説明

複層ガラス

【課題】 既存の単板ガラス板を固定しているガラスサッシにガラスサッシを交換することなく複層ガラスに、同様に、既存の複層ガラスを合せ複層ガラスに入れ替えられる程に薄い、製造が容易な樹脂製スペーサーを用いた複層ガラスを提供する。
【解決手段】 一対のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、一対のガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、クリプトンガスを充填してなる中空層の厚みが1.0mm以上、2.5mm以下であり、スペーサーが乾燥剤を混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる樹脂製スペーサーであることを特徴とする複層ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築分野の窓ガラスに使用される複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、断熱性能に優れ、暖房費、冷房費の節約、省エネルギーの効果があり、快適な住環境をつくるために複層ガラスからなる窓ガラスに広く普及してきた。複層ガラスは、2枚のガラス板の周縁端部にスペーサーを挟んで隔置し、ガラス板とスペーサーとで形成した密閉空間、即ち、中空層によって、優れた断熱性能を有する。
【0003】
通常、複層ガラス用スペーサーとして、乾燥剤を充填した金属製の筒状中空体が知られており、特許文献1等にて開示されている。図4は、中空の金属スペーサーに乾燥剤を充填してなるスペーサーを用いて作製される複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【0004】
図4に示すように、金属製スペーサー1は、1次シール2、2´でガラス板G1、G2に接着され、その外側には、主に複層ガラスの形状を保つために2次シール材3が用いられている。金属製スペーサー1に用いられる金属の種類としてはアルミニウムが代表的であり、内部に乾燥剤4が充填されている。1次シール2、2´および2次シール3としてポリサルファイド系、シリコーン系、ポリウレタン系およびブチルゴム系樹脂がシール材として用いられ、該シール材により、金属製スペーサー1とガラス板G1、G2とが、強固に接着一体化されており、ガラス板G1、G2と金属製スペーサーとで囲まれた中空層5を有する。この方式の複層ガラスは、熱伝達し易い金属製スペーサー1を用いているため、複層ガラスの中央部に比べ、複層ガラスの周辺部の断熱性能が低いという欠点がある。
【0005】
複層ガラスの周辺部の断熱性能を向上させるものとして、金属製スペーサー1の替わりに乾燥剤を混練した樹脂製スペーサーを用いた複層ガラスがある。図5は、乾燥剤を混練した樹脂製スペーサーとシールとからなる複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【0006】
図5に示すように、ブチルゴム、ポリイソブチレンまたは少なくともポリイソブチレンを一成分とする共重合体を樹脂主成分とする熱可塑性共重合体エラストマーに乾燥剤を含有させた樹脂製スペーサー6の外側を、可塑化ポリ塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂をシール材として用い、シール7とした複層ガラスがあり、特許文献2にて開示されている。また、金属製スペーサー1を用いた複層ガラスは使用終了後の解体が容易でないが、樹脂製スペーサー6を用いることで、解体が容易となる。
【0007】
また、従来のガラス板単板を用いた窓ガラスを複層ガラスに交換させる際、既存のサッシ枠を交換することなく複層ガラスを適用するには、複層ガラスは薄いほうが好ましい。中空層内を空気とした通常の複層ガラスは結露防止効果等の断熱性能を持たせるため、中空層の厚みが6mmであり、板厚3mmの一対のガラスと合せた場合、総厚12mmが必要である。既存のサッシ枠が単ガラス板サッシ窓用で細い場合、特に引き違い戸において既存サッシを利用することが困難である。
【0008】
一方、中空層に空気より断熱効果に優れるクリプトンガスを充填し、中空層を薄くした複層ガラスが、特許文献3、特許文献4、特許文献5、および特許文献6にて知られている。
【0009】
