説明

誘電体レンズアンテナとそれを用いた無線システム

【課題】これまで用いられてきたホーンアンテナやロッドアンテナはサイドローブが高いという課題がある。また、導波管平面アンテナは低サイドローブ特性が得られるものの、アンテナ全体の寸法が大きくなるという課題がある。
本発明は、アンテナサイズが小さい、高効率・低サイドローブ特性が得られる誘電体レンズアンテナを提供することを目的とするものである。
【解決手段】誘電体レンズ(6)と、レンズ固定台(5)と、中心に穴を有する金属円板(3)と、誘電体ロッド(2)を導体板(8)で挟んでなるNRDガイド(1)と、を順次取り付けてなり、金属円板の穴(9)を介して誘電体ロッド(2)をレンズ固定台(5)に突き出した構造の誘電体レンズアンテナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高速・大容量無線通信に適したミリ波の利用拡大に寄与する。
本発明は超高速・大容量無線通信に適したNRDガイドの利用範囲を拡大することを目的とした高効率・低サイドローブ誘電体レンズアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平5−134028号公報
【特許文献2】特開平7−77576号公報
【非特許文献1】榊原久ニ男他、自動車レーダ用ミリ波帯導波管スロットアレイアンテナ、R&D Review of Toyota CRDL Vol. 36、 No. 3、2001/9、pp35-40
【0003】
アンテナの放射電磁界はアンテナ固有の方向特性を持ち、これを放射指向特性という。放射指向特性の最大方向およびその近傍がメインローブ(main lobe)であり、それ以外のものはサイドローブ(side lobe)と呼ばれる。
【0004】
アンテナの指向性能を表す指標として、ビーム幅とサイドローブがあり、ビーム幅(半値角)が小さい程、あるいはサイドローブが小さい程、アンテナ指向性能がよいとされる(例えば、特許文献1)。
【0005】
これまで、NRDガイド回路に使用するミリ波アンテナとしては、ホーンアンテナ、ロッドアンテナ、導波管平面アンテナが用いられていた。これらのアンテナで低サイドローブ特性を得るには、アンテナ全体が大きくなるという問題点がある(例えば、特許文献2、非特許文献1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで用いられてきたホーンアンテナやロッドアンテナはサイドローブが高いという課題がある(例えば、特許文献2)。また、導波管平面アンテナは低サイドローブ特性が得られるものの、アンテナ全体の寸法が大きくなるという課題がある(例えば、非特許文献1)。
【0007】
本発明は、アンテナサイズが小さい、高効率・低サイドローブ特性が得られる誘電体レンズアンテナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、誘電体レンズ(6)と、レンズ固定台(5)と、中心に穴を有する金属円板(3)と、誘電体ロッド(2)を導体板(8)で挟んでなるNRDガイド(1)と、を順次取り付けてなり、金属円板の穴(9)を介して誘電体ロッド(2)をレンズ固定台(5)に突き出した構造の誘電体レンズアンテナである。
【0009】
請求項2に記載した発明は、誘電体レンズ(26あるいは36)と、レンズ固定台(25あるいは35)と、中心に穴(29あるいは39)を有する金属円板(23あるいは33)と、誘電体ロッドアンテナ(22あるいは32)を有する導波管(21あるいは31)と、を順次取り付けてなり、金属円板の穴(29あるいは39)を介して該誘電体ロッドアンテナ(22あるいは32)をレンズ固定台(25あるいは35)に突き出した構造の誘電体レンズアンテナである。
【0010】
請求項3に記載した発明は、誘電体レンズと、レンズ固定台と、中心に穴を有する金属円板と、導波管と、を順次取り付けてなる構造の誘電体レンズアンテナである。
【0011】
請求項4に記載した発明は、請求項1、2、3のいずれかの誘電体レンズアンテナを複数個並べたアンテナシステムである。
【0012】
請求項5に記載した発明は、誘電体レンズとレンズ固定台、あるいはどちらかに彩色を施した請求項1、2、3のいずれか記載の誘電体レンズアンテナである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1、2、3、4の発明によれば、アンテナサイズが小さい、高効率・低サイドローブ特性が得られる誘電体レンズアンテナが得られる。
