説明

触媒電極、燃料電池、機器、および、触媒電極の製造方法

【課題】燃料電池の電気化学エネルギーデバイスの一時的な高出力運転時の不安定動作を改善することを課題とする。
【解決手段】メタノール酸化反応を促進する触媒13を担持した電気伝導体15と、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ多孔質構造体14と、を含む触媒層11を有する触媒電極、および、この触媒電極を燃料極10として用いる燃料電池1、および、この燃料電池1を動力源として用いる機器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒電極、燃料電池、機器、および、触媒電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素やメタノールを燃料とし、空気中の酸素と化学反応して生じるエネルギーを電気エネルギーとして取り出す電気化学エネルギーデバイスである。このような燃料電池は、Liイオン電池などの2次電池よりも高い理論エネルギー容量を持ち、自動車車載用電源、家庭や工場などの定置式分散電源、あるいは、携帯電子機器用の電源などとして利用することができる。
【0003】
燃料電池としては、例えば、メタノール直接型燃料電池がある。メタノール直接型燃料電池では、燃料極にメタノールが供給され、この燃料極側で供給されたメタノールを酸化する電気化学反応が起こる。なお、メタノール酸化反応は、比較的低温では進行しにくい反応であり、一般的には、白金(Pt)などの貴金属触媒により反応を促進させる。
【0004】
ここで、燃料電池は、低電流状態で用いられる時は、燃料極、空気極ともに平衡電位に近い状態を保ちながら安定した状態で発電を行うことが可能である。しかし、燃料電池を動力源として用いている機器の起動時、または、高電流出力運転時などには、過電圧にともない電圧が低下すると同時に、燃料極、空気極ともに、反応物の供給が一時的に追いつかず、急激な電圧降下により、不安定な電力供給状態を招くことがある。そして、このような不安定な電池動作により、電池の劣化が促進されるという問題がある。
【0005】
特許文献1には、燃料極、電解質膜および空気極を有する燃料電池セルと、空間を挟んでこの燃料電池セルに近接して設けられた固体状メタノール収容容器と、からなる直接メタノール形燃料電池システムが開示され、固体状メタノール収容容器の例として、シリカゲル、ゼオライトなどの多孔性材料にメタノールを吸着したものが示されている。
【0006】
そして、このような直接メタノール形燃料電池システムによれば、燃料極上でメタノールが分解されると、分解された分を補充する形で固体状メタノール容器からメタノールが供給され、結果、メタノール供給速度が適正に制御できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−97979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の直接メタノール形燃料電池システムの場合、燃料極と、メタノールを吸着している多孔性材料(固体状メタノール収容容器)との間に空間が設けられているため、多孔性材料から放出されたメタノールを、メタノール不足状態になっている燃料極上に迅速に届けることができない。すなわち、多孔性材料から放出されたメタノールが燃料極上に達するまでの間に、空間中を移動することによるタイムロスが発生してしまう。
【0009】
このような背景を踏まえて、本発明の目的は、燃料電池の電気化学エネルギーデバイスの一時的な高出力運転時の不安定動作を改善する機構を付与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、メタノール酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ多孔質構造体と、を含む触媒層を有する触媒電極が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上記触媒電極を燃料極として用いる燃料電池が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記燃料電池を動力源として用いる機器が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、拡散層を準備する拡散層準備工程と、メタノール酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ多孔質構造体と、を混合した混合物を作成後、前記混合物を分散液中に分散する分散液製造工程と、前記混合物を分散した前記分散液を前記拡散層の第1の面上に塗布後、乾燥する塗布乾燥工程と、を有する触媒電極の製造方法が提供される。
