説明

誘導加熱ロール

【課題】低コストで容易にロール本体表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制可能な誘導加熱ロールを提供する。
【解決手段】本発明の誘導加熱ロールは、少なくとも外殻部が金属層で構成されるロール本体と、ロール本体の外側に配置され、磁心21と前記磁心21を巻回するコイル線22からなる高周波コイル20を用いて前記ロール本体を誘導加熱する誘導加熱装置とを備える。金属層は、磁束をつらぬく位置に配置されている。ロール本体の内部には密閉された空間が形成され、この密閉された空間内に熱媒体が封入されており、ロール本体表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電磁誘導加熱ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
カレンダー機、エンボス機、ラミネータ機などに使用される加熱ロールは、商用波数(50Hz,60Hz)を使用した低周波誘導加熱方式、電気抵抗加熱式、熱媒循環式、蒸気加熱式が一般的によく知られている。このうち、使用方法が簡単で温度特性が良いことから低周波誘導加熱方式が好まれるが(例えば特許文献1)、装置価格が高いという問題があり、メーカーの数も限られ、それほど広くは使用されていないのが実情である。
【0003】
また、従来の低周波誘導加熱方式は、ロール本体の内部に誘導コイルを設置するため、ロール外径を小さくすることが困難であり、誘導コイルの冷却も困難であった。この問題を改善するために、高周波コイルをロール本体の外側に配置し、外部からロール本体に対して高周波磁束を当て、ロール本体を加熱する提案がなされている(特許文献2)。
【0004】
また、ロール本体の長手方向における長さが長い場合には、ロール本体表面の中央部と両端部とで温度差が生じやすい。ロール本体表面に温度ムラが生じると、ロール本体の外周面に接触する被加工製品(紙、フィルムなど)を充分に加熱することができず、被加工製品に品質のばらつきが生じる原因となる。この問題を改善するため、図13に示すように、複数のヒートパイプ101をロール本体100の外側表面近くに埋め込むことにより、ロール本体表面の長手方向における温度分布の均等化を図るという提案がなされている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−36964号公報
【特許文献2】特公平1−18853号公報
【特許文献3】特開2004−292860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の提案では、高周波コイルがロール本体からの輻射熱によって過熱され易いという問題と、ロール本体の長手方向における表面温度を一定に保つことができないという問題があった。
【0007】
また、特許文献3に記載の提案では、図13のようにヒートパイプ101をロール本体100に埋め込むために、例えば、BTA(Boring and Trepanning Association)加工という加工技術を用いてロール本体100に深穴を設ける必要がある。この加工には特殊な工具が必要とされ、コストがかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、高周波コイルがロール本体からの輻射熱により過熱するのを防止することができ、かつ低コストで容易にロール本体表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制可能な誘導加熱ロールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の誘導加熱ロールは、少なくとも外殻部が金属層で構成されるロール本体と、前記ロール本体の外側に配置され、磁心と前記磁心を巻回するコイル線からなる高周波コイルを用いて前記ロール本体を誘導加熱する誘導加熱装置とを含み、前記金属層は、磁束をつらぬく位置に配置されている誘導加熱ロールであって、前記誘導加熱装置は、前記高周波コイルを冷却するための冷却装置を有し、前記ロール本体の内部には密閉された空間が形成され、前記密閉された空間内に熱媒体が封入されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘導加熱ロールによれば、少なくとも外殻部が金属層で構成されるロール本体と、前記ロール本体の外側に配置され、磁心と前記磁心を巻回するコイル線からなる高周波コイルを用いて前記ロール本体を誘導加熱する誘導加熱装置とを含み、前記金属層は、磁束をつらぬく位置に配置されており、前記ロール本体の内部には密閉された空間が形成され、前記密閉された空間内に熱媒体が封入されていることにより、低コストで容易にロール本体表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制可能な誘導加熱ロールを実現できる。また、前記誘導加熱装置は、前記高周波コイルを冷却するための冷却装置を有しているため、ロール本体からの輻射熱による高周波コイルの過熱を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の誘導加熱ロールの一例を示す図である。図1Aは正面図、図1Bは左側面図である。
