説明

複数金属錯体含有化合物及び金属錯体

【課題】サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成することを可能にする新規な複数金属錯体含有化合物、及びこの化合物の合成のために用いることができる金属錯体を提供する。
【解決手段】1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を、2又はそれよりも多く有する、複数金属錯体含有化合物であって、2又はそれよりも多くの前記金属錯体が、その配位子の一部を置換している多座配位子を介して相互に結合されており、且つ複数金属錯体含有化合物が全体で、2〜1000の金属原子を有する、複数金属錯体含有化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数金属錯体含有化合物及び金属錯体、それらの製造方法、並びにそれらの使用方法に関する。より特に本発明は、これらの複数金属錯体含有化合物及び金属錯体を用いて、クラスターサイズが制御された金属粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の研究によれば、制御されたサイズを有する金属クラスターは、触媒活性等の化学的性質及び磁性等の物理的性質に関して、バルクの金属とは異なる性質を有することが分かっている。
【0003】
このクラスターの特異な性質を利用するために、サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成する方法が必要とされている。尚、サイズを制御したクラスターを得るために現在知られている方法としては、真空中において金属ターゲットを蒸散させて様々なサイズのクラスターを生成させ、このようにして得たクラスターを、マススペクトルの原理を用いてクラスターサイズを分離する方法がある。しかしながらこの方法では、サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成することはできない。
【0004】
クラスターの特異な性質に関して、例えば非特許文献1では、この文献から転記して図1に示したように、気相中における白金触媒とメタン分子との反応性が、白金クラスターサイズに大きく影響されること、この反応のための最適なクラスターサイズがあることを報告している。
【0005】
貴金属による触媒性能を用いる例としては、自動車用エンジン等の内燃機関から排出される排ガスの浄化を挙げることができる。この排ガスの浄化では、排ガス中に含有される一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)等を、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)等の貴金属を主成分とする触媒成分によって、二酸化炭素、窒素、酸素に転化させている。この排ガス浄化の用途では一般に、貴金属である触媒成分をアルミナ等の酸化物担体に担持して、排ガスと触媒成分との大きい接触面積を与えるようにしている。
【0006】
触媒成分である貴金属の酸化物担体への担持は一般に、貴金属の硝酸塩又は単一の貴金属原子を有する貴金属錯体の溶液を酸化物担体に含浸させて酸化物担体の表面に貴金属化合物を分散させ、次いで溶液を含浸させた担体を乾燥及び焼成することによって行っている。このような方法では、意図したサイズ又は原子数を有する貴金属クラスターを得ることは困難である。
【0007】
こうした排ガス浄化用触媒においても、排ガス浄化性能をさらに向上させために、貴金属をクラスターの状態で担持させることが提案されている。例えば特許文献1では、カルボニル基を配位子とする金属クラスター錯体を用いると、触媒金属を超微粒子の状態で直接に担体に担持できるとしている。
【0008】
また、特許文献2では、カーボンナノチューブ等の中空の炭素材料の細孔中に貴金属を導入し、この貴金属が導入された炭素材料を酸化物担体に固定し、焼成することによって、クラスターサイズが制御された貴金属触媒を製造することを開示している。
【0009】
更に特許文献3では、ロジウムイオン及び白金イオンを含有する溶液に還元剤を添加し、ロジウムと白金とが固溶した合金からなる金属クラスターを得ることを開示している。
【0010】
尚、金属錯体に関しては、多座配位子を用いて無数の金属原子を有するポリマーを得ることが知られている。例えば特許文献4では、ジカルボン酸を用いて、巨大三次元構造を有するジカルボン酸金属錯体ポリマーを得ている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−285644号公報
【特許文献2】特開2003−181288号公報
【特許文献3】特開平9−253490号公報
【特許文献4】特開2000−109485号公報
【非特許文献1】”Adsorption and Reaction of Methanol Molecule on NickelCluster Ions, Nin+ (n=3−11).”, M. Ichihashi, T. Hanmura, R.T. Yadav andT. Kondow, J. Phys. Chem. A, 104, 11885 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成することを可能にする新規な複数金属錯体含有化合物、及びこの化合物の合成のために用いることができる金属錯体を提供する。また、これらの複数金属錯体含有化合物及び錯体を製造するための方法、並びにこれらの複数金属錯体含有化合物及び錯体の使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複数金属錯体含有化合物は、1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を、2又はそれよりも多く有する、複数金属錯体含有化合物であって、2又はそれよりも多くの金属錯体が、その配位子の一部を置換している多座配位子を介して相互に結合されており、且つ複数金属錯体含有化合物が全体で、2〜1000の金属原子を有する、複数金属錯体含有化合物である。
【0014】
本発明の新規な複数金属錯体含有化合物によれば、この化合物の配位子を焼成等によって除去したときに、この化合物に含有される数の金属原子を有する金属又は金属酸化物クラスターを得ることができる。
【0015】
2〜1000の金属原子を有する金属又は金属酸化物クラスターを製造する本発明の方法は、(a)本発明の複数金属錯体含有化合物を含有する溶液を提供すること、及び(b)この溶液を乾燥及び焼成することを含む。
【0016】
この方法によれば、2〜1000の金属原子を有する金属又は金属酸化物クラスターを得ることができる。
【0017】
本発明の複数金属錯体含有化合物を製造する本発明の方法は、(a)金属錯体を提供すること、(b)多座配位子又は多座配位源を提供すること、及び(c)金属錯体と配位子源又は多座配位源とを溶媒中で混合することを含む。
【0018】
