視覚的力表示器並びに視覚的力理科教材及び科学玩具
【課題】使用する際の向きの制約を受けることなく、作用している力の向きと大きさを視覚的に表示できる力表示器を提供することを目的とする。
【解決手段】3軸加速度センサ20から取得するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の加速度に基づいて、軸方向の各々について、3軸加速度センサ20に作用する重力以外の力に対応する短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)及び3軸加速度センサ20に作用する重力に対応する長周期加速度値Lx、Ly及びLzを求める。次いで、短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)及び長周期加速度値Lx、Ly及びLzに基づいて、軸方向の各々について表示情報を生成する。この表示情報に基づいて軸方向に作用する力の向きと大きさを表示する。
【解決手段】3軸加速度センサ20から取得するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の加速度に基づいて、軸方向の各々について、3軸加速度センサ20に作用する重力以外の力に対応する短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)及び3軸加速度センサ20に作用する重力に対応する長周期加速度値Lx、Ly及びLzを求める。次いで、短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)及び長周期加速度値Lx、Ly及びLzに基づいて、軸方向の各々について表示情報を生成する。この表示情報に基づいて軸方向に作用する力の向きと大きさを表示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に作用している力の向きと大きさを視覚的に認識できる表示器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
学校教育の現場において、理科離れが叫ばれている。その理由の一つとして、理科で扱われる事柄の中には、視覚的に認識できないものがあることが掲げられる。一例として、力の概念がある。つまり、力は目に見えないために、その向きと大きさを視覚的に捉えることができず、中高生にとって難解なものの一つとなっている。したがって、教育現場において、物体に作用している力の向きと大きさを視覚化できる教材が求められている。
直交する2軸(又は3軸)の加速度を加速度センサにより検出し、基準方向と重力加速度とのなす角度、つまり傾斜角を求める傾斜センサは種々提案されている(特許文献1、特許文献2)。加速度センサを用いて傾斜角を求めることは、力の向きを認識することに対して示唆を与えるものであるが、特許文献1、特許文献2等は力の向きと大きさの両者を視覚化して表示できる機器を開示するものではなかった。
以上に対して本発明者らは、非特許文献1において力の向きと大きさの両者を視覚化して表示できる機器を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3114571号公報
【特許文献2】特開2008−96355号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】伊東明彦・渡辺一博、力の学習を支援する力表示器「Fi−Cube」の製作と授業実践、宇都宮大学教育学部紀要、59−2、13−26、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載される力表示器(以下、従来の力表示器)は、物体に作用している力の向きと大きさを視覚化できる教材として独創的なものであった。ところが、従来の力表示器は、3軸加速度センサのz軸方向で取得される加速度の出力を、重力を表示するのに用いるとともに、力表示器の傾きを算出するのに用いる。そのために従来の力表示器は、z軸方向について、重力は測定できるものの、作用する力に対応する短時間の動きには反応しないように設定されていた。一方、x軸方向(又はy軸方向)については、z軸方向とは逆に、力に対応する短時間の動きにのみ反応するように設定されていた。したがって、従来の力表示器は、z軸方向を鉛直方向に揃えて自由落下(又は投げ上げ)させても、z軸方向に力(加速度)を表示させることができず、自由落下させる場合にはx軸方向(又はy軸方向)を鉛直方向に揃える制約があった。
本発明は、このように使用する際の向きの制約を受けることなく、作用している力の向きと大きさを視覚的に表示できる力表示器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
力は運動方程式F=m・aによって定義される。つまり、ある物体に働く力Fは質量mを比例定数として加速度aで表される。したがって、物体の加速度を可視化することは、力を可視化したことと等価になる。本発明の視覚的力表示器(以下、単に力表示器)はこの考えに従ったものであり、内部に装備された3軸加速度センサにより物体の加速度を測定し、これに基づいて力を視覚的に表示する。
力表示器として持つべき要件について述べる。水平な支持面上に置かれた物体には、地球の重力と支持面から受ける垂直抗力の2つの力が働いている。したがって、この場合には、z軸方向(鉛直方向)の下向きと上向きに同じ量の表示を行うことが必要である。しかしながら、地球上の物体には常に重力が働いているため、静止している加速度センサは上向きの加速度、つまりは上向きの力を常に出力していることになる。この上向きの力は支持面から受ける垂直抗力に対応する。ところが、重力に対応する加速度の出力を得ることができない。
【0007】
この課題に対して上述した従来の力表示器は、z軸方向で取得される加速度の出力を、重力を表示するのに用いていたが、力表示器の傾きを算出するのにも用いていたため、自由落下(又は投げ上げ)させる場合には、x軸方向を鉛直方向に揃える制約があった。これに対して本発明は、3軸加速度センサの各軸(x軸、y軸及びz軸)の各々について、重力に対応する加速度に関する情報と、重力以外の力に対応する加速度に関する情報の両者を求めることで、使用する向きの制約を排除することを可能とした。
本発明の力表示器は、3軸加速度センサと、コントローラと、表示体とを備える。
3軸加速度センサは、互いに直交するx軸方向と、y軸方向と、z軸方向の各々の軸方向について加速度を検出する。
コントローラは、3軸加速度センサから取得するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の加速度に基づいて、軸方向の各々について、3軸加速度センサに作用する重力以外の力に対応する加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び3軸加速度センサに作用する重力に対応する加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を算出する。コントローラは、また、算出された加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び加速度情報L(Lx、Ly及びLz)に基づいて、軸方向の各々について表示情報を生成する。
表示体は、コントローラで生成された表示情報に基づいて軸方向に作用する力の向きと大きさを表示する。
【0008】
本発明の力表示器において、コントローラは、力表示器が加速度運動又は非加速度運動のいずれの状態にあるのかを判断することができる。この判断を行うことで、加速度運動又は非加速度運動に対応した適切な表示を実現することが可能になる。この判断は、起動後に特定した基準重力G0と、加速度の絶対値G1とを比較することで行われる。ただし、加速度の絶対値G1は、基準重力G0を特定した後に算出される加速度情報S(Sx、Sy及びSz)から、G1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2により与えられる。
【0009】
また本発明の力表示器において、コントローラは、表示器が非加速度運動の状態にあるものと判断すると、加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、3軸加速度センサに作用する重力に対応する表示情報として扱うことができる。また、視覚的力表示器が加速度運動の状態にあるものと判断すると、加速度運動を開始する前の加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、3軸加速度センサに作用する重力に対応する表示情報として扱うことができる。
【0010】
本発明の力表示器において、コントローラは、力の向きと大きさの表示について第1のモードと第2のモードを備えることができる。
第1のモードは、重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが逆の場合には、重力Gと加速度情報Sを各々独立した表示情報として扱う。また、第1のモードにおいては、重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが同じ場合には、重力Gと加速度情報Sとを加えたものを表示情報として扱う。
第2のモードは、重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きに係らず、常に、重力Gと加速度情報Sとを加えたものを表示情報として扱う。
【0011】
本発明の力表示器において、コントローラは、基準重力G0を特定する以前から、加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を算出し、基準重力G0を特定した際に与えられる各軸方向の加速度情報L0(Lx0、Ly0及びLz0)により初期重力値Gx0=−Lx0、Gy=−Ly及びGz=−Lz)として記憶することができる。
【0012】
以上の本発明による視覚的力表示器は、理科教材、科学玩具として使用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3軸加速度センサの各軸(x軸、y軸及びz軸)の各々について、重力に対応する加速度に関する情報と、重力以外の力に対応する加速度に関する情報の両者を求めることで、使用する向きの制約を排除することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態における力表示器の外観を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態における力表示器の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態の力表示器におけるコントローラにおける処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態の力表示器におけるコントローラにおける処理の手順を示すフローチャートであり、図3に示す処理以降の処理を示す。
【図5】重力のz軸方向の成分に応じて点灯されるLEDの数を定めるテーブルの一例を示す。
【図6】水平面に静止する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図7】図6と向きを変えた力表示器の点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図8】自由落下する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図9】外力を受けて水平面上を直線加速度運動する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図10】外力を受けずに水平面上を等速直線運動する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図11】傾斜面に静止する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図12】傾斜面を自由滑走する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図13】(a)は軸Sの周りに自由に回転する円盤上に置かれている通常モードの力表示器を示し、(b)はx−y表示面のLEDの点灯状態を示している。
【図14】正立された通常モード(第1のモード)の力表示器を時計回りに90度回転させる過程におけるx−z表示面のLEDの点灯状態の変遷を示す図である。
【図15】水平面に支持された実作用モード(第2のモード)の力表示器を自由落下させる過程におけるx−z表示面のLEDの点灯状態の変遷を示す図である。
【図16】水平に静止された通常モード(第1のモード)の力表示器を人為的に上下に振動させたときのx−z表示面のLEDの点灯状態の変遷を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における力表示器10の外観を示す斜視図、図2は力表示器10の機能ブロック図である。
力表示器10は、3軸加速度センサ20(以下単に加速度センサ20)、加速度センサ20から出力される電気信号からなる加速度情報を受け、かつ処理して表示情報を生成するコントローラ40と、コントローラ40で生成された表示情報に基づいて発光ダイオードLED(以下、単にLED)が点灯される表示部60とから構成される。なお、以下では図1の向きを力表示器10の正立とする。
【0016】
<ケース11>
力表示器10は、隣接する2つの面を、x−z表示面12、x−y表示面13とする直方体状のケース11を備えている。ケース11は、例えば透明なアクリル樹脂板を組み立てて構成されるが、これに限定されるものではない。ケース11には、力表示器10の起動(オン)/停止(オフ)を行うスイッチが設けられているが、ここでは記載を省略している。
【0017】
<表示部60>
ケース11のx−z表示面12の内側にはx−z表示基板14が設けられ、また、x−y表示面13の内側にはx−y表示基板15が設けられている。x−z表示基板14、x−y表示基板15には、各々LEDからなる複数の表示灯が十字状に並べられてx−z表示体16、x−y表示体17をなしている。この2つの表示体16、17により、表示部60が構成される。なお、x軸、y軸及びz軸は、図1に矢印で示す通りである。x−z表示体16及びx−y表示体17を構成するLEDは、コントローラ40が生成する表示情報に基づいて必要な個数だけ点灯され、作用する力の向きと大きさを表示する。
