説明

記録装置及びその吐出検査方法

【課題】雑音に対する耐性を向上させて変曲点を検知することで正常吐出であるか否かの判定の精度を高めるようにした技術を提供する。
【解決手段】記録装置は、吐出口からインクを吐出させるための第1の駆動電圧P1を発熱素子に印加させた後、インクの発泡又は吐出に至らない第2の駆動電圧P2を発熱素子に印加させる制御を行なう制御手段と、第1の駆動電圧P1及び第2の駆動電圧P2の印加が行なわれた発熱素子に対応して設けられた温度検知素子により検知される温度を示す信号に基づいて対応する吐出口からのインクの吐出が正常に行なわれたか否かを判定する判定手段とを具備する。制御手段は、第1の駆動電圧P1の印加後で且つ、第1の駆動電圧P1の印加に伴って吐出口からインクが正常に吐出されたときに温度検知素子により検知される降温過程の温度を示す信号の波形で変曲点が検出されるよりも前に第2の駆動電圧P2を印加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及びその吐出検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドでは、異物によるノズルの目詰まりや、インク供給経路内に混入した気泡やノズル表面の濡れ性の変化等により、全体又は一部のノズルで吐出不良が発生することがある。そこで、このような記録ヘッドにおいては、吐出不良の発生したノズルを特定して画像補完や記録ヘッドの回復作業に反映させることが重要な課題となっている。
【0003】
この課題に鑑み、特許文献1では、記録素子基板内において、記録素子の各々に絶縁膜を介し薄膜抵抗体で形成される温度検知素子を設け、ノズル毎の温度情報を検知して温度変化の具合から吐出不良のノズルを検査する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2及び特許文献3では、温度曲線の降温過程において、急激な降温変化(以下、変曲点と呼ぶ)があるか否かを検知し、変曲点が生じれば、正常吐出と判定する検査方法が提案されている。なお、この変曲点は、吐出した液滴の後端が記録素子上に接触して記録素子の温度を冷却することで生じると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−290361号公報
【特許文献2】特開2007−331193号公報
【特許文献3】特開2008−000914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2及び特許文献3では、微小変化の変曲点を検知し易くするために変化を強調させる2階微分の演算を行なって変曲点を検知し、その結果に基づいて正常吐出であるか否かの判定を行なっている。しかし、このとき、雑音も同時に強調されてしまうため雑音成分を変曲点の波形変化より十分に小さくしないと誤判定が生じてしまう。また、取得した温度情報の曲率変化で変曲点を求めることもできるが、この場合も上記同様に、雑音を曲率変化より十分に小さくしないと誤判定が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来の構成よりも、雑音に対する耐性を向上させて変曲点を検知することで正常吐出であるか否かの判定の精度を高めるようにした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、吐出口からインクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱素子のそれぞれに対応して温度検知素子が配される記録ヘッドを有する記録装置であって、前記吐出口からインクを吐出させるための第1の駆動電圧を発熱素子に印加させた後、インクの発泡又は吐出に至らない第2の駆動電圧を該発熱素子に印加させる制御を行なう制御手段と、前記第1の駆動電圧及び前記第2の駆動電圧の印加が行なわれた発熱素子に対応して設けられた温度検知素子により検知される温度を示す信号に基づいて対応する吐出口からのインクの吐出が正常に行なわれたか否かを判定する判定手段とを具備し、前記制御手段は、前記第1の駆動電圧の印加後で且つ、前記第1の駆動電圧の印加に伴って吐出口からインクが正常に吐出されたときに温度検知素子により検知される降温過程の温度を示す信号の波形で変曲点が検出されるよりも前に前記第2の駆動電圧を印加させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の構成よりも、雑音に対する耐性を向上させて変曲点を検知することで正常吐出であるか否かの判定の精度を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係わるインクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)1の斜視図。
