説明

誘電体発振器及び誘電体発振器の制御方法

【課題】発振周波数を所定の範囲で変化させた場合において、負性抵抗回路と誘電体共振器との間の位相ずれを順次補正することにより、低い位相雑音特性とする誘電体発振器とその制御方法を提供する。
【解決手段】誘電体発振器100は、誘電体共振器10と位置検出器21と周波数変換器22と補正値変換器23と負性抵抗回路30とを含み、誘電体共振器10は、誘電体14と調整ねじ11と該ねじのひさし部13の位置を検知する位置検出センサ18と、を有している。位置検出器21は位置検出センサ18からの信号に基づいて、位置情報を周波数変換器22に送る。周波数変換器22は、位置情報と共振周波数との対応情報から共振周波数を補正値変換器23へ送る。補正値変換器23は共振周波数の帯域と帰還容量との対応情報に基づいて帰還容量を設定することで、位相ずれを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロストリップ線路と誘電体とを有する誘電体共振器と、誘電体共振器の共振周波数に基づき信号を出力する負性抵抗回路と、の電磁気的結合によりマイクロ波を発振させる誘電体発振器及び誘電体発振器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯電話の基地局用通信装置等に用いられている局部発振装置として誘電体発振器が用いられており、この誘電体発振器にはDRO(Dielectric Resonant Oscillator)やVCO(Voltage Controlled Oscillator)等がある。
【0003】
特許文献1には、高いQを保ったまま周波数同期を行う誘電体発振器を実現する技術が開示されており、図7は特許文献1の誘電体発振器200を示している。誘電体発振器200は、大きく分けて誘電体共振回路201と、能動型共振回路202と、出力整合回路203と、を有している。誘電体共振回路201は、制御電圧入力端子と、グランド54に接続された可変容量ダイオード51と、マイクロストリップ線路52と、開放スタブ55と、誘電体57と、グランド67に接続された終端抵抗63と、マイクロストリップ線路56と、を有している。また、能動型共振回路202は、マイクロストリップ線路56に接続されている電界効果トランジスタ61と、インピーダンス回路64と、を有し、出力整合回路203は終端抵抗66を介してグランド67に接続されているインピーダンス回路65を有している。
【0004】
このような構成において、能動型共振回路202のマイクロストリップ線路52と、能動型共振回路202の電界効果トランジスタ61に接続されているマイクロストリップ線路56が、直角になるように配置され、さらに、可変容量ダイオード51と、このダイオードに接続されているマイクロストリップ線路52の接続点にスタブ長を可変する開放スタブ55が接続されている。
【0005】
この技術により、誘電体共振器の調整領域が2次元的に広がると共に、出力電力及び高いQの最適化が容易となる。また、スタブ長を可変できる開放スタブを可変容量ダイオードのカソードとマイクロストリップ線路の接続点に設け、開放スタブの長さを変えることにより、可変容量ダイオードによる周波数同期感度及び周波数同期範囲が調整可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開平5−29835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した誘電体発振器200は、それぞれ直角になるように配置された二つのマイクロストリップ線路(52,56)と、その線路に囲まれた場所に配置された誘電体57と、の位置関係を変更することにより出力電力とQの調整を行うと共に、可変容量ダイオードに供給する制御電圧によって周波数同期を行うものである。
【0008】
しかし、発振周波数を変化させると、負性抵抗となる能動型共振回路202と誘電体共振回路201との間の位相が最適条件からずれるため、位相雑音レベルの増加が見られる。そこで、予め複数の設定を用意しておき、順次切り換える構成とすると、回路規模が大きくなってしまう。一方、誘電体共振器の所定の共振周波数において発振する場合が最もQが高く、かつ、位相雑音が低くなることから、広い範囲で特性を維持することは困難であり、従来の構成では所定の周波数のみ最適な条件となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、発振周波数を所定の範囲で変化させた場合において、負性抵抗回路と誘電体共振器との間の位相ずれを順次補正することにより、低位相雑音特性を得ることができる誘電体発振器とその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る誘電体発振器は、マイクロストリップ線路と誘電体とを有する誘電体共振器と、誘電体共振器の共振周波数に基づき信号を出力する負性抵抗回路と、の電磁気的結合によりマイクロ波を発振させる誘電体発振器において、誘電体の上部に配置された遮蔽板を上下方向に移動させて保持する保持手段と、遮蔽板の位置を検出する位置検出手段と、位置と共振周波数との関係を予め記憶し、検出された位置に基づいて共振周波数の変化によるマイクロ波の位相ずれを補正する位相補正手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