説明

試料分析装置および試料分析方法

【課題】試料の構造の局所的な不均一性を評価する。
【解決手段】X線照射部10はコヒーレントなX線を発生し、照射X線11として試料12の局所的な領域に照射する。そして、散乱X線検出部14は試料12からの散乱X線11aの散乱強度を検出する。この時検出される散乱強度の分布は、試料12の膜厚、密度および表面・界面のラフネスや結晶方位といった構造が不均一である場合、その不均一性を反映したスペックルとなる。演算部16は、このスペックルに基づいて、試料12からの散乱X線11aの散乱強度の不均一さを表すパラメータを算出し、試料12の構造の不均一性の指標とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析装置および試料分析方法に関し、特に試料の構造の不均一性を評価する試料分析装置および試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスや磁気デバイスに利用されるMOS(Metal Oxide Semiconductor)デバイスを構成する半導体基板には、各種材料の薄膜が形成されている。この薄膜の膜厚や密度や結晶方位といった構造の均一性は、上記各種デバイスの性能や信頼性に密接に関係している。近年、各種デバイスの高性能化や高信頼化を目的として、このような薄膜の構造を詳細に評価したいという要求がある。
【0003】
半導体基板に形成された薄膜の構造を評価する方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を利用する方法が知られている。SEMやAFMを利用することで、薄膜表面の形状や凹凸といった構造や薄膜表面近傍の内部構造を評価することが可能である。
【0004】
また、薄膜表面や表面近傍における構造のみならず、多層膜が形成された半導体基板における薄膜の積層構造や各薄膜の構造を評価する方法として、蛍光X線分析法、X線反射率分析法およびX線小角散乱法がよく知られている。
【0005】
蛍光X線分析法では、半導体基板にX線を照射して、各薄膜を構成する物質ごとのX線吸収および蛍光の特性を反映した蛍光X線の強度を測定し、各薄膜の膜厚を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
X線反射率分析法およびX線小角散乱法では、半導体基板に対してX線を照射して、このX線に対する各薄膜で反射または散乱されたX線の強度を測定する。X線は、物質を透過する性質があり、各薄膜からのX線は薄膜内部の構造を反映した強度分布をもつ。このような強度分布に基づいて、各薄膜の密度、膜厚、ラフネス(表面および界面の凹凸)といった多層膜の詳細な構造を測定することができる。
【特許文献1】特表2003−532114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のSEMやAFMを利用した測定では、薄膜の内部や多層膜の界面における構造を測定する場合には適していない。また、上記特許文献1に記載の方法では、X線を用いて薄膜の膜厚を測定しているが、その膜厚の局所的な不均一性に関しては評価していない。さらに、上記のX線反射率分析法およびX線小角散乱法では、X線を薄膜の測定面に対して照射し、膜厚、密度、表面・界面のラフネスといった構造を測定するが、X線の照射範囲における薄膜の平均的な構造を測定しているにすぎない。すなわち、これらの方法の結果からは、薄膜の局所的な構造の不均一性を評価することが困難である。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、試料の構造の局所的な不均一性を評価することが可能な試料分析装置および試料分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、X線を用いて試料を分析する試料分析装置が提供される。この試料分析装置は、干渉性X線を前記試料に照射するX線照射部と、前記試料で散乱された散乱X線の散乱強度を少なくとも1次元方向の位置ごとに検出し、前記散乱強度の分布を取得する散乱X線検出部と、前記散乱X線検出部の検出結果に基づいて、前記散乱X線検出部における前記X線の検出点の位置方向に対する前記散乱強度の不均一さを表すパラメータを算出する演算部と、を有する。
【0010】
