説明

触媒部材及びその製造方法

【課題】製造工程簡略化による低コスト化と触媒の均一分散と比表面積の増大による反応効率向上の両立を可能とする触媒部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末2を金属部材1に固着し、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaが1〜300μmに仕上げられた金属部材1である触媒部材。また、上記の金属粉末及び/又は合金粉末2が、純Ni,純Co,純Ti、Ni合金,Co合金,Ti合金の1種または2種以上からなる触媒部材及びコールドスプレーを用いるその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末が、金属部材に固着している触媒部材で触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaが1〜300μmに仕上げられた金属部材であるもの及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に触媒は、触媒成分単体又は触媒成分を含んだ合金粉末がバインダーなどとともに混合され、ペレット・粒塊といった固形状に形成され、使用されている。具体的には、含浸法、イオン交換法、共沈法などによって金属成分を導入したのち、焼成、水素還元などの処理を行うことにより試料調製される。このような上記現状の含浸法、イオン交換法、共沈法などによって金属成分を導入したのち、バインダーなどとともに混合され、焼成、水素還元などの処理を行う製造方法では、多数の製造工程を経なければならないという問題がある。
【0003】
上述した背景のもとに、例えば、特開2009−66594号公報(特許文献1)に開示されているように、基材表面上に可視光応答型光触媒と抗菌性のある金属粒子の混合物を溶射またはコールドスプレー法にて成膜する方法が提案されている。また、特表2009−512781号公報(特許文献2)に開示されているように、粉状遷移金属酸化物を触媒皮膜として金属基板表面に溶射またはコールドスプレー法にて成膜する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2009−66594号公報
【特許文献2】特表2009−512781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1や特許文献2に記載されている、溶射またはコールドスプレー法にて成膜する方法では、高速フレーム溶射などの使用により基板への強固な密着を重視した溶射条件である。そのため、成膜された被膜層は、粒子が激しく押つぶれたような形状になることが予測でき、表面粗さが低い平滑な表面形状で、比表面積も低下するなどの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述のような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、触媒材料である金属粉末及び/又は合金粉末を、コールドスプレー法等で直接支持体となる金属部材に固着させ、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaを1〜300μmとすることにある。触媒活性において、最も大きな要因は、いかに触媒の反応比表面積を大きくとれるかというところである。そのため、上記の触媒反応を起こす面の表面粗さRaを1〜300μmとすることで、大きな比表面積を実現する。
【0006】
加えて、「Ni等の融点の高い純金属では焼結温度が高い」、「焼結しようとするとその温度変化により形成組織が変化してしまうため焼結し難い合金の使用は難しい」といった課題に対して、コールドスプレー法による瞬間的な強大なエネルギーが粉末粒子間、粉末粒子−基板間にかかることで、融点の高い純金属や難焼結合金粉末であっても塑性変形による強固な結合により、触媒部材として使用可能になる。
【0007】
また、今まで焼結していた工程がコールドスプレー法により省略できるといった製造工程簡略化による低コスト化が実現可能になる。これらの目的は、製造工程簡略化による低コスト化と触媒の均一分散と比表面積の増大による反応効率向上の両立を可能とする触媒部材及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
その発明の要旨とするところは、
(1)触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末を金属部材に固着し、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaが1〜300μmに仕上げられた金属部材であることを特徴とする触媒部材。
(2)前記(1)に記載の金属粉末及び/又は合金粉末が、純Ni,純Co,純Ti、Ni合金,Co合金,Ti合金の1種または2種以上からなることを特徴とする触媒部材。
