説明

記録方法及び光ディスク装置

【課題】16倍速DVD-RAMの実用化を実現するため、CAV対応記録方法とS/N比の改善方法を提供し、これらを用いた光ディスク装置をすること。
【解決手段】レーザ駆動回路でパルスのカット・オフ現象が発生しないように、最短パルス幅を1Tw以上にし、4Tマークをモノ・パルスで記録する記録パルスとそのパラメータ設定範囲を規定する。同時に、6倍速以上において再生パワーを1.5〜2.0mWと従来と異なる値に設定し、再生中のデータの劣化が発生しないようなセット・アップ・シーケンスを提供すること。
【効果】本発明によって、16倍速DVD-RAMの実用化が可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,記録媒体上に物理的性質が他の部分とは異なる記録マークを形成し,情報を記録する記録方法及び光ディスク装置に係り、特に相変化光記録材料を用いたDVD-RAM媒体の記録方法及びそれを用いた光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
書き換え型の相変化光記録材料を用いたDVD-RAMは、2倍速、3倍速、及び5倍速が規格化されており、これに対応したスーパー・マルチ・ドライブも既に製品化されている。記録型DVDドライブの普及が進んだ現在においては,記録/再生速度の高速化が最重要技術開発課題である。筆者らは世界で初めてDVD-RAMを用いて、16倍速記録を実現し、技術の概要をニュース・リリースとして発表した(ドライブ技術の概要: http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2004/04/0422a.html, 媒体技術の概要:http://www.maxell.co.jp/company/news/2004/040422.html)。
【0003】
また、DVD-RAM媒体に記録可能な光ディスク装置では、記録データの信頼性を保証するために、記録パワーとパルスの条件を試し書きによって校正している。従来の試し書き技術の例として,特開平10−320777公報ではジッター値を直接測定するのではなく,データエッジとクロックエッジの位相差が所定の値以上になった場合にエラーパルスと呼ばれる論理パルスを発生し,エラーパルスの数をカウントすることで,等価的にジッター値を評価し,これを用いて,記録パワーの適正化をする技術が開示されている。
【0004】
また,国際公開番号WO01/011614公報では,前後のスペース長とマーク長に応じたテーブル参照型の適応的な記録ストラテジを用いた4.7GB DVD-RAM用の試し書き技術が開示されている。この中で,エラーパルスを記録ストラテジのテーブルに対応させて仕分け処理を施し,テーブル各項のエラーパルス値が最小になるように,記録レーザ光のパルス条件を適正化している。実際の仕分け処理は4x4のテーブルが2つ必要であるが,信号評価にエラーパルスという論理パルスを用いているので,論理LSIによって,簡便に仕分け処理が実現できることが特長である。
【0005】
【特許文献1】特開平10−320777
【0006】
【特許文献2】WO01/011614
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の技術を用いて、ドライブ装置及び媒体を実用化するためには、以下の2つの課題がある。
(課題1)記録パラメータの互換性の確保とCAV(Constant Angular Velocity)記録の実現。
(課題2)高速再生時のS/N比の改善とデータの保存寿命の確保。
【0008】
最初に課題1に関して説明する。DVD-RAMに16倍速記録を行うには、線速度が約66m/sに達するため、最外周ゾーンにおいても媒体の回転速度が約11,000rpmになる。一般に、プラスチック基板を用いたDVDディスクの場合、回転速度が速くなると媒体の固有振動が大きくなり、騒音が大きくなるばかりでなく、最悪の場合には媒体が破壊してしまう。このため、媒体の回転速度は、最大でも15,000rpm程度が上限である。最内周で16倍速の線速度を得るためには、媒体の回転速度が25,000rpmを超えてしまうので、現時点では実現不可能である。従って、DVD-RAMで高速記録を実現するには、媒体の回転速度を略一定とするCAV方式で記録をすることが必要である。このとき半径位置に比例して線速度が変わり、最内周で約6倍速、最外周で約16倍速となる。DVD-RAMのフォーマットでは、記録パワーやパルスの条件を学習するために試し書き領域は媒体の最内周ゾーンと最外周ゾーンにある。従って、その他のゾーンに対する記録条件を最内周ゾーンと最外周ゾーンの記録条件から設定する必要がある。
