説明

複合自己分散ポリエステル水性分散物およびその製造方法、水性インク組成物、インクセット、ならびに、画像形成方法

【課題】インク安定性、吐出安定性に優れ、良好な定着性を有する水性インク組成物を提供する。
【解決手段】第1のポリエステルおよび前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルを含む混合溶液と水とから得られ、前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを含有する複合粒子を含むとともに体積平均粒子径が0.1nm以上80nm以下である複合自己分散ポリエステル水性分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合自己分散ポリエステル水性分散物およびその製造方法、水性インク組成物、インクセット、ならびに、画像形成方法に関する。
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドに形成された多数のノズルからそれぞれインク滴を打滴することによって記録を行うものであり、記録動作時の騒音が低く、ランニングコストが安く、多種多様な記録媒体に対して高品位な画像を記録できることなどから幅広く利用されている。
【0003】
ところで、インクジェット用インクでは、黒色インクにカーボンブラック顔料が使用されているが、カラーインクにおいては水溶性染料が中心的であり、耐候性(耐光性、耐オゾン性、耐水性)の改良が求められている。特に、印刷分野への応用を考えた場合、耐候性の改善は特に重要である。顔料は、その高い結晶性に起因して本質的に堅牢性が高く、耐光性、耐水性は染料に比べて格段に優れている。しかしながら、ノズル部の目詰まり等による吐出性、凝集沈降などの保存安定性や、さらに粒子が記録媒体表面に留まるために耐擦性や光沢性といった印字物の定着性が悪くなるなど、課題が残されている。
このような現状において本発明の課題は、インクジェット用インクの吐出性、定着性、保存安定性を改良させることである。
【0004】
吐出性向上、インク保存安定性向上技術として、顔料と、特定のジオール誘導体と特定の界面活性剤、自己乳化型水分散性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする水性インク組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。かかる水性インク組成物においては、ポリエステル樹脂粒子が親水性基を表面に有することにより、界面活性剤無しで水中に乳化分散しているので、分散安定性に優れているとされている。また造膜性が高いため、紙への顔料粒子の固着性に優れ、耐擦過性が良好であるとされている。
【0005】
また、ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、攪拌下、系中に水を添加することにより、転相、自己乳化させることを特徴とするポリエステル樹脂水分散体の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。該製造方法は、(1)水の添加速度、(2)ポリエステル樹脂が結晶融点を有しない非晶性であること、ならびに(3)ポリエステル樹脂溶解時の溶剤が、有機良溶剤と有機貧溶剤の混合溶剤であることを特徴としている。この製造方法によれば、粒度分布の狭い水分散体を得ることができ、保存安定性が良好であり、更には塗工適性が良好な実用性の高いポリエステル樹脂水分散体が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−241286号公報
【特許文献2】特開2007−277495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1には、自己乳化型水分散性ポリエステル樹脂の製造方法に関する記載がなく、また、特許文献1の段落番号[0038]に記載されているように、吐出性に影響を与えるインク粘度やインク保存安定性の観点から、自己乳化型水分散性ポリエステル樹脂の添加量の上限値が低くなり、ポリエステル樹脂の添加による十分な効果の発現が期待できない場合があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の製造方法では、転相乳化時に使用される混合溶剤の構成から、分散安定性の高い水分散体を製造するのは困難な場合があった。また、得られるポリエステル粒子の粒子径の下限は90nm程度であり、そのため十分な分散安定性を得ることができないという問題点があった。
【0009】
本発明は、分散安定性に優れる複合自己分散ポリエステル水性分散物およびその製造方法、該複合自己分散ポリエステル水性分散物を含み、インク安定性、吐出安定性に優れ、良好な定着性を有する水性インク組成物および該水性インク組成物を含むインクセット、並びに、定着性が良好な画像形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 第1のポリエステルおよび前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルを含む混合溶液と水とから得られ、前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを含有する複合粒子を含むとともに体積平均粒子径が0.1nm以上80nm以下である複合自己分散ポリエステル水性分散物。
<2> 前記複合自己分散ポリエステル水性分散物はpH環境の変化により凝集する前記<1>に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物。
<3> 前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルはともに、カルボキシル基を有する前記<1>または<2>に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物。
【0011】
<4> 前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物と、着色剤と、を含有する水性インク組成物。
【0012】
<5> 第1のポリエステルおよび前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルを含む混合溶液と水とを用いて、前記第1のポリエステルと第2のポリエステルを含む複合粒子を得る工程を含み、前記複合粒子の体積平均粒子径が0.1nm以上80nm以下である複合自己分散ポリエステル水性分散物の製造方法。
<6> 前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解する有機良溶剤、並びに、含有率が30質量%以上70質量%以下である前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解しない有機貧溶剤を含む混合溶剤と、前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルと、を含有する混合溶液を得る工程をさらに含む前記<5>に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物の製造方法
【0013】
<7> 前記<4>に記載の水性インク組成物と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクセット。
<8> 前記<4>に記載の水性インク組成物を、記録媒体に付与するインク付与工程と、前記水性インク組成物が付与された記録媒体を加熱して画像を定着する加熱定着工程と、を含む画像形成方法。
<9> 前記<4>に記載の水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体に付与する処理液付与工程をさらに含む前記<8>に記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分散安定性に優れる複合自己分散ポリエステル水性分散物およびその製造方法、該複合自己分散ポリエステル水性分散物を含み、インク安定性、吐出安定性に優れ、良好な定着性を有する水性インク組成物および該水性インク組成物を含むインクセット、並びに、定着性が良好な画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<複合自己分散ポリエステル水性分散物>
本発明の複合自己分散ポリエステル水性分散物は、第1のポリエステルおよび前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルを含む混合溶液と水とから得られ、前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを含有する複合粒子を含み、前記複合粒子の体積平均粒子径が0.1nm以上80nm以下である複合自己分散ポリエステルの水性分散物である。
複合自己分散ポリエステルが、酸価が3以上異なる2種のポリエステルを含有する複合粒子を含んで構成されることで、分散安定性に優れた複合自己分散ポリエステルの水性分散物を構成することができる。これは例えば、複合自己分散ポリエステルを構成する複合粒子の内部に酸価が小さい方のポリエステルが配置され、外側に酸価が大きい方のポリエステルが配置されることで、分散に適した構造を取ることができ、複合自己分散ポリエステルの粒子形状の安定性と分散安定性とが高いレベルで両立できるためと考えることができる。
【0016】
本発明における複合自己分散ポリエステルは、第1のポリエステルと、前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルの少なくとも1種と含む複合粒子を含んで構成されるが、必要に応じてその他のポリマーの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。前記複合自己分散ポリエステルは、2種以上のポリエステル樹脂(好ましくは、水不溶性のポリエステル樹脂)の複合体であって、複合体として自己分散性を有するポリエステル樹脂(以下、「自己分散ポリエステル」ということがある)である。
【0017】
本発明において自己分散ポリエステルとは、ポリエステル樹脂自身の官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となりうるポリエステル樹脂をいう。ここで分散状態とは、水性媒体中にポリエステル樹脂が液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、および、水性媒体中にポリエステル樹脂が固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
前記自己分散ポリエステルは、例えば、水性インク組成物に含有された場合のインク定着性の観点から、ポリエステル樹脂が固体状態で分散された分散状態となりうる自己分散ポリエステルであることが好ましい。
【0018】
また本発明における自己分散ポリエステルの分散状態とは、自己分散ポリエステル樹脂30gを70gの有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリエステルの塩生成基を100%中和できる中和剤(例えば、水酸化ナトリウム)、および水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶剤を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で、少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0019】
