説明

親水性タンパク質をベースとする活性剤負荷ナノ粒子

本発明は、親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとし、ここで機能性タンパク質またはペプチド断片が、ナノ粒子に、ポリエチレングリコール−α−マレイン酸イミド−ω−NHSエステル類を介して結合している、活性剤負荷ナノ粒子に関する。また開示されているのは、前記ナノ粒子の製造方法およびこの使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとし、ここで機能性タンパク質またはペプチド断片が、ナノ粒子に、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合している、活性剤負荷ナノ粒子に関する。さらに特に、本発明は、少なくとも1種の親水性タンパク質をベースとし、ここで機能性タンパク質またはペプチド断片、好ましくはアポリポタンパク質が、ナノ粒子に、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合して、血液脳関門を横断して、薬学的または生物学的に活性な剤を輸送する、活性剤負荷ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「ナノ粒子」は、10nm〜1000nmの大きさを有し、薬剤または他の生物学的活性物質を共有結合、イオン結合もしくは吸着的結合により結合させることができるか、またはこれらの物質を導入することができる人工的な、または天然の高分子物質で構成されている粒子を意味するものと理解される。
【0003】
特定のナノ粒子により、それら自体は血液脳関門を横断することができない親水性薬剤を、これら親水性薬剤が中枢神経系(CNS)において治療的に活性になり得るように、血液脳関門を横断して輸送することが可能となる。
【0004】
例えば、多種の薬剤を、ポリソルベート80(Tween(登録商標)80)または他の界面活性剤を塗布された、中枢神経系においてこれらの作用により顕著な薬理学的効果を奏するポリブチルシアノアクリレートナノ粒子により、血液脳関門を横断して輸送することが、可能であった。このようなポリブチルシアノアクリレートナノ粒子と共に投与される薬剤の例には、ダラルジン(dalargin)、エンドルフィンヘキサペプチド、ロペラミドおよびツボクラリン、それぞれMerz社、Frankfurtの2種のNMDAレセプターアンタゴニストであるMRZ2/576およびMRZ2/596、ならびに抗悪性腫瘍活性剤であるドキソルビシンが含まれる。
【0005】
血液脳関門を横断してこれらのナノ粒子を輸送する機構は、場合によっては、ポリソルベート80被膜を介してナノ粒子により吸着されるアポリポタンパク質E(ApoE)に基づく。おそらく、これらの粒子は、これによりリポタンパク質粒子を模倣し、これは、脳内皮細胞のレセプターにより認識および結合され、これにより脂質の脳への供給が確実になる。
【0006】
しかし、血液脳関門を横断すると知られているポリブチルシアノアクリレートナノ粒子は、ポリソルベート80が生理学的起源のものではない点、および血液脳関門を横断してのナノ粒子の輸送が、場合によってはポリソルベート80の毒性効果によるものであり得る点の欠点を有する。さらに、既知のポリブチルシアノアクリレートナノ粒子はまた、ApoEの結合が吸着によってのみ起こるという欠点を有する。これにより、ナノ粒子結合ApoEは、遊離のApoEと平衡状態で存在し、身体中への注射の後に、粒子からのApoEの迅速な脱着が起こり得る。さらに、多くの薬剤は、ポリブチルシアノアクリレートナノ粒子に十分な程度で結合せず、したがってこの担体系で血液脳関門を横断して輸送することができない。
【0007】
これらの欠点を克服するために、WO 02/089776 A1は、ビオチニル化アポリポタンパク質Eがアビジン−ビオチン系またはアビジン誘導体を介して結合するヒト血清アルブミンのナノ粒子(HSAナノ粒子)を提案している。静脈内注射の後、これらのHSAナノ粒子は、吸着的に、または共有結合した薬剤ならびに粒子マトリックス中に導入された薬剤を、血液脳関門(BBB)を横断して輸送することができる。このようにして、生化学的、化学的または物理化学的理由により他の方法では当該関門を横断することができない活性剤を、CNSにおける薬理学的および治療的用途のために用いることができる。
【0008】
しかし、アビジン−ビオチン系は、種々の欠点を有する。例えば、この使用は、ナノ粒子の製造に関して複雑であり、さらに免疫学的または他の副作用をもたらし得る。さらに、アビジン−ビオチン系を含む粒子系は、長期間貯蔵すると凝集する傾向があり、これにより、平均粒度の増大がもたらされ、粒子の効率性に対して悪影響を有する。
【発明の開示】
【0009】
したがって、本発明の根底にある課題は、生化学的、化学的または物理化学的理由により血液脳関門を横断することができない薬剤を、これらのナノ粒子が従来技術から知られているポリブチルシアノアクリレートナノ粒子の、およびアビジン−ビオチン系を含むHSAナノ粒子の欠点を有せずにCNSに供給することができる、ナノ粒子を提供することにあった。
【0010】