この方法によれば、金属錯体に配位している配位子のうちの少なくとも一部のみを多座配位子で置換することによって、制御された金属原子数を有する複数金属錯体含有化合物を得ることができる。尚、本明細書の記載において、「(多座)配位子源」は、溶媒に溶解させたときに(多座)配位子を提供する化合物を意味する。
【0019】
本発明の金属錯体は、1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体であって、配位子の少なくとも1つが、金属原子に配位していない下記の群から選択される非配位官能基を有する、金属錯体である:
−COOH、−COOR、−CR−OH、−NR{C(=O)R}、−NR、−CR=N−R、−CO−R、−PR、−P(=O)R、−P(OR)(OR)、−S(=O)、−S(−O)R、−SR、−CR−SH、−CR−SR10、及び−CR=R10(R〜R10はそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0020】
本発明の金属錯体によれば、金属原子に配位していない官能基の特性を利用することができる。具体的には、これらの官能基を用いて、金属錯体を基材に安定的に吸着させること、金属錯体同士を結合させること、金属錯体と他の化合物とを結合させること等ができる。
【0021】
本発明の金属錯体を用いる排ガス浄化触媒の製造方法は、(a)本発明の金属錯体を含有する溶液を提供すること、(b)この溶液を、触媒担体に含浸させること、及び(c)この溶液を乾燥及び焼成することを含む。
【0022】
この方法によれば、金属原子に配位していない官能基と触媒担体との親和性によって金属錯体を触媒担体に吸着させ、それによって金属錯体を焼成等したときに、金属錯体に含有される金属を高分散に触媒担体に担持させることができる。
【0023】
非配位炭素−炭素二重結合を有する配位子を有する本発明の金属錯体を用いて、本発明の複数金属錯体含有化合物を製造する方法は、(a)非配位炭素−炭素二重結合を有する配位子を有する本発明の金属錯体を提供すること、及び(b)金属錯体を溶媒に溶解させ、炭素−炭素二重結合のクロスメタセシス反応によって、非配位炭素−炭素二重結合のアルキリデン基を置換することを含む。
【0024】
この方法によれば、炭素−炭素二重結合(オレフィン)のクロスメタセシス反応によって、非配位炭素−炭素二重結合を有する本発明の金属錯体から、本発明の本発明の複数金属錯体含有化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
○複数金属錯体含有化合物
本発明の複数金属錯体含有化合物は、1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を、2又はそれよりも多く有する、複数金属錯体含有化合物であって、2又はそれよりも多くの金属錯体が、その配位子の一部を置換している多座配位子を介して相互に結合されており、且つ複数金属錯体含有化合物が全体で、2〜1000、特に2〜100、例えば2〜50、2〜20又は2〜10の金属原子を有する。
【0026】
(金属錯体の配位子)
本発明の複数金属錯体含有化合物の金属錯体の配位子は、得られる複数金属錯体含有化合物の物性、結合される金属錯体間の立体障害等を考慮して任意に選択することができ、単座配位子であっても、キレート配位子のような多座配位子であってもよい。
【0027】
この金属錯体の配位子は、下記の群より選択される1つの官能基が結合している水素基、又は下記の群より選択される1又は複数の官能基が結合している有機基、特に下記の群より選択される特に1又は複数の同じ官能基が結合している有機基であってよい:
−COO(カルボキシ基)、−CR−O(アルコキシ基)、−NR1−(アミド基)、−NR(アミン基)、−CR=N−R(イミン基)、−CO−R(カルボニル基)、−PR(ホスフィン基)、−P(=O)R(ホスフィンオキシド基)、−P(OR)(OR)(ホスファイト基)、−S(=O)(スルホン基)、−S(−O)R(スルホキシド基)、−SR(スルフィド基)、及び−CR−S(チオラト基);特に−COO(カルボキシ基)、−CR−O(アルコキシ基)、−NR1−(アミド基)、及び−NR(アミン基)(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0028】
ここで官能基が結合している有機基は、ヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基、特にC〜C30(すなわち炭素原子数が1〜30(以下同様))の炭化水素基であってよい。特にこの有機基は、C〜C30、特にC〜C10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、一価の脂環式基であってよい。より特にこの有機基は、C〜C、特にC〜Cのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であってよい。
【0029】
及びRはそれぞれ独立に、水素、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基、特にC〜C30の炭化水素基であってよい。特にR及びRは、水素、又はC〜C30、特にC〜C10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、一価の脂環式基であってよい。より特にR及びRは、水素、又はC〜C、特にC〜Cのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基であってよい。
【0030】
すなわち金属錯体の配位子としては、カルボン酸配位子(R−COO)、アルコキシ配位子(R−CR−O)、アミド配位子(R−NR1−)、アミン配位子(R−NR)、イミン配位子(R−CR=N−R)、カルボニル配位子(R−CO−R)、ホスフィン配位子(R−PR)、ホスフィンオキシド配位子(R−P(=O)R)、ホスファイト配位子(R−P(OR)(OR))、スルホン配位子(R−S(=O))、スルホキシド配位子(R−S(−O)R)、スルフィド配位子(R−SR)、及びチオラト配位子(R−CR−S)(Rは水素又は有機基、R及びRは上記の通り)を挙げることができる。
【0031】
具体的なカルボン酸配位子としては、ギ酸(ホルマト)配位子、酢酸(アセタト)配位子、プロピオン酸(プロピオナト)配位子、エチレンジアミン四酢酸配位子を挙げることができる。
【0032】
具体的なアルコキシ配位子としては、メタノール(メトキシ)配位子、エタノール(エトキシ)配位子、プロパノール(プロポキシ)配位子、ブタノール(ブトキシ)配位子、ペンタノール(ペントキシ)配位子、ドデカノール(ドデシルオキシ)配位子、フェノール(フェノキシ)配位子を挙げることができる。
【0033】
具体的なアミド配位子としては、ジメチルアミド配位子、ジエチルアミド配位子、ジn−プロピルアミド配位子、ジイソプロピルアミド配位子、ジn−ブチルアミド配位子、ジt−ブチルアミド配位子、ニコチンアミドを挙げることができる。
【0034】
