説明

複合部材の製造方法及び複合部材

【課題】第1部材の貫通孔に第2部材を貫通して固定した複合部材において、第2部材に対して第1部材を精度よく強固に固定できる複合部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1部材11に第2部材12より大きい貫通孔13を設けて貫通孔13に第2部材12を貫通させ、貫通孔13内の第2部材12に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで第2部材12を部分的に肥大化し、第2部材12の肥大部位が貫通孔13に圧接することで第2部材12の周囲に第1部材11を固定する方法であり、貫通孔13には、小径孔部23と大径孔部24と小径孔部23及び大径孔部24間に環状の孔内面段差部26と、を設け、第2部材12には、小径軸部33と大径軸部34と小径軸部33及び大径軸部34間に孔内面段差部21に対向する環状の軸外面段差部22と、を設け、孔内面段差部21と軸外面段差部22とを圧接させつつ第2部材12を肥大化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材の貫通孔に第2部材を貫通させ、第2部材を部分的に肥大化して貫通孔の内面に圧接することで、第2部材の周囲に第1部材を固定する複合部材の製造方法及び複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属製の部材に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで肥大化させる所謂、軸肥大技術が種々検討されている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、貫通孔を有する金属の被嵌合部材と、貫通孔よりも小径の金属の軸とを軸肥大技術で接合して複合部材を製造することが提案されている。
この特許文献1では、被嵌合部材の貫通孔に軸を挿通し、軸に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで肥大化し、肥大化された軸が被嵌合部材の貫通孔の内面に圧接することで、軸に被嵌合部材を接合して複合部材を製造している。
【0004】
このような軸肥大技術を利用した複合部材の製造方法では、軸に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせる際、適宜条件を調整して軸の肥大率を広い範囲で調整できる。そのため、被嵌合部材の貫通孔に対して軸を十分に肥大化させることで強固に固定可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−178732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の軸肥大技術を利用した複合部材の製造方法では、肥大加工の際、軸に対して被嵌合部材に僅かな位置ずれや傾きが生じる場合があり、安定して高精度に複合部材を製造することができなかった。
また被嵌合部材の貫通孔に対して肥大率が不足するような場合には、被嵌合部材と軸との接合強度が低下することがあり、その場合には軸に対して被嵌合部材の位置ずれが生じることがあった。さらにそのような場合に、例えば浸炭処理のような各種の熱処理を施すと、高温時に軸に対して被嵌合部材の位置ずれが生じることも考えられた。
【0007】
そこで、本発明は、第1部材の貫通孔に第2部材を貫通して第2部材を部分的に肥大化して固定する際、第2部材に対して第1部材を精度よく強固に固定できる複合部材の製造方法及び複合部材を提供することを目的とする。また、第1部材が第2部材に対して位置ずれが生じることを防止できる複合部材の製造方法及び複合部材を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の複合部材の製造方法は、第1部材の貫通孔に第2部材を貫通させて、貫通孔の内面と第2部材の外面との間の少なくとも一部に間隙を設け、貫通孔内の第2部材に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで第2部材を部分的に肥大化し、第2部材の肥大した部位が貫通孔に圧接することで第2部材の周囲に第1部材を固定する複合部材の製造方法において、貫通孔には、小径孔部と、大径孔部と、小径孔部及び大径孔部間に環状の孔内面段差部と、を設け、第2部材には、小径孔部に配置される小径軸部と、大径孔部に配置される大径軸部と、小径軸部及び大径軸部間に孔内面段差部に対向する環状の軸外面段差部と、を設け、孔内面段差部と軸外面段差部とを圧接させつつ第2部材を肥大化することを特徴としている。
