説明

誘電体形成用ガラス粉末

【課題】耐電圧が高く、しかも透明性に優れた誘電体層を形成することが可能なプラズマディスプレーパネルの誘電体形成用ガラス粉末を提供する。
【解決手段】50%粒子径D50が2.8μm以下であるプラズマディスプレーパネルの誘電体形成用ガラス粉末であって、重量百分率でガラス粉末60〜80%、セラミック粉末0〜10%、熱可塑性樹脂5〜30%、可塑剤0〜10%で構成される誘電体形成用グリーンシートの構成成分として使用されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレーパネル用誘電体形成材料に使用されるガラス粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレーパネルの前面ガラス板には、プラズマ放電用の電極が形成され、その上に放電維持のための誘電体層が形成される。この誘電体層には、高い耐電圧を有すること及び透明性に優れていることが要求される。
【0003】
従来、このような誘電体層は、ガラス粉末を含むペースト状の誘電体形成材料をスクリーン印刷し、焼成することによって形成されている。
【0004】
ところが上記した方法では、印刷後にスクリーンメッシュの跡が残って平滑な表面が得難い、膜厚が安定しない、泡が多数残存する等の欠点があり、高い耐電圧が得られなかったり、十分な透明性を確保することが難しいといった問題を抱えている。また誘電体層として十分な膜厚(約30〜40μm)を得るためには印刷を3〜5回程度繰り返さなければならず、印刷の度に行う乾燥工程での溶剤の揮発が作業環境の汚染を招き易い。
【0005】
そこで、誘電体材料をグリーンシート化し、これを電極が形成された前面ガラス基板に貼り付けて焼成するという方法が特開平9−102273号において提案されている。
【特許文献1】特開平9−147751号公報
【特許文献2】特開平8−119665号公報
【特許文献3】特開平6−310036号公報
【特許文献4】特開平4−214045号公報
【特許文献5】特開平7−291656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したグリーンシートを用いる方法は、作業性に優れ、作業環境の汚染を招き難い。しかもシート成形に使用されるスラリーが、スクリーン印刷で使用されるペーストに比べてかなり低粘度であるため、成形時における泡の巻き込みが少なく、表面が平滑で均一な膜厚を有するガラス膜を得ることが可能であり、耐電圧の高い誘電体層を形成することができる。
【0007】
しかしながら、この方法においても誘電体層中に微小な泡が多数残存し、十分な透明性を得ることができないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、耐電圧が高く、しかも透明性に優れた誘電体層を形成することが可能なプラズマディスプレーパネルの誘電体形成用ガラス粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は種々の実験を行った結果、グリーンシートの主たる構成成分であるガラス粉末の粒度分布を制御することにより、上記目的が達成できることを見いだし、本発明として提案するものである。
【0010】
即ち、本発明の誘電体形成用ガラス粉末は、50%粒子径D50が2.8μm以下であるプラズマディスプレーパネルの誘電体形成用ガラス粉末であって、重量百分率でガラス粉末60〜80%、セラミック粉末0〜10%、熱可塑性樹脂5〜30%、可塑剤0〜10%で構成される誘電体形成用グリーンシートの構成成分として使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガラス粉末を用いて成形したグリーンシートは、焼成すると、平滑で均一な膜厚を有し、残存する泡が殆どないガラス膜となる。それゆえグリーンシートの形態で提供される誘電体形成材料用のガラス粉末として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のガラス粉末は、50%粒子径D50が2.8μm以下、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下である。ガラス粉末の粒度分布をこの範囲に制限することにより、ガラス粉末粒子間の隙間が非常に小さくなる結果、誘電体層中に含まれる泡を極端に少なくすることができる。また残存する泡も極めて小さなものとなる。しかしガラス粉末の50%粒子径D50が2.8μmより大きい場合、粒子同士の間隔が大きくなり過ぎて多数の泡が残存し、その泡径も大きくなり易いために、十分な透明性を確保することができなくなる。なおガラス粉末の粒度は小さいほど好ましいが、50%粒子径D50を0.5μmより小さくするとガラス粉末の量産が困難になり易い。
【0013】
またガラス粉末の最大粒子径DMAXは18μm以下、特に15μm以下であることが好ましい。最大粒子径DMAXが18μmを超えると粒子同士の間隔が大きくなり易く、残存する泡が多くなり、また泡径も大きくなり易い。なおガラス粉末の最大粒子径DMAXは小さいほど好ましいが、5μmより小さくするとガラス粉末の量産が困難になり易い。
【0014】
