて、この1次成形型21により成形素材1Aを所要の凹凸形状に予備成形するようにしている。
【0042】
この第2実施形態では前記第1実施形態と同様に、1次成形型21により成形素材1Aの下面側(片面)のみを加熱,圧縮して所要厚みの高密度層1aとして形成するようにしている。
【0043】
従って、前記キャビティ側(下型)21Bは、適宜のヒータを内蔵した加熱型として構成されている。
【0044】
図2に示す工程(a)でコア型21Aとキャビティ型21Bとの間に成形素材1Aが供給されると、工程(b)でこれらコア型21Aとキャビティ型21Bとにより成形素材1Aが所要の凹凸形状に予備成形される。この工程(b)ではキャビティ型21Bが前記第1実施形態と同様に、成形素材1Aの下面側(片面)を圧縮成形加工に必要な前記所要温度に加熱管理されている。従って、成形素材1Aはその下面側のみが加圧,圧縮されて該下面側に所要厚みの高密度層1aが形成される。
【0045】
図2に示す工程(c)では、コア型21Aとキャビティ型21Bとが型開きされ、成形素材1Aの前記(b)の工程で高密度化されていない上面側の低密度層1bを一旦自体の弾性により元の自由厚み状態にまで復元させる。そして、この低密度層1bが復元された状態で、前記コア型21Aに上下方向に貫通して形成された複数の通路21aを通して、該低密度層1Aにその圧縮成形加工に必要な前記所要温度に加熱された流体熱媒、例えば熱風が供給される。これは前記第1実施形態における図1に示す工程(b)と全く同様で、前記熱風は前記低密度層1Aにほぼ面直方向に送り込まれる。
【0046】
このようにして、前記低密度層1bが熱風加熱された成形素材1Aは、図2に示す工程(d)で、2次成形型31によりコールドプレスして所定の最終形状に加圧成形される。
【0047】
この2次成形型31は、前記1次成形型21と同様に上型であるコア型31Aと下型であるキャビティ型31Bとで構成されるが、前記コア型31Aの所要部位、例えば工程(d)にて図示するように型面の中央位置と両側端位置とには凸部31aが形成されていて、該2次成形型31に部分的に型クリアランスを極端に小さくした高密度層成形部分が構成されるようにしている。
【0048】
前記工程(c)により低密度層1bが所要の圧縮成形加工温度に熱風加熱された成形素材1Aは前記工程(d)に移行され、コア型31Aとキャビティ型31Bとにより所要時間コールドプレスされ、所要の最終凹凸形状に加圧成形される。このとき、前記コア型31Aの凸部31aの形成部分では、型クリアランスが極端に小さくされているため、成形素材1Aのこれら凸部31aに対応する部分では前記低密度層1bの圧縮度合が他の一般部分よりも極端に大きくなるため、当該部分では前記低密度層1bが高密度化して、成形素材1Aの上下面に亘って高密度層1aの厚みが増大される。
【0049】
従って、この第2実施形態の方法によれば、前記第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、得られた複合繊維体1には、部分的に表裏面に亘って高密度層1aの厚みが増大された高剛性部1a´が形成される。従って、この高剛性部1a´をダッシュパネル等への相手部材への固定部とすることにより、取付剛性を高められる複合繊維体1とすることができる。
【0050】
前記第1,第2実施形態では、何れも1次成形型2,21の下型の2B,21Bを加熱型とし、上型2A,21Aから流体熱媒である熱風を送り込むようにしているが、これは、上型2A,21Aを加熱型とし、下型2B,21Bから熱風を送り込むようにしてもよいことは勿論である。
【0051】
図3は本発明の第3実施形態を示すもので、この第3実施形態に用いられる1次成形型2と、2次成形型3は、前記第1実施形態の成形方法に用いられたものと同様のものである。
【0052】
この第3実施形態の方法で前記第1実施形態の方法と異なる点は、図3に示す工程(a)で1次成形型2の上型2Aと下型2Bとによる、成形素材1Aの下面側(片面)に所要厚みの高密度層1aの成形時に、該高密度層1aの成形過程でもしくは成形直後に、上型2Aの通路2aを介して成形素材1Aの上面側の低密度層1bに全体的に冷却風を導入して該低密度層1bを低温保持するようにした点である。
【0053】
図3に示す工程(a)では、前記高密度層1aの形成後、上型2Aと下型2Bとを型開きして、成形素材1Aの上面側の低密度層1bを一旦復元させた状態で該低密度層1bに冷却風を面直方向に送り込むようにしているが、前記高密度層1aの成形過程で低密度層1bに冷却風を送り込むことも可能である。
【0054】
このように低密度層1bが低温保持された状態で図3に示す工程(b)で、2次成形型3により成形素材1Aをコア型3Aとキャビティ型3Bとでコールドプレスすると、高密度層1aがこれらコア型3Aとキャビティ型3Bの型面の凹凸形状に成形される。このとき、低密度層1bは低温保持された状態にあるため、圧縮されても弾性により自己復元性を保有している。そこで、前記高密度層1aの冷却固化後、図3に示す工程(c)でこれらコア型2Aとキャビティ型2Bとを型開きすると、前記低密度層1bが高密度層1aの加工形状に沿って所要の厚みに復元した複合繊維体1が得られる。