【図2】記録素子基板の構成の一例を示す図。
【図3】ヒータに駆動電圧を印加したときの温度検知素子の温度プロファイルの一例を示す図。
【図4】ヒータへの駆動信号(駆動電圧)の入力タイミングと温度検知素子の温度波形との関係を示す図。
【図5】温度波形を2階微分した波形の一例を示す図。
【図6】従来手法を説明するための図。
【図7】従来手法を説明するための図。
【図8】本実施形態と従来手法とにおける変曲点付近の温度波形の一例を示す図。
【図9】図1に示す記録装置1における機能的な構成の一例を示す図。
【図10】図9に示す制御回路613からの各種信号の出力タイミングの一例を示す図。
【図11】ヒータ及び温度検知素子の選択動作の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。以下の説明においては、インクジェット記録方式を用いた記録装置を例に挙げて説明する。記録装置は、例えば、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであっても良いし、また、例えば、記録機能、FAX機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであっても良い。また、例えば、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス、微小構造物等を所定の記録方式で製造するための製造装置であっても良い。
【0012】
なお、以下の説明において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。更に人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン、構造物等を形成する、又は媒体の加工を行なう場合も表す。
【0013】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表す。
【0014】
更に、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表す。
【0015】
また更に、「記録素子」(「ノズル」という場合もある)とは、特に断らない限りインク吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括していうものとする。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態に係わるインクジェット記録装置(以下、記録装置と呼ぶ)1の斜視図である。
【0017】
記録装置1は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドと呼ぶ)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向(走査方向)に往復移動させて記録を行なう。記録装置1は、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送する。そして、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0018】
記録装置1のキャリッジ2には、記録ヘッド3の他、例えば、インクカートリッジ6が搭載される。インクカートリッジ6は、記録ヘッド3に供給するインクを貯留する。なお、インクカートリッジ6は、キャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0019】
図1に示す記録装置1は、カラー記録が可能である。そのため、キャリッジ2には、例えば、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容する4つのインクカートリッジが搭載されている。これら4つのインクカートリッジは、それぞれ独立して着脱できる。
【0020】
記録ヘッド3には、記録素子基板(以下、基板と略す場合もある)が設けられており、当該基板上には、複数のノズル列が配列される。記録ヘッド3は、例えば、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式により構成される。そのため、記録ヘッド3には、発熱素子(以下、ヒータと呼ぶ)等から構成される記録素子や、ヒータの駆動制御を行なう制御回路が設けられる。ヒータは、各ノズル(吐出口)に対応して設けられ、記録信号に応じて対応するヒータにパルス電圧が印加される。