複層ガラスの中空層にクリプトンガスを充填し、中空層を薄くした複層ガラスを作製する際に、中空層が薄いため、アルミニウム製などの金属スペーサーは、乾燥剤の充填、コーナーキーの勘合等の製造工程が煩雑となり適さない。
【0010】
乾燥剤を含有させたブチルゴムまたはポリイソブチレン樹脂を用いた樹脂製スペーサー6を用いた図5に示すような複層ガラスに、金属製スペーサー1を用いた図4に示すような複層ガラスと同等の剛性を持たせるためには、使用するブチルゴムまたはポリイソブチレン樹脂に溶融粘度が大きい分子鎖の長い物を使用せざるを得ず、乾燥剤を混練させたブチルゴムまたはポリイソブチレンを加熱溶融させてガラス板G1、G2間にノズルより射出しつつ、樹脂製スペーサー6に成形する際には、高い射出圧力を得るため市販のホットメルトアプリケーターが使用できずに専用の成形機を必要とするという問題があった。また、充填のため離間させたままで、複数のガラス板G1、G2を移動させる装置を要し、装置が複雑高価であるという問題があった。前記装置は、特許文献7または特許文献8等にて知られている。
【特許文献1】特開昭59ー45149号公報
【特許文献2】特開平9ー77536号公報
【特許文献3】実用新案登録第3073130号
【特許文献4】実用新案登録第3074335号
【特許文献5】実用新案登録第3087372号
【特許文献6】実用新案登録第3096372号
【特許文献7】特開平7ー17748号公報、
【特許文献8】特開平11ー236250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既存のガラス板単板を固定しているガラスサッシにガラスサッシを交換することなく断熱効果の高い複層ガラスに入れ替えられる、あるいは、既存の複層ガラスを固定しているガラスサッシに、ガラスサッシを交換することなく防犯、防音機能のある合せ複層ガラスに入れ替えられる程に薄い複層ガラスを作製することは、金属スペーサーを用いる場合、金属スペーサーの加工が煩雑で甚だ難しい。
【0012】
一方、乾燥剤を混練させたブチルゴムまたはポリイソブチレンを樹脂製スペーサーに用いる場合、加熱溶融させてガラス板間にノズルより射出しつつ、樹脂製スペーサーに成形する際には、高い射出圧力を得るため市販のホットメルトアプリケーターが使用できず、専用の成形機を必要とする。
【0013】
本発明は、既存のガラス板単板を固定しているガラスサッシにガラスサッシを交換することなく断熱効果の高い複層ガラスに入れ替えられる、あるいは、既存の複層ガラスを固定しているガラスサッシに、ガラスサッシを交換することなく防犯、防音機能のある合せ複層ガラスに入れ替えられる程に薄い樹脂製スペーサーを用いた複層ガラスの作製を、市販のホットメルトアプリケーターを用いて格段に容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の複層ガラスにおいて、従来の中空層内が空気からなる複層ガラスに比べ、中空層の厚みを薄くしつつ同等以上の断熱性能を得るために、中空層内に空気より断熱性能に優れたクリプトンガスを封入し、樹脂製スペーサーに、市販のホットメルトアプリケーターにより成形される、乾燥剤を混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる樹脂製スペーサーを使用する。従来の樹脂製スペーサーに使用したブチルゴムまたはポリイソブチレンの溶融粘度に比べて、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤は溶融粘度が低く、市販のホットメルトアプリケーターで容易に射出されるが、硬化後に優れた剛性が得られる。
【0015】
本発明は、一対のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、一対のガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、クリプトンガスを充填してなる中空層の厚みが1.0mm以上、2.5mm以下であり、スペーサーが、ゼオライトを混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる樹脂製スペーサーであることを特徴とする複層ガラスである。
【0016】
更に、本発明は、前記樹脂製スペーサーの重量に対するゼオライトの含有率が10.0重量%以上、40.0重量%以下であることを特徴とする上記の複層ガラスである。
【0017】
更に、本発明は、前記樹脂製スペーサーに、補強材を挿入したことを特徴とする上記の複層ガラスである。