【0009】
(3)触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末をコールドスプレー法を用いて金属部材に固着させ、該金属部材の表面粗さRaを1〜300μmとすることを特徴とする触媒部材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明では、触媒材料である金属粉末及び/又は合金粉末を、金属部材上に直接固着させることにより、従来の触媒形態で必要だったバインダーといった使用材料削減、焼成、水素還元などの製造工程を簡略化でき、表面粗さの増大による比表面積の増大も得られる。これにより、製造工程簡略化による低コストと反応効果の向上を両立することが可能になる等極めて優れた効果を奏するものである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
触媒活性において、最も大きな要因は、いかに触媒の反応比表面積を大きくとれるかというところである。そのため、触媒材料である金属粉末及び/又は合金粉末を、コールドスプレー法等で直接支持体となる金属部材に固着させ、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaを1〜300μmとすることで、大きな比表面積を実現する。
【0012】
加えて、「Ni等の融点の高い純金属では焼結温度が高い」、「焼結しようとするとその温度変化により形成組織が変化してしまうため焼結し難い合金の使用は難しい」といった課題に対して、コールドスプレー法による瞬間的な強大なエネルギーが粉末粒子間、粉末粒子−基板間にかかることで、融点の高い純金属や難焼結合金粉末であっても塑性変形による強固な結合により、触媒部材として使用可能になる。
【0013】
また、今まで焼結していた工程がコールドスプレー法により省略できるといった製造工程簡略化による低コスト化が実現可能になる。これらの目的は、製造工程簡略化による低コスト化と触媒の均一分散と比表面積の増大による反応効率向上の両立を可能とする触媒部材及びその製造方法を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における製造方法として、特にコールドスプレー法を用いることで従来必要だったバインダーが不要になり、触媒原料そのままを使用することで、バインダー被覆され、反応に関与できなかった触媒部分も無くなり、反応性を向上できる。すなわち、コールドスプレー法によって、例えば、Ni系やCo系、Ti系合金粉末を金属基板上に溶射することによって、粉末のプレス加工、成形体の焼結の2工程を1工程(工程簡略化)での触媒作製を可能とする。また、従来の粉末のプレス加工、成形体の焼結過程の時点では行えなかった空孔率の制御もコールドスプレー法により可能になる。また、焼結に不向きな材料であっても容易に金属基材に固着させることができる。
【0015】
さらに、低融点でかつ柔らかなSnとNi、Co、Tiを合金化させることで、コール
ドスプレー時の衝撃で変形しやすくなり、結果、基板上に複雑形状を形成する。Cuに関しても、Cu合金は延展性のあるSn同様に柔らかい金属Cuを用いることで、コールドスプレー時の衝撃で変形しやすくなり、基板上に複雑形状を形成する。また、SnやCuよりも硬い金属であるFeを含んだ合金を使用することで、SnやCu合金よりも、コールドスプレー時に元の粉末形状を維持しやすい。そのため、空隙が大きくなり、結果、比表面積を増大させることが出来る。他の合金含有元素としては、Sn、Cu、Fe以外に、軟質のAl、Bi、Znを含むことができる。上記同様、コールドスプレー時の衝撃で変形しやすくなり、結果、基板上に複雑形状を形成しやすくなる。
【0016】
上記したコールドスプレー法を用いた結果、触媒材料を均一に分散でき、かつ触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaは1〜300μmで比表面積も大きく反応効率の向上を図ることができ、かつその固着時のエネルギーにより触媒粉末同士が強固に固着、金属シートとも強固に固着することで、反応時の触媒粉末の滑落なども無く連続した製造ラインにおいて、触媒の強度やメンテナンスフリーといったメリットが付加される。
【0017】
本発明において、触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末を金属部材に固着し、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaが1〜300μmの金属部材とした理由は、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaが1μm未満では、触媒としての空孔率や比表面積が小さく、触媒としての作用、効果が十分に得られないことから、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaを1〜300μmとした。好ましくは、1〜50μmとする。その上限を300μmとしたのは、微細粒子を適用した場合のその比表面積向上により、触媒としての効果が十分達成させることと、Raが大き過ぎると部材としての強度が劣化するためである。