このような試料分析装置によれば、X線照射部によって、干渉性X線が試料に対して照射される。そして、散乱X線検出部によって、試料で散乱された散乱X線の散乱強度が少なくとも1次元方向の位置ごとに検出され、散乱強度の分布が取得される。さらに、演算部によって、散乱X線検出部の検出結果に基づいて、散乱X線検出部におけるX線の検出点の位置方向に対する散乱強度の不均一さを表すパラメータが算出される。
【発明の効果】
【0011】
上記の試料分析装置によれば、試料の構造の局所的な不均一性を評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、試料分析装置の要部構成を示す図である。
この試料分析装置1は、コヒーレントなX線を用いて、例えば、半導体基板である基板12aと基板12aに形成された薄膜12bとから構成される試料12を分析するためのものである。ここで、コヒーレントなX線とは干渉性X線と呼ばれる位相のほぼ揃ったX線である。試料分析装置1は、X線照射部10、試料回転台13、散乱X線検出部14、検出部回転台15、演算部16および制御部17を有する。
【0013】
X線照射部10は、コヒーレントなX線を発生し、これを照射X線11として試料12に照射する。X線照射部10は、例えば波長が軟X線および硬X線の波長領域であるX線管球からのX線、放射光などを微少なピンホールによってコリメートしてコヒーレントなX線とし、試料12に照射する。また、X線照射部10は、上記波長領域である短波長レーザーや自由電子レーザーを発生させて試料12に照射するものでもよい。
【0014】
試料回転台13は、試料12を支持する。試料回転台13は、照射X線11に対する試料12の位置調整を行う機構を有する。また、試料回転台13は回転軸を有しており、試料12に対する照射X線11の入射角を任意に変化させることができる。なお、試料回転台13は、制御部17によって制御される。
【0015】
散乱X線検出部14は、試料12からの散乱X線11aの強度と散乱角とを測定可能な1次元または2次元検出器である。散乱X線検出部14として用いられる検出器としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ、フォトダイオードアレイ、位置敏感比例係数管(PSPC:Position Sensitive Proportional Counter)、イメージングプレートなどがある。
【0016】
検出部回転台15は、散乱X線検出部14を支持する。検出部回転台15は、回転軸を有しており、散乱X線11aの散乱角に対する散乱X線検出部14の設置角(後述する)を任意に変化させることができる。なお、検出部回転台15は、制御部17によって制御される。
【0017】
演算部16は、散乱X線検出部14の各検出点における散乱強度と散乱X線を検出した全検出点の散乱強度の平均との差分の平均を算出する。また、演算部16は、散乱X線検出部14の検出結果に基づいて、照射X線11が照射された領域における散乱強度の不均一さを表すパラメータを算出する。演算部16は、このパラメータを用いて薄膜12bの膜厚、密度、表面・界面のラフネスといった構造の局所的な不均一性を評価する。さらに、演算部16は、散乱X線11aの測定における試料12と散乱X線検出部14との最適な配置(水平位置、高さ位置および角度)をシミュレーションによって算出する。
【0018】
制御部17は、演算部16の上記シミュレーション結果に基づいて、試料12の回転角をθとして、散乱X線11aをいわゆるθ−2θ法により測定できるように試料回転台13と検出部回転台15を制御する。
【0019】
なお、試料分析装置1は、少なくともX線照射部10、試料12および散乱X線検出部14を覆う真空チャンバ(図示せず)を備えており、必要に応じて真空状態での散乱X線の測定が可能である。
【0020】
図2は、照射X線および散乱X線と試料の測定面とのなす角を示した図である。照射X線11と試料12とのなす角を図示の入射見込み角θで表すこととする。ここで、入射見込み角θを以下では、入射角θと呼ぶこととする。この入射角θは、試料回転台13によって試料12が回転されて任意に決定することができる。また、散乱X線11aと試料12のX線照射面とのなす角を図示の散乱見込み角αで表すこととする。ここで、散乱見込み角αを以下では、散乱角αと呼ぶこととする。
【0021】
