説明

複段減速装置

【課題】バックラッシュを生じることなく小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比を簡素な構成でコスト的に有利に実現できる複段減速装置を提供する。
【解決手段】クランク入力軸4の回転に伴い、第1偏心歯車2の複合運動が第1変速クランク軸10Aを介して第2偏心歯車11に伝わる際、平行二軸等速回転継手13が機能し、第1偏心歯車2の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝達する。これにより、第2偏心歯車11も複合運動を行って第2偏心歯車11の自転変位により第2リングギア12が回転変位を出力する。第1偏心歯車2の自転変位は、第2偏心歯車11の外歯数と第2リングギア12の内歯数との比により分割されるので、第1偏心歯車2を小から大に到る広い範囲で減速することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数段に減速することにより、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲の速比を設定可能にした複段減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複段減速装置は、サーボモータの回転伝達および精密加工機械の駆動などに用いられ、減速機能および回転伝達機能に加えて、回転の遊び(バックラッシュ)を生じることなく高精度で従動部材に負荷伝達することが要求されている。とりわけ、大きな減速(あるいは小さな減速比)を得るため、ハイポサイクロイド系の歯形を有する遊星歯車機構を適用した複段減速装置では、遊星歯車と内歯車との噛合による伝達機構は複雑となり、回転の遊びをなくして円滑で高精度の回転を達成させるのは容易でないことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
代表的な複段減速装置としては、例えば特許文献2に示された不思議遊星歯車機構の減速装置がある。この減速装置では、固定内歯車に噛み合う複数の第1遊星歯車および可動内歯車に噛み合う複数の第2遊星歯車を備え、固定内歯車と可動内歯車とを同軸的に配置している。
複数の第1遊星歯車に噛み合う太陽歯車を有し、第1遊星歯車は回転軸およびキャリアを介して第2遊星歯車に連結されている。第1遊星歯車の歯形位置に対する第2遊星歯車の歯形位置とに位相差を設けている。太陽歯車の回転により第1遊星歯車が回転し、この回転が回転軸を介して第2遊星歯車を回して可動内歯車を回転させる。これにより、通常の不思議遊星歯車機構の減速装置における減速比の1/3に低減できたとしている。
【0004】
また、図16に示す差動歯車減速機構100では、第1外歯車101に所定の径寸法で配置した第1内歯車102と偏心部103を有する入力軸104(クランク軸)とを備えている。第1外歯車101は固定され、第1内歯車102と同一径の第2内歯車105とは連結軸102Aにより連結されている。第2内歯車105は自由回転可能な第2外歯車106に噛合している。
図16に矢印Spで示すように、入力軸104を時計回り方向に回転させると、第1内歯車102が矢印T方向の自転変位と矢印U方向の旋回変位とを伴う複合運動を行う。この複合運動が連結軸102Aを介して第2内歯車105に伝わり、自転成分だけを第2外歯車106に伝達して第2外歯車106と一緒に出力軸107を矢印V方向に回転させる。
【特許文献1】特開平5−79537号公報
【特許文献2】特開2005−16695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、前述のように、遊星歯車と内歯車との噛合による伝達機構は複雑となり、回転の遊びをなくして円滑で高精度の回転を達成させるのは容易でなく、精密な工作機械に実装して使用するには適さないものである。
特許文献2では、減速比を大幅に低減させることができるものの、第1遊星歯車と第2遊星歯車との連結構造から判断して、噛み合いの干渉を招き、バランスが悪く回転伝達の円滑性に劣り、高速回転時に支障が生じる虞がある。
【0006】
図16の差動歯車減速機構100において、第1内歯車102と第2内歯車105とを異なる歯数の歯車とすることができれば、複式(二段減速)差動歯車減速機構が成立し、減速比を著しく低減化できる利点がある。この場合、第1外歯車101の歯数をA1、第1内歯車102の歯数をB1、第2内歯車105の歯数をC1、ならびに第2外歯車106をD1とすると、減速比は1−{A1×C1/(B1×D1)}で算出することができる。
【0007】
このため、連結軸102Aに偏心クランク部を設けて、第1内歯車102を二段に減速させる機構が考えられ、研究・試作・実験が繰り返されてきた。この機構では噛み合いの干渉は僅少で、円滑な回転を欠くものの、減速は可能であるため、バックラッシュを大きく設定すれば、実用化に耐えられないものではない。
しかしながら、騒音振動を伴い、減速時に安定して信頼度の高い作動、高い精度および寿命を犠牲にしなければならず、工業用ロボットや精密な自動組付機械などに適用するには多くの点で改良の余地が残されていた。
【0008】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その目的は、バックラッシュを生じることなく小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比を簡素な構成でコスト的に有利に実現でき、しかも騒音振動の発生がなく、減速時に全体の回転が円滑で安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を達成することができる複段減速装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1について)
第1偏心歯車は、クランク入力軸を有して固定型の第1リングギアの内歯に噛合し、クランク入力軸の回転に伴い、自転変位と旋回変位とから成る複合運動を行う。第2偏心歯車は、第1偏心歯車にクランク入力軸と偏心状態に連結されて、第1リングギアの内歯とは異なる歯数で自由回転可能に設けられて第2リングギアの内歯に噛合する。第1変速クランク軸は、第1偏心歯車と第2偏心歯車とを連結するように設けられている。平行二軸等速回転継手は、第1偏心歯車と第2偏心歯車との間を連結し、第1偏心歯車の複合運動を1対1の伝達比で第2偏心歯車に伝達するように配されている。
第1リングギアの内歯ピッチ円と第2リングギアの内歯ピッチ円とを同一寸法に設定し、クランク入力軸の回転に伴い、第1偏心歯車の複合運動のうち自転変位を第1変速クランク軸および平行二軸等速回転継手を介して第2偏心歯車に伝達して第2リングギアに回転変位を出力させるようにしている。
【0010】
この構成では、クランク入力軸の回転に伴い、第1偏心歯車の複合運動が第1変速クランク軸を介して第2偏心歯車に伝わる際、平行二軸等速回転継手が機能し、第1偏心歯車の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2偏心歯車に伝達する。これにより、第2偏心歯車も複合運動を行って第2偏心歯車の自転変位により第2リングギアが回転変位を出力する。
【0011】
この際、第1偏心歯車の自転変位は、第2偏心歯車の外歯数と第2リングギアの内歯数との比により分割されるので、第1偏心歯車を小幅から大幅の広い範囲で減速することができる。すなわち、減速比は第1偏心歯車、第1リングギア、第2偏心歯車および第2リングギアの各歯数に依存する減速割合で設定することができるので、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比が実現する。
広範囲な速比を実現させていながらも、平行二軸等速回転継手を第1偏心歯車と第2偏心歯車との間に設ける簡素な構成で済み、製造コストを抑え得て量産するうえで有利となる。
【0012】
減速作動時、平行二軸等速回転継手により、第1偏心歯車の複合運動のうち自転変位が1対1の伝達比で第2偏心歯車に確実に伝わる。このため、第2偏心歯車が第2リングギアに干渉することなく、正規の状態で確実に噛み合い、騒音振動の発生がなく、減速時に全体の回転が円滑で安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を図ることができる。
【0013】
(請求項2について)
平行二軸等速回転継手においては、互いに対向する第1偏心歯車の外側面と第2偏心歯車の外側面とに同一ピッチ円上に沿って一連の円形孔群が設けられている。円形の回転伝達体は、第1偏心歯車の円形孔と第2偏心歯車の円形孔とにかけて転がり可能に遊嵌されて、円形孔の内周面に対して第1偏心歯車と第2偏心歯車との偏心量に応じた隙間を空けている。
クランク入力軸の回転に伴い、回転伝達体が第1偏心歯車の円形孔および第2偏心歯車の円形孔の各内周面を転がることにより、第1偏心歯車の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2偏心歯車に伝達する。
【0014】
この場合、平行二軸等速回転継手は、第1偏心歯車および第2偏心歯車に円形孔群を設けて回転伝達体を円形孔に遊嵌する簡素な構造で済み、省スペース化および低コスト化を実現することができる。