本発明の複合自己分散ポリエステル(以下、「複合粒子」ということがある)の水性分散物は、第1のポリエステルおよび第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルの混合溶液と水とから製造されることにより、分散安定性に優れる水性分散物として得られる。さらに例えば、該水性分散物を含む水性インク組成物のインク安定性、吐出安定性が向上する。
【0020】
前記複合自己分散ポリエステルは、酸価(mgKOH/g)の差が3以上である第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを含むが、前記酸価の差は3以上40以下であることが好ましく、3以上20以下であることがより好ましい。第1のポリエステルの酸価と、第2のポリエステルの酸価の差が3未満では、十分な分散安定性が得られない場合がある。また酸価の差が40以下であることで、より分散安定性に優れる水性分散物とすることができる。
尚、本発明における酸価は、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により測定される。
【0021】
また、前記複合自己分散ポリエステルに含まれる第1のポリエステルおよび第2のポリエステル酸価は、自己分散性、水溶性成分の含有量、水性インク組成物を構成した場合の定着性、およびpH環境の変化(例えば、酸性の処理液との接触)により凝集反応を促進させる等の観点から、それぞれ3以上70未満であることが好ましく、4以上65未満であることが好ましく、5以上60未満であることが好ましい。酸価が3以上であることにより、粒子をより安定に分散することができる。また、酸価が70未満であることにより、水への溶解性成分を少なくして親水基同士の融着を抑えることができる。
【0022】
前記複合自己分散ポリエステルにおける第1のポリエステルと第2のポリエステルの質量比は、高酸価のポリエステル/低酸価のポリエステルが1/9〜9/1であることが好ましく、2/8〜8/2であることがより好ましく、3/7〜7/3であることがさらに好ましい。酸価が異なる2種のポリエステルの質量比が上記の範囲であることによって、より効果的に安定な粒子形成が促進される。
【0023】
本発明における複合自己分散ポリエステルは、分散安定性の観点から、酸価がともに4以上65未満であるとともに酸価の差が3以上40以下である第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを低酸価のポリエステルに対する高酸価のポリエステルの質量比(高酸価のポリエステル/低酸価のポリエステル)として、1/9〜9/1で含むことが好ましく、酸価がともに5以上60未満であるとともに酸価の差が3以上20以下である第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを低酸価のポリエステルに対する高酸価のポリエステルの質量比として、2/8〜8/2で含むことがより好ましい。
【0024】
本発明における複合自己分散ポリマーを構成する第1のポリエステルおよび第2のポリエステルとしては、第1のポリエステルと第2のポリエステルの酸価の差が3以上であれば、ポリカルボン酸成分と、ポリオール成分とを含むポリエステル原料を縮重合して得られるポリエステル樹脂を特に制限なく使用することができる。
【0025】
ポリカルボン酸成分として、例えば2価のカルボン酸化合物を挙げることができ、芳香族ジカルボン酸であっても、脂肪族ジカルボン酸であってもよい。また脂肪族ジカルボン酸は鎖状の脂肪族ジカルボン酸であっても、環状の脂肪族ジカルボン酸(脂環族ジカルボン酸)であってもよい。
具体的には例えば、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。また脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデセニル無水コハク酸、ドデカンジカルボン酸、アゼライン酸等が挙げられる。さらに脂環族ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上任意に組み合わせても使用できる。
【0026】
また、上記ポリオール成分としては、2価のジオール化合物を挙げることができ、2価の脂肪族ジオール化合物(脂肪族グリコール)であっても、芳香環構造を含むジオール化合物であってもよい。また脂肪族グリコールは鎖状の脂肪族グリコールであっても、環状の脂肪族グリコール(脂環族グリコール)であってもよい。
具体的には例えば、2価の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、トリエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−3−メチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
また、2価の芳香環構造を含むグリコールとしては、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、p−キシレン−α,α’−ジオール、m−キシレン−α,α’−ジオール、ビスヒドロキシメチルビフェニルなどが挙げられる。
さらに、2価の脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール−A、ダイマージオールなどが挙げられる。
これらは1種単独でも、2種以上任意に組み合わせても使用できる。
【0027】
また本発明においては本発明の効果を損なわない範囲で、3価以上の、ポリカルボン酸化合物やポリオール化合物を併用しても良い。3価以上のカルボン酸、その酸無水物およびその低級アルキルエステルとしては、例えば1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸等、又はこれらの酸の無水物もしくは低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0028】
また3価以上のポリオール化合物としては、例えばソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0029】
またポリカルボン酸成分とポリオール成分の質量比としては、各成分の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、ポリカルボン酸成分に対するポリオール成分の質量比(ポリオール成分/ポリカルボン酸成分)として1/9〜9/1とすることができ、2/8〜8/2であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いられるポリエステル樹脂は、前記ポリカルボン酸成分と、ポリオール成分とを含むポリエステル原料に含まれる原料モノマーを縮重合して得られるものであり、重合の方法としては、特に限定されることなく公知の方法が用いられる。
【0031】
原料モノマーの縮重合を行う場合、重合触媒を用いても良い。重合触媒としては、例えば、錫化合物(ジブチル錫オキシドなど)、チタン化合物(テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルアセトネートなど)、アンチモン化合物(トリブトキシアンチモン、三酸化アンチモンなど)、ゲルマニウム化合物(テトラ−n−ブトキシゲルマニウム、酸化ゲルマニウムなど)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛など)などを挙げることができる。上記重合触媒は1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明に用いるポリエステル樹脂は水分散する際に水への親和力を高めるために親水性基を有することが好ましい。前記親水性基としてはイオン性基等の極性基であることが好ましい。極性基としてはカルボキシル基、スルホニル基およびこれらの塩が一般的であるが、本発明では粒度分布を狭くするという観点からカルボキシル基およびその塩を用いることが好ましい。
【0033】
ポリエステル樹脂へのカルボキシル基の導入方法としては、通常用いられる導入方法を適用することができる。例えば、樹脂を重合した後に常圧、窒素雰囲気下、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水コハク酸、1,8−ナフタル酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸−3,4−無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ナフタレン1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物などから1種または2種以上を選択し、重縮合終了後に前記した酸無水物を添加する方法や、樹脂を高分子量化する前のオリゴマー状態のものにこれらの酸無水物を投入し、次いで減圧下の重縮合により高分子量化することで、樹脂にカルボキシル基を導入する方法などがある。これらのうち、前者の方法が目標とする酸価が得られやすく好ましい。
【0034】
本発明における第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの分子量範囲はそれぞれ、重量平均分子量で、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己乳化安定性を高めることができる。
尚、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定することできる。
【0035】
本発明において前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルは、上記ポリエステル樹脂の中から、酸価の差が3以上であるポリエステル樹脂の組み合わせとして適宜選択される。
【0036】
前記複合自己分散ポリエステルの体積平均粒子径は、0.1〜80nmの範囲であるが、0.2〜60nmがより好ましく、0.3〜40nmがさらに好ましい。0.1nm以上の平均粒径であることで製造適性が向上し、水性分散物の高粘度化を抑制することができる。また、80nm以下の体積平均粒子径とすることで保存安定性が向上する。一方0.1nm未満の場合、粒子間相互作用が大きく増加してポリエステル水性分散物の粘度が増加し、製造効率の低下を招くことがある。また80nmを超えると、粒子同士の融着やミクロンサイズの粗大粒子数が増加し、安定な分散状態を維持することが困難になる。
【0037】
前記複合自己分散ポリエステルの粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つものであっても、単分散の粒径分布を持つものであってもよい。
尚、前記複合自己分散ポリエステルの平均粒径および粒径分布は、例えば、動的光散乱法を用いて測定することができる。
【0038】
本発明における自己分散ポリエステルは、分散安定性の観点から、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの重量平均分子量がそれぞれ5000〜15万であって、体積平均粒子径が0.2〜60nmであることが好ましく、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの重量平均分子量がそれぞれ10000〜10万であって、体積平均粒子径が0.3〜40nmであることがより好ましい。
【0039】
<複合自己分散ポリマー水性分散物の製造方法>