【0014】
すなわち、本発明では触媒電極上に、より詳細には触媒電極が有する触媒層に、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ多孔質構造体を備える。
【0015】
触媒層とは、メタノール酸化反応を促進する触媒により構成される層であり、その構成形態は特段制限されないが、例えば、以下の実施形態で説明するように、カーボンクロスやカーボンペーパーなどで構成されるガス拡散層の表面に、触媒を担持した電気伝導体(カーボン粒子など)を付着することで構成した層であってもよい。または、シート状の電気伝導体(カーボンシートなど)の表面に触媒を担持させることで構成した層であってもよい。
【0016】
本発明の多孔質構造体は、上述のような触媒層の表面に付着してもよいし、または、上述の本発明の触媒電極の製造方法で実現されるように、触媒などの材料と同一層上に設けられてもよい。
【0017】
このような本発明によれば、燃料極(触媒電極)上のメタノール濃度が高い状態である間は、多孔質構造体がメタノールを十分に吸収する。一方、燃料極(触媒電極)上のメタノール濃度が低い状態である間は、多孔質構造体がメタノールを放出する。なお、多孔質構造体は燃料極(触媒電極)上に設けられているので、多孔質構造体から放出されたメタノールは、タイムロスなく、燃料極(触媒電極)上に供給される。すなわち、タイムロスなく迅速に、燃料極(触媒電極)上のメタノール不足状態を解消することができる。その結果、安定した発電を継続することが可能となる。
【0018】
なお、本発明では、燃料極(触媒電極)上のメタノール濃度が低い状態から高い状態に移ると、多孔質構造体は、再びメタノールを吸蔵することとなる。すなわち、燃料極(触媒電極)上のメタノール濃度の安定化は、能動的かつ継続的に実現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燃料電池の電気化学エネルギーデバイスの一時的な高出力運転時の不安定動作を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の燃料電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例と比較例を比較した電流−電圧プロファイルである。
【図3】実施例と比較例を比較した電流ステップ時の電位時間変化を示す図である。
【図4】実施例の発電特性を示す図である。
【図5】実施例と比較例を比較した電流−電圧プロファイルである。
【図6】実施例と比較例を比較した電流ステップ時の電位時間変化を示す図である。
【図7】実施例の発電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0022】
図1は本実施形態の燃料電池1の一例を模式的に示す断面図である。図に示すように、本実施形態の燃料電池1は、燃料極10と、高分子電解質膜20と、空気極30と、を有する。
【0023】
まず、本実施形態の燃料電池1の概要について図1を参照して説明する。
【0024】
燃料極10には、図示しないメタノール供給機構によりメタノールが供給され、燃料極10上でメタノール酸化反応が起き、プロトンと電子が発生する。高分子電解質膜20は、燃料極10で発生したプロトンを、空気極30に移動する。空気極30では、高分子電解質膜20から受取ったプロトン、図示しない外部機構を経て燃料極10から移動してきた電子、および、酸素(例えば空気中の酸素)が反応して、水を生成する。
【0025】
ここで、図示した空気極30は、触媒層31と、触媒層31に接するガス拡散層32と、を有するが、ガス拡散層32を有さない構成とすることも可能である。また、電解液は、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液のいかなる性質をもつものでも使用することが可能である。すなわち、本実施形態において空気極30および高分子電解質膜20の構成は従来技術を利用したあらゆる形態とすることができる。よって、ここでの説明は省略する。
【0026】
次に、本実施形態の燃料極10の構成について説明する。
【0027】
燃料極10は、触媒層11を有する。なお、触媒層11と接するメタノール拡散層12をさらに有してもよい。メタノール拡散層12は従来技術を利用したあらゆる形態とすることができ、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパーなどで構成してもよい。
