説明

記録装置

【課題】小容量で安価なコンデンサを選択しつつも、専用の温度検出部品を付加することなく、コンデンサの過度の温度上昇を防止することが可能な記録装置を提供すること。
【解決手段】温度推定部84は、ドライバ温度検出部86により検出されたドライバIC52の動作温度と環境温度検出部87により検出された環境温度とに基づいて、ドライバIC52とアクチュエータユニット21にそれぞれ電気的に接続されたコンデンサ60の内部温度を推定する。そして、この温度推定部84により推定されたコンデンサ60の内部温度が所定の許容温度を超えたときには、ドライバ制御部85は、コンデンサ60の内部温度が許容温度以下となるまで、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に文字や画像等を記録する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被記録媒体に所望の文字や画像等を記録する記録装置において、記録素子を駆動する駆動回路(ドライバ)には、その駆動特性を安定させるなどの目的でコンデンサ(電解コンデンサ)が設けられていることが多い。例えば、記録速度を高めるために記録素子を高い周波数で駆動する必要があるときに、複数の記録素子と駆動回路とを接続する配線のインダクタンスが大きいと、駆動電流が記録素子に瞬時に供給されず、所望の駆動特性を得ることができない。そこで、このような場合には、駆動回路と記録素子の間にコンデンサを配置して記録素子から見たインピーダンスを低下させることにより、駆動電流を瞬時に供給することができるようになり、駆動特性をより安定させることが可能となる。
【0003】
ところで、記録素子の駆動時には瞬間的に大きな電流が流れ、その際に生じる損失(特に、交流成分であるリプル電流に起因する発熱)によりコンデンサの内部温度が上昇する。そして、コンデンサの内部温度が過度に上昇すると、コンデンサ内部の電解液がガスとして抜けてしまい、寿命低下につながる。ここで、リプル電流が生じたときの発熱によるコンデンサの温度上昇は、コンデンサ内部の等価直列抵抗(ESR)に比例する。また、容量が大きいコンデンサほど一般的に等価直列抵抗が小さい。従って、大容量のコンデンサを選択すればリプル電流による温度上昇を抑えることができるが、一般的に大容量のコンデンサはサイズが大きく高価であることから、前述した駆動特性の安定のために必要な容量以上のコンデンサを選択することは、装置の大型化及び装置コストの上昇につながる。そこで、小容量の安価なコンデンサが選択されるとともに、このコンデンサの過度の温度上昇を防止するための構成を記録装置が備えていることが好ましい。
【0004】
この課題に関連する技術が特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載された感熱プリンタの定着装置は、感熱記録紙に定着光を照射するXeランプと、このXeランプへの印加電圧が充電される電解コンデンサと、電解コンデンサの表面温度を測定する温度センサとを備えている。そして、この定着装置は、温度センサで測定された電解コンデンサの表面温度が予め設定された設定温度以上であるときに、Xeランプの発光を中止するように構成されており、電解コンデンサの過度の温度上昇を防止できるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−103969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示されている技術を用いれば、容量が小さく安価なコンデンサを選択した場合でも、このコンデンサの過度の温度上昇を防止することが可能である。しかし、一方で、電解コンデンサの表面温度を測定するための専用の温度センサが必要になるため、その分、装置のコストが高くなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、小容量で安価なコンデンサを選択しつつも、専用の温度検出部品を付加することなく、コンデンサの過度の温度上昇を防止することが可能な記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
第1の発明の記録装置は、記録素子を駆動する素子駆動手段と、この素子駆動手段を制御する駆動制御手段と、前記素子駆動手段に電気的に接続されたコンデンサと、前記素子駆動手段の動作温度を検出する第1温度検出手段と、前記第1温度検出手段により検出された前記素子駆動手段の動作温度に基づいて、前記コンデンサの内部温度を推定する温度推定手段とを有することを特徴とするものである。
【0009】
この構成によれば、温度推定手段が、第1温度検出手段により検出された素子駆動手段の動作温度に基づいて、コンデンサの内部温度を推定することから、このコンデンサの内部温度を監視することができる。従って、記録装置のコスト低減及び小型化を実現するために容量が小さく安価なコンデンサが選択された場合でも、推定された内部温度に基づいて素子駆動手段の駆動状態を変更してコンデンサの過度の温度上昇を防止する、あるいは、コンデンサの内部温度が上昇していることを使用者に対して警告することなどが可能になる。また、コンデンサの内部温度を監視するための専用の温度センサ等を設ける必要がないため、記録装置のコストを抑制できる。
【0010】
第2の発明の記録装置は、前記第1の発明において、周囲の環境温度を検出する第2温度検出手段をさらに備え、前記温度推定手段は、前記第1温度検出手段により検出された前記素子駆動手段の動作温度と前記第2温度検出手段により検出された前記環境温度とに基づいて、前記コンデンサの内部温度を推定することを特徴とするものである。この構成によれば、温度推定手段が、第1温度検出手段により検出された素子駆動手段の動作温度と第2温度検出手段により検出された周囲の環境温度の両方に基づいて、コンデンサの内部温度を推定することから、推定精度が高くなる。
【0011】
第3の発明の記録装置は、前記第2の発明において、前記温度推定手段は、前記素子駆動手段の動作温度及び前記環境温度と前記コンデンサの内部温度とを対応させるテーブルを有することを特徴とするものである。この構成によれば、コンデンサの内部温度の推定を容易に行うことができる。
【0012】
第4の発明の記録装置は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記温度推定手段により推定された前記コンデンサの内部温度が所定温度を超えたときに、前記駆動制御手段は、前記コンデンサの内部温度が前記所定温度以下となるまで、前記素子駆動手段による前記記録素子の駆動を禁止することを特徴とするものである。この構成によれば、小容量のコンデンサを選択しつつ、このコンデンサの過度の温度上昇を確実に防止できる。
【0013】
第5の発明の記録装置は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記温度推定手段により推定された前記コンデンサの内部温度が所定温度を超えたときに、前記駆動制御手段は、前記素子駆動手段による前記記録素子の駆動の間隔を長くすることを特徴とするものである。この構成によれば、小容量のコンデンサを選択しつつ、このコンデンサの過度の温度上昇を防止できる。