【図2】本発明の誘導加熱ロールにおける誘導加熱装置の一例を示す図である。図2Aは平面図、図2Bは正面図、図2Cは右側面図である。
【図3】図2BにおけるI−I断面図である。
【図4】図2AにおけるII−II拡大断面図である。
【図5】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向に沿って切断したときの断面図である。
【図6】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向に沿って切断したときの他の断面図である。
【図7】本発明の誘導加熱ロールの他の例を示す図である。図7Aは正面図、図7Bは左側面図である。
【図8】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向と直交する方向に切断したときの断面図である。
【図9】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向と直交する方向に切断したときの他の断面図である。
【図10】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向と直交する方向に切断したときの他の断面図である。
【図11】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向と直交する方向に切断したときの他の断面図である。
【図12】本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体の内部に設けられた内筒体の外観の一例を示す一部拡大正面図である。
【図13】従来のロール本体の一部切欠正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の誘導加熱ロールは、少なくとも外殻部が金属層で構成されるロール本体と、上記ロール本体の外側に配置され、磁心と上記磁心を巻回するコイル線からなる高周波コイルを用いて上記ロール本体を誘導加熱する誘導加熱装置とを含み、上記金属層は、磁束をつらぬく位置に配置されている誘導加熱ロールであって、上記誘導加熱装置は、上記高周波コイルを冷却する冷却装置を有し、上記ロール本体の内部には密閉された空間が形成され、上記密閉された空間内に熱媒体が封入されていることを特徴とする。
【0013】
上記ロール本体の内部に密閉された空間を設け、この空間内に熱媒体が封入されることにより、低コストで容易にロール本体表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制可能な誘導加熱ロールを実現できる。また、上記誘導加熱装置が上記高周波コイルを冷却する冷却装置を有することにより、ロール本体からの輻射熱による高周波コイルの過熱を防止できる。
【0014】
上記ロール本体は、上記外殻部を形成する外筒体と、上記外筒体内に同軸的に配置され、上記外筒体との間で上記密閉された空間を形成する内筒体とを備えたジャケット構造となっていることが好ましい。これにより、熱媒体による熱伝達の効率を高め、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果を高めることができる。
【0015】
上記ロール本体の一端には、上記内筒体の内部空間に連通する開口部が形成され、上記ロール本体は、上記開口部から上記内筒体の内部に冷却流体を流す手段を含むことが好ましい。これにより、ロール本体自体の温度制御が可能で、ロール本体が過熱するのを防止できる。
【0016】
上記誘導加熱装置の上記冷却装置としては、上記高周波コイルの周囲に冷却風を流す装置を用いることができ、例えば、冷却エアーパイプ等で実現される。
【0017】
上記ロール本体の長手方向に、長さの異なる複数の誘導加熱装置を組み合わせて配置することが好ましい。これにより、ロール本体の長手方向における温度ムラの発生を抑制できる。
【0018】
上記内筒体の外周面には、凹凸が形成されていることが好ましい。これにより、熱媒体による熱伝達効率をより高めることができる。上記凹凸が、スパイラル状で、かつ、上記内筒体の長手方向の中央部を境にスパイラル方向が逆となるように形成されている場合には、熱がロール本体の中央部から両端側へと伝達されやすくなるため、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果をさらに高めることができる。
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の誘導加熱ロールの一例について説明する。図1A〜Bは、本発明の誘導加熱ロールの一例を示す図であり、図1Aは正面図、図1Bは左側面図である。なお、説明の都合上、図1ではロール本体と誘導加熱装置のみを示している。