【0028】
触媒層11は、図1に示すように、触媒13を担持した電気伝導体15と、多孔質構造体14と、を含む。なお、図1に示す拡大図は、触媒層11の平面、すなわちメタノール拡散層12と接する面における拡大図である。
【0029】
多孔質構造体14は、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ構造体である。なお、多孔質構造体14が有する細孔の細孔径は、5Å以上20Å以下であってもよい。多孔質構造体14は、例えば、ゼオライトまたはシリカゲルとすることができる。また、多孔質構造体14の平均粒径は100nm以下、好ましくは50nm以下とすることができる。
【0030】
ゼオライト(xMO・yAl・zSiO・nHO,M=Li,Na,Mg,K,Ca,Rb,Sr,Cs,Ba)は、SiとAlがOを介して3次元的に結合(Si-O−Al−O−Si)し、ビルディングの骨組みのように骨格が形成される。この骨格中に分子レベルの細孔が存在し、細孔の大きさにより様々な分子を取り込むことができる。メタノール分子の大きさは約4Åであり、細孔径が大体5Å以上20Å以下であるゼオライトは一つの細孔に1〜4分子程度のメタノールを取り込められる。ゼオライト外部のメタノール分圧が増加するとゼオライトにメタノール分子が入り込み細孔内表面に吸着して安定化し、メタノールが吸蔵される。ゼオライト外部のメタノール分圧が減少するするとゼオライト内に吸蔵していたメタノール分子は外部へ放出される。また、ゼオライトはAl(+3価)とSi(+4価)がO(−2価)を互いに共有しており、Siの周りは電気的に中性となり、Alの周りは−1価となる。この負電荷を補償するために、骨格中に陽イオンが存在し、xMO・yAl・zSiO・nHOの組成式で形成される。陽イオン種(M)は、Li,Na,Mg,K,Ca,Rb,Sr,Cs,Baが挙げられ、陽イオンの違いにより細孔径を1Å程度で細かく制御でき、イオン径が大きいものほど細孔径は小さくなる。陽イオンを選択することでメタノール吸蔵材の規定量当たりのメタノール吸蔵量も調節でき、用途に合ったメタノール放出量を最適化できる。
【0031】
シリカゲル(SiO・nHO)は、SiとOが3次元的に結合し、緻密で表面積の大きな多孔質構造を形成する。この多孔質構造中に分子レベルの細孔が存在し、細孔の大きさにより様々な分子を取り込むことができる。メタノール分子の大きさは約4Åであり、細孔径が大体5Å以上20Å以下であるシリカゲルは一つの細孔に1〜4分子程度のメタノールを取り込められる。シリカゲル外部のメタノール分圧が増加するとシリカゲルにメタノール分子が入り込み細孔内表面に吸着して安定化し、メタノールが吸蔵される。シリカゲル外部のメタノール分圧が減少するとシリカゲル内に吸蔵していたメタノール分子は外部へ放出される。また、シリカゲルの珪酸末端(Si=O)をSi(OH)に処理することで、珪酸末端の極性が大きくなり双極子相互作用を起こしやすくなる。かかる場合、Si(OH)末端とメタノール(極性分子)の吸着エネルギーは大きくなり、吸着メタノールの蒸気圧は小さくなる。すなわち、Si(OH)末端数を制御することで吸着メタノールの蒸気圧を調節できるため、シリカゲル内に吸蔵されたメタノールの放出分圧を調整でき、用途に合ったメタノール解離圧に最適化できる。なお、Si(OH)末端数の制御は、従来技術に準じて実現することができる。
【0032】
触媒13および電気伝導体15は従来技術を利用したあらゆる形態とすることができる。例えば、触媒13はメタノール酸化反応を促進するものであれば特段制限されず、白金触媒、または、白金合金触媒などであってもよい。また、電気伝導体15としては、例えば、カーボン粒子であってもよい。さらに、電気伝導体15に触媒13を担持させる手段についても同様に、従来技術を利用して実現することができる。
【0033】
このような触媒13を担持した電気伝導体15、および、多孔質構造体14は、触媒層11の平面方向全体に均一に分散しているのが望ましい。また、触媒層11における多孔質構造体14の含有量は、20v%以下であることが望ましい。
【0034】
次に、図1を用いて、本実施形態の燃料極10および燃料電池1の作用効果について説明する。
【0035】
まず、本実施形態の燃料電池1を動力源として用いている機器の運転状態が比較的低い低電流出力状態である場合を考える。かかる場合、メタノール供給機構(図示せず)から燃料極10上に供給されたメタノールの量は所望の運転のために十分な量であるため、燃料極10上では高いメタノール濃度状態が維持される。本実施形態では、このような状態の際、多孔質構造体14がメタノールを十分に吸収する。
