説明

試験片製造方法及びコーティング層の物性値測定方法

【課題】縦割れ遮熱コーティングを試験片へ加工中に割れや欠けが発生しにくい縦割れコーティングの試験片製造方法を提供する。
【解決手段】基材の表面にボンドコート層とトップコート層とからなるコーティング層を形成して試験片基材を作成する過程と、ボンドコート層または、トップコート層形成を形成した後に試験片基材を熱処理する過程と、被検査面を形成する過程と、被検査面が形成された試験片基材の基材を溶解除去する過程と、を備え、前記トップコート層が、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との2層以上の積層構造であることを特徴とする試験片の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片の製造方法及びコーティング層の物性値測定方法に関するものであり、特に縦割れ遮熱コーティングを含むコーティング層の物性値測定方法及びそれに用いる試験片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやブレード等の高温環境で用いられる部品は、耐熱性が要求されるため、耐熱合金からなる基材上に溶射によって形成された遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)が設けられている。
【0003】
遮熱コーティングの形成において、溶射のプラズマを高入熱条件にするか、もしくは溶射距離を近づけて成膜することで、遮熱コーティングに縦割れを導入することができる。
または、電子ビーム物理蒸着法で柱状晶を有する遮熱コーティングを形成することができる。
この縦割れ、または柱状晶は、熱応力緩和効果があることから、TBCの長寿命化のために一部のガスタービンで適用されている。
【0004】
ところで、遮熱コーティングの材料の検討及び余寿命の評価のためには、規格で規定された試験片に加工して物性値を取得する必要がある。そこで、熱伝導率やヤング率といった各物性値を測定する方法が開示されている(特許文献1を参照)。
【0005】
また、従来のガスタービンでは、遮熱コーティングの材料として一般的にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が使用されていた。下記の非特許文献1には、熱処理による相構造の変化を調査するために、一度基材の表面にYSZを施工し、その後60%硝酸(HNO)で基材を溶解することによって試験片を作成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−228105号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jaeyun Moon et.al,Surf.Coat.Technol.155(2002)1−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の遮熱コーティングと同様に、縦割れ遮熱コーティングについても、材料の検討や余寿命の評価のため、規格で規定された試験片に加工して物性値を取得することが望まれている。
【0009】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されているような基材を溶解除去する方法や、砥石研磨等で加工する方法等によって、縦割れ遮熱コーティング単体の試験片を作成した場合、遮熱コーティングに導入されている縦割れの影響により、試験片の加工中に割れや欠けが生じやすいという問題があった。したがって、縦割れ遮熱コーティングの各種物性値の測定に供するための、縦割れ遮熱コーティング単体の試験片を作製することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、縦割れ遮熱コーティングの試験片加工中に割れや欠けが発生しにくい縦割れコーティングの試験片製造方法を提供することを目的とする。
また、縦割れ遮熱コーティングの物性値を推定することが可能な縦割れ遮熱コーティング層の物性値測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の試験片の製造方法は、
基材の表面にボンドコート層とトップコート層とからなるコーティング層を形成して試験片基材を作成する過程と、ボンドコート層または、トップコート層形成を形成した後に試験片基材を熱処理する過程と、被検査面を形成する過程と、被検査面が形成された試験片基材の基材を溶解除去する過程と、を備え、前記トップコート層が、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との2層以上の積層構造であることを特徴とする。
また、上記過程で熱処理された試験片基材について、端部のR部を除去する過程であることを特徴とする。
【0012】
