説明

誘電体磁器組成物、積層型セラミックコンデンサ、および電子部品

【課題】 高い比誘電率を有し、且つ、積層型セラミックコンデンサの電極間誘電体を構成する場合に当該コンデンサについて絶縁抵抗の経時的劣化、温度変化に対する静電容量変化、および直流電圧印加時の静電容量の低下を共に充分に抑制することができる、耐還元性の誘電体磁器組成物、並びに、当該組成物が電極間誘電体層材料として用いられている積層型セラミックコンデンサなどの電子部品を、提供すること。
【解決手段】 本発明の誘電体磁器組成物は、BaTiO3と、MnOと、Cr23および/またはCo23と、Y23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される酸化物と、BaSiO3とを含む。本発明の積層型セラミックコンデンサ10は、このような組成物により構成されるセラミック誘電体11と、NiまたはNi合金により構成される電極12とからなる、積層構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの誘電体材料として利用することのできる誘電体磁器組成物、積層型セラミックコンデンサ、および誘電体材料よりなる部位を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO3)などチタン酸塩を主成分とする磁器組成物が電極間誘電体として用いられている積層型セラミックコンデンサは、小型で大容量を得やすく、高周波帯域における電気的特性が良好で、耐熱性に優れ、量産しやすい、などの特長を有し、近年の産業用や民生用の電子機器には欠かせない部品である。
【0003】
このような積層型セラミックコンデンサの製造においては、例えば、まず、BaTiO3系の磁器組成物の原料粉末に、有機バインダ、可塑剤、溶剤、分散剤等を添加してこれらを混連し、スラリーを調製する。次に、ドクターブレード法などにより、スラリーから磁器組成物のグリーンシートを作製する。次に、内部電極形成用の金属粉末を含む導電ペーストをグリーンシート表面に印刷する。このようにして導電ペーストが表面に印刷された複数のグリーンシートを、導電ペーストとグリーンシートとが交互に位置するように積層した状態で、圧着する。次に、この積層体を所定の温度にて焼成して一体化させる(焼成工程)。焼成工程では、各グリーンシート中の磁器組成物が焼結してセラミック誘電体層が形成され、各導電ペースト中の金属粉末が焼結して内部電極が形成される。次に、焼成後の積層体の所定表面に、各々が所定の一組の内部電極と導通する一対の外部電極が形成される。
【0004】
BaTiO3系磁器組成物が適切に焼結して積層型セラミックコンデンサにおいて良好な誘電特性を発揮するためには、当該磁器組成物は、上述の焼成工程において1100〜1350℃程度の高温で焼成される必要がある。一方、内部電極を構成するための金属材料は、焼成工程の温度より融点が高く、磁器組成物と同じ温度で焼成でき、しかも高温を経る焼成工程において実質的には酸化されない必要がある。このような要求を満たす金属材料としては、Pdや、Pt、これらの合金が知られている。しかしながら、これら金属材料は、高価であるので、好ましくない。これら金属材料を内部電極材料として採用する場合、積層型セラミックコンデンサの容量を増大すべく積層数を増加するほど、当該積層型セラミックコンデンサの製造コストに占める電極材料コストの割合は増大してしまう。
【0005】
そのため、比較的に安価で、比抵抗が小さく、BaTiO3系磁器組成物の焼結温度より高い融点を有し、且つ、当該磁器組成物と同じ温度で焼成することが可能なNiおよびNi合金を、内部電極材料として用いることの検討が進められてきた。しかしながら、Niは、大気中など酸素を含む雰囲気での高温焼成では酸化されてしまい、電極としての機能を失う場合がある。また、Niの酸化物は、磁器組成物中に溶け込んでコンデンサの性能を劣化させる場合がある。
【0006】
Niの酸化を防止すべく、水素を含む還元雰囲気で焼成工程を実行すると、BaTiO3系磁器組成物は、還元されてTiの価数が4から3に低下し、その結果、半導体化して絶縁性が低下する傾向がある。また、還元雰囲気ないし低酸素雰囲気で焼成工程を実行すると、BaTiO3系磁器組成物において酸素空位が増加し、当該磁器組成物の寿命(絶縁劣化に至るまでの時間)が短くなる傾向がある。
【0007】
このため、還元雰囲気での焼成においても絶縁抵抗の低下等の性能劣化の少ない耐還元性のBaTiO3系磁器組成物として、BaO/TiO2のモル比が1より大きくされた組成物や、Baの一部がCaで置換された組成物が、開発されてきた。
【0008】