【0014】
請求項5の発明によれば、オフィスや家庭に導入される超高速・大容量無線通信機器に使用される誘電体レンズアンテナのデザイン性が高まり、作業効率向上他の効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(実施例1)
誘電体レンズ(6)と、レンズ固定台(5)と、中心に穴を有する金属円板(3)と、誘電体ロッド(2)と、導体板(8)で挟んでなるNRDガイド(1)と、を順次取り付けてなり、金属円板の穴(9)を介して誘電体ロッド(2)をレンズ固定台(5)に突き出した構造の図1の誘電体レンズアンテナの実施例を説明する。
【0017】
まず、誘電体ロッド(2)を導体板(8)で挟んでなるNRDガイド(1)の誘電体ロッド(2)の先端部であるロッドアンテナ部(4)を中心に配置して、中空の金属円板(3)をNRDガイド(1)に取り付ける。次に、レンズ固定台(5)に取り付けられた誘電体レンズ(6)を誘電体ロッド(2)と光軸を合わせて金属円板(3)に取り付ける。誘電体レンズ(6)とレンズ固定台(5)と金属円板(3)とを一体化したものをNRDガイド(1)に取り付けても良い。
【0018】
誘電体レンズ(6)の材料には比誘電率2.3の高密度ポリエチレンを使用し、レンズ固定台(5)には、比誘電率1の発泡ポリスチレンを使用した。
【0019】
誘電体レンズ(6)の直径(2R)、誘電体レンズ(6)の焦点距離(F)、誘電体ロッドアンテナ部(4)のロッド長(L)、金属円板(3)の厚さ(t)、金属円板(3)の円筒開口径(d)、金属円板(3)の直径(D)をパラメータとして、汎用の解析プログラムを用いて、60GHzにおけるE面、H面の放射パターンの電子計算機シミュレーションを実施して、E面・H面ともに−30dB以下のサイドローブ特性が得られる上記パラメータの設計値を求めた。
【0020】
直径(2R)32mmで焦点距離(F)12mmの誘電体レンズ(6)を用いた場合、誘電体ロッドアンテナ部(4)のロッド長(L)、金属円板(3)の厚さ(t)、金属円板(3)の円筒開口径(d)、金属円板(3)の直径(D)をそれぞれ、L=1mm、t=3mm、d=7mm、D=32mmとすれば、図4にシミュレーション結果を示すように、従来技術(例えば、特許文献2の図12と図13)と比して、約10dB以上の性能改善が得られる。 図5は、図4のシミュレーション結果に対応する本実施例の誘電体レンズアンテナのE面、H面の放射パターンの測定結果である。最大利得24.9±0.6dBi、開口効率76.4±10%、サイドローブはE面、H面ともに−27dB以下、半値角9度と、優れた特性が得られた。
【0021】
(実施例2)
本実施例では、請求項2に記した、「誘電体レンズと、レンズ固定台と、中心に穴を有する金属円板と、誘電体ロッドアンテナを有する導波管と、を順次取り付けてなり、金属円板の穴を介して該誘電体ロッドアンテナをレンズ固定台に突き出した構造の誘電体レンズアンテナ」の、導波管が矩形導波管(21)である例につき図2を用いて説明する。
【0022】
まず、矩形導波管(21)内に装着された誘電体ロッドアンテナ(22)が金属円板(23)の中心に配置されるように矩形導波管(21)を金属円板(23)に取り付ける。次に、レンズ固定台(25)に載せられた誘電体レンズ(26)を誘電体ロッドアンテナ(22)と光軸を合わせて金属円板(23)に取り付ける。誘電体レンズ(26)とレンズ固定台(25)と金属円板(23)とを一体化したものを矩形導波管(21)に取り付けても良い。
【0023】
誘電体レンズ(26)の材料には比誘電率2.3の高密度ポリエチレンを使用し、レンズ固定台(25)には、比誘電率1の発泡ポリスチレンを使用した。
【0024】
60GHz帯での使用を考え、1.88x3.76mmのWR−15矩形導波管(21)と直径(2R)32mmで焦点距離(F)12mmの誘電体レンズ(6)を用いる場合を想定して、放射側の先端部に1mmのテーパをつけた誘電体ロッドアンテナ(22)のロッド長(L)、金属円板(23)の厚さ(t)、金属円板(23)の直径(D)を、それぞれ、L=1mm、t=3mm、D=32mmと設定した。金属円板(23)の中心部の開口を矩形導波管(21)側で直径3.76mmとして、誘電体レンズ側をd=7mmに広げた円錐台形状とした。導波管と誘電体ロッドアンテナの整合をとるために、導波管に挿入された部分の誘電体ロッドアンテナ側にもテーパを設けている。
