説明

触媒の製造方法

【課題】 非常に高い反応活性および選択性を有し、かつ工業スケールにおいて均質で再現性良く製造し得る(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法、及び該製造方法により得られる触媒を用いる(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はその混合物を気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化して(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法であって、触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーから得られる触媒前駆体乾燥粉に、水およびバインダー成分を加えて成型することにより得た触媒前駆体成型品を、50℃以下の雰囲気に調整した乾燥機内で乾燥し、次いで焼成することを特徴とする触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はその混合物を気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化して(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法、及び該製造方法により得られる触媒を用いる(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、又はt−ブチルアルコールを気相接触酸化して、対応する(メタ)アクロレインや(メタ)アクリル酸を製造するための触媒の製造方法に関しては数多くの提案がなされている。これら提案のうち触媒の細孔構造を規制し触媒の選択性を向上させることを目的として、触媒に必須の成分以外の添加物を加える触媒調製法としては、例えば特許文献1にはセルロース、ポリビニルアルコール等の有機物質を1〜10wt%添加して成型し触媒とする方法が、また特許文献2にはピリジン等の有機含窒素化合物を添加し触媒とする方法が提案されている。さらに特許文献3には平均粒径0.01〜10μmのポリメタクリル酸メチル等の高分子有機化合物を添加して成型し、触媒とする方法が提案されている。
【0003】
成型に際して有機化合物を添加しない例として、特許文献4においては、平均粒径が0.1〜100μmである炭酸アンモニウム等の炭酸化合物の粉体を添加して成型し、触媒とする方法が提案されている。炭酸化合物の粉体を添加する方法では、粉体の粒径を好適な範囲に調整するために、粉砕する工程や分級する工程が必要となり、製造工程が煩雑になるという問題を有している。
【0004】
さらに上記特許文献に記載された技術は主として、添加物の種類やその物性に関するものであり、焼成前の成型品の処理方法については開示されていない。
【0005】
また、成型に際しては水や助剤を添加して成型する方法が提案されているが、その場合の成型直後の成型品は、工業スケールの製造で取り扱うには成型品の強度が弱いという問題があり、何らかの処理を実施して工業スケールの取り扱いが可能なレベルまで強度を上げる必要がある。このため、特許文献5や特許文献6において、60〜150℃の温度で乾燥する技術が開示されている。しかし、乾燥方法や温度以外の乾燥条件に関しては、何ら開示されていない。
【0006】
本出願人は、前記問題を解決するために、触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーから得られる触媒前駆体乾燥粉を成型することにより得た触媒前駆体成型品を、連続式乾燥機により乾燥し、次いで焼成することを特徴とするメタアクリル酸製造用触媒の製造方法を提案した(特許文献7)。該製造方法で得られるメタアクリル酸製造用触媒は、高い反応活性および選択性を有し、かつ工業スケールにおいて均質性に優れるものであるが、より高反応活性及び高選択性の(メタ)アクロレイン又は(メタ)アクリル酸製造用触媒の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開昭55−73347号公報
【特許文献2】特開昭60−239439号公報
【特許文献3】特開平4−367737号公報
【特許文献4】特開平10−244160号公報
【特許文献5】特開平5―309273号公報
【特許文献6】特開平8―10621号公報