【0021】
キャリッジ2の往復運動の範囲外(記録領域外)には、記録ヘッド3の吐出不良を回復する回復装置4が配設されている。回復装置4が設けられる位置は、いわゆるホームポジションなどと呼ばれ、記録動作が行なわれていない間、記録ヘッド3はこの位置で静止する。
【0022】
ここで、図2(a)及び図2(b)を用いて、上述した記録素子基板の概略構成について説明する。図2(a)は、記録素子基板の断面構成の一例を示し、図2(b)は、記録素子基板の平面構成の一例を示す。なお、ここでは説明の便宜上、ノズルの図示については省略している。
【0023】
図2(a)に示すように、記録素子基板においては、シリコン基板901上に複数の層が形成される。具体的には、シリコン基板901上には、SiO2等のフィールド酸化膜902を介して絶縁膜PSG903が形成される。絶縁膜PSG903上には、Al、Pt、Ti、Ta等の薄膜抵抗体で形成される温度検知素子905が設けられるとともに、温度検知素子905を接続配線するAL1配線904が設けられる。
【0024】
また、更に上層には、SiO等の層間絶縁膜906が設けられ、層間絶縁膜906上には、TaSiN等の電気熱変換するヒータ907や、ヒータ907とシリコン基板に形成された駆動回路とを接続するAL2配線908が設けられる。この他、SiO2等のパシベーション膜909や、ヒータ907上の耐キャビテーション性を高めるTa等の耐キャビテーション膜910も設けられる。
【0025】
図2(b)に示すように、記録素子基板の平面上には、ヒータの領域911、駆動回路と接続するAL2配線912を示す領域、温度検知素子の個別配線のAL1配線914を示す領域、共通配線のAL1配線915を示す領域がある。また、太線枠内は、温度検知素子905の領域913を示している。
【0026】
このような記録素子基板の構成は、半導体プロセスで形成される。本実施形態に係わる記録素子基板は、温度検知素子905をAL1層に置いて、成膜、パターニングすることで作製できるため、従来の記録素子基板の構造を変更せずに作製できる。
【0027】
なお、図2(b)では、温度検知素子905が矩形形状で示されているが、これに限られず、温度検知素子905は、例えば、ジグザグに蛇行した形状でも形成されていても良い。このような形状の場合、温度検知素子905の抵抗値が大きくなるほど、検知信号が大きくなるので、温度変化を精度良く検知できるという利点が得られる。
【0028】
次に、図3を用いて、ヒータにインクを吐出させるための駆動電圧を印加したときの温度検知素子の温度プロファイルについて説明する。
【0029】
符号11〜15は、種々の吐出状態に対応した温度プロファイルを示している。具体的には、符号11は、正常吐出時の温度プロファイルを示しており、符号12は、ノズル内に気泡が残留したことにより引き起こされた吐出異常時の温度プロファイルを示している。また、符号13は、流路に不純物が堆積しインク再充填が正常に行なわれなかったために起こった吐出異常時の温度プロファイルを示しており、符号14は、ノズル表面に付着したインクによって起こった吐出異常時の温度プロファイルを示している。符号15は、吐出口に異物が詰まったことによる吐出異常時の温度プロファイルを示している。
【0030】
ここで、符号11に示す正常吐出時の温度プロファイルでは、検知温度が最高温度に到達した時間から一定時間後に温度が降下する速度が急激に変化するポイント変曲点が出現している。本実施形態で用いているノズル形状においては、インクを吐出させるための駆動電圧(第1の駆動電圧)の印加後、約7usに変曲点が現れる。なお、この変曲点が現れる時間については、吐出口、インクの流路といったヘッドの構造や、ヒータの発熱等の条件によって異なってくる。従って、変曲点が生じているか否かを判定するタイミングについては、記録ヘッドに応じて適宜設定されることが好ましい。
【0031】
一方、符号12〜符号15に示す吐出異常時の温度プロファイルは、正常吐出時の温度プロファイルに対してその特徴が異なっている。特に、変曲点が現れない点が共通した現象として挙げられる。そこで、所定の時間範囲内、例えば、変曲点前から変曲点後の期間に得られる温度を示す信号の波形(以下、温度波形と呼ぶ)を演算処理することにより、正常吐出が行なわれたか否かを判定することができる。
【0032】
(実施形態1)
