説明

複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定方法及び装置

【課題】本発明は薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する方法及び装置得る。
【解決手段】本発明の最適分割位置決定方法1は、薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する方法であって、製品CAD情報の分割可能領域内において分割位置候補を複数設定し、分割位置候補のひとつで製品を分割した場合の各部品の展開形状を計算し、該展開形状に必要な余裕代を設ける余裕代展開形状を計算し、各余裕代展開形状を含む最小の板材寸法を計算し、該板材寸法等から全部品の合計材料費を計算し、他の分割位置候補についても同様に合計材料費を計算し、材料費が最小になるような分割位置候補を最適分割位置として決定することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄板をプレス成形して形成される複数の部品を接合して形成される製品の製造技術に関し、特に予め与えられた製品形状に対してこれを構成する各部品形状を決定するに際して前記製品の分割位置を決定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を構成する側部構造に関し、構造部材としてフロントピラーインナーとルーフサイドインナーが接合されたものがある。このような構造部材について設計を行う場合、各部材が連結された状態形状が製品形状として例えばCADデータによって与えられる。この場合、設計者はフロントピラーインナーとルーフサイドインナーが連結された製品形状に対して、どの位置でフロントピラーインナーとルーフサイドインナーを分割するか、換言すればどの位置までをフロントピラーインナーを構成する部品とし、どの位置からをこれに連結されるルーフサイドインナーとするかを決定する。
【0003】
フロントピラーインナーとルーフサイドインナーは製品仕様の関係から、材質や、板厚等が異なる場合がある。そのため、どの位置で製品形状を分割するかについては、その性能面から所定の制約があり、分割可能な領域がおのずと決定される。
この決定された分割可能な領域(以下、「分割可能領域」という)内において、具体的にどの位置で製品を分割するかについては、設計者の経験に基づいて行われているのが現状である。
【0004】
そして、分割位置が決定され、各部品について形状が決定された後、それぞれの部品について素材から効率よく採取するための検討が行われる。
このような、部品の採取を計算機により自動的に決定する方法及び装置に関しては、例えば、特許文献1に、アングル鋼材等を2次元平面に展開し、2次元平面上で部品取りする方法として開示されている。また、特許文献2には、3次元形状部品を加工材から部品取りする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−109509号公報
【特許文献2】特開2003−256011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来においては、製品の分割位置を設計者が自らの経験等に基づいて決定し、当該分割位置を前提として、例えば特許文献1に類似の方法により各部品を効率よく採取するというものである。
そのため、製品全体としてのコストの低減を図ろうとしても、設計者が経験によって決定した分割位置を前提とするためおのずとその限界があった。
薄板をプレス成形して形成される複数の部品を接合して形成される製品の場合、これを構成する各部品形状を決定したとしても、各部品を構成する板材の面積等は展開形状によるため、プレス成形後の製品形状からコスト面を考慮した最適分割位置を決定することは難しい。この意味で、設計者が自らの経験で製品形状の分割位置を決定して、これを前提として製品の設計するのは、コスト面での最適化が図られていないと考えられる。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、予め与えられた製品形状に対してこれを構成する各部品形状を決定するに際して前記製品の分割位置の最適化を図る技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定方法は、薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する方法であって、