具体的なアミン配位子としては、メチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリブチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメチレンジアミン、ピペリジン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンジアミンを挙げることができる。
【0035】
具体的なイミン配位子としては、ジイミン、エチレンイミン、エチレンイミン、プロピレンイミン、ヘキサメチレンイミン、ベンゾフェノンイミン、メチルエチルケトンイミン、ピリジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾールを挙げることができる。
【0036】
具体的なカルボニル配位子としては、一酸化炭素、アセトン、べンゾフェノン、アセチルアセトン、アセナフトキノン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、ジベンゾイルメタンを挙げることができる。
【0037】
具体的なホスフィン配位子としては、水素化リン、メチルホスフィン、ジメチルホスフィン、トリメチルホスフィン、ジホスフィンを挙げることができる。
【0038】
具体的なホスフィンオキシド配位子としては、トリブチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリ−n−オクチルホスフィンオキシドを挙げることができる。
【0039】
具体的なホスファイト配位子としては、トリフェニルホスファイト、トリトリルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリエチルホスファイトを挙げることができる。
【0040】
具体的なスルホン配位子としては、硫化水素、ジメチルスルホン、ジブチルスルホンを挙げることができる。
【0041】
具体的なスルホキシド配位子としては、ジメチルスルホキシド配位子、ジブチルスルホキシド配位子を挙げることができる。
【0042】
具体的なスルフィド配位子としては、エチルスルフィド、ブチルスルフィド等を挙げることができる。
【0043】
具体的なチオラト配位子としては、メタンチオラト配位子、ベンゼンチオラト配位子を挙げることができる。
【0044】
(多座配位子)
2又はそれよりも多くの金属錯体の配位子の一部を置換してこれらの金属錯体を相互に結合している多座配位子としては、このような役割を果たせる任意の多座配位子を用いることができる。この多座配位子は、金属錯体間の立体的障害による複数金属錯体含有化合物の不安定化を避けるために、ある程度の長さを有することが好ましいと考えられる。また特に本発明の複数金属錯体含有化合物を焼成等して、この複数金属錯体含有化合物に含有される数の金属原子を有するクラスターを得る場合、この多座配位子が過度に長すぎることは、複数金属錯体含有化合物から単一のクラスターを得ることを困難にする可能性がある。
【0045】
金属錯体の配位子の一部を置換しているこの多座配位子は、下記の式を有することができる:
(L)−R−(L
(Rは、結合、又は二価の有機基、且つ
及びLは、同一であっても異なっていてもよく、下記の官能基の群より選択される:
−COO(カルボキシ基)、−CR−O(アルコキシ基)、−NR4−(アミド基)、−NR(アミン基)、−CR=N−R(イミン基)、−CO−R(カルボニル基)、−PR(ホスフィン基)、−P(=O)R(ホスフィンオキシド基)、−P(OR)(OR)(ホスファイト基)、−S(=O)(スルホン基)、−S(−O)R(スルホキシド基)、−SR(スルフィド基)、及び−CR−S(チオラト基)(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基))。
【0046】
ここで特に、L及びLは、同一であり、下記の群より選択される官能基であってよい:
−COO(カルボキシ基)、−CR−O(アルコキシ基)、−NR4−(アミド基)、−NR(アミン基)(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0047】
は、結合、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の二価の炭化水素基、特にC〜C30の二価の炭化水素基であってよい。特にRは、C〜C30、特にC〜C10のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基、二価の脂環式基であってよい。
【0048】
及びRは、R及びRに関して記載した有機基を挙げることができる。
【0049】
(金属錯体の配位子及び多座配位子の組み合わせ)
金属錯体の配位子と、金属錯体の配位子の一部を置換している多座配位子とは同じ官能基を有することができ、例えば金属錯体の配位子及び多座配位子が共に、カルボキシ基、アルコキシ基、アミド基、又はアミン基を有することができる。
【0050】
(金属錯体の核となる金属)
金属錯体の核となる金属は、典型金属又は遷移金属のいずれでもよい。この金属は、特に遷移金属、より特に4〜11族の遷移金属、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金からなる群より選択される金属であってよい。
【0051】
また本発明の複数金属錯体含有化合物を用いて触媒を提供する場合には、この金属として、触媒の用途に有益な金属、例えば鉄族元素(鉄、コバルト、ニッケル)、銅、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金)、金、銀を用いることができる。
【0052】
(金属錯体)
本発明の複数金属錯体含有化合物に関して、金属錯体は、1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる任意の金属錯体でよい。すなわちこの金属錯体は、多核錯体、例えば2〜10、特に2〜5の金属原子を有する錯体であってよい。
【0053】
この金属錯体としては、任意の金属錯体を挙げることができる。具体的な金属錯体としては例えば、[Pt(CHCOO)]、[Pt(acac)](「acac」はアセチルアセトナト配位子)、[Pt(CHCHNH]Cl、[Rh(CCOO)]、[Rh(CHCOO)]、[Rh(OOCCCOO)]、[Pd(acac)]、[Ni(acac)]、[Cu(C1123COO)、[Cu(OOCCCOO)]、[Cu(OOCCCH]、[Mo(OOCCCOO)]、[Mo(CHCOO)]、[N(n−C][FeIIFeIII(ox)](「ox」はシュウ酸配位子)を挙げることができる。
【0054】
(複数金属錯体含有化合物がカルボン酸配位子を有する態様)
本発明の複数金属錯体含有化合物では、金属錯体が、カルボン酸配位子、特に酢酸配位子を有する金属錯体、例えばオクタアセタト四白金([Pt(μ−CHCOO)])であり、且つ金属錯体の配位子の一部を置換している多座配位子が、ジカルボン酸配位子であることができる。
【0055】
ここで、ジカルボン酸配位子は、下記の式を有することができる:
OOC−R−COO
