説明

記録装置

【課題】省電力モードおよび動作モードを繰り返しても性能が低下しない。
【解決手段】記録用紙250をひとつずつ取り込む給送部310と、取り込まれた記録用紙を搬送する搬送部320と、記録用紙に対してインクを吐出する記録ヘッドと、記録ヘッドを往復移動させるキャリッジ260を移動させるキャリッジ移動機構と、外部から入力された指示に従って記録用紙に画像を記録する動作モード、および、外部から入力される指示がない期間が所定の時間よりも長く継続した場合に、外部からの指示を検出する部分を残して他の各部を電源から遮断して電力消費を低減させた状態で待機する省電力モードを実行させる制御部360とを有するインクジェット式記録装置であって、制御部は、復帰動作において、当該記録装置の環境条件に依存する動作条件を計測する計測手順を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置に関する。より詳細には、記録媒体に向かってインクを吐出して記録動作を実行する動作モードの他に、消費電力を抑制する省電力モードを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式記録装置等の記録装置においては、電源が投入されている期間を通じて連続して記録動作を実行し続けることはむしろ稀であり、記録動作を実行せずに待機している期間がある。一方、電源スイッチが投入されて起動する場合、記録装置においては所定の初期化動作が実行される。初期化動作においては、内蔵された電子回路の初期化の他に、記録ヘッドを移動させる記録ヘッド移動機構、記録媒体を搬送する搬送機構、吐出インクを加圧する加圧機構等の機械的な初期化も実行される。
【0003】
これら多くの種類の初期化動作を実行するので、ユーザが電源スイッチを投入してから、記録装置が記録動作を開始するまでには相当な時間がかかる。このため、記録装置の電源スイッチがいったん投入されると、待機時間が多少長くなろうとも電源を遮断しないユーザが多い。
【0004】
そこで、下記特許文献1に記載されるように、電力消費を低減した省電力モードを導入して、待機機械中の消費電力を低減しつつ、初期化動作なしに動作モードを再開できる記録装置がある。即ち、電源を投入されたまま入力が無い期間が所定の時間を越えると、記録装置は省電力モードに移行して電力消費を低減させる。また、外部から何らかの指示が入力された場合は、復帰動作を記号して再び動作モードに移行する。なお、外部から入力される指示は、記録装置に接続されたホスト装置から転送される指示の他、記録装置に設けられた操作手段が操作されたことを検出して記録装置自体が発生する指示も含む。
【0005】
省電力モードから動作モードに復帰する復帰動作において、記録装置は、初期化動作を実行することなく各部を電源に接続して、省電力モードに移行する直前の動作状態を引き継いで動作する。このため、電源の再投入と異なり、復帰動作が起動されてから記録動作を開始するまでの時間は短い。
【0006】
また、下記特許文献2には、省電力モードから動作モードに復帰する場合の制御が記載される。同文献に記載されるように、省電力時に外部からの命令が入力されると、モータ励磁、パネルバックライトの点灯等が再開され、省電力モードへ移行する直前の状態が回復される。更に、下記特許文献3に記載されるように、省電力モードにおける制御を司る専用の制御装置を導入して、動作モードへの円滑な復帰を図った電子機器もある。
【特許文献1】特開2000−326590号公報
【特許文献2】特開2002−144677号公報
【特許文献3】特開2006−201868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、省電力モードに移行した記録装置は消費電力が少なく、且つ、動作モードへは短時間で復帰する。このため、相当に長期間にわたって電源を遮断することなく記録装置を使用するユーザがいる。殊に、長く連続した記録媒体を用いる業務用プリンタ等では、大容量のインクカートリッジを用いることもあり、電源を全く遮断することなく使い続けられる場合がある。
【0008】