x−z表示体16は、x方向に10個のLEDを、またz方向に10個のLEDを、直線上に並べて、十字を構成している。また、x−y表示体17もまた、x方向に10個のLEDを、またy方向に10個のLEDを、直線上に並べて、十字を構成している。x−z表示体16及びx−y表示体17において、十字の交差部(原点)を中心に、正(+)・負(−)が図示のように定められている。例えば、x−z表示体16において、z軸の負に対応するLEDが点灯すると、力表示器10が重力を受けていることを示す。なお、力表示器10は1つのLEDが点灯すれば、0.25g(g:重力加速度)が作用していることを示す。例えば、図5に示すように、z軸方向の加速度Azと点灯すべきLEDの数が対応付けられているテーブルを設けておき、このテーブルを参照することにより点灯させるLEDの数を決めることができる。
【0018】
<加速度センサ20>
力表示器10は、ケース11内に加速度センサ20を設けている。加速度センサ20は、x軸方向の加速度成分を検出するx軸センサ部、y軸方向の加速度成分を検出するy軸センサ部及びz軸方向の加速度成分を検出するz軸センサ部を備え、x軸センサ部,y軸センサ部,z軸センサ部が図1に示した力表示器10のx軸、y軸、z軸に沿うようにケース11内に配置される。
加速度センサ20は、力表示器10が加速度運動すると、加速度運動と逆向きの慣性力を受けて、x軸、y軸、z軸の各々の方向について、加速度を電気信号として出力する。この電気信号(加速度値)を、Ax、Ay及びAzとする。なお、運動方程式F=m×aより、加速度を表示することで、力の向きと大きさを認識できることは前述の通りである。また、加速度センサ20の検出原理によって、ピエゾ素子の結晶の歪により生ずる電気抵抗の変化を利用するピエゾ抵抗型、静電容量の変化を利用した静電容量型、圧電素子の結晶の歪により生ずる電圧を利用した圧電型等のいくつかのタイプがあるが、本発明はいずれのタイプの加速度センサを用いることができる。
なお、本実施形態では、加速度センサ20はデジタル出力を行うことを前提としているが、アナログ出力を行う3軸加速度センサを用いることもできる。この場合、ロー・パス・フィルタを備えるフィルタ・アンプ回路を、加速度センサ20とコントローラ40との間に介在させる等の要素を加える必要があるが、それ自体は公知であるので、ここでの説明は省略する。
【0019】
<コントローラ40>
力表示器10は、ケース11内にコントローラ40を備えている。
コントローラ40は、前述したスイッチをオンしたのを受けて、加速度センサ20から送られるx軸、y軸、z軸の各々の加速度値を以下のように処理する。なお、コントローラ40は、例えばPIC(Peripheral Interface Controller:周辺機器接続制御用IC)により構成することができる。PICは、演算処理部、メモリ、入出力部等が一つのICに組込まれたワンチップ・マイクロコンピュータであり、メモリに記憶されるソフトウェアで制御される。
【0020】
[初期化−加速度値Ax、Ay及びAzのサンプリング]
コントローラ40は、力表示器10の起動後に、初期化の処理を行う。ここでは、力表示器10は正立されているものとする。
コントローラ40は、初期化を行うために、加速度センサ20から加速度値Ax、Ay及びAzを継続して取得(サンプリング)するとともに、メモリに記憶する。サンプリングを例えば40Hz(=40回/sec.)の周期で行うことで、加速度の0.025秒間の時間変化に追従することができる。ただし、40Hzというサンプリング周期はあくまで例示であり、他のサンプリング周波数を採用できることは言うまでもない。なお、Axは加速度センサ20のx軸方向の加速度値、Ayは加速度センサ20のy軸方向の加速度値、Azは加速度センサ20のz軸方向の加速度値である。
【0021】
コントローラ40は、加速度値Ax、Ay及びAzの各々から短周期加速度値(加速度情報S)Sx、Sy及びSzを算出する。また、コントローラ40は、加速度値Ax、Ay及びAzの各々から長周期加速度値(加速度情報L)Lx、Ly及びLzを算出する。なお、短周期加速度値Sx、Sy及びSz、並びに、長周期加速度値Lx、Ly及びLzの具体的な内容は後述する。
【0022】
コントローラ40は、所定のサンプリング回数の間に短周期加速度値Sx、Sy及びSzのいずれも変化せずに、かつSx及びSyが0の場合には、力表示器10はZ軸を鉛直にして静置されているものと判断して、初期化を完了する。所定のサンプリング回数の間に短周期加速度値Sx、Sy及びSzのいずれかが変化すると、コントローラ40は初期化を再度試みる。
【0023】
[基準重力G0(G0=Lz0)の記憶]
コントローラ40は、初期化がなされた時点のz軸方向の長時間加速度値Lz0を、加速度センサ20(力表示器10)が受ける重力の大きさを基準重力G0(G0=Lz0)としてメモリに記憶する。基準重力G0は、後に力表示器10が加速度運動しているか否かの判断を行う際に用いる。
力表示器10が起動時の姿勢に保持されているのでここで得られる基準重力G0は1g(g:重力加速度)である。
【0024】
基準重力G0を記憶するのと同時に、その時点での短周期加速度値Sx0、Sy0及びSz0、並びに、長周期加速度値Lx0、Ly0及びLz0も、初期化された値としてメモリに記憶される。さらに、長周期加速度値Lx0、Ly0及びLz0が重力の大きさ、向きとして記憶される。各軸の重力Gx0、Gy0、Gz0は、Gx0=−Lx0、Gy0=−Ly0及びGy0=−Lz0で表される。ただし、初期化時点では、常にGx0=0、Gy0=0、Gz0=G0である。
【0025】
[短周期加速度値Sx、Sy及びSzの算出]
コントローラ40は、サンプリング間隔Δt秒毎に得られる加速度値Ax、Ay及びAzから短周期加速度値Sx、Sy及びSzを算出する。短周期加速度値Sx、Sy及びSzは、例えばTS=0.1sec.の間(短周期間)にサンプリングされた加速度値Ax、Ay及びAzの平均値で与えられる。TS秒間には、TS=NS×Δtで表わされるNS回の計測が行われる。よって、Sx、Sy及びSzは以下により特定される。なお、以下では、加速度値Ax、Ay及びAzを総称する場合には加速度Aと総称し、短周期加速度値を総称する場合には短周期加速度値Sと表記することがある。
Sx=(Ax1+Ax2+Ax3+…+AxNS)/NS
Sy=(Ay1+Ay2+Ay3+…+AyNS)/NS
Sz=(Az1+Az2+Az3+…+AzNS)/NS
ここで、各短周期加速度値Sを算出するためには最低NS回の加速度値Aの計測が必要なことは上式からも明らかである。こうして算出された最初の短周期加速度値SであるS1は以下により算出される。
S1=(S1+S2+S3…SNS)/NS
しかし、一旦S1が算出されれば、その次のS2は次の計測値SNS+1とそれまでの計測値(A1は除く)を使って以下により算出できる。
S2=(A2+A3+…+ANS+ANS+1)/NS
つまり、加速度値Aの移動平均をとっていくことで短周期加速度値Sを順次算出することになる。これは、後述する長周期加速度値Lx、Ly及びLzについても同様である。したがって、最初のNS回以降は、毎回のサンプリング毎に短周期加速度値S及び長周期加速度値Lが算出される。
【0026】
短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)は、例えば、短周期間TSを0.1sec.とし、加速度値Aのサンプリング周波数を40Hz(Δt=0.025sec.)とすると、4回分のサンプリングされた加速度値Aの平均値である。したがって、短周期加速度値を算出することにより、短い周期で動いている力表示器10(加速度センサ20)に作用される力(重力は含まず)を検知することができる。しかも、短周期加速度値をx軸、y軸及びz軸の3軸全てについて算出することで、力表示器10を使用する向きの制約を排除することができる。
なお、ここでは短周期間TSを0.1sec.として説明したが、あくまで一例である。傾向として、短周期間TSが短いと音、振動などのノイズを拾うおそれがあり、逆に、短周期間TSが長いとx−z表示体16及びx−y表示体17への表示(発光ダイオードLEの点灯)が力表示器10の動きに追従せずに遅れる。したがって短周期間TSは、0.01〜0.3sec.以下の範囲から選択することが好ましく、0.05〜0.15sec.の範囲から選択するのがより好ましい。
【0027】
[長周期加速度値Lx、Ly及びLzの算出]
コントローラ40は、サンプリング間隔Δt秒毎に得られる加速度値Ax、Ay及びAzから長周期加速度値Lx、Ly及びLzを算出する。長周期加速度値Lx、Ly及びLzは、例えばTL=1.0sec.の間(長周期間)にサンプリングされた加速度値Ax、Ay及びAzの平均値で与えられる。TL秒間には、TL=NL×Δtで表わされるNL回の計測が行われる。よって、Lx、Ly及びLzは以下により特定される。
Lx=(Ax1+Ax2+Ax3+…+AxNL)/NL
Ly=(Ay1+Ay2+Ay3+…+AyNL)/NL
Lz=(Az1+Az2+Az3+…+AzNL)/NL
【0028】
長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)は、例えば、長周期間TLを1.0sec.とし、加速度値Aのサンプリング周波数を40Hzとすると、40回分のサンプリングされた加速度値Aの平均値である。長周期加速度値を算出するのは、力表示器10に作用する重力を検出するためである。つまり、重力は力表示器10に常に作用しており短周期間TSのように短い時間では変わらないことを前提にして、短周期間TSに比べて十分に時間の長い長周期間TLに基づいて長周期加速度値を算出することで、力表示器10に作用する重力(大きさ、向き)を検出する。しかも、長周期加速度値をx軸、y軸及びz軸の3軸全てについて算出することで、力表示器10を使用する向きの制約を排除することができる。
なお、ここでは長周期間TLを1.0sec.として説明したが、あくまで一例である。傾向として、長周期間TLが短すぎると短周期に対応する力との区別ができなくなるおそれがあり、逆に、長周期間TLが長いと短周期間TSと同様に表示が力表示器10の動きに追従せずに遅れる。したがって長周期間TLは、0.5〜10sec.以下の範囲から選択することが好ましく、0.8〜5.0sec.の範囲から選択するのが好ましい。
以下、長周期加速度値を総称する場合には、長周期加速度値Lと表記することがある。
【0029】
[加速度の絶対値Gの算出]
コントローラ40は、算出された短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)を用いて、加速度の絶対値G1を算出する。なお、絶対値G1はG1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2により求められる。
コントローラ40は、算出された絶対値G1と先に記憶された基準重力G0とを比較する。この比較により、力表示器10が加速度運動をしているのか否かの判断を行うことができる。つまり、力表示器10が加速度運動をしていなければG1はG0のままで一致(G1=G0)し、力表示器10が加速度運動をしていればG1はG0と相違する(G1≠G0)。以下、G1=G0(非加速度運動)の場合をCase-Aといい、G1≠G0(加速度運動)をCase-Bという。なお、Case-Aに該当するのは、静止、等速運動のいずれかである。
【0030】
Case-A(非加速度運動)の場合、長周期加速度値Lx、Ly及びLzは重力と逆の向きを示しており、コントローラ40はGx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzをメモリに記憶する。
ここで、地球上の物体には常に重力が働いているため、静止している加速度センサ20は上向きの加速度、つまりは上向きの力を常に出力する。この場合、加速度センサ20の出力から求められる力は物体の支持面から受ける垂直抗力に対応する。しかし、重力に対応する下向きの出力は存在しない。そこで、Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzと解釈することで重力を表示できるようにしている。
一方、Case-B(加速度運動)の場合、重力の向きは分からないので、コントローラ40は、格別な処理を行わない。したがって、メモリには前回サンプリングまでの加速度値(Ax、Ay及びAz)、短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)、長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)が記憶されている。
なお、Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzを総称する場合には、重力Gと表記することがある。
【0031】
[表示情報の特定]
<通常モードと実作用モード>
以上の結果に基づいて、コントローラ40は、表示部60のLEDを点灯、表示させる内容を特定する。この表示内容は、通常モード(第1モード)と実作用モード(第2モード)によって区分される。
通常モードの場合には、物体が静止していても重力と垂直抗力が同じ大きさで逆向きに作用していることを表示されるようする。つまり、通常モードは重力を特別に扱っている。これは、重力と垂直抗力がつりあっていることを学ぶ理科の学習内容に、力表示器10の表示を合わせるためである。しかしながら、静止状態においては実際には重力と垂直抗力はつりあっているのであって、トータルとしてみると力表示器10には力が負荷されていない。そこで、実作用モードは純粋に力表示器10に負荷される力のみを表示するために実作用モードを設けている。つまり、実作用モードでは、重力と垂直抗力がつりあう状態を表示させないようにする。
【0032】
モードの選択は、力表示器10に通常モードと実作用モードのいずれかを選択できるスイッチを設けてもよいし、起動する際の力表示器10の向きに応じて通常モードと実作用モードのいずれかが自動的に選択されるようにしてもよい。後者として、例えば、力表示器10を正立(図1の状態)させた状態で起動スイッチをオンすると通常モードが選択され、力表示器10を倒立(z軸の向きが図1とは逆さ)させた状態で起動スイッチをオンすると実作用モードが選択されるように、コントローラ40が処理するようにプログラムしておけばよい。
【0033】
<通常モード>
通常モードでは、重力Gが常に表示される。しかし、短周期加速度値Sは、重力Gの向きによって表示が以下のように異なる。
短周期加速度値Sが重力Gと向きが逆(異符号)の場合は、短周期加速度値Sと重力Gを独立して両方とも表示させる。例えば、短周期加速度値Sxが正(+)方向にLEDが3つ分の大きさを有し、重力Gxが負(−)方向にLEDが1つ分の大きさを有しているとすると、x−z表示体16のx(+)側のLEDが3つ点灯し、x−z表示体16のx(−)側のLEDが1つ点灯する。
短周期加速度値Sが重力Gと向きが同じ(同符号)場合は、重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示させる。例えば、短周期加速度値Sxが正(+)方向にLEDが3つ分の大きさを有し、重力Gxが正(+)方向にLEDが1つ分の大きさを有しているとすると、x−z表示体16のx(+)側のLEDが4つ点灯する。