【0009】
この製造方法では、第2部材の軸外面段差部より小径軸部側の部位及び第1部材の孔内面段差部と、第2部材の軸外面段差部より大径軸部側の軸外面段差部から離間した部位と、の間に圧縮荷重を負荷することで、圧縮応力を生じさせるのがよい。
その場合、一方側ホルダに第2部材の小径軸部側の部位を保持し、他方側ホルダに第2部材の大径軸部側の部位を保持し、一方側ホルダと第2部材の軸外面段差部との間に第1部材を挟んで一方側ホルダと他方側ホルダとの間に圧縮荷重を負荷することで、圧縮応力を生じさせるのが好適である。
【0010】
好ましくは、大径孔部には内面段差部側より貫通孔の端部開口側で小さくなる形状を有する抜け止め孔部を設け、第2部材を肥大化することで抜け止め孔部に対応した抜け止め軸部を形成する。
貫通孔の内面に嵌合凹部を設け、第2部材を肥大化することで嵌合凹部に対応した嵌合突部を形成すると好ましい。
【0011】
この製造方法では、第2部材を肥大化した後、第1部材及び第2部材の少なくとも一方の表面を所定形状に切削することができる。
第2部材を肥大化させた後、第1部材及び第2部材の少なくとも一方に熱処理を施すこともできる。
【0012】
本発明の複合部材は、貫通孔を有する第1部材と、貫通孔に貫通された第2部材とを備え、第2部材を部分的に肥大化して形成した固定部位を、貫通孔の内面に圧接することで第2部材の周囲に第1部材を固定した複合部材において、貫通孔には、小径孔部と、大径孔部と、小径孔部及び大径孔部間に環状に形成された孔内面段差部と、を備え、第2部材には、小径孔部に配置された小径軸部と、大径孔部に配置された大径軸部と、小径軸部及び大径軸部間に孔内面段差部に対向した環状の軸外面段差部と、を備え、孔内面段差部と軸外面段差部とが圧接していることを特徴としている。
【0013】
この複合部材では、貫通孔の内面には軸線と直交する断面形状が内面段差部側より貫通孔の端部開口側で小さくなる形状の抜け止め孔部を備え、第2部材には抜け止め孔部に対応した形状を有する抜け止め軸部を備えるのがよい。
好ましくは、貫通孔の内面には嵌合凹部を備え、第2部材の固定部位には嵌合凹部に対応した形状を有する嵌合突部を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合部材の製造方法によれば、第1部材には小径孔部と大径孔部との間に環状の孔内面段差部を設け、第2部材には孔内面段差部に対向する軸外面段差部を環状に設け、孔内面段差部と軸外面段差部とを圧接させつつ第2部材を肥大化する。そのため肥大化する際に、第2部材に対して第1部材の位置ずれや傾きが生じることを防止でき、第2部材に対して第1部材を高精度に配置した複合部材を製造することができる。
【0015】
本発明の複合部材によれば、第1部材には小径孔部と大径孔部との間に環状の孔内面段差部を備え、第2部材には孔内面段差部に対向する環状の軸外面段差部を備え、孔内面段差部と軸外面段差部とが圧接している。そのため第2部材に対して第1部材の位置ずれや傾きがなく、第2部材に対して第1部材が高精度に配置された複合部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態により製造する複合部材の断面図である。
【図2】(a)は第1実施形態に係る製造方法において準備する第1部材及び第2部材を示し、(b)は(a)の第1部材の貫通孔に第2部材を貫通させた状態を示す部分断面図である。
【図3】(a)〜(c)は第1実施形態に係る製造方法において第2部材を肥大化する加工工程を説明する断面図である。
【図4】(a)は第1実施形態に係る製造方法において第2部材を肥大化した後の状態を説明する図、(b)は第2部材の肥大した部位を示す部分断面図である。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態に係る第2部材の肥大化前の状態を示す部分断面図、(b)は第2部材の肥大化後の状態を示す部分断面図である。