前記のように、省電力モードから動作モードに復帰する場合には、省電力モードへ移行する直前の動作状態が引き継がれるので、動作モードを継続させた場合と同様の動作を実行できるとされている。しかしながら、実際には、電源を遮断することなく、省電力モードと動作モードとを繰り返し続けて記録装置する期間が長くなると、記録品質の劣化、可動部品の損耗の増加、電力効率の低下等の問題が生じることが判った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決を目的として、本発明の第1の形態として、装填された複数の記録媒体をひとつずつ取り込む給送機構と、取り込まれた記録媒体を所定の搬送経路に沿って搬送方向に搬送する搬送機構と、搬送経路を搬送される記録媒体に対してインクを吐出する記録ヘッドと、記録ヘッドを搬送方向に交差する方向に往復移動させるキャリッジを移動させるキャリッジ移動機構と外部から入力された指示に従って記録媒体に画像を記録する動作モード、および、外部から入力される指示がない期間が所定の時間よりも長く継続した場合に、外部からの指示を検出する部分を残して他の各部を電源から遮断して電力消費を低減させた状態で待機し、外部からの指示が入力された場合は動作モードに復帰する復帰動作を実行する省電力モードを実行させる制御部とを備える記録装置であって、制御部は、復帰動作において、当該記録装置の環境条件に依存する動作条件を計測する計測手順を実行させる記録装置が提供される。これにより、電源を遮断することなく、省電力モードと動作モードとを繰り返しながら記録装置を稼働させ続けても、記録装置の性能が低下しない。また、環境条件の変化に起因する動作条件の齟齬が蓄積されて深刻な障害が発生することを未然に防止できる。
【0010】
また、ひとつの実施形態によると、上記記録装置において、復帰動作は、給送機構および搬送機構の初期化動作を含む。これにより、省電力モードで待機していた間に給送機構および搬送機構の一部が何らかの理由で動いても、復帰後の動作モードにおいて給送機構および搬送機構を正常に動作させることができる。
【0011】
また他の実施形態によると、上記記録装置において、複数の搬送経路が、給送機構を使用せずに記録媒体を1枚ずつ装入する手差し経路を含み、外部から入力された指示が手差し経路を使用する指示である場合に、復帰動作には、給送機構および搬送機構の初期化を実行せず、且つ、その旨を示すフラグを立て、記録部の内部に滞留していた記録用紙が排出された場合に、フラグを参照して給送機構および搬送機構の初期化を実行する。これにより、手差し経路を使用する旨の指示により復帰動作が起動された場合に、手差し搬送機構を利用する目的で復帰動作が起動された場合に、給送機構を初期化する無駄な動作が省かれ、復帰動作を迅速に完了できる。また、給送機構を再び使用する場合は、復帰後の環境条件に適合した動作条件で搬送機構を動作させることができる。
【0012】
また、他の実施形態によると、上記記録装置において、復帰動作は、記録ヘッドが吐出するインクに対して圧力をかける加圧動作を含む。これにより、省電力モードによる待機中にインクに印加された圧力が減少しても、復帰後の動作モードにおいて圧力不足に起因する記録画像の劣化が生じることが防止される。
【0013】
更に他の実施形態によると、上記記録装置において、外部から入力された指示がインクの補充に係る指示である場合は、加圧動作を実行しない。これにより、復帰動作における無駄な加圧動作を回避して、インクカートリッジを交換する目的で開始された復帰動作を迅速に完了できる。
【0014】
また他の実施形態によると、上記記録装置において、外部から入力された指示が記録装置の電源を遮断する指示である場合は、計測手順を実行することなく当該記録装置の終了シーケンスを実行する。これにより、無駄な復帰動作を回避して、電源を遮断する目的で開始された復帰動作を迅速に完了できる。
【0015】
また他の実施形態によると、上記記録装置において、計測手順は、搬送機構に含まれ搬送機構を動作させる搬送モータの実負荷を計測する搬送モータメジャメント、および、キャリッジ移動機構に含まれキャリッジを移動させるキャリッジモータの実負荷を計測するキャリッジモータメジャメントを含む。これにより、省電力モードで待機している間に環境条件が変化しても、給送モータ、キャリッジモータおよび搬送モータの効率低下を防止でき、キャリッジの移動量および記録媒体の搬送量を精密に制御できる。
【0016】
また他の実施形態によると、上記記録装置において、複数の搬送経路が、給送機構を使用せずに記録媒体を1枚ずつ装入する手差し経路を含み、外部から入力された指示が手差し経路を使用する指示である場合には、復帰動作は、搬送モータメジャメントを実行せず、且つ、その旨を示すフラグを立て、手差し経路に記録媒体が装入された場合に、フラグを参照してキャリッジモータメジャメントを実行する。これにより、手差し経路を使用する旨の指示により復帰動作が起動された場合に、無駄な搬送モータメジャメントが省かれ、復帰動作を迅速に完了できる。また、省電力モードに移行する前に使用されていた搬送機構を再び使用する場合は、復帰後の環境条件に適合した動作条件で搬送機構を動作させることができる。
【0017】