【0025】
図6は、上記設計値をもつ図2の構造の誘電体レンズアンテナのE面、H面の放射パターンの測定結果である。最大利得:25.2±0.6dBi、開口効率:82±10%、サイドローブ:E面−35dB程度、H面−30dB程度、半値角:9度と、極めて優れた特性が得られた。
【0026】
図2に示す構造の放射パターンの計算結果を図8に示す。また、図2において誘電体ロッドアンテナ(22)を取り外し、金属円板の開口形状を図7に示すような円筒形、矩形台、円錐台とした場合の放射特性の計算結果を図9〜11に示す。これより、誘電体ロッドアンテナ(22)を挿入しない構造の場合は、サイドローブが上昇し、特性が劣化することが分かった。
【0027】
(実施例3)
本実施例は、請求項3に係る発明の実施例である。図3を用いて説明する。本例では導波管を円形導波管(31)とした。
【0028】
周波数帯58〜62GHzの範囲でのシングルモード伝送を考慮して円形導波管(31)内径の半径rを1.8mmとし、直径(2R)32mmで焦点距離(F)12mmの誘電体レンズ(36)を用いた場合を想定して、金属円板(33)の厚さ(t)、金属円板(33)の直径(D)を、それぞれ、t=5mm、D=32mmとした。金属円板(33)の中心部の開口を、円形導波管(31)側で直径3.6mmとして、誘電体レンズ側をd=7mmに広げた円錐台形状とした。
【0029】
図3の構造の上記設計値をもつ誘電体レンズアンテナの60GHzにおけるE面、H面の放射パターンの測定結果を図12に示す。最大利得:25.4±0.6dBi、開口効率:85.8±10%、サイドローブ:E面、H面ともに−27dB以下、半値角:9度と、優れた特性が得られた。
【0030】
本実施例では説明しないが、実施例2で説明したように、誘電体ロッド(32)を円形導波管(31)に挿入することで、アンテナ性能が向上する(図3では誘電体ロッドを省略している)。
【0031】
実施例1から実施例3を検討する過程で、以下のことが明らかになった。
【0032】
誘電体レンズアンテナの特性を向上させるには、誘電体レンズ直径と金属円板の外形寸法(直径)、レンズ固定台の外形寸法(直径)は同一であることが望ましい。また、誘電体レンズの焦点距離(F)とレンズ固定台の高さも同一であることが望ましい。特に、金属円板の外形寸法(直径)が誘電体レンズ直径より小さくなると、アンテナ特性は急激に劣化する。したがって、金属円板の外形寸法(直径)は、誘電体レンズ直径と同一か大きめであることが望ましい。
【0033】
(実施例4)
本実施例では、請求項4に記した、「請求項1、2、3のいずれかの誘電体レンズアンテナを複数個並べたアンテナシステム」の有用性に関して図13、図14を用いて説明する。
【0034】
図13の測定系について説明する。ネットワーックアナライザー(62)はSパラメータを測定する計器である。先に述べた実施例のいずれかの給電構造部をもつ二つの誘電体レンズアンテナが水平に配置されている。二つの誘電体レンズアンテナ間の電波は変換ホーン(61)、NRDガイド(51)を介してネットワーックアナライザーで計測される。電波吸収体(63)は誘電体レンズアンテナから来る電波をすべて吸収して、誘電体レンズアンテナ側に反射させない目的で設置されている。
【0035】
誘電体レンズ間距離sをパラメータとして、アンテナ間の結合を測定した。その結果を図14に示す。s=0mm、 15mmの時いずれもアンテナ間の相互干渉の指標であるSパラメータS21は−50dB以下であり、アンテナ間の回り込みによる結合が極めて少ないことがわかる。つまり、先に述べた実施例のいずれかの給電構造部をもつ誘電体レンズアンテナは、低サイドローブ特性をもつため、アンテナを近接して配置してもお互いの影響が極めて少ない。アンテナ間隔を近づけられるため、アンテナおよび無線装置の小形化が可能になる。
【0036】
アンテナ間隔を近づけられるため、送信アンテナと受信アンテナ近接して設置でき、送受共用アンテナを用いた時に比べ、サーキュレータ等の高価なデバイスが必要なくなり、システムの低価格化が実現できる。
【0037】
(実施例5)
請求項5の「誘電体レンズとレンズ固定台、あるいはどちらかに彩色を施した請求項1、2、3のいずれか記載の誘電体レンズアンテナ」に関しての実施例を説明する。
【0038】