本発明において複合自己分散ポリマー水性分散物は、第1のポリエステルと第2のポリエステルの混合溶液(以下、単に「ポリマー溶液」ということがある)と水とを用いて、前記第1のポリエステルと第2のポリエステルを含む複合粒子を得る工程を含む製造方法で製造される。
【0040】
前記混合溶液は、第1のポリエステルの少なくとも1種と、第2のポリエステルの少なくとも1種と、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解する溶剤の少なくとも1種を含む。前記混合溶液は、前記第1のポリエステルと第2のポリエステルを、これらを溶解する溶剤に溶解することで得ることができる。溶解の方法としては特に制限はなく通常用いられる溶解方法を適用することができる。
【0041】
本発明において、第1のポリエステルおよび第2のポリエステル(以下、両者を合わせて単に「ポリエステル樹脂」ということがある)を溶解する際に用いる溶剤としては、n−ブタノール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、2−エチルヘキサノール、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,3−オキソラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、などを用いることができる。特にこれらの中でも、沸点が100℃以下であるメチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、イソプロピルアルコールが好ましい。これらを用いることで後工程の溶剤除去工程において、系内に残存する溶剤を短時間で低減することができる。
【0042】
また本発明において前記混合溶液は、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解する有機良溶剤と、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解しない有機貧溶剤とを含むとともに前記有機貧溶剤の含有率が30質量%以上70質量%以下である混合溶剤を含むことが好ましい。
すなわち、前記複合粒子を得る工程は、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解する有機良溶剤、ならびに第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解しない有機貧溶剤を含むとともに前記有機貧溶剤の含有率が30質量%以上70質量%以下である混合溶剤と、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルとを含む混合溶液を得る工程をさらに含むことが好ましい。
【0043】
前記混合溶剤は、有機貧溶剤の含有率が30質量%以上70質量%以下であることが好ましいが、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
有機貧溶剤の含有量が70質量%以下であることで、混合溶剤から樹脂が析出することを抑制することができる。また有機貧溶剤量が30質量%以上であると、油相から水相への転相の際の、混合溶液の急激な極性変化を抑制することができる。これにより、ポリエステル樹脂の親水基同士の会合や疎水基同士の相互作用等による樹脂の析出や粒子同士の融着を抑制することができ、より安定な微粒子形成が可能になる。すなわち、混合溶剤中の有機貧溶剤の含有量が30質量%以上70質量%以下であると、油相から水相への転相がスムーズに行われ、より分散安定性の高い複合自己分散ポリエステル水性分散物を作製することができる。また、体積平均粒子径が0.1nm〜80nmの範囲の分散物を、より効率的に調製することができる。
【0044】
本発明において、ポリエステル樹脂を溶解する有機良溶剤とは、ポリエステル樹脂の溶解度(25℃)が10質量%以上である水溶性の有機溶剤を意味する。また自己分散ポリエステルを溶解しない有機貧溶剤とは、ポリエステル樹脂の溶解度(25℃)が10質量%未満である水溶性の有機溶剤を意味する。
【0045】
本発明における有機良溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤等を挙げることができ、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、沸点が100℃以下のケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
尚、有機良溶剤は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本発明における有機貧溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t-ブタノール、ジアセトンアルコール、2−エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤を挙げることができる。中でも、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤であることが好ましい。
尚、有機貧溶剤は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明におけるポリエステル樹脂を溶解する混合溶剤としては、複合自己分散ポリエステル水性分散物の、体積平均粒子径と分散安定性の観点から、有機貧溶剤が含有率30〜70質量%のアルコール系溶剤であって、有機良溶剤が含有率70〜30質量%のケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、有機貧溶剤が含有率30〜60質量%の沸点100℃以下のアルコール系溶剤であって、有機良溶剤が含有率70〜40質量%の沸点100℃以下のケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0048】
前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルと、有機良溶剤および有機貧溶剤を含む混合溶剤と、を含む混合溶液を調製する方法としては特に制限はない。例えば、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを、混合溶剤に溶解して調製してもよく、また、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを、有機良溶剤に熔解し、これに有機貧溶剤を加えて調製してもよい。本発明においては、製造効率の観点から、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを、有機良溶剤に熔解し、これに有機貧溶剤を加えて調製することが好ましい。
【0049】
本発明における複合自己分散ポリエステル水性分散物を作製する過程においては、ポリエステル樹脂を中和する中和剤が用いられることが好ましい。中和剤は、自己分散ポリエステル樹脂の解離性基の一部又は全部を中和することで、自己分散ポリエステルが水性媒体中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。
ポリエステル樹脂が酸性基を有することから、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0050】
これらの中和剤(好ましくは、塩基性化合物)は、解離性基100モル%に対して、30〜150モル%使用することが好ましく、40〜120モル%であることがより好ましい。30モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、150モル%以下とすることで、樹脂の親水基同士の会合を抑制し、インク組成物とした時の適正なインク粘度が実現でき、吐出性がより良好になる。
【0051】
本発明の複合自己分散ポリエステル水性分散物の製造方法は、前記混合溶液と水とを用いて第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを含む複合粒子を得る工程(以下、「分散工程」ということがある)を含む。この複合粒子を得る工程は、前記混合溶液に少なくとも水を添加しながら、混合、攪拌して複合粒子を水性分散物として調製する工程であることが好ましい。このように溶剤に溶解したポリエステル樹脂の溶液中に、水を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、分散安定性に優れる水性分散物を得ることができる。
本発明において混合溶液と水とを混合、攪拌する方法には特に制限は無く、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0052】
本発明の複合自己分散ポリエステル水性分散物の製造方法においては、前記分散工程の後に、混合溶剤を除去する溶剤除去工程を更に含むことが好ましい。
前記溶剤除去工程は、前記混合溶剤の少なくとも一部を除去することができれば、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。
本発明の溶剤除去工程においては、溶剤の少なくとも一部が除去されるが、溶剤とともに水の一部が除去されてもよい。
本発明において前記溶剤除去工程は、複合自己分散ポリエステル水性分散物中における溶剤の含有率が、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの合計固形分質量の0.05質量%以上10質量%以下となるように溶剤を除去する工程であることが好ましく、0.08質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
なお、本発明においては、効果を損なわない範囲で乳化剤を併用することができる。併用できる乳化剤としては、カルボン酸塩系乳化剤、スルホン酸塩系乳化剤等が挙げられ、複合粒子の凝集性の観点から、カルボン酸塩系乳化剤が好ましい。
【0054】
本発明に併用することができるカルボン酸塩系乳化剤としては、分子内にカルボキシル基を有する乳化剤であれば特に制限はない。例えば、牛脂系脂肪酸石鹸、ヤシ油系脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、ステアリン酸塩およびオレイン酸塩等の各種精製脂肪酸石鹸、アルケニルコハク酸塩、並びにN−ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン塩等が挙げられる。中でも、せん断力に対する安定性からアルケニルコハク酸塩が好ましい。
【0055】
本発明における乳化剤の使用量としては、複合粒子の凝集性の観点から、全モノマーに対して0.01質量%以下であり、好ましくは0.005質量%以下であり、乳化剤を実質的に用いないことがより好ましい。
【0056】
<水性インク組成物>
本発明の水性インク組成物(以下、単に「インク組成物」ということがある)は、着色剤の少なくとも1種と、特定の製造方法で形成され、酸価が3以上異なる2種のポリエステルを含む複合自己分散ポリエステルの少なくとも1種とを含有し、必要に応じて水溶性有機溶剤およびその他の添加剤をさらに含有して構成される。また前記複合自己分散ポリエステルはその水性分散物としてインク組成物の調製に用いることができる。
【0057】
本発明の水性インク組成物は、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、およびイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク(例えば無色)等を用いることができる。
【0058】