【特許文献7】特開2003−1113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、非常に高い反応活性および選択性を有し、かつ工業スケールにおいて均質で再現性良く製造し得る(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法、及び該製造方法により得られる触媒を用いる(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述のような現状に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記の(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸製造用触媒の製造方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はその混合物を気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化して(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法であって、触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーから得られる触媒前駆体乾燥粉に、水およびバインダー成分を加えて成型することにより得た触媒前駆体成型品を、50℃以下の雰囲気に調整した乾燥機内で乾燥し、次いで焼成することを特徴とする触媒の製造方法、に関する。
【0011】
本発明の製造方法によると、非常に高い反応活性および選択性を有し、かつ工業スケールにおいて均質で再現性良く製造し得る(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸製造用触媒を得ることができる。特に、本発明の製造方法は、(メタ)アクロレイン製造用触媒の製造に好適であり、該(メタ)アクロレイン製造用触媒を用いると非常に高い反応活性および選択性で(メタ)アクロレインを製造することができる。
【0012】
本発明において、前記触媒前駆体成型品は、水およびバインダー成分を含有することが必要である。触媒前駆体成型品を得る成型工程において、水およびバインダー成分を成型助剤として使用することにより、均質で再現性良く、非常に高い反応活性および選択性を有する触媒を得ることができる。
【0013】
また、前記触媒前駆体成型品は、50℃以下の雰囲気に調整した乾燥機内で乾燥することが必要である。触媒前駆体成型品の乾燥工程における温度は非常に重要である。乾燥を速やかに終了さるためには乾燥温度は高い方がよいが、50℃を超えると触媒の転化率が低下するため好ましくない。
【0014】
本発明の製造方法においては、乾燥工程において、前記乾燥機内の温度を20〜50℃、及び相対湿度を20〜90%に調整することが好ましい。触媒前駆体成型品の乾燥速度は、触媒活性及び選択性の観点から非常に重要である。触媒前駆体成型品の乾燥工程における温度及び湿度が前記範囲外の場合には、触媒の選択率や転化率が低下したり、表面に亀裂が生じて強度が低下しやすくなる。また、温度が20℃未満の場合や相対湿度が90%を超える場合には、乾燥時間が長くなりすぎて触媒活性が低下しやすくなり、また製造効率が低下するため好ましくない。
【0015】
前記乾燥機は連続式乾燥機であることが好ましい。連続式乾燥機を用いることにより乾燥履歴を均一化することができ、工業スケールにおいて均一な性能の触媒を再現性良く製造することができる。
【0016】
また、本発明の製造方法においては、乾燥工程において、前記触媒前駆体成型品の進行方向に対して、連続式乾燥機の一方の側面から風速0.02〜10m/secの風を送風し、他方の側面から排気することが好ましい。前記方法で風を流すことにより、乾燥機内の温度及び相対湿度を均一化することができる。それにより、各成型品の乾燥履歴の差を小さくすることができるため、工業スケールにおいて均質で再現性良く高性能の触媒を製造することができる。また、前記風速で送風することにより乾燥速度を制御しやすくなる。
【0017】
さらに、前記乾燥工程において、所定時間ごとに送風方向を逆にすることが好ましい。連続式乾燥機の両側から均等に送風及び排気することにより、連続式乾燥機内における触媒前駆体成型品の配置場所の違いによる乾燥履歴の差をより小さくすることができる。それにより、工業スケールにおいてより均質で再現性良く高性能の触媒を製造することができる。
【0018】
本発明の(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸の製造方法は、前記方法により製造された触媒を用い、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はその混合物を気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化することを特徴とする。かかる製造方法により、高活性かつ高収率にて(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明で用いる触媒としては、例えば、一般式、MoBiFe(式中、Moはモリブデン、Wはタングステン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはニッケルおよびコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Cはリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガンおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Dはシリコン、アルミニウム、チタニウムおよびジルコニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素およびOは酸素を表す。また、a、b、c、d、e、f、g、hおよびxはそれぞれMo、W、Bi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子数を表し、a=12と固定したとき、b=0〜10、c=0.1〜10、d=0.1〜20、e=2〜20、f=0〜10、g=0〜4、h=0〜30およびxは各々の元素の酸化状態により定まる数値をとる。)で示される触媒が挙げられる。本発明においては、少なくともモリブデン、鉄及びビスマスを含有する触媒であることが好ましい。