【0021】
本実施の形態1の誘導加熱ロール1は、図1に示すように、ロール本体3と、ロール本体3の外側に配置された誘導加熱装置2とを備えている。この誘導加熱ロール1は、ロール本体3を外部から加熱する方式であるため、ロール本体3の内部に高周波コイルを収納するスペースが不要となり、ロール本体3の直径を30mmまで小さくすることができる。一方、ロール本体3の直径を1500mm以上とした場合にも、ロール本体3の内部に大径のコイルを備える必要がないため、従来の低周波加熱方式よりもコストダウンすることができる。
【0022】
ロール本体3は、少なくとも外殻部が金属層で構成され、金属層は、磁束をつらぬく位置に配置されている。金属層としては、強磁性体、ステンレス鋼(SUS)などを用いることができる。
【0023】
誘導加熱装置2は、磁心と磁心を巻回するコイル線からなる高周波コイルを用いてロール本体3を誘導加熱する。誘導加熱装置2は、誘導加熱装置2の長手方向とロール本体3の長手方向とが実質的に平行になるように配置されており、ここでは、誘導加熱装置2の長さは、ロール本体3の長手方向における長さよりも長くした。これにより、ロール本体3を一端から他端まで略均一に加熱できるため、ロール本体3表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制できる。さらに、誘導加熱装置2は、高周波コイルを冷却するための冷却装置を有する。これにより、高周波コイルが過熱するのを防止できる。
【0024】
次に、図1に示す誘導加熱装置2の構成例について図2〜図4を用いて説明する。図2A〜Cは、本発明の誘導加熱ロールにおける誘導加熱装置の一例を示す図である。図2Aは平面図、図2Bは正面図、図2Cは右側面図である。図3は、図2BにおけるI−I断面図、図4は、図2AにおけるII−II拡大断面図である。
【0025】
図1の誘導加熱装置2は、図2〜図4に示すように、その内部に、高周波コイル20と、冷却装置としての冷却エアー用パイプ30とを備え、例えば、外部に設置された高周波電源(図示せず)から給電リード線40を介して高周波コイル20に高周波が給電されると、図1のロール本体3の外殻部の金属層を誘導加熱する。
【0026】
高周波コイル20は、図4に示すように、E型断面を有するフェライト鉄心よりなる磁心21と、磁心21を巻回するコイル線22とを有する。高周波コイル20の下面、つまり、誘導加熱装置の底板16に対向する面には、ガラスマット26が設けられている。高周波コイル20の下面を含む表面には、電気絶縁樹脂層24がモールドされている。また、磁心21の凹部内も、電気絶縁樹脂23がモールドされている。電機絶縁樹脂層24には、温度を測定するための熱センサを挿入可能なセンサ用穴25が設けられている。
【0027】
図1の誘導加熱装置2の形状は、図2及び図3に示すように、略直方体であり、ここでは、縦101mm、横685mm、高さ55.5mmとした。各板の材質および大きさは、正面板13および背面板15はアルミニウム材で、縦55mm、横680mm、厚さ5.0mmとした。左右側板12,14は日光化成株式会社製の“ロスナボード”を用い、縦55.5mm、横101mm、厚さ2.5mmとした。天板10はアルミニウム材で、縦101mm、横15mm、厚さ2.5mmとした。底板16は日光化成株式会社製の“ロスナボード”を用い、縦96mm、横680mm、厚さ1.0mmとした。なお、誘導加熱装置2の形状、誘導加熱装置2を構成する各板の材質および大きさはこれらに限定されない。
【0028】
高周波コイル20の形状は、図2Cに示すように、その下部の両端が長手方向にテーパ加工された略直方体であり、ここでは、縦71mm、横630mm、高さ48mmとした。この高周波コイル20は、誘導加熱装置の正面板13、背面板15、左右側板12,14、底板16とは接しないように、5枚の天板10にネジ部材11を用いて固定される。このときの正面板13および背面板15との離間距離は20mm、左右側板12,14との離間距離は25mm、底板16との離間距離は3mmとした。なお、高周波コイル20の形状および大きさはこれらに限定されない。
【0029】
冷却エアー用パイプ30は、図2および図3に示すように、誘導加熱装置の天板10よりも下方で、かつ、高周波コイル20の長手方向に沿うように誘導加熱装置内を挿通し、その一端がネジ部材31により左側板12に固定される。この冷却エアー用パイプ30は、たとえば、外径10〜12mm、内径8〜10mmの円筒形状で、その長手方向の下部に冷却エアーを放出するための穴30a(図4参照)を複数有する。この複数の穴30aから放出された冷却エアーは、矢印方向32に流れることにより高周波コイル20を冷却し、高周波コイル20がロール本体からの輻射熱によって過熱するのを防止する。なお、ここでは、冷却エアー用パイプ30の径の大きさは外径12mm、内径10mmとしたが、これに限定されない。ただし、効率的に冷却エアーを高周波コイル20の周囲に流すためには、冷却エアー用パイプ30は、図4に示したように、高周波コイル20と正面板13の両方に接する大きさであることが好ましい。