なおガラス粉末としては、重量百分率でPbO 50〜75%(好ましくは55〜70%)、B23 2〜30%(好ましくは5〜25%)、SiO2 2〜35%(好ましくは3〜31%)、ZnO 0〜20%(好ましくは0〜10%)の組成を有するガラスや、重量百分率でPbO 30〜55%(好ましくは40〜50%)、B23 10〜40%(好ましくは15〜35%)、SiO2 1〜15%(好ましくは2〜10%)、ZnO 0〜30%(好ましくは10〜30%)、BaO+CaO+Bi23 0〜30%(好ましくは3〜20%)の組成を有するガラスや、重量百分率でZnO 25〜45%(好ましくは30〜40%)、Bi23 15〜35%(好ましくは20〜30%)、B23 10〜30%(好ましくは17〜25%)、SiO2 0.5〜8%(好ましくは3〜7%)、CaO+SrO+BaO 8〜24%(好ましくは10〜20%)の組成を有するガラスが、500〜600℃の焼成で良好な流動性を示し、また絶縁特性に優れるとともに安定であるために好適である。
【0015】
本発明のガラス粉末を用いたプラズマディスプレーパネル用誘電体形成材料は、好ましくは重量百分率でガラス粉末60〜80%、セラミック粉末0〜10%、熱可塑性樹脂5〜30%、可塑剤0〜10%で構成される。以下に各構成成分について詳細に説明する。
【0016】
ガラス粉末は、高い耐電圧を有する誘電体層を形成するための基本材料であり、その混合割合は、60〜80重量%、好ましくは65〜77重量%である。ガラス粉末が60重量%より少なくなると樹脂や可塑剤が相対的に多くなるため、焼成時に発泡が生じ易くなる。このため高い耐電圧を有し、透明性に優れた誘電体層が得難くなる。一方、80重量%より多くなると、樹脂や可塑剤が相対的に少なくなるため、グリーンシートとしての強度が弱くなり、作業性が悪くなる。
【0017】
セラミック粉末は、誘電体形成材料の流動性、焼結性或いは熱膨張係数を調整するために添加する成分であり、必要に応じて10重量%まで、好ましくは5重量%まで添加可能である。セラミック粉末としては、アルミナ粉末、ジルコニア粉末、シリカ粉末等が使用可能であり、これらを単独或いは混合して使用する。しかしながらセラミック粉末が10重量%より多くなると焼結が不十分となり、高い耐電圧を有する誘電体層が得難くなる。また透明性が低下する。なおセラミック粉末は、50%粒子径D50が2.0μm以下、最大粒子径DMAXが15μm以下の粒度分布を有するものを使用することが望ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂は、グリーンシートに必要な強度と柔軟性、及び自己接着性を付与するための材料であり、その混合割合は5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%である。熱可塑性樹脂としては、ポリブチルメタアクリレート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリエチルメタアクリレート樹脂、エチルセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。熱可塑性樹脂が5重量%より少なくなると上記の効果が得られなくなり、30重量%より多くなるとシートの焼成時に発泡が生じ易くなる。
【0019】
可塑剤は、グリーンシートに柔軟性を高めるとともに自己接着性を付与するために添加する成分であり、その混合割合は0〜10重量%、好ましくは0.1〜7重量%である。可塑剤としてはブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレートが使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。しかしながら可塑剤が10重量%より多くなるとシートの強度が低下するとともに、表面がベタつき過ぎて作業性が低下する。
【0020】
また本発明のガラス粉末を用いた誘電体形成材料は、ガラスの軟化点より10℃高い温度で焼成してガラス膜としたときに、積分球を用いて測定された波長620nmにおける透過率が膜厚30μmで85%以上、表面粗さRaが0.2μm以下となるようにすることが好ましい。即ち、上記条件で形成したガラス膜の透過率が85%より低いと十分な透明性を有する誘電体層を得ることが難しく、また表面粗さRaが0.2μmより大きいと高い耐電圧を有する誘電体層を形成することが難しくなるためである。
【0021】
次に、本発明のガラス粉末を用いて、プラズマディスプレーパネル用誘電体形成材料を作製する方法を説明する。
【0022】
まずガラス粉末、熱可塑性樹脂及び可塑剤を混合する。また必要に応じてセラミック粉末を添加する。次いでトルエン等の主溶媒や、イソプロピルアルコール等の補助溶剤を添加してスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルム上にシート成形する。このとき乾燥後のシート厚が約20〜100μmとなるように成形することが好ましい。その後、乾燥させることによって溶媒や溶剤を除去し、グリーンシートの形態を有するプラズマディスプレーパネル用誘電体材料を得ることができる。
【0023】
次に上記誘電体形成材料の使用方法を説明する。
【0024】
まず、プラズマディスプレーパネルに用いられる前面ガラス板を用意する。前面ガラス板には、予め電極が形成されており、その上に本発明の材料を熱圧着によって接着する。熱圧着は、50〜200℃で1〜5kgf/cm2の条件で行うことが好ましい。その後、500〜600℃で5〜15分間焼成することにより、誘電体層を形成することができる。
【0025】
なお、ガラス膜表面の光の散乱を防止し、より高い透明性を得るために、誘電体層を二層構造にしてもよい。二層目の誘電体層の形成は、従来より使用されているペーストやグリーンシートを用いて形成すればよい。また本発明の材料を二層目用のグリーンシートとして使用することもできる。この用途の場合は、ガラス粉末として一層目のガラス粉末よりも軟化点が低く、500〜600℃の焼成で十分な脱泡が可能な低融点ガラスを選択すればよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0027】