なお、試料回転台13は、試料位置調整軸21を有している。試料位置調整軸21は、試料12の測定面内の水平方向にX軸、上記面内の鉛直方向にY軸、試料12の深さ方向にZ軸を有する。試料回転台13は、試料位置調整軸21によって試料12の照射X線11に対する位置を調整し、試料12の表面や内部の任意の位置を測定点として設定できる。なお、試料位置調整軸21は、試料回転台13の回転軸上にその原点が設定され、試料回転台13の回転とともにY軸を回転軸として回転する。
【0022】
図3は、散乱X線検出部の設置角を示す図である。散乱X線検出部14は、測定対象とする散乱X線が散乱X線検出部14の測定可能範囲内で測定できるように、検出部回転台15によって入射角θに対して2θ回転され、固定される。検出部回転台15の動作は、制御部17によって制御される。検出部回転台15の回転軸は、試料回転台13の回転軸の位置と同じ位置に設けられている。設置角2θは、図に示されるように、散乱X線検出部14の中心と検出部回転台15の回転中心とを結ぶ直線が、X線照射方向となす角である。
【0023】
ここで、散乱X線検出部14は、試料12からの散乱X線11aを検出したときに、散乱X線検出部14における検出位置から散乱角αを特定することができる。例えば、散乱X線検出部14は、入射角θで照射された照射X線11に対して、散乱X線検出部14の検出領域の中心で検出された散乱X線11aの散乱角をα=θと特定する。
【0024】
図4は、散乱X線を表す模式図である。図4(A)は、試料12の薄膜12bの構造が均一な場合の散乱X線11aを表す模式図である。図4(B)は、試料12の薄膜12bの構造が不均一な場合の散乱X線11aを表す模式図である。
【0025】
図4(A)では、照射X線11が強度分布11−1をもって均一な構造の薄膜12bに照射される。強度分布11−1の平坦な山は、照射X線11がコヒーレントであるため、同一時間、進行方向の同一位置における強度が揃っていることを示している。このように照射X線11が、均一な構造の薄膜12bに照射されると、散乱X線検出部14において、散乱X線11aが強度分布11a−1のように検出される。強度分布11a−1の平坦な山は、薄膜12bのX線が照射された各点からの散乱X線11aのコヒーレント性が保たれており、照射X線11と同様に強度が揃っていることを示している。
【0026】
図4(B)では、照射X線11が強度分布11−1をもって不均一な構造の薄膜12bに照射される。このように照射X線11が不均一な構造の薄膜12bに照射されると、散乱X線検出部14において、散乱X線11aが強度分布11a−2のように検出される。散乱X線11aは、薄膜12bの膜厚、密度、表面・界面のラフネスといった構造の不均一性によって散乱角αが不均一となり、散乱X線11aは互いに干渉する。この干渉の効果は、X線照射位置の構造の不均一性に強く依存する。強度分布11a−2は、このような干渉の効果による、いわゆるスペックルである。照射X線11として、コヒーレントなX線を用いることで、薄膜12bの局所的な領域に関する強度分布11a−2を感度よく取得することができる。そして、強度分布11a−2に基づいて、試料12の局所的な領域における散乱強度の不均一さを表すパラメータが算出される。これによって、薄膜12bの膜厚、密度、表面・界面のラフネスといった構造の局所的な不均一性を評価することが可能となる。
【0027】
次に、試料12内の任意の深さにおける散乱X線11aを精度良く測定する方法を説明する。
図5は、試料内における定在波を示す図である。図5では、試料12に多層膜(薄膜12c〜e)が形成されている場合を示している。定在波11bは、照射X線11と散乱X線11aとの試料12の深さ方向の各成分の干渉に応じた波形である。定在波11bの腹や節の位置は、各膜の膜厚や密度、照射X線11の入射角θや波長などに依存する。そして、この定在波11bの腹が形成される深さ位置からの散乱強度が大きくなり、この深さ位置に関する測定の感度が向上する。この定在波11bを利用すると、測定したい薄膜が多層膜の内部に形成されている場合にも、この薄膜の深さ位置に定在波11bの腹を形成させて上記深さ位置からの散乱X線11aを感度よく測定することができる。この腹の位置は、試料回転台13によって照射X線11の入射角θを変化させることで、任意に調整することが可能である。ここで、演算部16は、定在波11bの腹を形成する深さ位置を決定するための入射角θを求めるために、予め試料12の平均的な構造などを用いたシミュレーションを行う。このシミュレーションでは、例えば試料12に形成された各薄膜の平均的な膜厚や密度、照射X線11の波長に基づいて、照射X線11の波長や入射角θと試料12内に形成される定在波11bとの関係が計算され、測定対象とする深さ位置に定在波11bの腹を形成するための入射角θが求められる。