【0015】
(請求項3について)
第1偏心歯車および第2偏心歯車は、外歯ピニオンとし、第1リングギアおよび第2リングギアはピンピニオンとしている。
この場合、第1偏心歯車と第1リングギアとの歯数差、ならびに第2偏心歯車と第2リングギアとの歯数差を大きく設定し易く、大きな速比の実現に適している。
【0016】
(請求項4について)
固定ディスクは、その片面に第1ピッチ円上に沿って周方向に形成されたサイクロイド系の第1曲線歯溝を有する。第1変速ディスクは、入力軸を連結して固定ディスクに対して第1偏心量で偏心状態に近接対面し、第1曲線歯溝に対応する面部に第1ピッチ円と同一の第2ピッチ円上に沿って形成されて、第1曲線歯溝と波数差を1個または2個とするサイクロイド系の第2曲線歯溝を有する。
【0017】
複数の第1転動ボールは、第1曲線歯溝と第2曲線歯溝とにかけて配されており、入力軸の回転に伴い、固定ディスクに対して第1変速ディスクに自転変位と旋回変位とからなる複合運動を生じさせる。
第2変速ディスクは、第1変速ディスクに対して第2偏心量で偏心状態に近接対面し、対面する側とは反対側に第3ピッチ円上に沿って周方向に形成されたサイクロイド系の第3曲線歯溝を有する。
【0018】
平行二軸等速回転継手は、第1変速ディスクと第2変速ディスクとの間に設けられ、第1変速ディスクの複合運動を1対1の伝達比で第2変速ディスクに伝える。出力ディスクは、出力軸を有して第2変速ディスクに第3偏心量で偏心状態に近接対面するように設けられ、第3曲線歯溝に対向する面部に第3ピッチ円と同一寸法の第4ピッチ円上に沿って周方向に形成されて、第3曲線歯溝と波数差を1個とするサイクロイド系の第4曲線歯溝を有する。
【0019】
複数の第2転動ボールは、第3曲線歯溝と第4曲線歯溝とにかけて配されており、第2変速ディスクの複合運動のうち旋回運動を吸収して自転変位のみを出力ディスクから出力させる。
固定ディスクの第1曲線歯溝および第1変速ディスクの第2曲線歯溝に第1転動ボールのそれぞれが噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第1集合力点を設定する。第2変速ディスクの第3曲線歯溝および出力ディスクの第4曲線歯溝に第2転動ボールのそれぞれが噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第2集合力点を設定する。第1偏心量の第1偏心位置から第1集合力点に到る距離と第3偏心量の第3偏心位置から第2集合力点に到る距離とを等しくしている。
【0020】
この場合、入力軸への回転入力に伴い、第1変速ディスクが第1曲線歯溝および第2曲線歯溝に対して第1転動ボールを転がせながら、自転変位と旋回変位とを含む複合運動を行う。第1変速ディスクの複合運動は、平行二軸等速回転継手により自転変位として1対1の伝達比で第2変速ディスクに伝えられる。自転変位が伝えられた第2変速ディスクは、第3曲線歯溝および第4曲線歯溝に沿って第2転動ボールを転がせながら、複合運動を行って旋回変位を吸収し、自転変位のみを出力ディスクに伝えて出力軸を回転させる。
【0021】
この際、第1変速ディスクの自転変位は、第1曲線歯溝と第2曲線歯溝との波数比に基づいて減速されたうえで、さらに第3曲線歯溝と第4曲線歯溝との波数比に基づいて減速される。これにより、第1変速ディスクを小から大に到る幅の広い範囲で減速させて出力ディスクを回転させることができる。
【0022】
すなわち、減速比は、第1変速ディスクおよび第2変速ディスクの各波数に依存する減速割合で設定することができるので、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比が実現する。
広範囲な速比を実現させていながらも、平行二軸等速回転継手を第1変速ディスクと第2変速ディスクとの間に設ける簡素な構成で済み、製造コストを抑え得て量産するうえで有利となる。
【0023】
減速作動時、平行二軸等速回転継手により、第1変速ディスクの自転変位が第2変速ディスクに1対1の割合で確実に伝わる。このため、第1曲線歯溝と第2曲線歯溝とに対して第2転動ボールが干渉せず、バックラッシュも生じることなく正規の状態で確実に噛み合って円滑に転動する。この結果、騒音振動の発生がなく、減速時に回転が安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を達成することができる。
【0024】
(請求項5について)
平行二軸等速回転継手においては、互いに重ね合わされた第1変速ディスクと第2変速ディスクとに同一ピッチ円上に沿って、第2偏心量に応じた半径寸法で一連の円形孔群が形成されている。複数の転動ボール体は、第1変速ディスクの円形孔と第2変速ディスクの円形孔とにかけて転動可能に配されて、第1変速ディスクの複合運動を1対1の伝達比で第2変速ディスクに伝える。
【0025】
この場合、平行二軸等速回転継手は、第1変速ディスクと第2変速ディスクとに一連の円形孔群をそれぞれ形成して、円形孔に転動ボール体を設ける簡素な構造で済み、薄型でコンパクトとなり省スペース化および低コスト化を図ることができる。
【0026】
(請求項6について)
第1外歯ピニオンは、外周部にサイクロイド系曲線による歯面プロフィールで形成した第1ピンピニオンの内歯に噛合する第1ピニオン歯を有し、第1ピンピニオンに噛合しながら旋回変位と自転変位とからなる複合運動を行うように偏心状態に配されている。第2外歯ピニオンは、第1外歯ピニオンと近接対面かつ偏心状態に並置され、サイクロイド系曲線による歯面プロフィールで第2ピンピニオンの内歯に噛合する第2ピニオン歯を有し、第2ピンピニオンに噛合しながら旋回変位と自転変位とからなる複合運動を行う。
【0027】
平行二軸等速回転継手は、第1外歯ピニオンと第2外歯ピニオンとの間に設けられ、第1外歯ピニオンの複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2外歯ピニオンに伝える。出力ディスクは、第2外歯ピニオンと近接対面かつ偏心状態に並置されている。平行二軸等速回転継手は、第2外歯ピニオンと出力ディスクとの間に設けられ、第2外歯ピニオンの複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で出力ディスクに伝える。
【0028】
第1外歯ピニオンの第1ピニオン歯のそれぞれが第1ピンピニオンの内歯に噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第1集合力点を設定する。第2外歯ピニオンの第2ピニオン歯のそれぞれが第2ピンピニオンの内歯に噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第2集合力点を設定する。第1外歯ピニオンの偏心位置から第1集合力点に到る距離と第2外歯ピニオンの偏心位置から第2集合力点に到る距離とを等しくしている。
【0029】
この場合、第1外歯ピニオンの回転入力に伴い、第1外歯ピニオンが第1ピンピニオンに噛合しながら自転変位と旋回変位とを含む複合運動を行う。第1外歯ピニオンの複合運動は、平行二軸等速回転継手により自転変位として1対1の伝達比で第2外歯ピニオンに伝えられる。自転変位が伝えられた第2外歯ピニオンは、第2ピンピニオンに噛合しながら複合運動を行う。この複合運動は、平行二軸等速回転継手により旋回変位が吸収されることから自転変位として1対1の伝達比で出力ディスクに伝えられる。
【0030】
この際、第1外歯ピニオンの自転変位は、第1外歯ピニオンの歯数と第1ピンピニオンとの波数比に基づいて減速されたうえで、さらに第2外歯ピニオンと第2ピンピニオンとの波数比に基づいて減速される。これにより、第1外歯ピニオンを小から大に到る広い範囲で減速させて出力ディスクを回転させることができる。
【0031】
減速作動時、平行二軸等速回転継手により、第1外歯ピニオンの自転変位が第2外歯ピニオンおよび出力ディスクに1対1の割合で確実に伝わるようになる。これにより、第1外歯ピニオン、第2外歯ピニオンと出力ディスクとの間で干渉が生じず、バックラッシュも生じることなく正規の状態で確実に噛み合って円滑に転動する。この結果、騒音振動の発生がなく、減速時に回転が安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を達成することができる。
【0032】
(請求項7について)
第1外歯ピニオンと前記第2外歯ピニオンとの間に設けられた平行二軸等速回転継手は、互いに対面する第1外歯ピニオンと第2外歯ピニオンとに同一ピッチ円上に沿って、第1外歯ピニオンの偏心状態に応じた半径寸法にそれぞれ形成された一連の円形孔群を有する。
【0033】
複数の転動ボール体は、第1外歯ピニオンの円形孔と第2外歯ピニオンの円形孔とにかけて転動可能に配されて、第1外歯ピニオンの複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2外歯ピニオンに伝える。
【0034】
第2外歯ピニオンと出力ディスクとの間に設けられた平行二軸等速回転継手は、互いに対面する第2外歯ピニオンと出力ディスクとに同一ピッチ円上に沿って、第2外歯ピニオンの偏心状態に応じた半径寸法にそれぞれ形成された一連の円形孔群を有する。複数の転動ボール体は、第1外歯ピニオンの円形孔と出力ディスクの円形孔とにかけて転動可能に配されて、第1外歯ピニオンの複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で出力ディスクに伝える。
