説明

誘導加熱装置

【課題】誘導加熱装置において、加熱コイルの銅損と磁束損失を低減する、最適特性を導入した構成と構造の提案。加熱コイルの高周波抵抗を下げて銅損を低減し、加熱コイルの磁束損失を低減し、加熱効率を向上させること。
【解決手段】本発明は、近接効果の影響を回避した素線数ベスト値を選択した構成と、加熱コイルのコアとコイルの隙間を自己磁界効果の影響を回避したベスト距離範囲の構造とすることによって達成できる。
【効果】本発明の誘導加熱装置は、加熱コイルの銅損低減と磁束損失低減を生み、加熱効率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に関し、特に加熱コイルの構成と構造により損失低減をさせる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、誘導加熱装置は、調理鍋などの被加熱物を載せるトッププレートの下方に加熱コイルを配置して構成され、加熱コイルに高周波電流を流して高周波磁界を発生させることで、被加熱物に渦電流を生じさせ、誘導加熱によって効率的に加熱を行うものである。
【0003】
この誘導加熱装置において、アルミニウムや銅などの低磁性材の被加熱物を加熱する場合、高磁性材の被加熱物に対し、被加熱物の抵抗が小さい分、加熱コイルに流れる電流を増加させ、起磁力を大きくすることで、被加熱物を所定の温度に加熱させている。
【0004】
しかし、この加熱コイル電流が大きいことで、加熱コイル自身の高周波抵抗と加熱コイル電流の2乗で定まる加熱コイルでの電力損失が増大してしまう。したがって、熱効率の性能向上を抑えられてしまう原因になっている。この熱効率の性能向上は、全損失の中でも大きく占める加熱コイルの電力損失、すなわち銅損の低減が効果的であり、必須となる。したがって、加熱コイル巻線の高周波抵抗の低減は、加熱コイルの電流低減以外に重要な項目となる。この巻線の高周波抵抗となる交流抵抗は、駆動周波数を60kHz,100kHzとすると表皮効果の影響で直流抵抗値が増大してしまうので、これを抑制するために線径を細線化して対応させていることは知られている。(非特許文献1参照)さらに交流抵抗を低減するためには巻線の素線数を増加したい。しかし、素線数を増数すると、近接効果の影響が生じ、隣り合う線による実効抵抗値が増加してしまい高周波抵抗低減効果を取得することが難しい。
【0005】
また、熱効率の向上は加熱コイルの磁束損失を極力抑え、被加熱物へ印加させたい。それには、加熱コイルの構造の適正化が課題となる。
【0006】
【非特許文献1】日立マグネットワイヤ:カタログ、CAT.NO.M-001D、p17-18、日立電線
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、加熱コイル巻線の近接効果の影響を抑えての交流抵抗の低減を図ることと、加熱コイルの磁束損失を抑制させ、熱効率向上を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記を解決するため、加熱コイル巻線の素線数を近接効果の影響が少なく、交流抵抗が小さい最適な特性値を抽出し、適値範囲を選択する構成とすることと、加熱コイルのコアとコイルの隙間を自己磁界効果の影響特性が少なく、加熱効率が良い最適な特性値を抽出し、適値範囲を選択する構造とすることによって達成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低磁性材の被加熱物を加熱するにあたり、加熱コイルの銅損と磁束損失を低減させることができ、加熱効率の向上を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の誘導加熱装置の第1の実施例形態について図を用い説明する。図1は、本発明の実施形態の誘導加熱装置の断面図および回路構成である。
【0011】
図1において、被加熱物となる調理鍋1と調理鍋1の台板となるトッププレート2と調理鍋1を誘導加熱する加熱コイル3と、加熱コイル3の磁力を増強し、調理鍋1へ磁気誘導する複数のU型あるいはL型のコア4と、加熱コイル3を駆動させる、交流電源5,整流回路6,直流から高周波電力に変換するインバータ回路7,共振コンデンサ8とを備えて構成される。
【0012】
加熱コイル3は、周波数約60kHz〜100kHzの高周波で駆動するので表皮効果の影響を受けるが、加熱コイル3自身の交流抵抗を低減,回避するため、細線化して線径の中心部までコイル電流を流すようにしている。そのため、加熱コイル3は単線ではなく、図2に示した加熱コイルの束線材のように、複数の素線を束ねた線材を使用した構成となっている。この線径は0.05φ 程度を使用して細線化しているので、その分、加熱コイル3の直流抵抗分を低減のために束とする素線数を増数し1200本程度を構成している。しかし、加熱コイル3の電力損失である銅損をさらに低減するには、加熱コイル3の素線数増数を図って交流抵抗の低減が必要であるが、この素線数増数によって、近接効果の影響が生じて交流抵抗の低減を阻んでいる。一方、損失を低減して熱効率向上に繋げるために加熱コイル3の磁束損失の低減化も必要となる。この2つの低減法について次の図を用いて説明する。