【0021】
本発明における触媒の製造方法の1例を説明する。まず主として水溶液として触媒成分を混合し、沈殿を析出させ、水性スラリーとする。この水性スラリーを乾燥することにより、触媒前駆体乾燥粉が得られる(前駆体乾燥粉製造工程)。触媒前駆体乾燥粉には、少なくとも水およびバインダー成分を添加して、所定形状の触媒前駆体成型品に成型される(成型工程)。
【0022】
その後、触媒前駆体成型品は、50℃以下の雰囲気に調整した乾燥機内で乾燥され(乾燥工程)、乾燥した触媒前駆体成型品を焼成することにより(焼成工程)、触媒が得られる。
【0023】
触媒調製に用いる原料としては、各元素の酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。具体的には、モリブデン原料として三酸化モリブデン、モリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウム等が、ビスマス原料として酸化ビスマス、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス等が、鉄原料として硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等が、アンチモン原料として酸化アンチモン(III)、塩化アンチモン(III)等が挙げられる。
【0024】
本発明の触媒前駆体乾燥粉の製造工程において、触媒成分を含む混合溶液又は水性スラリーを乾燥して触媒前駆体乾燥粉とする方法としては、特に限定されるものではなく、成分の著しい偏在を伴わない限り従来から公知である方法が使用でき、具体的にはニーダーによる蒸発乾固法、箱型乾燥機、ドラム型通気乾燥装置、スプレードライヤー、気流乾燥機等の公知の乾燥装置を使用した乾燥方法を用いることができる。
【0025】
成型工程においては、触媒前駆体乾燥粉に少なくとも水およびバインダー成分を添加して触媒前駆体成型品に成型する。バインダー成分としては、例えば、澱粉、可溶性澱粉、α化澱粉、デキストリン、及びアルギン酸などの天然物;Na−カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの半合成物;ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール、及びポリエチレン酸化物などの合成物が挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特にメチルセルロース(信越化学社製、メトローズSM−4000)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製、メトローズ64SH−400)を用いることが好ましい。
【0026】
水の添加量は、触媒前駆体乾燥粉100重量部に対して25〜45重量部であることが好ましく、より好ましくは30〜40重量部である。水の添加量が前記範囲外の場合には押出し成型により触媒前駆体成型品を作製し難くなる。
【0027】
バインダー成分の添加量は、触媒前駆体乾燥粉100重量部に対して1〜8重量部であることが好ましく、より好ましくは2〜6重量部である。バインダー成分の添加量が1重量部未満の場合には押出し成型により触媒前駆体成型品を作製し難くなり、8重量部を超える場合には触媒の転化率が低下しやすくなる。
【0028】
成型方法としては、押出し成型が例示される。成型品の形状は目的に応じて適宜選定され特に限定されないが、例えば、リング状、ペレット状又は球状等である。成型に際しては、触媒の強度を高めるためにセラミックファイバーやグラスファイバー等の無機繊維を補強材として加えてもよい。
【0029】
本発明の乾燥工程においては、触媒前駆体成型品を50℃以下の雰囲気に調整した乾燥機内で乾燥し、次いで焼成する。
【0030】
乾燥方法としては、箱型乾燥機に代表される回分式静置乾燥方式と連続式乾燥方式があり、どちらの方式を採用してもよい。実験室スケールの製造では前者が採用されることが多いが、工業スケールの製造で使用するには以下の問題点がある。回分式静置乾燥方式では、乾燥一回分の成型品を製造し、成型品を金網やパンチングプレートや金属板等の上に積載して一度に乾燥機に入れて乾燥する。かかる回分式静置乾燥方式によれば、工業スケールの製造では通常一回分の成型品の製造に数時間から数十時間必要である。成型品製造の初期に製造された成型品は、乾燥機に入るまでに数時間から数十時間かかるのに対して、成型後に直ちに乾燥機に入る成型品も存在することになる。即ち、連続成型法により成型品を製造し、乾燥まで保管すると、成型品保管雰囲気条件での乾燥が進行することになり、乾燥履歴が大きく違う成型品が共存することになるという問題が生じる。また、工業スケールでの回分式静置乾燥方式では、乾燥機内の風速分布や温度分布や湿度分布によっても、成型品の乾燥履歴に差が生じるという問題も生じる。工業スケールの製造では、連続式乾燥機を使用して乾燥履歴を均一化することで、工業スケールにおいて均一な性能の触媒を再現性良く製造することができる。