一方、電子機器の小型化、多機能化、および高性能化の進展により、電子機器に組み込まれる電子回路を構成するコンデンサについては、小型化および大容量化の要望は増大している。このような要望に対しては、誘電体の改良に加えて、電極間誘電体層を薄くして積層数を増やすという対策が採られることが多いが、誘電体層の薄層化を適切に実現するためには、誘電体層を構成する磁器組成物が充分に大きな絶縁抵抗を有する必要があり、また、当該磁器組成物の経時的劣化が充分に小さい必要がある。加えて、電子機器の小型化、多機能化、および高機能化に伴い、その電子回路は、高密度化し、機器使用時の発熱により昇温しやすくなるので、当該電子回路内のコンデンサないしこれを構成する誘電体については、温度変化に対する特性変化が小さいことが従来以上に厳しく要求される。
【0009】
このような性能および信頼性の向上は、耐還元性のBaTiO3系磁器組成物に対しても要求され、当該磁器組成物については、種々の酸化物の添加による性能向上や信頼性向上が試みられている。そのような磁器組成物は、例えば、下記の特許文献1〜4に記載されている。
【0010】
【特許文献1】特開平6−5460号公報
【特許文献2】特開平6−342735号公報
【特許文献3】特開平8−124785号公報
【特許文献4】特開平9−171937号公報
【0011】
しかしながら、電極間誘電体が従来の耐還元性BaTiO3系磁器組成物よりなる積層型セラミックコンデンサにおいては、電極間誘電体について高い比誘電率を確保したうえで、絶縁抵抗の経時的劣化の抑制と、温度変化に対する静電容量変化の抑制と、直流電圧印加時の静電容量の低下の抑制とを、共に充分に実現することが困難である。そのため、内部電極材料としてNiまたはNi合金を採用する積層型セラミックコンデンサにおいては、従来の技術によると、Pd内部電極を有する積層型セラミックコンデンサと同程度の性能またはそれ以上の性能を得ることが、困難なのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであって、高い比誘電率を有し、且つ、積層型セラミックコンデンサの電極間誘電体を構成する場合に当該コンデンサについて絶縁抵抗の経時的劣化、温度変化に対する静電容量変化、および直流電圧印加時の静電容量の低下を共に充分に抑制することができる、耐還元性の誘電体磁器組成物と、当該組成物が電極間誘電体として用いられている積層型セラミックコンデンサと、当該組成物よりなる部位を有する電子部品とを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の側面によると誘電体磁器組成物が提供される。この誘電体磁器組成物は、主成分であるBaTiO3と、MnOと、Cr23および/またはCo23と、Y23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される希土類酸化物と、ガラス成分であるBaSiO3とを含む。
【0014】
本発明の第2の側面によると誘電体磁器組成物が提供される。この誘電体磁器組成物は、主成分であるBaTiO3を100モル部、MnOをx1モル部、Cr23および/またはCo23を合計x2モル部、Y23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される希土類酸化物を合計x3モル部、ガラス成分であるBaSiO3をx4モル部含み、0.5≦x1≦2.0、0.1≦x2≦1.0、0.5≦x3≦2.0、および0.25≦x4≦2.0を満たす。
【0015】
好ましくは、本発明の誘電体磁器組成物は、更にWO3および/またはMoO3を0.1〜1.0モル部含む。
【0016】
これら誘電体磁器組成物は厚さ1〜5μmにおいて3000以上の比誘電率を示し得ることを、本発明者は見出した。これとともに、これら誘電体磁器組成物により電極間誘電体が構成されている積層型セラミックコンデンサは、200℃の温度条件下で30V/μmの直流電圧を印加して行う絶縁抵抗の加速寿命試験において絶縁抵抗が1×105Ωに達するまでの時間が1時間以上であり、静電容量の温度依存性がEIA規格で規定するX5R特性を満たし、且つ、交流電圧(1kHz,1Vrms)の印加時に対する交流電圧(1kHz,1Vrms)および直流電圧(2V/μm)の重畳印加時における静電容量低下率が30%以下であるという、良好な特性を示し得ることを、本発明者は見出した。このように、本発明の誘電体磁器組成物は、高い比誘電率を有し、且つ、積層型セラミックコンデンサの電極間誘電体を構成する場合に当該コンデンサについて絶縁抵抗の経時的劣化、温度変化に対する静電容量変化、および直流電圧印加時の静電容量の低下を共に充分に抑制することができるのである。
【0017】