【0036】
次に、本実施形態の燃料電池1を動力源として用いている機器の運転状態が高電流出力状態である場合を考える。かかる場合、メタノール供給機構(図示せず)から燃料極10上に供給されたメタノールがある程度残存している間は、メタノール酸化を促進する触媒13上で、メタノール酸化反応が熱力学的平衡状態に近い状態で起こる。しかし、メタノール供給機構(図示せず)からのメタノールの供給が、燃料極10上でのメタノールの消費に追い付かなくなると、電圧が下がり始めると同時に、低メタノール濃度状態になる。本実施形態では、このような状態の際、多孔質構造体14がメタノールを放出する。すると、燃料極10上では、この放出されたメタノールを利用したメタノール酸化反応が行われ、結果、発電が安定的に継続されることとなる。なお、本実施形態では多孔質構造体14を燃料極10上に設けているので、多孔質構造体14から放出されたメタノールは、タイムロスなく、メタノール酸化反応に寄与することができる。すなわち、燃料極10上におけるメタノール不足状態を迅速に解消し、安定した発電を継続することが可能となる。
【0037】
なお、本実施形態では、高電流出力状態での運転から、低電流出力状態での運転に戻り、メタノール供給機構(図示せず)から燃料極10上に供給されるメタノールの量が所望の運転のために十分な量になると、燃料極10上のメタノール濃度は高メタノール濃度状態となり、多孔質構造体14は、再びメタノールを吸蔵することとなる。
【0038】
すなわち、高出力運転時のメタノール不足を補う効果は、能動的かつ継続的に利用することが可能である。
【0039】
また、本実施形態では、(1)多孔質構造体14の平均粒径を100nm以下、好ましくは50nm以下とする、(2)触媒13を担持した電気伝導体15、および、多孔質構造体14を触媒層11の平面方向全体に均一に分散する、および、(3)触媒層11における多孔質構造体14の含有量を20v%以下とする、の中のいずれか1つ以上を組み合わせることで、触媒13および触媒13を担持した電気伝導体15の有効面積が減少せず、また、メタノールなどの反応種の拡散が妨げられないため、燃料極10上での安定したメタノール酸化反応を実現することが可能となる。
【0040】
なお、メタノールの放出、吸蔵能力は、各々の物質によって異なるため、多孔質構造体14に用いる物質は、燃料極10の大きさ、燃料電池1を使用する機器の運転出力などに応じて選択することが可能である。
【0041】
また、メタノールの吸蔵、あるいは、放出速度をコントロールするために、燃料極10に加熱冷却機構を追加してもよい。かかる場合、出力電流の増大と連動して多孔質構造体14を含む燃料極10を加熱して、メタノール放出速度を速めることができ、逆に、出力電流の減少と連動して多孔質構造体14を含む燃料極10を冷却して、メタノールの吸蔵を促すことができる。
【0042】
このような作用効果を有する本実施形態の燃料極10を有する燃料電池1によれば、安定した発電を継続することが可能となるとともに、低メタノール濃度状態で運転することに起因して引き起こされる電極劣化を抑制することが可能となる。
【0043】
また、このような本実施形態の場合、従来技術のように濃度センサを設置してメタノール濃度を検知し、別途メタノール供給装置を追加するような手段よりも省スペース化が可能であると同時に、余分な用力も不要であり、コスト削減の効果もある。
【0044】
ここで、本実施形態の燃料極10の製造方法は特段制限されないが、例えば、以下のような工程を有する製造方法であってもよい。
【0045】
(拡散層準備工程)拡散層(例:カーボンクロスやカーボンペーパーなど)を準備する。
【0046】
(分散液製造工程)メタノール酸化反応を促進する触媒を担持した粒子状の電気伝導体と、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ細孔径が5Å以上20Å以下の粒子状の多孔質構造体と、を混合した混合物を作成後、混合物を分散液中に分散する。
【0047】
(塗布乾燥工程)混合物を分散した分散液を拡散層の第1の面上に塗布後、乾燥する。
【0048】
このような製造方法によれば、触媒13を担持した電気伝導体15と多孔質構造体14とをともに十分に分散させた状態で、メタノール拡散層12の第1の面上に塗布することが可能となる。結果、第1の面上において、部分的に、触媒13、触媒13を担持した電気伝導体15および多孔質構造体14の有効面積が減少するのを効果的に抑制することができる。また、触媒13を担持した電気伝導体15、および、多孔質構造体14を触媒層11の平面方向全体に均一に分散することが可能となる。ここで、分散液は、混合物を十分に分散できるものであれば特段制限されず、例えば、ポリマーを溶液中に分散したものであってもよい。また、分残液を塗布する手段は特段制限されず、例えば、噴霧塗装や、ロールコータ塗装などの手段を利用してもよい。
