説明

複室容器製剤

【課題】本発明は、使用時に薬剤を溶解液に短時間で溶解でき、かつ気体の発生がない複室容器製剤を、複雑な工程を必要とせず、安価なコストで提供することを課題とする。
【解決手段】連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器製剤において、炭酸塩および炭酸水素塩を含有しない薬剤が収容された第1室、およびpH調整剤を含む溶解液が収容された第2室を含み、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解することを特徴とする複室容器製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複室容器製剤、更に詳細には、水溶液中で不安定な薬剤を使用時に溶解液に溶解し調製するために、薬剤と溶解液が分離して収容された複室容器製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から優れた抗菌性を有するβ−ラクタム系抗生物質として、次の式(1)
【0003】
【化1】

【0004】
で表されるセフォチアムまたはその塩(例えば塩酸塩)が知られている。
【0005】
しかしながら、セフォチアムの2塩酸塩(以下、塩酸セフォチアムと略称)は、一般に水溶液での安定性が悪いため、注射投与時に注射用水等の溶媒で溶解する必要があるが、このとき溶媒への溶解性が悪いという欠点があった。このため、溶解に時間を要し、かつ、溶解後であっても均一な溶解液が調製されないため、溶解液を筋肉内投与した場合に、投与部筋肉細胞の壊死、白変、褐変、出血などの局所作用が現れるといった問題点があった。そこで、溶解時間が短縮され、安全性が改善された製剤が長年、望まれていた。
【0006】
これらの問題を解消するために、無毒性炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム等)を塩酸セフォチアムに配合することによって、塩酸セフォチアムを溶解する際に炭酸ガスを発生させ、その炭酸ガスの攪拌効果により、塩酸セフォチアムの溶解速度を短縮するとともに、溶解後の溶解液のpHを調整することが行われている(特公昭56−36174号公報)。このような製剤は、バイアル製剤と複室容器製剤が市販されている。
【0007】
このようなバイアル製剤においては、通常、塩酸セフォチアムおよび炭酸ナトリウムを含む製剤がバイアルに収容されており、使用前に注射用水、生理食塩液またはブドウ糖注射液をバイアル内に注入し、塩酸セフォチアムおよび炭酸ナトリウムを溶解した後に投与される。また、複室容器製剤は、第1室に塩酸セフォチアムおよび炭酸ナトリウムを含む薬剤が収容され、第1室と連通可能な隔離手段で区画された第2室には、生理食塩液またはブドウ糖注射液等の溶解液が収容されている。第1室および第2室がプラスチック製バッグである場合、該隔離手段を手で押圧する等の所定の方法により連通し、第1室と第2室を開通させることによって、第1室の塩酸セフォチアムおよび炭酸ナトリウムを第2室の生理食塩液またはブドウ糖注射液に溶解した後に、複室容器下部の排出部から点滴流路を導入し、点滴を行う。
【0008】
しかしながら、プラスチック製バッグを含む複室容器製剤の場合、プラスチック製容器内の圧力を炭酸ナトリウムから発生した炭酸ガスが過剰に上昇するため、それにより点滴速度の調整が困難となることがしばしば生じる。また、点滴流路内に炭酸ガスの気泡が混入し、さらには血管内に入る恐れがある。このため、医療作業者が点滴速度を頻繁に確認したり、点滴開始時に点滴流路の点滴筒に充分に薬液を溜めた後に点滴を開始する等、注意深く慎重な作業を行うことが必要であった。
【0009】
臨床での複室容器製剤の使用上、このように炭酸ガスの発生が大きな問題となっており、塩酸セフォチアム以外にも、イミペネム・シラスタチンナトリウム、セフタジジム、塩酸セフメノキシム、硫酸セフピロム等の炭酸塩または炭酸水素塩を含む複室容器製剤においても同様の問題が発生し、炭酸ガスが発生しない複室容器製剤が望まれている。
【0010】