【0018】
更に、本発明は、前記補強材が棒状、スパイラル状の針金またはコの字状金属であることを特徴とする上記の複層ガラスである。
【0019】
更に、本発明は、前記樹脂製スペーサーの外周部とガラス板周縁部とがなす凹部に、ホットメルトタイプあるいは反応型ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材および/またはシリコーンシーラントを充填したことを特徴とする上記の複層ガラスである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の複層ガラスにおいて、クリプトンガスを充填してなる中空層の厚みが1.0mm以上、2.5mm以下である。本発明において、ガラス板間の非常に狭い隙間に、溶融粘度が低く射出成形し易いスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤を市販のホットメルトアプリケーターにて樹脂製スペーサーに成形することで、従来の溶融粘度の高いブチルゴムまたはポリイソブチレンを加熱溶融し射出させて樹脂製スペーサーに比較して、複層ガラスの作製が容易となった。
【0021】
本発明において、樹脂製スペーサーが市販のホットメルトアプリケーターで射出成形できるので、既存サッシを交換することなく、断熱性の高い複層ガラス、更に防犯・防音機能のある合せ複層ガラスへの交換が容易な、薄型の複層ガラスの作製が容易となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明による複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を、図1を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の複層ガラスは、一対のガラス板G1、G2が周縁端部に配設されている樹脂製スペーサー8を介して隔置され、一対のガラス板G1、G2の間にクリプトンガスを充填してなる密封された中空層5が形成され、中空層5の厚みが1.0mm以上、2.5mm以下であり、乾燥剤であるゼオライトを混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体からから選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる樹脂製スペーサー8を用いることを特徴とする。
【0025】
更に、本発明の複層ガラスは、ゼオライトを混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる前記樹脂製スペーサー8が、乾燥剤としてのゼオライトを混練させてなり、樹脂製スペーサー8の重量に対するゼオライトの含有率が10.0重量%以上、40.0重量%以下であることを特徴とする。
【0026】
更に、本発明の複層ガラスは、前記樹脂製スペーサーの8外周部とガラス板G1、G2周縁部とがなす凹部に、ホットメルトタイプあるいは反応型ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材および/またはシリコーンシーラントを充填したことを特徴とする。
【0027】
本発明の複層ガラスを作製する際は、図1に示すように、一対のガラス板G1、G2を、乾燥剤を混練したゼオライトを混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる樹脂製スペーサー8を挟んで対向させて配置し、中空層5内には空気より断熱効果に優れるクリプトンガスを封入する。その際、クリプトンガスの純度は容積比で少なくとも80.0%以上とし、できる限り純度を高めることが好ましい。通常、クリプトンは空気を液化した後、沸点の違いによって分離濃縮して得られ、空気成分が不純物として残り断熱性能を劣化させる。高純度クリプトンガスは、東京ガスケミカル株式会社等から市販されている。
【0028】
本発明の複層ガラスにおいて、クリプトンガスを充填してなる中空層5の厚みを1.0mm以上、2.5mm以下とすることが好ましい。
【0029】
クリプトンガスを中空層5内に充填したとしても、中空層5の厚みが1.0mmより薄いと所望の断熱性能が得られない。
【0030】