製品形状のCAD情報から製品形状CAD情報を読み込むステップと、該製品CAD情報における分割可能領域内において製品の分割位置候補を複数設定する分割位置候補設定ステップと、該複数の分割位置候補のひとつで製品を分割した場合に分割位置によって分割される各部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算ステップと、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を設けた余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算ステップと、各余裕代展開形状を含み面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算する板材寸法計算ステップと、板材寸法及び板材の価格情報に基づいて前記製品を構成する全部品の合計材料費を計算する合計材料費計算ステップと、分割位置候補を変更して前記展開形状計算ステップから合計材料費計算ステップまでの各ステップを繰り返すステップと、前記合計材料費計算ステップで計算された合計材料費の中から合計材料費が最小になる分割位置を選択して最適分割位置として決定する分割位置決定ステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する方法であって、
製品形状のCAD情報から製品形状CAD情報を読み込むステップと、該製品CAD情報における分割可能領域内において製品の分割位置候補を設定する分割位置候補設定ステップと、該分割位置候補で製品を分割した場合に分割位置によって分割される各部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算ステップと、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を設けた余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算ステップと、各余裕代展開形状を含み面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算する板材寸法計算ステップと、板材寸法及び板材の価格情報に基づいて前記製品を構成する全部品の合計材料費を計算する合計材料費計算ステップと、他の分割位置候補を設定して前記展開形状計算ステップから合計材料費計算ステップまでの各ステップを繰り返すステップと、前記合計材料費計算ステップで計算された合計材料費の中から合計材料費が最小になる分割位置を選択して最適分割位置として決定する分割位置決定ステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記展開形状計算ステップにおける展開形状の計算は、逆成形解析によって行うことを特徴とするものである。
【0011】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記余裕代展開形状計算ステップは、余裕代展開形状に基づいて成形解析を行い、該成形解析で得られた形状と製品形状CAD情報の形状を比較して余裕代展開形状を調整するステップを含むことを特徴とするものである。
【0012】
(5)本発明に係る複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置は、薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置であって、
製品形状を示す製品形状CAD情報を記憶する製品CAD情報記憶部と、該製品CAD情報における分割可能領域内において製品の分割位置候補を設定する分割位置候補設定部と、設定された分割位置候補で製品を分割した場合に分割位置によって分割される各部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算処理部と、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を設けた余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算処理部と、各余裕代展開形状を含み面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算する板材寸法計算処理部と、板材寸法及び板材の価格情報に基づいて前記製品を構成する全部品の合計材料費を計算する合計材料費計算処理部と、前記合計材料費計算処理部で計算された合計材料費の中から合計材料費が最小になる分割位置を選択して最適分割位置として決定する分割位置決定部とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記展開形状計算処理部における展開形状の計算は、逆成形解析によって行うことを特徴とするものである。
【0014】
(7)また、上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、前記余裕代展開形状計算処理部は、余裕代展開形状に基づいて成形解析を行い、該成形解析で得られた形状と製品形状CAD情報の形状を比較して余裕代展開形状を調整する機能を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る最適分割位置決定方法によれば、薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品において、製品における性能面の要求を満たしつつ、コストを低減できる最適分割位置を決定することができ、より安価な製品の製造を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における最適分割位置決定装置のブロック図である。