ここで、実施形態1について説明する。実施形態1においては、第1の駆動電圧の印加を印加した後、当該第1の駆動電圧の印加タイミングと変曲点が生じるタイミングとの間に第2の駆動電圧の印加として短パルスを印加する場合について説明する。なお、第1の駆動電圧は、吐出口からインクを吐出させるために印加され、それに対応した電圧値やパルス幅に設定する。また、第2の駆動電圧は、インクの発泡又は吐出に至らない程度の電圧値やパルス幅に設定する。
【0033】
まず、本実施形態に係わる変曲点の検知方法について説明する。図4は、ヒータへの駆動信号(駆動電圧)の入力タイミングと温度検知素子の温度波形との関係を示す図である。なお、ここでいう駆動信号は、ヒータ(記録素子)の駆動を制御する信号であり、詳細については後述するが、ヒート信号HE、サブパルス信号SP、印加イネーブル信号に基づいて生成される。
【0034】
ここでは、インク吐出に用いられる第1の駆動電圧P1のパルス幅を0.75usとする。また、変曲点が生じる時刻tpは、本実施形態で用いるノズルにおいてはP1の印加後、約7usであるとする。第2の駆動電圧P2は、第1の駆動電圧P1を印加した時刻t1と時刻tpとの間のタイミング、すなわち、時刻t2(=3us)で行なわれる。なお、第2の駆動電圧P2は、発泡に至らない短いパルス幅(0.2us)で行なわれる。
【0035】
ここで、温度検知素子により検知される温度波形は、第1の駆動電圧P1の印加に伴って昇温していき、最高到達温度を経て降温に転じていく。降温過程にある時刻t2において、第2の駆動電圧P2の印加が行なわれたことに伴って、当該温度波形は、再度、昇温した後、降温する。そして、時刻tpにおいて、正常吐出時には変曲点が生じ、吐出異常時には変曲点が現れない。
【0036】
ここで、図5は、上述した温度波形の変曲点付近の期間ts(時刻6us〜10us)において、当該温度波形を2階微分した波形を示している。2階微分の結果、正常吐出時には正ピークが現れ、異常吐出時(不吐時)には正ピークが現れていない。ここでの正ピークの値は、約5E−2[dT/dt]である。
【0037】
続いて、本実施形態の構成との比較例として、従来手法による変曲点の検知方法について説明する。図6は、従来手法に係るヒータへの駆動信号(駆動電圧)の入力タイミングと温度検知素子の温度波形との関係を示す図である。上記同様に、インク吐出用の印加のパルス幅は0.75usとする。また、変曲点が生じる時刻tpは、P1の印加後、約7usであるとする。
【0038】
図7は、図6に示す変曲点付近(変曲点が検出されるタイミングの前後の所定期間)の期間ts(時刻6us〜10us)において、当該温度波形を2階微分した波形を示している。2階微分の結果、正常吐出時の正ピークの値は、約2.5E−2[dT/dt]となる。
【0039】
図8は、本実施形態と従来手法とにおける変曲点付近の温度波形を示している。温度波形L1は、本実施形態に係る変曲点付近の温度波形を示し、温度波形L2は、従来手法に係る変曲点付近の温度波形を示している。
【0040】
ここで、本実施形態に係る温度波形L1と従来手法に係る温度波形L2とに対して、変曲点時刻tpを境にしてその後半の波形変化に沿った略曲率の延長補助線(点線)と前半波形との角度をとる。ここで、波形変化の程度を示す角度θ1は、本実施形態に係るL1に対応し、波形変化の程度を示す角度θ2は、従来手法に係るL2に対応する。
【0041】
この角度の大きさが2階微分した波形の正ピーク値の大きさに反映される。両者を比較すると、θ1は、θ2よりも少し大きくなっており、この角度の差が、正ピーク値の差となって現れる。波形の曲率の大きさは、温度変化の大きさに比例することから、本実施形態に係る方法は、従来手法に比べて、冷却温度差が大きくなっていると考えられる。これは、第2の駆動電圧P2の印加によりヒータを再加熱して温度を上げているためである。
【0042】
なお、上述した温度波形の変曲点付近の期間ts(図4参照)は、波形推移が滑らかな自然降温状態であることが好ましく、また、第2の駆動電圧の印加の終了タイミングは、熱伝導の遅延時間を含めtsの開始時刻前であることが好ましい。
【0043】
次に、図9を用いて、図1に示す記録装置1における機能的な構成の一例について説明する。ここでは、正常吐出であるか否かの判定に係る構成について重点的に説明する。
【0044】
記録装置1の構成は、記録ヘッド側に配される記録素子基板601と、装置本体側に配される制御回路613及びデータ処理部630とに大きく分けられる。
【0045】
