説明

計算機システム及び同システムに適用される論理ユニット切り替え方法

【課題】ディスクアレイ内のある論理ユニット上のデータへのアクセス性能が劣化した場合に、そのアクセス性能を、複雑な仕組みを用いずに簡単に回復できるようにする。
【解決手段】ストレージ装置10内のディスクアレイ11X,11Yには、それぞれ論理ユニットLU110X,110Yが予め構築されている。ホスト20内のパス2重化機構21は、任意の論理ユニットへの多重化されたアクセスパスをアプリケーションに対して1つに見せるように、当該アクセスパスを管理する。ホスト20内のレプリケーション制御コマンド発行機構22は、特定のレプリケーション制御コマンドをストレージ装置10のコントローラ12に発行することにより、LU110XのコピーをLU110Yに持たせる。パス2重化機構21は、LU110Xの性能が想定よりも低い場合に、LU110XへのアクセスパスからLU110Yへのアクセスパスに切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の論理ユニットが構築される第1のディスクアレイ、及び第2の論理ユニットが構築される第2のディスクアレイを含むストレージ装置と、このストレージ装置を利用するホストとを備えた計算機システムに係り、特に第1の論理ユニットの性能が想定よりも低い場合に第1の論理ユニットに代えて第2の論理ユニットを利用可能とするための、計算機システム及び同システムに適用される論理ユニット切り替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレージ装置の大容量化が著しい。この種のストレージ装置は、複数のディスク(ディスクドライブ)からなるRAID(Redundant Array of Inexpensive DisksまたはRedundant Array of Independent Disks)構成のディスクアレイを備えているのが一般的である。また、このRAID構成のディスクアレイの領域が、複数の論理ユニット(LU)に分割して管理されるストレージ装置も知られている。各論理ユニットは、ストレージ装置を利用するホスト計算機からは、それぞれ1つの論理ボリューム(ディスクボリューム)として認識される。
【0003】
従来のストレージ装置では、RAID(RAID構成のディスクアレイ)は、予め想定されたアクセスパターンに従い、固定された構成として設計されるのが一般的であった。ところが、アクセスパターンの予測は難しく、実際のシステムと比べてどうしても違いが生じてしまう。そのため従来は、システムを実際に運用して、ある論理ユニット上のデータへのアクセス性能が満たされなかった場合には、RAIDの再設計が行われている。ここでは、できるだけ各ディスクへのアクセスが均一化されるように、論理ユニットの割り当てが行われる。しかし、時間の経過と共にアクセスパターンに変動が生じ、一度決めたRAID構成が常に最適であるとは限らない。特に、ストレージ装置全体の容量の増加によって、取り扱わなければならないディスクの数が増えると、性能を考慮したRAID設計は一層難しいものとなる。
【0004】
そこで最近は、ディスクアレイ装置(ストレージ装置)内でアクセスが集中している論理ボリューム(論理ユニット)から、同じディスクアレイ装置内または他のディスクアレイ装置内でアクセスが集中していない論理ボリュームへのデータ移動を行う技術(以下、先行技術と称する)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この先行技術では、各ディスクアレイ装置のディスクアレイ制御装置により、そのディスクアレイ装置内の各論理ボリュームのビジー率が計測される。計測された各論理ボリュームのビジー率は、マネージメントサーバによって収集される。マネージメントサーバは、収集された各論理ボリュームのビジー率に基づき、アクセスが集中している論理ボリュームを移動元論理ボリュームとして選択すると共に、アクセスが集中していない論理ボリュームを移動先論理ボリューム(移動ターゲット)として選択する。そしてマネージメントサーバは、移動元論理ボリュームから、同じディスクアレイ装置内または他のディスクアレイ装置内の移動先論理ボリュームへのデータ移動を制御することで、アクセスが集中しているデータを抱える論理ボリュームのビジー率を抑制する。この論理ボリューム間のデータ移動は、ディスクアレイ装置を利用するホスト(アプリケーションサーバ)からは認識されない。そこでマネージメントサーバは、ホストから認識される論理ボリューム(上位論理ボリューム)と実際の論理ボリュームとの対応付けを行う。この対応付けの情報は、各ホストと各ディスクアレイ装置との接続を切り替えるスイッチ装置に保持される。