【0031】
乾燥工程における乾燥温度は、乾燥を速やかに終了させるためには高い方が好ましいが、高すぎると触媒の選択性が低下するので、50℃以下であることが必要であり、好ましくは20〜50℃である。
【0032】
乾燥工程における相対湿度は、触媒の活性と選択性に大きな影響を及ぼす因子であって、低すぎても高すぎても触媒性能を損ねる。そのため、相対湿度は20〜90%の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは50〜70%である。
【0033】
上記範囲の乾燥雰囲気において、乾燥時間が長くなりすぎると工業的に不利である。従って、乾燥時間は0. 5〜10時間であることが好ましく、より好ましくは1〜6時間である。ここでいう成型品の乾燥とは乾燥品の残存水分が必ずしも0(ゼロ)なることを意味しているわけでなく、乾燥前の状態より水分が減少し、成型品の強度が高くなれば足りることを意味する。乾燥後の成型品の水分濃度は、無水材料に対して7重量%以下であることが好ましく、より好ましくは無水材料に対して5重量%以下である。
【0034】
工業スケールの乾燥工程において使用する連続式乾燥機は特に限定されるものではないが、バンド乾燥機に代表される材料移送型や回転乾燥機に代表される材料攪拌型や気流乾燥機に代表される熱風搬送型等があり、いずれも使用可能である。本発明の成型品は、水及びバインダー成分を含んでおり、比較的強度が弱いため、形状破壊を防止するために材料移送型又は熱風搬送型の乾燥機を用いることが好ましい。成型品を金網やパンチングプレートや金属板等の上に積載して乾燥機内を移送することで、成型品の形状破壊を防止し、均一な乾燥履歴とすることができる。
【0035】
乾燥工程において、乾燥時の雰囲気ガスの種類に特に限定はなく、通常空気を使用するが、窒素等の不活性ガスを用いることもできる。
【0036】
また、乾燥工程において、乾燥機内に風を送風することは乾燥機内の温度や相対湿度、乾燥時間を調整しやすくなるため好ましい方法である。
【0037】
ここで、図1に示すように、連続式乾燥機1の長さが幅より長い場合には、触媒前駆体成型品2の進行方向3に対して向流方向(又は並流方向)に送風すると、各成型品から発生する水蒸気により、出口側での湿度が入口側に比べて高くなる傾向にある。そのため、成型品の乾燥速度の変化が大きくなり、工業スケールにおいて均質で再現性良く高性能の触媒を製造し難くなる。
【0038】
そのため、本発明の乾燥工程においては、図2に示すように、連続式乾燥機1の一方の側面に送風口5を、他方の側面に排気口6を設け、触媒前駆体成型品2の進行方向3に対して、一方の側面(送風口5)から風速0.02〜10m/secの風を送風し、他方の側面(排気口6)から排気することが好ましい。送風する風の速度は0.5〜1.5m/secであることがより好ましい。前記方法で乾燥することにより、各成型品から発生する水蒸気量を一定にでき、乾燥機内の温度及び相対湿度を均一化することができる。それにより、各成型品の乾燥履歴の差を小さくすることができるため、工業スケールにおいて均質で再現性良く高性能の触媒を製造することができる。また、図3に示すように、所定時間ごとに送風方向4を逆に変えることはより好ましい方法である。連続式乾燥機1の両側から均等に送風及び排気することにより、乾燥機内における触媒前駆体成型品2の配置場所(例えば、2列以上に配置した場合など)の違いによる乾燥履歴の差をより小さくすることができる。それにより、工業スケールにおいてより均質で再現性良く高性能の触媒を製造することができる。送風方向を切り替える時間の間隔は特に制限されるものではないが、1〜100秒ごとに切り替えることが好ましく、より好ましくは5〜15秒である。
【0039】
乾燥後の触媒前駆体成型品は、次いで最終焼成することにより反応管に適用する最終的な触媒が得られる。最終焼成は通常、約350〜700℃の範囲で約1〜40時間保持して行われる。
【0040】
本発明の(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸の製造方法における気相接触酸化反応は、本発明の製造方法により得た触媒を用いることを特徴とし、その他の構成は従来公知の方法で行うことができる。本発明の製造方法は、固定床、移動床、流動床等いずれの反応形式でも実施できる。
【0041】
本発明の方法で用いられる原料ガスは主にプロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はその混合物(以下、反応ガスという)と酸素であるが、不活性ガスなどで希釈することができる。このようなガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、さらにメタン、エタン、プロパン、ブタンなどの軽アルカンも使用できる。