【0035】
この場合、平行二軸等速回転継手は、請求項5と同様に、第1外歯ピニオン、第2外歯ピニオンと出力ディスクとに一連の円形孔群をそれぞれ形成して、円形孔に転動ボール体を設ける簡素な構造で済み、薄型でコンパクトとなり省スペース化および低コスト化を図ることができる。
【0036】
(請求項8について)
第1転動ボールおよび第2転動ボールがスチール製のため、これら転動ボールを入手し易く製造コストの低廉化に寄与する。
【0037】
(請求項9について)
転動ボール体がスチール製のため、請求項8と同様に、転動ボール体を入手し易く製造コストの低廉化に資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明における複段減速装置では、1対1の伝達比で回転伝達可能な平行二軸等速回転継手を用いることにより、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比を簡素な構成でコスト的に有利に実現できるとともに、騒音振動の発生がなく、バックラッシュを除去し、減速時に全体の回転が円滑で安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を図る。
【実施例1】
【0039】
図1および図2に基づいて本発明の実施例1を説明する。
図1(a)に示す複段減速装置1において、第1偏心歯車2は、比較的径小に形成されて、外周部に所定歯数の外歯2aを有している。
【0040】
固定型の第1リングギア3は、歯面プロフィールが内歯ピッチ円P1を有するインボルート系やサイクロイド系の曲線などで創成されている。第1リングギア3は、内周部に所定の歯数を有する内歯3aを備え、内歯3aに第1偏心歯車2の外歯2aを遊星歯車として噛合させている。第1偏心歯車2は、後述するクランク入力軸4の回転に伴い、自転変位と旋回変位とから成る複合運動を行うようになっている。
【0041】
クランク入力軸4は第1連結軸5を中心軸として備え、これの一端部を第1偏心歯車2の中心部に固定し、他端部を第1偏心部6の一端に回転可能に支持させている。
入力軸7は第1連結軸5と平行に配されて、軸受8により回転可能に支持された状態で第1偏心部6の他端に連結固定されている。
【0042】
第1偏心部6における第1連結軸5と入力軸7との距離は、第1偏心量E1を示し、第1リングギア3の内歯ピッチ円P1と第1偏心歯車2の外歯ピッチ円P2との有効差(P1−P2)に等しくなっている。
【0043】
第1連結軸5は、図2(a)に示すように、第1偏心歯車2の裏側に僅かに延びて連結端5aを形成し、この連結端5aを第2偏心部9の一端に連結固定している。第2偏心部9の他端には、第2連結軸10の一端が回転可能に嵌め込まれている。第2連結軸10の他端は、第2偏心歯車11の中心部に連結固定されている。連結端5a、第2偏心部9および第2連結軸10は第1変速クランク軸10Aを構成している。
【0044】
第2偏心歯車11は、所定の歯数の外歯11aを有して第1偏心歯車2に近接かつ対面状態に並設されている。第2リングギア12は、第1リングギア3に隣接状態で自由回転可能に並設されており、所定の歯数の内歯12aを有し、内歯12aを第2偏心歯車11の外歯11aに噛合させている{図1(a)参照}。
【0045】
第2リングギア12は、中心部に出力軸12Aを一体に形成している。この出力軸12Aは入力軸7と同軸的に配置されて、第2リングギア12と一体的に回転するようになっている。
第1偏心歯車2と第2偏心歯車11とが対面する表面部の中央部には、第1変速クランク軸10Aを収容するために円形に形成された第1窪み部Es1および第2窪み部Es2が形成されている。
【0046】
第2偏心部9における第2連結軸10と第1連結軸5との距離は、第2偏心量E2を示し、第2リングギア12の内歯ピッチ円P4と第2偏心歯車11の外歯ピッチ円P3との有効差(P4−P3)に等しくなっている。また、第1リングギア3の内歯ピッチ円P1と第2リングギア12の内歯ピッチ円P4とは等しくなるように設定している(P1=P4)。
【0047】
第1偏心歯車2と第2偏心歯車11との間には、第1偏心歯車2の自転変位を1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝える平行二軸等速回転継手13が設けられている。
平行二軸等速回転継手13は、図2(a)、(b)に示すように、互いに対向する第1偏心歯車2の外側面2Aと第2偏心歯車11の外側面11Aとに同一ピッチ円Pf上に沿って形成された一連の円形孔群14、15を有する。
第1偏心歯車2の円形孔群14は等角度間隔で形成された複数(例えば6個)の円形孔14aからなり、第2偏心歯車11の円形孔群15は等角度間隔で形成された複数(例えば6個)の円形孔15aからなっている。
【0048】
第1偏心歯車2と第2偏心歯車11との間には、円形の回転伝達体16が配置されている。回転伝達体16は、厚みの小さな短円柱をなし、第1偏心歯車2の円形孔14aと第2偏心歯車11の円形孔15aとにかけて転がり可能に遊嵌されて、各円形孔14a、15aの内周面に対して第2偏心量E2に相当する偏心量E3の隙間を空けている{図2(b)参照}。第2偏心歯車11の中心11Pと第2連結軸10の中心10Pとの間の距離を偏心量E4とすると、E1=|E2(E3)+E4|の関係が得られる。
【0049】
クランク入力軸4の回転に伴い、回転伝達体16が第1偏心歯車2の円形孔14aおよび第2偏心歯車11の円形孔15aの各内周面を転がることにより、第1偏心歯車2の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝える。
【0050】
上記構成では、クランク入力軸4の回転に伴い、第1偏心歯車2が第1リングギア3に噛み合いながら自転変位と旋回変位とからなる複合運動を行う。
第1偏心歯車2の複合運動は、第1変速クランク軸10Aを介して第2偏心歯車11に伝わる。この際、平行二軸等速回転継手13の回転伝達体16が円形孔14a、15aの内周面を転がることにより、第1偏心歯車2の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝え、第2偏心歯車11が外歯11aを第2リングギア12の内歯12aに噛み合わせながら複合運動を行う。この複合運動のうち、旋回変位は吸収されるため、自転変位のみが第2リングギア12に伝わって第2リングギア12と一緒に出力軸12Aを回転させる。
【0051】
この際、第1偏心歯車2の自転変位は、第2偏心歯車11の外歯数と第2リングギア12の内歯数との比により分割されるので、第1偏心歯車2を小幅から大幅の広い範囲で減速することができる。すなわち、減速比は第1偏心歯車2、第1リングギア3、第2偏心歯車11および第2リングギア12の各歯数に依存する減速割合で設定可能となるので、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比を達成させることができる。
【0052】
ちなみに、第1偏心歯車2の歯数は80個、第1リングギア3は90個、第2偏心歯車11は70個、第2リングギア12は80個であるとすると、減速比Rは下記のようにして算出することができる。
R=1−{(70×90)/(80×80)}
=1/64
このため、広範囲な速比を実現させていながらも、平行二軸等速回転継手13を第1偏心歯車2と第2偏心歯車11との間に設ける簡素な構成で済み、製造コストを抑え得て量産するうえで有利となる。なお、第1偏心歯車2、第1リングギア3、第2偏心歯車11および第2リングギア12の各歯数は例示的であるため、図1および図2の態様とは必ずしも合致していない。
【0053】
減速作動時、平行二軸等速回転継手13により、第1偏心歯車2の複合運動のうち自転変位が1対1の伝達比で第2偏心歯車11に確実に伝わる。このため、第2偏心歯車11が第2リングギア12に干渉することなく、正規の状態で確実に噛み合い、騒音振動の発生がなく、減速時に全体の回転が円滑で安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を図ることができる。
【実施例2】
【0054】
図3(a)は本発明の実施例2を示す。
実施例2では、実施例1における回転伝達体16、第1偏心歯車2の円形孔14aおよび第2偏心歯車11の円形孔15aからなる平行二軸等速回転継手13に代わって、オルダム継手13Sを用いている。オルダム継手13Sは、本願発明における平行二軸等速回転継手の範疇に属する。
【0055】
このオルダム継手13Sでは、内外両側面に90度の等角度間隔で切欠形成した4個の摺接溝13a、13b、13c、13dを有する摺動リング13eを備えている。摺接溝13a、13b同士は、摺動リング13eの左側面で径方向に対向し、摺接溝13c、13d同士は摺動リング13eの右側面で径方向に対向している。
【0056】
第1偏心歯車2の外側面2Aには、摺接溝13a、13bに対応し、矢印Nで示す径方向に摺動可能に嵌め込まれる摺動ブロック13f、13gを突出形成している。第2偏心歯車11の外側面11Aには、摺接溝13c、13dに対応し、矢印Mで示す径方向に摺動可能に嵌め込まれる摺動ブロック13h、13iを突出形成している。
