説明

触媒特定方法

【課題】触媒濃度の極めて低い条件化においてXRF分析を実施するに際し、高精度のXRF分析結果を得ることのできる触媒特定方法を提供する。
【解決手段】マトリックス担体に金属触媒が担持されてなる触媒コート層1において、X線照射によって励起される金属触媒に固有のX線エネルギとX線強度を検出する蛍光X線分析(XRF)を使用して、金属触媒の濃度もしくは分布を特定する触媒特定方法であって、X線照射方向に100μm以下の厚みを有する触媒コート層1を準備する第1のステップと、触媒コート層1にX線を照射して金属触媒の濃度もしくは分布を特定する第2のステップからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒特定方法に関し、特に低濃度の金属触媒の濃度および分布を特定することができる触媒特定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三元触媒、NOx触媒等の各種触媒を構成する触媒層中の触媒金属(貴金属)の濃度やその分布(触媒層内における分布、複数のマトリックス担体からなる場合は各マトリックス担体への金属触媒の偏析の状態等)を測定、特定する方法として、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)を用いた測定方法が知られている。
【0003】
ところで、触媒コート層を構成する金属触媒の担持量、すなわち金属触媒濃度は、レアメタルである触媒金属の材料コストの高騰やその比表面積を増大させるための様々な技術改良等によって低下傾向にあり、たとえば触媒金属が白金等の場合には、0.25質量%程度の低濃度の白金分布を上記EPMAによって測定する必要が生じている。
【0004】
触媒金属が担持されるマトリックス担体としては、セリア(CeO2)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2O3)等を挙げることができる。これらは相互に数μmの異なるバックグラウンド(BG)を有していることから、これらのマトリックス担体が混合され、各担体に触媒金属が担持されてなる触媒コート層に対して、その触媒金属の濃度や分布を精緻に評価するためには、各担体組成に応じたBG処理をおこなう必要があり、そのための有効な方法が特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0005】
一方、上記するように、触媒金属濃度が極めて低い状況下でEPMA分析をおこなう場合には、各触媒金属に固有のX線(特性信号)が低下する、すなわち、感度が不足することとなる。ここで、図9は、0.1質量%の低濃度のロジウム分布をEPMAによって測定したBSE画像(Back Scattered Electron)の結果である。図示するように、ロジウム固有のX線が低下したため、ロジウムを含む上層とロジウムを含まない下層の間に差異が確認できず、このBSE画像からロジウムの濃度および分布を精緻に測定することはできない。したがって、このような触媒金属濃度が極めて低い状況下においては、測定試料に対してより高い強度の電子線を照射せざるを得ない。
【0006】
ところで、上記するEPMA分析においては、適宜の基材表面に形成されたこの触媒からなるコート層を樹脂で包埋し(包埋樹脂層)、さらに、この包埋樹脂層の表面に金等の貴金属を蒸着することでその導電性を担保するようにしている。より具体的には、触媒コート層表面に包埋樹脂層を形成後、この表面を研磨し、包埋樹脂層の研磨面に金等を蒸着する。このようにして、たとえば多孔質の触媒コート層に対して、照射された電子がその細孔内に溜まるのを(チャージアップ)防止することができる。
【0007】
しかしながら、上記するような高い強度を有する電子線を1μm程度の微細範囲に照射すると、電子線が直接的に照射される包埋樹脂層の表面側から電子線による破壊が生じ、これが触媒コート層にまで進展してその上層に亀裂が生じ得るといった問題がある。これは、触媒コート層と包埋樹脂層の界面強度が弱いことにより、この界面近傍で起こった損傷を起点として触媒コート層の表層が破壊され、さらにこの破壊がコート層内部にまで進展するという、亀裂進展のメカニズムによるものである。測定対象となる試料の表面にこのような亀裂等の損傷が生じると、試料によるX線吸収のバランスが崩れてしまい、精緻にBG処理をおこなうことができない。
【0008】
そこで、近年、電子線照射による試料表面の損傷を抑制しながら、触媒層中の触媒金属(貴金属)の濃度やその分布を測定、特定する方法として、蛍光X線分析(XRF:X-ray fluorescence analysis)を用いた測定方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−286698号公報