【特許文献1】特開2003−296154(段落0028乃至0036、図1及び図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した先行技術においては、ディスクアレイ装置内でアクセスが集中している論理ボリュームから、同じディスクアレイ装置内または他のディスクアレイ装置内でアクセスが集中していない論理ボリュームへのデータ移動を、マネージメントサーバの制御によって、ホスト(アプリケーションサーバ)から独立に行うことで、アクセスが集中しているデータを抱える論理ボリュームのビジー率を抑制している。
【0006】
しかし上記先行技術においては、専用のマネージメントサーバを必要とする。また、上記論理ボリューム間のデータ移動はホストから認識されないため、マネージメントサーバは、ホストからのアクセス要求が正しく処理されるように、ホストから認識される論理ボリューム(上位論理ボリューム)と実際の論理ボリュームとを対応付ける情報を生成して、各ホストと各ディスクアレイ装置との接続を切り替えるスイッチ装置内に保持する必要がある。
【0007】
本発明は上記事情を考慮してなされたものでその目的は、特定のディスクアレイへの負荷の集中によって、当該ディスクアレイ内のある論理ユニット上のデータへのアクセス性能が劣化した場合に、その論理ユニットへのパスを、ホストからストレージ装置へのパスを2重化するパス切り替え機能を利用して、別のディスクアレイ内に確保された論理ユニットへのパスに切り替えることにより、そのデータへのアクセス性能を、複雑な仕組みを用いることなく簡単に回復させることができる計算機システム及び同システムにおける論理ユニット切り替え方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの観点によれば、ストレージ装置と、このストレージ装置を利用するホストとを具備する計算機システムが提供される。上記ストレージ装置は、第1の論理ユニットが構築される第1のディスクアレイと、第2の論理ユニットが構築される第2のディスクアレイと、上記第1及び第2のディスクアレイへのアクセスを制御するコントローラであって、レプリケーション制御コマンドを実行可能なコントローラとを備える。一方、上記ホストは、特定のレプリケーション制御コマンドを上記ストレージ装置のコントローラに発行することにより上記第1の論理ユニットのコピーを上記第2の論理ユニットに持たせるレプリケーション制御コマンド発行手段と、上記ストレージ装置内の任意の論理ユニットへの多重化されたアクセスパスをアプリケーションに対して1つに見せるパス2重化手段であって、上記第1の論理ユニットへのアクセスパスと上記第1の論理ユニットに代えて上記第2の論理ユニットが用いられる際に当該第2の論理ユニットをアクセスするのに必要な当該第2の論理ユニットへのアクセスパスとを共通のアクセスパスとして予め登録し、通常は第1の論理ユニットへのアクセスパスを用い、当該第1の論理ユニットの性能が想定よりも低い場合に当該第1の論理ユニットへのアクセスパスから第2の論理ユニットへのアクセスパスに切り替えるパス2重化手段とを備える。
【0009】
このような構成において、レプリケーション制御コマンド発行手段によってストレージ装置に対して特定のレプリケーション制御コマンドが発行されることにより、第2の論理ユニットは、第1の論理ユニットのコピーを持つ。そこで、第1の論理ユニットの性能が想定よりも低い場合に、パス2重化手段によって当該第1の論理ユニットへのアクセスパスから第2の論理ユニットへのアクセスパスに切り替えることにより、アプリケーションからの上記共通のアクセスパスへのアクセスは、ホストにおいて第1の論理ユニットへのアクセスから第2の論理ユニットへのアクセスに変換され、上記共通のアクセスパスへのアクセス性能を回復させることが可能となる。しかも、アクセス性能の回復は、ホストが一般に有している、当該ホストからディスクアレイ内の論理ユニットへのアクセスパスを2重化する機能と、第2の論理ユニットの内容を第1の論理ユニットに同期化させるためのレプリケーション制御コマンドを発行する機能とを利用することで、特別の仕組みを必要とせずに簡単に実現可能である。
【0010】