【0057】
第1偏心歯車2の回転入力が第1変速クランク軸10Aを介して第2偏心歯車11に作用する際、摺動リング13eは、第1変速クランク軸10Aの偏心量E2に応じて矢印N方向の変位と矢印M方向の変位とを合成した方向に旋回変位を伴いながら自転変位を行い、自転変位のみを1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝える。
【実施例3】
【0058】
図3(b)は本発明の実施例3を示す。
実施例3では、オルダム継手13Sにおいて、摺動ブロックと摺接溝との形成箇所を実施例2とは逆にしている。すなわち、摺動リング13eの左側面に、摺動ブロック13f、13gを形成し、摺動リング13eの右側面に摺動ブロック13h、13iを設けている。
【0059】
第1偏心歯車2の外側面2Aには、薄型の偏平リング13jを一体に設け、第2偏心歯車11の外側面11Aにも、薄型の偏平リング13kを一体に設けている。偏平リング13jに摺接溝13a、13bを形成し、偏平リング13kに摺接溝13c、13dを形成している。摺動ブロック13f、13gは、摺接溝13a、13bに摺動可能に嵌め込まれ、摺動ブロック13h、13iは、摺接溝13c、13dに摺動可能に嵌め込まれている。
【0060】
第1偏心歯車2の回転入力が第1変速クランク軸10Aを介して第2偏心歯車11に作用する際、摺動リング13eは、実施例2と同様に、矢印N方向の変位と矢印M方向の変位とを合成した方向に旋回変位を伴いながら自転変位を行い、自転変位のみを1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝える。
【実施例4】
【0061】
図4は本発明の実施例4を示す。
実施例4が実施例1と異なるところは、回転伝達体16、第1偏心歯車2の円形孔14aに代わってピン13pを平行二軸等速回転継手13Tとして設けたことである。ピン13pは、円形孔14aに代わって第1偏心歯車2に固定したもので、ピン13pの直径寸法Dpを円形孔15aの直径寸法Dqよりも小に設定し、両者の直径差(Dq−Dp)を第1変速クランク軸10Aの偏心量E2に等しくさせている。
第1偏心歯車2の回転入力が第1変速クランク軸10Aを介して第2偏心歯車11に作用する際、ピン13pは円形孔15aの外周壁面に摺接しながら円運動を行う。このため、第1偏心歯車2は旋回変位と自転変位からなる複合運動を行い、自転変位のみを1対1の伝達比で第2偏心歯車11に伝える。
【実施例5】
【0062】
図5は本発明の実施例5を示す。
実施例5では、実施例1における第1リングギア3および第2リングギア12に代わって、サイクロイド系の外歯ピニオン27を用い、第1偏心歯車2および第2偏心歯車11に代わって、ピンピニオン28を用いている。外歯ピニオン27は、そのピニオン歯27aをピンピニオン28の円柱ピン28aと内接状態に噛合させている{図5(a)、(b)参照}。
【0063】
第1リングギア3用の外歯ピニオン27と第2リングギア12用の外歯ピニオン27とでは、ピニオン歯27aの歯数が異なるが、歯数は種々に設定可能なため、外歯ピニオン27の形態を示すのみに留めた。
また、第1偏心歯車2用のピンピニオン28と第2偏心歯車11用のピンピニオン28とでも、円柱ピン28aの歯数としての本数が異なるが、歯数は種々に設定可能なため、ピンピニオン28の形態を示すのみに留めた。
なお、外歯ピニオン27を正あるいは負に転位させた場合、減速作動が成り立つためには、第1リングギア3用の外歯ピニオンにおける噛合いピッチ円と第2リングギア12用の外歯ピニオンにおける噛合いピッチ円とを同一に設定する必要がある。後述する実施例6でも上記と同様である。
【実施例6】
【0064】
図6は本発明の実施例6を示す。
実施例6では、実施例1における第1リングギア3および第2リングギア12に代わって、サイクロイド系の内歯ピニオン31を用い、第1偏心歯車2および第2偏心歯車11に代わって、ピンピニオン32を用いている。内歯ピニオン31は、そのピニオン歯31aをピンピニオン32の円柱ピン32aと内接状態に噛合させている。
【0065】
第1リングギア3用の内歯ピニオン31と第2リングギア12用の内歯ピニオン31とでは、ピニオン歯31aの歯数が異なるが、歯数は種々に設定可能なため、内歯ピニオン31の形態を示すのみに留めた。
また、第1偏心歯車2用のピンピニオン32と第2偏心歯車11用のピンピニオン32とでも、円柱ピン32aの歯数としての本数が異なるが、歯数は種々に設定可能なため、ピンピニオン32の形態を示すのみに留めた。
【実施例7】
【0066】
図7〜図9および図11〜図13は本発明の実施例7を示す。
実施例5の複段減速装置35では、図7に示すように固定ディスク36、第1変速ディスク37、複数の第1転動ボール38、第2変速ディスク39、平行二軸等速回転継手40A、出力ディスク41Aおよび第2転動ボール42を互いに近接状態に並列させている。
【0067】
固定ディスク36は、中心部に貫通孔36aを有し、片面に第1ピッチ円Q1上に沿って周方向に形成され、断面略円弧状とするサイクロイド系(例えば、エピサイクロイド)の第1曲線歯溝43を備える。第1曲線歯溝43は、その波数を例えば22個としている。
【0068】
第1変速ディスク37は、中央部に貫通孔37aを形成し、固定ディスク36に対して第1偏心量e1で偏心状態に対面するように近接配置されている。第1変速ディスク37の第1曲線歯溝43に対応する面部には、第1ピッチ円Q1と同一の第2ピッチ円Q2上に沿って周方向に形成され、断面略円弧状とするサイクロイド系の第2曲線歯溝44を備える。第2曲線歯溝44は、波数を24個として第1曲線歯溝43との波数差を2個とする。
【0069】
複数の第1転動ボール38は、例えばスチール(鋼材)により形成されたもので、固定ディスク36の第1曲線歯溝43と第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44とにかけて配されており、後述する入力軸36Aの回転に伴い、固定ディスク36に対して第1変速ディスク37が自転変位と旋回変位とからなる複合運動を行う。
【0070】
第2変速ディスク39は、中央部に貫通孔39aを形成し、第1変速ディスク37に対して第2偏心量e2で偏心状態に対面し、対面する側とは反対側に第3ピッチ円Q3上に沿って周方向に形成され、断面略円弧状とするサイクロイド系の第3曲線歯溝45を備える。第3曲線歯溝45は、その波数を例えば22個とする。固定ディスク36の中央部に設けられた入力軸36Aは、貫通孔39a、37a、36aを挿通して図示右側に突き出ている。
【0071】
第1変速ディスク37と第2変速ディスク39との間には、第1変速ディスク37の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2変速ディスク39に伝えるボール式の平行二軸等速回転継手46が配設されている。
【0072】
平行二軸等速回転継手46においては、互いに向き合う対向面側で第1変速ディスク37と第2変速ディスク39とには、同一ピッチ円Qp上に沿って一連の円形孔群40、41が周方向に形成されている。第1変速ディスク37の円形孔群40は、断面略円弧状で複数の円形孔40aからなり、第2変速ディスク39の円形孔群41は、断面略円弧状で複数の円形孔41aからなっている。円形孔40aと円形孔41aとは同一径寸法であり、円形孔40a(41a)と後述する転動ボール体47との直径差を第2偏心量e2に等しくしている。
【0073】
複数から成る転動ボール体47は、平行二軸等速回転継手46を構成し、第1変速ディスク37の円形孔40aと第2変速ディスク39の円形孔41aとにかけて転動可能に配されている{図7(b)参照}。入力軸36Aの回転に伴い、第1変速ディスク37の複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で第2変速ディスク39に伝えるようになっている。
【0074】
出力ディスク41Aは、第2変速ディスク39に第3偏心量e3で偏心状態に対面するように近接状態に配置されている。出力ディスク41Aの第3曲線歯溝45に対向する面部には、第3ピッチ円Q3と同一寸法の第4ピッチ円Q4上に沿って周方向に形成されたサイクロイド系の第4曲線歯溝48を有する。
【0075】
第4曲線歯溝48は、断面略円弧状で波数を例えば20個に設定して、第3曲線歯溝45と波数差を2個としている。出力ディスク41Aの中央部には、入力軸36Aと反対側に突出する出力軸49を同軸上に形成している。このため、第3偏心量e3を正とし、第1偏心量e1と第2偏心量e2を負とすると、第3偏心量e3は第1偏心量e1と第2偏心量e2との和に等しくなっている(e3=|e1+e2|)。
【0076】
複数の第2転動ボール42は、第3曲線歯溝45と第4曲線歯溝48とにかけて配されており、第2変速ディスク39が出力ディスク41Aに対して複合運動を行う際、第2変速ディスク39の複合運動のうち旋回運動を吸収して自転変位のみを出力ディスク41Aから出力させるようになっている。
【0077】
