説明

複数機器の同時引出し阻止機構、及び筐体

【課題】転倒防止用の格別の補助部材を設けたり、機器を設置床面等に固定することなく、複数機器の同時引出しを防止する機構を設けることによって機器の転倒を防止することを可能とした複数機器の同時引出し阻止機構、及び筐体を提供する。
【解決手段】同一側面に開口部を有し且つ上下位置関係で配置されて夫々収容した機器10、11を各開口部内外に出入れ自在に支持した2つの機器収容部5、6と、各機器を搭載して各機器収容部の開口部から夫々内外に突出入自在に構成された機器台座20、21と、下側の機器収容部の開口部の一側縁に設けたヒンジ部により該開口部を開閉自在に軸支されたドア5aと、を備えた筐体において、ドアは、下側の開口部を閉止した状態にあるときには上側の機器台座の外側への突出を許容する一方で、開放した状態にあるときには上側の機器台座の外側への突出を阻止する係止・解除部30を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上下位置関係で配置した機器収容部内に夫々重量物である機器を同一方向へ引出し自在に収容した筐体において、各機器を同時に引出し状態とすることによって筐体が転倒、或いは傾倒する事態の発生を防止することができる複数機器の同時引出し阻止機構、及びこれを備えた筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一つの筐体内に複数の機器を収容することにより一つの装置を構成する場合に個々の機器を保守し易くするためには、各機器収容部の外部に機器を出入れ自在に構成するのが一般的である。
例えば、近年、各種の自治体、企業、学校等々において、証明書や券類等(以下、証明書等、という)を発行する手段として自動発行装置が導入され、数多く利用されている。この種の自動発行装置として、市販の汎用プリンタと、プリンタから出力された印刷済み用紙にステープル処理、或いは契印を施すための後処理装置と、これらを制御する制御装置と、を組合せ使用したタイプが知られており、複数の収納棚を有した筐体内に各機器を収納することにより一つの自動発行装置を構成している。
【0003】
図5(a)(b)(c)及び(d)は上記の如き自動発行装置の外観図、前扉開放状態説明図、プリンタ収容部のドア開放状態、及び2つの機器を同時に引き出した状態を示す図である。
この自動発行装置100の筐体101は、本体102と、本体102の前面を開閉するために枢支された前扉103と、本体102の内部に配置されたプリンタ収容部105、後処理装置収容部106等を備えている。プリンタ収容部105内にはレーザプリンタ110が収容され、後処理装置収容部106内には後処理装置111が収容されている。各収容部105、106の前面にはこれらを開閉するためのドア105a、106aを必要に応じてヒンジ105b、106bによって軸支する。
各収容部105、106は同一側面側に開口部を有し、各収容部の内壁に設けたスライドレールによって機器台座115、116が各開口部から内外に突出入自在に支持されている。
しかし、このように構成した場合、メンテナンス時に作業員が図5(d)に示すように上下位置関係に配置されたプリンタ110、後処理装置111を同時に引き出すと、筐体本体102の重量とのバランスが崩れて自動発行機全体が前方に倒れ込みを起こす虞があり危険である。
【0004】
機器類の転倒を防止する装置として、特許文献1には、機器本体の周囲四隅に設けた補助脚部を、機器本体側に収納した位置と外側へ突出させた位置との間で進退自在に構成し、補助脚部を突出状態とすることにより転倒を防止する構造を提案している。しかし、転倒防止手段としてしか機能し得ない補助脚部を設けるために部品点数増大、形状の大型化、設置スペースの増大といった種々の不具合をもたらすことが明らかである。
また、特許文献2には、機器を設置床面に固定することにより転倒を防止する装置が開示されているが、一旦固定すると、機器の移動を制限することとなるため、機器を床面に固定したくない設置環境では適用することができない。
また、特許文献3には、機器本体の底面位置よりも高い位置から転倒防止部として機能する踏み台を突設した構成が開示されているが、電子機器には通常踏み台は不要であるし、踏み台は転倒防止手段としては大型であり、自動発行機等には適さない。
【特許文献1】特開2005−227633公報
【特許文献2】特開2006−24406公報