ここで、上記第2の論理ユニットを、予め上記第1の論理ユニットと同一容量の論理ユニットとして構築しておくと共に、上記特定のレプリケーション制御コマンドとして、第1の論理ユニットへの書き込みが発生する都度、その書き込みの内容を第2の論理ユニットに反映させることで、当該第2の論理ユニットの内容を常時第1の論理ユニットに同期化させるコマンドを用い、当該特定のレプリケーション制御コマンドが、第1及び第2の論理ユニットの使用が開始される前に発行される構成とすると良い。このようにすると、第1の論理ユニットの性能が想定よりも低いことが判明した場合に、第1の論理ユニットへのアクセスパスから第2の論理ユニットへのアクセスパスに直ちに切り替えることが可能となる。
【0011】
また、上記第2の論理ユニットを、予め最小サイズの容量の論理ユニットとして構築しておき、第1の論理ユニットの性能が想定よりも低いことが判明した場合に、当該第2の論理ユニットを、アクセスパスの切り替えの前に第1の論理ユニットと同一容量に拡張させ、しかる後に上記特定のレプリケーション制御コマンドとして、第2の論理ユニットの内容を第1の論理ユニットに同期化させるコマンドを発行し、第2の論理ユニットの内容が第1の論理ユニットに同期化させられた後に、上記アクセスパスの切り替えが行われる
構成とすることも可能である。このようにすると、第1の論理ユニットの性能が想定よりも低いことが判明した場合、アクセスパスの切り替えの前に、第2の論理ユニットの容量拡張と、その容量拡張後の第2の論理ユニットの内容を第1の論理ユニットに同期化させるためのコピー処理を行う必要があるものの、第2のディスクアレイのディスク容量を柔軟に利用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のディスクアレイ(第1のディスクアレイ)への負荷の集中によって、当該ディスクアレイ内のある論理ユニット(第1の論理ユニット)上のデータへのアクセス性能が劣化した場合に、その論理ユニットへのパスを、ホストからストレージ装置へのパスを2重化するパス切り替え機能を利用して、別のディスクアレイ(第2のディスクアレイ)内に確保された論理ユニット(第2の論理ユニット)にシステム運用中に切り替えることにより、そのデータへのアクセス性能を、複雑な仕組みを用いることなく簡単に回復させることができる。これにより、システム設計も容易に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るストレージ装置を備えた計算機システムの構成を示すブロック図である。この計算機システムは、ストレージ装置10と、当該ストレージ装置10を外部記憶装置として利用するホスト(ホスト計算機)20とから構成される。
【0014】
ストレージ装置10は、複数のディスクアレイ、例えばRAID構成の2つのディスクアレイ11X及び11Yと、コントローラ(アレイコントローラ)12とを備えている。ここで、ディスクアレイ11X及び11YのRAIDレベルは任意である。例えば、ディスクアレイ11XがRAID5レベルを適用し、ディスクアレイ11YがRAID1+0レベルを適用しても良い。ディスクアレイ11X及び11Yは、それぞれ複数のディスクドライブ、例えば複数の磁気ディスクドライブ(以下、HDDと称する)から構成される。ディスクアレイ11Xの記憶領域には、ホスト20から認識可能な、少なくとも1つの論理ユニット、例えば1つの論理ユニット(以下、LUと称する)110Xが構築されている。同様に、ディスクアレイ11Yの記憶領域には、ホスト20から認識可能な、少なくとも1つのLU、例えば1つのLU110Yが構築されている。
【0015】
コントローラ12は、ディスクアレイ11X及び11Y(を構成する複数のHDD)と接続されている。コントローラ12は、ホスト20からレプリケーション制御コマンドが与えられた場合に、当該コマンドに従うレプリケーション制御を行う機能を有する。レプリケーション制御コマンドは複数種類用意されており、その代表は論理ユニット間のデータコピーを指示するレプリケーション制御コマンドである。
【0016】
ホスト20は、ストレージ装置10内のコントローラ12と、少なくとも1本のパス(物理パス)、例えば2本のパス30-0及び30-1を介して接続されている。これにより、パス30-0及び30-1のいずれか一方に障害が発生しても、ホスト20はストレージ装置10にアクセスできる。なお、コントローラ12が2重化された構成とすることも可能である。
【0017】