【0042】
本発明の方法で用いられる酸素の供給源は特に制限はないが、通常、純酸素、酸素富化空気、空気などが用いられる。原料ガス中の反応ガス対酸素のモル比に制限はないが、酸素モル比が小さすぎると反応が酸素供給律速となり反応速度が遅く、単位触媒当たりの生産性が悪くなる。逆に酸素モル比が大きくなると(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリル酸以外の酸化副生物が多くなり、選択率が低下してくる。さらに、燃焼範囲に入り安全上問題になる場合もある。そのため原料ガス中の反応ガス対酸素のモル比は、通常約1:0.05〜1である。
【0043】
本発明の方法で用いられる原料ガス中の反応ガスの濃度も制限はないが、濃度が低すぎると反応速度が遅く、単位触媒当たりの生産性が悪くなる。そのため原料ガス中の反応ガスの濃度は、通常約10〜95容量%である。
【0044】
反応温度は反応ガスの濃度、原料ガス中のモル比、接触時間により異なるが、通常約200℃〜700℃、好ましくは約250℃〜600℃である。反応圧力は、通常、約1〜50bar、好ましくは約1〜3barである。
【実施例】
【0045】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
[測定、評価方法]
(恒率乾燥速度)
恒率乾燥速度は温度、湿度及び風速から下記式により算出する(化学工学通論I、P218〜219参照)。
k=h/CH=10.6G0.8/CH=0.054(((1+H)/VH)×u×3600)0.8/CH
より、k=f(u)
また、Hw−H=f(t,ψ)
よって、Rc=f(u,t,ψ)

Rc:恒率乾燥速度[kg−水/hr・m]
k:境膜物質移動係数[kg−drygas/hr・m]
Hw:飽和湿度[kg−水蒸気/kg−drygas]
H:湿り空気の湿度[kg−水蒸気/kg−drygas]
h:境膜伝熱係数[kJ/hr・m・k]
CH:湿り空気の比熱[kJ/kg−drygas・k]
G:湿り空気の質量速度[kg/hr・m]
VH:湿り空気の比容[m/kg−drygas]
u:風速[m/sec]

Hw=0.621×(ps/PT−ps)
log(ps)=7.2117−(1740.27/(t+234.3291))
H=0.621×(p/PT−p)
p=ψ×ps/100
CH=1.02×1.89H
VH=22.4((1/29)+(H/18))×(273+t)/273
ps:飽和水蒸気圧[kPa]
p:水蒸気分圧[kPa]
PT:全圧[kPa]
t:湿り空気の温度[℃]
ψ:関係湿度[%RH]=(p/ps)×100

Rc=67.51512u0.8×[Pt×10{7.2117−1740.27/(t+234.3291)}×(1−ψ/100)]/〔[Pt−10{7.2117−1740.27/(t+234.3291)}]×[Pt−ψ×10{7.2117−1740.27/(t+234.3291)}]〕
なお、本来、恒率乾燥速度の単位は[kg−水/hr・m]であるが、本発明では[%DB/hr]とした。%DB(%Dry Base)は無水材料重量あたりの水分重量を表す。Rc[kg−水/hr・m]より、Rc÷無水材料重量(kg)×100とする。さらに、触媒Aでは、触媒Aと雰囲気との接触面積7.0(m)をかけて算出した。触媒Bでは、触媒Bと雰囲気との接触面積9.8(m)をかけて算出した。
【0047】
(落下強度)
製造された各ロットにつき30gの触媒を精秤し、該触媒を内径30mmφ、管長5mのテストチューブの上部より、天然ゴム製のゴム栓上に落下させた。そして、下部出口を目開き4.75mm(4メッシュ)又は2.36mm(8メッシュ)の篩で触媒を受け、篩上に残った触媒を精秤した。落下強度は下記式にて求めた。なお、前記測定をロットごとに3回行い、その平均値を落下強度とした。落下強度は、4メッシュの篩を用いた場合に89%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上である。
落下強度(%)=(篩上の触媒の質量/投入した触媒の質量)×100
【0048】
(転化率、選択率)
転化率(%)=[(供給イソブチレンのモル数)−(未反応イソブチレンのモル数)]÷(供給イソブチレンのモル数)×100
選択率(%)=(生成物のモル数)÷[(供給イソブチレンのモル数)−(未反応イソブチレンのモル数)]×100
触媒Aは、転化率80〜90%、選択率83%以上であることが好ましい。また、触媒Bは、転化率60〜70%、選択率86%以上であることが好ましい。
【0049】
実施例1
モリブデン酸アンモニウム[(NH46Mo724・4H2O]540kgを温水611kgに溶解し、A液を作製した。硝酸鉄(III)[Fe(NO33・9H2O]247.1kgおよび硝酸コバルト[Co(NO32・6H2O]534.1kgおよび硝酸セシウム(CsNO3)23.85kgを温水244.6kgに溶解し、次いで硝酸ビスマス[Bi(NO33・5H2O]118.7kgを溶解し、B液を作製した。A液を攪拌しながらB液を添加しスラリーを得、続いてこれを噴霧乾燥した。得られた乾燥品を420℃で2時間仮焼成し、触媒前駆体乾燥粉を得た。この触媒前駆体乾燥粉100重量部に対して、セラミックファイバー(サンゴバンティーエム、RFC400−SL)6重量部、バインダー成分としてメチルセルロース(信越化学社製、メトローズSM−4000)4重量部、イオン交換水33重量部、及びクルミ殻粉(日本ウォルナット)7重量部を加え混練し、直径6mm、内径2.5mm、高さ6mmのリング状に押出し成型して、触媒前駆体成型品を得た。