【特許文献3】特開2007−015570公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように筐体の一側面に上下位置関係で機器収容部を配置し、該一側面に設けた各開口部から重量物である機器を水平方向へ出入れ自在に構成した場合、複数の機器を同時に引出し状態にすると筐体本体との重量バランスが崩れて機器が転倒する虞があった。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、転倒防止用の格別の補助部材を設けたり、機器を設置床面等に固定することなく、複数機器の同時引出しを防止する機構を設けることによって機器の転倒を防止することを可能とした複数機器の同時引出し阻止機構、及びこれを備えた筐体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明に係る複数機器の同時引出し防止機構は、同一側面に開口部を有し且つ上下位置関係で配置されて夫々収容した機器を各開口部内外に出入れ自在に支持した2つの機器収容部と、各機器を搭載して各機器収容部の開口部から夫々内外に突出入自在に構成された機器台座と、下側の機器収容部の開口部の一側縁に設けたヒンジ部により該開口部を開閉自在に軸支されたドアと、を備えた筐体において、前記ドアは、下側の前記開口部を閉止した状態にあるときには上側の前記機器台座の外側への突出を許容する一方で、開放した状態にあるときには前記上側の機器台座の外側への突出を阻止する係止・解除部を備えていることを特徴とする。
ドア閉止時には下側の機器収容部内の機器台座の引出しをドアが阻止する一方で、ドア開放時には係止・解除部が直上位置にある機器収容部内の機器台座の引出しを阻止するので、上下位置関係に配置された各機器台座上の機器が同時に引き出されることが防止でき、筐体の転倒を防止できる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ドアの閉止時に前記上側の機器台座が上側の前記開口部の外側へ突出しているときには、該上側の機器台座は前記ドアの完全開放を規制するように構成されていることを特徴とする。
上側の機器台座が引き出されている状態で、直下に位置するドアを開放しようとしても、係止・解除部がドアの完全解放を阻止するので、各機器が同時に引き出されることがなくなる。
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記係止・解除部は、前記ドアのヒンジ部側に設けた切欠き部によって構成されており、前記ドアの閉止時には前記切欠き部内を経て前記上側の機器台座が突出することを許容する一方で、前記ドアの開放時には該切欠き部の内側面によって前記上側の機器台座の先端部を係止してその突出を阻止することを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1、2又は3において、前記ドアが開放され、下側の機器台座が突出状態にある場合には、前記ドアの開放状態を維持して上側機器台座の突出を阻止するように前記ドアと下側機器台座との位置関係を設定したことを特徴とする。
請求項5の発明に係る筐体は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の複数機器の同時引出し阻止機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、下側の機器収容部を開閉するドアに設けた係止・解除部と、直上に位置する機器収容部内の機器台座に設けた被係止部との協働によって、ドアを開放して下側の機器を引出し可能な状態となっている時には上側の機器台座の突出を阻止し、ドアを閉じた状態で上側の機器台座を引き出した時にはドアの開放が阻止されるので、上下位置関係に配置された両機器が同時に一方向へ引き出されることを防止でき、筐体の転倒を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を添付図面に示した形態例により詳細に説明する。
図1(a)(b)及び(c)は本発明の一形態例に係る複数機器の同時引出し防止機構を備えた自動発行装置の外観図、前扉開放状態説明図、及びプリンタ収容部のドア開放状態を示す図であり、図2は図1(c)の拡大図であり、図3(a)及び(b)は夫々ドアの閉止時、及び開放時の要部構成を示す図であり、図4は上側の機器台座を引き出した状態を示す下方からの斜視図である。
自動発行装置は、証明書、券類等のように、用紙上に所要事項を印刷して発行する装置であり、用紙に所定事項を印刷する印刷手段としてのプリンタ10と、プリンタ10から排出された印刷済みの証明書等を受入れてステープル処理、契印処理等を施す後処理装置11と、を備えている。更に、筐体本体2内には、図示しない制御装置が配置され、プリンタ10、後処理装置15を制御するように構成されている。