【図2】本発明における最適分割位置決定方法を適用した処理手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明における最適分割位置決定方法の対象となる製品の平面図である。
【図4】本発明における最適分割位置決定方法の対象となる製品の平面図に分割位置候補を表示した図である。
【図5】本発明における最適分割位置決定方法の対象となる製品を各部品に分割し、それぞれの部品の展開形状を示した図である。
【図6】本発明における最適分割位置決定方法の対象となる製品のひとつの部品の余裕代展開形状をコイル状板材から採取する方法の説明図である。
【図7】本発明における最適分割位置決定方法の対象となる製品の他の部品の余裕代展開形状をコイル状板材から採取する方法の説明図である。
【図8】本発明における最適分割位置決定方法の対象となる製品のひとつの部品の余裕代展開形状をシート状板材から採取する方法の説明図である。
【図9】本発明の効果を確認する実施例における分割位置候補と部品ごとの材料費、合計材料費等の関係を示す表である。
【図10】本発明の効果を確認する実施例における分割位置候補と部品ごとの材料費、合計材料費等の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の最適分割位置決定方法の他の態様の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1に示すブロック図に基づいて、複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置1(以下、単に「最適分割位置決定装置1」という)の構成について説明する。
本実施の形態の最適分割位置決定装置1は、PC(パーソナルコンピュータ)によって構成され、表示装置3と入力装置5と記憶装置7と作業用データメモリ9および演算処理部11を有している。
【0018】
<表示装置>
表示装置3は、製品CAD情報の表示や計算結果の表示に用いられ、例えば液晶モニター等で構成される。
【0019】
<入力装置>
入力装置5は、製品CAD情報ファイルの指示や、分割位置候補の入力などに用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
【0020】
<記憶装置>
記憶装置7内には、少なくとも、製品CAD情報ファイル13と、素材単位重量価格情報ファイル15が記憶されている。
製品CAD情報ファイル13には、例えば図3に示すような車両の側部構造部材であるフロントピラーインナー43とルーフサイドインナー45を接合してなる製品41の3次元CAD情報が格納されている。
また、素材単位重量価格情報ファイル15には、各部品の素材となる板材の単位重量あたりの価格情報が格納されている。
【0021】
<作業用データメモリ>
作業用データメモリ9内には、分割位置候補を記憶する分割位置候補記憶領域17と、合計材料費を記憶する合計材料費記憶領域19と、計算処理を行うための作業領域21を有している。
【0022】
<演算処理部>
演算処理部はPCのCPUによって構成され、以下に説明する各処理部はCPUが所定のプログラムを実行することによって実現される。
演算処理部11内には、製品CAD情報ファイル13から製品CAD情報を読み込む製品CAD情報読込処理部23と、製品CAD情報に対して、操作者から製品41の分割位置候補の複数の入力を受け付ける分割位置候補入力受付処理部25と、分割位置候補のうちのひとつで製品41を分割した場合に分割位置によって分割される部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算処理部27と、各展開形状に余裕代を含む余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算処理部29と、各余裕代展開形状から面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算するネスティング計算処理部31と、各板材寸法から板材重量を計算する板材重量計算処理部33と、各板材重量と素材単位重量価格情報ファイル15から読み込んだ素材の単位重量あたりの価格情報から、製品41を構成する部品全体の合計材料費を計算し、合計材料費を前記分割位置候補に対する合計材料費として合計材料費記憶領域19に記憶させる合計材料費計算処理部35と、合計材料費記憶領域19に記憶された分割位置候補に対する合計材料費を読み込み、表示装置3に表示する合計材料費表示処理部37を有している。
以下、演算処理部11内の各処理部についてさらに詳細に説明する。
【0023】
製品CAD情報読込処理部23は、製品CAD情報選択画面を表示装置3に表示し、操作者に製品CAD情報ファイル13を指定するように促す。操作者から製品CAD情報ファイル13の指定を受けたら、指定された製品CAD情報ファイル13から製品CAD情報を読み込んで作業用データメモリ9へ展開し、表示装置3に3次元CAD図面を表示する。