本発明の第3の側面によると、セラミック誘電体と電極とからなる積層構造、を有する積層型セラミックコンデンサが提供される。このコンデンサにおいて、セラミック誘電体は、本発明の第1および第2の側面に関して上述したうちの一の構成を有する誘電体磁器組成物からなる。また、電極は、Ni、またはNiを含む合金からなる。
【0018】
本発明の第4の側面によると電子部品が提供される。この電子部品は、本発明の第1および第2の側面に関して上述したうちの一の構成を有する誘電体磁器組成物よりなる部位を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明に係る誘電体磁器組成物を利用して構成された電子部品の一例である積層型セラミックコンデンサ10の断面図である。積層型セラミックコンデンサ10は、誘電体層11、複数の内部電極12、および一対の外部電極13を有する。誘電体層11は、本発明の誘電体磁器組成物からなり、その一部が内部電極12間ごとに介在するように設けられている。所定の一組の内部電極12は一方の外部電極13と電気的に接続し、別の一組の内部電極12は他方の外部電極13と電気的に接続している。内部電極12は、NiまたはNi合金よりなり、外部電極13は、例えばCuまたはCu合金よりなる。
【0020】
誘電体層11を構成する本発明の誘電体磁器組成物は、主成分としてBaTiO3を含み、副成分として、MnOを含み、Cr23および/またはCo23を含み、Y23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される希土類酸化物を含み、BaSiO3(酸化物ガラス)を含む。
【0021】
MnOは、主に、本誘電体磁器組成物の耐還元性を向上させるために(即ち、積層型セラミックコンデンサ10の後述の製造過程における還元雰囲気での焼成に起因して本誘電体磁器組成物の絶縁抵抗が低下するのを抑制するために)、本誘電体磁器組成物に含有される。本誘電体磁器組成物において、MnOのMn(II)は、Ti(IV)に代わって所定のサイトに入り込んで電子アクセプタとして機能し、これにより、絶縁抵抗低下抑制作用を発揮するものと考えられる。BaTiO3100モル部に対するMnOの含有量をx1モル部とすると、好ましくは0.50≦x1≦2.00である。x1が0.50未満であると、MnOの絶縁抵抗低下抑制作用を充分には得られない場合がある。x1が2.00を超えると、誘電体磁器組成物の比誘電率が低下する傾向があり、また、当該組成物において緻密な焼結体を得るために必要な焼結温度が高くなる(即ち焼結性が低下する)傾向がある。
【0022】
Cr23および/またはCo23は、主に、積層型セラミックコンデンサ10の静電容量の温度依存性を小さくするために、本誘電体磁器組成物に含有される。Cr23およびCo23は、積層型セラミックコンデンサ10の後述の製造過程の焼成工程において、BaTiO3の粒界に存在してBaTiO3の不当な粒成長(本誘電体磁器組成物の組織の粗化)を抑制し、これにより、容量温度依存抑制作用を発揮するものと考えられる。また、Cr23およびCo23は、上述のMnOのように絶縁抵抗の低下を抑制する作用も比較的に高い。BaTiO3100モル部に対するCr23およびCo23の合計含有量をx2モル部とすると、好ましくは0.10≦x2≦1.00である。x2が0.10未満であると、Cr23およびCo23の容量温度依存抑制作用や絶縁抵抗低下抑制作用を充分には得られない場合がある。x2が1.00を超えると、誘電体磁器組成物の焼結性が低下する傾向がある。
【0023】
23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される希土類酸化物は、主に、積層型セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗の経時的劣化を小さくするために(即ち、積層型セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗についての加速寿命を延ばすために)、本誘電体磁器組成物に含有される。これら酸化物の希土類元素(Y,Ho,Dy,Er)は、電子ドナーとして機能して誘電体磁器組成物中の酸素空位を捕捉し、これにより、絶縁抵抗経時劣化抑制作用を発揮するものと考えられる。BaTiO3100モル部に対するこれら希土類酸化物の合計含有量をx3モル部とすると、好ましくは0.50≦x3≦2.00である。x3が0.50未満であると、これら希土類酸化物の絶縁抵抗経時劣化抑制作用を充分には得られない場合がある。x3が2.00を超えると、誘電体磁器組成物の焼結性が低下する傾向があり、また、誘電体磁器組成物において3000以上の高い比誘電率を得ることが困難となる傾向がある。
【0024】