【特許文献1】国際公開第96/025136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、使用時に薬剤の溶解液への溶解に時間を要することと、溶解時に気体が発生するという問題が解消された複室容器製剤及びこの複室容器を複雑な工程を必要とせず、工学的に有利に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、これらの課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、炭酸塩および炭酸水素塩を用いることなくpH調整剤を含む溶解液を用いて、塩酸セフォチアム等の薬剤を溶解することによって、溶解時間が短縮され、かつ、気体の発生が防止されることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、(1)連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器製剤において、炭酸塩および炭酸水素塩を含有しない薬剤が収容された第1室、およびpH調整剤を含む溶解液が収容された第2室を含み、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解することを特徴とする複室容器製剤、(2)連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器製剤において、炭酸塩を含有しない薬剤が収容された第1室、および無機塩、酸および塩基からなる群から選ばれる1種もしくは数種の化合物を含む溶解液が収容された第2室を含み、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解する、上記(1)記載の複室容器製剤、(3)連通可能な隔離手段で区画された2室を有する複室容器製剤において、炭酸塩および炭酸水素塩を含有せず、水溶液中で酸性を示す薬剤が収容された第1室、および1種もしくは数種の塩基性化合物を含む溶解液が収容された第2室を含み、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解することを特徴とする複室容器製剤、(4)前記炭酸塩および炭酸水素塩を含有せず、水溶液中で酸性を示す薬剤が、β−ラクタム系抗生物質の酸付加塩である、上記(3)記載の複室容器製剤、(5)前記β−ラクタム系抗生物質の酸付加塩が塩酸セフォチアム、セフタジジム、塩酸セフメノキシム、硫酸セフピロムまたはイミペネム・シラスタチンナトリウムである、上記(4)記載の複室容器製剤、(6)前記炭酸塩および炭酸水素塩を含有せず、水溶液中で酸性を示す薬剤である塩酸セフォチアムが第1室に収容され、塩酸セフォチアム1gに対して、リン酸水素2ナトリウム0.05〜0.72gを第2室に含む、上記(3)記載の複室容器製剤、(7)前記第1室または第2室の少なくとも一方がプラスチック製バッグである、上記(3)記載の複室容器製剤、(8)前記複室容器製剤は、ダブルバッグ、プレフィルドシリンジまたは溶解液キットのいずれかの形態を有する、上記(3)記載の複室容器製剤、(9)連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有し、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解する複室容器製剤の製造方法において、第1室に炭酸塩および炭酸水素塩を含有しない薬剤が収容され、第2室に1種もしくは数種のpH調整剤を含む溶解液が収容されたことを特徴とする複室容器製剤の製造方法である。
【0014】
本発明の複室容器とは、連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する容器であり、具体的には、ダブルバッグと呼ばれる内部を隔壁で区画された複数の室からなるプラスチック製ダブルバッグ(特開平8−215285号公報、特開平8−257102号公報、特開平8−280775号公報など)や、あるいは、薬剤の収容された容器と溶解液の収容された容器が連通可能に一体化された溶解液キット製品(特2551318号公報、国際公開96/25136号公報など)であってもよい。さらには、ダブルチャンバー型のプレフィルドシリンジと呼ばれる内部が隔壁で区画された注射器(特公昭32−8743号公報、特許第2642582号公報など)であってもよい。
【0015】
上記ダブルバッグ(図1)の第1室1および第2室2は、一例として、ポリエチレンを主成分とするプラスチックシートによって形成され、好ましくは、アルミ箔ラミネート、ポリエチレンテレフタレ―ト及びポリエチレンからなるプラスチックシートが用いられる。弱シール部形成用シートとしては、例えば、低温軟化性のプラスチック小片が用いられ、第1室1および第2室2を形成するプラスチックシートの間に挟み込み、ヒートシールすることによって弱シール部が形成される。
【0016】