(Rは、C〜C30、特にC〜C10のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基)。
【0056】
は、p−フェニレン基、及び下記の式のアルケニレン基からなる群より選択することができる:
−(CHC=C(CH
(nは1〜5の整数)。
【0057】
(金属錯体がオクタアセタト四白金である態様)
本発明の複数金属錯体含有化合物は、下記の式を有することができる:
【化1】

(Rは、C〜C30、特にC〜C10のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基)。
【0058】
は、p−フェニレン基、及び下記の式のアルケニレン基からなる群より選択することができる:
−(CHC=C(CH
(nは1〜5の整数)。
【0059】
○金属又は金属酸化物クラスターの製造方法
2〜1000の金属原子を有する金属又は金属酸化物クラスターを製造する本発明の方法は、(a)本発明の複数金属錯体含有化合物を含有する溶液を提供すること、及び(b)この溶液を乾燥及び焼成することを含む。
【0060】
複数金属錯体含有化合物を含有する溶液の乾燥及び焼成は、金属又は金属酸化物クラスターを得るのに十分な温度及び時間で行うことができ、例えば120〜250℃の温度での1〜2時間にわたる焼成を行い、その後で400〜600℃での1〜3時間にわたる焼成を行うことができる。またこの方法において使用する溶液の溶媒としては、本発明の複数金属錯体含有化合物を安定に維持できる任意の溶媒、例えば水性溶媒、又はジクロロエタン等の有機溶媒を用いることができる。
【0061】
この方法では、工程(b)で溶液を乾燥及び焼成する前に、溶液を、多孔質担体に含浸させることを更に含むことができる。
【0062】
この方法を用いて触媒、特に排ガス浄化触媒を製造する場合、多孔質担体としては、多孔質金属酸化物担体、例えばアルミナ、セリア、ジルコニア、シリカ、チタニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択される多孔質金属酸化物担体を用いることができる。
【0063】
○本発明の複数金属錯体含有化合物の製造方法
本発明の複数金属錯体含有化合物を製造する本発明の方法は、(a)金属錯体を提供すること、(b)多座配位子又は多座配位源を提供すること、及び(c)金属錯体と配位子源又は多座配位源とを溶媒中で混合することを含む。
【0064】
この方法において用いる多座配位子は、原料として用いる金属錯体に配位している配位子を置換することができるように選択する。従って一般に、原料として用いる金属錯体に配位している配位子よりも配位力が強い多座配位子、特に原料として用いる金属錯体に配位している配位子よりも配位子が強いこの配位子と同じ官能基を有する多座配位子を用いることができる。
【0065】
この方法において用いる多座配位子は、この多座配位子による金属錯体の配位子の置換を促進するために、比較的多量に用いることもできる。但し、この方法において用いる多座配位子の量は一般に、金属錯体に配位している配位子の全てを置換するのに必要な量よりも少ない量、特に金属錯体に配位している配位子の全てを置換するのに必要な量の1/2以下、1/4以下、1/8以下の量とすることが、制御された数の金属錯体を相互に結合させるために好ましい。
【0066】
この方法において使用する溶媒としては、本発明の複数金属錯体含有化合物を安定に維持できる任意の溶媒、例えば水性溶媒、又はジクロロエタン等の有機溶媒を用いることができる。
【0067】
○金属錯体
本発明の金属錯体は、1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体であって、配位子の少なくとも1つが、金属原子に配位していない下記の群から選択される非配位官能基を有する:
−COOH(カルボキシ基)、−COOR(エステル基)、−CR−OH(アルコール基)、−NR{C(=O)R}(アミド基)、−NR(アミン基)、−CR=N−R(イミン基)、−CO−R(カルボニル基)、−PR(ホスフィン基)、−P(=O)R(ホスフィンオキシド基)、−P(OR)(OR)(ホスファイト基)、−S(=O)(スルホン基)、−S(−O)R(スルホキシド基)、−SR(スルフィド基)、−CR−SH(チオール基)、−CR−SR10(チオエーテル基)、及び−CR=R10(エチレン結合)(R〜R10はそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0068】
〜R10としてはそれぞれ独立に、R及びRに関して記載した有機基を挙げることができる。
【0069】
本発明の金属錯体の配位子は、金属原子に配位している下記の官能基が結合している水素基、又は金属原子に配位している下記の官能基が1又は複数個結合している有機基であってよい:
−COO、−CR1112−O、−NR11−、−NR1112、−CR11=N−R12、−CO−R11、−PR1112、−P(=O)R1112、−P(OR11)(OR12)、−S(=O)11、−S(−O)R11、−SR11、及び−CR1112−S(R11及びR12はそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【0070】
本発明の金属錯体の配位子としては、本発明の複数金属錯体含有化合物の金属錯体に関して挙げた配位子を挙げることができる。従ってR11及びR12としてはそれぞれ独立に、R及びRに関して記載した有機基を挙げることができる。
【0071】
本発明の金属錯体の配位子はそれぞれ、金属原子に配位している官能基を1つのみ有することができる。
【0072】
(本発明の金属錯体が非配位官能基としてカルボキシ基を有する態様)
本発明の金属錯体が非配位官能基としてカルボキシ基を有する場合、本発明の金属錯体の配位子は、金属原子に配位しているカルボキシ基を有することができる。例えば、非配位官能基を有する配位子がジカルボン酸配位子であり、且つ非配位官能基を有さない配位子が酢酸配位子であることができる。
【0073】
従って本発明の金属錯体は、ジカルボン酸配位子で少なくとも1つの酢酸配位子(アセタト配位子)が置換されているオクタアセタト四白金([Pt(CHCOO)])であってよい。
【0074】
ここで、ジカルボン酸配位子は、下記の式を有することができる:
OOC−R13−COOH
(R13は、C〜C30、特にC〜C10のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基)。
【0075】
(本発明の金属錯体がジカルボン酸置換オクタアセタト四白金である態様)
本発明の金属錯体は、下記の式を有することができる:
【化2】

(R14は、C〜C30、特にC〜C10のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基)。
【0076】
14は例えば、p−フェニレン基であってよい。
【0077】
(本発明の金属錯体が非配位官能基として炭素−炭素二重結合を有する態様)