【図6】(a)は本発明の第2実施形態に係る第2部材の肥大化前の状態を示す別の位置における部分断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る幾つかの実施の形態について図を用いて説明する。
[第1実施形態]
まず、本実施形態において製造する複合部材について説明する。
複合部材10は、図1に示すように、貫通孔13を有する第1部材11と、第1部材の貫通孔13に貫通された第2部材12とを備え、第2部材12に設けられた固定部位14の周囲に第1部材11が固定されている。
【0018】
第1部材11は一軸方向に貫通する貫通孔13を備えた部材であり、第2部材12に固定された際に貫通孔13の内面に負荷される圧力に対して十分な強度を有する。この実施形態では第1部材11は中心に貫通孔13を設けた金属製の回転体であり、例えば円板、プーリ、ギヤなどであってもよい。貫通孔13は軸線Cに直交した断面形状が円形となっている。
【0019】
第2部材12は第1部材11の貫通孔13より長い部材であり、軸方向に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで肥大化できる材料からなる。第2部材12は、例えば金属製の中実又は中空シャフト、パイプ等であり、この実施形態では中実の軸体で軸線Cと直交した断面が円形となっている。
【0020】
第2部材12の固定部位14は、後述する製造方法により、圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせて第2部材を部分的に肥大化することで軸線Cと直交した断面形状を大きくした部位である。
【0021】
次に、このような複合部材10を製造する方法について説明する。
この製造方法では、図2(a)(b)に示すように、所定形状の第1部材11及び第2部材12を準備して貫通孔13に第2部材12を貫通させ、図3(a)〜(c)に示すように、一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17にセットして第2部材12を部分的に肥大する加工を施し、図4(a)(b)に示すように、第1部材11を第2部材12の周囲に固定する。この実施形態では、その後、切削加工及び熱処理を施し、図1に示すような複合部材10を製造する。
【0022】
図2(a)に示す準備工程では、第1部材11と第2部材12とを用意する。
第1部材11には軸線Cに沿う貫通孔13を設ける。第1部材11の両端面にはそれぞれ中央に突出したボス部18,19を設けておき、貫通孔13はボス部18,19を貫通して設ける。一方側のボス部18の端面は、好ましくは軸線Cと直交した面であるのがよい。この第1部材11は予め作製されたものを用いることができる。
【0023】
貫通孔13には、図2(b)に示すように、軸線Cに沿う方向の一方側に小径孔部23を設け、軸線Cに沿う方向の他方側に小径孔部23より大きい直径の大径孔部24を設ける。さらに小径孔部23と大径孔部24との間における貫通孔13の内面には、大径孔部24側から小径孔部23側へ小さくなる形状を有する孔内面段差部21を設ける。孔内面段差部21は環状に形成し、貫通孔13の内面全周に連続させる。
孔内面段差部21は軸線Cに対して直交した平面や適宜な曲面により形成してもよいが、ここでは軸線Cに対して一定角度で傾斜するテーパ面としている。
【0024】
大径孔部24には、内面段差部21側よりも貫通孔13のボス部19の端部開口側で小さくなる形状を有する抜け止め孔部26を設ける。
抜け止め孔部26は貫通孔13の内面の一部に設けてもよいが、ここでは孔内面段差部21から大径孔部24の全長にわたり連続したテーパ面としている。抜け止め孔部26の端部開口の直径は貫通孔13の小径孔部23の直径以上となっている。
【0025】
このような第1部材11では、孔内面段差部21と抜け止め孔部26とが軸線Cに沿って互いに逆方向に断面形状が小さくなるように形成されているため、孔内面段差部21と抜け止め孔部26との間が全周で窪んだ嵌合凹部となっている。
【0026】
一方、第2部材12には、軸線Cに沿う方向の一方側に、貫通孔13の小径孔部23内に配置される小径軸部33を設け、軸線Cに沿う方向の他方側に、貫通孔13の大径孔部24内に配置される大径軸部34を設ける。