【0049】
ここで、本実施形態の燃料極10の製造方法は上記した例に限定されない。例えば、メタノール拡散層12の第1の面に多孔質構造体14を付着させた後、その上から、触媒13を担持した電気伝導帯15を付着させる処理を行ってもよい。または、メタノール拡散層12の第1の面に触媒13を担持した電気伝導帯15を付着させた後、その上から、多孔質構造体14を付着させてもよい。この処理は、例えば、メタノール拡散層12の第1の面に触媒13を担持した電気伝導帯15を付着させた後、燃料極10、高分子電解質膜20および空気極30をこの順に積層し、例えば熱圧着する際に、燃料極10と高分子電解質膜20との間に、多孔質構造体14を挟みこむ処理であってもよい。
【0050】
なお、本実施形態の燃料極10を有する燃料電池1の製造方法は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの説明は省略する。
【0051】
ここで、本実施形態の燃料極10を有する燃料電池1は、あらゆる機器の動力源として利用することができる。例えば、自動車車載用電源、携帯電子機器用の電源などとして利用することができる。本実施形態の燃料電池1を動力源して用いた機器によれば、高電流出力状態における急激な電圧降下を抑制することができるので、安定した動作を実現することができる。なお、本実施形態の機器が燃料電池1を動力源として用いる手法および機器の製造方法は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの説明は省略する。
【0052】
以下、本実施形態の詳細を具体的に実施例において示す。なお、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
<実施例1>
(NaAlSi88192・16HOの合成)
まず、不活性雰囲気内で原料のSi、Al、NaOH、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr:東京化成工業株式会社)、水を組成比12:1:40:40:2000で混合・攪拌し調整した溶液をテフロン(登録商標)内筒オートクレーブに移し、180℃設定の恒温機で水熱合成反応することで、NaAlSi88192・16HOを合成した。構造および、組成は、粉末X線回折により確認した。細孔径は概ね5.1Åだった。その後、得られたゼオライトを、遊星ボールミルを用いて100nm以下に粉砕した。
【0054】
(燃料電池の製造)
1.燃料極の製造
まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したものを用意した。
【0055】
次に、上記作製したゼオライトを、51.4wt%白金ルテニウム(9:1)合金担持触媒(触媒担体は、ケッチェンブラック)に対し、10wt%の割合で混合した。次いで、この混合粉末を、ナフィオン溶液(ポリマー分5%wt、シグマアルドリッチ社製)と混合することで、分散溶液を作成した。その後、撥水化処理された拡散層の表面にこの分散溶液を塗布・乾燥することで、燃料極を得た。
【0056】
2.空気極の製造
まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したもの用意した。
【0057】
次に、PtCo(1:1)触媒(触媒担体はケッチェンブラック)をナフィオン溶液(ポリマー分5%wt、シグマアルドリッチ社製)と混合することで、分散溶液を作成した。その後、撥水化処理された拡散層の表面にこの分散溶液を塗布・乾燥することで、空気極を得た。
【0058】
3.接合
その後、燃料極および空気極の触媒層(触媒塗布により形成された層)を内側にし、電解質膜(厚さ約50μmのナフィオン(登録商標)膜、デュポン社製)を間に挟んで熱圧着し、膜電極接合体(MEA)を得た。さらに、MEAをグラファイト板にガス流路を設けた集電体で挟んで、試験電池とした。
【0059】
<比較例1>
実施例1を基本とし、燃料極にゼオライトを有さない点で異なる試験電池を作成した。
【0060】
<実施例1と比較例1の比較>
まず、実施例1および比較例1の試験電池に対して、電流−電圧プロファイル、および限界電流の測定を行った。
【0061】