ここで、研究・試作・実験時に、図8(a)に示すように、固定ディスク36の第1曲線歯溝43の波歯43wに第1転動ボール38のそれぞれが噛合してなす圧力角ω1の基準値となる噛合接線T1の法線Tnが集合力点として一点で交わることが判明した。第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44および第2変速ディスク39の第3曲線歯溝45についても同様に集合力点を求める。
【0078】
代表例として、固定ディスク36における第1曲線歯溝43の第1集合力点Px1を図8(b)に示し、出力ディスク41Aにおける第4曲線歯溝48の第2集合力点Px2を図8(c)に示す。これら第1集合力点Px1および第2集合力点Px2の各位置は、後述する実施例7の場合と異なり、固定ディスク36および出力ディスク41Aの内部に位置する。
【0079】
この時、第1偏心量e1の第1偏心位置Ep1から第1集合力点Px1までの距離を第1有効径L1とし、第2偏心量e2の第2偏心位置Ep2から第2集合力点Px2までの距離を第2有効径L2とすると、第1有効径L1と第2有効径L2とが等しくなるように設定している。
【0080】
さらに、第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44、第2変速ディスク39の第3曲線歯溝45および出力ディスク41Aの第4曲線歯溝48についても、同様に偏心位置から集合力点までの有効径を第1有効径L1あるいは第2有効径L2と同一に設定している。 すなわち、固定ディスク36の第1曲線歯溝43、第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44および第2変速ディスク39の第3曲線歯溝45および出力ディスク41Aの第4曲線歯溝48について求めた各有効径が互いに等しくなるように設定している。
【0081】
ちなみに、固定ディスク36の第1ピッチ円Q1および出力ディスク41Aの第4ピッチ円Q4を60.41mmとした場合、図8(b)、(c)および図9(b)に示すように、第1偏心量e1を0.91304462mmとし、第3偏心量e3を1.00000000mmとし、第1有効径L1および第2有効径L2を21.15157975mmに設定している。
【0082】
第1有効径L1と第2有効径L2とを等しく調整するにあたっては、第1ピッチ円Q1と第4ピッチ円Q4とを変えたり、第1曲線歯溝43と第4曲線歯溝48との転位量ないしはサイクロイド係数(=1−転位量)を変更することにより行う。
転位量については、第1曲線歯溝43(第4曲線歯溝48)の波歯を負の転位量で切り下げれば、第1集合力点Px1(第2集合力点Px2)は径方向に沿って中心部に変位するため、転位量の増減により第1有効径L1(第2有効径L2)を長さ調整することができる。第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44、第2変速ディスク39の第3曲線歯溝45についても同様に有効径を調整することができる。
【0083】
上記構成では、入力軸36Aへの回転入力に伴い、第1変速ディスク37が第1曲線歯溝43および第2曲線歯溝44に対して第1転動ボール38を転がせながら、自転変位と旋回変位とを含む複合運動を行う。第1変速ディスク37の複合運動は、平行二軸等速回転継手40Aを介して1対1の伝達比で第2変速ディスク39に伝えられる。
【0084】
すなわち、第1変速ディスク37が複合運動を行う際、平行二軸等速回転継手40Aの転動ボール体47が円形孔40a、41a内を転動することにより、第1変速ディスク37の複合運動のうち自転変位がそのまま第2変速ディスク39に伝わることになる。
複合運動が伝えられた第2変速ディスク39は、第3曲線歯溝45および第4曲線歯溝48に対して第2転動ボール42を転がせながら、複合運動を行って旋回変位を吸収し、自転変位のみを出力ディスク41Aに伝えて出力軸49を回転させる。
【0085】
この際、第1変速ディスク37の自転変位は、第1曲線歯溝43と第2曲線歯溝44との波数比に基づいて減速されたうえで、さらに第3曲線歯溝45と第4曲線歯溝48との波数比に基づいて減速される。これにより、第1変速ディスク37を小から大への広い範囲で減速させて出力ディスク41Aを回転させることができる。
【0086】
ここで、固定ディスク36(第1曲線歯溝43)の波数が22個、第1変速ディスク37(第2曲線歯溝44)の波数が24個、第2変速ディスク39(第3曲線歯溝45)の波数が22個、出力ディスク41A(第4曲線歯溝48)の波数が20個としているので、減速比Rpは下記のようにして算出される。
Rp=1−{22×22/(24×20)}
=1−(484/480)
=−1/120
この点、図9(a)では、第1曲線歯溝43の波数をA、第2曲線歯溝44の波数をB、第3曲線歯溝45の波数をC、第4曲線歯溝48の波数をDとして図9(c)の表に整理し、減速比Rpを下記の式により求めることができる。
Rp=1−{A×C/(B×D)}
【0087】
すなわち、減速比はRp、第1変速ディスク37および第2変速ディスク39の各波数に依存する減速割合で設定することができるので、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比が実現する。
広範囲な速比を実現させていながらも、平行二軸等速回転継手46を第1変速ディスク37と第2変速ディスク39との間に設ける簡素な構成で済み、製造コストを抑え得て量産するうえで有利となる。
【0088】
減速作動時、平行二軸等速回転継手46により、第1変速ディスク37の複合運動のうち自転変位が第2変速ディスク39に1対1の割合で確実に伝わる。このため、第1曲線歯溝43と第2曲線歯溝44とに対して第2転動ボール42が干渉することなく正規の状態で確実に噛み合って円滑に転動する。
【0089】
この結果、バックラッシュが除去されて騒音振動の発生がなく、減速時に回転が安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を達成することができる。
【0090】
なお、図9(d)、(e)は、実施例5における円形孔40aの変形例を示し、中央の凸部40Cを中心とし、断面が半円形となったドーナツ状の窪み部40Bに形成されている。転動ボール体47の直径Tdと窪み部40Bの円弧径Rdとを略同一とし、転動ボール体47が窪み部40Bに転動可能に嵌まるようにしている。
【0091】
図10は研究・実験・試作過程の初期に作製した複段減速装置50を示し、第1変速ディスク37および平行二軸等速回転継手46を用いずに、第2変速ディスク39を固定ディスク36と出力ディスク41Aとの間に直接並置させている。第2変速ディスク39には、円形孔群41に代わって第2曲線歯溝44を形成している。
【0092】
この場合には、第1曲線歯溝43と第2曲線歯溝44とに対する第1転動ボール38の干渉とともに、第3曲線歯溝45と第4曲線歯溝48とに対する第2転動ボール42の干渉が生じ、バックラッシュを多めに設定せざるを得ず、第1転動ボール38および第2転動ボール42の転動状態が円滑さを欠く不利があった。
【0093】
研究・実験・試作を反復・継続した後に判明したことであるが、円滑な回転による高精度で精密な複段減速装置35を実現させるには、平行二軸等速回転継手46を設けるとともに、代表例として前述したように固定ディスク36の第1曲線歯溝43および出力ディスク41Aの第4曲線歯溝48において集合力点Px1、Px2を求めて有効径L1、L2を等しく設定する必要があった(図8参照)。
【0094】
すなわち、固定ディスク36の第1曲線歯溝43、第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44および第2変速ディスク39の第3曲線歯溝45および出力ディスク41Aの第4曲線歯溝48について求めた各有効径が互いに等しくなるように設定している。
この要件は、実施例1に鑑みると、第1リングギア3の内歯ピッチ円P1と第2リングギア12の内歯ピッチ円P4とを等しく設定する場合に相当すると考えられる。
この観点から、集合力点Px1、Px2は、ディスクの曲線歯溝と転動ボールとの噛合位置に変換可能なものと想定すれば、仮想噛合いピッチ円上の点と言うこともできる。
【0095】
図11は、固定ディスク36、第1変速ディスク37、複数の第1転動ボール38、第2変速ディスク39、平行二軸等速回転継手46、出力ディスク41Aおよび第2転動ボール42を組付けて複段減速装置35を具体化した縦断面図を示す。
入力軸36Aのうち第1偏心量e1、第2偏心量e2および第3偏心量e3が存する側を一方向(紙面の表面側)に指向させ、入力軸36Aと出力軸49の中心軸Cpに対する位置ずれ量を総合偏心量Ep4としている。
【0096】
入力軸36Aのうち右端部36Bは、ハウジング51に設けた第1玉軸受52に回転可能に支持され、左端部の第3中間部36Eは、第2玉軸受54により回転可能に支持されている。入力軸36Aにおける第1中間部36Cは、第1変速ディスク37を第1ころ軸受53により第1偏心量e1および第2偏心量e2で複合運動可能に支持し、第2中間部36Dは、第2変速ディスク39を第2ころ軸受53aにより第2偏心量e2および第3偏心量e3で複合運動可能に支持している。
【0097】