【0014】
第6の発明の記録装置は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記温度推定手段は、前記素子駆動手段により前記記録素子が駆動されたと仮定したときの、仮想的な前記コンデンサの内部温度を推定し、前記温度推定手段により推定された、仮想的な前記コンデンサの内部温度が所定温度を超えているときには、前記駆動制御手段は、その仮想的な内部温度が前記所定温度以下となるまで、前記素子駆動手段による前記記録素子の駆動を禁止することを特徴とするものである。この構成によれば、次に記録素子が駆動されることによってコンデンサの内部温度が許容温度を超えると予測されるときには、その記録素子の駆動が禁止されるため、コンデンサの過度の温度上昇をさらに確実に防止することができる。
【0015】
第7の発明の記録素子は、前記第1〜第6の何れかの発明において、前記記録素子は、インクを吐出するノズルと前記ノズルに連通するインク流路とが形成された流路ユニットに接着されて、前記素子駆動手段によって駆動電圧が印加されたときに前記ノズルからインクを吐出させるように構成され、前記コンデンサは、前記素子駆動手段と並列に接続されているとともに、前記記録素子の駆動によって前記素子駆動手段に最大負荷がかかったときに、少なくとも前記記録素子に印加される電圧が前記駆動電圧に維持されるような静電容量を有していることを特徴とするものである。
【0016】
この構成によれば、記録素子を駆動する上で素子駆動手段に最大負荷がかかるようなときであっても、適切な容量を有するコンデンサの働きによって、記録素子に印加される電圧が、適正なインク吐出をするのに必要な駆動電圧に維持されるため、ノズルからのインクの吐出が確実に行われることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、記録用紙にインクを噴射して文字や画像等を記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例である。
【0018】
まず、本実施形態に係るプリンタ1(記録装置)の構成について簡単に説明する。図1に示すように、プリンタ1は、図1の紙面垂直方向に延びる4つのライン型インクジェットヘッド2を備え、これら4つのインクジェットヘッド2から4種類(シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラック)のインクを記録用紙Pに噴射してカラー画像を記録可能なカラーインクジェットプリンタである。また、プリンタ1は、給紙装置114、紙受け部116、及び、搬送ユニット120を備えており、インクジェットヘッド2、給紙装置114、搬送ユニット120等の動作は、プリンタ制御部80(図7参照)によりそれぞれ制御される。
【0019】
給紙装置114は、積層された複数の矩形記録用紙Pを収容可能な用紙収容部115と、用紙収容部115内において最も上にある記録用紙Pを1枚ずつ搬送ユニット120に向けて送り出す給紙ローラ145とを有する。用紙収容部115内には、記録用紙Pがその長辺と平行な方向に給紙されるように収容されている。用紙収容部115と搬送ユニット120との間には、搬送経路に沿って、2対の送りローラ118a、118b;119a、119bが配置されている。また、給紙ローラ145は給紙モータ81(図7参照)により回転駆動される。そして、この給紙ローラ145により給紙装置114から取り出された記録用紙Pは、送りローラ118a、118bによって図1中の上方へ送られ、その後、送りローラ119a、119bによって搬送ユニット120に向けて左方へ送られる。
【0020】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と、搬送ベルト111が巻き掛けられた駆動ローラ106及び従動ローラ107とを備えている。従動ローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されており、記録用紙Pがこれら2つのローラ138,139に挟み込まれて、搬送ベルト111の搬送面(上面)に押しつけられるようになっている。
【0021】
また、駆動ローラ106は搬送モータ82(図7参照)により図1中の矢印Aの方向に回転駆動される。そして、給紙装置114から搬送ユニット120に送られてきた記録用紙Pは、搬送ベルト111により左方へ搬送されながら、その上面に4つのインクジェットヘッド2によって所望の文字や画像等が記録される。尚、搬送ユニット120の左方には、搬送されてきた記録用紙Pを搬送ベルト111の搬送面から剥離する剥離プレート140が設けられている。さらに、画像等が記録された後の記録用紙Pは、2対の送りローラ121a、121b;122a、122bにより紙受け部116に送られ、この紙受け部116において、複数の記録用紙Pが重なり合うように載置される。
【0022】
次に、インクジェットヘッド2について説明する。図2は、インクジェットヘッド2の長手方向に直交する鉛直面に関する縦断面図である。図2に示すように、インクジェットヘッド2は、流路ユニット4とアクチュエータユニット21とを含むヘッド本体70と、ヘッド本体70の上面に配置され、このヘッド本体70にインクを供給するリザーバユニット71と、インクジェットヘッド2の動作を制御するヘッド制御部83(図7参照)が設けられたヘッド基板54とを備えている。
【0023】
ヘッド本体70は、インクを噴射するノズルを含むインク流路が形成された流路ユニット4の上面に、アクチュエータユニット21が配置された構成を有する。図2、図3に示すように、流路ユニット4の上面には、内部のインク流路に連通する10個のインク供給口5bが形成されている。また、アクチュエータユニット21の上面には、ドライバIC52が実装されたフレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit:FPC)50が接続されている。また、FPC50は、リザーバユニット71の上方において水平に配置されたヘッド基板54にもコネクタ54aを介して接続されている。そして、ヘッド基板54に設けられたヘッド制御部83(図7参照)からの指令に基づいて、ドライバIC52が、FPC50に設けられた配線を介してアクチュエータユニット21に駆動信号を供給するように構成されている。さらに、ヘッド基板54には、コンデンサ60(本実施形態では、電解コンデンサ)がドライバIC52に対して並列接続となるように配設されており、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動特性の安定化が図られている。流路ユニット4及びアクチュエータユニット21の詳細な構成については、後ほどさらに詳しく説明する。
【0024】
リザーバユニット71は、ヘッド本体70の上方に配置されている。このリザーバユニット71は、その内部にインクを収容するインクリザーバ71aを備えており、このインクリザーバ71aは流路ユニット4のインク供給口5bに連通している。従って、このインクリザーバ71a内のインクは、インク供給口5bを介して流路ユニット4内のインク流路に供給される。
【0025】