上記溶解液キット製品は、例えば、薬剤が封入された容器と溶解液が封入された容器を、該二つの容器を連通する手段を含む連結部材によって連結させたもの(図2、図3)、あるいは、プラスチック製の薬剤容器と、溶解液が封入されたプラスチック製容器が、直接接合され、接合部に連通可能な隔離手段を設けたもの(図4)などがある。図2または図3に示される溶解液キット製品において、用いられる材料は、通常の医療用輸液バッグ等に使用される材料であれば特に制限はないが、薬剤が封入された容器は、ガラスバイアルであることが好ましく、溶解液が収容された容器はプラスチックからなることが好ましい。図4に示される溶解液キット製品(PLW)において、第1室1および第2室2は、通常の医療用輸液バッグ等に使用される材料であれば特に制限されないが、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主体とするプラスチックが使用されることが好ましい。また、第1室1と第2室2の接合部は、例えば、弱シールによって接合されていてもよい。
【0017】
上記プレフィルドシリンジ(図6)は、通常、ポリオレフィン又はガラスからなる筒状部8において、第1室1と第2室2をガスケット81により区画することにより形成される。
【0018】
本発明において、連通可能な隔離手段とは、上記複室容器の内部を区画するものであり、使用時に作業者が外力を加える等の方法によって、第1室と第2室が連通される機構である。上記プラスチック製ダブルバッグ(図1)において、連通可能な隔離手段とは、第1室1と第2室2を区画する弱シール部形成用シートが、第1室1の外壁を押圧することによって剥離し、二室間を連通させる機構である。
【0019】
図2に示す溶解液キット製品において、連通可能な隔離手段とは、第2室2を固定したまま上端部42を押し下げることによって、両頭針41が第1室1および第2室2に穿刺され、二室間を連通させる機構である。また、図3に示す溶解液キット製品において、連通可能な隔離手段とは、回転部43を回転させることによって、両頭針41が第1室1および第2室2に穿刺され、二室間を連通させる機構である。さらに、図4および5に示す溶解液キット製品において、連通可能な隔離手段とは、キャップ部材7を回転させることによって、突出片6が回転し、切欠61が第1室1の底部の連通孔15に嵌合することで、二室間を連通させる機構である。図6に示すプレフィルドシリンジにおいて、連通可能な隔離手段とは、プランジャ82を押しこむことによって、2室を区画するガスケット81が注入溝83の位置まで移動し、さらにプランジャを押し込むことによって、第2室2に収容された溶解液が注入溝83を介して第1室1へ移送される機構である。図1〜6において示される複室容器は、本発明の一例を示すものであって、本発明はこれらの図面により制限されるものではない。
【0020】
本発明においてpH調整剤とは、溶解後の薬液pHを約2〜8の間で一定に保つために溶解液に添加する化合物であり、通常、薬剤が酸性の場合、pH調整剤は塩基性化合物が用いられ、薬剤が塩基性の場合、pH調整剤は酸性化合物が用いられる。本発明において使用される塩基性化合物とは、水溶液中で塩基性を示す化合物であり、例えば、炭酸塩および炭酸水素塩以外の塩基性無機塩、塩基などが挙げられる。塩基性無機塩としては、1酸塩、複数酸塩のいずれであってもよく、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類等の塩であり、さらに好ましくは、ナトリウム、カリウム等の塩である。塩基性無機塩を構成する酸は、強酸または弱酸のいずれであってもよく、強酸としては、リン酸、硫酸、塩酸などが挙げられ、弱酸としては、リン酸水素、リン酸二水素、酢酸、ホウ酸などがあげられる。具体的な塩基性無機塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類等のリン酸塩またはリン酸水素塩が挙げられ、この中でも、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、などが好ましい。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、乳酸ナトリウム,酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。この中でも、特に水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムを使用することが好ましい。本発明において使用される酸性化合物とは、水溶液中で酸性(好ましくは、pH5以下)を示す化合物であり、例えば、炭酸塩および炭酸水素塩を除く酸性無機塩あるいは酸などが挙げられる。酸性無機塩としては、1酸塩、複数酸塩のいずれであってもよく、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類等の塩であり、さらに好ましくは、ナトリウム、カリウム等の塩である。酸性無機塩を構成する酸は、強酸または弱酸のいずれであってもよく、強酸としては、リン酸、硫酸、塩酸などが挙げられ、弱酸としては、リン酸水素、リン酸二水素、酢酸、ホウ酸などがあげられる。具体的な無機塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類等のリン酸水素塩が挙げられ、この中でも、特にリン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムなどを使用することが好ましい。酸としては、クエン酸、酒石酸、乳酸、氷酢酸などの有機酸、リン酸、塩酸、硫酸、希硫酸、ホウ酸などの無機酸が挙げられ、その中でも、特にクエン酸、塩酸などを使用することが好ましい。