また、本発明の複合自己分散ポリエステル水性分散物は、pH環境の変化によって凝集する特性を有することが好ましい。かかる特性を有することで、インク組成物とした際の経時安定性と高速記録性とを両立することができる。本発明においては例えば、複合自己分散ポリエステルが解離性基を有するポリマー(好ましくはポリエステル)の少なくとも1種を含有することで、pH環境の変化によって凝集するように構成することができる。
また、前記複合自己分散ポリエステル水性分散物は、例えば、凝集時に着色剤(例えば、水不溶性着色粒子)を取り込んで凝集物を形成することができる。該水性分散物と着色剤を含む凝集物は、例えば、定着性に優れる画像形成に好適に用いることができる。
【0059】
本発明の水性インク組成物における複合自己分散ポリエステルの含有量としては、画像の光沢性などの観点から、水性インク組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
また、本発明の水性インク組成物において、後述する着色剤と複合自己分散ポリエステルの含有比率(着色剤/複合自己分散ポリエステル)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10であることが好ましく、1/1〜1/4であることがより好ましい。
【0060】
[着色剤]
本発明における着色剤は、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である着色剤であることが好ましい。具体的には例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、顔料であることがより好ましい。
本発明においては、水不溶性の顔料自体または分散剤で表面処理された顔料自体を着色剤とすることができる。
【0061】
本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機および無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能であれば、いずれも使用できる。更に、上記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も勿論使用可能である。上記顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料を用いることが好ましい。
本発明に用いることができる顔料として具体的には、例えば、特開2007−100071号公報の段落番号[0142]〜[0145]に記載の顔料などが挙げられる。
【0062】
(分散剤)
本発明における着色剤が顔料である場合、分散剤によって水系溶媒に分散されていることが好ましい。分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤の何れでもよい。
前記低分子の界面活性剤型分散剤(以下、「低分子分散剤」ということがある)は、インクを低粘度に保ちつつ、顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で添加することができる。ここでいう低分子分散剤は、分子量2000以下の低分子分散剤である。また、低分子分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
【0063】
前記低分子分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基は、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基を連結するための連結基も適宜有することができる。
【0064】
親水性基としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組合わせたベタイン型等を挙げることができる。
アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基またはカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基またはカルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0065】
カチオン性基は、プラスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素またはリンを含むカチオン性基であることがより好ましく、窒素を含むカチオン性基であることが更に好ましい。中でも、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることが特に好ましい。
ノニオン性基は、マイナスまたはプラスの電荷を有しないものであれば特に制限はない。例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0066】
本発明においては、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、親水性基がアニオン性基であることが好ましい。
また、低分子分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、そのpKaは3以上であることが好ましい。本発明における低分子分散剤のpKaはテトラヒドロフラン−水=3:2(V/V)溶液に低分子分散剤1mmol/Lに溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。
理論上、低分子分散剤のpKaが3以上であれば、pH3程度の処理液と接したときに、アニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。この観点から、低分子分散剤が、アニオン性基としてカルボン酸基を有していることが好ましい。
【0067】
一方、疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等のいずれの構造を有するものであってもよいが、特に、炭化水素系であることが好ましい。また、これらの疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また疎水性基は、1本鎖状構造、又は2本以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
【0068】
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0069】
本発明におけるポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
【0070】
また、天然物を原料として化学修飾した親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。
【0071】
また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0072】
これらの中でも、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0073】
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有する水不溶性樹脂を用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0074】
本発明におけるポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
尚、重量平均分子量は、例えば、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定できる。
【0075】
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0076】
本発明において着色剤として染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを水不溶性着色粒子として用いることができる。染料としては公知の染料を特に制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料を本発明においても好適に用いることができる。また、担体としては、水に不溶または水に難溶であれば特に制限なく、無機材料、有機材料およびこれらの複合材料を用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体を本発明においても好適に用いることができる。
染料を保持した担体(着色剤)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
【0077】
本発明における着色剤は、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、顔料と水不溶性樹脂分散剤とを含むことがさらに好ましく、顔料とカルボキシル基を含む水不溶性樹脂分散剤とを含むことが特に好ましい。
また顔料と水不溶性樹脂分散剤を含む着色剤は、水不溶性樹脂分散剤によってその表面の少なくとも一部が被覆されている顔料であることが好ましい。
【0078】
本発明において、顔料を含む着色剤を用いる場合、その体積平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。体積平均粒子径が200nm以下であることで色再現性が良好になり、インクジェット方式の場合には打滴特性が良好になる。また、体積平均粒子径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。
また、顔料を含む着色剤の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ顔料を含む着色剤を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、顔料を含む着色剤の体積平均粒子径および粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
【0079】
本発明において、上記着色剤は1種単独で、また2種以上を組合わせて使用してもよい。
また、着色剤の含有量としては、画像濃度の観点から、水性インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0080】
[水溶性有機溶剤]
本発明の水性インク組成物は、水を溶媒として含むものであるが、水溶性有機溶剤を更に含むことができる。前記水溶性有機溶剤は、例えば、乾燥防止剤、浸透促進剤として含有することができる。
乾燥防止剤は、特に、本発明の水性インク組成物をインクジェット方式による画像記録方法に適用する場合、インク噴射口におけるインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
【0081】
乾燥防止剤は、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤であることが好ましい。乾燥防止剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、上記の乾燥防止剤は単独で用いても、2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤は、インク中に、10〜50質量%含有されることが好ましい。
【0082】