本発明の金属錯体が非配位官能基として炭素−炭素二重結合を有する場合、本発明の金属錯体の配位子は、金属原子に配位しているカルボキシ基を有することができる。例えば、非配位官能基を有する配位子が炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸配位子、すなわち不飽和カルボン酸であり、且つ非配位官能基を有さない配位子が酢酸配位子であることができる。
【0078】
従って本発明の金属錯体は、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸配位子で少なくとも1つの酢酸配位子が置換されているオクタアセタト四白金([Pt(CHCOO)])であってよい。
【0079】
炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸配位子は、下記の式を有することができる:
OOC−R15
(R15は、C〜C30、特にC〜C10のアルケニル基)。
【0080】
(本発明の金属錯体が炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸で置換されたオクタアセタト四白金である態様)
本発明の金属錯体は下記の式を有することができる:
【化3】

(R16は、直鎖又は分岐鎖のC〜C30、特にC〜C10のアルケニル基)。
【0081】
○本発明の金属錯体を用いる排ガス浄化触媒の製造方法
本発明の金属錯体を用いる本発明の排ガス浄化触媒の製造方法は、(a)本発明の金属錯体、特に核として触媒として用いることが好ましい金属原子を有する金属錯体を含有する溶液を提供すること、(b)この溶液を、触媒担体に含浸させること、及び(c)この溶液を乾燥及び焼成することを含む。
【0082】
触媒担体は、多孔質金属酸化物担体、例えばアルミナ、セリア、ジルコニア、シリカ、チタニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択される多孔質金属酸化物担体であってよい。
【0083】
金属錯体を含有する溶液の乾燥及び焼成は、金属又は金属酸化物クラスターを得るのに十分な温度及び時間で行うことができ、例えば120〜250℃の温度での1〜2時間にわたる焼成を行い、その後で400〜600℃での1〜3時間にわたる焼成を行うことができる。またこの方法において使用する溶液の溶媒としては、本発明の金属錯体を安定に維持できる任意の溶媒、例えば水性溶媒、又はジクロロエタン等の有機溶媒を用いることができる。
【0084】
○炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸配位子を有する本発明の金属錯体を用いる複数金属錯体含有化合物の製造方法
本発明の金属錯体を用いて本発明複数金属錯体含有化合物を製造する本発明方法は、(a)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸配位子を有する本発明の金属錯体を提供すること、(b)金属錯体を溶媒に溶解させ、炭素−炭素二重結合のクロスメタセシス反応によって、非配位炭素−炭素二重結合のアルキリデン基を置換することを含む。
【0085】
この炭素−炭素二重結合(オレフィン)のクロスメタセシス反応は、下記のような反応である:
C=CR + RC=CR
→ RC=CR + RC=CR
(R〜Rは独立に、アルキル基等の有機基)
【0086】
このクロスメタセシス反応及びこの反応において使用される触媒については一般に知られており、例えば特開2004−123925号公報、特開2004−043396号公報、特表2004−510699号公報を参照することができる。またクロスメタセシス反応のための触媒としては、第4世代のGrubss触媒を用いると、穏やかな条件で反応を進行させることができる点で好ましい。
【0087】
以下では実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は単に説明のためのものであり、本発明をいかようにも限定するものではない。
【実施例】
【0088】
比較例
[Pt(CHCOO)]の合成:
化合物の合成は、実験化学講座第4版17巻第452ページ(丸善1991年)に記載の手順で行った。すなわち、下記のようにして行った:
PtCl5gを20mlの温水に溶かし、氷酢酸150mlを加えた。このとき、KPtClが沈殿してくるが、かまわず酢酸銀8gを加えた。このスラリー状のものをスターラーでかき混ぜながら3〜4時間還流した。放冷後、黒色の沈殿をろ過して分離する。ロータリーエバポレーターを用い、褐色の沈殿をできるだけ濃縮することにより酢酸を除いた。この濃縮液にアセトニトリル50mlを加え放置した。生成してくる沈殿をろ過して分離し、再びろ液を濃縮した。この濃縮液に対して同様な操作を3回繰り返した。最後の濃縮液にジクロロメタン20mlを加え、シリカゲルカラムに吸着させた。ジクロロメタン−アセトニトリル(5:1)で溶離し、赤色の抽出液を集め、濃縮し結晶を得た。
【0089】
担持:
酸化マグネシウム(MgO)10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに16.1mgの[Pt(CHCOO)]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて10分撹拌した。撹拌を止めるとMgOが沈殿し、上澄み液が薄赤色になった(すなわち、[Pt(CHCOO)]はMgOに吸着しなかった)。この混合溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾燥した。乾燥した粉末を400℃で1時間半、空気中で焼成した。Ptの担持濃度は0.1wt%であった。
【0090】
クラスターのTEM観察:
上記の方法で調製したMgO上のPtの様子をTEMにて観察した。HitachiのHD−2000型電子顕微鏡を用い、加速電圧200kVでSTEM像を観察した。比較例のSTEM像を図1に示す。この像中には、白金4原子クラスターの構造から推定されるスポット径0.6nmのPt粒子が確認でき、この手法で白金4原子クラスターを酸化物担体上に担持できる事が示された。
【0091】
実施例2
[Pt(CHCOO){o−C(COO)(COOH)}]の合成:
この化合物の合成は以下のスキームで行った。
【0092】
【化4】

【0093】
具体的には、下記のようにしてこの化合物を合成した:
アルゴンで置換した50mlのシュレンクに、比較例の方法で合成した[Pt(CHCOO)](460mg,369μmol)と、o−C(COH)(1.50g,9.00mmol)とを加えた後に、10mlのCHCl、10mlのMeOHをこの順で加えたところ、すぐに橙赤色の溶液となった。2時間室温で撹拌後、減圧下で溶媒を留去することによって得られる固体を得た。この固体をCHClに溶かしてろ過を行い、ろ液を減圧乾固する事により黄色の固体を得た。
【0094】
化合物のスペクトルデータ、元素分析の結果を以下に示す:
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.96(s,12H,C),7.55−7.67(m,12H,aromatic ),8.40−8.43(m,4H,aromatic ),12.3(br s’,w1/2=32.4Hz,4H,−CO)。