【0034】
<実作用モード>
実作用モードでは、短周期加速度値Sの向き(符号)に係わらず、常に重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示させる。例えば、重力Gと垂直抗力(短周期加速度値S)は異符号であるから、S+Gは0(ゼロ)になる。よって、力表示器10が静止しているときは何も表示されない。しかし、力表示器10を自由落下させると、垂直抗力(短周期加速度値S)は0(ゼロ)になるのでx−z表示体16のx(−)側に重力Gだけが表示されることになる。
以上の通常モード、実作用モードのいずれにおいても、重力Gに基づく表示は、力表示器10が傾かない限り変わらないか、変わる場合もゆっくり変わる。これに対して、短周期加速度値Sに基づく表示は、手で力表示器10を持って動かすと、その動きに追従して素早く変化する。
【0035】
[表示]
コントローラ40は、以上のようにして特定された表示内容に基づいて、表示部60のLEDを点灯、表示させる。本実施形態では、前述したよう、1つのLEDが0.25g(g=重力加速度)に相当するので、表示情報が、0.125g<d≦0.375gの場合にはLEDを1つ点灯させ、同様に0.375g<d≦0.625gの場合には2つ、0.625g<d≦0.875gの場合には3つというように点灯させればよい。表示情報が0.125gより小さい場合には、LEDは1つも点灯させない。
【0036】
[処理手順]
以上説明したコントローラ40による力表示器10の処理手順を図3、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
<初期化処理>
起動スイッチが入ると、コントローラ40は力表示器10の初期化の処理を行う。この初期化処理は、力表示器10の一連の処理を行うために必要な情報を得るために行うものであり、図3のS101〜S109の各ステップを実行することで遂行される。
コントローラ40は、起動スイッチが入ると、加速度センサ20から加速度値Ax、Ay及びAzをサンプリングし(ステップS101)、短周期加速度値Sx、Sy及びSz、並びに、長周期加速度値Lx、Ly及びLzを算出する(ステップS103,S105)。ステップS101〜S105は繰り返して行われる。ステップS101〜S105が所定のサンプリング回数(n回)に達すると、コントローラ40は、各回数の短周期加速度値Sx、Sy及びSzの各々が一致していて、かつ、SxおよびSyが0であるという初期化の条件を満たすか否か、つまり力表示器10がz軸を鉛直方向に向けて静置されているか否かの判断を行う(ステップS107)。例えば、力表示器10を手に持って動かしていると短周期加速度値Sx、Sy及びSzのいずれかが変動しているので初期化が失敗したと判断され(ステップS107 No)、再度、ステップS101からステップS105までの処理を所定のサンプリング回数(n回)に達するまで行い、ステップS107の判断が行われる。
【0037】
ステップS107において、初期化の条件を満たすと判断される(ステップS107 Yes)と、コントローラ40は、n回目にサンプリングしたz軸方向の加速度値Lz0を前述した基準重力G0(G0=Lz0)としてメモリに記憶する(ステップS109)。以上で、初期化処理は完了する(図3 ステップS111)。なお、初期化が完了した時点の短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)、長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)は、メモリに記憶されることなく、そのまま保持される。長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)は、後述するステップS121において非加速度運動(Yes)と判断されると新たに算出される。また、後述するステップS121において加速度運動(No)と破断されると、さらにそのまま保持される。
【0038】
<表示のためのサンプリング、算出>
初期化が完了すると、加速度センサ20から加速度値Ax、Ay及びAzをサンプリングし(ステップS113)、短周期加速度値Sx、Sy及びSz、並びに、長周期加速度値Lx、Ly及びLzを算出する(ステップS115,S117)。
コントローラ40は、算出された短周期加速度値Sx、Sy及びSzから、加速度の絶対値G1(G1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2)を算出し(ステップS119)、次いで、算出された加速度の絶対値G1と初期化に伴って記憶した基準重力G1とを比較する(ステップS121)。力表示器10が加速度運動をしていなければG1はG0のままであるからG1はG0に一致し(G1=G0,ステップS121 Yes)、力表示器10が加速度運動をしていればG1はG0と相違する(G1≠G0,ステップS121 No)。ただし、測定の誤差もあるために、ある閾値αを設け、|G0−G1|<αならば非加速度運動をしていると判断することが現実的な処理である。また、(Sx2+Sy2+Sz2)1/2)の計算を省略するために、G02とG12を比較してもよいことは言うまでもない。
【0039】
前述したように、Case-A(非加速度運動)の場合には、コントローラ40はGx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzをメモリに記憶し(ステップS123)、Case-B(加速度運動)の場合、格別な処理を行わずに先行する長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)を保持する(ステップS121〜S125)。
【0040】
次に、コントローラ40は、力表示器10が通常モードと実作用モードのいずれが選択されているかの判断を行う(ステップS125)。
通常モードが選択されている場合には、図4の(A)に続く処理がなされる。通常モードの場合には、短周期加速度値Sと重力Gの向きの異同が判断される(ステップS201)。当該向きが逆であれば(ステップS201 Yes)、短周期加速度値Sと重力Gを独立して表示情報とする(ステップS203)。当該向きが同じ又は少なくとも一方の値が0であれば(ステップS201 No)、重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示情報とする。
一方、実作用モードが選択されている場合には、図4の(B)に続く処理がなされる。この場合、短周期加速度値Sの向き(符号)に係わらず、常に重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示情報とする(ステップS207)。
コントローラ40は、各表示情報に基づいて、表示部60のLEDを点灯、表示させる(ステップS209)。
【0041】
コントローラ40は、ステップS209までの処理を終えると、図3のステップS111(図3,4の(C))に戻り、ステップS111からステップS209までの処理を繰り返すことで、力表示器10の状態の変化に応じた表示を表示部60に行わせる。繰り返しの周期は任意であるが、例えば1秒間に30〜50回程度の回数でステップS111からステップS209までの処理を繰り返すことができる。
【0042】
[表示例]
さて、以上の力表示器10を用いて実際に力を視覚化して表示させる例を、以下の順で説明する。
(I)水平面に静止(通常モード)…図6、図7、図14
(II)自由落下(又は投げ上げ,通常モード)…図8
(III)水平面を直線加速度運動(外力あり,通常モード)…図9
(IV)水平面を等速直線運動(外力なし,通常モード)…図10
(V)傾斜面に静止(通常モード)…図11
(VI)傾斜面を自由滑走(通常モード)…静止解除…図12
(VII)回転運動(通常モード)…図13
(VIII)静止→自由落下運動(実作用モード)…図15
(IX)静止→人為的に上下に振動(通常モード)…図16
【0043】
(I)水平面に静止…図6,7,14
通常モードの力表示器10が水平面に静止していると、力表示器10には重力及び水平面からの垂直抗力が作用する。重力はz軸方向の下向きに作用し、垂直抗力はz軸方向の上向きに作用する。しかし、重力を力表示器10の加速度センサ20で測定できない。そこで、力表示器10は、加速度センサ20で測定された加速度の長周期加速度値Lzを用いてその逆の向きの力を重力とみなして表示させる。
力表示器10を水平面に静止させると、重力と垂直抗力とは釣り合い、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される(図6(a))。
正(+)側の4つの点灯されたLEDが垂直抗力を表し、負(−)側の4つの点灯されたLEDが重力を表しており、これを見た者は、物体(力表示器10)に、重力と垂直抗力が作用していることを視覚的に認識できる。
【0044】
以上のように表示される際の短周期加速度値S(以下、短周期加速度値を省略することがある)、長周期加速度値L(以下、長周期加速度値を省略することがある)を対比して以下の表1に示す。なお、表1において、初期化の列に記載されているのは初期化が完了した時点の情報である。また、表1において、初期化が完了した時点で、NS回及びNL回の加速度値Aの計測が行われているものとする。
この例では、初期化のときから同じ水平面上に静止されており、初期化の際のLzがg(重力加速度)であることから、Gz0は−gとして記憶される。
初期化が完了した後も力表示器10は静止し続けるが、その間、図3のS121の非加速度運動又は加速度運動の判断が常にYesなので、SxとLx、SzとLzは常に同じ値になる。つまり、Sz及びLzはともにgのままである。この場合、力表示器10は非加速度運動の状態にあるものと判断され、Gz0=−Lz0=−gが表示情報として扱われる。したがって、Sz=g(正)、Gz0=−g(負)は各々独立して加速度情報となる結果として、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される。なお、水平面に静止された力表示器10は、x−y方向には力が作用していないので、x−y表示体17のLEDは一つも点灯されない(図6(b))。
【0045】
【表1】
【0046】
力表示器10は、図7に示すように、その向きを変えて静止させても重力と垂直抗力とが釣り合っていることを表示できる。例えば、図14に示すように、力表示器10を時計回りに回転させて、x軸を鉛直方向にしても、重力と垂直抗力を示すことができる。これは、力表示器10が、3軸の各々について算出した短周期加速度値S、長周期加速度値Lに基づいて表示情報を生成していることによる。つまり、力表示器10は、x軸、y軸及びz軸の向きに制限を受けることなく使用できる等方的な性質を備えている。以下の(II)自由落下(又は投げ上げ)の以降の場合も同様である。
【0047】
(II)自由落下(又は投げ上げ)…図8
正立状態にある通常モードの力表示器10を自由落下させると、水平面に静置していた時に作用していた垂直抗力は作用しない。しかし、力表示器10には、重力は作用する。したがって、図8(a)に示すように、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDのみが点灯されなければならない。
下向き(−側)の4つのLEDは重力を表しており、これを見た者は、自由落下時には、物体(力表示器10)に重力のみが作用していることを視覚的に認識できる。
なお、力表示器10を投げ上げた場合も、同様に、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDのみが点灯される。
【0048】
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表2に示す。なお、初期化がなされるまでは力表示器10は水平面上に静止されており、初期化の際にGz0はGz0=−gとして記憶される。
加速度センサが自由落下しているとき(又は投げ上げられているとき)は、慣性力と重力とが打ち消しあうことで鉛直方向の加速度センサの出力は0(ゼロ)になる。つまり、G0≠G1を満たす。したがって、コントローラ40は、力表示器10が加速度運動しているものと判断する(図3 S121の判断がNo)ので、Lx、Lz(Gx、Gz)は先行する、つまり初期化完了時点のLx、Lz(Gx、Gz)が保持される(表2の→)。なお、表3以降も先行する長周期加速度値Lが保持されることを矢印(→)で示す。一方、先に記憶されているGz=−gとSz=0から、z軸方向の表示情報はSz+Gz=−g+0=−gとなり、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDのみが点灯される。
【0049】
【表2】
【0050】
(III)水平面を直線加速度運動(外力あり)…図9
通常モードの力表示器10が、例えば手で押されながら水平面上を直線加速度運動する場合、力表示器10には、x軸方向の図中左向きの外力Fが作用する。したがって、図9(a)に示すように、x−z表示体16のx軸方向の正(+)側の例えば3つのLEDが点灯される。この場合、点灯されている3つのLEDは、外力Fに対応する加速度の大きさがg(重力加速度)の3/4程度であることを示している。
また、力表示器10が、外力Fを受けながら水平面上を加速度運動する場合、力表示器10には、重力及び水平面からの垂直抗力が作用する。したがって、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される。
以上の通りであり、x−z表示体16のx軸方向の正(+)側の3つのLEDが外力Fを表し、正(+)側の4つのLEDが垂直抗力を表し、負(−)側の4つのLEDが重力を表しており、これを見た者は、物体(力表示器10)に、右向き水平方向の外力F、重力及び垂直抗力が力表示器10に作用していることを視覚的に認識できる。
【0051】
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表3に示す。なお、初期化までは上述と同じである。
静止状態(非加速度運動)から直線加速度運動に移ると、力表示器10には水平方向の外力Fが加わることで、x軸方向に加速度が生じる。もちろん、G0≠G1を満たす。したがって、コントローラ40は、力表示器10が加速度運動しているものと判断する(図3 S121の判断がNo)ので、Lx、Lz(Gx、Gz)は先行する、つまり初期化完了時点のLx、Lz(Gx、Gz)が保持される(表3の→)。一方、先に記憶されているGz=−gとSz=gは向きが逆であるから、Sz(g)とGz(−g)が各々独立してz軸方向の表示情報となり、x−z表示体16のz軸方向の正(+)側と負(−)側の4つのLEDが点灯される。また、Sx=0.75gと保持されているLx=0とから、x軸方向の表示情報はSx+Lx=0.75g+0=0.75gとなり、x軸方向の正(+)側の3つのLEDが点灯される。