制御回路613は、記録装置1における各構成の動作を制御する。制御回路613では、例えば、ヒータ(H1〜H4)605の駆動回路の制御や、当該駆動回路を介した温度検知動作を制御する。
【0046】
データ処理部630は、AD変換器614と、ダブルバッファ615と、演算器616と、判定器617と、レジスタ618とを具備して構成される。データ処理部630においては、温度検知信号VSに基づいて、上記各構成により各種データ処理を行なう。
【0047】
具体的には、AD変換器614は、温度検知信号VSをアナログデータからデジタルデータに変換する。ダブルバッファ615は、2つのレジスタから構成され、時分割駆動時間毎に当該2つのレジスタを交互に切り替えて、AD変換器614からのデジタルデータを一時的に格納する。演算器616は、デジタルフィルタと2階微分演算を行なう。判定器617は、演算器616の演算結果に基づいて正常吐出であるか否かを判定する。レジスタ618は、各ノズルの判定結果を格納する。
【0048】
ここで、記録素子基板601の構成は大きく、ヒータを駆動させるための駆動回路と、ヒータの温度を検知するための温度検知回路とに分けられる。
【0049】
まず、駆動回路について説明する。駆動回路としては、回路ブロック606と、ANDゲート602と、第1の駆動電圧印加回路641と、第2の駆動電圧印加回路642と、セレクタ603と、駆動スイッチ604と、ヒータ605と、ヒータ駆動用の電源619とが設けられる。
【0050】
回路ブロック606は、2ラインデコーダや3ビットシフトレジスタの他、ラッチを具備して構成される。回路ブロック606は、制御回路613から各種信号(CLK1(シリアルクロック)、DATA1(記録データ及び時分割駆動データを含むシリアルデータ)、LT(ラッチ信号))を入力する。これにより、回路ブロック606は、時分割駆動信号(ブロック選択信号)BL0〜BL1や、記録信号D0〜D2を生成し、ANDゲート602に向けて出力する。
【0051】
ANDゲート602は、時分割駆動信号BLと記録信号Dとの論理積をとり、印加イネーブル信号Aを発生する。
【0052】
第1の駆動電圧印加回路641及び第2の駆動電圧印加回路642は、各ヒータに対応して設けられており、対応するヒータに対して駆動信号(第1の駆動電圧、第2の駆動電圧)を出力する。第1の駆動電圧印加回路641は、印加イネーブル信号Aとヒート信号HEとの論理積をとり、第1の駆動電圧P1の印加を行なうための第1の駆動電圧を出力する。第2の駆動電圧印加回路642は、印加イネーブル信号Aとサブパルス信号SPとの論理積をとり、第2の駆動電圧P2の印加を行なうための第2の駆動電圧を出力する。
【0053】
セレクタ603は、第1の駆動電圧印加回路641及び第2の駆動電圧印加回路642のいずれかを選択し、当該選択した回路からの第1の駆動電圧及び第2の駆動電圧を駆動スイッチ604に向けて出力する。駆動スイッチ604は、ヒータ605をオン/オフするMOSトランジスタである。このような構成により駆動回路は、複数設けられるヒータを時分割駆動させる。
【0054】
続いて、温度検知回路について説明する。温度検知回路としては、シフトレジスタ607と、温度検知素子608と、選択スイッチ609と、読出スイッチ610及び611と、差動アンプ612と、温度検知素子バイアス用の定電流源620とが設けられる。温度検知素子608は、各ヒータ605に対応して設けられている。なお、温度検知素子608は、対応するヒータ605の近傍にそれぞれ配されている。
【0055】
選択スイッチ609は、温度検知素子608を選択するためのMOSトランジスタである。読出スイッチ610及び611は、温度検知素子608の端子電圧を読み出すMOSトランジスタである。シフトレジスタ607は、シフトクロックCLK2及びシフトデータDATA2の入力を受けて、選択信号C(C1〜C4)を順次出力する。差動アンプ612は、温度検知素子608の端子電圧を受けて差動増幅信号(すなわち、温度検知信号VS)を発生する。
【0056】
ここで、図10を用いて、図9に示す制御回路613からの各種信号(CLK1、DATA1、LT、HE、SP)の出力タイミングについて説明する。
【0057】
制御回路613は、シリアルクロックCLK1に同期して、記録データと時分割駆動データとを含むシリアルデータDATA1を記録ヘッド側に転送する。記録ヘッド(記録素子基板)においては、ラッチ信号(LT信号)のタイミングに従って、当該入力された信号をラッチに保持する。また、その直後に、制御回路613は、第1の駆動電圧の印加パルスにあたるヒート信号HEと、第2の駆動電圧の印加パルスにあたるサブパルス信号SPとを記録ヘッド側に転送する。