表1は本実施例のガラス粉末の組成(試料A〜C)を示している。
【0028】
【表1】

【0029】
各ガラス粉末は以下のようにして作製した。まず表に示す酸化物組成となるようにガラス原料を調合し、均一に混合した後、白金ルツボに入れ、1250℃で2時間溶融し、成形した。これらを粉砕、分級し、種々の粒度分布を有するガラス粉末を得た。なお50%粒子径D50及び最大粒子径DMAXは、日機装株式会社製のレーザー回折式粒度分布計「マイクロトラックSPA」を用いて測定した。
【0030】
表2〜4は、本発明のガラス粉末を用いた実施例(試料No.1〜11)及び比較例(試料No.12)を示している。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
No.1〜12の各試料は以下のようにして作製した。
【0035】
まず上記ガラス粉末に、各種の熱可塑性樹脂及び可塑剤を表に示す割合で混合し、主溶媒としてトルエンを30重量%、補助溶剤としてイソプロピルアルコールを2重量%混合し、スラリーとした。なお試料No.2及び4は、スラリー化する前に、50%粒子径D50が0.1μm、最大粒子径DMAXが1.0μmのセラミック粉末を表に示す割合で添加した。次いでこのスラリーを、焼成後の膜厚が30μmとなるように、ドクターブレード法によってPETフィルム上にシート成形し、乾燥させることによってトルエンとイソプロピルアルコールを除去し、85μmの厚みを有するシート状の試料を得た。
【0036】
こうして得られた各試料について、焼成後のガラス膜の平均膜厚、泡の状態、透過率、表面粗さについて評価した。結果を表に示す。
【0037】
表から明らかなように、本発明のガラス粉末を用いた実施例であるNo.1〜8の試料は、ガラス膜の平均膜厚が29〜32μm、10μm以下の微小な泡が250μm四方当たり8個以下であり、10μmを超える泡は存在しなかった。また波長620nmにおける透過率が86%以上、表面粗さRaが0.08μm以下であった。これに対して比較例である試料No.12は、膜厚や表面粗さは実施例と同等の値を示したものの、10μmを超える泡が2個、10μm以下の微小な泡が23個もあり、透過率も79%と低かった。
【0038】
これらの事実は、本発明の材料を用いれば、耐電圧が高く、しかも透明性に優れた誘電体層を形成できることを示している。
【0039】
なおガラス膜の平均膜厚は、ガラス板の表面に各試料を120℃、2.5kgf/cm2の条件で熱圧着し、各ガラスの軟化点より10℃高い温度で10分間焼成してガラス膜を形成した後、デジタルマイクロメーターにて測定した。泡の状態は、実体顕微鏡を用い、焼成後の試料の250μm四方の中に存在する泡の数をカウントして評価した。透過率は、積分球付分光光度計により、波長620nmの透過率T%として算出した。表面粗さは、触針式表面粗さ計を用いて測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%粒子径D50が2.8μm以下であるプラズマディスプレーパネルの誘電体形成用ガラス粉末であって、重量百分率でガラス粉末60〜80%、セラミック粉末0〜10%、熱可塑性樹脂5〜30%、可塑剤0〜10%で構成される誘電体形成用グリーンシートの構成成分として使用されることを特徴とする誘電体形成用ガラス粉末。
【請求項2】
前記グリーンシートをガラスの軟化点より10℃高い温度で焼成したときに、形成されるガラス膜の積分球を用いて測定された波長620nmにおける透過率が、膜厚30μmで85%以上となることを特徴とする請求項1の誘電体形成用ガラス粉末。
【請求項3】
前記グリーンシートをガラスの軟化点より10℃高い温度で焼成したときに形成されるガラス膜の表面粗さRaが0.2μm以下となることを特徴とする請求項1又は2の誘電体形成用ガラス粉末。
【請求項4】
最大粒子径DMAXが18μm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかの誘電体形成用ガラス粉末。
【請求項5】
重量百分率でPbO 50〜75%、B23 2〜30%、SiO2 2〜35%、ZnO 0〜20%の組成を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかの誘電体形成用ガラス粉末。
【請求項6】
重量百分率でPbO 30〜55%、B23 10〜40%、SiO2 1〜15%、ZnO 0〜30%、BaO+CaO+Bi23 0〜30%の組成を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかの誘電体形成用ガラス粉末。
【請求項7】
重量百分率でZnO 25〜45%、Bi23 15〜35%、B23 10〜30%、SiO2 0.5〜8%、CaO+SrO+BaO 8〜24%の組成を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかの誘電体形成用ガラス粉末。

【公開番号】特開2006−89374(P2006−89374A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306703(P2005−306703)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【分割の表示】特願平9−257867の分割
【原出願日】平成9年9月4日(1997.9.4)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】