出力ディスク41Aは、軸芯と同軸の第3中間部36Eを第2玉軸受54に支持させながら、皿状のテーパ部41bを第3玉軸受55およびスラスト軸受56により回転可能に支持させている。テーパ部41bは、左端の出力軸49に向かって一体に延出し、途中部位を第4玉軸受57により支持させている。
【0098】
入力軸36Aのうち第1偏心量e1、第2偏心量e2および第3偏心量e3が存する側を一方向に指向させているので、入力軸36Aにバランスウエイト58を装着させて、入力軸36Aの回転時にフライホイール効果による回転の円滑化を図っている。
【0099】
図12の複段減速装置35では、図11における入力軸36Aのうち第1偏心量e1と第2偏心量e2とが存する側と第3偏心量e3が存する側とを180度の位相差をもって並置させた状態を示す。出力軸49の中心軸Cpに対する第1偏心量e1と第2偏心量e2との偏心方向を和偏心Esとして紙面の下方に向け、第3偏心量e3の偏心方向を単偏心Etとして紙面の上方に向けている。
【0100】
この場合、和偏心Esと単偏心Etとが180度の位相差をもって相対するので、回転時にバランスを確保することができ、入力軸36Aにバランスウエイト58をフライホイールとして装着させる必要がなくなる。
【0101】
図13の複段減速装置35では、図12における固定ディスク36(第1曲線歯溝43)の波数、第1変速ディスク37(第2曲線歯溝44)の波数、第2変速ディスク39(第3曲線歯溝45)の波数および出力ディスク41A(第4曲線歯溝48)の波数を少なく設定して比較的小さな減速比を達成している。すなわち、前述のディスク波数を順に9個、10個、8個および9個とすれば、減速比Rcは下記の手順で算出される。
Rc=1−{9×8/(9×10)}
=1−72/90
=1/5
【実施例8】
【0102】
図14および図15は本発明の実施例8を示す。実施例8では、図11に示す実施例7の構成においてハイポサイクロイド系の遊星歯車機構を複段減速装置61として設けている。この複段減速装置61では、図14(a)、(b)に示すように、歯数を例えば45個とする第1外歯ピニオン62(外歯トロコイドピニオン)を設け、歯数を例えば40個とする第2外歯ピニオン63(外歯トロコイドピニオン)を設けている。
【0103】
第1外歯ピニオン62は、入力軸36Aの右端部36Bに第1ころ軸受53により回転可能に支持されて、外周の第1ピニオン歯62aを第1ピンピニオン64の内歯である円柱ピン歯64aに噛合させている{図15(a)参照}。
【0104】
第1ピンピニオン64は、図15(b)に示すように、例えば46個の円柱ピン歯64aをケージ状のリング65a、65bの間にニードル軸65により周方向に等角度間隔で自転可能に取付けられている。
【0105】
第2外歯ピニオン63は、入力軸36Aの第1中間部36Cに第2ころ軸受53aにより回転可能に支持されて、外周の第2ピニオン歯63aを第2ピンピニオン66の内歯である円柱ピン歯66aに噛合させている。第2ピンピニオン66は、図15(b)に示すように、例えば41個の円柱ピン歯66aをケージ状のリング65b、65cの間にニードル軸67により周方向に等角度間隔で自転可能に取付けられている。
【0106】
第1外歯ピニオン62および第2外歯ピニオン63を入力軸36Aに取付ける前工程として、第1外歯ピニオン62の第1集合力点Px3および第2外歯ピニオン63の第2集合力点Px4を図8の実施例7と同様にして求める。第1集合力点Px3および第2集合力点Px4の位置は、図8に示す実施例7と異なり、第1外歯ピニオン62および第2外歯ピニオン63の外部に位置する。
第1外歯ピニオン62の中心線PL1からの偏心量Ep5および第2外歯ピニオン63の中心線PL2からの偏心量Ep6を設定した後、偏心量Ep5の偏心位置Er1と集合力点Px3との距離に相当する有効径Lxを求める。
【0107】
第2外歯ピニオン63における偏心量Ep6の偏心位置Er2と集合力点Px4との距離に相当する有効径Lyを求める。第1外歯ピニオン62および第2外歯ピニオン63の各転位量を調整することにより、第1集合力点Px3および第2集合力点Px4の位置を変更して、第1集合力点Px3からの有効径Lxと第2集合力点Px4からの有効径Lyとを等しくする。
【0108】
一例として、第1外歯ピニオン62のピッチ半径Rfを49.29577951mm、第1ピンピニオン64のピッチ半径Rgを50.56901906mmとし、両ピッチ半径の差1.27323955mmを偏心量Ep5としている。
第2外歯ピニオン63のピッチ円Rhを49.16218663mm、第2ピンピニオン66のピッチ円Riを50.59069929mmとし、両ピッチ半径の差1.42851266mmを偏心量Ep6としている。
【0109】
第1外歯ピニオン62の転位量S1を8.00000000mm、第1ピニオン歯62aの歯数N1を45個とし、第1ピンピニオン64における円柱ピン歯64aの歯数M1を46個としている。
第2外歯ピニオン63の転位量S2を7.97831970mm、第2ピニオン歯63aの歯数N2を40個とし、第2ピンピニオン66における円柱ピン歯66aの歯数M2を41個としている。この場合、複段減速装置61における減速比Rtは、具体的には後に算出するように、Rt=1−{M1×N2/(N1×M2)}により得られる。
【0110】
第1外歯ピニオン62と第2外歯ピニオン63とは、図15に示すように、互いに近接並置されており、これらの間には、実施例5の平行二軸等速回転継手46と同様なボール式の平行二軸等速回転継手68を設けている。第1外歯ピニオン62には、所定のピッチ円Pe1上に沿って複数(例えば6個)の円形孔69が一定の径寸法Dp1で等角度間隔で形成されている。第2外歯ピニオン63にも、ピッチ円Pe1と同一なピッチ円Pe2上に沿って円形孔69と同数の円形孔70が径寸法Dp2で等角度間隔で形成されている。円形孔69の個数や径寸法Dp1は、円形孔70の個数や径寸法Dp2と同一でも異なっていてもよく、使用状況などによって所望に設定することができる。
【0111】
第1外歯ピニオン62の円形孔69と第2外歯ピニオン63の円形孔70とには、例えばスチールにより形成された転動ボール体71が両円形孔69、70の内周部を周方向に転がるように配置されている。転動ボール体71は両円形孔69、70よりも径小に設定されており、転動ボール体71の径寸法Dp3と円形孔69の直径Dp1との差を第1外歯ピニオン62の偏心量Ep5に等しくし、転動ボール体71の径寸法Dp3と円形孔70の直径Dp2との差を第2外歯ピニオン63の偏心量Ep6に等しくしている。そして、第1外歯ピニオン62の円形孔69、第2外歯ピニオン63の円形孔70および転動ボール体71により平行二軸等速回転継手68を構成している。
【0112】
互いに近接並置された第2外歯ピニオン63と固定ディスク36との間にも、平行二軸等速回転継手68と同様なボール式の平行二軸等速回転継手72を設けている。この平行二軸等速回転継手72も、第2外歯ピニオン63の円形孔73、固定ディスク36の円形孔74およびスチール製の転動ボール体75により構成されている。転動ボール体75と円形孔74との直径差を第2外歯ピニオン63の偏心量Ep6に等しくしている。
【0113】
この状態で入力軸36Aを時計回り方向に回転させると、第1外歯ピニオン62が入力軸36Aの右端部36Bに第1ころ軸受53を介して嵌め込まれていることから、第1ピンピニオン64における円柱ピン歯64aに噛合いながら自転変位と旋回変位とからなる複合運動を行う。
これに伴い、平行二軸等速回転継手68の転動ボール体71が第1外歯ピニオン62の円形孔69の内周部および第2外歯ピニオン63の円形孔70との内周部を転がり、第1外歯ピニオン62の旋回変位を吸収して、自転変位のみを第2外歯ピニオン63に1対1の伝達比で伝える。
【0114】
第2外歯ピニオン63は、入力軸36Aの第1中間部36Cに第2ころ軸受53aを介して嵌め込まれていることから、第2ピンピニオン66における円柱ピン歯66aに噛合いながら自転変位と旋回変位とからなる複合運動を行う。これに伴い、平行二軸等速回転継手72の転動ボール体75が第2外歯ピニオン63の円形孔73の内周部および出力ディスク41Aの円形孔74との内周部を転がり、第2外歯ピニオン63の旋回変位を吸収して、自転変位のみを出力ディスク41Aに1対1の伝達比で伝える。
【0115】
出力ディスク41Aは、入力軸36Aと同軸の第3中間部36Eが第2玉軸受54を介して嵌め込まれていることから、第2外歯ピニオン63の自転変位を受けて時計回り方向に回転する。
【0116】
この際、第1外歯ピニオン62は、第1ピニオン歯62aの歯数N1と第1ピンピニオン64の円柱ピン歯64aの歯数M1との除算比により減速されたうえで、さらに第2外歯ピニオン63における第2ピニオン歯63aの歯数N2と第2ピンピニオン66における円柱ピン歯66aの歯数M2との除算比により減速される。
【0117】
すなわち、第1ピニオン歯62aの歯数N1が45個、円柱ピン歯64aの歯数M1が46個、第2ピニオン歯63aの歯数N2が40個、ならびに円柱ピン歯66aの歯数M2が41個であるため、複段減速装置61における減速比Rtは、1−{46×40/(45×41)}により(−1/369)となり、著しく小さい減速比Rtを得ることができる。
【0118】
