説明

試料作製方法及びシステム

【課題】本発明は試料作製方法及びシステムに関し、集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡を利用することによる、FIB装置の時間効率を改善することを目的としている。
【解決手段】集束イオンビーム装置10内にイオンビーム照射により薄膜試料を作製する加工手段を設け、走査電子顕微鏡20内には前記試料を前記集束イオンビーム装置10から試料ホルダ12ごと移し替えたものに、ガスを噴射させるガス供給手段22と、プローブ24を有するマニピュレータ23とを設け、前記プローブ24を試料に接触させた状態で前記ガス供給手段22よりガスを噴射させつつ、試料に電子ビームを照射することにより、前記プローブ24に試料を接着させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料作製方法及びシステムに関し、更に詳しくは集束イオンビーム装置(FIB)と走査電子顕微鏡(SEM)を利用して透過電子顕微鏡用の薄膜試料や走査電子顕微鏡用の断面観察用の試料を作製するようにした試料作製方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の試料作製方法としては、試料基板表面に対し少なくとも二種類の角度からFIB加工することにより、微小試料を分離する際に該分離試料にプローブ先端を接続し、プローブの移動により試料を任意の位置に運搬することができるようにした試料の作製方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、透過電子顕微鏡に集束イオンビーム装置を持つ2つの予備室を設け、第1の予備室が試料作製に使用されている時には、第2の試料予備室からの試料を観察し、第2の予備室が試料作製に使用されている時には、第1の処理予備室からの試料を観察するシステムが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
また、プローブに試料を接着する際に、該供給部とプローブとを共通の移動手段に搭載するようにした荷電粒子線装置が知られている(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2774884号公報(段落0010〜0018、図1〜図6)
【特許文献2】特開2003−7246号公報(段落0011〜0030、図3、図4)
【特許文献3】特開2005−322419号公報(0015〜0017、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(TEM試料作製)
前記特許文献1記載の発明の場合、集束イオンビーム装置(FIB)による試料作製と作製された試料の移送工程において、試料作製と試料移送の工程を1つの装置内で実施している。この発明によれば、試料作製と試料移送を1つのFIB装置内で行なうために時間効率が悪いという問題がある。若しくはFIB装置で作製された試料をマニピュレータ機能付きの光学顕微鏡に移し、試料の移送を行なっていた。このシステムでは、光学顕微鏡の倍率の低さや、マニピュレータ(ガラスプローブ)での試料移送の困難さから試料移送の成功率が低いという問題があった。
【0006】
(SEM断面観察)
FIBの加工機能によって穴を開けることにより試料の断面出しを行ない、その後SEMのステージ傾斜機構を利用して試料の断面観察を実施していた。このため、穴の面積を大きくしなければ、試料傾斜によって観察したい断面が隠れてしまい、観察できないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡を利用することによる、FIB装置の時間効率の改善と、試料移送の成功率向上と、SEM断面観察の改善を図った試料作製方法及びシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の発明は、集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡とによりなり、集束イオンビーム装置の加工機能を用いて薄膜試料を作製し、作製された試料を試料ホルダごと走査電子顕微鏡に移し替え、走査電子顕微鏡には、試料近辺にガスを供給するガス供給手段とプローブを持つマニピュレータを設け、該プローブを試料に接触させた状態で前記ガス供給手段よりガスを噴射させつつ、試料に電子ビームを照射することにより、前記プローブに試料を接着させる、ことを特徴とする。
【0009】
(2)請求項2記載の発明は、集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡とによりなり、集束イオンビーム装置内にイオンビーム照射により薄膜試料を作製する加工手段を設け、走査電子顕微鏡内には前記試料を前記集束イオンビーム装置から試料ホルダごと移し替えたものに、ガスを噴射させるガス供給手段と、プローブを有するマニピュレータとを設け、前記プローブを試料に接触させた状態で前記ガス供給手段よりガスを噴射させつつ、試料に電子ビームを照射することにより、前記プローブに試料を接着させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)請求項1記載の発明によれば、試料作製工程と試料移送工程を分けて作業可能としたので、試料の取り出し作業中にもFIBが支配されることがなくなり、他の試料にて試料作製を同時実施することができる。また、光学顕微鏡ではなくSEMにて試料移送を行なうことにより、マニピュレータ先端のプローブに試料を接着可能になった。このことにより、光学顕微鏡での倍率が低い問題とマニピュレータ(ガラスプローブ)の試料の移送困難な問題が解消される。更に、試料を取り出した後にSEMの断面観察を行なうことが可能になったので、簡単かつより明瞭なSEMでの断面観察像を得ることが可能となった。