また他の実施形態によると、上記記録装置において、複数の搬送経路が、曲げることができない板状の記録媒体を搬送するボード経路を含み、外部から入力された指示がボード経路を使用する指示である場合には、復帰動作は、搬送モータメジャメントおよびキャリッジモータメジャメントを実行しない。これにより、ボード経路を使用する旨の指示により復帰動作が起動された場合に、無駄な搬送モータメジャメントおよびキャリッジモータメジャメントが省かれ、復帰動作を迅速に完了できる。
【0018】
更に、本発明の第2の形態として、装填された複数の記録媒体をひとつずつ取り込む給送機構と、取り込まれた記録媒体を所定の搬送経路に沿って搬送方向に搬送する搬送機構と、搬送経路を搬送される記録媒体に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体噴射ヘッドを搬送方向に交差する方向に往復移動させるキャリッジを移動させるキャリッジ移動機構と外部から入力された指示に従って記録媒体に画像を記録する動作モード、および、外部から入力される指示がない期間が所定の時間よりも長く継続した場合に、外部からの指示を検出する部分を残して他の各部を電源から遮断して電力消費を低減させた状態で待機し、外部からの指示が入力された場合は動作モードに復帰する復帰動作を実行する省電力モードを実行させる制御部とを備える液体噴射装置であって、制御部は、復帰動作において、当該液体噴射装置の環境条件に依存する動作条件を計測する計測手順を実行させる液体噴射装置が提供される。これにより、液体噴射装置においても上記の効果を享受できる。
【0019】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
図1は、動作モードへの復帰動作を含む省電力モードを有するインクジェット式記録装置100の外観を斜め前方から見た様子を示す斜視図である。同図に示すように、このインクジェット式記録装置100の外型は、全体として略直方体のケース101により形成される。
【0022】
ケース101上面には、後端から順に、給送部カバー110、搬送経路カバー120およびインクカートリッジホルダカバー130が順次配置される。給送部カバー110は、切欠き112に指を掛けて持ち上げることにより、その後端をヒンジとして、図中に矢印Cで示す方向に開く。開いた給送部カバー110の内部には、後述する給送部310が現れる。搬送経路カバー120およびインクカートリッジホルダカバー130も、それぞれ、その後端を軸として図中に示す矢印B、Aに従って開くことができる。搬送経路カバー120の内部には記録中の記録用紙250の経路が現れる。これにより、経路上に停滞した記録用紙250を取り除く等の保守作業ができる。また、インクカートリッジホルダカバー130はケース101の前面まで回り込んで形成され、これを開いた場合に現れるカートリッジホルダ230に対して、インクジェット式記録装置100の前面からインクカートリッジ232を脱着できる。
【0023】
更に、ケース101の前面には、インクカートリッジホルダカバー130の下方に排出部カバー140が、排出部カバー140の右側方に廃液カートリッジカバー150が、それぞれ形成される。排出部カバー140および廃液カートリッジカバー150は、それぞれ、その下端をヒンジとして図中に矢印D、Eにより示す方向に開くことができる。排出部カバー140を開いた場合は、その内部に、記録済みの記録用紙250を排出する排出部340等が現れる。また、廃液カートリッジカバー150を開くことにより、廃液カートリッジ152を交換できる。
【0024】
また、インクジェット式記録装置100は、そのケース101上面の前右端に配置された操作パネル160を備える。操作パネル160は、このインクジェット式記録装置100を直接に操作するボタン類162と、操作状態等を表示する液晶パネル164とを備える。これにより、ユーザは、液晶パネル164で状態を確認しながらインクジェット式記録装置100をスタンドアローンで操作できる。
【0025】
図2は、図1に示したインクジェット式記録装置100を斜め後方から見た場合の外観を示す斜視図である。同図に示すように、ケース101の上面に、搬送経路カバー120を開く場合の手がかりとなる切欠き122が見える。また、ケース101の背面には、手差し経路カバー170が配置される。手差し経路カバー170は、その下端をヒンジとして、図中に示す矢印Fに従って開くことができる。手差し経路カバー170を開くと、記録用紙254を手差しする場合の経路がその内部に開口して、インクジェット式記録装置100に対して任意の記録用紙254を装入できる。
【0026】