小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比を実現させていながらも、ボール式の平行二軸等速回転継手68を第1外歯ピニオン62と第2外歯ピニオン63の間に設け、同様の平行二軸等速回転継手72を第2外歯ピニオン63と出力ディスク41Aとの間に設ける簡素な構成で済み、製造コストを抑え得て量産するうえで有利となる。
【0119】
減速作動時、平行二軸等速回転継手68により、第1外歯ピニオン62の複合運動のうち自転変位が1対1の伝達比で第2外歯ピニオン63に伝わり、平行二軸等速回転継手72により、第2外歯ピニオン63の複合運動のうち自転変位が1対1の伝達比で出力ディスク41Aに伝わる。
【0120】
このため、第1外歯ピニオン62と第2外歯ピニオン63とに対して転動ボール体71が干渉せず、出力ディスク41Aに対しても転動ボール体75が干渉せず、バックラッシュを生じることなく正規の状態で確実に噛み合い、騒音振動の発生がなく、減速時に全体の回転が円滑で安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を図ることができる。
【0121】
第2外歯ピニオン63と出力ディスク41Aとの間に、歯数M1、M2とは異なる歯数の第3ピンピニオン、ならびに歯数N1、N2とは異なる歯数の第3外歯ピニオン(ともに図示せず)を対面並置し、第3外歯ピニオンと第2外歯ピニオン63との間に平行二軸等速回転継手(図示せず)を設けるとともに、第3外歯ピニオンと出力ディスク41Aとの間に他の平行二軸等速回転継手(図示せず)を設けてもよい。
【0122】
この場合、入力軸36Aの回転は、第1外歯ピニオン62と第2外歯ピニオン63とによる二段減速に加えて、第2外歯ピニオン63と第3外歯ピニオンとにより三段階の減速が行われる。
すなわち、第1外歯ピニオン62の自転変位は、二段減速に減速されたうえで、第3外歯ピニオンの第3ピニオン歯の歯数と第3ピンピニオンの円柱ピン歯の歯数との除算比に基づいて分割される。
【0123】
これにより、第1外歯ピニオン62の自転変位の自転変位を小から大に到る広い範囲で減速することが可能となり、さらに小さな減速比から格段に大きな減速比まで一層広範囲な速比を実現させることができる。
極端に大きな減速比を実現させる場合には、第3外歯ピニオンに加えて、第4外歯ピニオン、第5外歯ピニオンといったように多数組の外歯ピニオンを平行二軸等速回転継手により交互に連結して多重に並置させてもよい。
なお、第1外歯ピニオン62のピッチ円Rfと第2外歯ピニオン63のピッチ円Rhとは同一でなく異なっていてもよく、第1ピンピニオン64のピッチ円Rgと第2ピンピニオン66のピッチ円Riとも同一でなく異なっていてもよい。
【0124】
(a)実施例1における第1偏心歯車2、第1リングギア3、第2偏心歯車11、第2リングギア12の各歯数は、適用対象や使用状況により所望に変更してもよい。実施例5における固定ディスク36、第1変速ディスク37、第2変速ディスク39および出力ディスク41Aの各波数についても同様である。
実施例1の第1リングギア3内の第1偏心歯車2と第2リングギア12内の第2偏心歯車11とは、理論上、平行二軸等速回転継手を介して交互にn個だけ並置することができる。
実施例5の固定ディスク36、第1変速ディスク37、第2変速ディスク39および出力ディスク41Aについても、理論上、第1変速ディスク37と第2変速ディスク39とを一組としてn組の多重並置が可能である。
【0125】
(b)実施例7における第1外歯ピニオン62の第1ピニオン歯62aの歯数N1、第1ピンピニオン64の円柱ピン歯64aの歯数M1、第2外歯ピニオン63の第2ピニオン歯63aの歯数N2、ならびに第2ピンピニオン66の円柱ピン歯66aの歯数M2についても必要な個数に変更してもよい。
実施例7の第1外歯ピニオン62と第1ピンピニオン64との組、ならびに第2外歯ピニオン63と第2ピンピニオン66との組は、理論上、平行二軸等速回転継手を介して交互にn組として多重に並置することができるものである。
【0126】
(c)実施例5における第1転動ボール38、第2転動ボール42および転動ボール体47は、スチール(鋼材)製に限らず、軟鋼、ステンレススチール、強化セラミックあるいは種々の金属合金により形成してもよい。実施例5のボール式の平行二軸等速回転継手46に代わって、実施例1の回転伝達体16の平行二軸等速回転継手13を用いてもよい。逆に実施例1の回転伝達体16の平行二軸等速回転継手13に代わって、実施例5のボール式の平行二軸等速回転継手46を用いてもよい。
【0127】
(d)回転伝達体16は、短円柱に限らず、必要に応じて形状を変更することができる。回転伝達体16の材質は、鋼材などの金属材料や強化セラミックを適用することができる。
(e)固定ディスク36の第1曲線歯溝43、第1変速ディスク37の第2曲線歯溝44、第2変速ディスク39の第3曲線歯溝45および出力ディスク41Aの第4曲線歯溝48は、エピサイクロイド系に限らず、ハイポサイクロイド系、ペリトロコイド系、エピトロコイド系などといったように、物体の回転により軌跡として生じる種々の曲線を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
複段減速装置では、1対1の伝達比でトルク伝達可能な平行二軸等速回転継手を用いることにより、小さな減速比から大きな減速比まで広範囲な速比を簡素な構成でコスト的に有利に実現できるとともに、騒音振動の発生がなく、減速時に全体の回転が円滑で安定し、信頼度の高い作動、優れた回転伝達精度および長寿命化を達成する。小型ながらも極めて広範囲で高精度な減速比を達成できる有益性から生産の効率化を求める需要者の増加に伴い、関連部品の流通を介して機械産業界へ広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】(a)は複段減速装置を示す分解斜視図(実施例1)、(b)は複段減速装置を示す模式図である(実施例1)。
【図2】(a)は第1偏心歯車と第2偏心歯車との間に設けた平行二軸等速回転継手を示す斜視図、(b)は複段減速装置の縦断面図である(実施例1)。
【図3】(a)はオルダム継手を示す分解斜視図(実施例2)、(b)は他のオルダム継手を示す分解斜視図である(実施例3)。
【図4】ピンと円形孔とにより構成した平行二軸等速回転継手を示す斜視図である(実施例4)。
【図5】(a)は偏心歯車に内歯ピニオンを適用し、リングギアにピンピニオンを適用した例を示す正面図(実施例5)、(b)は噛合状態を示す拡大部分正面図である(実施例5)。
【図6】偏心歯車に外歯ピニオンを適用し、リングギアにピンピニオンを適用した例を示す正面図である(実施例6)。
【図7】(a)は複段減速装置を示す分解斜視図(実施例7)、(b)は(a)のK1−K1に沿う拡大縦断面図である(実施例7)。
【図8】(a)は圧力角の基準値となる噛合接線の法線を示すための模式図(実施例7)、(b)は固定ディスクにおける集合力点を示す模式図(実施例7)、(c)は出力ディスクにおける集合力点を示す模式図である(実施例7)。
【図9】(a)は複段減速装置を示す模式図(実施例7)、(b)は入力軸の偏心状態を示す模式図(実施例7)、(c)は減速比を算出するための図表(実施例7)、(d)、(e)は実施例7における円形孔の変形例である。
【図10】比較のため研究・実験・試作過程の初期に作製した複段減速装置を示す分解斜視図である(比較図)。
【図11】第1変速ディスクと第2変速ディスクとを同位相で組付けて構成した複段減速装置の縦断面図である(実施例7)。
【図12】第1変速ディスクと第2変速ディスクとを180°の位相差で組付けて構成し必要部品を組付けて構成した複段減速装置の縦断面図である(実施例7)。
【図13】第1変速ディスクと第2変速ディスクとを180°の位相差で組付けて構成し、比較的大きな減速比を例示した複段減速装置の縦断面図である(実施例7)。
【図14】(a)、(b)は外歯ピニオンとピンピニオンとを示す正面図である(実施例8)。
【図15】複段減速装置を示す縦断面図である(実施例8)。
【図16】従来の複段減速装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0130】
1、35、61 複段減速装置
2 第1偏心歯車
2a 外歯
2A 第1偏心歯車の外側面
3 第1リングギア
3a 内歯
4 クランク入力軸
7 入力軸
11 第2偏心歯車
11a 外歯
11A 第2偏心歯車の外側面
12 第2リングギア
12a 内歯
12A 出力軸
13、 平行二軸等速回転継手
13S オルダム継手(平行二軸等速回転継手)
13T 平行二軸等速回転継手
14、15 円形孔群
14a、15a 円形孔
16 回転伝達体
20 第3リングギア
21 第3偏心歯車
36 固定ディスク
36A 入力軸
37 第1変速ディスク
38 第1転動ボール
39 第2変速ディスク
40、41 円形孔群
40a、41a 円形孔
41A 出力ディスク
42 第2転動ボール
43 第1曲線歯溝
44 第2曲線歯溝
45 第3曲線歯溝
46、68、72 ボール式の平行二軸等速回転継手
48 第4曲線歯溝
47、75 転動ボール体
49 出力軸
59 第3変速ディスク
60 第4変速ディスク
62 第1外歯ピニオン
62a 第1ピニオン歯
63 第2外歯ピニオン
63a 第2ピニオン歯
64 第1ピンピニオン
64a 円柱ピン歯(第1ピンピニオンの内歯)
66 第2ピンピニオン