この課題は、親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとするナノ粒子であって、少なくとも1種の薬理学的に許容し得る、および/または生物学的に活性な剤を含み、機能性タンパク質として作用するアポリポタンパク質が、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合している前記ナノ粒子により、解決される。
【0011】
本発明のナノ粒子がベースとする親水性タンパク質または親水性タンパク質の少なくとも1種は、好ましくは血清アルブミン、ゼラチンA、ゼラチンBおよびカゼインを含むタンパク質の群に属する。ヒト起源の親水性タンパク質が、より好ましい。最も好ましくは、ナノ粒子は、ヒト血清アルブミンをベースとする。
【0012】
二官能性ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類は、マレイミド基およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含み、この間に、所定の長さのポリエチレングリコール鎖が存在する。好ましくは、機能性タンパク質またはペプチド断片は、親水性タンパク質に、3400Daまたは5000Daの平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖を含むポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合している。
【0013】
ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルを介して親水性タンパク質に結合しているアポリポタンパク質は、好ましくは、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質B(ApoB)およびアポリポタンパク質A1(ApoA1)からなる群から選択される。
【0014】
本発明のナノ粒子の他の好ましい態様において、機能性タンパク質は、アポリポタンパク質ではなく、抗体、酵素およびペプチドホルモン類からなるタンパク質の群から選択される。しかし、ほとんどすべての所望のペプチド断片、好ましくは前述の機能性タンパク質の機能的に活性な断片の群からのペプチド断片を、ナノ粒子に、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合させることも、可能である。
【0015】
したがって、本発明の主題は、親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとし、前記ナノ粒子が、親水性タンパク質(1種)または親水性タンパク質(2種以上)に、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合した少なくとも1種の機能性タンパク質またはペプチド断片を含むことを特徴とする、活性剤負荷ナノ粒子である。
【0016】
輸送するべき活性剤をナノ粒子に負荷させることを、活性剤をナノ粒子に吸着させること、活性剤をナノ粒子中に取り込むことにより、または反応性基を介しての共有結合もしくは複合体形成結合により行ってもよい。
【0017】
原則として、本発明のナノ粒子には、ほとんどすべての所望の活性剤/薬剤を負荷することができる。しかし、好ましくは、ナノ粒子に、それ自体は血液脳関門を横断することができない活性剤を負荷する。一層好ましくは、活性剤は、細胞増殖抑制剤、抗生物質、抗ウイルス物質、ならびに神経系の疾患に対して活性である薬剤の群、例えば鎮痛剤、向知性薬、抗てんかん薬、鎮静薬、向精神薬、下垂体ホルモン類、視床下部ホルモン類、他の調節ペプチドおよびこれらの阻害剤を含む群からのものに属し、このリストは、いかなる方法によっても限定的ではない。最も好ましくは、活性剤は、ダラルジン、ロペラミド、ツボクラリンおよびドキソルビシンを含む群から選択される。
【0018】
本発明のナノ粒子は、おそらく副作用を生じるアビジン−ビオチン系を用いて、機能性タンパク質またはこのペプチド断片を粒子の親水性タンパク質に結合させることが必要ではないという利点を有する。
【0019】
好ましくは、本発明のナノ粒子を、最初に親水性タンパク質(1種)または親水性タンパク質(2種以上)の水溶液をナノ粒子に、脱溶媒和プロセスにより変換し、その後架橋により上記ナノ粒子を安定化させることにより、製造する。
【0020】
水溶液からの脱溶媒和を、好ましくはエタノールを加えることにより行う。原則として、脱溶媒和を、親水性タンパク質に対する他の水混和性非溶媒、例えばアセトン、イソプロパノールまたはメタノールを加えることにより行うことも、可能である。したがって、ゼラチンを、出発タンパク質として、アセトンを加えることにより首尾よく脱溶媒和した。水性相に溶解したタンパク質の脱溶媒は、構造形成塩、例えば硫酸マグネシウムまたは硫酸アンモニウムを加えることにより、同様に可能である。これを、塩析と呼ぶ。
【0021】
ナノ粒子を安定化するのに適する架橋剤は、二官能性アルデヒド類、好ましくはグルタルアルデヒド、ならびにホルムアルデヒドである。さらに、ナノ粒子マトリックスを、熱的プロセスにより架橋させることが、可能である。安定なナノ粒子系は、25時間を超える期間にわたり60℃で、または2時間を超える期間にわたり70℃で得られた。