BaSiO3は、主に、積層型セラミックコンデンサ10の後述の製造過程の焼成工程において誘電体磁器組成物の焼結を促進するために、本誘電体磁器組成物に含有される。BaSiO3は、誘電体磁器組成物の焼結時に主にBaTiO3の粒界にて焼成されることにより、緻密な焼結体を得るうえで必要な焼結温度を低下させる焼結助剤としての作用を発揮するものと考えられる。BaTiO3100モル部に対するBaSiO3の含有量をx4モル部とすると、好ましくは0.25≦x4≦2.00である。x4が0.25未満であると、BaSiO3の焼結助剤としての作用を充分には得られない場合がある。x4が2.00を超えると、誘電体磁器組成物において3000以上の高い比誘電率を得ることが困難となる傾向があり、また、積層型セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗の経時的劣化が大きくなる傾向がある。
【0025】
本発明の誘電体磁器組成物には、その耐熱性を向上すべく、更にWO3および/またはMoO3を含有させてもよい。BaTiO3100モル部に対するWO3および/またはMoO3の合計含有量をx5モル部とすると、好ましくは0.10≦x5≦1.00である。x5が0.10未満であると、WO3およびMoO3の耐熱性向上作用を充分には得られない場合がある。x5が1.00を超えると、積層型セラミックコンデンサ10の絶縁抵抗が不当に低下したり、温度変化に対する静電容量変化が不当に大きくなる場合がある。
【0026】
積層型セラミックコンデンサ10の製造においては、例えば、まず、主成分であるBaTiO3の粉末と、MnOの粉末と、必要に応じてCr,Co,Y,Ho,Dy,Er,W,Moの酸化物粉末とを、所定の組成となるよう秤量混合した後、800〜1200℃で3〜10時間仮焼する。或は、含有目的の各金属(Ba,Ti,Mn等)の炭酸化物、水酸化物、窒化物などの粉末を、所定の組成となるよう秤量混合した後、800〜1300℃で5〜10時間仮焼し、酸化物の組成に変える。次に、仮焼後の混合粉体を粉砕する。誘電体磁器組成物において優れた誘電特性を得るためには、平均粒径が0.1μm以下となるまで粉砕処理を行うのが好ましい。
【0027】
一方、酸化物ガラスであるBaSiO3は、BaCO3粉末およびSiO2粉末をバスケットミルを使用して湿式混合した後に例えば1250℃にて空気中で焼成し、平均粒径が0.1μm以下となるまで粉砕処理を行うことにより、用意する。
【0028】
次に、上述の仮焼済原料粉末に、酸化物ガラス(BaSiO3)粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤、分散剤等を添加して、これらを混連し、スラリーを調製する。次に、ドクターブレード法等により、スラリーから所定の厚さのグリーンシートを作製する。次に、内部電極形成用の金属粉末を含む導電ペーストをグリーンシート表面に印刷する。次に、このようにして導電ペーストが表面に印刷された複数のグリーンシートを、導電ペーストとグリーンシートとが交互に位置するように積層した状態で圧着する。
【0029】
次に、この積層体について、バインダ除去のための脱バインダ処理、焼結のための還元雰囲気かつ1100〜1350℃での高温焼成(焼成工程)、および、所定の酸化雰囲気かつ高温でのアニール処理(再酸化処理)を順次行う。仮に、1350℃を超える焼成温度で焼成工程を実施すると、NiまたはNi合金は凝集しやすく島状の形態で焼成されてしまい、その結果、断線した状態の内部電極12が形成されてしまう場合がある。そのため、焼成温度は1350℃以下であるのが好ましい。
【0030】
次に、積層体の所定箇所に、外部回路への接続用端子である一対の外部電極13を形成する。具体的には、外部電極形成用の金属粉末を含む導電ペーストを積層体の所定表面に印刷等した後、所定温度で焼成することによって当該導電ペーストから外部電極13を形成する。例えば以上のようにして、積層型セラミックコンデンサ10を製造することができる。
【0031】
積層型セラミックコンデンサ10を構成する本発明のBaTiO3系誘電体磁器組成物は、上述の焼成工程のような還元雰囲気での焼成を経る場合において、耐還元性を示し、高い絶縁抵抗を維持することが可能である。また、本発明の誘電体磁器組成物は、厚さ1〜5μmにおいて3000以上の高い比誘電率を示し得る。
【0032】
本発明の誘電体磁器組成物により誘電体層11が構成されている積層型セラミックコンデンサ10は、200℃の温度条件下で30V/μmの直流電圧を印加して行う絶縁抵抗の加速寿命試験において絶縁抵抗が1×105Ω以下に至るまでの時間が1時間以上であり、静電容量の温度依存性がEIA規格で規定するX5R特性を満たし、且つ、交流電圧(1kHz,1Vrms)の印加時に対する交流電圧(1kHz,1Vrms)および直流電圧(2V/μm)の重畳印加時における静電容量低下率が30%以下であるという、良好な特性を示し得る。