【0030】
次に、図1のロール本体3の内部構造について図5を用いて説明する。図5は、本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向に沿って切断したときの断面図である。
【0031】
本実施形態1のロール本体3は、図5に示すように、その内部に密閉された空間51が形成されている。ここでは、密閉された空間51は円柱状とした。つまり、ロール本体3の胴部は、両端が閉塞された円筒体(以下、これを外殻部50と呼ぶ)となる。密閉された空間51の内部容積は、PV≦0.04となるように設定した。ここで、PVとは、「圧力(atm)×容積(m3)」をいう。
【0032】
上記密閉された空間51内には熱媒体が封入される。熱媒体としては、水、水蒸気、オイル類など用いることができる。この熱媒体は密閉された空間51内で循環するため、ロール本体3の内部から外側表面全体に熱が略均等に伝達され、ロール本体3の外殻部50が所定温度に略均一に保持されることになる。これにより、従来のようなヒートパイプを用いることなく、低コストで容易にロール本体3表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制できる。
【0033】
次に、図1の誘導加熱装置2とロール本体3との離間距離について説明する。
【0034】
誘導加熱装置2とロール本体3との離間距離を最適なものとするため、図2〜図4に示す構成の誘導加熱装置と鉄板(縦100mm、横745mm、厚み15mm)とを用いて加熱試験を行った。具体的には、まず誘導加熱装置2内の高周波コイル20に対して5kwの高周波電源から給電リード線40を介して高周波を給電する。すると、高周波電圧の印加により高周波コイル20から高周波磁界が発生し、鉄板を誘導加熱する。このときの入力電流値、容量、および出力表示を、誘導加熱装置2と鉄板との離間距離を9mm〜15.0mmの範囲内で変化させながら測定した。表1に測定結果を示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、離間距離が11mmを超えると、入力電流、容量、出力表示の各値に低下が見られた。この結果から、離間距離は、11mm以内とするのが良いことが分かる。一方、離間距離を9mm以下にすると、磁気カップリングがとれないだけでなく、ロール本体からの輻射熱により誘導加熱装置内の高周波コイルが過熱され劣化することから、好ましくない。よって、図1の誘導加熱装置2とロール本体3の離間距離は、9〜11mmであることが好ましい。
【0037】
このような本実施の形態1の誘導加熱ロールによれば、ロール本体3の外部に誘導加熱装置2を配置し、ロール本体3を外部から誘導加熱するとともに、ロール本体3の内部に密閉された空間51を形成し、その密閉された空間51内に熱媒体を封入したことにより、低コストで容易にロール本体3の長手方向における温度ムラの発生を抑制できる。また、上記誘導加熱装置2に冷却エアー用パイプ30を設けたことにより、ロール本体3からの輻射熱による高周波コイル20の過熱を防止することができる。
【0038】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の誘導加熱ロールの他の例について説明する。本実施の形態2の誘導加熱ロールは、ロール本体をジャケット構造としたこと以外は、上記実施の形態1の誘導加熱ロールと同様である。以下、上記実施の形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0039】
図6は、本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向に沿って切断したときの他の断面図である。図6において、図5と同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0040】
本実施の形態2のロール本体3aは、図6に示すように、外殻部を形成する外筒体50と、外筒体50内に同軸的に配置され、外筒体50との間で密閉された空間52を形成する内筒体55とを備えたジャケット構造となっている。外筒体50の内周面と内筒体55の外周面との間に形成された密閉された空間52がジャケット部である。密閉された空間52の内部容積は、PV≦0.04となるように設定した。この密閉された空間52には熱媒体が充填される。本実施の形態2では、ロール本体3aがジャケット構造であるため、熱媒体の使用量を削減できるとともに、熱媒体による熱伝達の効率を高め、ロール本体3a表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果を高めることができる。
【0041】
ロール本体3aの一端には、内筒体55の内部空間56に連通する開口部54が形成され、ロール本体3aに、開口部54から内筒体55の内部空間56に冷却流体を流す手段(図示せず)を設けた。これにより、ロール本体3aの温度制御が可能で、ロール本体3aが過熱するのを防止、あるいはロール本体3aを強制的に冷却することができる。