【0095】
13C{H} NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.3(O),126.3,129.1,129.8,131.1,132.1,135.8(aromatic ),176.9(H),180.1(OCH)。
【0096】
IR(KBr disk,ν/cm−1):1715(C=O),1557,1386(CO)。
【0097】
Anal.Calcd.for C403224Pt:C,28.65;H,1.92。Found:C,28.63;H,2.15。
【0098】
化合物の構造確認:
CHCl溶媒中で得られた単結晶のX線構造解析により化合物の構造を決定した。
【0099】
担持:
MgO10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに21.5mgの[Pt(CHCOO){o−C(COO)(COOH)}]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて10分撹拌した。撹拌を止めるとMgOが沈殿し、上澄み液が透明になった(すなわち[Pt(CHCOO){o−C(COO)(COOH)}]はMgOに吸着した)。この混合溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾燥した。乾燥した粉末を400℃で1時間半、空気中で焼成した。なお、Ptの担持濃度は0.1wt%であった。
【0100】
クラスターのTEM観察:
上記の方法で調製したMgO上のPtの様子をTEMにて観察した。HitachiのHD−2000型電子顕微鏡を用い、加速電圧200kVでSTEM像を観察した。実施例1のSTEM像を図2に示す。この像中には、白金4原子クラスターの構造から推定されるスポット径0.6nmのPt粒子が確認でき、この手法で白金4原子クラスターを酸化物担体上に担持できる事が示された。
【0101】
実施例2
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]の合成:
この化合物の合成は以下のスキームで行った。
【0102】
【化5】

【0103】
【化6】

【0104】
具体的には、下記のようにしてこの化合物を合成した:
比較例でのようにして得た[Pt(CHCOO)](0.204g,0.163mmol)のCHCl溶液(10mL)に、CH=CH(CHCOH(19.4μL,18.6mg)を加えた。これによって溶液の色が橙色から赤橙色に変わった。2時間室温で撹拌後、減圧下で溶媒を留去し、ジエチルエーテル(8mL)で2回洗浄することによって、橙色の[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH}]の固体を得た。
【0105】
アルゴンで置換したシュレンク中に、上記のようにして合成した[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH}](362mg,0.277mmol)と、第一世代Grubbs触媒(6.7mg,8.1μmol,2.9mol%)とを入れて、CHCl(30mL)に溶解させた。このシュレンクに冷却管をつけて、油浴で加熱還流を行った。60時間還流後減圧下で溶媒を留去し、残留物をCHClに溶解させてグラスフィルターでろ過を行った。その後、ろ液を減圧下で濃縮することによって固体を得た。この固体をジエチルエーテル(10mL)で3回洗浄して、橙色の[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]の固体をE/Z typeの混合物として得た。
【0106】
スペクトルデータ
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH}]
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.89(tt,HH=7.5,7.5Hz,2H,OCCH−),1.99(s,3H,axCC),2.00(s,3H,axCC),2.01(s,6H,axCC),2.10(q like,2H,−CCH=CH),2.44(s,6H,eqCC),2.45(s,3H,eqCC),2.70(t,HH=7.5Hz,2H,OCCCH−),4.96(ddt,HH=10.4Hz,HH=1.8Hz,HH=?Hz,1H,−CH=C(H)cis),5.01(ddt,HH=17.3Hz,HH=1.8Hz,HH=?Hz,1H,−CH=C(H)trans),5.81(ddt,HH=17.3,10.4,6.6Hz,1H,−C=CH)。
【0107】
13C{H} NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.2,21.2(ax),22.0,22.0(eq),25.8(OCCH−),33.3(−CH=CH),35.5(OCH−),115.0(−CH=),137.9(−H=CH),187.5,193.0,193.1(OCH),189.9(OCHCH−)。
【0108】
MS(ESI+,CHCN solution)m/z:1347([M+sol.])。
【0109】
IR(KBr disk,ν/cm−1):2931,2855(νC−H),1562,1411(νCOO−),1039,917(ν−C=C−)。
【0110】
スペクトルデータ
[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt
Major(E type):
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.83(like,J=7.7Hz,4H,OCCH−),2.00(s,6H,axCC),2.01(s,18H,axCC),2.02−2.10(m,4H,−CCH=CH−),2.44(s,18H,eqCC),2.67(t,H−H=7.2Hz,4H,OCCCH−),5.37−5.45(m,2H,−C=)。
【0111】
13C NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.1(q,C−H=130.9Hz,ax),21.2(q,C−H=131.1Hz,ax),21.9(q,C−H=129.4Hz,eq),22.0(q,C−H=129.4Hz,eq),26.4(t,C−H=127.3Hz,OCCH−),32.0(t,C−H=127.3Hz,−CHH=CH−),35.5(t,C−H=130.2Hz,OCH−),130.1(d,C−H=148.6Hz,−H=),187.3,187.4,193.0(OCH),189.9(OCHCH−)。
【0112】
Minor(Z type):
H NMR(300MHz,CDCl,308K)δ:1.83(like,J=7.7Hz,4H,OCCH−),2.00(s,6H,axCC),2.01(s,18H,axCC),2.02−2.10(m,4H,−CCH=CH−),2.44(s,18H,eqCC),2.69(t,H−H=7.2Hz,4H,OCCCH−),5.37−5.45(m,2H,−C=)。