また、浸透促進剤は、インクを記録媒体(好ましくは、印刷用紙)により良く浸透させる目的で、好適に使用される。浸透促進剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。これらの浸透促進剤は、インク組成物中に、5〜30質量%含有されることで、充分な効果を発揮する。また、浸透促進剤は、印画の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で、使用されることが好ましい。
【0083】
また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも、粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)およびその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。
尚、水溶性有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0084】
[その他の添加剤]
本発明におけるその他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水性インク組成物を調製後に直接添加してもよく、水性インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0085】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物も用いることができる。
【0086】
褪色防止剤としては、各種の有機系および金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0087】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンおよびその塩等が挙げられる。これらは水性インク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は水性インク組成物の保存安定性を向上させる目的で、該水性インク組成物がpH6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0088】
表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
また、表面張力調整剤の添加量は、インクジェット方式で良好に打滴するために、水性インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。一方、インクの付与をインクジェット方式以外の方法で行う場合には、20〜60mN/mの範囲が好ましく、30〜50mN/mの範囲がより好ましい。
水性インク組成物の表面張力(25℃)は、例えば、プレート法を用いて測定することができる。
【0089】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)やオルフィンE1010(日信化学工業(株)製)も好ましく用いられる。
さらにまた、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、およびEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0090】
本発明の水性インク組成物の粘度としては、インクの付与をインクジェット方式で行う場合、打滴安定性と凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
また、インクの付与をインクジェット方式以外の方法で行う場合には、1〜40mPa・sの範囲が好ましく、5〜20mPa・sの範囲がより好ましい。
水性インク組成物の粘度(20℃)は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。
【0091】
<インクセット>
本発明のインクセットは、既述の本発明の水性インク組成物の少なくとも1種と、水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液の少なくとも1種とを含んで構成されたものである。
水性インク組成物の詳細については、既述した通りである。
【0092】
本発明においては、水性インク組成物を構成する複合自己分散ポリエステルが、既述の特定の製造方法で製造され、酸価の差が3以上である2種のポリエステルを含むことで、形成される画像の耐ブロッキング性と定着性、吐出安定性が良好になる。
【0093】
−処理液−
本発明における処理液は、既述の水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能なように構成されたものである。具体的には、処理液は、インク組成物中の着色剤(顔料等)や複合自己分散ポリエステルなどの分散粒子を凝集させて凝集体を形成可能な凝集成分を少なくとも含むことが好ましく、必要に応じて、他の成分を用いて構成することができる。水性インク組成物と共に処理液を用いることで、例えば、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0094】
(凝集成分)
処理液は、インク組成物と接触して凝集体を形成可能な凝集成分の少なくとも1種を含有することができる。記録媒体に付与された前記水性インク組成物と処理液中の凝集成分とが接触することにより、インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
【0095】
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃±1℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜6であることが好ましく、1.2〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25±1℃)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、およびインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃±1℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃±1℃)が1.5〜3である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0096】
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
【0097】
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種単独で用いるほか2種以上併用してもよい。
【0098】
本発明における処理液は、上記酸性化合物等に加えて、水系溶媒(例えば、水)を更に含んで構成することができる。
酸性化合物の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましく、更に好ましくは15〜50質量%であり、特に好ましくは18〜30%である。
【0099】
また処理液としては、凝集成分として多価金属塩の少なくとも1種を含む処理液も挙げられる。これにより高速凝集性を向上させることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、およびチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、およびチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0100】
金属の塩の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
【0101】
さらに処理液は、凝集成分として、カチオン性有機化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。カチオン性有機化合物としては、例えば、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、ポリグアニド、又はポリアリルアミンおよびその誘導体などのカチオン性ポリマーを挙げることができる。
【0102】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、1,000〜500,000の範囲が好ましく、1,500〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは2,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、1000以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0103】
さらに、前記カチオン性有機化合物として、例えば、1級、2級、又は3級アミン塩型の化合物が好ましい。このアミン塩型の化合物の例として、塩酸塩もしくは酢酸塩等の化合物(例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミンなど)、第4級アンモニウム塩型化合物(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウムなど)、ピリジニウム塩型化合物(例えば、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイドなど)、イミダゾリン型カチオン性化合物(例えば、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリンなど)、高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物(例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミンなど)等のカチオン性の化合物や、例えば、アミノ酸型の両性界面活性剤、R−NH−CHCH−COOH型の化合物(Rはアルキル基等を表す)、カルボン酸塩型両性界面活性剤(例えば、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなど)、硫酸エステル型、スルホン酸型、又は燐酸エステル型等の両性界面活性剤など所望のpH領域でカチオン性を示す両性界面活性剤などを挙げることができる。
中でも、2価以上のカチオン性有機化合物が好ましい。
【0104】
カチオン性有機化合物の処理液中における含有量としては、凝集効果の観点から、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは2〜30質量%である。
【0105】
上記のうち、凝集成分としては、凝集性および画像の耐擦過性の点で、2価以上のカルボン酸、又は2価以上のカチオン性有機化合物が好ましい。
【0106】
(その他成分)
本発明における処理液は、凝集成分に加え、一般には水溶性有機溶剤を含むことができ、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の各種添加剤を用いて構成することができる。水溶性有機溶剤の詳細については、既述のインク組成物におけるものと同様である。
【0107】
前記その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられ、既述のインク組成物に含まれるその他の添加剤の具体的な例に挙げたものが適用できる。
【0108】
処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
なお、粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定されるものである。