【特許文献2】特開昭62−285048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このXRF分析は、測定対象となる試料にX線を照射し、それによって励起される測定試料に含まれる元素特有の蛍光X線をX線検出器にて検出することで、検出された蛍光X線のエネルギから元素の種類を特定し、その強度から元素の濃度を測定する測定方法である。XRF分析は、試料にX線を照射することによって、電子線照射による試料表面の損傷が抑制されるとともに、表面に金等を蒸着する導電処理(前工程)が不要であり、EPMAと比較して簡便な測定方法である。
【0011】
また、EPMA分析で使用される電子線の浸透深さは約1μmであるのに対し、XRF分析で使用されるX線は一般に数十μm深さまで浸透することができ、電子線よりもX線の浸透深さが深いことから、XRF分析においては試料深さ方向の情報を得ることができ、EPMA分析よりも精緻に触媒金属の分布や濃度を測定することができる。
【0012】
その一方で、上記するXRF分析においては、触媒金属が担持されるマトリックス担体に由来する信号が、触媒層中の触媒金属(貴金属)の信号に干渉するといった問題があることが発明者等によって特定されている。
【0013】
ここで、図10は、触媒金属(貴金属)を含まない触媒コート層に対するXRF分析結果を示したものである。同図においては、触媒コート層の厚みの異なる2種類の検査用試料(それぞれ、20μmと7mm)に対してXRF分析を実施した結果を示している。
【0014】
図10に示すように、触媒コート層の厚みが小さい(20μm)検査用試料においては、全体としてX線強度が低いものの、たとえばロジウム(Rh)のKα線に対応する20.2keVや、パラジウム(Pd)のKβ線に対応する23.8keVのX線エネルギでは、マトリックス担体に由来する信号が検出されていない。その一方で、触媒コート層の厚みが大きい(7mm)検査用試料においては、ロジウム(Rh)のKα線に対応する20.2keVやパラジウム(Pd)のKβ線に対応する23.8keVのX線エネルギ近傍にて、マトリックス担体(この場合、ジルコニウム(Zr))に由来する信号の散乱ピークが検出されている。
【0015】
このように、触媒コート層の厚みの大きい検査用試料においては、マトリックス担体に由来する信号が触媒金属(貴金属)の信号に干渉してしまい、特に触媒金属濃度の極めて低い状況下においては、この触媒金属の濃度や分布を精緻に測定できない可能性があることが確認された。
【0016】
また、XRF分析においては、触媒層中の触媒金属(貴金属)の信号(蛍光X線)の一部が、測定試料の内部からその外部へ放出される際にマトリックス担体に吸収され、X線検出器にて検出される触媒金属の信号(蛍光X線強度)が相対的に低下するといった問題があることも知られている。すなわち、触媒コート層の厚みが大きい試料において試料深さの深い箇所に存在する触媒金属から励起される蛍光X線は主としてマトリックス担体に吸収され、試料深さの比較的浅い箇所に存在する触媒金属から励起される蛍光X線のみがX線検出器に検出される。その一方で、マトリックス担体に由来する信号は、試料深さの深い箇所からも試料外部に放出されてX線検出器にて検出される。したがって、触媒コート層の厚みが大きい試料においては、X線検出器にて検出される触媒金属(貴金属)の信号強度がマトリックス担体に由来する信号強度に対して相対的に低下して、触媒金属の濃度や分布を精度良く測定することができないといった問題が生じる。
【0017】
本発明は上記する課題に鑑みてなされたものであり、触媒金属濃度の極めて低い状況下において、高精度のXRF分析結果を得ることができ、触媒金属の濃度や分布を精緻に測定することができる触媒特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成すべく、本発明による触媒特定方法は、金属酸化物からなるマトリックス担体に貴金属からなる金属触媒が担持されてなる触媒コート層において、X線照射によって励起される該金属触媒に固有のX線エネルギとX線強度を検出する蛍光X線分析(XRF)を使用して、該金属触媒の濃度もしくは分布を特定する触媒特定方法であって、X線照射方向に100μm以下の厚みを有する触媒コート層を準備する第1のステップと、前記触媒コート層にX線を照射して前記金属触媒の濃度もしくは分布を特定する第2のステップからなるものである。
【0019】
上記するように、触媒コート層の厚みが大きくなると、マトリックス担体に由来する信号が触媒金属の信号に干渉しやすくなるとともに、触媒コート層の深い箇所に存在する触媒金属から励起される蛍光X線がマトリックス担体に吸収され、金属触媒の濃度もしくは分布を精緻に特定することができなくなる。
【0020】
上記する触媒特定方法によれば、触媒コート層の厚みを100μm以下とする極めて簡易な試料構成を適用することで、たとえば触媒金属濃度の極めて低い状況下においても、触媒金属の信号に対するマトリックス担体に由来する信号の干渉を抑制することができ、マトリックス担体に吸収される触媒金属の蛍光X線の量を抑制することができる。したがって、触媒金属から励起されるX線強度がマトリックス担体から励起されるX線強度に対して相対的に低下する、すなわち触媒金属から励起される信号がマトリックス担体から励起される信号等に埋もれてしまうことを効果的に防止することができ、測定対象である触媒金属の濃度や分布を精緻に測定することができる。