【0028】
次に、試料分析装置1を用いての試料分析の手順をフローチャートを用いて説明する。
図6は、試料の構造の局所的な不均一性を表すパラメータを測定する手順を示すフローチャートである。以下、図6に示す手順をステップ番号に沿って説明する。
【0029】
[ステップS1]演算部16は、試料12の内部におけるX線強度をシミュレーションにより算出し、測定対象となる試料12の深さ位置に定在波11bが形成されるような入射角θを求める。
【0030】
[ステップS2]制御部17は、演算部16のシミュレーションの結果に基づいて照射X線11の入射角がθ、散乱X線検出部14の設置角が2θとなるように試料回転台13および検出部回転台15を制御する。また、制御部17は、試料回転台13を制御して試料位置調整軸21のX、Y、Z軸によって試料12の測定対象とする位置に照射X線11が照射されるように位置調整する。
【0031】
[ステップS3]X線照射部10は、コヒーレントなX線を発生し、これを照射X線11として試料12に照射する。そして、散乱X線検出部14は、試料12からの散乱X線11aを検出する。
【0032】
[ステップS4]演算部16は、散乱X線検出部14の各検出点における散乱強度の分布I(αi)と散乱X線11aを検出した全検出点の散乱強度の平均IAVEとの差分の平均を表すパラメータaを、以下の式(1)により算出する。ここで、“i”は、散乱X線検出部14の検出点を区別する添え字であり、1以上N以下(Nは、散乱X線検出部14が散乱X線11aを検出した全検出点の数)の整数である。
【0033】
【数1】

【0034】
また、演算部16は、散乱X線検出部14の各検出点における散乱強度の分布I(αi)をαiの微少範囲ごとに平均化した平均分布Iave(αi)を算出する。そして、散乱強度の分布I(αi)と平均分布Iave(αi)との差分の分布Idiff(αi)=I(αi)−Iave(αi)を算出する。さらに、演算部16は、散乱角αiで表される差分Idiff(αi)が、散乱X線11aの波数ベクトルのsin(αi)成分で表されるように変数変換する。この成分は、X線の波長をλ(m)とすると、sin(αi)/λ(m-1)と表すことができる。演算部16は、このように変数変換した後の差分Idiff(sin(αi)/λ)を以下の式(2)のように高速フーリエ変換することで、X線照射位置における構造の不均一さを表すパラメータb(x)を算出する。ここで、“x”は、X線照射位置における、例えば、膜厚、密度、ラフネスといった構造の周期に相当する。
【0035】
【数2】

【0036】
ここで、“FFT”は、分布Idiffに対する高速フーリエ変換を表す。
図7は、試料の構造の局所的な不均一性を表すパラメータを求める手順を表した模式図である。まず、散乱X線検出部14は、照射X線11に対する散乱X線11aの検出により、測定スペックルデータ31(上記のI(αi)に相当)を取得する。そして、演算部16は、測定スペックルデータ31を散乱角αで表される横軸のビンの微少範囲で平均化し、平均分布32(上記のIave(αi)に相当)を取得する。演算部16は、測定スペックルデータ31と平均分布32との差分を算出し、差分データ33(上記のIdiff(αi)に相当)を取得する。さらに、演算部16は、差分データ33の散乱角αで表されている横軸を散乱X線11aの波数ベクトルのsin(αi)成分に変換して、この変換後の分布を横軸方向に高速フーリエ変換し、構造の不均一さ34を取得する。構造の不均一さ34の縦軸に表されるb(x)は、上記の変数変換により、試料12内のX線照射位置においてx(Å)の周期で現れる構造の不均一さを表すパラメータと考えることができる。このb(x)のピークの強度が強いほど、また、ピーク間の距離が小さいほど、X線照射位置における試料12の構造が不均一であると評価することができる。
【0037】
このように、演算部16は、パラメータaおよびb(x)を算出する。パラメータaによって、例えば異なるX線照射位置(異なるX、Y、Z位置)における散乱X線の強度の相関を取得することができる。この相関によって、X線照射位置ごとの構造の不均一性を評価することができる。そして、パラメータb(x)によって、X線照射位置の局所的な構造の不均一性を評価することができる。なお、照射X線11の波長を軟X線および硬X線の波長領域である0.1〜100Å程度に決定することができるので、試料12のX線照射位置に関して、同等の分解能でパラメータb(x)を取得することが可能である。