燃料極には、10%メタノールを燃料として流量5ml/sで供給し、空気極側には、酸素ガスを流量15ml/s、酸素圧1.5atmで供給した。発電試験は、開回路端電圧を測定した後、徐々に電流値を増大させ、最終的に電圧が零になる(限界電流値)まで測定した。その結果を図2に記載した。
【0062】
図2に示すように、電圧が零となる電流値は、実施例1の場合、3.3Aであったのに対し、比較例1の場合、2.4Aであった(矢印B参照)。また、電圧が0.3Vとなる電流値は、実施例1の場合、2.5Aであったのに対し、比較例1の場合、2.1Aであった(矢印A参照)。以上の結果から、実施例1は、比較例1に比べて高電流出力時の電圧降下が抑制されていることがわかる。なお、0.3Vで比較したのは、実際の発電時に良く用いる電圧であるからである。
【0063】
次に、実施例1および比較例1の試験電池に対して、電流ステップ(10mAから100mA)の測定を行い、メタノール不足状態の回復時間の測定を行った。具体的には、10mAの電流値で30分間保持した後、100mAに電流を瞬時に上げた後の時間に対する電圧値のプロファイルを記録してメタノール不足状態の回復時間の測定を行った。その結果を図3に示す。
【0064】
図3に示すように、実施例1の回復時間は約10秒であった。これに対し、比較例1の回復時間は約70秒であった。以上の結果から、実施例1は、比較例1に比べて、急激な電流上昇時の触媒近傍のメタノール欠乏による電圧降下から迅速に回復でき、電力不安定動作の改善やメタノール欠乏から生じる触媒内の電圧不均一分布に起因する触媒劣化の低減による高耐久化に効果を及ぼす。
【0065】
なお、実施例1と同様の手順で、水熱合成により、他のゼオライト(xMO・yAl・zSiO・nHO,M=Li,Na,Mg,K,Ca,Rb,Sr,Cs,Ba)を用いた試験電池を作製し、上記と同じ方法により電池特性を評価した。図4に示すように、いずれの場合も、比較例1に比べて高電流出力時の電圧降下が抑制されていることがわかる。なお、図4中、B点の電流値とは、電圧が零となる電流値のことであり、A点の電流値とは、電圧が0.3Vとなる電流値のことである。当該前提は、以下のすべての実施例において同様である。また、図示しないが、メタノール不足状態の回復時間の測定においても同様に、いずれの場合も、比較例1に比べて早くメタノール不足状態から回復できることを確認した。
【0066】
<実施例2>
(多孔性SiOの作製)
まず、塩化セチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液(シグマアルドリッチ社製)を遠心分離し、固体成分を採取した。次いで、テトラエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)とメチルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)の混合溶液(重量比1:1)に採取した固体を懸濁し、90℃で24時間攪拌した。その後、溶液分を除去し、150℃で約50時間加熱処理後、塩酸エタノール混合溶液中に懸濁し、70℃で24時間攪拌後、遠心分離し、得られた固体を200℃で焼成し多孔性SiOを作製した。SEM等での観察により細孔径は概ね5.1Åであることを確認した。
【0067】
(試験電池の作製)
その後、多孔性SiOを用いて、実施例1と同様の手段により、試験電池を作製した。
【0068】
(評価)
得られた実施例2の試験電池の電池特性を、上記と同じ方法により評価した。結果を、図5および6に示す。
【0069】
図5に示すように、電圧が零となる電流値は、実施例2の場合、3.1Aであったのに対し、比較例1の場合、2.4Aであった(矢印B参照)。また、電圧が0.3Vとなる電流値は、実施例2の場合、2.5Aであったのに対し、比較例1の場合、2.1Aであった(矢印A参照)。以上の結果から、実施例2は、比較例1に比べて高電流出力時の電圧降下が抑制されていることがわかる。
【0070】
また、図6に示すように、実施例2のメタノール不足状態の回復時間は約11秒であった。これに対し、比較例1のメタノール不足状態の回復時間は約70秒であった。以上の結果から、実施例2は、比較例1に比べて、急激な電流上昇時の触媒近傍のメタノール欠乏による電圧降下から迅速に回復でき、電力不安定動作の改善やメタノール欠乏から生じる触媒内の電圧不均一分布に起因する触媒劣化の低減による高耐久化に効果を及ぼす。
【0071】
<実施例3>
(多孔性Si(OH)(シリカゲルの末端(Si=O)をSi(OH)に処理したもの)の作製)
