説明

記録装置および液体容器

【課題】圧電装置を利用した液体消費検出の能力を向上する。
【解決手段】圧電装置としてのアクチュエータ106は、電気エネルギと振動エネルギの間の変換を行う機能をもち、液体消費に応じた検出信号を出力する。アクチュエータ106と取付部材が一体化されて取付モジュール体100が構成され、このモジュール体100がインク容器に取り付けられる。取付部材は、そのプレート110に開口キャビティ112を有する。開口キャビティ112は、アクチュエータ子106から液体容器の内部を向く位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響インピーダンスの変化を検出することで、その中でも特に共振周波数の変化を検出することで、液体を収容する液体容器内の液体の消費状態を検知するための圧電装置が備えられた液体容器に関し、さらに詳しくは、圧力発生手段により圧力発生室のインクを印刷データに対応させて加圧してノズル開口からインク滴を吐出させて印刷するインクジェット記録装置に適用されるインクカートリッジに備えられ、インクカートリッジ内のインクの消費状態を検出する圧電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明が適用される液体容器として、インクジェット式記録装置に装着されるインクカートリッジを例にとって説明する。一般にインクジェット記録装置には、圧力発生室を加圧する圧力発生手段と、加圧されたインクをノズル開口からインク滴として吐出するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドが搭載されたキャリッジと、流路を介して記録ヘッドに供給されるインクを収容するインクタンクとを備えており、連続印刷が可能なように構成されている。インクタンクはインクが消費された時点で、ユーザが簡単に交換できるように、記録装置に対して着脱可能なカートリッジとして構成されているものが一般的である。
【0003】
従来、インクカートリッジのインク消費の管理方法として、記録ヘッドによって吐出されるインク滴のカウント数と、印字ヘッドのメンテナンス工程で吸引されたインク量とをソフトウエアにより積算し、計算上でインク消費を管理する方法や、インクカートリッジに直接液面検出用の電極を2本取付けることによって、実際にインクが所定量消費された時点を検知することでインク消費を管理する方法などが知られていた。
【0004】
しかしながら、ソフトウェアによりインク滴の吐出数や吸引されたインク量を積算してインク消費を計算上で管理する方法は、使用環境により、例えば使用室内の温度や湿度の高低、インクカートリッジの開封後の経過時間、ユーザサイドでの使用頻度の違いなどによって、インクカートリッジ内の圧力やインクの粘度が変化してしまい、計算上のインク消費量と実際の消費量との間に無視できない誤差が生じてしまうという問題があった。また同一カートリッジを一旦取外し、再度装着した場合には積算されたカウント値は一旦リセットされてしまうので、実際のインク残量がまったくわからなくなってしまうという問題もあった。
【0005】
一方、電極によりインクが消費された時点を管理する方法は、インク消費のある一点の実量を検出できるため、インク残量を高い信頼性で管理できる。しかしながら、インクの液面を検出するためにインクは導電性でなくてはならず、よって使用されるインクの種類が限定されてしまう。また、電極とインクカートリッジとの間の液密構造が複雑化する問題がある。さらに、電極の材料として、通常は導電性が良く耐腐食性も高い貴金属を使用するので、インクカートリッジの製造コストがかさむという問題もあった。さらに、2本の電極をそれぞれインクカートリッジの別な場所に装着する必要があるため、製造工程が多くなり結果として製造コストがかさんでしまうという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記の課題を解決することのできる、液体の消費状態を正確に検出でき、かつ複雑なシール構造を不要とした液体容器を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、インクの消費状態を正確に検出でき、かつ複雑なシール構造を不要としたインクカートリッジを提供することにある。
【0007】
本発明は特に振動を利用して液体残量を検出する技術を提供するとともに、こうした検出技術を改良する。なお、本発明は、インクカートリッジには限定されず、その他の液体容器の液体検出にも適用可能である。
【0008】
上記の目的は特許請求の範囲における独立項に記載の特徴の組み合わせにより達成される。また従属項は本発明の更なる有利な具体例を規定する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、液体検出用のモジュール体である。このモジュール体は、圧電装置と取付部材を含む。圧電装置は、液体容器内の液体の消費状態を検出するために用いられる。取付部材は、前記圧電装置と一体化され、前記圧電装置を前記液体容器に取り付ける。取付部材には特に開口キャビティが設けられている。開口キャビティは、前記圧電装置と対向する位置に前記液体容器の内部と連通するように設けられる。好ましくは、開口キャビティは、前記圧電装置から前記液体容器の内部を向く位置に配置され、前記液体容器の内部と連通するように設けられる。
【0010】
液体消費がまだ進んでいない状態では、開口キャビティの中および外が液体で満たされている。一方、液体消費が進んだ状態では、液面が低下して開口キャビティが露出し、開口キャビティの中にほぼ一定量の液体が残っている。これらの状態では圧電装置の出力信号が異なることを利用して、液体の消費状態を好適に検出できる。
【0011】
本発明によれば、キャビティを設けたことにより、液体の波打ちなどに起因する誤検出が生じないように図ることができる。
【0012】
また本発明によれば、開口キャビティを設けたことにより、圧電装置と液体の間に介在する部材を削減し、あるいは部材の厚さを小さくできるので、液体消費状態をより確実に検出できる。
【0013】
また本発明によれば、開口キャビティを局所的に設けることにより、適当な液体シール状態を確保できる。これにより、圧電装置が不適当に液体にさらされるのを回避できる。これは、インクのような導電性液体に対して特に効果的である。
【0014】
好ましくは、前記圧電装置を利用して、液体消費状態に応じた音響インピーダンスの変化に基づいて液体消費状態が検出される。好ましくは、圧電装置は、振動を発生した後の残留振動状態を示す信号を出力する。圧電装置の残留振動は、周囲の液体の量に応じて変化する。例えば、大量の液体が周囲に存在するときと、少量の液体が周囲に存在するときでは、残留振動状態が異なる。これは、液体消費状態に応じた音響インピーダンスの変化に基づいている。そこで、残留振動状態が液体消費状態に応じて変化することを利用して液体消費状態が検出される。
【0015】
ここで、残留振動に実質的に影響するのは、圧電装置の近傍の限られた量の液体である。本発明によれば、開口キャビティを設けたことにより、圧電装置と液体の間に介在する部材を削減し、あるいは部材の厚さを小さくできる。したがって残留振動に影響する限られた量の液体が、圧電装置に近づき、あるいは接する。これにより、液体消費状態に応じた残留振動の変化がより明確になるので、液体消費状態をより確実に検出できる。
【0016】
また、圧電装置は、開口キャビティを通して弾性波を発生するとともに、開口キャビティを通って返ってくる反射波に応じた信号を出力してもよい。この場合も、開口キャビティを設けたことにより、圧電装置と液体の間で振動が良好に伝達されるので、検出能力を向上可能である。圧電装置をどのように機能させて液体消費状態を検出するかは、液体容器の仕様や、求められる測定精度などに応じて決定されればよい。
【0017】
圧電装置は、検出目標の所定の液体消費状態にて前記開口キャビティ内に液体が保持された状態になったとき、前記開口キャビティ内の前記液体に対応する残留振動状態を示す検出信号を発生してもよい。
【0018】
好ましくは、前記開口キャビティは、所定の液体状態において液体を保持する形状である。好ましくは、前記開口キャビティは、検出目標の所定の液体消費状態においても液体を保持する形状を有してもよい。
【0019】
好ましくは、前記圧電装置は、下電極、該下電極上に形成された圧電層および前記圧電層上に形成された上電極と、を含み、前記開口キャビティの面積が、前記圧電層と下電極の重なり部分の面積以上に設定されている。
【0020】
好ましくは、前記開口キャビティのキャビティ深さはキャビティ開口の最小幅より小さく設定されている。好ましくは、前記キャビティ深さは前記キャビティ開口の最小幅の1/3以下である。キャビティが円形であれば、開口最小幅は開口寸法(開口直径)である。
【0021】
好ましくは、前記開口キャビティは、前記圧電装置の振動中心に対して実質的に対称の形状を有する。好ましくは、前記開口キャビティは実質的に円形である。
【0022】
好ましくは、前記開口キャビティの容器内部側の開口面積を、前記圧電素子側の開口面積より大きく設定する。容器内部側より圧電素子側の開口寸法が大きいことが好ましい。こうした構成により、開口キャビティは容器内部に向かって広がる形状を有する。前記開口キャビティの周面はテーパ形状を有していてもよい。前記開口キャビティの周面はステップ形状を有していてもよい。
【0023】
前記開口キャビティに連通する連通溝が、容器内側に面する場所に設けられていてもよい。前記連通溝は、前記開口キャビティから、前記液体容器が外部に液体を供給する供給口に向かう方向に沿って設けられていてもよい。
【0024】
前記取付部材は、前記液体容器に設けられた貫通孔に嵌合されてもよい。前記圧電装置には、前記取付部材の開口キャビティと連通する凹部が形成されてもよい。
【0025】
前記開口キャビティ近傍に液体吸収体が設けられてもよい。液体吸収体は、前記開口キャビティ内の液体を吸い出してもよい。前記液体吸収体は多孔質部材で構成されてもよい。
【0026】
前記開口キャビティ内に液体吸収体が設けられてもよい。液体吸収体は液体を保持してもよい。前記液体吸収体は、多孔質部材で構成されてもよい。
【0027】
取付モジュール体は前記液体容器に対して着脱可能に装着されてもよい。
【0028】
本発明の別の態様は、上述の液体検出用の取付モジュール体が備えられた液体容器である。前記液体容器は、インクジェット記録装置に装着されるインクカートリッジでもよい。
【0029】
なお上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションも又発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態はクレームにかかる発明を限定するものではなく、又実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0031】
まず、本実施形態の原理を説明する。本実施の形態では、インク容器内のインク消費状態を検出する技術に本発明が適用される。インクの消費状態は圧電装置を用いて検出される。圧電装置は、電気エネルギと振動エネルギの間の変換によって、インク消費状態に応じた信号を出力する。
【0032】
検出原理の一つは、音響インピーダンスを利用する。好ましくは、圧電装置が振動を発生した後の残留振動状態が、圧電装置の出力信号から求められる。残留振動は、周囲のインクの量に応じて変化する。これは、インク消費状態に応じた音響インピーダンスの変化に基づいている。そこで、残留振動状態がインク消費状態に応じて変化することを利用して消費状態が検出される。
【0033】
別の検出原理によれば、圧電装置は、開口キャビティを通して弾性波を発生するとともに、開口キャビティを通って返ってくる反射波に応じた信号を出力する。インク消費状態に応じた反射波の変化が検出される。圧電装置をどのように機能させてインク消費状態を検出するかは、インクカートリッジの仕様や、求められる測定精度などに応じて決定されればよい。
【0034】
圧電装置は、検出目標の所定のインク消費状態における液面位置に設けられる。これにより、液面通過の有無を検出できる。
【0035】
本実施の形態では、圧電装置と取付部材とにより取付モジュール体が構成される。特に、取付部材には開口キャビティが設けられる。開口キャビティは、モジュール体の装着状態において、圧電装置からインク容器の内部を向く位置に配置され、容器内部に連通している。開口キャビティは圧電装置、特にその振動部分と対向する。
【0036】
こうした開口キャビティを設けることにより以下の利点が得られる。インク消費がまだ進んでいない状態では、インク液面が高く、したがって開口キャビティの中および外がインクで満たされている。一方、インク消費が進むと、液面が低下して開口キャビティが露出する。このとき、開口キャビティの中にほぼ一定の少量のインクが残存する。これらの2つの状態では、上述の残留振動などが異なるので、圧電装置の出力信号が異なる。これを利用して、インク消費状態を好適に検出できる。
【0037】
好ましくは、キャビティに少量のインクが保持されているときの検出特性を予め把握しておく。あるいは、インクがキャビティ内外にあるときの検出特性を予め把握しておいてもよい。もちろん両状態の検出特性を把握しておいてもよい。
【0038】
本実施の形態によれば、後述するように、キャビティを設けたことにより、インクの波打ちなどに起因する誤検出が生じないように図ることができる。
【0039】
また本実施の形態によれば、開口キャビティを設けたことにより、圧電装置とインクの間に介在する部材を削減し、あるいは部材の厚さを小さくできるので、インク消費状態をより確実に検出できる。
【0040】
例えば残留振動を利用する検出原理を考えると、残留振動に実質的に影響するのは、圧電装置の近傍の限られた量のインクである。この限られた量のインクが、開口キャビティを設けたことにより、圧電装置に近づき、あるいは接する。これにより、インク消費状態に応じた残留振動の変化がより明確になるので、インク消費状態をより確実に検出できる。
【0041】
また弾性波および反射波を利用する場合も、開口キャビティを設けたことにより、圧電装置とインクの間で振動が良好に伝達されるので、検出能力を向上可能である。
【0042】
また本実施の形態によれば、キャビティが局所的に設けられているので、インクを適切にシールできる。これにより圧電装置をインクから保護できる。導電性を有するインクによって圧電装置の絶縁状態が害されるのを効果的に防止できる。
【0043】
以下では、図面を参照して本実施形態をより具体的に説明する。まず、圧電装置を用いて振動に基づいてインク消費を検出する技術の基本を説明する。これにつづいて、検出技術の各種応用を説明する。これらの説明を展開する中で、本実施形態の特徴的なキャビティ付きの取付モジュール体およびその他のバリエーションを説明する。
【0044】
ここで、本実施の形態においては、圧電装置の一形態として、「アクチュエータ(典型的には図20、参照符号106)」および「弾性波発生手段(典型的には図1、参照符号3)が示される。ただし、これらは圧電装置の一形態にすぎない。例えば、圧電装置は、アクチュエータに他のコンポーネントを加えた構成でもよく、またアクチュエータから一部のコンポーネントを抜いた構成でもよい。圧電装置は圧電素子のみであってもよい。
【0045】
「圧電装置を利用したインク消費の検出」
本発明の基本的概念は、振動現象を利用することで、液体容器内の液体の状態(液体容器内の液体の有無、液体の量、液体の水位、液体の種類、液体の組成を含む)を検出することである。具体的な振動現象を利用した液体容器内の液体の状態の検出としてはいくつかの方法が考えられる。例えば弾性波発生手段が液体容器の内部に対して弾性波を発生し、液面あるいは対向する壁によって反射する反射波を受波することで、液体容器内の媒体およびその状態の変化を検出する方法がある。また、これとは別に、振動する物体の振動特性から音響インピーダンスの変化を検知する方法もある。音響インピーダンスの変化を利用する方法としては、圧電素子を有する圧電装置またはアクチュエータの振動部を振動させ、その後に振動部に残留する残留振動によって生ずる逆起電力を測定することによって、共振周波数または逆起電力波形の振幅を検出することで音響インピーダンスの変化を検知する方法や、測定機、例えば伝送回路等のインピーダンスアナライザによって液体のインピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定し、電流値や電圧値の変化または、振動を液体に与えたときの電流値や電圧値の周波数による変化を測定する方法がある。弾性波発生手段および圧電装置またはアクチュエータの動作原理の詳細については後述する。
【0046】
図1は、本発明が適用される単色、例えばブラックインク用のインクカートリッジの一実施形態の断面図である。図1のインクカートリッジは、上記に説明した方法のうちの、弾性波の反射波を受信して液体容器内の液面の位置や液体の有無を検出する方法に基づいている。弾性波を発生しまた受信する手段として弾性波発生手段3を用いる。インクを収容する容器1には、記録装置のインク供給針に接合するインク供給口2が設けられている。容器1の底面1aの外側には、弾性波発生手段3が容器を介して内部のインクに弾性波を伝達できるように取付けられている。インクKがほぼ消費されつくした段階、つまりインクニアエンドとなった時点で、弾性波の伝達がインクから気体へと変更するべく、弾性波発生手段3はインク供給口2よりも若干上方の位置に設けられている。なお、受信手段を別に設けて、弾性波発生手段3を単に発生手段として用いても良い。
【0047】
インク供給口2にはパッキン4及び弁体6が設けられている。図3に示すように、パッキン4は記録ヘッド31に連通するインク供給針32と液密に係合する。弁体6は、バネ5によってパッキン4に対して常時弾接されている。インク供給針32が挿入されると、弁体6はインク供給針32に押されてインク流路を開放し、容器1内のインクがインク供給口2およびインク供給針32を介して記録ヘッド31へ供給される。容器1の上壁の上には、インクカートリッジ内のインクに関する情報を格納した半導体記憶手段7が装着されている。
【0048】
図2は、複数種類のインクを収容するインクカートリッジの一実施例を示す裏側から見た斜視図である。容器8は、隔壁により3つのインク室9、10及び11に分割される。それぞれのインク室には、インク供給口12、13及び14が形成されている。それぞれのインク室9、10及び11の底面8aには、弾性波発生手段15、16および17が、容器8を介して各インク室内に収容されているインクに弾性波を伝達できるように取付けられている。
【0049】
図3は、図1及び2に示したインクカートリッジに適したインクジェット記録装置の要部の実施形態を示す断面図である。記録用紙の幅方向に往復動可能なキャリッジ30は、サブタンクユニット33を備えていて、記録ヘッド31がサブタンクユニット33の下面に設けられている。また、インク供給針32はサブタンクユニット33のインクカートリッジ搭載面側に設けられている。
【0050】
図4は、サブタンクユニット33の詳細を示す断面図である。サブタンクユニット33は、インク供給針32、インク室34、膜弁36、及びフィルタ37を有する。インク室34内には、インクカートリッジからインク供給針32を介して供給されるインクが収容される。膜弁36は、インク室34とインク供給路35との間の圧力差により開閉するよう設計されている。インク供給路35は記録ヘッド31に連通しており、インクが記録ヘッド31まで供給される構造となっている。
【0051】