尚、以上説明したアクチュエータユニット21、リザーバユニット71、ヘッド基板54、及び、FPC50等は、サイドカバー53とヘッドカバー55とからなるカバー部材58により覆われており、外部に飛散するインクやインクミストが浸入するのが防止されている。尚、このカバー部材58は金属材料で形成されている。また、リザーバユニット71の側面とFPC50との間の、FPC50を挟んでドライバIC52と反対側の位置には、弾力性を有するスポンジ51が介装されており、このスポンジ51により、ドライバIC52がサイドカバー53の内面に押しつけられている。従って、ドライバIC52で発生した熱が金属製のカバー部材58を介して速やかに外部へ放散されるようになっている。ここでは、カバー部材58は放熱部材としても機能している。
【0026】
次に、ヘッド本体13について詳細に説明する。図3は図2のヘッド本体13の平面図であり、図4は、図3中の一点鎖線で囲まれた領域Bの拡大図である。図3及び図4に示すように、ヘッド本体13の流路ユニット4には、4つの圧力室群9を構成する多数の圧力室10及びこれらの圧力室10にそれぞれ連通した多数のノズル8が形成されている。流路ユニット4の上面には、台形形状を有する4つのアクチュエータユニット21が千鳥状に2列に配列された状態でそれぞれ接着されている。
【0027】
アクチュエータユニット21の接着領域に対向した流路ユニット4の下面は、多数のノズル8の出射口が配置されたインク吐出領域となっている。また、図4に示すように、流路ユニット4の上面には、平面視で略菱形形状の圧力室10が2方向に沿ってマトリックス状に配列されている。尚、流路ユニット4の上面において1つのアクチュエータユニット21の接着領域に対向した領域内に位置する複数の圧力室10が、1つの圧力室群9を構成している。
【0028】
本実施形態では、図3に示すように、流路ユニット4の長手方向に等間隔に並ぶ圧力室10の列が、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各圧力室列に含まれる圧力室10の数は、アクチュエータユニット21の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。また、ノズル8もこの圧力室10と同様の配置がされている。これにより、全体として、600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
【0029】
図3、図4に示すように、流路ユニット4内には、インク流入口5bに連なるマニホールド流路5と、このマニホールド流路5から分岐する副マニホールド流路5aが形成されている。マニホールド流路5は、アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路ユニット4の長手方向と交差して配置されている。2つのアクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド流路5が、隣接するアクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド流路5の両側から分岐している。また、副マニホールド5aは、台形形状のインク吐出領域と対向する領域において、流路ユニット4の長手方向に延在している。
【0030】
図4に示すように、多数のノズル8は流路ユニット4の長手方向に配列されている。各ノズル8は、圧力室10と絞り流路であるアパーチャ12を介して副マニホールド流路5aと連通している。尚、図面を分かりやすくするために、図4においては、アクチュエータユニット21が二点鎖線で描かれており、さらに、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室10、アパーチャ12が実線で描かれている。
【0031】
さらに、ヘッド本体13の断面構造について説明する。上述のように、ヘッド本体13は、流路ユニット4とアクチュエータユニット21とが貼り合わされたものである。図5に示すように、流路ユニット4は、上から、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャプレート24、サプライプレート25、マニホールドプレート26、27、28、カバープレート29及びノズルプレート30の、9枚の金属プレートが積層された積層構造を有する。そして、これらの金属プレート22〜30にそれぞれ形成された孔により、流路ユニット4内に、副マニホールド5aの出口からアパーチャ12、圧力室10を介してノズル8に至る、個別インク流路32が形成されている。
【0032】
次に、アクチュエータユニット21について説明する。図6(a),(b)に示すように、アクチュエータユニット21は、積層された4枚の圧電シート41、42、43、44と、最上層の圧電シート41の上面に形成された複数の個別電極35と、2枚の圧電シート41、42の間に配置された共通電極34とを備えている。
【0033】
圧電シート41〜44は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなり、ヘッド本体13内の1つのインク吐出領域内に形成された、1つの圧力室群9(図3、図4参照)に属する全ての圧力室10に跨って配置されている。
【0034】
複数の個別電極35と共通電極34は、共に、例えばAg−Pd系などの金属材料からなる。図6(b)に示すように、個別電極35は、圧力室10よりも一回り小さい略菱形の平面形状を有する。略菱形の個別電極35の一方の鋭角部は、キャビティプレート22の圧力室10が形成されていない部分(桁部)にまで延出されており、その延出部の先端部に凸状のランド36が形成されている。このランド36は、例えばガラスフリットを含む金からなる。また、ランド36には、FPC50に設けられた配線が接続される。つまり、複数の個別電極35は、ランド36及びFPC50を介してドライバIC52に接続されており、これら複数の個別電極35に対して、ドライバIC52から選択的に所定の駆動電圧が印加されるようになっている。
【0035】
最上層の圧電シート41とその下側の圧電シート42との間には、シート全面に亙って共通電極34が介在している。そのため、最上層の圧電シート41の圧力室10に対向する部分が、個別電極35と共通電極34とに挟まれることになり、この部分は、個別電極35と共通電極34との間に電位差が生じたときに、分極方向と直交する方向に収縮する活性部となる。つまり、4枚の圧電シート41からなる積層体中には、図6に示すようなアクチュエータの単位構造が圧力室10毎に作り込まれており、これにより1つのアクチュエータユニット21が構成されている。尚、最上層の圧電シート41の上面には、複数の個別電極35とともに表面電極(図示省略)が形成されており、この表面電極と共通電極34は、圧電シート41を貫通するスルーホールを介して電気的に接続されている。そして、複数の個別電極35と同様に、この表面電極もFPC50に設けられた配線と接続される。つまり、共通電極34は、表面電極及びFPC50を介してドライバIC52に接続されている。さらに、共通電極34は、ドライバIC52により所定の基準電位(例えば、グランド電位)に保持されている。
【0036】