【0052】
【表3】
【0053】
(IV)水平面を等速直線運動(外力なし)…図10
通常モードの力表示器10が、水平面上を等速直線運動する場合には、図10に示すように、力表示器10には、重力及び水平面からの垂直抗力のみが作用する。
したがって、x−z示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される。正(+)側の4つのLEDが垂直抗力を表し、負(−)側の4つのLEDが重力を表しており、これを見た者は、物体(力表示器10)に、重力及び垂直抗力が力表示器10に作用していることを視覚的に認識できる。
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lは、水平面に静止している場合(I)と同じである。
【0054】
(V)傾斜面に静止…図11
図11に示すように、通常モードの力表示器10が傾斜面に支持体70によって保持され静止されている場合には、力表示器10には、x軸とz軸方向それぞれに、重力成分と傾斜面や支持体70から受ける垂直抗力が作用する。ただし、ここでは,傾斜面と力表示器10の間には摩擦は働かないものとする。この場合、x軸及びz軸のそれぞれで力は釣り合う。力表示器10は、支持体70から傾斜面と水平方向に抗力Dを受ける。この抗力Dは、重力のx軸方向の成分と、大きさが等しく、向きが逆である。
【0055】
したがって、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の例えば3つのLEDと、z軸方向の負(−)側の例えば3つのLEDが点灯される。また、x−z表示体16は、x軸方向の正(+)側の2つのLEDと、x軸方向の負(−)側の2つのLEDが点灯される。これを見た者は、物体(力表示器10)に、重力及び垂直抗力がx軸方向及びz軸方向に作用していること、また、x軸方向およびz軸方向それぞれにおいて力はつりあっていることを視覚的に認識できる。
【0056】
この例では、初期化の際に正立している力表示器10を初期化後に傾けるものとする。また、正立している力表示器10を傾ける動作(表4の傾斜過程)は例えば5秒程度の時間をかける非加速度運動で行うものとする。初期化から傾斜面に支持されるまでの短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表4に示す。
傾斜過程では、力表示器10が非加速度運動をしている(図3 S121の判断がYes)ので、Sx、Sz、Lx、Lzは傾きに応じて逐次変化する。具体的には、Sx、Lxは初期化時点から増加し、Sz、Lzは初期化時点から逐次減少する。この傾斜過程では、SxとGxは向きが逆であるので、SxとGxは独立して表示情報となる。図11の記載は省略しているが、例えば、Sx=0.1g、Gx=−0.1gの場合にはx軸方向のLEDの点灯数は0であり、Sx=0.2g、Gx=−0.2g及びSx=0.3g、Gx=−0.3gの場合にはx軸方向のLEDの点灯数は1であり、Sx=0.4g、Gx=−0.4gの場合にはx軸方向のLEDの点灯数は2である。また、Sz=0.99g〜0.92g、Gz=−0.99g〜−0.92gの場合にはz軸方向のLEDの点灯数は4のままである。
所定の角度まで傾斜させたのちに力表示器10を一定時間その状態を維持(静止)させると、力表示器10は非加速度運動のままである(図3 S121の判断がYes)。そうすると、傾斜の角度に応じてSx=0.5g、Sz=0.87g、Lx=0.5g、Lz=0.87gが求められるので、Gx0=−0.5g、Gz0=−0.87gが表示情報として扱われる。したがって、Sx=0.5g(正)とGx=−0.5g(負)、また、Sz=0.87g(正)とGz=−0.87g(負)、は各々独立して加速度情報として扱われる結果として、x軸方向については正(+)側と負(−)側の2つのLEDが点灯され、z軸方向については、正(+)側と負(−)側の3つのLEDが点灯される。
【0057】
【表4】
【0058】
(VI)傾斜面を自由滑走…図12
通常モードの力表示器10が摩擦のない傾斜面を自由滑走する場合には、力表示器10には、重力及び傾斜面からの垂直抗力が作用する。傾斜面から受ける垂直抗力は、重力のz軸方向の成分、つまりz軸方向の加速度情報Azと大きさが同じで向きが逆である。
力表示器10は、傾斜面を自由滑走するから、受ける力は、重力のx軸方向の成分と、重力のz軸方向の成分と、傾斜面から受ける垂直抗力の3つである。
【0059】
したがって、x−z表示体16は、例えばz軸方向の正(+)側の3つのLEDと、z軸方向の負(−)側の3つのLEDが点灯される。また、x−z表示体16は、例えばx軸方向の正(+)側の2つのLEDが点灯される。これを見た者は、物体(力表示器10)に、z軸方向には重力のZ成分及び垂直抗力が、x軸方向には重力のx成分が作用していること、また、力表示器10が重力のx軸方向の成分によって加速されることを視覚的に認識できる。
【0060】
この例では、はじめ図12に示すように力表示器10を支持していた支持体70を取り除いて自由滑走させるものとする。したがって、支持体70を取り除く前の状況は傾斜面支持と同様である。
支持体70を取り除いた後は、力表示器10は支持体70からの抗力Dを受けなくなるので、表5に示すように、Sx=0となる。また。力表示器10は加速度運動する(図3 S121の判断がNo)ので、Lx、Lz(Gx、Gz)は先行する、つまり初期化完了時点のLx、Lz(Gx、Gz)が保持され(表5の→)、Gx0=−0.5g、Gz0=−0.87gが表示情報として扱われる。したがって、Sz=0.87g(正)とGz=−0.87g(負)、は各々独立して表示情報として扱われる結果として、x軸方向については正(+)側の2つのLEDが点灯され、z軸方向については、正(+)側と負(−)側の3つのLEDが点灯される。
【0061】
【表5】
【0062】
(VII)回転運動…図13
通常モードの力表示器10を図13(a)のように、軸Sの周りに自由に回転できる円盤70の端に置き、円盤70を回転させると、力表示器10には向心力が働き図13(b)のようにLEDが点灯する。一般に、回転する物体には遠心力が働くと考えられており、実際回転座標系では遠心力が働く。ところが,図13(a)のように置かれた力表示器10が円盤と共に円運動をするためには向心力が必要なのである。この関係を生徒が理解することは通常極めて困難である。本発明を用いることで、回転物体には確かに向心力が働いていることを明確に示すことができる。
【0063】
(VIII)静止→自由落下運動(実作用モード)…図15
図15に示すように、水平に支持されて静止している実作用モードの力表示器10(図15の上段)を、支持を解除して自由落下させる(図15の下段)とする。
支持されている状態では、x−z表示体16のLEDは一つも点灯されない。これは実作用モードにより、釣り合っている重力と垂直抗力の表示を回避しているためである。ところが、自由落下し始めると、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯され、力表示器10には重力が作用することが示される。
このように、実作用モードを採用することで、静止状態のように釣り合うことで力表示器10全体としては負荷されていない力(加速度)を表示するのを回避しながらも、自由落下時には力表示器10に重力が負荷されていることを示すことができる。通常モードと実作用モードの力表示器10の表示を比べることで、物体に負荷される力の理解をより深めることができる。
【0064】
この例では、自由落下するまでは水平面上に支持されており、表6に示すように、Sz=g、Gz=−gとなる。しかるに、実負荷モード(表示情報は常にSz+Gz)であるため、水平面上に支持されている間の表示情報は、Sz+Gz=g+(−g)=0となる。水平面への支持が解除されると、垂直抗力がなくなるのでSz=0となり、その結果として自由落下の際にはGz=−gに対応して、z軸方向にの負(−)側の4つのLEDが点灯される。
【0065】
【表6】
【0066】
(IX)静止→人為的に上下に振動(通常モード)…図16
図16の(a)に示すように、水平に支持して人が保持(静止)している通常モードの力表示器10を、図16(b)の位置まで瞬時に降下させた後に、図16(c)の位置まで上昇させるものとする。
保持(静止)されている状態では、(I)の水平面に支持されているのと同じであるから、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される(図16(a))。正(+)側の4つの点灯されたLEDが垂直抗力に相当し、負(−)側の4つの点灯されたLEDが重力に相当する。
保持状態から瞬間的に下降させると、垂直抗力がなくなるので、z軸方向の正(+)側のLEDは点灯されない。また、下方に向けた外力が加わることで、z軸方向の負(−)側は5つのLEDが点灯する(図16(b))。
さらに、下降から上昇に転じると、上向きの力が加わるので、z軸方向の正(+)側のLEDは上向きの力に相当する1つだけ点灯される。また、z軸方向の負(−)側については、重力に相当する4つのLEDが点灯する(図16(c))。
【0067】
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表7に示す。
この例では、下降・上昇、つまり振動が始まるまでは水平に保持されており、Sz=g、Gz=−gとなり、これに対応して、z軸方向の正(+)側及び負(−)側ともにの4つのLEDが点灯される。
瞬間的に下降されている間は、下向きの力を受ける。この下向きの力が0.25gに相当するものとする。瞬間的な下降に対して、短周期加速度値Sは追従するが、長周期加速度値Lは追従しないので、短周期加速度値はSz=−025gとなるのに対して、Gzは−gのままである。表示情報は、SzとGzは向きが同じなので、Sz+Gz=−1.25gとなる。
瞬間的に上昇されている間は、上向きの力を受ける。この上向きの力が0.25gに相当するものとする。そうすると、短周期加速度値はSz=025gとなるのに対して、Gzは−gのままである。SzとGzは向きが逆なので、Sz=0.25gとGz=−1の各々が表示情報となる。
【0068】
【表7】
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、加速度センサ20はアナログ出力を有する加速度センサを用いることもできる。ただしこの場合、フィルタ・アンプ回路等の他の要素を設ける必要がある。
また、力表示器10は直方体状のケース11を用いたが、本発明はこれに限るものではない。x−z表示面とx−y表示面という二つの表示面を形成できるのであれば、例えば、ケース11を四角形以上の多角形としてもよいし、球状としてもよい。
さらに、x−z表示体16、x−y表示体17についても、異なる大きさのLEDを並べてもよく、3軸(x軸、y軸、z軸)の各々について、正・負を表示できるものであればよく、十字状にLEDを並べることに限定されるものでない。
さらにまた、表示情報をそのまま用いるのではなく、例えば表示情報を2倍にして表示させるモードを設けることで、小さな力が作用した場合の視認性を向上させることもできる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
10…力表示器
11…ケース
12…x−z表示面、13…x−y表示面
14…x−z表示基板、15…x−y表示基板
16…x−z表示体、17…x−y表示体
20…3軸加速度センサ、40…コントローラ、60…表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に作用している力の向きと大きさを視覚的に認識できる表示器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
学校教育の現場において、理科離れが叫ばれている。その理由の一つとして、理科で扱われる事柄の中には、視覚的に認識できないものがあることが掲げられる。一例として、力の概念がある。つまり、力は目に見えないために、その向きと大きさを視覚的に捉えることができず、中高生にとって難解なものの一つとなっている。したがって、教育現場において、物体に作用している力の向きと大きさを視覚化できる教材が求められている。
直交する2軸(又は3軸)の加速度を加速度センサにより検出し、基準方向と重力加速度とのなす角度、つまり傾斜角を求める傾斜センサは種々提案されている(特許文献1、特許文献2)。加速度センサを用いて傾斜角を求めることは、力の向きを認識することに対して示唆を与えるものであるが、特許文献1、特許文献2等は力の向きと大きさの両者を視覚化して表示できる機器を開示するものではなかった。
以上に対して本発明者らは、非特許文献1において力の向きと大きさの両者を視覚化して表示できる機器を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3114571号公報
【特許文献2】特開2008−96355号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】伊東明彦・渡辺一博、力の学習を支援する力表示器「Fi−Cube」の製作と授業実践、宇都宮大学教育学部紀要、59−2、13−26、2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載される力表示器(以下、従来の力表示器)は、物体に作用している力の向きと大きさを視覚化できる教材として独創的なものであった。ところが、従来の力表示器は、3軸加速度センサのz軸方向で取得される加速度の出力を、重力を表示するのに用いるとともに、力表示器の傾きを算出するのに用いる。そのために従来の力表示器は、z軸方向について、重力は測定できるものの、作用する力に対応する短時間の動きには反応しないように設定されていた。一方、x軸方向(又はy軸方向)については、z軸方向とは逆に、力に対応する短時間の動きにのみ反応するように設定されていた。したがって、従来の力表示器は、z軸方向を鉛直方向に揃えて自由落下(又は投げ上げ)させても、z軸方向に力(加速度)を表示させることができず、自由落下させる場合にはx軸方向(又はy軸方向)を鉛直方向に揃える制約があった。
本発明は、このように使用する際の向きの制約を受けることなく、作用している力の向きと大きさを視覚的に表示できる力表示器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
力は運動方程式F=m・aによって定義される。つまり、ある物体に働く力Fは質量mを比例定数として加速度aで表される。したがって、物体の加速度を可視化することは、力を可視化したことと等価になる。本発明の視覚的力表示器(以下、単に力表示器)はこの考えに従ったものであり、内部に装備された3軸加速度センサにより物体の加速度を測定し、これに基づいて力を視覚的に表示する。