【0009】
次に課題2に関して説明する。DVD-RAMに限らず高速で記録を実現するには、記録に必要なパワーが大きくなるため、より高パワーの半導体レーザをドライブ装置に搭載する必要がある。一般に、高パワーの半導体レーザになるほどレーザ・ノイズが大きくなる。また、再生速度を高めると、帯域が広がる分だけ再生信号に含まれるアンプ・ノイズとレーザ・ノイズの影響が大きくなる。従って、高い信頼性で記録情報を高速に再生するためには、何らかのS/N比向上手段が必要である。
本発明の目的は,DVD―RAM16倍速技術の実用化に際して、上記2つの課題を解決し、CAV記録に適した記録方法及びそれを用いた光ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
初めに(課題1)を解決する手段について説明する。
図2は5倍速DVD-RAMで採用されているノン・マルチパルス型の記録パルスを示している。図2は、図2(a)は記録パルスの形状を示す。記録パルスは、Peak Power、Bias Power 1、Bias Power 2、Bias Power 3の4つのパワー・レベルをもつパルス列で、3Tマークの形成パルスのみがモノ・パルスであり、それ以外はファースト・パルス、ラスト・パルス、及びそれらの間にBias Power 3のレベルで接続したもの(以下ミドル・パルスと呼ぶ)である。マークの形状を良好に制御するために、一般的なケースであるケース1においてはファースト・パルスの開始エッジ位置TSFPとラスト・パルスの終了エッジ位置TELPをマーク長と前後のスペース長に応じて適応的に設定している。図中の記録パルスのうちで、最も幅が狭い箇所は、4Tマークのミドル・パルスであり、その幅は約0.5Tである。
【0011】
図2(b)は各パラメータの設定可能範囲をまとめたものである。
ここで、高速CAV記録を実現する場合の課題について、より具体的に説明しよう。図3は、一般的なDVD-RAM評価システムにおけるレーザ駆動回路を摸式的に示したものである。概略構成はパルス・ジェネレータより出力される2つのスイッチ指令(デジタル信号)が,それぞれに対応したパワー電流源のスイッチをオン−オフさせる構成となっている。ここでは、簡単のために記録パワー・レベルが2つの場合を示したが、スイッチ指令と対応する電流源を増やすことによって、パワー・レベルを増やすことができる。このタイプのレーザ駆動回路を電流スイッチ型と呼ぶことにする。さて、こうした構成において、電流源のON/OFF制御をするスイッチ部にはトランジスタ回路を使うが、高速記録を実現するためには、大電流容量でかつ高速という相反する性能を両立する必要がある。
【0012】
図4は実験に使用したシバソク製DVD-RAM評価装置(LM330A)のレーザ駆動回路の特性を示し、記録パルスの幅とピーク・パワーの関係を計測した結果である。図に見られるように、スイッチ指令パルスの幅が約1.7ns以下になると、スイッチ回路が応答しなくなり、光パルスが発光しなくなる(以下カット・オフ現象と呼ぶ)。DVD-RAM16倍速の場合には、検出窓幅(=1T)が約2.1nsである。上に述べた従来のノン・マルチパルス型の記録パルスでは、4Tマークのミドル・パルス幅が約1ns(約0.5T)であるため、光パルスが正常に発光しない。この場合、約10倍速まではカット・オフ現象が発生しないが、約10倍速を超えると4Tマークのミドル・パルスにカット・オフ現象が現れる。LM330A評価装置では16倍速条件で4Tマークのミドル・パルス部のパワー・レベルはPeak Power のレベルになった。搭載されるレーザ駆動回路の構成によってどのパワー・レベルが発光するかが決まり、必ずしもPeak Powerのレベルになるものばかりではない。一方、ドライブ装置に搭載されるレーザ駆動ICとしては、電流スイッチ型の他にD/A変換器を用いてパワー・レベルを直接制御するDAC型のレーザ駆動ICがあり、さらに短いパルス幅までカット・オフ現象が発生しないものがある。こうしたタイプのレーザ駆動ICはヘッド上に搭載されるが、記録パルス生成論理回路を内蔵するため消費電力と発熱が大きく、コストも高い。消費電力に厳しいノート・パソコン用のスリム・ドライブ装置や、低価格を狙ったドライブ装置では、将来的に電流スイッチ型のレーザ駆動ICが採用される可能性がある。
【0013】