本発明のコーティング層の物性値測定方法は、上記方法により、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を製造し、それぞれの試験片について熱伝導率及びヤング率の少なくとも一方の物性値を測定する過程と、測定された前記厚さ比の前記物性値から、測定された以外の厚さ比の当該物性値を推定する過程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この明細書において、縦割れとは、セラミックス層の膜厚方向に延在する亀裂であり、セラミックス層における縦割れ同士の間隔(ピッチ)が耐熱基材上に形成された合計膜の厚さ(但し、ボンドコート層を除く)の5〜100%の範囲となるものをいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明の試験片の製造方法によれば、基材上にボンドコート層とトップコート層とからなるコーティング層を形成し、熱処理及び被検査面を形成後に基材を溶解除去する構成を有している。そして、トップコート層が縦割れを含まない遮熱コーティング層を有する2層以上の積層構造であるため、縦割れ遮熱コーティング層が試験片への加工中に割れや欠けが発生するリスクを最小限に抑えることができる。したがって、縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の加工中に生じる割れや欠けのない試験片を製造することができる。
被検査面を形成する際に、熱処理された試験片基材の端部のR部を除去することにより、全体として平坦な試験片となるため、物性値の測定精度を向上することができる。
【0015】
また、本発明のコーティング層の物性値測定方法によれば、上述の方法によって製造した縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を用いて、熱伝導率及びヤング率の少なくとも一方の物性値を測定し、測定値を外挿することにより測定した以外の厚さ比の上記物性値を推定する構成となっている。このため、加工中に試験片が割れ、物性値を測定できなかったトップコート層が縦割れ遮熱コーティング層単体の場合の物性値を予測することができる。したがって、高温耐熱材料の余寿命を評価する際に有用な、縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の熱伝導率やヤング率といった物性値を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る試験片基材の概略構成を示す断面模式図である。
【図2】本発明の第1及び第2の実施形態に係る測定値を外相する方法を説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施形態で用いるヤング率測定装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明を適用した第1の実施形態は、縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の試験片を製造し、この試験片を用いて縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の熱伝導率を測定する方法である。
【0018】
<試験片の製造方法>
本実施形態の縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の試験片の製造方法は、基材の表面にボンドコート層とトップコート層とからなるコーティング層を形成して試験片基材を作成する過程(試験片基材の作成過程)と、コーティング層が形成された試験片基材を熱処理する過程(熱処理過程)と、被検査面を形成する過程(被検査面形成過程)と、被検査面が形成された試験片基材の基材を溶解除去する過程(基材除去過程)と、を備えている。以下、各過程について詳細に説明する。
【0019】
(試験片基材の作成過程)
先ず、図1を参照して、試験片基材の作成過程について説明する。
図1に示すように、遮熱コーティング層を有する基材(以下、試験片基材10と称す)は、基材1の表面にボンドコート層3とトップコート層4とからなるコーティング層2が設けられた積層構造体である。
【0020】
基材1は、トップコート層4の形成後に酸によって溶解除去可能な材料であれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、SUS304やNi基耐熱合金等を用いることができる。
基材1のサイズは、熱伝導率測定用のサンプルサイズとしてJIS R−1611 1997でφ8〜10mmの円板または凸多角形が規定されているが、φ10mmの円板が好ましく、後述する被検査面形成過程において、試験片基材10の端部のR部を除去する部分を考慮してφ13mm以上であることが好ましい。
また、基材1の厚さは、特に限定されるものではないが、熱処理過程等において反りが発生せず、且つ基材除去過程において容易に除去できる程度の厚さであることが好ましい。上記厚さとしては、基材1としてSUS304を用いた場合には、例えば厚さ4mmを用いることができる。
【0021】
本実施形態のコーティング層2は、厚さ約0.1mmのCoNiCrAlYからなるボンドコート層3と、厚さ約1mmのセラミックス層からなるトップコート層4とから構成されている。コーティング層2の厚さは、熱伝導率測定用のサンプルサイズとしてJIS R−1611 1997で4mm以下が規定されているが、1mmが好ましい。
【0022】