通常、誘電体レンズやレンズ固定台の素材は透明ないし薄白色である。レンズアンテナの製造工程で、これらの部品を取り扱う際に、現場作業者が部品を認識し難いときがある。予め誘電体レンズやレンズ固定台の表面を彩色しておけば、作業効率が上がる。また、誘電体レンズやレンズ固定台を彩色することにより誘電体レンズアンテナに芸術的な表現が加わり、従来のアンテナと異なり、家庭やオフィスの景観を損ねないインテリアとしても使用可能である。
彩色材料として、例えば、市販の油性塗料を用いれば電波の吸収を生ずることも無い。
【0039】
本発明の特定の実施形態を詳細に説明してきたが、当業者であれば、上記実施形態をこの他に改良・変更・修正ができることは明らかである。本発明の技術的思想または特許請求の範囲に記載の範囲内であれば、このような全ての改良、変更、修正は、本発明に包含されるものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】NRDガイド給電構造を用いた誘電体レンズアンテナの断面図 (左):正面図 (右):側面図
【図2】矩形導波管給電構造を用いた誘電体レンズアンテナの断面図 (左):正面図 (右):側面図
【図3】円形導波管給電構造を用いた誘電体レンズアンテナの断面図 (左):正面図 (右):側面図
【図4】図1の構造における放射パターンの計算結果
【図5】図1の構造における放射パターンの測定結果
【図6】図2の構造における放射パターンの測定結果
【図7】図2の金属円板の中心部の開口形状 (左):円筒開口、(中):矩形台開口、(右):円錐台開口
【図8】図2の構造における放射パターンの計算結果
【図9】図2の構造から誘電体ロッドをはずし、開口を円筒開口とした時の放射パターンの計算結果
【図10】図2の構造より誘電体ロッドをはずし、開口を矩形台とした時の放射パターンの計算結果
【図11】図2の構造より誘電体ロッドをはずし、開口を円錐台とした時の放射パターンの計算結果
【図12】図3の構造における放射パターンの測定結果
【図13】電波吸収体配置時のアンテナ間の結合の測定系
【図14】電波吸収体配置時のアンテナ間の結合による透過特性の変化
【符号の説明】
【0041】
1.NRDガイド
2.誘電体ロッド
3.金属円板
4.ロッドアンテナ部
5.レンズ固定台
6.誘電体レンズ
8.導体板
9.穴
21.矩形導波管
22.誘電体ロッドアンテナ
23.金属円板
25.レンズ固定台
26.誘電体レンズ
29.穴
31.円形導波管
32.誘電体ロッド
33.金属円板
35.レンズ固定台
36.誘電体レンズ
39.穴
51.NRDガイド
53.金属円板
55.レンズ固定台
56.誘電体レンズ
58.導体板
61.変換ホーン
62.ネットワークアナライザ
63.電波吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体レンズと、レンズ固定台と、中心に穴を有する金属円板と、誘電体ロッドを導体板で挟んでなるNRDガイドと、を順次取り付けてなり、前記金属円板の前記穴を介して前記誘電体ロッドを前記レンズ固定台に突き出した構造の誘電体レンズアンテナ。
【請求項2】
誘電体レンズと、レンズ固定台と、中心に穴を有する金属円板と、誘電体ロッドアンテナを有する導波管と、を順次取り付けてなり、前記金属円板の前記穴を介して前記誘電体ロッドアンテナを前記レンズ固定台に突き出した構造の誘電体レンズアンテナ。
【請求項3】
誘電体レンズと、レンズ固定台と、中心に穴を有する金属円板と、導波管と、を順次取り付けてなる構造の誘電体レンズアンテナ。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれかの誘電体レンズアンテナを複数個並べたアンテナシステム。
【請求項5】
誘電体レンズとレンズ固定台、あるいはどちらかに彩色を施した請求項1、2、3のいずれか記載の誘電体レンズアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−166374(P2006−166374A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358728(P2004−358728)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(503066952)株式会社インテリジェント・コスモス研究機構 (9)
【Fターム(参考)】