DVD-RAM媒体には、内周のエンボス・データ・領域(コントロール・データ)に媒体メーカーが推奨する記録パルスの条件が記録される。ドライブ装置はこの情報を再生して、記録パワー及びパルスの条件を試し書きによって校正する。従来、5倍速までの条件では、媒体メーカーが用いる評価装置でも、市販のドライブ装置でも、カット・オフ現象が発生することがなかったので、記録パラメータの互換性が保証されていた。しかしながら、16倍速記録を実用化するためには、評価装置もしくは市販ドライブ装置のいずれかでカット・オフ現象が発生すれば、コントロール・データに記載された記録パラメータの互換性が成立しなくなってしまう。
【0014】
先に述べたように、DVD-RAMの16倍速記録はCAV記録で実現する必要がある。これを実現するには、最内周(ゾーン0、約6倍速)と最外周(ゾーン34、約16倍速)で試し書きを行い、ゾーン1からゾーン33の記録パラメータは、ゾーン0とゾーン34で校正したパラメータからゾーン番号に対して内挿したものを用いればよい。このとき、ゾーン番号nにおけるパワーもしくはパルスのパラメータを一般にP[n]として、次式を用いてパラメータを決定すればよい。
【0015】
【数1】

【0016】
(式1)はCAV記録をする場合の、ゾーンごとの記録パラメータの決定方法であるが、ドライブ装置によっては、内周を6倍速で、ゾーン10までCAVモードで記録し、ゾーン10以降はZCLV(Zoned Constant Linear Velocity)モードで記録する場合もある。この場合には次式のように、パラメータをゾーンごとの線速度v[n]の関数として与え、線速度に対して内挿を行えばよい。
【0017】
【数2】

【0018】
こうした記録パラメータの内挿による記録動作を実施する場合、最内周(約6倍速)と最外周(約16倍速)の間の速度にカット・オフ現象が発生すると、その前後で発光波形が大きく変化するため、正常な記録動作が実現できなくなる。同じレーザ駆動ICでも、製造バラツキ、電源電圧及び環境温度などの動作環境、及び負荷となる半導体レーザ・チップの電気容量や動作電圧等の種々の要因によって、カット・オフ現象が発生するパルス幅が変動してしまう。また、丁度カット・オフ現象が発生する記録速度においては、カット・オフ現象が確率的に発生し、場所によって発生したり、しなかったりする場合には、例え外周部で速度を変えて試し書きを複数回実施してカット・オフ現象が発生する条件で記録条件の校正を実施するような工夫をしたとしても、正常なデータの記録ができない。
【0019】
こうした問題を解決するためには、ドライブ装置及び評価装置においてカット・オフ現象が発生しないように、全てのパルス幅を1T以上に制限した記録パルスを用いればよい。上に述べたように、カット・オフ現象は4Tマークのミドル・パルスから発生する。したがって、4Tマークを記録する場合に従来のようにファースト・パルス、ミドル・パルス、ラスト・パルスからなる記録パルスを用いるのではなく、3Tマークを記録するのと同様にモノ・パルス(1つのパルス)で記録すればよい。
【0020】
図1は本発明の記録方法を示す図である。ここでは、4Tマークのミドル・パルスのパワー・レベルをBias Power 3(4T)と定義し、これがPeak Powerに等しくなるように強制する。図1のパルス波形は、(1)3Tマークを、Bias power1(消去レベル)である第1のパワーレベルからPeak level(記録レベル)である第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスで記録し、(2)4Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下(冷却パルス、図1ではBias power2まで立ち下げているが、Bias Power1までの立ち下げでも可)に立ち下げるモノ・パルスで記録し、(3)5T以上の長さのマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後前記第1と前記第2のパワーレベルの間の第3のパワーレベルに立ち下げて保持し、その後前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後第1のパワーレベル以下に立ち下げるパルスで記録し、前記第3のパワーレベルの期間を1T以上で記録する。また、設定パラメータの可変範囲を考慮すると、図2(b)の定義では、ラスト・パルス幅及び5Tマークのミドル・パルスの幅も1T未満になるので、図1(b)の定義では、ラスト・パルス幅の設定範囲を0.5T長くして1.0-2.0Tとし、新たにミドル・パルスの幅をTFLと定義し、これが1T以上になるような制限を加えている。
【0021】