【0109】
また、処理液の表面張力としては、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mであることが好ましく、20〜45mN/mであることがより好ましく、25〜40mN/mであることがさらに好ましい。
なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0110】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、前記水性インク組成物を、記録媒体に付与するインク付与工程と、前記水性インク組成物が付与された記録媒体を加熱して画像を定着する加熱定着工程とを備えるが、必要に応じて、その他の工程をさらに備えて構成することができる。
その他の工程としては、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程、加熱乾燥工程等を挙げることができる。
【0111】
本発明においては、水性インク組成物が着色剤と前記複合自己分散ポリエステルとを含むことで、耐ブロッキング性と良好な定着性が両立した画像を形成することができる。
【0112】
[インク付与工程]
インク付与工程は、既述の本発明の水性インク組成物を記録媒体に付与して画像を形成する。本工程では、記録媒体上に選択的に水性インク組成物を付与でき、所望の可視画像を形成できる。水性インク組成物の付与方法としては、例えば、インクジェット法、謄写方式、捺転方式等を挙げることができる。中でも、記録装置のコンパクト化と高速記録性の観点から、水性インク組成物をインクジェット法によって付与する工程であることが好ましい。
尚、本発明の水性インク組成物における各成分の詳細および好ましい態様などの詳細については、既述した通りである。
【0113】
インクジェット法を利用した画像の記録は、具体的には、エネルギーを供与することにより、所望の被記録媒体、すなわち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載のインクジェット専用紙、フィルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に液体組成物を吐出することにより行える。なお、本発明に好ましいインクジェット記録方法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0114】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、およびインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
また前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0115】
インクジェット法としては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行うシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度および画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0116】
更には、本発明におけるインク付与工程では、ライン方式による場合に、インク組成物を1種のみ用いるのみならず2種以上のインク組成物を用い、先に吐出するインク組成物(第n色目(n≧1)、例えば第2色目)とそれに続いて吐出するインク組成物(第n+1色目、例えば第3色目)との間の吐出(打滴)間隔を1秒以下にして好適に記録を行うことができる。本発明においては、ライン方式で1秒以下の吐出間隔として、インク滴間の干渉で生じる滲みや色間混色を防止しつつ、従来以上の高速記録下で耐擦過性に優れ、ブロッキングの発生が抑えられた画像を得ることができる。また、色相および描画性(画像中の細線や微細部分の再現性)に優れた画像を得ることができる。
【0117】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
【0118】
[加熱定着工程]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インク付与工程の後、インク組成物の付与により形成されたインク画像に加熱面を接触させて加熱定着する加熱定着工程を有する。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の擦過に対する耐性をより向上させることができる。また、本発明の水性インク組成物を用いることで形成された画像が前記加熱面に転写されることを効果的に抑制することができる。
【0119】
加熱は、画像中の複合自己分散ポリエステルが含むポリエステルの少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)以上の温度で行うことが好ましい。Tg以上に加熱されるので、皮膜化して画像が強化される。加熱温度は、好ましくはTg+10℃以上の温度域が好ましい。具体的には、加熱温度は、40〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは50℃〜100℃の範囲であり、更に好ましくは60℃〜90℃の範囲である。
【0120】
加熱と共に加圧する際の圧力としては、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
【0121】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行う方法が好適に挙げられる。
【0122】
加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒〜10秒であり、より好ましくは2ミリ秒〜1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒〜100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm〜100mmであり、より好ましくは0.5mm〜50mmであり、更に好ましくは1〜10mmである。
【0123】
前記加熱加圧ローラとしては、金属製の金属ローラでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層および必要に応じて表面層(離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラ間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0124】
加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10〜100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは10〜30μmである。
【0125】
また、前記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラ等のローラ両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
【0126】
加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒の範囲が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
【0127】
[処理液付与工程]
本発明の画像形成方法は、高速画像形成の観点から、インク付与工程と加熱定着工程に加えて、処理液付与工程を備えることが好ましい。
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて水不溶性着色粒子を含む凝集体を形成し、これにより画像を形成する。この場合、インク組成物中の複合粒子や水不溶性着色粒子などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液における各成分の詳細および好ましい態様については、既述した通りである。
【0128】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0129】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インク組成物を付与する前に、予めインク組成物中の水不溶性着色粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0130】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分(例えば、2価以上のカルボン酸又はカチオン性有機化合物)の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0131】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度および色相の良好な可視画像を記録できる。
【0132】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行える。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0133】
−記録媒体−
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクジェット記録方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0134】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、および日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」および日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」および日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」および日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」および三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0135】
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度および色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
【0136】
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0137】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙とカオリンおよび/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましい。より具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【実施例】
【0138】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0139】
(合成例1)
−ポリエステル樹脂(B−a1)の合成−