図3は、インクジェット式記録装置100からケース101を取り除いた場合に現れる内部機構200を、図1と同じ視点から見た様子示す斜視図である。同図に示すように、内部機構200は、インクジェット式記録装置100の長手方向に延在するフレーム220の前後に形成される。
【0027】
フレーム220の後方には、給送部カバー110を開いた場合に露出する給送部310が配置される。給送部310は、給送部カバー110の裏面に形成されたペーパサポート210と、その下方に配置されたホッパ212を有する。ペーパサポート210は、積層して装入された記録用紙250を後方から支持する。また、ホッパ212は前後に移動して、最上層の記録用紙250を後述する給送ローラ312に押し付ける機能を有する。
【0028】
一方、フレーム220の前方には、搬送部320、プラテン330、排出部340が順次配置される。また、プラテン330の上方にはキャリッジ260が、排出部340の上方にはカートリッジホルダ230がそれぞれ配置される。
【0029】
ここで、カートリッジホルダ230は、フレーム220の前端に固定される。カートリッジホルダ230には、インクを収容したインクカートリッジ232を複数装着する。装着されるインクカートリッジ232は、例えば、フォトブラック、マットブラック、グレー、イエロー、シアン、ライトシアン、マゼンタ、ライトマゼンタ、レッドの7色のインクをそれぞれ個別に収容する。更に、カートリッジホルダ230に装着されたインクカートリッジ232は、図示していないフレキシブルチューブを介してキャリッジ260に連通して、キャリッジ260の下面に配置された記録ヘッド262にインクを供給する。
【0030】
これに対して、キャリッジ260は、ガイド軸280に沿って、プラテン330の全幅にわたって往復移動する。また、フレーム220の前面に配置されたタイミングベルト270は、フレーム220の側端近傍に配置された一対のプーリ(不図示)に掛け渡され、プーリの間ではその回転に従って水平に走行する。キャリッジ260は、タイミングベルト270に結合されて駆動される。
【0031】
なお、フレーム220の右端前部に装着された廃液カートリッジ152は、プラテン330の右側方に位置するホームポジションにおいて、キャリッジ260がノズルを清掃する目的で吐出したインクを吸収する吸収部材を収容する。インクジェット式記録装置100の稼働時間が長くなるにつれて廃液カートリッジ152には打ち棄てられたインクが蓄積されるので、これを交換することにより高い吸収能力を長期間にわたって維持できる。
【0032】
図4は、上記の内部機構200を備えるインクジェット式記録装置100における記録用紙250の搬送経路300を、内部機構200の断面において示す図である。同図に示すように、このインクジェット式記録装置100は、キャリッジ260の下面に装着された記録ヘッド262から吐出されるインクの吐出対象となる記録用紙250を、複数の経路を介して装入および搬送できる。
【0033】
最も頻繁に利用されることが想定されるのは、ペーパサポート210に装填された記録用紙250が、給送部310、搬送部320および排出部340を通過して、排出部340から外部に排出される経路である。この経路においては、複数の記録用紙250がペーパサポート210に装填された状態で、まず、ホッパ212の下端が前進して、最も上層の記録用紙250を給送ローラ312に押し付ける。給送ローラ312は、図示していないモータにより回転駆動され、押し付けられた記録用紙250を下方に引き込み、やがて、給送ローラ312およびリタードローラ314の間に挟む。このとき、ホッパ212の下端は後退するので、他の記録用紙250はリタードローラ314により最上層の記録用紙250から分離される。また、給送される記録用紙250に連れて引き込まれる他の記録用紙250は、戻し爪311によりペーパサポート210に戻される。次いで、給送ローラ312により送り出されたた記録用紙250が搬送部320に到達すると、D字型の給送ローラ312の周面が記録用紙250から離れ、記録用紙250の搬送は搬送部320に受け渡される。
【0034】
搬送部320は、図示していないモータにより回転駆動される搬送駆動ローラ322と、搬送駆動ローラ322に対して押し付けられて連れ回される搬送従動ローラ324とを有する。搬送駆動ローラ322および搬送従動ローラ324の間に挿入された記録用紙250は、搬送従動ローラ324により回転する搬送駆動ローラ322に対して押し付けられ、搬送駆動ローラ322の回転に従ってプラテン330上に送り込まれる。
【0035】