【0011】
(2)請求項2記載の発明によれば、請求項1の場合と同様、試料作製工程と試料移送工程を分けて作業可能としたので、試料の取り出し作業中にもFIBが支配されることがなくなり、他の試料にて試料作製を同時実施することができる。また、光学顕微鏡ではなくSEMにて試料移送を行なうことにより、マニピュレータ先端のプローブに試料を接着可能になった。このことにより、光学顕微鏡での倍率が低い問題とマニピュレータ(ガラスプローブ)の試料の移送困難な問題が解消される。更に、試料を取り出した後にSEMの断面観察を行なうことが可能になったので、簡単かつより明瞭なSEMでの断面観察像を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態を示すシステム構成図である。図において、10は集束イオンビーム装置(FIB)、20は走査電子顕微鏡(SEM)である。集束イオンビーム装置10において、11はその上に試料ホルダ12が載置される試料ステージである。12は試料ステージ11の上に試料が載置される試料ホルダである。該試料ホルダ12の上には試料(図示せず)が取り付けられている。
【0013】
走査電子顕微鏡20において、12は試料ホルダで、集束イオンビーム装置10から移し替えたものである。21は走査電子顕微鏡20内に設けられた試料ステージである。該試料ステージ21に、集束イオンビーム装置10から移し替えられた試料ホルダ12が載置される。試料ホルダ12には試料(図示せず)が取り付けられる。
【0014】
22はガスを噴射させるガス供給手段としてのデポデバイス、23は試料を取り出すためのマニピュレータ、24は該マニピュレータ23の先端部に設けられたプローブである。該プローブ24はマニピュレータ23により、所定の位置に移動させることができるようになっている。25はエアロックチャンバである。該エアロックチャンバ25は、SEM試料室内を大気圧にすることなく、プローブ交換を行なうことができるチャンバである。30は透過電子顕微鏡(TEM)である。このように構成されたシステムの動作を説明すれば、以下の通りである。システムとしては、図1に示すものを用い、接着の工程としては図2を用いる。
【0015】
(I)TEM試料作製の工程
(試料作製工程)
S1.集束イオンビーム装置10の試料ステージ11に試料ホルダ12をセットする。該試料ホルダ12には既に試料(図示せず)が取り付けられているものとする。
S2.集束イオンビーム装置10の加工機能を用いて、試料上の複数の箇所にTEM用薄膜試料等を作製する。イオンビームは、エネルギーが高いので、該イオンビームが照射された試料の部位はエッチングされる。この時、試料は母材から完全に分離された状態、若しくはかろうじて保持された状態である。
【0016】
(試料取り出し工程)
S3.S2で作製された試料を試料ホルダ12ごと走査電子顕微鏡20の試料ステージ21に移し替える。この移し替えは、オペレータが行なってもよいし、自動搬送機構を用いて自動でやってもよい。
S4.この時、走査電子顕微鏡20を作動させ、例えば試料の2次電子像を得る。この2次電子像は、走査電子顕微鏡20付属のディスプレイ(図示せず)に表示される。この表示された試料の2次電子像を観察しながら、オペレータがつまみ(図示せず)を操作させながら、前記ステップS2で作製された薄膜試料にマニピュレータ23の先端に設けられたプローブ24を接触させる。
S5.デポデバイス22によりガスを供給しつつ、電子ビームを照射して、S4にて接触させていた薄膜試料とマニピュレータ先端のプローブ24を接着させる。図2は試料接着の説明図である。図1と同一のものは同一の符号を付して示す。マニピュレータ23に取り付けられたプローブ24を試料15に接触させる。同時に、デポデバイス22から所望のガス27を試料15に噴射させる。この状態で電子ビームEBを試料15に照射すると、ガスのデポジション効果により、プローブ24と試料15の間にデポジション膜が形成され、接着部26となりプローブ24に試料15が接着する。
S6.マニピュレータ23の駆動機構を利用して試料片を母材から取り出す。
S7.プローブ24の先端に接着された試料片をエアロックチャンバ25(図示せず)を利用して大気中に取り出す。
S8.試料15が複数箇所エッチングされていた場合、新しいプローブをマニピュレータ23に挿入し、ステップS4〜S6を繰り返す。
【0017】
このようにして作製された試料片は、プローブ24先端に取り付けられた状態にある。この試料片を専用の試料ホルダ(図示せず)にセットし、透過電子顕微鏡30(図1参照)に装着する。具体的には、透過電子顕微鏡30の試料ステージに試料ホルダを取り付けることになる。この状態で、電子ビームを試料片に照射し、その透過像を例えば蛍光板で観察したり、テレビカメラで撮影し、透過電子顕微鏡のディスプレイ上で観察することになる。この場合において、試料ホルダを回転可能に構成しておけば、試料片の断面形状が最もよく見えるように若干角度だけ回転させることができる。