【0018】
請求項2に関して、コールドスプレー法によって、「Ni等の融点の高い純金属では焼結温度が高い」、「焼結しようとするとその温度変化により形成組織が変化してしまうため焼結し難い合金の使用は難しい」といった材料に対して、コールドスプレー法による瞬間的な強大なエネルギーが粉末粒子間、粉末粒子−基板間にかかることで、融点の高い純金属や難焼結合金粉末であっても塑性変形による強固な結合により、触媒部材として使用可能になる。
【0019】
さらに、請求項1に記載の金属粉末及び/又は合金粉末を、純Ni,純Co,純Ti、Ni合金,Co合金,Ti合金の1種または2種以上使用することで、今までにはなかった表面形状を形成できる。例えば、合金とすることで、純金属よりも硬さを柔らかくすることによってバインダーがなくでも、結合性がよく、多孔質の触媒部材が得られる。
【0020】
請求項3に関して、コールドスプレー法を用いた結果、触媒材料を均一に分散でき、かつ触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaは1〜300μmで比表面積も大きく反応効率の向上を図ることができ、かつその固着時のエネルギーにより触媒粉末同士が強固に固着、金属シートとも強固に固着することで、反応時の触媒粉末の滑落なども無く連続した製造ラインにおいて、触媒の強度やメンテナンスフリーな製造方法である。
【0021】
例えば、Ni系やCo系、Ti系合金粉末を金属基板上に溶射することによって、粉末のプレス加工、成形体の焼結の2工程を1工程(工程簡略化)での触媒作製を可能とする。また、従来の粉末のプレス加工、成形体の焼結過程の時点では行えなかった空孔率の制御もコールドスプレー法により可能になる。また、焼結に不向きな材料であっても容易に金属基材に固着させることができる。
【0022】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る金属基板に金属粉末及び/又は合金粉末を固着させた状態を示す断面概略図である。この図1に示すように、金属基板1に本発明に係る触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末2が、金属基板1に固着している。ここで固着しているとは、図1のように金属粉末及び/又は合金粉末2の粒子形状が完全に残っており、表面粗さRaが1μm≦Ra≦300μmと非常に凹凸のある形態をしている。
【0023】
図2も、本発明に係る金属基板に金属粉末及び/又は合金粉末を固着させた状態を示す断面概略図である。この図2に示すように、金属粉末及び/又は合金粉末2の粒子形状がくずれてはいるが表面粗さRaが1μm≦Ra≦300μmと凹凸のある形態をしている。図3は、触媒機能を有する金属層及び/又は合金層3を平滑に被覆され、その表面粗さRaは1μm未満と、滑らかに金属基板1に被覆されている形態を示している。
【0024】
また、本発明に係るコールドスプレー法とは、触媒粉末を溶融またはガス化させることなく空気や不活性ガスと共に高速流で固相状態のまま金属基板に衝突させて被膜を形成する技術である。この方法によれば、高速に加速された触媒粉末粒子が金属基板に衝突したときに起こる粒子の塑性変形や基板中への物理的なめり込みにより金属基板の表面に適度な凹凸を持った触媒膜が固着される。このような原理で金属基板上に試料が固着されるため、バインダーが不要となり、触媒粉末の固着が可能となる。
【0025】
また、本発明においては、使用する粉末の組成、粒径、形状、又はコールドスプレーの噴射条件を適切に設定することにより、表面粗さRaを制御することができる。ここで、コールドスプレー法による噴射溶射条件を適切に設定するとは、例えば、粉末への熱による特性変化を抑えるためにガス温度を800℃、また金属基板への最適なめり込み方や積層状態を考慮して粉末とともに噴射するガス圧力を3MPaとした。
【0026】
また、本発明に係る金属粉末及び/又は合金粉末とは触媒機能を有する純Ni,純Co,純Ti、Ni合金,Co合金,Ti合金の1種または2種以上を含むものである。また、表面粗さ増大のため、腐食処理等の表面処理を行うことも可能である。上記したように、粉末の組成は、触媒機能を有するNi,Co,Tiの1種または2種以上の単体およびそれらの合金を掲げることができる。
【0027】
本発明に係る金属粉末及び/又は合金粉末は、Arガス雰囲気中で高周波誘導溶解炉により加熱溶融後、Arガス雰囲気中、ガス噴射させるとともに出湯させ、急冷凝固することで目的とするガスアトマイズ微粉末を得た。あるいは、Arガス雰囲気中で高周波誘導溶解炉により加熱溶融後、Arガス雰囲気中、回転数40000rpmで回転するディスク上に溶湯を出湯させ、急冷凝固することで目的とするディスクアトマイズ微粉末を得た。あるいは、液体急冷薄帯、共沈法、メカニカルアロイング法により試料粉末を得た。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