プラテン330は、送り込まれた記録用紙250を下方から支持し、その高さを位置決めする。これに対して、キャリッジ260の下面に装着された記録ヘッド262から下方に向かってインクが吐出され、記録用紙250の上面にインクによる画像が形成される。画像を形成された記録用紙250は更に前進し、その前端はやがて排出部340に到達する。
【0036】
排出部340は、回転駆動される排出駆動ローラ342と、排出駆動ローラ342に対して押し付けられて連れ回される一対の排出従動ローラ344とを有する。排出駆動ローラ342および排出従動ローラ344の間に挟まれた記録用紙250は、排出従動ローラ344により回転する排出駆動ローラ342に対して押し付けられ、排出駆動ローラ342の回転に従って、インクジェット式記録装置100の外部に送り出される。
【0037】
また、このインクジェット式記録装置100は、手差し経路カバー170の内部に開口する手差し経路を有する。即ち、ケース101背面の手差し経路カバー170を開くことにより、記録用紙254を、搬送部320の直前に直接に装入できる。これにより、ペーパサポート210に装填された記録用紙250とは別の、一時的に使用する任意の記録用紙254に対して、記録用紙250の場合と同様に画像を記録して、インクジェット式記録装置100の前面に排出する。
【0038】
更に、このインクジェット式記録装置100は、曲げることができない厚紙、ボード紙等に対して画像を記録できるもうひとつの経路を有する。このボード経路は、記録ヘッド262およびプラテン330の間隙を含み、水平に形成される。ボード経路にを利用する場合は、排出部カバー140の内部に装備されるボード紙トレイ(不図示)を引き出して、そこから記録媒体256を装入する。
【0039】
なお、この種の記録媒体256は曲げ剛性が高く、経路内で曲げると搬送負荷が著しく上昇する。そこで、ボード経路を使用する場合は、搬送従動ローラ324を上方に退避させ、ペーパサポート210の下方に形成された水平経路258内を挿通させる。即ち、ボード紙トレイを引き出すことにより、排出部340の動作が逆転する。これにより、記録媒体256表面の記録領域の前端が記録ヘッド262の下方に到達するまで、記録媒体256を後退させる。次に、排出部340を正転に戻して、画像を記録しながら記録媒体256を前方に送る。
【0040】
このように、このインクジェット式記録装置100の搬送経路300は複数の経路を備え、記録用紙250、254または記録媒体256の特性に応じて使いわけることができる。また、使用される経路に応じて、給送部310、搬送部320および排出部340の動作も異なる。
【0041】
なお、インクジェット式記録装置100は、フレーム220下端の背面側に、このインクジェット式記録装置100の動作を制御する制御部360も備える。制御部360は、インクジェット式記録装置100に接続された情報処理装置等を介して入力された指示、あるいは、操作パネル160から入力された指示に基づき、適切な動作が実行されるように制御する。また、制御部360は、記録すべき画像情報を受け取るインターフェイスでもある。制御部360が受け取る画像情報は、当該画像を表す情報の他に、記録画像の解像度、色数等の記録品質、寸法、材質等の被記録物情報も含む場合がある。
【0042】
また、制御部360は、後述する省電力モードへの移行をも制御する。即ち、インクジェット式記録装置100に対する信号の入力がなく、操作パネル160に対する操作も無い期間が所定の時間を越えると、外部からの指示を受ける回路を残して、液晶パネル164のバックライト等を電源から遮断して電力消費を抑制する。このため、外観としては、電源を遮断された状態と殆ど変わらなくなる。また、内部機構200においても、各モータ類の励磁が停止される。更に、インクカートリッジ232に対する加圧も停止されるので、カートリッジ内の圧力は時間の経過と共に徐々に低下する。
【0043】
なお、省電力モード中に外部から何からかの指示が入力された場合は、それを検出して、インクジェット式記録装置100を動作モードに復帰させる復帰動作を起動して実行する。ここでいう外部から入力される指示とは、インクジェット式記録装置100に接続されたホスト装置から転送された命令信号の他、操作パネル160に対する操作、ケース101に形成されたいずれかのカバー、例えば、インクカートリッジホルダカバー130や廃液カートリッジカバー150を開くこと等も含まれる。
【0044】
復帰動作においては、内部機構200の各部を電源に接続すると共に、省電力モードに移行する直前の状態を復元する処理も実行される。ただし、インクジェット式記録装置100の電源が投入された場合の初期化動作を全て実行すると長い時間を要するので、省電力モードを導入した利点が失われる。そこで、復帰動作においては、以下に説明する独特の手順に従って処理が実行される。
【0045】