図3に示すように、容器1のインク供給口2をサブタンクユニット33のインク供給針32に挿通すると、弁体6がバネ5に抗して後退し、インク流路が形成され、容器1内のインクがインク室34に流れ込む。インク室34にインクが充填された段階で、記録ヘッド31のノズル開口に負圧を作用させて記録ヘッド31にインクを充填した後、記録動作を実行する。
【0052】
記録動作により記録ヘッド31においてインクが消費されると、膜弁36の下流側の圧力が低下するので、図4に示すように、膜弁36が弁体38から離れて開弁する。膜弁36が開くことにより、インク室34のインクはインク供給路35を介して記録ヘッド31に流れこむ。記録ヘッド31へのインクの流入に伴なって、容器1のインクは、インク供給針32を介してサブタンクユニット33に流れ込む。
【0053】
記録装置の動作期間中には、あらかじめ設定された検出のタイミング、例えば一定周期で弾性波発生手段3に駆動信号が供給される。弾性波発生手段3により発生された弾性波は、容器1の底面1aを伝搬してインクに伝達され、インクを伝搬する。
【0054】
弾性波発生手段3を容器1に貼着することにより、インクカートリッジ自体に残量検出機能を付与することができる。本発明によれば、容器1の成形時における液面検出用の電極の埋め込みが不要となるので、射出成形工程が簡素化され、電極埋めこみ領域からの液漏れがなくなり、インクカートリッジの信頼性が向上できる。
【0055】
図5は、弾性波発生手段3、15、16、及び17の製造方法を示す。固定基板20は、焼成可能なセラミック等の材料により形成される。まず、図5(I)に示すように、固定基板20の表面に一方の電極となる導電材料層21を形成する。次に、図5(II)に示すように、導電材料層21の表面に圧電材料のグリーンシート22を重ねる。次に、図5(III)に示すように、プレス等により所定の形状にグリーンシート22を振動子の形状に成形し、自然乾燥後させた後、焼成温度、例えば1200°Cで焼成する。次に、図5(IV)に示すように、他方の電極となる導電材料層23をグリーンシート22の表面に形成して、たわみ振動可能に分極する。最後に、図5(V)に示すように、固定基板20を各素子毎に切断する。固定基板20を接着剤等により容器1の所定の面に固定することで、弾性波発生手段3が、容器1の所定の面に固定されて、残量検出機能付きインクカートッジが完成する。
【0056】
図6は、図5に示した弾性波発生手段3の他の実施形態を示す。図5の実施例においては、導電材料層21を接続電極として使用している。一方、図6の実施例においては、グリーンシート22により構成された圧電材料層の表面よりも上方の位置に、半田等により接続端子21a及び23aを形成する。接続端子21a及び23aにより、弾性波発生手段3の回路基板への直接的な実装が可能となり、リード線の引き回しが不要となる。
【0057】
ところで、弾性波は、気体、液体および固体を媒体として伝播することができる波の一種である。従って、媒体の変化により弾性波の波長、振幅、位相、振動数、伝播方向や伝播速度などが変化する。一方、弾性波の反射波も媒体の変化によってその波の状態や特性が異なる。従って、弾性波が伝播する媒体の変化によって変化する反射波を利用することで、その媒体の状態を知ることが可能となる。この方法によって液体容器内の液体の状態を検出する場合には、例えば弾性波送受信機を使用する。図1〜図3の形態を例にとって説明すると送受信機は、はじめに媒体、例えば、液体または液体容器に弾性波を与え、その弾性波は媒体中を伝播し液体の表面に達する。液体の表面では液体と気体との境界を有するため、反射波を送受信機へ返す。送受信機は反射波を受信し、その反射波の往来時間や送信機が発生した弾性波と液体の表面が反射した反射波との振幅の減衰率などから、送信機または受信機と液体の表面との距離を測定することができる。これを利用して液体容器内の液体の状態を検出できる。弾性波発生手段3は、単体として弾性波が伝播する媒体の変化による反射波を利用する方法における送受信機として使用してもよいし、別に専用の受信機を装着してもよい。
【0058】
上記したように、弾性波発生手段3によって発生されインク液中を伝搬する弾性波は、インク液の密度や液面レベルによりインク液表面で生じる反射波の弾性波発生手段3への到来時間が変化する。したがって、インクの組成が一定である場合には、インク液表面で生じる反射波の到来時間がインクの量に左右される。したがって、弾性波発生手段3が弾性波を発生してからインク表面からの反射波が弾性波発生手段3に到達するまでの時間を検出することにより、インク量を検出することができる。また、弾性波は、インクに含まれている粒子を振動させるので、着色剤として顔料を使用した顔料系のインクの場合には、顔料等の沈殿を防止するのに寄与する。
【0059】
弾性波発生手段3を容器1に設けることにより、印刷動作やメンテナンス動作によってインクカートリッジのインクがインクエンド近くまで減少して、弾性波発生手段3によって反射波が受信できなくなった場合には、インクニアエンドであると判定してインクカートリッジの交換を促すことができる。
【0060】
図7は、本発明のインクカートリッジの他の実施例を示す。上下方向に間隔を設けて、複数の弾性波発生手段41〜44が、容器1の側壁上に設けられている。図7のインクカートリッジは、弾性波発生手段41〜44のそれぞれの位置にインクが存在するか否かにより、それぞれの弾性波発生手段41〜44の装着位置のレベルにおけるインクの有無が検出できる。例えば、インクの水位が、弾性波発生手段44と43との間のレベルであるとき、弾性波発生手段44は、インクが無いと検出し、弾性波発生手段41、42及び43は、インクが有ると検出するので、インクの水位が、弾性波発生手段44と43との間のレベルであることが分かる。したがって、複数の弾性波発生手段41〜44を設けることにより、インク残量を段階的に検出することができる。
【0061】
図8及び図9は、それぞれ本発明のインクカートリッジの更に他の実施例を示す。図8に示した実施例においては、上下方向に斜めに形成された底面1aに、弾性波発生手段65が装着される。また、図9に示した実施例においては、垂直方向に長く延びる弾性波発生手段66が、側壁1bの底面近傍に設けられている。
【0062】
図8及び図9の実施例によれば、インクが消費され、弾性波発生手段65及び66の一部が液面から露出するようになると、弾性波発生手段65及び66が発生した弾性波の反射波の到来時間及び音響インピーダンスが、液面の変化Δh1、Δh2に対応して連続的に変化する。したがって、弾性波の反射波の到来時間又は音響インピーダンスの変化の度合いを検出することにより、インク残量のインクニアエンド状態からインクエンドまでの過程を正確に検出することができる。
【0063】
なお、上述の実施例においては、液体容器にインクを直接収容する形式のインクカートリッジに例を採って説明した。インクカートリッジの他の実施形態として、容器1内に多孔質弾性体を装填し、多孔質弾性体に液体インクを含浸させる形式のインクカートリッジに、上述の弾性波発生手段を装着してもよい。また、上述の実施例においてはたわみ振動型の圧電振動子を使用することによりカートリッジの大型化を抑えているが、縦振動型の圧電振動子を使用することも可能である。更に、上述の実施例においては、同一の弾性波発生手段により弾性波を送波し受波する。他の実施形態として、送波用と受波用とで異なった弾性波発生手段を用いて、インク残量を検出してもよい。
【0064】
図10は、本発明のインクカートリッジの更に他の実施例を示す。上下方向に斜めに形成された底面1aに、上下方向に間隔を設けて、複数の弾性波発生手段65a、65b及び65cが、容器1に設けられている。この実施例によれば、複数の弾性波発生手段65a、65b、及び65cのそれぞれの位置にインクが存在するか否かにより、それぞれの弾性波発生手段65a、65b、及び65cの装着位置のレベルにおける、それぞれの弾性波発生手段65a、65b及び65cへの弾性波の反射波の到来時間が異なる。したがって、各弾性波発生手段65を走査して、弾性波発生手段65a、65b及び65cにおける弾性波の反射波の到来時間を検出することにより、それぞれの弾性波発生手段65a、65b及び65cの装着位置のレベルにおけるインクの有無を検出することができる。したがって、インク残量を段階的に検出することができる。例えば、インク液面が弾性波発生手段65bと弾性波発生手段65cとの間のレベルであるとき、弾性波発生手段65cはインク無しを検出し、一方弾性波発生手段65b及び65aはインク有りと検出する。これらの結果を総合評価することで、インク液面が弾性波発生手段65bと弾性波発生手段65cとの間に位置していることが分かる。
【0065】
図11は、本発明のインクカートリッジの更に他の実施形態を示す。図11のインクカートリッジは、液面からの反射波の強度を上げるために、板材67をフロート68に取付けてインク液面を覆っている。板材67は、音響インピーダンスが高く、かつ耐インク性を備えた材料、例えばセラミックの板材によって形成される。
【0066】
図12は、図11に示したインクカートリッジの他の実施形態を示す。図12のインクカートリッジは、図11のインクカートリッジと同様に、液面からの反射波の強度を上げるために、板材67をフロート68に取付けてインク液面を覆っている。図12(A)は、上下方向に斜めに形成された底面1aに、弾性波発生手段65が固定される。インク残量が少なくなり、弾性波発生手段65が液面から露出すると、弾性波発生手段65が発生した弾性波の反射波の弾性波発生手段65への到来時間が変化するので、弾性波発生手段65の装着位置のレベルにおけるインクの有無が検出できる。弾性波発生手段65が、上下方向に斜めに形成された底面1aに装着されているので、弾性波発生手段65がインク無しと検出した後でも、インクが容器1内に多少残されていることから、インクニアエンド時点のインク残量を検出することができる。
【0067】
図12(B)は、上下方向に斜めに形成された底面1aに、上下方向に間隔を設けて、複数の弾性波発生手段65a、65b及び65cが、容器1に設けられている。図12(B)の実施例によれば、複数の弾性波発生手段65a、65b、及び65cのそれぞれの位置にインクが存在するか否かにより、それぞれの弾性波発生手段65a、65b及び65cの装着位置のレベルにおける反射波の弾性波発生手段65a、65b及び65cへの到来時間が異なる。したがって、各弾性波発生手段65を走査して、各弾性波発生手段における反射波の到来時間を検出することにより、それぞれの弾性波発生手段65a、65b及び65cの装着位置のレベルにおけるインクの有無を検出することができる。例えば、インク液面が、弾性波発生手段65bと弾性波発生手段65cとの間のレベルであるとき、弾性波発生手段65cはインク無しを検出し、一方弾性波発生手段65b及び65aはインク有りと検出する。これらの結果を総合評価することで、インク液面が弾性波発生手段65bと弾性波発生手段65cとの間に位置していることが分かる。
【0068】
図13は、本発明のインクカートリッジの更に他の実施形態を示す。図13(A)に示したインクカートリッジは、容器1の内部に設けられた貫通孔1cに少なくとも一部が対向するようにインク吸収体74が、配置されている。弾性波発生手段70は、貫通孔1cに対向するように容器1の底面1aに固定される。図13(B)に示したインクカートリッジは、貫通孔1cに連通して形成された溝1hに対向させてインク吸収体75が、配置されている。
【0069】
図13に示した実施形態によれば、容器1内のインクが消費されてインク吸収体74及び75がインクから露出すると、インク吸収体74及び75のインクが自重により流れ出して記録ヘッド31にインクを供給する。インクが消費され尽くすと、インク吸収体74及び75は、貫通孔1cに残存しているインクを吸い上げるので、貫通孔1cの凹部からインクが完全に排出される。そのため、インクエンド時において弾性波発生手段70が発生した弾性波の反射波の状態が変化するので、インクエンドを更に確実に検出することができる。
【0070】
図14は、貫通孔1cの更に他の実施形態の平面を示す。図14(A)から(C)にそれぞれ示したように、貫通孔1cの平面形状は、弾性波発生手段が取り付け可能な形状であれば、円形、矩形、及び三角形などの任意の形状でよい。
【0071】
図15は、本発明のインクジェット記録装置の他の実施形態の断面を示す。図15(A)は、インクジェット記録装置のみの断面を示す。図15(B)は、インクジェット記録装置にインクカートリッジ272が装着されたときの断面を示す。インクジェット記録用紙の幅方向に往復動可能なキャリッジ250は、下面に記録ヘッド252を有する。キャリッジ250は、記録ヘッド252の上面にサブタンクユニット256を有する。サブタンクユニット256は、図6に示したサブタンクユニット33と同様の構成を有する。サブタンクユニット256は、インクカートリッジ272の搭載面側にインク供給針254を有する。キャリッジ250は、インクカートリッジ272を搭載する領域に、インクカートリッジ272の底部に対向するように凸部258を有する。凸部258は、圧電振動子などの弾性波発生手段260を有する。
【0072】
図16は、図15に示した記録装置に適したインクカートリッジの実施形態を示す。図16(A)は、単色、例えばブラックインク用のインクカートリッジの実施形態を示す。本実施形態のインクカートリッジ272は、インクを収容する容器274と、記録装置のインク供給針254に接合するインク供給口276とを有する。容器274は、底面274aに、凸部258と係合する凹部278を有する。凹部278は、超音波伝達材、例えばゲル化材280を収容する。
【0073】
インク供給口276は、パッキン282、弁体286、及びバネ284を有する。パッキン282は、インク供給針254と液密に係合する。弁体286は、バネ284によりパッキン282に常時弾接される。インク供給針254が、インク供給口276に挿入されると、弁体286がインク供給針254に押されてインク流路を開放する。容器274の上部には、インクカートリッジ272のインク等に関する情報を格納した半導体記憶手段288が装着されている。
【0074】
図16(B)は、複数種のインクを収容するインクカートリッジの実施形態を示す。容器290は、壁により複数の領域、すなわち、3つのインク室292、294、296に分割される。それぞれのインク室292、294、及び296は、インク供給口298、300及び302を有する。容器290の底面290aの各インク室292、294、296に対向する領域には、弾性波発生手段260が発生した弾性波を伝達するためのゲル化材304、306、308が、筒状の凹部310、312、314に収容されている。
【0075】
図15(B)に示すように、インクカートリッジ272のインク供給口276をサブタンクユニット256のインク供給針254に挿通すると、弁体286がバネ284に抗して後退してインク流路が形成されるので、インクカートリッジ272内のインクがインク室262に流れ込む。インク室262にインクが充填された段階で、記録ヘッド252のノズル開口に負圧を作用させて記録ヘッド252にインクを充填した後、記録動作を実行する。記録動作により記録ヘッド252でインクが消費されると、膜弁266の下流側の圧力が低下するので、膜弁266が弁体270から離れて開弁する。膜弁266の開弁によりインク室262のインクが記録ヘッド252に流れこむ。記録ヘッド252へのインクの流入に随伴してインクカートリッジ272のインクが、サブタンクユニット256に流れ込む。
【0076】
記録装置の動作期間中には、あらかじめ設定された検出のタイミング、例えば一定周期で弾性波発生手段260に駆動信号が供給される。弾性波発生手段260により発生された弾性波は、凸部258から放射され、インクカートリッジ272の底面274aのゲル化材280を伝搬してインクカートリッジ272内のインクに伝達される。図15ではキャリッジ250に弾性波発生手段260を設けたが、弾性波発生手段260をサブタンクユニット256内に設けてもよい。
【0077】
弾性波発生手段260が発生した弾性波はインク液中を伝搬するので、インク液の密度やインクの液面レベルによって、液面で反射された反射波が弾性波派生手段260へ到来する時間が変化する。したがって、インクの組成が一定である場合には液表面で生じる反射波の到来時間がインク量にだけ左右される。したがって、弾性波発生手段260の励起後のインク液表面からの反射波が弾性波発生手段260に到達するまでの時間を検出することにより、インクカートリッジ272内のインク量を検出することができる。また、弾性波発生手段260が発生する弾性波は、インクに含まれている粒子を振動させるので、顔料等の沈殿を防止する。
【0078】
印刷動作やメンテナンス動作によりインクカートリッジ272内のインクがインクエンド近くまで減少して、弾性波発生手段260による弾性波発生後のインク液表面からの反射波が受信できなくなった場合には、インクニアエンドであると判定してインクカートリッジ272の交換を促すことができる。なお、インクカートリッジ272が規定通りにキャリッジ250に装着されていない場合には、弾性波発生手段260による弾性波の伝搬形態が極端に変化する。これを利用し、弾性波の極端な変化を検知した場合には警報を発して、ユーザにインクカートリッジ272の点検を促すこともできる。
【0079】
弾性波発生手段260が発生した弾性波の反射波の弾性波発生手段260への到来時間は、容器274に収容されているインクの密度により影響を受ける。インクの種類により、インクの密度がそれぞれ異なる場合があるので、インクカートリッ272内に収容されているインクの種類に関するデータを半導体記憶手段288に格納し、それに応じた検出シーケンスを実行することによってインク残量をより正確に検出することができる。
【0080】
図17は、本発明のインクカートリッジ272の他の実施形態を示す。図17に示したインクカートリッジ272は、底面274aが上下方向に斜めに形成されている。図17のインクカートリッジ272は、インク残量が少なくなり、弾性波発生手段260の弾性波の照射領域の一部がインク液面から露出すると、弾性波発生手段260が発生した弾性波の反射波の弾性波発生手段260への到来時間が、インク液面の変化Δh1に対応して連続的に変化する。Δh1は、ゲル化材280の両端における底面274aの高さの差を示す。したがって、反射波の弾性波発生手段260への到来時間を検出することにより、インクニアエンド状態からインクエンドまでの過程を正確に検出することができる。
【0081】
図18は、本発明のインクカートリッジ272及びインクジェット記録装置の更に他の実施形態を示す。図18のインクジェット記録装置は、インクカートリッジ272のインク供給口276側の側面274bに凸部258'を有する。凸部258'は、弾性波発生手段260'を含む。凸部258'に係合するようにゲル化材280'が、インクカートリッジ272の側面274bに設けられている。図18のインクカートリッジ272によれば、インク残量が少なくなり、弾性波発生手段260'の弾性波の照射領域の一部が液面から露出すると、弾性波発生手段260'が発生した弾性波の反射波の弾性波発生手段260'への到来時間及び音響インピーダンスが、液面の変化Δh2に対応して連続的に変化する。Δh2は、ゲル化材280'の上端と下端との高さの差を表す。したがって、反射波の弾性波発生手段260'への到来時間又は音響インピーダンスの変化の度合いを検出することにより、インクニアエンド状態からインクエンドまでの過程を正確に検出することができる。
【0082】