【0024】
分割位置候補入力受付処理部25は、操作者から入力装置5を用いて入力された分割位置候補を受け付け、表示装置3に表示された3次元CAD図面上に表示する。製品CAD情報には製品設計時にあらかじめ分割位置を入力することが可能な領域(以下、「分割可能領域」)が設定されており、操作者は分割可能領域に対し、複数の分割位置候補を分割位置候補入力受付処理部25へ入力することができる。例として図4に製品41の3次元CAD図面上にその分割位置候補を表示した図を示す。この分割位置候補は製品41を左右に2分割しており、この場合、製品41はフロントピラーインナーとなるA部品43とルーフサイドインナーとなるB部品45から構成されることを示している。また、分割位置候補入力受付処理部25は、操作者から入力装置5を用いて入力された分割位置候補を分割位置候補記憶領域17に記憶させる。
【0025】
展開形状計算処理部27は、分割位置候補のうちひとつの分割位置を用いて、製品41を複数部品に分割し、各部品に対して展開形状を計算する。展開形状とは、板材から3次元形状の部品をプレス成形する場合において、必要最低限の2次元形状である。例として図5に製品41を分割位置候補bで分割した際のA部品43の展開形状47とB部品45の展開形状49を示す。また、本実施形態では展開形状は逆成形解析によって決定することで、展開形状の計算精度を向上させている。
【0026】
余裕代展開形状計算処理部29は、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を含む余裕代展開形状を計算する。
なお、余裕代展開形状を決定するに際し、展開形状に余裕代を付加して求めた余裕代展開形状に基づいて成形解析を行い、この成形解析によって求めた成形後の形状とCAD情報として与えられた元の形状とを比較して、差異がある場合には余裕代展開形状を修正するようにしてもよい。このようにすることで、余裕代展開形状の精度を向上させることができる。ここで成形解析とは、成形条件を入力情報として、弾塑性有限要素法等を用いて板材をプレス成形したときの成形品形状を求める数値解析手法をいう。
【0027】
ネスティング計算処理部31は、各余裕代展開形状から、面積が最小となるように各部品の素材となる板材寸法を計算する。プレス成形は、一枚の板材からプレス素材を採取した後、そのプレス素材をプレス成形する。このときコスト面から、一枚の板材から効率よくプレス素材の採取を行う必要がある。一枚の板材から効率よくプレス素材の採取を行う方法として、いわゆるネスティング処理が従来から知られおり、本発明ではこれを用いる。また、プレス素材の採取は、板材がコイル状なのかシート状なのか等の材料投入の形式に依存する。このためネスティング計算処理部31は、操作者に材料投入の形式を入力させるためのネスティング計算情報入力画面を有する。またネスティング計算情報入力画面はプレス素材の採取位置間の距離であるマージンの入力も求める。つまりマージンとは、板材から複数のプレス素材を採取する際における隣接するプレス素材の採取位置間の距離、すなわち隣接するプレス素材の外形線間の距離をいう。
ネスティング計算処理部31は各部品の余裕代展開形状と、操作者からネスティング計算情報入力画面を介して入力された材料投入の形式およびマージンから、最も効率よくプレス素材の採取を行うことができる板材寸法と歩留りを計算する。
【0028】
ネスティング処理について、材料投入の形式をコイル状の板材とし、マージンを15mmとしてA部品43及びB部品45のプレス素材を採取する場合を例に挙げて説明する。
ネスティング計算処理部31は上記条件に対して板材寸法として最適なコイル幅、送りピッチを算出する。送りピッチとは、コイル状の投入材料からプレス素材を採取機において採取する際に、一つのプレス素材を採取して次のプレス素材を採取する際にコイルを送る長さである。
【0029】
図6にA部品43のプレス素材をコイル51から採取する際の採取方法の一例を示す。図6には、コイル51上にA部品43のプレス素材形状である余裕代展開形状48が示されている。A部品43のプレス素材の取得位置はコイル幅W1のコイル状板51上にマージン15mm間隔をあけて位置している。このとき送りピッチはP1である。
また、図7に、B部品45のプレス素材をコイル状板53から採取する際の採取方法の一例を示す。図7にはコイル53上にB部品のプレス素材形状である余裕代展開形状50が示されている。B部品45のプレス素材の取得位置はコイル幅W2のシート状板53上にマージン15mm間隔をあけて位置している。このとき送りピッチはP2である。
【0030】
なお、プレス素材の採取に用いる材料としてはコイル状のものに限られずシート状のものであってもよい。シート状のものを用いてB部品45のプレス素材を採取する方法が図8に示されている。
図8に示す例では、シート幅L1、シート長L2のシート状板55上に、B部品45のプレス素材の余裕代展開形状50をマージン15mm間隔をあけて配置している。
【0031】