力表示器として持つべき要件について述べる。水平な支持面上に置かれた物体には、地球の重力と支持面から受ける垂直抗力の2つの力が働いている。したがって、この場合には、z軸方向(鉛直方向)の下向きと上向きに同じ量の表示を行うことが必要である。しかしながら、地球上の物体には常に重力が働いているため、静止している加速度センサは上向きの加速度、つまりは上向きの力を常に出力していることになる。この上向きの力は支持面から受ける垂直抗力に対応する。ところが、重力に対応する加速度の出力を得ることができない。
【0007】
この課題に対して上述した従来の力表示器は、z軸方向で取得される加速度の出力を、重力を表示するのに用いていたが、力表示器の傾きを算出するのにも用いていたため、自由落下(又は投げ上げ)させる場合には、x軸方向を鉛直方向に揃える制約があった。これに対して本発明は、3軸加速度センサの各軸(x軸、y軸及びz軸)の各々について、重力に対応する加速度に関する情報と、重力以外の力に対応する加速度に関する情報の両者を求めることで、使用する向きの制約を排除することを可能とした。
本発明の力表示器は、3軸加速度センサと、コントローラと、表示体とを備える。
3軸加速度センサは、互いに直交するx軸方向と、y軸方向と、z軸方向の各々の軸方向について加速度を検出する。
コントローラは、3軸加速度センサから取得するx軸方向、y軸方向及びz軸方向の加速度に基づいて、軸方向の各々について、3軸加速度センサに作用する重力以外の力に対応する加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び3軸加速度センサに作用する重力に対応する加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を算出する。コントローラは、また、算出された加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び加速度情報L(Lx、Ly及びLz)に基づいて、軸方向の各々について表示情報を生成する。
表示体は、コントローラで生成された表示情報に基づいて軸方向に作用する力の向きと大きさを表示する。
【0008】
本発明の力表示器において、コントローラは、力表示器が加速度運動又は非加速度運動のいずれの状態にあるのかを判断することができる。この判断を行うことで、加速度運動又は非加速度運動に対応した適切な表示を実現することが可能になる。この判断は、起動後に特定した基準重力G0と、加速度の絶対値G1とを比較することで行われる。ただし、加速度の絶対値G1は、基準重力G0を特定した後に算出される加速度情報S(Sx、Sy及びSz)から、G1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2により与えられる。
【0009】
また本発明の力表示器において、コントローラは、表示器が非加速度運動の状態にあるものと判断すると、加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、3軸加速度センサに作用する重力に対応する表示情報として扱うことができる。また、視覚的力表示器が加速度運動の状態にあるものと判断すると、加速度運動を開始する前の加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、3軸加速度センサに作用する重力に対応する表示情報として扱うことができる。
【0010】
本発明の力表示器において、コントローラは、力の向きと大きさの表示について第1のモードと第2のモードを備えることができる。
第1のモードは、重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが逆の場合には、重力Gと加速度情報Sを各々独立した表示情報として扱う。また、第1のモードにおいては、重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが同じ場合には、重力Gと加速度情報Sとを加えたものを表示情報として扱う。
第2のモードは、重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きに係らず、常に、重力Gと加速度情報Sとを加えたものを表示情報として扱う。
【0011】
本発明の力表示器において、コントローラは、基準重力G0を特定する以前から、加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を算出し、基準重力G0を特定した際に与えられる各軸方向の加速度情報L0(Lx0、Ly0及びLz0)により初期重力値Gx0=−Lx0、Gy=−Ly及びGz=−Lz)として記憶することができる。
【0012】
以上の本発明による視覚的力表示器は、理科教材、科学玩具として使用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3軸加速度センサの各軸(x軸、y軸及びz軸)の各々について、重力に対応する加速度に関する情報と、重力以外の力に対応する加速度に関する情報の両者を求めることで、使用する向きの制約を排除することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態における力表示器の外観を示す斜視図である。
【図2】本実施の形態における力表示器の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態の力表示器におけるコントローラにおける処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態の力表示器におけるコントローラにおける処理の手順を示すフローチャートであり、図3に示す処理以降の処理を示す。
【図5】重力のz軸方向の成分に応じて点灯されるLEDの数を定めるテーブルの一例を示す。
【図6】水平面に静止する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図7】図6と向きを変えた力表示器の点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図8】自由落下する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図9】外力を受けて水平面上を直線加速度運動する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図10】外力を受けずに水平面上を等速直線運動する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図11】傾斜面に静止する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図12】傾斜面を自由滑走する通常モードの力表示器のLEDの点灯状態を示し、(a)はx−z表示面、(b)はx−y表示面を示している。
【図13】(a)は軸Sの周りに自由に回転する円盤上に置かれている通常モードの力表示器を示し、(b)はx−y表示面のLEDの点灯状態を示している。
【図14】正立された通常モード(第1のモード)の力表示器を時計回りに90度回転させる過程におけるx−z表示面のLEDの点灯状態の変遷を示す図である。
【図15】水平面に支持された実作用モード(第2のモード)の力表示器を自由落下させる過程におけるx−z表示面のLEDの点灯状態の変遷を示す図である。
【図16】水平に静止された通常モード(第1のモード)の力表示器を人為的に上下に振動させたときのx−z表示面のLEDの点灯状態の変遷を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における力表示器10の外観を示す斜視図、図2は力表示器10の機能ブロック図である。
力表示器10は、3軸加速度センサ20(以下単に加速度センサ20)、加速度センサ20から出力される電気信号からなる加速度情報を受け、かつ処理して表示情報を生成するコントローラ40と、コントローラ40で生成された表示情報に基づいて発光ダイオードLED(以下、単にLED)が点灯される表示部60とから構成される。なお、以下では図1の向きを力表示器10の正立とする。
【0016】
<ケース11>
力表示器10は、隣接する2つの面を、x−z表示面12、x−y表示面13とする直方体状のケース11を備えている。ケース11は、例えば透明なアクリル樹脂板を組み立てて構成されるが、これに限定されるものではない。ケース11には、力表示器10の起動(オン)/停止(オフ)を行うスイッチが設けられているが、ここでは記載を省略している。
【0017】
<表示部60>
ケース11のx−z表示面12の内側にはx−z表示基板14が設けられ、また、x−y表示面13の内側にはx−y表示基板15が設けられている。x−z表示基板14、x−y表示基板15には、各々LEDからなる複数の表示灯が十字状に並べられてx−z表示体16、x−y表示体17をなしている。この2つの表示体16、17により、表示部60が構成される。なお、x軸、y軸及びz軸は、図1に矢印で示す通りである。x−z表示体16及びx−y表示体17を構成するLEDは、コントローラ40が生成する表示情報に基づいて必要な個数だけ点灯され、作用する力の向きと大きさを表示する。
x−z表示体16は、x方向に10個のLEDを、またz方向に10個のLEDを、直線上に並べて、十字を構成している。また、x−y表示体17もまた、x方向に10個のLEDを、またy方向に10個のLEDを、直線上に並べて、十字を構成している。x−z表示体16及びx−y表示体17において、十字の交差部(原点)を中心に、正(+)・負(−)が図示のように定められている。例えば、x−z表示体16において、z軸の負に対応するLEDが点灯すると、力表示器10が重力を受けていることを示す。なお、力表示器10は1つのLEDが点灯すれば、0.25g(g:重力加速度)が作用していることを示す。例えば、図5に示すように、z軸方向の加速度Azと点灯すべきLEDの数が対応付けられているテーブルを設けておき、このテーブルを参照することにより点灯させるLEDの数を決めることができる。
【0018】
<加速度センサ20>
力表示器10は、ケース11内に加速度センサ20を設けている。加速度センサ20は、x軸方向の加速度成分を検出するx軸センサ部、y軸方向の加速度成分を検出するy軸センサ部及びz軸方向の加速度成分を検出するz軸センサ部を備え、x軸センサ部,y軸センサ部,z軸センサ部が図1に示した力表示器10のx軸、y軸、z軸に沿うようにケース11内に配置される。
加速度センサ20は、力表示器10が加速度運動すると、加速度運動と逆向きの慣性力を受けて、x軸、y軸、z軸の各々の方向について、加速度を電気信号として出力する。この電気信号(加速度値)を、Ax、Ay及びAzとする。なお、運動方程式F=m×aより、加速度を表示することで、力の向きと大きさを認識できることは前述の通りである。また、加速度センサ20の検出原理によって、ピエゾ素子の結晶の歪により生ずる電気抵抗の変化を利用するピエゾ抵抗型、静電容量の変化を利用した静電容量型、圧電素子の結晶の歪により生ずる電圧を利用した圧電型等のいくつかのタイプがあるが、本発明はいずれのタイプの加速度センサを用いることができる。
なお、本実施形態では、加速度センサ20はデジタル出力を行うことを前提としているが、アナログ出力を行う3軸加速度センサを用いることもできる。この場合、ロー・パス・フィルタを備えるフィルタ・アンプ回路を、加速度センサ20とコントローラ40との間に介在させる等の要素を加える必要があるが、それ自体は公知であるので、ここでの説明は省略する。
【0019】
<コントローラ40>
力表示器10は、ケース11内にコントローラ40を備えている。
コントローラ40は、前述したスイッチをオンしたのを受けて、加速度センサ20から送られるx軸、y軸、z軸の各々の加速度値を以下のように処理する。なお、コントローラ40は、例えばPIC(Peripheral Interface Controller:周辺機器接続制御用IC)により構成することができる。PICは、演算処理部、メモリ、入出力部等が一つのICに組込まれたワンチップ・マイクロコンピュータであり、メモリに記憶されるソフトウェアで制御される。
【0020】
[初期化−加速度値Ax、Ay及びAzのサンプリング]
コントローラ40は、力表示器10の起動後に、初期化の処理を行う。ここでは、力表示器10は正立されているものとする。
コントローラ40は、初期化を行うために、加速度センサ20から加速度値Ax、Ay及びAzを継続して取得(サンプリング)するとともに、メモリに記憶する。サンプリングを例えば40Hz(=40回/sec.)の周期で行うことで、加速度の0.025秒間の時間変化に追従することができる。ただし、40Hzというサンプリング周期はあくまで例示であり、他のサンプリング周波数を採用できることは言うまでもない。なお、Axは加速度センサ20のx軸方向の加速度値、Ayは加速度センサ20のy軸方向の加速度値、Azは加速度センサ20のz軸方向の加速度値である。
【0021】
コントローラ40は、加速度値Ax、Ay及びAzの各々から短周期加速度値(加速度情報S)Sx、Sy及びSzを算出する。また、コントローラ40は、加速度値Ax、Ay及びAzの各々から長周期加速度値(加速度情報L)Lx、Ly及びLzを算出する。なお、短周期加速度値Sx、Sy及びSz、並びに、長周期加速度値Lx、Ly及びLzの具体的な内容は後述する。
【0022】
コントローラ40は、所定のサンプリング回数の間に短周期加速度値Sx、Sy及びSzのいずれも変化せずに、かつSx及びSyが0の場合には、力表示器10はZ軸を鉛直にして静置されているものと判断して、初期化を完了する。所定のサンプリング回数の間に短周期加速度値Sx、Sy及びSzのいずれかが変化すると、コントローラ40は初期化を再度試みる。
【0023】
[基準重力G0(G0=Lz0)の記憶]
コントローラ40は、初期化がなされた時点のz軸方向の長時間加速度値Lz0を、加速度センサ20(力表示器10)が受ける重力の大きさを基準重力G0(G0=Lz0)としてメモリに記憶する。基準重力G0は、後に力表示器10が加速度運動しているか否かの判断を行う際に用いる。
力表示器10が起動時の姿勢に保持されているのでここで得られる基準重力G0は1g(g:重力加速度)である。
【0024】
基準重力G0を記憶するのと同時に、その時点での短周期加速度値Sx0、Sy0及びSz0、並びに、長周期加速度値Lx0、Ly0及びLz0も、初期化された値としてメモリに記憶される。さらに、長周期加速度値Lx0、Ly0及びLz0が重力の大きさ、向きとして記憶される。各軸の重力Gx0、Gy0、Gz0は、Gx0=−Lx0、Gy0=−Ly0及びGy0=−Lz0で表される。ただし、初期化時点では、常にGx0=0、Gy0=0、Gz0=G0である。
【0025】
[短周期加速度値Sx、Sy及びSzの算出]