なお、上述の実施例においては、容器274にインクを直接収容する形式のインクカートリッジに例を採って説明した。他の実施形態として、容器274に多孔質弾性体を装填し、多孔質弾性体にインクを含浸させる形式のインクカートリッジに弾性波発生手段260を適用してもよい。更に、上述の実施例においては、液面での反射波に基づいてインク残量を検出する場合に、同一の弾性波発生手段260及び260'により弾性波を送波及び受波した。本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば他の実施形態として弾性波の送波及び受波にそれぞれ異なった弾性波発生手段260を用いてもよい。
【0083】
図19は、図16に示したインクカートリッジ272の他の実施形態を示す。インクカートリッジ272は、板材316をフロート318に取付けて、インク液面を覆うことで、インク液面からの反射波の強度を上げる。板材316は、音響インピーダンスが高く、かつ耐インク性を備えた材料、たとえばセラミック等で形成されることが好ましい。
【0084】
図20および図21は、圧電装置の一実施形態であるアクチュエータ106の詳細および等価回路を示す。ここでいうアクチュエータは、少なくとも音響インピーダンスの変化を検知して液体容器内の液体の消費状態を検出する方法に用いられる。特に、残留振動により共振周波数の検出することで、少なくとも音響インピーダンスの変化を検知して液体容器内の液体の消費状態を検出する方法に用いられる。図20(A)は、アクチュエータ106の拡大平面図である。図20(B)は、アクチュエータ106のB−B断面を示す。図20(C)は、アクチュエータ106のC−C断面を示す。さらに図21(A)および図21(B)は、アクチュエータ106の等価回路を示す。また、図21(C)および図21(D)は、それぞれインクカートリッジ内にインクが満たされているときのアクチュエータ106を含む周辺およびその等価回路を示し、図21(E)および図21(F)は、それぞれインクカートリッジ内にインクが無いときのアクチュエータ106を含む周辺およびその等価回路を示す。
【0085】
アクチュエータ106は、ほぼ中央に円形状の開口161を有する基板178と、開口161を被覆するように基板178の一方の面(以下、表面という)に配備される振動板176と、振動板176の表面の側に配置される圧電層160と、圧電層160を両方からはさみこむ上部電極164および下部電極166と、上部電極164と電気的に結合する上部電極端子168と、下部電極166と電気的に結合する下部電極端子170と、上部電極164および上部電極端子168の間に配設され、かつ両者を電気的に結合する補助電極172と、を有する。圧電層160、上部電極164および下部電極166はそれぞれの主要部として円形部分を有する。圧電層160、上部電極164および下部電極166のそれぞれの円形部分は圧電素子を形成する。
【0086】
振動板176は、基板178の表面に、開口161を覆うように形成される。キャビティ162は、振動板176の開口161と面する部分と基板178の表面の開口161とによって形成される。基板178の圧電素子とは反対側の面(以下、裏面という)は液体容器側に面しており、キャビティ162は液体と接触するように構成されている。キャビティ162内に液体が入っても基板178の表面側に液体が漏れないように、振動板176は基板178に対して液密に取り付けられる。
【0087】
下部電極166は振動板176の表面、即ち液体容器とは反対側の面に位置しており、下部電極166の主要部である円形部分の中心と開口161の中心とがほぼ一致するように取り付けられている。なお、下部電極166の円形部分の面積が開口161の面積よりも小さくなるように設定されている。一方、下部電極166の表面側には、圧電層160が、その円形部分の中心と開口161の中心とがほぼ一致するように形成されている。圧電層160の円形部分の面積は、開口161の面積よりも小さく、かつ下部電極166の円形部分の面積よりも大きくなるように設定されている。
【0088】
一方、圧電層160の表面側には、上部電極164が、その主要部である円形部分の中心と開口161の中心とがほぼ一致するように形成される。上部電極164の円形部分の面積は、開口161および圧電層160の円形部分の面積よりも小さく、かつ下部電極166の円形部分の面積よりも大きくなるよう設定されている。
【0089】
したがって、圧電層160の主要部は、上部電極164の主要部と下部電極166の主要部とによって、それぞれ表面側と裏面側とから挟みこまれる構造となっていて、圧電層160を効果的に変形駆動することができる。圧電層160、上部電極164および下部電極166のそれぞれの主要部である円形部分がアクチュエータ106における圧電素子を形成する。上述のように圧電素子は振動板176に接している。また、上部電極164の円形部分、圧電層160の円形部分、下部電極166の円形部分および開口161のうちで、面積が最も大きいのは開口161である。この構造によって、振動板176のうち実際に振動する振動領域は、開口161によって決定される。また、上部電極164の円形部分、圧電層160の円形部分および下部電極166の円形部分は開口161より面積が小さいので、振動板176がより振動しやすくなる。さらに、圧電層160と電気的に接続する下部電極166の円形部分および上部電極164の円形部分のうち、下部電極166の円形部分の方が小さい。従って、下部端子166の円形部分が圧電層160のうち圧電効果を発生する部分を決定する。
【0090】
上部電極端子168は、補助電極172を介して上部電極164と電気的に接続するように振動板176の表面側に形成される。一方、下部電極端子170は、下部電極166に電気的に接続するように振動板176の表面側に形成される。上部電極164は、圧電層160の表面側に形成されるため、上部電極端子168と接続する途中において、圧電層160の厚さと下部電極166の厚さとの和に等しい段差を有する必要がある。上部電極164だけでこの段差を形成することは難しく、かりに可能であったとしても上部電極164と上部電極端子168との接続状態が弱くなってしまい、切断してしまう危険がある。そこで、補助電極172を補助部材として用いて上部電極164と上部電極端子168とを接続させている。このようにすることで、圧電層160も上部電極164も補助電極172に支持された構造となり、所望の機械的強度を得ることができ、また上部電極164と上部電極端子168との接続を確実にすることが可能となる。
【0091】
なお、圧電素子と振動板176のうちの圧電素子に直面する振動領域とが、アクチュエータ106において実際に振動する振動部である。また、アクチュエータ106に含まれる部材は、互いに焼成されることによって一体的に形成されることが好ましい。アクチュエータ106を一体的に形成することによって、アクチュエータ106の取り扱いが容易になる。さらに、基板178の強度を高めることによって振動特性が向上する。即ち、基板178の強度を高めることによって、アクチュエータ106の振動部のみが振動し、アクチュエータ106のうち振動部以外の部分が振動しない。また、アクチュエータ106の振動部以外の部分が振動しないためには、基板178の強度を高めるのに対し、アクチュエータ106の圧電素子を薄くかつ小さくし、振動板176を薄くすることによって達成できる。
【0092】
圧電層160の材料としては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)または鉛を使用しない鉛レス圧電膜を用いることが好ましく、基板178の材料としてジルコニアまたはアルミナを用いることが好ましい。また、振動板176には、基板178と同じ材料を用いることが好ましい。上部電極164、下部電極166、上部電極端子168および下部電極端子170は、導電性を有する材料、例えば、金、銀、銅、プラチナ、アルミニウム、ニッケルなどの金属を用いることができる。
【0093】
上述したように構成されるアクチュエータ106は、液体を収容する容器に適用することができる。例えば、インクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジやインクタンク、あるいは記録ヘッドを洗浄するための洗浄液を収容した容器などに装着することができる。
【0094】
図20および図21に示されるアクチュエータ106は、液体容器の所定の場所に、キャビティ162を液体容器内に収容される液体と接触するように装着される。液体容器に液体が十分に収容されている場合には、キャビティ162内およびその外側は液体によって満たされている。一方、液体容器の液体が消費され、アクチュエータの装着位置以下まで液面が降下すると、キャビティ162内には液体は存在しないか、あるいはキャビティ162内にのみ液体が残存されその外側には気体が存在する状態となる。アクチュエータ106は、この状態の変化に起因する、少なくとも音響インピーダンスの相違を検出する。それによって、アクチュエータ106は、液体容器に液体が十分に収容されている状態であるか、あるいはある一定以上の液体が消費された状態であるかを検知することができる。さらに、アクチュエータ106は、液体容器内の液体の種類も検出することが可能である。
【0095】
ここでアクチュエータによる液面検出の原理について説明する。
【0096】
媒体の音響インピーダンスの変化を検出するには、媒体のインピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定する。インピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定する場合には、例えば伝送回路を利用することができる。伝送回路は、媒体に一定電圧を印加し、周波数を変えて媒体に流れる電流を測定する。または、伝送回路は、媒体に一定電流を供給し、周波数を変えて媒体に印加される電圧を測定する。伝送回路で測定された電流値または電圧値の変化は音響インピーダンスの変化を示す。また、電流値または電圧値が極大または極小となる周波数fmの変化も音響インピーダンスの変化を示す。
【0097】
上記の方法とは別に、アクチュエータは、液体の音響インピーダンスの変化を共振周波数のみの変化を用いて検出することができる。液体の音響インピーダンスの変化を利用する方法として、アクチュエータの振動部が振動した後に振動部に残留する残留振動によって生ずる逆起電力を測定することによって共振周波数を検出する方法を用いる場合には、例えば圧電素子を利用することができる。圧電素子は、アクチュエータの振動部に残留する残留振動により逆起電力を発生する素子であり、アクチュエータの振動部の振幅によって逆起電力の大きさが変化する。従って、アクチュエータの振動部の振幅が大きいほど検出がしやすい。また、アクチュエータの振動部における残留振動の周波数によって逆起電力の大きさが変化する周期が変わる。従って、アクチュエータの振動部の周波数は逆起電力の周波数に対応する。ここで、共振周波数は、アクチュエータの振動部と振動部に接する媒体との共振状態における周波数をいう。
【0098】
共振周波数fsを得るために、振動部と媒体とが共振状態であるときの逆起電力測定によって得られた波形をフーリエ変換する。アクチュエータの振動は、一方向だけの変形ではなく、たわみや伸長等様々な変形をともなうので、共振周波数fsを含め様々な周波数を有する。よって、圧電素子と媒体とが共振状態であるときの逆起電力の波形をフーリエ変換し、最も支配的な周波数成分を特定することで、共振周波数fsを判断する。
【0099】
周波数fmは、媒体のアドミッタンスが極大またはインピーダンスが極小であるときの周波数である。共振周波数fsとすると、周波数fmは、媒体の誘電損失または機械的損失などによって、共振周波数fsに対しわずかな誤差を生ずる。しかし、実測される周波数fmから共振周波数fsを導出することは手間がかかるため、一般には、周波数fmを共振周波数に代えて使用する。ここで、アクチュエータ106の出力を伝送回路に入力することで、アクチュエータ106は少なくとも音響インピーダンスを検出することができる。
【0100】
媒体のインピーダンス特性またはアドミッタンス特性を測定し周波数fmを測定する方法と、アクチュエータの振動部における残留振動振動によって生ずる逆起電力を測定することによって共振周波数fsを測定する方法と、によって特定される共振周波数に差がほとんど無いことが実験によって証明されている。
【0101】
アクチュエータ106の振動領域は、振動板176のうち開口161によって決定されるキャビティ162を構成する部分である。液体容器内に液体が充分に収容されている場合には、キャビティ162内には、液体が満たされ、振動領域は液体容器内の液体と接触する。一方で、液体容器内に液体が充分にない場合には、振動領域は液体容器内のキャビティに残った液体と接するか、あるいは液体と接触せず、気体または真空と接触する。
【0102】
本発明のアクチュエータ106にはキャビティ162が設けられ、それによって、アクチュエータ106の振動領域に液体容器内の液体が残るように設計できる。その理由は次の通りである。
【0103】
アクチュエータの液体容器への取り付け位置や取り付け角度によっては、液体容器内の液体の液面がアクチュエータの装着位置よりも下方にあるにもかかわらず、アクチュエータの振動領域に液体が付着してしまう場合がある。振動領域における液体の有無だけでアクチュエータが液体の有無を検出している場合には、アクチュエータの振動領域に付着した液体が液体の有無の正確な検出を妨げる。たとえば、液面がアクチュエータの装着位置よりも下方にある状態のとき、キャリッジの往復移動などにより液体容器が揺動して液体が波うち、振動領域に液滴が付着してしまうと、アクチュエータは液体容器内に液体が充分にあるとの誤った判断をしてしまう。そこで、逆にそこに液体を残存した場合であっても液体の有無を正確に検出するように設計されたキャビティを積極的に設けることで、液体容器が揺動して液面が波立ったとしても、アクチュエータの誤動作を防止することができる。このように、キャビティを有するアクチュエータを用いることで、誤動作を防ぐことができる。
【0104】
また、図21(E)に示すように、液体容器内に液体が無く、アクチュエータ106のキャビティ162に液体容器内の液体が残っている場合を、液体の有無の閾値とする。すなわち、キャビティ162の周辺に液体が無く、この閾値よりキャビティ内の液体が少ない場合は、インク無しと判断し、キャビティ162の周辺に液体が有り、この閾値より液体が多い場合は、インク有りと判断する。例えば、アクチュエータ106を液体容器の側壁に装着した場合、液体容器内の液体がアクチュエータの装着位置よりも下にある場合をインク無しと判断し、液体容器内の液体がアクチュエータの装着位置より上にある場合をインク有りと判断する。このように閾値を設定することによって、キャビティ内のインクが乾燥してインクが無くなったときであってもインク無しと判断し、キャビティ内のインクが無くなったところにキャリッジの揺れなどで再度インクがキャビティに付着しても閾値を越えないので、インク無しと判断することができる。
【0105】
ここで、図20および図21を参照しながら逆起電力の測定による媒体とアクチュエータ106の振動部との共振周波数から液体容器内の液体の状態を検出する動作および原理について説明する。アクチュエータ106において、上部電極端子168および下部電極端子170を介して、それぞれ上部電極164および下部電極166に電圧を印加する。圧電層160のうち、上部電極164および下部電極166に挟まれた部分には電界が生じる。その電界によって、圧電層160は変形する。圧電層160が変形することによって振動板176のうちの振動領域がたわみ振動する。圧電層160が変形した後しばらくは、たわみ振動がアクチュエータ106の振動部に残留する。
【0106】
残留振動は、アクチュエータ106の振動部と媒体との自由振動である。従って、圧電層160に印加する電圧をパルス波形あるいは矩形波とすることで、電圧を印加した後に振動部と媒体との共振状態を容易に得ることができる。残留振動は、アクチュエータ106の振動部を振動させるため、圧電層160をも変形する。従って、圧電層160は逆起電力を発生する。その逆起電力は、上部電極164、下部電極166、上部電極端子168および下部電極端子170を介して検出される。検出された逆起電力によって、共振周波数が特定できるため、液体容器内の液体の状態を検出することができる。
【0107】
一般に、共振周波数fsは、
fs=1/(2*π*(M*Cact)1/2) (式1)
で表される。ここで、Mは振動部のイナータンスMactと付加イナータンスM'との和である。Cactは振動部のコンプライアンスである。
【0108】
図20(C)は、本実施例において、キャビティにインクが残存していないときのアクチュエータ106の断面図である。図21(A)および図21(B)は、キャビティにインクが残存していないときのアクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路である。
【0109】
Mactは、振動部の厚さと振動部の密度との積を振動部の面積で除したものであり、さらに詳細には、図21(A)に示すように、
Mact=Mpzt+Melectrode1+Melectrode2+Mvib (式2)と表される。ここで、Mpztは、振動部における圧電層160の厚さと圧電層160の密度との積を圧電層160の面積で除したものである。Melectrode1は、振動部における上部電極164の厚さと上部電極164の密度との積を上部電極164の面積で除したものである。Melectrode2は、振動部における下部電極166の厚さと下部電極166の密度との積を下部電極166の面積で除したものである。Mvibは、振動部における振動板176の厚さと振動板176の密度との積を振動板176の振動領域の面積で除したものである。ただし、Mactを振動部全体としての厚さ、密度および面積から算出することができるように、本実施例では、圧電層160、上部電極164、下部電極166および振動板176の振動領域のそれぞれの面積は、上述のような大小関係を有するものの、相互の面積の差は微小であることが好ましい。また、本実施例において、圧電層160、上部電極164および下部電極166においては、それらの主要部である円形部分以外の部分は、主要部に対して無視できるほど微小であることが好ましい。従って、アクチュエータ106において、Mactは、上部電極164、下部電極166、圧電層160および振動板176のうちの振動領域のそれぞれのイナータンスの和である。また、コンプライアンスCactは、上部電極164、下部電極166、圧電層160および振動板176のうちの振動領域によって形成される部分のコンプライアンスである。
【0110】
尚、図21(A)、図21(B)、図21(D)、図21(F)は、アクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路を示すが、これらの等価回路において、Cactはアクチュエータ106の振動部のコンプライアンスを示す。Cpzt、Celectrode1、Celectrode2およびCvibはそれぞれ振動部における圧電層160、上部電極164、下部電極166および振動板176のコンプライアンスを示す。Cactは、以下の式3で表される。
【0111】
1/Cact=(1/Cpzt)+(1/Celectrode1)+(1/Celectrode2)+(1/Cvib) (式3)
式2および式3より、図21(A)は、図21(B)のように表すこともできる。
【0112】
コンプライアンスCactは、振動部の単位面積に圧力をかけたときの変形によって媒体を受容できる体積を表す。また、コンプライアンスCactは、変形のし易さを表すといってもよい。