【0022】
安定化されたナノ粒子の表面上に位置する官能基(アミノ基、カルボキシル基、水酸基)を、アポリポタンパク質の直接的な共有結合のために用いることができる。これらの官能基を、アミノ基と遊離のチオール基との両方に対して反応性であるヘテロ二官能性(heterobifunctional)「スペーサー」を介して、遊離のチオール基が前に導入されているアポリポタンパク質に結合させることができる。
【0023】
本発明のナノ粒子を製造するために、粒子表面のアミノ基を、ヘテロ二官能性ポリエチレングリコール(PEG)をベースとする架橋剤であるポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルで変換する。このプロセスにおいて、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルのスクシンイミジル基は、粒子表面のアミノ基と反応し、N−ヒドロキシスクシンイミドを放出する。この反応により、PEG基を粒子表面上に導入することが可能であり、これは次に、チオール基を導入された物質と反応することができる鎖の他方の末端においてマレイミド基を含み、これによりチオエーテルを形成する。
【0024】
本発明のナノ粒子を製造するために好ましいポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルのポリエチレングリコール鎖は、3400Daの平均分子量を有する(NHS−PEG3400−Mal)。しかし、原則として、比較的短い、または比較的長いポリエチレングリコール鎖、例えば5000ダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖を含むポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を用いることも、可能である。
【0025】
本発明のナノ粒子を製造するために、結合させるべきアポリポタンパク質、機能性タンパク質またはペプチド断片に、2−イミノチオランでの変換によりチオール基を導入する。当該タンパク質またはペプチド断片の遊離のアミノ基を、この変換のために用いる。
【0026】
各々の反応段階の後、粒子系を、水溶液中で繰り返し遠心分離し、再分散させることにより精製する。変換に続いて、それぞれの溶解したタンパク質を、原則として、分子ふるいクロマトグラフィーにより低分子量反応生成物から分離する。
【0027】
親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとし、機能性タンパク質またはペプチド断片で修飾されている活性剤負荷ナノ粒子を製造するための好ましい方法は、以下の段階:
−親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせの水溶液を脱溶媒和する段階、
−架橋による脱溶媒和により形成したナノ粒子を安定化する段階、
−安定化されたナノ粒子の表面上のアミノ基を、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルで変換する段階、
−機能性タンパク質またはペプチド断片にチオール基を導入する段階;および
−チオール基を導入したタンパク質またはペプチド断片を、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルで変換されたナノ粒子に共有結合させる段階
を含むことを特徴とする。
【0028】
薬理学的効果を媒介するために、薬学的に、または生物学的に活性な物質(活性剤)を、粒子中に導入することができる。この場合において、活性剤の結合を、共有結合、複合体形成結合により、ならびに吸着的結合により行ってもよい。
【0029】
チオール基を導入されたアポリポタンパク質または他のチオール基を導入された機能性タンパク質もしくはペプチド断片の共有結合に続いて、PEGで修飾されたナノ粒子に、好ましくは活性剤を吸着的に負荷する。
【0030】
特に好ましい方法において、親水性タンパク質または親水性タンパク質の少なくとも1種は、血清アルブミン、ゼラチンA、ゼラチンBおよびカゼインならびに類似のタンパク質、またはこれらのタンパク質の組み合わせを含むタンパク質の群から選択される。最も好ましくは、ヒト起源の親水性タンパク質を、製造のために用いる。
【0031】
アポリポタンパク質Eが結合した親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせの本発明のナノ粒子は、他の方法では血液脳関門を横断しない、薬学的または生物学的に活性な剤、特に親水性活性剤を、血液脳関門を横断して輸送して、薬理学的効果を誘発するのに適する。好ましい活性剤は、細胞増殖抑制剤、抗生物質、ならびに神経系の疾患に対して活性である薬剤、例えば鎮痛剤、向知性薬、抗てんかん薬、鎮静薬、向精神薬、下垂体ホルモン類、視床下部ホルモン類、他の調節ペプチドおよびこれらの阻害剤の群に属する。このような活性剤の例は、ダラルジン、ロペラミド、ツボクラリン、ドキソルビシンなどである。
【0032】