66a 円柱ピン歯(第2ピンピニオンの内歯)
70、73 円形孔
P1、P4 内歯ピッチ円
P2、P3 外歯ピッチ円
Px1、Px3 第1集合力点
Px2、Px4 第2集合力点
e1 第1偏心量
Ep1 第1偏心位置
e2 第2偏心量
Ep2 第2偏心位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク入力軸を有して固定型の第1リングギアの内歯に噛合し、前記クランク入力軸の回転に伴い、自転変位と旋回変位とから成る複合運動を行う第1偏心歯車と、
前記第1偏心歯車に前記クランク入力軸と偏心状態に連結されて、前記第1リングギアの内歯とは異なる歯数で自由回転可能に設けられて第2リングギアの内歯に噛合する第2偏心歯車と、
前記第1偏心歯車と前記第2偏心歯車とを連結するように設けられた第1変速クランク軸と、
前記第1偏心歯車と前記第2偏心歯車との間を連結し、前記第1偏心歯車の前記複合運動を1対1の伝達比で前記第2偏心歯車に伝達するように配された平行二軸等速回転継手とを備え、
前記第1リングギアの内歯ピッチ円と前記第2リングギアの内歯ピッチ円とを同一寸法に設定し、
前記クランク入力軸の回転に伴い、第1偏心歯車の前記複合運動のうち自転変位を前記第1変速クランク軸および前記平行二軸等速回転継手を介して前記第2偏心歯車に伝達して前記第2リングギアに回転変位を出力させるようにしたことを特徴とする複段減速装置。
【請求項2】
前記平行二軸等速回転継手は、
互いに対向する前記第1偏心歯車の外側面と前記第2偏心歯車の外側面とに同一ピッチ円上に沿ってそれぞれ設けられた一連の円形孔群と、
前記第1偏心歯車の前記円形孔と前記第2偏心歯車の前記円形孔とにかけて転がり可能に遊嵌されて、前記円形孔の内周面に対して前記第1偏心歯車と前記第2偏心歯車との偏心量に応じた隙間を空けた円形の回転伝達体とを備え、
前記クランク入力軸の回転に伴い、前記回転伝達体が前記第1偏心歯車の前記円形孔および前記第2偏心歯車の前記円形孔の各内周面を転がることにより、前記第1偏心歯車の前記複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で前記第2偏心歯車に伝達することを特徴とする請求項1に記載の複段減速装置。
【請求項3】
前記第1偏心歯車および前記第2偏心歯車は、サイクロイド系ピニオンとし、前記第1リングギアおよび前記第2リングギアはピンピニオンとしていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の複段減速装置。
【請求項4】
片面に第1ピッチ円上に沿って周方向に形成されたサイクロイド系の第1曲線歯溝を有する固定ディスクと、
入力軸を連結して前記固定ディスクに対して第1偏心量で偏心状態に近接対面し、前記第1曲線歯溝に対応する面部に前記第1ピッチ円と同一の第2ピッチ円上に沿って形成されて、前記第1曲線歯溝と波数差を1個または2個とするサイクロイド系の第2曲線歯溝を有する第1変速ディスクと、
前記第1曲線歯溝と前記第2曲線歯溝とにかけて配されており、前記入力軸の回転に伴い、前記固定ディスクに対して前記第1変速ディスクに自転変位と旋回変位とからなる複合運動を生じさせる複数の第1転動ボールと、
前記第1変速ディスクに対して第2偏心量で偏心状態に近接対面し、対面する側とは反対側に第3ピッチ円上に沿って周方向に形成されたサイクロイド系の第3曲線歯溝を有する第2変速ディスクと、
前記第1変速ディスクと前記第2変速ディスクとの間に設けられ、前記第1変速ディスクの前記複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で前記第2変速ディスクに伝える平行二軸等速回転継手と、
出力軸を有して前記第2変速ディスクに第3偏心量で偏心状態に近接対面するように設けられ、前記第3曲線歯溝に対向する面部に前記第3ピッチ円と同一寸法の第4ピッチ円上に沿って周方向に形成されて、前記第3曲線歯溝と波数差を1個または2個とするサイクロイド系の第4曲線歯溝を有する出力ディスクと、
前記第3曲線歯溝と前記第4曲線歯溝とにかけて配されており、前記第2変速ディスクの前記複合運動のうち旋回運動を吸収して自転変位のみを前記出力ディスクに伝達する複数の第2転動ボールとを備え、
前記固定ディスクの前記第1曲線歯溝および前記第1変速ディスクの前記第2曲線歯溝に前記第1転動ボールのそれぞれが噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第1集合力点を設定するとともに、前記第2変速ディスクの前記第3曲線歯溝および前記出力ディスクの前記第4曲線歯溝に前記第2転動ボールのそれぞれが噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第2集合力点を設定し、前記第1偏心量の第1偏心位置から前記第1集合力点に到る距離と前記第3偏心量の第3偏心位置から前記第2集合力点に到る距離とを等しくしたことを特徴とする複段減速装置。
【請求項5】
前記平行二軸等速回転継手は、
互いに対面する前記第1変速ディスクと前記第2変速ディスクとに同一ピッチ円上に沿って、前記第2偏心量に応じた半径寸法にそれぞれ形成された一連の円形孔群と、
前記第1変速ディスクの前記円形孔と前記第2変速ディスクの前記円形孔とにかけて転動可能に配されて、前記第1変速ディスクの前記複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で前記第2変速ディスクに伝える複数の転動ボール体とを備えていることを特徴とする請求項4に記載の複段減速装置。
【請求項6】
外周部にサイクロイド系曲線による歯面プロフィールで形成した第1ピンピニオンの内歯に噛合する第1ピニオン歯を有し、前記第1ピンピニオンに噛合しながら旋回変位と自転変位とからなる複合運動を行うように偏心状態に配された第1外歯ピニオンと、
前記第1外歯ピニオンと近接対面かつ偏心状態に並置され、サイクロイド系曲線による歯面プロフィールで第2ピンピニオンの内歯に噛合する第2ピニオン歯を有し、前記第2ピンピニオンに噛合しながら旋回変位と自転変位とからなる複合運動を行う第2外歯ピニオンと、
前記第1外歯ピニオンと前記第2外歯ピニオンとの間に設けられ、前記第1外歯ピニオンの前記複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で前記第2外歯ピニオンに伝える平行二軸等速回転継手と、
前記第2外歯ピニオンと近接対面かつ偏心状態に並置された出力ディスクと、
前記第2外歯ピニオンと前記出力ディスクとの間に設けられ、前記第2外歯ピニオンの前記複合運動のうち自転変位を1対1の伝達比で前記出力ディスクに伝える平行二軸等速回転継手とを備え、
前記第1外歯ピニオンの前記第1ピニオン歯のそれぞれが前記第1ピンピニオンの前記内歯に噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第1集合力点を設定するとともに、前記第2外歯ピニオンの前記第2ピニオン歯のそれぞれが前記第2ピンピニオンの前記内歯に噛合により接して圧力角を成す接線の法線が一点で交わる第2集合力点を設定し、
前記第1外歯ピニオンの偏心位置から前記第1集合力点に到る距離と前記第2外歯ピニオンの偏心位置から前記第2集合力点に到る距離とを等しくしたことを特徴とする複段減速装置。
【請求項7】
前記第1外歯ピニオンと前記第2外歯ピニオンとの間に設けられた前記平行二軸等速回転継手は、
互いに対面する前記第1外歯ピニオンと前記第2外歯ピニオンとに同一ピッチ円上に沿って、前記第1外歯ピニオンの偏心状態に応じた半径寸法にそれぞれ形成された一連の円形孔群と、
前記第1外歯ピニオンの前記円形孔と前記第2外歯ピニオンの前記円形孔とにかけて転動可能に配されて、前記第1外歯ピニオンの前記複合運動のうち前記自転変位を1対1の伝達比で前記第2外歯ピニオンに伝える複数の転動ボール体とを備え、
前記第2外歯ピニオンと前記出力ディスクとの間に設けられた前記平行二軸等速回転継手は、
互いに対面する前記第2外歯ピニオンと前記出力ディスクとに同一ピッチ円上に沿って、前記第2外歯ピニオンの偏心状態に応じた半径寸法にそれぞれ形成された一連の円形孔群と、
前記第1外歯ピニオンの前記円形孔と前記出力ディスクの前記円形孔とにかけて転動可能に配されて、前記第1外歯ピニオンの前記複合運動のうち前記自転変位を1対1の伝達比で前記出力ディスクに伝える複数の転動ボール体とを備えていることを特徴とする請求項6に記載の複段減速装置。
【請求項8】
前記第1転動ボールおよび前記第2転動ボールはスチール製であることを特徴とする請求項6に記載の複段減速装置。
【請求項9】
前記転動ボール体はスチール製であることを特徴とする請求項7に記載の複段減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−121494(P2009−121494A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292699(P2007−292699)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000124188)加茂精工株式会社 (14)
【出願人】(597059203)
【Fターム(参考)】