る誘電体発振器において、位相補正手段は、負性抵抗回路の帰還容量と結合容量との少なくとも1つを増減し、マイクロ波の位相ずれを補正することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る誘電体発振器の制御方法は、マイクロストリップ線路と誘電体とを有する誘電体共振器と、誘電体共振器の共振周波数に基づき信号を出力する負性抵抗回路と、の電磁気的結合によりマイクロ波を発振させる誘電体発振器の制御方法において、誘電体の上部に配置された遮蔽板を上下方向に移動させて保持する保持工程と、遮蔽板の位置を検出する位置検出工程と、位置と共振周波数との関係を予め記憶し、検出された位置に基づいて共振周波数の変化によるマイクロ波の位相ずれを補正する位相補正工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る誘電体発振器の制御方法において、位相補正工程は、負性抵抗回路の帰還容量と結合容量との少なくとも1つを増減し、マイクロ波の位相ずれを補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明を用いると、発振周波数の変化に伴う負性抵抗回路と誘電体共振器との間の位相ずれを補うことができ、所定の帯域において低位相雑音特性を実現することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0016】
図1には、本実施形態における誘電体発振器100の全体構成が示されている。図1の誘電体発振器100は、誘電体共振器10と、位置検出器21と、周波数変換器22と、補正値変換器23と、負性抵抗回路30と、を含んでいる。
【0017】
誘電体共振器10は、シールド12と、ベースシールド16と、基板15と、基板15の上に設けられたマイクロストリップ線路25及び支持台17と、支持台17の上にねじ19で固定された誘電体14と、調整ねじ11と、調整ねじ11のひさし部13の位置を検知する位置検出センサ18と、を有している。誘電体14を固定しているねじ19はポリカーボネイト(登録商標)であり、調整ねじ11には、ねじ19の頭部を避けるために窪みを設けている。
【0018】
負性抵抗回路30は、コレクタを接地したトランジスタTrと、容量素子C2,Cceと、結合容量C1と、帰還容量Cbeと、誘導素子Lbcと、バイアス用抵抗Rb1,Rb2,Reと、を有している。なお、帰還容量を変更する素子として可変容量ダイオードを用いている。
【0019】
誘電体共振器10のマイクロストリップ線路25は、結合線路24を介して負性抵抗回路30の容量素子C1に接続され、トランジスタTrのベースに信号が伝達される。トランジスタTrは誘電体共振器の共振周波数に基づき信号を出力することで、負性抵抗回路30からマイクロ波が出力される。
【0020】
本実施形態で特徴的な事項の一つは、調整ねじ11の上下によって発振周波数が変化することで発生する負性抵抗回路30と誘電体共振器10との間の位相ずれを、負性抵抗回路30内の帰還容量Cbeを適切に制御して補正することである。
【0021】
まず、位置検出器21は位置検出センサ18からの信号に基づいて、位置情報を周波数変換器22に送る。次に、周波数変換器22は、後述する位置情報と共振周波数の対応情報から共振周波数を補正値変換器23へ送る。さらに、補正値変換器23は共振周波数の帯域と帰還容量Cbeとの対応情報に基づいて帰還容量を設定することで、位相ずれを補正する。
【0022】
図2は、別の誘電体共振器10の構成である。図1の誘電体共振器と異なる点は、位置検出センサ18がシールド12の外部に取り付けられたことである。このような構成により、調整ねじ11と誘電体14との距離である位置情報HTを求めることが可能となる。
【0023】
図3には、誘電体共振器10と負性抵抗回路30を接続した模式図が示されている。本実施形態では、トランジスタのコレクタを接地させ、抵抗Rb1,Rb2によるバイアス回路と、誘電体共振器によって高いQで実現させたLbcと、可変容量ダイオードで実現させた容量素子Cbe,Cceと、によりコルビッツ発振回路を形成して誘電体発振器100を実現した。
【0024】
本実施形態では、バラクタダイオード又はMEMS可変容量素子を用いて帰還容量であるCbe,Cceと、結合容量C1の容量値と、の少なくとも一つを可変させた。なお、図1に示した構成では、Cbeへの入力であるA信号入力とし、その他のB信号入力でCceを制御し、C信号入力でC1を制御することができる。
【0025】
図4は、誘電体発振器の共振周波数と位置検出器で検知した位置情報HTとの関係を示している。図中横軸は誘電体と遮蔽板の距離である位置情報HTを示し、縦軸は共振周波数を示している。距離が短くなるに従い共振周波数が急に上昇し、距離が長くなるに従い共振周波数下降が緩やかとなる。特に、共振周波数を4.4GHz〜4.8GHzとすると、位置情報HTは0.7mm〜5.3mmの可変位置幅となる。図1の周波数変換器22は、このような対応情報を記憶しているため、位置情報HTの入力に応じた共振周波数を出力することができる。
【0026】