【0038】
さらに、上記パラメータaとb(x)とを組み合わせて評価することにより、試料12の広い領域に渡って、不均一性の詳細な分布を評価することが可能となる。例えば、コヒーレントなX線の照射を試料12の測定面の全域に渡って繰り返し行って、パラメータaとb(x)とを評価することにより、測定面全域の構造の不均一性を詳細に評価することができる。
【0039】
なお、図7の例では、散乱X線11aの強度分布を1次元方向に関して取得した場合を示しているが、この強度分布を2次元で取得してパラメータaおよびb(x)を算出しても構わない。さらにまた、フーリエ変換を用いて上記パラメータb(x)を求める例を示したが、その他の変換方法を用いても構わない。
【0040】
次に、上記の実施の形態の変形例について説明する。
図8は、試料に外場を印加する手段を表した模式図である。図8(A)は、試料12に対して温度変化を与える手段である。図では、例として電熱器が示されている。図8(B)は、試料12に対して応力を印加する手段である。図では、例として押さえ部材が示されている。図8(C)は、試料12に対して電場を印加する手段である。図では、例として電極が示されている。図8(D)は、試料12に対して磁場を印加する手段である。図では、例として電磁石が示されている。これらの手段は、図1の試料分析装置1にさらに外場印加手段として設けることができる。そして、試料12に対してこのような外場を少なくとも1つ印加した状態で、散乱X線11aの測定を行うことで、外場の影響による試料の表面・界面のラフネス、結晶配向、誘電体のドメイン構造、磁性体のドメイン構造といった構造の局所的な不均一性を評価することができる。
【0041】
図9は、試料の温度変化により生じる表面の凹凸の変化による散乱角の変化を表す模式図である。試料12の温度変化は、図8(A)に示されるような温度変化を与える手段により制御される。
【0042】
図9(A)は、温度変化前の薄膜12bに凹凸が存在する場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。この場合、凹凸の影響によって散乱X線11aの散乱角も不均一となり、スペックルが測定される。
【0043】
図9(B)は、温度変化後に薄膜12b表面の凹凸が解消された場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。この場合、散乱X線11aの散乱角は均一となるため、スペックルは測定されない。
【0044】
このように、温度変化によるスペックルの変化から上記のパラメータaおよびb(x)の変化を取得することができる。これによって、温度変化による薄膜12bの表面・界面のラフネスの局所的な不均一性の変化を評価することができる。
【0045】
図10は、試料に印加された応力による散乱角の変化を表す模式図である。試料12への応力の印加は、図8(B)に示されるような応力を印加する手段により制御される。
図10(A)は、薄膜12bに応力が印加されていない場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。ここで、薄膜12bは結晶薄膜であり、その結晶配向41は図のように揃っている。この場合、散乱X線11aの散乱角は均一となり、スペックルは測定されない。
【0046】
図10(B)は、薄膜12bに応力を印加した場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。この場合、結晶薄膜である薄膜12bの結晶配向41が図のように歪められ、この影響によって散乱X線11aの散乱角も不均一となるため、スペックルが測定される。そして、このスペックルから上記のパラメータaおよびb(x)を算出することで、応力の印加によって発生する結晶薄膜における結晶配向41の局所的な不均一性の変化を評価することができる。
【0047】
図11は、試料に印加された電場による散乱角の変化を表す模式図である。試料12への電場の印加は、図8(C)に示されるような電場を印加する手段により制御される。