図4に示すように、金属スペーサー1を用い中空層5に空気を封止して、通常、複層ガラスとして市販されているなかで一番薄いものは、板厚3mmの一対のガラス板G1、G2を使用し、空気による中空層5の6mmの厚みを加え、総厚12mmである。薄くするために、板厚2.5mmの一対のガラス板G1、G2で複層ガラスを作製したとしても、総厚は11mmであり、従来の単板ガラスと交換する際に、単板ガラスで使用される幅9mmのサッシ枠をそのまま用いることは甚だ困難である。
【0031】
サッシ枠が単板ガラスで使用される9mmサイズでも交換されるように、図1に示す本発明の複層ガラスにおいて、クリプトンガスを充填した中空層5の厚みは2.5mm以下とし、板厚3mmの一対のガラス板G1、G2を加え総厚8.5mmとする。板厚3mmの替わりに、板厚2.5mmのガラス板G1、G2を使用すると、本発明の複層ガラスの総厚は7.5mmとなる。サッシ枠をそのまま用いて従来の単板ガラスと交換するためには、本発明の複層ガラスにおいて、総厚8.5mm以下であることが好ましい
本発明において、図1に示す樹脂製スペーサー8には、主成分として、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を用い、乾燥剤としてのゼオライトを加え、加熱溶融下で混練した後、市販のアプリケーターでガラス板間に射出成形し樹脂製スペーサー8とする。ガラス板G1、G2間に射出成形する際は、例えば、吸着パッドにてガラス板G1、G2を所定の間隔に保持するか、ガラス板G1、G2の間に予め間隔保持部材を挿入固着した後、ガラス板G1、G2間の周縁端部に射出する。
【0032】
スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤は溶融粘度が低いため射出成形しやすく、クリプトンガスを充填してなる中空層5の厚みを1.0mm以上、2.5mm以下とするガラス板G1、G2間の非常に狭い隙間に、市販のホットメルトアプリケーターを用いて射出成形し樹脂製スペーサーとすることが簡便で複層ガラスの作製が容易となる。
【0033】
それに比較して、従来の溶融粘度の高いブチルゴムまたはポリイソブチレンを加熱溶融し樹脂製スペーサーを形成するには高い射出圧力を得るため、市販のホットメルトアプリケーターが使用できず、専用の成形機を必要とする。
【0034】
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体は、加熱溶融温度、200℃の条件下、剪断速度、10S-1以上、104-1以下に対して、溶融粘度、102ポイズ以上、106ポイズ以下であり、即ち、10Pa・S以上、105Pa・S以下であり、180℃以上、230℃以下の加熱溶融温度域で、ポリプロピレンと同等に成形される。従来、樹脂製スペーサーに用いられてきたブチルゴム、ポリイソブチレンに比較して、加熱溶融粘度が低く、射出成形が容易で成形後硬化したときの剛性が同等または高い熱可塑性共重合体エラストマーであり、市販のホットメルトアプリケーターを用いて、ガラス板間に射出が容易で樹脂製スペーサーに成形するのに好適な材料である。
【0035】
180℃以上、230℃以下の加熱溶融温度域で、ポリプロピレンと同様に成形されるものに、スチレン−プロピレン系ゴム、アクリルゴムがあるが、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体は成形加工が容易なことに加え、熱可塑性であるため、物性や成形加工が容易なことが損なわれることなく再使用可能であり、硬化後は、加硫ゴムに匹敵するゴム弾性があり、圧縮永久歪がなく、優れた反発弾性を有する等の優れた剛性が得られる。加えて、紫外線に対して耐性があり、酸化され難い等の様々な長所を有し、本発明の複層ガラスの樹脂製スペーサー8として用いるに極めて好適である。
【0036】
このような、熱可塑性共重合体エラストマーには、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体以外に、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0037】
このような熱可塑性共重合体エラストマーとして例えばスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体として、米国のシェルケミカル社より、商品名、Kraton−Gが市販され、スチレンーイソプレンースチレンブロック共重合体としては、日本ゼオン株式会社より、商品名、クインタックSISが市販され、本発明の複層ガラスに好適に使用される。
【0038】