図5は、位相雑音特性と負性抵抗回路の帰還容量との関係を示している。図中の特性は、帰還容量Cbeを左から0.5pF、0.4pF、0.3pFに設定して求めたものである。図1の補正値変換器23は、共振周波数4.4GHz〜4.6GHzまではCbe=0.5pFを選択し、共振周波数4.6GHz以上〜4.7GHzまではCbe=0.4pFを選択し、共振周波数4.7GHz以上〜4.8GHzまではCbe=0.3pFを選択する。この処理により位相雑音は、例えば、−115〜−111dBの範囲となる。
【0027】
図6は、本実施形態に係る改善特性と従来構成による特性とを示している。本実施形態では、0.5pF〜0.3pFの3段階としたが、各段階の帰還容量を制御することにより例えば、帰還容量0.4pFに固定された従来特性に比べて、0.5pF〜0.3pFを順次切り換える改善特性では可変周波数幅において位相雑音を低く抑えることが可能となる。
【0028】
以上、上述したように、本実施形態を用いると、発振周波数の変化に伴う負性抵抗回路と誘電体共振器との間の位相ずれを補うことができ、所定の帯域において低位相雑音特性を得ることが可能となる。
【0029】
なお、本実施形態では、帰還容量を変更する素子としてCbeの可変容量ダイオードを用いたがMEMS可変容量素子を用いても良く、同様に、負性抵抗回路はコルピッツ発振回路を用いたが他のLC発振回路(例えば、ハートレー発振回路)でも良い。また、図3の負性抵抗回路30のA信号入力(Cbe)を用いて説明したが、これに限定するものではなく、その他のB,C信号入力でも制御可能であり、同時に複数の信号入力を用いることで、より細かく制御することが可能となる。さらに、本実施形態で示した数値は説明のために用いたもので、この値に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る誘電体発振器の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る別の誘電体共振器の構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る負性抵抗回路の構成を説明する説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る誘電体発振器の共振周波数と位置検出器で検知した位置情報と、の関係を示す特性図である。
【図5】本発明の実施形態に係る位相雑音特性と負性抵抗回路の帰還容量との関係を示した特性図である。
【図6】本発明の実施形態に係る改善特性と従来特性とを示した模式図である。
【図7】従来の誘電体発振器の構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0031】
10 誘電体共振器、11 調整ねじ、12 シールド、13 ひさし部、14 誘電体、15 基板、16 ベースシールド、17 支持台、18 位置検出センサ、19 ねじ、21 位置検出器、22 周波数変換器、23 補正値変換器、24 結合線路、25,52,56 マイクロストリップ線路、30 負性抵抗回路、51 可変容量ダイオード、54,67 グランド、55 開放スタブ、57 誘電体、61 電界効果トランジスタ、63,66 終端抵抗、64,65 インピーダンス回路、100,200 誘電体発振器、201 誘電体共振回路、202 能動型共振回路、203 出力整合回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロストリップ線路と誘電体とを有する誘電体共振器と、誘電体共振器の共振周波数に基づき信号を出力する負性抵抗回路と、の電磁気的結合によりマイクロ波を発振させる誘電体発振器において、
誘電体の上部に配置された遮蔽板を上下方向に移動させて保持する保持手段と、
遮蔽板の位置を検出する位置検出手段と、
位置と共振周波数との関係を予め記憶し、検出された位置に基づいて共振周波数の変化によるマイクロ波の位相ずれを補正する位相補正手段と、
を備えることを特徴とする誘電体発振器。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体発振器において、
位相補正手段は、負性抵抗回路の帰還容量と結合容量との少なくとも1つを増減し、マイクロ波の位相ずれを補正することを特徴とする誘電体発振器。
【請求項3】
マイクロストリップ線路と誘電体とを有する誘電体共振器と、誘電体共振器の共振周波数に基づき信号を出力する負性抵抗回路と、の電磁気的結合によりマイクロ波を発振させる誘電体発振器の制御方法において、
誘電体の上部に配置された遮蔽板を上下方向に移動させて保持する保持工程と、
遮蔽板の位置を検出する位置検出工程と、
位置と共振周波数との関係を予め記憶し、検出された位置に基づいて共振周波数の変化によるマイクロ波の位相ずれを補正する位相補正工程と、
を備えることを特徴とする誘電体発振器の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の誘電体発振器の制御方法において、
位相補正工程は、負性抵抗回路の帰還容量と結合容量との少なくとも1つを増減し、マイクロ波の位相ずれを補正することを特徴とする誘電体発振器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−71446(P2009−71446A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235836(P2007−235836)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】