次に、インク噴射時におけるアクチュエータユニット21の動作について説明する。インク噴射時には、ヘッド基板54(図2参照)に設けられたヘッド制御部83(図7参照)の指令に基づいてドライバIC52により個別電極35に駆動電圧が印加される。ところで、アクチュエータユニット21における圧電シート41の分極方向はその厚み方向である。つまり、アクチュエータユニット21は、最上層の圧電シート41を活性部が存在する層とし、下側の3枚の圧電シート42〜44を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。従って、ドライバIC52により個別電極35に正又は負の電位が付与されたときには、例えば電界方向と分極方向とが同じ方向であれば圧電シート41中の、両電極34,35に挟まれた電界印加部分が活性部として働き、圧電横効果により分極方向と直交する面方向に縮む。一方、下側3枚の圧電シート42〜44は、電界の影響を受けないため自発的には縮まない。そのため、最上層の圧電シート41と下層の3枚の圧電シート42〜44との間で、面方向に関する歪みに差が生じることとなり、圧電シート41〜44全体が非活性側(下側)に凸となるように変形しようとする(ユニモルフ変形)。
【0037】
このとき、図6(a)に示すように、圧電シート41〜44の下面はキャビティプレート22の上面(桁部)に固定されているので、結果的に、4枚の圧電シート41〜44は圧力室10側へ凸になるように変形する。このため、圧力室10の容積が低下して、インクの圧力が上昇し、ノズル8からインクが吐出される。その後、個別電極35への駆動電圧の印加が解除され、その電位が共通電極34と同じ電位に戻ったときには、圧電シート41〜44は元の形状になって圧力室10の容積が元の容積に戻るので、マニホールド5側からインクが吸い込まれる。
【0038】
また、他の駆動方法として、予め個別電極35を共通電極34と異なる電位にしておき、吐出要求があるごとに個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位とし、その後所定のタイミングにて再び個別電極35を共通電極34と異なる電位にすることもできる。この場合は、個別電極35と共通電極34とが同じ電位になるタイミングで、圧電シート41〜44が元の形状に戻ることにより、圧力室10の容積は初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加し、インクがマニホールド5側から圧力室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を共通電極34と異なる電位にしたタイミングで、圧電シート41〜44が圧力室10側へ凸となるように変形し、圧力室10の容積低下によりインクへの圧力が上昇するため、ノズル8からインクが吐出される。
【0039】
尚、以上の説明において、1つのノズル8とこのノズル8に連なる1つの圧力室10、及び、この圧力室10に対応するアクチュエータユニット21の一部分が、ドライバIC52(素子駆動手段)により駆動されて記録用紙Pに1つの画素を記録する、本発明の記録素子に相当する。
【0040】
ところで、外部のヘッド駆動電源92(図7参照)と接続されるヘッド基板54とアクチュエータユニット21の複数の個別電極35は、図2のようにリザーバユニット71の側面からその下側まで延びる、比較的長いFPC50を介して互いに接続されており、FPC50に設けられた配線のインダクタンスはある程度大きいものとなっている。そのため、記録速度を上げるために、ドライバIC52により高い周波数でアクチュエータユニット21を駆動したときには、給電系統のインピーダンスが無視できなくなり、結果的に電圧降下が生じて、個別電極35に所望の駆動電流を瞬時に供給できなくなる虞がある。別の言い方をすれば、アクチュエータユニット21の各個別電極35と共通電極34、及び、これら両電極34,35に挟まれた誘電体(PZT)としての圧電シート41(図6(a)参照)という構成から、一種のコンデンサ(以下の説明において、PZTコンデンサという)が構成されていると見ることができるが、このアクチュエータユニット21のPZTコンデンサを、所定の駆動周期内に十分に充電することができなくなってしまう。この場合には、適切なタイミングで圧力室10内のインクに所望の圧力を付与することができず、所望の液滴噴射特性(液適体積、液滴速度など)を実現することが不可能になる。
【0041】
そこで、図7に示すように、ドライバIC52の駆動特性を安定させるためのコンデンサ60が、ドライバIC52に電気的に接続されている。このコンデンサ60としては、例えば、アルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、高分子固体電解コンデンサ等の、電解コンデンサを用いることができる。また、このコンデンサ60は、ドライバIC52と並列に接続されている。このようなコンデンサ60が設けられることによって、ドライバIC52からアクチュエータユニット21への給電系統におけるインピーダンスが低下し、駆動特性がより安定することになる。
【0042】
このコンデンサ60は、ヘッド駆動電源92に対しては直列に接続されており、ドライバIC52が駆動中にヘッド駆動電源92から充電される。ヘッド駆動電源92の能力によっては、いくつものPZTコンデンサを充電するときに、瞬間的に電力の供給不足に陥ることがある。このとき、コンデンサ60が放電することで、この供給不足を補う働きをしている。このようにして、アクチュエータユニット21の駆動安定性が保たれている。
【0043】
このコンデンサ60の容量は、概略的には以下のようにして決定される。コンデンサ60の容量をC0、同時に駆動(充電)されるアクチュエータユニット21のPZTコンデンサの総容量をC1、ドライバIC52の電源電圧をV1、所定の駆動周期において個別電極35に印加される必要のある最低電圧をV2、駆動周期での充放電回数をnとすると、数式1の関係が成立する。
【0044】
【数1】

【0045】
つまり、高周波駆動時の駆動電圧をV2以上確保するためには、数式1により決定される容量C0以上の容量を有するコンデンサ60を選択すればよいことになる。尚、高周波駆動時のインピーダンスをさらに低下させるために、コンデンサ60として、電解コンデンサに加えて、これと並列にセラミックコンデンサがさらに設けられていてもよい。
【0046】
次に、プリンタ1の構成について図7を参照して説明する。プリンタ1は、プリンタ制御部80や電源を有する。プリンタ制御部80はプリンタ1の種々の装置(電気回路、給紙装置114、搬送ユニット120等)の動作を制御し、電源はプリンタ制御部80を含めて各装置の動作に必要な電力を供給している。尚、説明の都合上、図7には、電源として、上述のヘッド駆動電源92だけが示されている。
【0047】
図7に示すように、プリンタ1のプリンタ制御部80は、インクジェットヘッド2のインク噴射動作、給紙ローラ145による給紙動作、搬送ユニット120による記録用紙Pの搬送動作等の、プリンタ1の各種動作の制御を司るものであり、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びプログラムに使用されるデータが記憶されているROM(Read-Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時記憶するためのRAM(Random Access Memory)と、入出力インターフェースやバス等で構成されている。そして、プリンタ制御部80は、PC等の外部入力装置90から入力された記録画像等に関するデータに基づいて、インクジェットヘッド2のドライバIC52、給紙ローラ145(図1参照)を駆動する給紙モータ81、駆動ローラ(図1参照)を駆動する搬送モータ82等、プリンタ1を構成する種々の装置を制御する。