また、樹脂製スペーサー8に使用する混練樹脂において、ゼオライトを乾燥剤として混練する。前記重合体とゼオライトをあわせた重量、即ち、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤とゼオライトあわせた重量に対するゼオライトの含有率は、10.0重量%以上、40.0重量%以下であることが好ましい。ゼオライトの含有率が10.0重量%より少ない場合は、得られる複層ガラスの初期露点性能が劣化し、40.0重量%を越えると、スペーサー8として必要な剛性が不十分となる。尚、ゼオライトは、合成ゼオライト系吸着剤が、例えば、東ソー株式会社より、商品名、ゼオラムとして市販されており、本発明の複層ガラスに使用される。
【0039】
本発明の複層ガラスの強度を向上させるためには、ガラス板G1,G3間の樹脂製スペーサー8の形成部に、棒状の針金、スパイラル状の針金またはコの字状金属等の剛性が高い補強材を内在させることが好ましい。補強材は間隔保持部材としての役割を果たし、複層ガラスの作製がより簡便になる。補強材を、前述のガラス板G1,G2の間に予めを挿入固着した後、補強材を内在させるように、ガラス板G1,G2間の周縁端部に樹脂製スペーサー8を射出形成する。本発明の複層ガラスにおいて、樹脂製スペーサーの溶融粘度が低いので、射出成形時に容易に補強材は樹脂スペーサーに埋設され内在される。
【0040】
本発明の複層ガラスにおいて、樹脂製スペーサー8とガラス板G1、G2周辺端部で形成されるコ字状の部分は、ホットメルトタイプあるいは反応型ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材をホットメルトアプリケーター等にて充填しシールする、またはシリコーンシーラントを充填することが望ましい。該シール9は、複層ガラスの中空層5への透湿を防ぐばかりでなく、ガラス板G1、G2を強固に一体化する効果を有するとともに、ガラス板G1、G2の端部を保護する効果がある。シリコーンシーラントは、透湿性は前記ブチルゴム系シール材に比較して劣るが、ガラス板G1、G2を強固に一体化する効果に優れる。
【0041】
ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材として、横浜ゴム株式会社製、品番、M155およびM144、米国Delchem株式会社製、品番、Dー2000、米国PRCーDesoto株式会社製、品番、PRCー595、米国BOSTIK株式会社製、品番BOSTIK9190等が挙げられ、本発明の複層ガラスに使用される。シリコーンシーラントは、市販のシリコーンシーラントが使用される。
【0042】
本発明による複層ガラスに用いるガラス板G1、G2には、フロート法によるガラス板、該ガラス板の表面に金属膜または金属薄膜を単層または積層させて被覆した熱線反射ガラス、銀薄膜または酸化亜鉛等の金属酸化物薄膜を積層して形成されてなるLowーE膜つきガラス板、ポリビニルブチラール等の透明樹脂を中間膜としてガラス板を積層一体化させた合せガラス、透明樹脂からなる有機ガラス板等が挙げられる。
【0043】
本発明の複層ガラスの断熱性能を、更に向上させるためには、複層ガラスに前記熱線反射ガラス板、LowーE膜付きガラス板を使用することが好ましい。尚、熱線反射ガラスとしては、セントラル硝子株式会社製、商品名、スカイクール、スカイレックス等が使用される。
【0044】
本発明の複層ガラスの防音機能を、更に向上させるため、および防犯機能を付与するためには、ガラス板が割れたとしても破れ難い中間膜としてのポリビニルブチラール、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリカーボネートまたはポリエステル等の透明樹脂層を有する合せガラスを用いた合せ複層ガラスを使用することが好ましい。
【0045】
図2は、合せガラスを用いた本発明による複層ガラスの周辺縁部の断面図である。図2に示すように、板厚3mmのガラス板3枚G1、G2、G3を用い、クリプトンガスを封入した中空層5の厚みを2.5mm、中間膜10を厚み0.76mmとした、ガラス板G1/中空層5/ガラス板G2/中間膜10/ガラス板G3の積層構造からなる合せガラスを用いた本発明の複層ガラスは総厚12.26mmであり、通常、市販されている中空層5内を空気とした総厚12mmの複層ガラスと交換され、窓ガラスが断熱性能は同等以上で、防音、防犯性能に優れた合せ複層ガラスとなる。板厚3mmの替わりに、板厚2.5mmのガラス板を使用すると、合せガラスを用いた本発明の複層ガラスの総厚は11.76mmとなり、通常、市販されている中空層5内を空気とした総厚12mmの複層ガラスと容易に交換され、窓ガラスは断熱性能は同等以上で、防音、防犯性能に優れたものとなる。