テレフタル酸39.9g、ドデセニル無水コハク酸32.0g、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン68.8g、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン63.2g、ジブチル錫オキシド0.68gを窒素導入管、脱水管、攪拌機を装備した1リットル三つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、250℃で7時間反応させた後、250℃で45Torrにて3時間減圧反応を行った。その後210℃まで降温させ、無水トリメリット酸7.3gを添加し、そのままの温度で3.5時間反応させ、ポリエステル樹脂(B−a1)を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は35900(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は18.6(mgKOH/g)であった。
【0140】
(合成例2)
前記ポリエステル樹脂(B−a1)の合成において、表1に示す酸価および重量平均分子量となるように、無水トリメリット酸の仕込み量等を変更したこと以外は、ポリエステル樹脂(B−a1)の合成と同様にして、ポリエステル樹脂(B−a2)を得た。得られたポリエステル樹脂(B−a2)の重量平均分子量(Mw)は33300、酸価は25.8(mgKOH/g)であった。
【0141】
(合成例3)
特開2007−277495号公報の段落番号[0073]に記載の方法に従ってポリエステル樹脂(B−a3)を得た。得られたポリエステル樹脂(B−a3)の物性を表1に示した。
【0142】
(合成例4)
特開2007−277495号公報の段落番号[0076]に記載の方法に従ってポリエステル樹脂(B−a4)を得た。得られたポリエステル樹脂(B−a4)の物性を表1に示した。
【0143】
(合成例5)
テレフタル酸39.9g、ドデセニル無水コハク酸32.0g、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン68.8g、ポリオキシエチレン(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン63.2g、ジブチル錫オキシド0.68gを窒素導入管、脱水管、攪拌機を装備した1リットル三つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、250℃で9時間反応させた後、250℃で6.3kPaにて3時間減圧反応を行った。その後210℃まで降温させ、無水トリメリット酸7.68gを添加し、そのままの温度で3.5時間反応させ、ポリエステル樹脂(B−a5)を得た。得られたポリエステル樹脂(B−a5)の重量平均分子量は23100、酸価は21.3(mgKOH/g)であった。
【0144】
(合成例6、7)
前記ポリエステル樹脂(B−a1)の合成において、表1に示す酸価および重量平均分子量となるように、無水トリメリット酸の仕込み量等を変更したこと以外は、ポリエステル樹脂(B−a1)の合成と同様にして、ポリエステル樹脂(B−a6)および(B−a7)をそれぞれ得た。得られたポリエステル樹脂(B−a6)の重量平均分子量(Mw)は12300、酸価は2.8(mgKOH/g)であり、ポリエステル樹脂(B−a7)の重量平均分子量(Mw)は22400、酸価は72.5(mgKOH/g)であった。
【0145】
<実施例1>
−複合自己分散ポリエステル水性分散物の調製−
上記で得られたポリエステル樹脂(B−a1)15gおよびポリエステル樹脂(B−a2)15gをメチルエチルケトン(MEK)30gに完溶させ、その後イソプロピルアルコール(IPA)15gを添加した。次いで1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を9.9ml滴下して、87℃で加熱還流した。その後、攪拌しながら、水150mlを滴下し、水分散化せしめた(分散工程)。2時間加熱還流した後、減圧下でメチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、および水の一部を溜去し(溶剤除去工程)、ポリエステル樹脂(B−a1)およびポリエステル樹脂(B−a2)からなり、固形分濃度が16.0質量%の複合自己分散ポリエステル水性分散物(PL−01)を得た。得られた(PL−01)の物性を表1に示した。
【0146】
<実施例2〜11>
調製例1の水性分散物(PL−01)の調製において、第1のポリエステルおよび第2のポリエステル種、混合比、転相溶剤種、転相溶剤質量比を表1に記載したように変更し、さらに混合したポリエステル樹脂の中和度が同じになるようにNaOH水溶液の添加量を変更したこと以外は、調製例1と同様にして、複合自己分散ポリエステル水性分散物(PL−02)〜(PL−11)を得た。得られた複合自己分散ポリエステル水性分散物(PL−02)〜(PL−11)の物性を表1に示す。
【0147】
<比較例1>
特開2007−277495号公報の段落番号[0073]および[0080]に記載の自己分散ポリエステル水性分散物の製造例に従って、自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−01)を得た。得られた自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−01)の物性を表1に示した。
【0148】
<比較例2>
特開2007−277495号公報の段落番号[0076]および[0081]に記載の自己分散ポリエステル水性分散物の製造例に従って、自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−02)を得た。得られた自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−02)の物性を表1に示した。
【0149】
<比較例3>
ポリエステル樹脂(B−a1)30gをメチルエチルケトン(MEK)45gに完溶させ、次いで1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を9.9ml滴下して、87℃で加熱還流した。その後、攪拌しながら、水150mlを滴下し、水分散化せしめた(分散工程)。2時間加熱還流した後、減圧下でメチルエチルケトン、および水の一部を溜去し(溶剤除去工程)、ポリエステル樹脂(B−a1)からなり、固形分濃度が16.0質量%の自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−03)を得た。得られた自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−03)の物性を表1に示した。
【0150】
<比較例4>
調製例1の水性分散物(PL−01)の調製において、第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの種類を表1に記載したように変更し、さらに混合したポリエステルの中和度が同じになるようにNaOH水溶液の添加量を変更したこと以外は、調製例1と同様にして、複合自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−04)を得た。得られた複合ポリエステル水性分散物(PLH−04)の物性を表1に示す。
【0151】
<比較例5>
比較例3と同様にして得られたポリエステル樹脂(B−a3)単独の水性分散物と、ポリエステル樹脂(B−a5)単独の水性分散物とを、B−a3/B−a5=15/1の比率になるように混合してポリエステル樹脂(B−a3)とポリエステル樹脂(B−a5)を含む自己分散ポリエステル水性分散物(PLH−05)を得た。得られた(PLH−05)の物性を表1に示した。
【0152】
【表1】

【0153】
尚、表1中、「第1/第2のポリマー」は第2のポリマーに対する第1のポリマーの質量比を表す。また有機溶剤における略語は以下の通りである。
MEK:メチルエチルケトン
IPA:イソプロピルアルコール
【0154】
表1中、粒径は体積平均粒子径であり、マイクロトラックUPA EX−150(日機装(株)製)を用い、粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.51、粒子形状:非球形、密度:1.2g/cm、溶媒:水、セル温度:18〜25℃条件において、体積平均粒子径を測定した値である。また、酸価はJIS K0070に従い測定したが、測定溶媒のみトルエン/アセトン(=1/1)混合溶媒に変更した。
【0155】
また、上記で得られた複合自己分散ポリエステルの水性分散物について、以下のようにして安定性の評価を行った。
(安定性)
水性分散物10mLをそれぞれ15mLのガラス瓶に密栓して、60℃14日間放置後に、平均粒径を測定した。放置前と放置後における平均粒径の変化率[(放置後の平均粒径−放置前の平均粒径)/放置前の平均粒径]を算出し、以下の評価基準に従って評価した。結果を表1に示した。尚、放置前の測定は複合自己分散ポリエステル水性分散物を調製してから室温で24時間以内に行った。
【0156】
〜評価基準〜
○… 平均粒径の変化率が10%未満であった。
△… 平均粒径の変化率が10%以上50%未満であった。
×… 平均粒径の変化率が50%以上であった。
【0157】
<実施例1>
[水性インク組成物の調製]
《シアンインクC−1の調製》
(着色剤としてのシアン分散液の調液)
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)4部、ブレンマーPP−500(日油(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、メチルエチルケトン24部の混合溶液を調液した。一方、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)9部、ブレンマーPP−500(日油(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部からなる混合溶液を調液し、滴下ロートに入れた。
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
得られたポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1%に希釈し、GPCにて重量平均分子量を測定した。その結果、単離された固形分は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が25,000であった。
【0158】
次いで、得られたポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料ピグメントブルー15:3(大日精化製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g、イオン交換水82.0g、0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス製)で1000rpm6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去され、顔料濃度が10%になるまで減圧濃縮し、着色剤としてのシアン分散液C1を調液した。得られたシアン分散液C1の体積平均粒径は77nmであった。
【0159】
そして、上記で得られたシアン分散液C1と、複合自己分散ポリエステル水性分散物としてPL−01を用いて、下記のインク組成になるように各成分を混合した後、5μmフィルターで粗大粒子を除去し、水性インク組成物としてシアンインクC−1を調製した。
【0160】
〈シアンインクC−1のインク組成〉
・シアン顔料(ピグメントブルー15:3、大日精化製) … 4%
・上記ポリマー分散剤(固形分換算) … 2%