【0113】
13C NMR(75MHz,CDCl,308K)δ:21.1(q,C−H=130.9Hz,ax),21.2(q,C−H=131.1Hz,ax),21.9(q,C−H=129.4Hz,eq),22.0(q,C−H=129.4Hz,eq),26.5(t,C−H=127.3Hz,OCCH−),26.7(t,C−H=127.3Hz,−CH=CH−),35.5(t,C−H=130.2Hz,OCH−),129.5(d,C−H=154.3Hz,−H=),187.3,187.4,193.0(OCH),189.9(OCHCH−)。
【0114】
MS(ESI+,CHCN solution)m/z:2584([M])。
【0115】
担持:
MgO10gを200gのアセトンに分散させ、このMgO分散溶液を撹拌しながら、ここに16.6mgの[Pt(CHCOO){OC(CHCH=CH(CHCO}(CHCOO)Pt]をアセトン100gに溶かした溶液を加えて10分撹拌した。この混合溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮、乾燥した。乾燥した粉末を400℃で1時間半、空気中で焼成した。Ptの担持濃度は0.1wt%であった。
【0116】
クラスターのTEM観察:
上記の方法で調製したMgO上のPtの様子をTEMにて観察した。HitachiのHD−2000型電子顕微鏡を用い、加速電圧200kVでSTEM像を観察した。実施例2のSTEM像を図3に示す。この像中には、白金8原子クラスターの構造から推定されるスポット径0.9nmのPt粒子が確認でき、この手法で白金8原子クラスターを酸化物担体上に担持できる事が示された。
【0117】
実施例3
[Pt(CHCOO){OC−(p−C)−CO}(CHCOO)Pt]の合成
この化合物の合成は以下のスキームで行った。
【0118】
【化7】

【0119】
具体的には、下記のようにしてこの化合物を合成した:
比較例でのようにして得た[Pt(CHCOO)](0.204g,0.163mmol)のCHCl溶液(10mL)に、[Pt(CHCOO)]の1/2倍量のテレフタル酸(HOC−(p−C)−COH)(0.0135g,0.0815mmol)を加えた。これによって、黒色の沈殿を生成した。この沈殿をCHCl(10mL)で2回洗浄し、[Pt(CHCOO){OC−(p−C)−CO}(CHCOO)Pt]の結晶を得た。
【0120】
同定:
結晶が、溶媒に溶解しないため元素分析で化合物を同定した。結果は下記のようなものだった。
Anal.Calcd.for C364632Pt;C,16.95;H,1.82。Found:C,20.10;H,1.78.
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】非特許文献1から抜粋したPtクラスターサイズと反応性の関係を示すグラフである。
【図2】比較例の方法で調製したMgO上のPtの様子を観察したTEM写真である。
【図3】実施例1の方法で調製したMgO上のPtの様子を観察したTEM写真である。
【図4】実施例2の方法で調製したMgO上のPtの様子を観察したTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を、2又はそれよりも多く有する、複数金属錯体含有化合物であって、
2又はそれよりも多くの前記金属錯体が、その配位子の一部を置換している多座配位子を介して相互に結合されており、且つ前記複数金属錯体含有化合物が全体で、2〜1000の金属原子を有する、複数金属錯体含有化合物。
【請求項2】
前記複数金属錯体含有化合物が全体で、2〜100の金属原子を有する、請求項1に記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項3】
前記金属錯体の配位子が、下記の群より選択される1つの官能基が結合している水素基、又は下記の群より選択される1又は複数の官能基が結合している有機基である、請求項1又は2に記載の複数金属錯体含有化合物:
−COO、−CR−O、−NR1−、−NR、−CR=N−R、−CO−R、−PR、−P(=O)R、−P(OR)(OR)、−S(=O)、−S(−O)R、−SR、及び−CR−S(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【請求項4】
前記官能基が下記の群から選択される、請求項3に記載の複数金属錯体含有化合物:
−COO、−CR−O、−NR1−、及び−NR(R及びRはそれぞれ独立に、水素又は一価の有機基)。
【請求項5】
前記官能基が結合している有機基が、ヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基である、請求項3又は4に記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項6】
及びRがそれぞれ独立に、水素、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基である、請求項3〜5のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項7】
前記金属錯体の配位子の一部を置換している前記多座配位子が、下記の式を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物:
(L)−R−(L
(Rは、結合、又は二価の有機基、
及びLは、同一であっても異なっていてもよく、下記の官能基の群より選択される:
−COO、−CR−O、−NR4−、−NR、−CR=N−R、−CO−R、−PR、−P(=O)R、−P(OR)(OR)、−S(=O)、−S(−O)R、−SR、及び−CR−S(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基))。
【請求項8】
及びLが、同一であり、下記の群より選択される官能基である、請求項7に記載の複数金属錯体含有化合物:
−COO、−CR−O、−NR4−、及び−NR(R及びRはそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【請求項9】
が、結合、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の二価の炭化水素基である、請求項7又は8に記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項10】
及びRが、それぞれ独立に、水素、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基である、請求項7〜9のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項11】