【0113】
図21(C)は、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合のアクチュエータ106の断面図を示す。図21(C)のM'maxは、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合の付加イナータンスの最大値を表す。M'maxは、
【0114】
M'max=(π*ρ/(2*k3))*(2*(2*k*a)3/(3*π))/(π*a2)2 (式4)(aは振動部の半径、ρは媒体の密度、kは波数である。)
【0115】
で表される。尚、式4は、アクチュエータ106の振動領域が半径aの円形である場合に成立する。付加イナータンスM'は、振動部の付近にある媒体の作用によって、振動部の質量が見かけ上増加していることを示す量である。式4からわかるように、M'maxは振動部の半径aと、媒体の密度ρとによって大きく変化する。
【0116】
波数kは、
k=2*π*fact/c (式5)
(factは液体が触れていないときの振動部の共振周波数である。cは媒体中を伝播する音響の速度である。)
【0117】
で表される。
【0118】
図21(D)は、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている図21(C)の場合のアクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路を示す。
【0119】
図21(E)は、液体容器の液体が消費され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が無いものの、アクチュエータ106のキャビティ162内には液体が残存している場合のアクチュエータ106の断面図を示す。式4は、例えば、液体容器に液体が満たされている場合に、インクの密度ρなどから決定される最大のイナータンスM'maxを表す式である。一方、液体容器内の液体が消費され、キャビティ162内に液体が残留しつつアクチュエータ106の振動領域の周辺にある液体が気体または真空になった場合には、
【0120】
M'=ρ*t/S (式6)
と表せる。tは、振動にかかわる媒体の厚さである。Sは、アクチュエータ106の振動領域の面積である。この振動領域が半径aの円形の場合は、S=π*a2である。従って、付加イナータンスM'は、液体容器に液体が十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合には、式4に従う。一方で、液体が消費され、キャビティ162内に液体が残留しつつアクチュエータ106の振動領域の周辺にある液体が気体または真空になった場合には、式6に従う。
【0121】
ここで、図21(E)のように、液体容器の液体が消費され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が無いものの、アクチュエータ106のキャビティ162内には液体が残存している場合の付加イナータンスM'を便宜的にM'cavとし、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が満たされている場合の付加イナータンスM'maxと区別する。
【0122】
図21(F)は、液体容器の液体が消費され、アクチュエータ106の振動領域の周辺に液体が無いものの、アクチュエータ106のキャビティ162内には液体が残存している図21(E)の場合のアクチュエータ106の振動部およびキャビティ162の等価回路を示す。
【0123】
ここで、媒体の状態に関係するパラメータは、式6において、媒体の密度ρおよび媒体の厚さtである。液体容器内に液体が充分に収容されている場合は、アクチュエータ106の振動部に液体が接触し、液体容器内に液体が充分に収容されていない場合は、キャビティ内部に液体が残存するか、もしくはアクチュエータ106の振動部に気体または真空が接触する。アクチュエータ106の周辺の液体が消費され、図21(C)のM'maxから図21(E)のM'cavへ移行する過程における付加イナータンスをM'varとすると、液体容器内の液体の収容状態によって、媒体の厚さtが変化するため、付加イナータンスM'varが変化し、共振周波数fsも変化することになる。従って、共振周波数fsを特定することによって、液体容器内の液体の有無を検出することができる。ここで、図21(E)に示すようにt=dとした場合、式6を用いてM'cavを表すと、式6のtにキャビティの深さdを代入し、
【0124】
M'cav=ρ*d/S (式7)
となる。
【0125】
また、媒体が互いに種類の異なる液体であっても、組成の違いによって密度ρが異なるため、付加イナータンスM'が変化し、共振周波数fsも変化する。従って、共振周波数fsを特定することで、液体の種類を検出できる。
尚、アクチュエータ106の振動部にインクまたは空気のいずれか一方のみが接触し、混在していない場合には、式4によって計算しても、M'の相違を検出できる。
【0126】
図22(A)は、インクタンク内のインクの量とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を示すグラフである。ここでは液体の1例としてインクについて説明する。縦軸は、共振周波数fsを示し、横軸は、インク量を示す。インク組成が一定であるとき、インク残量の低下に伴い、共振周波数fsは、上昇する。
【0127】
インク容器にインクが十分に収容され、アクチュエータ106の振動領域の周辺にインクが満たされている場合には、その最大付加イナータンスM'maxは式4に表わされる値となる。一方で、インクが消費され、キャビティ162内に液体が残留しつつアクチュエータ106の振動領域の周辺にインクが満たされていないときには、付加イナータンスM'varは、媒体の厚さtに基づいて式6によって算出される。式6中のtは振動にかかわる媒体の厚さであるから、アクチュエータ106のキャビティ162のd(図20(B)参照)を小さく、即ち、基板178を十分に薄くすることによって、インクが徐々に消費されていく過程を検出することもできる(図21(C)参照)。ここで、tinkは振動にかかわるインクの厚さとし、tink−maxはM'maxにおけるtinkとする。例えば、インクカートリッジの底面にアクチュエータ106をインクの液面に対してほぼ水平に配備する。インクが消費され、インクの液面がアクチュエータ106からtink−maxの高さ以下に達すると、式6によりM'varが徐々に変化し、式1により共振周波数fsが徐々に変化する。従って、インクの液面がtの範囲内にある限り、アクチュエータ106はインクの消費状態を徐々に検出することができる。
【0128】
また、アクチュエータ106の振動領域を大きくまたは長くし、かつ縦に配置することによってインクの消費による液面の位置にしたがって、式6中のSが変化する。従って、アクチュエータ106はインクが徐々に消費されていく過程を検出することもできる。例えば、インクカートリッジの側壁にアクチュエータ106をインクの液面に対してほぼ垂直に配備する。インクが消費され、インクの液面がアクチュエータ106の振動領域に達すると、水位の低下に伴い付加イナータンスM'が減少するので、式1により共振周波数fsが徐々に増加する。従って、インクの液面が、キャビティ162の径2a(図21(C)参照)の範囲内にある限り、アクチュエータ106はインクの消費状態を徐々に検出することができる。
【0129】
図22(A)の曲線Xは、アクチュエータ106のキャビティ162を十分に浅くした場合や、アクチュエータ106の振動領域を十分に大きくまたは長くした場合のインクタンク内に収容されたインクの量とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を表わしている。インクタンク内のインクの量が減少するとともに、インクおよび振動部の共振周波数fsが徐々に変化していく様子が理解できる。
【0130】
より詳細には、インクが徐々に消費されていく過程を検出することができる場合とは、アクチュエータ106の振動領域の周辺において、互いに密度が異なる液体と気体とがともに存在し、かつ振動にかかわる場合である。インクが徐々に消費されていくに従って、アクチュエータ106の振動領域周辺において振動にかかわる媒体は、液体が減少する一方で気体が増加する。例えば、アクチュエータ106をインクの液面に対して水平に配備した場合であって、tinkがtink−maxより小さいときには、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体はインクと気体との両方を含む。したがって、アクチュエータ106の振動領域の面積Sとすると、式4のM'max以下になった状態をインクと気体の付加質量で表すと、
【0131】
M'=M'air+M'ink=ρair*tair/S+ρink*tink/S (式8)となる。ここで、M'airは空気のイナータンスであり、M'inkはインクのイナータンスである。ρairは空気の密度であり、ρinkはインクの密度である。tairは振動にかかわる空気の厚さであり、tinkは振動にかかわるインクの厚さである。アクチュエータ106の振動領域周辺における振動にかかわる媒体のうち、液体が減少して気体が増加するに従い、アクチュエータ106がインクの液面に対しほぼ水平に配備されている場合には、tairが増加し、tinkが減少する。それによって、M'varが徐々に減少し、共振周波数が徐々に増加する。よって、インクタンク内に残存しているインクの量またはインクの消費量を検出することができる。尚、式7において液体の密度のみの式となっているのは、液体の密度に対して、空気の密度が無視できるほど小さい場合を想定しているからである。
【0132】
アクチュエータ106がインクの液面に対しほぼ垂直に配備されている場合には、アクチュエータ106の振動領域のうち、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体がインクのみの領域と、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体が気体の領域との並列の等価回路(図示せず)と考えられる。アクチュエータ106の振動にかかわる媒体がインクのみの領域の面積をSinkとし、アクチュエータ106の振動にかかわる媒体が気体のみの領域の面積をSairとすると、
【0133】
1/M'=1/M'air+1/M'ink=Sair/(ρair*tair)+Sink/(ρink*tink) (式9)となる。
【0134】
尚、式9は、アクチュエータ106のキャビティにインクが保持されない場合に適用される。アクチュエータ106のキャビティにインクが保持される場合については、式7、式8および式9によって計算することができる。
【0135】
一方、基板178が厚く、即ち、キャビティ162の深さdが深く、dが媒体の厚さtink−maxに比較的近い場合や、液体容器の高さに比して振動領域が非常に小さいアクチュエータを用いる場合には、実際上はインクが徐々に減少する過程を検出するというよりはインクの液面がアクチュエータの装着位置より上位置か下位置かを検出することになる。換言すると、アクチュエータの振動領域におけるインクの有無を検出することになる。例えば、図22(A)の曲線Yは、小さい円形の振動領域の場合におけるインクタンク内のインクの量とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を示す。インクタンク内のインクの液面がアクチュエータの装着位置を通過する前後におけるインク量Qの間で、インクおよび振動部の共振周波数fsが激しく変化している様子が示される。このことから、インクタンク内にインクが所定量残存しているか否かを検出することができる。
【0136】
図22(B)は、図22(A)の曲線Yにおけるインクの密度とインクおよび振動部の共振周波数fsとの関係を示す。液体の例としてインクを挙げている。図22(B)に示すように、インク密度が高くなると、付加イナータンスが大きくなるので共振周波数fsが低下する。すなわち、インクの種類によって共振周波数fsが異なる。したがって共振周波数fsを測定することによって、インクを再充填する際に、密度の異なったインクが混入されていないか確認することができる。
【0137】
つまり、互いに種類の異なるインクを収容するインクタンクを識別できる。
【0138】
続いて、液体容器内の液体が空の状態であってもアクチュエータ106のキャビティ162内に液体が残存するようにキャビティのサイズと形状を設定した時の、液体の状態を正確に検出できる条件を詳述する。アクチュエータ106は、キャビティ162内に液体が満たされている場合に液体の状態を検出できれば、キャビティ162内に液体が満たされていない場合であっても液体の状態を検出できる。
【0139】
共振周波数fsは、イナータンスMの関数である。イナータンスMは、振動部のイナータンスMactと付加イナータンスM'との和である。ここで、付加イナータンスM'が液体の状態と関係する。付加イナータンスM'は、振動部の付近にある媒体の作用によって振動部の質量が見かけ上増加していることを示す量である。即ち、振動部の振動によって見かけ上媒体を吸収することによる振動部の質量の増加分をいう。
【0140】
従って、M'cavが式4におけるM'maxよりも大きい場合には、見かけ上吸収する媒体は全てキャビティ162内に残存する液体である。よって、液体容器内に液体が満たされている状態と同じである。この場合にはM'が変化しないので、共振周波数fsも変化しない。従って、アクチュエータ106は、液体容器内の液体の状態を検出できないことになる。
【0141】
一方、M'cavが式4におけるM'maxよりも小さい場合には、見かけ上吸収する媒体はキャビティ162内に残存する液体および液体容器内の気体または真空である。このときには液体容器内に液体が満たされている状態とは異なりM'が変化するので、共振周波数fsが変化する。従って、アクチュエータ106は、液体容器内の液体の状態を検出できる。
【0142】
即ち、液体容器内の液体が空の状態で、アクチュエータ106のキャビティ162内に液体が残存する場合に、アクチュエータ106が液体の状態を正確に検出できる条件は、M'cavがM'maxよりも小さいことである。尚、アクチュエータ106が液体の状態を正確に検出できる条件M'max>M'cavは、キャビティ162の形状にかかわらない。
【0143】
ここで、M'cavは、キャビティ162の容量とほぼ等しい容量の液体の質量である。従って、M'max>M'cavの不等式から、アクチュエータ106が液体の状態を正確に検出できる条件は、キャビティ162の容量の条件として表すことができる。例えば、円形状のキャビティ162の開口161の半径をaとし、およびキャビティ162の深さをdとすると、
【0144】
M'max>ρ*d/πa2 (式10)
である。式10を展開すると
【0145】
a/d>3*π/8 (式11)
という条件が求められる。尚、式10、式11は、キャビティ162の形状が円形の場合に限り成立する。円形でない場合のM'maxの式を用い、式10中のπa2をその面積と置き換えて計算すれば、キャビティの幅および長さ等のディメンジョンと深さの関係が導き出せる。
【0146】
従って、式11を満たす開口161の半径aおよびキャビティ162の深さdであるキャビティ162を有するアクチュエータ106であれば、液体容器内の液体が空の状態であって、かつキャビティ162内に液体が残存する場合であっても、誤作動することなく液体の状態を検出できる。
【0147】
付加イナータンスM'は音響インピーダンス特性にも影響するので、残留振動によりアクチュエータ106に発生する逆起電力を測定する方法は、少なくとも音響インピーダンスの変化を検出しているともいえる。
【0148】
また、本実施例によれば、アクチュエータ106が振動を発生してその後の残留振動によりアクチュエータ106に発生する逆起電力を測定している。しかし、アクチュエータ106の振動部が駆動電圧による自らの振動によって液体に振動を与えることは必ずしも必要ではない。即ち、振動部が自ら発振しなくても、それと接触しているある範囲の液体と共に振動することで、圧電層160がたわみ変形する。この残留振動が圧電層160に逆起電力電圧を発生させ、上部電極164および下部電極166にその逆起電力電圧を伝達する。この現象を利用することで媒体の状態を検出してもよい。例えば、インクジェット記録装置において、印字時における印字ヘッドの走査によるキャリッジの往復運動による振動によって発生するアクチュエータの振動部の周囲の振動を利用してインクタンクまたはその内部のインクの状態を検出してもよい。
【0149】
図23(A)および図23(B)は、アクチュエータ106を振動させた後の、アクチュエータ106の残留振動の波形と残留振動の測定方法とを示す。インクカートリッジ内のアクチュエータ106の装着位置レベルにおけるインク水位の上下は、アクチュエータ106が発振した後の残留振動の周波数変化や、振幅の変化によって検出することができる。図23(A)および図23(B)において、縦軸はアクチュエータ106の残留振動によって発生した逆起電力の電圧を示し、横軸は時間を示す。アクチュエータ106の残留振動によって、図23(A)および図23(B)に示すように電圧のアナログ信号の波形が発生する。次に、アナログ信号を、信号の周波数に対応するデジタル数値に変換する。
【0150】
図23(A)および図23(B)に示した例においては、アナログ信号の4パルス目から8パルス目までの4個のパルスが生じる時間を計測することによって、インクの有無を検出する。
【0151】
より詳細には、アクチュエータ106が発振した後、予め設定された所定の基準電圧を低電圧側から高電圧側へ横切る回数をカウントする。デジタル信号を4カウントから8カウントまでの間をHighとし、所定のクロックパルスによって4カウントから8カウントまでの時間を計測する。
【0152】
図23(A)はアクチュエータ106の装着位置レベルよりも上位にインク液面があるときの波形である。一方、図23(B)はアクチュエータ106の装着位置レベルにおいてインクが無いときの波形である。図23(A)と図23(B)とを比較すると、図23(A)の方が図23(B)よりも4カウントから8カウントまでの時間が長いことがわかる。換言すると、インクの有無によって4カウントから8カウントまでの時間が異なる。この時間の相違を利用して、インクの消費状態を検出することができる。アナログ波形の4カウント目から数えるのは、アクチュエータ106の振動が安定してから計測をはじめるためである。4カウント目からとしたのは単なる一例であって、任意のカウントから数えてもよい。ここでは、4カウント目から8カウント目までの信号を検出し、所定のクロックパルスによって4カウント目から8カウント目までの時間を測定する。それによって、共振周波数を求める。クロックパルスは、インクカートリッジに取り付けられる半導体記憶装置等を制御するためのクロックと等しいクロックのパルスであることが好ましい。尚、8カウント目までの時間を測定する必要は無く、任意のカウントまで数えてもよい。図23においては、4カウント目から8カウント目までの時間を測定しているが周波数を検出する回路構成にしたがって、異なったカウント間隔内の時間を検出してもよい。
【0153】
例えば、インクの品質が安定していてピークの振幅の変動が小さい場合には、検出の速度を上げるために4カウント目から6カウント目までの時間を検出することにより共振周波数を求めてもよい。また、インクの品質が不安定でパルスの振幅の変動が大きい場合には、残留振動を正確に検出するために4カウント目から12カウント目までの時間を検出してもよい。