【0021】
本発明において、pH調整剤の総量は、薬剤1当量に対して、通常約0.5〜2.5当量であり、好ましくは約1〜2当量である。薬剤が、塩酸セフォチアムである場合、塩酸セフォチアムに対するpH調整剤の総量は薬剤1当量に対して、通常約0.5〜2.5当量であり、好ましくは約1〜2当量である。すなわち、塩酸セフォチアムはセフォチアム1molに2molの塩酸が付加されているので、一酸塩基は塩酸セフォチアム1モルに対し、約2〜4モル、二酸塩基は塩酸セフォチアム1モルに対し、約1〜2モルを用いることが好ましい。さらに、塩酸セフォチアムに対するpH調整剤は、リン酸水素2ナトリウムを含むことが好ましく、その場合、溶解液中のリン酸水素2ナトリウム含量は、通常、1製剤あたり0.05〜0.72gである。
【0022】
本発明において使用される溶解液は、通常、注射用剤の溶解液として用いられる注射用水、生理食塩液、5%ブドウ糖注射液等に、上記pH調整剤が溶解されたものである。
【0023】
さらに、本発明の溶解液には、薬剤を溶解した後のpH値が約2〜8となるような量のpH調整剤が含まれる。
【0024】
本発明において、溶解後の薬剤濃度は、一般に0.25g力価/100mL〜10g力価/100mL程度であることが好ましく、さらに好ましくは、0.25g力価/100mL〜1g力価/100mL程度である。溶解後の塩酸セフォチアム濃度は、0.5g力価/100mL〜2g力価/100mL程度が好ましく、さらに好ましくは、0.5g力価/100mL〜1g力価/100mL程度である。すなわち、溶解液の容量は、薬剤約1g力価に対して、通常、約10〜400mLであり、好ましくは、約50〜200mL、さらに好ましくは約100mLである。
【0025】
また、本発明の溶解液は、必要に応じて、通常、pH調整剤として用いられる上記酸または塩基の他に、アミノ酸、エタノールアミン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸2ナトリウム、ジエタノールアミン、マルトース、メグルミン等が添加されていてもよい。また、安定化剤、可溶化剤等のその他の適当な添加成分が加えられていてもよい。
【0026】
本発明において、第1室には塩酸セフォチアム、イミペネム・シラスタチンナトリウム、セフタジジム、塩酸セフメノキシム、および硫酸セフピロムからなる群より選ばれる1つまたは複数の薬剤の他に、必要であれば、上記の無機塩、酸および塩から選ばれる1種または数種の化合物を除き、通常用いられている製剤学的添加物、すなわち、安定化剤、可溶化剤等、適当な添加成分を加えてもよい。しかし、それらの添加成分の量は、溶解液に溶解した後の薬剤の安定なpH域を逸脱しないような量に限定される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の炭酸塩および炭酸水素塩を含まない複室容器製剤は、隔離手段を連通させて薬剤を溶解しても、炭酸ガスを発生させず、かつ薬剤を従来品と同等以上の速さで溶解させることができる。また、濁りの発生や着色がなく、極めて澄明な溶液が得られる。該薬剤を導入する点滴流路への気泡の混入が防止され、臨床使用上非常に安全な薬液調製を迅速に行うことができる。また、炭酸塩は一般に輸液などに含まれるカルシウムイオンと反応し、たやすく沈殿を生成することが知られているが、本発明ではこの沈殿は生成しない。さらに、製造から使用する直前まで薬剤とpH調整剤とが別々に収納されているため、薬剤がpH調整剤と反応して分解・劣化する恐れが全くない。長期的に安定した製剤が得られ、医療機関等における保管管理が容易で、コスト削減、利便性の向上が計られる。
【0028】
さらに、本発明によりpH調整をより厳密に行うことが可能となり、より生理的pHに近づけることにより、血管炎、血管痛等の防止が可能となる。さらに、該製剤の製造において、従来の製剤は、原末製剤と炭酸塩等の添加物を別々に無菌的に粉末化し、それぞれ容器に充填する必要があったが、本発明では、添加物を無菌的に粉末化する工程を必要とせず、特に複雑な工程を必要としないため、安価なコストで有用な複室容器製剤を提供することができる。その他、本発明は気体が発生せず、複室容器の壁に気泡が付着しないため、薬剤が溶解したことを正確に確認することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。