【0058】
記録素子基板においては、このような制御回路613からの信号に基づいて、ヒータを順次選択するとともに、それに同期して温度検知素子を順次選択する。ここで、図11を用いて、ヒータ及び温度検知素子の選択動作について説明する。時分割駆動時間tbは、例えば、4usとし、変曲点が生じうる期間ts(時刻6us〜10us)よりも短いものとする。すなわち、第1の駆動電圧を印加したタイミングから変曲点が検出されるタイミングまでの期間よりも短い周期での時分割駆動により各吐出口からのインクの吐出を制御する場合について説明する。
【0059】
ここで、期間tb1において、ヒータH1に対応するセレクタ603は、第1の駆動電圧印加回路642を選択する。このとき、対応するANDゲート602においては、ヒート信号HE及び印加イネーブル信号A1が入力され、ヒータH1に対して第1の駆動電圧の印加パルスが印加される。
【0060】
(期間tb1に続く)期間tb2において、ヒータH1に対応するセレクタ603は、第2の駆動電圧印加回路642を選択し、ヒータH2に対応するセレクタ603は、第1の駆動電圧印加回路642を選択する。このとき、対応するANDゲート602においては、ヒート信号HE、サブパルス信号SP及び印加イネーブル信号A2が入力され、ヒータH1に対して第2の駆動電圧の印加パルスが印加され、ヒータH2に対して第1の駆動電圧の印加パルスが印加される。
これにより、ヒータH1に対して、駆動信号(駆動電圧)B1に示す印加パルスが入力される。すなわち、期間tb1時に第1の駆動電圧の印加パルスが印加され、期間tb2時に第2の駆動電圧の印加パルスが印加される。以降、ヒータH2、H3、H4に対しても上記同様の処理が順次行なわれる。
【0061】
また、ヒータへの電圧の印加に際して、対応する温度検知素子を選択するため、制御回路613は、tb1期間において、ヒータH1の選択に同期してCLK2及びDATA2をヒータH1に対応するシフトレジスタ607に出力する。すると、シフトレジスタ607は、tb2期間において、選択信号C1を出力し、温度検知素子S1を選択する。これにより、データ処理部630は、差動アンプ612を介してヒータH1に対応する温度検知信号VSを取得する。以降同様にして、S2、S3、S4に対しても上記同様の処理が順次行なわれる。
【0062】
ここで、S1の変曲点タイミングは、期間tb2(te)で生じている。データ処理部630は、AD変換器614において、期間teの温度検知信号VSをAD変換してデジタルデータを取得し、ダブルバッファ615において、一方のレジスタに当該デジタルデータを取り込む。
【0063】
ダブルバッファ615に取り込まれたこのデジタル化された温度情報は、ロジックやヒータの駆動などの動作に起因する雑音や、外部の伝送路での雑音が重畳されている。そこで、データ処理部630は、演算器616において、温度検知精度を妨げる雑音を低減するためにデジタルフィルタ処理するとともに、雑音軽減された温度情報を用いて2階微分演算を行なう。そして、判定器617において、この2階微分波形における正ピークの有無を検知し、当該検知結果に基づいて正常吐出であるか否かを判定する。その後、データ処理部630は、レジスタ618において、その結果を保持する。
【0064】
記録装置1においては、このようにしてヒータと当該ヒータに対応する温度検知素子とを1つずつ順次選択し、全てのヒータに対応する温度を検知し、各吐出口からの吐出状態が正常であるか否かを検査(吐出検査)する。
【0065】
以上説明したように本実施形態によれば、記録素子に対して第1の駆動電圧の印加を行なった後、当該記録素子から検知される降温過程の温度波形上において変曲点が生じるよりも前のタイミングで第2の駆動電圧の印加を行なう。
【0066】
そのため、記録素子の温度低下を抑えた状態で液滴後端が記録素子に接触するため、記録素子の冷却温度が大きくなり、急激な降温変化がより大きく生じる。これにより、上記温度波形における変曲点が検知し易くなり、雑音に対する耐性が向上するため、正常吐出であるか否かの判定の精度を高めることができる。
【0067】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【0068】
例えば、第2の駆動電圧の印加は、インクの発泡又は吐出に至らない加熱を引き起こすことができれば良く、必ずしも短パルスである必要はない。例えば、低電圧で長いパルスや、その他の形状のパルス波形であっても良い。
【0069】