【0042】
一方、ロール本体3aの他端側では、内筒体55の一端に形成された凸状の支持部53が、外筒体50の上記支持部53に対向する位置に形成された凹部に隙間をもって挿入されることにより、内筒体55と外筒体50とが連結されている。これにより、加熱冷却時のロール本体3aの外筒体50や内筒体55の長手方向における伸縮を吸収し、ロール本体3aの外筒体50と内筒体55との連結部分においてクラックが発生するのを防止する。
【0043】
このような本実施の形態2の誘導加熱ロールによれば、ロール本体3aを、外筒体50と、外筒体50内に同軸的に配置され、外筒体50との間で密閉された空間52を形成する内筒体55とを備えたジャケット構造とし、上記密閉された空間52に熱媒体を充填したことにより、低コストで容易にロール本体3a表面の長手方向における温度ムラの発生を抑制できる。また、ロール本体3aの一端に内筒体55の内部空間56に連通する開口部54を形成し、ロール本体3aに、開口部54から内筒体55の内部空間56に冷却流体を流すための冷却手段を設けたことにより、ロール本体3aの温度制御が可能で、ロール本体3aが過熱するのを防止することができる。また、内筒体55の一端に形成された支持部53を介して、内筒体55と外筒体50とを連結したことにより、加熱冷却時の長手方向における外筒体50や内筒体55の熱伸縮を吸収し、クラックの発生を防止することができる。
【0044】
(実施の形態3)
実施の形態3では、本発明の誘導加熱ロールの他の例について説明する。本実施の形態3の誘導加熱ロールは、誘導加熱装置を複数設けたこと以外は、上記実施の形態1の誘導加熱ロールと同様である。以下、上記実施の形態1と異なる点についてのみ説明する。
【0045】
図7A〜Bは、本発明の誘導加熱ロールの他の例を示す図であり、図7Aは正面図、図7Bは左側面図である。図7A〜Bでは、説明の都合上、ロール本体と誘導加熱装置のみを示している。図において、図1A〜Bと同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
本実施の形態3の誘導加熱ロール1aは、図7A及び図7Bに示すように、長さの異なる複数の誘導加熱装置2、4を組み合わせて、これらをロール本体3の長手方向に配置したものである。
【0047】
誘導加熱装置2および誘導加熱装置4は共に図2〜4に示す構造を有するが、誘導加熱装置4の長手方向における長さは、誘導加熱装置2よりも短い。誘導加熱装置4は補助コイルとして使用され、例えば、図7Aに示すように、ロール本体3の両端で、かつロール本体3の長手方向に沿うように、誘導加熱装置2に接近させて設置した。これにより、ロール本体3表面の両端における温度の低下を防ぎ、ロール本体3表面の長手方向の温度分布を略均一化できる。ここでは、ロール本体3の長さとほぼ同じ長さを有する誘導加熱装置2と、誘導加熱装置2よりも長さの短い2つの誘導加熱装置4を用いた場合について示したが、各誘導加熱装置の長さ、配置位置は、これに限定されるものではなく、ロール本体3表面の長手方向の温度分布を略均一化できれば良い。
【0048】
このような本実施の形態3の誘導加熱ロールによれば、長さの異なる複数の誘導加熱装置2、4を組み合わせ、長さが短い方の誘導加熱装置4を補助コイルとしてロール本体3の両端に設けたことにより、ロール本体3の長手方向における温度ムラの発生を抑制することができる。
【0049】
(実施の形態4)
実施の形態4では、本発明の誘導加熱ロールの他の例について説明する。本実施の形態4の誘導加熱ロールは、内筒体の外周面に凹凸が形成されていること以外は、上記実施の形態2の誘導加熱ロールと同様である。以下、上記実施の形態2と異なる点についてのみ説明する。
【0050】
本実施の形態4のロール本体は、図6に示すようなジャケット構造をしており、さらに内筒体55の外周面には凹凸が形成されている。
【0051】
以下に、内筒体55の外周面に形成される凹凸の形状を図9〜図12を用いて説明する。なお、凹凸の形状は下記に限定されない。図9〜図11は、本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体を長手方向と直交する方向(幅方向)に切断したときの拡大断面図である。図12は、本発明の誘導加熱ロールにおけるロール本体の内部に設けられた内筒体の外観の一例を示す一部拡大正面図である。
【0052】
図9〜図11の場合、内筒体55の外周面には、周方向に凹凸が形成されている。凹凸の形状は、図9では、断面が略長方形の凹部と凸部55aとの繰り返し連続形状、図10では、断面が略三角形の凹部と凸部55aとの繰り返し連続形状、図11では、断面が略三角形の凹部と、断面が略台形の凸部55aとの繰り返し連続形状である。このように内筒体55の外周面に凹凸が形成されると、外筒体50の内周面と内筒体55の外周面との間の密閉された空間52の内部容積が減少するため、密閉された空間52に封入される熱媒体の熱伝達効率が向上し、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果を高めることができる。