ボンドコート層3は、基材1とトップコート層4との間に設けられた耐酸化膜である。本実施形態では、ボンドコート層3としてCoNiCrAlYを用いているが、これに限定されるものではなく、耐酸化膜として周知のものを用いることができる。
ボンドコート層3の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01mm以上1mm以下である。0.01mm未満では耐酸化性が不充分となる場合があり、1mmを超えると皮膜の延性や靱性が不充分となる場合がある。
【0023】
トップコート層4は、図1に示すように、ボンドコート層3側に設けられた縦割れを含まない遮熱コーティング層5と、この縦割れを含まない遮熱コーティング層5上に設けられた縦割れ遮熱コーティング層6との2層以上の積層構造となっている。
トップコート層4の厚さは、約1mmとする。上述したように、コーティング層2の厚さを約2mmとすると、ボンドコート層3の厚さは1mm未満であるため、トップコート層4の厚さが支配的となるためである。
【0024】
縦割れを含まない遮熱コーティング層5は、ボンドコート層3の上に設けられたセラミックス層であり、基板1を溶解除去した際にコーティング層2の割れや欠けを抑制するために設けられた補助材である。
縦割れを含まない遮熱コーティング層5の材質は、層中に縦割れを含まないセラミックス層を形成するものであれば特に限定されるものではない。上記材質としては、例えば、YSZ(部分安定化ジルコニア)を挙げることができる。YSZ(部分安定化ジルコニア)は、安定化剤としてYを添加して部分安定化させたZrOである。また、YSZ以外にも、後述する縦割れ遮熱コーティング層6に適用する材質をセラミックス層中に縦割れが含まれない条件で製作したものを用いることが可能であるが、製造コストの観点からはYSZの適用が好ましい。
また、縦割れを含まない遮熱コーティング層5は、図1に示すように、層中に微細気孔5aが分散されたポーラス層であってもよい。なお、縦割れを含まない遮熱コーティング層5中に、微細気孔5aが均一に分散されていることが好ましい。
さらに、後述するように複数種の試験片の熱伝導率を測定するため、縦割れを含まない遮熱コーティング層5の微細気孔5aによる気孔率は、複数種の試験片間でほぼ同一とすることが好ましい。
【0025】
縦割れ遮熱コーティング層6は、図1に示すように、縦割れ遮熱コーティング層6の厚さ方向に延在する縦割れ6aが、縦割れ遮熱コーティング層6の面方向に分散されたセラミックス層である。ここで、縦割れとは、セラミックス層の膜厚方向に延在して形成される亀裂であり、セラミックス層に面方向における縦割れ同士の間隔(ピッチ)が基材1上に形成された合計膜の厚さ(但し、ボンドコート層3を除く)の5〜100%の範囲となるものをいう。この縦割れ遮熱コーティング層6により、耐熱合金基材と比較して熱膨張率が小さく延性に乏しいセラミックス層に作用する応力を緩和するため、耐熱合金基材とセラミックス層との剥離を抑制することができる。これにより、耐熱合金基材に大きな温度変化が生じる場合においても縦割れ遮熱コーティング層6に高い耐久性が確保される。
【0026】
縦割れ遮熱コーティング層6の材質は、層中に縦割れを含むセラミックス層を形成するものであれば特に限定されるものではないが、従来のYSZ(イットリア安定化ジルコニア)に比して高温での優れた結晶安定性が確保されて優れた熱サイクル耐久性を有する材質を用いることが好ましい。上記材質としては、例えば、SmZr、SmYbZr等を挙げることができる。ここで、SmYbZr(部分安定化ジルコニア)は、安定化剤としてSm酸化物とYb酸化物を添加して部分安定化したZrOである。
また、後述するように複数種の試験片の熱伝導率を測定するため、縦割れ遮熱コーティング層6の縦割れ6aの分散状態は、均一に分散されていることが好ましく、複数種の試験片間でほぼ同一とすることが好ましい。ただし、縦割れ6aの分散状態を厳密に制御することは困難であるため、少なくとも縦割れ遮熱コーティング層6の溶射条件をそろえることが好ましい。
【0027】
図1に示すように、縦割れを含まない遮熱コーティング層5の厚さ(t)と縦割れ遮熱コーティング層6の厚さ(T)との比は、特に限定されるものではないが、縦割れ遮熱コーティング層6の割れや欠けを抑制する観点から、遮熱コーティング層5の厚さ(t)が0mm超1mm未満であることが好ましい。
また、後述するコーティング層の熱伝導率の測定方法において、縦割れを含まない遮熱コーティング層5と縦割れ遮熱コーティング層6との厚さ比の異なる複数種の試験片を製造する際には、t=1mm且つT=0mmの水準、t=0.5mm且つT=0.5mmの水準、コーティング層2が割れない範囲で限りなくt=0mm且つT=1.0mmに近い水準の、少なくとも3水準の試験片を製造することが好ましい。
【0028】
試験片基材10は、従来の一般的な溶射技術によって製作することができる。
例えば、先ず、基板1上に耐酸化膜としてボンドコート層3を溶射により形成する。