コントローラ40は、サンプリング間隔Δt秒毎に得られる加速度値Ax、Ay及びAzから短周期加速度値Sx、Sy及びSzを算出する。短周期加速度値Sx、Sy及びSzは、例えばTS=0.1sec.の間(短周期間)にサンプリングされた加速度値Ax、Ay及びAzの平均値で与えられる。TS秒間には、TS=NS×Δtで表わされるNS回の計測が行われる。よって、Sx、Sy及びSzは以下により特定される。なお、以下では、加速度値Ax、Ay及びAzを総称する場合には加速度Aと総称し、短周期加速度値を総称する場合には短周期加速度値Sと表記することがある。
Sx=(Ax1+Ax2+Ax3+…+AxNS)/NS
Sy=(Ay1+Ay2+Ay3+…+AyNS)/NS
Sz=(Az1+Az2+Az3+…+AzNS)/NS
ここで、各短周期加速度値Sを算出するためには最低NS回の加速度値Aの計測が必要なことは上式からも明らかである。こうして算出された最初の短周期加速度値SであるS1は以下により算出される。
S1=(S1+S2+S3…SNS)/NS
しかし、一旦S1が算出されれば、その次のS2は次の計測値SNS+1とそれまでの計測値(A1は除く)を使って以下により算出できる。
S2=(A2+A3+…+ANS+ANS+1)/NS
つまり、加速度値Aの移動平均をとっていくことで短周期加速度値Sを順次算出することになる。これは、後述する長周期加速度値Lx、Ly及びLzについても同様である。したがって、最初のNS回以降は、毎回のサンプリング毎に短周期加速度値S及び長周期加速度値Lが算出される。
【0026】
短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)は、例えば、短周期間TSを0.1sec.とし、加速度値Aのサンプリング周波数を40Hz(Δt=0.025sec.)とすると、4回分のサンプリングされた加速度値Aの平均値である。したがって、短周期加速度値を算出することにより、短い周期で動いている力表示器10(加速度センサ20)に作用される力(重力は含まず)を検知することができる。しかも、短周期加速度値をx軸、y軸及びz軸の3軸全てについて算出することで、力表示器10を使用する向きの制約を排除することができる。
なお、ここでは短周期間TSを0.1sec.として説明したが、あくまで一例である。傾向として、短周期間TSが短いと音、振動などのノイズを拾うおそれがあり、逆に、短周期間TSが長いとx−z表示体16及びx−y表示体17への表示(発光ダイオードLEの点灯)が力表示器10の動きに追従せずに遅れる。したがって短周期間TSは、0.01〜0.3sec.以下の範囲から選択することが好ましく、0.05〜0.15sec.の範囲から選択するのがより好ましい。
【0027】
[長周期加速度値Lx、Ly及びLzの算出]
コントローラ40は、サンプリング間隔Δt秒毎に得られる加速度値Ax、Ay及びAzから長周期加速度値Lx、Ly及びLzを算出する。長周期加速度値Lx、Ly及びLzは、例えばTL=1.0sec.の間(長周期間)にサンプリングされた加速度値Ax、Ay及びAzの平均値で与えられる。TL秒間には、TL=NL×Δtで表わされるNL回の計測が行われる。よって、Lx、Ly及びLzは以下により特定される。
Lx=(Ax1+Ax2+Ax3+…+AxNL)/NL
Ly=(Ay1+Ay2+Ay3+…+AyNL)/NL
Lz=(Az1+Az2+Az3+…+AzNL)/NL
【0028】
長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)は、例えば、長周期間TLを1.0sec.とし、加速度値Aのサンプリング周波数を40Hzとすると、40回分のサンプリングされた加速度値Aの平均値である。長周期加速度値を算出するのは、力表示器10に作用する重力を検出するためである。つまり、重力は力表示器10に常に作用しており短周期間TSのように短い時間では変わらないことを前提にして、短周期間TSに比べて十分に時間の長い長周期間TLに基づいて長周期加速度値を算出することで、力表示器10に作用する重力(大きさ、向き)を検出する。しかも、長周期加速度値をx軸、y軸及びz軸の3軸全てについて算出することで、力表示器10を使用する向きの制約を排除することができる。
なお、ここでは長周期間TLを1.0sec.として説明したが、あくまで一例である。傾向として、長周期間TLが短すぎると短周期に対応する力との区別ができなくなるおそれがあり、逆に、長周期間TLが長いと短周期間TSと同様に表示が力表示器10の動きに追従せずに遅れる。したがって長周期間TLは、0.5〜10sec.以下の範囲から選択することが好ましく、0.8〜5.0sec.の範囲から選択するのが好ましい。
以下、長周期加速度値を総称する場合には、長周期加速度値Lと表記することがある。
【0029】
[加速度の絶対値Gの算出]
コントローラ40は、算出された短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)を用いて、加速度の絶対値G1を算出する。なお、絶対値G1はG1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2により求められる。
コントローラ40は、算出された絶対値G1と先に記憶された基準重力G0とを比較する。この比較により、力表示器10が加速度運動をしているのか否かの判断を行うことができる。つまり、力表示器10が加速度運動をしていなければG1はG0のままで一致(G1=G0)し、力表示器10が加速度運動をしていればG1はG0と相違する(G1≠G0)。以下、G1=G0(非加速度運動)の場合をCase-Aといい、G1≠G0(加速度運動)をCase-Bという。なお、Case-Aに該当するのは、静止、等速運動のいずれかである。
【0030】
Case-A(非加速度運動)の場合、長周期加速度値Lx、Ly及びLzは重力と逆の向きを示しており、コントローラ40はGx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzをメモリに記憶する。
ここで、地球上の物体には常に重力が働いているため、静止している加速度センサ20は上向きの加速度、つまりは上向きの力を常に出力する。この場合、加速度センサ20の出力から求められる力は物体の支持面から受ける垂直抗力に対応する。しかし、重力に対応する下向きの出力は存在しない。そこで、Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzと解釈することで重力を表示できるようにしている。
一方、Case-B(加速度運動)の場合、重力の向きは分からないので、コントローラ40は、格別な処理を行わない。したがって、メモリには前回サンプリングまでの加速度値(Ax、Ay及びAz)、短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)、長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)が記憶されている。
なお、Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzを総称する場合には、重力Gと表記することがある。
【0031】
[表示情報の特定]
<通常モードと実作用モード>
以上の結果に基づいて、コントローラ40は、表示部60のLEDを点灯、表示させる内容を特定する。この表示内容は、通常モード(第1モード)と実作用モード(第2モード)によって区分される。
通常モードの場合には、物体が静止していても重力と垂直抗力が同じ大きさで逆向きに作用していることを表示されるようする。つまり、通常モードは重力を特別に扱っている。これは、重力と垂直抗力がつりあっていることを学ぶ理科の学習内容に、力表示器10の表示を合わせるためである。しかしながら、静止状態においては実際には重力と垂直抗力はつりあっているのであって、トータルとしてみると力表示器10には力が負荷されていない。そこで、実作用モードは純粋に力表示器10に負荷される力のみを表示するために実作用モードを設けている。つまり、実作用モードでは、重力と垂直抗力がつりあう状態を表示させないようにする。
【0032】
モードの選択は、力表示器10に通常モードと実作用モードのいずれかを選択できるスイッチを設けてもよいし、起動する際の力表示器10の向きに応じて通常モードと実作用モードのいずれかが自動的に選択されるようにしてもよい。後者として、例えば、力表示器10を正立(図1の状態)させた状態で起動スイッチをオンすると通常モードが選択され、力表示器10を倒立(z軸の向きが図1とは逆さ)させた状態で起動スイッチをオンすると実作用モードが選択されるように、コントローラ40が処理するようにプログラムしておけばよい。
【0033】
<通常モード>
通常モードでは、重力Gが常に表示される。しかし、短周期加速度値Sは、重力Gの向きによって表示が以下のように異なる。
短周期加速度値Sが重力Gと向きが逆(異符号)の場合は、短周期加速度値Sと重力Gを独立して両方とも表示させる。例えば、短周期加速度値Sxが正(+)方向にLEDが3つ分の大きさを有し、重力Gxが負(−)方向にLEDが1つ分の大きさを有しているとすると、x−z表示体16のx(+)側のLEDが3つ点灯し、x−z表示体16のx(−)側のLEDが1つ点灯する。
短周期加速度値Sが重力Gと向きが同じ(同符号)場合は、重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示させる。例えば、短周期加速度値Sxが正(+)方向にLEDが3つ分の大きさを有し、重力Gxが正(+)方向にLEDが1つ分の大きさを有しているとすると、x−z表示体16のx(+)側のLEDが4つ点灯する。
【0034】
<実作用モード>
実作用モードでは、短周期加速度値Sの向き(符号)に係わらず、常に重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示させる。例えば、重力Gと垂直抗力(短周期加速度値S)は異符号であるから、S+Gは0(ゼロ)になる。よって、力表示器10が静止しているときは何も表示されない。しかし、力表示器10を自由落下させると、垂直抗力(短周期加速度値S)は0(ゼロ)になるのでx−z表示体16のx(−)側に重力Gだけが表示されることになる。
以上の通常モード、実作用モードのいずれにおいても、重力Gに基づく表示は、力表示器10が傾かない限り変わらないか、変わる場合もゆっくり変わる。これに対して、短周期加速度値Sに基づく表示は、手で力表示器10を持って動かすと、その動きに追従して素早く変化する。
【0035】
[表示]
コントローラ40は、以上のようにして特定された表示内容に基づいて、表示部60のLEDを点灯、表示させる。本実施形態では、前述したよう、1つのLEDが0.25g(g=重力加速度)に相当するので、表示情報が、0.125g<d≦0.375gの場合にはLEDを1つ点灯させ、同様に0.375g<d≦0.625gの場合には2つ、0.625g<d≦0.875gの場合には3つというように点灯させればよい。表示情報が0.125gより小さい場合には、LEDは1つも点灯させない。
【0036】
[処理手順]
以上説明したコントローラ40による力表示器10の処理手順を図3、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
<初期化処理>
起動スイッチが入ると、コントローラ40は力表示器10の初期化の処理を行う。この初期化処理は、力表示器10の一連の処理を行うために必要な情報を得るために行うものであり、図3のS101〜S109の各ステップを実行することで遂行される。
コントローラ40は、起動スイッチが入ると、加速度センサ20から加速度値Ax、Ay及びAzをサンプリングし(ステップS101)、短周期加速度値Sx、Sy及びSz、並びに、長周期加速度値Lx、Ly及びLzを算出する(ステップS103,S105)。ステップS101〜S105は繰り返して行われる。ステップS101〜S105が所定のサンプリング回数(n回)に達すると、コントローラ40は、各回数の短周期加速度値Sx、Sy及びSzの各々が一致していて、かつ、SxおよびSyが0であるという初期化の条件を満たすか否か、つまり力表示器10がz軸を鉛直方向に向けて静置されているか否かの判断を行う(ステップS107)。例えば、力表示器10を手に持って動かしていると短周期加速度値Sx、Sy及びSzのいずれかが変動しているので初期化が失敗したと判断され(ステップS107 No)、再度、ステップS101からステップS105までの処理を所定のサンプリング回数(n回)に達するまで行い、ステップS107の判断が行われる。
【0037】
ステップS107において、初期化の条件を満たすと判断される(ステップS107 Yes)と、コントローラ40は、n回目にサンプリングしたz軸方向の加速度値Lz0を前述した基準重力G0(G0=Lz0)としてメモリに記憶する(ステップS109)。以上で、初期化処理は完了する(図3 ステップS111)。なお、初期化が完了した時点の短周期加速度値(Sx、Sy及びSz)、長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)は、メモリに記憶されることなく、そのまま保持される。長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)は、後述するステップS121において非加速度運動(Yes)と判断されると新たに算出される。また、後述するステップS121において加速度運動(No)と破断されると、さらにそのまま保持される。
【0038】
<表示のためのサンプリング、算出>
初期化が完了すると、加速度センサ20から加速度値Ax、Ay及びAzをサンプリングし(ステップS113)、短周期加速度値Sx、Sy及びSz、並びに、長周期加速度値Lx、Ly及びLzを算出する(ステップS115,S117)。
コントローラ40は、算出された短周期加速度値Sx、Sy及びSzから、加速度の絶対値G1(G1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2)を算出し(ステップS119)、次いで、算出された加速度の絶対値G1と初期化に伴って記憶した基準重力G1とを比較する(ステップS121)。力表示器10が加速度運動をしていなければG1はG0のままであるからG1はG0に一致し(G1=G0,ステップS121 Yes)、力表示器10が加速度運動をしていればG1はG0と相違する(G1≠G0,ステップS121 No)。ただし、測定の誤差もあるために、ある閾値αを設け、|G0−G1|<αならば非加速度運動をしていると判断することが現実的な処理である。また、(Sx2+Sy2+Sz2)1/2)の計算を省略するために、G02とG12を比較してもよいことは言うまでもない。
【0039】