前記金属錯体の配位子と、前記金属錯体の配位子の一部を置換している前記多座配位子とが同じ官能基を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項12】
前記金属が、遷移金属である、請求項1〜11のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項13】
前記金属錯体が、多核錯体である、請求項1〜12のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項14】
前記金属錯体が、カルボン酸配位子を有し、且つ前記金属錯体の配位子の一部を置換している前記多座配位子が、ジカルボン酸配位子である、請求項1に記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項15】
前記金属錯体が、オクタアセタト四白金である、請求項14に記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項16】
下記の式を有する、請求項1に記載の複数金属錯体含有化合物:
【化1】

(Rは、C〜C30のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基)。
【請求項17】
(a)請求項1〜16のいずれかに記載の複数金属錯体含有化合物を含有する溶液を提供すること;
(b)前記溶液を乾燥及び焼成すること、
を含む、2〜1000の金属原子を有する金属又は金属酸化物クラスターの製造方法。
【請求項18】
工程(b)で前記溶液を乾燥及び焼成する前に、前記溶液を、多孔質担体に含浸させることを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記多孔質担体が、金属酸化物触媒担体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(a)前記金属錯体を提供すること、
(b)前記多座配位子又は多座配位源を提供すること、及び
(c)前記金属錯体と前記多座配位子又は多座配位源とを溶媒中で混合すること、
を含む、請求項1〜16に記載の複数金属錯体含有化合物の製造方法。
【請求項21】
工程(b)において、前記金属錯体に配位している配位子の全てを置換するのに必要な量よりも少ない量で、前記多座配位子又は多座配位子源を提供する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
1個の金属原子又は複数個の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体であって、
前記配位子の少なくとも1つが、前記金属原子に配位していない下記の群から選択される非配位官能基を有する、金属錯体:
−COOH、−COOR、−CR−OH、−NR{C(=O)R}、−NR、−CR=N−R、−CO−R、−PR、−P(=O)R、−P(OR)(OR)、−S(=O)、−S(−O)R、−SR、−CR−SH、−CR−SR10、及び−CR=R10(R〜R10はそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【請求項23】
〜R10が、水素、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基である、請求項22に記載の金属錯体。
【請求項24】
前記配位子が、前記金属原子に配位している下記の官能基が結合している水素基、又は前記金属原子に配位している下記の官能基が1又は複数個結合している有機基である、請求項22又は23に記載の金属錯体:
−COO、−CR1112−O、−NR11−、−NR1112、−CR11=N−R12、−CO−R11、−PR1112、−P(=O)R1112、−P(OR11)(OR12)、−S(=O)11、−S(−O)R11、−SR11、及び−CR1112−S(R11及びR12はそれぞれ独立に、水素、又は一価の有機基)。
【請求項25】
前記金属原子に配位している官能基が結合している有機基が、ヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基である、請求項24に記載の金属錯体。
【請求項26】
11及びR12がそれぞれ独立に、水素、又はヘテロ原子、エーテル結合若しくはエステル結合を有していてもよい、置換若しくは無置換の炭化水素基である、請求項24又は25に記載の複数金属錯体含有化合物。
【請求項27】
前記配位子がそれぞれ、前記金属原子に配位している前記官能基を1つのみ有する、請求項24〜26のいずれかに記載の金属錯体。
【請求項28】
前記非配位官能基が、カルボキシ基である、請求項22〜27のいずれかに記載の金属錯体。
【請求項29】
前記配位子が、前記金属原子に配位しているカルボキシ基を有している、請求項28に記載の金属錯体。
【請求項30】
ジカルボン酸配位子で少なくとも1つの酢酸配位子が置換されているオクタアセタト四白金である、請求項29に記載の金属錯体。
【請求項31】
下記の式を有する、請求項22に記載の金属錯体:
【化2】

(R14は、C〜C30のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基)。
【請求項32】
前記非配位官能基が、炭素−炭素二重結合である、請求項22〜27のいずれかに記載の金属錯体。
【請求項33】
前記配位子が、前記金属原子に配位しているカルボキシ基を有する、請求項32に記載の金属錯体。
【請求項34】
炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸配位子で少なくとも1つの酢酸配位子が置換されているオクタアセタト四白金である、請求項27に記載の金属錯体。
【請求項35】
下記の式を有する、請求項22に記載の金属錯体:
【化3】

(R16は、直鎖又は分岐鎖のC〜C30アルケニレン基)。
【請求項36】
(a)請求項22〜35のいずれかに記載の金属錯体を含有する溶液を提供すること;
(b)前記溶液を、触媒担体に含浸させること、及び
(c)前記溶液を乾燥及び焼成すること、
を含む、排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項37】
前記触媒担体が、多孔質金属酸化物担体である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
(a)請求項32〜35のいずれかに記載の金属錯体を提供すること、
(b)前記金属錯体を溶媒に溶解させ、炭素−炭素二重結合のクロスメタセシス反応によって、前記非配位炭素−炭素二重結合のアルキリデン基を置換すること、
を含む、請求項1〜16に記載の複数金属錯体含有化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−230924(P2007−230924A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55607(P2006−55607)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】