次に、溶射ガンの先端(噴射口)を基材1に対して所定の溶射距離(溶射ガンと基材1との距離)に配置し、縦割れを含まない遮熱コーティング層5の材料であるYSZの粉末を溶射ガンから噴射して縦割れを含まない遮熱コーティング層5を形成する。具体的には、溶射距離は、例えば、通常の150mmから210mmに増加させることにより、気孔率を5%程度から8%にまで増加させることができる。また、溶射距離を短くすることにより、気孔率を低下させることも可能である。更に、これらの組み合わせにより、気孔率を1%程度から最大30%程度の気孔率まで適宜調整することができる。
【0029】
次いで、溶射ガンによる1回目の溶射による縦割れを含まない遮熱コーティング層5の溶射が完了したら、溶射ガンの先端を、先に溶射した際の溶射距離から所定距離移動し、縦割れ遮熱コーティング層6の材料の粉末を溶射ガンから噴射して縦割れ遮熱コーティング層6を形成する。具体的には、溶射法により縦割れ遮熱コーティング層6を形成する場合、溶射距離を従来ジルコニア層の成膜に用いられていた溶射距離の1/4〜2/3程度にまで近づけるか、あるいは、溶射距離は従来と同程度とし、溶射ガンに入力する電力を従来用いられていた電力の2倍〜25倍程度にまで高めることによりセラミックス層に縦割れ6aを導入することができる。すなわち、溶射によりボンドコート層3又は基材1に飛来する溶融又は半溶融状態の粒子の温度を高くすることで、基材1上で急冷凝固される際の温度勾配を大きくし、凝固時の収縮により縦割れ6aを導入することができる。この方法によれば、溶射距離及び/又は溶射ガンへの入力電力を調整することで、容易に縦割れ6aの間隔や分散状態を制御することができる。
【0030】
また、縦割れ遮熱コーティング層6は、電子ビーム物理蒸着法によって形成することも可能である。具体的には、例えば、アルデンヌ社製電子ビーム蒸着装置(例えば、TUBA150)を用いて、インゴットをターゲット材料に用い、電子ビーム出力50kW、雰囲気10−4torrの減圧環境、基材温度1,000℃の代表的条件によって、縦割れ遮熱コーティング層6を容易に形成することができる。
【0031】
なお、縦割れを含まない遮熱コーティング層5の厚さ(t)と縦割れ遮熱コーティング層6の厚さ(T)との比は、例えば溶射作業の繰り返し回数や、溶射時間等によって適宜調整する。このようにして、試験片基材10が形成される。
【0032】
(熱処理過程)
次に、熱処理過程では、コーティング層2が形成された試験片基材10の熱処理を行う。この熱処理は、試験片基材10に、実製品における基材とボンドコート層との拡散熱処理と同じ熱履歴を施すために設けられている。
【0033】
(被検査面形成過程)
次に、被検査面形成過程では、被検査面を形成する。具体的には、熱処理された試験片基材10の端部のR部の除去を行う。上述したように試験片基材10は溶射により製作されており、図1に示すように基材の端部には溶射時のダレによってR部が形成される。したがって、熱伝導率を精度良く測定するために、試験片基材10の端部から長さLの部分を研削して除去する。
上記長さLは、R部を確実に除去できる長さであれば、特に限定されるものではないが、長さLを除去した後に試験片基材10のサイズがJIS規格であるφ10mmとなるように調整することが好ましい。具体的には、例えば、基材1のサイズをφ13mmとした場合には、端部からL=1.5mm除去することにより、φ10mmの全体として平坦な試験片とすることができる。
【0034】
(基材除去過程)
次に、基材除去過程では、被検査面が形成された試験片基材10の基材1を溶解して除去する。基材1の除去は、先ず、試験片基材10を予め用意した王水に浸漬させて、約60℃に加熱する。浸漬当初は、基材1の溶解により王水中に気泡が発生するが、王水への溶解量が飽和に近づくと気泡の発生が少なくなる。次に、気泡の発生が少なくなってきたら、新たな王水を用意して再び浸漬させる。これを何度か繰り返し、気泡の発生が完全もなくなったことを確認した後、コーティング層2を王水から取り出して十分に乾燥させる。なお、基材1の溶解に用いることができる酸は、上記王水に限られない。具体的には、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)等の溶液、又はそれらにインヒビター(腐食抑制剤)を加えた溶液を適宜用いることができる。
なお、基材除去過程において、ボンドコート層3が溶解除去されることが好ましい。
【0035】
上記方法により、トップコート層4に力を加えることなく、所望の縦割れを含まない遮熱コーティング層5と縦割れ遮熱コーティング層6との厚さ比が異なる試験片を製造することができる。
【0036】
<コーティング層の熱伝導率の測定方法>
本実施形態のコーティング層の熱伝導率の測定方法は、上記方法により、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を製造し、それぞれの試験片について熱伝導率を測定する過程(測定過程)と、測定された厚さ比が異なる試験片の熱伝導率から、測定された以外の厚さ比の熱伝導率を推定する過程(推定過程)と、を備えている。以下、各過程について説明する。
【0037】
(測定過程)
測定過程では、上記方法により製造した、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比の異なる複数種の試験片について、それぞれ熱伝導率を測定する。
厚さ比が異なる複数種の試験片は、後述する推定過程における外挿で推定する値の精度を向上させるため、少なくとも3種以上用意することが好ましい。