【0021】
また、前記触媒コート層の厚みは20μm以下であることが好ましい。触媒コート層の厚みが20〜100μmの間では、その厚みが大きくなるにしたがってX線検出器等にて検出される試料全体の信号強度は大きくなる一方で、触媒金属の信号強度がマトリックス担体の信号強度に対して相対的に低下していくため、触媒コート層の厚みを20μm以下とすることで、触媒コート層内の触媒金属の濃度や分布をより精緻に測定することが可能となる。
【0022】
ここで、前記触媒コート層は、触媒を含有する前記金属酸化物のスラリーを層状に形成し、乾燥させ、焼成して製造されたものであってもよい。
【0023】
また、前記貴金属としては、白金、ロジウム、パラジウムのうちの少なくともいずれか一種を適用することができる。また、前記マトリックス担体を形成する金属酸化物としては、ジルコニアとアルミナ、セリアとアルミナ、セリア−ジルコニアとアルミナ、の混合素材のうちのいずれか一種を適用することができる。
【0024】
なお、上記する貴金属の白金(Pt、原子番号:78)とロジウム(Rh、原子番号:45)とパラジウム(Pb、原子番号:46)は、元素周期表において互いに隣接する元素であって、硬くて脆い銀白色を呈し、腐食に強くて重いという共通の特性を有しており、白金族元素と称される元素群に分類される元素である。そのため、それらの元素は、物理的および化学的性質が相互に極めて類似する元素であり、XRF分析においても同様の特性を示す元素である。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の触媒特定方法によれば、触媒コート層の厚みを所定値以下とする極めて簡易な試料構成を適用することで、触媒金属(貴金属)から励起される信号強度がマトリックス担体から励起される信号強度に対して相対的に低下することを効果的に防止することができ、もって、触媒濃度が極めて低い条件下において、高精度なXRF分析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の触媒特定方法にて触媒金属の濃度、分布を特定する状況を説明した模式図である。
【図2】試料厚さと信号強度の関係を示した図である。
【図3】触媒金属とマトリックス担体の信号(蛍光X線)と試料深さの関係を説明した図である。
【図4】実施例1の試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像である。
【図5】実施例2の試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像である。
【図6】実施例3の試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像である。
【図7】実施例4の試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像である。
【図8】比較例の試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像である。
【図9】低濃度のロジウムを含む試料に対するEPMA分析結果を示したBSE画像である。
【図10】触媒金属を含まない試料に対するXRF分析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の触媒特定方法にて触媒金属の濃度、分布を特定する状況を説明した模式図である。なお、図示例は、触媒コート層が1層構造を呈するものであるが、上層、下層の2層構造のものや、3層以上の積層構造のものであってもよい。
【0028】
図1で示す検査用試料10は、基材K表面上に触媒コート層1が積層され、触媒コート層1表面上に包埋樹脂層2が積層されたものである。
【0029】
ここで、触媒コート層1は、マトリックス担体を形成する金属酸化物、より具体的には、ジルコニアとアルミナ、セリアとアルミナ、セリア−ジルコニアとアルミナ、の混合素材のうちのいずれか一種に対して、白金、ロジウム、パラジウムのうちの少なくともいずれか一種の貴金属(金属触媒)が担持されたものである。
【0030】
上記検査用試料10の作製方法を概説すると、まず、たとえばセラミックスからなる基材Kに対し、貴金属からなる触媒金属を含有した金属酸化物のスラリーを層状に形成し、乾燥させ、焼成して触媒コート層1を製造する。次に、この触媒コート層1から数cm立方の試料を切り出し、アクリル、エポキシ等の樹脂埋め操作を行うことで触媒コート層1の表面に包埋樹脂層2を形成する。最後に、この試料の厚みが所望の厚みT(たとえば、100μm以下)となるようにその表面を研磨して検査用試料10が得られる。
【0031】
上記方法で作製された検査用試料10に対してXRF分析を実施する。具体的には、検査用試料10に対して、所定強度のX線を所定の積分時間だけ照射し(X1方向)、触媒コート層1に含有される金属触媒やマトリックス担体を形成する金属酸化物等に固有(特有)の蛍光X線をX線検出器Sで検出する(Y1方向)。