【0053】
一方、図12の場合、内筒体55の外周面に、スパイラル状の凹凸が形成されている。この場合も、外筒体50の内周面と内筒体55の外周面との間の密閉された空間52の内部容積が減少するため、密閉された空間52に封入される熱媒体の熱伝達効率が向上し、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果を高めることができる。さらに、図12では、上記スパイラル状の凹凸は、内筒体55の中央部を境にスパイラル方向が逆になるように形成されている。そのため、熱がロール本体の中央部側からロール本体の両端側へ伝達されやすくなり、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果をさらに高めることができる。
【0054】
このような本実施の形態4の誘導加熱ロールによれば、内筒体55の外周面に凹凸を形成したことにより、密閉された空間52に封入される熱媒体の熱伝達効率を高め、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果を高めることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明のロール本体について実施例を挙げて具体的に説明する。ここでは、ロール本体は、図6に示すように、外筒体50と内筒体55とを備えたジャケット構造とした。ロール本体の外筒体50の外径は300mm、外筒体50の長手方向の長さは1200mm(ロール胴体部の長さは1130mm、両端部に設けられた軸部の長さは35mm)、外筒体50の肉厚は30mmとした。密閉された空間52(以下、ジャケット部と呼ぶ)の内部容積は、PV≦0.04となるように設定した。ジャケット部52に充填される熱媒体として水蒸気を想定した。
【0056】
(実施例1)
本実施例1では、ロール本体の内筒体55の外周面に、図9に示すように、周方向に凹凸を設けた。凹凸の形状は、断面が略長方形の凹部と凸部55aとの繰り返し連続形状とした。凹部の数と凸部55aの数は同数とし、凹部の幅W1と凸部55aの幅W2とは等しくした。内筒体55の外周面と外筒体50の内周面との最大距離L2は15mmとし、最小距離L3は5mmとした。
【0057】
ジャケット部52の内部容積Vを求めたところ、0.0081m3であった。ジャケット部52の内部容積はPV≦0.04となるように設定されているので、Pの値は0.48MPaである。Pの値と蒸気表とから飽和蒸気温度を求めると、150℃であった。
【0058】
(実施例2)
本実施例2では、ロール本体の内筒体55の外周面に、図10に示すように、周方向に凹凸を設けた。凹凸の形状は、断面が略三角形の凹部と凸部55aとの繰り返し連続形状とした。凹部の数と凸部55aの数は同数とした。内筒体55の外周面と外筒体50の内周面との最大距離L4は15mmとし、最小距離L5は5mmとした。
【0059】
ジャケット部52の内部容積Vを求めたところ、0.0081m3であった。ジャケット部52の内部容積はPV≦0.04となるように設定されているため、Pの値は0.48MPaである。Pの値と蒸気表とから飽和蒸気温度を求めると、150℃であった。
【0060】
(実施例3)
本実施例3では、ロール本体の内筒体55の外周面に、図11に示すように、周方向に凹凸を設けた。凹凸の形状は、断面が略三角形の凹部と、断面が略台形の凸部55aとの繰り返し連続形状とした。凹部の数と凸部55aの数は同数とした。内筒体55の外周面と外筒体50の内周面との最大距離L6は15mmとし、最小距離L7は5mmとした。凹部の形状は、高さが10mm、底辺W3が10mmの三角形を底面とする三角柱とし、三角柱の高さは1130mm、三角柱の数は16本とした。
【0061】
ジャケット部52の内部容積Vを求めたところ、0.005m3であった。ジャケット部52の内部容積はPV≦0.04となるように設定されているため、Pの値は0.79MPaである。Pの値と蒸気表とから飽和蒸気温度を求めると、170℃であった。
【0062】
(実施例4)
本実施例4では、ロール本体の内筒体55の外周面に、図12に示すように、スパイラル状の凹凸を設けた。このスパイラル状の凹凸は、内筒体55の中央部を境に、スパイラル方向が逆になるように形成した。内筒体55の外周面と外筒体(図示せず)の内周面との最大距離は15mmとし、最小距離は5mmとした。凹部の形状は、高さL8が10mm、底辺L9が10mmの三角形を底面とする三角柱とし、三角柱の高さは0.22πmm、三角柱の数は60本とした。
【0063】
ジャケット部52の内部容積Vを求めたところ、0.006m3であった。ジャケット部52の内部容積はPV≦0.04となるように設定されているため、Pの値は0.65MPaである。Pの値と蒸気表とから飽和蒸気温度を求めると、162℃であった。
【0064】
(比較例1)