【0048】
また、インクジェットヘッド2のヘッド基板54(図2参照)には、インクジェットヘッド2のインク噴射動作を制御するヘッド制御部83が設けられている。このヘッド制御部83も、プリンタ制御部80と同様に、CPU、ROM、RAM等で構成されている。そして、ヘッド制御部83は、FPC50(図2参照)に実装されたドライバIC52と、FPC50に設けられた配線を介して電気的に接続されており、このドライバIC52(素子駆動手段)を制御するドライバ制御部85(駆動制御手段)を備えている。また、前述したように、ドライバIC52とアクチュエータユニット21の個別電極35及び共通電極34も、FPC50に設けられた配線を介して電気的に接続されている。つまり、ドライバIC52は、ヘッド制御部83のドライバ制御部85から送られた信号に基づいて、複数の個別電極35に所定の駆動電圧を選択的に印加するように構成されている。尚、このときに必要とされる電力は、ヘッド駆動電源92によって供給され、瞬間的に生じる電力の不足分は、コンデンサ60によって補われる。つまり、アクチュエータユニット21は、ドライバIC52を介してヘッド駆動電源92及びコンデンサ60と電気的に接続されている。
【0049】
尚、ドライバIC52には、その動作時の温度が所定の動作上限温度(例えばICの定格温度が120℃の場合には、100℃程度)を超えていないかを監視するために、ドライバIC52の動作温度を検出するドライバ温度検出部86(第1温度検出手段)が内蔵されている。このドライバ温度検出部86としては半導体温度センサ(PN接合ダイオード温度センサ)などを用いることができる。また、ヘッド基板54には、インクジェットヘッド2の周囲の環境温度を検出する環境温度検出部87(第2温度検出手段)が設けられている。この環境温度検出部87としては、半導体温度センサやサーミスタなどを用いることができる。そして、ドライバ温度検出部86で検出されたドライバIC52の動作温度と、環境温度検出部87で検出された環境温度は、それぞれヘッド制御部83に送られる。
【0050】
尚、環境温度が変化するとインクの粘度が変化するため、環境温度によって所望の液滴噴射特性を実現するために必要な駆動電圧の値は異なる。そこで、ヘッド制御部83は、ドライバIC52によりアクチュエータユニット21の個別電極35に印加される駆動電圧の値を、環境温度検出部87で検出された環境温度に応じた適切な値に適宜設定するように構成されている。尚、駆動電圧の値を変える代わりに、印加される電圧パルスの幅を変えてもよい。この場合には、電源の回路構成が簡素化される。
【0051】
ところで、前述したように、ドライバIC52には、アクチュエータユニット21の駆動特性を安定させるためのコンデンサ60が並列に接続されている。駆動特性の安定化という観点からは、コンデンサ60の容量は、前述したように、電圧降下が所定の範囲内に収まるように数式1の関係を最低限満たしていればよい。これによって印字品質を一定に保てる。さらに理想的には、例えば、印字条件として全面ベタ印字のとき、つまり、アクチュエータユニット21を駆動する上でドライバIC52に最大の負荷がかかるようなときであっても、コンデンサ60の容量は、少なくとも各PZTコンデンサの電極間に印加される電圧が所定の駆動電圧(適正なインク吐出をするための電圧)とほぼ同じとなるような容量がよい。
【0052】
しかし、アクチュエータユニット21の駆動時には、時として瞬間的にヘッド駆動電源92の能力を超える大きなリプル電流が要求され、電力供給に補助的な働きをするコンデンサ60にこのようなリプル電流が流れることになる。そして、リプル電流による発熱によってコンデンサ60の内部温度が上昇し、この内部温度がコンデンサ60の定格温度を超えてしまうと、その寿命が低下してしまうことから、実際には、この内部温度上昇をも考慮してコンデンサ60の容量を決定する必要がある。
【0053】
コンデンサ60に発生する電流の直流分による損失は無視できるほど小さいため、コンデンサ60の損失は、交流成分であるリプル電流の2乗とコンデンサ60の内部の等価直列抵抗の積となる。そして、この損失がほとんど全て発熱となり、さらに、コンデンサ60の温度が熱平衡状態に達した場合には、コンデンサ60の温度上昇はその発熱量と比例関係になる。つまり、コンデンサ60の温度上昇は、等価直列抵抗に比例し、リプル電流の2乗に比例する。そのため、コンデンサ60の温度上昇を小さくするには、等価直列抵抗はできるだけ小さいことが好ましい。
【0054】
しかし、一般的には、コンデンサ60の容量が大きいほど等価直列抵抗は小さくなる。従って、リプル電流による内部温度上昇を小さくしようとすると、容量の大きなコンデンサが必要となる。特に、多くのPZTコンデンサが同時駆動されて、コンデンサ60に大きなリプル電流が生じる頻度の高いインクジェットヘッドの場合には、一般的には、前述した電圧降下抑制の条件よりも、リプル電流による温度上昇がコンデンサ60の容量決定の際の制約条件となることが多い。
【0055】
具体例を挙げてさらに詳細に説明する。リプル電流は簡易的には以下のようにして算出できる。個別電極35に印加される駆動電圧をV、駆動周波数をF、アクチュエータユニット21の1つのPZTコンデンサの容量をC、同時に充電されるPZTコンデンサの数(同時に駆動電圧Vが印加される個別電極35の数)をn、ドライバIC52の充電時ピーク電流をIpとすると、等価駆動時間t=V・C/Ipとなることから、リプル電流Irは数式2のようになる。
【0056】
【数2】

【0057】
例えば、1つのノズルに対応する1つのPZTコンデンサ容量C=220pF、ドライバIC52の駆動電圧V=20V、ドライバIC52の駆動電流Ip=5mA、駆動周波数F=100kHzとし、さらに、同時に2656個のノズルからインクが噴射される場合(n=2656)には、数式2から、リプル電流Ir=3.94Armsとなる。つまり、約4アンペアのリプル電流が想定されることになる。
【0058】
一方、同じ条件で、駆動電圧の降下を1%以内に収めるのに必要なコンデンサ60の容量Cを、前述した数式1を用いて計算すると、C=57.8μFとなる。つまり、電圧降下を抑制する観点からは、コンデンサ60として35V/68μFのものを選択すれば十分である。しかし、この35V/68μFの容量のコンデンサには、4アンペアという大きなリプル電流に対応するものは通常なく、この種類のコンデンサのリプル電流の定格値は0.2〜0.4Arms程度であるのが一般的である。
【0059】
そのため、リプル電流の制約から、より大容量のコンデンサを複数並列に設ける必要がある。しかし、コンデンサ60は、他の電子部品に比べてサイズが大きく、特に、容量が大きくなるとその傾向は顕著であり、インクジェットヘッド2の小型化を妨げることになる。また、容量が大きくなるほどコンデンサ60は高価なものになり、さらに、そのようなコンデンサ60を複数設けることは、装置のコスト上昇につながる。