【0055】
この第3実施形態の方法によれば、前記第1,第2実施形態と同様に前記1次成形型2により加熱,圧縮する工程で成形素材1Aの下面側(片面)のみを所要厚みの高密度層1aとして形成するため、要求される密度および厚みの高密度層1aを形成するための金型の温度管理および加圧時間管理を容易にすることができる。
【0056】
そして、成形素材1Aの下面側(片面)に高密度層1aの形成後もしくは形成過程で、1次成形型2の非加熱側の金型である上型2A内を通して前記成形素材1Aの高密度化されていない上面側の低密度層1bに全体的に冷却風を導入して該低密度層1bを低温保持するため、前記高密度層1aの低密度層1b側への高密度化の進行が抑制され、要求される所要厚みの高密度層1aを容易に形成することが可能となる。
【0057】
このようにして、成形素材1Aの下面側(片面側)の高密度層1aの高密度化の進行が抑制され、かつ、低密度層1bが低温保持された状態で該成形素材1Aを2次成形型3により所定形状に加圧成形した後、該2次成形型3を型開きして前記成形素材1Aの低密度層1bを高密度層1aの加工形状に沿って復元させるので、要求される所要厚みと所要密度の低密度層1bを容易にすることができる。
【0058】
即ち、前記低密度層1bは2次成形型3の型開きにより圧縮前の状態に復元するので、ほぼ均一な厚みと密度が安定状態に保たれ、しかも、高密度層1aと低密度層1bとの密度の変化勾配が緩やかな複合繊維体1を得ることができる。
【0059】
特に、この第3実施形態の方法によれば、前述のように成形素材1Aの低密度層1bが、2次成形型3による加圧成形後の型開きにより圧縮前の状態に復元するので、厚みと密度が均一な低密度層1bを有する吸音性内装材を得る場合に有効である。
【0060】
なお、前記第1〜第3実施形態において、2次成形型2,21,3のコールドプレスによる加圧成形時に、成形体のトリム,ピアスを同時に行ってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…複合繊維体
1A…成形素材
1a…高密度層
1b…低密度層
2…1次成形型
2A…上型
2a…通路
2B…下型
3…2次成形型
3A…コア型(上型)
3B…キャビティ型(下型)
21…1次成形型
21A…コア型(上型)
21a…通路
21B…キャビティ型(下型)
31…2次成形型
31A…コア型(上型)
31a…凸部(高密度層成形部分)
31b…キャビティ型(下型)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主繊維と、これよりも低融点の熱可塑性繊維からなるバインダーとが混合した繊維集合体を成形素材として、
前記成形素材を1次成形型によりその一側面を圧縮成形加工に必要な所要温度に加熱した状態で圧縮して、該成形素材の一側面に所要厚みの高密度層を形成する工程と、
前記1次成形型を型開きして、前記成形素材の前記高密度化されていない低密度層を復元させる工程と、
前記成形素材の復元された低密度層を、流体熱媒により前記圧縮成形加工に必要な所要温度に加熱する工程と、
前記低密度層が流体熱媒により加熱された成形素材を、2次成形型により所定形状に加圧成形して、前記低密度層を所要の厚みに圧縮成形する工程と、を含むことを特徴とする複合繊維体の成形方法。
【請求項2】
前記2次成形型に部分的に型クリアランスを小さくした高密度層成形部分を設定し、該高密度層成形部分で前記成形素材の低密度層の圧縮度合いを部分的に高めて高密度化し、前記高密度層の厚みを増大させることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維体の成形方法。
【請求項3】
主繊維と、これよりも低融点の熱可塑性繊維からなるバインダーとが混合した繊維集合体を成形素材として、
前記成形素材を1次成形型によりその一側面を圧縮成形加工に必要な所要温度に加熱した状態で圧縮して、該成形素材の一側面に所要厚みの高密度層を形成する工程と、
前記1次成形型の非加熱側の金型内を通して、前記成形素材の高密度化されていない低密度層に全体的に冷却風を導入して該低密度層を低温保持する工程と、
前記低密度層が低温保持された成形素材を2次成形型により加圧して前記高密度層を低密度層と共に所定形状に加圧成形する工程と、
前記2次成形型を型開きして、成形素材の低密度層を高密度層の加工形状に沿って復元させる工程と、を含むことを特徴とする複合繊維体の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−25439(P2011−25439A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171003(P2009−171003)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】