また、厚さ比の異なる複数種の試験片としては、例えば以下の3種が挙げられる。
試験片1: 縦割れを含まない遮熱コーティング層/縦割れ遮熱コーティング層=1mm/0mm
試験片2: 縦割れを含まない遮熱コーティング層/縦割れ遮熱コーティング層=0.5mm/0.5mm
試験片3: 縦割れを含まない遮熱コーティング層/縦割れ遮熱コーティング層=0.1mm/0.9mm
ここで、上記試験片3では、縦割れを含まない遮熱コーティング層の比率を究極的には0mmに近いサンプルとすることが好ましい。
【0038】
熱伝導率の測定は、JISに規格されたレーザフラッシュ法(JIS R 1611−1997)によって測定する。このレーザフラッシュ法を採用することにより、非接触で上記試験片1〜3のコーティング層の熱伝導率を測定することができる。
上記レーザフラッシュ法において、直径10mm、厚さ約1mmの均質な試験片の片面にパルスレーザを均一に照射する際のレーザ照射面は、特に限定されるものではなく、縦割れを含まない遮熱コーティング層側であっても良く、縦割れ遮熱コーティング層側であっても良い。
ここで、縦割れを含まない遮熱コーティング層側をレーザ照射面とする場合は、縦割れ遮熱コーティング層にレーザが均一に通過するというメリットがある。
一方、縦割れ遮熱コーティング層側をレーザ照射面とする場合は、縦割れ皮膜にレーザが均一に通過しないため、サンプルによる測定バラツキが大きくなるというデメリットがある。
なお、レーザ照射方向は、縦割れ遮熱コーティング層側からより、縦割れを含まない遮熱コーティング層側から照射したほうが、実機を模擬している。
【0039】
(推定過程)
次に、推定過程では、厚さ比が異なる複数種の試験片について実際に測定した熱伝導率のそれぞれの測定値から、実際に測定された以外の厚さ比の試験片の熱伝導率を、外挿により推定する。具体的には、図2に示すように、トップコート層中の縦割れ遮熱コーティング層の比率(%)を横軸とし、熱伝導率の測定値を縦軸として、厚さ比の異なる上記試験片1〜3の測定値をプロットする。次いで、測定値を外挿することにより、トップコート層中の縦割れ遮熱コーティング層の比率が100%の場合の熱伝導率を推定することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の試験片の製造方法によれば、基材1上にボンドコート層3とトップコート層4とからなるコーティング層2を形成し、熱処理及び被検査面を形成した後に基材1を溶解除去している。ここで、トップコート層4が縦割れを含まない遮熱コーティング層5を有する2層以上の積層構造であるため、縦割れ遮熱コーティング層6による試験片への加工中に割れや欠けが発生するリスクを最小限に抑えることができる。したがって、縦割れ遮熱コーティング層6を有するトップコート層4の割れや欠けのない試験片を製造することができる。また、被検査面を形成する際に、熱処理された試験片基材10の端部のR部を除去することにより、全体として平坦な試験片となるため、物性値の測定精度を向上することができる。
【0041】
また、本実施形態のコーティング層の熱伝導率の測定方法によれば、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を用いて、熱伝導率を測定し、測定値を外挿することにより、測定した以外の厚さ比の熱伝導率を推定する構成となっている。このため、加工中に試験片が割れ、熱伝導率の値を測定できなかったトップコート層が縦割れ遮熱コーティング層単体の場合の熱伝導率を予測することができる。
【0042】
次に、本発明を適用した第2の実施形態について説明する。
本発明の第2の実施形態は、縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の試験片を製造し、この試験片を用いて縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層のヤング率を測定する方法である。
【0043】
<試験片の製造方法>
本実施形態の縦割れ遮熱コーティング層を有するコーティング層の試験片の製造方法は、基板サイズ以外は、第1の実施形態と同様の方法を用いることができるため、説明を省略する。
【0044】
基材のサイズは、ヤング率測定用のサンプルサイズとしてJIS R 1602−1995及びJIS R 1605−1995で長さ40mm以上、幅5mm以上、厚さ1mm以上の直方体で、かつ試験片の長さ/厚さ比が20以上でることが規定されているが、長さ100mm、幅10mm以上であることが好ましく、後述する被検査面形成過程において、試験片基板の端部のR部を除去する部分を考慮して長さ106mm以上、幅16mm以上であることが好ましい。
本実施形態では、基材として、例えば、長さ106mm、幅16mm、厚さ4mmのSUS304からなる平板基材を用いることができる。
【0045】
<コーティング層のヤング率の測定方法>
本実施形態のコーティング層のヤング率の測定方法は、第1実施形態と同様の方法により、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を製造し、それぞれの試験片についてヤング率を測定する過程(測定過程)と、測定された厚さ比の試験片のヤング率から、測定された以外の厚さ比のヤング率を推定する過程(推定過程)と、を備えている。以下、各過程について説明する。