ホスト20は、パス2重化機構21と、レプリケーション制御コマンド発行機構22とを備えている。パス2重化機構21は、ストレージ装置10内の任意のLUへの多重化されたアクセスパスを、ホスト20上で動作するアプリケーション(アプリケーションソフトウェア)に対して1つに見せる周知の機能を有するドライバである。このパス2重化機構21は、ホスト20がパス2重化ソフトウェアを実行することにより実現される。このパス2重化機構21により、ホスト20上で動作するアプリケーションは、多重化されたアクセスパスを意識する必要がない。レプリケーション制御コマンド発行機構22は、ストレージ装置10に対してレプリケーション制御コマンドを発行する機能を有する。
【0018】
次に、図1の計算機システムにおける動作の概要について、LU110XからLU110Yへの切り替えを例に説明する。
【0019】
今、ディスクアレイ11Xへのアクセスが想定よりも多く、当該ディスクアレイ11X内のLU110Xの性能が十分に確保できないものとする。一方、ディスクアレイ11Yには、LU110Xと同一容量のLU110Yが、当該ディスクアレイ11Xのデータの移動先の候補として予め確保されているものとする。
【0020】
ホスト20は、上述のようにディスクアレイ11X内のLU110Xの性能が十分に確保できない場合、アクセス性能が劣化したディスクアレイ11X内のLU110Xのデータを、ディスクアレイ11Y内のLU110Yにコピー(移動)させる。このデータ移動の後、ホスト20は、当該ホスト20内のパス2重化機構21により、アクセスパスをデータ移動先となったLU110Yに切り替えるためのパス切り替えを行う。以後、アプリケーションからパス(仮想パス)VのLU(仮想LU)100(図2参照)へのアクセス要求が出された場合、アクティブパス0−Y(アクティブパス0−Yの障害時には待機パス1−Y)を介してLU110Yがアクセスされ、アクセス性能の回復が図られる。
【0021】
ところで、LU110Xの容量によっては、このデータ移動には長時間を要する。そこで本実施形態では、ホスト20のレプリケーション制御コマンド発行機構22が持つレプリケーション制御コマンドを発行する機能と、ストレージ装置10(内のコントローラ12)が持つレプリケーション制御コマンドを実行する機能とを利用して、即ち図1の計算機システムにおけるつまりレプリケーション機能を利用して、LU110Yの内容をLU110Xに常時同期させ、LU110Xの複製がLU110Yに格納されるようにしている。具体的には、レプリケーション元としてLU110Xが、レプリケーション先としてLU110Yが指定されたレプリケーション制御コマンド、つまり同期(sync)コマンドを、レプリケーション制御コマンド発行機構22からストレージ装置10のコントローラ12に発行する。これによりコントローラ12は、LU110Xへのデータ書き込みが発生した場合に、その書き込みをLU110Yにも行わせる(反映させる)。
【0022】
このように、LU110Yの内容をLU110Xに常時同期させている場合には、LU110Xの性能が十分に確保できないことが判定された段階でのデータ移動処理は必要なく、アクセスパスの切り替えを行うだけで良い。
【0023】
アクセスパスの切り替えには、ホスト20のパス2重化機構21が持つアクセスパスを切り替える機能が、次のように利用される。パス2重化機構21は一般に、多重化されたアクセスパスを、通常アクセスに用いるアクティブパス(A)と、アクティブパスが故障した際にアクセスを切り替えるための待機(スタンバイ)パス(S)とに分類して、当該パス2重化機構21内に登録する機能を有する。そこで本実施形態では、パス2重化機構21によるアクセスパス(つまりアクティブパスと待機パス)の登録時に、データ移動先のアクセスパス(つまりアクティブパスに対応するデータ移動後パスと待機パスに対応するデータ移動後パス)もデータ移動元のアクセスパスと共通のアクセスパスとして登録させることによって、データ移動後のパス切り替えを可能にする。
【0024】
即ち、パス2重化機構21による通常のアクセスパス登録は、
(アクティブパス,待機パス)
の組み合わせで行われる。これに対して本実施形態でのアクセスパスの登録は、
(アクティブパス,アクティブパスに対応するデータ移動後パス,
待機パス,待機パスに対応するデータ移動後パス)
の組み合わせで行われる。
【0025】
図1の例であれば、LU110Xに対する通常のアクセスパス登録の組み合わせは、
(パス0−X,パス1−X)
となる。これに対して本実施形態でのアクセスパス登録の組み合わせは、
(パス0−X,パス1−X,パス0−Y,パス1−Y)
となる。この場合、データ移行後は、アクセスパスは(パス0−X,パス1−X)から(パス0−Y,パス1−Y)に切り替えられる。
【0026】