板材重量計算処理部33は、部品ごとの板材寸法と板厚、材料密度から1部品を成形するために必要な板材重量を計算する。1部品を成形するために必要な板材重量は、1部品を成形するために必要な板材の体積に材料密度を乗じて求める。なお、1部品を成形するために必要な板材の体積は、材料投入の形式がコイル状の場合、コイル幅、板厚、送りピッチを乗じて求める。また、材料投入の形式がシート状の場合、シート幅、シート長、板厚を乗じて求める。
【0032】
合計材料費計算処理部35は、製品41ひとつを成形した場合の合計材料費を計算し、分割位置候補に対する合計材料費として計算結果を合計材料費記憶領域19に記憶する。合計材料費は、各板材重量と素材単位重量価格情報ファイル15から読み込んだ素材の単位重量あたりの価格情報を乗じて部品ごとの価格を求め、さらにひとつの製品41を構成する全部品の価格を合計したものである。
【0033】
合計材料費表示処理部37は合計材料費記憶領域19に記憶された分割位置候補に対する合計材料費を読み込み、表示装置3に表示する。
【0034】
次に、図2に示すフローチャートに基づいて最適分割位置決定方法の処理の流れを、図3に示す製品41について分割最適化をする場合を例に挙げて説明する。
【0035】
製品41には製品設計時においてあらかじめ図4に示す分割位置候補aと分割位置候補hとによって囲まれる分割可能領域が設定されている。なお、分割可能領域は操作者が設定してもよい。
製品41は、この分割可能領域内に任意に定める分割位置によって2つの部分に分割され、A部品43とB部品45となる。
ここで、分割可能領域について説明する。
製品41をA部品43とB部品45から構成した場合において、A部品43はB部品45よりも高強度が要求されるような場合、例えば図4においてA部品43となる部位の右端を極端に左端寄りにすることは製品41の強度上から許容できず、A部品43の右端となる位置の許容範囲が製品41の性能面から決まることになる。このように、製品41の性能面から分割位置には制約があり、この制約の範囲内となる分割位置の領域を分割可能領域という。
【0036】
まず、製品CAD情報読込処理は、製品CAD情報選択画面を表示装置3に表示し、操作者に製品CAD情報ファイル13を指定するように促す。操作者は、入力装置5を用いて対象とする製品41の製品CAD情報ファイル13を製品CAD情報選択画面上で指定する。製品CAD情報読込処理は、操作者が指定した製品CAD情報ファイル13から製品CAD情報を読み込み作業用データメモリ9の作業領域21へ展開し、表示装置3に3次元CAD図面を表示する(ステップS1)。
【0037】
次に、操作者は、分割位置候補入力受付処理部25に対し入力装置5を用いて分割位置候補を複数入力して設定する。分割位置候補入力受付処理部25は、入力された分割位置候補を受け付け、表示装置3に表示されている3次元CAD図面上に表示する。操作者はこの表示で入力が正しいかを確認し、誤りがあれば分割位置候補の修正や削除を行う。分割位置候補入力受付処理部25は分割位置候補を分割位置候補記憶領域17に記憶させる(ステップS3)。
【0038】
次に、展開形状計算処理部27は、分割位置候補のひとつと作業領域21へ展開された製品CAD情報に基づいて製品41を部品に分割し、それぞれの部品に対して展開形状を計算し、展開形状を作業領域21に記憶させる(ステップS5)。この展開形状の計算はいわゆる逆成形解析によって行うようにするのが好ましい。逆成形解析とは、成形された部品形状を展開したときの余裕代を含まない形状を数値解析によって求める解析手法である。
【0039】
次に、余裕代展開形状計算処理部29は、作業領域21に記憶された各展開形状に対して成形に必要な余裕代を付加した余裕代展開形状を計算し、余裕代展開形状を作業領域21に記憶させる(ステップS7)。
なお、余裕代の設定は例えば予め定めた条件で一義的に決定してもよいが、余裕代の精度を向上させるために、成形解析によって余裕代の微調整を行う処理を行うようにしてもよい。すなわち、展開形状に余裕代を付加して求めた余裕代展開形状に基づいて成形解析を行い、この成形解析によって求めた成形後の形状とCAD情報として与えられた元の形状とを比較して、差異がある場合には余裕代展開形状を修正する。
【0040】
次に、ネスティング計算処理部31はネスティング計算情報入力画面を表示装置3に表示する。操作者は入力装置5を用いてネスティング計算処理部31に、部品ごとに材料投入の形式とマージンを入力する(ステップS9)。ネスティング計算処理部31は、入力された情報と作業領域21に記憶された余裕代展開形状から、板材寸法、歩留り、さらに投入の形式がコイル状であれば送りピッチを計算し(ステップS11)、これらの計算結果を作業用表示装置3に表示し(ステップS13)、計算結果に満足するかどうか操作者に回答を求める(ステップS15)。操作者が表示内容を確認し、計算結果に満足するという旨の回答を入力装置5によって行うと、展開形状計算処理部27は前記計算結果を作業領域21に記憶させる。また、操作者が計算結果に満足しないという旨の回答を行うと、ネスティング計算処理部31は再びステップS9からステップ15の処理を行う。