図11(A)は、薄膜12bに電場が印加されていない場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。ここで、薄膜12bは誘電体薄膜であり、その分極方向42は、例えば図のように様々な方向が混在した状態となっている。このように分極方向42が不均一であることによって、散乱X線11aの散乱角も不均一となり、スペックルが測定される。
【0048】
図11(B)は、薄膜12bに電場が印加された場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。この場合、図のように誘電体薄膜である薄膜12bの分極方向42は電場方向に揃っている。この場合、散乱X線11aの散乱角は均一となり、スペックルは測定されない。
【0049】
このように、電場印加によるスペックルの変化から上記のパラメータaおよびb(x)の変化を取得することができる。これによって、電場印加による誘電体薄膜における分極方向42の局所的な不均一性の変化を評価することができる。
【0050】
図12は、試料に印加された磁場による散乱角の変化を示す模式図である。試料12への磁場の印加は、図8(D)に示されるような磁場を印加する手段により制御される。
図12(A)は、薄膜12bに磁場が印加されていない場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。ここで、薄膜12bは磁性体薄膜であり、その磁気分極方向43は、例えば図のように様々な方向が混在した状態となっている。このように磁気分極方向43が不均一であることによって、散乱X線11aの散乱角も不均一となり、スペックルが測定される。
【0051】
図12(B)は、薄膜12bに磁場が印加された場合の照射X線11に対する散乱X線11aを示している。この場合、図のように磁性体薄膜である薄膜12bの磁気分極方向43は磁場方向に揃っている。この場合、散乱X線11aの散乱角は均一となり、スペックルは測定されない。
【0052】
このように、磁場印加によるスペックルの変化から上記のパラメータaおよびb(x)の変化を取得することができる。これによって、磁場印加による磁性体薄膜における磁気分極方向43の局所的な不均一性の変化を評価することができる。ここで、照射X線11としては、直線偏光のX線に限らず、磁気分極方向43を感度よく測定するために円偏光のX線を用いてもよい。
【0053】
上記図10〜12の説明において、応力や電場や磁場の向きを反転させることによるスペックルの変化を測定することでデータ量を増やし、局所的な不均一性の変化を高精度に評価することもできる。
【0054】
さらに、上記の図8に示される外場印加手段は、温度、応力、電場および磁場のうち複数を組み合わせて試料12に印加しても構わない。例えば、温度変化を制御する手段と電場の印加を制御する手段とを組み合わせて、キュリー温度近傍における誘電体薄膜のドメイン構造の局所的な不均一性の変化を評価することができる。
【0055】
以上の説明のように、試料12に対してコヒーレントなX線を照射し、試料12からの散乱X線の散乱強度を検出して、X線照射位置の局所的な不均一性の影響を反映した強度分布であるスペックルを測定する。そして、このスペックルにより、X線照射位置の構造の不均一さを表すパラメータを算出する。このパラメータにより、X線照射位置における膜厚、密度、表面・界面のラフネス、結晶配向、誘電体のドメイン構造、磁性体のドメイン構造といった試料12の構造の局所的な不均一性を評価することができる。
【0056】
なお、上述した演算部16および制御部17の処理機能は、コンピュータによっても実現できるが、その場合、各処理内容を記述した試料分析プログラムが提供される。ここで、コンピュータは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などを有する。このようなコンピュータで、上記試料分析プログラムを実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。この場合、CPUは、散乱X線11aの検出結果に基づいて、上記のパラメータaおよびb(x)の計算を実行する。そして、CPUは、取得した検出結果のデータや計算の結果得られたパラメータをRAMやHDDなどの記録媒体に格納する。また、処理内容を記述した試料評価プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリなどがある。磁気記録装置には、ハードディスク装置(HDD)、フレキシブルディスク(FD)、磁気テープなどが挙げられる。光ディスクには、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD−RAM(Random Access Memory)、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Recordable)/RW(ReWritable)などが挙げられる。光磁気記録媒体には、MO(Magneto - Optical disk)などがある。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】試料分析装置の要部構成を示す図である。