このように、活性剤が負荷されており、アポリポタンパク質で修飾した、本明細書中に記載したナノ粒子は、多数の脳疾患を処置するのに適する。このために、担体系に結合した活性剤を、それぞれの治療的目的に従って選択する。担体系は、これ自体、とりわけ血液脳関門を横断しての通過を示さないか、または不十分な通過を示す当該活性物質について示唆する。活性剤として適すると考慮される物質は、2〜3の適用領域以外を述べると、脳腫瘍の療法のための細胞増殖抑制剤、脳領域におけるウイルス感染症、例えばHIV感染症の療法のための活性剤、しかしまた認知症情動の療法のための活性剤である。
【0033】
したがって、本発明の他の主題は、本発明のナノ粒子の、医薬を製造するための使用;より具体的には、機能性タンパク質がアポリポタンパク質である本発明のナノ粒子の、脳疾患を処置するための医薬を製造するための使用およびそれぞれ、このようなタンパク質の脳疾患を処置するための使用である。その理由は、これらのナノ粒子を、血液脳関門を横断して、薬学的または生物学的に活性な剤を輸送するために用いることができるからである。
【0034】
例:
HSAナノ粒子を脱溶媒和により製造するために、200mgのヒト血清アルブミンを、2.0mlの10mMのNaCl溶液に溶解し、この溶液のpHを、8.0の値に調整した。撹拌下で、8.0mlのエタノールを、1.0ml/分の速度で、この溶液に、滴加により加えた。この脱溶媒和段階により、200nmの平均粒度を有するHSAナノ粒子の形成がもたらされる。
【0035】
ナノ粒子を、235μlの8%グルタルアルデヒド溶液を加えることにより、安定化した。12時間のインキュベーション期間に続いて、ナノ粒子を、最初に精製水中で、その後PBS緩衝液(pH8.0)中で3回遠心分離し、再分散させることにより精製した。
【0036】
ナノ粒子を活性化するために、500μlの架橋剤NHS−PEG3400−Malの溶液(PBS緩衝液8.0中60mg/ml)を、2.0mlのナノ粒子懸濁液(PBS緩衝液中20mg/ml)に加え、室温で1時間撹拌下でインキュベートした。インキュベーション期間の後、PEG修飾ナノ粒子を、上記のように精製水で精製した。これらの段階により、ペグ化されたHSAナノ粒子が得られ、これは、表面に適用されたPEG誘導体のマレイミド基を介して、遊離チオール基に対する反応性を有していた。
【0037】
アポリポタンパク質の共有結合のために、最初に遊離のチオール基を、この構造中に導入した。このために、500μgのアポリポタンパク質を、1.0mlのTEA緩衝液(pH8.0)に溶解し、2−イミノチオラン(トラウトの試薬)を、50倍モル過剰で加えた。室温での12時間の反応期間に続いて、チオール基を導入したアポリポタンパク質を、デキストラン脱塩カラム(D-Salt(登録商標)Column)を介しての分子ふるいクロマトグラフィーにより精製し、低分子量反応生成物を、当該プロセスにおいて分離した。
【0038】
チオール基を導入したアポリポタンパク質のHSAナノ粒子への共有結合のために、500μgのチオール基を導入したアポリポタンパク質を、25mgのPEG修飾HSAナノ粒子に加え、この混合物を、室温で12時間インキュベートした。当該反応期間の後、未反応のアポリポタンパク質を、遠心分離により除去し、当該ナノ粒子を再分散させた。最終的な精製段階において、アポリポタンパク質で修飾したHSAナノ粒子を、2.6容量%のエタノール中に吸収させた。
【0039】
別個の試料において、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質Bおよびアポリポタンパク質A1に、チオール基を導入し、これをHSAナノ粒子に結合させた。
【0040】
ナノ粒子にモデル薬剤であるロペラミドを負荷するために、2.6容量%のエタノール中の6.6mgのロペラミドを、20mgのApoE修飾ナノ粒子に加え、2時間インキュベートした。当該時間の後、未結合の薬剤を、遠心分離および再分散により分離し、得られたロペラミドが負荷されたアポリポタンパク質修飾HSAナノ粒子を、注射目的のために水中に吸収させ、粒子含量を、水で10mg/mlに希釈することにより調整した。ナノ粒子を、動物実験において用いて、これらが血液脳関門を横断して活性剤を輸送するのに適していることを試験した。
【0041】
溶解した形態で血液脳関門(BBB)を横断することができないオピオイドとしてのロペラミドは、BBBを横断するための相当する担体系のための特に好適なモデル薬剤である。ロペラミド含有製剤の適用後に生じる鎮痛効果により、物質が、中枢神経系中に蓄積し、したがってBBBが克服されたという直接の論証が得られる。
【0042】
動物実験において用いた典型的なナノ粒子状製剤は、10.0mg/mlのナノ粒子、0.7mg/mlのロペラミドおよび190μg/mlのApoEを含んでいた。
【0043】
動物実験用の適用準備済みのナノ粒子状製剤(合計容量2.0ml)の組成は、以下の通りであった:
1.10.0mg/mlのアポリポタンパク質修飾HSAナノ粒子
2.190.0μg/mlの共有結合したアポリポタンパク質
3.0.7mg/mlのロペラミド(ナノ粒子に吸着的に結合している)
4.注射目的のための水。
【0044】