次に(課題2)を解決する手段について説明する。前述のように、高速記録を実現ために、高パワーの半導体レーザを使用し、高速再生を実現するために、広い帯域で信号を読み取るとアンプ・ノイズとレーザ・ノイズの影響が大きくなって、再生信号のS/N比が低下する。ここで、再生パワーを大きくすることを考える。この場合再生信号の振幅がアンプ・ノイズに比較して相対的に大きくなるため、アンプ・ノイズの影響が小さくなって、S/N比が改善する。また、半導体レーザから発生するノイズには、レーザ・キャビティ内でレーザ発振していない光量成分である自然放出光が影響しているので、再生パワーを大きくすると、この影響が小さくなるためレーザ・ノイズが低減し再生信号のS/N比が向上する。一方、再生パワーを大きくし過ぎると、再生中に記録膜の温度が上昇し過ぎて、アモルファス・マークが結晶化してデータ品質が低下してしまう。従来、DVD-RAM2倍速、3倍速、5倍速の規格では、再生パワーPrは1mWに固定されていた。6倍速から16倍速の範囲で記録/再生する場合にデータ品質を劣化させない範囲で再生信号のS/N比を向上する再生パワーのPr2の値は、媒体メーカーによって定められる。Pr2値をコントロール・データに記録しておけば、ドライブ装置がこの値を読み取って、6倍速以上で再生するときに用いれば、データ品質の劣化を生じさせずに、再生信号のS/N比を向上することができる。
【0022】
以上により、DVD―RAM16倍速技術の実用化に対する(課題1)と(課題2)を解決し、CAV記録に適した記録方法及びそれを用いた光ディスク装置を提供することができる。
具体的に、先ず、(課題1)に対する解決手段の実験結果について述べる。LM330A評価装置とビスマス系相変化型記録膜(既出http://www.maxell.co.jp/company/news/2004/040422.html参照)を用いたDVD-RAMディスクを用いて、カット・オフ現象の改善効果を検証した。
【0023】
図5は6倍速から16倍速までの初回記録データのジッターを示す実験結果である。記録条件の調整は6倍速と16倍速で行い、その間の速度の記録条件は(式2)により内挿したものを用いた。ジッター値の測定は6倍速にて実施した。従来のノン・マルチパルスを使った場合には、10倍速付近でカット・オフ現象が発生してジッター値が上昇する。一方、4Tマークの記録にモノ・パルスを用いた場合には、速度に依存せずにジッター値が約5%で一定となり、良好な記録性能が得られた。
【0024】
図6は6倍速、10倍速、16倍速で記録した信号の再生波形をまとめたものである。先に述べたように、使用した評価装置では、カット・オフ現象が発生すると4Tマークのミドル・パルスのレベルがPeak Powerになり、エネルギーが過剰に照射される。図に見られるように、従来のノン・マルチパルスを使った場合には、10倍速で記録した信号は4Tマークが長く、かつ揺らぎも大きくなっていることが判る。一方、4Tマークの記録にモノ・パルスを用いた場合には、10倍速でも良好なアイ・パターンが得られている。蛇足になるが、従来のノン・マルチパルスを使った場合でも、6倍速と16倍速の記録が良好に実施できる理由を説明しておく。6倍速の場合にはカット・オフ現象は発生していないので、正常に試し書きが機能して記録条件が最適化される。16倍速の場合には、カット・オフ現象によって、4Tマークのミドル・パルスのレベルがPeak Powerになって発光波形がモノ・パルスになってしまうが、カット・オフ条件から離れているため、光パルス自体は安定しているので、試し書きによって、条件が最適化されて良好なジッター値が得られる。ところが、(式2)による記録条件の内挿は、指令値に対して実施するので、16倍速で指令値と光パルスが一致していない影響のため、6倍速と16倍速以外では、ジッター値が悪化する。さらに、10倍速ではカット・オフ現象が発生するしきい値条件に相当するため、光パルス自体が不安定で、さらにジッター値が悪化する。
【0025】
図7から図9は、それぞれ6倍速、10倍速、16倍速における記録条件をまとめたものであり、4Tマークの記録にモノ・パルスを用いた場合のパラメータを示している。パワー値に関しては、16倍速でPeak Powerが19.5mWで記録できる。例えば、DVD-R媒体に16倍速記録する場合に50mW程度のパワーが必要なことを考えれば、著しく記録感度が高いことがわかる。ここで、パルス・パラメータの値は検出窓幅をTwとしてTw/16単位で示している。これは、MUX型パルス発生器(既出 http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2004/04/0422a.html参照)を用いたことによる。
【0026】
