説明

試料容器

【課題】 DNA検体を増幅して得られる一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)の解離特性のパターン解析に際して、凝縮の発生を少なく抑えて、一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)が発する蛍光の受光感度の大幅な上昇を実現する。
【解決手段】 試料としてのDNA検体Sを収容する容器本体2と、この容器本体2の開口2aを閉塞し且つ容器本体2内の試料Sに向けて照射された励起光源からの励起光Exを透過可能な蓋体3を備え、容器本体2を椀形状に形成すると共に、蓋体3に容器本体2の内側に向けて膨出して容器本体2内の試料Sに接触するレンズ形状を成す膨出部3aを一体で設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、試料としてのDNA検体を増幅して得られる一本鎖核酸高次構造体あるいは二本鎖核酸高次構造体の解離特性を解析するに際して、DNA検体を収容するのに用いられる試料容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料を収容する試料容器としては、例えば、透明な材質から形成された円筒形状を成す容器本体と、この容器本体と同じく透明な材質から形成された半球状を成す蓋とから成るものがあり、このような試料容器を用いて、例えば、一本鎖核酸高次構造体の解離特性を解析する際には、まず、試料としてのDNA検体を入れた試料容器を恒温ブロックに形成した多数の鉛直方向の保持孔にそれぞれ挿入し、恒温ブロックを介して試料容器内の各DNA検体の加熱冷却を行う。
【0003】
そして、上記のように加熱冷却がなされることにより増幅されて得られた試料容器の容器本体内の一本鎖核酸高次構造体に対して、例えば、試料容器の蓋を通して上方から励起光を照射し、これにより容器本体内の一本鎖核酸高次構造体が発する上方に向かう蛍光をそれぞれ受光して、蛍光強度を測るようにしている。
【特許文献1】特開平8−272457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来において、蓋が半球状を成している都合上、凝縮を起こし易すく、その結果、蓋を通過した励起光が容器本体内で散乱してしまい、感度が良いとは言えないという問題があるのに加えて、容器本体が円筒形状を成していることから、容器本体内の試料の恒温ブロックに面する部分が少なくなる分だけ、試料に対する熱応答性が良いとは言えないという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたものであり、例えば、DNA検体を増幅して得られる一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)の解離特性のパターン解析に際して、凝縮の発生を少なく抑えることができると共に、試料としてのDNA検体に対する熱応答性を早めることができ、その結果、一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)が発する蛍光の受光感度を大幅に上昇させることが可能である試料容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料を収容する容器本体と、この容器本体の開口を閉塞し且つ容器本体内の試料に向けて照射された励起光源からの励起光を透過可能な蓋体を備えた試料容器において、上記容器本体を椀形状に形成すると共に、蓋体に容器本体の内側に向けて膨出して容器本体内の試料に接触する膨出部を一体で設けた構成としたことを特徴としており、この試料容器の構成を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
本発明の試料容器では、蓋体に、容器本体の内側に向けて膨出して試料に接触する膨出部を一体で設けているので、凝縮の発生が少なく抑えられることとなって、励起光や蛍光が容器本体内で散乱することがほとんどなくなり、その結果、感度の上昇が図られることとなる。
【0008】
また、本発明の試料容器では、容器本体が椀形状を成しているので、円筒形状を成す容器本体と比較して底面が広い分だけ容器本体内の試料の恒温ブロックに面する部分が多くなり、したがって、試料に対して早い熱応答性が得られることとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の試料容器によれば、上記した構成としているので、例えば、DNA検体を増幅して得られる一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)の解離特性のパターンを解析するに際して、凝縮の発生を少なく抑えることが可能であると共に、試料としてのDNA検体に対する熱応答性を早めることが可能であり、したがって、一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)が発する蛍光の受光感度の大幅な上昇を実現することができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の試料容器において、容器本体は、少なくとも120℃の熱に耐えられる材質から形成することが望ましく、10μl程度の量の試料を収容し得る容積とすることが望ましい。
【0011】
また、本発明の試料容器において、蓋体の膨出部がレンズ形状をなしている構成を採用することができるほか、蓋体の膨出部が断面凹状をなしている構成を採用することができ、この膨出部を一体で有する蓋体も、少なくとも120℃の熱に耐えられる材質から形成することが望ましく、容器本体及び蓋体には、互いに係止して閉塞状態を維持する係止部をそれぞれ設けることが望ましい。
【0012】