前述したように、Case-A(非加速度運動)の場合には、コントローラ40はGx=−Lx、Gy=−Ly及びGy=−Lzをメモリに記憶し(ステップS123)、Case-B(加速度運動)の場合、格別な処理を行わずに先行する長周期加速度値(Lx、Ly及びLz)を保持する(ステップS121〜S125)。
【0040】
次に、コントローラ40は、力表示器10が通常モードと実作用モードのいずれが選択されているかの判断を行う(ステップS125)。
通常モードが選択されている場合には、図4の(A)に続く処理がなされる。通常モードの場合には、短周期加速度値Sと重力Gの向きの異同が判断される(ステップS201)。当該向きが逆であれば(ステップS201 Yes)、短周期加速度値Sと重力Gを独立して表示情報とする(ステップS203)。当該向きが同じ又は少なくとも一方の値が0であれば(ステップS201 No)、重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示情報とする。
一方、実作用モードが選択されている場合には、図4の(B)に続く処理がなされる。この場合、短周期加速度値Sの向き(符号)に係わらず、常に重力Gに短周期加速度値Sを加えて(S+G)表示情報とする(ステップS207)。
コントローラ40は、各表示情報に基づいて、表示部60のLEDを点灯、表示させる(ステップS209)。
【0041】
コントローラ40は、ステップS209までの処理を終えると、図3のステップS111(図3,4の(C))に戻り、ステップS111からステップS209までの処理を繰り返すことで、力表示器10の状態の変化に応じた表示を表示部60に行わせる。繰り返しの周期は任意であるが、例えば1秒間に30〜50回程度の回数でステップS111からステップS209までの処理を繰り返すことができる。
【0042】
[表示例]
さて、以上の力表示器10を用いて実際に力を視覚化して表示させる例を、以下の順で説明する。
(I)水平面に静止(通常モード)…図6、図7、図14
(II)自由落下(又は投げ上げ,通常モード)…図8
(III)水平面を直線加速度運動(外力あり,通常モード)…図9
(IV)水平面を等速直線運動(外力なし,通常モード)…図10
(V)傾斜面に静止(通常モード)…図11
(VI)傾斜面を自由滑走(通常モード)…静止解除…図12
(VII)回転運動(通常モード)…図13
(VIII)静止→自由落下運動(実作用モード)…図15
(IX)静止→人為的に上下に振動(通常モード)…図16
【0043】
(I)水平面に静止…図6,7,14
通常モードの力表示器10が水平面に静止していると、力表示器10には重力及び水平面からの垂直抗力が作用する。重力はz軸方向の下向きに作用し、垂直抗力はz軸方向の上向きに作用する。しかし、重力を力表示器10の加速度センサ20で測定できない。そこで、力表示器10は、加速度センサ20で測定された加速度の長周期加速度値Lzを用いてその逆の向きの力を重力とみなして表示させる。
力表示器10を水平面に静止させると、重力と垂直抗力とは釣り合い、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される(図6(a))。
正(+)側の4つの点灯されたLEDが垂直抗力を表し、負(−)側の4つの点灯されたLEDが重力を表しており、これを見た者は、物体(力表示器10)に、重力と垂直抗力が作用していることを視覚的に認識できる。
【0044】
以上のように表示される際の短周期加速度値S(以下、短周期加速度値を省略することがある)、長周期加速度値L(以下、長周期加速度値を省略することがある)を対比して以下の表1に示す。なお、表1において、初期化の列に記載されているのは初期化が完了した時点の情報である。また、表1において、初期化が完了した時点で、NS回及びNL回の加速度値Aの計測が行われているものとする。
この例では、初期化のときから同じ水平面上に静止されており、初期化の際のLzがg(重力加速度)であることから、Gz0は−gとして記憶される。
初期化が完了した後も力表示器10は静止し続けるが、その間、図3のS121の非加速度運動又は加速度運動の判断が常にYesなので、SxとLx、SzとLzは常に同じ値になる。つまり、Sz及びLzはともにgのままである。この場合、力表示器10は非加速度運動の状態にあるものと判断され、Gz0=−Lz0=−gが表示情報として扱われる。したがって、Sz=g(正)、Gz0=−g(負)は各々独立して加速度情報となる結果として、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される。なお、水平面に静止された力表示器10は、x−y方向には力が作用していないので、x−y表示体17のLEDは一つも点灯されない(図6(b))。
【0045】
【表1】
【0046】
力表示器10は、図7に示すように、その向きを変えて静止させても重力と垂直抗力とが釣り合っていることを表示できる。例えば、図14に示すように、力表示器10を時計回りに回転させて、x軸を鉛直方向にしても、重力と垂直抗力を示すことができる。これは、力表示器10が、3軸の各々について算出した短周期加速度値S、長周期加速度値Lに基づいて表示情報を生成していることによる。つまり、力表示器10は、x軸、y軸及びz軸の向きに制限を受けることなく使用できる等方的な性質を備えている。以下の(II)自由落下(又は投げ上げ)の以降の場合も同様である。
【0047】
(II)自由落下(又は投げ上げ)…図8
正立状態にある通常モードの力表示器10を自由落下させると、水平面に静置していた時に作用していた垂直抗力は作用しない。しかし、力表示器10には、重力は作用する。したがって、図8(a)に示すように、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDのみが点灯されなければならない。
下向き(−側)の4つのLEDは重力を表しており、これを見た者は、自由落下時には、物体(力表示器10)に重力のみが作用していることを視覚的に認識できる。
なお、力表示器10を投げ上げた場合も、同様に、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDのみが点灯される。
【0048】
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表2に示す。なお、初期化がなされるまでは力表示器10は水平面上に静止されており、初期化の際にGz0はGz0=−gとして記憶される。
加速度センサが自由落下しているとき(又は投げ上げられているとき)は、慣性力と重力とが打ち消しあうことで鉛直方向の加速度センサの出力は0(ゼロ)になる。つまり、G0≠G1を満たす。したがって、コントローラ40は、力表示器10が加速度運動しているものと判断する(図3 S121の判断がNo)ので、Lx、Lz(Gx、Gz)は先行する、つまり初期化完了時点のLx、Lz(Gx、Gz)が保持される(表2の→)。なお、表3以降も先行する長周期加速度値Lが保持されることを矢印(→)で示す。一方、先に記憶されているGz=−gとSz=0から、z軸方向の表示情報はSz+Gz=−g+0=−gとなり、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDのみが点灯される。
【0049】
【表2】
【0050】
(III)水平面を直線加速度運動(外力あり)…図9
通常モードの力表示器10が、例えば手で押されながら水平面上を直線加速度運動する場合、力表示器10には、x軸方向の図中左向きの外力Fが作用する。したがって、図9(a)に示すように、x−z表示体16のx軸方向の正(+)側の例えば3つのLEDが点灯される。この場合、点灯されている3つのLEDは、外力Fに対応する加速度の大きさがg(重力加速度)の3/4程度であることを示している。
また、力表示器10が、外力Fを受けながら水平面上を加速度運動する場合、力表示器10には、重力及び水平面からの垂直抗力が作用する。したがって、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される。
以上の通りであり、x−z表示体16のx軸方向の正(+)側の3つのLEDが外力Fを表し、正(+)側の4つのLEDが垂直抗力を表し、負(−)側の4つのLEDが重力を表しており、これを見た者は、物体(力表示器10)に、右向き水平方向の外力F、重力及び垂直抗力が力表示器10に作用していることを視覚的に認識できる。
【0051】
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表3に示す。なお、初期化までは上述と同じである。
静止状態(非加速度運動)から直線加速度運動に移ると、力表示器10には水平方向の外力Fが加わることで、x軸方向に加速度が生じる。もちろん、G0≠G1を満たす。したがって、コントローラ40は、力表示器10が加速度運動しているものと判断する(図3 S121の判断がNo)ので、Lx、Lz(Gx、Gz)は先行する、つまり初期化完了時点のLx、Lz(Gx、Gz)が保持される(表3の→)。一方、先に記憶されているGz=−gとSz=gは向きが逆であるから、Sz(g)とGz(−g)が各々独立してz軸方向の表示情報となり、x−z表示体16のz軸方向の正(+)側と負(−)側の4つのLEDが点灯される。また、Sx=0.75gと保持されているLx=0とから、x軸方向の表示情報はSx+Lx=0.75g+0=0.75gとなり、x軸方向の正(+)側の3つのLEDが点灯される。
【0052】
【表3】
【0053】
(IV)水平面を等速直線運動(外力なし)…図10
通常モードの力表示器10が、水平面上を等速直線運動する場合には、図10に示すように、力表示器10には、重力及び水平面からの垂直抗力のみが作用する。
したがって、x−z示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される。正(+)側の4つのLEDが垂直抗力を表し、負(−)側の4つのLEDが重力を表しており、これを見た者は、物体(力表示器10)に、重力及び垂直抗力が力表示器10に作用していることを視覚的に認識できる。
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lは、水平面に静止している場合(I)と同じである。
【0054】
(V)傾斜面に静止…図11
図11に示すように、通常モードの力表示器10が傾斜面に支持体70によって保持され静止されている場合には、力表示器10には、x軸とz軸方向それぞれに、重力成分と傾斜面や支持体70から受ける垂直抗力が作用する。ただし、ここでは,傾斜面と力表示器10の間には摩擦は働かないものとする。この場合、x軸及びz軸のそれぞれで力は釣り合う。力表示器10は、支持体70から傾斜面と水平方向に抗力Dを受ける。この抗力Dは、重力のx軸方向の成分と、大きさが等しく、向きが逆である。
【0055】
したがって、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の例えば3つのLEDと、z軸方向の負(−)側の例えば3つのLEDが点灯される。また、x−z表示体16は、x軸方向の正(+)側の2つのLEDと、x軸方向の負(−)側の2つのLEDが点灯される。これを見た者は、物体(力表示器10)に、重力及び垂直抗力がx軸方向及びz軸方向に作用していること、また、x軸方向およびz軸方向それぞれにおいて力はつりあっていることを視覚的に認識できる。
【0056】
この例では、初期化の際に正立している力表示器10を初期化後に傾けるものとする。また、正立している力表示器10を傾ける動作(表4の傾斜過程)は例えば5秒程度の時間をかける非加速度運動で行うものとする。初期化から傾斜面に支持されるまでの短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表4に示す。
傾斜過程では、力表示器10が非加速度運動をしている(図3 S121の判断がYes)ので、Sx、Sz、Lx、Lzは傾きに応じて逐次変化する。具体的には、Sx、Lxは初期化時点から増加し、Sz、Lzは初期化時点から逐次減少する。この傾斜過程では、SxとGxは向きが逆であるので、SxとGxは独立して表示情報となる。図11の記載は省略しているが、例えば、Sx=0.1g、Gx=−0.1gの場合にはx軸方向のLEDの点灯数は0であり、Sx=0.2g、Gx=−0.2g及びSx=0.3g、Gx=−0.3gの場合にはx軸方向のLEDの点灯数は1であり、Sx=0.4g、Gx=−0.4gの場合にはx軸方向のLEDの点灯数は2である。また、Sz=0.99g〜0.92g、Gz=−0.99g〜−0.92gの場合にはz軸方向のLEDの点灯数は4のままである。
所定の角度まで傾斜させたのちに力表示器10を一定時間その状態を維持(静止)させると、力表示器10は非加速度運動のままである(図3 S121の判断がYes)。そうすると、傾斜の角度に応じてSx=0.5g、Sz=0.87g、Lx=0.5g、Lz=0.87gが求められるので、Gx0=−0.5g、Gz0=−0.87gが表示情報として扱われる。したがって、Sx=0.5g(正)とGx=−0.5g(負)、また、Sz=0.87g(正)とGz=−0.87g(負)、は各々独立して加速度情報として扱われる結果として、x軸方向については正(+)側と負(−)側の2つのLEDが点灯され、z軸方向については、正(+)側と負(−)側の3つのLEDが点灯される。
【0057】
【表4】
【0058】
(VI)傾斜面を自由滑走…図12
通常モードの力表示器10が摩擦のない傾斜面を自由滑走する場合には、力表示器10には、重力及び傾斜面からの垂直抗力が作用する。傾斜面から受ける垂直抗力は、重力のz軸方向の成分、つまりz軸方向の加速度情報Azと大きさが同じで向きが逆である。
力表示器10は、傾斜面を自由滑走するから、受ける力は、重力のx軸方向の成分と、重力のz軸方向の成分と、傾斜面から受ける垂直抗力の3つである。
【0059】
したがって、x−z表示体16は、例えばz軸方向の正(+)側の3つのLEDと、z軸方向の負(−)側の3つのLEDが点灯される。また、x−z表示体16は、例えばx軸方向の正(+)側の2つのLEDが点灯される。これを見た者は、物体(力表示器10)に、z軸方向には重力のZ成分及び垂直抗力が、x軸方向には重力のx成分が作用していること、また、力表示器10が重力のx軸方向の成分によって加速されることを視覚的に認識できる。
【0060】
この例では、はじめ図12に示すように力表示器10を支持していた支持体70を取り除いて自由滑走させるものとする。したがって、支持体70を取り除く前の状況は傾斜面支持と同様である。
支持体70を取り除いた後は、力表示器10は支持体70からの抗力Dを受けなくなるので、表5に示すように、Sx=0となる。また。力表示器10は加速度運動する(図3 S121の判断がNo)ので、Lx、Lz(Gx、Gz)は先行する、つまり初期化完了時点のLx、Lz(Gx、Gz)が保持され(表5の→)、Gx0=−0.5g、Gz0=−0.87gが表示情報として扱われる。したがって、Sz=0.87g(正)とGz=−0.87g(負)、は各々独立して表示情報として扱われる結果として、x軸方向については正(+)側の2つのLEDが点灯され、z軸方向については、正(+)側と負(−)側の3つのLEDが点灯される。