図10から図12は、それぞれ6倍速、10倍速、16倍速における記録条件をまとめたものであり、従来のノン・マルチパルスを用いた場合のパラメータを示している。これらのパラメータの決定に際しては、比較のしやすさから、4Tマークの記録にモノ・パルスのパラメータに対して、4Tマークのパルス条件のみを調整し、その他のパワーとパルス・パラメータは同じものを使った。
【0027】
次に、(課題2)に対する解決手段の結果について述べる。
図13は、6倍速と16倍速において再生パワーとジッターの関係を測定した実験結果である。図に見られるように、再生パワーを従来の標準値である1mWから大きくすることによって、ジッター値が改善する。16倍速いおいて、再生パワーが1mWの場合に比較して、ジッター値を0.5%以上改善するには、再生パワーが1.5mW以上必要なことが判る。一方、データ品質の劣化に関しては、6倍速において約2.4mW、16倍速において約3.0mW以上になるとジッター値が悪化しはじめる。これは、アモルファス・マークの結晶化が進行していることを示している。このデータだけからでは、例えば1000万回再生を繰り返しても、データ品質が劣化しない再生パワーの値を見積もることができない。そこで、熱シミュレーションを用いて、再生速度の変化に対する記録膜のピーク温度の変化を計算した。
【0028】
図14(a)は再生パワーが1mWの場合の記録膜のピーク温度の再生速度依存性の計算結果である。ここでは、室温を25℃とした。図に見られるように、2倍速再生の場合にはピーク温度が約100℃であるのに対して、16倍速では約70℃に下がることが判った。これは、線速度の増加に伴って、光ビームの通過時間が短くなったことを反映している。2倍速において、記録膜のピーク温度が約100℃になっており、市販ディスクでは、この条件下で再生によるデータの劣化は発生しない。したがって、6倍速以上の再生時にも同様に記録膜のピーク温度が約100℃になる条件を求めれば、適正な再生パワーを定める1つの規準となり得る。
【0029】
図14(b)は記録膜のピーク温度が100℃になる場合の再生パワーの再生速度依存性の計算結果である。記録膜のピーク温度が約100℃になる再生パワーの値は6倍速において約1.3mW、16倍速において約1.8mWであることが判った。上の実験結果から再生パワーは1.5mW以上が望ましいことが判っているので、計算と実験の誤差を考慮すると6倍速以上の再生パワーは1.5mWから2.0mW程度が好適であると言える。上に述べたように、DVD-RAM媒体はDVD-R媒体に比較して記録感度が2倍以上高く、最近の記録型DVDドライブは、スーパー・マルチ・ドライブのように、全ての媒体に対応するものである。したがって、6-16倍速対応DVD-RAM媒体では、ここに示したサンプル・ディスクよりも記録感度を悪化させて再生時の温度上昇を抑圧するようにしても、ドライブ装置が記録パワー不足になることはなく、再生信号のS/N比改善できる。
【0030】
5倍速までのDVD-RAMは再生パワーが1mWであった。6倍速以上のDVD-RAMで再生パワーを例えば1.5mWにすることが望ましいことも示した。しかしながら、6倍速以上のDVD-RAM媒体であっても、従来の2倍速ドライブ装置で再生だけはできるように配慮しなければならない。したがって、6倍速以上のDVD-RAMでも基本フォーマットは従来どおりでなければならない。このとき、ドライブ装置にローディングされた媒体が2倍速規格のものなのか、6倍速以上のものなのかを判定するには、コントロール・データを再生するまで判別できない。また、6倍速以上の媒体であっても、従来のドライブ装置で再生ができるためには、2倍速で再生パワーが1mWの条件で、再生によるデータの劣化が発生しないようにしなければならない。こうした問題を解決するには、ドライブ装置のローディング時の処理シーケンスを適正なものにすればよい。これについては実施例として後述する。
【0031】
以上により、本発明が提供する記録方法及び光ディスク装置を用いることによって, DVD-RAM16倍速の実用化のための2つの課題を解決できることを示した。本発明の効果を以下にまとめる。
【発明の効果】
【0032】
レーザ駆動回路のカット・オフ現象の発生を防ぎ、記録パラメータの互換性の確保とCAV記録を実現できた。また、高速再生時のS/N比の改善と再生によるデータ劣化の防止ができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下本発明の詳細を,実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0034】
記録方法