なお、アクセスパスの表記法は、ホスト20で適用されるOS毎に異なる。例えばLinuxでは個々のアクセスパスに/dev/sdX(Xはアルファベット)という名称がつけられる。AIX(登録商標)ではhdiskXX(Xは数字)である。
【0027】
次に、LU110XからLU110Yへの切り替えの詳細について、図2及び図3を参照して説明する。なお、図2は図1の計算機システムにおけるLU110XからLU110Yへの切り替え前の状態と切り替え後の状態とを対比して示す図、図3は論理ユニット切り替え手順を示すフローチャートである。
【0028】
まず、ホスト20内のパス2重化機構21によってアクセスパスの組み合わせ(パス0−X,パス1−X,パス0−Y,パス1−Y)が登録され、且つLU110Xに対するアクティブパス0−X及び待機パス1−Xが、パス2重化機構21によって仮想的に1つのLU(仮想LU)110への仮想パスVに関連付けされているものとする。図2(a)は、このときの図1の計算機システムの状態を示す。なお、図中のAは対応するパスがアクティブパスであり、Sは対応するパスが待機パスであることを示す。
【0029】
ここで、ディスクアレイ11X内のLU110Xのアクセス性能が想定よりも低いために、当該LU110Xのデータをディスクアレイ11Y内のLU110Yに移動して、アクセスパスを切り替えたいものとする。このとき、LU110Yの内容はLU110Xに同期している。したがって、ホスト20は、LU110XからLU110Yへのデータ移動のための処理を行うことなく、LU110XからLU110Yへのアクセスパスの切り替えを次のように行う。
【0030】
まずホスト20は、現在実行中のアプリケーションを一旦停止する(ステップS1)。これは、データバックアップ作業時にデータ整合性保証のためにアプリケーションを停止するのと同様である。つまりステップS1は、アクセスパスの切り替えが行われている間のアプリケーションの実行により、LU110XとLU110Yの内容に一貫性がなくなるのを防止するために行われる。
【0031】
次に、ホスト20のレプリケーション制御コマンド発行機構22からストレージ装置10のコントローラ12に対し、LU110Yを、LU110Xに同期させている状態から切り離すためのレプリケーション制御コマンド、つまりスプリット(split)コマンドを発行する(ステップS2)。これによりコントローラ12は、LU110YをLU110X(との同期状態)から切り離す。
【0032】
ホスト20(上で動作するOS)は、アクセスパスの切り替えを指示するコマンドをパス2重化機構21に対して発行することで、当該パス2重化機構21によりアクセスパスをLU110XからLU110Yに切り替えさせる(ステップS3)。これにより、アクティブパス(A)がパス0−Xからパス0−Yに、待機パス(S)がパス1−Xからパス1−Yに切り替えられる。つまり、LU110XへのアクセスパスがLU110Yへのアクセスパスに切り替えられる。このとき、パスVに関連付けられるアクセスパスが、LU110Xに対するアクティブパス0−X及び待機パス1−XからLU110Yに対するアクティブパス0−Y及び待機パス1−Yに切り替えられる。図2(b)は、このときの図1の計算機システムの状態を示す。
【0033】
ホスト20は、LU110Xへのアクティブパス0−X(つまり旧アクティブパス)を、パス2重化機構21によって使用不可の状態に設定させる(ステップS4)。そしてホスト20は、一旦停止していたアプリケーションを再開する(ステップS5)。
【0034】
[変形例]
上記実施形態では、ディスクアレイ11X内のLU110Xのアクセス性能が想定よりも低いことが判明した段階で、LU110XへのアクセスパスをLU110Yへのアクセスパスに直ちに切り替えることができる。しかし上記実施形態では、ディスクアレイ11Y内にLU110Xと同一容量のLU110Yを予め確保しておく必要がある。このため、LU110Xのアクセス性能が想定通りの場合には、LU110Yが無駄となる。特に、ディスクアレイ11Xの領域にn個(nは2以上の整数)のLU#X1〜#Xnが構築され、これに伴って、ディスクアレイ11Yの領域にも、LU#X1〜#Xnとそれぞれ同一容量のn個のLU#Y1〜#Ynが構築されるシステムでは、上述の無駄が生じやすい。そこで、このような無駄を防止するために、LU110Y(LU#Yi)をLUの最小サイズに設定し、必要に応じて当該LU110Y(LU#Yi)の容量をLU110X(LU#Xi)の容量まで拡張するようにした、上記実施形態の変形例について、図4のフローチャートを参照して説明する。なお、上記実施形態では、LU110Y(LU#Yi)をLU110X(LU#Xi)のバックアップLUとして用いることができる。このため、もともとバックアップが必要なシステムであれば、LU110Yが必ずしも無駄となることはない。