【0061】
【表5】
【0062】
(VII)回転運動…図13
通常モードの力表示器10を図13(a)のように、軸Sの周りに自由に回転できる円盤70の端に置き、円盤70を回転させると、力表示器10には向心力が働き図13(b)のようにLEDが点灯する。一般に、回転する物体には遠心力が働くと考えられており、実際回転座標系では遠心力が働く。ところが,図13(a)のように置かれた力表示器10が円盤と共に円運動をするためには向心力が必要なのである。この関係を生徒が理解することは通常極めて困難である。本発明を用いることで、回転物体には確かに向心力が働いていることを明確に示すことができる。
【0063】
(VIII)静止→自由落下運動(実作用モード)…図15
図15に示すように、水平に支持されて静止している実作用モードの力表示器10(図15の上段)を、支持を解除して自由落下させる(図15の下段)とする。
支持されている状態では、x−z表示体16のLEDは一つも点灯されない。これは実作用モードにより、釣り合っている重力と垂直抗力の表示を回避しているためである。ところが、自由落下し始めると、x−z表示体16のz軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯され、力表示器10には重力が作用することが示される。
このように、実作用モードを採用することで、静止状態のように釣り合うことで力表示器10全体としては負荷されていない力(加速度)を表示するのを回避しながらも、自由落下時には力表示器10に重力が負荷されていることを示すことができる。通常モードと実作用モードの力表示器10の表示を比べることで、物体に負荷される力の理解をより深めることができる。
【0064】
この例では、自由落下するまでは水平面上に支持されており、表6に示すように、Sz=g、Gz=−gとなる。しかるに、実負荷モード(表示情報は常にSz+Gz)であるため、水平面上に支持されている間の表示情報は、Sz+Gz=g+(−g)=0となる。水平面への支持が解除されると、垂直抗力がなくなるのでSz=0となり、その結果として自由落下の際にはGz=−gに対応して、z軸方向にの負(−)側の4つのLEDが点灯される。
【0065】
【表6】
【0066】
(IX)静止→人為的に上下に振動(通常モード)…図16
図16の(a)に示すように、水平に支持して人が保持(静止)している通常モードの力表示器10を、図16(b)の位置まで瞬時に降下させた後に、図16(c)の位置まで上昇させるものとする。
保持(静止)されている状態では、(I)の水平面に支持されているのと同じであるから、x−z表示体16は、z軸方向の正(+)側の4つのLEDが、また、z軸方向の負(−)側の4つのLEDが点灯される(図16(a))。正(+)側の4つの点灯されたLEDが垂直抗力に相当し、負(−)側の4つの点灯されたLEDが重力に相当する。
保持状態から瞬間的に下降させると、垂直抗力がなくなるので、z軸方向の正(+)側のLEDは点灯されない。また、下方に向けた外力が加わることで、z軸方向の負(−)側は5つのLEDが点灯する(図16(b))。
さらに、下降から上昇に転じると、上向きの力が加わるので、z軸方向の正(+)側のLEDは上向きの力に相当する1つだけ点灯される。また、z軸方向の負(−)側については、重力に相当する4つのLEDが点灯する(図16(c))。
【0067】
以上のように表示される際の短周期加速度値S、長周期加速度値Lを対比して以下の表7に示す。
この例では、下降・上昇、つまり振動が始まるまでは水平に保持されており、Sz=g、Gz=−gとなり、これに対応して、z軸方向の正(+)側及び負(−)側ともにの4つのLEDが点灯される。
瞬間的に下降されている間は、下向きの力を受ける。この下向きの力が0.25gに相当するものとする。瞬間的な下降に対して、短周期加速度値Sは追従するが、長周期加速度値Lは追従しないので、短周期加速度値はSz=−025gとなるのに対して、Gzは−gのままである。表示情報は、SzとGzは向きが同じなので、Sz+Gz=−1.25gとなる。
瞬間的に上昇されている間は、上向きの力を受ける。この上向きの力が0.25gに相当するものとする。そうすると、短周期加速度値はSz=025gとなるのに対して、Gzは−gのままである。SzとGzは向きが逆なので、Sz=0.25gとGz=−1の各々が表示情報となる。
【0068】
【表7】
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、加速度センサ20はアナログ出力を有する加速度センサを用いることもできる。ただしこの場合、フィルタ・アンプ回路等の他の要素を設ける必要がある。
また、力表示器10は直方体状のケース11を用いたが、本発明はこれに限るものではない。x−z表示面とx−y表示面という二つの表示面を形成できるのであれば、例えば、ケース11を四角形以上の多角形としてもよいし、球状としてもよい。
さらに、x−z表示体16、x−y表示体17についても、異なる大きさのLEDを並べてもよく、3軸(x軸、y軸、z軸)の各々について、正・負を表示できるものであればよく、十字状にLEDを並べることに限定されるものでない。
さらにまた、表示情報をそのまま用いるのではなく、例えば表示情報を2倍にして表示させるモードを設けることで、小さな力が作用した場合の視認性を向上させることもできる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
10…力表示器
11…ケース
12…x−z表示面、13…x−y表示面
14…x−z表示基板、15…x−y表示基板
16…x−z表示体、17…x−y表示体
20…3軸加速度センサ、40…コントローラ、60…表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するx軸方向と、y軸方向と、z軸方向の各々の軸方向について加速度を検出する3軸加速度センサと、
前記3軸加速度センサから取得する前記x軸方向、前記y軸方向及び前記z軸方向の前記加速度に基づいて、前記軸方向の各々について、前記3軸加速度センサに作用する重力以外の力に対応する加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び前記3軸加速度センサに作用する重力に対応する加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を求め、
算出された前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)に基づいて、前記軸方向の各々について表示情報を生成するコントローラと、
前記表示情報に基づいて前記軸方向に作用する力の向きと大きさを表示する表示体と、
を備えることを特徴とする視覚的力表示器。
【請求項2】
前記コントローラは、
起動後に特定した基準重力G0と、
前記基準重力G0を特定した後に算出される前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)から算出される加速度の絶対値G1(ただし、加速度の絶対値G1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2と、を比較することで、前記視覚的力表示器が加速度運動又は非加速度運動のいずれの状態にあるのかを判断する、
請求項1に記載の視覚的力表示器。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記視覚的力表示器が非加速度運動の状態にあるものと判断すると、
前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、前記3軸加速度センサに作用する重力に対応する前記表示情報として扱い、
前記視覚的力表示器が加速度運動の状態にあるものと判断すると、
当該加速度運動を開始する前の前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、前記3軸加速度センサに作用する重力に対応する前記表示情報として扱う、
請求項2に記載の視覚的力表示器。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記力の向きと大きさの表示について第1のモードと第2のモードを備え、
前記第1のモードは、
前記重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが逆の場合には、前記重力Gと前記加速度情報Sを各々独立した前記表示情報として扱い、
前記重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが同じ場合には、前記重力Gと前記加速度情報Sとを加えて前記表示情報として扱い、
前記第2のモードは、
前記重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きに係らず、前記重力Gと前記加速度情報Sとを加えて前記表示情報として扱う、
請求項3に記載の視覚的力表示器。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記基準重力G0を特定する以前から、前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を算出し、
前記基準重力G0を特定した際に与えられる前記各軸方向の前記加速度情報L0(Lx0、Ly0及びLz0)により初期重力値Gx0=−Lx0、Gy=−Ly及びGz=−Lz)として記憶する、
請求項1〜4のいずれかに記載の視覚的力表示器。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の視覚的力表示器からなる視覚的理科教材。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の視覚的力表示器からなる視覚的科学玩具。
【請求項1】
互いに直交するx軸方向と、y軸方向と、z軸方向の各々の軸方向について加速度を検出する3軸加速度センサと、
前記3軸加速度センサから取得する前記x軸方向、前記y軸方向及び前記z軸方向の前記加速度に基づいて、前記軸方向の各々について、前記3軸加速度センサに作用する重力以外の力に対応する加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び前記3軸加速度センサに作用する重力に対応する加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を求め、
算出された前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)及び前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)に基づいて、前記軸方向の各々について表示情報を生成するコントローラと、
前記表示情報に基づいて前記軸方向に作用する力の向きと大きさを表示する表示体と、
を備えることを特徴とする視覚的力表示器。
【請求項2】
前記コントローラは、
起動後に特定した基準重力G0と、
前記基準重力G0を特定した後に算出される前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)から算出される加速度の絶対値G1(ただし、加速度の絶対値G1=(Sx2+Sy2+Sz2)1/2と、を比較することで、前記視覚的力表示器が加速度運動又は非加速度運動のいずれの状態にあるのかを判断する、
請求項1に記載の視覚的力表示器。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記視覚的力表示器が非加速度運動の状態にあるものと判断すると、
前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、前記3軸加速度センサに作用する重力に対応する前記表示情報として扱い、
前記視覚的力表示器が加速度運動の状態にあるものと判断すると、
当該加速度運動を開始する前の前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)と向きが逆で大きさの等しい加速度値G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)を、前記3軸加速度センサに作用する重力に対応する前記表示情報として扱う、
請求項2に記載の視覚的力表示器。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記力の向きと大きさの表示について第1のモードと第2のモードを備え、
前記第1のモードは、
前記重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが逆の場合には、前記重力Gと前記加速度情報Sを各々独立した前記表示情報として扱い、
前記重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きが同じ場合には、前記重力Gと前記加速度情報Sとを加えて前記表示情報として扱い、
前記第2のモードは、
前記重力G(Gx=−Lx、Gy=−Ly及びGz=−Lz)と前記加速度情報S(Sx、Sy及びSz)の向きに係らず、前記重力Gと前記加速度情報Sとを加えて前記表示情報として扱う、
請求項3に記載の視覚的力表示器。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記基準重力G0を特定する以前から、前記加速度情報L(Lx、Ly及びLz)を算出し、
前記基準重力G0を特定した際に与えられる前記各軸方向の前記加速度情報L0(Lx0、Ly0及びLz0)により初期重力値Gx0=−Lx0、Gy=−Ly及びGz=−Lz)として記憶する、
請求項1〜4のいずれかに記載の視覚的力表示器。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の視覚的力表示器からなる視覚的理科教材。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の視覚的力表示器からなる視覚的科学玩具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−232121(P2011−232121A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101671(P2010−101671)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】
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