【0033】
加えて、本発明の誘電体磁器組成物により誘電体層11が構成されている積層型セラミックコンデンサ10は、高電界強度(5V/μm)下での容量抵抗積(CR積)が25℃で1500Ω・F以上であり、耐破壊電圧が70V/μm以上であるという、良好な特性を示し得る。
【実施例】
【0034】
〔積層型セラミックコンデンサの作製〕
図1に示すような構造を有して電極間誘電体層の組成が異なる複数の積層型セラミックコンデンサを、サンプル1〜41のコンデンサとして作製した。各サンプルコンデンサの誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の組成(BaTiO3を除く)につていは、図2および図3の表にまとめる。図2および図3の表においては、BaTiO3100モル部に対する各酸化物の相対的な含有物質量を掲げる。
【0035】
サンプル1〜41のコンデンサの各々の作製においては、まず、水熱合成法で得られたBaTiO3粉末(平均粒径0.3〜0.4μm)と、MnO粉末と、更にCr23粉末、Co23粉末、Y23粉末、Ho23粉末、Dy23粉末、Er23粉末、WO3粉末、およびMoO3粉末から目的組成に応じて選択される酸化物とを、秤量して混合した後、1100℃にて7時間、仮焼した。この後、当該混合粉末を粉砕処理し、平均粒径0.1μm以下の酸化物粉末を得た。
【0036】
一方、BaCO3粉末およびSiO2粉末を、バスケットミルを使用して2時間湿式混合した後に1250℃にて空気中で焼成することにより、ガラス粉末であるBaSiO3粉末を得た。そして、平均粒径が0.1μm以下となるまでこれを粉砕処理した。
【0037】
次に、上述のようにして得られた酸化物粉末およびガラス粉末を所定組成で配合することにより原料粉末を調製し、この原料粉末1000gに対してバインダ溶液(PVB樹脂、可塑剤、トルエン、エタノール、分散剤などを含む)を700g加えた後、バスケットミルを使用して3時間分散処理することにより、約200cpsの粘度を有するスラリーを調製した。
【0038】
次に、このように調製したスラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布することにより、厚さ1.5μmの複数のグリーンシートを作製した。次に、各グリーンシート上に内部電極用導電ペーストを1.5μmの厚さで印刷した。内部電極用導電ペーストとしては、平均粒径0.2μmのNi粉末100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)30重量部と、ブチルカルビトール8重量部とを、混連してペースト化したものを用いた。
【0039】
次に、このようにして内部電極用導電ペーストが表面に印刷された複数のグリーンシートを、その基材であったPETフィルムを剥がした後、内部電極用導電ペーストとグリーンシートとが交互に位置するように積層し(有効積層数420)、加熱圧着した。このときの加熱温度は70℃とし、加圧力は1000kg/cm2とした。
【0040】
次に、この積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを得た。この後、グリーンチップについて、窒素雰囲気で450℃にて5時間加熱することにより(昇温速度30℃/時間)、脱バインダ処理を行った。
【0041】
次に、脱バインダ処理に連続して、グリーンチップについて、加湿した窒素および水素の混合雰囲気で1100〜1350℃にて4時間加熱することにより(昇温速度200℃/時間)、焼成処理を行った。本焼成処理では、各グリーンシート中の誘電体磁器組成物が焼結して誘電体層が形成され、各導電ペースト中のNi粉末が焼結して内部電極が形成される。また、焼成温度については、グリーンチップないしグリーンシートの種類ごとに予め特定しておいた。具体的には、各グリーンチップと同一構成の試料について、焼成温度を変えて焼成し、緻密な焼結体となる下限の焼成温度を求めた。
【0042】
次に、焼成処理にて焼結された積層体について、焼成処理に連続して、加湿窒素雰囲気で1000〜1100℃にて3時間加熱することにより(昇温・降温速度200℃/時間)、アニール処理を行った。
【0043】
次に、得られた焼結積層体の所定端面をバレル処理により研磨した後、外部電極用導電ペーストを当該研磨箇所に塗布ないし転写した。外部電極用導電ペーストとしては、平均粒径0.4μmの球状のCu粉末とフレーク状のCu粉末とを所定比で混合したものを100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂5重量部をブチルカルビトール95重量部に溶解したもの)30重量部と、ブチルカルビトール6重量部とを、混連してペースト化したものを用いた。