NiやCo、Tiの金属粉末及びNiやCo、Tiの各元素をベースとする合金粉末をArガス雰囲気中で高周波誘導溶解炉により加熱溶融後、Arガス雰囲気中に出湯させ、ガスアトマイズではArガスを溶湯に当てて噴霧して、またディスクアトマイズ法では回転数40000rpmで回転するディスク上に落下させてディスクの遠心力により溶湯を飛散させて球状微粉末を得た。あるいは、液体急冷薄帯、共沈法、メカニカルアロイング法による試料粉末を得た。また、これらの粉末を所定量計量して混合した。この粉末を図1、2に示すように、金属基板上に固着させる。その作製処理方法として、上記で示したコールドスプレー法、又は焼結法、焼結+研磨法を採用し、表1に本発明の効果を示した。
【0029】
なお、コールドスプレー法では、NiやCo、Tiの金属粉末及びNiやCo、Tiの各元素をベースとする合金粉末の噴出ノズルと金属基板間距離を10〜20mmに保ち、ガス温度を800℃、ガス圧力を3MPa、さらに凹凸により表面粗さRaが1〜300μmになるように同じ場所への噴射を避け、N2ガスとともに試料を10〜40mm/sのノズル移動速度で金属基板上に噴出、固着させた。
【0030】
以上のように、NiやCo、Tiの金属粉末及びNiやCo、Tiの各元素をベースとする合金粉末をコールドスプレー法による高速に加速されたNiやCo、Tiの金属粉末及びNiやCo、Tiの各元素をベースとする合金粉末が金属基板に衝突したときに起こる粒子の塑性変形や基板中への物理的なめり込みにより金属基板の表面に適度な凹凸、すなわち、表面粗さRaが1〜300μmとなり、粒子が固着される。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

表1〜2に示すNo.1〜40は、本発明例であり、表3に示すNo.41〜51は、比較例である。
【0034】
本発明例であるNo.1〜40では、表面粗さRaは1〜300μmで反応性の向上に至った。また、コールドスプレー法により、その固着時のエネルギーにより触媒粉末同士が強固に固着、金属基板とも強固に固着することで、反応時の触媒粉末の滑落なども無く連続した製造ラインにおいて、触媒の強度やメンテナンスフリーといったメリットが付加された。
【0035】
一方で、表3に示す比較例No.41〜47では表面が図3に示すような滑らかな形態になる。表面粗さRaが1μm未満であり、製造工程の簡略化と触媒反応の向上には至らない。また、比較例No.48〜51では表面粗さRaが300μmを超え、製造工程の簡略化と触媒反応の向上には至らない。
【0036】
以上にように、Ni系やCo系、Ti系合金粉末をコールドスプレー成膜法により、金属基板上に溶射することによって、空隙を設けつつ相互結着できることで、従来の製造工程を簡略化することができ、かつ焼結に不向きな材料や単体合金の触媒部材を容易に製造可能となり、また、触媒の空孔率や比表面積を向上させることが出来る極めて優れた触媒およびその製造方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る金属基板に金属粉末及び/又は合金粉末を固着させた状態を示す断面概略図である。
【図2】本発明に係る金属基板に金属粉末及び/又は合金粉末を固着させた状態を示す断面概略図である。
【図3】従来の金属基板に金属層及び/又は合金層を平滑に被覆した状態を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1 金属基板
2 金属粉末及び/又は合金粉末
3 金属層及び/又は合金層


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末を金属部材に固着し、触媒部材のうち触媒反応を起こす面の表面粗さRaが1〜300μmに仕上げられた金属部材であることを特徴とする触媒部材。
【請求項2】
請求項1に記載の金属粉末及び/又は合金粉末が、純Ni,純Co,純Ti、Ni合金,Co合金,Ti合金の1種または2種以上からなることを特徴とする触媒部材。
【請求項3】
触媒機能を有する金属粉末及び/又は合金粉末をコールドスプレー法を用いて金属部材に固着させ、該金属部材の表面粗さRaを1〜300μmとすることを特徴とする触媒部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192401(P2012−192401A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29125(P2012−29125)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】