【0060】
そこで、本実施形態のインクジェットヘッド2においては、コンデンサ60として、電圧降下を十分に抑制できる、容量の比較的小さいものが選択されるとともに、ヘッド制御部83がコンデンサ60の内部温度を監視して、さらに、その内部温度が過度に上昇することがないようにドライバIC52を制御するように構成されている。
【0061】
ところで、ヘッド制御部83がコンデンサ60の内部温度を監視するためには、コンデンサ60の温度を何らかの手段により検出する必要がある。しかし、専用の温度検出部(例えば、熱電対など)をコンデンサ60に設けることは、コストが上昇する観点から好ましくない。
【0062】
ここで、前述したように、ドライバIC52は、その動作温度監視用のドライバ温度検出部86を元々内蔵しており、さらに、インクジェットヘッド2のヘッド基板54には、環境温度を検出する環境温度検出部87が設けられている。そして、ドライバIC52の動作温度及び環境温度と、コンデンサ60の内部温度には、以下のような関係がある。
【0063】
ドライバIC52がアクチュエータユニット21を駆動する(PZTコンデンサを充放電する)際には、損失が発生する。この損失Pdは、駆動周波数をF、駆動電圧をV、同時に駆動(充放電)されるアクチュエータユニット21のPZTコンデンサの総容量をCとすると、Pd=FCVとなる。さらに、損失Pdが全て熱となり、また、放熱板と放熱条件で決まる熱抵抗をR、環境温度に対するドライバIC52の温度上昇をΔTとすると、ΔT=Pd・Rとなる。尚、Rには、ドライバIC52自身の熱抵抗、放熱板と接触する面での熱抵抗も含んでいるとする。
【0064】
一方、アクチュエータユニット21を駆動する電流Iは、Q=CVより、I=FCVとなり、駆動電圧Vが一定であれば、電流IはドライバIC52の損失Pdに比例する。つまり、ドライバIC52の温度上昇ΔTと、アクチュエータユニット21を駆動する電流Iは比例する。従って、リプル電流とドライバIC52の発熱量も比例関係にあることがわかる。また、前述したように、コンデンサ60の発熱量(損失)はリプル電流の2乗に比例する。これらの関係から、ドライバIC52の動作温度及び環境温度とコンデンサ60の内部温度との間には所定の関係が成立していることがわかり、ドライバIC52の動作温度及び環境温度に基づいてコンデンサ60の内部温度を推定することが可能である。
【0065】
そこで、図7に示すように、ヘッド制御部83は、ドライバ温度検出部86により検出されたドライバIC52の動作温度と環境温度検出部87で検出された環境温度とに基づいて、コンデンサ60の内部温度を推定する温度推定部84を備えている。この温度推定部84は、表1に示すような、ドライバIC52の動作温度及び環境温度とコンデンサ60の内部温度とを対応させるテーブルを有する。
【0066】
【表1】

【0067】
この表1において、tは、アクチュエータユニット21の連続駆動時間(即ち、プリンタ1の連続記録動作時間)であり、0秒から30秒までの間の5秒間隔の値となっている。また、Taは環境温度(単位:℃)であり、ΔTd、ΔTcは、それぞれ、環境温度Taに対するドライバIC52とコンデンサ60の温度上昇量(単位:℃)である。また、このテーブルを、環境温度Taごとに、横軸にΔTd、縦軸にコンデンサ内部温度Tc(=ΔTc+Ta)をとって、グラフにしたものを図8に示す。そして、温度推定部84は、表1(図8)に示すテーブルを参照することにより、ドライバIC52の動作温度Tdと環境温度Taに基づいてコンデンサ60の内部温度Tcを推定するように構成されており、内部温度Tcの推定を容易に行うことができるようになっている。
【0068】
尚、表1に示すテーブルは、前述したような、ドライバIC52の動作温度及び環境温度とコンデンサ60の内部温度の間の、理論的な関係に基づいて算出されるものであってよい。但し、本実施形態では、ヘッド制御部83は、環境温度に対するインクの粘度変化に対応するために、ドライバIC52から個別電極35に印加される駆動電圧を環境温度に応じて変化させる。そして、このような駆動電圧の変化、あるいは、それ以外の他の条件によって、実際のドライバIC52の動作温度及び環境温度とコンデンサ60の内部温度の関係は、前述した理論的に導き出される関係と比べてずれることも多い。そこで、ドライバIC52の動作温度及び環境温度とコンデンサ60の内部温度とを対応させる、表1のテーブルは、実測から得られたものであるか、あるいは、理論的に導き出された場合でも、さらに、実測値により補正されていることがより好ましい。
【0069】
以上のようにして温度推定部84により推定されたコンデンサ60の内部温度Tcが、コンデンサ60の定格温度よりも低い所定の許容温度T0(例えば、80℃)を超えたときには、ドライバ制御部85は、ドライバIC52による個別電極35への駆動電圧印加を停止させ、内部温度Tcが許容温度T0以下に低下するまでアクチュエータユニット21の駆動を禁止する。このとき、コンデンサ60にリプル電流が流れなくなるため、コンデンサ60の内部温度がそれ以上上昇しなくなり、過度の温度上昇が防止される。
【0070】
同時に、コンデンサ60の内部温度Tcが許容温度T0を超えているという情報が、ヘッド制御部83からプリンタ制御部80に送られて、プリンタ制御部80は、給紙装置114の給紙モータ81、及び、搬送ユニット120の搬送モータ82を停止させて、インクジェットヘッド2への記録用紙Pの供給を停止する。従って、コンデンサの内部温度Tcが許容温度T0以下に低下するまで、プリンタ1の記録用紙Pへの記録動作が禁止される。
【0071】
尚、環境温度Taが低い場合には、コンデンサ60の内部温度Tcが許容温度T0を超える可能性は低く、コンデンサ60の内部温度の上昇が問題になることは少ない。図8に示すように、環境温度Taが低い場合(例えば、Ta=−10℃)には、コンデンサ60の内部温度Tcが許容温度(例えば、80℃)を超えるよりも先に、ドライバIC52の動作温度がその動作上限温度(例えば、100℃)を超える。このような場合には、ドライバ制御部85は、コンデンサ60の内部温度Tcとは無関係に、ドライバIC52の動作温度Tdに基づいて、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動を禁止することになる。従って、このように環境温度Taが低い場合には、温度推定部84は、表1(図8)のテーブルを参照せず、コンデンサ60の内部温度Tcを推定しないように構成されていてもよい。
【0072】
例えば、本実施形態では、表1に示されるように、環境温度Taが40℃で、アクチュエータユニット21の連続駆動時間に対するドライバIC52とコンデンサ60の温度上昇量がほぼ同じになっている。この温度以下では、コンデンサ60の内部温度を推定することなしに、ドライバ温度検出部86の検出結果に基づいて直接的にドライバIC52が駆動されることになる。つまり、ヘッド制御部83は、素子駆動手段としてのドライバIC52を、コンデンサ60の内部温度を推定して駆動するモードと、コンデンサ60の内部温度を推定せずに駆動するモードとを有している。そして、これら2つのモードの切り替えは、環境温度Ta=40℃で行われることになる。