本発明の記録方法の詳細については前述のとおりである。ここでは、記録方法を用いた実験結果とドライブのセット・アップ・シーケンスについて詳細を述べる。
図15は本発明の記録パルスを用いて6倍速と16倍速においてそれぞれ、記録/再生したときのオーバライト・ジッターの記録パワー依存性を示す実験結果である。図に示すように、9%以下の良好なジッター値が得られた。再生パワーは1.5mWである。
【0035】
図16は上の実験における再生信号、ジッター値、及びビット・エラー率をまとめたものである。ビット・エラー率に関しては、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)方式を用い、クラスをPR(3,4,4,3)として測定した。10-6以下の良好なビット・エラー率が得られた。
【0036】
図17は記録速度と再生速度を変化させたときのジッター値とビット・エラー率の測定結果である。2倍速再生の場合には再生パワーを1mWにした。どの条件においても、10-6以下の良好なビット・エラー率が得られた。
【0037】
図18はコントロール・データに記録されるデータの内容について示したものである。従来の2倍速、3倍速、5倍速DVD-RAM媒体は、記録において下位互換性を保ってきた。従って、5倍速DVD-RAM媒体のコントロール・データには2倍速記録条件に加えて、3倍速と5倍速の記録条件を格納する領域が追加されている。再生パワーは共通で1mWである。
【0038】
一方、6倍速以上のDVD-RAM媒体は、5倍速以下で記録することができない。これは、相変化記録膜が記録時の温度履歴に応じて記録マークを形成したり、消去したりするという物理的な要請から定まったものである。しかしながら、従来のドライブ装置でも少なくとも再生はできるようにするため、フォーマット上、2倍速、3倍速、5倍速の記録条件の領域にデータを格納する必要がある。これらの値は便宜上必要な値なので、例えば規格書で統一した固定データを記録することが望ましい。6倍速以上の記録/再生条件としては、上に述べたように、再生パワーの値、6倍速での記録条件、及び最大速度での記録条件を格納しておく。ここで、最大速度は上の説明の16倍速に対応する。最大速度というように、条件を緩和しておけば、例えばコスト削減のために、媒体の膜構成を簡略化した結果、12倍速までしか対応できない媒体があったとしても、受け入れることができる。最大速度は、例えばフラグのような形で格納すると、コントロール・データ領域の節約ができて好ましい。
こうしたコントロール・データが格納されたディスクから、再生パワーや記録条件を読み取り、記録データを劣化させることなくドライブ装置が記録・再生できるようにするためには、セット・アップ・シーケンスが重要である。
【0039】
図19はDVDスーパー・マルチ・ドライブ装置のセット・アップ・シーケンスの概要を示す実施例である。スーパー・マルチ・ドライブ装置では、CD/DVD両方に対応するため、ローディング後にCD/DVD媒体の判定を実施する。これには波長の違いと基板厚さの違いを利用する。簡単に判別するにはCD/DVD用のレーザをそれぞれ発光させ、対物レンズをフォーカス方向に動かして、情報記録面からの反射信号の量を測り、大きい反射信号が得られた側を判定する等の方法がある。媒体がDVDの場合には、引き続きDVD-RAMかそれ以外かを判定する。これには、プッシュ・プル信号の変調度を使うのがよい。DVD-RAMのみがトラック構造がランド・グルーブなので、他に比較してプッシュ・プル信号の変調度が3倍以上大きい。ここまではDVD±R/RW媒体の再生データ劣化を防ぐため、DVDの再生パワーは0.7mWにしておく。ここで、DVD-RAM媒体と判別した場合には、再生パワーを1mWにしてコントロール・データを再生してフォーマット情報を読み取り、2倍速、3倍速、5倍速、及び6倍速以上のどの媒体なのかを判定する。ここで、6倍速以上の媒体である場合には、線速度を6倍速以上にして、再生パワーをコントロール・データ指定の値に設定(前述の例では1.5〜2.0mW)にし、専用のセット・アップ・プロセスを実行した後、ホスト・コンピュータからの記録/再生指示を受けられるレディ状態になる。セット・アップ・シーケンスには試し書き処理が含まれる。
【0040】
図20は試し書きシーケンスの実施例である。先ず、書換え領域に移動してDIZ(Drive Information Zone)を再生する。DIZにはドライブ固有の記録条件等が記録してある。コントロール・データとDIZに基づいて試し書きを実施する。最初に内周試し書き領域で6倍速の試し書きを実施して、記録条件を校正する。次に外周試し書き領域に移動して、最大速条件で試し書きを実施する。次に(式1)もしくは(式2)に基づいて、各ゾーンの記録条件を決定し、処理終了となる。パワーやパルス条件を定める具体的な方法としては、国際公開番号WO01/011614公報に記載の方法等をもちいればよい。