まず、塩化セチルトリメチルアンモニウムクロリド水溶液を遠心分離し、固体成分を採取した。次いで、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランの混合溶液(重量比1:1)に採取した固体を懸濁し、90℃で24時間攪拌した。その後、溶液分を除去し、150℃で約50時間加熱処理後、塩酸エタノール混合溶液中に懸濁し、70℃で24時間攪拌後、遠心分離し、得られた固体を窒素雰囲気、90℃で乾燥することで多孔性Si(OH)を作製した。赤外分光よりSi−OH基が存在することを確認した。また、SEM等での観察により細孔径は概ね5.1Åであることを確認した。
【0072】
次いで、得られた多孔性Si(OH)を150℃で所定時間焼結し、この焼結時間の制御により、Si−OH基の割合を制御することで、Si−OH基の割合の異なる複数種類の多孔性Si(OH)を作製した。なお、赤外分光のSi−OHのピーク強度より、Si−OH基の割合を決定した。
【0073】
(試験電池の作製)
その後、多孔性SiOを用いて、実施例1と同様の手段により、試験電池を作製した。
【0074】
(評価)
得られた実施例3の試験電池の電池特性を、上記と同じ方法により評価した。結果を、図7に示す。なお、図7に示す「Si−OH割合」は、上記150℃での焼結前における状態での赤外分光のSi−OHピーク強度を1として算出した値である。図7に示すように、いずれの場合も、比較例1に比べて高電流出力時の電圧降下が抑制されていることがわかる。また、図示しないが、メタノール不足状態の回復時間の測定においても同様に、いずれの場合も、比較例1に比べて早くメタノール不足状態から回復できることを確認した。
【0075】
上記の結果から明らかなように、本発明によれば、燃料電池の一時的な高出力運転時の不安定動作を改善する機構を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 燃料電池
10 燃料極
11 触媒層
12 メタノール拡散層
13 触媒
14 多孔質構造体
15 電気伝導体
20 高分子電解質膜
30 空気極
31 触媒層
32 ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ多孔質構造体と、を含む触媒層を有する触媒電極。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒電極において、
前記多孔質構造体は、細孔径が5Å以上20Å以下の細孔を有する触媒電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の触媒電極において、
前記多孔質構造体は、ゼオライト(xMO・yAl・zSiO・nHO,M=Li,Na,Mg,K,Ca,Rb,Sr,Cs,Ba)またはシリカゲルである触媒電極。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の触媒電極において、
前記触媒層における前記多孔質構造体の含有量は、20v%以下である触媒電極。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の触媒電極において、
前記多孔質構造体の平均粒径は100nm以下である触媒電極。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の触媒電極において、
前記触媒層に接してメタノール拡散層が設けられている触媒電極。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の触媒電極を燃料極として用いる燃料電池。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池を動力源として用いる機器。
【請求項9】
拡散層を準備する拡散層準備工程と、
メタノール酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高メタノール濃度下でメタノールを吸蔵し、かつ、低メタノール濃度下ではメタノールを放出する性能を持つ多孔質構造体と、を混合した混合物を作成後、前記混合物を分散液中に分散する分散液製造工程と、
前記混合物を分散した前記分散液を前記拡散層の第1の面上に塗布後、乾燥する塗布乾燥工程と、
を有する触媒電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−187201(P2011−187201A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48731(P2010−48731)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】