小径軸部33の断面形状は小径孔部23に配置可能であればよいが、本実施形態の小径軸部33は小径孔部23より細く、軸線Cに沿う方向に一定断面形状が連続している。
大径軸部34は小径軸部33及び小径孔部23より大きく、且つ貫通孔13の大径孔部24に対応した円形の断面形状で大径孔部24より若干細く形成しており、軸線Cに沿う方向に一定断面形状が連続している。
小径軸部33と貫通孔13の小径孔部23との間のクリアランス、大径軸部34と大径孔部24との間のクリアランスは後述する肥大加工が可能な間隙であれば適宜設定可能である。小径軸部33及び小径孔部23の嵌め合い精度と、大径軸部34及び大径孔部24の嵌め合い精度との少なくとも一方を適度に設定することで、後述する肥大化工程で取付作業時や運搬作業時などに部品の脱落やズレが生じることを抑制できる。
【0027】
小径軸部33と大径軸部34との間には、第1部材11の孔内面段差部21に軸線Cに沿う方向に対向する軸外面段差部22を設ける。軸外面段差部22は第2部材12の側面全周に環状に連続するように設けるのがよい。
軸外面段差部22は、大径軸部34側から小径軸部33側に向けて小さくなる形状を有し、孔内面段差部21と軸線Cに沿う方向に当接可能な形状に形成する。軸外面段差部22は軸線Cに対して直交した平面や適宜な曲面により形成してもよいが、ここでは軸線Cに対して一定角度で傾斜するテーパ面として形成している。
【0028】
次いで、このような第1部材11及び第2部材12を用いて肥大化工程を行うために、図2(b)に示すように、第2部材12を第1部材11の貫通孔13に貫通させ、第1部材11の孔内面段差部21を第2部材12の軸外面段差部22に当接させる。
【0029】
肥大化工程では、図3(a)〜(c)に示すように、貫通孔13内に配置した第2部材12に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで、第2部材12を部分的に肥大化する。この実施形態では、一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17に第1部材11及び第2部材12をそれぞれ保持させ、一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17を介して第2部材12に荷重を負荷することで、圧縮応力及びせん断応力を生じさせる。一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17は適宜な構成を選択でき、ここでは詳細な構成の図示は省略している。
【0030】
この肥大化工程で用いる一方側ホルダ16は、第1部材11のボス部18と、第1部材11の貫通孔13から突出した第2部材12の一方側と、を保持する。このような一方側ホルダ16は、第1部材11及び第2部材の一方側に軸線Cに沿う荷重を負荷可能であると共に回転自在に構成されている。
【0031】
肥大化工程で用いる他方側ホルダ17は、第2部材12の他方側を軸線C方向の移動不能に保持する。この他方側ホルダ17は、第2部材12の他方側を保持して回転駆動可能であると共に、一方側ホルダ16に保持された第2部材12に対して角度を調整可能となっている。この実施形態では、他方側ホルダ17が、第1部材11の貫通孔13内に配置された第2部材12の軸線C上の点を中心に角度を調整可能である。
【0032】
一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17を用いて第2部材12を部分的に肥大化するには、図3(a)に示すように、一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17に第1部材11及び第2部材12を保持させて軸線Cが直線となるようにセットする。
このとき、他方側ホルダ17の端面が第1部材11から離間した位置に配置される。他方側ホルダ17と第1部材11との間の間隙は、第2部材12の肥大化に伴う第2部材12の長さの収縮量以上となっている。これにより、第2部材12のうち第1部材11の貫通孔13内に配置された部分を十分に肥大化できる。
【0033】
図3(a)に示すように、他方側ホルダ17を回転駆動して第1部材11及び第2部材12を一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17と共に回転させ、一方側ホルダ16により加圧することで、第2部材12に圧縮荷重を負荷する。