【0011】
自動発行装置の筐体1は、筐体本体2と、筐体本体2の前面を開閉するために枢支され且つ操作部やディスプレイや印刷物発行部等を備えた前扉3と、筐体本体2の内部に配置されたプリンタ収容部5、後処理装置収容部6等を備えている。筐体本体2の前面に設けたプリンタ収容部(下側機器収容部)5内にはプリンタ10が収容され、プリンタ収容部5の直上位置であって筐体本体の前面に設けた後処理装置収容部(上側機器収容部)6内には後処理装置11が収容されている。各機器収容部5、6の内壁下部には夫々スライドレール7、8が配設され、各スライドレールは各機器10、11を搭載した機器台座20、21の両側部に設けた被ガイド部と係合することにより、各機器台座を各機器収容部5、6の開口部から内外に出入れ自在に支持している。
【0012】
プリンタ収容部5の一側端縁にはヒンジ部5bを設け、このヒンジ部5bによってプリンタ収容部の開口部を開閉するためのドア5aが横方向に開閉自在に軸支されている。
ドア5aは、プリンタ収容部5の開口部を閉止した状態にあるときには後処理装置収容部6内に設けた機器台座21の外側への突出を許容する一方で、プリンタ10を搭載した機器台座20が引出し可能となるようにドア5aを開放した状態にあるときには上側の機器台座21の外側への突出を阻止する係止・解除部30を備えている。
従って、ドア閉止時には下側の機器収容部内の機器台座20の引出しをドアが阻止する一方で、ドア開放時には係止・解除部30が直上位置にある機器収容部内の機器台座21の引出しを阻止するので、上下位置関係に配置された各機器台座上の各機器が同時に引き出されることが防止でき、筐体の転倒を防止できる。
【0013】
また、係止・解除部30は、ドア5aの閉止時に上側の機器台座21が後処理装置収容部6の開口部の外側へ突出しているときには、上側の機器台座21はドア5aの完全開放を規制するように構成されている。従って、後処理装置11を引き出した状態でドア5aを完全に開放することが不可能であるために、プリンタ10を同時に引出した状態とすることができない。
本実施形態に係る係止・解除部30は、ドア5aのヒンジ部5b側に設けた切欠き部31によって構成されている。また、上側の機器台座21の左側端部には下方に突出した被係止部21aを備え、図1(b)のようにドア5aが閉止状態にあるときに被係止部21aは切欠き部31内に整合した状態で位置しており、ドア5aの閉止時であっても切欠き部31を介して内外方向へ進退自在となるように構成されている。このため、ドア5aの閉止時には、機器台座21及び該機器台座上に搭載された後処理装置11は収容部6の開口部から前方へ引き出すことが可能となる。
つまり、切欠き部31と被係止部21aとの関係は、図1(b)の如きドア5aの閉止時には切欠き部31内を経て被係止部21aが前後方向へ進退自在となるために上側の機器台座21が突出することを許容する一方で、図1(c)の如くドア5aがプリンタ10を搭載した機器台座20が引出し可能となる所定角度(この例では約90度)開放した時には切欠き部31の内側面(係止部)31aによって機器台座の被係止部21a(先端部適所)を係止してその突出を阻止するように構成されている。
【0014】
また、機器台座20が引き出された状態においては、ドア5aが所定角度以上に開くことがないように、筐体本体2の内壁に図示しないストッパを設け、ドア5aが所定角度より閉じないようにドア5aと機器台座20との位置関係が設定されている。
更に、上側の機器台座21を引き出した状態でドア5aを開放しようとした場合には、図4に示すようにドア5aは被係止部21aに対する切欠き部31の横方向寸法のマージン分だけは開放可能となるが、被係止部21aが切欠き部31の内側面31aに当接してそれ以上の開放を阻止するため、ドア5aは下側の機器台座20を引き出すことができる程度には開放しない。
従って本発明の複数機器の同時引出し防止機構によれば、ドアに設けた係止・解除部30と、上側の機器台座21の一部を構成する被係止部21aとの協働によって、ドア5aが閉止している時にはプリンタ収容部5内のプリンタの引出しを禁止する。一方、ドア5aを開放した状態では、プリンタの引出しを許容しながら、後処理装置収容部6内の機器台座21の引出しを阻止するように作用する。更に、係止・解除部30と被係止部21aとは、上側の機器台座21が引き出された状態でドア5aを開放しようとしてもドア5aの開放を阻止するように互いに係合し合うので、上側の後処理装置11を引き出した状態で、下側のプリンタを引き出すことは不可能となる。
【0015】