・PL−01(固形分換算) … 8%
(複合自己分散ポリエステル水性分散物)
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル … 10%
(水溶性有機溶剤、和光純薬製)
・サンニックスGP250 … 5%
(水溶性有機溶剤、三洋化成工業(株)製)
・オルフィンE1010(日信化学) … 1%
・イオン交換水 … 合計が100%となるように添加
【0161】
《シアンインクC−2〜C−11、CH−1〜CH−6の調製》
シアンインクC−1における複合自己分散ポリエステル水性分散物PL−01の代わりに、下記表2に示した複合粒子の水性分散物をそれぞれ用いたこと以外はシアンインクC−1と同様の方法で、水性インク組成物のシアンインクC−2〜11、CH−1〜6をそれぞれ調製した。尚、CH−5は複合粒子の水性分散物を用いないでシアンインクを調製した。
上記で得られたシアンインクの調液直後(24時間以内)の物性値を、表2に示す。
粒径は体積平均粒子径であり、上記と同様にして測定した。また粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて20℃の条件下で測定した粘度の値について、下記評価基準に従って評価した結果を示す。
〜評価基準〜
○… 6.5mPa・s未満
△… 6.5mPa・s以上10mPa・s未満
×… 10mPa・s以上
【0162】
【表2】

【0163】
[処理液の調製]
下記組成となるように各成分を混合し、処理液を調製した。処理液の物性値は、粘度2.6mPa・s、表面張力37.3mN/m、pH1.6(25℃)であった。
〜処理液の組成〜
・マロン酸 :15.0%
(2価のカルボン酸、和光純薬工業(株)製)
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル :20.0%
(和光純薬工業(株)製)
・N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム :1.0%
(界面活性剤)
・イオン交換水 :64.0%
【0164】
[評価]
上記の如く調製した各シアンインク(以下、単に「インク」ということがある)についてインクの経時安定性試験ならびに打滴安定性試験、吐出精度試験、および画像の定着性試験を行った。インクの経時安定性試験は、インクを打滴する前、即ちインク貯留槽(あるいはカートリッジ)にインクが収納されているときの粒径や粘度の安定性についての評価であり、安定性が悪いとインクジェット装置の打滴ノズルから吐出する際に、打滴ノズルが詰まる等の問題が生じる。また、打滴試験は、吐出方向性に関する評価であり、インク粘度が高いとノズルに目詰まりが発生して方向性不良が生じる。また、吐出精度試験は、吐出方向に関する安定性評価であり、水性インク組成物の分散安定性が悪いと吐出精度が低下する。
【0165】
(経時安定性試験)
インク10mLをそれぞれ15mLのガラス瓶に密閉して、(1)60℃14日間放置後、および(2)40℃3ヶ月間放置後に、平均粒径および粘度をそれぞれ測定した。放置前と放置後における平均粒径の変化率[(放置後の平均粒径−放置前の平均粒径)/放置前の平均粒径]および粘度の変化率[(放置後の粘度−放置前の粘度)/放置前の粘度]をそれぞれ算出した。評価基準は、次の通りであり、×の評価が使用不可のレベルである。結果を表3に示した。
尚、放置前の測定はインク組成物を調液してから室温で24時間以内に行った。
〜評価基準〜
○ … 平均粒径の変化率、および粘度の変化率が5%未満であった。
△ … 平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が5%以上10%未満であった。
× … 平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が10%以上であった。
【0166】
(打滴安定性試験)
打滴安定性試験は次のように行った。特菱両面アートN(三菱製紙(株)製)上に、リコー社製GELJET G717プリンターヘッドを用いて、解像度1200×600dpi、インク打滴量12pLになるように打滴した。連続して打適して5時間後の状態を観察することで、打滴安定性を評価した。表3に打滴安定性試験結果を示した。尚、表3の打滴安定性試験の評価基準は、次の通りである。尚、×の評価が使用不可のレベルである。
〜評価基準〜
○ … 吐出不良がなく、方向不良もなかった。
○△ … 吐出不良がなく、方向不良が少し生じた。
△ … 吐出不良が殆どなく、方向不良が少し生じた。
× … 吐出不良が多かった。
【0167】
(吐出精度試験)
−初期ピッチ評価−
下記条件で1ドットのライン(長さ120mm)を16本印刷した。次いで印画サンプルの打滴開始部から50mmの位置におけるライン間の距離を王子計測機器製ドットアナライザ DA−6000で測定した。測定したライン間の距離の標準偏差を算出し、これを吐出方向性の指標とし、下記評価基準に従って吐出精度を評価した。結果を表3に示す。尚、×の評価が使用不可のレベルである。
【0168】
〜印画条件〜
プリンタ:Dimatix社、DMP−2831
インク量:10pl
画像解像度:ノズル配列方向 100dpi
搬送方向 3200dpi
吐出周波数:24KHz
記録媒体:富士フイルム社製 画彩 写真仕上げPro
【0169】
〜評価基準〜
○ … 5μm未満だった。
△ … 5μm以上、10μm未満だった。
× … 10μm以上だった。
【0170】
(定着性試験)
GELJET GX5000プリンターヘッド(リコー社製)を用意し、これに繋がる貯留タンクに上記で得たシアンインクを詰め替えた。記録媒体として特菱アート両面N(三菱製紙(株)製)を、500mm/秒で所定の直線方向に移動可能なステージ上に固定し、ステージ温度を30℃で保持し、これに上記で得た処理液をバーコーターで約1.2μmの厚みとなるように塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。
その後、GELJET GX5000プリンターヘッドを、前記ステージの移動方向(副走査方向)と直交する方向に対して、ノズルが並ぶラインヘッドの方向(主走査方向)が75.7度傾斜するように固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながらインク液滴量2.4pL、吐出周波数24kHz、解像度1200dpi×1200dpiの吐出条件にてライン方式で吐出し、シアンのベタ画像を印画した。
印画直後、60℃で3秒間乾燥させ、更に60℃に加熱された一対の定着ローラ間を通過させ、ニップ圧0.25MPa、ニップ幅4mmにて加熱定着処理を実施し、評価サンプルを得た。
得られた評価サンプルのベタ画像部に、セロハンテープ(ニチバン社製)及びメンディングテープ(3M社製)を評価サンプルにテープの全面がくっつくように貼った後、直ちに剥がし、剥がしたテープへの色移りを下記評価基準に従って評価した。尚、×の評価が使用不可のレベルである。
〜評価基準〜
○ … セロハンテープおよびメンディングテープ共、色移りが認められなかった。
△ … セロハンテープまたはメンディングテープの少なくとも一方で僅かな色移りが認められた。
× … セロハンテープおよびメンディングテープの両方で色移りが認められた。
【0171】
【表3】

【0172】
表3からわかるように、本発明の水性インク組成物は、経時安定性に優れていた。一方、シアンインクCH−1とCH−2は、さらに経時で粘度や粒径が上昇する傾向にあった。
また、本発明の水性インク組成物はいずれも、吐出不良は起こらず、打滴安定性に優れていた。一方、シアンインクCH−1およびCH−2の打滴安定性は低かった。
また、80nmを超える平均粒子径の自己分散ポリエステル水性分散物を含む水性インク組成物を含むシアンインクCH−3は、分散安定性が低く、経時で粘度や粒径が上昇する傾向にあった。また、混合するポリマーの酸価の差が3未満の複合自己分散ポリエステル水性分散物を含むCH−4は、経時で粘度や粒径が上昇する傾向にあった。
さらに、本発明の複合自己分散ポリエステル水性分散物を含有するシアンインクC−1〜C〜11は定着性が良好であるのに対し、複合自己分散ポリエステル水性分散物を含まないシアンインクCH−5の定着性は大きく劣っていた。
以上より、特定の製造方法で製造された複合粒子の水性分散物を含有するインク組成物を用いることで、従来にない高いインク安定性と、安定した吐出性、良好な定着性を有するインク組成物を提供することができたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポリエステルおよび前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルを含む混合溶液と水とから得られ、
前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを含有するとともに体積平均粒子径が0.1nm以上80nm以下である複合粒子を含む複合自己分散ポリエステル水性分散物。
【請求項2】
前記複合自己分散ポリエステル水性分散物はpH環境の変化により凝集する請求項1に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物。
【請求項3】
前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルはともにカルボキシル基を有する請求項1または請求項2に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物と、着色剤と、を含有する水性インク組成物。
【請求項5】
第1のポリエステルおよび前記第1のポリエステルの酸価に対して3以上異なる酸価を示す第2のポリエステルを含む混合溶液と水とを用いて、前記第1のポリエステルと第2のポリエステルを含む複合粒子を得る工程を含み、
前記複合粒子の体積平均粒子径が0.1nm以上80nm以下である複合自己分散ポリエステル水性分散物の製造方法。
【請求項6】
前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解する有機良溶剤、並びに、含有率が30質量%以上70質量%以下である前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルを溶解しない有機貧溶剤を含む混合溶剤と、
前記第1のポリエステルおよび第2のポリエステルと、
を含有する混合溶液を得る工程をさらに含む請求項5に記載の複合自己分散ポリエステル水性分散物の製造方法
【請求項7】
請求項4に記載の水性インク組成物と、前記水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液と、を含むインクセット。
【請求項8】
請求項4に記載の水性インク組成物を、記録媒体に付与するインク付与工程と、
前記水性インク組成物が付与された記録媒体を加熱して画像を定着する加熱定着工程と、を含む画像形成方法。
【請求項9】
請求項4に記載の水性インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な処理液を、記録媒体に付与する処理液付与工程をさらに含む請求項8に記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2011−84673(P2011−84673A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239470(P2009−239470)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】