【0034】
一方側ホルダ16と他方側ホルダ17との間に圧縮荷重を負荷すると、第1部材11が一方側ホルダ16に保持されているため、第1部材11に設けられた貫通孔13の孔内面段差部21と第2部材12の軸外面段差部22とが圧接する。
これにより、一方側ホルダ16と第2部材12の軸外面段差部22との間に第1部材11の孔内面段差部21及び小径孔部23の周囲が挟まれ、一方側ホルダ16の加圧力が第1部材11を介して軸外面段差部22に伝達される。そして第2部材12の軸外面段差部22より小径軸部33側の部位及び第1部材11の孔内面段差部21と、第2部材12の軸外面段差部22より大径軸部34側の軸外面段差部22から離間した部位と、の間に圧縮荷重が負荷される。
【0035】
さらに図3(b)に示すように、加圧及び回転を継続しつつ、他方側ホルダ17の角度θを変化させる。これにより、第1部材11の貫通孔13内に配置された部位を中心に、第2部材12に軸線Cと交差する方向にせん断応力を生じさせる。第2部材12が回転していることから、回転に伴い第2部材12の全周方向に変化するせん断応力が第2部材12に繰り返し生じる。一方側ホルダ16に対して他方側ホルダ17を所定角度θに保って第2部材12を回転させるため、周期的に変化する所定のせん断応力が、第2部材12の全周方向に均等に生じる。
第2部材12の他方側ホルダ17に保持された部位の軸線Cの曲げ角度θは、材料に応じて選択するのがよい。
【0036】
圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで、徐々に第2部材12の貫通孔13内に配置された部分が肥大化する。肥大加工中には第1部材11の孔内面段差部21を第2部材12の軸外面段差部22に圧接させた状態が維持されている。
【0037】
図3(c)に示すように、第2部材12の大径軸部34が貫通孔13の大径孔部24の内面全体に肥大化した後、第2部材12の軸線C全体が直線となるように他方側ホルダ17の角度を変化させ、圧縮荷重を解除し、肥大加工を終了する。
【0038】
その後、図4(a)に示すように、一方側ホルダ16及び他方側ホルダ17から第1及び第2部材12が一体化した状態の複合部材10を取り出す。
この複合部材10では、第2部材12の肥大した部位が貫通孔13に圧接することで、第2部材12の周囲に第1部材11が強固に固定されている。
肥大化工程で十分に肥大化したことで、図4(b)に示すように、第1部材11の貫通孔13内で第2部材12が貫通孔13内全体に肥大化して、第2部材12が貫通孔13の内面に対応した形状に変形し、貫通孔13の内面に第2部材12が圧接されて固定部位14が形成されている。また固定部位14には抜け止め孔部26に対応した抜け止め軸部27が形成され、抜け止め軸部27と軸外面段差部22との間が全周で嵌合突部となっている。
【0039】
この実施形態では、第1部材11を第2部材12に固定した後、機械加工を施し、第1部材11及び第2部材12の表面を所定形状に切削する。このとき、図4(b)に示すように、第1部材11の貫通孔13の外側で肥大化した部位35及び各ボス部18,19を除去し、各部を所望の形状及び精度に加工することができる。また第1部材11及び第2部材12に焼入処理や浸炭処理等の熱処理を施し、その後所定精度に追加工を行うこともできる。
これにより図1に示すような複合部材10が完成する。
【0040】
このように製造された複合部材10では、図1に示すように、第1部材11の貫通孔13の内面に環状の孔内面段差部21を備え、第2部材12には孔内面段差部21に対向する環状の軸外面段差部22を備え、孔内面段差部21と軸外面段差部22とが圧接している。
またこの複合部材10では、図4(b)に示すように、第1部材11の貫通孔13の内面に嵌合凹部を備え、第2部材12の固定部位14には嵌合凹部に対応した嵌合突部を備えている。さらに第1部材11の貫通孔13の内面には貫通孔13の断面形状が他方側に向けて小さくなる形状を有する抜け止め孔部26を備え、第2部材12には抜け止め孔部26に対応した形状を有する抜け止め軸部27を備えている。
【0041】