また、例えば、図11の説明では、時分割駆動時間tbが4usである場合、すなわち、変曲点が生じうる期間ts(時刻6us〜10us)よりも短い場合について説明したが、これに限られない。例えば、1時分割駆動時間内に第1の駆動電圧の印加と第2の駆動電圧の印加とを行なうようにし、時分割駆動時間tbを、第1の駆動電圧の印加が行なわれてから変曲点時刻tpを迎える時間よりも長い周期に設定しても良い。この場合、セレクタ603が不要となり、記録素子基板の回路構成が簡素化できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口からインクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱素子のそれぞれに対応して温度検知素子が配される記録ヘッドを有する記録装置であって、
前記吐出口からインクを吐出させるための第1の駆動電圧を発熱素子に印加させた後、インクの発泡又は吐出に至らない第2の駆動電圧を該発熱素子に印加させる制御を行なう制御手段と、
前記第1の駆動電圧及び前記第2の駆動電圧の印加が行なわれた発熱素子に対応して設けられた温度検知素子により検知される温度を示す信号に基づいて対応する吐出口からのインクの吐出が正常に行なわれたか否かを判定する判定手段と
を具備し、
前記制御手段は、
前記第1の駆動電圧の印加後で且つ、前記第1の駆動電圧の印加に伴って吐出口からインクが正常に吐出されたときに温度検知素子により検知される降温過程の温度を示す信号の波形で変曲点が検出されるよりも前に前記第2の駆動電圧を印加させる
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記判定手段は、
前記温度を示す信号の波形で前記変曲点が検出された場合に、前記対応する吐出口からのインクの吐出状態が正常であると判定し、そうでない場合にインクの吐出状態が異常であると判定する
ことを特徴とする請求項1記載の記録装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
前記温度を示す信号の波形で前記変曲点の検出される前後の所定期間における前記温度を示す信号を2階微分演算することにより前記判定を行なう
ことを特徴とする請求項1又は2記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記第1の駆動電圧の印加後から前記変曲点が検出されるまでの期間よりも短い周期での時分割駆動により各吐出口からのインクの吐出を制御し、各時分割駆動に合わせて対応する発熱素子に対して前記第1の駆動電圧を印加させ、当該第1の駆動電圧の印加に続く時分割駆動のタイミングで該発熱素子に対して前記第2の駆動電圧を印加させる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記第1の駆動電圧の印加後から前記変曲点が検出されるまでの期間よりも長い周期での時分割駆動により各吐出口からのインクの吐出を制御し、1つの時分割駆動のタイミングで前記第1の駆動電圧及び前記第2の駆動電圧を印加させる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
吐出口からインクを吐出するための熱エネルギーを発生する発熱素子のそれぞれに対応して温度検知素子が配される記録ヘッドを有する記録装置の吐出検査方法であって、
制御手段が、前記吐出口からインクを吐出させるための第1の駆動電圧を発熱素子に印加させた後、インクの発泡又は吐出に至らない第2の駆動電圧を該発熱素子に印加させる制御を行なう工程と、
判定手段が、前記第1の駆動電圧及び前記第2の駆動電圧の印加が行なわれた発熱素子に対応して設けられた温度検知素子により検知される温度を示す信号に基づいて対応する吐出口からのインクの吐出が正常に行なわれたか否かを判定する工程と
を含み、
前記制御手段は、
前記第1の駆動電圧の印加後で且つ、前記第1の駆動電圧の印加に伴って吐出口からインクが正常に吐出されたときに温度検知素子により検知される降温過程の温度を示す信号の波形で変曲点が検出されるよりも前に前記第2の駆動電圧を印加させる
ことを特徴とする吐出検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−250511(P2012−250511A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126700(P2011−126700)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】