【0073】
次に、ヘッド制御部83及びプリンタ制御部80による、コンデンサ60の内部温度推定及びそれに基づくプリンタ1の記録動作停止を含む、一連の制御について、図7のブロック図と図9のフローチャートを参照して説明する。尚、図9において、Si(i=10,11,12・・・)は各ステップを示す。
【0074】
まず、ヘッド制御部83の温度推定部84が、表1(図8)のテーブルに基づいて、ドライバ温度検出部86により検出されたドライバIC52の動作温度Tdと、環境温度検出部87により検出された環境温度Taとから、コンデンサ60の内部温度Tcを推定する(S10)。尚、この温度推定はどのようなタイミングで行われてもよいが、以下の説明では、1枚の記録用紙Pへの記録が完了するごとに行われるものとする。
【0075】
推定された内部温度Tcが許容温度T0以下である場合には(S11:No)、記録動作をさらに連続して実行可能であると判定して、そのままリターンする。一方、内部温度Tcが許容温度T0を超える場合には(S11:Yes)、プリンタ1による記録用紙Pへの記録動作を停止する(S12)。即ち、プリンタ制御部80が給紙モータ81及び搬送モータ82を停止させることにより、給紙装置114及び搬送ユニット120による記録用紙Pのインクジェットヘッド2への供給を停止させるとともに、ヘッド制御部83のドライバ制御部85が、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動を停止させる。
【0076】
そして、先の温度推定から一定時間経過した後に(S13:Yes)、再度、温度推定部84が、ドライバIC52の動作温度Tdと環境温度Taとに基づいて、コンデンサ60の内部温度Tcを推定する(S14)。そして、推定された内部温度Tcが許容温度T0を超えている間は一連のステップを繰り返し(S13、S14、S15)、内部温度Tcが許容温度T0以下となったときに(S15:No)、記録動作を再開する(S16)。即ち、プリンタ制御部80が、給紙装置114及び搬送ユニット120による記録用紙Pのインクジェットヘッド2への供給を開始させるとともに、ヘッド制御部83のドライバ制御部85が、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動を開始させる。
【0077】
以上説明したプリンタ1によれば、次のような効果が得られる。
ドライバ温度検出部86により検出されたドライバIC52の動作温度と環境温度検出部87により検出された環境温度から、コンデンサ60の内部温度が推定され、さらに、推定されたコンデンサ60の内部温度が許容温度を超えたときにはドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動が禁止される。そのため、プリンタ1のコスト低減及び小型化を実現するために、容量が小さく安価なコンデンサ60を選択しつつ、コンデンサ60の内部温度が過度に上昇してその寿命が低下するのを確実に防止することができる。また、この内部温度を監視するための専用の温度センサ等を設ける必要がなく、コストをさらに抑制できる。さらに、ドライバIC52の動作温度と環境温度の両方に基づいてコンデンサ60の内部温度を推定することから、温度推定の精度も高くなる。
【0078】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
1]前記実施形態のプリンタ1においては、温度推定部84により推定されたコンデンサ60の内部温度が所定の許容温度を超えたときには、ドライバ制御部85がドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動を禁止することで、プリンタ1の記録動作が一時停止するように構成されているが、ドライバ制御部85がドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動間隔を一時的に長く設定するように構成されていてもよい。このように、アクチュエータユニット21の駆動間隔が長くなると、単位時間当たりのコンデンサ60の発熱量が少なくなるため、前記実施形態と同様に、コンデンサ60の内部温度が過度に上昇するのが防止される。尚、アクチュエータユニット21の駆動間隔が長く設定されるときには、同時に、プリンタ制御部80は、給紙モータ81及び搬送モータ82の回転数を落として記録用紙Pの搬送速度を低下させる。つまり、プリンタ1の記録用紙Pへの記録速度が一時的に低下することになる。
【0079】
2]前記実施形態のインクジェットヘッドは、ライン型インクジェットヘッドであるが、記録用紙Pの幅方向に往復移動するキャリッジに搭載された、いわゆる、シリアル型のインクジェットヘッド2を備えたプリンタにも本発明を適用することは可能である。この場合には、キャリッジの1回の走査後に、温度推定部84によりコンデンサ60の内部温度が推定される。そして、推定された内部温度が所定の許容温度を超える場合には、次のキャリッジの走査が禁止されるとともに、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の動作が禁止される。
【0080】
3]温度推定部84が、次にアクチュエータユニット21が駆動されたと仮定したときの、仮想的なコンデンサ60の内部温度を推定し、この推定された仮想的な内部温度が所定の許容温度を超えているときには、ドライバ制御部85が、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動を禁止する(あるいは、駆動間隔を長くする)ように構成されていてもよい。
【0081】
この変更形態におけるヘッド制御部83及びプリンタ制御部80による一連の制御について、図10のフローチャートを参照して詳細に説明する。まず、ヘッド制御部83の温度推定部84が、ドライバ温度検出部86により検出されたドライバIC52の動作温度Tdと、環境温度検出部87により検出された環境温度Taとから、前述した表1のテーブルを参照して、現在のコンデンサ60の内部温度Tcを推定する(S20)。
【0082】
さらに、温度推定部84は、次の記録動作(アクチュエータユニット21の駆動)が行われたと仮定したときの温度上昇量ΔTc’を推定し、現在のコンデンサ60の内部温度Tcと温度上昇量ΔTc’とから、その記録動作が行われたと仮定したときの仮想的なコンデンサ60の内部温度Tc’を算出する(S21)。
【0083】
ここで、仮想的な温度上昇量ΔTc’は次のようにして求めることができる。最も簡単に設定するには、1回の記録によるコンデンサ60の温度上昇量ΔTc’を記録画像等に関わらず常に一定値とみなして、実測から得られた所定の値に設定すればよい。
【0084】
また、入力された記録画像等のデータから、インクジェットヘッド2による1回の記録(例えば、ライン型ヘッドでは1ページの記録、シリアル型ヘッドでは1回のキャリッジ走査)の際に、駆動されるPZTコンデンサの総数(インクを噴射するノズルの総数)を算出することが可能である。そこで、ヘッド制御部83が、1回の記録動作の間に駆動されるPZTコンデンサの総数とコンデンサ60の温度上昇量とを対応させるテーブルを保持しており、このテーブルに基づいてコンデンサ60の仮想的な温度上昇量ΔTc’を推定してもよい。