【0030】
(実施例1)
図1に示すように、内層がポリエチレン(以下、PE)、中間層がシリカ蒸着ポリエチレンテレフタレート、外層がPEである3層構造のシート(フロントシート13)、および、内層がポリエチレン、中間層がアルミ箔、外層がポリエチレンテレフタレートである3層構造のシート(リアシート14)の2枚のシートを弱シール形成部分を残して熱シールし、袋状の容器を形成し、塩酸セフォチアム1gを充填した後、リアシート14のPE側に弱シール部形成用シート31をポイント溶着し、これにフロントシートを重ねて両側縁及び弱シール部形成用シートの上下幅5mm程度の狭い帯状部分をシールして、第1室1(内寸:10×10cm、容量30mL)を形成した。
【0031】
さらに、別途、PE製の筒状シートで弱シール部形成用シート32を挟み込み、弱シール部形成用シートは筒状シートより5mm程度突出させ、シール幅が弱シール部形成用シート32より上下5mm程度狭くなるよう熱シールし、塩酸セフォチアムに対し、当量比で2倍に相当する267mgの水酸化ナトリウムを生理食塩液100mLに加え、混合した溶液充填した後、筒状シートの開放端に排出口22を挟み込み、熱シールして、第2室2(内寸:12×10cm、容量130mL)を形成した。
【0032】
次に、第1室1の弱シールされていない2枚のプラスチックシートの間に、第2室2の筒状シートの一部が重なるように、挟み込み、熱シールすることによって、本発明の複室容器製剤(内寸:22cm×20cm)を得た。この第1室と第2室の接続部分において、第1室1のシートと第2室2の筒状シートの重なる部分は強シールされるが、第1室および第2室のシートは弱シール部形成用シートと弱シールされ、剥離可能であった。第1室1には一部(約20mLの)気体が含まれていた。
【0033】
(実施例2)実施例1と同様に、複室容器の第1室に塩酸セフォチアム1gを充填密封し、塩酸セフォチアムに対し、同当量に相当する237mgのリン酸水素2ナトリウムを生理食塩液100mLに加え、混合した溶液を、第2室に充填密封することにより、本発明の複室容器製剤を得た。
【0034】
(実施例3)
塩酸セフォチアム1gを含む水溶液を20mLのバイアル瓶(図4、第1室1)に充填し凍結乾燥した後、ゴム栓を封栓することによって、バイアル製剤を得た。これとは別に、塩酸セフォチアム1gに対して、同当量に相当する237mgのリン酸水素2ナトリウムを生理食塩液100mLに加え、混合した後、プラスチックバッグ(図2、第2室2)に充填し、溶着することにより、第2室を形成した。最後に結合部材4(図2)によって両者を一体化し、本発明の複室容器製剤を得た。使用時には、結合部材4の上端部42 を押し下げることによって、両頭針41を各室の穿刺部13,23に穿刺し、二室を連通させ、容器全体を上下逆にすることによって、第2室2の溶解液が第1室へ移動され、第1室の塩酸セフォチアムが溶解された。
【0035】
(実験例1)
本発明の複室容器製剤(実施例1)について、その溶解性および溶解後のpHを市販品(パンスポリン静注用1gバッグS(溶解液:生理食塩液、武田薬品工業(株)製))と比較した。すなわち、実施例1で得られたものと市販品の各々6製剤について、ダブルバッグの第1室の外壁を手で押圧し、弱シールを剥離させ、塩酸セフォチアムを溶解液で溶解し、それぞれの溶解時間と溶解後のpHを測定した。溶解終了時点の判定は、目視により行った。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、本発明の複室容器製剤は、炭酸ナトリウムを含む市販品と同様な溶解時間で溶解している。また、市販品の平均pH6.1と比較して、本発明品の平均pHは6.5であり、より生理的pHに近いものである。これは、本実験例の市販品のように、炭酸塩または炭酸水素塩をpH調整剤として用いる場合、酸性域で安定な薬剤に対しては、長時間放置した場合や気温変化に対してアルカリ性側へのpH変動の可能性を考慮して、生理的pHよりもある程度、酸性側にpHを調整しておく必要があるためと推察される。本発明の複室容器製剤は、炭酸塩および炭酸水素塩を使用しないため、より生理的pH値に近いpH値に調整することが可能である。
【0038】
(実験例2)
本発明の複室容器製剤(図1)の塩酸セフォチアム溶液の安定性について試験を行った。すなわち、実施例1で得られた製剤と市販品(パンスポリン静注用1gバッグS(溶解液:生理食塩液、武田薬品工業(株)製))の第1室1を手で押圧し、隔壁3を開通させ、塩酸セフォチアムを溶解液に溶解させた溶液、および原薬を生理食塩液に溶解した溶液をそれぞれ褐色ガラス製遠沈管に10mLずつ入れ、室温および45℃で120分放置し、HPLC法により塩酸セフォチアム濃度を算出し、0時間の塩酸セフォチアム濃度に対する比率を残存率とした。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から明らかなように、本発明の実施例1は、溶解液に溶解後の薬剤安定性において、市販品または原薬と同程度の結果が得られた。