なお、ステップS9〜ステップS11は本願発明における板材寸法計算ステップの実施形態に相当する。
【0041】
次に、板材重量計算処理部33は、作業領域21に記憶された各板材寸法と材料密度から部品ごとの板材重量を計算し、部品ごとの板材重量として作業領域21に記憶させる(ステップS17)。
【0042】
次に、合計材料費計算処理部35は、作業領域21に記憶された部品ごとの板材重量を合計して合計材料費を計算し(ステップS19)、分割位置候補に対する製品41全体の合計材料費として合計材料費記憶領域19に記憶させる(ステップS21)。
なお、ステップS17〜ステップ19は本願発明における合計材料費計算ステップの実施形態に相当する。
【0043】
次に、ステップS3で入力した分割位置候補のうち、未処理の分割位置候補があるかどうかを判断し(ステップS23)、未処理の分割位置候補があれば、この分割位置候補についてステップS5からステップS21までを繰り返し処理する。この結果、分割位置候補の数と同数の合計材料費が算出され、合計材料費記憶領域19に記憶される(ステップS21)。
【0044】
次に、合計材料費表示処理部37は合計材料費記憶領域19に記憶されたすべての分割位置候補に対する製品41全体の合計材料費を表示装置3に表示する(ステップS25)。表示例として、例えば図9に示すような分割位置候補と部品ごとの材料費、合計材料費等の関係を示した表であってもよいし、また図10に示すような分割位置候補と合計材料費の関係をグラフにしたようなものでもよい。なお、図9、図10の内容については後述の実施例で詳細に説明する。
操作者は表示内容を検討し、最小の合計材料費となる分割位置候補を最適分割位置として決定する(ステップS27)。なお、最適分割位置は最小の合計材料費となる分割位置として自動的に決定する分割位置決定部を設けるようにしてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の効果を確認するシミュレーションを行ったので、これについて説明する。
シミュレーションは、図3に示す製品41をA部品43とB部品45に分割する場合であって、素材となる板材として、A部品43は板厚1.2mmの冷延590MPa級の板材を、B部品45には板厚1.0mmの冷延590MPa級の板材を用いるという条件で行った。
また、材料投入の形式はコイル状とし、マージンは15mmとした。分割位置候補は図4に示すように8通りの分割位置候補を設定した。まず、case(a)は分割可能領域の一番右端に設定し、case(a)を基準としてcase(b)(左方30mm)、case(c)(左方50mm)、case(d)(左方80mm、傾き15°)、case(e)(左方110mm、傾き20°)、case(f)(左方140mm、傾き25°)、case(g)(左方170mm、傾き30°)、case(h)(左方200mm、傾き35°)を設定した。
【0046】
上記条件について、最適分割位置決定装置1で処理し、図2のステップ25の処理にあたる各合計材料費計算結果の表示を図9に示す。本発明例では、冷延590MPa級鋼板の単価を、板厚1.0mm、板厚1.2mmともα円/kgとする。
図9の分割位置候補case(a)についてみると、A部品43の材料費が1.405α円、B部品45の材料費が1.622α円であり、合計材料費は3.027α円となっている。分割位置候補case(a)よりA部品43の形状が小さくなるように入力した分割位置候補case(b)では、A部品43の材料費が1.307α円、B部品45の材料費が1.658α円であり、合計材料費は2.965α円となっている。case(a)とcase(b)を比較すると、製品41あたり合計材料費がcase(b)がcase(a)よりも0.062α円安くなっている。これは、case(b)の方がcase(a)よりも板厚が厚い板材から成形されるA部品43占める割合が減り、かつネスティング計算においてA部品43、B部品45のプレス素材の採取も良好に行うことができるということを示している。
図9に示したcase(c)〜case(h)について合計材料費を見ると、case(f)の合計材料費が2.799α円となっており、case(a)〜case(h)の全ての合計材料費の中で最も安価であり、case(f)の分割位置が今回入力した分割位置候補の中で最適な分割位置であることがわかる。操作者はcase(f)を最適分割位置と決定することができる。
【0047】
図10は図9の表をグラフ化したものであり、縦軸を合計材料費(円)としている。図10のグラフを見ると、分割位置候補をcase(a)から左側にずらしていくにつれ合計材料費が少なくなっていき、case(f)を境にわずかに合計材料費が多くなっていることが読み取れる。グラフを曲線で近似してみるとcase(e)とcase(f)の間にcase(f)よりも合計材料費が安価になるような分割位置が存在する可能性があることがわかる。このような場合、case(e)とcase(f)の間にある分割位置を新たな候補として、最適分割位置決定装置1に入力して処理させ、当該分割位置における合計材料費を求めてcase(f)の合計材料費と比較するようにしてもよい。