【実施例2】
【0041】
光ディスク装置
図21は本発明の光ディスク装置の構成を示す実施例である。光ディスク媒体100はモータ160により回転される。再生時にはCPU140によって指令された光強度になるようにレーザパワー/パルス制御器120は光ヘッド110内の半導体レーザ112に流す電流を制御してレーザ光114を発生させ,レーザ光114は対物レンズ111によって集光され光スポット101を光ディスク媒体100上に形成する。この光スポット101からの反射光115は対物レンズ111を介して,光検出器113で検出される。光検出器は複数に分割された光検出素子から構成されている。再生信号処理回路130は,光ヘッド110で検出された信号を用いて,光ディスク媒体100上に記録された情報を再生する。記録時には,レーザパワー/パルス制御器120は,所定の記録データを所定の記録パルス電流に変換して,パルス光が半導体レーザ112から出射されるように制御する。図1に示した記録パルスを発生する機能はレーザパワー/パルス制御器120に内蔵される。また、上に示した、セット・アップ・シーケンス及び試し書き処理は、・前述の試し書き用の信号処理回路40及び50は,再生信号処理回路130に内蔵される。CPU140の指示により実施される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は,相変化材料を用いたDVD-RAM対応の光ディスク装置に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の記録パルスを示す図。
【図2】5倍速DVD-RAMで採用されているノン・マルチパルス型の記録パルスを示す図。
【図3】一般的なDVD-RAM評価システムにおけるレーザ駆動回路を摸式的に示したもの。
【図4】実験に使用したシバソク製DVD-RAM評価装置(LM330A)のレーザ駆動回路の特性。
【図5】6倍速から16倍速までの初回記録データのジッターを示す実験結果。
【図6】6倍速、10倍速、16倍速で記録した信号の再生波形をまとめたもの。
【図7】6倍速における記録条件をまとめたものであり、4Tマークの記録にモノ・パルスを用いた場合の結果。
【図8】10倍速における記録条件をまとめたものであり、4Tマークの記録にモノ・パルスを用いた場合の結果。
【図9】16速における記録条件をまとめたものであり、4Tマークの記録にモノ・パルスを用いた場合の結果。
【図10】6倍速における記録条件をまとめたものでありノン・マルチパルスを用いた場合の結果。
【図11】10おける記録条件をまとめたものでありノン・マルチパルスを用いた場合の結果。
【図12】16における記録条件をまとめたものでありノン・マルチパルスを用いた場合の結果。
【図13】6倍速と16倍速において再生パワーとジッターの関係を測定した実験結果。
【図14】記録膜のピーク温度の再生速度依存。
【図15】本発明の記録パルスを用いて6倍速と16倍速においてそれぞれ、記録/再生したときのオーバライト・ジッターの記録パワー依存性。
【図16】再生信号、ジッター値、及びビット・エラー率をまとめたもの。
【図17】記録速度と再生速度を変化させたときのジッター値とビット・エラー率の測定結果。
【図18】コントロール・データに記録されるデータの内容を示す図。
【図19】DVDスーパー・マルチ・ドライブ装置のセット・アップ・シーケンスの概要を示す実施例。
【図20】試し書きシーケンスの実施例。
【図21】本発明の光ディスク装置の構成を示す実施例。
【符号の説明】
【0044】
100 光ディスク
101 光スポット
110 光ヘッド
111 対物レンズ
112 半導体レーザ
113 光検出器
120 記録データ制御器
130 再生信号処理器
140 CPU
150 サーボ制御器
160 スピンドルモータ
170 インターフェース
180 ホストコンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパワーレベルと、前記第1のパワーレベルよりも高い第2のパワーレベルとを用いて、光ディスク媒体に情報を記録する記録方法であって、
6倍速以上で記録し、
検出窓幅をTとしたとき、
3Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスで記録し、
4Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスで記録し、