また、本発明の試料容器において、容器本体内の試料に対する励起光の照射及び蛍光の受光には、同軸ファイバーを用いることが望ましい。すなわち、励起光を通すコア光ファイバーの周囲に、蛍光を通す適宜口径のファイバーを複数束ねてなるバンドルファイバーを用いることが望ましい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の試料容器の一実施例を示している。図1に示すように、この試料容器1は、試料Sを収容する容器本体2と、この容器本体2の開口2aを閉塞する蓋体3を備えており、容器本体2は少なくとも120℃の熱に耐えられる材質(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート)から成っていて、椀形状に形成してある。
【0015】
蓋体3は、容器本体2内の試料Sに向けて照射される図示しない励起光源からの励起光を透過可能で且つ少なくとも120℃の熱に耐えられる材質(例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート)から形成してあり、そのほぼ中央には、容器本体2の内側に向けて膨出して試料Sに接触するレンズ形状を成す膨出部3aが一体で設けてある。
*蓋体に採用可能な材質を列記してください。
【0016】
この場合、容器本体2には、開口2aの縁部に沿う環状溝2bが設けてあると共に、蓋体3には、膨出部3aの周囲に位置する環状突起3bが設けてあり、これらの環状溝2b及び環状突起3bを互いに係止させることで、蓋体3の閉塞状態を維持することができるようにしてある。
【0017】
このような試料容器1を用いて、一本鎖核酸高次構造体あるいは二本鎖核酸高次構造体、例えば、一本鎖核酸高次構造体の解離特性を解析する際には、まず、試料SとしてのDNA検体を試料容器1の容器本体2に入れ、容器本体2の開口2aに蓋体3を被せて、蓋体3の環状突起3bと容器本体2の環状溝2bとを互いに係止させて密閉する。このとき、蓋体3のレンズ形状を成す膨出部3aが試料Sに接触した状態となる。
【0018】
次いで、試料Sを入れた試料容器1を図示しない恒温ブロックに形成した鉛直方向の保持孔に挿入し、恒温ブロックを介して試料容器1内の試料SとしてのDNA検体の加熱冷却を行う。
【0019】
そして、上記のように加熱冷却がなされることにより増幅されて得られた試料容器1の容器本体2内の一本鎖核酸高次構造体に対して、試料容器1の蓋体3を通して上方から励起光を照射する。
【0020】
この実施例において、容器本体2内の試料Sに対する励起光の照射及び蛍光の受光には、図2に示すように、励起光Exを通すコア光ファイバー11の周囲に、蛍光Emを通すファイバー12を複数束ねて成る同軸ファイバー10(いわゆるバンドルファイバー)を用いている。なお、蛍光Emを通すファイバー12の口径の大きさは問わないが、この実施例では、励起光Exを通すコア光ファイバー11よりも小径のファイバー12を用いている。
【0021】
すなわち、同軸ファイバー10のコア光ファイバー11の端面を蓋体3の中央にΔdの間隔をおいて位置させて、蓋体3を通して上方から励起光Exを照射し、これにより容器本体2内の一本鎖核酸高次構造体が発する上方に向かう蛍光Emを同軸ファイバー10のファイバー12で受光して、蛍光強度を測るようにしている。
【0022】
上記した試料容器1では、蓋体3のほぼ中央に、容器本体2の内側に向けて膨出して試料Sに接触するレンズ形状を成す膨出部3aを一体で設けているので、凝縮の発生が少なく抑えられることとなって、励起光Exや蛍光Emが容器本体2内で散乱することがほとんどなくなり、その結果、感度の上昇が図られることとなる。
【0023】
また、上記した試料容器1では、容器本体2が椀形状を成しているので、従来の円筒形状を成す容器本体と比較して、容器本体2の底面が広くなっている分だけ容器本体2内の試料Sの恒温ブロックに面する部分が多くなり、その結果、試料Sに対して早い熱応答性が得られることとなる。
【0024】
本発明の試料容器の詳細な構成及び用途は、上記した実施例に限定されるものではなく、他の構成として、例えば、蓋体3の膨出部3aがレンズ形状を成しているのではなく、断面凹状をなしている構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の試料容器では、一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)から発せられる蛍光の測光を高い精度で行い得ることから、一本鎖核酸高次構造体(あるいは二本鎖核酸高次構造体)の解離特性のパターン解析を低温域から高温域の広い範囲において行い得ることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の試料容器の一実施例を示す容器本体と蓋体とを分離した状態の断面説明図である。(実施例1)
【図2】図1の試料容器と同軸ファイバーとの位置関係を示す断面説明図(a)及び同軸ファイバーの端面説明図(b)である。
【符号の説明】
【0027】
1 試料容器
2 容器本体
2a 開口
3 蓋体
3a 膨出部
S DNA検体(試料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する容器本体と、この容器本体の開口を閉塞し且つ容器本体内の試料に向けて照射された励起光源からの励起光を透過可能な蓋体を備えた試料容器において、上記容器本体を椀形状に形成すると共に、蓋体に容器本体の内側に向けて膨出して容器本体内の試料に接触する膨出部を一体で設けたことを特徴とする試料容器。
【請求項2】
蓋体の膨出部がレンズ形状をなしている請求項1に記載の試料容器。
【請求項3】
蓋体の膨出部が断面凹状をなしている請求項1に記載の試料容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−214986(P2006−214986A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30771(P2005−30771)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000114891)ヤマト科学株式会社 (17)
【Fターム(参考)】