【0018】
(II)SEM断面観察の工程
(試料作製工程)
S1.集束イオンビーム装置10の試料ステージ11に試料をセットする。
S2.集束イオンビーム装置10の加工機能を用いて、試料上の複数の箇所に任意形状のバルク試料等を作製する。この時、試料は母材から完全に分離された状態、若しくはかろうじて保持された状態である。
【0019】
(試料取り出し工程)
S3.ステップS2で作製された試料を試料ホルダ12ごと走査電子顕微鏡20の試料ステージ21に移し替える。この作業は、オペレータが行なうこともできるが、自動搬送機能を用いて自動で実現することも可能である。
S4.オペレータは例えば2次電子画像を走査電子顕微鏡20にて観察しながら、操作部(図示せず)を操作して、ステップS2で作製された薄膜試料部等にマニピュレータ23の先端に取り付けられたプローブ24を接触させる。
S5.デポデバイス22によりガスを供給しつつ電子ビームEBを照射して、デポジション効果により、ステップS4にて接触させていた薄膜試料15とマニピュレータ23先端のプローブ24とを接着させる。接着の様子は図2にて説明した通りである。即ち、デポデバイス22から所望のガス27を試料15に噴射させる。この状態で電子ビームEBを試料15に照射すると、ガスのデポジション効果により、プローブ24と試料15の間にデポジション膜が形成され、接着部26となりプローブ24に試料15が接着する。
S6.マニピュレータ23の駆動機構を利用して、試料片を母材から取り出す。
【0020】
(試料観察工程1)
S7.マニピュレータ23の挿入方向を回転軸にした傾斜駆動機構により試料片を傾斜させる。
S8.プローブ24に試料片を接着させた状態でSEM観察を行なう。
【0021】
(試料観察工程2)
S7.プローブ24の先端に接着された試料片をエアロックチャンバ25を利用して大気中に取り出す。
S8.取り出したプローブ24をバルクステージに取り付け可能な専用ホルダにセットし、再度SEM試料室内に挿入して、試料観察を行なう。
【0022】
以上、説明したように、本発明によれば試料作製工程と試料移送工程を分けて作業可能としたので、試料の取り出し作業中にもFIB10が支配されることがなくなり、他の試料にて試料作製を同時実施することができる。また、光学顕微鏡ではなくSEM20にて試料移送を行なうことにより、マニピュレータ23先端のプローブ24に試料を接着可能になった。このことにより、光学顕微鏡での倍率が低い問題とマニピュレータ(ガラスプローブ)の試料の移送困難な問題が解消される。更に、試料を取り出した後にSEM20の断面観察を行なうことが可能になったので、簡単かつより明瞭なSEM20での断面観察像を得ることが可能となった。
【0023】
なお、上記した実施の形態の説明において、集束イオンビーム装置10はイオンビーム照射機能のみを有する装置を例示しているが、電子ビーム照射と2次電子像の観察機能を併せ持つ装置であってもよい。また、本発明は、集束イオンビーム装置がマニピュレータを備えていない場合に特に大きな効果を奏するが、マニピュレータを備えている場合であっても、イオンビームによる加工と試料の取り出し作業を並行して行なえるという効果を奏することは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態を示すシステム構成図である。
【図2】試料接着の説明図である。
【符号の説明】
【0025】
10 集束イオンビーム装置(FIB)
11 試料ステージ
12 試料ホルダ
20 走査電子顕微鏡(SEM)
21 試料ステージ
22 デポデバイス
23 マニピュレータ
24 プローブ
25 エアロックチャンバ
30 透過電子顕微鏡(TEM)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡とによりなり、
集束イオンビーム装置の加工機能を用いて薄膜試料を作製し、
作製された試料を試料ホルダごと走査電子顕微鏡に移し替え、
走査電子顕微鏡には、試料近辺にガスを供給するガス供給手段とプローブを持つマニピュレータを設け、
該プローブを試料に接触させた状態で前記ガス供給手段よりガスを噴射させつつ、試料に電子ビームを照射することにより、前記プローブに試料を接着させる、
ことを特徴とする試料作製方法。
【請求項2】
集束イオンビーム装置と走査電子顕微鏡とによりなり、
集束イオンビーム装置内にイオンビーム照射により薄膜試料を作製する加工手段を設け、
走査電子顕微鏡内には前記試料を前記集束イオンビーム装置から試料ホルダごと移し替えたものに、ガスを噴射させるガス供給手段と、プローブを有するマニピュレータとを設け、
前記プローブを試料に接触させた状態で前記ガス供給手段よりガスを噴射させつつ、試料に電子ビームを照射することにより、前記プローブに試料を接着させる、
ことを特徴とする試料作製システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−115677(P2009−115677A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290496(P2007−290496)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】