5T以上の長さのマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後前記第1と前記第2のパワーレベルの間の第3のパワーレベルに立ち下げて保持し、その後前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後第1のパワーレベル以下に立ち下げるパルスで記録し、前記第3のパワーレベルの期間を1T以上で記録することを特徴とする情報記録方法。
【請求項2】
前記第1のパワーレベルは消去レベル、前記第2のパワーレベルは記録レベル、前記第3のパワーレベルは消去レベルと記録レベルの中間であることを特徴とする請求項1記載の情報記録方法。
【請求項3】
前記記録は16倍速であることを特徴とする請求項1記載の情報記録方法。
【請求項4】
第1のパワーレベルと、前記第1のパワーレベルよりも高い第2のパワーレベルとを用いて、光ディスク媒体に情報を記録する記録方法であって、
前記光ディスク媒体のコントロール・データを再生する場合に、再生パワーを1mWとし、前記コントロール・データの内容が6倍速以上のものである場合には、格納された6倍速以上における再生パワーを読み取り、線速度を6倍速以上にした後、再生パワーを前記6倍速以上における再生パワーに変更したのち、
検出窓幅をTとして、
3Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスで記録し、
4Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスで記録し、
5T以上の長さのマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後前記第1と前記第2のパワーレベルの間の第3のパワーレベルに立ち下げて保持し、その後前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後第1のパワーレベル以下に立ち下げるパルスで記録し、前記第3のパワーレベルの期間を1T以上とし、
これらの記録パルスを用いて、試し書き処理を内周及び外周で実施し、試し書きの結果からゾーン番号nの記録パラメータP[v[n]]を線速度v[n]の関数として、
【数2】

として、内挿処理によって定めることを特徴とする記録方法。
【請求項5】
前記6倍速以上における再生パワーは、1.5mW以上2mW以下であることを特徴とする請求項4記載の記録方法。
【請求項6】
第1のパワーレベルと、前記第1のパワーレベルよりも高い第2のパワーレベルとを用いて、光ディスク媒体に情報を記録する記録方法であって、
6倍速以上で記録し、
検出窓幅をTとしたとき、
4Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスで記録することを特徴とする情報記録方法。
【請求項7】
第1のパワーレベルと、前記第1のパワーレベルよりも高い第2のパワーレベルとを用いて、光ディスク媒体に情報を記録する記録装置であって、
線速度を6倍以上にする手段と、
3Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスに、
4Tマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持しその後前記第1のパワーレベル以下に立ち下げるモノ・パルスに、
5T以上の長さのマークを、前記第1のパワーレベルから前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後前記第1と前記第2のパワーレベルの間の第3のパワーレベルに立ち下げて1T以上保持し、その後前記第2のパワーレベルに立ち上げて保持し、その後第1のパワーレベル以下に立ち下げるパルスにするパルス生成手段と、
試し書きの結果からゾーン番号nの記録パラメータP[v[n]]を線速度v[n]の関数として、
【数2】

として、内挿処理によって定める計算手段とを有することを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図6】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−12226(P2006−12226A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184410(P2004−184410)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【Fターム(参考)】