以上のようにして複合部材を製造すれば、第1部材11には小径孔部23と大径孔部24との間に環状に形成される孔内面段差部21を設け、第2部材12には孔内面段差部21に対向する軸外面段差部22を環状に設け、孔内面段差部21と軸外面段差部22とを圧接させつつ第2部材12を肥大化している。そのため肥大加工中に第1部材11が第2部材12に対して特定位置に配置された状態で維持され、第1部材11を第2部材12に対して正確に位置決めして肥大加工できる。その結果、第2部材12に対して第1部材11の位置ずれや傾きが生じることを防止でき、第2部材12に対して第1部材11が高精度に配置されて強固に固定された複合部材10を製造できる。
【0042】
この製造方法では、第2部材12の一方側を保持する一方側ホルダ16と第2部材12の軸外面段差部22との間に、第1部材11を挟んだ状態で圧縮荷重を負荷して圧縮応力を生じさせている。そのため、圧縮荷重により孔内面段差部21と軸外面段差部22とを圧接でき、肥大化する際に第1部材11の孔内面段差部21を第2部材12の軸外面段差部22に強固に押し付けることができる。第2部材12に対して第1部材11の位置ずれや傾きをより確実に防止できる。
【0043】
第2部材の軸外面段差部22より小径軸部33側の部位及び第1部材11の孔内面段差部21と、第2部材12の軸外面段差部22より大径軸部34側の軸外面段差部22から離間した部位と、の間に圧縮荷重を負荷することで、圧縮応力を生じさせている。そのため簡素な構成で第1部材11を第2部材12に対する所定位置に保持することができる。また第2部材12に軸外面段差部22を設けていても、貫通孔13内の第2部材12全体に圧縮応力をバランスよく生じさせることができ、第2部材12を均質に肥大化させることができる。
【0044】
大径孔部24には、孔内面段差部21側より貫通孔13の端部開口側で小さくなった抜け止め孔部26を設け、第2部材12を肥大化することで抜け止め孔部26に対応した抜け止め軸部27を形成している。そのため、肥大化後には第1部材11が第2部材12から抜けて外れることを防止できる。
特に貫通孔13の内面に十分な嵌合凹部を設け、第2部材12を肥大化することで十分な嵌合突部を形成している。そのため肥大化後には第1部材11が第2部材12に強固に固定でき、抜け外れることを確実に防止できる。
【0045】
この実施形態では、第1部材11を第2部材12に固定した後で、第1部材11又は第2部材12の表面を所定形状に切削している。そのため第1部材11を肥大化する際に不要な部分が肥大化したり、変形が生じたりしても、精度よく所望の形状を有する複合部材10が得られる。
また第1部材11にボス部18を設け、肥大化後にボス部18を切削除去している。そのため肥大加工時には第1部材11を安定して保持できて肥大加工も容易である。
ここでは第1部材11の内面に第2部材12が焼きばめなどに比べて強固に圧接されている上、孔内面段差部21と軸外面段差部22とが圧接して係止され、抜け止め孔部26と抜け止め軸部27とが圧接して係止されている。従って、第1部材11及び第2部材の外表面を切削加工しても位置ずれなどは生じない。
【0046】
さらに第1部材11を肥大化させて第2部材12の周囲に固定した後、第1部材11及び第2部材12に熱処理を施している。ここでは第1部材11が第2部材12の貫通孔13に対応した形状に肥大化して固定されており、孔内面段差部21と軸外面段差部22とが強固に係止され、抜け止め孔部26と抜け止め軸部27とが強固に係止されている。従って、熱膨張して貫通孔13が拡大されても、第1部材11が第2部材12から抜け外れたり位置ずれを生じたりすることがない。よって、第2部材12を肥大化することで第1部材11を固定していても、熱処理を施して所望の硬度や性質を実現できる。
【0047】
[第2実施形態]
第2実施形態は、貫通孔13の内面の形状が第1実施形態と異なる第1部材11を用いて複合部材10を製造する例である。
この実施形態の第1部材11の貫通孔13には、図5(a)に示すように、第1部材11の大径孔部24の内周に沿って環状に嵌合凹部としての抜け止め溝41が設けられており、抜け止め孔部26が抜け止め溝41の他方側の側壁により構成されている。また図6(a)に示すように、貫通孔13の大径孔部24に、断面弧形状の嵌合凹部としての回り止め溝43が設けられている。その他は第1実施形態と同様である。
【0048】
このような貫通孔13を有する第1部材11と第2部材12とは、第1実施形態と同様にして、第2部材を部分的に肥大化することで接合できる。