【0035】
今、ディスクアレイ11X内のLU110Xのアクセス性能が想定よりも低いために、当該LU110Xのデータをディスクアレイ11Y内のLU110Yに移動して、アクセスパスを切り替えたいものとする。このときLU110Yの容量はLUの最小サイズとなっている。
【0036】
そこでホスト20は、ディスクの拡張コマンドを利用して、ディスクアレイ11Y内のLU110Yの容量をLU110Xと同一容量まで拡張させる(ステップS11)。次にホスト20は、当該ホスト20内のレプリケーション制御コマンド発行機構22からストレージ装置10に対して、LU110XのデータをLU110Yにコピー(移動)させるためのレプリケーション制御コマンド、即ちLU110Xの内容の複製をLU110Yに生成するためのレプリケーション制御コマンドを発行させる(ステップS12)。これにより、ストレージ装置10内のコントローラ12は、LU110XのデータをLU110Yにコピー(移動)して、当該LU110Yの内容をLU110Xに同期させるための制御を行う。LU110Yの内容をLU110Xに同期させることが完了した後、即ちLU110XからLU110Yへのデータコピー(移動)が完了した後の動作は、上記実施形態のステップS1以降の動作と同様である。
【0037】
まずホスト20は、上記実施形態のステップS1と同様に、現在実行中のアプリケーションを一旦停止する(ステップS13)。次にホスト20は、上記ステップS2と同様に、LU110Yを、LU110Xに同期させている状態から切り離すためのレプリケーション制御コマンド(スプリットコマンド)を発行する(ステップS14)。ホスト20は、LU110YをLU110Xから切り離すと、上記ステップS3と同様に、パス2重化機構21によりアクセスパスをLU110XからLU110Yに切り替えさせる(ステップS15)。次にホスト20は、LU110Xへのアクティブパス0−X(つまり旧アクティブパス)を、パス2重化機構21によって使用不可の状態に設定させる(ステップS16)。そしてホスト20は、一旦停止していたアプリケーションを再開する(ステップS17)。
【0038】
このように、上記実施形態の変形例では、LU110Xのアクセス性能が想定よりも低いことが判明した時点から、LU110XへのアクセスパスをLU110Yへのアクセスパスに切り替えるまでに長時間を要するものの、実際にLU110XからLU110Yにデータをコピー(移動)する際に当該LU110Yの容量を拡張することによって、ディスクアレイ11Yのディスク容量をより柔軟に利用できる。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るストレージ装置を備えた計算機システムの構成を示すブロック図。
【図2】図1の計算機システムの論理ユニット切り替え前の状態と切り替え後の状態とを対比して示す図。
【図3】同実施形態における論理ユニット切り替え手順を示すフローチャート。
【図4】同意実施形態の変形例におけるデータ移動を伴う論理ユニット切り替え手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0041】
10…ストレージ装置、11X,11Y…ディスクアレイ、12…コントローラ、20…ホスト、21…パス2重化機構、22…レプリケーション制御コマンド発行機構、110…仮想LU(仮想論理ユニット)、110X,110Y…LU(論理ユニット)、0−X,0−Y…アクティブパス(アクセスパス)、1−X,1−Y…待機パス(アクセスパス)、V…仮想パス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の論理ユニットが構築される第1のディスクアレイと、第2の論理ユニットが構築される第2のディスクアレイと、前記第1及び第2のディスクアレイへのアクセスを制御するコントローラであって、レプリケーション制御コマンドを実行可能なコントローラとを備えたストレージ装置と、