【0154】
また、他の実施例として所定期間内における逆起電力の電圧波形の波数を数えてもよい(図示せず)。この方法によっても共振周波数を求めることができる。より詳細には、アクチュエータ106が発振した後、所定期間だけデジタル信号をHighとし、所定の基準電圧を低電圧側から高電圧側へ横切る回数をカウントする。そのカウント数を計測することによってインクの有無を検出できるのである。
【0155】
さらに、図23(A)および図23(B)を比較して分かるように、インクがインクカートリッジ内に満たされている場合とインクがインクカートリッジ内に無い場合とでは、逆起電力波形の振幅が異なる。従って、共振周波数を求めることなく、逆起電力波形の振幅を測定することによっても、インクカートリッジ内のインクの消費状態を検出してもよい。より詳細には、例えば、図23(A)の逆起電力波形の頂点と図23(B)の逆起電力波形の頂点との間に基準電圧を設定する。アクチュエータ106が発振した後、所定時間にデジタル信号をHighとし、逆起電力波形が基準電圧を横切った場合には、インクが無いと判断する。逆起電力波形が基準電圧を横切らない場合には、インクが有ると判断する。
【0156】
図24は、アクチュエータ106の製造方法を示す。複数のアクチュエータ106(図24の例では4個)が一体に形成されている。図24に示した複数のアクチュエータの一体成形物を、それぞれのアクチュエータ106において切断することにより、図25に示すアクチュエータ106を製造する。図24に示す一体成形された複数のアクチュエータ106のそれぞれの圧電素子が円形である場合、一体成形物をそれぞれのアクチュエータ106において切断することにより、図20に示すアクチュエータ106を製造することができる。複数のアクチュエータ106を一体に形成することにより、複数のアクチュエータ106を同時に効率良く製造することができ、運搬時の取り扱いが容易となる。
【0157】
アクチュエータ106は、薄板又は振動板176、基板178、弾性波発生手段又は圧電素子174、端子形成部材又は上部電極端子168、及び端子形成部材又は下部電極端子170を有する。圧電素子174は、圧電振動板又は圧電層160、上電極又は上部電極164、及び下電極又は下部電極166を含む。基板178の上面に振動板176が、形成され、振動板176の上面に下部電極166が形成されている。下部電極166の上面には、圧電層160が形成され、圧電層160の上面に、上部電極164が、形成されている。したがって、圧電層160の主要部は、上部電極164の主要部及び下部電極166の主要部によって、上下から挟まれるように形成されている。
【0158】
振動板176上に複数(図24の例では4個)の圧電素子174が形成されている。振動板176の表面に下部電極166が形成され、下部電極166の表面に圧電層160が形成され、圧電層160の上面に上部電極164が形成される。上部電極164及び下部電極166の端部に上部電極端子168及び下部電極端子170が形成される。4個のアクチュエータ106は、それぞれ別々に切断されて個別に使用される。
【0159】
図25は、圧電素子が矩形のアクチュエータ106の一部分の断面を示す。
【0160】
図26は、図25に示したアクチュエータ106の全体の断面を示す。基板178の圧電素子174と対向する面には、貫通孔178aが形成されている。貫通孔178aは振動板176によって封止されている。振動板176はアルミナや酸化ジルコニア等の電気絶縁性を備え、かつ弾性変形可能な材料によって形成されている。貫通孔178aと対向するように、圧電素子174が振動板176上に形成されている。下部電極166は貫通孔178aの領域から一方向、図26では左方に延びるように振動板176の表面に形成されている。上部電極164は貫通孔178aの領域から下部電極とは反対の方向に、図26では右方に延びるように圧電層160の表面に形成されている。上部電極端子168及び下部電極端子170は、それぞれ補助電極172及び下部電極166の上面に形成されている。下部電極端子170は下部電極166と電気的に接触し、上部電極端子168は補助電極172を介して上部電極164と電気的に接触して、圧電素子とアクチュエータ106の外部との間の信号の受け渡しをする。上部電極端子168及び下部電極端子170は、電極と圧電層とを合わせた圧電素子の高さ以上の高さを有する。
【0161】
図27は、図24に示したアクチュエータ106の製造方法を示す。まず、グリーンシート940にプレスあるいはレーザー加工等を用いて貫通孔940aを穿孔する。グリーンシート940は焼成後に基板178となる。グリーンシート940はセラミック等の材料で形成される。次に、グリーンシート940の表面にグリーンシート941を積層する。グリーンシート941は、焼成後に振動板176となる。グリーンシート941は、酸化ジルコニア等の材料で形成される。次に、グリーンシート941の表面に導電層942、圧電層160、導電層944を圧膜印刷等の方法で順次形成する。導電層942は、後に下部電極166となり、導電層944は、後に上部電極164となる。次に、形成されたグリーンシート940、グリーンシート941、導電層942、圧電層160、及び導電層944を乾燥して焼成する。スペーサ部材947、948は、上部電極端子168と下部電極端子170の高さを底上げして圧電素子より高くする。スペーサ部材947、948は、グリーンシート940、941と同材料を印刷、あるいはグリーンシートを積層して形成する。このスペーサ部材947,948により貴金属である上部電極端子168及び下部電極端子170の材料が少なくて済む上に、上部電極端子168及び下部電極端子170の厚みを薄くできるので、上部電極端子168及び下部電極端子170を精度良く印刷でき、さらに安定した高さとすることができる。
【0162】
導電層942の形成時に導電層944との接続部944'及びスペーサ部材947及び948を同時に形成すると、上部電極端子168及び下部電極端子170を容易に形成したり、強固に固定することができる。最後に、導電層942及び導電層944の端部領域に、上部電極端子168及び下部電極端子170を形成する。上部電極端子168及び下部電極端子170を形成する際、上部電極端子168及び下部電極端子170が、圧電層160に電気的に接続されるように形成する。
【0163】
図28は、本発明が適用されるインクカートリッジのさらに他の実施形態を示す。図28(A)は、本実施形態によるインクカートリッジの底部の断面図である。本実施形態のインクカートリッジは、インクを収容する容器1の底面1aに貫通孔1cを有する。貫通孔1cの底部はアクチュエータ650によって塞がれ、インク溜部を形成する。
【0164】
図28(B)は、図28(A)に示したアクチュエータ650及び貫通孔1cの詳細な断面を示す。図28(C)は、図28(B)に示したアクチュエータ650及び貫通孔1cの平面を示す。アクチュエータ650は振動板72および振動板72に固定された圧電素子73とを有する。振動板72及び基板71を介して圧電素子73が貫通孔1cに対向するように、アクチュエータ650は、容器1の底面に固定される。振動板72は、弾性変形可能で耐インク性を備える。
【0165】
容器1のインク量に依存して、圧電素子73及び振動板72の残留振動によって発生する逆起電力の振幅及び周波数が変化する。アクチュエータ650に対向する位置に貫通孔1cが形成されていて、最小限の一定量のインクが貫通孔1cに確保される。したがって、貫通孔1cに確保されるインク量により決まるアクチュエータ650の振動の特性を予め測定しておくことにより、容器1のインクエンドを確実に検出することができる。
【0166】
図29は貫通孔1cの他の実施形態を示す。図29(A)、(B)、及び(C)のそれぞれにおいて、左側の図は、貫通孔1cにインクKが無い状態を示し、右側の図は、貫通孔1cにインクKが残った状態を示す。図28の実施形態においては、貫通孔1cの側面は垂直な壁として形成されている。図29(A)においては、貫通孔1cは、側面1dが上下方向に斜めであり外側に拡大して開いている。図29(B)においては、段差部1e及び1fが、貫通孔1cの側面に形成されている。上方にある段差部1fが、下方にある段差部1eより広くなっている。図29(C)においては、貫通孔1cは、インクKを排出しやすい方向、すなわちインク供給口2の方向へ延びる溝1gを有する。
【0167】
図29(A)〜(C)に示した貫通孔1cの形状によれば、インク溜部のインクKの量を少なくできる。従って、図20および図21で説明したM'cavをM'maxと比較して小さくすることができるので、インクエンド時におけるアクチュエータ650の振動特性を、容器1に印刷可能な量のインクKが残存している場合と大きく異ならせることができるので、インクエンドをより確実に検出することができる。
【0168】
図30はアクチュエータの他の実施形態を示す斜視図である。アクチュエータ660は、アクチュエータ660を構成する基板または取付プレート78の貫通孔1cよりも外側にパッキン76を有する。アクチュエータ660の外周にはカシメ孔77が形成されている。アクチュエータ660は、カシメ孔77を介してカシメにより容器1に固定される。
【0169】
図31(A)、(B)は、アクチュエータの更に他の実施形態を示す斜視図である。本実施形態においては、アクチュエータ670は、凹部形成基板80および圧電素子82を備える。凹部形成基板80の一方の面には凹部81がエッチング等の手法により形成され、他方の面には圧電素子82が取り付けられる。凹部形成基板80のうち、凹部81の底部が振動領域として作用する。従って、アクチュエータ670の振動領域は凹部81の周縁によって規定される。また、アクチュエータ670は、図20の実施例によるアクチュエータ106のうち、基板178および振動板176が一体として形成された構造と類似する。従って、インクカートリッジを製造する際に製造工程を短縮することができ、コストを低減させる。アクチュエータ670は、容器1に設けられた貫通孔1cに埋め込み可能なサイズである。それによって、凹部81がキャビティとしても作用することができる。尚、図20の実施例によるアクチュエータ106を、図31の実施例によるアクチュエータ670と同様に貫通孔1cに埋め込み可能なように形成してもよい。
【0170】
図32は、アクチュエータ106を取り付けモジュール体100として一体形成した構成を示す斜視図である。モジュール体100はインクカートリッジの容器1の所定個所に装着される。モジュール体100は、インク液中の少なくとも音響インピーダンスの変化を検出することにより、容器1内の液体の消費状態を検知するように構成されている。本実施形態のモジュール体100は、容器1にアクチュエータ106を取り付けるための液体容器取付部101を有する。液体容器取付部101は、平面がほぼ矩形の基台102上に駆動信号により発振するアクチュエータ106を収容した円柱部116を載せた構造になっている。モジュール体100が、インクカートリッジに装着されたときに、モジュール体100のアクチュエータ106が外部から接触できないように構成されているので、アクチュエータ106を外部の接触から保護することができる。なお、円柱部116の先端側エッジは丸みが付けられていて、インクカートリッジに形成された孔へ装着する際に嵌めやすくなっている。
【0171】
図33は、図32に示したモジュール体100の構成を示す分解図である。モジュール体100は、樹脂からなる液体容器取付部101と、プレート110および凹部113を有する圧電装置装着部105とを含む。さらに、モジュール体100は、リードワイヤ104a及び104b、アクチュエータ106、およびフィルム108を有する。好ましくは、プレート110は、ステンレス又はステンレス合金等の錆びにくい材料から形成される。液体容器取付部101に含まれる円柱部116および基台102は、リードワイヤ104a及び104bを収容できるよう中心部に開口部114が形成され、アクチュエータ106、フィルム108、及びプレート110を収容できるように凹部113が形成される。アクチュエータ106はプレート110にフィルム108を介して接合され、プレート110およびアクチュエータ106は液体容器取付部101に固定される。従って、リードワイヤ104a及び104b、アクチュエータ106、フィルム108およびプレート110は、液体容器取付部101に一体として取り付けられる。リードワイヤ104a及び104bは、それぞれアクチュエータ106の上部電極及び下部電極と結合して圧電層に駆動信号を伝達し、一方、アクチュエータ106が検出した共振周波数の信号を記録装置等へ伝達する。アクチュエータ106は、リードワイヤ104a及び104bから伝達された駆動信号に基づいて一時的に発振する。アクチュエータ106は発振後に残留振動し、その振動によって逆起電力を発生させる。このとき、逆起電力波形の振動周期を検出することによって、液体容器内の液体の消費状態に対応した共振周波数を検出することができる。フィルム108は、アクチュエータ106とプレート110とを接着してアクチュエータを液密にする。フィルム108は、ポリオレフィン等によって形成し、熱融着で接着することが好ましい。
【0172】
プレート110は円形状であり、基台102の開口部114は円筒状に形成されている。アクチュエータ106及びフィルム108は矩形状に形成されている。リードワイヤ104、アクチュエータ106、フィルム108、及びプレート110は、基台102に対して着脱可能としてもよい。基台102、リードワイヤ104、アクチュエータ106、フィルム108、及びプレート110は、モジュール体100の中心軸に対して対称に配置されている。更に、基台102、アクチュエータ106、フィルム108、及びプレート110の中心は、モジュール体100のほぼ中心軸上に配置されている。
【0173】
基台102の開口部114の面積は、アクチュエータ106の振動領域の面積よりも大きく形成されている。プレート110の中心でアクチュエータ106の振動部に直面する位置には、貫通孔112が形成されている。図20および図21に示したようにアクチュエータ106にはキャビティ162が形成され、貫通孔112とキャビティ162は、共にインク溜部を形成する。プレート110の厚さは、残留インクの影響を少なくするために貫通孔112の径に比べて小さいことが好ましい。例えば貫通孔112の深さはその径の3分の1以下の大きさであることが好ましい。貫通孔112は、モジュール体100の中心軸に対して対称なほぼ真円の形状である。また貫通孔112の面積は、アクチュエータ106のキャビティ162の開口面積よりも大きい。貫通孔112の断面の周縁はテーパ形状であっても良いしステップ形状でもよい。モジュール体100は、貫通孔112が容器1の内側へ向くように容器1の側部、上部、又は底部に装着される。インクが消費されアクチュエータ106周辺のインクがなくなると、アクチュエータ106の共振周波数が大きく変化するので、インクの水位変化を検出することができる。
【0174】
図34は、モジュール体の他の実施形態を示す斜視図である。本実施形態のモジュール体400は、液体容器取付部401に圧電装置装着部405が形成されている。液体容器取付部401は、平面がほぼ角丸の正方形上の基台402上に円柱状の円柱部403が形成されている。更に、圧電装置装着部405は、円柱部403上に立てられた板状要素406および凹部413を含む。板状要素406の側面に設けられた凹部413には、アクチュエータ106が配置される。なお、板状要素406の先端は所定角度に面取りされていて、インクカートリッジに形成された孔へ装着する際に嵌めやすくなっている。
【0175】
図35は、図34に示したモジュール体400の構成を示す分解斜視図である。図32に示したモジュール体100と同様に、モジュール体400は、液体容器取付部401および圧電装置装着部405を含む。液体容器取付部401は基台402および円柱部403を有し、圧電装置装着部405は板状要素406および凹部413を有する。アクチュエータ106は、プレート410に接合されて凹部413に固定される。モジュール体400は、リードワイヤ404a及び404b、アクチュエータ106、及びフィルム408をさらに有する。
【0176】
本実施形態によれば、プレート410は矩形状であり、板状要素406に設けられた開口部414は矩形状に形成されている。リードワイヤ404a及び404b、アクチュエータ106、フィルム408、及びプレート410は基台402に対して着脱可能として構成しても良い。アクチュエータ106、フィルム408、及びプレート410は、開口部414の中心を通り、開口部414の平面に対して鉛直方向に延びる中心軸に対して対称に配置されている。更に、アクチュエータ406、フィルム408、及びプレート410の中心は、開口部414のほぼ中心軸上に配置されている。
【0177】
プレート410の中心に設けられた貫通孔412の面積は、アクチュエータ106のキャビティ162の開口の面積よりも大きく形成されている。アクチュエータ106のキャビティ162と貫通孔412とは、共にインク溜部を形成する。プレート410の厚さは貫通孔412の径に比べて小さく、例えば貫通孔412の径の3分の1以下の大きさに設定することが好ましい。貫通孔412は、モジュール体400の中心軸に対して対称なほぼ真円の形状である。貫通孔412の断面の周縁はテーパ形状であっても良いしステップ形状でもよい。モジュール体400は、貫通孔412が容器1の内部に配置されるように容器1の底部に装着することができる。アクチュエータ106が垂直方向に延びるように容器1内に配置されるので、基台402の高さを変えてアクチュエータ106が容器1内に配置される高さを変えることによりインクエンドの時点の設定を容易に変えることができる。
【0178】
図36は、モジュール体の更に他の実施形態を示す。図32に示したモジュール体100と同様に、図36のモジュール体500は、基台502および円柱部503を有する液体容器取付部501を含む。また、モジュール体500は、リードワイヤ504a及び504b、アクチュエータ106、フィルム508、及びプレート510をさらに有する。液体容器取付部501に含まれる基台502は、リードワイヤ504a及び504bを収容できるよう中心部に開口部514が形成され、アクチュエータ106、フィルム508、及びプレート510を収容できるように凹部513が形成される。アクチュエータ106はプレート510を介して圧電装置装着部505に固定される。従って、リードワイヤ504a及び504b、アクチュエータ106、フィルム508およびプレート510は、液体容器取付部501に一体として取り付けられる。本実施形態のモジュール体500は、平面がほぼ角丸の正方形上の基台上に上面が上下方向に斜めな円柱部503が形成されている。円柱部503の上面の上下方向に斜めに設けられた凹部513上にアクチュエータ106が配置されている。
【0179】
モジュール体500の先端は傾斜しており、その傾斜面にアクチュエータ106が装着されている。そのため、モジュール体500が容器1の底部又は側部に装着されると、アクチュエータ106が容器1の上下方向に対して傾斜する。モジュール体500の先端の傾斜角度は、検出性能を鑑みてほぼ30°から60°の間とすることが望ましい。
【0180】
モジュール体500は、アクチュエータ106が容器1内に配置されるように容器1の底部又は側部に装着される。モジュール体500が容器1の側部に装着される場合には、アクチュエータ106が、傾斜しつつ、容器1の上側、下側、又は横側を向くように容器1に取り付けられる。一方、モジュール体500が、容器1の底部に装着される場合には、アクチュエータ106が、傾斜しつつ、容器1のインク供給口側を向くように容器1に取り付けられることが好ましい。