第2部材の肥大化により、図5(b)に示すように、抜け止め溝41に対応した嵌合突部としての抜け止め突部42が形成され、抜け止め孔部26に対応した抜け止め軸部27が形成される。さらに抜け止め突部42が抜け止め溝41に圧接され、抜け止め軸部27が抜け止め孔部26に圧接される。また図6(b)に示すように、回り止め溝43に対応した嵌合突部としての回り止め突起44が形成され、回り止め突起44が回り止め溝43に圧接する。これにより複合部材10を製造することができる。
【0049】
このような第2実施形態の複合部材の製造方法であっても、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。しかも回り止め突起44が回り止め溝43に圧接しているため、第1部材11が第2部材12に対して周方向にずれることを確実に防止できる。
【0050】
第1実施形態及び第2実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。上記では第1部材11及び第2部材としてそれぞれ軸線Cと直交した断面形状が円形の部材を用いた例について説明したが、第1部材11は所定の貫通孔13を有していれば形状は特に限定されない。上記では第1部材11の貫通孔13及び第2部材12の軸線Cと直交した断面形状が円形であったが、第2部材を部分的に肥大化でき、肥大化することで第1部材11の貫通孔13の内面に圧接可能であれば、他の形状であっても本願発明を適用することは可能である。
【0051】
上記第1実施形態では、抜け止め孔部26を貫通孔13の内面全周に設けたが、加工可能であれば貫通孔13の内面の周方向の一部に設けることも可能である。その場合、抜け止め効果と回り止め効果とを同時に得ることができる。
上記第1及び第2実施形態では、第2部材12を所定角度に維持して回転させることでせん断応力を繰り返し発生させたが、振動発生器や超音波振動などの他の方法によりせん断応力を繰り返し発生させることも可能である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明する。
第1実施形態の第1部材11及び第2部材12を用い、第1実施形態と同様にして圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせて接合した実施例の複合部材10と、せん断応力を生じさせずに圧縮応力を生じさせて接合した比較例の複合部材10とを作製し、接合強度を確認した。
【0053】
第1部材11はSCr420Hからなり、貫通孔13の長さが40mm、小径孔部23の直径が45mmで長さが48mm、孔内面段差部21の軸線Cに対する角度が45度、大径孔部24の開口端部の直径が51mmでテーパ角度が約2度であった。
第2部材12はSCr420Hからなり、小径軸部33の直径が48mm、大径軸部34の直径が50mm、軸外面段差部22の軸線Cに対する角度が45度であった。
【0054】
実施例では、600kNの圧縮荷重を負荷した状態で、他方側ホルダ17を0度から2度まで角度を変化させ、圧縮荷重を800kNに増加し、所定時間経過後に他方側ホルダ17を0度に戻して肥大化を行った。
比較例では、他方側ホルダ17の角度を変化させない他は実施例と同様にして肥大化を行った。
【0055】
第2部材12の小径軸部33の端部に軸線C方向にハンマーで同程度の衝撃力を負荷して接合力を比較した。
その結果、比較例の複合部材10は第1部材11から容易に第2部材12が離脱したが、実施例の複合部材10では第2部材12に対して第1部材11の位置ずれが全く生じなかった。
【符号の説明】
【0056】
C 軸線
10 複合部材
11 第1部材
12 第2部材
13 貫通孔
14 固定部位
16 一方側ホルダ
17 他方側ホルダ
18,19 ボス部
21 孔内面段差部
22 軸外面段差部
23 小径孔部
24 大径孔部
26 抜け止め孔部
27 抜け止め軸部
33 小径軸部
34 大径軸部
41 抜け止め溝
42 抜け止め突部
43 回り止め溝
44 回り止め突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の貫通孔に第2部材を貫通させて、上記貫通孔の内面と上記第2部材の外面との間の少なくとも一部に間隙を設け、上記貫通孔内の上記第2部材に圧縮応力を生じさせつつせん断応力を繰り返し生じさせることで該第2部材を部分的に肥大化し、該第2部材の肥大した部位が上記貫通孔に圧接することで上記第2部材の周囲に上記第1部材を固定する複合部材の製造方法において、