特定のレプリケーション制御コマンドを前記ストレージ装置の前記コントローラに発行することにより前記第1の論理ユニットのコピーを前記第2の論理ユニットに持たせるレプリケーション制御コマンド発行手段と、前記ストレージ装置内の任意の論理ユニットへの多重化されたアクセスパスをアプリケーションに対して1つに見せるパス2重化手段であって、前記第1の論理ユニットへのアクセスパスと前記第1の論理ユニットに代えて前記第2の論理ユニットが用いられる際に当該第2の論理ユニットをアクセスするのに必要な当該第2の論理ユニットへのアクセスパスとを共通のアクセスパスとして予め登録し、通常は前記第1の論理ユニットへのアクセスパスを用い、前記第1の論理ユニットの性能が想定よりも低い場合に前記第1の論理ユニットへのアクセスパスから前記第2の論理ユニットへのアクセスパスに切り替えるパス2重化手段とを備え、前記ストレージ装置を利用するホストと
を具備することを特徴とする計算機システム。
【請求項2】
前記第2の論理ユニットは予め前記第1の論理ユニットと同一容量の論理ユニットとして構築されており、
前記特定のレプリケーション制御コマンドは、前記第1の論理ユニットへの書き込みが発生する都度、その書き込みの内容を前記第2の論理ユニットに反映させることで、前記第2の論理ユニットの内容を常時前記第1の論理ユニットに同期化させるコマンドであって、前記第1及び第2の論理ユニットの使用が開始される前に発行される
ことを特徴とする請求項1記載の計算機システム。
【請求項3】
前記第2の論理ユニットは予め最小サイズの容量の論理ユニットとして構築され、前記パス2重化手段によるアクセスパスの切り替えの前に前記第1の論理ユニットと同一容量に拡張され、
前記特定のレプリケーション制御コマンドは、前記第2の論理ユニットの内容を前記第1の論理ユニットに同期化させるコマンドであって、前記第2の論理ユニットが前記第1の論理ユニットと同一容量に拡張された後、前記パス2重化手段によるアクセスパスの切り替えの前に発行される
ことを特徴とする請求項1記載の計算機システム。
【請求項4】
第1の論理ユニットが構築される第1のディスクアレイ、及び第2の論理ユニットが構築される第2のディスクアレイを含むストレージ装置と、前記ストレージ装置を利用するホストとを備えた計算機システムに適用され、前記第1の論理ユニットの性能が想定よりも低い場合に前記第1の論理ユニットに代えて前記第2の論理ユニットを利用可能とするための論理ユニット切り替え方法であって、
前記第2の論理ユニットの内容を前記第1の論理ユニットの内容に同期化させるための特定のレプリケーション制御コマンドを前記ホストから前記ストレージ装置に発行するステップと、
前記第1の論理ユニットへのアクセスパスと前記第1の論理ユニットに代えて前記第2の論理ユニットが用いられる際に当該第2の論理ユニットをアクセスするのに必要な当該第2の論理ユニットへのアクセスパスとをアプリケーションから1つに見える共通のアクセスパスとして予め登録するステップと、
前記第1の論理ユニットの性能が想定よりも低い場合に、前記第2の論理ユニットの内容が前記第1の論理ユニットの内容に同期化されている状態で、前記第1の論理ユニットへのアクセスパスから前記第2の論理ユニットへのアクセスパスに切り替えるステップと
を具備することを特徴とする論理ユニット切り替え方法。
【請求項5】
前記第2の論理ユニットは予め前記第1の論理ユニットと同一容量の論理ユニットとして構築されており、
前記特定のレプリケーション制御コマンドは、前記第1の論理ユニットへの書き込みが発生する都度、その書き込みの内容を前記第2の論理ユニットに反映させることで、前記第2の論理ユニットの内容を常時前記第1の論理ユニットに同期化させるコマンドであって、前記第1及び第2の論理ユニットの使用が開始される前に発行される
ことを特徴とする請求項4記載の論理ユニット切り替え方法。
【請求項6】
前記第2の論理ユニットは予め最小サイズの容量の論理ユニットとして構築されており、
前記論理ユニット切り替え方法は、前記アクセスパスの切り替えの前に前記第2の論理ユニットを前記第1の論理ユニットと同一容量に拡張するステップを更に具備しており、
前記特定のレプリケーション制御コマンドは、前記第2の論理ユニットの内容を前記第1の論理ユニットに同期化させるコマンドであって、前記第2の論理ユニットが前記第1の論理ユニットと同一容量に拡張された後、前記アクセスパスの切り替えの前に発行される
ことを特徴とする請求項4記載の論理ユニット切り替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−65773(P2006−65773A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250501(P2004−250501)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301063496)東芝ソリューション株式会社 (1,478)
【Fターム(参考)】