製剤を、7.0mg/kgのロペラミドの投与量でマウスに静脈内に適用した。20gのマウスの平均体重に基づいて、動物に、200μlの適用量の前述の製剤を施与した。
【0045】
この系の補助により、図1に示す鎮痛効果が、前述の活性剤であるロペラミドを用いた静脈内注射の後に、達成された。高温の光線をマウスの尾上に投射し、マウスがその尾を振り払うまでに経過する時間を測定するテールフリック試験により、鎮痛(侵害受容応答)を検出する。10秒後(=100%MPE)、マウスへの損傷を生じないように、実験を中止する。負のMPE値は、製剤の投与の後に、マウスがその尾を、処置の前よりも早期に振り払う場合に生じる。
【0046】
比較として、2.6容量%のエタノール中の0.7mg/mlのロペラミド溶液を用いた。遊離物質であるロペラミド自体は、血液脳関門を横断しての輸送の欠如により、鎮痛効果を示さない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介してアポリポタンパク質で修飾させたロペラミド負荷HSAナノ粒子の静脈内適用後の、鎮痛効果(最大可能効果、MPE)のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとする活性剤負荷ナノ粒子であって、前記ナノ粒子が、親水性タンパク質(1種)または親水性タンパク質(2種以上)に、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合した少なくとも1種の機能性タンパク質またはペプチド断片を含むことを特徴とする、前記ナノ粒子。
【請求項2】
親水性タンパク質または親水性タンパク質の少なくとも1種が、血清アルブミン、ゼラチンA、ゼラチンBおよびカゼインからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
親水性タンパク質または親水性タンパク質の少なくとも1種が、ヒト起源のものであることを特徴とする、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
機能性タンパク質またはペプチド断片が、アポリポタンパク質、抗体、酵素、ホルモン類、細胞増殖抑制剤、抗生物質およびこれらの断片からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項5】
機能性タンパク質が、アポリポタンパク質A1、アポリポタンパク質Bおよびアポリポタンパク質Eからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項6】
ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルが、3400Daまたは5000Daの平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖を含むポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類の群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項7】
ナノ粒子に、活性剤が、吸着、取り込みにより、または反応性基を介しての共有結合もしくは複合体形成結合により負荷されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項8】
活性剤が、細胞増殖抑制剤、抗生物質、抗ウイルス薬、鎮痛剤、向知性薬、抗てんかん薬、鎮静薬、向精神薬、下垂体ホルモン類、視床下部ホルモン類、他の調節ペプチドおよびこれらの阻害剤を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項9】
活性剤が、ダラルジン、ロペラミド、ツボクラリンおよびドキソルビシンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項10】
親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせをベースとし、機能性タンパク質またはペプチド断片で修飾されている活性剤負荷ナノ粒子の製造方法であって、該方法が、以下の段階:
−親水性タンパク質または親水性タンパク質の組み合わせの水溶液を脱溶媒和する段階、
−架橋による脱溶媒和により形成したナノ粒子を安定化する段階、
−安定化されたナノ粒子の表面上のアミノ基を、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルで変換する段階、
−機能性タンパク質またはペプチド断片にチオール基を導入する段階、および
−チオール基を導入したタンパク質またはペプチド断片を、ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルで変換されたナノ粒子に共有結合させる段階
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項11】
チオール基を導入したタンパク質またはペプチド断片の結合に続いて、ナノ粒子に活性剤を吸着的に負荷することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