【図2】照射X線および散乱X線と試料の測定面とのなす角を示した図である。
【図3】散乱X線検出部の設置角を示す図である。
【図4】散乱X線を表す模式図である。
【図5】試料内における定在波を示す図である。
【図6】試料の構造の局所的な不均一性を表すパラメータを測定する手順を示すフローチャートである。
【図7】試料の構造の局所的な不均一性を表すパラメータを求める手順を表した模式図である。
【図8】試料に外場を印加する手段を表した模式図である。
【図9】試料の温度変化により生じる表面の凹凸の変化による散乱角の変化を表す模式図である。
【図10】試料に印加された応力による散乱角の変化を表す模式図である。
【図11】試料に印加された電場による散乱角の変化を表す模式図である。
【図12】試料に印加された磁場による散乱角の変化を示す模式図である。
【符号の説明】
【0058】
1 試料分析装置
10 X線照射部
11 照射X線
11a 散乱X線
12 試料
12a 基板
12b 薄膜
13 試料回転台
14 散乱X線検出部
15 検出部回転台
16 演算部
17 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を用いて試料を分析する試料分析装置において、
干渉性X線を前記試料に照射するX線照射部と、
前記試料で散乱された散乱X線の散乱強度を少なくとも1次元方向の位置ごとに検出し、前記散乱強度の分布を取得する散乱X線検出部と、
前記散乱X線検出部の検出結果に基づいて、前記散乱X線検出部における前記X線の検出点の位置方向に対する前記散乱強度の不均一さを表すパラメータを算出する演算部と、
を有することを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記不均一さを表すパラメータとして、前記散乱強度の分布の周期性を表すパラメータを算出することを特徴とする請求項1記載の試料分析装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記散乱強度の分布を前記検出点の前記位置方向に対してフーリエ変換することで、前記散乱強度の分布の周期性を表すパラメータを算出することを特徴とする請求項2記載の試料分析装置。
【請求項4】
前記演算部は、さらに前記散乱X線検出部における前記散乱X線を検出した全検出点について前記散乱強度の平均を算出し、各検出点における前記散乱強度と前記散乱強度の平均との差分の平均を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の試料分析装置。
【請求項5】
前記X線が照射された前記試料の内部の特定の深さからの前記散乱X線の前記散乱強度の深さ方向成分が大きくなるように、前記X線照射部からの前記試料に対する前記X線の入射角を調整する制御部をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の試料分析装置。
【請求項6】
X線を用いて試料を分析する試料分析方法において、
干渉性X線を前記試料に照射し、
前記試料で散乱された散乱X線の散乱強度を少なくとも1次元方向の位置ごとに検出し、前記散乱強度の分布を取得し、
前記散乱X線の検出結果に基づいて、前記散乱X線検出部における前記X線の検出点の位置方向に対する前記散乱強度の不均一さを表すパラメータを算出する、
ことを特徴とする試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−109387(P2009−109387A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283057(P2007−283057)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】