【0181】
図37は、図32に示したモジュール体100を容器1に装着したときのインク容器の底部近傍の断面図である。モジュール体100は、容器1の側壁を貫通するように装着されている。容器1の側壁とモジュール体100との接合面には、Oリング365が設けられ、モジュール体100と容器1との液密を保っている。Oリングでシールが出来るようにモジュール体100は図32で説明したような円柱部を備えることが好ましい。モジュール体100の先端が容器1の内部に挿入されることで、プレート110の貫通孔112を介して容器1内のインクがアクチュエータ106と接触する。アクチュエータ106の振動部の周囲が液体か気体かによってアクチュエータ106の残留振動の共振周波数が異なるので、モジュール体100を用いてインクの消費状態を検出することができる。また、モジュール体100に限らず、図34に示したモジュール体400、図36に示したモジュール体500、又は図38に示したモジュール体700A及び700B、及びモールド構造体600を容器1に装着してインクの有無を検出してもよい。
【0182】
図38(A)はモジュール体700Bを容器1に装着したときのインク容器の断面図を示す。本実施例では取付構造体の1つとしてモジュール体700Bを使用する。モジュール体700Bは、液体容器取付部360が容器1の内部に突出するようにして容器1に装着されている。取付プレート350には貫通孔370が形成され、貫通孔370とアクチュエータ106の振動部が面している。更に、モジュール体700Bの底壁には孔382が形成され、圧電装置装着部363が形成される。アクチュエータ106が孔382の一方を塞ぐようにして配備される。したがって、インクは、圧電装置装着部363の孔382及び取付プレート350の貫通孔370を介して振動板176と接触する。圧電装置装着部363の孔382及び取付プレート350の貫通孔370は、共にインク溜部を形成する。圧電装置装着部363とアクチュエータ106とは、取付プレート350及びフィルム部材によって固定されている。液体容器取付部360と容器1との接続部にはシーリング構造372が設けられている。シーリング構造372は合成樹脂等の可塑性の材料により形成されてもよいし、Oリングにより形成されてもよい。図38(A)のモジュール体700Bと容器1とは別体であるが、図38(B)ようにモジュール体700Bの圧電装置装着部を容器1の一部で構成してもよい。
【0183】
図38(A)のモジュール体700Bは、図32から図36に示したリードワイヤのモジュール体への埋め込みが不要となる。そのため成形工程が簡素化される。更に、モジュール体700Bの交換が可能となりリサイクルが可能となる。
【0184】
インクカートリッジが揺れる際にインクが容器1の上面あるいは側面に付着し、容器1の上面あるいは側面から垂れてきたインクがアクチュエータ106に接触することでアクチュエータ106が誤作動する可能性がある。しかし、モジュール体700Bは液体容器取付部360が容器1の内部に突出しているので、容器1の上面や側面から垂れてきたインクによりアクチュエータ106が誤作動しない。
【0185】
また、図38(A)の実施例では、振動板176と取付プレート350の一部のみが、容器1内のインクと接触するように容器1に装着される。図38(A)の実施例では、図32から図36に示したリードワイヤ104a、104b、404a、404b、504a、及び504bの電極のモジュール体への埋め込みが不要となる。そのため成形工程が簡素化される。更に、アクチュエータ106の交換が可能となりリサイクルが可能となる。
【0186】
図38(B)は、アクチュエータ106を容器1に装着したときの実施例としてインク容器の断面図を示す。図38(B)の実施例によるインクカートリッジでは、保護部材361はアクチュエータ106とは別体として容器1に取り付けられている。従って、保護部材361とアクチュエータ106とはモジュールとして一体となっていないが、一方で、保護部材361はアクチュエータ106にユーザーの手が触れないように保護することができる。アクチュエータ106の前面に設けられる孔380は、容器1の側壁に配設されている。アクチュエータ106は、圧電層160、上部電極164、下部電極166、振動板176及び取付プレート350を含む。取付プレート350の上面に振動板176が形成され、振動板176の上面に下部電極166が形成されている。下部電極166の上面には圧電層160が形成され、圧電層160の上面に上部電極164が形成されている。したがって、圧電層160の主要部は、上部電極164の主要部及び下部電極166の主要部によって上下から挟まれるように形成されている。圧電層160、上部電極164、及び下部電極166のそれぞれの主要部である円形部分は、圧電素子を形成する。圧電素子は振動板176上に形成される。圧電素子及び振動板176の振動領域はアクチュエータが実際に振動する振動部である。取付プレート350には貫通孔370が設けられている。更に、容器1の側壁には孔380が形成されている。したがって、インクは、容器1の孔380及び取付プレート350の貫通孔370を介して振動板176と接触する。容器1の孔380及び取付プレート350の貫通孔370は、共にインク溜部を形成する。また、図38(B)の実施例では、アクチュエータ106は保護部材361により保護されているのでアクチュエータ106を外部との接触から保護できる。
【0187】
尚、図38(A)および(B)の実施例における取付プレート350に代えて、図20の基板178を使用してもよい。
【0188】
図38(C)はアクチュエータ106を含むモールド構造体600を備える実施形態を示す。本実施例では、取付構造体の1つとしてモールド構造体600を使用する。モールド構造体600はアクチュエータ106とモールド部364とを有する。アクチュエータ106とモールド部364とは一体に成形されている。モールド部364はシリコン樹脂等の可塑性の材料によって成形される。モールド部364は内部にリードワイヤ362を有する。モールド部364はアクチュエータ106から延びる2本の足を有するように形成されている。モールド部364はモールド部364と容器1とを液密に固定するために、モールド部364の2本の足の端が半球状に形成される。モールド部364はアクチュエータ106が容器1の内部に突出するよう容器1に装着され、アクチュエータ106の振動部は容器1内のインクと接触する。モールド部364によって、アクチュエータ106の上部電極164、圧電層160、及び下部電極166はインクから保護されている。
【0189】
図38(C)のモールド構造体600は、モールド部364と容器1との間にシーリング構造372が必要ないので、インクが容器1から漏れにくい。また、容器1の外部からモールド構造体600が突出しない形態であるので、アクチュエータ106を外部との接触から保護することができる。インクカートリッジが揺れる際に、インクが容器1の上面あるいは側面に付き、容器1の上面あるいは側面から垂れてきたインクが、アクチュエータ106に接触することで、アクチュエータ106が、誤作動する可能性がある。モールド構造体600は、モールド部364が、容器1の内部に突出しているので、容器1の上面や側面から垂れてきたインクにより、アクチュエータ106が誤作動しない。
【0190】
図39は、図20に示したアクチュエータ106を用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録装置の実施形態を示す。複数のインクカートリッジ180は、それぞれのインクカートリッジ180に対応した複数のインク導入部182及びホルダー184を有するインクジェット記録装置に装着される。複数のインクカートリッジ180は、それぞれ異なった種類、例えば色のインクを収容する。複数のインクカートリッジ180のそれぞれの底面には、少なくとも音響インピーダンスを検出する手段であるアクチュエータ106が装着されている。アクチュエータ106をインクカートリッジ180に装着することによって、インクカートリッジ180内のインク残量を検出することができる。
【0191】
図40は、インクジェット記録装置のヘッド部周辺の詳細を示す。インクジェット記録装置は、インク導入部182、ホルダー184、ヘッドプレート186、及びノズルプレート188を有する。インクを噴射するノズル190がノズルプレート188に複数形成されている。インク導入部182は空気供給口181とインク導入口183とを有する。空気供給口181はインクカートリッジ180に空気を供給する。インク導入口183はインクカートリッジ180からインクを導入する。インクカートリッジ180は空気導入口185とインク供給口187とを有する。空気導入口185はインク導入部182の空気供給口181から空気を導入する。インク供給口187はインク導入部182のインク導入口183にインクを供給する。インクカートリッジ180がインク導入部182から空気を導入することによって、インクカートリッジ180からインク導入部182へのインクの供給を促す。ホルダー184は、インクカートリッジ180からインク導入部182を介して供給されたインクをヘッドプレート186に連通する。
【0192】
図41は、図40に示したインクカートリッジ180の他の実施形態を示す。図41(A)のインクカートリッジ180Aは、上下方向に斜めに形成された底面194aにアクチュエータ106が装着されている。インクカートリッジ180のインク容器194の内部には、インク容器194の内部底面から所定の高さの、アクチュエータ106と直面する位置に防波壁192が設けられている。アクチュエータ106が、インク容器194の上下方向に対し斜めに装着されているので、インクの掃けが良好になる。
【0193】
アクチュエータ106と防波壁192との間には、インクで満たされた間隙が形成される。また、防波壁192とアクチュエータ106との間隔は、毛細管力によりインクが保持されない程度に空けられている。インク容器194が横揺れしたときに、横揺れによってインク容器194内部にインクの波が発生し、その衝撃によって、気体や気泡がアクチュエータ106によって検出されてアクチュエータ106が誤作動する可能性がある。防波壁192を設けることによって、アクチュエータ106付近のインクの波を防ぎ、アクチュエータ106の誤作動を防ぐことができる。
【0194】
図41(B)のインクカートリッジ180Bのアクチュエータ106は、インク容器194の供給口の側壁上に装着されている。インク供給口187の近傍であれば、アクチュエータ106は、インク容器194の側壁又は底面に装着されてもよい。また、アクチュエータ106はインク容器194の幅方向の中心に装着されることが好ましい。インクは、インク供給口187を通過して外部に供給されるので、アクチュエータ106をインク供給口187の近傍に設けることにより、インクニアエンド時点までインクとアクチュエータ106とが確実に接触する。したがって、アクチュエータ106はインクニアエンドの時点を確実に検出することができる。
【0195】
更に、アクチュエータ106をインク供給口187の近傍に設けることで、インク容器をキャリッジ上のカートリッジホルダに装着する際に、インク容器上のアクチュエータ106とキャリッジ上の接点との位置決めが確実となる。その理由は、インク容器とキャリッジとの連結において最も重要なのは、インク供給口と供給針との確実な結合である。少しでもずれがあると供給針の先端を痛めてしまったりあるいはOリングなどのシーリング構造にダメージを与えてしまいインクが漏れ出してしまうからである。このような問題点を防ぐために、通常インクジェットプリンタはインク容器をキャリッジにマウントする時に正確な位置合わせができるような特別な構造を有している。よって供給口近傍にアクチュエータを配置させることにより、アクチュエータの位置合わせも同時に確実なものとなるのである。さらに、アクチュエータ106をインク容器194の幅方向の中心に装着することで、より確実に位置合わせすることができる。インク容器が、ホルダへの装着時に幅方向中心線を中心として軸揺動した場合に、もっともその揺れが少ないからである。
【0196】
図42はインクカートリッジ180の更に他の実施形態を示す。図42(A)はインクカートリッジ180Cの断面図、図42(B)は図42(A)に示したインクカートリッジ180Cの側壁194bを拡大した断面図、及び図42(C)はその正面からの透視図である。インクカートリッジ180Cは、半導体記憶手段7とアクチュエータ106とが同一の回路基板610上に形成されている。図42(B)、(C)に示すように、半導体記憶手段7は回路基板610の上方に形成され、アクチュエータ106は同一の回路基板610において半導体記憶手段7の下方に形成されている。アクチュエータ106の周囲を囲むように異型Oリング614が、側壁194bに装着される。側壁194bには、回路基板610をインク容器194に接合するためのカシメ部616が複数形成されている。カシメ部616によって回路基板610をインク容器194に接合し、異型Oリング614を回路基板610に押しつけることで、アクチュエータ106の振動領域がインクと接触することをできるようにしつつ、インクカートリッジの外部と内部とを液密に保つ。
【0197】
半導体記憶手段7及び半導体記憶手段7付近には端子612が形成されている。端子612は半導体記憶手段7とインクジェット記憶装置等の外部との間の信号の受け渡しをする。半導体記憶手段7は、例えばEEPROMなどの書き換え可能な半導体メモリによって構成されてもよい。半導体記憶手段7とアクチュエータ106とが同一の回路基板610上に形成さているので、アクチュエータ106及び半導体記憶手段7をインクカートリッジ180Cに取付ける際に1回の取付け工程で済む。また、インクカートリッジ180Cの製造時及びリサイクル時の作業工程が簡素化される。更に、部品の点数が削減されるので、インクカートリッジ180Cの製造コストが低減できる。
【0198】
アクチュエータ106は、インク容器194内のインクの消費状態を検知する。半導体記憶手段7はアクチュエータ106が検出したインク残量などインクの情報を格納する。すなわち、半導体記憶手段7は検出する際に用いられるインク及びインクカートリッジの特性等の特性パラメータに関する情報を格納する。半導体記憶手段7は、予めインク容器194内のインクがフルのとき、すなわちインクがインク容器194内に満たされたとき、又はエンドのとき、すなわちインク容器194内のインクが消費されたときの共振周波数を特性パラメータの一つとして格納する。インク容器194内のインクがフル又はエンド状態の共振周波数は、インク容器が初めてインクジェット記録装置に装着されたときに格納されてもよい。また、インク容器194内のインクがフル又はエンド状態の共振周波数は、インク容器194の製造中に格納されてもよい。半導体記憶手段7に予めインク容器194内のインクがフル又はエンドのときの共振周波数を格納し、インクジェット記録装置側で共振周波数のデータを読出すことによりインク残量を検出する際のばらつきを補正できるので、インク残量が基準値まで減少したことを正確に検出することができる。
【0199】
図43は、インクカートリッジ180の更に他の実施形態を示す。図43(A)に示すインクカートリッジ180Dは、インク容器194の側壁194bに複数のアクチュエータ106を装着する。図24に示した、一体成形された複数のアクチュエータ106を、これら複数のアクチュエータ106として用いることが好ましい。複数のアクチュエータ106は、上下方向に間隔をおいて側壁194bに配置されている。複数のアクチュエータ106を上下方向に間隔をおいて側壁194bに配置することによって、インク残量を段階的に検出することができる。
【0200】
図43(B)に示すインクカートリッジ180Eは、インク容器194の側壁194bに上下方向に長いアクチュエータ606を装着する。上下方向に長いアクチュエータ606によって、インク容器194内のインク残量の変化を連続的に検出することができる。アクチュエータ606の長さは、側壁194bに高さの半分以上の長さを有することが望ましく、図43(B)においては、アクチュエータ606は側壁194bのほぼ上端からほぼ下端までの長さを有する。
【0201】
図43(C)に示すインクカートリッジ180Fは、図43(A)に示したインクカートリッジ180Dと同様に、インク容器194の側壁194bに複数のアクチュエータ106を装着し、複数のアクチュエータ106の直面に所定の間隔をおいて上下方向に長い防波壁192を備える。図24に示した、一体成形された複数のアクチュエータ106を、これら複数のアクチュエータ106として用いることが好ましい。アクチュエータ106と防波壁192との間には、インクで満たされた間隙が形成される。また、防波壁192とアクチュエータ106との間隔は、毛細管力によりインクが保持されない程度に空けられている。インク容器194が横揺れしたときに横揺れによってインク容器194内部にインクの波が発生し、その衝撃によって気体や気泡がアクチュエータ106によって検出されてしまい、アクチュエータ106が誤作動する可能性がある。本発明のように防波壁192を設けることによって、アクチュエータ106付近のインクの波立ちを防ぎ、アクチュエータ106の誤作動を防ぐことができる。また、防波壁192はインクが揺動することで発生した気泡がアクチュエータ106に侵入するのを防ぐ。
【0202】
図44は、インクカートリッジ180の更に他の実施形態を示す。図44(A)のインクカートリッジ180Gは、インク容器194の上面194cから下方に延びる複数の隔壁212を有する。それぞれの隔壁212の下端とインク容器194の底面とは所定の間隔が空けられているので、インク容器194の底部は連通している。インクカートリッジ180Gは複数の隔壁212のそれぞれによって区画された複数の収容室213を有する。複数の収容室213の底部は互いに連通する。複数の収容室213のそれぞれにおいて、インク容器194の上面194cにはアクチュエータ106が装着されている。図24に示した、一体成形されたアクチュエータ106を、これら複数のアクチュエータ106として用いることが好ましい。アクチュエータ106は、インク容器194の収容室213の上面194cのほぼ中央に配置される。収容室213の容量はインク供給口187側が最も大きく、インク供給口187からインク容器194の奥へ遠ざかるにつれて、収容室213の容量が徐々に小さくなっている。したがって、アクチュエータ106が配置される間隔はインク供給口187側が広く、インク供給口187からインク容器194の奥へと遠ざかるにつれ、狭くなっている。
【0203】
インクは、インク供給口187から排出され、空気が空気導入口185から入るので、インク供給口187側の収容室213からインクカートリッジ180Gの奥の方の収容室213へとインクが消費される。例えば、インク供給口187に最も近い収容室213のインクが消費されて、インク供給口187に最も近い収容室213のインクの水位が下がっている間、他の収容室213にはインクが満たされている。インク供給口187に最も近い収容室213のインクが消費され尽くすと、空気が、インク供給口187から数えて2番目の収容室213に侵入し、2番目の収容室213内のインクが消費され始めて、2番目の収容室213のインクの水位が下がり始める。この時点で、インク供給室187から数えて3番目以降の収容室213には、インクが満たされている。このように、インク供給口187に近い収容室213から遠い収容室213へと順番にインクが消費される。
【0204】