このように本発明によれば、下側の機器収容部であるプリンタ収容部5を開閉するドア5aに設けた係止・解除部30と、直上に位置する機器収容部6内の機器台座21に設けた被係止部21aとの協働によって、ドアを開放してプリンタ10を引出し可能な状態となっている時には上側の機器台座21の突出を阻止し、ドアを閉じた状態で上側の機器台座を引き出した時にはドアの開放が阻止されるので、上下位置関係に配置された両機器10、11が同時に一方向へ引き出されることを防止できる。このため、上下位置関係で配置された2つの機器10、11が同時に引き出されることが防止され、前方へ重心が過剰に移動することによる筐体の転倒を防止することができる。
【0016】
なお、本発明の複数機器の同時引出し防止機構、或いはこの防止機構を備えた筐体は、上記の如き証明書類自動発行装置以外であっても、複数の機器を上下位置関係で収容した筐体を備えたあらゆる装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)(b)及び(c)は本発明の一形態例に係る複数機器の同時引出し防止機構を備えた自動発行装置の外観図、前扉開放状態説明図、及びプリンタ収容部のドア開放状態を示す図である。
【図2】図1(c)の拡大図である。
【図3】(a)及び(b)は夫々ドアの閉止時、及び開放時の要部構成を示す図である。
【図4】上側の機器台座を引き出した状態を示す下方からの斜視図である。
【図5】(a)(b)(c)及び(d)は従来の自動発行装置の外観図、前扉開放状態説明図、プリンタ収容部のドア開放状態を示す図、及び2つの機器を同時に引き出した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1…筐体、2…筐体本体、3…前扉、5…プリンタ収容部、5a…ドア、5b…ヒンジ部、6…後処理装置収容部、7、8…スライドレール、10…プリンタ、11…後処理装置、15…後処理装置、20…機器台座、21…機器台座、21a…被係止部、30…係止・解除部、31…切欠き部、31a…内側面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一側面に開口部を有し且つ上下位置関係で配置されて夫々収容した機器を各開口部内外に出入れ自在に支持した2つの機器収容部と、各機器を搭載して各機器収容部の開口部から夫々内外に突出入自在に構成された機器台座と、下側の機器収容部の開口部の一側縁に設けたヒンジ部により該開口部を開閉自在に軸支されたドアと、を備えた筐体において、
前記ドアは、下側の前記開口部を閉止した状態にあるときには上側の前記機器台座の外側への突出を許容する一方で、開放した状態にあるときには前記上側の機器台座の外側への突出を阻止する係止・解除部を備えていることを特徴とする複数機器の同時引出し阻止機構。
【請求項2】
前記ドアの閉止時に前記上側の機器台座が上側の前記開口部の外側へ突出しているときには、該上側の機器台座は前記ドアの完全開放を規制するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の複数機器の同時引出し阻止機構。
【請求項3】
前記係止・解除部は、前記ドアのヒンジ部側に設けた切欠き部によって構成されており、前記ドアの閉止時には前記切欠き部内を経て前記上側の機器台座が突出することを許容する一方で、前記ドアの開放時には該切欠き部の内側面によって前記上側の機器台座の先端部を係止してその突出を阻止することを特徴とする請求項1又は2に記載の複数機器の同時引出し阻止機構。
【請求項4】
前記ドアが開放され、下側の機器台座が突出状態にある場合には、前記ドアの開放状態を維持して上側機器台座の突出を阻止するように前記ドアと下側機器台座との位置関係を設定したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の複数機器の同時引出し阻止機構。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の複数機器の同時引出し阻止機構を備えたことを特徴とする筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−200369(P2008−200369A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41529(P2007−41529)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(305027456)ネッツエスアイ東洋株式会社 (200)
【Fターム(参考)】