なお、鋼板の単価は、A部品とB部品が異なっても全く問題なく、上述の効果が確認できる。
【0048】
上記の実施例に示す通り、本発明の最適分割位置決定装置1を用いて最適分割位置決定方法を実施することにより、薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品において、性能面の要求を満たしつつ、コストを低減できる最適分割位置を決定することができ、より安価な製品の製造を可能にすることができる。
【0049】
なお、上述した実施の形態および実施例では、操作者は分割位置候補を一度に複数入力して、入力された複数分割候補について順次合計材料費を計算する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、分割位置候補の入力ごとにその都度合計材料費を計算し、合計材料費を計算した後に次の分割位置候補を入力するようにしてもよい。
このようにした場合の最適分割位置決定装置のフローチャートを図11に示す。
図11においては、図2のステップと同一のステップには同一の符号が付してあり、ステップ31およびステップ33以外は図2のステップと同様の処理を行うものである。
つまり、図11に示したフローチャートでは、図2のフローチャートのステップS3に代えてステップ31を行い、ステップ23に代えてステップ33の処理を行う。
【0050】
ステップS31では、最適分割位置決定装置1は単数で分割位置候補を受け付ける。
ステップS33では、別の分割位置候補を入力するかどうかを操作者に求め、操作者が分割位置候補を追加で入力した場合にはステップS31に戻り、ステップS5〜ステップS33の処理を行う。ステップS33において、分割位置候補の新たな入力がないと判断された場合には、図2のフローチャートと同様に各合計材料費の計算結果を表する(S25)。
【0051】
また、上記の実施の形態および実施例では、分割可能領域が1つの場合を例示して説明したが、分割可能領域は複数でもよい。例えば分割可能領域が2つある場合、製品は3つの部品から構成される。
このように分割可能領域が複数存在する場合、ステップS3で分割位置候補を入力する際、各分割可能領域に対して複数の分割位置候補を入力し、各分割可能領域から一つの分割位置候補を選択して全ての分割可能領域から選択された分割位置候補を組み合わせた一組の分割位置候補ごとに合計材料費を計算するようにすればよい。この場合、合計材料費は、分割位置候補の組み合わせの数と同数の値が算出されることになる。つまり、2つの分割可能領域をそれぞれ分割可能領域イ、分割可能領域ロとし、分割可能領域イに対して分割位置候補を3通り設定し、分割可能領域ロに対して分割位置候補を2通り設定した場合、分割位置候補の組み合わせは計6通りとなり、合計材料費もこれに対応して6通り算出される。
【0052】
また、上記の実施の形態および実施例では、分割位置候補入力受付処理部25では、分割可能領域に対して複数の分割位置候補を操作者が入力して設定する場合を例示したが、分割可能領域が設定されれば、これ対してあらかじめ定めたピッチによって分割位置候補を自動的に設定するようにしてもよい。この場合、分割位置候補入力受付処理部25は分割位置候補自動設定処理部となる。
【符号の説明】
【0053】
1 最適分割位置決定装置
3 表示装置
5 入力装置
7 記憶装置
9 作業用データメモリ
11 演算処理部
13 製品CAD情報ファイル
15 素材単位重量価格情報ファイル
17 分割位置候補記憶領域
19 合計材料費記憶領域
21 作業領域
23 製品CAD情報読込処理部
25 分割位置候補入力受付処理部
27 展開形状計算処理部
29 余裕代展開形状計算処理部
31 ネスティング計算処理部
33 板材重量計算処理部
35 合計材料費計算処理部
37 合計材料費表示処理部
41 製品
43 A部品
45 B部品
47 展開形状
48 余裕代展開形状
49 展開形状
50 余裕代展開形状
51 コイル状板
53 コイル状板
55 シート状板
W1 コイル幅
P1 送りピッチ
W2 コイル幅
P2 送りピッチ
L1 シート幅
L2 シート長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する方法であって、
製品形状のCAD情報から製品形状CAD情報を読み込むステップと、該製品CAD情報における分割可能領域内において製品の分割位置候補を複数設定する分割位置候補設定ステップと、該複数の分割位置候補のひとつで製品を分割した場合に分割位置によって分割される各部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算ステップと、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を設けた余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算ステップと、各余裕代展開形状を含み面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算する板材寸法計算ステップと、板材寸法及び板材の価格情報に基づいて前記製品を構成する全部品の合計材料費を計算する合計材料費計算ステップと、分割位置候補を変更して前記展開形状計算ステップから合計材料費計算ステップまでの各ステップを繰り返すステップと、前記合計材料費計算ステップで計算された合計材料費の中から合計材料費が最小になる分割位置を選択して最適分割位置として決定する分割位置決定ステップとを備えたことを特徴とする複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定方法。