【0041】
(実験例3)
本発明の塩酸セフォチアム複室容器製剤において、隔離手段を開通させた後に発生した気体の量を市販品と比較した。すなわち、実施例1で得られた製剤(図1)と市販品(パンスポリン静注用1gバッグS(溶解液:生理食塩液、武田薬品工業(株)製))について、容器内の気体をシリンジで抜き取った後、密封し、次に容器を外側から手で押圧し隔壁を開通させた。しばらく静置した後、発生した気体の量をそれぞれ測定した。その結果を表3に示す。発生した気体は、ガスクロマトグラフ法により測定した結果、炭酸ガスであることが確認された(図7)。
【0042】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の複室容器製剤の一例を示す図である。
【図2】本発明の複室容器製剤の別な例を示す図である。
【図3】本発明の複室容器製剤の別な例を示す図である。
【図4】本発明の複室容器製剤の別な例を示す図である。
【図5】図4に示す第1室の説明図である。
【図6】本発明の複室容器製剤の別な例を示す図である。
【図7】本発明の実験例3のガスクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0044】
1. 第1室
11. 薬剤
12. 上端部
13. 穿刺部
14. 連通孔
2. 第2室
21. 溶解液
22. 排出部
23. 穿刺部
31. 弱シール部形成用シート
32. 弱シール部形成用シート
4. 結合部材
41. 両頭針
42. 上端部
43. 回転部
5. 容器吊り下げ部
6. 突出片
61. 切欠
7. キャップ部材
8. 筒状容器
81. ガスケット
82. プランジャ
83. 注入溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通可能な隔離手段で区画された少なくとも2室を有する複室容器製剤において、炭酸塩を含有しない薬剤が収容された第1室、および無機塩、酸および塩基からなる群から選ばれる1種もしくは数種の化合物を含む溶解液が収容された第2室を含み、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解することを特徴とする複室容器製剤。
【請求項2】
連通可能な隔離手段で区画された2室を有する複室容器製剤において、炭酸塩および炭酸水素塩を含有せず、水溶液中で酸性を示す薬剤が収容された第1室、および1種もしくは数種の塩基性化合物を含む溶解液が収容された第2室を含み、第1室と第2室が連通することによって、第2室に収容された溶解液が第1室に移送され、第1室に収容された薬剤が溶解液に容易に溶解することを特徴とする複室容器製剤。
【請求項3】
前記炭酸塩および炭酸水素塩を含有せず、水溶液中で酸性を示す薬剤が、β−ラクタム系抗生物質の酸付加塩である、請求項2記載の複室容器製剤。
【請求項4】
前記β−ラクタム系抗生物質の酸付加塩が塩酸セフォチアム、セフタジジム、塩酸セフメノキシム、硫酸セフピロムまたはイミペネム・シラスタチンナトリウムである、請求項3記載の複室容器製剤。
【請求項5】
前記炭酸塩および炭酸水素塩を含有せず、水溶液中で酸性を示す薬剤が塩酸セフォチアム、塩基性化合物がリン酸水素2ナトリウムであり、塩酸セフォチアム1重量部に対して、リン酸水素2ナトリウム0.05〜0.72重量部を含む、請求項4記載の複室容器製剤。
【請求項6】
前記第1室または第2室の少なくとも一方がプラスチック製バッグである、請求項2記載の複室容器製剤。
【請求項7】
前記複室容器製剤は、ダブルバッグ、プレフィルドシリンジまたは溶解液キットのいずれかの形態を有する、請求項2記載の複室容器製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−62382(P2009−62382A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264812(P2008−264812)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【分割の表示】特願2002−238822(P2002−238822)の分割
【原出願日】平成14年8月20日(2002.8.20)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】