【0044】
次に、このようにして外部電極用導電ペーストが表面に塗布された焼結積層体を、窒素雰囲気で850℃にて10分間焼成することにより、当該導電ペーストから外部電極を形成した。以上のようにして、サンプル1〜41のコンデンサの各々を作製した。各コンデンサについて、サイズは、長さ2.1mm×幅1.25mm×厚さ1.25mmであり、各有効誘電体層の厚さは1.2μmであり(有効積層数420)、内部電極の厚さは約1.2μmであった。
【0045】
〔性能調査〕
サンプル1〜41のコンデンサの各々について、比誘電率、誘電損失tanδ(%)、容量抵抗積(CR積)、耐破壊電圧、静電容量の温度依存性、DC−Bias特性、ハンダ耐熱性、およびIR加速寿命を調べた。調査結果は、図4および図5の表に掲げる。
【0046】
比誘電率および誘電損失tanδ(%)については、積層型セラミックコンデンサにおける25℃での静電容量、電極面積、および誘電体の厚さから、1Vrmsおよび1.0kHzの条件での値を求めた。
【0047】
CR積については、積層型セラミックコンデンサを25℃の恒温槽に10分間放置した後に、当該コンデンサについて静電容量を測定し、且つ、誘電体層の厚さ1μmあたり5Vの直流電圧を当該コンデンサに印加したときの絶縁抵抗の1分間値を測定し、これら静電容量と絶縁抵抗1分間値とを乗じて求めた。CR値は、絶縁抵抗の大小の指標となり、従って、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の耐還元性の指標となる。
【0048】
耐破壊電圧については、コンデンサに印加する電圧を連続的に上昇させ、電流が10mA以上流れたときの電圧を各組成について50ヶのコンデンサにて測定した。コンデンサ毎の50の測定値のうちの中心値を代表値として表に掲げる。
【0049】
静電容量の温度依存性については、EIA規格のX5R特性を満足するかどうかを調べた。具体的には、LCRメータを使用して、測定電圧を1Vとし、−55〜85℃の温度範囲の各所にて静電容量を測定し、容量変化率が基準温度25℃での静電容量に対し±15%以内かどうかを調べた。X5R特性を満たす場合(容量変化率が±15%以内である場合)を○とし、満たさない場合(容量変化率が±15%以内でない場合)を×とする。
【0050】
DC−Bias特性については、2.4V(2V/μm)の直流電圧と、1Vrmsおよび1.0kHzの交流電圧とを積層型セラミックコンデンサに対して重畳印加したときの静電容量を測定し、1Vrmsおよび1.0kHzの交流電圧印加時の静電容量に対する低下率(%)として求めた。
【0051】
ハンダ耐熱性については、積層型セラミックコンデンサをハンダ浴(350℃)への30秒間の浸漬、24時間の室温放置、および10分間の恒温槽(25℃)内での放置に付した後に上述のようにしてCR積を求め、このCR積の値が1500Ω・F以上であり且つコンデンサ外観にクラック等の欠陥がないものを○とし、そうでないものを×とした。
【0052】
IR加速寿命については、200℃において60V(30V/μm)の直流電圧を積層型セラミックコンデンサに対して印加した際に絶縁抵抗が105Ω以下に至るのに要した時間を測定した。この測定時間をIR加速寿命とした。
【0053】
〔評価〕
サンプル1〜6のコンデンサを比較すると、MnOの含有量が絶縁抵抗値(CR積に表れている)やハンダ耐熱性に影響を与えることが判る。BaTiO3100モル部に対するMnOの含有量が0.50モル部未満または2.00モル部を超えるサンプル1,6のコンデンサでは、CR積は比較的に低く且つハンダ耐熱性も低い。これに対し、MnOの含有量が0.50〜2.00モル部であるサンプル2〜5のコンデンサでは、CR積は比較的に高く且つハンダ耐熱性も高い。
【0054】
サンプル7〜15のコンデンサを比較すると、Cr23およびCo23の合計含有量がX5R特性やCR積に影響を与えることが判る。Cr23およびCo23が誘電体層に含有されないサンプル7のコンデンサ(本発明に含まれない)では、X5R特性を満たさない。BaTiO3100モル部に対するCr23およびCo23の合計含有量が1.00モル部を超えるサンプル10,13,15のコンデンサでは、CR積は比較的に低い。これに対し、Cr23およびCo23の合計含有量が0.10〜1.00モル部であるサンプル8,9,11,12,14のコンデンサは、X5R特性を満たし且つCR積について比較的に高い値を示す。
【0055】