【0046】
(測定過程)
測定過程では、第1実施形態で説明した方法により製造した、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片について、それぞれヤング率を測定する。
厚さ比が異なる複数種の試験片の水準は、第1の実施形態と同様である。
【0047】
ヤング率の測定は、JIS R 1602−1995及びJIS R 1605−1995で規定されている共振法によって測定する。この共振法を用いることにより、非接触で試験片のヤング率を測定することができる(参考文献:日本機械学会、金属の弾性係数)。
図3は、本実施形態で用いるヤング率測定装置(装置名:MS−Fyme)の模式図である。本実施形態のヤング率の測定方法は、横共振法により測定した一次共振振動数を用いて算出する。
【0048】
具体的には、先ず、試験片の一方の面に導電材料を塗布し、図3に示すように装置の支持台により試験片長さの両端から試験片長さ×0.224の位置をワイヤで保持して加熱装置内にセットした後、加熱装置内を窒素ガスで置換する。なお、導電材料を塗布する面は、縦割れを含まない遮熱コーティング層側であっても良いし、縦割れ遮熱コーティング層側であっても良い。
次に、図3に示すように、電極A及び電極Bに発振器の振動数を1Hzから徐々に増加させながら検出器の出力を観察し、最大振幅を生じた際の最も低い振動数を一次共振振動数として記録する。
次いで、上記一次共振振動数の値を用いて、下記(1)式により各温度におけるヤング率E(GPa)を算出する。
【0049】
【数1】

但し、上記(1)式において、Mは試験片の質量(kg)、fは一次共振振動数(Hz)、Lは試験片の全長(mm)、tは試験片の厚さ(mm)をそれぞれ示している。
【0050】
(推定過程)
次に、推定過程では、第1の実施形態の場合と同様に、厚さ比の異なる複数種の試験片について実際に測定したヤング率のそれぞれの測定値から、実際に測定された以外の厚さ比の試験片のヤング率を、外挿により推定する。具体的には、図2に示すように、トップコート層中の縦割れ遮熱コーティング層の比率(%)を横軸とし、ヤング率の測定値を縦軸として、厚さ比が異なる上記試験片1〜3の測定値をプロットする。次いで、測定値を外挿することにより、トップコート層中の縦割れ遮熱コーティング層の比率が100%の場合のヤング率を推定することができる。
【0051】
また、本実施形態のコーティング層のヤング率の測定方法によれば、上述した第1の実施形態における熱伝導率の測定方法の場合と同様に、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を用いてヤング率を測定し、測定値を外挿することにより測定した以外の厚さ比のヤング率を推定する。このため、加工中に試験片が割れ、ヤング率の値を測定できなかったトップコート層が縦割れ遮熱コーティング層単体の場合のヤング率を予測することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…基材
2…コーティング層
3…ボンドコート層
4…トップコート層
5…縦割れを含まない遮熱コーティング層
5a…微細気孔
6…縦割れ遮熱コーティング層
6a…縦割れ
10…試験片基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にボンドコート層とトップコート層とからなるコーティング層を形成して試験片基材を作成する過程と、
ボンドコート層または、トップコート層形成を形成した後に試験片基材を熱処理する過程と、
被検査面を形成する過程と、
被検査面が形成された試験片基材の基材を溶解除去する過程と、を備え、
前記トップコート層が、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との2層以上の積層構造であることを特徴とする試験片の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の過程で熱処理された試験片基材について、端部のR部を除去する過程であることを特徴とする試験片の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により、縦割れを含まない遮熱コーティング層と縦割れ遮熱コーティング層との厚さ比が異なる複数種の試験片を製造し、それぞれの試験片について熱伝導率及びヤング率の少なくとも一方の物性値を測定する過程と、
測定された前記厚さ比の前記物性値から、測定された以外の厚さ比の当該物性値を推定する過程と、を備えることを特徴とするコーティング層の物性値測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−237046(P2010−237046A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85575(P2009−85575)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】