【0050】
該成型品を直ちに金網のトレー上に積載し、恒温恒湿乾燥機にて、図4に記載のように一方の側面の送風口から風速1.1m/secの風を送風して温度を30℃、相対湿度を55%に制御し、4時間乾燥して乾燥成型品を得た。乾燥機内の温度、相対湿度はほぼ均一であった。得られた乾燥成型品を、520℃で6時間最終焼成し、触媒Aを得た。
【0051】
内径18mmのガラス製反応管に上記触媒Aを3ml充填した。イソブチレン8.77vol%、酸素19.3vol%、窒素54.4vol%、スチーム17.5vol%からなる原料ガスを87.5ml/minの流量で前記反応管に供給し、370℃で反応を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
実施例2〜7、比較例1
表1に記載の条件で触媒前駆体成型品の乾燥を行った以外は実施例1と同様の方法で触媒Aを製造し、落下強度及び活性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
実施例8
上記触媒Aの調製法において、得られた触媒前駆体乾燥粉100重量部に対して、三酸化アンチモン(Sb23)2.54重量部、セラミックファイバー(サンゴバンティーエム、RFC400−SL)18重量部、バインダー成分としてメチルセルロース(信越化学社製、メトローズSM−4000)4重量部、及びイオン交換水34重量部を加え混練し、直径6mm、内径2.5mm、高さ6mmのリング状に押出し成型して、触媒前駆体成型品を得た。そして、焼成温度を545℃とした以外は触媒Aと同様にして触媒Bを調製し、落下強度及び活性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
実施例9〜11
表1に記載の条件で触媒前駆体成型品の乾燥を行った以外は実施例8と同様の方法で触媒Bを製造し、落下強度及び活性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】連続式乾燥機を用いる触媒前駆体成型品の乾燥工程の一例を示す概略構成図
【図2】連続式乾燥機を用いる触媒前駆体成型品の乾燥工程の他の一例を示す概略構成図
【図3】連続式乾燥機を用いる触媒前駆体成型品の乾燥工程の他の一例を示す概略構成図
【図4】恒温恒湿乾燥機を用いる触媒前駆体成型品の乾燥工程の一例を示す概略構成図
【符号の説明】
【0057】
1:連続乾燥機
2:触媒前駆体成型品
3:トレーの進行方向
4:送風方向
5:送風口
6:排気口
7:トレー
8:恒温恒湿乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はその混合物を気相にて分子状酸素または分子状酸素を含有するガスにより酸化して(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸を製造する際に用いられる触媒の製造方法であって、触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーから得られる触媒前駆体乾燥粉に、水およびバインダー成分を加えて成型することにより得た触媒前駆体成型品を、50℃以下の雰囲気に調整した乾燥機内で乾燥し、次いで焼成することを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項2】
乾燥工程において、前記乾燥機内の温度を20〜50℃、及び相対湿度を20〜90%に調整する請求項1記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥機は、連続式乾燥機である請求項1又は2記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
乾燥工程において、前記触媒前駆体成型品の進行方向に対して、前記連続式乾燥機の一方の側面から風速0.02〜10m/secの風を送風し、他方の側面から排気する請求項3記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
所定時間ごとに送風方向を逆にする請求項4記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により製造された触媒を用いる(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−207127(P2008−207127A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47613(P2007−47613)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】