【0013】
図3は本実施例である加熱コイル3の周波数および素線数の違いによる束線の交流抵抗特性を示す。測定条件は、素線径0.05φ ×45ターン、コイルベース形状は約200
mmである。周波数が高くなると束線の交流抵抗は増加する。また、素線数が多くなると低周波域では束線の交流抵抗は小さいが、高周波域では表皮効果の影響に近接効果の影響が加わり交流抵抗値は高くなり、このケースでは2160本と1800本では逆転してしまう。さらに、図4は本実施例である素線数に対する束線の交流抵抗特性を示したものである。誘導加熱装置のインバータが動作する駆動周波数90kHz周辺では束線の交流抵抗は素線数1800本が特性の底値となり、素線数1800本を中心値に選択することが銅損の低減、そして、熱効率の向上に結びつくことが明らかになった。近接効果の影響は束線の撚り方やグルーピングにより、多少異なるが、必要周波数,線径,素線数の状況下おいて、交流抵抗低減の効果のある交流抵抗は上述のようにV字特性のグラフを示している。
【0014】
次に、図5は本実施例形態である加熱コイル3の構造を示す。ドーナツ型の加熱コイル3はU字型コアとの隙間距離を内側と外側共に確保する構造である。図6に本実施例である加熱コイル3の加熱効率とコア−コイル隙間距離特性を示す。加熱効率は隙間距離を
3.5mm 以上確保することが向上に繋がる。これは、加熱コイル3がコア4に近接するとコア4を介して磁力線が、調理鍋1へ印加する他に、自己磁界効果で自身の加熱コイル3も印加してしまい磁束の損失を生んでしまうからである。
【0015】
図7は、図1に示した本発明の応用実施形態の誘導加熱装置の断面図および回路の変形した構成を示したものである。同じ番号は、同じ動作となり、異なる構造だけを以下に説明する。帯電防止プレート9は、加熱コイル3からの誘導電圧より、調理鍋1へ電圧が帯電しないよう防止している。シールドリング10は加熱コイル3の円周を囲い、外に洩れ磁界が出ないように抑止している。これらの構成により、本発明の誘導加熱装置は加熱コイルの銅損と磁束損失を低減させる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態の誘導加熱装置の断面図および回路構成である。
【図2】図1の一実施例である加熱コイルの束線の構成例である。
【図3】図1の一実施例である加熱コイル束線の交流抵抗と周波数特性である。
【図4】図1の一実施例である加熱コイル束線の交流抵抗と素線数特性である。
【図5】図1の一実施例である加熱コイルのコアとコイルの構造である。
【図6】図1の一実施例である加熱コイルの加熱効率とコア−コイル隙間距離特性である。
【図7】図1の他の実施例である実施形態の誘導加熱装置の断面図および回路構成である。
【符号の説明】
【0017】
1…調理鍋、2…トッププレート、3…加熱コイル、4…コア、5…交流電源、6…整流回路、7…インバータ回路、8…共振コンデンサ、9…帯電防止プレート、10…シールドリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物が載置されるトッププレートと、
該トッププレートの下方に設けられ、前記被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、
該加熱コイルを駆動する高周波回路とを備えた誘導加熱装置において、
前記加熱コイルは、巻線の素線数を1680本から2160本の範囲とすることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1の誘導加熱装置において、
前記加熱コイルは、線径が0.05φ 前後であることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】
被加熱物が載置されるトッププレートと、
該トッププレートの下方に設けられ、前記被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、
該加熱コイルを駆動する高周波回路とを備えた誘導加熱装置において、
前記加熱コイルのコアとコイル間の内側部および外側部隙間距離は3.5mm以上とすることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項3の誘導加熱装置において、
前記加熱コイルは、コアの形状がU字型あるいはL字型であることを特徴とする誘導加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−21470(P2008−21470A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191057(P2006−191057)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】