【0032】
そして、X線検出器Sで検出された金属触媒固有のX線(触媒金属のピーク信号)とそれ以外のX線(触媒金属BG信号)の差分演算を実施してBSE画像を得ることで、触媒金属の濃度や分布を特定することが可能となる。
【0033】
上記する触媒特定方法によれば、触媒コート層に含まれる触媒金属が低濃度であっても、触媒コート層の破損を防止しながら、金属触媒固有のX線(触媒金属のピーク信号)がそれ以外のX線(触媒金属BG信号)に埋もれてしまうことを確実に防止することができ、精緻に触媒金属の濃度分布を特定することができる。
【0034】
[検査用試料の厚みによる効果を検証した実験とその結果]
本発明者等は、試料厚みの異なる5種類の検査用試料(実施例1〜4、比較例)を作製し、それぞれの試料に対してXRF分析を実施した。
【0035】
実施例1〜4の試料厚みはそれぞれ、10μm、20μm、40μm、100μmであり、比較例の試料厚みは7mmである。なお、実施例1〜4と比較例の触媒コート層については、本実験における触媒コート層に含まれる貴金属の測定の可否を明確とするべく、触媒金属を含む上層と触媒金属を含まない下層からなる2層構造のものを使用した。
【0036】
まず、検査用試料の作製方法を説明すると、触媒コート層は、その上層の触媒金属に0.05質量%のロジウムを使用し、マトリックス担体としてジルコニア−セリアとアルミナの混合材を使用した。また、その下層には、触媒金属を使用せず、マトリックス担体としてのジルコニア−セリアとアルミナの混合材のみを使用した。上記触媒を約10×10×10mmの試験片で切り出し、その表面に包埋樹脂層を形成した。
【0037】
実施例1〜4においては、その樹脂埋め試料をミクロトームにて約100μmまで薄片化し、この薄片化した樹脂埋め試料を、炭化水素系のワックス(数μm厚さ)を用いて石英ガラスの基台(約0.3mm厚さ)に固定して、ダイヤモンド研磨によって所望の厚みとなるようにその表面を研磨した。また、比較例においては、樹脂埋め試料をミクロトームにて約7mmまで薄片化し、この薄片化した樹脂埋め試料を石英ガラスの基台に固定して、ダイヤモンド研磨によって7mm厚さとなるようにその表面を研磨した。
【0038】
上記作製方法によって、実施例1〜4と比較例の各検査用試料を作製し、これらについて以下の条件でXRF分析を実施した。なお、X線照射装置としては、大強度X線を照射することのできるSPring-8 BL37XUを使用した。
【0039】
上記XRF分析において照射されるX線の条件は、X線強度を109photon/(μm・s)、X線エネルギを25keV、X線の大きさを0.8×1.3μmとした。
【0040】
図2は、検査用試料の厚さとXRF分析にて検出したロジウム(Rh)およびジルコニウム(Zr)の信号強度との関係を示したものである。なお、図2の横軸は試料厚さ、縦軸は規格化された平均信号強度を示している。
【0041】
図示するように、ロジウムの信号強度は、試料厚さが20μmまでは急激に増加するものの、試料厚さが20μmを超えるとその増加率が低下し、約40μmにおいて規格化された平均信号強度が1となることが確認できた。すなわち、試料深さが40μmよりも深い領域に存在するロジウムの信号は試料外部に脱出することができないため、たとえば試料厚みを40μm以上としたとしてもX線検出器にて検出されるロジウムの信号はこれ以上増加しないことが実証された。
【0042】
一方、ジルコニウムの信号強度は、試料厚さが20μmまではロジウムと同様に急激に増加し、20μm近傍で変曲点を迎え、20μmを超えるとその増加率が低下するもの、試料厚さが大きくなるにしたがってその信号強度は増加し続けることが確認できた。すなわち、ジルコニウムの信号は試料内部の深い領域であっても試料外部へ脱出することができ、X線検出器にて検出されるジルコニウムの信号は、試料厚さが大きくなるにしたがって増加することが実証された。
【0043】
図3は、ロジウムとジルコニウムの信号(蛍光X線)と試料深さの関係を説明した図である。図示するように、試料表面から約40μmまでの領域に存在するロジウムの信号は試料外部へ脱出して、その信号がX線検出器にて検出される(矢印R1)。しかしながら、試料表面から約40μmよりも深い領域に存在するロジウムの信号は、試料に含まれるジルコニウムに吸収されてX線検出器では検出されない(矢印R2)。その一方で、ジルコニウムの信号は、そのジルコニウムが試料表面から約40μmよりも深い領域に存在する場合であっても試料外部へ脱出することができ、試料外部に配置されたX線検出器にて検出される(矢印Z1)。
【0044】
このように、試料厚さが40μmよりも大きな検査用試料においては、ロジウムの信号の一部がジルコニウムに吸収されるため、ロジウムの信号強度がジルコニウムの信号強度に対して相対的に小さくなることが実証された。
【0045】