図5は、省電力モードにあるインクジェット式記録装置100に対して外部から何らかの指示が入力され、それが制御部360に検出された場合に、まず実行される手順を示す流れ図F100である。同図に示すように、制御部360は、外部から入力された指示を検出すると(ステップS101)、その指示がインクジェット式記録装置100の電源を遮断する指示であるか否かを判断する(ステップS102)。
【0046】
入力された指示がインクジェット式記録装置100全体の電源を遮断する指示である場合は(ステップS102:YES)、動作モードの回復は無意味なので、一切の復帰動作を実行することなく終了シーケンスが起動され(ステップS103)、インクジェット式記録装置100の電源は遮断される。これにより、省電力モードから迅速に電源を遮断できる。一方、入力された指示がインクジェット式記録装置100に記録動作を実行させる指示である場合は(ステップS102:NO)復帰動作が起動され(ステップS200)、以下に説明する処理が順次実行される。なお、図6に示した処理と図7に示した処理とは、相互に独立して並行して処理できる。これにより、復帰動作が完了するまでの時間を短縮できる。
【0047】
図6は、復帰動作において実行される、インクカートリッジに関する処理の制御手順を示す流れ図F210である。同図に示すように、復帰動作が開始されると(ステップS211)、インクカートリッジ232を交換する場合に開閉するカートリッジカバーが閉じているかどうかが調べられる(ステップS212)。
【0048】
ここで、カートリッジカバーが開いている場合(ステップS212:NO)は、インクカートリッジ232の初期加圧は実行されない。一方、カートリッジカバーが閉じられている場合(ステップS212:YES)は、インクカートリッジ232に収容されたインクに対する初期加圧を実行する。こうして、インクカートリッジ232に関しては、復帰動作が完了する。
【0049】
図7は、復帰動作において実行される給送部310、搬送部320およびキャリッジ260の移動機構に関する制御手順を示す流れ図F220である。同図に示すように、記録用紙250の搬送経路300に係る復帰動作においては、まず、外部から入力されて復帰動作を起動する(ステップS221)きっかけとなった指示が、手差し経路を利用する動作に係る指示かどうかを調べる(ステップS222)。
【0050】
ここで、復帰動作を起動した指示に係る動作が手差し経路を利用するものではない場合(ステップS222:NO)は、給送部310が原点位置にあるかどうかを調べる(ステップS223)。原点位置にない場合(ステップS223:NO)は、給送部310および搬送部320の初期化を実行(ステップS224)した後、次のステップ(S225)に処理を進める。これにより、省電力モードで待機していた間に何らかの理由で給送部310および搬送部320の状態が変化していた場合でも、復帰後の動作モードにおいて給送動作および搬送動作を正確に制御できる。一方、原点位置にある場合(ステップS223:YES)は、初期化を実行することなく次のステップ(S225に進む)。
【0051】
次に、入力された指示に係る動作が、ボード経路を利用するかどうかを調べる(ステップS225)。指示に係る動作がボード経路を利用する場合(ステップS225:YES)は、そのまま復帰動作を終了して(ステップS228)、厚紙あるいはディスクトレイ156等の曲げることができない記録媒体256が装入されるのを待つ。一方、入力された指示がボード経路を利用するものではなかった場合(ステップS225:NO)、キャリッジモータメジャメント(ステップS226)および搬送モータメジャメント(ステップS227)を順次実行する。これにより、省電力モードで待機している最中に環境条件が変化した場合でも、復帰後の環境条件を計測して、適切な制御を実行できる。こうして、搬送経路300に係わる機構を正確に制御することができる状態を回復して、回復動作を終了できる(ステップS228)。
【0052】
なお、インクジェット式記録装置100が設置された環境の気温、湿度、設置場所の傾斜等の環境条件は、インクジェット式記録装置100が省電力モードに移行して待機している間に変化する場合がある。従って、インクジェット式記録装置100の電源が投入された当初に計測された、例えば搬送モータおよびキャリッジモータ255の環境条件に応じた実負荷は、省電力モードから復帰したときには適切ではなくなっている場合がある。従って、復帰動作後の動作モードにおいて各モータの実負荷に係わる動作が実行される場合には、復帰動作においてメジャメントを実行することが好ましい。
【0053】