【実施例】
【0046】
実施例1
本発明による複層ガラスを作製した。図1を用いて説明する。
【0047】
スチレンーエチレンーブチレンースチレンブロック共重合体としての、シェルケミカル製、商品名、Krayton G−1726、40重量部、粘着性付与剤としての、トーネックス株式会社製、商品名、ECR1401、60重量部、軟化剤としての、宇部興産株式会社製、商品名、UT2780、30重量部、乾燥剤としてのゼオライト、東ソー株式会社製、商品名、ゼオラムA−4、30重量部、黒色着色剤としての0.5重量部のカーボンブラックを用意し、加圧ニーダーで加熱混錬した。その後、市販のホットメルトアプリケーターであるメルト技研株式会社製アプリケーター、型式、M186(以後、アプリケーターM186と略する。)内のタンクに投入し、200℃に加熱溶融した。次いで、前記アプリケーターM186に接続しているガンホース内を搬送させ、ガンホースに取り付けたノズルから射出し、吸着パットを用い2mm間隔に平行に支持した板厚、3mm、大きさ、300mm×300mmである2枚のガラス板G1,G2の間壁に射出し、樹脂製スペーサー8に成形した。
【0048】
図3は、クリプトン−ガスの封入の手順を説明するための複層ガラスの平面図である。次いで、図3に示すように、スペーサー8に中空層5に貫通するように径1mmの金属製の管である注射針11、11´を2つのコーナーに挿入した。
【0049】
複層ガラスを立てた状態で、図3に示すように、中空層5の容積の3倍量のクリプトンガスを用い、下側の注射針11より、中空層5内の空気と置換しつつ、中空層5内にクリプトンガスを充填した。クリプトンガスは空気より重く、下側の注射針11からクリプトンガスを注入すると、上側の注射針11´から空気が排出される。図3の矢印はクリプトンガスの流れを表す。充填後、該注射針11、11´を抜き、残った孔をブチルゴムで覆い中空層5を封止密閉した。
【0050】
その後、図1に示すように、ガラス板G1、G2とスペーサー8とで形成される、ガラス板G1、G2間の周辺部コ字状の空間を、ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材で封止しシール9とし、本発明の複層ガラスを完成させた。
【0051】
詳しくは、実施例1と同様に、前期アプリケーターM017内のタンクに、ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材として、横浜ゴム株式会社製、品番、M155を投入し、190℃に加熱溶融した。
【0052】
2枚のガラス板G1、G2端部と複層ガラス用スペーサー8がなすこの字型凹部に、190℃に加熱溶融した前記ホットメルトブチルを、前記アプリケーターM017に接続しているガンホース内を搬送させ、ガンホースに取り付けたノズルから射出し、2枚のガラス板G1、G2端部と樹脂製スペーサー8がなすこの字型凹部に充填しシール9とし、複層ガラス外周部を封止するとともに一体化した。
【0053】
初期露点性能(製造1日後)を評価するため、JIS R 3209(1998)に準拠し、露点を測定したところ、1日経過後、−60℃であり、良好な初期露点性能であり、JIS R 3209(1998)要求する、初期露点が、−35℃より低いことに合格した。
実施例2
スチレン−イソプレン−スチレン共重合体としての、日本ゼオン株式会社製、商品名、クインタック3433N、20重量部、粘着性付与剤としての、荒川化学工業株式会社製、商品名、アルコンP120、40重量部、軟化剤としての、三井化学株式会社製、 商品名、HW800P、20重量部、乾燥剤としてのゼオライト、東ソー株式会社製、商品名、ゼオラムA−4、20重量部、黒色着色剤量としての0.5重量部のカーボンブラックを用意し、加圧ニーダーで加熱混練した。その後、ホットメルトアプリケーターであるメルト技研株式会社製、アプリケーターM017内のタンクに投入し、190℃に加熱溶融した。次いで、アプリケーターM017に接続しているガンホース内を搬送させ、ガンホースに取り付けたノズルから射出し、吸着パットを用い2mm間隔に平行に支持した板厚、3mm、大きさ、300mm×300mmである2枚のガラス板G1,G2の間壁に射出し、樹脂製スペーサー8に成形した。