次に、本発明者等は、実施例1〜4と比較例の検査用試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像を検証した。図4〜8はそれぞれ、実施例1〜4と比較例の検査用試料に対するXRF分析結果を示したBSE画像である。
【0046】
まず、図4に示すように、実施例1(10μm厚さ)では、その厚さが薄いために信号強度が低いものの、ロジウムが含まれる触媒コート層の上層とロジウムが含まれない触媒コート層の下層との境界を確認することができ、触媒コート層の上層内に含まれるロジウムの濃度分布を測定できることが実証された。なお、X線強度やX線エネルギを大きくすることで、X線検出器にて検出される信号強度を高めることができ、図示例よりも更に測定精度を向上させることができる。また、図示するように、マトリックス担体に含まれるジルコニウムやセリウムについても、触媒コート層の上層と下層における濃度分布を精緻に測定できることが実証された。
【0047】
次に、図5に示すように、実施例2(20μm厚さ)では、実施例1と比較して触媒コート層の上層内に含まれるロジウムの濃度分布を更に精緻に測定できることが実証された。これは、検査用試料の厚みが増加することで、触媒コート層に含まれる元素から励起される信号量が増加し、X線検出器にて検出される信号強度が増加したためである。
【0048】
次に、図6に示すように、実施例3(40μm厚さ)では、実施例2と比較して測定精度が低下するものの、依然として触媒コート層の上層内に含まれるロジウムの濃度分布を測定できることが実証された。これは、試料厚みが20μmよりも大きくなることで、触媒コート層に含まれるロジウムの信号とジルコニウムの信号が干渉しやすくなるものの、ロジウムの信号がジルコニウムに吸収されることなくX線検出器にて検出できたためであると考えられる。
【0049】
また、図7に示すように、実施例4(100μm厚さ)では、実施例3と比較して更に測定精度が低下するものの、依然として触媒コート層に上層内に含まれるロジウムの濃度分布を測定できることが実証された。上記するように、試料厚みが40μmよりも大きくなると、ロジウムの信号は飽和(規格化された平均信号強度が1となる)してX線検出器にて検出されるロジウムの信号強度は増加しない。その結果、XRF分析によるロジウムの濃度分布の測定精度は必然的に低下することとなる。しかしながら、X線検出器にて検出されたロジウムの蛍光X線とそれ以外の蛍光X線を用いることで、図示するように依然としてその差分を演算することができるため、この実施例4においてもロジウムの濃度分布を測定できたと考えられる。
【0050】
一方で、図8に示すように、比較例(7mm厚さ)では、試料厚みが大きいためにロジウムが含まれる触媒コート層の上層とロジウムが含まれない触媒コート層の下層との境界を明確に確認することができず、触媒コート層の上層内に含まれるロジウムの濃度分布を精緻に測定できることができなかった。
【0051】
この実験結果より、検査用試料(触媒コート層)の厚みを100μm以下として、XRF分析をおこなう本発明の触媒特定方法を適用することで、触媒金属濃度が低濃度である条件下においても、特定対象の触媒金属の濃度分布を精緻に特定できることが実証された。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1…触媒コート層、2…包埋樹脂層、10…検査用試料、K…基材、S…X線検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなるマトリックス担体に貴金属からなる金属触媒が担持されてなる触媒コート層において、X線照射によって励起される該金属触媒に固有のX線エネルギとX線強度を検出する蛍光X線分析(XRF)を使用して、該金属触媒の濃度もしくは分布を特定する触媒特定方法であって、
X線照射方向に100μm以下の厚みを有する触媒コート層を準備する第1のステップと、
前記触媒コート層にX線を照射して前記金属触媒の濃度もしくは分布を特定する第2のステップからなる触媒特定方法。
【請求項2】
前記触媒コート層の厚みが20μm以下である請求項1に記載の触媒特定方法。
【請求項3】
前記触媒コート層は、触媒を含有する前記金属酸化物のスラリーを層状に形成し、乾燥させ、焼成して製造されたものである請求項1または2に記載の触媒特定方法。
【請求項4】
前記貴金属は、白金、ロジウム、パラジウムのうちの少なくともいずれか一種からなる請求項1から3のいずれかに記載の触媒特定方法。
【請求項5】
前記マトリックス担体を形成する金属酸化物は、ジルコニアとアルミナ、セリアとアルミナ、セリア−ジルコニアとアルミナ、の混合素材のうちのいずれか一種からなる請求項1から4のいずれかに記載の触媒特定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−220363(P2012−220363A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87304(P2011−87304)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】