これに対して、復帰動作を起動したきっかけとなった指示が、手差し経路を利用する動作に係る指示であった場合(ステップS222:YES)は、給送部310および搬送部320の初期化、および、搬送モータメジャメント、キャリッジモータメジャメントを実行することなく、復帰動作を終了して(ステップS237)、手差し印刷の記録動作(ステップS239)の開始に備える。
【0054】
ただし、この場合は、給送部310および搬送部320の初期化がまだ実行されていないことを示すフラグを立てる処理(ステップS233)と、キャリッジモータメジャメントがまだ実行されていないことを示すフラグを立てる処理(ステップS235)がそれぞれ実行される。これにより、手差し印刷を実行する場合に、適切なタイミングで初期化およびメジャメントが実行される。
【0055】
即ち、搬送経路300上に滞留していた記録用紙250が手差し印刷の実行のために排出された場合に、給送部310および搬送部320の初期化が実行される。また、手差し経路に対して記録用紙254が装入された場合に、キャリッジモータメジャメントが実行される。これにより、手差し印刷が開始される直近の環境条件に応じて、精密な制御をすることができる。
【0056】
以上説明したように、このインクジェット式記録装置100は、復帰動作において、給送部310、搬送部320、キャリッジ移動機構等の初期化と、搬送モータおよびキャリッジモータのメジャメントとを実行する。これにより、省電力モードで待機している間に各部の状態が変化したことおよび環境条件の変化に係わらず、復帰後の正確な制御が確保できる。また、省電力モードからの復帰のきっかけとなった指示の種類に応じて適切な処理を実行するので、復帰動作の実行時間を徒に延長することもない。
【0057】
このように、このインクジェット式記録装置100は、省電力モードにおいて復帰動作が起動された場合に、起動のきっかけの種類に応じて、インクの初期加圧、搬送機構、キャリッジ移動機構等の初期化、各種メジャメント等のうち、その後の動作モードに有効な手順を選択的に実行する。これにより、迅速な復帰動作の完了と、機器への負荷の軽減、精密な制御を両立させている。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】インクジェット式記録装置100を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】インクジェット式記録装置100を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】インクジェット式記録装置100の内部機構200を示す斜視図である。
【図4】内部機構200における記録用紙250、254および記録媒体256の搬送経路300を示す断面図である。
【図5】復帰動作において、機構部に関する復帰動作に先立って実行される処理の制御手順を示す流れ図F100である。
【図6】復帰動作において、インクカートリッジ232に関して実行される処理の制御手順を示す流れ図F210である。
【図7】復帰動作において、搬送経路300に係る機構について実行される処理の制御手順を示す流れ図F220である。
【符号の説明】
【0060】
100 インクジェット式記録装置、101 ケース、110 給送部カバー、112、122 切欠き、120 搬送経路カバー、130 インクカートリッジホルダカバー、140 排出部カバー、150 廃液カートリッジカバー、152 廃液カートリッジ、160 操作パネル、162 ボタン類、164 液晶パネル、170 手差し経路カバー、200 内部機構、210 ペーパサポート、212 ホッパ、220 フレーム、230 カートリッジホルダ、232 インクカートリッジ、250、254 記録用紙、256 記録媒体、260 キャリッジ、262 記録ヘッド、270 タイミングベルト、280 ガイド軸、300 搬送経路、310 給送部、311 戻し爪、312 給送ローラ、314 リタードローラ、320 搬送部、322 搬送駆動ローラ、324 搬送従動ローラ、330 プラテン、340 排出部、342 排出駆動ローラ、344 排出従動ローラ、360 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装填された複数の記録媒体をひとつずつ取り込む給送機構と、
取り込まれた記録媒体を所定の搬送経路に沿って搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送経路を搬送される前記記録媒体に対してインクを吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを前記搬送方向に交差する方向に往復移動させるキャリッジを移動させるキャリッジ移動機構と