【0054】
図3は、クリプトン−ガスの封入の手順を説明するための複層ガラスの平面図である。次いで、図5に示すように、スペーサー8に中空層5に貫通するように径1mmの金属製の管である注射針11、11´を2つのコーナーに挿入した。
【0055】
複層ガラスを立てた状態で、図3に示すように、中空層5の容積の3倍量のクリプトンガスを用い、下側の注射針11より、中空層5内の空気と置換しつつ、中空層5内にクリプトンガスを充填した。クリプトンガスは空気より重く、下側の注射針11からクリプトンガスを注入すると、上側の注射針11´から空気が排出される。図3の矢印はクリプトンガスの流れを表す。充填後、該注射針11、11´を抜き、残った孔をブチルゴムで覆い中空層5を封止密閉した。
【0056】
その後、図1に示すように、ガラス板G1、G2とスペーサー7とで形成される、ガラス板G1、G2間の周辺部コ字状の空間を、実施例1と同様に、ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材で封止しシール9とし、本発明の複層ガラスを完成させた。
【0057】
初期露点性能(製造1日後)を評価するため、JIS R 3209(1998)に準拠し、露点を測定したところ、1日経過後、−55℃であり、良好な初期露点性能であり、JIS R 3209(1998)要求する、初期露点が、−35℃より低いことに合格した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【図2】合せガラスを用いた本発明による複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【図3】クリプトンガスの封入の手順を説明するための複層ガラスの平面図である
【図4】中空の金属スペーサーに乾燥剤を充填してなるスペーサーを用いて作製される複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【図5】乾燥剤を混練したスペーサーと一次シール部と2次シール部とからなる複層ガラスの周辺縁部の断面図である。
【符号の説明】
【0059】
G1、G2、G3 ガラス板
1 金属スペーサー
2、2´ 一次シール
3 二次シール
4 乾燥剤
5 中空層
6 樹脂製スペーサー
7、9 シール
8 樹脂製スペーサー
10 中間膜
11、11´ 注射針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のガラス板が周縁端部に配設されているスペーサーを介して隔置され、一対のガラス板の間に密封された中空層が形成されている複層ガラスにおいて、クリプトンガスを充填してなる中空層の厚みが1.0mm以上、2.5mm以下であり、スペーサーがゼオライトを混練したスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体から選ばれる熱可塑性共重合体エラストマーを成分とするホットメルト接着剤からなる樹脂製スペーサーであることを特徴とする複層ガラス。
【請求項2】
前記樹脂製スペーサーの重量に対するゼオライトの含有率が10.0重量%以上、40.0重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラス。
【請求項3】
前記樹脂製スペーサーに、補強材を内在させたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複層ガラス。
【請求項4】
前記補強材が金属棒、スパイラル状の針金またはコの字状金属であることを特徴とする請求項3に記載の複層ガラス。
【請求項5】
前記樹脂製スペーサーの外周部とガラス板周縁部とがなす凹部に、ホットメルトタイプあるいは反応型ホットメルトタイプのブチルゴム系シール材および/またはシリコーンシーラントを充填したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−21959(P2006−21959A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201789(P2004−201789)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(598006473)旭化学合成株式会社 (6)
【Fターム(参考)】