本比較例1のロール本体は、図6に示すジャケット構造とした。このロール本体を長手方向と直交する方向に切断したときの拡大断面図を図8に示す。本比較例1のロール本体は、内筒体55の外周面には凹凸が形成されていない。内筒体55の外周面と外筒体50の内周面との距離L1は15mmとした。
【0065】
ジャケット部の内部容積Vを求めたところ、0.012m3であった。ジャケット部52の内部容積はPV≦0.04となるように設定されているため、Pの値は0.33MPaである。Pの値と蒸気表とから飽和蒸気温度を求めると、137℃であった。
【0066】
【表2】

【0067】
以上の評価結果を表2にまとめて示す。表2に示すように、ジャケット部52の内部容積Vは、実施例1及び2の場合、比較例に対して約32.5%減少、実施例3の場合、比較例1に対して約58%減少、実施例4の場合、比較例1に対して約50%減少している。そして、表2に示す結果から明らかなように、ジャケット部52の内部容積が減少すると、それに伴って圧力Pの値が高くなるとともに、水蒸気の飽和蒸気温度も高くなることが分かる。このことから、ジャケット部52の内部容積が小さいほど、熱媒体の熱伝達効率を上げることができ、ロール本体表面の長手方向における温度ムラ発生の抑制効果を向上できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の誘導加熱ロールは、ロール本体からの輻射熱による高周波コイルの過熱を防止でき、かつ低コストで容易にロール本体表面の長手方向における温度ムラの発生が抑制可能な高周波誘導加熱方式の加熱ロールとして、カレンダー機、エンボス機、ラミネータ機などに利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1,1a 誘導加熱ロール
2,4 誘導加熱装置
3,3a ロール本体
10 天板
11 ネジ部材
12 左側板
13 正面板
14 右側板
15 背面板
16 底板
20 高周波コイル
21 磁心(フェライト鉄心)
22 コイル線
23 電気絶縁樹脂
24 電気絶縁樹脂層
25 センサ用穴
26 ガラスマット
30 冷却エアー用パイプ
30a 穴
31 ネジ部材
32 冷却エアーの流動方向
40 給電リード線
50 ロール本体の外殻部(外筒体)
51,52 密閉された空間(ジャケット部)
53 支持部
54 開口部
55 内筒体
55a 凸部
56 内筒体の内部空間
100 ロール本体
101 ヒートパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも外殻部が金属層で構成されるロール本体と、
前記ロール本体の外側に配置され、磁心と前記磁心を巻回するコイル線からなる高周波コイルを用いて前記ロール本体を誘導加熱する誘導加熱装置とを含み、
前記金属層は、磁束をつらぬく位置に配置されている誘導加熱ロールであって、
前記誘導加熱装置は、前記高周波コイルを冷却する冷却装置を有し、
前記ロール本体の内部には密閉された空間が形成され、前記密閉された空間内に熱媒体が封入されていることを特徴とする誘導加熱ロール。
【請求項2】
前記ロール本体は、前記外殻部を形成する外筒体と、前記外筒体内に同軸的に配置され、前記外筒体との間で前記密閉された空間を形成する内筒体とを備えたジャケット構造となっている請求項1に記載の誘導加熱ロール。
【請求項3】
前記ロール本体の一端には、前記内筒体の内部空間に連通する開口部が形成され、
前記ロール本体は、前記開口部から前記内筒体の内部に冷却流体を流す手段を含む請求項2に記載の誘導加熱ロール。
【請求項4】
前記誘導加熱装置の前記冷却装置は、前記高周波コイルの周囲に冷却風を流す装置である請求項1に記載の誘導加熱ロール。
【請求項5】
前記ロール本体の長手方向に、長さの異なる複数の誘導加熱装置を組み合わせて配置した請求項1ないし4のいずれか1項に記載の誘導加熱ロール。
【請求項6】
前記内筒体の外周面には、凹凸が形成されている請求項2に記載の誘導加熱ロール。
【請求項7】
前記凹凸の形状は、スパイラル状である請求項6に記載の誘導加熱ロール。
【請求項8】
前記スパイラル状の凹凸は、前記内筒体の長手方向の中央部を境にスパイラル方向が逆である請求項7に記載の誘導加熱ロール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−198775(P2011−198775A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147077(P2011−147077)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【分割の表示】特願2009−66582(P2009−66582)の分割
【原出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(390004754)ハイデック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】