上記貫通孔には、小径孔部と、大径孔部と、該小径孔部及び大径孔部間に環状に形成した孔内面段差部と、を設け、
上記第2部材には、上記小径孔部に配置される小径軸部と、上記大径孔部に配置される大径軸部と、該小径軸部及び大径軸部間に環状に形成されて上記孔内面段差部に対向する軸外面段差部と、を設け、
上記孔内面段差部と上記軸外面段差部とを圧接させつつ上記第2部材を肥大化することを特徴とする、複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記第2部材の前記軸外面段差部より前記小径軸部側の部位及び前記第1部材の前記孔内面段差部と、上記第2部材の前記軸外面段差部より前記大径軸部側の該軸外面段差部から離間した部位と、の間に圧縮荷重を負荷することで、前記圧縮応力を生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
一方側ホルダに前記第2部材の前記小径軸部側の部位を保持し、他方側ホルダに上記第2部材の前記大径軸部側の部位を保持し、上記一方側ホルダと前記第2部材の軸外面段差部との間に前記第1部材を挟み、上記一方側ホルダと上記他方側ホルダとの間に上記圧縮荷重を負荷することで、前記圧縮応力を生じさせることを特徴とする、請求項2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
前記大径孔部には、前記内面段差部側より前記貫通孔の端部開口側で小さくなる形状の抜け止め孔部を設け、上記第2部材を肥大化することで上記抜け止め孔部に対応した抜け止め軸部を形成することを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
前記貫通孔の内面に嵌合凹部を設け、前記第2部材を肥大化することで上記嵌合凹部に対応した嵌合突部を形成することを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の複合部材の製造方法。
【請求項6】
前記第2部材を肥大化した後、前記第1部材及び該第2部材の少なくとも一方の表面を所定形状に切削することを特徴とする、請求項1乃至5の何れかに記載の複合部材の製造方法。
【請求項7】
前記第2部材を肥大化させた後、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方に熱処理を施すことを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の複合部材の製造方法。
【請求項8】
貫通孔を有する第1部材と、該貫通孔に貫通された第2部材とを備え、上記第2部材が部分的に肥大化して形成された固定部位を上記貫通孔の内面に圧接することで上記第2部材の周囲に上記第1部材が固定された複合部材において、
上記貫通孔には、小径孔部と、大径孔部と、該小径孔部及び大径孔部間に環状に形成した孔内面段差部と、を備え、
上記第2部材には、上記小径孔部に配置された小径軸部と、上記大径孔部に配置された大径軸部と、該小径軸部及び大径軸部間に環状に形成されて上記孔内面段差部に対向した軸外面段差部と、を備え、
上記孔内面段差部と上記軸外面段差部とが圧接していることを特徴とする、複合部材。
【請求項9】
前記貫通孔の内面には前記内面段差部側より前記貫通孔の端部開口側で小さくなる形状の抜け止め孔部を備え、前記第2部材には上記抜け止め孔部に対応した形状を有する抜け止め軸部を備えることを特徴とする、請求項8に記載の複合部材。
【請求項10】
前記貫通孔の内面には嵌合凹部を備え、前記第2部材の固定部位には上記嵌合凹部に対応した形状の嵌合突部を備えることを特徴とする、請求項8又は9に記載の複合部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−24324(P2013−24324A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159437(P2011−159437)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】