このように、アクチュエータ106がそれぞれの収容室213ごとにインク容器194の上面194cに間隔をおいて配置されているので、アクチュエータ106はインク量の減少を段階的に検出することができる。更に、収容室213の容量が、インク供給口187から収容室213の奥へと徐々に小さくなっているので、アクチュエータ106が、インク量の減少を検出する時間間隔が徐々に小さくなり、インクエンドに近づくほど頻度を高く検出することができる。
【0205】
図44(B)のインクカートリッジ180Hは、インク容器194の上面194cから下方に延びる一つの隔壁212を有する。隔壁212の下端とインク容器194の底面とは所定の間隔が空けられているので、インク容器194の底部は連通している。インクカートリッジ180Hは隔壁212によって区画された2室の収容室213a及び213bを有する。収容室213a及び213bの底部は互いに連通する。インク供給口187側の収容室213aの容量はインク供給口187から見て奥の方の収容室213bの容量より大きい。収容室213bの容量は、収容室213aの容量の半分より小さいことが好ましい。
【0206】
収容室213bの上面194cにアクチュエータ106が装着される。更に、収容室213bには、インクカートリッジ180Hの製造時に入る気泡を捕らえる溝であるバッファ214が形成される。図44(B)において、バッファ214は、インク容器194の側壁194bから上方に延びる溝として形成される。バッファ214はインク収容室213b内に侵入した気泡を捕らえるので、気泡によってアクチュエータ106がインクエンドと検出する誤作動を防止することができる。また、アクチュエータ106を収容室213bの上面194cに設けることにより、インクニアエンドが検出されてから完全にインクエンド状態になるまでのインク量に対して、ドットカウンタによって把握した収容室213aでのインクの消費状態に対応した補正をかけることで、最後までインクを消費することができる。更に、収容室213bの容量を隔壁212の長さや間隔を変えたりすることなどによって調節することにより、インクニアエンド検出後の消費可能インク量を変えることができる。
【0207】
図44(C)は、図44(B)のインクカートリッジ180Iの収容室213bに多孔質部材216が充填されている。多孔質部材216は、収容室213b内の上面から下面までの全空間を埋めるように設置される。多孔質部材216は、アクチュエータ106と接触する。インク容器が倒れたときや、キャリッジ上での往復運動中に空気がインク収容室213b内に侵入してしまい、これがアクチュエータ106の誤作動を引き起こす可能性がある。しかし、多孔質部材216が備えられていれば、空気を捕らえてアクチュエータ106に空気が入るのを防ぐことができる。また、多孔質部材216はインクを保持するのでインク容器が揺れることにより、インクがアクチュエータ106にかかってアクチュエータ106がインク無しをインク有りと誤検出するのを防ぐことができる。多孔質部材216は最も容量が小さい収容室213に設置することが好ましい。また、アクチュエータ106を収容質213bの上面194cに設けることにより、インクニアエンドが検出されてから完全にインクエンド状態になるまでのインク量に補正をかけ、最後までインクを消費することができる。更に、収容室213bの容量を隔壁212の長さや間隔を変えたりすることなどによって調節することにより、インクニアエンド検出後の消費可能インク量を変えることができる。
【0208】
図44(D)は、図44(C)のインクカートリッジ180Iの多孔質部材216が孔径の異なる2種類の多孔質部材216A及び216Bによって構成されているインクカートリッジ180Jを示す。多孔質部材216Aは、多孔質部材216Bの上方に配置されている。上側の多孔質部材216Aの孔径は、下側の多孔質部材216Bの孔径より大きい。もしくは、多孔質部材216Aは、多孔質部材216Bよりも液体親和性が低い部材で形成される。孔径の小さい多孔質部材216Bの方が孔径の大きい多孔質部材216Aより毛細管力は大きいので、収容室213b内のインクが下側の多孔室部材216Bに集まり、保持される。したがって、一度空気がアクチュエータ106まで到達してインク無しを検出すると、インクが再度アクチュエータに到達してインク有りと検出することが無い。更に、アクチュエータ106から遠い側の多孔質部材216Bにインクが吸収されることで、アクチュエータ106近傍のインクの捌けが良くなり、インク有無を検出するときの音響インピーダンス変化の変化量が大きくなる。また、アクチュエータ106を収容質213bの上面194cに設けることにより、インクニアエンドが検出されてから完全にインクエンド状態になるまでのインク量に補正をかけ、最後までインクを消費することができる。更に、収容室213bの容量を隔壁212の長さや間隔を変えたりすることなどによって調節することにより、インクニアエンド検出後の消費可能インク量を変えることができる。
【0209】
図45は、図44(C)に示したインクカートリッジ180Iの他の実施形態であるインクカートリッジ180Kを示す断面図である。図45に示すインクカートリッジ180の多孔質部材216は、多孔質部材216の下部の水平方向の断面積が、インク容器194の底面の方向にむけて徐々に小さくなるように圧縮され、孔径が小さくなるよう設計されている。図45(A)のインクカートリッジ180Kは、多孔質部材216の下の方の孔径が小さくなるように圧縮するために側壁にリブが設けられている。多孔質部材216下部の孔径は圧縮されることにより、小さくなっているので、インクは多孔質部材216下部へと集められ、保持される。アクチュエータ106から遠い側の多孔質部材216下部にインクが吸収されることで、アクチュエータ106近傍のインクの捌けが良くなり、インク有無を検出するときの音響インピーダンス変化の変化量が大きくなる。したがって、インクが揺れることによってインクカートリッジ180K上面に装着されたアクチュエータ106にインクがかかってしまい、アクチュエータ106が、インク無しをインク有りと誤検出することを防止することができる。
【0210】
一方、図45(B)及び図45(C)のインクカートリッジ180Lは、多孔質部材216の下部の水平方向の断面積が、インク容器194の幅方向において、インク容器194の底面にむけて徐々に小さくなるよう圧縮するために、収容室の水平方向の断面積がインク容器194の底面の方向にむけて徐々に小さくなっている。多孔質部材216下部の孔径は圧縮されることにより、小さくなっているので、インクは多孔質部材216の下部へと集められ、保持される。アクチュエータ106から遠い側の多孔質部材216Bの下部にインクが吸収されることで、アクチュエータ106近傍のインクの捌けが良くなり、インク有無を検出するときの音響インピーダンス変化の変化量が大きくなる。したがって、インクが揺れることによって、インクカートリッジ180Lの上面に装着されたアクチュエータ106にインクがかかってしまい、アクチュエータ106が、インク無しをインク有りと誤検出することを防止することができる。
【0211】
図46は、アクチュエータ106を用いたインクカートリッジの更に他の実施形態を示す。図46(A)のインクカートリッジ220Aは、インクカートリッジ220Aの上面から下方へと延びるように設けられた第1の隔壁222を有する。第1の隔壁222の下端とインクカートリッジ220Aの底面との間には所定の間隔が空けられているので、インクは、インクカートリッジ220Aの底面を通じてインク供給口230へ流入できる。第1の隔壁222よりインク供給口230側には、インクカートリッジ220Aの底面より上方に延びるように第2の隔壁224が、形成されている。第2の隔壁224の上端とインクカートリッジ220A上面との間には所定の間隔が空けられているので、インクは、インクカートリッジ220Aの上面を通じてインク供給口230へ流入できる。
【0212】
第1の隔壁222によって、インク供給口230から見て、第1の隔壁222の奥の方に第1の収容室225aが形成される。一方、第2の隔壁224によって、インク供給口230から見て第2の隔壁224の手前側に第2の収容室225bが形成される。第1の収容室225aの容量は、第2の収容室225bの容量より大きい。第1の隔壁222及び第2の隔壁224の間に、毛管現象を起こせるだけの間隔が空けられることにより、毛管路227が形成される。したがって、第1の収容室225aのインクは、毛管路227の毛細管力により、毛管路227に集められる。そのため、気体や気泡が第2の収容室225bへ混入するのを防止することができる。また、第2の収容室225b内のインクの水位は、安定的に徐々に下降できる。インク供給口230から見て、第1の収容室225aは、第2の収容室225bより奥に形成されているので、第1の収容室225aのインクが消費された後、第2の収容室225bのインクが消費される。
【0213】
インクカートリッジ220Aのインク供給口230側の側壁、すなわち第2の収容室225bのインク供給口230側の側壁には、アクチュエータ106が装着されている。アクチュエータ106は、第2の収容室225b内のインクの消費状態を検知する。アクチュエータ106を、第2の収容室225bの側壁に装着することによって、インクエンドにより近い時点でのインク残量を安定的に検出することができる。更に、アクチュエータ106を第2の収容室225bの側壁に装着する高さを変えることにより、どの時点でのインク残量をインクエンドにするかを、自由に設定することができる。毛管路227によって第1の収容室225aから第2の収容室225bへインクが供給されることにより、アクチュエータ106は、インクカートリッジ220Aの横揺れによるインクの横揺れの影響を受けないので、アクチュエータ106は、インク残量を確実に測定できる。更に、毛管路227が、インクを保持するので、インクが第2の収容室225bから第1の収容室225aへ逆流するのを防ぐ。
【0214】
インクカートリッジ220Aの上面には、逆止弁228が設けられている。逆止弁228によって、インクカートリッジ220Aが横揺れしたときに、インクがインクカートリッジ220A外部に漏れるのを防ぐことができる。更に、逆止弁228をインクカートリッジ220Aの上面に設置することで、インクのインクカートリッジ220Aからの蒸発を防ぐことができる。インクカートリッジ220A内のインクが消費されて、インクカートリッジ220A内の負圧が逆止弁228の圧力を越えると、逆止弁228が開いて、インクカートリッジ220Aに空気を吸入し、その後閉じてインクカートリッジ220A内の圧力を一定に保持する。
【0215】
図46(C)及び(D)は、逆止弁228の詳細の断面を示す。図46(C)の逆止弁228は、ゴムにより形成された羽根232aを有する弁232を有する。インクカートリッジ220の外部との通気孔233が、羽根232aに対向してインクカートリッジ220に設けられる。羽根232aによって、通気孔233が、開閉される。逆止弁228は、インクカートリッジ220内のインクが減少し、インクカートリッジ220内の負圧が逆止弁228の圧力を越えると、羽根232aが、インクカートリッジ220の内側に開き、外部の空気をインクカートリッジ220内に取り入れる。図46(D)の逆止弁228は、ゴムにより形成された弁232とバネ235とを有する。逆止弁228は、インクカートリッジ220内の負圧が逆止弁228の圧力を越えると、弁232が、バネ235を押圧して開き、外部の空気をインクカートリッジ220内に吸入し、その後閉じてインクカートリッジ220内の負圧を一定に保持する。
【0216】
図46(B)のインクカートリッジ220Bは、図46(A)のインクカートリッジ220Aにおいて逆止弁228を設ける代わりに第1の収容室225aに多孔質部材242を配置している。多孔質部材242は、インクカートリッジ220B内のインクを保持すると共に、インクカートリッジ220Bが横揺れしたときに、インクがインクカートリッジ220Bの外部へ漏れるのを防ぐ。
【0217】
以上、キャリッジに装着される、キャリッジと別体のインクカートリッジにおいて、インクカートリッジ又はキャリッジにアクチュエータ106を装着する場合について述べたが、キャリッジと一体化され、キャリッジと共に、インクジェット記録装置に装着されるインクタンクにアクチュエータ106を装着してもよい。更に、キャリッジと別体の、チューブ等を介して、キャリッジにインクを供給するオフキャリッジ方式のインクタンクにアクチュエータ106を装着してもよい。またさらに、記録ヘッドとインク容器とが一体となって交換可能に構成されたインクカートリッジに、本発明のアクチュエータを装着してもよい。
【0218】
「キャビティ付きの取付モジュール体の構成と利点」
以上、本実施形態にかかるインク消費検出機能付きの各種のインクカートリッジについて説明した。これらのインクカートリッジでは、圧電装置を利用してインク消費が検出された。これら構成の中には、圧電装置であるアクチュエータが示されていた。そして、圧電装置と取付部材を一体化した取付モジュール体が示された。代表例は例えば図32に示される。前述したように、取付モジュール体を用いることにより、圧電装置を保護できる。また取付モジュール体を用いることにより圧電装置の取付が容易になる。
【0219】
本実施の形態では、特に、キャビティ付きの取付モジュール体が示されている。このタイプの取付モジュール体によれば以下の利点が得られる。
【0220】
(1)図32および図33を再び参照する。図32は組立状態の取付モジュール体100を示し、図33は分解状態の取付モジュール体100を示す。アクチュエータ106(圧電装置)と取付部材が一体化されている。取付モジュール体100がインクカートリッジに装着される。
【0221】
取付部材の一部であるプレート110に貫通孔112が設けられている。貫通孔112は本発明の開口キャビティに相当する(以下、貫通孔112を適宜、開口キャビティという)。貫通孔112は、アクチュエータ106と対向しており、かつ、アクチュエータ106から、インクカートリッジの内部を向く位置に配置されている。キャビティ112を介して圧電装置と容器内部の間で振動が伝わる。
【0222】
インクの消費が進むと、液面が低下し、貫通孔112が露出する。このとき、貫通孔112内にはほぼ一定量のインクが残り、保持される。インクの保持量は、貫通孔112の形状や設置角度およびインクの粘度などによって決まる。この一定量のインクに対応する音響インピーダンスは、測定などによりあらかじめ求めておくことができる。そのような音響インピーダンスが検出されるか否かによって、インク消費を確実にもとめることが可能である。
【0223】
前述したように、インク消費の検出には、圧電装置の残留振動状態を利用できる。圧電装置は発振後に残留振動状態に入る。残留振動状態、特にその共振周波数は、音響インピーダンスの変化およびインク消費状態に対応する。貫通孔112に少量のインクが保持されているときの残留振動状態を検出したか否かによって、インク消費が確実に検出できる。
【0224】
本実施の形態によれば、前述の如く、キャビティ(貫通孔)を設けたことにより、インクの波打ちなどに起因する誤検出が生じないように図ることができる。元からキャビティにインクが付着しているので、波打ちになどによるインク付着の有無がなく、そのようなインク付着に検出結果が左右されにくいからである。
【0225】
また、キャビティを設けたことにより、アクチュエータ106とインクの距離が狭まっている。プレート110を介することなく、アクチュエータ106とインクの間で振動が伝達する。ここで、圧電装置の残留振動に主として影響するのは、圧電装置の近傍の少量のインクのみである。この少量のインクが、キャビティを設けたことにより、圧電装置の近くに存在し、圧電装置に接している。これにより、インクの消費に伴う残留振動の変化が顕著になるのでインク消費を確実に検出できる。
【0226】
なお、キャビティはプレート110を貫通していなくてもよい。この場合、プレート110の凹部によりキャビティが構成される。
【0227】
さらに、本実施の形態では、キャビティが局所的に設けられており、周囲の部材によってインクのシール性が確保されている。導電性を有するインクからアクチュエータ106、特にその圧電素子が効果的に保護されている。
【0228】
ここでは、音響インピーダンスに基づくインク消費検出、特に残留振動を用いた検出を説明した。しかし、アクチュエータを使用し、弾性波および反射波を利用してインク消費が検出されてもよい。反射波が返ってくるまでの時間が求められてもよい。その他の原理が適用されてもよい。以下の説明でも同様である。
【0229】
(2)キャビティの形状は、所定の液体状態においてインクを保持する形状である。検出目標のインク消費状態においてもインクを保持できるようにキャビティ形状が設定されている。このときのインク量に対応する残留振動を基準に用いることで、インクが消費したか否かを的確に検出できる。
【0230】
ここで、キャビティにインクが残らない方が、本来はインク消費を検出し易いとも考えられる。しかし、前述のようなインク付着の問題が生じうる。キャビティにインクが残ったり残らなかったりすると、すなわちインク残り状態のばらつきがあると、このばらつきが検出誤差を招く可能性も考えられる。このような場合には、上記のごとくキャビティがインクを保持することが好ましい。これを達成するためには、例えばインクが全部流出するのを防止できる所定の深さをキャビティが有していればよい。本実施の形態では、モジュール体のプレートが適当な厚さをもっているので、キャビティにも必要な深さが与えられる。
【0231】
(3)モジュール体100のアクチュエータ106(圧電装置)は、圧電素子を有する。圧電素子は、圧電層、上部電極および下部電極で構成されている(図20参照)。基板の上に下部電極が形成され、その上に圧電層が形成され、さらにその上に上部電極が形成されている。本実施形態のひとつの特徴として、キャビティの面積が、下部電極の面積以上に設定されている。より詳細には、開口キャビティの圧電素子側の面積が、圧電層と下電極の重なり部分の面積以上に設定されている。これにより以下の利点が得られる。
【0232】
圧電素子の下部電極はキャビティに最も近くにあり、かつ最も小さい。この下部電極のカバーする範囲で、圧電素子が振動する。振動領域の大きさは下部電極に実質的に等しい。そして下部電極の大きさによって圧電素子の振動特性を調整できる。本実施の形態では、この下部電極に適応するように、キャビティ形状を設定する。すなわちキャビティの面積を下部電極より大きく設定する。これにより、圧電素子が適当な状態で振動できる。
【0233】
(4)次に、キャビティ深さとキャビティ開口寸法の適切な関係についてさらに説明する。図33において、キャビティ深さは、モジュール体100の中心軸方向のキャビティ寸法である。図33ではキャビティ112がプレート110を貫通しているので、キャビティ深さはプレート厚さに等しい。一方、キャビティ開口寸法は、キャビティ深さと直角方向の寸法であり、プレート上の開口の大きさである。
【0234】
本実施の形態では、キャビティ112の深さは開口寸法より小さく設定されている。要するに、キャビティ112は浅く広い形状を有する。これにより、以下の利点が得られる。
【0235】
キャビティが浅く広いので、インクが減少したときにキャビティに残るインク量が少なくなる。したがってインクが消費したか否かによる残留振動の変化が大きくなり、検出精度を向上できる。
【0236】
また、キャビティが深く狭い形状を有すると、キャビティから容器内へと振動が適切に伝わらない可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、キャビティが浅く広いので、残留振動の変化を検出する上では良好な振動伝達が得られる。
【0237】