【請求項2】
薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する方法であって、
製品形状のCAD情報から製品形状CAD情報を読み込むステップと、該製品CAD情報における分割可能領域内において製品の分割位置候補を設定する分割位置候補設定ステップと、該分割位置候補で製品を分割した場合に分割位置によって分割される各部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算ステップと、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を設けた余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算ステップと、各余裕代展開形状を含み面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算する板材寸法計算ステップと、板材寸法及び板材の価格情報に基づいて前記製品を構成する全部品の合計材料費を計算する合計材料費計算ステップと、他の分割位置候補を設定して前記展開形状計算ステップから合計材料費計算ステップまでの各ステップを繰り返すステップと、前記合計材料費計算ステップで計算された合計材料費の中から合計材料費が最小になる分割位置を選択して最適分割位置として決定する分割位置決定ステップとを備えたことを特徴とする複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定方法。
【請求項3】
前記展開形状計算ステップにおける展開形状の計算は、逆成形解析によって行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定方法。
【請求項4】
前記余裕代展開形状計算ステップは、余裕代展開形状に基づいて成形解析を行い、該成形解析で得られた形状と製品形状CAD情報の形状を比較して余裕代展開形状を調整するステップを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定方法。
【請求項5】
薄板をプレス成形して形成された複数の部品を接合して構成される製品における、該製品における最適な分割位置を決定する複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置であって、
製品形状を示す製品形状CAD情報を記憶する製品CAD情報記憶部と、該製品CAD情報における分割可能領域内において製品の分割位置候補を設定する分割位置候補設定部と、設定された分割位置候補で製品を分割した場合に分割位置によって分割される各部品のそれぞれについて展開形状を計算する展開形状計算処理部と、各展開形状にプレス成形に必要な余裕代を設けた余裕代展開形状を計算する余裕代展開形状計算処理部と、各余裕代展開形状を含み面積が最小となるように素材となる板材寸法を計算する板材寸法計算処理部と、板材寸法及び板材の価格情報に基づいて前記製品を構成する全部品の合計材料費を計算する合計材料費計算処理部と、前記合計材料費計算処理部で計算された合計材料費の中から合計材料費が最小になる分割位置を選択して最適分割位置として決定する分割位置決定部とを備えたことを特徴とする複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置。
【請求項6】
前記展開形状計算処理部における展開形状の計算は、逆成形解析によって行うことを特徴とする請求項5に記載の複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置。
【請求項7】
前記余裕代展開形状計算処理部は、余裕代展開形状に基づいて成形解析を行い、該成形解析で得られた形状と製品形状CAD情報の形状を比較して余裕代展開形状を調整する機能を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の複数部品からなるプレス成形品の最適分割位置決定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−25543(P2013−25543A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159299(P2011−159299)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】