親水性タンパク質が、血清アルブミン、ゼラチンA、ゼラチンB、カゼインおよび類似のタンパク質、またはこれらのタンパク質の組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
親水性タンパク質が、ヒト起源のものであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
脱溶媒和が、親水性タンパク質に対する水混和性非溶媒を撹拌し、加えることにより、または塩析により行われることを特徴とする、請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
親水性タンパク質に対する水混和性非溶媒が、エタノール、メタノール、イソプロパノールおよびアセトンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
熱プロセスまたは二官能性アルデヒド類もしくはホルムアルデヒドを用いて、ナノ粒子を安定化することを特徴とする、請求項10〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
グルタルアルデヒドを、二官能性アルデヒドとして用いることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルが、3400Daまたは5000Daの平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖を含むポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステルの群から選択されることを特徴とする、請求項10〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
2−イミノチオランを、チオール基を修飾する剤として用いることを特徴とする、請求項10〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
活性剤が、細胞増殖抑制剤、抗生物質、抗ウイルス薬、鎮痛剤、向知性薬、抗てんかん薬、鎮静薬、向精神薬、下垂体ホルモン類、視床下部ホルモン類、他の調節ペプチドおよびこれらの阻害剤を含む群から選択されることを特徴とする、請求項10〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
活性剤が、ダラルジン、ロペラミド、ツボクラリンおよびドキソルビシンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項10〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
親水性タンパク質にポリエチレングリコール−α−マレイミド−ω−NHSエステル類を介して結合したアポリポタンパク質を含む活性剤負荷ナノ粒子の、血液脳関門を横断して、薬学的または生物学的に活性な剤を輸送するための使用。
【請求項23】
親水性タンパク質が、血清アルブミン、ゼラチンA、ゼラチンB、カゼインおよび類似のタンパク質、またはこれらのタンパク質の組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
親水性タンパク質の少なくとも1種が、ヒト起源のものであることを特徴とする、請求項22または23に記載の使用。
【請求項25】
活性剤が、細胞増殖抑制剤、抗生物質、抗ウイルス薬、鎮痛剤、向知性薬、抗てんかん薬、鎮静薬、向精神薬、下垂体ホルモン類、視床下部ホルモン類、他の調節ペプチドおよびこれらの阻害剤を含む群から選択されることを特徴とする、請求項22〜24のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
活性剤が、ダラルジン、ロペラミド、ツボクラリンおよびドキソルビシンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項22〜25のいずれかに記載の使用。
【請求項27】
ナノ粒子を、脳の情動を処置するために用いることを特徴とする、請求項22〜26のいずれかに記載の使用。
【請求項28】
請求項1〜9のいずれかに記載のナノ粒子の、医薬を製造するための使用。
【請求項29】
機能性タンパク質がアポリポタンパク質である、請求項1〜9のいずれかに記載のナノ粒子の、脳情動を処置するための医薬を製造するための使用。
【請求項30】
機能性タンパク質がアポリポタンパク質である、請求項1〜9のいずれかに記載のナノ粒子の、脳情動を処置するための使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−529547(P2009−529547A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558668(P2008−558668)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001675
【国際公開番号】WO2007/104422
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】