サンプル16〜26のコンデンサを比較すると、Y23,Ho23,Dy23,Er23の合計含有量がIR加速寿命やCR積に影響を与えることが判る。BaTiO3100モル部に対するY23,Ho23,Dy23,Er23の合計含有量が0.50モル部未満であるサンプル16のコンデンサでは、IR加速寿命は短い。当該合計含有量が2.00モル部を超えるサンプル20のコンデンサでは、CR積は比較的に低い。これに対し、当該合計含有量が0.50〜2.00モル部であるサンプル17〜19,21〜26のコンデンサでは、IR加速寿命は比較的に永く且つCR積の値は比較的に高い。
【0056】
サンプル27〜36のコンデンサを比較すると、WO3およびMoO3の合計含有量が、X5R特性や、DC−Bias特性、ハンダ耐熱性に影響を与えることが判る。WO3およびMoO3が含有されないサンプル27のコンデンサ(本発明に含まれない)では、ハンダ耐熱性は低い。BaTiO3100モル部に対するWO3およびMoO3の合計含有量が1.00モル部を超えるサンプル31,34,36のコンデンサは、X5R特性を満たさず、DC−Bias特性は不良で、ハンダ耐熱性は低い。これに対し、WO3およびMoO3の合計含有量が0.10〜1.00モル部であるサンプル28〜30,32,33,35のコンデンサは、X5R特性を満たし、DC−Bias特性は良好で、ハンダ耐熱性は高い。
【0057】
サンプル37〜41のコンデンサを比較すると、BaSiO3の含有量が比誘電率に影響を与えることが判る。BaTiO3100モル部に対するBaSiO3の含有量が0.25モル部未満または2.00モル部を超えるサンプル37,41のコンデンサでは、比誘電率は比較的に低い。これに対し、BaSiO3の含有量が0.25〜2.00モル部であるサンプル38〜40のコンデンサでは、比誘電率は比較的に高い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る積層型セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】サンプル1〜21の積層型セラミックコンデンサにおける誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の組成(BaTiO3を除く)をまとめた表である。
【図3】サンプル22〜41の積層型セラミックコンデンサにおける誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の組成(BaTiO3を除く)をまとめた表である。
【図4】サンプル1〜21の積層型セラミックコンデンサについて実施した性能調査の結果をまとめた表である。
【図5】サンプル22〜41の積層型セラミックコンデンサについて実施した性能調査の結果をまとめた表である。
【符号の説明】
【0059】
10 積層型セラミックコンデンサ
11 誘電体層
12 内部電極
13 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO3と、
MnOと、
Cr23および/またはCo23と、
23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される酸化物と、
BaSiO3と、を含む誘電体磁器組成物。
【請求項2】
BaTiO3を100モル部、MnOをx1モル部、Cr23および/またはCo23をx2モル部、Y23,Ho23,Dy23,Er23からなる群より選択される酸化物をx3モル部、BaSiO3をx4モル部含み、
0.5≦x1≦2.0、0.1≦x2≦1.0、0.5≦x3≦2.0、および0.25≦x4≦2.0を満たす、誘電体磁器組成物。
【請求項3】
更に、WO3および/またはMoO3を0.1〜1.0モル部含む、請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
セラミック誘電体と電極とからなる積層構造、を有する積層型セラミックコンデンサであって、
前記セラミック誘電体は、請求項1から3のいずれか一つに記載の誘電体磁器組成物からなり、
前記電極は、Ni、またはNiを含む合金からなる、積層型セラミックコンデンサ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一つに記載の誘電体磁器組成物よりなる部位を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−96574(P2006−96574A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281346(P2004−281346)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】