本発明者の研究によると、キャビティ深さは開口寸法の1/3以下であることが好ましく、これにより残留振動の変化も顕著に現れる。
【0238】
なお、上記の説明では、円形のキャビティが主として考えられている。しかし、本発明の範囲内で、キャビティは各種の形状を有してよい。こうしたキャビティの形状を考慮すると、本発明では、キャビティ深さがキャビティ開口の最小幅より小さく設定されていればよい。好ましくは、キャビティ深さが、キャビティ開口の最小幅の1/3以下である。例えばキャビティが長方形を有する場合、短い辺の寸法がキャビティ深さより大きく設定される。
【0239】
(5)また、本実施形態のひとつの特徴として、開口キャビティは、液体検出用装置の振動中心(圧電素子の中心)に対して実質的に対称の形状を有する。好ましくはキャビティは円形である。
【0240】
この構成によれば、低次にシングルピークが出現する検出特性が得られる。圧電膜では一次の振動モードが支配的になり、S/N比率が高くなる。逆起電力の振幅も大きくなる。したがって検出性が良好である。
【0241】
また、等方的な形状を採用したことにより、接着等の固定部が検出精度に及ぼす影響を低減できる。例えばエポキシ接着剤を用いた固定を考える。この種の接着剤は硬化時に収縮等が発生する。そのため、キャビティの形状が対称的でないと、収縮の影響などによりひずみが発生するため、キャビティの周囲で場所によって振動特性が異なる。これに対し、本実施形態ではキャビティ形状が対称的である。このため、プレート固定に接着剤を用いても歪みの影響を受けにくいため、キャビティの全周で均等な振動特性が得られる。この例に示されるように、本実施形態によれば、固定構造の影響を軽減できるので、実装性を向上できる。比較的簡単な実装手法も採用できる。そして、圧電装置およびインクカートリッジの製造が容易になる。
【0242】
特に、本実施の形態によれば、キャビティを円形状にすることにより、高い均等性が得らる。検出性が良好になるので、これまで述べた本実施の形態の利点がより顕著に得られる。また、円形状の採用により、ポンチを用いた穴あけ等によりキャビティを形成でき、製造が容易である、という利手も得られる。
【0243】
(6)取付モジュール体100および圧電装置(アクチュエータ106)は、検出目標の所定の液体消費状態に対応する液面の位置に設置されている。液面が圧電装置を通過すると、キャビティ内にインクが残り保持された状態になる。このときの開口キャビティ内の液体に対応する残留振動状態を示す検出信号を発生するように、取付モジュール体、特にキャビティ形状が構成されている。
【0244】
前述したように、キャビティ深さtとキャビティ開口半径aが、条件(a/t)>(3×π/8)を満たす場合(キャビティは略円形)、キャビティにインクが残った状態でインク消費を検出できる。
【0245】
(7)また、本実施形態の好適な応用例として、キャビティの容器内部側の開口面積(寸法)が、アクチュエータ(圧電装置)側の開口面積(寸法)より大きく設定される。これにより、容器内部に向かって広がる形状がキャビティに与えられる。この構成によれば、不要なインクがキャビティ部に残るのを効果的に防止できるので、検出能力を向上できる。
【0246】
図47(a)および図47(b)を参照する。図47(a)は、テーパ形状を有するキャビティを示す。図47(b)は、ステップ形状を有するキャビティを示す。どちらのキャビティも、インク容器内部に向かって広がっている。これらのキャビティ形状によれば、インクが消費されたときに、不要なインクがキャビティ周りに残りにくい。すなわち、ほぼ一定量のインクのみがキャビティに残り、これにより信頼性の高い検出が可能となり、検出精度の向上が図れる。一方、キャビティがテーパ形状やステップ形状を有していないと、表面張力の影響などにより、キャビティ周りに不要なインクが残る可能性がある。この場合、キャビティのインク保持量にばらつきが生じる。保持量のばらつきは、不確実な検出の要因になる。本実施形態によれば、こうした事態を回避し、インク消費を確実に検出できる。
【0247】
(8)また、本実施形態の好適な応用例として、キャビティに連通する連通溝が、カートリッジ内部に面する場所に、キャビティから延びるように設けられている。連通溝の例が図48に示されている。連通溝Gは、キャビティ112から始まって、プレート110の途中まで続いている。連通溝Gを設けたことにより、キャビティ内のインクが外に流出しやすくなり、キャビティ内に残留するインクの量が低減する。表面張力の影響でキャビティ付近に残る不要なインクの量を効果的に低減できる。これによりインクの保持量も安定する。キャビティを液面が通過したか、すなわちインクが消費されたか否かによる残留振動の変化がより顕著になるので、インク消費をより確実に検出でき、検出精度の向上が図れる。より多くのインクがキャビティから流出するように連通溝を形成することが望ましい。また、好ましくは、連通溝は、インクカートリッジの供給口に向けて設けられる。連通溝が、キャビティから供給口に向かう方向に沿って延びる。これにより、キャビティのインクをスムーズに供給口へと導ける。
【0248】
(9)本実施の形態の特徴の一つとして、モジュール体の取付部材は、インクカートリッジに設けられた貫通孔に嵌合される。図49を参照すると、図32のモジュール体100が、カートリッジ壁の貫通孔に装着されている。モジュール体100の胴部と壁部の孔が同じ形状を有しており、モジュール体100が隙間なく貫通孔にはまっている。さらに、モジュール体100の端部のフランジによってシールが確保されている。こうした構造の採用により、モジュール体を容易に組み付けることができ、かつ、キャビティ付きのセンサ部を適切な位置に配置できる。
【0249】
(10)また本実施の形態では、圧電装置(アクチュエータ)には、取付部材の開口キャビティと連通する凹部が形成されている。この凹部は、アクチュエータの基板に設けられた貫通孔であり、開口キャビティ(の一部)として機能する。こうした構成により、開口キャビティが圧電装置の振動部に近接する(図38参照)。
【0250】
(11)好適な一態様では、開口キャビティが、キャビティ内のインクを吸い出す液体吸収体に近接して設けられる。液体吸収体は、例えば多孔質部材、要するにスポンジのような部材で構成される。
【0251】
図50(a)および図50(b)は、キャビティ800と吸収体802が近接する構造の例を示す。前者においては、吸収体802がキャビティ800に直接面している。後者においては、キャビティ800から延びる連通溝Gに吸収体802が面している。
【0252】
こうした構成により、キャビティから不要なインクを吸い出すことができる。表面張力などの影響によりインク残り状態が不安定になるのを抑えられる。すなわち、キャビティ内のインク保持量のばらつきが少なくなる。キャビティから完全にインクがなくなってもよい。インク保持量のばらつきに起因する検出誤差が低減するので、検出精度の向上が図れる。
【0253】
(12)別の好適な一態様では、開口キャビティ内に液体を保持する液体吸収体が設けられる。すなわちキャビティの外ではなく、キャビティ内に吸収体が配置される。ここでも、液体吸収体は、例えば多孔質部材、要するにスポンジのような部材で構成される。図51は、キャビティ800内に吸収体804を設けた構成の例である。
【0254】
この構成では、キャビティ内に積極的にインクが保持される。インクの保持量は、吸収体の構造と形状によってきまる。図示のごとく吸収体がキャビティを満たす場合には、キャビティ形状によってインク保持量が決まる。この形態によっても、キャビティ内のインク保持量のばらつきが少なくなる。インク保持量のばらつきに起因する検出誤差が低減するので、検出精度の向上が図れる。
【0255】
(13)好ましくは、取付モジュール体は、インクカートリッジに対して着脱可能に装着される。取付モジュール体のかたちでセンサをインクカートリッジに装着すればよいので、センサ取付が容易である。取付モジュール体を取り外せばセンサをとれるので、インクカートリッジのリサイクルが容易である。
【0256】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることができる。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0257】
例えば、液体容器はインクカートリッジに限定されない。インクカートリッジ以外のプリンタ用インクタンクに本発明が適用されてもよい。また、インク以外の液体を収容する容器に本発明が適用されてもよい。
【0258】
また、圧電装置は、自ら振動を発生しなくてもよい。すなわち、発振と、残留振動状態の出力と、の両方を行わなくてもよい。例えば、他のアクチュエータが振動を発生した後、圧電装置の振動状態が検出される。あるいは、キャリッジの移動などに伴ってインクカートリッジに発生する振動によって圧電装置が振動すると、その振動が検出される。すなわち、積極的に振動を発生することなく、プリンタ動作によって自然に発生する振動を用いてインク消費が検出される。一方、上記の変形例と逆に、圧電装置は振動を発生するだけでもよい。この場合、他のセンサ等の振動状態が求められる。
【0259】
上記の変形は、圧電装置を用いる別の検出機能、例えば、弾性波および反射波を用いる検出機能に対しても同様に適用できる。すなわち、圧電装置は、振動の発生か検出の一方に用いられてもよい。
【0260】
以上に説明したように、本発明によれば、圧電装置を液体容器に装着するための取付モジュール体に開口キャビティを設けたことにより、液体消費状態の検出能力を向上可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1】単色、例えばブラックインク用のインクカートリッジの一実施例を示す図である。
【図2】複数種類のインクを収容するインクカートリッジの一実施例を示す図である。
【図3】図1及び2に示したインクカートリッジに適したインクジェット記録装置の一実施例を示す図である。
【図4】サブタンクユニット33の詳細な断面を示す図である。
【図5】弾性波発生手段3、15、16、及び17の製造方法を示す図である。
【図6】図5に示した弾性波発生手段3の他の実施形態を示す図である。
【図7】本発明のインクカートリッジの他の実施例を示す図である。
【図8】本発明のインクカートリッジの更に他の実施例を示す図である。
【図9】本発明のインクカートリッジの更に他の実施例を示す図である。
【図10】本発明のインクカートリッジの更に他の実施例を示す図である。
【図11】本発明のインクカートリッジの更に他の実施形態を示す図である。
【図12】図11に示したインクカートリッジの他の実施形態を示す図である。
【図13】本発明のインクカートリッジの更に他の実施形態を示す図である。
【図14】貫通孔1cの更に他の実施形態の平面を示す図である。
【図15】本発明のインクジェット記録装置の実施形態の断面を示す図である。
【図16】図15に示した記録装置に適したインクカートリッジの実施形態を示す図である。
【図17】本発明のインクカートリッジ272の他の実施形態を示す図である。
【図18】本発明のインクカートリッジ272及びインクジェット記録装置の更に他の実施形態を示す図である。
【図19】図16に示したインクカートリッジ272の他の実施形態を示す図である。
【図20】アクチュエータ106の詳細を示す図である。
【図21】アクチュエータ106の周辺およびその等価回路を示す図である。
【図22】インクの密度とアクチュエータ106によって検出されるインクの共振周波数との関係を示す図である。
【図23】アクチュエータ106の逆起電力波形を示す図である。
【図24】アクチュエータ106の他の実施形態を示す図である。
【図25】図24に示したアクチュエータ106の一部分の断面を示す図である。
【図26】図25に示したアクチュエータ106の全体の断面を示す図である。
【図27】図24に示したアクチュエータ106の製造方法を示す図である。
【図28】本発明のインクカートリッジの更に他の実施形態を示す図である。
【図29】貫通孔1cの他の実施形態を示す図である。
【図30】アクチュエータ660の他の実施形態を示す図である。
【図31】アクチュエータ670の更に他の実施形態を示す図である。
【図32】モジュール体100を示す斜視図である図である。
【図33】図32に示したモジュール体100の構成を示す分解図である。
【図34】モジュール体100の他の実施形態を示す図である。
【図35】図34に示したモジュール体100の構成を示す分解図である。
【図36】モジュール体100の更に他の実施形態を示す図である。
【図37】図32に示したモジュール体100をインク容器1に装着した断面の例を示す図である。
【図38】モジュール体100の更に他の実施形態を示す図である。
【図39】図20および図21に示したアクチュエータ106を用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録装置の実施形態を示す図である。
【図40】インクジェット記録装置の詳細を示す図である。
【図41】図40に示したインクカートリッジ180の他の実施形態を示す図である。
【図42】インクカートリッジ180の更に他の実施形態を示す図である。
【図43】インクカートリッジ180の更に他の実施形態を示す図である。
【図44】インクカートリッジ180の更に他の実施形態を示す図である。
【図45】図44(C)に示したインクカートリッジ180の他の実施形態を示す図である。
【図46】モジュール体100を用いたインクカートリッジの更に他の実施形態を示す図である。
【図47】開口キャビティをテーパ形状およびステップ形状にしたことにより得られる利点を示す図である。
【図48】キャビティ周りに設けることが好適な連通溝の例を示す図である。
【図49】インクカートリッジの貫通孔にモジュール体を嵌合する構成の例を示す図である。
【図50】吸収体の近傍にキャビティを設ける構成の例を示す図である。
【図51】キャビティ内に吸収体を設ける構成の例を示す図である。
【符号の説明】
【0262】
1…容器、2…インク供給口、100…モジュール、102…基台部ケース、104…リードワイヤ、106…アクチュエータ、108…フィルム、110…プレート、112…キャビティ、113…凹部、114…開口部、116…円柱部、G…連通溝、K…インク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体容器内の液体の消費状態を検出するために用いられる圧電装置と、
前記圧電装置と一体化され、前記圧電装置を前記液体容器に取り付けるための取付部材と、
を含み、
前記取付部材は、前記圧電装置と対向する位置に前記液体容器の内部と連通する開口キャビティを有することを特徴とする液体検出用の取付モジュール体。
【請求項2】
前記圧電装置により、音響インピーダンスの変化に基づいて液体消費状態が検出されることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項3】
前記圧電装置は残留振動状態を示す信号を出力し、残留振動状態が液体消費状態に応じて変化することに基づいて液体消費状態が検出されることを特徴とする請求項2に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項4】
前記開口キャビティは、所定の液体状態において液体を保持する形状であることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項5】
前記圧電装置は、下電極、該下電極上に形成された圧電層および前記圧電層上に形成された上電極と、を含み、
前記開口キャビティの面積が、前記圧電層と下電極の重なり部分の面積以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項6】
前記開口キャビティのキャビティ深さはキャビティ開口の最小幅より小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項7】
前記キャビティ深さは前記キャビティ開口の最小幅の1/3以下であることを特徴とする請求項6に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項8】
前記開口キャビティは、前記圧電装置の振動部中心に対して実質的に対称の形状を有することを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項9】
前記開口キャビティの開口形状が円形であることを特徴とする請求項8に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項10】
前記開口キャビティのキャビティ深さtとキャビティ開口半径aが、条件(a/t)>(3×π/8)を満たすことを特徴とする請求項9に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項11】
前記開口キャビティの容器内部側の開口面積が、前記圧電装置側の開口面積よりも大きいことをことを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項12】
前記開口キャビティの周面はテーパ形状を有していることを特徴とする請求項11に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項13】
前記開口キャビティの周面はステップ形状を有していることを特徴とする請求項11に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項14】
前記取付部材は、前記液体容器に設けられた貫通孔に嵌合されることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項15】
前記圧電装置には、前記取付部材の開口キャビティと連通する凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項16】
前記開口キャビティ近傍に液体吸収体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項17】
前記開口キャビティ内に液体吸収体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項18】
前記液体容器に対して着脱可能に装着されることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の液体検出用の取付モジュール体。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の液体検出用の取付モジュール体が備えられた液体容器。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれかに記載の液体検出用の取付モジュール体が備えられたインクジェット記録装置に装着されるインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【公開番号】特開2008−230248(P2008−230248A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102141(P2008−102141)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【分割の表示】特願2007−101459(P2007−101459)の分割
【原出願日】平成12年5月18日(2000.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】