外部から入力された指示に従って前記記録媒体に画像を記録する動作モード、および、外部から入力される指示がない期間が所定の時間よりも長く継続した場合に、外部からの指示を検出する部分を残して他の各部を電源から遮断して電力消費を低減させた状態で待機し、前記外部からの指示が入力された場合は前記動作モードに復帰する復帰動作を実行する省電力モード
を実行させる制御部と
を備える記録装置であって、
前記制御部は、前記復帰動作において、当該記録装置の環境条件に依存する動作条件を計測する計測手順を実行させる記録装置。
【請求項2】
前記復帰動作は、前記給送機構および前記搬送機構の初期化動作を含む請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記搬送機構が、前記給送機構を使用せずに記録媒体を1枚ずつ装入する手差し経路を更に含み、前記外部から入力された指示が前記手差し経路を使用する指示である場合に、前記復帰動作において前記給送機構および前記搬送機構の初期化を実行せず、且つ、その旨を示すフラグを立て、
記録部の内部に滞留していた記録用紙が排出された場合に、前記フラグを参照して前記給送機構および前記搬送機構の初期化を実行する請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記復帰動作は、前記記録ヘッドが吐出するインクに対して圧力をかける加圧動作を含む請求項1に記載の記録装置。
【請求項5】
前記外部から入力された指示がインクの補充に係る指示である場合は、前記加圧動作を実行しない請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記外部から入力された指示が記録装置の電源を遮断する指示である場合は、前記計測手順を実行することなく当該記録装置の終了シーケンスを実行する請求項1に記載の記録装置。
【請求項7】
前記計測手順は、前記搬送機構に含まれ前記搬送機構を動作させる搬送モータの実負荷を計測する搬送モータメジャメント、および、前記キャリッジ移動機構に含まれ前記キャリッジを移動させるキャリッジモータの実負荷を計測するキャリッジモータメジャメントのいずれかを含む請求項1に記載の記録装置。
【請求項8】
前記複数の搬送経路が、前記給送機構を使用せずに記録媒体を1枚ずつ装入する手差し経路を含み、前記外部から入力された指示が前記手差し経路を使用する指示である場合には、前記復帰動作は、前記搬送モータメジャメントを実行せず、且つ、その旨を示すフラグを立て、
前記手差し経路に記録媒体が装入された場合に、前記フラグを参照して前記キャリッジモータメジャメントを実行する請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記複数の搬送経路が、曲げることができない板状の記録媒体を搬送するボード経路を含み、前記外部から入力された指示が前記ボード経路を使用する指示である場合には、前記復帰動作は、前記搬送モータメジャメントおよび前記キャリッジモータメジャメントを実行しない請求項7に記載の記録装置。
【請求項10】
装填された複数の記録媒体をひとつずつ取り込む給送機構と、
取り込まれた記録媒体を所定の搬送経路に沿って搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送経路を搬送される前記記録媒体に対して液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを前記搬送方向に交差する方向に往復移動させるキャリッジを移動させるキャリッジ移動機構と
外部から入力された指示に従って前記記録媒体に画像を記録する動作モード、および、外部から入力される指示がない期間が所定の時間よりも長く継続した場合に、外部からの指示を検出する部分を残して他の各部を電源から遮断して電力消費を低減させた状態で待機し、前記外部からの指示が入力された場合は前記動作モードに復帰する復帰動作を実行する省電力モード
を実行させる制御部と
を備える液体噴射装置であって、
前記制御部は、前記復帰動作において、当該液体噴射装置の環境条件に依存する動作条件を計測する計測手順を実行させる液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119899(P2008−119899A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304418(P2006−304418)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】