【0085】
あるいは、1回の記録動作の間に駆動されるPZTコンデンサの総数から、単位時間当たりの消費電力を算出して、この消費電力に基づいてコンデンサ60の温度上昇量ΔTc’を計算により推定してもよい。
【0086】
そして、このようにして推定された仮想的な内部温度Tc’が所定の許容温度T0を超える場合には(S22:Yes)、プリンタ1による記録動作を禁止する(S23)。さらに、先の温度推定から一定時間経過した後に、再度、温度推定部84がコンデンサ60の仮想的な内部温度Tc’を推定し(S24、S25、S26)、この推定された内部温度Tc’が許容温度T0以下となるときには(S27:No)、記録動作を再開する(S28)。
【0087】
この構成によれば、コンデンサ60の内部温度Tcが許容温度T0を超えると予測されるときには、ドライバIC52によるアクチュエータユニット21の駆動が禁止されるため、コンデンサ60の内部温度が許容温度を超えることがなく、過度の温度上昇をさらに確実に防止することができる。
【0088】
4]前記実施形態では、温度推定部84は、ドライバIC52の動作温度と環境温度の両方に基づいて、コンデンサ60の内部温度を推定している。しかし、図2に示すように、アクチュエータユニット21、FPC50、及び、ヘッド基板54等がカバー部材58により覆われて環境温度が安定しているなどの要因により、コンデンサ60の周囲の環境温度の変動が小さく(例えば、±5℃程度)、その変動が温度推定部84によるコンデンサ60の温度推定にほとんど影響しない場合には、環境温度は一定とみなして、ドライバIC52の動作温度のみに基づいてコンデンサ60の内部温度を推定してもよい。
【0089】
5]温度推定部84により推定されたコンデンサ60の内部温度に基づいて、ドライバ制御部85が自動的にドライバIC52の動作状態を変更(アクチュエータユニット21の駆動を禁止する、あるいは、駆動間隔を長くするなど)する必要は必ずしもない。例えば、推定されたコンデンサ60の内部温度が許容温度を超えたときに、メッセージを表示したり、あるいは、警告ランプを点灯させたりするなどして、使用者に注意を喚起したりするように構成されていてもよい。
【0090】
6]記録素子としては、前記実施形態に示したような圧電式のアクチュエータに限られるものではなく、流路内のインクに熱を与えて気泡を発生させることによりノズルからインクを噴射する構成のものや、インクリボンに熱を与えて記録用紙に転写する構成のものなど、その他の公知の記録素子を備えた記録装置に対しても本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの縦断面図である。
【図3】ヘッド本体の平面図である。
【図4】図3に一点鎖線で示された領域Bの拡大図である。
【図5】ヘッド本体の断面図である。
【図6】アクチュエータユニットを示す図であり、(a)は断面図、(b)は個別電極の平面図である。
【図7】プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図8】ドライバICの温度上昇量ΔTdとコンデンサの内部温度Tcとの関係を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態のプリンタに係る、コンデンサの内部温度推定及びそれに基づく記録動作停止を含む一連の制御のフローチャートである。
【図10】変更形態のプリンタに係る、コンデンサの内部温度推定及びそれに基づく記録動作禁止を含む一連の制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0092】
1 プリンタ
2 インクジェットヘッド
8 ノズル
10 圧力室
34 共通電極
35 個別電極
41 圧電シート
52 ドライバIC
84 温度推定部
85 ドライバ制御部
86 ドライバ温度検出部
87 環境温度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録素子を駆動する素子駆動手段と、
この素子駆動手段を制御する駆動制御手段と、
前記素子駆動手段に電気的に接続されたコンデンサと、
前記素子駆動手段の動作温度を検出する第1温度検出手段と、
前記第1温度検出手段により検出された前記素子駆動手段の動作温度に基づいて、前記コンデンサの内部温度を推定する温度推定手段と、
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
周囲の環境温度を検出する第2温度検出手段をさらに備え、
前記温度推定手段は、前記第1温度検出手段により検出された前記素子駆動手段の動作温度と前記第2温度検出手段により検出された前記環境温度とに基づいて、前記コンデンサの内部温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記温度推定手段は、前記素子駆動手段の動作温度及び前記環境温度と前記コンデンサの内部温度とを対応させるテーブルを有することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記温度推定手段により推定された前記コンデンサの内部温度が所定温度を超えたときに、前記駆動制御手段は、前記コンデンサの内部温度が前記所定温度以下となるまで、前記素子駆動手段による前記記録素子の駆動を禁止することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記温度推定手段により推定された前記コンデンサの内部温度が所定温度を超えたときに、前記駆動制御手段は、前記素子駆動手段による前記記録素子の駆動の間隔を長くすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記温度推定手段は、前記素子駆動手段により前記記録素子が駆動されたと仮定したときの、仮想的な前記コンデンサの内部温度を推定し、
前記温度推定手段により推定された、仮想的な前記コンデンサの内部温度が所定温度を超えているときには、前記駆動制御手段は、その仮想的な内部温度が前記所定温度以下となるまで、前記素子駆動手段による前記記録素子の駆動を禁止することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録素子は、インクを吐出するノズルと前記ノズルに連通するインク流路とが形成された流路ユニットに接着されて、前記素子駆動手段によって駆動電圧が印加されたときに前記ノズルからインクを吐出させるように構成され、
前記コンデンサは、前記素子駆動手段と並列に接続されているとともに、前記記録素子の駆動によって前記素子駆動手段に最大負荷がかかったときに、少なくとも前記記録素子に印加される電圧が前記駆動電圧に維持されるような静電容量を有していることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−216497(P2007−216497A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39269(P2006−39269)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】